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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】防湿性紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/18 20060101AFI20231016BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20231016BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20231016BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231016BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20231016BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20231016BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20231016BHJP
   D21H 25/16 20060101ALI20231016BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
D21H19/18
B05D3/00 D
B05D3/02 Z
B05D5/00 F
B05D7/00 F
D21H19/20 A
D21H19/22
D21H25/16
D21H27/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019066897
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165039
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】畠山 知也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 寛之
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-288695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B05D 1/00 - 7/26
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下であり、前記塗工層はスチレン系樹脂、アクリル系樹脂の少なくとも1種類の合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm以下であることを特徴とする防湿性紙。
【請求項2】
前記紙基材は、単層紙であることを特徴とする請求項1に記載の防湿性紙。
【請求項3】
前記紙基材は、多層抄きされた紙基材であることを特徴とする請求項1に記載の防湿性紙。
【請求項4】
前記塗工層の塗工量は、20g/m以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防湿性紙。
【請求項5】
前記紙基材の坪量は、10g/m以上、750g/m以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防湿性紙。
【請求項6】
紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、前記塗工剤はスチレン系樹脂、アクリル系樹脂の少なくとも1種類の合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工工程では、塗工量が20g/m以下となるように前記塗工剤を塗工し、前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整して、透湿度が50g/m ・24h以下である防湿性紙とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿性紙に係り、特に防水性を兼ね備えた防湿性紙とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の物品を包装するために、紙基材を用いた種々の形態からなる紙製容器や梱包材等が使用されている。一般に、紙製の容器や梱包材は、紙基材をベース素材とすることから、水蒸気等の透過が極めて容易であり、包装している物品から発生する湿気による強度低下を来すことがある。また、包装、梱包の対象となる物品によっては、外部から侵入する水蒸気等を著しく嫌うものがある。更に、チルド製品等のように氷を一緒に入れて輸送する場合、紙製の容器や梱包材が防水性を具備する必要がある。
【0003】
このため、紙基材の表面に、撥水性を有するワックス組成物を塗工してワックス層を形成する方法、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等をラミネートして樹脂被膜を形成する方法が提案されている。
【0004】
また、紙の少なくとも片面に、ワックスエマルジョンおよび水不溶性合成樹脂エマルジョンと共に界面活性剤を加えた混合液を塗布後、加熱処理を施して、最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙(特許文献1)が知られている。また、基紙の少なくとも片面に、少なくとも2層の塗工層を有し、最表面に位置する塗工層はワックスを封入したマイクロカプセルを含有し、塗工量が固形分換算0.5g/m以上2.5g/m以下であり、この最表面の塗工層と基紙との間に位置する塗工層はアクリル系共重合体および/またはスチレン系共重合体を含有する防湿ライナー(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-266096号公報
【文献】特開2011-162899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ワックス層を形成する方法では、単にワックス組成物を1層塗工しても、透湿度を十分に抑制することは困難であり、透湿度を十分に抑制するためにはワックス組成物を多数回塗工することが必要となり、工程が著しく煩雑なものであった。また、樹脂被膜を形成する方法では、ラミネート加工が必要で工程が煩雑となり、更に、樹脂被膜を形成した紙または板紙は、使用後に古紙として回収使用する際の離解性が著しく悪く、再利用化が困難であった。
【0007】
