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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】T字形複合構造部材
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20231016BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20231016BHJP
   F16B 5/08 20060101ALI20231016BHJP
   F16B 5/04 20060101ALI20231016BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D25/04 C
F16B5/08 Z
F16B5/04 A
F16B5/02 X
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019162694
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021041725
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直哉
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真一郎
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-264855(JP,A)
【文献】特開2018-039501(JP,A)
【文献】特開2014-080183(JP,A)
【文献】独国実用新案第202007019273(DE,U1)
【文献】特開2010-149511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08、25/14-29/04
F16B 5/00- 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のT字形複合構造部材において、
T字形の金属部材と、
前記金属部材の一面に接合されたT字形の繊維強化樹脂部材と、を備え、
前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材とによって形成されたT字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に、前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との接合を補強する補強部がそれぞれ設けられており、
一対の前記長尺部が、サイドシル及びBピラーであり、
前記サイドシルの前端部及び後端部並びに前記Bピラーの上端部の近傍に前記補強部がそれぞれ設けられる、ことを特徴とするT字形複合構造部材。
【請求項2】
前記補強部によって、前記サイドシルの前記前端部及び前記後端部における前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との各接合強度が、前記Bピラーの前記上端部における前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との接合強度と異ならされている、ことを特徴とする請求項に記載のT字形複合構造部材。
【請求項3】
前記サイドシルの前記前端部及び前記後端部における前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との各接合強度が、前記Bピラーの前記上端部における前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との接合強度よりも高い、ことを特徴とする請求項に記載のT字形複合構造部材。
【請求項4】
前記サイドシル及び前記Bピラーが、それぞれ、天板と当該天板の両縁から角度をもってそれぞれ延設された一対の側板と当該側板のそれぞれの先端縁から前記天板に平行に延設されたフランジ板とからなるハット形断面の前記金属部材と、当該金属部材のハット形断面の内面に接合された前記繊維強化樹脂部材とによって構成されており、
前記補強部が、前記天板に形成されている、ことを特徴とする請求項に記載のT字形複合構造部材。
【請求項5】
前記サイドシル及び前記Bピラーが、それぞれ、天板と当該天板の両縁から角度をもってそれぞれ延設された一対の側板と当該側板のそれぞれの先端縁から前記天板に平行に延設されたフランジ板とからなるハット形断面の前記金属部材と、当該金属部材のハット形断面の内面に接合された前記繊維強化樹脂部材とによって構成されており、
