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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】防湿性紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/18 20060101AFI20231016BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20231016BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231016BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20231016BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20231016BHJP
   D21H 25/10 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
D21H19/18
B05D1/28
B05D5/00 F
B05D7/00 F
D21H19/38
D21H25/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019066898
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165040
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(74)【代理人】
【識別番号】100095463
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 潤三
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】畠山 知也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 寛之
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170462(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B05D 1/00 - 7/26
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙パルプ配合率が10質量%以上である紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下であり、前記塗工層は合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工層表面の白色度が20%以上であり、前記塗工層表面の120秒コッブ吸水度が1g/m以下であり、前記塗工層表面の平滑度が40秒以上であり、前記塗工層の塗工量は20g/m 以下であることを特徴とする防湿性紙。
【請求項2】
前記塗工層は、顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の防湿性紙。
【請求項3】
前記顔料は、少なくとも無機顔料を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防湿性紙。
【請求項4】
前記紙基材の坪量は、10g/m以上、750g/m以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の防湿性紙。
【請求項5】
紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下であり、前記塗工層表面の白色度が20%以上であり、前記塗工層表面の120秒コッブ吸水度が1g/m以下であり、前記塗工層表面の平滑度が40秒以上である防湿性紙の製造方法であって、古紙パルプ配合率が10質量%以上である前記紙基材の少なくとも一方の面に、合成樹脂およびワックスを含有する塗工剤を塗工量が20g/m 以下となるようにブレード塗工方式により塗工し、塗工された前記塗工剤を乾燥して前記塗工層とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿性紙に係り、特に防水性を兼ね備え、且つ、美粧性を有する防湿性紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の物品を包装するために、紙基材を用いた種々の形態からなる紙製容器や梱包材等が使用されている。一般に、紙製の容器や梱包材は、紙基材をベース素材とすることから、水蒸気等の透過が極めて容易であり、包装している物品から発生する湿気による強度低下を来すことがある。また、包装、梱包の対象となる物品によっては、外部から侵入する水蒸気等を著しく嫌うものがある。更に、チルド製品等のように氷を一緒に入れて輸送する場合、紙製の容器や梱包材が防水性を具備する必要がある。
【0003】
このため、紙基材の表面に、撥水性を有するワックス組成物を塗工してワックス層を形成する方法、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等をラミネートして樹脂被膜を形成する方法が提案されている。
【0004】
また、紙の少なくとも片面に、ワックスエマルジョンおよび水不溶性合成樹脂エマルジョンと共に界面活性剤を加えた混合液を塗布した後、加熱処理を施して、最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙(特許文献1)が知られている。更に、基紙の少なくとも片面に、少なくとも2層の塗工層を有し、最表面に位置する塗工層はワックスを封入したマイクロカプセルを含有し、塗工量が固形分換算0.5g/m以上2.5g/m以下であり、この最表面の塗工層と基紙との間に位置する塗工層はアクリル系共重合体および/またはスチレン系共重合体を含有する防湿ライナー(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-266096号公報
【文献】特開2011-162899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ワックス層を形成する方法では、単にワックス組成物を1層塗工しても、透湿度を十分に抑制することは困難であり、透湿度を十分に抑制するためにはワックス組成物を多数回塗工することが必要となるが、その場合は工程が著しく煩雑なものとなる。また、樹脂被膜を形成する方法では、ラミネート加工が必要で工程が煩雑となり、更に、樹脂被膜を形成した紙または板紙は、使用後に古紙として回収使用する際の離解性が著しく悪く、再利用化が困難である。
