(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】湿潤粉体塗工装置制御プログラム、湿潤粉体塗工装置、及び塗工膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20231016BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20231016BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231016BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231016BHJP
B05C 1/08 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M4/04 A
B05D1/28
B05D3/00 D
B05D3/00 B
B05D7/24 301A
B05C1/08
(21)【出願番号】P 2020040373
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】草野 巧巳
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
(72)【発明者】
【氏名】池田 丈典
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特許第7242869(JP,B2)
【文献】特開2020-146625(JP,A)
【文献】特開2020-116494(JP,A)
【文献】特開2018-010822(JP,A)
【文献】特開2016-219343(JP,A)
【文献】特開平03-123670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
B05D 1/28
B05D 3/00
B05D 7/24
B05C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに以下の手順を実行させるための湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
(1)
前記手順は、
(A)操作者に、
(a)湿潤粉体の圧縮係数K、内部摩擦角の最小値δ
min及び最大値δ
max、壁面摩擦角の最小値φ
min及び最大値φ
max、並びに、ゆるみ嵩密度ρ、
(b)第1ロール~第(n-1)ロール(n≧3)で圧縮され、第nロールにより基材表面に転写される前記湿潤粉体の目標目付バラツキy、並びに、
(c)前記第1ロールの直径D
1、第2ロールの直径D
2(但し、D
2/D
1≧1.00)、及び、前記第1ロールの周速度V
1に対する前記第2ロールの周速度V
2の比r
1(=V
2/V
1>1)
の入力を求め、入力されたこれらの変数をメモリに記憶させる手順Aと、
(B)δ
minかつφ
minの条件での前記湿潤粉体の供給量Wの最小値W
min、及び、δ
maxかつφ
maxの条件での前記湿潤粉体の供給量Wの最大値W
maxを取得し、これらを前記メモリに記憶させる手順Bと、
(C)次の式(5)を前記メモリに予め記憶させておき、前記式(5)から前記目標目付バラツキ(±y%)を達成することができる供給量の最適値W
calcを算出し、これを前記メモリに記憶させる手順Cと、
W
calc=50{(W
max-W
min)+Δg}/y …(5)
但し、Δgは、湿潤粉体塗工装置の機械的なギャップのバラツキに起因する供給量のバラツキ、
(D)粉体供給量がW
calcとなる時の前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの最適値G
calcを算出し、これを前記メモリに記憶させる手順Dと
を備えている。
(2)前記手順Bは、次の式(1)及び式(2)に基づいて、δ
minかつφ
minの条件でのニップアングルαの最小値α
min、及び、δ
maxかつφ
maxの条件での前記ニップアングルαの最大値α
maxを算出し、算出されたα
min及びα
max、並びに、次の式(3)に基づいて、それぞれ、W
min及びW
maxを算出し、これらを前記メモリに記憶させるものからなり、
前記手順Dは、次の式(6)を前記メモリに記憶させておき、前記式(6)からG
calcを算出するものからなる。
【数1】
【数2】
【数3】
但し、
r
1は、前記第1ロールの周速度V
1に対する前記第2ロールの周速度V
2の比(=V
2/V
1>1)、
Gは、前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの初期値、
σは、前記第1ロールと前記第2ロールとの間に作用する圧縮応力、
dσ/dxは、前記第1ロールと前記第2ロールの中心間を結ぶ線に対して垂直方向をx軸とした時の前記σの変化率、
C
0は、任意の定数、
Hは、塗工幅、
ΔLは、微小長さ、
α
m=(α
min+α
max)/2、
θは、前記第1ロールと前記第2ロールの中心間を結ぶ線と、前記第2ロールの中心と前記第2ロールの表面上の点とを結ぶ線とのなす角。
【請求項2】
前記手順Aは、前記操作者に前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの初期値Gの入力を求め、これを前記メモリに記憶させる手順をさらに含む請求項1に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
【請求項3】
前記第1ロール-前記第2ロール間の実ギャップG
1を、G
calcの1倍以上に設定する手順Eをさらに備えている
請求項1又は2に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
【請求項4】
前記手順Aは、前記操作者に前記湿潤粉体の平均粒径d
aveの入力を求め、これを前記メモリに記憶させる手順をさらに含み、
前記手順Eは、前記G
1を前記d
aveの8倍以下に設定する手順をさらに含む
請求項3に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
【請求項5】
前記手順Aは、前記操作者に前記湿潤粉体の平均粒径d
aveの入力を求め、これを前記メモリに記憶させる手順をさらに含み、
G
calc>8×d
aveである場合には、前記操作者に塗工不能である旨を告知する手順Fをさらに備えている
請求項1から4までのいずれか1項に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
【請求項6】
次の式(7)及び式(8)を満たすように、第iロール(2≦i≦n-1)の周速度V
iに対する第(i+1)ロールの周速度V
i+1の比(=V
i+1/V
i=r
i)を調整し、
次の式(9)を満たすように、第(i+1)ロールと第(i+2)ロールとの間のギャップG
i+1に対する、第iロール(1≦i≦n-2)と前記第(i+1)ロールとの間のギャップG
iの比(=G
i/G
i+1=r
Gi)を調整する手順G
をさらに備えている
請求項1から5までのいずれか1項に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
1.1≦r
i≦4.0 …(7)
0.95W
calc/W
c≦r
n-1!=V
n/V
1≦1.05W
calc/W
c …(8)
1.1≦r
Gi≦4.0 …(9)
但し、W
cは、前記基材表面への前記湿潤粉体の目標目付量。
【請求項7】
前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの初期値Gに対する前記G
calcの誤差(=|G
calc-G|×100/G)がしきい値以内であるか否かを判断し、前記誤差が前記しきい値を超えている時には、前記G
