(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】被覆材
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20231016BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231016BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231016BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231016BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/20
(21)【出願番号】P 2019174487
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】光部 沙織
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157584(JP,A)
【文献】特開平09-157587(JP,A)
【文献】特開2013-227416(JP,A)
【文献】特開2005-162950(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0210022(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤及び硬化剤からなる被覆材であって、
上記主剤は、(A)ポリオール化合物、(B)顔料、(C)アルコキシシラン化合物、及び(D)脂肪族炭化水素含有非水溶剤を含み
(但し、繰り返し単位の数が2~40のアルキレンオキサイド鎖を含有する重量平均分子量150~3500のアルコキシシラン化合物を含むものを除く。)、
上記硬化剤は、(E)ポリイソシアネート化合物、及び(F)テトラアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする被覆材。
【請求項2】
上記(C)アルコキシシラン化合物が、テトラアルコキシシラン及び/またはアルキルアルコキシシランを含むことを特徴とする請求項1に記載の被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構築物等においては、その躯体の保護や美観性の向上等を目的として、各種の塗料によって塗装仕上げが行われている。しかし、近年、都市部等においては、自動車等からの排出ガスによって大気中に油性の汚染物質等が浮遊しており、これら汚染物質により塗膜表面が汚染されやすい状況となっている。
【0003】
これに対し、耐汚染性の向上を図る技術として、塗料にシリケート化合物を配合する手法が種々提案されている。例えば、特開2005-263839号公報(特許文献1)には、メルカプト官能基を含有するアルコキシシラン化合物、オルガノシリケート化合物及び有機錫触媒を組み合わせたイソシアネート硬化型の塗料組成物が開示されている。このような2液型塗料では、十分なポットライフの確保が重要である。しかし、引用文献1の実施例ではクリヤー塗料に関する開示しかなく、顔料等の粉体成分を含む場合において十分なポットライフを確保するにはまだ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、ポリオール化合物、顔料を含む主剤及びポリイソシアネート化合物を含む硬化剤からなる被覆材において、十分なポットライフを確保し、かつ優れた塗膜物性を発現させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリオール化合物、顔料を含む主剤及びポリイソシアネート化合物を含む硬化剤からなる被覆材において、主剤及び硬化剤にそれぞれ特定のシラン化合物を含むことに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1.主剤及び硬化剤からなる被覆材であって、
上記主剤は、(A)ポリオール化合物、(B)顔料、(C)アルコキシシラン化合物、及び(D)脂肪族炭化水素含有非水溶剤を含み(但し、繰り返し単位の数が2~40のアルキレンオキサイド鎖を含有する重量平均分子量150~3500のアルコキシシラン化合物を含むものを除く。)、
上記硬化剤は、(E)ポリイソシアネート化合物、及び(F)テトラアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする被覆材。
2.上記(C)アルコキシシラン化合物が、テトラアルコキシシラン及び/またはアルキルアルコキシシランを含むことを特徴とする1.に記載の被覆材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主剤及び硬化剤を混合した際の安定性(ポットライフ)に優れ、種々の塗膜物性(例えば、色、艶、耐汚染性等)において安定した効果を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
本発明の被覆材は、主剤及び硬化剤からなり、上記主剤は、(A)ポリオール化合物、(B)顔料、(C)アルコキシシラン化合物、及び(D)脂肪族炭化水素含有非水溶剤を含み、上記硬化剤は、(E)ポリイソシアネート化合物、及び(F)テトラアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とするものである。
【0011】
(主剤)
主剤は、(A)ポリオール化合物、(B)顔料、(C)アルコキシシラン化合物、及び(D)脂肪族炭化水素含有非水溶剤を含むことを特徴とするものである。
【0012】
(A)ポリオール化合物(以下、「(A)成分」ともいう)としては、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、含フッ素ポリオール等が挙げられ、その他、フェノールレジンポリオール、エポキシポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリエステル-ポリエーテルポリオール、ウレア分散ポリオール、カーボネートポリオール等を使用することも可能である。(A)成分としては、これらの1種または2種以上が使用できるが、この中でもアクリルポリオールを含むことが望ましい。
