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  • 特許-塗装鋼板の縮み柄の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】塗装鋼板の縮み柄の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
G01N21/47 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020041477
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143883
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】古菅 裕文
(72)【発明者】
【氏名】杉山 洋介
(72)【発明者】
【氏名】樫山 純三
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 瑞希
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-080012(JP,A)
【文献】特開2006-051652(JP,A)
【文献】特開2016-221771(JP,A)
【文献】特開2010-066761(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163387(WO,A1)
【文献】特開2016-137693(JP,A)
【文献】特開2002-001211(JP,A)
【文献】特開2008-036549(JP,A)
【文献】特開2010-280989(JP,A)
【文献】特開2019-194526(JP,A)
【文献】特開2006-058160(JP,A)
【文献】特開2015-036867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G01N 21/84-G01N 21/958
G01B 11/00-G01B 11/30
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装鋼板の表面に形成された縮み柄を評価する方法であって、
前記塗装鋼板の表面における所定領域内での二乗平均平方根傾斜を測定し、
前記縮み柄の評価指標となる評点と前記二乗平均平方根傾斜との相関関係を用いて、測定した前記二乗平均平方根傾斜又は、この二乗平均平方根傾斜に対応する前記評点によって前記縮み柄を評価することを特徴とする縮み柄の評価方法。
【請求項2】
測定した前記二乗平均平方根傾斜に対応する前記評点が予め定められた許容範囲内であるとき、前記二乗平均平方根傾斜の測定対象である縮み柄が、前記塗装鋼板に要求される性能を満たした縮み柄であることを評価することを特徴とする請求項1に記載の縮み柄の評価方法。
【請求項3】
測定した前記二乗平均平方根傾斜が予め定められた許容範囲内であるとき、前記二乗平均平方根傾斜の測定対象である縮み柄が、前記塗装鋼板に要求される性能を満たした縮み柄であることを評価することを特徴とする請求項1に記載の縮み柄の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装鋼板の表面に形成された縮み柄を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板の表面に縮み塗料を塗装して焼き付け硬化させることにより、塗膜を収縮させて塗膜の表面に微細なシワ(縮み柄)を形成した塗装鋼板がある(例えば、特許文献1)。この縮み柄の評価は、人間の目視によって行われている。例えば、選定された縮み柄を有するサンプルと、縮み柄を有する塗装鋼板の製品とを対比することにより、塗装鋼板の製品において、サンプルの縮み柄が再現されているか否かを評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-051652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人間の目視による縮み柄の評価は、評価者の主観が入りやすいとともに、評価の経験年数にも依存するため、評価結果にばらつきが発生しやすく、客観的な評価を行うことが難しい。また、上述したようにサンプル及び製品を対比する場合において、サンプルは取り扱いやすい小型のサイズに形成されているため、サンプル及び製品ではサイズが大きく異なり、このサイズの相違に起因して縮み柄の見え方が変わってきてしまう。
【0005】
そこで、本発明の目的は、塗装鋼板の表面に形成された縮み柄を客観的に評価できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塗装鋼板の表面に形成された縮み柄を評価する方法である。まず、塗装鋼板の表面における所定領域内での二乗平均平方根傾斜を測定する。そして、縮み柄の評価指標となる評点と二乗平均平方根傾斜との相関関係を用いて、測定した二乗平均平方根傾斜又は、この二乗平均平方根傾斜に対応する評点によって縮み柄を評価する。
【0007】
測定した二乗平均平方根傾斜に対応する評点が予め定められた許容範囲内であるとき、二乗平均平方根傾斜の測定対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たした縮み柄であることを評価することができる。言い換えれば、測定した二乗平均平方根傾斜に対応する評点が許容範囲外であるとき、二乗平均平方根傾斜の測定対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たしていない縮み柄であることを評価することができる。
【0008】