calcを前記Gに代入し、前記手順B~前記手順Dを繰り返す手順Hをさらに含む
請求項1から6までのいずれか1項に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラム。
【請求項8】
以下の構成を備えた湿潤粉体塗工装置。
(1)前記湿潤粉体塗工装置は、
隣接するロールの間で湿潤粉体を圧縮し、圧縮された前記湿潤粉体からなる成形物を下流側にあるロールの表面に保持するための第1ロール~第(n-1)ロール(n≧3)と、
前記第(n-1)ロールの表面に付着している前記成形物を基材の表面に転写するための第nロールと、
前記第1ロール~前記第nロールを互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップG
i(1≦i≦n-1)を調整するための駆動装置と、
前記第1ロールと第2ロールとの間のギャップG
1に湿潤粉体を供給するための湿潤粉体供給装置と、
前記第nロールに基材を供給するための基材供給装置と、
前記湿潤粉体塗工装置の動作を制御する制御装置と
を備えている。
(2)第iロール(1≦i≦n-1)の直径はD
iであり、第(i+1)ロールの直径はD
i+1(但し、D
i+1/D
i≧1.00)である。
(3)前記駆動装置は、前記第iロール(1≦i≦n-1)の周速度をV
i、前記第(i+1)ロールの周速度をV
i+1としたときに、V
i<V
i+1となるように、前記第1ロール~前記第nロールを、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。
(4)前記制御装置のメモリには、
請求項1から7までのいずれか1項に記載の湿潤粉体塗工装置制御プログラムが格納されている。
【請求項9】
請求項8に記載の湿潤粉体塗工装置を用いて、基材表面に湿潤粉体を塗工する塗工膜の製造方法。
【請求項10】
前記湿潤粉体は、二次電池用活物質、導電材、バインダー、及び溶媒を含む
請求項9に記載の塗工膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤粉体塗工装置制御プログラム、湿潤粉体塗工装置、及び塗工膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、直径が同一又は異なり、かつ、周速度が異なる複数の非等速ロールを用いて湿潤粉体を基材上に塗工する場合において、目付量のバラツキの少ない塗工条件を算出することが可能な湿潤粉体塗工装置制御プログラム、このようなプログラムを備えた湿潤粉体塗工装置、及びこのような湿潤粉体塗工装置を用いた塗工膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池用電極は、一般に、導電性基材の表面に活物質が塗布された構造を備えている。このような二次電池用電極を製造する方法としては、
(a)活物質を含む電極ペーストを基材表面に塗布し、乾燥させる方法、
(b)活物質を含む造粒粉体(湿潤粉体)を基材表面に塗工する方法
などが知られている。
これらの中でも、湿潤粉体を塗工する方法は、溶媒の乾燥工程を短縮することができる、活物質の塗工量の制御が容易である、などの利点がある。そのため、このような方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、湿潤粉体を基材表面に塗工する方法ではないが、直径が同一である2本の等速ロールを用いて造粒粉体を圧縮し、板状又はペレット状に加工する場合において、ロール径やギャップなどの塗工条件と内部摩擦角や壁面摩擦角などの粉体特性から、ロール間に作用する圧縮応力を算出する方法が開示されている。
【0004】
特許文献1には、
直径が同一である3本の非等速ロールを用いて集電箔上に溶媒及び活物質を含む湿潤造粒物を塗工し、集電箔上に電極合剤層を形成する湿潤粉体成膜方法において、
使用する溶媒の粘度、活物質の溶媒に対する接触角、及び、湿潤造粒物の固形分の重量割合を所定の範囲内とする方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、集電箔上に厚みが均一な電極合剤層を形成することができる点が記載されている。
【0005】
特許文献2には、
直径が同一である第1ロール及び第2ロールを用いて、活物質を含む湿潤材料を圧延する工程と、
直径が同一である第2ロール及び第3ロールを用いて、金属箔上に活物質材料を転写する工程と
を備えた電極の製造方法において、
(a)転写後の活物質材料の単位面積当たりの重量Wc、
(b)圧延後の第2ロール上の活物質材料の単位面積当たりの重量Wb、
(c)第2ロールの周速Vbに対する第3ロールの周速Vcの比Vr(=Vc/Vb)、
(d)転写後の第3ロール上の活物質材料の密度ρC、
(e)圧延後の第2ロール上の活物質材料の密度ρB、及び
(f)活物質材料の許容最大密度ρM
の間に所定の関係が成り立つように、第2ロールと第3ロールとの間の隙間、及び周速比Vrを決定する方法が開示されている。
同文献には、このような方法により転写不良を抑制できる点が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、湿潤粉体を基材表面に塗工する方法ではないが、金属帯を圧延機で圧延する場合において、
(a)複数コイルの圧延中に複数スタンドまたは複数パスの入側板厚、出側板厚、圧延荷重、先進率、および張力の実績データを測定し、
(b)これらの測定値と圧延理論式を用いて圧延ロールと被圧延材との摩擦係数および被圧延材の二次元平均変形抵抗を演算し、
(c)その演算結果および前記測定値を複数コイルの圧延中に一定期間蓄積し、
(d)前記演算結果および前記測定値に基づいて二次元平均変形抵抗式および摩擦係数式を学習し、
(e)前記学習結果に基づきロール間隙の設定を行う
ロール間隙設定方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、板厚精度が向上し、歩留が向上する点、及び、ロール間隙の設定精度が向上する点が記載されている。
【0007】
特許文献1、2に開示されているように、直径が同一である3本の非等速ロールを用いると、導電性基材の表面に造粒粉体を連続的に塗工することができる。また、特許文献2に記載されているように、第2ロールと第3ロールとの間の隙間、及び第2ロールと第3ロールの周速比Vrを制御すると、転写不良を抑制することができる。しかしながら、特許文献2に記載された方法では、基材表面への造粒粉体の目付量を正確に制御するのが難しい。
【0008】
一方、非特許文献1には、直径が同一である等速ロールを用いて造粒粉体を圧縮する際に、造粒粉体に加わる圧縮応力を算出する方法が記載されている。この方法を用いると、等速ロール間に投入すべき造粒粉体の供給量を推定することができる。しかし、非特許文献1に記載の方法は、直径が異なる非等速ロールを用いた造粒粉体の圧縮には適用できない。
同様に、特許文献3には、等速ロールを用いて金属帯を圧延する際のロール間隙を設定する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の方法は、直径が異なる非等速ロールを用いた造粒粉体の圧縮には適用できない。
さらに、湿潤粉体を基材表面に塗工する場合において、湿潤粉体の粉体物性のバラツキに起因する塗工膜の膜厚のバラツキを低減する方法について提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-113112号公報
【文献】特開2017-091987号公報
