(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】センサ及び距離計測装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/107 20060101AFI20231016BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20231016BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01L31/10 B
G01J1/42 H
H01L27/146 A
(21)【出願番号】P 2019046282
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 展
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117834(JP,A)
【文献】特開2018-157032(JP,A)
【文献】特開2014-241543(JP,A)
【文献】特開2018-113397(JP,A)
【文献】特開2014-216531(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340390(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08-31/119
H01L 27/14-27/148
G01J 1/42-1/46
G01S 7/48-7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素であって、それぞれの前記画素は複数の第1のアバランシェフォトダイオードと複数の第1のクエンチング素子とを含み、それぞれの前記第1のクエンチング素子の一端は対応する前記第1のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、それぞれの前記第1のクエンチング素子のもう一端は対応する前記画素の出力端子に接続されている、複数の画素と、
前記複数の画素
の全体が配置されている領域と隣り合う
領域に配置された複数の第2のアバランシェフォトダイオードと、
一端が対応する前記第2のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、もう一端が特定の電位に接続された共通の出力端子に接続されている複数の第2のクエンチング素子と、
を具備
し、
前記第2のアバランシェフォトダイオードのブレークダウン電圧は、前記第1のアバランシェフォトダイオードのブレークダウン電圧よりも高い、
センサ。
【請求項2】
複数の画素であって、それぞれの前記画素は複数の第1のアバランシェフォトダイオードと複数の第1のクエンチング素子とを含み、それぞれの前記第1のクエンチング素子の一端は対応する前記第1のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、それぞれの前記第1のクエンチング素子のもう一端は対応する前記画素の出力端子に接続されている、複数の画素と、
前記複数の画素の全体が配置されている領域と隣り合う領域に配置された複数の第2のアバランシェフォトダイオードと、
一端が対応する前記第2のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、もう一端が特定の電位に接続された共通の出力端子に接続されている複数の第2のクエンチング素子と、
を具備し、
前記第2のクエンチング素子の抵抗値は、前記第1のクエンチング素子の抵抗値よりも高い、
センサ。
【請求項3】
前記複数の画素は、2次元に配置されてセンサ領域を形成し、
前記第2のアバランシェフォトダイオードは、前記センサ領域の外周に配置されている請求項1
又は2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記第2のアバランシェフォトダイオードは、前記センサ領域の外周の一部には、配置されていない請求項
3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記第2のアバランシェフォトダイオードは、遮光されている請求項1乃至
4の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項6】
前記第2のアバランシェフォトダイオードの逆バイアス電圧は、前記第1のアバランシェフォトダイオードの逆バイアス電圧よりも低い請求項1乃至
5の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項7】
対象物に向けて光を出射するように構成された出射部と、
前記対象物からの反射光を受光する、請求項1乃至
6の何れか1項に記載のセンサと、
前記出力端子から出力される前記第1のアバランシェフォトダイオードの電流信号に基づく計測信号から、前記対象物までの距離を計測する距離計測処理部と、
