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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】航空障害灯システムの故障検出装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 47/20 20200101AFI20231016BHJP
【FI】
H05B47/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019125258
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021012779
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】穂坂 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】田井 裕通
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-293776(JP,A)
【文献】特開2016-091600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 45/00
H05B 47/20
H05B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁トランスと、前記絶縁トランスの一次巻線に接続される電源と、前記絶縁トランスの二次巻線に接続される少なくとも1つの航空障害灯とを備えた航空障害灯システムにおいて、前記航空障害灯の故障を検出する故障検出装置であって、
前記電源から前記絶縁トランスの一次巻線に印加される入力電圧の瞬時値を取得する入力電圧取得部と、
前記絶縁トランスの一次巻線に流れる入力電流の瞬時値を取得する入力電流取得部と、
前記入力電圧取得部により取得された前記入力電圧の瞬時値と、前記入力電流取得部により取得された前記入力電流の瞬時値とに基づいて、瞬時電力値を計算する電力計算部と、
前記電力計算部によって計算された前記瞬時電力値を時間域で平均化することにより消費電力平均値を計算する電力平均値計算部と、
前記電力平均値計算部により計算された前記消費電力平均値から、前記絶縁トランスの無負荷損失を含む、前記絶縁トランスにおける電力損失を差し引いた値である二次側出力電力推定値を計算する減算部と、
前記減算部により計算された前記二次側出力電力推定値に基づいて、前記航空障害灯に故障が生じているかどうかを判定する故障判定部と
を備える故障検出装置。
【請求項2】
前記絶縁トランスにおける電力損失を、前記入力電圧取得部により取得された前記入力電圧の瞬時値に基づいて推定する損失推定部をさらに備える請求項1に記載の故障検出装置。
【請求項3】
前記故障判定部は、前記二次側出力電力推定値の分布をあらかじめ学習しており、前記分布の中心と、前記航空障害灯システムの運転中に前記減算部により計算された前記二次側出力電力推定値との差が所定値以上となった場合に、前記航空障害灯に故障が生じていると判定する、請求項1又は2に記載の故障検出装置。
【請求項4】
前記故障判定部は、前記二次側出力電力推定値の分布を前記航空障害灯システムの運転中に常時記録し、一定の時定数に従って前記分布を更新するとともに、前記航空障害灯システムの運転中に前記減算部により計算された前記二次側出力電力推定値と、前記分布の中心との差が所定値以上となった場合に、前記航空障害灯に故障が生じていると判定する、請求項1又は2に記載の故障検出装置。
【請求項5】
前記故障判定部は、
前記入力電圧取得部により取得された前記入力電圧の瞬時値に基づいて、前記入力電圧の二乗の平均値を求める電圧二乗平均値計算部と、
前記電圧二乗平均値計算部により計算された前記入力電圧の二乗の平均値と、前記減算部により計算された前記二次側出力電力推定値とを組み合わせて、電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルを計算するベクトル計算部と、
前記ベクトル計算部により計算された前記電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルを時系列データとして記録する記録部と、
前記記録部により記録された前記電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルの電圧二乗平均値・電力平面上の二次元的分布を、電圧二乗平均値と電力との間の関数を表す回帰式として推定する推定部と
を備え、