また、最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙や、少なくとも2層の塗工層を有する防湿ライナは、防湿性は良好であるものの防水性を兼ね備えるものではなく、例えば、チルド製品等のように氷を入れて輸送する容器、梱包材としての使用が困難であった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、防湿性と防水性を兼ね備える防湿性紙とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、紙基材への塗工剤の塗工のみで防湿性、防水性を付与することを鋭意検討する中で、塗工剤を塗工して形成した塗工層の表面に微細な膨れ、気泡(以下、「ブリスター」とも記す)が存在すると防湿性、防水性に影響を及ぼすことを見出し、本発明を創出した。
【0010】
即ち、上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下であり、前記塗工層はスチレン系樹脂、アクリル系樹脂の少なくとも1種類の合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm以下であることを特徴とする防湿性紙である。
【0011】
一実施形態においては、前記紙基材は、単層紙である。また、前記紙基材は、多層抄きされた紙基材である。また、前記塗工層の塗工量は、20g/m以下である。また、前記紙基材の坪量は、10g/m以上、750g/m以下である。
【0012】
上記課題を解決するための請求項6に係る発明は、紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、前記塗工剤はスチレン系樹脂、アクリル系樹脂の少なくとも1種類の合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工工程では、塗工量が20g/m以下となるように前記塗工剤を塗工し、前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整して、透湿度が50g/m ・24h以下である防湿性紙とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る防湿性紙は上記のとおりのものであって、防湿性と共に防水性を備えており、これにより、湿気や水分と接触する用途において強度低下が抑制されるという効果がある。また、本発明に係る防湿性紙の製造方法は上記のとおりのものであって、防湿性と共に防水性を備える防湿性紙の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[防湿性紙]
本発明に係る防湿性紙は、紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下、好ましくは20g/m・24h以下、より好ましくは10g/m・24h以下であり、塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm以下、好ましくは20個/cm以下である。
【0016】
ここで、防湿性紙の透湿度とは、JIS Z 0208に準拠して防湿性紙の塗工層側から測定した値である。
【0017】
また、ブリスターの存在頻度は、ブリスターが発生している箇所を画像観察することにより求めることができる。即ち、塗工層の表面に1cm×1cmの大きさの領域を5個任意に設定し、これらの各領域において顕微鏡等により画像観察を行うことでブリスターの存在頻度を求め、これらの平均値を算出してブリスターの存在頻度とする。ブリスター発生箇所をより分かりやすくするために、着色した染色液を塗工層の表面に含浸し、120秒放置後、該染色液含浸箇所表面の着色の濃淡を確認することで、画像観察がより容易になる。また、染色液を用いることで着色の色差を利用した画像解析により、ブリスター存在頻度を算出することもできる。
【0018】
<紙基材>
本発明の防湿性紙を構成する紙基材は、防湿性紙の用途に応じて最適な坪量のものを使用することができる。紙基材が単層紙である場合、その坪量の下限は10g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量の下限は30g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で設定することができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量の下限は100g/m以上、上限は750g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量の下限は100g/m以上、上限は550g/m以下の範囲で設定することができる。
【0019】
また、紙基材の物性は、防湿性紙の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、縦伸びの下限が1.0%以上、上限が15.0%以下、横伸びの下限が2.0%以上、上限が12.0%以下の範囲内、比圧縮強の下限が100N・m/g以上、上限が350N・m/g以下の範囲内となるように設定することができる。
【0020】
このような紙基材の原料パルプとしては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材繊維由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプを挙げることができる。
【0021】
紙基材は、古紙パルプを含有するものであってもよく、また、古紙パルプを含有しないものであってもよい。古紙パルプを含有する場合であって、例えば、紙基材が単層紙である場合、好ましくは全パルプに占める古紙パルプの配合率は10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上とすることができ、また、100質量%(古紙由来のパルプのみからなる)とすることができる。また、古紙パルプ以外のパルプとしてクラフトパルプを配合してもよく、全量クラフトパルプとしてもよい。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、1層あたりの古紙パルプ配合率を上記の通りとすることができ、各層における古紙パルプ配合率が異なるものであってもよい。
【0022】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に印刷された古紙、および筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)等を使用することができる。
【0023】
<塗工層>
本発明を構成する塗工層は、上記のように、塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm以下である。この要件と、防湿性紙の透湿度が50g/m・24h以下であるとの要件により、本発明の防湿性紙は、優れた防湿性を具備するものである。更に、本発明の防湿性紙は、優れた防水性も具備するものである。ここで、防湿性紙の防水性とは、防湿性紙を用いて容器を作製し、当該容器に水を入れて3週間放置しても水の染み出しが発生せず容器の形状が変形しない、あるいは、若干変形はみられるが容器形状が維持されていることを意味する。
