(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】非経口投与用の生分解性ポリマーミクロスフェア組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20231016BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231016BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231016BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20231016BHJP
A61K 38/31 20060101ALI20231016BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231016BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231016BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20231016BHJP
A61P 5/24 20060101ALI20231016BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20231016BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20231016BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K9/10
A61K9/14
A61K38/02
A61K38/31
A61K45/00
A61K47/38
A61P3/02 102
A61P5/24
A61P31/18
A61P33/02
A61P35/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018556451
(86)(22)【出願日】2017-04-26
(86)【国際出願番号】 US2017029510
(87)【国際公開番号】W WO2017189645
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516251679
【氏名又は名称】アデア ファーマシューティカルズ ユーエスエー, インク.
【氏名又は名称原語表記】Adare Pharmaceuticals USA, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ドーマー ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】バークランド コーリー
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】中西 聡
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-539260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0323014(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72,38/00-38/58,45/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非経口投与用の組成物であって、
複数のミクロスフェアを含み、各ミクロスフェアが、ポリマーマトリックス及び活性治療剤を含み、前記ポリマーマトリックスが、生分解性ポリマーと、エチルセルロースとの均質混合物を含み、前記生分解性ポリマーが、10,000ダルトンを超える分子量を有し、エチルセルロースのパーセントが、各ミクロスフェアの約0.5%~約6%w/wであり、エチルセルロースが、約0.1%~約5%の粘度画分を含
み、前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド及び/又はポリラクチド-co-グリコリドである、前記組成物。
【請求項2】
生分解性ポリマーのパーセントが、各ミクロスフェアの約50%~約95%w/wである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
生分解性ポリマーが、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)及びポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)からなる群から選択されるco-ブロックポリマーを含む、請求項
1に記載の組成物。
【請求項4】
co-ブロックポリマーが、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)である、請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
ラクチドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約50%~約80%w/wであり、グリコリドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約20%~約50%w/wである、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
co-ブロックポリマーが、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)である、請求項
3に記載の組成物。
【請求項7】
ラクチドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約50%~約80%w/wであり、グリコリドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約20%~約50%w/wである、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
生分解性ポリマーが、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)及びポリ(D,L-ラクチド)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
活性治療剤のパーセントが、各ミクロスフェアの約10%~約40%w/wである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
活性治療剤が、インテグラーゼ阻害剤である、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
活性治療剤が、抗寄生生物剤である、請求項
9に記載の組成物。
【請求項12】
活性治療剤が、ステロイドホルモンである、請求項
9に記載の組成物。
【請求項13】
活性治療剤が、ソマトスタチンアナログである、請求項
9に記載の組成物。
【請求項14】
活性治療剤が、ペプチドである、請求項
9に記載の組成物。
【請求項15】
活性治療剤が、1000ダルトン未満の分子量を有する有機化合物である、請求項
9に記載の組成物。
【請求項16】
複数のミクロスフェアが、水性担体に懸濁している、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
複数のミクロスフェアが、非水性担体に懸濁している、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
ゲルをさらに含み、複数のミクロスフェアが、前記ゲルに分散している、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約40μm~約70μmの粒子直径を有する、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約40μm~約60μmの粒子直径を有する、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
ミクロスフェアの平均直径が、約40μm~約70μmである、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
ミクロスフェアの平均直径が、約40μm~約60μmである、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含む、請求項1~
15のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
非経口投与用に製剤化され、水性溶液及び
/又は緩衝液をさらに含む、請求項
23に記載の組成物。
【請求項25】
医薬用界面活性剤をさらに含む、請求項
23に記載の組成物。
【請求項26】
凍害防御物質をさらに含む、請求項
23に記載の組成物。
【請求項27】
請求項1~
26のいずれかに記載の組成物を含む、疾患又は病態を有する対象の治療剤。
【請求項28】
対象が、治療の必要を示す疾患又は病態を有し、かつ
、活性治療剤として、インテグラーゼ阻害剤、抗寄生生物剤、ステロイドホルモン、ソマトスタチンアナログ、ペプチド、又は1000ダルトン未満の分子量を有する有機化合物が非経口投与された対象である、請求項
27に記載の治療剤。
【請求項29】
生物分解性ポリマーが、ポリラクチドである、請求項1、2、及び
9~26のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
ポリラクチドが、D-ラクチドとL-ラクチドとのラセミ混合物
から調製されるポリ(D,L-ラクチド)、D-ラクチド富化ポリ(D,L-ラクチド)、L-ラクチド富化ポリ(D,L-ラクチド)、ポリL-ラクチド、ポリD-ラクチド、又は
ポリL-ラクチド
のブロックと
ポリD,L-ラクチ
ドのブロック
とを含むコポリマーを含む、請求項
29に記載の組成物。
【請求項31】
ポリラクチドが、ポリ(D,L-ラクチド)である、請求項
29に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年4月26日に出願された米国特許仮出願第62/327,775号に基づく優先権を主張するもので、その内容を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
エチルセルロースなどのセルロースエーテル及びエステルは、材料マトリックスにインターカレートし、物理的完全性及び耐湿性を与える能力を有するために経口薬物製剤(錠剤、丸剤、カプセル剤など)に水不溶性結合剤として広く使用されている。エチルセルロースは、経口薬物製剤にとって一般に安全と認められる(GRAS, generally recognized as safe)材料である。しかし、エチルセルロースは、非経口薬物製剤で使用されない。
【0003】
非経口薬物製剤では、ポリラクチド、ポリラクチド-co-グリコリド及びポリ無水物などの生分解性ポリマーが使用されてきた。それらは、局所的に適用されるいくつかの創傷治癒粉末でも使用されてきた。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、エチルセルロースなどのセルロース誘導体を専ら非経口薬物製剤で使用される生分解性ポリマーと組み合わせて含むことの利点の概要を述べる。
【0005】
本開示は、非経口投与用の新規ミクロスフェア組成物に関する。組成物は、複数のミクロスフェアを含み、ここで各ミクロスフェアは、生分解性ポリマー、活性治療剤、及びセルロース由来材料の均質混合物を含み、ここで生分解性ポリマーは、10,000ダルトンを超える分子量を有する。