【0007】
また、最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙や、少なくとも2層の塗工層を有する防湿ライナは、防湿性は良好であるものの、防水性を兼ね備えるものではないため、例えば、チルド製品等のように氷を入れて輸送する容器、梱包材としての使用は困難である。
【0008】
更に、従来のように、基紙の表面に塗工層を設けることにより防湿性を付与した紙または板紙では、白色度を高めて美粧性を向上させるために、塗工剤に顔料を含有することが行われていた。しかし、塗工剤に顔料を含有させた場合、塗工剤の機能が十分に発揮されず、このため塗工層を厚くして防湿性を高めることが必要となる結果、製造コストの増大を招くという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、防湿性と防水性を兼ね備え、且つ、美粧性に優れた防湿性紙およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、古紙パルプ配合率が10質量%以上である紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下であり、前記塗工層は合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工層表面の白色度が20%以上であり、前記塗工層表面の120秒コッブ吸水度が1g/m以下であり、前記塗工層表面の平滑度が40秒以上であり、前記塗工層の塗工量は20g/m 以下であることを特徴とする防湿性紙である。
【0011】
一実施形態においては、前記塗工層は、顔料を含有する。また、前記顔料は、少なくとも無機顔料を含むものである。また、前記紙基材の坪量は、10g/m以上、750g/m以下である。
【0012】
また、上記課題を解決するための請求項に係る発明は、紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下であり、前記塗工層表面の白色度が20%以上であり、前記塗工層表面の120秒コッブ吸水度が1g/m以下であり、前記塗工層表面の平滑度が40秒以上である防湿性紙の製造方法であって、古紙パルプ配合率が10質量%以上である前記紙基材の少なくとも一方の面に、合成樹脂およびワックスを含有する塗工剤を塗工量が20g/m 以下となるようにブレード塗工方式により塗工し、塗工された前記塗工剤を乾燥して前記塗工層とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る防湿性紙は上記のとおりのものであって、防湿性と共に防水性を備えており、これにより、湿気や水分と接触する用途において強度低下が抑制されると共に、塗工層面の美粧性が優れるという効果がある。また、本発明に係る防湿性紙の製造方法は上記のとおりのものであって、防湿性と共に防水性を備え、美粧性に優れた防湿性紙の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[防湿性紙]
本発明に係る防湿性紙は、紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m・24h以下、好ましくは20g/m・24h以下、より好ましくは10g/m・24h以下であり、塗工層は合成樹脂およびワックスを含有し、塗工層表面の白色度が20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは55%以上である。
【0016】
本発明に係る防湿性紙は、このように透湿度が50g/m・24h以下であることにより、優れた防湿性を具備するものである。更に、本発明の防湿性紙は、優れた防水性も具備するものである。
【0017】
ここで、防湿性紙の透湿度は、JIS Z 0208に準拠して防湿性紙の塗工層側から測定した値である。また、防湿性紙の防水性とは、防湿性紙を用いて容器を作製し、当該容器に水を入れて3週間放置しても水の染み出しが発生せず、容器の形状が変形しない、あるいは、若干変形はみられるが容器形状が維持されていることを意味する。
【0018】
また、白色度は、JIS P8148に準拠して、(株)村上色彩技術研究所製 ISO白色度対応光測色システムCMS-35SPXMにて測定した値である。
【0019】
<紙基材>
本発明の防湿性紙を構成する紙基材は、防湿性紙の用途に応じて最適な坪量のものを使用することができる。紙基材が単層紙である場合、その坪量の下限は10g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量の下限は30g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で設定することができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量の下限は100g/m以上、上限は750g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量の下限は100g/m以上、上限は550g/m以下の範囲で設定することができる。
【0020】
また、紙基材の物性は、防湿性紙の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、縦伸びの下限が1.0%以上、上限が15.0%以下、横伸びの下限が2.0%以上、上限が12.0%以下の範囲内、比圧縮強さの下限が100N・m/g以上、上限が350N・m/g以下の範囲内となるように設定することができる。
【0021】
このような紙基材の原料パルプとしては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材繊維由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプを挙げることができる。
【0022】
紙基材は、古紙パルプを含有するものであってもよく、また、古紙パルプを含有しないものであってもよい。古紙パルプを含有する場合であって、例えば、紙基材が単層紙である場合、好ましくは全パルプに占める古紙パルプの配合率は10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上とすることができ、また、100質量%(古紙由来のパルプのみからなる)とすることができる。また、古紙パルプ以外のパルプとしてクラフトパルプを配合してもよく、全量クラフトパルプとしてもよい。更に、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、1層あたりの古紙パルプ配合率を上記の通りとすることができ、各層における古紙パルプ配合率が異なるものであってもよい。