前記補強部が、前記側板に形成されている、ことを特徴とする請求項に記載のT字形複合構造部材。
【請求項6】
車両のT字形複合構造部材において、
T字形の金属部材と、
前記金属部材の一面に接合されたT字形の繊維強化樹脂部材と、を備え、
前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材とによって形成されたT字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に、前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との接合を補強する補強部がそれぞれ設けられており、
前記補強部では、前記繊維強化樹脂部材の繊維強化樹脂の結晶化度がその周囲よりも低い、ことを特徴とすT字形複合構造部材。
【請求項7】
車両のT字形複合構造部材において、
T字形の金属部材と、
前記金属部材の一面に接合されたT字形の繊維強化樹脂部材と、を備え、
前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材とによって形成されたT字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に、前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材との接合を補強する補強部がそれぞれ設けられており、
前記補強部では、前記繊維強化樹脂部材の繊維強化樹脂の残留応力がその周囲よりも小さい、ことを特徴とすT字形複合構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材と繊維強化樹脂部材とからなるT字形の複合構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、金属部材(アルミ部材)と繊維強化樹脂部材(CFRTP部材:炭素繊維強化熱可塑性樹脂[Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics])とからなる複合構造部材を何種類か開示している。複合構造部材が車両のサイドシルやBピラーに適用された例も開示されている。このような複合構造部材を用いることで、車両を軽量化して燃費向上、即ち、CO排出量低減を実現しようとしている。その一方で、これらの車両のサイドシルやBピラーなどに適用された複合構造部材には、衝突荷重を受け止めるという性能が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-149511号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した複合構造部材では、荷重を受けた際に金属部材と繊維強化樹脂部材との間の接合が剥離すると、荷重を十分に受け止めることができない。そこで、金属部材と繊維強化樹脂部材との間の接合強度を向上させることも望まれている。発明者らは、金属部材と繊維強化樹脂部材との間の接合面の全体で接合強度を向上させるのではなく、局所的に接合強度を高めることでT字形の複合構造部材の荷重に対する強度を効果的に向上させることを知見した。
【0005】
本発明の目的は、荷重に対する強度を向上させることのできる、車両のためのT字形複合構造部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るT字形複合構造部材は、金属部材と、この金属部材の一面に接合された繊維強化樹脂部材とを備えて構成されている。金属部材と繊維強化樹脂部材との接合を補強する補強部が、T字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に設けられている。また、一対の長尺部が、サイドシル及びBピラーであり、サイドシルの前端部及び後端部並びにBピラーの上端部の近傍に補強部がそれぞれ設けられている。
第2の発明に係るT字形複合構造部材は、金属部材と、この金属部材の一面に接合された繊維強化樹脂部材とを備えて構成されている。金属部材と繊維強化樹脂部材との接合を補強する補強部が、T字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に設けられている。また、補強部では、繊維強化樹脂部材の繊維強化樹脂の結晶化度がその周囲よりも低くなっている。