を具備する距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、センサ及びそれを備えた距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LIDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれる距離計測装置が知られている。LIDARは、レーザ光を対象物に照射し、対象物から反射された反射光の強度をセンサによって検出し、センサから出力される光強度信号に基づいて対象物までの距離を計測する。LIDARに用いられるセンサとして、半導体を用いた光電子増倍素子であり、特にシリコン光電子増倍素子(SiPM)を用いたセンサが知られている。この様なセンサは高感度であるが、大光量の光を受けると、通常より長時間に渡って出力が出続け、次の計測が困難になる、その出力がノイズとなり性能(S/N比)が劣化する場合がある。これには、センサの周囲(半導体)に当たった光によりキャリアが発生する、センサにて発生する2次光子がセンサの周囲にて吸収されてキャリアが発生する、センサにて発生したキャリが拡散してセンサの周囲に蓄積される、等の原因がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、大光量の光が入射したときでも、それにより使用不可となる時間が短く、性能劣化の少ない、安定した動作を行うセンサ及びそれを備えた距離計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
センサは、複数の画素と、複数の第2のアバランシェフォトダイオードと、複数の第2のクエンチング素子とを有する。複数の画素のそれぞれは、複数の第1のアバランシェフォトダイオードと複数の第1のクエンチング素子とを含む。それぞれの第1のクエンチング素子の一端は対応する第1のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、それぞれの第1のクエンチング素子のもう一端は対応する画素の出力端子に接続されている。第2のアバランシェフォトダイオードは、複数の画素の全体が配置されている領域と隣り合う領域に配置されている。第2のクエンチング素子は、一端が対応する第2のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、もう一端が特定の電位、例えばグランドに接続された共通の出力端子に接続されている。第2のアバランシェフォトダイオードのブレークダウン電圧は、第1のアバランシェフォトダイオードのブレークダウン電圧よりも高い。
また、センサは、複数の画素と、複数の第2のアバランシェフォトダイオードと、複数の第2のクエンチング素子とを有する。複数の画素のそれぞれは、複数の第1のアバランシェフォトダイオードと複数の第1のクエンチング素子とを含む。それぞれの第1のクエンチング素子の一端は対応する第1のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、それぞれの第1のクエンチング素子のもう一端は対応する画素の出力端子に接続されている。第2のアバランシェフォトダイオードは、複数の画素の全体が配置されている領域と隣り合う領域に配置されている。第2のクエンチング素子は、一端が対応する第2のアバランシェフォトダイオードの電流出力端子に接続され、もう一端が特定の電位、例えばグランドに接続された共通の出力端子に接続されている。第2のクエンチング素子の抵抗値は、前記第1のクエンチング素子の抵抗値よりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、各実施形態に係る距離計測装置の概略的な全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、1つのSPADの構成とその動作原理を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態におけるセンサの1つの構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、ダミーSPADの効果について説明するための図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態におけるセンサの1つの構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、遮光層の効果について説明するための図である。
【
図7A】
図7Aは、画素のAPDの表面を基準とした層深さに対する不純物濃度の例を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、ダミーSPADのAPDの表面を基準とした層深さに対する不純物濃度の第1の例を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、ダミーSPADのAPDの表面を基準とした層深さに対する不純物濃度の第2の例を示す図である。
【
図8】
図8は、画素とダミーSPADとの間に間隔を空ける変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1は、各実施形態に係る距離計測装置の概略的な全体構成を示す図である。距離計測装置1は、出射部10と、光学系20と、計測処理部30と、画像処理部40とを有している。