【0013】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グルコース、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコールに、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等を付加して得られるポリオール等が挙げられる。
【0014】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の多価カルボン酸との縮合重合体等が挙げられる。
【0015】
アクリルポリオールとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、水酸基含有モノマー及び必要に応じその他のモノマーを共重合したものが使用できる。このうち(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等、水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル等のヒドロキシアリルエーテル等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
【0016】
また、アクリルポリオールを構成するその他のモノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド含有モノマー;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられ、必要に応じこれらの1種または2種以上が使用できる。
【0017】
含フッ素ポリオールは、樹脂骨格にフッ素原子と水酸基を有する化合物である。含フッ素ポリオールは、例えば、フルオロオレフィンモノマー、フルオロアルキル基含有アクリル系モノマー等の含フッ素モノマーと、水酸基含有モノマーと、必要に応じてその他の重合性モノマーとを共重合することにより得ることができる。
【0018】
フルオロオレフィンモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロオレフィン類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等が挙げられる。フルオロアルキル基含有アクリル系単量体としては、例えば、パーフルオロメチルメタクリレート、パーフルオロイソノニルメチルメタクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
水酸基含有モノマーとしては、上記アクリルポリオールを構成する上記水酸基含有モノマーと同様のものが使用できる。また、その他の重合性モノマーとしては、上記アクリルポリオールを構成するその他のモノマーと同様のものが使用できる。
【0020】
(A)成分の水酸基価は、好ましくは10~200KOHmg/g(より好ましくは20~100KOHmg/g)である。なお、水酸基価は、試料1gに含まれる水酸基と等モルの水酸化カリウムのmg数によって表される値であり、JIS K 1557-1:2007 プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法-第1部:水酸基価の求め方に基づいて測定した値である。なお、本発明において「α~β」は「α以上β以下」と同義である。
【0021】
本発明では、(A)成分として、(A-1)アミノ基及び/またはカルボキシル基を有するポリオール化合物(以下、「(A-1)成分」ともいう)を含有することが好ましい。このような(A-1)成分を1種以上含有することで、本発明の効果をいっそう高めることができる。
(A-1)としては、アミノ基を有するポリオール、カルボキシル基を有するポリオール、アミノ基及びカルボキシル基を有するポリオール等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。例えば、(A-1)成分として、アミノ基を有するポリオール化合物及びカルボキシル基を有するポリオール化合物を含む態様等も好適である。
【0022】
(A-1)成分としては、例えばアミノ基含有モノマー及び/またはカルボキシル基含有モノマーを共重合したものが使用できる。本発明における(A-1)成分としては、特にアミノ基及び/またはカルボキシル基を有するアクリルポリオールが好適である。このようなアクリルポリオールとしては、上記その他のモノマーのうち、アミノ基含有モノマー及び/またはカルボキシル基含有モノマーを用いたもの、即ち、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル、水酸基含有モノマー、並びにアミノ基含有モノマー及び/またはカルボキシル基含有モノマーを共重合したものが使用できる。
【0023】
(A-1)成分におけるアミノ基含有モノマーの比率は、(A-1)成分の構成成分中、好ましくは0.1~40重量%(より好ましくは0.5~30重量%以下)である。
【0024】
(A-1)成分におけるカルボキシル基含有モノマーとしては、特に(メタ)アクリル酸が好適である。カルボキシル基含有モノマーの比率は、(A-1)成分の構成成分中、好ましくは0.1~40重量%(より好ましくは0.5~20重量%以下)である。
【0025】
(A-1)成分のアミン価は、好ましくは0.01~20KOHmg/g以下(より好ましくは0.1~10KOHmg/g以下である。なお、アミン価は過塩素酸で滴定して求める試料1g中の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数で表したアミンと同定した塩基の量であり、JIS K 1557-7:2011 プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法-第7部:塩基性度の求め方(窒素含有量及び全アミン価表示)に基づいて測定した値である。
【0026】
(A-1)成分の酸価は、好ましくは0.1~10KOHmg/g以下(より好ましくは1~8KOHmg/g以下)である。なお、酸価は試料1g中に存在する酸成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数であり、JIS K 5601-2-1:1999 塗料成分試験方法「酸価(滴定法)」に基づいて測定した値である。
【0027】