【0006】
実施形態は、下記を含む。
【0007】
生分解性ポリマーのパーセントが、各ミクロスフェアの約50%~約95%w/wである、組成物。
【0008】
生分解性ポリマーが、ラクチド、グリコリド、若しくはそれらの組合せをco-ブロックポリマーとして含むポリエステルポリマーを含む、生分解性ポリマーが、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)及びポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)からなる群から選択されるco-ブロックポリマーを含むポリエステルポリマーを含むなど、生分解性ポリマーが、バルク腐食性ポリマーを含む、組成物;co-ブロックポリマーが、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)であり、好ましくはラクチドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約65%~約85%w/wであり、グリコリドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約15%~約35%w/wである、組成物;co-ブロックポリマーが、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)であり、好ましくはラクチドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約65%~約85%w/wであり、グリコリドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約15%~約35%w/wである、組成物;並びに/又はポリエステルポリマーが、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)及びポリ(D,L-ラクチド)を含む、組成物。
【0009】
ポリ無水物ポリマーが、1,ω-ビス(カルボキシ)(C2-C10)アルカン単位、1,ω-ビス(カルボキシフェノキシ)(C2-C10)アルカン単位、又はそれらの組合せを含むことを含めて、生分解性ポリマーが、ポリ無水物ポリマーを含むなど、生分解性ポリマーが、表面腐食性ポリマーを含む、組成物;及び/あるいはポリ無水物ポリマーが、セバシン酸無水物と1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン、1,6-ビス-(p-カルボキシ-フェノキシ)ヘキサン、若しくは1,8-ビス(カルボキシフェノキシ)-3,6-ジオキサオクタン、又はそれらの組合せとのコポリマーを含む、組成物。
【0010】
セルロース由来材料のパーセントが、各ミクロスフェアの約0.5%~約6%w/wである、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物;セルロース由来材料が、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、又はそれらの組合せを含み、特にセルロース由来材料が、エチルセルロースを含む、組成物。
【0011】
セルロース由来材料(CDM, cellulose-derived material)が、エチルセルロースを含み、約0.1%~約5%、約0.5%~約3.5%、約0.2%~約2%、約0.3%~約1%、又は約0.5%~約2%の粘度画分を含むなど、CDMが、約0.1%~約5%の粘度画分を含み、粘度画分が、次式
vf_CDM = η_inh_CDM * (f_CDM) / [η_inh_CDM * (f_CDM) + η_inh_Pol * (f_Pol)] * 100
に従って算出され、式中、vf_CDM=ポリマーマトリックス中のCDMの粘度画分;η_inh_CDM=CDMの固有粘度;η_inh_Pol=ポリマーの固有粘度、f_CDM=ポリマーマトリックス中のCDMの画分;及びf_Pol=ポリマーマトリックス中のポリマーの画分である、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0012】
活性治療剤が、インテグラーゼ阻害剤である、組成物;活性治療剤が、抗寄生生物剤である、組成物;活性治療剤が、ステロイドホルモンである、組成物;活性治療剤が、ソマトスタチンアナログである、組成物;活性治療剤が、ペプチドである、組成物;及び/又は活性治療剤が、1000ダルトン未満の分子量を有する有機化合物である、組成物を含めて、活性治療剤のパーセントが、各ミクロスフェアの約10%~約40%w/wである、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0013】
複数のミクロスフェアが、水性担体に懸濁している、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0014】
複数のミクロスフェアが、非水性担体に懸濁している、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0015】
ゲルをさらに含み、複数のミクロスフェアが、ゲルに分散している、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0016】
複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約40μm~約70μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約45μm~約65μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約50μm~約60μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約50μm~約70μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約40μm~約55μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約60μm~約100μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約65μm~約95μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約70μm~約90μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約70μm~約85μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約70μm~約80μmの粒子直径を有する、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約75μm~約85μmの粒子直径を有する、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0017】
活性治療剤を少なくとも100日にわたって放出するのに十分である、活性治療剤を約80日~約120日にわたって放出するのに十分である、活性治療剤の少なくとも50%を少なくとも50日にわたって放出するのに十分である、活性治療剤の少なくとも60%を少なくとも100日にわたって放出するのに十分である、及び/又は活性治療剤の少なくとも10%を少なくとも50日にわたって放出するのに十分である、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0018】
本発明は、先の実施形態のいずれかに記載のミクロスフェアを含み、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含んでいてもよい医薬組成物も提供する。
【0019】
実施形態としては、組成物が、非経口投与用に製剤化され、水性溶液及び緩衝液からなる群から選択される少なくとも1員をさらに含む;組成物が、医薬用界面活性剤をさらに含む;並びに/又は組成物が、凍害防御物質をさらに含む、実施形態が挙げられる。
【0020】
本発明は、疾患又は病態を有する対象を治療する方法であって、先行する実施形態のいずれかに記載の組成物を対象に非経口投与するステップを含む方法も提供する。
【0021】
実施形態としては、対象が、治療の必要を示す疾患又は病態を有し、方法が、インテグラーゼ阻害剤、抗寄生生物剤、ステロイドホルモン、ソマトスタチンアナログ、ペプチド、又は1000ダルトン未満の分子量を有する有機化合物を非経口投与するステップを含む、実施形態が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A-1E】実施例1で調製されたミクロスフェアの粒子サイズ分布のプロット図及び顕微鏡写真を示す図である。
【
図2】実施例2で調製されたミクロスフェアの顕微鏡写真を示す図である。
【
図3】実施例3で調製されたミクロスフェアの顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】実施例4で調製されたミクロスフェアの粒子サイズ分布のプロット図を示す図である。
【
図5A-5F】実施例5で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図6】実施例6で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図7】実施例7で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図8】実施例8で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図9】実施例9で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図10】実施例10で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図11】実施例11で調製されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図12A-12C】実施例12で調製され、高温で貯蔵されたミクロスフェアからの活性成分の累積放出のプロット図を示す図である。
【
図13】実施例13で調製されたミクロスフェアの顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
用語「及び/又は」は、品目のいずれか1つ、品目のいずれかの組合せ、又はこの用語と関連している品目のすべてを意味する。単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈上からそうでないことがはっきりしていない限り複数が含まれる。したがって、特許請求の範囲で使用されるように、不定冠詞「a」又は「an」は、不定冠詞が導く要素の1又は2以上を意味すると定義される。したがって、例えば、「化合物」への言及は、複数のそのような化合物を包含し、したがって化合物Xは複数の化合物Xを包含する。さらに、特許請求の範囲は、いかなる任意の要素も除外するよう立案することができる、すなわち、請求している実施形態に、任意の要素が存在していても、存在していなくてもよいことに留意されたい。したがって、この記載は、クレーム要素の列挙とともに「単独で(solely)」、「のみ(only)」などのような排他的な用語の使用又は「消極的」限定の使用のための先行基礎として機能するよう意図されている。
【0024】
