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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/02 20060101AFI20231016BHJP
   H02K 11/33 20160101ALI20231016BHJP
   H02K 11/40 20160101ALI20231016BHJP
【FI】
H05F3/02 N
H02K11/33
H02K11/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019217879
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021089797
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健太郎
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-060811(JP,A)
【文献】特開2018-131079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/02
H02K 11/33
H02K 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を備えるモータであって、
前記基板において、特定の電子部品が接続される第1の回路パターンと、
前記基板において、静電気を帯電する当該モータの部材からの距離が前記第1の回路パターンよりも近い位置に形成され、前記静電気を放電するための第2の回路パターンと、
を備え
前記部材は、シャフトであって、前記基板を貫通するように当該モータにおいて備え付けられる、
ことを特徴とする、モータ
【請求項2】
前記第2の回路パターンは、スルーホールによって前記基板上に形成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記第2の回路パターンは、前記基板上に複数形成される、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のモータ。
【請求項4】
前記第2の回路パターンは、前記基板における電源の正極側又は負極側に前記静電気を放電する、
ことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項5】
前記基板において、前記第2の回路パターンと前記正極側又は前記負極側との間にコンデンサを備える、
ことを特徴とする、請求項に記載のモータ。
【請求項6】
前記部材と前記第1の回路パターンとの間の距離と、前記部材と前記第2の回路パターンとの間の距離との差は、0.3ミリメートル以上である、
ことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を備えるモータ(別言すれば、電動機)に関する。
【背景技術】
【0002】
モータには、電子基板が内蔵或いは付設されているものがある。このようなモータは、筐体のサイズを小さくするために、シャフトが電子基板を貫通させているものがある(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-131079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シャフトに樹脂製のファン等が取り付けられ、シャフトに静電気が帯電した場合には、電子基板においてシャフトの貫通部の周辺に信号線があると、静電気放電により、集積回路(IC)等の静電気に弱い部品において素子破壊を発生させるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)ここで開示するモータは、基板を備えるモータであって、前記基板において、特定の電子部品が接続される第1の回路パターンと、前記基板において、静電気を帯電する当該モータの部材からの距離が前記第1の回路パターンよりも近い位置に形成され、前記静電気を放電するための第2の回路パターンと、を備え前記部材は、シャフトであって、前記基板を貫通するように当該モータにおいて備え付けられることを特徴としている
【0006】
)前記第2の回路パターンは、スルーホールによって前記基板上に形成されることが好ましい。
)前記第2の回路パターンは、前記基板上に複数形成されることが好ましい。
)前記第2の回路パターンは、前記基板における電源の正極側又は負極側に前記静電気を放電することが好ましい。
【0007】
)前記基板において、前記第2の回路パターンと前記正極側又は前記負極側との間にコンデンサを備えることが好ましい。
)前記部材と前記第1の回路パターンとの間の距離と、前記部材と前記第2の回路パターンとの間の距離との差は、0.3ミリメートル以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
開示のモータによれば、静電気による電子部品の故障又は電子回路の誤動作を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るモータの分解斜視図である。
図2図1に示したモータの模式的断面図である。
図3図1に示した電子基板の表面図である。
図4図1に示した電子基板の裏面図である。
図5】(a)(b)(c)(d)は図3及び図4に示した電子基板における回路図である。
図6図3及び図4に示した電子基板における放電パターンのスルーホールの断面図である。
図7図3及び図4に示した電子基板における回路パターン間の距離を決定するための実験を説明する図である。
図8図7に示した実験の結果の第1の例を示すテーブルである。
図9図7に示した実験の結果の第2の例を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、実施形態としてのモータ100について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0011】