【0008】
出射部10は、レーザ光L1を間欠的に出射する。出射部10は、光源11と、第1の駆動回路12と、発振器13と、第2の駆動回路14と、制御部15とを有する。
【0009】
光源11は、レーザ光L1を間欠的に発光する。光源11は、レーザダイオード等のレーザ光源である。
【0010】
第1の駆動回路12は、例えば光源11を駆動するための駆動電流を光源11に供給する。第1の駆動回路12は、発振器13で生成されたパルス信号に応じて駆動電流を出力する。
【0011】
発振器13は、制御部15による制御に基づいてパルス信号を生成する。発振器13は、生成したパルス信号を第1の駆動回路12に出力する。
【0012】
第2の駆動回路14は、制御部15による制御に基づいて光学系20のミラー25を駆動するための駆動電流をミラー25に供給する。
【0013】
制御部15は、例えばCPU及びメモリを有している。メモリには、距離計測装置1の動作のためのプログラムが記憶されている。CPUは、メモリに記憶されているプログラムに従って第1の駆動回路12及び第2の駆動回路14を制御する。
【0014】
光学系20は、出射部10から射出されたレーザ光L1を対象物Oに射出するとともに、対象物Oから反射されたレーザ光L1の反射光L2を計測処理部30に入射させる。光学系20は、レンズ21と、第1光学素子22と、レンズ23と、第2光学素子24と、ミラー25とを有する。
【0015】
レンズ21は、光源11から射出された光の射出光路上に配置されている。レンズ21は、光源11から間欠的に射出されるレーザ光L1をコリメートして、第1光学素子22に導光する。
【0016】
第1光学素子22は、レンズ21によって導光されるレーザ光L1を第2光学素子24の方向と計測処理部30の光センサ31の方向とに分離する。第1光学素子22は、例えばビームスプリッタである。
【0017】
レンズ23は、第1光学素子22から射出されるレーザ光L1を集光して、光センサ31に導光する。
【0018】
第2光学素子24は、第1光学素子22から射出されるレーザ光L1をミラー25の方向に透過させるとともに、ミラー25から射出されるレーザ光L1の反射光L2を計測処理部30のセンサ33の方向に反射する。第2光学素子24は、例えばハーフミラーである。
【0019】
ミラー25は、入射した光を反射する。ミラー25の反射面は、例えば、互いに交差する2つの回動軸を中心として回動できるように構成されている。ミラー25の駆動は、第2の駆動回路14から供給される駆動電流に従って行われる。
【0020】
計測処理部30は、光学系20から射出された反射光L2に基づき、対象物Oまでの距離を計測する。計測処理部30は、光センサ31と、レンズ32と、センサ33と、第1増幅器34と、第2増幅器35と、時間取得部36と、距離計測処理部37とを有する。
【0021】
光センサ31は、例えばフォトダイオードであり、レンズ23を介して導光されたレーザ光L1を受光して電気信号を出力する。
【0022】
レンズ32は、第2光学素子24からの反射光L2を集光して、センサ33に導光する。
【0023】
センサ33は、レンズ32から入射した反射光L2を受光して電気信号を出力する。センサ33は、例えば半導体を用いた光電子増倍素子であり、特にシリコン光電子増倍素子(SiPM)である。SiPMは、SPAD(Single-Photon Avalanche Diode)と呼ばれる、ガイガーモードで使用されるアバランシェフォトダイオード(APD)をマルチピクセル化したデバイスである。それぞれのSPADは、光入射に応じてアバランシェ降伏を起こし、電気信号を出力する。センサ33の構成については後で詳しく説明する。
【0024】
第1増幅器34は、光センサ31から出力される電気信号を増幅して時間取得部36と、距離計測処理部37に出力する。
【0025】
第2増幅器35は、例えばトランスインピーダンス増幅器であり、反射光L2に基づく電気信号を増幅する。第2増幅器35は、例えばセンサ33から出力される電流信号を計測信号としての電圧信号に増幅し、変換する。
【0026】
時間取得部36は、反射光L2に基づく計測信号をAD変換により、信号強度についての時系列信号を生成する。あるいは、計測信号の立ち上がり時間を取得するのでもよい。
【0027】
距離計測処理部37は、時間取得部36によって取得された時系列信号のピーク時刻を検出し、そのピーク時刻とレーザ光L1の照射タイミングとの時間差に基づいて、あるいは、立ち上がり時間とレーザ光L1の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物Oまでの距離を計測する。
【0028】
以下、センサ33の構成を説明する。
図2は、SPADの構成とその動作原理を示す図である。1つのSPADは、APD101と、クエンチ抵抗102とを有している。クエンチ抵抗102の一端は、APD101の電流出力端子(
図2の例ではアノード)に接続されている。なお、クエンチ抵抗の代わりに、トランジスタを用いたクエンチング・デバイス(アクティブ・クエンチ回路)を用いてもよい。クエンチ抵抗とアクティブ・クエンチ回路の総称として、本明細書では、グエンチング素子と記すことにする。