(A)成分としては、溶剤可溶性樹脂、非水分散性樹脂等が挙げられ、これらを併用することもできる。
【0028】
(B)顔料(以下「(B)成分」ともいう)としては、(B-1)着色顔料(以下「(B-1)成分」ともいう)が含まれることにより、種々の色彩を表出することが可能となる。
【0029】
(B-1)成分としては、有彩色顔料、白色顔料、黒色顔料等が使用できる。このうち、有彩色顔料は、例えば、黄色、橙色、赤色、緑色、青色、紫色等の有彩色を呈する顔料である。このような有彩色顔料としては、例えば、酸化第二鉄、含水酸化第二鉄、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン等の無機質のもの、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機質のもの等が挙げられる。一方、白色顔料は、白色を呈する顔料であり、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等が挙げられる。黒色顔料は、黒色を呈する顔料であり、例えば、鉄黒、鉄‐マンガン複合酸化物、鉄‐銅‐マンガン複合酸化物、鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物、銅‐クロム複合酸化物、銅‐マンガン‐クロム複合酸化物等の無機質のもの、その他カーボンブラック等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。また、その表面に何らかの処理がされたものであってもよい。
【0030】
本発明では、(B)成分として、(B-2)体質顔料(以下「(B-2)成分」ともいう)を混合することもできる。(B-2)成分としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、含水微粉珪酸、タルク、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。(B-2)成分は、例えば、固形分調整、粘性調整、艶調整(艶低減化等)、あるいは貯蔵安定性や顔料混和性の向上化等の目的で使用することができる。
【0031】
(B)成分の混合比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは1~300重量部(より好ましくは5~250重量部)である。また、(B-1)成分は、(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは1~200重量部(より好ましくは5~150重量部)である。(B-2)成分を使用する場合、(B-2)成分は、(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは100重量部以下(より好ましくは1~80重量部)である。
【0032】
(C)アルコキシシラン化合物(以下「(C)成分」ともいう)としては、(C-1)テトラアルコキシシラン化合物、(C-2)アルキルアルコキシシラン化合物、(C-3)シランカップリング剤等、あるいは、これらに由来する化合物(例えば、縮合物、変性物、重合物、共重合物等)等から選ばれる1種以上を使用することができる。(C)成分を含むことにより、ポットライフを十分に確保することができるとともに、種々の塗膜物性(例えば、色、艶、耐汚染性能等)を高めることができる。その作用機構は、以下に限定されるものではないが、主剤中において、(C)成分は上記(B)成分の表面付近に分布(配向)するため、(B)成分の分散安定性を高めることができる。さらに、硬化剤混合時には、(B)成分付近に(C)成分が存在するため、(B)成分と(F)テトラアルコキシシランの反応(凝集)を抑制することができる。その結果、主剤と硬化剤を混合した際の混合安定性に優れ、十分なポットライフを確保することができるとともに、ポットライフ内におけるテトラアルコキシシラン(F)の効果を最適化することができ、優れた塗膜物性を得ることができる。
【0033】
(C-1)テトラアルコキシシラン化合物(以下「(C-1)成分」ともいう)としては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシランの縮合物、及びこれらの変性物等が使用できる。テトラアルコキシシランとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、モノエトキシトリメトキシシラン、モノブトキシトリメトキシシラン、モノペントキシトリメトキシシラン、モノヘトキシトリメトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、ジメトキシジブトキシシラン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0034】
(C-2)アルキルアルコキシシラン化合物(以下「(C-2)成分」ともいう)としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できるが、中でも、アルキル基の炭素数が1~10のアルキルアルコキシシラン化合物を含むことが好ましい。
【0035】
(C-3)シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルトリエトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤の他、イソシアネート基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート基含有シランカップリング剤、酸無水物基(カルボキシル基)含有シランカップリング剤等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0036】
本発明では、(C)成分として、上記(C-1)成分及び/または上記(C-2)成分から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これにより、上記効果をいっそう高めることができる。(C)成分の混合比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは0.05~30重量部(より好ましくは0.1~20重量部)である。
【0037】
