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  • 特許-アルミニウム合金部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】アルミニウム合金部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/053 20060101AFI20231016BHJP
   C22C 21/10 20060101ALN20231016BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
C22F1/053
C22C21/10
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630C
C22F1/00 631Z
C22F1/00 640A
C22F1/00 630A
C22F1/00 661A
C22F1/00 691B
C22F1/00 692A
C22F1/00 691C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019019440
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020125524
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-12-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】新村 仁
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-255823(JP,A)
【文献】特表2009-542912(JP,A)
【文献】特開2009-221566(JP,A)
【文献】特開2012-207302(JP,A)
【文献】特開2010-275611(JP,A)
【文献】特開2007-119904(JP,A)
【文献】特開2018-090839(JP,A)
【文献】特開2011-001563(JP,A)
【文献】特開2014-234527(JP,A)
【文献】特開平09-310141(JP,A)
【文献】特開2012-246555(JP,A)
【文献】特開2013-108131(JP,A)
【文献】特開2015-140460(JP,A)
【文献】特表2013-518184(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108265246(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/04-1/057
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7000系のアルミニウム合金からなり、肉厚が10~20mmの部材を400~500℃の温度で溶体化処理するステップと、
前記溶体化処理後に前記部材の温度が300℃になるまでは平均冷却速度0.5~2.0℃/秒の範囲にて空冷し、その後に20℃/秒以上の高速冷却する二段冷却するステップと、
その後に人工時効処理するステップを有し、
前記部材の肉厚全体の寸法に対して表面からの深さが20%の表層部の耐力がそれより内部の耐力よりも4%以上低いことを特徴とするアルミニウム合金部材の製造方法。
【請求項2】
前記溶体化処理は前記部材の押出加工により行うことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は質量%にて、Zn:6.40~6.90%,Mg:1.60~1.80%,Cu:0.20~0.30,Mn:0.20~0.30%,Zr:0.17~0.23%,Cr:0.20%以下,Ti:0.005~0.05%,Fe:0.20%以下,Si:0.10%以下,残部がAlと不純物であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製の構造部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
Al-Zn-Mg系及びAl-Zn-Mg-Cu系等のJIS7000系のアルミニウム合金は、高い強度が得られることから、自動車,鉄道車両等の車両構造部材として、あるいは船舶や航空機等の輸送機の構造部材等に採用されている。
しかし、これらの構造部材にあっては、応力が負荷された状態で使用されることが多く、応力腐食割れに対する対策が必要となる。
例えば特許文献1には、0.4℃/秒以上の昇温速度で加熱し、200~550℃の温度範囲に0秒を超えて保持し、次いで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する復元処理を行い、さらに72時間以内に拡管加工を行うことで、残留応力を低減する製造方法が開示されている。
しかし、同公報に開示するプロセスは、合金成分に大きな制限があるとともに、高強度を得るにはMn,Cr,Zr等の遷移元素を多く添加する必要があり、冷却速度の影響が大きくなる。
【0003】
特許文献2には、溶体化処理後に150~350℃の範囲で5分~30分の焼入れをした後に水冷し、時効させる製造技術を開示する。
しかし、同公報に開示するプロセスでは、結晶粒界におけるミクロ組織を制御する必要があり、高強度を得るには高濃度のCu成分を添加する必要がある。
【0004】
特許文献3には、結晶粒の平均厚さ25μm以下、アスペクト比を4以上にすることで、耐応力腐食割れ性を改善する方法が開示されている。
本技術は、ミクロ組織の制御が難しい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-141728号公報
【文献】特許第5343333号公報
【文献】特許第4229307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高強度でありながら耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金部材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアルミニウム合金部材の製造方法は、7000系のアルミニウム合金からなる部材を400~500℃の温度で溶体化処理するステップと、冷却速度0.1~2.0℃/秒の空冷を行うステップとを有し、その後に人工時効処理するものであることを特徴とする。