【0029】
図2の例のAPD101は、厚いP型半導体層と薄いN型半導体層とを有している。具体的には、APD101は、例えば基板SUBと、P型半導体層Pと、Pプラス型半導体層P
+と、Nプラス型半導体層N
+とを有する。基板SUBは、例えばP型半導体基板である。基板SUBにはP型半導体層Pが積層されている。P型半導体層Pは、Pプラス型半導体層P
+に比べて不純物濃度の低い薄いP型半導体(エピ)層である。Pプラス型半導体層P
+は、P型半導体層Pに比べて不純物濃度が高くなるようにP型不純物が導入された半導体層である。Nプラス型半導体層N
+は、N型不純物が導入された不純物濃度の大きい半導体層である。Nプラス型半導体層N
+には図示しない電極が形成されている。これらの電極を介してAPD101には、基板側が負となる方向に、高い逆バイアス電圧がかけられる。
【0030】
図2に示すように、P型半導体層とN型半導体層との接合(PN接合)領域付近には空乏層Dが形成される。この空乏層Dに光が入射すると、空乏層DにキャリアC
Lとして電子と正孔の対が発生する。
【0031】
ここで、APD1には高い逆バイアス電圧がかけられているために、空乏層Dに発生したキャリアC
Lは逆バイアス電圧による電界Eによってドリフトする。
図2の例では、キャリアC
Lのうち、電子は表面方向(Nプラス型半導体層N
+)に向けて加速され、正孔は基板方向に向けて加速される。Nプラス型半導体層N
+に向けて加速された電子は、PN接合付近の強い電界の下、原子と衝突する。そして、原子に衝突した電子が原子をイオン化させて新たな電子と正孔の対を発生させる。逆バイアス電圧がブレークダウン電圧を超えると、このような電子と正孔の対の発生が繰り返される。このようなアバランシェ降伏により、APD101は放電する。このような放電は、ガイガー放電と呼ばれている。このようにして、1つのSPADからは、ガイガー放電とその後のリカバリに関わる電気信号が出力される。
【0032】
APD101から出力された電流はクエンチ抵抗102に流れる。このときの電圧降下によってバイアス電圧が低下する。バイアス電圧の低下が進み、ブレークダウン電圧未満になると、ガイガー現象が停止する。さらに、APD101のPN接合容量などの容量を充電する、リカバリ電流が流れ終わると電流出力が停止する。ガイガー現象が止まり、電流出力が有る程度弱まると、APD101は、次の光を受光できる状態に戻る。
【0033】
ここで、APD101は、
図2の構造に限るものではない。例えば、Pプラス型半導体層P
+はなくてもよい。また、
図2では、P型半導体層が厚く、N型半導体層が薄い構造のAPDであるが、逆にN型半導体層が厚く、P型半導体層が薄い構造のAPDであってもよい。更にまた、
図2の様に表面近くにPN接合を作るのではなく、基板SUBとエピ層の境界付近に、PN接合を形成してもよい。
【0034】
図3は、第1の実施形態におけるセンサ33の1つの構成例を示す図である。
図3に示すように、実施形態におけるセンサ33は、センサ領域331と、ダミーSPAD332とを有する。
【0035】
1つのセンサ領域331は、第1のアバランシェフォトダイオード(APD)と、第1のクエンチ抵抗とを含む、複数のSPADからなる。
図3に示すようにセンサ領域331は、2次元的に配置されてセンサを形成している。センサ領域331の各々のAPD(第1のアバランシェフォトダイオード)は、それぞれ、第1のクエンチ抵抗の一端が接続されてSPADを構成する。第1のクエンチ抵抗のもう一端は、出力端子に接続されている。
図3では、センサ領域331の複数のSPADは、3つの画素にグルーピングされている。第1の画素のSPADは、第1のクエンチ抵抗を介して出力端子O
n-1に共通に接続されている。第2の画素のSPADは、別の第1のクエンチ抵抗を介して出力端子O
nに接続されている。第3の画素のSPADは、さらに別の第1のクエンチ抵抗を介して出力端子O
n+1に接続されている。出力端子O
n-1、O
n、O
n+1は、それぞれ、第2増幅器35に接続されている。このような構成により、各々の出力端子O
n-1、O
n、O
n+1から第2増幅器35へは、同一のセンサ領域に属するセンサ領域331の、各々の画素のSPADから出力される電気信号の総和に相当する電気信号が出力される。
図3のセンサ領域331は3つの画素を含んでいるが、画素の数は1を含めて、幾つでもよい。
【0036】
複数のダミーSPAD332は、センサ領域の外周に設けられている。ダミーSPAD332は、第2のアバランシェフォトダイオード(APD)と、第2のクエンチ抵抗とを含むSPADである。ダミーSPAD332のAPD(第2のアバランシェフォトダイオード)は、第2のクエンチ抵抗の一端に接続されている。第2のクエンチ抵抗のもう一端は、センサ領域331とは別の出力端子Odに接続されている。出力端子Odは、センサ33の特定の電位、例えば、グランドに接続されている。
【0037】