前記故障判定部は、あらかじめ正常な状態で求められた前記回帰式の表す分布パターンと、前記航空障害灯システムの運転中に前記ベクトル計算部により計算された前記電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルとの距離が所定値以上となった場合に、前記航空障害灯に故障が生じていると判定する、請求項1又は2に記載の故障検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空障害灯システムの故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジオ放送用の電波塔などの高層構築物には、航空機の操縦士が目視で構築物の存在を認識できるようにするために、航空障害灯を設置することが義務付けられている。
【0003】
放送用の電波塔では、高出力の電波を送信するために、電波塔の付近に設置される電線等には、高い電圧の放送波が誘起する。電波塔に設置される航空障害灯に電力を供給する電源供給ケーブルにも同様に、高い電圧の放送波が誘起する。そのため、航空障害灯への電源供給ケーブルを商用電源系統にそのまま接続すると、誘起した放送波に起因する高周波の電流が電源供給ケーブル及び電源系統に流入し、灯器やケーブルの破損などの問題が発生する可能性がある。
【0004】
この問題に対して、従来よりオースチントランス(Austin transformer)と呼ばれる、一種の絶縁トランスを航空障害灯の電源供給系統に挿入することが行われている。オースチントランスは、放送波のような高周波に対する優れた絶縁特性を有し、商用電源系統と航空障害灯の電源供給ケーブルとを高周波的には切り離すものである。オースチントランスを設けることにより、高周波の電流の問題は解消される。特に、中波ラジオ送信所などでは、航空障害灯に対してオースチントランスを経由して電源供給することが一般に行われている。
【0005】
特許文献1には、絶縁トランスを備えた航空障害灯システムに追加設置され、航空障害灯の断芯を検出するための航空障害灯断芯検出システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-45682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
絶縁トランスの二次側においては、航空障害灯への電力供給ケーブルに誘起する高電圧の放送波が印加される。そのため、航空障害灯の断芯を検出するための電子回路を絶縁トランスの二次側に設けることは危険かつ困難と考えられる。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、絶縁トランスを備えた航空障害灯システムにおいて、航空障害灯の故障を効率的に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る故障検出装置は、絶縁トランスと、前記絶縁トランスの一次巻線に接続される電源と、前記絶縁トランスの二次巻線に接続される少なくとも1つの航空障害灯とを備えた航空障害灯システムにおいて、前記航空障害灯の故障を検出する。本装置は、前記電源から前記絶縁トランスの一次巻線に印加される入力電圧の瞬時値を取得する入力電圧取得部と、前記絶縁トランスの一次巻線に流れる入力電流の瞬時値を取得する入力電流取得部と、前記入力電圧取得部により取得された前記入力電圧の瞬時値と、前記入力電流取得部により取得された前記入力電流の瞬時値とに基づいて、瞬時電力値を計算する電力計算部と、前記電力計算部によって計算された前記瞬時電力値を時間域で平均化することにより消費電力平均値を計算する電力平均値計算部と、前記電力平均値計算部により計算された前記消費電力平均値から、前記絶縁トランスの無負荷損失を含む、前記絶縁トランスにおける電力損失を差し引いた値である二次側出力電力推定値を計算する減算部と、前記減算部により計算された前記二次側出力電力推定値に基づいて、前記航空障害灯に故障が生じているかどうかを判定する故障判定部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁トランスを備えた航空障害灯システムにおいて、航空障害灯の故障を効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】航空障害灯システムの構成を示す説明図である。
図2】制御装置の構成を示す説明図である。
図3】制御装置の構成を示す別の説明図である。
図4】絶縁トランスに対する入力電力の、入力電圧の二乗に対する変化を示すグラフである。
図5】故障判定部の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
絶縁トランスの一次側に、航空障害灯の故障を検出するための回路を設けることについて、本発明の発明者は鋭意検討を行った。詳細を以下に述べる。
【0013】
これまで航空障害灯として用いられてきた灯器の光源は、白熱電球等の消費電力が大きい光源であり、消費電力が1つの灯器当たり数百ワットに達することが通例である。ところが、最近、発光ダイオードを光源とする灯器が実用化されて、普及するに伴い、従来の白熱電球による灯器を、発光ダイオードを光源とする灯器に置き換えることが多くなってきた。発光ダイオード灯器は寿命が長いので、寿命が短く頻繁な交換が必要となる白熱電球に対してほとんど交換の必要がないという保守上の利点が多いこと、また、発光効率が良好なので、消費電力も低光度の航空障害灯であれば数ワットというごく小さな消費電力で済むこと、などの多くの利点を有するためである。