測定した二乗平均平方根傾斜が予め定められた許容範囲内であるとき、二乗平均平方根傾斜の測定対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たした縮み柄であることを評価することができる。言い換えれば、測定した二乗平均平方根傾斜が許容範囲外であるとき、二乗平均平方根傾斜の測定対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たしていない縮み柄であることを評価することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等によれば、評点及び二乗平均平方根傾斜の間に相関関係があることを見出した。このため、塗装鋼板の表面に形成された縮み柄について、二乗平均平方根傾斜を測定すれば、測定した二乗平均平方根傾斜や、この二乗平均平方根傾斜に対応する評点に基づいて縮み柄を評価することができ、人間の目視に依存せずに縮み柄を客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】算術平均高さSa及び評点(平均値)の関係を示す図である。
図2】最大高さSz及び評点(平均値)の関係を示す図である。
図3】界面の展開面積比Sdr及び評点(平均値)の関係を示す図である。
図4】二乗平均平方根傾斜Sdq及び評点(平均値)の関係を示す図である。
図5】塗膜の色が異なるサンプルにおいて、二乗平均平方根傾斜Sdq及び評点(平均値)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態において、評価対象は、塗装鋼板の表面に形成された縮み柄であり、塗装鋼板としては、縮み柄を有する塗装鋼板であればよい。すなわち、塗装鋼板の構成は何ら限定されるものではなく、公知の構成の塗装鋼板を適宜採用することができる。
【0012】
縮み柄の評価には、面粗さ(二乗平均平方根傾斜)Sdq[-]が用いられる。面粗さSdqは、所定の測定領域内のすべての点における傾斜の二乗平均平方根により算出されるパラメータであり、下記式(1)によって定義される。
【0013】
【数1】
【0014】
上記式(1)において、Aは、面粗さSdqの測定対象となる測定領域(矩形)の面積[mm]である。xは、測定領域の一辺を構成する長さ[m]であり、yは、測定領域のうち、長さxの方向と直交する方向の長さ[m]である。zは、長さxの方向及び長さyの方向で規定される平面と直交する方向の長さ[m]である。
【0015】
測定領域の面積Aを特定するとともに、長さx,y,zを測定することにより、上記式(1)に基づいて、面粗さSdqを算出することができる。完全に平坦な面では、面粗さSdqが0[-]となり、45度の傾斜成分だけからなる面では、面粗さSdqが1[-]となる。なお、測定領域のサイズ(長さx,y)は、適宜決めることができる。塗装鋼板の表面では、縮み柄が一様に形成されやすいため、塗装鋼板の表面における測定領域の位置や、測定領域のサイズが異なっても、面粗さSdqが大きく変動することはない。
【0016】
縮み柄の評価においては、縮み柄の評価指標となる評点が用いられる。この評点は、下記表1に示す基準に基づいて決めている。
【0017】
【表1】
【0018】
上記表1は、縮み柄の大きさと評点の関係を示しており、評点は、縮み柄の大きさに応じて1~10までの値に分けられている。縮み柄の大きさとは、塗装鋼板の表面を観察したときに、縮み柄の凸部によって大まかに囲まれた領域のサイズである。縮み柄の大きさは、上記表1の左端から右端に向かって段階的に大きくなる。また、縮み柄の大きさが大きいほど、評点が大きくなる。
【0019】
本発明者によれば、上述した評点と面粗さSdqとの間には高い相関関係があることが分かった。この相関関係における評点は、客観性を担保するために、評価者毎に決定された評点ではなく、複数の評価者によって決定された評点の平均値である。ここで、複数の評価者としては、縮み柄の評価の経験を積んだ者、すなわち、客観的な評価に近い評価を行うことができる者であることが好ましい。
【0020】
上記表1に示す基準に基づいて評価者毎に評点を決定すると、評価者毎に評点のばらつきが発生しやすくなる。特に、評価の経験が浅い評価者については、評点のばらつきが発生しやすくなる。一方、複数の評価者によって決定された評点の平均値であれば、縮み柄を評価する上で客観性を担保しやすくなる。ここで、塗装鋼板のロット毎に、複数の評価者のそれぞれが縮み柄に評点を付けて、これらの評点の平均値を算出することは、縮み柄の評価を行う上で煩雑となる。
【0021】
上述したように、面粗さSdq及び評点(平均値)の間に相関関係があることを考慮すれば、複数の評価者のそれぞれが塗装鋼板のロット毎の縮み柄に評点を付けなくても、縮み柄の面粗さSdqを測定するだけで、複数の評価者によって決定された評点の平均値を把握することができる。言い換えれば、縮み柄の面粗さSdqを測定するだけで、複数の評価者による縮み柄の評価と同等の評価を行うことができる。これにより、縮み柄の評価の客観性を担保しつつ、縮み柄の評価を容易に行うことができる。
【0022】
面粗さSdq及び評点(平均値)の間には、正の相関関係(一次関数)がある。すなわち、評点(平均値)が大きいほど、面粗さSdqが大きい。言い換えれば、評点(平均値)が小さいほど、面粗さSdqが小さい。この相関関係を予め求めておけば、縮み柄の面粗さSdqを測定することにより、この面粗さSdqに対応する評点(平均値)を把握することができる。そして、この評点(平均値)に基づいて、縮み柄を評価することができる。
【0023】
縮み柄の評価としては、例えば、評点(平均値)が予め定められた許容範囲内であるか否かを判別することにより、評価対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たした縮み柄であるか否かを判別することができる。ここで、評点(平均値)が許容範囲内であるときには、評価対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たした縮み柄であることを判別することができる。一方、評点(平均値)が許容範囲外であるときには、評価対象である縮み柄が、塗装鋼板に要求される性能を満たしていない縮み柄であることを判別することができる。