下限及び上限を含む数値範囲が開示されているときはいつでも、その範囲内に入るいかなる数及びいかなる含まれた範囲も、明確に開示されている。特に、本明細書に開示されている(「約a~約b(from about a to about b)」、又は同等に、「約a~b(from approximately a to b)」、又は同等に、「約a~b(from approximately a-b)」の形の)値のあらゆる範囲は、値のより広い範囲内に包含されているあらゆる数及び範囲を記載すると理解されるものとする。範囲が、1又は2以上の下限から1又は2以上の上限に及ぶと表現されるとき、意図される範囲は、列挙された下限のいずれかから列挙された上限のいずれかに及ぶことができる。
【0025】
組成物及び方法は、様々な成分又はステップを「含んでいる(comprising)」、「含んでいる(containing)」、又は「含んでいる(including)」という用語で記述されているが、様々な成分及びステップ「から本質的になる」又は「からなる」こともできる。上記に開示されているすべての数及び範囲は、若干量変化することができる。また、特許請求の範囲における用語は、本明細書に明瞭及び明確な別段の定義がない限り、平易で普通の意味を有する。本明細書及び参照により本明細書に組み込むことができる1又は2以上の特許又は他の文献における単語又は用語の用法において何らかの矛盾がある場合、本明細書と一致している定義が採用されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される用語「生分解性」は、組成物が生体の作用によって特に無害の産物に崩壊される能力を指す。特に、すべての生物活性剤又は診断剤が放出された後、ポリマーが体内で非毒性の成分に崩壊又は分解することができるという意味である。「生体適合性」は、可溶化加水分解によって、又は有機体の酵素若しくは他の産物などの生物学的に形成された単位の作用によって形成され、身体に有害作用を及ぼさない、材料、又は材料の中間体若しくは最終生成物を意味する。
【0027】
本明細書で使用される用語「親水性」は、非極性又は荷電していない化学基、例えばヘキサンと反発し、極性又は荷電している化学基、例えば水を引きつける傾向がある化学基を指す。「親水性」はまた、水に溶解し、水と混合し、又は水によって湿潤する傾向がある化学物質を指す。「親水性」は、USP-NF定義に従って、好ましくはやや可溶、可溶、十分に可溶、又は極めて可溶な試剤を包含する。本明細書で使用される用語「疎水性」は、非極性又は荷電していない化学基、例えばヘキサンを引きつけ、極性又は荷電している化学基、例えば水と反発する傾向を有する化学基を指す。「疎水性」はまた、水に溶解せず、水と混合せず、又は水によって湿潤しない傾向がある化学物質を指す。本明細書で使用される用語「両親媒性」は、化学的化合物が親水性及び親油性疎水性の両方の特性を有すると記述するために使用される。
【0028】
用語「薬物」又は「活性剤」又は「治療剤」又は「生物活性剤」又は「診断剤」は、身体において局所的及び/又は全身的に作用し(生物活性)、治療又は診断の目的に適応又は使用される生理的又は薬理学的に活性を有する、あらゆる無機又は有機の化合物又は物質を意味するものとする。これらの用語はいずれも、本明細書で疾患又は障害の治療(例えば、治療剤)、予防(例えば、予防剤)、又は診断(例えば、診断剤)のために患者に投与される物質を指すために使用される。
【0029】
本明細書で使用される語句「治療有効量」(又はより簡単に「有効量」)は、特定の治療を必要とする患者に薬物が投与され、あらゆる医学的治療又は診断検査に附随するであろう妥当なリスク/ベネフィット比で特定の治療又は診断反応がもたらされるのに十分な、生物活性剤又は診断剤の量を包含する。治療効果は、予防、症状改善、症状治療から疾患の終わり又は回復まであらゆる治療効果とすることができる。専門の臨床医は、薬物の治療有効量が、患者、適応症又は疾患、行われている治療、及び特定の投与薬物に依存することを認識する。
【0030】
用語「治療」又は「治療すること」は、(i)疾患又は病態を抑制する、すなわち、臨床症状の発生を阻む;(ii)疾患又は病態を軽減すること、すなわち、臨床症状の退行をもたらすこと、及び/あるいは(iii)疾患又は病態を予防する、すなわち、疾患又は病態の臨床症状を発生させないことを含めて、諸目的のための薬物の投与を意味する。本明細書で使用されるこれらの用語は、疾患又は障害を示している又はその特徴を有している対象における病態の検出にとって有用である診断剤の投与も意味する。本明細書で使用される用語「予防」は、障害の発症を一時的に未然に防ぐことを含めて、障害の発症を未然に防ぐことを指す。本明細書で使用される用語「意味している」は、ある疾患の特徴を有すること、又はある疾患のステータスの存在を示唆することを意味する。本明細書で使用される「投与すること」及び同様の用語は、治療されている個体に組成物を送達することを意味する。
【0031】
「非経口」は、消化管以外のあらゆる投与経路を意味するものとし、具体的には筋肉内、腹膜内、腹腔内、皮下を含み、実現可能な範囲では静脈内を含むものとする。
【0032】
「薬学的に許容される」は、医薬組成物を調製する際に有用であり、一般に安全、非毒性で、生物学的にせよそうでないにせよ望ましくなくないものを意味し、獣医用途及びヒト医薬用途に許容されるものを包含する。「薬学的に許容される液体担体」の例としては、水、有機溶媒、ゲル、クリームなどが挙げられる。好ましい薬学的に許容される水性液体又は溶液としては、リン酸緩衝食塩水(PBS, phosphate buffered saline)、生理食塩水、及びデキストロース溶液が挙げられる。
【0033】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書でペプチド又はタンパク質物質を指すとき、同義に使用され、具体的な記載のない限りいかなる特定の分子量、ペプチド配列若しくは長さ、生物活性の分野、診断用途、又は治療用途にも限定してはならない。しかし、好ましいタンパク質及びペプチドは、約1kDa~500kDa(例えば、約1、10、50、100、150、200、250、300、350、400、450、又は500kDa又はそれらの間の何らかの範囲)の分子量を有する。
【0034】
本明細書で使用される「低分子」とは、約2000ダルトン未満(g/mol)、例えば約1500ダルトン未満、約1000ダルトン未満、又は約600ダルトン未満の分子量を有する分子を指す。
【0035】
用語「ポリマー」は、1又は2以上のモノマー残基繰り返し単位が1又は2以上の繰り返し化学官能基によって共有結合している分子を指す。この用語は、直鎖状、分枝状、星状、ランダム状、ブロック状、グラフト状など、ポリマーのすべての形状を包含する。それは、単一のモノマーから形成されたホモポリマー、2又は3以上のモノマーから形成されたコポリマー、3又は4以上のポリマーから形成されたターポリマー、及び3を超えるモノマーから形成された他のポリマーを包含する。あるポリマーの異なる形は、1を超える共有結合している繰り返し官能基を有することもできる。
【0036】
本明細書に記載されるポリマーをセルロース由来材料及び治療剤と組み合わせた本明細書に記載されるミクロスフェアを使用して、薬物送達システム又はデバイス、又は医薬組成物を提供することができる。
【0037】
本発明の組成物は、(a)ポリ(DL-ラクチド)ポリ(DL-ラクチド-co-グリコリド)及び/又はポリ無水物などの生分解性ポリマー、(b)セルロース由来材料、並びに(c)少なくとも1つの薬理活性物質を含むミクロスフェアを含む。
【0038】
最も単純なシステムにおいて、ミクロスフェアは、ポリマーを有機溶媒に溶解し、同じ相に薬物を共可溶化する又は薬物を懸濁することによるポリマー構成要素及び薬物構成要素からなる。ミクロスフェアは、非溶媒(連続)相において薬物/ポリマー/有機(不連続)相の小滴を形成することによって製造することができる。小滴形成は、(乳化技術などにおいて)ランダムであり、又は(精密粒子製作技術などにおいて)高度に制御することができる。ミクロスフェア構成要素が、ポリマー及び溶媒のみからなるとき、小滴形成及び形状均一性は、溶媒、ポリマー、及び連続相に応じて決まる。ミクロスフェア構成要素が薬物も含むとき、小滴形成及び形状均一性は、薬物並びに連続相及び不連続相に対するその溶解性にも依存する。大部分の薬物-ポリマーシステムの場合と同様に、薬物及びポリマーの物理化学的特性が非常に異なる場合、薬物の画分が増加するにつれて、小滴が凝固し、均一の球形状を形成できることが困難になり得る。セルロースエーテル又はセルロースエステル(例えば、エチルセルロース)などのセルロース由来材料が、生分解性ポリマーとともに特定の範囲の粘度画分で含まれるとき、本開示は、溶解挙動から推測されるように平均ミクロスフェア直径の偏差の低減、薬物封入の改善、及びミクロスフェア安定性の改善など多くの利点を示す。
【0039】
生分解性ポリマー
生分解性ポリマーは、ポリエステルポリマーなどのバルク腐食性ポリマーとすることができる。
【0040】
ポリエステルポリマーは、ラクチド、グリコリド、又はそれらの組合せをco-ブロックポリマー、例えばラクチドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約65%~約85%w/wであり、グリコリドのパーセントが、co-ブロックポリマーの約15%~約35%w/wであるco-ブロックポリマーとして含むことができる。さらに詳細には、ポリエステルポリマーは、ポリ(D,L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0041】
適用可能な生分解性ポリマーとしては、ラクチド及びグリコリド種からなるものが挙げられ、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(D,L-ラクチド)、及びポリ(ε-カプロラクトン)を含むがこれらに限定されない。
【0042】
ポリ乳酸とも呼ばれるポリラクチド(PLA, polylactide)は、乳酸をベースとするポリエステルである。ポリラクチドは、ポリヒドロキシ酸である。それらは、生体適合性及び生分解性である。ラクチドは、D及びL-異性体のラセミ混合物を含むことができ、D,L-ラクチドがもたらされる。D:L比が1:1と異なるラクチド(富化混合物)が得られることもある。さらに、単一のD-又はL-エナンチオマーのいずれかを実質的に純粋な形(99.99重量%を超える)で調製することが可能である。ラクチドの2つのエナンチオマー形のうち、L-異性体が好ましい。ラクチドを含むバイオポリマーを調製する際に使用されるラクチドの富化混合物である場合は、L-エナンチオマーが富化されたものが好ましく、2つのエナンチオマーのL:Dの重量比が、51:49~99.99:0.01、例えば60:40、75:25、80:20、又は90:10であることが好ましい。本明細書で使用されるように、ポリマーがL-ラクチドを含むものと指定されたとき、その中にあるラクチドの少なくとも60、又は少なくとも75、又は少なくとも80、又は少なくとも90%をL-エナンチオマーが占める。
【0043】
ポリラクチドは、L-ラクチド及びD,Lラクチドのブロックを含むブロックコポリマーを含むこともできる。
【0044】
ポリラクチドの特性は、主にそれらの分子量、キラリティー度、結晶化度、及び当てはまる場合にはコポリマーの部分に依存する。ポリラクチドの分子量が増加するにつれて、ポリラクチドのガラス転移温度、融点、引張強さ及びE-モジュールは増加するが、破断伸びは低下する。
【0045】