第3の発明に係るT字形複合構造部材は、金属部材と、この金属部材の一面に接合された繊維強化樹脂部材とを備えて構成されている。金属部材と繊維強化樹脂部材との接合を補強する補強部が、T字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に設けられている。また、補強部では、繊維強化樹脂部材の繊維強化樹脂の残留応力がその周囲よりも小さくなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るT字形複合構造部材によれば、荷重に対する強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るT字形複合構造部材を備えた車両のサイドパネルの分解斜視図である。
図2】上記サイドパネルのアウターパネル(複合構造部材)の斜視図である。
図3A】上記複合構造部材における補強部の位置(ハット形断面の天板)を示す斜視図である。
図3B】上記複合構造部材における補強部の位置(ハット形断面の側板)を示す斜視図である。
図4A】上記補強部をリベットで構成する場合の施工前断面図である。
図4B】上記補強部をリベットで形成する場合の施工後断面図である。
図5】上記補強部を摩擦熱接合で形成する場合の一部断面側面図である。
図6】上記補強部をボルト及びナットの締結で形成する場合の一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ実施形態に係るT字形複合構造部材について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態の複合構造部材を備えた車両のサイドパネル1の分解斜視図である。具体的には、一対の長尺材(即ち、サイドシル2及びBピラー3)によって、T字形の複合構造部材が構成されている。サイドパネル1は、アウターパネル1A及びインナーパネル1Bとで構成されている。そして、アウターパネル1Aは、車両外側に位置するアルミ製の金属部材1Mの内面にCFRTP製の繊維強化樹脂部材1Pをアウトサート成形によって一体的に接合することで構成されている。図1は、アウトサート成形される繊維強化樹脂部材1Pを金属部材1Mの内面から分離させた状態を示している。なお、炭素繊維以外の繊維をFRTPの強化繊維として用いてもよい(例えば、ガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維など)。
【0011】
本実施形態の繊維強化樹脂部材1Pはアウトサート成形によって金属部材1Mの内面に接合される。即ち、アウトサート成形は射出成形の一種であるので、上述したCFRTPに用いられている炭素繊維は、不連続繊維として用いられている。本実施形態では、炭素繊維は、オートクレーブ法やRTM法で用いられるような連続繊維としては用いられず、ある程度の長さに切断されて熱可塑性樹脂と混練されて用いられる。不連続繊維としての炭素繊維が混練されたCFRTPは、アルミパネルと一体成形されて複合構造部材を形成している。「インサート成形」の語は、樹脂成形品の一部に金属部品(メタルインサート)を埋め込む場合に用いられるのが一般的である。本実施形態のように金属部品の一部を樹脂で覆うような場合に「アウトサート成形」の語が用いられる。
【0012】
なお、繊維強化樹脂部材1Pのアウトサート成形時に、射出成形機に投入された炭素繊維は、熱可塑性樹脂を射出口に送る射出成形機内部のスクリューによって切断される。切断された炭素繊維は射出口より上流で熱可塑性樹脂と混練される。アウトサート成形は金型を用いた射出成形であるので、成形された樹脂部の形状自由度(成形自由度)は高く、強度及び剛性が必要な部分にリブを容易に設けることができる。図1及び図2に示されるように、繊維強化樹脂部材1Pはその内側に多くのリブが形成されている。なお、リブは、金属部材1Mの内面に直接接触するライナー層から立設される(リブとライナー層とは一体形成されている)。
【0013】
アウターパネル1Aにおけるアウターサイドシル2Aは、ハット形断面(図3A及び図3B参照)を有するアウターシルパネル2Mの内面にシル樹脂部2Pがアウトサート成形によって接合されて構成されている。図3A及び図3Bに示されるように、ハット形断面は、天板2Uと、天板2Uの両縁から角度をもって(図中では90°)それぞれ延設された一対の側板2Sと、側板2Sのそれぞれの先端縁から天板2Uに平行に延設されたフランジ板2Fとからなる。シル樹脂部2Pは、天板2U及び側板2Sの内面に接合されている。フランジ板2Fが、インナーパネル1Bのインナーシルパネル2Bの両側縁とそれぞれスポット溶接され、閉断面のサイドシル2が構築される。アウターパネル1AにおけるアウターBピラー3Aも、アウターサイドシル2Aと同様に、ハット形断面のアウターピラーパネル3M、ピラー樹脂部3P及びインナーパネル1Bのインナーピラーパネル3Bによって構成されている。
【0014】