ここで、例えば、第1のAPDと第2のAPDとは同一の特性を有する素子である。後で説明するように、第1のAPDと第2のAPDとは異なる特性を有する素子であってもよい。また、例えば、第1のクエンチ抵抗と第2のクエンチ抵抗とは同一の抵抗値を有する素子である。後で説明するように、第1のクエンチ抵抗と第2のクエンチ抵抗とは異なる抵抗値を有する素子であってもよい。
【0038】
また、ダミーSPAD332は、センサ領域をすべて囲むように設けられていることが望ましいが、必ずしもセンサ領域をすべて囲むように設けられていなくてもよい。
図3に示すように、ダミーSPAD332には、SPADのない隙間333があってもよい。隙間333は、1画素分の大きさに限らない。例えば、センサ領域の左端と右端にだけダミーSPAD332が設けられ、センサ領域の上端と下端には隙間333だけが設けられていてもよい。このように、隙間333の大きさや数、間隔は任意に設定してもよい。また、
図3では、ダミーSPAD332は共通の出力端子O
dに接続されているが、ダミーSPAD332は個別に特定の電位、例えば、グランドに接続されてもよい。
【0039】
図4は、ダミーSPAD332の効果について説明するための図である。センサ領域の外周にダミーSPAD332が設けられていることにより、センサ領域の外からの光入射等によってセンサ領域331の外で発生した、あるいは蓄積されたキャリアC
Lは、ダミーSPAD332にかけられている逆バイアス電圧による電界Eによってドリフトされる。このキャリアC
Lのドリフトによるアバランシェ降伏によって生じた電子は、出力端子O
dを介して特定の電位、例えば、グランドに流れる。
【0040】
このように本実施形態では、センサ領域の外からの光入射によってセンサ領域331の外で発生したキャリアがセンサ領域331まで届くことが抑制される。
【0041】
SiPMに大光量の光が入射したとき、センサ領域の外からの光入射によってセンサ領域331の外で発生したキャリアは比較的長い時間をかけてセンサ領域331まで達する。特に、センサ領域331の外で発生したキャリアが拡散によってセンサ領域331まで移動するときには、長い時間がかかる。このようなセンサ領域331の外で発生したキャリアにより、センサ領域331は、直接入射した光による電気信号を出力した後も電気信号を出力し続けることがある。SiPMの電気信号の出力が完了するまでは次の検出を行うことができない、あるいはSNが損なわれるため、センサ領域331による電気信号の出力が長時間に及ぶと、距離の計測にも影響が及ぶ可能性が生じる。
【0042】
実施形態では、センサ領域331の外で発生したキャリアがセンサ領域331まで届きにくくなり、また、SiPMの電気信号の出力は早期に完了しやすい。したがって、次の検出が早期に行われ、性能も改善する。このため、大光量の光が入射したときでもセンサ33はより安定して動作する。
【0043】
また、一般に(大光量の光を入射していない場合においても)、センサ領域331の外で発生したキャリアによる電気信号は、センサ領域331に直接入射した光による電気信号に対するノイズになり得る。実施形態では、センサ領域331の外で発生したキャリアがセンサ領域331まで届きにくくなるので、このようなノイズも抑制される。
【0044】
[第2の実施形態]
次に第2の実施形態を説明する。ここで、第2の実施形態においても距離計測装置の構成は、第1の実施形態と同様である。したがって、その説明は省略する。
図5は、第2の実施形態におけるセンサ33の1つの構成例を示す図である。
図5に示すように、実施形態におけるセンサ33は、センサ領域331と、ダミーSPAD332とを有する。センサ領域331とダミーSPAD332は、第1の実施形態と同様である。
【0045】
第2の実施形態では、ダミーSPAD332の上に遮光層334が設けられている。遮光層334は、例えばアルミニウム(Al)層であって、ダミーSPAD332への光入射を防ぐ。遮光層334は、レジスト用材料等、遮光性のあるものであればその材料は特に限定されない。また、遮光層は、ダミーSPAD332の上だけでなく、その周囲の半導体上も覆う様にしてもよく、その方が望ましい。
【0046】
図6は、遮光層334の効果について説明するための図である。ダミーSPAD332の上及びその周囲に遮光層334が設けられていることにより、センサ領域331の外からの光がダミーSPAD332及びその周囲に入射することが抑制される。このため、センサ領域331の外で発生するキャリアは、概ね、熱によって励起されるキャリアC
Hと2次光子により発生するキャリアだけになる。これらのキャリアの数は、大光量の光入射によって励起されるキャリアC
Lに比べて少ない。
【0047】
大光量の光入射等によってダミーSPAD332が励起してしまうと、ダミーSPAD332のバイアス電圧が低下する。このとき、ダミーSPAD332のセンサ領域331の外で発生したキャリアの加速も弱まってダミーSPAD332のキャリアを収集する能力は低下する。第2の実施形態では、センサ領域331の外で発生するキャリアが少なくなるので、ダミーSPAD332は励起し難くなる。したがって、第2の実施形態では、第1の実施形態に比べてより、センサ領域331の外で発生したキャリアがセンサ領域331まで届きにくくなる。
【0048】
[変形例1]