【0024】
塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cmを超えると、塗工層の透湿度が低下し、防湿性紙の透湿度が50g/m・24hを超えることがあり、防湿性紙が防湿性と共に防水性を具備することが難しくなる。
【0025】
このような塗工層は、合成樹脂およびワックスを含有することが好適である。合成樹脂は、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂の少なくとも1種類を含有することが好適である。特に、合成樹脂がスチレン系樹脂および/またはアクリル系樹脂であることが好適である。
【0026】
(スチレン系樹脂)
本発明を構成する塗工層が含有することのできるスチレン系樹脂とは、構造中にスチレン骨格を有するスチレン系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、スチレン系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0027】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等が挙げられる。
【0028】
また、スチレン単量体と共重合可能な単量体として、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン等が挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0029】
(アクリル系樹脂)
本発明を構成する塗工層が含有することのできるアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体であるアクリル系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、アクリル系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0030】
アクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル等を挙げることができ、アクリル系樹脂は、これらのアクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってよい。
【0031】
また、アクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0032】
(ワックス)
塗工層が含有するワックスとしては、例えば、ポリエチレン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、油脂系合成ワックス(脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類)、水素硬化油等の合成ワックス、蜜蝋、木蝋、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス等を挙げることができる。これらのワックスは、1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができ、特に、パラフィンを含む炭化水素系ワックスが好適である。
【0033】
本発明の防湿性紙の塗工層は、上記のような成分を含有する塗工剤を塗工して乾燥することにより形成することができる。塗工剤の塗工量は、20g/m以下とすることが好ましく、20g/mを超えると、防湿性紙の防湿性と防水性の更なる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことになる。
【0034】
また、本発明の防湿性紙の塗工層は、平均塗工層厚みの下限が5.5μm以上、好ましくは5.7μm以上の範囲であることが、防湿性と共に防水性を具備する上で望ましい。この平均塗工層厚みの上限は20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは12.5μm以下の範囲であることが望ましい。ここで、平均塗工層厚みは、任意の10箇所において測定した塗工層の厚みの平均値である。
【0035】
また、本発明の防湿性紙の塗工層は、塗工層の単位厚さ当たりの透湿度の上限が10(g/m・24h)/μm以下、好ましくは8(g/m・24h)/μm以下であることが、防湿性と共に防水性を具備する上で望ましい。ここで、塗工層の単位厚さ当たりの透湿度は、防湿性紙の塗工層側からJIS Z 0208に準拠して測定した透湿度を平均塗工層厚みで除して算出する値である。
【0036】
このような本発明の防湿性紙は、優れた防湿性と共に防水性を備えており、これにより、湿気や水分と接触する用途において強度低下が抑制されるという効果がある。
【0037】
[防湿性紙の製造方法]
本発明の防湿性紙の製造方法は、紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が120℃未満となるように調整するものである。
【0038】
<塗工工程>
本発明で使用する紙基材は、防湿性紙の用途に応じて所望の紙基材を使用することができる。本発明に使用する紙基材を抄造する場合、原料パルプとして、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材繊維由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプを使用することができる。
【0039】
紙基材の抄造では、古紙パルプを使用することができ、紙基材における古紙パルプ配合率は、防湿性紙の用途に応じて適宜設定することができる。古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に印刷された古紙、および筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)等を使用することができる。
【0040】
また、紙基材の抄造では、吸湿防止用のサイズ剤や撥水剤を内添又は外添させることができ、更に、強度を向上させるために紙力増強剤を内添させることができる。サイズ剤としては、例えば、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、α-カルボキシルメチル飽和脂肪酸等、また、中性ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、カチオンポリマー系サイズ剤等が挙げられる。また、撥水剤としては、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ワックスエマルジョン等が挙げられる。また、紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド(PAM)や変性でん粉等の従来から使用されている紙力増強剤が挙げられる。