このようなT字形の複合構造部材に対して、T字形の面に対して車両の外側から荷重(例えば、側突荷重)が作用した場合、当該荷重は、サイドシル2及びBピラー3を伝ってそれらのT字状の交差部(Bピラー3の下端)に集中する傾向がある。そして、複合構造部材の交差部が変形し、この変形に伴って金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの間の接合面が剥離する。この剥離は、上述した荷重が接合面に沿って剪断力として作用するためと考えられる。そして、この交差部の剥離が、交差部に対して反対側の三つの端部(即ち、サイドシル2の前端部及び後端部並びにBピラー3の上端部)へと進展する。金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとが完全に剥離してしまうと、複合構造部材によって荷重をしっかりと受け止めることができない。そこで、本実施形態では、図2に示されるように、剥離の進展を防止するために上述した三つの端部近傍に金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合を補強する補強部Rが設けられている。
【0015】
なお、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合を補強する補強部Rを具体的にどのように構築するかについては追って詳しく説明するが、本実施形態における補強部Rは全て同じであり、一つの補強部Rによる接合強度の増加分はほぼ同じである。本実施形態では、サイドシル2の前端部及び後端部の近傍にそれぞれ三つ(三つ以上)の補強部Rが設けられ、Bピラー3の上端部の近傍に二つの補強部Rが設けられている。また、これらの補強部Rは、何れも、上述したハット形断面の天板(図3A中のアウターサイドシル2Aの天板2U参照)に形成されている。
【0016】
従って、本実施形態では、サイドシル2の前端部及び後端部における金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの各接合強度が、Bピラー3の上端部における金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合強度と異ならされている。このようにすることで、上述した金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの剥離の進展する方向を制御することができる。例えば、上述した補強部Rの数により、トータルの接合強度を異ならせることで、剥離の進展をサイドシル2方向に先に生じさせるか、Bピラー3方向に先に生じさせるかを制御できる。なお、接合強度の大小について、T字形の複合構造部材の上述した接合部に静的な荷重を負荷させて剥離の進展を意図的に生じさせ、先に剥離が生じた補強部Rの方の接合強度が小さいと判断できる。
【0017】
上述したように本実施形態では接合強度を異ならせているが、具体的には、サイドシル2の前端部及び後端部における接合強度が、Bピラー3の上端部における接合強度よりも高くされる。この場合、剥離は、サイドシル2方向よりもBピラー3方向に進展しやすくなり、サイドシル2に沿って剥離が進展しにくくなる。従って、剥離して拘束されなくなったサイドシル2の金属部材1Mや繊維強化樹脂部材1Pがタイヤに向けて変位してタイヤの回転や転舵を阻害してしまうようなことを抑止できる。
【0018】
また、トータルの接合強度には、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合面積の大きさも影響する。このため、サイドシル2の前端部及び後端部における接合強度が、Bピラー3の上端部における接合強度よりも高くなるように、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合面積の大きさを考慮して、補強部Rの数が設定される。
【0019】
また、本実施形態では、補強部Rは、何れも、上述したハット形断面の天板(図3A中のアウターサイドシル2Aの天板2U参照)に形成されている。上述したように車両の外側からサイドシル2やBピラー3に荷重が作用した場合、曲げ応力は、それらの各中立軸(長さ方向の中央の重心)から離れるにつれて、即ち、端部に近づくにつれて強くなるためである。上述した荷重によるサイドシル2やBピラー3の変形(湾曲)を考慮すると、補強部Rをハット形断面の天板に設けるのが効果である。
【0020】
なお、補強部Rは、上述したハット形断面の側板(図3B中のアウターサイドシル2Aの側板2S参照)に形成されてもよい。例えば、Bピラー3に関しては、その天板がよく目に触れる面となる。補強部Rをどのように構築するかにもよるが、補強部Rの外観が目立つような場合は、Bピラー3に関しては側板に補強部Rを形成することで、美麗な外観を実現することができる。ただし、接合強度を向上するために、天板であれば一つで実現できる強度を、側板に設ける場合は対向する各側板に一つずつ計二つ設けなくてはならない場合があるかもしれない。接合強度や外観を考慮して補強部Rの形成位置が決定されればよい。