【0023】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に印刷された古紙、および、筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)等を使用することができる。
【0024】
<塗工層>
本発明の防湿性紙を構成する塗工層は、上記のように、合成樹脂およびワックスを含有し、塗工層表面の白色度が20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは55%以上である。
【0025】
塗工層の表面の白色度が20%未満であると、防湿性紙の塗工層面の白色度が不十分であり、防湿性紙の美粧性が低下し、防湿性、防水性と共に美粧性が要求される用途への防湿性紙の使用が難しくなる。
【0026】
本発明では、白色度を向上させることを目的として、塗工層に顔料を含有させてもよい。この場合、顔料を含有させることで塗工層の表面の白色度が、紙基材の白色度と比較して1%以上高くなっていることが好ましい。このような顔料としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーティッドクレー、タルク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト、マイカ、モンモリトナイト等の無機顔料を挙げることができ、これらの顔料を1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。これらの顔料の中で、特に、塗工層の防湿性、防水性を阻害し難い点で、粒子が扁平な形状であるカオリンや炭酸カルシウムもしくはマイカが好適である。このような扁平形状の無機顔料は、アスペクト比が10以上であることが好ましい。塗工層における顔料の含有量は、5質量%以上、40質量%以下、好ましくは10質量%以上、35質量%以下とすることができる。顔料の含有量が5質量%未満であると、白色度の向上効果が十分に得られず、40質量%を超えると、合成樹脂成分が有する塗工層の防湿性、防水性の機能が十分発揮できないことがあるので好ましくない。
【0027】
塗工層が含有する合成樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂等を挙げることができる。これらの合成樹脂は、1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができ、特に、合成樹脂がスチレン系樹脂および/またはアクリル系樹脂であることが好適である。
【0028】
(スチレン系樹脂)
本発明を構成する塗工層が含有することのできるスチレン系樹脂とは、構造中にスチレン骨格を有するスチレン系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、スチレン系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0029】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等があげられる。
【0030】
また、スチレン単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン等が挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0031】
(アクリル系樹脂)
本発明を構成する塗工層が含有することのできるアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体であるアクリル系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、アクリル系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0032】
アクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル等を挙げることができ、アクリル系樹脂は、これらのアクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってよい。
【0033】
また、アクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0034】
(ワックス)
塗工層が含有するワックスとしては、例えば、ポリエチレン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、油脂系合成ワックス(脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類)、水素硬化油等の合成ワックス、蜜蝋、木蝋、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス等を挙げることができる。これらのワックスは、1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができ、特に、パラフィンを含む炭化水素系ワックスが好適である。
【0035】
本発明の防湿性紙の塗工層は、上記のような合成樹脂とワックスと、必要に応じて顔料を含有する塗工剤をブレード塗工方式により塗工して乾燥することにより形成することができる。塗工剤の塗工量は、20g/m以下とすることが好ましく、20g/mを超えると、防湿性紙の防湿性と防水性の更なる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことになる。
【0036】
また、本発明の防湿性紙の塗工層は、表面の平滑度が25秒以上、好ましくは30秒以上、より好ましくは40秒以上の範囲であってよい。防湿性紙の塗工層の表面の平滑度が上記の範囲であることにより、塗工層の表面において高い光沢が得られ、より美粧性に優れた防湿性紙が得られる。
【0037】
上記の平滑度は、JIS P8155に準拠して測定される王研式平滑度である。
【0038】