【0041】
また、必要に応じて紙基材に公知の填料を内添させることができる。填料としては、例えば、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、焼成クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等の無機填料、及び尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂等の有機填料等が挙げられる。
【0042】
更に、紙基材の品質に影響のない範囲で、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性アルミニウム化合物、水溶性アルミニウム化合物、多価金属化合物、シリカゾル等を内添して使用してもよい。
【0043】
使用する紙基材は、単層紙であってよく、また、2層以上の紙層を有する多層抄き板紙であってもよい。また、紙基材の坪量は、防湿性紙の用途に応じて適宜設定することができる。紙基材が単層紙である場合、その坪量の下限は10g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量の下限は30g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で設定することができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量の下限は100g/m以上、上限は750g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量の下限は100g/m以上、上限は550g/m以下の範囲で設定することができる。
【0044】
本発明では、塗工工程にて、上記のような紙基材の所望の一方の面、あるいは、両面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する。輪郭塗工方式としては、公知の輪郭塗工方式、例えば、エアナイフ塗工、カーテン塗工、スプレー塗工、ダイ塗工等の塗工方式を用いることができる。
【0045】
紙基材への塗工剤の塗工を、輪郭塗工方式により行うことにより、紙基材表面への塗工剤の塗工量が均一となり、したがって塗膜厚みが均一となり、後工程である乾燥工程において塗工層におけるブリスターの発生を抑制することができる。また、接触塗工方式に比べて塗工剤の使用量を低減することができ、製造コストを抑えることができる。
【0046】
輪郭塗工方式による塗工剤の塗工量は、後工程である乾燥工程を経て製造された防湿性紙の透湿度が50g/m・24h以下、好ましくは20g/m・24h以下、より好ましくは10g/m・24h以下となるように設定する。例えば、塗工剤の塗工量を20g/m以下とすることが好ましい。塗工剤の塗工量が20g/mを超えると、防湿性紙の防湿性と防水性の更なる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことになる。
【0047】
また、輪郭塗工方式による塗工剤の塗工時の紙基材の送り速度は、塗工剤の粘度、目標塗工量を考慮して適宜設定することができる。
【0048】
このような輪郭塗工方式による塗工剤の塗工は、単層塗工であってよく、必要に応じてカーテン塗工により2層以上の同時塗工を行ってもよい。
【0049】
塗工層用の塗工剤は、例えば、溶媒中に合成樹脂とワックスが混合分散されているものを使用することができる。なお、塗工剤には、顔料、バインダー、安定剤、消泡剤、耐水剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤等を含有させてもよい。
【0050】
<乾燥工程>
次に、乾燥工程にて、紙基材に塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とする。この乾燥工程では、出口での塗工層温度が120℃未満、好ましくは100℃以下となるように調整する。出口での塗工層温度が120℃以上であると、塗工層におけるブリスターの発生率が高くなり、また、塗工層が形成された後に巻き取られた防湿性紙にブロッキングが発生することがある。一方、出口での塗工層温度の下限は、70℃、好ましくは80℃とすることができる。出口での塗工層温度が70℃未満であると、塗工層が形成された後に巻き取られた防湿性紙にブロッキングが発生することがあるだけでなく、塗工層の乾燥が不十分であるため、防水、防湿性能を十分に発現することができない。
【0051】
乾燥工程出口での塗工層温度の設定は、紙基材の坪量および紙厚を考慮して設定することができる。例えば、紙基材が多層抄き板紙であって坪量および紙厚の大きい段ボールのライナの場合、単層紙であって坪量および紙厚が相対的に小さいクラフト紙に比べて塗工層の表面にブリスターが発生し易い傾向にある。その理由は限定されないが、段ボールのライナの場合、クラフト紙に比べて坪量および紙厚が大きいと共に透気性が低いことが多く、クラフト紙と同じ紙中水分値であっても、乾燥工程において紙基材内部で気化した多くの水分が十分に逃げきれないため、塗工層の表面にブリスターが発生し易くなると考えられる。このため、紙基材の坪量および紙厚が大きいほど、乾燥工程出口での塗工層温度を、上記の範囲内で低目に調整することが好ましい。
【0052】
ここで、乾燥工程の出口とは、乾燥工程における乾燥ゾーンが1個の場合、当該乾燥ゾーンの出口であり、乾燥工程における乾燥ゾーンが複数個の場合、最も下流側の乾燥ゾーンの出口である。
【0053】
乾燥工程出口での塗工層温度の調整は、乾燥時間、乾燥ゾーンの温度の調節により行うことができる。乾燥時間は、紙基材の送り速度、乾燥ゾーンの個数、長さ、乾燥ゾーンの機器能力(風量、赤外線出力)等で決定される。また、乾燥方式としては、公知の乾燥方式を用いることができ、例えば、蒸気シリンダ加熱乾燥方式、熱風乾燥方式、ガス式赤外線乾燥方式、電気式赤外線乾燥方式等を挙げることができ、これらのいずれか1種、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0054】
このような本発明の防湿性紙の製造方法は、透湿度が50g/m・24h以下であり、塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm以下である防湿性紙の製造が可能である。このような防湿性紙は、優れた防湿性を具備するとともに、防湿性紙を用いて容器を作製し、水を入れて3週間放置しても水の染み出しが発生せず、容器の形状が変形しない、あるいは、若干変形はみられるが容器形状が維持されるものである。
【0055】
本発明に係る防湿性紙の用途には特に制限はなく、例えば、段ボール箱、洗剤等の吸湿性のあるものを内容物とする包装個箱等として用いることができる。
【実施例