【文献】特開平08-090023号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】J. R. Johanson, J. Appl. Mechanics, 32(4), pp. 842-848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、同径又は異径ロールを用いて湿潤粉体を基材表面に塗工する場合において、湿潤粉体の粉体物性のバラツキに起因する塗工膜の膜厚のバラツキの少ない塗工条件を算出することが可能な湿潤粉体制御プログラムを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなプログラムを備えた湿潤粉体塗工装置を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような湿潤粉体塗工装置を用いた塗工膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムは、コンピュータに以下の手順を実行させるためのものからなる。
(A)操作者に、
(a)湿潤粉体の圧縮係数K、内部摩擦角の最小値δmin及び最大値δmax、壁面摩擦角の最小値φmin及び最大値φmax、並びに、ゆるみ嵩密度ρ、
(b)第1ロール~第(n-1)ロール(n≧3)で圧縮され、第nロールにより基材表面に転写される前記湿潤粉体の目標目付バラツキy、並びに、
(c)前記第1ロールの直径D1、第2ロールの直径D2(但し、D2/D1≧1.00)、及び、前記第1ロールの周速度V1に対する前記第2ロールの周速度V2の比r1(=V2/V1>1)
の入力を求め、入力されたこれらの変数をメモリに記憶させる手順A。
(B)δminかつφminの条件での前記湿潤粉体の供給量Wの最小値Wmin、及び、δmaxかつφmaxの条件での前記湿潤粉体の供給量Wの最大値Wmaxを取得し、これらを前記メモリに記憶させる手順B。
(C)次の式(5)を前記メモリに予め記憶させておき、前記式(5)から前記目標目付バラツキ(±y%)を達成することができる供給量の最適値Wcalcを算出し、これを前記メモリに記憶させる手順C。
Wcalc=50{(Wmax-Wmin)+Δg}/y …(5)
但し、Δgは、湿潤粉体塗工装置の機械的なギャップのバラツキに起因する供給量のバラツキ。
(D)粉体供給量がWcalcとなる時の前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの最適値Gcalcを算出し、これを前記メモリに記憶させる手順D。
前記手順Aは、前記操作者に前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの初期値Gの入力を求め、これを前記メモリに記憶させる手順をさらに含むものでも良い。
【0013】
本発明に係る湿潤粉体塗工装置は、以下の構成を備えている。
(1)前記湿潤粉体塗工装置は、
隣接するロールの間で湿潤粉体を圧縮し、圧縮された前記湿潤粉体からなる成形物を下流側にあるロールの表面に保持するための第1ロール~第(n-1)ロール(n≧3)と、
前記第(n-1)ロールの表面に付着している前記成形物を基材の表面に転写するための第nロールと、
前記第1ロール~前記第nロールを互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップGi(1≦i≦n-1)を調整するための駆動装置と、
前記第1ロールと第2ロールとの間のギャップG1に湿潤粉体を供給するための湿潤粉体供給装置と、
前記第nロールに基材を供給するための基材供給装置と、
前記湿潤粉体塗工装置の動作を制御する制御装置と
を備えている。
(2)第iロール(1≦i≦n-1)の直径はDiであり、第(i+1)ロールの直径はDi+1(但し、Di+1/Di≧1.00)である。
(3)前記駆動装置は、前記第iロール(1≦i≦n-1)の周速度をVi、前記第(i+1)ロールの周速度をVi+1としたときに、Vi<Vi+1となるように、前記第1ロール~前記第nロールを、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。
(4)前記制御装置のメモリには、本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムが格納されている。
【0014】
さらに、本発明に係る塗工膜の製造方法は、本発明に係る湿潤粉体塗工装置を用いて、基材表面に湿潤粉体を塗工することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
後述する計算式を用いると、同径又は異径の非等速ロール(第1~第nロール)を用いて湿潤粉体を圧縮する場合において、第1ロールと第2ロールの周速度比がr1であり、かつ、第1ロールと第2ロールの間のギャップがGである時のニップアングルαを求めることができる。また、αが分かると、後述する計算式から、そのαに対応する供給量Wを算出することができる。さらに、湿潤粉体の粉体物性の最小値(δmim、φmin)及び最大値(δmax、δmax)について、それぞれ、このような計算を行うと、粉体物性が最小値であるときの供給量の最小値Wmin、及び粉体物性が最大値であるときの供給量の最大値Wmaxを算出することができる。
【0016】
WmaxとWminの差(すなわち、湿潤粉体の物性値のバラツキに起因する湿潤粉体の供給量のバラツキ)は、第1ロール及び第2ロール間に供給される湿潤粉体の供給量が多くなるほど小さくなる。この時、目付量のバラツキを目標値(±y%)以下にするための粉体供給量の最小値は、式(5)のWcalcで与えられる。さらに、Wcalcが分かると、第1ロール及び第2ロール間に供給される湿潤粉体の供給量をWcalc以上にするために必要なギャップの最適値Gcalcを求めることができる。そのため、第1ロールと第2ロールの間の実ギャップG1をGcalc以上に設定した状態で湿潤粉体の塗工を行うと、目付量のバラツキを目標値(±y%)以下にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る湿潤粉体塗工装置の模式図である。
【
図2】直径が異なる一対の非等速ロールの断面模式図である。
【
図3】
図3(A)は、粉体とロール表面の間で滑りが生じる場合の主応力の向きの模式図である。
図3(B)は、平均角度で力が加わると仮定した時の主応力の向きの模式図である。
【
図4】湿潤粉体の第2ロール上の供給量とニップアングル及びギャップとの関係を表す模式図である。
【0018】
【
図5】本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムのフロー図である。
【
図8】実施例1で得られた湿潤粉体塗工電極の目付量のバラツキである。
【
図9】実施例2で得られた湿潤粉体塗工電極の目付量のバラツキである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 湿潤粉体]
[1.1. 組成]
本発明において、「湿潤粉体」とは、
(a)少なくとも粉体と液体(分散媒など)とを含み、
(b)固形分体積分率が50%以上100%未満であり、かつ、
(c)静止状態において流体としての性質を持たない
粉体組成物をいう。
【0020】
湿潤粉体は、粉体及び液体に加えて、さらに添加剤を含んでいるもの(すなわち、粉体/液体/添加剤混合系)でも良い。「添加剤」とは、増粘剤、結着剤などの粉体粒子以外の固体成分をいう。添加剤は、粉体、又は、粉体を溶媒に分散させた分散液として添加される。添加剤の固体成分は粉体粒子に付着して機能を発現させるため、固体成分は粉体の一部とみなせる。但し、分散液の溶媒成分は、液体とみなす。
【0021】
湿潤粉体に含まれる粉体の組成は、特に限定されない。粉体としては、例えば、
(a)二次電池の正極活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質であるLiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4など)、
(b)二次電池の負極活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質である黒鉛、Si、Geなど)、