また、本発明の防湿性紙の塗工層は、表面の水接触角が45度以上、好ましくは50度以上、より好ましくは55度以上であり、表面の120秒コッブ吸水度の上限が3g/m以下、好ましくは2g/m以下、より好ましくは1g/m以下の範囲であってよく、下限は特に限定されないが、0g/m(吸水せず測定限界値未満)が好ましい。防湿性紙の塗工層の表面の水接触角、120秒コッブ吸水度が上記の範囲であることにより、塗工層の防湿性と防水性が優れたものとなる。
【0039】
上記の120秒コッブ吸水度は、JIS P8140(コッブ法)に準拠して、100mlの蒸留水を塗工層に接触させ、120秒後に吸収された水の単位面積あたりの重量を測定する。120秒コッブ吸水度が低いほど、塗工層の吸水性が低いものとなる。
【0040】
また、本発明の防湿性紙の塗工層は、平均塗工層厚みの下限が5.5μm以上、好ましくは5.7μm以上の範囲であることが、防湿性と共に防水性を具備する上で望ましい。この平均塗工層厚みの上限は20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは12.5μm以下の範囲であることが望ましい。ここで、平均塗工層厚みは、任意の10箇所において測定した塗工層の厚みの平均値である。
【0041】
また、本発明の防湿性紙の塗工層は、塗工層の単位厚さ当たりの透湿度の上限が10(g/m・24h)/μm以下、好ましくは8(g/m・24h)/μm以下であることが、防湿性と共に防水性を具備する上で望ましい。ここで、塗工層の単位厚さ当たりの透湿度は、防湿性紙の塗工層側からJIS Z 0208に準拠して測定した透湿度を平均塗工層厚みで除して算出する値である。
【0042】
このような本発明の防湿性紙は、優れた防湿性と共に防水性を備え、、且つ、、高い白色度を備えており、これにより、湿気や水分と接触する用途において強度低下が抑制されると共に、塗工層面の美粧性が優れるという効果が奏される。
【0043】
[防湿性紙の製造方法]
本発明の防湿性紙の製造方法は、紙基材の少なくとも一方の面に、合成樹脂およびワックスを含有する塗工剤をブレード塗工方式により塗工し、塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とすることにより防湿性紙を製造するものである。
【0044】
本発明で使用する紙基材は、防湿性紙の用途に応じて所望の紙基材を使用することができる。本発明に使用する紙基材を抄造する場合、原料パルプとして、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材繊維由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプを使用することができる。
【0045】
紙基材の抄造では、古紙パルプを使用することができ、紙基材における古紙パルプ配合率は、防湿性紙の用途に応じて適宜設定することができる。古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に印刷された古紙、および筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)等を使用することができる。
【0046】
また、紙基材の抄造では、吸湿防止用のサイズ剤や撥水剤を内添又は外添させることができ、更に、強度を向上させるために紙力増強剤を内添させることができる。サイズ剤としては、例えば、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、α-カルボキシルメチル飽和脂肪酸等、また、中性ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、カチオンポリマー系サイズ剤等が挙げられる。また、撥水剤としては、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ワックスエマルジョン等が挙げられる。また、紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド(PAM)や変性でん粉等の従来から使用されている紙力増強剤が挙げられる。
【0047】
また、必要に応じて紙基材に公知の填料を内添させることができる。填料としては、例えば、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、焼成クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等の無機填料、及び尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂等の有機填料等が挙げられる。
【0048】
更に、紙基材の品質に影響のない範囲で、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性アルミニウム化合物、水溶性アルミニウム化合物、多価金属化合物、シリカゾル等を内添して使用してもよい。
【0049】
使用する紙基材は、単層紙であってよく、また、2層以上の紙層を有する多層抄き板紙であってもよい。また、紙基材の坪量は、防湿性紙の用途に応じて適宜設定することができる。紙基材が単層紙である場合、その坪量の下限は10g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量の下限は30g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で設定することができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量の下限は100g/m以上、上限は750g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量の下限は100g/m以上、上限は550g/m以下の範囲で設定することができる。
【0050】
本発明では、上記のような紙基材の所望の一方の面、あるいは、両面に、合成樹脂およびワックスを含有する塗工剤をブレード塗工方式により塗工する。
【0051】
紙基材への塗工剤の塗工をブレード塗工方式により行うことにより、形成される塗工層の表面の平滑度が高いものとなり、塗工層の表面において高い光沢が得られ、より美粧性に優れた防湿性紙が得られる。
【0052】
ブレード塗工方式による塗工剤の塗工量は、製造された防湿性紙の透湿度が50g/m・24h以下、好ましくは20g/m・24h以下、より好ましくは10g/m・24h以下となるように設定する。例えば、塗工剤の塗工量を20g/m以下とすることが好ましい。塗工剤の塗工量が20g/mを超えると、防湿性紙の防湿性と防水性の更なる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことになる。