ポリラクチドは、ラクチドの開環重合によって得ることができる。開環重合は、オクチル酸第一スズ触媒の存在下に140~180℃の温度で行われる。高分子量のポリラクチドは、この方法で容易に産生することができる。さらに、高分子量で純粋なポリラクチドは、いわゆる重縮合により乳酸から直接生成することができる。
【0046】
ポリラクチド-co-グリコリド(PLGA, polylactide-co-glycolide)は、グリコール酸と連結している乳酸を含む(又はそれからなる)生分解性ポリマーであり、それらの各パーセントは、薬物放出の速度において重要な役割を果たす。ラクチドとグリコリドの比は、90:10~10:90とすることができ、20:80~80:20の比が好ましく、40:60~60:40の比がより好ましく、50:50の比が最も好ましい。ラクチドは光学活性であり、D及びL異性体は、純粋なD-ラクチドから純粋なL-ラクチドまでいかなる割合でも、コポリマー中に存在することができ、ラセミ体は、50%のD-ラクチド及び50%のL-ラクチドを含む。
【0047】
生分解性ポリマーは、表面腐食性ポリマーを含むことができる。例えば、生分解性ポリマーはポリ無水物ポリマーを含む。
【0048】
用語「ポリ無水物」は、得られるポリマーの繰り返し単位が無水物(-C(=O)-O-C(=O)-)基によって連結されているようなカルボン酸又はカルボン酸誘導体の縮合に由来するポリマーを指す。ポリ無水物は、当技術分野において公知であるように二酸を縮合すること又は無水物プレポリマーを縮合することによって調製することができる。ポリ無水物は、生分解性及び生体適合性であるため、薬物送達システムに有用なポリマーである。両親媒性のポリ無水物ミクロスフェア(PAM, polyanhydride microsphere)は、他のポリマー又は脂質ベースの粒子送達システムとは化学的及び構造的に異なる。PAMは、ポリマーマトリックス内の低分子又はタンパク質を被包する表面腐食性固体粒子であり、PAMが腐食するにつれて、薬物の徐放が行われる。それらは、表面腐食の分解パターンによって、安定な薬物放出用途に適したものとなる。
【0049】
用語「カルボン酸無水物」は、無水物(-C(=O)-O-C(=O)-)基を含む化合物を指す。カルボン酸無水物は、典型的には1分子当たり無水物基を1個のみ含む。カルボン酸無水物は、2つのカルボン酸の縮合によって形成することができる。本明細書に記載される方法と組み合わせて使用することができるカルボン酸無水物としては、ビス-アルキルカルボン酸無水物、ビス-アリールカルボン酸無水物、及び混合無水物が挙げられる。例としては、酢酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、及び安息香酸無水物が挙げられるが、これらに限定されない。酢酸と安息香酸の縮合生成物である酢酸安息香酸無水物などの混合無水物を使用することもできる。
【0050】
ポリ無水物ポリマーとしては、1,ω-ビス(カルボキシ)(C2-C10)アルカン単位、好ましくは1,ω-ビス(カルボキシ)(C3-C10)アルカン単位、例えばセバシン酸無水物、又は1,ω-ビス(カルボキシフェノキシ)(C2-C10)アルカン単位、例えば1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン(CPP, 1,3-bis(p-carboxyphenoxy)propane)、1,6-ビス-(p-カルボキシ-フェノキシ)ヘキサン(CPH, 1,6-bis-(p-carboxy-phenoxy)hexane)、又は1,8-ビス(カルボキシフェノキシ)-3,6-ジオキサオクタン(CPTEG, 1,8-bis(carboxyphenoxy)-3,6-dioxaoctane)、又はそれらの組合せを含む無水物ポリマーを挙げることができる。
【0051】
それらは、セバシン酸無水物とCPP、CPH及び/又はCPTEGとの共重合に由来するコポリマーなど、1,ω-ビス(カルボキシ)(C2-C10)アルカン単位及び1,ω-ビス(カルボキシフェノキシ)(C2-C10)アルカン単位を含むコポリマーも含むことができる。ミクロスフェア中の1,ω-ビス(カルボキシ)(C2-C10)アルカンと1,ω-ビス(4-カルボキシフェノキシ)(C2-C10)アルカン単位の比は、約90:10~約50:50~約10:90、又は85:15、80:20、75:25、70:30、60:40、若しくは55:45、又はそのような比の逆など、間にあるいかなる比とすることもできる。
【0052】
ミクロスフェアは、単一のポリラクチド若しくはポリラクチド-co-グリコリド又はポリ無水物を含むことができ、あるいは、異なる2つのポリラクチド(例えば、ポリ(D,L-ラクチド)とポリ(L-ラクチド)の混合物)若しくは異なる2つのポリラクチド-co-グリコリドの混合物、又は異なる2つのポリ無水物の混合物など、同じクラスの異なる2つのポリマーの混合物、あるいはポリラクチドとポリラクチド-co-グリコリドの混合物、又はポリラクチドとポリ無水物の混合物、又はポリラクチド-co-グリコリドとポリ無水物の混合物など、それらの混合物を含んでもよい。
【0053】
生分解性ポリマーのパーセントは、各ミクロスフェアの約50%~約95%w/w、各ミクロスフェアの約55%~約90%w/w、各ミクロスフェアの約60%~約85%w/w、各ミクロスフェアの約65%~約80%w/w、又は各ミクロスフェアの約60%~約70%w/wとすることができる。
【0054】
セルロース由来材料
組成物は、生分解性ポリマー、活性成分、及びセルロース由来材料(CDM)を含むミクロスフェアを含み、ここでCDMのパーセントは、各ミクロスフェアの約0.5%~約6%w/wである。CDMは、セルロースエーテル又はセルロースエステルを含む。
【0055】
セルロースエーテルとしては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び微結晶セルロースが挙げられる。セルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースアセテートフタレート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートが挙げられる。好ましくは、本開示の組成物は、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、又はそれらの変種若しくは組合せを含む。より好ましくは、組成物は、エチルセルロースを含む。
【0056】
エチルセルロースなどのセルロースエーテルは、自然に生じるものではなく、セルロースを苛性溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)とともに加熱し、ハロゲン化アルキルで処理することによって合成される。その後の置換反応において、ヒドロキシル残基(-OH官能基)は、アルコキシド(-OR基)で置き換えられる。異なる種類のエチルセルロースは、置換されたヒドロキシル基の数に応じて調製することができる。セルロースは、連結している多数のグルコース分子からなるポリマーであり、これらのそれぞれが3つのヒドロキシル基を露出させている。所与の形のエチルセルロースの置換度(DS, the Degree of Substitution)は、グルコース1個当たりの平均置換ヒドロキシル基数と定義される。したがって、理論上の最大値は、3.0のDSであるが、より典型的な値は1.3~2.6であり、有効な置換ヒドロキシル基の43~87%、好ましくは44~51%、又は48~50%に相当する。エチルセルロース調製物は、それらのポリマー主鎖の平均長さが異なる可能性もあり、分子量及び粘度の両方に関連する。セルロースエステルは、セルロースが酸塩化物又は無水物などの酸誘導体で処理される点以外は同様にして調製することができる。
【0057】
エチルセルロース組成物は、ポリマーの標準液の動粘度によって特徴付けることができる。流体の粘度は、せん断応力又は引張応力による緩やかな変形に対するその耐性の尺度である。液体の場合、それは、「濃さ」という非公式の概念に相当する。例えば、蜂蜜は、水よりはるかに高い粘度を有する。流体の動的(せん断)粘度は、隣接する層が異なる速度で互いに平行に移動するせん断流れに対するその耐性を表す。動粘度(「運動量拡散率」とも呼ばれる)は、動的粘度μと流体の密度との比である。エチルセルロースに関して用語「粘度グレード」は、80:20のトルエン/エタノール中5%ポリマー溶液の粘度の測定(ASTM D914)から生じる。高い粘度グレードほど、一般に高いポリマー分子量に相当する。エチルセルロースの粘度グレードは、約3~約110cP、好ましくは4、10、20、40又は50cPの下限~25、40、50又は100cPの上限に及ぶ。
【0058】
本明細書に記載される組成物としては、セルロース由来材料(CDM)が、約0.1%~約5%の粘度画分を含む組成物が挙げられる。ここで、粘度画分は、次式
vf_CDM = η_inh_CDM * (f_CDM) / [η_inh_CDM * (f_CDM) + η_inh_Pol * (f_Pol)] * 100
(式1)
に従って算出され、式中、vf_CDM=ポリマーマトリックス中のCDMの粘度画分;η_inh_CDM=CDMの固有粘度;η_inh_Pol=ポリマーの固有粘度、f_CDM=ポリマーマトリックス中のCDMの画分;及びf_Pol=ポリマーマトリックス中のポリマーの画分である。この式の使用が、特定のセルロース由来材料エチルセルロースについて実施例1により詳細に記載されている。
【0059】
注目すべき実施形態としては、エチルセルロースなどのCDMが、約0.1%~約5%、約0.5%~約3.5%、約0.2%~約2%、約0.3%~約1%、又は約0.5%~約2%の粘度画分を含む、実施形態が挙げられる。
【0060】
好ましい実施形態において、複数のミクロスフェアの少なくとも90%が、約40μm~約70μm、約45μm~約65μm、約50μm~約60μm、約50μm~約70μm、約40μm~約55μm、約60μm~約100μm、約65μm~約95μm、約70μm~約90μm、約70μm~約85μm、約70μm~約80μm、又は約75μm~約85μmの粒子直径を有する。
【0061】
組成物中のミクロスフェアのマトリックスに含まれている他の水不溶性材料は、ロウ、脂肪酸又はそのエステル若しくは塩などの誘導体、脂質、あるいはそれらの組合せ又は変種を含むことができる。ロウとしては、活性成分とともに使用するのに適したいかなるロウ様材料も挙げられる。適切なロウの例としては、セレシンロウ、蜜ロウ、オゾケライト、マイクロクリスタリンワックス、カンデリラロウ、モンタンロウ、カルナウバロウ、パラフィンロウ、カウアスロウ、木ロウ、及びシェラックロウが挙げられるが、これらに限定されない。適切な脂質材料は、一般に室温で固体であり、約45℃又はそれを超える融点を有することがある。適切な脂質材料の例としては、植物、動物、又は鉱物から及び/又はそれらに由来する、トリアシルグリセロール(例えば、トリパルミチン、トリステアリン、トリラウリン酸グリセリル、ヤシ油)、硬化脂肪、セラミド、及び有機エステルなどのグリセロール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
適切な脂肪酸又はそれらの誘導体の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、モノステアリン酸グリセリン、クレモフォール(ヒマシ油)、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸、ミリスチン酸ナトリウム、植物油、ヤシ油、モノ-、ジ-、トリ-グリセリド、ステアリルアルコール、及びソルビタンモノラウレート(Span 20)又はソルビタンモノオレエート(Span 80)などのソルビタンエステルが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ある特定の実施形態において、脂肪酸は、ステアリン酸及びモノステアリン酸グリセリンの組合せとすることができる。