ここで、ダミーSPAD332自体が励起しにくいように構成されていてもよい。例えば、ダミーSPAD332は、アバランシェ降伏を起こし難くなるように構成されていてもよい。または、ダミーSPAD332は、早期にクエンチが完了するように構成されていてもよい。これらの変形例1は、第1の実施形態及び第2の実施形態の何れにおいても適用され得る。
【0049】
アバランシェ降伏を起こし難くなるように、例えば、ダミーSPAD332のブレークダウン電圧は、センサ領域331のブレークダウン電圧よりも高くされてよい。これにより、ダミーSPAD332は、センサ領域331に比べてアバランシェ降伏を起こし難くなる。
【0050】
ブレークダウン電圧は、例えばPプラス型半導体層P
+における不純物濃度を変えることによって変えることができる。
図7Aは、センサ領域331のAPDの表面を基準とした層深さに対するP型及びN型不純物濃度を示す図である。
図7Bは、ダミーSPAD332のAPDの表面を基準とした層深さに対する第1の例のP型及びN型不純物濃度を示す図である。
図7Cは、ダミーSPAD332のAPDの表面を基準とした層深さに対する第2の例のP型及びN型不純物濃度を示す図である。
【0051】
例えば、センサ領域331のNプラス型半導体層N
+における不純物濃度及びPプラス型半導体層P
+における不純物濃度が
図7Aに示すものであるとき、ダミーSPAD332のPプラス型半導体層P
+における不純物濃度は、
図7Bに示す第1の例のように変更されてよい。つまり、ダミーSPAD332のPプラス型半導体層P
+におけるより深い側(基板SUBの側)の不純物濃度は、センサ領域331のPプラス型半導体層P
+におけるより深い側(基板SUBの側)の不純物濃度よりも下げられてよい。このようにすることで、空乏層がより深くなり、結果としてブレークダウン電圧も高くなる。不純物濃度は、例えばPプラス型半導体層P
+を形成するためのイオンプランテーションにおける不純物のドーズ量を調整することで変えることができる。ここで、イオンプランテーションのドーズ量をゼロにし、Pプラス型半導体層P
+を形成しなくてもよい。
【0052】
また、ブレークダウン電圧は、例えばPプラス型半導体層P
+の深さを変えることによっても変えることができる。例えば、センサ領域331のNプラス型半導体層N
+における不純物濃度及びPプラス型半導体層P
+における不純物濃度が
図7Aに示すものであるとき、ダミーSPAD332のPプラス型半導体層P
+の深さは、
図7Cに示す第2の例のように変更されてよい。つまり、ダミーSPAD332のPプラス型半導体層P
+の深さは、センサ領域331のPプラス型半導体層P
+の深さよりも浅くされてもよい。このようにすることで、空乏層がより深くなり、結果としてブレークダウン電圧も高くなる。Pプラス型半導体層P
+の深さは、例えばPプラス型半導体層を形成するためのイオンプランテーションにおいてPプラス型半導体層P
+を浅く打つことで変えることができる。
【0053】
また、ダミーSPAD332のクエンチ抵抗の抵抗値は、センサ領域331のクエンチ抵抗の抵抗値よりも高くされてよい。これにより、ダミーSPAD332は、アバランシェ降伏を起こしたとしても早期にクエンチングが終了する。したがって、ダミーSPAD332は早期にキャリアをより良く収集できる状態に戻る。
【0054】
また、ダミーSPAD332の逆バイアス電圧は、センサ領域331の逆バイアス電圧よりも低くされてよい。これにより、ダミーSPAD332は、センサ領域331に比べてアバランシェ降伏を起こし難くなる。
【0055】
以上説明したように変形例1においてもダミーSPAD332は励起し難くなる。したがって、センサ領域331の外で発生したキャリアがセンサ領域331まで届きにくくなる。
【0056】
[変形例2]
前述した実施形態ではセンサ領域331とダミーSPAD332とは隣り合っているとしている。これに対し、
図8で示すように、センサ領域331とダミーSPAD332との間にはある程度の間隔Iが空けられていてもよい。間隔Iの幅は、1画素の幅、例えば2μmから10μm程度でよい。実際には、間隔Iの幅は、センサ領域331及びダミーSPAD332に入射し得る光の波長に応じて決められてよい。ここで、間隔Iには、何の素子も形成されていなくてもよいし、トレンチ構造やLOCOSの様な素子分離用の構造が作成されていてもよく、逆バイアス電圧がかけられていないダミーSPADが形成されていてもよい。
【0057】
間隔Iが空けられていることにより、ダミーSPAD332で収集しきれないキャリアがセンサ領域331まで到達するクロストークが抑制される。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 距離計測装置、10 出射部、11 光源、12 第1の駆動回路、13 発振器、14 第2の駆動回路、15 制御部、20 光学系、21 レンズ、22 第1光学素子、23 レンズ、24 第2光学素子、25 ミラー、30 計測処理部、31 光センサ、32 レンズ、33 センサ、34 第1増幅器、35 第2増幅器、36 時間取得部、37 距離計測処理部、40 画像処理部、101 APD、102 クエンチ抵抗、331 センサ領域、332 ダミーSPAD、333 隙間、334 遮光層。