(c)金属粉末、鉱石粉末、高分子ビーズ、デンプン顆粒
などがある。
【0022】
湿潤粉体は、特に、二次電池用活物質、導電材、バインダー、及び溶媒を含むものが好ましい。このような湿潤粉体に対して本発明を適用すると、導電性基材の表面に所定量の活物質を転写する際に、ロール間に供給される粉体量(又は、基材表面への粉体の目付量)を正確に制御することができる。粉体量の制御方法の詳細については、後述する。
【0023】
[1.2. 粒径]
粉体の一次粒子径は、目的に応じて最適な値を選択するのが好ましい。一般に、一次粒子径が小さくなりすぎると、造粒体の作製が困難となる。従って、一次粒子径は、1μm以上が好ましい。一次粒子径は、好ましくは、3μm以上、さらに好ましくは、5μm以上である。
一方、一次粒子径が大きくなりすぎると、表面積が減り、粒子同士の吸着が困難となる。また、薄膜の作製も困難となる。従って、一次粒子径は、100μm以下が好ましい。一次粒子径は、好ましくは、50μm以下、さらに好ましくは、30μm以下である。
【0024】
湿潤粉体の粒径(二次粒子径)は、目的に応じて最適な値を選択するのが好ましい。一般に、二次粒子径が小さくなりすぎると、ロール圧縮による成膜が困難になる。従って、二次粒子径は、50μm以上が好ましい。二次粒子径は、好ましくは、100μm以上、さらに好ましくは、200μm以上である。
一方、二次粒子径が大きくなりすぎると、完成した膜の膜厚や密度がばらつきやすくなる。従って、二次粒子径は、6mm以下が好ましい。二次粒子径は、好ましくは、4mm以下、さらに好ましくは、2mm以下である。
なお、「粒径」とは、レーザー回折・散乱法により測定されたメディアン径(d50)をいう。
【0025】
[2. 湿潤粉体塗工装置]
図1に、本発明に係る湿潤粉体塗工装置の模式図を示す。
図1において、湿潤粉体塗工装置10は、
隣接するロールの間で湿潤粉体を圧縮し、圧縮された湿潤粉体からなる成形物22を下流側にあるロールの表面に保持するための第1ロール12、及び第2ロール14と、
第2ロール14の表面に付着している成形物22を基材20の表面に転写するための第3ロール16と、
第1ロール12、第2ロール14、及び第3ロール16を互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップG
i(i=1、2)を調整するための駆動装置(図示せず)と、
第1ロール12と第2ロール14との間のギャップG
1に湿潤粉体を供給するための湿潤粉体供給装置(図示せず)と、
第3ロール16に基材20を供給するための基材供給装置(図示せず)と、
湿潤粉体塗工装置10の動作を制御する制御装置(図示せず)と
を備えている。
【0026】
[2.1. 第1ロール、第2ロール、及び第3ロール]
第1ロール12及び第2ロール14は、所定の間隔を隔てて水平方向に配置されている。一方、第3ロール16は、所定の間隔を隔てて第2ロール14の下方に配置されている。第1ロール12、第2ロール14、及び第3ロール16は、それぞれ、駆動装置(図示せず)に接続されており、互いに反対方向に回転するようになっている。
なお、第1ロール12と第2ロール14は、ギャップG1に粉体を均一に供給する必要があるため、水平方向に並んでいる必要がある。一方、第3ロール16は、基材20表面への成形物22の転写が可能な位置にあれば良く、必ずしも第2ロール14の下方に配置されている必要はない。
【0027】
第1ロール12は、湿潤粉体を圧縮するためののものである。第2ロール14は、その表面に、圧縮された湿潤粉体からなる成形物22を保持するためのものである。これらは、それぞれ、直径が異なる。また、第1ロール12及び第2ロール14は、互いにロール速度(周速度)が異なるロール(非等速ロール)である。
【0028】
第2ロール14の直径D2は、第1ロール12の直径D1と同一であっても良く、あるいは、D1より大きくても良い。一般に、D2/D1比が大きくなるほど、第2ロール14に粉体を転写しやすくなる。D2/D1比は、好ましくは、1.1以上、さらに好ましくは、1.5以上である。
一方、D2/D1比が大きくなりすぎると、ギャップG1間に十分量の湿潤粉体を供給できなくなる場合がある。D2/D1比は、好ましくは、5.0以下、さらに好ましくは、3.0以下である。
【0029】
第1ロール12の表面と第2ロール14の表面との間の最短距離は、「ギャップG1」に該当する。さらに、第1ロール(低速ロール)12の周速度V1に対する第2ロール(高速ロール)14の周速度V2の比(=V2/V1>1)は、「周速度比r1」に該当する。ギャップG1の大きさは、後述する方法を用いて最適化される。
【0030】
第3ロール16は、第2ロール14の表面に付着している成形物22を基材20の表面に転写するためのものである。第3ロール16の直径D3及び周速度V3、並びに、第2ロール14の表面と第3ロール16の表面との間の最短距離(ギャップG2)は、基材20表面に成形物22を均一に転写可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
さらに、第2ロール14の周速度V2に対する第3ロール16の周速度V3の比(=V3/V2>1)は、「周速度比r2」に該当する。
【0031】
なお、
図1では、ロールの数(n)が3であるケースが描かれているが、これは単なる例示であり、ロールの数nは4以上であっても良い。
すなわち、湿潤粉体塗工装置10は、
隣接するロールの間(すなわち、第iロールと第(i+1)ロールの間)で湿潤粉体を圧縮し、圧縮された前記湿潤粉体からなる成形物を下流側にあるロールの表面(すなわち、第(i+1)ロールの表面)に保持するための第1ロール~第(n-1)ロール(n≧3)と、
前記第(n-1)ロールの表面に付着している前記成形物を基材の表面に転写するための第nロール
の合計n個のロールを備えていても良い。
また、各ロールの位置は、成形物の段階的な圧縮と、基材表面への転写が可能な限りにおいて、特に限定されない。
【0032】
後述するように、第1ロールと第2ロールの間のギャップG1は、目付バラツキが目標値(y)以下となるように設定される。一方、第iロールと第(i+1)ロールとの間のギャップGi(2≦i≦n-1)(特に、第(n-1)ロールと第nロールとの間のギャップGn-1)は、主として、目付量が目標値Wcになるように設定される。
そのため、合計3個のロールを用いて湿潤粉体を塗工する場合において、湿潤粉体の粉体特性のバラツキが大きい時には、第1ロール/第2ロール間のギャップG1が、第2ロール/第3ロール間のギャップG2に対して過度に大きくなる場合がある。G1がG2に対して過度に大きくなると、第2ロール及び第3ロールで成形体を圧縮するのが困難になる場合がある。
このような場合には、ロールの数nを4個以上とし、湿潤粉体(及び成形体)の圧縮を合計(n-2)回行って成形体の厚さを段階的に薄くし、その後で基材20への成形体の転写を行うのが好ましい。
【0033】
[2.2. 駆動装置]
駆動装置(図示せず)は、第1ロール~第nロールを互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップGi(1≦i≦n-1)を調整するためのものである。また、駆動装置は、第iロールの周速度をVi、第(i+1)ロールの周速度をVi+1としたときに、Vi<Vi+1となるように、第1ロール~第nロールを、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。
【0034】
図1に示す例において、駆動装置(図示せず)は、第1ロール12~第3ロール16を互いに反対方向に回転させると同時に、ロール間のギャップG
1、G
2を調整するためのものである。また、駆動装置は、第1ロール12の周速度をV
1、第2ロール14の周速度をV
2、第3ロールの周速度をV
3としたときに、V
1<V
2<V