【0021】
次に、各補強部Rを具体的にどのように構築するかについて説明する。なお、上述したように、補強部Rは、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合を補強するものであり、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの間に構築される。
【0022】
図4A及び図4Bは、リベット4によって補強部Rを構築する場合を示している。図4Aは、補強部Rが形成される前の状態を示しており、リベット4は、円板状の頭部4Aとこの頭部4Aから直角に延設された円筒状の脚部4Bとからなる。頭部4A及び脚部4Bの内部には空間4Cが形成されている。空間4Cの内径は、脚部4Bの環状先端縁に向けて徐々に拡径されている。このリベット4がアウターパネル1Aの繊維強化樹脂部材1P側から打ち込まれることで補強部Rが形成される。なお、アウターパネル1Aの金属部材1Mには、脚部4Bを相通させる貫通孔1Hが予め形成されている。また、頭部4Aと繊維強化樹脂部材1Pとの間には、繊維強化樹脂部材1Pの変形や割れを防止するための金属製のワッシャ12が配される。
【0023】
リベット4の打ち込みに際して、打ち込み箇所の裏側には治具(ダイ)5が配置される。治具5は、上述した空間4Cに対応するなだらかな隆起部5Aと、上述した脚部4Bの環状先端縁に対応するなだらかな環状凹部5Bとを有している。環状凹部5Bは隆起部5Aの周囲に形成されており、打ち込まれたリベット4の脚部4Bの先端は、隆起部5A及び環状凹部5Bによって外方に拡径されつつ、貫通孔1Hの内周縁と係合する。図4Bは、補強部Rが形成後の状態を示しており、治具5は取り除かれている。なお、図4Bでは、脚部4Bの内部に打ち抜かれた繊維強化樹脂部材1Pが残されているが、脚部4B内の繊維強化樹脂部材1Pは除去されてもよい。
【0024】
形成された補強部Rでは、リベット4の頭部4A(ワッシャ12)と拡径された脚部4Bの先端とで繊維強化樹脂部材1P及び金属部材1Mを挟み込み、繊維強化樹脂部材1Pと金属部材1Mとの間の剥離が抑止される。即ち、補強部Rによって繊維強化樹脂部材1Pと金属部材1Mとの間の接合が補強され、補強部Rにおける両者の接合強度が高められている。
【0025】
次に、図5は、摩擦熱接合によって補強部Rを構築する場合を示している。摩擦熱接合では回転するツール6をアウターパネル1Aの金属部材1M側に押し付けて、その摩擦熱で繊維強化樹脂部材1Pの樹脂(CFRTP)を軟化又は溶融させる。軟化又は溶融された繊維強化樹脂部材1Pは、冷却時に金属部材1Mと密着して補強部Rを形成する。ツール6をアウターパネル1Aに押し付ける際には、押し付け箇所の裏側には治具7が配置される。回転するツール6が金属部材1Mに押し付けられると、摩擦熱が金属部材1Mを介して繊維強化樹脂部材1Pに伝わり、繊維強化樹脂部材1Pが軟化又は溶融する。ツール6の回転が停止されたり、ツール6が引き抜かれたりすると、繊維強化樹脂部材1Pは硬化するが、この際に、金属部材1Mと密着して繊維強化樹脂部材1Pと金属部材1Mとの密着強度が向上する。即ち、このとき、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの界面の接合が強化され、接合強度が向上する。
【0026】
なお、摩擦熱接合に際して、金属部材1Mの繊維強化樹脂部材1Pとの接合面には、ミクロサイズ又はナノサイズの微細凹凸孔が形成されていることが好ましい。摩擦熱接合によって、軟化はまた溶融した繊維強化樹脂部材1Pが微細凹凸孔の内部に入り込み、強固な接合強度が得られる。なお、微細凹凸孔は、例えば、ブラスト処理、レーザ加工、化成処理等により形成することができる。
【0027】
また、このとき、繊維強化樹脂部材1P、即ち、高分子化合物の結晶化度を制御することで、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合強度をさらに向上させることができる。結晶化度が高いと、硬度や剛性は高くなるが脆くなってしまう。そこで、繊維強化樹脂部材1Pについては、補強部Rでの結晶化度を周囲よりも低くして伸びやすくし、剥離に対して粘ることで剥離を抑止する。具体的には、繊維強化樹脂部材1Pを徐冷ではなく急冷することで結晶化度を低くすることができる。摩擦熱接合時の繊維強化樹脂部材1Pは、部分的な溶融であり、熱が拡散しやすく急冷となる。なお、結晶化度は、X線回折を用いた公知の手法により測定(算出)することができる。
【0028】