【0014】
発光ダイオードを光源とする灯器であっても、電波塔に設置する航空障害灯の場合、放送波による障害を防ぐために、オースチントランスによる電源供給線の絶縁は必要である。また、オースチントランスの装置寿命は白熱電灯の寿命に比してはるかに長く、数十年に達するのが通例であるので、灯器を発光ダイオードに交換する場合でも、オースチントランスは既設のものをそのまま用いることが多い。
【0015】
既設のオースチントランスは、消費電力が大きい白熱電球等を用いた灯器用に設置されたものであるから、電力容量が数キロワットのものが用いられる。新規に設置される発光ダイオードを光源とした灯器の消費電力は数ワットから数十ワットしかないため、オースチントランスの容量に対して著しく軽負荷となる。
【0016】
オースチントランスを適用する電波塔向けの航空障害灯を、発光ダイオードを光源とする灯器に更新した場合、容量の大きなオースチントランスを介して、小電力の発光ダイオードを光源とする灯器への電源供給を行うことになる。
【0017】
オースチントランスの一次側巻線には、オースチントランスの励磁電流が電源電流に重畳されて流れている。前述のとおり、オースチントランスの容量は、負荷となる発光ダイオードを光源とする灯器の消費電力よりもはるかに大きいため、その励磁電流は灯器の電源電流に比して十数倍から数十倍に達する。こうした状況で、オースチントランスの一次側に、航空障害灯の故障を検出するための回路を設ける場合には、オースチントランスの励磁電流の影響を考慮する必要がある。
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態によって限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、航空障害灯システム1は、3つの航空障害灯21、22及び23と、絶縁トランス3と、制御装置4と、電源5とを備えている。一例として、3つの航空障害灯21、22及び23は基部絶縁型の中波鉄塔に設置されており、絶縁トランス3はオースチントランス(Austin transformer)である。
【0020】
制御装置4は、プロセッサとメモリと通信ポートとを備えたコンピュータにより構成されている。メモリには、後述する計算に必要な各種の値とともに、上記コンピュータを制御装置として機能させるためのプログラムが保存されている。
【0021】
絶縁トランス3は、制御装置4を介して電源5が接続される一次巻線(不図示)と、単一の配線を介して3つの航空障害灯21、22及び23が並列に接続される二次巻線(不図示)とを備えている。絶縁トランス3の一次側に設けられている制御装置4による制御の下、電源5から制御装置4及び絶縁トランス3を介して3つの航空障害灯21、22及び23へと電力が供給される。
【0022】
このような航空障害灯システム1において、航空障害灯の断芯が生じる可能性がある。断芯とは、電灯において断線が生じ、その電灯が点かなくなってしまうことをいう。航空障害灯システム1において、断芯を検出する方法を以下に説明する。
【0023】
絶縁トランス3の一次巻線に対する入力電力(単位:ワット)をPinとする。また、航空障害灯21、22及び23の各消費電力(単位:ワット)をそれぞれ、P1、P2及びP3とする。さらに、絶縁トランス3において生じる電力損失をP0とする。電力損失P0(単位:ワット)には、絶縁トランス3における無負荷損失(励磁電流)及びその他の損失が含まれる。絶縁トランス3の入力電力は、トランス内部で生じる損失とトランスから供給される電力の総和であるから、次式が常に成り立つ。
P1+P2+P3+P0=Pin (1)
【0024】
航空障害灯21、22及び23が断芯していない、健全な状態における消費電力を特にP1(n)、P2(n)及びP3(n)とする。これらの値は、各航空障害灯の仕様から、あるいは実測により事前に得ることができる。また、入力電力Pinは制御装置4によって実測することができる。航空障害灯21、22及び23が健全で、点灯した状態における入力電力Pinを特にPin(n)とすると、(1)式より次式が成り立つ。
P1(n)+P2(n)+P3(n)+P0=Pin(n) (2)
また、電力損失P0は、(2)式より、以下のように計算することができる。
P0=Pin(n)-P1(n)-P2(n)-P3(n) (3)
あるいは、電力損失P0を元にすれば次式が成り立つ。
P1(n)+P2(n)+P3(n)=Pin(n)-P0 (4)
すなわち、航空障害灯21、22及び23が断芯していない、健全な状態では次式が成り立つ。
P1+P2+P3=Pin(n)-P0 (5)
【0025】