3となるように、第1ロール12、第2ロール14、及び第3ロール16を、それぞれ、非等速で回転させることが可能なものからなる。駆動装置は、各ロールの周速度V
1、V
2、V
3、ギャップG
1、G
2、及び周速度比r
1、r
2を制御可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
【0035】
[2.3. 湿潤粉体供給装置]
湿潤粉体供給装置(図示せず)は、第1ロール12と第2ロール14との間のギャップG1に湿潤粉体を供給するためのものである。湿潤粉体供給装置は、適時に適量の湿潤粉体をギャップG1に供給可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
【0036】
[2.4. 基材供給装置]
基材供給装置(図示せず)は、第3ロール(第nロール)16に基材20を供給するためのものである。基材供給装置は、第3ロール16に必要量の基材20を供給可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
【0037】
[2.5. 制御装置]
制御装置(図示せず)は、湿潤粉体塗工装置10の動作を制御するためのものである。制御装置は、湿潤粉体塗工装置10の一般的動作を制御するための機構に加えて、メモリを備えている。メモリには、本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムが格納されている。湿潤粉体塗工装置制御プログラムは、目標とする目付量のバラツキを得るために必要な湿潤粉体の供給量の最適値Wcalc、及び、湿潤粉体の供給量をWcalc以上にするために必要なギャップG1の最適値Gcalcを算出するためのプログラムである。プログラムの詳細については、後述する。
【0038】
[3. 塗工膜の製造方法]
本発明に係る塗工膜の製造方法は、
図1に示す湿潤粉体塗工装置10を用いて、基材表面に湿潤粉体を塗工することを要旨とする。塗工膜の製造は、具体的には、以下のようにして行う。
【0039】
[3.1. 塗工方法]
まず、第3ロール16に基材20を巻き付ける。次いで、第1ロール12と第2ロール14の間に湿潤粉体を投入する。この状態で第1ロール12、第2ロール14及び第3ロール16を互いに反対方向に回転させると、湿潤粉体が第1ロール12と第2ロール14の間で圧縮され、シート状に成形される。
この時、第2ロール14の周速度V2を第1ロール12の周速度V1より大きくすると、シート状の成形物22が第2ロール14の表面に付着したまま、第3ロール16まで搬送される。第3ロール16まで搬送された成形物22は、第2ロール14と第3ロール16の間で圧縮されながら、基材20の表面に連続的に転写される。
【0040】
ロールの個数nが4個以上である場合も同様であり、互いに逆方向に回転する第1~第(n-1)ロールで合計(n-2)回の圧縮を行った後、第(n-1)ロール及び第nロールで成形体をさらに圧縮すると、基材20の表面に成形体を転写することができる。
【0041】
[3.2. 塗膜の厚さ]
本発明に係る湿潤粉体塗工装置を用いて湿潤粉体を塗工する場合において、塗膜の厚さは、目的に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。一般に、塗膜が薄くなりすぎると、スケが発生しやすくなる。従って、塗膜の厚さは、5μm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上である。
一方、塗膜が厚くなりすぎると、ひび割れが発生しやすくなる。従って、塗膜の厚さは、300μm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、150μm以下である。
【0042】
[4. 湿潤粉体の供給量の最適値Wcalc及びギャップG1の最適値Gcalcの算出方法]
[4.1. 用語の定義]
ロール間に供給された粉体は、まず、ロール表面との摩擦によって、粉体がロール表面でスリップしながら圧縮される。その結果、粉体の密度は、徐々に上がっていく。さらに密度が上がると、やがてロール速度と粉体の移動速度がほぼ等しくなる。その結果、粉体がロール表面でスリップすることなく圧縮される。
【0043】
「スリップ区間」とは、粉体とロールの間でスリップが発生し、粉体がわずかしか圧縮されない区間をいう。
「ニップ区間」とは、粉体がスリップすることなく圧縮される区間をいう。
「ニップアングル」とは、ニップ区間が開始する地点の第2ロールの回転角度をいう。
「湿潤粉体の供給量」とは、第1ロール/第2ロール間を通過した時点での、単位面積当たりの湿潤粉体の質量をいう。
「湿潤粉体の目付量」とは、第(n-1)ロール/第nロール間を通過した地点での、単位面積当たりの湿潤粉体の質量をいう。
【0044】
図2に、直径が異なる一対の非等速ロールの断面模式図を示す。
図2において、第1ロール及び第2ロールは、直径がそれぞれD
1及びD
2(>D
1)であり、互いに反対方向に回転する非等速ロールである。x軸は、第1ロールと第2ロールの中心間を結ぶ線に対して垂直方向の軸である。σは、第1ロールと第2ロールの間に作用する圧縮応力を表す。σは、xの関数である。
αは、ニップアングルを表す。αは、具体的には、
(a)第1ロールと第2ロールの中心間を結ぶ線と、
(b)第2ロールの中心とニップ区間が始まる第2ロールの表面上の点とを結ぶ線
とのなす角を表す。
【0045】
G1は、第1ロールと第2ロールとの間のギャップを表す。r1は、第1ロール(低速ロール)の周速度V1に対する第2ロール(高速ロール)の周速度V2の比(=V2/V1)を表す。例えば、第2ロールが角度α(又は、角度θ)だけ回転する時、第1ロールは角度D1α/D2r1(又は、D1θ/D2r1)だけ回転する。
Vθ(又は、Vα)は、角度θ(又は、角度α)の位置において、第2ロールが微小長さΔLだけ進んだ時に、角度θ(又は、角度α)の位置を通過する粉体の微小体積を表す。
Wは、ロール間距離が最小となる位置において、第2ロールが微小長さΔLだけ進んだ時に、ロール間距離が最小となる位置(すなわち、ロール間のギャップ)を通過する湿潤粉体の供給量を表す。Wcalcは、後述する計算により求められた供給量Wの最適値を表す。
【0046】
[4.2. ニップアングルの算出]
非等速ロール間を通過する湿潤粉体の供給量Wを算出するためには、まず、ニップアングルαを知る必要がある。αは、粉体の性状(K:圧縮係数、δ:内部摩擦角、φ:壁面摩擦角、ρ:ゆるみかさ密度)、第1ロールの直径D1、第2ロールの直径D2、ギャップG1、及び、周速度比r1に依存する。
【0047】
図3(A)に、粉体とロール表面の間で滑りが生じる場合の主応力の向きの模式図を示す。
図3(B)に、平均角度で力が加わると仮定した時の主応力の向きの模式図を示す。
ニップアングルαを算出するためには、左右のロールにより粉体に加えられる主応力を知る必要がある。左右のロール径が同一である場合、左右のロールによる主応力の向きは同一となる。
一方、ロール径が左右で異なる場合、厳密には、左右のロールによる主応力の向きがずれる。具体的には、
図3(A)に示すように、第1ロールによる主応力の向きとx軸とのなす角は、sin
-1{(D
1/D
2)sinθ}+νと表される。一方、第2ロールによる主応力の向きとx軸とのなす角は、ν+θと表される。さらに、νは、{π-arcsin(sinφ/sinδ)-φ}/2と表される。
【0048】
本発明において、ロール径が左右で異なる場合には、この主応力の向きを左右の平均で仮定する。この場合、
図3(B)に示すように、第1ロール又は第2ロールによる主応力の向きとx軸とのなす角は、それぞれ、[sin
-1{(D
1/D
2)sinθ}+θ+2ν]/2と表される。
【0049】