【0063】
治療剤
ヒト対象を含めて哺乳動物などの対象に薬理活性物質、すなわち治療剤又は診断剤を投与するために、本発明のPLA-、PLGA-ベース及び/又はポリ無水物-ベースのミクロスフェアに、事実上いかなる薬理活性物質もロードすることができる。本明細書に記載されるミクロスフェアは、ミクロスフェアが、例えば治療を必要とする対象内で又は抗寄生生物剤組成物の場合は標的寄生虫内で腐食するにつれて、治療剤を徐放する。
【0064】
ミクロスフェア組成物としては、活性治療剤のパーセントが各ミクロスフェアの約10%~約40%w/wである組成物が挙げられる。
【0065】
注目すべき組成物は、活性治療剤が、インテグラーゼ阻害剤、抗寄生生物剤、ステロイドホルモン、ソマトスタチンアナログ、ペプチドである、組成物;及び/又は活性治療剤が、1000ダルトン未満の分子量を有する有機化合物である、組成物を含む。
【0066】
インテグラーゼ鎖転移阻害剤(INSTI, integrase strand transfer inhibitor)とも呼ばれるインテグラーゼ阻害剤は、ウイルスゲノムを宿主細胞のDNAに挿入するウイルス酵素であるインテグラーゼの作用を阻止するように設計された抗レトロウイルス薬の1群である。組み込みはレトロウイルス複製において重要なステップであるので、それを阻止することによって、ウイルスのさらなる伝播を停止することができる。インテグラーゼ阻害剤は、最初、HIV感染症の治療のために開発されたが、他のレトロウイルスに適用することができた。インテグラーゼ阻害剤は、レトロウイルスの生活環において独特のステップを標的にしているので、他のタイプのHIV薬と組み合わせて服用して、ウイルスによる適応を最小限に抑えることができる。それらは、ウイルスが突然変異し、他の薬物に対する耐性を獲得した患者のための救済療法においても有用である。インテグラーゼ阻害剤の例としては、ドルテグラビル、エルビテグラビル、ラルテグラビル、BI 224436、ビクテグラビル(GS-9883)、カボテグラビル及びMK-2048が挙げられる。
【0067】
抗寄生生物剤は、とりわけ、蠕虫、アメーバ、外寄生生物、寄生性真菌、及び原生動物によって起こる寄生虫症などの寄生虫症を適応症とする医薬品の1群である。抗寄生生物剤は、感染症の寄生体を破壊し、又はそれらの増殖を阻害することによって、感染症の寄生体を標的にする。それらは、通常、特定のクラス内の限られた数の寄生虫に有効である。細菌用の広域スペクトル抗生物質と類似している広域スペクトル抗寄生生物剤は、異なるクラスの寄生虫によって起こる広範囲の寄生虫感染症を治療する際に有効性を示す抗寄生生物薬である。抗寄生生物剤の例としては、広域スペクトルの抗寄生生物剤ニタゾキサニド;メラルソプロール及びエフロルニチン(トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)によって引き起こされる睡眠病の治療のため)、メトロニダゾール(トリコモナス属(Trichomonas)によって引き起こされる膣炎のため)、チニダゾール(ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)によって引き起こされる腸内感染症のため)、並びにミルテホシン(内蔵及び皮膚リーシュマニア症の治療並びにシャガス病の現在行われている調査のため)などの抗原生動物剤;メベンダゾールやピランテルパモ酸塩などの抗線虫剤(大部分の線虫感染症のため);チアベンダゾール(回虫感染症のため);ジエチルカルバマジン(リンパ管フィラリア症の治療のため)及びイベルメクチン(河川盲目症の予防のため);アルベンダゾール(広域スペクトル)、ニクロサミドやプラジカンテル(条虫感染症のため)などの抗条虫剤;リファンピンやアムホテリシンBなどの抗アメーバ剤;並びにフマギリンなどの抗真菌剤(微胞子虫症のため)が挙げられる。
【0068】
抗寄生虫性及び/又は抗菌性化合物をミクロスフェア中に被包することができ、それにより、寄生虫によって内在化された後、粒子が分解するにつれて、化合物がゆっくり放出されることが可能になる。PAMがゆっくり腐食し、積荷分子を制御放出する能力は、成体の線虫と共生細菌ボルバキア属(Wolbachia)の両方に対する特異性を可能にする。ミクロスフェアは、寄生虫の存在下でバルク腐食又は表面腐食によってある期間分解して、ミクロスフェアの内部から活性剤を放出し、それによって寄生虫を死滅させ、又は寄生虫の繁殖を阻害することができる。したがって、本明細書に記載されるミクロスフェアの投与は、ミクロフィラリア負荷を低減するだけでなく、成体集団における死亡率を直接上げることによって、線虫の生活環を遮断することができる。
【0069】
ステロイドホルモンは、ホルモンとして働くステロイドである。ステロイドホルモンは、コルチコステロイド及び性ステロイドの2クラスに分類することができる。コルチコステロイド及び性ステロイドは、それらが結合する受容体に従って、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド(コルチコステロイド)、アンドロゲン、エストロゲン、及びプロゲストゲン(性ステロイド)のタイプに分けられる。ビタミンD誘導体は、相同受容体と密接に関連する6番目のホルモンシステムである。それらは、受容体リガンドである真のステロイドの特徴の一部を有する。ステロイドホルモンは、代謝、炎症、免疫機能、塩分と水分のバランス、性徴の発達、並びに病気及び傷害に耐える能力を制御する助けとなる。用語ステロイドは、身体によって産生されるホルモンと天然ステロイドに対して作用を2倍にする人工的に産生された医薬品の両方について述べる。合成ステロイド及びステロールも考案された。大部分はステロイドであるが、非ステロイド性分子の中には、形状の類似性のためステロイド受容体と相互作用することができるものもある。合成ステロイドホルモンの例としては、アルクロメタゾン、プレドニゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、及びコルチゾンなどのグルココルチコイド;フルドロコルチゾンなどのミネラルコルチコイド;ジヒドロタキステロールなどのビタミンD類似体;オキサンドロロン、オキサボロン、テストステロン、及びナンドロロンなどのアンドロゲン(アナボリック-アンドロゲン性ステロイド又はアナボリックステロイドとも呼ばれる);ジエチルスチルベストロール(DES, diethylstilbestrol)やエストラジオールなどのエストロゲン;並びに、ノルエチステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、エトノゲストレル及びカプロン酸ヒドロキシプロゲステロンなどのプロゲスチンが挙げられる。
【0070】
ソマトスタチン類似体は、血管作用性小腸ペプチドを分泌する腫瘍、カルチノイド腫瘍、グルカゴノーマ及び様々な下垂体腺腫の治療に使用される。それらは、先端巨大症(成体において成長ホルモンが過剰分泌されている状態)の治療にも使用される。代表的なソマトスタチン類似体としては、オクトレオチド、パシレオチド、ランレオチド及びベルドレオチド(COR-005)が挙げられる。
【0071】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されるミクロスフェア又は組成物、活性成分として治療剤を含み、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤若しくは溶媒などの希釈剤を含んでいてもよい。
【0072】
本開示に適用可能な溶媒としては、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、及びキシレンなどのクラスII溶媒;並びにアセトン、酢酸ブチル、エタノール、ジメチルスルホキシド、及び酢酸エチルなどのクラスIII溶媒を含めて、非経口薬物製剤で使用される溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明の薬物送達システム若しくはデバイス又は医薬組成物は、治療剤を含み、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤若しくは希釈剤を含んでいてもよい本発明のミクロスフェア又は組成物を混和することによって作製される組成物を包含する。そのような組成物は、動物又はヒト対象における医薬用途に適している。
【0074】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるミクロスフェアを含み、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含んでいてもよい医薬組成物を提供する。通常の医薬配合技法に従って、本明細書に記載されるポリマーを、本明細書に記載されるミクロスフェア中で、緊密に混和してセルロース由来材料及び治療剤と組み合わせることができ、適切な医薬用担体及び/又は賦形剤と組み合わせてもよい。一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるミクロスフェア、別の治療剤を含み、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含んでいてもよい医薬組成物を提供する。別の治療剤は、例えば、治療剤の即放と治療剤の徐放を併せもつ組成物を実現するためにミクロスフェア内に含まれない。別の治療剤は、ミクロスフェア中に含まれている治療剤と同じでも異なってもよい。投与に望ましい調合物の形態に適したいかなる担体及び/又は賦形剤も、本明細書に記載されるミクロスフェアとの使用が熟考される。組成物は、薬学分野において周知である方法のいずれによっても調製することができる。
【0075】
これらの実施形態の一部において、薬学的に許容される賦形剤としては、塩又は希釈剤が挙げられる。
【0076】
一部の実施形態において、組成物は、非経口(静脈内など)投与又は経口投与用に製剤化され、組成物、並びに水性溶液及び緩衝液からなる群から選択される少なくとも1員を含む。
【0077】
一部の実施形態において、本発明は、医薬用界面活性剤をさらに含む組成物を提供する。
【0078】
一部の実施形態において、本発明は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、及びセトリミドからなる群から選択される陽イオン界面活性剤をさらに含む組成物を提供する。
【0079】
一部の実施形態において、本発明は、ドクサートナトリウム及びラウリル硫酸ナトリウムからなる群から選択される陰イオン界面活性剤をさらに含む組成物を提供する。
【0080】
一部の実施形態において、本発明は、モノオレイン酸グリセリル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選択される非イオン界面活性剤をさらに含む組成物を提供する。一部の実施形態において、非イオン界面活性剤は、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンセスキオレエート、及びソルビタントリオレアートからなる群から選択されるソルビタンエステルである。一部の実施形態において、非イオン界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、及びポリソルベート85からなる群から選択されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。いくつかの他の実施形態において、非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコールモノセチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、及びポリエチレングリコールモノステアリルエーテルからなる群から選択されるポリオキシエチレンアルキルエーテルである。一部の実施形態において、ポロキサマーは、P124、P188、P237、P338、及びP407からなる群から選択される。
