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特許7366810マスクブランクス、ハーフトーンマスク、製造方法、製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】マスクブランクス、ハーフトーンマスク、製造方法、製造装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20231016BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G03F1/32
C23C14/06 N
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020046414
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2020197698
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019099375
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
(72)【発明者】
【氏名】汐崎 英治
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-133098(JP,A)
【文献】特開2018-049111(JP,A)
【文献】特開平11-015136(JP,A)
【文献】特開2015-125353(JP,A)
【文献】特開2012-137643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0052420(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0124811(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00- 1/92
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、
前記ハーフトーン層に積層されたエッチングストップ層と、
前記エッチングストップ層に積層されたCrを主成分とする遮光層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有する
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有する
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項3】
前記ハーフトーン層において、厚さ方向の最表面位置から前記透明基板に近接する位置に向けて酸素の組成比が減少する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記ハーフトーン層において、
前記耐薬層における酸素の組成比が、前記光学特性層における最も小さい酸素の組成比に比べて4倍より大きく設定される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記ハーフトーン層において、シート抵抗が、
1.3×10Ω/sq以下に設定される
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランクス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
Crを主成分とする元ハーフトーン層を積層する成膜工程と、
前記成膜工程において成膜された前記元ハーフトーン層を酸化して前記ハーフトーン層とする酸化処理工程と、を有する
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項7】
前記酸化処理工程において、励起した酸化処理ガスにより前記元ハーフトーン層の酸化処理をおこなう
ことを特徴とする請求項6に記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項8】
前記酸化処理工程の前記酸化処理ガスが窒素酸化物とされる
ことを特徴とする請求項7に記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
Crを主成分とする前記ハーフトーン層を積層する成膜工程を有する
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載されたマスクブランクスを用いてハーフトーンマスクを製造する方法であって、
所定のパターンを有するマスクによって前記ハーフトーン層をパターニングする工程と、
前記マスクを除去する洗浄工程と、
を有する
ことを特徴とするハーフトーンマスクの製造方法。
【請求項11】
前記洗浄工程において、
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることを特徴とする請求項10に記載のハーフトーンマスクの製造方法。
【請求項12】
請求項6から8のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記元ハーフトーン層を成膜する成膜部と、
前記元ハーフトーン層を酸化処理する酸化処理部と、を有し、
前記酸化処理部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられる
ことを特徴とするマスクブランクスの製造装置。
【請求項13】
請求項9に記載されたマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記ハーフトーン層を成膜する成膜部を有し、
前記成膜部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられる
ことを特徴とするマスクブランクスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクス、ハーフトーンマスク、製造方法、製造装置に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)用の基板は複数のマスクを用いることで製造されているが、工程削減のために半透過性のハーフトーンマスクを用いてマスク枚数を削減することができる。
【0003】
さらにカラーフィルターや有機ELディスプレイ等では感光性有機樹脂を半透過性のマスクを用いて露光と現像を行い有機樹脂の形状を制御することで、適切な形状のスペーサーや開口部を形成することが可能になる。このためにハーフトーンマスクの重要度が高まっている(特許文献1等)。
【0004】
これらのハーフトーンマスクは遮光層とハーフトーン層(半透過層)を用いて形成される。ハーフトーンマスクは半透過層が遮光層の上に形成される場合と、下に形成される場合の2つの構造が存在する。
下置き構造のハーフトーンマスクは、ハーフトーン層と遮光層の積層膜を形成した後で、それぞれの膜を所望のパターンで露光、現像、エッチングすることでマスクを完成させることが可能である。このため、下置き構造のハーフトーンマスクは、短期間にマスクを形成できるという利点を有する。
【0005】
FPD用マスクの遮光層の材料としては、Crを用いるのが一般的であり、ハーフトーン層の材料としてもCrを用いるのが望ましい。Crは優れた薬液耐性を示し、マスクとしての加工方法も確立されている。
さらに、Crを用いてハーフトーン層を形成することで透過率の波長依存性が小さくできるという利点も有する。
【0006】