本発明の被覆材は、(D)脂肪族炭化水素含有非水溶剤(以下「(D)成分」ともいう)を含む所謂弱溶剤形の材料である。このような(D)成分は、トルエン、キシレン等に比べ低毒性であり、作業上の安全性が高く、さらには大気汚染に対する影響も小さい非水溶剤である。脂肪族炭化水素としては、例えば、n-ヘキサン、n-ペンタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。本発明では、ミネラルスピリット等の混合溶剤を使用することによって、脂肪族炭化水素を導入することもできる。脂肪族炭化水素は、(D)成分の総量に対し5重量%以上含まれることが好ましく、10~80重量%含まれることがより好ましい。
【0038】
(D)成分は、脂肪族炭化水素と混合可能な溶剤を含むものであってもよい。このような溶剤としては、例えば、石油エーテル、石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤の他、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、好適な溶剤として、例えば、混合アニリン点またはアニリン点が12~70℃である石油系溶剤(芳香族炭化水素含有石油混合溶剤)等が挙げられる。なお、混合アニリン点またはアニリン点は、JIS K2256:2013の方法で測定される値である。
【0039】
(D)成分の混合比率は、重ね塗り時の作業性、仕上がり性等の観点から、(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは100~300重量部(より好ましくは120~250重量部)である。なお、(D)成分には、各成分の媒体として使用される溶剤も包含される。
【0040】
本発明の主剤は、上記(A)~(D)成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。例えば、(A)成分の一部、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の一部を混合しミルベースを調製した後、該ミルベースに(A)成分の残部、及び(D)成分の残部を混合(レッドダウン)して製造することができる。これにより、(B)成分の分散性が高まり、本発明の効果をいっそう高めることができる。
【0041】
(硬化剤)
硬化剤は、(E)ポリイソシアネート化合物、及び(F)テトラアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とするものである。
【0042】
(E)ポリイソシアネート化合物(以下、「(E)成分」ともいう)は、1分子中に2以上のイソシアネート基を有し、前記(A)成分と反応して、塗膜を形成するものである。(E)成分としては、(A)成分と常温で架橋しうるものが好適である。なお、ここでいう常温とは、概ね-10℃以上50℃以下、好ましくは5℃以上40℃以下を示す。
【0043】
(E)成分としては、例えばトルエンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(pure-MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添XDI、水添MDI等のイソシアネートモノマーをアルファネート化、ビウレット化、2量化(ウレチジオン化)、3量化(イソシアヌレート化)、アダクト化、カルボジイミド化反応等により誘導体化したもの、及びそれらの混合物が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0044】
本発明では、(E)成分のイソシアネート基含有量は、好ましくは2~40重量%(より好ましくは3~30重量%)である。なお、本発明において、イソシアネート基含有量とは、ポリイソシアネート化合物の固形分中に含まれるイソシアネート基の含有量(重量%)と定義され、イソシアネート基を過剰のアミンで中和した後、塩酸による逆滴定によって求められる値である。
【0045】
(E)成分の混合比率は、(A)成分の水酸基に対するNCO/OH当量比率を考慮して設定すればよい。(A)成分の水酸基と(E)成分のイソシアネート基のNCO/OH当量比率は、好ましくは0.6~1.4(より好ましくは0.8~1.2)である。このような比率であれば、本発明の効果をいっそう高めることができる。
【0046】
(F)テトラアルコキシシラン化合物(以下「(F)成分」ともいう」は、主に形成被膜に親水性を付与する作用を有するものである。このような(F)成分としては、上記(C)成分と同様のテトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシランの縮合物、及びこれらの変性物等が使用できるが、本発明では、(F-1)炭素数が1以上2以下のアルコキシル基と、炭素数が3以上12以下のアルコキシル基を含有するテトラアルコキシシランの縮合物(以下「(F-1)成分」という。)を使用することが好ましい。特に、(F-1)成分としては、その化合物全体のアルコキシル基のうち、5重量%以上50重量%以下が炭素数3以上12以下のアルコキシル基となるようにしたものが好適である。
【0047】
炭素数3以上12以下のアルコキシル基としては、例えば、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等の直鎖アルコキシル基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、1-メチルヘキシルオキシ基、1-エチルペンチルオキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、1,5-ジメチルヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、1-メチルヘプチルオキシ基、t-オクチルオキシ基等の分岐アルコキシル基等が挙げられる。
【0048】
このような(F-1)成分は、公知の方法により製造することができる。(F-1)成分の製造方法としては、例えば、炭素数1以上2以下のアルコキシル基を有するテトラアルコキシシラン縮合物を、炭素数3以上12以下のアルコールで変性する方法等が挙げられる。
【0049】
(F)成分の混合比率は、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対して、SiO2換算で好ましくは0.1~50重量部(より好ましくは1~30重量部)である。(F)成分がこのような範囲であれば、優れた汚染抑制効果等が得られる。