【0081】
一部の実施形態において、本発明は、凍害防御物質をさらに含む組成物を提供する。一部の実施形態において、凍害防御物質は、グルコース、スクロース、トレハロース、ラクトース、グルタミン酸ナトリウム、PVP、HPβCD、CD、グリセロール、マルトース、マンニトール、及びサッカロースからなる群から選択される。
【0082】
医薬組成物の適量の投与は、当技術分野において公知であるいかなる手段によっても行うことができる。医薬組成物は、非経口、経肺、経鼻、直腸、局所、又は経口投与に適した組成物を含む。所与のいかなる場合にも最適な投与経路は、診断されている状態の性質及び重症度にも一部依存する。特に、組成物は、非経口(全身)投与に適している。組成物は、例えば注射器により、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、結膜下、硝子体内注射することによって投与することができる。投与としては、滑膜腔への送達(例えば、関節炎の治療のため)又は髄腔内注射(例えば、脳疾患の治療のため)を挙げることができる。他の好ましい組成物は、経腸、経口、直腸、舌下、又は唇下投与を含めて、他の全身投与に適した組成物を含む。
【0083】
本明細書に記載される組成物、作用剤、及びミクロスフェアは、好ましくは非経口投与される。これらのミクロスフェアの溶液又は懸濁液は、上記の薬学的に許容される界面活性剤などの界面活性剤と適当に混合させた水中で調製することができる。分散系も、オイル中においてグリセロール、液状ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中で調製することができる。貯蔵及び使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有することができる。
【0084】
注射可能な用途に適した医薬形態としては、無菌注射液又は分散系の即時調製用の無菌水性溶液又は分散系及び無菌粉末が挙げられる。どの場合でも、形態は無菌でなければならず、容易な注射器分注性が存在する程度まで流体でなければならない。それは、製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコール)、それらの適当な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散媒とすることができる。
【0085】
注射用溶液及び懸濁液は、下記の種類の無菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製することができる。例えば、(関節における)関節内、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、及び皮下経路などによる非経口投与に適した製剤としては、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を対象となるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有することができる水性及び非水性の等張無菌注射液、並びに懸濁化剤、可溶化剤、粘稠化剤、安定剤、及び保存剤を含むことができる水性及び非水性の無菌懸濁液が挙げられる。
【0086】
全身投与用の組成物としては、本明細書に記載される組成物並びに任意の適切な担体及び/又は賦形剤の粉末からなる乾燥粉末組成物が挙げられるが、これらに限定されない。全身投与用の組成物及び/又は薬物送達システムは、錠剤、カプセル、カプレット、丸剤、シロップ、溶液、及び懸濁液によって表すことができるが、これらに限定されない。
【0087】
経肺投与の組成物としては、治療剤を含む本明細書に記載されるミクロスフェアの粉末を含み、適切な担体及び/又は滑沢剤の粉末を含んでもよい乾燥粉末組成物が挙げられるが、これらに限定されない。経肺投与用の組成物は、当業者に公知の適切ないかなる乾燥粉末吸入器デバイスからでも吸入することができる。
【0088】
経口投与に適した製剤は、(a)水、生理食塩水又はPEG 400などの希釈剤に分散された有効量のミクロスフェアなど、液体溶液、懸濁液、乳濁液、又はゲル;任意の界面活性剤、共溶媒などの賦形剤;及び(b)それぞれが所定の量の活性成分を液体、固体、顆粒又はゼラチンとして含む、カプセル、サシェ又は錠剤からなることができる。錠剤形態は、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、微結晶セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、並びに他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、矯味剤、色素、崩壊剤、及び薬学的に相溶性のある担体の1又は2以上を含むことができる。
【0089】
非経口(皮下、筋肉内、静脈内)、経口、舌下、局所又は直腸投与用の本発明の医薬組成物において、本明細書に記載されるミクロスフェアは、通常の医薬用担体と混合された単位投与剤形で動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与形態としては、経口服用するための錠剤、ゼラチンカプセル、粉末、顆粒及び溶液又は懸濁液などの経口形態、舌下及びバッカル投与形態、エアゾール、埋め込み物、皮下、筋肉内、静脈内、鼻腔内又は眼内投与形態及び直腸投与形態が挙げられる。
【0090】
本明細書に記載される医薬組成物の単位投与量を提供するキットは、本発明の範囲内として考えられる。本明細書に記載される組成物の多くの単位投与量を提供するキットは、本発明の範囲内として考えられる。さらに、本明細書に記載される組成物の複数の単位投与量を提供するキットも、本発明の範囲内として考えられる。一部の実施形態において、本発明のキットは、本明細書に記載される医薬組成物の単位投与量を含む。いくつかの実施形態において、本発明のキットは、本明細書に記載される医薬組成物の多くの単位投与量を含む。いくつかの他の実施形態において、本発明のキットは、本明細書に記載される医薬組成物の単位投与量を含む。
【0091】
本発明の薬物送達デバイスは、本明細書に記載されるミクロスフェアを含む本明細書に記載される粉末、ミクロスフェア、錠剤、ゼラチンカプセル、丸剤、カプセル、カプレット、サシェなどを含む。薬物送達デバイスは、例えばフィルム、ディスク又はロッドを含めて、ミクロスフェアを含む造形品も含む。そのような造形品は、皮下など、対象の身体における埋め込みに適したものであり得る。薬物送達デバイスは、本明細書に記載されるミクロスフェアを含む医薬組成物の1又は2以上の単位投与量を送達するように構成されているデバイスも含む。そのようなデバイスとしては、例えば、注射器、エアゾール噴霧装置、ポンプ噴霧装置、アプリケーター、又は吸入器が挙げられる。
【0092】
本明細書に記載されるミクロスフェアは、溶解挙動及び熱抵抗並びに/又は薬物放出速度を調整する能力の観点から、製作時における平均ミクロスフェア直径の偏差の低減、封入効率の改善及び疎水性の向上、ミクロスフェア安定性の改善を含めて、利点を医薬製剤に提供する。これらの利点を以下の実施例において明らかにする。
【0093】
製作時における平均ミクロスフェア直径の偏差の低減
実施例1~5及び13は、エチルセルロースが、特に高薬物ローディングでの製作時において単分散性ミクロスフェアサイズ変化をいかに改善するかを示す。エチルセルロースが含まれていないと、高薬物含有量により、製造時において小滴が硬化すること及びミクロスフェアが球形状を保持することが困難になる。水不溶性結合剤がポリマー鎖にインターカレートし、保形の助けとなると仮定される。乳化方法で使用される粒子サイズ分布がブロードであるので、他の技術は、タイトなサイズ分布を容易に達成することができない。低薬物ローディングで非常に小さい粒子を作製することができるものもあるが、その小さいサイズにおけるサイズ分布があまりにブロードであるので、全粘度及び流動性の観点から注入物(粒子+注入媒体)が再現よく行うことができない。精密粒子製作技術は、小さい粒子サイズを達成することができるので独特である。液滴サイズを制御することによって、精密粒子製作技術は、不十分な封入効率に関する問題を予想し、解決することができるが、他の技術ではできない。競合する製剤は、製造時において不十分なローディングを得る全く同じ理由(粒子サイズ全体の制御の欠如)で薬物バースト放出を示す。エチルセルロースが含まれていると、30%w/wを超える薬物ローディングで薬物バーストなしにタイトなサイズ分布を維持する点から、精密粒子製作の利点が増幅される。
【0094】
封入効率の改善及び疎水性の向上
実施例2~3は、エチルセルロースが、高ローディングでの製作時において薬物封入をいかに改善するかを示す。エチルセルロースが含まれていないと、ポリマーマトリックスは、特に薬物の水に対する溶解性が低い場合、硬化時において薬物を小滴内部に局在させる能力を維持しないこともある。水不溶性材料がポリマー鎖にインターカレートし、保形を助け、硬化中のポリマー小滴からの薬物の拡散を低減すると仮定される。さらに、エチルセルロースは極めて疎水性(すなわち、水不溶性)であるので、不連続-連続(小滴-水)相界面においてより少ない自由体積を占めることによって薬物漏出に対する障壁として働くことができる。
【0095】
溶解挙動及び熱抵抗の観点からのミクロスフェア安定性の改善
実施例5及び12は、エチルセルロースが、高温におけるミクロスフェア産生物の安定性をいかに改善するかを示す。多くの制御放出ポリマー及び薬物は、分解を防止するのに-20℃又はそれ以下の貯蔵温度を勧めた。ポリマーは、特に空気中の水分によってゆっくりと加水分解され、薬物は、酸化を含めて、いくつかの手段によって分解される。エチルセルロースが含まれていると、低貯蔵温度を共に勧めるポリマー及び薬物は、40℃及び75%RHで長期間安全に貯蔵することができ、(1)薬物分解を示さず、(2)再現性のある溶解反応速度、及び(3)ミクロスフェアの再現性のあるガラス転移温度(Tg)を示すことができ、熱イベントに対する耐性を示す。実施例5は、エチルセルロースを含める利点が、6%以下のエチルセルロース粘度画分において有利であることを示唆する。
【0096】
薬物放出速度を調整する能力
実施例6~11は、本来のエチルセルロース粘度が、薬物放出速度を調整する能力をいかに有するかを際立たせている。場合によっては、エチルセルロースの粘度は、いかなる制御放出ポリマーの場合にもみられるのと同じように、薬物の放出速度に反比例する(より低い粘度又はより低い分子量は、より速い放出速度を実現し、より高い粘度又は分子量は、より遅い放出速度を実現する)。他の場合においては、この論理的な現象を観察することはできない。理論に拘泥するものではないが、ポリマー化学は、エチルセルロース及び別のポリマーからなる2成分系において放出速度の論理的調整を達成することができるかどうかに影響を及ぼすと推測される。実施例6~11は、一般に(1)グリコリド成分が含まれないポリマーでは、エチルセルロース粘度は、放出速度を変更することができるが、論理的で反比例するような変更ではなく、(2)グリコリド成分が含まれるポリマーでは、放出速度は、事実上エチルセルロース粘度に反比例することを示す。