航空障害灯21、22及び23の少なくともいずれかにおいて断芯が生じている場合、断芯した灯器の消費電力は健全な状態における消費電力を下回るから、以下の3つの式の少なくともいずれかが成立する。
P1<P1(n) (6a)
P2<P2(n) (6b)
P3<P3(n) (6c)
式(4)及び式(6a)~(6c)から、次式が成り立つ。
P1+P2+P3<Pin(n)-P0 (7)
【0026】
このように、3つの航空障害灯のいずれについても断芯が生じていない場合は、式(5)が成り立つ一方、少なくともいずれかの航空障害灯について断芯が生じている場合は式(7)が成り立つ。式(5)及び(7)の右辺Pin(n)-P0を基準電力と呼ぶことにする。式(5)及び式(7)の左辺である消費電力P1、P2及びP3の総和を求めて、その総和が基準電力に等しいか、基準電力を下回るのかを判定することで、航空障害灯の断芯の発生有無を検出することができる。なお、消費電力P1、P2及びP3のそれぞれの値を個別に求めることはできないが、それらの総和は、式(1)から導かれる次式により求めることができる。
P1+P2+P3=Pin-P0 (8)
【0027】
図2に示すように、制御装置4は、入力電圧取得部41と入力電流取得部42と電力計算部43と電力平均値計算部44と減算部45と故障判定部46とを備えている。この制御装置を故障検出装置とも呼ぶ。
【0028】
入力電圧取得部41は、電源5から絶縁トランス3の一次巻線に印加される入力電圧の瞬時値を取得する。入力電流取得部42は、絶縁トランス3の一次巻線に流れる入力電流の瞬時値を取得する。電力計算部43は、入力電圧取得部41により取得された入力電圧の瞬時値と、入力電流取得部42により取得された入力電流の瞬時値とに基づいて、瞬時電力値を計算する。電力平均値計算部44は、電力計算部43によって計算された瞬時電力値を時間域で平均化することにより消費電力平均値を計算する。この消費電力平均値が上記入力電力Pinに相当する。
【0029】
減算部45は、電力平均値計算部44により計算された消費電力平均値から、絶縁トランス3の無負荷損失を含む、絶縁トランス3における電力損失P0を差し引いた値である二次側出力電力推定値を計算する。電力損失P0は、(3)式により事前に算出された値を用いる。二次側出力電力推定値は、(8)式の左辺(P1、P2及びP3の総和)に相当する。
【0030】
故障判定部46は、減算部45により計算された二次側出力電力推定値に基づいて、航空障害灯に故障が生じているかどうかを判定する。具体的には、故障判定部46は、二次側出力電力推定値が上記基準電力に等しい場合に、航空障害灯に故障が生じていないと判定し、二次側出力電力推定値が上記基準電力を下回る場合に、少なくともいずれかの航空障害灯に故障が生じていると判定する。基準電力は、(4)式から事前に計算された値を用いる。
【0031】
以上のような実施形態によれば、絶縁トランスを備えた航空障害灯システムにおいて、絶縁トランスの一次側の電力を検出することで二次側の航空障害灯の断芯を検出することができる。絶縁トランスの二次側に故障検出のための回路を設ける場合に比べて、容易に故障検出を行うことができ、安全性も高まる。また、絶縁トランスの容量が二次側の消費電力に比べて大きくなるにつれて影響度が大きくなる励磁電流も考慮した上での断芯検出が可能である。
【0032】
このように、絶縁トランスを備えた航空障害灯システムにおいて、航空障害灯の故障を効率的に検出することができる。
【0033】
絶縁トランス3における電力損失P0は、入力電圧の二乗にほぼ比例して変動することが知られている。また、入力電圧は電力系統の電圧によって決まるが、数%の範囲内で常に変動している。そのため、高い精度で電力損失P0を推定するには、この入力電圧の変動の影響を考慮する必要がある。
こうした課題に対応するために、図3に示すように、故障検出装置4は、損失推定部47をさらに備えていてもよい。損失推定部47は、絶縁トランス3における電力損失P0を、入力電圧取得部41により取得された入力電圧の瞬時値に基づいて推定する。損失推定部47により推定された電力損失は、減算部45による二次側出力電力推定値の計算に用いられる。損失推定部47をさらに設けることにより、絶縁トランス3の無負荷損失が電源電圧に依存するという点をも考慮した故障検出が可能である。
【0034】
以下に、故障判定部46の他の例について説明する。
【0035】
絶縁トランス3における電力損失P0は、入力電圧以外の温度等の要因によっても変動しうる。このような変動を航空障害灯の故障による入力電力の変動と識別するために、電力損失P0の時間的変動を記録し、正常な運転状態での入力電力の分布状況を学習することができる。オースチントランスと航空障害灯とを接続し、商用100V電源に接続した状態で、入力電力の、入力電圧の二乗に対する変化を一定時間ごとに測定して、プロットしたデータの一例を図4に示す。