【0024】
上述した許容範囲(評点の範囲)としては、例えば、5~7の評点(平均値)とすることができる。評点(平均値)が8以上であるときには、塗装鋼板を曲げ加工したときに縮み柄の塗膜に割れが発生しやすくなったり、塗装鋼板をコイル状に巻き取ったときのテンションによって縮み柄が潰れやすくなったりしてしまうため、塗装鋼板に要求される性能を満たさないことになる。
【0025】
一方、評価点(平均値)が4以下であるときには、縮み柄の凸凹に関して、目的とする意匠性を担保できないおそれがあるため、塗装鋼板に要求される性能を満たさないことになる。
【0026】
後述する実施例によって特定される、面粗さSdq及び評点(平均値)の相関関係(図4参照)によれば、5の評点(平均値)は0.083の面粗さSdqに相当し、7の評点(平均値)は0.109の面粗さSdqに相当する。このため、上述した評点(平均点)の許容範囲を面粗さSdqの許容範囲に変換すると、面粗さSdqの許容範囲は0.083~0.109となる。このように面粗さSdqの許容範囲を決めておけば、評点(平均値)ではなく、面粗さSdqに基づいて、上述した縮み柄の評価を行うことができる。
【実施例
【0027】
縮み柄を有する塗装鋼板を製造し、この塗装鋼板を用いて、各種面粗さ及び評点(平均値)の関係を確認した。面粗さとしては、算術平均高さSa[μm]、最大高さSz[μm]、界面の展開面積比Sdr[-]、二乗平均平方根傾斜Sdq[-]を選択した。これらの面粗さは、ISO 25178-2:2012において規定されている。
【0028】
算術平均高さSaは、測定領域の表面の平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均を表すパラメータである。最大高さSzは、測定領域の表面において、最も高い点から最も低い点までの距離を表すパラメータである。界面の展開面積比Sdrは、測定領域の展開面積(表面積)が、測定領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表すパラメータである。
【0029】
塗装鋼板としては、溶融55%Al-亜鉛合金めっき鋼板を基材としたネオシルキー(登録商標、日鉄鋼板(株)製)を用いた。基材に塗装される縮み塗料としては、青色の塗料を用いた。そして、製造条件が互いに異なる複数の塗装鋼板のサンプルを用意した。これらのサンプルの表面のうち、24mm×18mmのサイズの測定領域において、(株)キーエンス製のVR-3200を用いて非接触式(光プローブ)による各種面粗さSa,Sz,Sdr,Sdqを測定した。この測定においては、ガウシアンフィルタによる画像処理を行った。一方、5人の評価者(3年以上の評価経験がある者)によって各サンプルの縮み柄に評点を付け、これらの評点の平均値を算出した。
【0030】
図1には、各サンプルについて、算術平均高さSa[μm]及び評点(平均値)の関係を示す。図1に示す直線は、図1に示すプロットの回帰直線であり、決定係数Rは0.90であった。図2には、各サンプルについて、最大高さSz[μm]及び評点(平均値)の関係を示す。図2に示す直線は、図2に示すプロットの回帰直線であり、決定係数Rは0.79であった。
【0031】
図3には、各サンプルについて、界面の展開面積比Sdr[-]及び評点(平均値)の関係を示す。図3に示す直線は、図3に示すプロットの回帰直線であり、決定係数Rは0.92であった。図4には、各サンプルについて、二乗平均平方根傾斜Sdq[-]及び評点(平均値)の関係を示す。図4に示す直線は、図4に示すプロットの回帰直線であり、決定係数Rは0.97であった。
【0032】
上述した決定係数Rによれば、面粗さ(二乗平均平方根傾斜)Sdq及び評点(平均値)の相関関係が最も高いことが分かった。したがって、縮み柄の面粗さSdqを測定すれば、他の面粗さSa,Sz,Sdrを測定するよりも、正確な評点(平均値)を把握することができる。そして、上述したように、測定した面粗さSdqに対応する評点(平均値)や、測定した面粗さSdqに基づいて、縮み柄を評価することができる。
【0033】
一方、縮み塗料の色が互いに異なるサンプルをそれぞれ用意した。縮み塗料の色は、黒色、茶色、青色としており、縮み塗料の色以外については、上述した測定条件と同じである。これらのサンプルについて、上述した面粗さSdqの測定を行った。また、各サンプルについて、5人の評価者(上述した試験の評価者と同じ)によって縮み柄に評点を付け、これらの評点の平均値を算出した。
【0034】
下記表2には、No.1~12のサンプルについて、5人の評価者A~Eの評点と、これらの評点の平均値を示す。ここでの評価では、上記表1に示す評点に加えて、隣り合う2つの評点の中間に位置する評点も設定した。具体的には、評点として、1.5,2.5,3.5,4.5,5.5,6.5,7.5,8.5,9.5を設定した。
【0035】
【表2】
【0036】
図5には、縮み塗料の色が互いに異なるサンプルについて、二乗平均平方根傾斜Sdq及び評点(平均値)の関係を示す。図5に示す直線は、図5に示すプロットの回帰直線であり、決定係数Rは0.94であった。
【0037】
図5に示す結果によれば、決定係数R(0.94)は、図1~3に示す決定係数Rよりも大きいことから、縮み塗料の色が異なっていても、二乗平均平方根傾斜Sdq及び評点(平均値)の相関関係が高いことが分かった。したがって、縮み塗料の色にかかわらず、縮み柄の二乗平均平方根傾斜Sdqを測定すれば、この二乗平均平方根傾斜Sdqや、二乗平均平方根傾斜Sdqに対応する評価点(平均値)に基づいて、縮み柄を客観的に評価することができる。
図1
図2
図3
図4
図5