[実施例]
【0097】
使用された製剤
以下のミクロスフェア製剤を、米国特許第6,669,961号、同第7,309,500号、及び同第7,368,130号に記載されている精密粒子製作技術で製造し、これらのすべては、参照により組み込まれている。この粒子作製技術は、エチルセルロースを含めることの利点を際立たせている。各製剤について(ポリマータイプ、ポリマー粘度、エチルセルロース粘度、エチルセルロース画分、エチルセルロース粘度画分、及び薬物ローディングを含めて)詳細を、下記の表1~13にまとめる。使用するポリマーの略語を表Aに列挙する。すべてのPLA及びPLGAの商業的供給源は、Evonik Industries社、Essen, Germanyであった。エチルセルロースは、Sigma Aldrich社、St. Louis, MOから供給された。ポリマーの組成的及び物理的特性は、製剤表の「ポリマー化学、co-ブロック比、ポリマー固有粘度」の欄に含まれ、エチルセルロースグレードは、同じ製剤表の「動粘度」の欄に含まれる。使用する薬物の特性を表Bに列挙する。
【0098】
【0099】
【0100】
粒子サイズ及び写真
ミクロスフェアのサイズは、顕微鏡法又は粒子サイズ分析器により決定した。顕微鏡法により決定されたサイズの場合、ミクロスフェアの少(約2mg)試料をスライドガラスに載せ、湿らせて、粒子分散を促進した。スライドを顕微鏡対物レンズ下に置き、対ソフトウェアを用いて可視化した。ソフトウェアは、複数の倍率を使用して、外部のスケールバーで事前に較正した。ミクロスフェアの部分集合の直径をソフトウェアアルゴリズムで測定し、測定値を平均化することによって、粒子サイズを定量した。スライドガラス上にある間にミクロスフェアの静止画像を作成することによって、写真を撮った。粒子分析器を用いて決定されたサイズの場合、ミクロスフェアの少試料(約10mg)を等張液(約10mL)中に分散した。560マイクロメートルのアパーチャを設けたCoulter Multisizer M3のステージに、懸濁液を載せた。次いで、分析器ソフトウェアを使用して、懸濁液を採取し、体積に基づく曲線を作成し、粒子サイズの分布を典型的には30秒である測定時間内に表示した。
【0101】
薬物放出決定
ミクロスフェアからの薬物放出を以下の一般手順に従って決定した。
【0102】
実施例1に記載されている手順に従う所定の処方に準じて、薬物を含むミクロスフェアを製造した。凍結乾燥した後、ミクロスフェアを、複数の時点における溶解試験用に試料に分けた。例えば、一部のミクロスフェアは製造直後(例えば、T=0カ月)に試験し、一部はT=1週間、T=4週間/1カ月又はT=6カ月のようなより長い貯蔵期間の後にICH温度(すなわち、摂氏40度/相対湿度75%)で貯蔵した。図に示した時間貯蔵した後、試料をインキュベータから取り出し、室温まで放冷し、採取して、放出プロファイルを決定した。医薬活性成分のシンク条件を提供するように事前に決定された溶解媒体及び体積に少量のミクロスフェア(約10mg)を入れることによって、薬物放出を定量した。実施例1~12で試験された医薬活性成分(API, active pharmaceutical ingredient)の場合、溶解媒体は、0.1%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS, sodium lauryl sulfate)溶液からなるものであり、20又は60mLのガラスシンチレーションバイアル中、摂氏40度において、撹拌棒を300rpmで回転させた。溶解媒体を、数日又は数カ月にわたって事前に定義された時点で採取し、それぞれ採取した後に、媒体を新たに補充し、体積を一定に保った。特に、所与の試料について溶解の研究を、貯蔵から取り出した後複数日にわたって行った。例えば、試料5.1(
図5A)などの所与の製剤を40℃で0週間、1週間又は4週間貯蔵し、その後、試料をチャンバから取り出し、溶解が、貯蔵から取り出してから7日間行われ、示された累積放出プロット図が得られた。それぞれ採取した後、溶解上澄液をろ過し、高速液体クロマトグラフィーにより薬物濃度について分析し、その後、濃度に溶解体積を掛けることによって、全質量放出を算出した。次いで、各時点で放出された質量をミクロスフェア内に被包された全質量に正規化し、累積放出として表した。ミクロスフェアの定義された質量(約10mg)を溶媒(約10mL)に溶解し、抽出されたその試料の含有量を分析することによって、ミクロスフェア内の薬物含有量を決定した。
【実施例1】
【0103】
エチルセルロースが含まれていない単分散性ミクロスフェアを、先に説明した独自の方法で製作した。簡潔に言えば、原料のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(P-DLL-G, poly(D,L-lactide-co-glycolide))65:35を、20mLのガラスシンチレーションバイアル中のジクロロメタン(DCM, dichloromethane)に7%w/vの濃度で添加し、溶解するまでボルテックスした。次いで、薬物Aをポリマー溶液と3%w/vで共溶解し、バイアル中の全固形分を10%w/vにし、理論薬物ローディングを30%w/wにした。次いで、精密注射器ポンプに取り付けられ、特注の粒子製作ノズルに低容量のPTFEチュービングで連結されたプラスチック製ルアーロック式注射器に、ポリマー溶液をロードした。ポリマー溶液を、5mL/時の速度でノズルに通して流し、振動機構により4kHzの振動数で励起した。界面活性剤として働き、小滴凝集を防止する0.5%w/vのポリ(ビニルアルコール)(PVA, poly(vinyl alcohol))を補充した脱イオン(DI, deionized)水の入った2000mLのガラスビーカー中に、典型的には直径約20~30μmの小滴は落下した。注射器の内容物を全部排出した後、DCMのPVA溶液への抽出の助けとなるビーカーの直径に及ぶ撹拌棒を用いて、小滴を75rpmで3時間撹拌した。溶媒抽出した後、撹拌を停止し、撹拌棒を磁気ワンドで取り出し、粒子をビーカーの床部に沈殿させた。これは、10分で完了した。次いで、水/PVA/DCM上澄液をガラスピペットで取り出し、適切な廃棄物容器に捨て、残っている粒子をDI水で1回洗浄した後、50mLの遠心管に集めた。湿潤している粒子を凍結するまで-80℃の冷凍庫に入れ、次いで0.028±0.002バール及び-50±2℃の凍結乾燥チャンバに48時間移した。乾燥すると、粒子バイアルを手で軽く撹拌して、流動性のある粉末となるようにした。乾燥したミクロスフェア試料(約10mg)をDCMに溶解し、C18カラムを装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC, high performance liquid chromatography)システムで定量することによって、薬物含有量を決定した。分析後の実際の薬物含有量は、29.4%であるとわかり、実際のポリマー含有量が70.6%となった。少試料をミクロスフェア粉末から取り出して、Coulter Multisizer M3を用いて顕微鏡像及びサイズ分布を得た(
図1Aにおける試料1.1)。
【0104】
理論薬物ローディングが30%w/wであり、エチルセルロース含有量が1%w/wであり、ポリマー含有量が69%w/wであるようにポリマー溶液に溶解させたエチルセルロースを用いた点以外は先に説明した方式で、エチルセルロースが含まれている単分散性ミクロスフェアを製作した。乾燥したミクロスフェア試料(約10mg)をDCMに溶解し、C18カラムを装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムで定量することによって、薬物含有量を決定した。分析後の実際の薬物含有量は、29.4%であるとわかり、実際のポリマー及びエチルセルロース含有量がそれぞれ、69.6%及び1.0%となった。少試料をミクロスフェア粉末から取り出して、Coulter Multisizer M3を用いて顕微鏡像及びサイズ分布を得た(
図1Cにおける試料1.3)。
【0105】
制御放出マトリックス中のエチルセルロースの含有量は、固有粘度画分として表すことができ、固有粘度画分は、ポリマー固有粘度とエチルセルロース固有粘度画分の加重平均からなる。簡単に言えば、粘度画分は、ミクロスフェア合成時における制御放出マトリックスの全粘度へのエチルセルロースの寄与である。しばしば、エチルセルロースの粘度は、固有粘度としてではなく、溶液粘度として報告されているので、ポリマー固有粘度で重み付けする前に変換しなければならない。試料1.3において、エチルセルロースは、5%w/vのトルエン:エタノール80:20溶液で22cPの粘度(すなわち、その粘度グレード)を有すると述べられ、P-DLL-Gは、0.4dL/gの平均粘度を有すると述べられた。それらを、ミクロスフェア中において全粒子製剤が1.0%w/wのエチルセルロース、29.4%の薬物、及び69.6%のポリマーからなるように組み合わせる。トルエン:エタノール80:20混合物の粘度が0.527cPであることをわかった上で、ポリマー-エチルセルロースシステム(薬物を含めない)の固有粘度画分を算出しなければならない。最初に、エチルセルロース溶液の動粘度をエチルセルロース自体の固有粘度に変換しなければならない。固有粘度は、式2の関係を使用して、算出することができ、式中、η_inh=材料の固有粘度(単位:dL/g);η_溶質=溶液の動粘度(単位:cP);η_溶媒=溶媒の動粘度(単位:cP);c_溶液=溶液の濃度(単位:g/dL)である。
η_inh = ln ( η_溶液 / η_溶媒) / c_溶液 (式2)
したがって、エチルセルロース単位自体の固有粘度は、η_inh=ln (22cP / 0.527 cP) / 5 g/dL = 0.746であると決定される。
【0106】
製作に際してポリマー又はエチルセルロースが損失されなかったと仮定すると、絶対エチルセルロース含有量は全ミクロスフェア製剤(EC+薬物+PDLLG)に対して1.0%w/wであるが、エチルセルロースの非薬物成分に対する画分は、それらの2成分の理論的寄与にのみ基づいている。試料1.3において、EC及びポリマーの理論組成はそれぞれ、1.0%及び69%であり、したがってエチルセルロースは、制御放出マトリックス成分(EC+PDLLG)の1.0% / (1.0%+69.0%) * 100=1.43%であり、P-DLL-Gは残りの98.57%を構成する。したがって、制御放出成分中のエチルセルロースの粘度画分は、式2の関係に従って算出することができ、式中、vf_EC=制御放出成分中のエチルセルロースの粘度画分;η_inh_EC=エチルセルロースの固有粘度;η_inh_PDLLG=ポリマーP-DLL-Gの固有粘度;f_EC=制御放出成分中のエチルセルロースの画分;及びf_PDLLG=制御放出成分中のポリマー(P-DLL-G)の画分である。
vf_EC = η_inh_EC * (f_EC) / [η_inh_EC * (f_EC) + η_inh_PDLLG * (f_PDLLG)] * 100 (式3)
vf_EC = 0.746 dL/g * (0.0143) / [0.746 dL/g * (0.0143) + 0.4 dL/g * (0.9857)] * 100 = 2.63%、これは表1に反映されており、後続の実施例のために算出されている。
【0107】