ここでは、摩擦熱接合と共に結晶化度制御を行ったが、結晶化度制御のみで補強部Rを形成することも可能である。例えば、金属部材1Mの内面に繊維強化樹脂部材1Pをアウトサート成形した直後に、繊維強化樹脂部材1Pを部分的に急冷して補強部Rを形成してもよい。補強部R以外の部分の繊維強化樹脂部材1Pは徐冷する。部分的急冷は、アウトサート成形のための金型を開いて、補強部Rを形成する部分にエアを噴射することで行える。あるいは、金型内に形成される冷却水路の形状や冷却水の流量を制御して、繊維強化樹脂部材1Pを金型内で冷却する際に補強部Rを形成してもよい。
【0029】
あるいは、金属部材1Mの内面に繊維強化樹脂部材1Pをアウトサート成形した後に、別工程で結晶化度を制御することによって補強部Rを形成してもよい。例えば、アウトサート成形された繊維強化樹脂部材1Pを部分的にレーザ加熱や超音波加熱によって再溶融させ、これを急冷することで補強部Rを形成してもよい。上述したように、部分的な溶融は熱が拡散しやすいので急冷となる。また、(摩擦熱接合も含めて)再溶融させる場合は、固化の相変化のエネルギーはアウトサート成形時よりも小さくなるので、この点からも急冷となる。
【0030】
なお、上述した結晶化度制御を行う際にも、金属部材1Mの繊維強化樹脂部材1Pとの接合面に、ミクロサイズ又はナノサイズの微細凹凸孔が形成されていることが好ましい。結晶化度制御により、微細凹凸孔近傍での繊維強化樹脂部材1Pの結晶化度をその周囲の結晶化度よりも低くして、微細凹凸孔近傍で繊維強化樹脂部材1Pを伸びやすくできる。この結果、微細凹凸孔に繊維強化樹脂部材1Pが絡みついて剥離に対して粘ることで剥離が抑止され、より強固な接合強度が得られる。なお、微細凹凸孔は、例えば、ブラスト処理、レーザ加工、化成処理等により形成することができる。
【0031】
次に、図6は、ボルト8及びナット9の締結によって補強部Rを構築する場合を示している。アウターパネル1Aにボルト孔11が形成され、このボルト孔11にボルト8及びナット9を締結することで、補強部Rが形成されている。ボルト孔11は、金属部材1Mの内面への繊維強化樹脂部材1Pのアウトサート成形後に穿孔されてもよいし、あらかじめ穿孔された金属部材1Mに繊維強化樹脂部材1Pをアウトサート成形してもよい。この場合、金属部材1Mの孔を残すように繊維強化樹脂部材1Pがアウトサート成形されてもよいし、アウトサート成形後に、繊維強化樹脂部材1Pによって塞がれた金属部材1Mの孔部分を改めて穿孔してもよい。
【0032】
このように形成された補強部Rでは、ボルト8の頭部とナットとによって繊維強化樹脂部材1Pと金属部材1Mとの間の剥離が抑止される。即ち、補強部Rによって繊維強化樹脂部材1Pと金属部材1Mとの間の接合が補強され、補強部Rにおける両者の接合強度が高められている。また、本実施形態では、金属部材1M側にのみワッシャ10が配されているが、繊維強化樹脂部材1P側にもワッシャ10が配されてもよい。あるいは、繊維強化樹脂部材1P側のみにワッシャ10が配されてもよい。さらに、ナット9があらかじめ金属部材1Mに溶接されたウェルドナットでもよい。あるいは、あらかじめボルト8の頭部を金属部材1Mに溶接してウェルドボルトとし、繊維強化樹脂部材1P側からナット9で締結してもよい。
【0033】
繊維強化樹脂部材1Pの結晶化度を制御することで補強部Rを形成することについてはすでに説明した。同様に、繊維強化樹脂部材1Pの残留応力を制御することで補強部Rを形成することもできる。繊維強化樹脂部材1Pの金属部材1Mからの剥離による破断は、荷重と残留応力との和が界面接合力を超えると生じる。従って、残留応力を低減することで、接合強度を向上させることができる。例えば、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの間の界面の残留応力は、次の式から得られる。(界面の平均残留応力)=(熱膨張力の差)×(温度差)×(弾性率)=(100-23)[樹脂-アルミ:ppm/°C]×(120-20)[金型温度-室温:°C]×4[樹脂弾性率:GPa]=31[MPa]
【0034】
界面接合力が40MPaの場合、上記のように残留応力が31MPaであると、荷重9MPaで剥離・破断が生じる。残留応力31MPaをさらに低減することで、荷重に対する耐強度を向上させることができる。具体的には、いわゆるアニール処理やエイジング処理と呼ばれる熱処理を局所的に施す(上述したレーザ加熱や超音波加熱の手法がこれに相当する)ことによって残留応力を低減して補強部Rを形成することができる。なお、残留応力も、X線回折を用いた公知の手法により測定(算出)することができる。
【0035】