【0053】
また、ブレード塗工方式による塗工剤の塗工時の紙基材の送り速度は、塗工剤の粘度、目標塗工量を考慮して適宜設定することができる。
【0054】
塗工層用の塗工剤は、例えば、溶媒中に合成樹脂とワックスが混合分散されているものを使用することができる。尚、塗工剤には、顔料、バインダー、安定剤、消泡剤、耐水剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤等を含有させてもよい。顔料は、形成する塗工層の表面の白色度を向上させることを目的として含有させるものであり、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーティッドクレー、タルク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト、マイカ、モンモリトナイト等の無機顔料を挙げることができ、これらの顔料を1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。これらの顔料の中で、特に、塗工層の防湿性、防水性を阻害し難い点で、粒子が扁平な形状であるカオリンや炭酸カルシウムもしくはマイカが好適に使用される。このような扁平形状の無機顔料は、アスペクト比が10以上であることが好ましい。塗工剤への顔料の添加量は、固形分中に5質量%以上、40質量%以下、好ましくは10質量%以上、35質量%以下とすることができる。塗工剤への顔料の添加量が固形分中で5質量%未満であると、白色度の向上効果が十分に得られず、40質量%を超えると、形成された塗工層の防湿性、防水性が不十分となることがあり好ましくない。
【0055】
このような本発明の防湿性紙の製造方法によれば、透湿度が50g/m・24h以下であり、塗工層表面の白色度が20%以上である防湿性紙の製造が可能である。このような防湿性紙は、優れた防湿性を具備すると共に、防湿性紙を用いて容器を作製し、水を入れて3週間放置しても水の染み出しが発生せず、容器の形状が変形しない、あるいは、若干変形はみられるが容器形状が維持されるものである。また、高い白色度を備えているので、塗工層面の美粧性が優れるものである。
【0056】
本発明に係る防湿性紙の用途には特に制限はなく、例えば、段ボール箱、洗剤等の吸湿性のあるものを内容物とする包装個箱等として用いることができる。
【実施例
【0057】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
(紙基材の準備)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)を63質量%、古紙パルプを37質量%の割合で使用し、表面に耐水剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤を塗工することにより、3層抄きで坪量280g/mとなるようライナ用の板紙を抄造して紙基材(参考試料1)とした。
【0059】
(塗工層の形成)
溶媒中にスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂とパラフィンを含む炭化水素系ワックスが混合分散された防湿剤(マイケルマン社製 VAPORCOAT2200.S)100質量部に、消泡剤0.46質量部を添加して塗工剤Aを調製した。この塗工剤Aを使用し、下記の表1に示すような種の塗工量となるように、上記の紙基材(参考試料1)の片面にブレード塗工方式により塗工し、塗工層温度が90℃となるように乾燥して塗工層を形成した。これにより、3種の防湿性紙(試料1-1~試料1-3)を作製した。
【0060】
また、上記の防湿剤100質量部に消泡剤0.46質量部、高扁平カオリン40質量部、合成マイカ10質量部を添加して塗工剤Bを調製した。この塗工剤Bを使用し、下記の表1に示すような種の塗工量となるように、上記の紙基材(参考試料1)の片面にブレード塗工方式により塗工し、塗工層温度が90℃となるように乾燥して塗工層を形成した。これにより、4種の防湿性紙(試料1-4~試料1-7)を作製した。
【0061】
(物性測定)
上記のように作製した7種の防湿性紙(試料1-1~試料1-7)、および、紙基材(参考試料1)について、透湿度、塗工層表面の平滑度、白色度、吸水度、防湿性紙の防水性を以下のように測定、評価し、結果を下記の表1に示した。
【0062】
<透湿度>
JIS Z 0208に準拠して測定する。尚、防湿性紙においては、塗工層側から測定する。
【0063】
<平滑度>
JIS P8155に準拠して、旭精工(株)製デジタル型王研式透気度平滑度試験機にて、王研式平滑度を測定する。
【0064】
<白色度>
JIS P8148に準拠して、(株)村上色彩技術研究所ISO白色度対応光測色システムCMS-35SPXMにて測定する。
【0065】
<吸水度>
JIS P8140(コッブ法)に準拠して、100mlの蒸留水を塗工層に接触させ、120秒後に吸収された水の単位面積あたりの重量を測定する。
【0066】
<防水性>
防湿性紙を用いて縦28cm、横22cm、深さ13cmの容器を作製(塗工層は内面側に位置する)し、この容器に1.0Lの水を入れ、温度40℃、湿度80%の環境下で3週間放置した後の水の染み出し状況を観察して、下記の基準で判定する。
(防水性の判定基準)
○:水が容器外面や水面より上の容器内面に染み出していない。
△:水が容器外面には染み出していないが、水面より上の容器内面に染み出している。
×:水が容器外面や水面より上の容器内面に染み出している。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されるように、ブレード塗工方式により塗工剤を塗工して作製した防湿性紙の中で、透湿度が50g/m・24h以下であり、塗工層に合成樹脂およびワックスを含有し、塗工層の表面の白色度が20%以上ある試料1-1~試料1-3(塗工剤Aを使用)、および、試料1-6~試料1-7(塗工剤Bを使用)は、良好な防湿性を有する共に優れた防水性も兼ね備え、また、平滑度も25秒以上であって高い光沢が得られ、優れた美粧性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る防湿性紙は上記のとおりのものであって、防湿性と共に防水性を備えており、これにより、湿気や水分と接触する用途において強度低下が抑制されるという効果があり、また、美粧性に優れているため、段ボール用のライナや製函、包装紙等、種々の用途に用いるのに好適で、その産業上の利用可能性は大である。