また、Crを用いて遮光層とハーフトーン層を形成する場合には、所望のパターンを形成するために、Crのエッチング液によりエッチングをおこなう。この際、遮光層とハーフトーン層がされない領域を形成するために、遮光層またはハーフトーン層にレジスト層を積層する。このレジスト層はパターニング後に除去される。
このように、レジスト層の除去、あるいは、表面状態の維持のために、マスク製造工程では、遮光層および/またはハーフトーン層を洗浄するために、それぞれ、硫酸、硫酸過水やオゾンを用いた洗浄工程が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-106575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、Cr材料を用いたハーフトーン層において、透過率の波長依存性の小さい条件を採用した場合、マスク製造工程で用いられる硫酸やオゾンを用いた洗浄工程において、ハーフトーン層がエッチングされてしまう。
この際、ハーフトーン層の透過率が変化してしまうという問題が生じることがわかった。
【0009】
特に、ハーフトーン層をパターニングした後に、遮光層のパターニングをおこなう場合には、エッチング時間が長くなるために、ハーフトーン層における透過率の変化が、より大きくなってしまうという問題があった。
【0010】
これに対応するために、洗浄による透過率変化を考慮した上で最初に成膜して得られるハーフトーン層の透過率を低めに設定した上で、硫酸やオゾンを用いた洗浄を行うことも可能である。
【0011】
しかし、この場合においても洗浄工程での透過率変化が大き過ぎると、洗浄工程での透過率変化のばらつきも大きくなってしまう。このため、この場合においてもハーフトーンマスクとして重要な特性である透過率を所望の値に制御することが困難になることがわかった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.硫酸過水やオゾンを用いた洗浄工程においても光学特性変化の少ない耐薬特性を得る。
2.洗浄工程における透過率変化の発生を抑制する。
3.透過率の波長依存性を小さくする。
4.これらを同時に満たすハーフトーンマスクを提供可能とする。
5.透過率の波長依存性を小さくする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Cr材料を用いて形成したハーフトーン層の酸素、窒素およびクロムの組成を制御することで、硫酸やオゾンを用いた洗浄工程においても、透過率変化の少ない耐薬特性を得ることが可能であることがわかった。
さらに、ハーフトーン層中において、特に表面の酸素濃度を高くすることで耐薬特性を向上させることが可能であるが、酸素濃度を高くすると透過率の波長依存性が大きくなり、さらに酸素濃度を高くしすぎると逆に耐薬品特性が低下することがわかった。
これに対応して、ハーフトーン層の深さ方向での組成を適切に制御することで薬液耐性が高く、ハーフトーン層の透過率の波長依存性が小さくすることが可能であることがわかった。
さらに、ハーフトーン層のシート抵抗を制御することでも、透過率の波長依存性を抑制できることがわかった。
【0014】
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、
前記ハーフトーン層に積層されたエッチングストップ層と、
前記エッチングストップ層に積層されたCrを主成分とする遮光層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有する
ことにより上記課題を解決した。
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有する
ことにより上記課題を解決した。
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、前記ハーフトーン層において、厚さ方向の最表面位置から前記透明基板に近接する位置に向けて酸素の組成比が減少する
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、前記ハーフトーン層において、
前記耐薬層における酸素の組成比が、前記光学特性層における最も小さい酸素の組成比に比べて4倍より大きく設定される
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、前記ハーフトーン層において、シート抵抗が、
1.3×10Ω/sq以下に設定される
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを製造する方法であって、
Crを主成分とする元ハーフトーン層を積層する成膜工程と、
前記成膜工程において成膜された前記元ハーフトーン層を酸化して前記ハーフトーン層とする酸化処理工程と、を有する
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造方法は、前記酸化処理工程において、励起した酸化処理ガスにより前記元ハーフトーン層の酸化処理をおこなう
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造方法は、前記酸化処理工程の前記酸化処理ガスが窒素酸化物とされる
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを製造する方法であって、
Crを主成分とする前記ハーフトーン層を積層する成膜工程を有する
ことができる。
本発明の一態様におけるハーフトーンマスクの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを用いてハーフトーンマスクを製造する方法であって、
所定のパターンを有するマスクによって前記ハーフトーン層をパターニングする工程と、
前記マスクを除去する洗浄工程と、
を有する
ことができる。
本発明の一態様におけるハーフトーンマスクの製造方法は、前記洗浄工程において、
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いる
ことができる。
本発明の一態様におけるハーフトーンマスクは、上記のハーフトーンマスクの製造方法により製造された
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造装置は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記元ハーフトーン層を成膜する成膜部と、
前記元ハーフトーン層を酸化処理する酸化処理部と、を有し、
前記酸化処理部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられる
ことができる。
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造装置は、上記のマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記ハーフトーン層を成膜する成膜部を有し、
前記成膜部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられる
ことができる。
【0015】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、
前記ハーフトーン層に積層されたエッチングストップ層と、
前記エッチングストップ層に積層されたCrを主成分とする遮光層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有することにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、前記ハーフトーン層において、厚さ方向の最表面位置から前記透明基板に近接する位置に向けて酸素の組成比が減少することができる。