粉体に加わる圧縮応力σは、粉体がスリップ区間にあるか、あるいは、ニップ区間にあるかにより異なる。次の式(1)に、上記のような仮定をした場合において、粉体がスリップ区間にある時のdσ/dxの一般式を示す。次の式(2)に、上記のような仮定をした場合において、粉体がニップ区間にある時のdσ/dxの一般式を表す。
【0050】
【0051】
但し、
r1は、低速ロール(第1ロール)の周速度V1に対する高速ロール(第2ロール)の周速度V2の比、
Gは、非等速ロール間のギャップ(第1ロールと第2ロールとの間のギャップの初期値)、
σは、非等速ロール間に作用する圧縮応力、
dσ/dxは、非等速ロールの中心間を結ぶ線に対して垂直方向をx軸とした時の前記σの変化率(x軸に対するσの傾き)、
C0は、任意の定数。
【0052】
横軸をθ、縦軸をdσ/dxとして式(1)及び式(2)を描くと、2つの式の交点の座標(θ、dσ/dx)が求められる。この交点におけるθがニップアングルαとなる。
ここで、粉体の圧縮係数Kは、粉体の圧縮試験より求まる、応力と体積の関係より求めることができる。粉体の内部摩擦角δ、及び粉体の壁面摩擦角φは、粉体層せん断試験により求めることができる。さらに、ゆるみかさ密度ρは、周知の方法(例えば、メスシリンダーを用いて測定する方法)により求めることができる。
そのため、粉体性状(K、δ、φ、ρ)、D1、D2、r1、及びGが与えられると、式(1)及び式(2)の交点から、ニップアングルαを求めることができる。
【0053】
なお、式(1)及び式(2)は、左右のロール径が同一である場合にも成り立つ。式(1)及び式(2)に、D1=D2を代入すれば、左右のロール径が同一である場合の一般式を得ることができる。
また、非等速ロールを用いて湿潤粉体を実際に塗工する場合、式(1)及び式(2)のGは、非等速ロール間の実際のギャップの大きさ(G1)を表す。但し、後述するGcalc(目付バラツキを目標値以下にするためのギャップの最小値)を算出するために必要なニップアングルα(αmin、αmax)を算出する時には、Gとしてギャップの初期値を用いる。ギャップの初期値は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。Gcalcの計算をする際には、計算を簡略化するために、ギャップの初期値Gをゼロに設定するのが好ましい。また、ギャップの初期値Gは、ニップアングルの計算を行う都度、任意の値に設定しても良く、あるいは、初めから適切な値(例えば、ゼロ)に固定されていても良い。
【0054】
[4.3. 供給量の最小値Wmin及び最大値Wmaxの算出]
非等速ロールを用いた粉体の圧縮において、ゆるみかさ密度ρ及び微小体積Vαの積と、供給量W、塗工幅(H)、及び微小長さ(ΔL)の積とが等しいと仮定すると、次の式(3)が導かれる。従って、式(3)にニップアングルαを代入すれば、与えられた条件下における供給量Wが得られる。
なお、式(3)におけるΔLは、供給量Wを算出する際の積分区間の分割数を決定する変数である。ΔLの値が小さいほど正確な粉体量を計算できいるが、小さすぎると計算に時間がかかる。従って、ΔLは、0.05mm<ΔL<0.5mmの範囲で設定するのが好ましい。
【0055】
【0056】
但し、
Hは、塗工幅、
ΔLは、微小長さ。
【0057】
さらに、同一条件下で製造された湿潤粉体であっても、粉体物性にバラツキが生じる。この場合、上述した式(1)及び式(2)に基づいて、湿潤粉体の内部摩擦角が最小値δminであり、壁面摩擦角が最小値φminである時のニップアングルα(すなわち、ニップアングルαの最小値αmin)を算出することができる。さらに、得られたαminを式(3)に代入すると、供給量の最小値Wminを算出することができる。
同様に、上述した式(1)及び式(2)に基づいて、湿潤粉体の内部摩擦角が最大値δmaxであり、壁面摩擦角が最大値φmaxである時のニップアングルα(すなわち、ニップアングルαの最大値αmax)を算出することができる。さらに、得られたαmaxを式(3)に代入すると、供給量の最大値Wmaxを算出することができる。
【0058】
[4.4. 湿潤粉体の供給量の最適値Wcalcの算出]
湿潤粉体の粉体物性にはバラツキがある。そのため、同一条件下で湿潤粉体をロール間に供給した場合であっても、湿潤粉体の供給量は最大値Wmaxから最小値Wminの範囲でばらつく。これは、内部摩擦角δ及び壁面摩擦角φがばらつく範囲内において、ニップアングルαが最大値αmaxから最小値αminの範囲内でばらつくことに相当する。
【0059】
図4に、湿潤粉体の第2ロール上の供給量とニップアングル及びギャップとの関係を表す模式図を示す。
図4に示すように、ニップアングルαと供給量Wとの関係は下に凸の曲線となり、ニップアングルαが大きくなるほど(すなわち、供給量Wが多くなるほど)、曲線の傾きが大きくなる傾向にある。これは、供給量Wが多くなるほど、湿潤粉体の粉体物性のバラツキに起因するニップアングルαのバラツキが小さくなることを表す。
【0060】
また、
図4より、G
1が変化しても、α-W曲線は平行移動するだけであること、すなわち、湿潤粉体の供給量のバラツキ(W
max-W
min)はほぼ一定であることが分かる。これは、W
max及びW
minを算出する際に用いるギャップの初期値Gとして著しく不適切な値を用いた場合を除き、Gとしてどのような値を用いても、W
calcの計算結果にほとんど影響しないことを意味する。そのため、W
calcを計算する際のギャップの初期値Gとしてゼロを用いると、W
calcの計算を簡略化することができる。
【0061】
湿潤粉体を塗工した際の目標目付バラツキをy(%)、目付バラツキが±y(%)となるときの湿潤粉体の供給量の最適値をWcalcとすると、これらには、次の式(4)の関係が成り立つ。
Wcalc×2y/100=(Wmax-Wmin)+Δg …(4)
ここで、Δgは、湿潤粉体塗工装置の機械的なギャップのバラツキに起因する供給量のバラツキを表す。Δgは、湿潤粉体塗工装置によって決まる固有の値である。Δgが生じる原因としては、例えば、ロール表面の凹凸等に起因するバラツキなどがある。
また、式(4)を変形すると、式(5)が得られる。
Wcalc=50{(Wmax-Wmin)+Δg}/y …(5)
【0062】
[4.5. ギャップの最適値Gcalcの算出]
式(5)は、実際の湿潤粉体の供給量がWcalc以上になると、目付バラツキが±y(%)以下になるとを意味する。ロール間を通過する粉体の供給量Wは、ロール間のギャップG1の大きさに比例するので、供給量WをWcalc以上にするには、ギャップG1をある値以上にすればよい。この時のギャップG1をギャップの最適値Gcalcとすると、Gcalcは、次の式(6)で与えられる。
【0063】
【数3】
但し、α
m=(α
min+α
max)/2。
【0064】
式(6)は、式(3)のW及びGにそれぞれ、Wcalc及びGcalcを代入し、変形することにより得られたものである。但し、Gcalcを算出する際に用いるニップアングルαには、αminとαmaxの平均値を用いる。
【0065】
第1ロール-第2ロール間の実ギャップをG1とすると、式(6)は、
(a)G1をGcalcの1倍以上に設定すれば、実際の供給量WがWcalc以上となる可能性が高いこと、及び、
(b)これにより、目付量のバラツキが±y(%)以下に抑えられる可能性が高いこと、
を表す。
但し、G1が湿潤粉体の平均粒径daveに比べて大きくなりすぎると、湿潤粉体がロール間のギャップに留まることができなくなり、塗工が困難となる場合がある。従って、G1は、daveの8倍以下に設定するのが好ましい。
【0066】
なお、ギャップの初期値Gとして著しく不適切な値(例えば、過度に大きい値)を用いた場合、算出されたGcalcが真の最適値からずれることがある。このような場合、算出されたGcalcを初期値Gに用いて、Gcalcを再計算するのが好ましい。このような逐次計算を所定回数繰り返すと、Gcalcが真の最適値に向かって収束する場合がある。
【0067】