【0056】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(紙基材の準備)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)を63質量%、古紙パルプを37質量%の割合で使用し、表面に耐水剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤を塗工することにより、3層抄きで坪量280g/mとなるようライナ用の板紙を抄造して紙基材(参考試料1)とした。
【0058】
(塗工工程)
溶媒中にスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂とパラフィンを含む炭化水素系ワックスが混合分散された防湿剤(マイケルマン社製 VAPORCOAT2200.S)100質量部に消泡剤0.46質量部を添加して塗工剤を調製した。この塗工剤を、輪郭塗工方式であるエアナイフ塗工により、塗工量が10g/mとなるように、上記の紙基材(参考試料1)の片面に塗工した。
【0059】
(乾燥工程)
上記のように紙基材に塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とした。乾燥条件は、乾燥工程の出口における塗工層温度が下記の表1に示すように調整された5種の条件とした。これにより、5種の防湿性紙(試料1-1~試料1-5)を作製した。
【0060】
[物性測定]
上記のように作製した5種の防湿性紙(試料1-1~試料1-5)、および、紙基材(参考試料1)について、透湿度、塗工層表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度、巻取状態の防湿性紙の耐ブロッキング性、防湿性紙の防水性を以下のように測定、評価し、結果を下記の表1に示した。
【0061】
<透湿度>
JIS Z 0208に準拠して測定する。なお、防湿性紙においては、塗工層側から測定する。
【0062】
<ブリスターの存在頻度>
塗工層の表面に1cm×1cmの大きさの領域を5箇所任意に設定し、これらの各領域において画像観察して、直径50μm以上のブリスターの存在頻度(個/cm)を求め、これらの平均値を算出してブリスターの存在頻度(個/cm)とする。
【0063】
<耐ブロッキング性>
巻取状態から防湿性紙を引き出し、防湿性紙相互のブロッキング状態を観察して、下記の基準で判定する。
(耐ブロッキング性の判定基準)
○:巻外側の防湿性紙が巻内側の防湿性紙から剥離する際に、剥離
音がなく、抵抗なく引き出すことができる。
△:巻外側の防湿性紙が巻内側の防湿性紙から剥離する際に、剥離
音はあるが、抵抗なく引き出すことができ、実用に供し得る。
×:巻外側の防湿性紙が巻内側の防湿性紙から剥離する際に、剥離
音があり、巻外側の防湿性紙が巻内側の防湿性紙にもって行か
れる傾向がある。
【0064】
<防水性>
防湿性紙を用いて縦28cm、横22cm、深さ13cmの容器を作製(塗工層は内面側に位置する)し、この容器に1.0Lの水を入れ、温度40℃、湿度80%の環境下で3週間放置した後の水の染み出し状況を観察して、下記の基準で判定する。
(防水性の判定基準)
○:水が容器外面や水面より上の容器内面に染み出していない。
△:水が容器外面には染み出していないが、水面より上の容器内面
に染み出している。
×:水が容器外面や水面より上の容器内面に染み出している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、透湿度が50g/m・24h以下であり、、且つ、、塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm以下である試料1-2~試料1-4は、良好な防湿性を有する共に優れた防水性も兼ね備え、また、良好な耐ブロッキング性を有することが確認された。
【0067】
[実施例2]
(紙基材の準備)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)を使用し、坪量75g/mとなるようクラフト紙を抄造して紙基材(参考試料2)とした。
【0068】
(塗工工程)
実施例1と同様にして塗工剤を調製した。この塗工剤を、輪郭塗工方式であるエアナイフ塗工により、塗工量が12g/mとなるように、上記の紙基材(参考試料2)の片面に塗工した。
【0069】
(乾燥工程)
上記のように紙基材に塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とした。乾燥条件は、乾燥工程の出口における塗工層温度が下記の表2に示すように調整された5種の条件とした。これにより、5種の防湿性紙(試料2-1~試料2-5)を作製した。
【0070】
[物性測定]
上記のように作製した5種の防湿性紙(試料2-1~試料2-5)、および、紙基材(参考試料2)について、透湿度、塗工層表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度、巻取状態の防湿性紙の耐ブロッキング性、防湿性紙の防水性を、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を下記の表2に示した。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示されるように、透湿度が50g/m・24h以下であり、且つ、塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が20個/cm以下である試料2-1~試料2-3は、良好な防湿性を有する共に優れた防水性も兼ね備え、また、良好な耐ブロッキング性を有することが確認された。
【0073】
これに対して、試料2-4、試料2-5は、塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が20個/cm以下であるものの、透湿度が50g/m・24hを超えており、防水性が劣るものであった。
【0074】
また、試料2-5と実施例1の試料1-5とを比べると、試料2-5での乾燥工程の出口における塗工層温度が高いにもかかわらず、試料2-5は直径50μm以上のブリスターの存在頻度が20個/cm以下になっている。これは、実施例2で使用した紙基材(参考試料2)は、実施例1で使用した紙基材(参考試料1)よりも紙厚が小さく、透湿度が高く、したがって透気性も高く、乾燥工程において紙基材内部で気化した水分が逃げ易く、これにより塗工層表面のブリスターの発生率が低下しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る防湿性紙は上記のとおりのものであって、防湿性と共に防水性を備えており、これにより、湿気や水分と接触する用途において強度低下が抑制されるという効果があるため、段ボール用のライナや製函、包装紙等、種々の用途に用いるのに好適で、その産業上の利用可能性は大である。