【0050】
なお、本発明におけるSiO2換算とは、アルコキシシラン等のSi-O結合をもつ化合物を、完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO2)となって残る重量分にて表したものである。一般に、アルコキシシランは水と反応して加水分解反応が起こりシラノールとなり、さらにシラノール同士やシラノールとアルコキシにより縮合反応を起こす性質を持っている。この反応を究極まで行うと、シリカ(SiO2)となる。これらの反応は、
RO(Si(OR)2O)nR+(n+1)H2O→nSiO2+(2n+2)ROH (Rはアルキル基を示す。nは整数。)
という反応式で表される。本発明におけるSiO2換算は、この反応式をもとに残るシリカ成分の量を換算したものである。
【0051】
本発明の硬化剤は、上記(E)~(F)成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
【0052】
(被覆材)
本発明の被覆材は、上記主剤と硬化剤を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
また、本発明被覆材は、主剤及び/または硬化剤に、上述の成分の他、本発明の効果に影響しない程度に各種成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、触媒、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、増粘剤、皮張り防止剤、脱水剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、溶剤等が挙げられる。また、上記(A)成分以外の樹脂成分を含むものであってもよい。
【0053】
本発明被覆材は、主に、建築物、土木構造物等に適用することができる。このような部位を構成する基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、ALC、石膏ボード、パーライト板、タイル、ガラス板、木質板、プラスチック板、金属板、等が挙げられる。これら基材は、何らかの表面処理(フィラー処理、パテ処理、サーフェーサー処理、シーラー処理等)が施されたものや、既に塗膜が形成されたもの等であってもよい。
【0054】
本発明の被覆材は、塗装時に希釈を行うことができる。希釈剤としては、上記(D)成分が好ましく、希釈後の(D)成分の総量が上記混合比率を満たす範囲内で希釈することが望ましい。
【0055】
塗装方法としては、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等、種々の方法を採用することができる。塗装時の塗付け量は、1回の塗装当たり、好ましくは30~250g/m2、より好ましくは50~200g/m2である。また、一旦塗装を行い、その塗膜が乾燥した後に、次の塗装(重ね塗り)を行うことができる。乾燥温度は、好ましくは-10~50℃、より好ましくは-5~40℃である。塗り回数は、好ましくは2回以上である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
(A)ポリオール化合物
・カルボキシル基・アミノ基含有アクリルポリオール化合物溶液(固形分:50重量%、水酸基価:40KOHmg/g、酸価:4KOHmg/g、アミン価:2KOHmg/g、媒体:ミネラルスピリット)
(B)顔料
・ルチル型酸化チタン
(C)アルコキシシラン化合物
・(C-1)テトラメトキシシラン
・(C-2)フェニルトリメトキシシラン・ジメトキシメチルフェニルシラン混合物
(D)脂肪族炭化水素含有非水溶剤
・ミネラルスピリット
(E)ポリイソシアネート化合物
・ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体溶液(固形分:100重量%、イソシアネート基含有量:20重量%)
(F)テトラアルコキシシラン化合物
・テトラメトキシシラン化合物のn-ブチルアルコール変性物(平均縮合度4、エステル交換率30%、シリカ残存比率40%)
【0057】
(主剤の製造)
・主剤1
(A)成分200重量部、(B)成分80重量部、(C-1)成分1.5重量部、(D)成分30重量部、及び添加剤(消泡剤、増粘剤等)15重量部を混合、攪拌し主剤1を製造した。
・主剤2
(A)成分200重量部、(B)成分80重量部、(C-2)成分1.5重量部、(D)成分30重量部、及び添加剤(消泡剤、増粘剤等)15重量部を混合、攪拌し主剤2を製造した。
・主剤3
(A)成分200重量部、(B)成分80重量部、((D)成分30重量部、及び添加剤(消泡剤、増粘剤等)15重量部を混合、攪拌し主剤3を製造した。
【0058】
(硬化剤の製造)
(E)成分40重量部、(F)成分20重量部、石油系溶剤40重量部を混合、攪拌し硬化剤1を製造した。
【0059】
(被覆材の製造)
表1に示す主剤と硬化剤の組み合わせに従い、主剤と硬化剤のNCO/OHが当量比で1.0となるように混合し、被覆材を製造し、以下の評価を実施した。
【0060】
(実施例1~2、比較例1)
・試験体作製
300mm×150mm×1mmのアルミニウム板に対し、エポキシ系下塗材を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、標準状態(温度23℃、相対湿度50%)で8時間乾燥させたものを基材とした。
上記基材に、上記の方法によって得た各被覆材を(I)混合直後、(II)混合1時間経過後、(III)混合6時間経過後に、それぞれ乾燥膜厚が40μmとなるように塗装し、標準状態で7日間乾燥させ、試験体(I)、試験体(II)、試験体(III)を作製した。
【0061】
・耐汚染性評価
各試験体を大阪府で南向きに水平面に対して30度の角度で設置し、1年間暴露した後の耐汚染性を評価した。評価は4段階評価とし、優:A>B>C>D:劣とした。結果は表2に示す。
【0062】
・色相安定性
試験体(I)の色相をブランクとし、試験体(II)、試験体(III)における色相変化を評価した。評価基準は、色相変化が全くないものを「A」、色相が明らかに変化したものを「D」とする4段階(優:A>B>C>D:劣)として評価した。結果は表2に示す。
【0063】