本実施形態によれば、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとによって形成されたT字形の複合構造部材の一対の長尺部の交差部に対して反対側の三つの端部近傍に、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合を補強する補強部Rがそれぞれ設けられている。従って、上述した三つの端部近傍に金属部材1Mと前記繊維強化樹脂部材1Pと接合強度を局所的に高める補強部Rを形成することで、T字形の複合構造部材の荷重に対する強度を効果的に向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態では、上述した一対の長尺部が、サイドシル2及びBピラー3であり、サイドシル2の前端部及び後端部並びにBピラー3の上端部の近傍に補強部Rがそれぞれ設けられている。上述した一対の長尺部(サイドシル2及びBピラー3)の交差部はBピラー3の下端であり、側突荷重に対してサイドシル2及びBピラー3での金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの剥離を効果的に抑止できる。この結果、車両の耐側突性能を向上させることができる。
【0037】
ここで、本実施形態では、補強部Rによって、サイドシル2の前端部及び後端部における金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの各接合強度が、Bピラー3の上端部における金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合強度と異ならされている。これにより、金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの剥離の進展する方向を制御することができる。
【0038】
具体的には、本実施形態では、サイドシル2の前端部及び後端部における金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの各接合強度が、Bピラー3の上端部における金属部材1Mと繊維強化樹脂部材1Pとの接合強度よりも高くされている。この場合は、剥離はサイドシル2方向よりもBピラー3方向に進展しやすくなり、サイドシル2に沿って剥離が進展しにくくなる。従って、剥離して拘束されなくなった金属部材1Mや繊維強化樹脂部材1Pがタイヤに向けて変位してタイヤの回転や転舵を阻害してしまうようなことを抑止できる。
【0039】
ここで、本実施形態では、サイドシル2及びBピラー3が上述したハット形断面の金属部材1Mとハット形断面の内面に接合された繊維強化樹脂部材1Pとによって構成されている。車両の外側からサイドシル2やBピラー3に荷重が作用した場合、曲げ応力はそれらの各中立軸(長さ方向の中央の重心)から離れるにつれて(即ち、端部に近づくにつれて)強くなる。従って、上述した荷重によるサイドシル2やBピラー3の変形(湾曲)を考慮すると、補強部Rがハット形断面の天板(2U)に形成されると曲げ応力に効果的に対抗できる。
【0040】
一方、補強部Rはハット形断面の側板(2S)に形成されてもよい。Bピラー3に関しては、その天板がよく目に触れる面となる。側板に補強部Rを形成することで、補強部Rの外観が目立つようなことを回避でき、美麗な外観を実現することができる。
【0041】
また、本実施形態では、補強部Rにおける繊維強化樹脂部材1Pの繊維強化樹脂の結晶化度がその周囲よりも低い。補強部Rの結晶化度を周囲よりも低くすることで繊維強化樹脂部材1Pが剥離に対して粘るので、効果的に剥離を抑止することができる。
【0042】
補強部Rにおける繊維強化樹脂部材1Pの繊維強化樹脂の残留応力をその周囲よりも低くしてもよい。この場合も、残留応力を周囲よりも低くすることで繊維強化樹脂部材1Pが剥離しにくくなり、効果的に剥離を抑止することができる。
【0043】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上実施形態では、Bピラー3の上端部の接合強度をサイドシル2の前/後端部近傍の各接合強度と異ならせるのに、同じ構造を有する補強部Rの数を変えた。しかし、違う構造を有する補強部Rを設けることで、接合強度と異ならせてもよい。また、上記実施形態の繊維強化樹脂部材1Pは、熱可塑性樹脂を用いたものであるが、繊維強化樹脂部材が熱硬化性樹脂によって形成されてもよい。この場合、繊維強化樹脂部材の表面は種々の方法(例えば、接着剤を用いた方法)で金属部材の表面と接合され得る。
【符号の説明】
【0044】
1M 金属部材
1P 繊維強化樹脂部材
2 サイドシル(長尺材)
2U (ハット形断面の)天板
2S (ハット形断面の)側板
2F (ハット形断面の)フランジ板
3 Bピラー(長尺材)
R 補強部
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6