[4.6. 周速度比ri及びギャップGiの比rGi(2≦i≦n-1)の算出]
本発明において、目付量のバラツキは、G1により制御される。G1が決まると、第1ロール-第2ロール間への湿潤粉体の供給量Wcalcが一義的に定まるため、基材表面への目付量は、周速度比ri及びギャップGiの比rGi(2≦i≦n-1)で制御するのが好ましい。
【0068】
基材表面への目付量の目標値をWcとすると、Wcを得るためには、
次の式(7)及び式(8)を満たすように、第iロール(2≦i≦n-1)の周速度Viに対する第(i+1)ロールの周速度Vi+1の比(=Vi+1/Vi=ri)を調整し、
次の式(9)を満たすように、第(i+1)ロールと第(i+2)ロールとの間のギャップGi+1に対する、第iロール(1≦i≦n-2)と前記第(i+1)ロールとの間のギャップGiの比(=Gi/Gi+1=rGi)を調整する
のが好ましい(手順G)。
1.1≦ri≦4.0 …(7)
0.95Wcalc/Wc≦rn-1!=Vn/V1≦1.05Wcalc/Wc …(8)
1.1≦rGi≦4.0 …(9)
但し、Wcは、前記基材表面への前記湿潤粉体の目標目付量。
【0069】
式(7)において、riが小さくなりすぎると、紛体が次のロールに転写されにくくなる。従って、riは、1.1以上が好ましい。
一方、riが大きくなりすぎると、転写不良が発生し、塗工が困難となる場合がある。従って、riは、4.0以下が好ましい。riは、好ましくは、2.0以下である。
【0070】
式(8)は、目標目付量Wcを得るための条件を表す。第3ロール以降は、電極材料がロールの周速比に従って延びていく。そのため、Vn/V1比がWcalc/Wcより過度に大きくなると、スケが発生するおそれが大きくなる。一方、Vn/V1がWcalc/Wcより過度に小さくなると、転写不良が発生するおそれがある。従って、式(8)を満たすように、Vn及びV1を設定するのが好ましい。
【0071】
式(9)において、rGiが小さくなりすぎると、紛体が次のロールに転写されにくくなる。従って、rGiは、1.1以上が好ましい。
一方、rGiが大きくなりすぎると、転写不良が発生し、塗工が困難となる場合がある。従って、rGiは、4.0以下が好ましい。rGiは、好ましくは、2.0以下である。
【0072】
このようにして算出されたri、及びrGiを用いて湿潤粉体を塗工すると、目付量がWcであり、目付量のバラツキが±y(%)である塗工膜が得られる。
【0073】
[5. 湿潤粉体塗工装置制御プログラム]
図5に、本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラムのフロー図を示す。
【0074】
まず、ステップ1(以下、単に「S1」という)において、Gcalcの計算回数を表す変数「j」に初期値として「1」を代入する。次に、S2において、操作者に
(a)湿潤粉体の圧縮係数K、内部摩擦角の最小値δmin及び最大値δmax、壁面摩擦角の最小値φmin及び最大値φmax、並びに、ゆるみ嵩密度ρ、
(b)第1ロール~第(n-1)ロール(n≧3)で圧縮され、第nロールにより基材表面に転写される前記湿潤粉体の目標目付バラツキy、並びに、
(c)前記第1ロールの直径D1、第2ロールの直径D2(但し、D2/D1≧1.00)、及び、前記第1ロールの周速度V1に対する前記第2ロールの周速度V2の比r1(=V2/V1>1)
の入力を求め、入力されたこれらの変数をメモリに記憶させる(手順A)。
なお、手順Aは、
(a)前記操作者に前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの初期値Gの入力を求め、これを前記メモリに記憶させる手順、及び/又は、
(b)操作者に前記湿潤粉体の平均粒径daveの入力を求め、これをメモリに記憶させる手順
をさらに含んでいても良い。
また、計算を簡略化するためには、G=0とするのが好ましい。
【0075】
次に、S3において、δminかつφminの条件での前記湿潤粉体の供給量Wの最小値Wmin、及び、δmaxかつφmaxの条件での前記湿潤粉体の供給量Wの最大値Wmaxを取得し、これらを前記メモリに記憶させる(手順B)。前記手順Bは、上述した式(1)及び式(2)に基づいて、δminかつφminの条件でのニップアングルαの最小値αmin、及び、δmaxかつφmaxの条件での前記ニップアングルαの最大値αmaxを算出し、算出されたαmin及びαmax、並びに、上述した式(3)に基づいて、それぞれ、Wmin及びWmaxを算出し、これらを前記メモリに記憶させるものが好ましい。Wmin及びWmaxの算出方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0076】
次に、S4において、上述した式(5)を前記メモリに予め記憶させておき、前記式(5)から前記目標目付バラツキ(±y%)を達成することができる供給量の最適値Wcalcを算出し、これを前記メモリに記憶させる(手順C)。Wcalcの算出方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0077】
次に、S5において、粉体供給量がWcalcとなる時の前記第1ロールと前記第2ロールとの間のギャップの最適値Gcalc(j)(すなわち、j回目の計算値)を算出し、これを前記メモリに記憶させる(手順D)。前記手順Dは、上述した式(6)を前記メモリに記憶させておき、前記式(6)からGcalc(j)を算出するものが好ましい。Gcalc(j)の算出方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0078】
次に、S6に進む。S6では、ギャップの初期値Gに対するGcalc(j)の誤差(=|Gcalc(j)-G|×100/G)がしきい値以下か否かが判断される。誤差のしきい値は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値(例えば、5%)を選択することができる。誤差がしきい値を超えている場合(S6:NO)には、S7に進み、j回目の計算値Gcalc(j)を初期値Gに代入する。さらに、S8に進み、変数jに1を加算する。
【0079】
次に、S9において、jが計算回数の最大値jmaxを超えているか否かが判断される。jmaxは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値(例えば、50回)を選択することができる。jがjmaxを超えていない場合(S9:NO)には、S3に戻り、上述したS3~S5(手順B~手順D)、及びS6~S9の各ステップを繰り返す(手順H)。
【0080】
上述したように、初期値Gとして著しく不適切な値を採用した場合、Gcalc(j)が真の最適値からずれることがある。このような場合、直前の計算結果Gcalc(j)を初期値Gに用いてGcalc(j)を再計算すると、新たに計算されたGcalc(j)が真の最適値に近づく場合がある。
しかし、例えば、誤差のしきい値として過度に小さい値を選択した場合のように、設定された条件が不適切である場合には、このような逐次計算を繰り返しても、Gcalc(j)の誤差がしきい値以下にならない場合がある。そのため、jに予め最大値jmaxを設けておき、予め定められた回数の計算を繰り返しても、Gcalc(j)の誤差がしきい値以下とならなかった場合(S6:NO、S9:YES)には、逐次計算を終了させるのが好ましい。
なお、ギャップの初期値Gとして適切な値を選択した場合、1回の計算で最適なGcalcが得られる場合がある。このような場合、S6~S9を省略することができる。
【0081】
S6において、Gcalcの誤差がしきい値以下となった場合(S6:YES)、又は、S9において、j(計算の繰り返し数)がjmaxを超えている場合(S9:YES)には、S10に進む。