本発明のマスクブランクスにおいて、前記ハーフトーン層において、
前記耐薬層における酸素の組成比が、前記光学特性層における最も小さい酸素の組成比に比べて4倍より大きく設定されることが好ましい。
また、本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、Crを主成分とする元ハーフトーン層を積層する成膜工程と、
前記成膜工程において成膜された前記元ハーフトーン層を酸化して前記ハーフトーン層とする酸化処理工程と、を有する手段を採用することもできる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記酸化処理工程において、励起した酸化処理ガスにより前記元ハーフトーン層の酸化処理をおこなうことが可能である。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記酸化処理工程の前記酸化処理ガスが窒素酸化物とされることができる。
また、本発明マスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、Crを主成分とする前記ハーフトーン層を積層する成膜工程を有することができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法においては、前記エッチングストップ層を積層する工程と、
前記遮光層を積層する工程と、を有することができる。
また、本発明のハーフトーンマスクの製造方法は、上記の製造方法で製造されたマスクブランクスを用いてハーフトーンマスクを製造する方法であって、
所定のパターンを有するマスクによって前記ハーフトーン層をパターニングする工程と、
前記マスクを除去する洗浄工程と、
を有することが好ましい。
本発明のハーフトーンマスクの製造方法においては、前記洗浄工程において、
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
本発明のハーフトーンマスクは、
上記の製造方法により製造されたことができる。
本発明のマスクブランクスの製造装置においては、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記透明基板に前記元ハーフトーン層を成膜する成膜部と、
前記元ハーフトーン層を酸化処理する酸化処理部と、を有し、
前記酸化処理部には、前記酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられることができる。
本発明のマスクブランクスの製造装置においては、上記のマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記透明基板に前記ハーフトーン層を成膜する成膜部を有し、
前記成膜部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられることができる。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、
前記ハーフトーン層に積層されたエッチングストップ層と、
前記エッチングストップ層に積層されたCrを主成分とする遮光層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有する。
これにより、下置きのハーフトーンマスクとして、耐薬層が酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高く形成されたことによって、この耐薬層によってマスクの洗浄工程における耐薬性を保持することができる。したがって、洗浄工程におけるハーフトーン層の光学特性の変動を抑制して、マスクブランクスから製造したハーフトーンマスクとしての光学特性の変動を抑制することが可能となる。
同時に、光学特性層が酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く形成されたことによって、この光学特性層によって、マスクブランクスから製造したハーフトーンマスクとしての必要な光学特性をハーフトーン層が維持することが可能となる。
【0017】
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする遮光層と、
前記遮光層に積層されたCrを主成分とするハーフトーン層と、を備えるマスクブランクスであって、
前記ハーフトーン層が、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有する。
これにより、上置きのハーフトーンマスクとして、耐薬層が酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高く形成されたことによって、この耐薬層によってマスクの洗浄工程における耐薬性を保持することができる。したがって、洗浄工程におけるハーフトーン層の光学特性の変動を抑制して、マスクブランクスから製造したハーフトーンマスクとしての光学特性の変動を抑制することが可能となる。
同時に、光学特性層が酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く形成されたことによって、この光学特性層によって、マスクブランクスから製造したハーフトーンマスクとしての必要な光学特性をハーフトーン層が維持することが可能となる。
【0018】
本発明のマスクブランクスは、前記ハーフトーン層において、厚さ方向の最表面位置から前記透明基板に近接する位置に向けて酸素の組成比が減少する。
これにより、洗浄工程における耐薬性と、光学特性の変動抑制とを同時に維持することの可能なハーフトーン層を有するマスクブランクスとすることが可能となる。
【0019】
本発明のマスクブランクスにおいて、前記ハーフトーン層において、
前記耐薬層における酸素の組成比が、前記光学特性層における最も小さい酸素の組成比に比べて4倍より大きく設定される。
これにより、洗浄液に曝されるハーフトーン層の表面における充分な耐薬性と、パターン形成にともなう洗浄工程後におけるハーフトーン層としての光学特性の変動抑制とを同時に維持することの可能なハーフトーン層を有するマスクブランクスとすることが可能となる。
【0020】
本発明の一態様におけるマスクブランクスは、前記ハーフトーン層において、シート抵抗が、
1.3×10Ω/sq以下に設定される。
これにより、シート抵抗を設定することで、ハーフトーン層において露光光の波長による透過率の差を小さくすることができる。このように、露光光の波長による透過率の差が発生することを抑制して、複合波長の露光光への対応を容易におこなうことが可能なハーフトーンマスクを提供可能とすることができる。
【0021】
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを製造する方法であって、
Crを主成分とする元ハーフトーン層を積層する成膜工程と、
前記成膜工程において成膜された前記元ハーフトーン層を酸化して前記ハーフトーン層とする酸化処理工程と、を有する。
これにより、成膜工程によって、従来から知られているCrを主成分とする膜の成膜条件を用いて、所望の光学特性を有する元ハーフトーン層を容易に形成することができる。その後、酸化処理工程によって、元ハーフトーン層を酸化することで、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有するハーフトーン層を形成することができる。