同図において、横軸が入力電圧の二乗を正規化した値、縦軸は入力電力を正規化した値をそれぞれ示す。商用100V電源は最大で数%変動するため、時々刻々入力電力も変動するが、この変動するデータをプロットすると、図4のように、入力電圧の二乗と入力電力が正比例する直線上に分布する。これは、入力電力の大部分を占めるオースチントランスの無負荷損失が入力電圧の二乗に比例するためである。
また、航空障害灯の接続を遮断して故障を模擬する前と後とでは、プロットされた各点の分布が入力電力の値にして約3%減少し、直線の傾きには変わりがないことがわかる。これは、LEDを光源とする航空障害灯の消費電力が入力電圧の変動に関わらず一定の値となるように制御されているためである。
このような、入力電圧の変動に対する入力電力の変動の分布を、故障判定部にあらかじめ学習させることができる。そして、故障判定部は、あらかじめ学習した分布の中心と、航空障害灯システム1の運転中に減算部45により計算された二次側出力電力推定値との差が所定値以上となった場合に、航空障害灯に故障が生じていると判定することができる。
【0036】
あるいは、故障判定部は、二次側出力電力推定値の分布を航空障害灯システム1の運転中に常時記録し、一定の時定数に従って該分布を更新することができる。前述のとおり、絶縁トランス3における電力損失P0は温度によっても変動する可能性があるため、季節的な周囲温度の変化によっても変動することが予想される。これに対応するため、周囲温度の変化に追従できる程度の時定数で電力推定値の分布状況を学習しなおすことで、温度変化にも対応した、絶縁トランス3における電力損失P0の最新の推定値を得ることが可能となる。そして、故障判定部は、航空障害灯システム1の運転中に減算部45により計算された二次側出力電力推定値と、更新された上記分布の中心との差が所定値以上となった場合に、航空障害灯に故障が生じていると判定することができる。
【0037】
故障判定部46のさらに別の構成例を図5に示す。本例において、故障判定部46は、電圧二乗平均値計算部461と、ベクトル計算部462と、記録部463と、回帰式推定部464とを備えている。ここでいう回帰式とは、前述の入力電圧の二乗と入力電力との直線関係を表す一次式である。
【0038】
電圧二乗平均値計算部461は、入力電圧取得部41により取得された入力電圧の瞬時値に基づいて、入力電圧の二乗の平均値を求める。
【0039】
ベクトル計算部462は、電圧二乗平均値計算部461により計算された入力電圧の二乗の平均値と、減算部45により計算された二次側出力電力推定値とを組み合わせて、電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルを計算する。
【0040】
記録部463は、ベクトル計算部462により計算された電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルを時系列データとして記録する。
【0041】
回帰式推定部464は、記録部463により記録された電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルの電圧二乗平均値・電力平面上の二次元的分布を、電圧二乗平均値と電力との間の関数を表す回帰式として推定する。
【0042】
そして、故障判定部46は、回帰式推定部464により、あらかじめ正常な状態で求められた回帰式の表す分布パターンと、航空障害灯システム1の運転中にベクトル計算部462により計算された電圧二乗平均値・電力推定値ベクトルとの距離を計算する。故障判定部46は、この距離が所定値以上となった場合に、航空障害灯に故障が生じていると判定することができる。
【0043】
なお、航空障害灯システム1において、制御装置4に照度センサ6が接続されていてもよい。照度センサ6は、航空障害灯が設置された構造物周辺の照度を検出する。そして、照度センサ6により検出された照度が所定値以下となった場合に、制御装置4は、電源から絶縁トランスへの電力供給と、定期的に行われる航空障害灯の断芯検出処理とを開始することができる。照度センサ6により検出された照度が所定値を超えた場合は、制御装置4は、上記電力供給と上記断芯検出処理とを停止することができる。
【0044】
航空障害灯システムが3つの航空障害灯を備えている例を示したが、航空障害灯の個数はこれに限られない。
【0045】
本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づく種々の変更は本発明の概念に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 航空障害灯システム
21~23 航空障害灯
3 絶縁トランス
4 制御装置
41 入力電圧取得部
42 入力電流取得部
43 電力計算部
44 電力平均値計算部
45 減算部
46 故障判定部
461 電圧二乗平均値計算部
462 ベクトル計算部
463 記録部
464 回帰式推定部
47 損失推定部
5 電源
6 照度センサ
図1
図2
図3
図4
図5