[1.構成]
図1は本実施形態に係るモータ100の分解斜視図であり、図2図1に示したモータ100の模式的断面図である。本実施形態のモータ100は、例えば事務機器や家庭用電気機器などに使用される小型のブラシレスモータである。なお、モータ100の種類や用途は特に限定されない。例えば、モータ100は、ブラシ付きモータやリニアモータであってもよい。
【0012】
図1及び図2に示すように、モータ100は、いずれもケース101とカバー102との間に内蔵される電子基板1,リード線止め3,ロータ4及びステータ6と、ロータ4と一体回転するシャフト5とを備える。ケース101は有底円筒状に形成され、その底部にはシャフト5の一端側を回転自在に支持するボールベアリング7が取り付けられる。ケース101の開口には、波ワッシャ9を介してボールベアリング8を固定したカバー102が結合される。シャフト5は、電子基板1の開口部11(図3及び図4を用いて後述)を貫通して備えられる。電子基板1には、モータ100の外部の電子機器と接続するためのコネクタ2が接続される。
【0013】
図2に示すように、シャフト5の両端のうちボールベアリング7側はケース101の外側まで延在し、シャフト5の先端部付近にはファン103が取り付けられる。ファン103は、例えば樹脂製であり、周囲の空気中に浮遊する塵等によって静電気を発生させる。ファン103によって発生させられた静電気は、金属製のシャフト5へ移動しやすい。
【0014】
図3図1に示した電子基板1の表面1aの図であり、図4図1に示した電子基板1の裏面1bの図である。
図3及び図4に示すように、電子基板1は、円盤状であり、その中心部にシャフト5を貫通させるための開口部11が形成される。
図3及び図4に示すように、開口部11の周囲には、1以上(図示する例では4つ)の放電パターン12が形成される。放電パターン12は、例えばスルーホール形状であり、ファン103からシャフト5を介して通電された静電気を放電させるための回路パターンとして機能する。放電パターン12の詳細については、図6を用いて後述する。
【0015】
図3及び図4に示すように、放電パターン12よりも電子基板1の半径方向の外側部分には、1以上(図示する例では4つ)のIC14(「IC14a~14d」と称されてもよい。)に接続される1以上のIC接続パターン13が形成される。IC接続パターン13は、IC14に電流又は信号を流すための回路パターンである。なお、図示する例では、各IC14に対して複数のIC接続パターン13が接続されているが、電子基板1の表面1a及び裏面1bのそれぞれにおいて1つのIC接続パターンに限って「13」の符号を付している。また、IC14は、静電気による破損を防止したい種々の電子部品であってよく、集積回路に限定されるものではない。
【0016】
図3及び図4に示すように、電子基板1には、電源ライン(Vcc)15及びグラウンドライン(GND)16が接続される。
図3に示すように、電子基板1には、1以上(図示する例では3つ)のコンデンサ17(「コンデンサ17a~17c」と称されてもよい。)が設置されてよい。シャフト5から静電気は、放電パターン12を通じ、コンデンサ17によりバイパスされた後に、Vcc15又はGND16から放電されてよい。
【0017】
すなわち、IC接続パターン13は、電子基板1において、特定の電子部品が接続される第1の回路パターンの一例である。また、放電パターン12は、電子基板1において、静電気を帯電するモータ100の部材からの距離がIC接続パターン13よりも近い位置に形成され、静電気を放電するための第2の回路パターンの一例である。
静電気を帯電するモータ100の部材は、シャフト5であってよく、電子基板1を貫通するようにモータ100において備え付けられてよい。また、放電パターン12は、スルーホールによって電子基板1上に形成されてよく、電子基板1上に複数形成されてよい。更に、放電パターン12は、電子基板1における電源のVcc15(別言すれば、正極)側又はGND16(別言すれば、負極)側に静電気を放電してよい。また、電子基板1において、放電パターン12と電源のVcc15側又はGND16側との間にコンデンサ17が備えられてよい。
【0018】
図5(a)から図5(d)は本発明の回路図である。
放電ルートの種類は、静電気放電部32がVcc15側であるかGND16側であるかで2ルートあり、この2ルートは各々、放電電流34が流れる静電気帰路33がバッテリー18のマイナス側につながっているかバッテリー18のプラス側につながっているかで2ルートあり、合計4ルートある。なお、静電気放電部32は、静電気発生源31(図1及び図2に示したシャフト5に相当)からの直接の放電を受ける電子基板1上の点である。
【0019】
図5(a)は「静電気放電部32がVcc15側」であって「静電気帰路33がバッテリー18のマイナス側」の放電ルートである。
図5(b)は「静電気放電部32がVcc15側」であって「静電気帰路33がバッテリー18のプラス側」の放電ルートである。
【0020】
図5(c)は「静電気放電部32がGND16側」であって「静電気帰路33がバッテリー18のマイナス側」の放電ルートである。
図5(d)は「静電気放電部32がGND16側」であって「静電気帰路33がバッテリーのプラス側」の放電ルートである。
【0021】
図6は、図3及び図4に示した電子基板1における放電パターン12のスルーホールの断面図である。
図6に示すように、放電パターン12では、符号B1に示すパターン(ハッチング部を参照)によってVcc15又はGND16に接続されていると共に、符号B1から符号B3へ向かう方向及び符号B2から符号B4へ向かう方向へのスルーホールにおいてパターンが形成されている。
【0022】
なお、放電パターン12の形状は、スルーホール形状に限定されるものではなく、例えば、避雷針の形状であってもよく、更には4つの放電パターン12の少なくとも2つを結ぶ導電線パターン等であってもよい。これらの場合にも、避雷針及び導電線パターンはVcc15又はGND16に接続され、避雷針及び導電線パターンに流れ込んだ静電気はVcc15又はGND16に放電される。