この際、充分な耐薬性を有する耐薬層を形成しつつ、ハーフトーンマスクとしての必要な光学特性を維持したハーフトーン層を形成することが可能となる。
具体的には、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層を形成した際に、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比が元ハーフトーン層と同程度で光学特性を担保する光学特性層を形成することができる。
さらに、このようなハーフトーン層を遮光層の上に積層する上置きのハーフトーンマスクを提供することもできる。あるいは、このようなハーフトーン層の上にエッチングストップ層と遮光層とを順に積層する下置きのハーフトーンマスクを提供することも可能である。
【0022】
また、本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、Crを主成分とする元ハーフトーン層を積層する成膜工程と、
前記成膜工程において成膜された前記元ハーフトーン層を酸化して前記ハーフトーン層とする酸化処理工程と、を有する。
これにより、成膜工程によって、従来から知られているCrを主成分とする膜の成膜条件を用いて、所望の光学特性を有する元ハーフトーン層を透明基板に容易に形成することができる。その後、酸化処理工程によって、元ハーフトーン層を酸化することで、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層と、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く光学特性を担保する光学特性層と、を有するハーフトーン層を形成することができる。
この際、充分な耐薬性を有する耐薬層を形成しつつ、ハーフトーンマスクとしての必要な光学特性を維持したハーフトーン層を形成することが可能となる。
具体的には、厚さ方向の最表面位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層を形成した際に、厚さ方向の前記透明基板に近接する位置に酸素の組成比が元ハーフトーン層と同程度で光学特性を担保する光学特性層を形成することができる。
【0023】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記酸化処理工程において、励起した酸化処理ガスにより前記元ハーフトーン層の酸化処理をおこなう。
これにより、耐薬層を形成した際に、元ハーフトーン層における厚さ方向の前記透明基板に近接する位置において、酸素の組成比を元ハーフトーン層と同程度となるように維持することが可能となる。したがって、光学特性を担保する光学特性層を形成することができる。
【0024】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記酸化処理工程の前記酸化処理ガスが窒素酸化物とされる。
これにより、元ハーフトーン層の酸化状態を制御して、充分な耐薬性を有する耐薬層を形成可能とするとともに、その際、元ハーフトーン層における厚さ方向の前記透明基板に近接する位置において、酸素の組成比を元ハーフトーン層と同程度となるように制御することが可能となる。
また、酸化処理工程における雰囲気ガスを制御することのみで、上記のマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0025】
本発明の一態様におけるマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスを製造する方法であって、
Crを主成分とする前記ハーフトーン層を積層する成膜工程を有する。
これにより、ハーフトーン層を成膜する工程において、厚さ方向で酸素の組成比を変動させ、耐薬層と光学特性層とを有するハーフトーン層を形成することが可能となる。
この際、成膜工程における雰囲気ガスを制御することのみで、上記のマスクブランクスを製造することが可能となる。
さらに、このようなハーフトーン層を遮光層の上に積層する上置きのハーフトーンマスクを提供することもできる。あるいは、このようなハーフトーン層の上にエッチングストップ層と遮光層とを順に積層する下置きのハーフトーンマスクを提供することも可能である。
【0026】
また、本発明マスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、Crを主成分とする前記ハーフトーン層を積層する成膜工程を有する。
これにより、ハーフトーン層を成膜する工程において、厚さ方向で酸素の組成比を変動させ、耐薬層と光学特性層とを有するハーフトーン層を形成することが可能となる。
この際、成膜工程における雰囲気ガスを制御することのみで、上記のマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0027】
本発明のマスクブランクスの製造方法においては、前記エッチングストップ層を積層する工程と、
前記遮光層を積層する工程と、を有する
これにより、充分な耐薬性と、所望の光学特性とを有するハーフトーンマスクを製造することが可能となる。
ここで、充分な選択性を有するエッチングストップ層として、エッチングストップ能を呈して、所望のパターン形状を有するハーフトーンマスクを製造することが可能となる。
【0028】
また、本発明のハーフトーンマスクの製造方法は、上記の製造方法で製造されたマスクブランクスを用いてハーフトーンマスクを製造する方法であって、
所定のパターンを有するマスクによって前記ハーフトーン層をパターニングする工程と、
前記マスクを除去する洗浄工程と、
を有する。
これにより、洗浄液に曝されるハーフトーン層の表面における充分な耐薬性と、パターン形成にともなう洗浄工程後におけるハーフトーン層としての光学特性の変動抑制とを同時に維持することの可能な光学特性層とを有するハーフトーン層を備えたマスクブランクスによって、所望のパターンと所望の光学特性層とを有するハーフトーンを製造することができる。
【0029】
本発明のハーフトーンマスクの製造方法においては、前記洗浄工程において、
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いる。
洗浄工程において、耐薬層によって光学特性の変動を抑制した状態を維持することができるとともに、この洗浄工程において必要な洗浄を行ってハーフトーン層の表面における異物やフォトマスクを除去することができる。
【0030】
本発明のハーフトーンマスクは、上記の製造方法により製造された。
これにより、所望の光学特性を有するハーフトーンマスクとすることができる。
【0031】
本発明のマスクブランクスの製造装置においては、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記元ハーフトーン層を成膜する成膜部と、
前記元ハーフトーン層を酸化処理する酸化処理部と、を有し、
前記酸化処理部には、前記酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられる。
これにより、耐薬層を形成した際に、元ハーフトーン層における厚さ方向の前記透明基板に近接する位置において、酸素の組成比を元ハーフトーン層と同程度となるように維持するとともに、光学特性を担保する光学特性層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0032】
本発明のマスクブランクスの製造装置においては、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記透明基板に前記元ハーフトーン層を成膜する成膜部と、