次いで、最後に、1%w/wのエチルセルロース及び異なる濃度の薬物が含まれている単分散性ミクロスフェアを、先に説明されたように製作した。乾燥したミクロスフェア試料(約10mg)をDCMに溶解し、C18カラムを装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムで定量することによって、薬物含有量を決定した。実際の薬物、ポリマー、及びエチルセルロース内容物を表1にまとめる。少試料をミクロスフェア粉末から取り出して、Coulter Multisizer M3を用いて顕微鏡像及びサイズ分布を得た(それぞれ、
図1B、1D及び1Eにおける試料1.2、1.4~1.5)。試料1.1及び1.2は、ECを含まない対照試料であり、試料1.3~1.5はそれぞれ、製剤中に約1%のECを含む。
【0108】
【0109】
図1A~1Eはそれぞれ、試料1.1~1.5のミクロスフェアの粒子サイズ分布のプロット図及び顕微鏡写真を示す。試料1.3~1.5のデータから、エチルセルロースが含まれていると、エチルセルロースを含まない試料1.1及び1.2と比較してミクロスフェアの小滴形成が改善され、平均ミクロスフェア直径の偏差が低減されるということが明らかになる。
【実施例2】
【0110】
P-DLL-G 85:15及び40%の理論ロードの薬物Bを用いた点以外は実施例1に記載されているように、エチルセルロースが含まれている単分散性ミクロスフェア及びエチルセルロースが含まれていない単分散性ミクロスフェアを製作した(試料2.1~2.2)。
【0111】
【0112】
図2の写真は、エチルセルロースが含まれていると、ミクロスフェアの小滴形成が改善され、平均ミクロスフェア直径の偏差が低減され、薬物封入の効率が改善されるということを明らかにする。具体的に述べると、エチルセルロースが含まれているとき(試料2.2)、ミクロスフェアの真球度は極めて予測可能であり、一方エチルセルロースが含まれていないとき(試料2.1)、一部の粒子は偏長形、偏心形、又はピル形である。さらに、エチルセルロースが含まれていないミクロスフェアの直径の変化は、エチルセルロースが含まれている粒子と比較してはるかに広範であり、一貫していない。
【実施例3】
【0113】
P-DLL-G 75:25及び40%の理論ロードの薬物Bを使用した点以外は実施例1に記載されているように、エチルセルロースが含まれている単分散性ミクロスフェア及びエチルセルロースが含まれていない単分散性ミクロスフェアを製作した(試料3.1~3.2)。
【0114】
【0115】
図3の写真は、エチルセルロースが含まれていると、ミクロスフェアの小滴形成が改善され、平均ミクロスフェア直径の偏差が低減され、薬物封入の効率が改善されるということを明らかにする。エチルセルロースが含まれているとき(試料3.2)、ミクロスフェアの真球度は極めて予測可能であり、一方エチルセルロースが含まれていないとき(試料3.1)、一部の粒子は偏長形、偏心形、又はピル形である。さらに、エチルセルロースが含まれていないミクロスフェアの直径の変化は、エチルセルロースが含まれている粒子と比較してはるかに広範であり、一貫していない。
【実施例4】
【0116】
ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)(P-LL-G, poly(L-lactide-co-glycolide)) 85:15及び異なる濃度の薬物Cを使用した点以外は実施例1に記載されているように、エチルセルロースが含まれている単分散性ミクロスフェア及びエチルセルロースが含まれていない単分散性ミクロスフェアを製作した(試料4.1~4.2)。4.1は、薬物及びECが含まれていない試料であり、4.2及び4.3は、ECが含まれていない試料である。
【0117】
【0118】
試料4.4~4.5のデータが、エチルセルロースが含まれていると、エチルセルロースを含まない試料4.1、4.2及び4.3と比較して、ミクロスフェアの小滴形成が改善され、平均ミクロスフェア直径の偏差が低減されるということが明らかになる。
【実施例5】
【0119】
ポリ(D,L-ラクチド)(P-DL-G, poly(D,L-lactide)) 100:0又はP-DLL-G 85:15、薬物C、及び異なる濃度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料5.1~5.6)。
【0120】
【0121】
図5A~5Fはそれぞれ、実施例5で調製されたミクロスフェア5.1~5.6からの活性成分の累積放出のプロット図を示す。各製剤タイプの試料を40℃で0週間、1週間又は4週間貯蔵した(貯蔵期間のそれぞれについて微量として示す)。試料を貯蔵期間後にチャンバから取り出し、溶解が、貯蔵から取り出してから7日間行われ、示された累積放出プロット図が得られた。これらの図に表されているデータから、エチルセルロースが含まれていると、封止したガラスバイアル中40℃/75%RHで貯蔵安定性試験が行われた後にミクロスフェアの溶解再現性が改善されたが、その利点は、エチルセルロース粘度画分が5%を超えるとき存在しないということが明らかになる。エチルセルロースが含まれていると、ミクロスフェアからの薬物の放出速度も低減された。
【実施例6】
【0122】
P-DLL 100:0、薬物C、及び異なる粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料6.1~6.3)。
【0123】
【0124】
図6に表されているデータから、エチルセルロースが含まれていると、薬物放出の速度が低減されるということが明らかになる(試料6.2を試料5.1と比較)。上述の分子量に関連付けられたエチルセルロースの粘度グレードは、薬物Cの放出速度にも影響を及ぼす。
【実施例7】
【0125】
より高い粘度のP-DLL 100:0、薬物C、及び異なる粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料7.1~7.3)。
【0126】
【0127】
図7に表されているデータから、エチルセルロースの粘度が薬物Cの放出速度に影響を及ぼすということが明らかになる。
【実施例8】
【0128】
P-DLL-G 85:15、薬物C、及び異なる粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料8.1~8.3)。
【0129】
【0130】
図8に表されているデータから、エチルセルロースの粘度が薬物Cの放出速度に影響を及ぼすということが明らかになる。
【実施例9】
【0131】
より高い粘度のP-DLL-G 85:15、薬物C、及び異なる粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料9.1~9.3)。
【0132】
【0133】
図9に表されているデータから、エチルセルロースの粘度が薬物Cの放出速度に影響を及ぼすということが明らかになる(
図9)。
【実施例10】
【0134】
P-LL-G 82:18、薬物C、及び異なる粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料10.1~10.3)。
【0135】
【0136】
図10に表されているデータから、エチルセルロースの粘度が薬物Cの放出速度に影響を及ぼすということが明らかになる。
【実施例11】
【0137】
ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド) 70:30、薬物C、及び異なる粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料11.1~11.3)。
【0138】
【0139】
図11に表されているデータから、エチルセルロースの粘度が薬物Cの放出速度に影響を及ぼすということが明らかになる。
【0140】
実施例6~11の結果は、薬物の放出速度が、エチルセルロースの粘度グレード及びエチルセルロースがポリマーマトリックスに寄与する粘度画分の影響を受けることを示す。一般に、マトリックス中のECの粘度画分が高いほど、放出速度が遅くなる。放出速度は、製剤中に含まれている薬物のパーセントによっても影響され、薬物含有量が高くなると、放出速度が速くなる。以上に指摘したように、ポリマーのグリコリド含有量は、セルロース由来材料(CDM)の放出速度に対する影響にも強い影響を与えることができる。放出速度に影響する可能性がある他の因子としては、ポリマーとCDMの粘度マッチング、及び薬物自体の物理的特性(すなわち、水溶性)が挙げられる。したがって、所望の放出プロファイルを所与の薬物に与えるのに適切なポリマー、セルロース材料、及び薬物ローディングを備えた製剤を調製することが可能なことがある。
【実施例12】
【0141】
異なる粘度のP-DLL-G 85:15、P-DLL 100:0、P-DLL-GとP-DLLの組合せ、薬物C、及び1つの粘度のエチルセルロースを使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料12.1~12.5)。
【0142】
【0143】
図12A~12Cに表されているデータから、エチルセルロースが含まれると、封止したガラスバイアル中40℃及び75%RHで0カ月、1カ月及び6カ月安定性試験が行われた後にミクロスフェアの溶解再現性が改善され、いかなる製剤中でも薬物バーストがないということが明らかになる。製剤12.1、12.2及び12.3はそれぞれ、約40~55日まで比較的に安定した放出速度を示し、その後、累積放出が約70日で定常に達するまではるかに速い放出速度が続く放出プロファイルを提示した。特定の理論に拘泥するものではないが、より速い放出速度は、ポリマーの加水分解及び/又はミクロスフェアの機械的腐食によって引き起こされるミクロスフェアの物理的完全性の破壊が原因であり得る。主ポリマーとしてPLGAではなくPLAを含む製剤12.4は、より遅いが同様の放出プロファイルを有し、約110日により遅い放出速度とより速い放出速度の区切り点があり、約155日に最大放出があった。PLGAと混合して少量のPLAを含む製剤12.5は、PLAが含まれていない試料と比較して若干広がっている放出速度プロファイルを示した。先の実施例と同様に、放出プロファイルは、薬物ローディングの影響も受け、ローディングが高くなると累積放出が高くなる(12.2を12.1と比較)。
【0144】
PLA及びPLGA-ベースの製剤のために勧められる貯蔵条件には、-20℃での貯蔵が求められる。驚くべきことに、被検製剤のそれぞれは、一般に、高温での貯蔵時間の長さが異なっているにもかかわらず同様の放出プロファイルを示し、40℃での貯蔵が延長されても良好な製剤安定性が明らかになる。
【実施例13】
【0145】
P-DLL-G 50:50及び薬物Dを、エチルセルロースを伴ってまた伴わずに使用した点以外は実施例1に記載されているように、単分散性ミクロスフェアを製作した(試料13.1~13.2)。
【0146】
【0147】
図13に表されているデータから、エチルセルロースが含まれていると、非常に水溶性のペプチドのミクロスフェアのサイズ分布が改善されるということが明らかになる。
【0148】
したがって、本開示は、記載された目的及び利点、並びにそれらに固有のものを達成するようにうまく適応されている。本開示は、本明細書における教示の利点を受ける当業者に明らかな、異なるものの等価な方式で修正及び実施することができるので、上記に開示された特定の実施形態は例示にすぎない。開示された実施形態の特徴を、本発明の範囲内で組み合わせ、再編成し、省略するなどして、追加の実施形態を示すことができる。さらに、いくつかの特徴を使用して、他の特徴を対応して使用することなく、利益を得ることもときにはあり得る。さらに、以下の特許請求の範囲に記載されているものを除いて、本明細書に示された構成又は設計の詳細に限定されるものではない。したがって、上記に開示された特定の例示的な実施形態を変更又は修正することができ、そのような変形形態は、本発明の範囲及び趣旨の範囲内とみなされることは明らかである。