S10では、Gcalc(j)がdaveの8倍を超えているか否かが判断される。Gcalc(j)>8×daveである場合(すなわち、湿潤粉体の平均粒径daveがGcalc(j)に比べて過度に小さい場合)、第1ロール-第2ロール間のギャップに供給した湿潤粉体がギャップ間に留まることができず、そのまま落下する可能性が高いことを意味する。
このような場合(S10:YES)には、S11に進み、操作者に塗工不能である旨を告知する(手順F)。手順Fは、必ずしも必要ではないが、手順Fがあると、操作者に事前に塗工が可能か否かを告知することができる。
【0082】
一方、Gcalc(j)>8×daveでない場合(S10:NO)には、S12に進む。S12では、前記第1ロール-前記第2ロール間の実ギャップG1を設定する。目付量のバラツキを±y(%)以下にするためには、G1は、Gcalcの1倍以上に設定するのが好ましい(手順E)。また、手順Eは、G1をdaveの8倍以下に設定する手順をさらに含むものが好ましい。
【0083】
次に、S13において、上述した式(7)及び式(8)を満たすように、第iロール(2≦i≦n-1)の周速度Viに対する第(i+1)ロールの周速度Vi+1の比(=Vi+1/Vi=ri)を調整する。また、これと同時に、上述した式(9)を満たすように、第(i+1)ロールと第(i+2)ロールとの間のギャップGi+1に対する、第iロール(1≦i≦n-2)と前記第(i+1)ロールとの間のギャップGiの比(=Gi/Gi+1=rGi)を調整する(手順G)。ri及びrGiの算出方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。さらに、S14において、算出されたri、及び、rGiを用いて湿潤粉体を塗工する。これにより、目付量がWcであり、目付量のバラツキが±y(%)である塗工膜が得られる。
【0084】
[6. 作用]
直径が同一である3本の非等速ロールを横一列に並べた塗工装置を用いると、基材の表面に造粒粉体を連続的に塗工することができる。しかしながら、従来の塗工装置では、基材表面への造粒粉体の目付量を正確に制御するのが難しい。また、従来の方法は、直径が異なる非等速ロールに対してそのまま適用することができない。
さらに、従来の塗工方法では、湿潤粉体の粉体物性がばらつくと、それに応じて塗工膜の膜厚がばらつきやすいという問題があった。
【0085】
これに対し、上述した計算式を用いると、直径が同一又は異なる非等速ロール(第1ロール、及び第2ロール)を用いて湿潤粉体を圧縮する場合において、周速度比がr1であり、かつ、ギャップがGである時のニップアングルαを求めることができる。また、αが分かると、後述する計算式から、そのαに対応する供給量の推定値Wを算出することができる。さらに、湿潤粉体の粉体物性の最小値(δmim、φmin)及び最大値(δmax、δmax)について、それぞれ、このような計算を行うと、粉体物性が最小値であるときの供給量の最小値Wmin、及び粉体物性が最大値であるときの供給量の最大値Wmaxを算出することができる。
【0086】
WmaxとWminの差(すなわち、湿潤粉体の物性値のバラツキに起因する湿潤粉体の供給量のバラツキ)は、第1ロール及び第2ロール間に供給される湿潤粉体の供給量が多くなるほど小さくなる。この時、目付量のバラツキを目標値(±y%)以下にするための粉体供給量の最小値は、式(5)のWcalcで与えられる。さらに、Wcalcが分かると、第1ロール及び第2ロール間に供給される湿潤粉体の供給量をWcalc以上にするために必要なギャップの最適値Gcalcを求めることができる。そのため、第1ロール及び第2ロール間の実ギャップG1をGcalc以上に設定した状態で湿潤粉体の塗工を行うと、目付量のバラツキを目標値(±y%)以下にすることができる。
【実施例】
【0087】
(実施例1)
[1. 湿潤粉体の作製]
正極活物質を含み、固形分体積分率が55%であり、平均粒径が300μmである湿潤粉体を作製した。
【0088】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. 内部摩擦角及び壁面摩擦角]
得られた湿潤粉体に対してせん断試験を5回行った。各せん断試験結果から、それぞれ、内部摩擦角δを求めた。同様に、得られた湿潤粉体に対して壁面摩擦試験を5回行った。各壁面せん断試験結果から、それぞれ、壁面摩擦角φを求めた。
【0089】
図6に、湿潤粉体の粉体層せん断試験結果を示す。
図6のせん断試験結果の傾きより、湿潤粉体の内部摩擦角δが37.54から37.77までばらつくことが分かった。
図7に、湿潤粉体の壁面摩擦測定結果を示す。
図7の壁面摩擦測定結果の傾きより、湿潤粉体の壁面摩擦角φが28.40から28.93までばらつくことが分かった。
【0090】
[2.2. 湿潤粉体の塗工試験]
δmin=37.54、δmax=37.77、φmin=28.40、φmax=28.93とし、目標目付バラツキy=4.5%として、最適な塗工ギャップGcalcを算出した。この時、塗工ロールの表面の凹凸(Δg=0.2mg/cm2、ギャップのバラツキが4μm(±2μm)の時の目付量のバラツキに相当)も考慮に入れて計算を行った。また、Gcalcを算出する際には、G=0を用いた。
その結果、上記の範囲で内部摩擦角δと壁面摩擦角φが変化した場合、第1ロール/第2ロール間ギャップGcalc=90μm(±2μm)とすると、ニップアングルαが最大で2.78°から2.84°まで変化するため、バラツキyが±4.2%になると計算できた。つまり、計算上は、G1=90μmとして塗工を行うと、目標目付バラツキy=4.5%を達成できると考えられる。
【0091】
そこで、
図1に示す湿潤紛体塗工装置を用いて、実際にG
1=90μm、G
2=40μmとして塗工を行い、目付バラツキが4.5%以内となるかを確認した。
図8に、湿潤粉体塗工電極の目付量のバラツキを示す。表1に、湿潤粉体塗工電極の目付量の測定結果を示す。
図8及び表1より、すべての目付量の測定値が±4.5%以内に収まっていることが分かる。
【0092】
【0093】
(実施例2~3)
[1. 湿潤粉体の作製]
平均粒径が100μmである以外は、実施例1と同一の湿潤粉体を作製した。
【0094】
[2. 試験方法]
[2.1. 実施例2]
4本のロールを備えた湿潤粉体塗工装置(Δg=0.2mg/cm2)を用いて、湿潤粉体塗工電極を作製した。G1=180μm、G2=100μm、G3=40μm、V1=75mm/min、V2=300mm/min、V3=1200mm/min、V4=4000mm/minとした。G1は、目付バラツキ(y)が±3.0%以内となるように設定した。
【0095】
[2.2. 実施例3]
3本のロールを備えた湿潤粉体塗工装置(Δg=0.2mg/cm2)を用いて、湿潤粉体塗工電極を作製した。G1=180μm、G2=40μm、V1=300mm/min、V2=1200mm/min、V3=4000mm/minとした。G1は、目付バラツキ(y)が±3.0%以内となるように設定した。
【0096】
[3. 結果]
3本のロールを備えた湿潤粉体塗工装置を用いて塗工を行った場合(実施例3)、G
1が最適化されているために、目付バラツキは目標値以下であった。しかし、G
1/G
2比が大きすぎるために、部分的に転写不良が発生した。
一方、4本のロールを備えた湿潤粉体塗工装置を用い、式(7)~式(9)を満たす条件下で多段圧縮を行ったところ(実施例2)、転写不良を発生させることなく、実際の目付バラツキは最大で±2.4%となり、目標値(±3.0%)を下回った。
図9に、実施例2で得られた湿潤粉体塗工電極の目付量のバラツキを示す。
図9より、式(7)~式(9)を満たすように多段圧縮を行うと、転写不良を発生させることなく、目付量バラツキを改善できることが分かる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る湿潤粉体塗工装置制御プログラム、湿潤粉体塗工装置、及び塗工膜の製造方法は、リチウム二次電池の電極の製造に使用することができる。