【0023】
図7は、図3及び図4に示した電子基板1における回路パターン間の距離を決定するための実験を説明する図である。
図7に示す試験回路基板20には、回路パターン#1,#2,#3が形成され、GND21が接続される。放電ガン30とGND21との間には静電気帰路22としてケーブルが接続されている。回路パターン#1は図3及び図4に示した放電パターン12に相当し、回路パターン#2は図3及び図4に示したシャフト5に相当し、回路パターン#3は図3及び図4に示したIC接続パターン13に相当する。回路パターン#1と回路パターン#2との間の距離はaであり、回路パターン#2と回路パターン#3との間の距離はbである。ここで、放電ガン30によって、回路パターン#2に対して放電することによって、図3及び図4に示した電子基板1における回路パターン間の距離を決定する。
【0024】
図8は、図7に示した実験の結果の第1の例を示すテーブルである。図8に示す例では、回路パターン#1と回路パターン#2との間の距離aは0.585mmであり、回路パターン#2と回路パターン#3との間の距離bは0.596mmであり、距離aと距離bとの差は0.011mmである。
放電ガン30によってパターン#2に合計100回放電した。パターン#1には、+4kVの電流が9回放電し、-4kVの電流が42回放電し、合計51回の放電が観察された。また、パターン#3には、+4kVの電流が39回放電し、-4kVの電流が6回放電し、合計45回の放電が観察された。更に、両方のパターン#1,#3には、+4kVの電流が2回放電し、-4kVの電流が2回放電し、合計4回の放電が観察された。
【0025】
このように、距離aと距離bとの差が0.011mmと近いと、静電気の放電を防ぎたいパターン#3に放電してしまうおそれがある。
図9は、図7に示した実験の結果の第2の例を示すテーブルである。図9に示す例では、回路パターン#1と回路パターン#2との間の距離aは0.676mmであり、回路パターン#2と回路パターン#3との間の距離bは0.998mmであり、距離aと距離bとの差は0.322mmである。
【0026】
放電ガン30によってパターン#2に合計200回放電した。パターン#1には、+4kVの電流が100回放電し、-4kVの電流が100回放電し、合計200回の放電が観察された。また、パターン#3には、+4kVの電流が0回放電し、-4kVの電流が0回放電し、合計0回の放電が観察された。
このように、距離aと距離bとの差が0.3mm以上、好ましくは0.322mm以上であれば、静電気の放電を防ぎたいパターン#3への放電を防ぐことができる。
【0027】
[2.効果]
(1)上述したモータ100によれば、放電パターン12が電子基板1において静電気を帯電するモータ100の部材からの距離がIC接続パターン13よりも近い位置に形成されるため、静電気による電子部品の故障又は電子回路の誤動作を抑制できる。
(2)また、静電気を帯電するモータ100の部材がシャフト5であって電子基板1を貫通するようにモータ100において備え付けられるため、モータ100の筐体のサイズを小さくすることができる。
【0028】
(3)また、放電パターン12はスルーホールによって電子基板1上に形成されるため、シャフト5からの放電が電子基板1の表面1aと裏面1bとのいずれに対して発生した場合であっても静電気を適切に放電できる。
(4)また、放電パターン12は電子基板1上に複数形成されるため、組み付け誤差によりシャフト5と電子基板1の開口部11との間に隙間(別言すれば、遊び)がある場合や、電子基板1の開口部11内においてシャフト5が振動した場合においても、シャフト5とIC接続パターン13との距離と、シャフト5と放電パターン12との距離との差を、適切に保つことができる。
【0029】
(5)また、放電パターン12は電子基板1における電源の正極側又は負極側に静電気を放電するため、電子基板1上の電子部品を適切に保護できる。
(6)また、電子基板1において放電パターン12と電源の正極側又は負極側との間にコンデンサ17が備えられるため、電子基板1上を放電される電流をパルス状にして(別言すれば、高周波の信号として)小さなインピーダンスのコンデンサ17に流すことができる。これにより、IC14等の電子部品に静電気が流れ出すことなく、確実にしかも迅速にコンデンサ17を通じて静電気を流すことにより、電子部品の故障の可能性をより低減できる。
【0030】
(7)また、静電気を帯電するモータ100の部材とIC接続パターン13との距離と、静電気を帯電するモータ100の部材と放電パターン12との距離との差は、0.3mm以上であるため、電子基板1上の電子部品を適切にしかも確実に保護できる。
【0031】
[3.その他]
開示の技術は上述した各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。各実施形態の各構成及び各処理は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0032】
100 :モータ
101 :ケース
102 :カバー
103 :ファン
1 :電子基板
1a :表面
1b :裏面
11 :開口部
12 :放電パターン
13 :IC接続パターン
14,14a,14b,14c,14d :IC
15 :Vcc
16,21:GND
17,17a,17b,17c :コンデンサ
18 :バッテリー
2 :コネクタ
3 :リード線止め
4 :ロータ
5 :シャフト
6 :ステータ
7 :ボールベアリング
8 :ボールベアリング
9 :波ワッシャ
20 :試験回路基板
22 :静電気帰路
30 :放電ガン
31 :静電気発生源
32 :静電気放電部
33 :静電気帰路
34 :放電電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9