この場合に、溶体化処理を押出成形における加工熱を利用してもよく、7000系のアルミニウム合金を用いて部材を押出加工し、その後直に、冷却速度0.1~2.0℃/秒の空冷を行うステップを有し、その後に人工時効処理するものであってもよい。
【0008】
従来の7000系のアルミニウム合金においては、高い強度を得る方法として、溶体化処理後の焼入れに水冷を用いた水焼入れがT6処理として、一般的に採用されている。
しかし、水焼入れは急速に冷却できるものの、部材の表層部と内部との冷却速度に大きな差が生じやすく、構造部材のように相対的に肉厚の厚い部材においては、その差が大きく、表層部に大きな残留応力が生じやすい問題あった。
そこで本発明は、冷却速度を所定の範囲に制御することで、表層部の焼入れを内部に対して、やや弱くした点に特徴がある。
【0009】
本発明者らの調査では、7000系アルミニウム合金からなる部材においては、400~500℃の範囲で溶体化し、初期の段階を所定の速度で冷却すれば、その後の冷却により大きな強度低下がなかった。
そこで、部材の温度が約300℃~200℃以下になるまでは、冷却速度0.1~2.0℃/秒の空冷を行うのが望ましい。
【0010】
本発明において、部材の表層部とは、部材の肉厚全体の寸法に対して、その20%以内の表面側の深さを表層部と表現する。
従って、それよりも内側の部分が内部となる。
本発明は、人工時効処理後において表層部の0.2%耐力又は、引張強さが内部のそれよりも相対的に4%以上低いのがよく、好ましくは6%以上低いのがよい。
硬さHRBで示すと、表層部の硬さが内部の硬さより3%以上、さらには5%以上低いのが好ましい。
また、電気伝導度にて比較すると、IACS値で表層部が内部よりも2%以上高いのが好ましい。
【0011】
人工時効処理は、その材料の有する最高強度が得られる条件が好ましい。
例えば、1段目:90~120℃で1~24時間,2段目:130~180℃で1~24時間の二段時効処理条件が例として挙げられる。
【0012】
本発明にて用いることができるアルミニウム合金は、Al-Zn-Mg系,Al-Zn-Mg-Cu系の一般的なJIS7000系合金を用いることができる。
例えば、JIS7075材の場合に以下全て質量%にて、Zn:6.40~6.90%,Mg:2.1~2.9%,Cu:1.20~2.20%,Mn:0.3%以下,Cr:0.18~0.28%,Fe:0.5%以下,Si:0.4%以下,Ti:0.005~0.05%,残部がAlと不純物となっている。
特に好ましい高強度材としては、下記のアルミニウム合金(A)が例として挙げられる。
合金(A):Zn:6.40~6.90%,Mg:1.60~1.80%,Cu:0.20~0.30,Mn:0.20~0.30%,Zr:0.17~0.23%,Cr:0.20%以下,Ti:0.005~0.05%,Fe:0.20%以下,Si:0.10%以下,残部がAlと不純物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金部材の製造方法にあっては、溶体化処理後に、部材の温度が約300℃~200℃以下になるまでの冷却速度を0.1~2.0℃/秒の範囲に制御することで、表層部と内部とで物性値に傾斜を生じさせることができ、耐応力腐食割れ性に優れた高強度部材が得られる。
【0014】
本発明に係る製造方法は、厚肉の部材に適用するのが効果的であり、肉厚が3mm以上、例えば3~20mm,5~15mmの範囲であってよい。
これにより、各種車両,輸送機のアルミニウム合金製の構造部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アルミニウム合金部材の評価結果を表に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る製造方法と従来のT6処理とを比較評価したので、以下説明する。
図1の表中、実施例1~5は上記で説明した合金(A)を用いて、溶体化後に表中の冷却速度にて焼入れをしたものである。
比較例1は、合金(A)を用いて従来の水冷(T6処理)をしたものである。
比較例2は、7075合金を用いて従来の水冷をしたものである。
以下、具体的に説明する。
【0017】
実施例1~5及び比較例1,2は、いずれも肉厚10mmの押出材(部材)を用いた。
実施例1~5は、約450℃で溶体化後にそれぞれ0.16,0.47,0.77,1.30,2.02℃/秒の平均冷却速度にて冷却した。
その後の90℃~120℃+130~180℃の二段人工時効処理した。
比較例1,2は、溶体化後に直に水冷したものである。
機械的性質は、評価部位を切り出し、JIS-Z2241に基づいて評価した。
電気伝導度は、ASTM E1004に基づいて、International Annealed Copper Standard(IACS)の値を100%として比較評価した。
耐SCC性は、ASTM G47に基づいて評価し、腐食性の試験はASTM G34に基づいて試験評価した。
【0018】
表に示す評価結果から、比較例1,2のように水冷による焼入れを行うと、耐力及び引張り強度のいずれも表面(表層部)と内部とで2%以下の差しかない分だけ、表層部の残留応力が大きいことが推定され、耐SCC性,腐食性が劣っていた。
これに対して実施例1~5は、焼入れ初期の冷却速度を順次速くしたものである。
実施例5の冷却速度2.02℃/秒では、表層部が内部より耐力4%低いものの、引張り強度が2%しか差がなく、耐SCC性が目標ぎりぎりであったことから、焼入れ初期の冷却速度は2.0℃/秒以下が好ましいことが明らかになった。
実施例1のように冷却速度を0.16℃/秒にすると、表層部が内部よりも耐力で9%低く、引張強度で10%低くなり、耐SCC性及び腐食性に優れる。
なお、冷却速度0.1~2.0℃/秒の範囲にて焼入れ初期の冷却速度が遅い方が、耐SCC性,腐食性が改善されるものの、機械的性質がやや低下する傾向が認められる。
アルミニウム合金(A)を用いた場合に、部材全体の耐力420MPa,引張強度470MPa以上を確保しつつ、優れた耐SCC性,腐食性を得るには、冷却速度0.5~2.0℃/秒の範囲が好ましいことも明らかになった。
また、本発明は焼入れ初期の冷却速度を所定の範囲に制御することで、表層部の残留応力を抑えたものであり、部材の温度が300℃以下になると、20℃/秒以上の高速冷却を用いた二段冷却であってもよい。
その方が焼入れ品質が安定する。
図1