前記元ハーフトーン層を酸化処理する酸化処理部と、を有し、
前記酸化処理部には、前記酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられる。
これにより、耐薬層を形成した際に、元ハーフトーン層における厚さ方向の前記透明基板に近接する位置において、酸素の組成比を元ハーフトーン層と同程度となるように維持するとともに、光学特性を担保する光学特性層を有するマスクブランクスを製造することが可能となる。
【0033】
本発明のマスクブランクスの製造装置においては、上記のマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記ハーフトーン層を成膜する成膜部を有し、
前記成膜部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられることができる。
これにより、耐薬層を形成した際に、元ハーフトーン層における厚さ方向の前記透明基板に近接する位置において、酸素の組成比を元ハーフトーン層と同程度となるように維持するとともに、光学特性を担保する光学特性層を有するマスクブランクスの製造することが可能となる。
【0034】
本発明のマスクブランクスの製造装置においては、上記のマスクブランクスの製造方法に用いる製造装置であって、
前記透明基板に前記ハーフトーン層を成膜する成膜部を有し、
前記成膜部には、酸化処理ガスを励起して供給可能な励起ガス供給部が備えられることができる。
これにより、耐薬層を形成した際に、元ハーフトーン層における厚さ方向の前記透明基板に近接する位置において、酸素の組成比を元ハーフトーン層と同程度となるように維持するとともに、光学特性を担保する光学特性層を有するマスクブランクスの製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、硫酸過水やオゾンを用いた洗浄工程においても光学特性変化の少ない耐薬特性を有し、洗浄工程における透過率変化の発生が抑制可能で、透過率の波長依存性を小さくすることができるハーフトーンマスクを提供可能とすることができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係るハーフトーンマスクの第1実施形態を示す断面図である。
図3】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図4】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図5】本発明に係るマスクブランクス、ハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
図6】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図7】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図8】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図9】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図10】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図11】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図12】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図13】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図14】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図15】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図16】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図17】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図18】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態を示す工程図である。
図19】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図20】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図21】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図22】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図23】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図24】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図25】本発明に係る実施例を示すグラフである。
図26】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図27】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図28】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図29】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図30】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図31】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図32】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図33】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図34】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図35】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図36】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図37】本発明に係るハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示す工程図である。
図38】本発明に係るマスクブランクス、ハーフトーンマスクの製造方法の第2実施形態を示すフローチャートである。
図39】本発明に係る実施例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係るマスクブランクス、ハーフトーンマスク、製造方法、製造装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図において、符号MBは、マスクブランクスである。
【0038】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、例えば、露光光の波長が365nm~436nmの範囲で使用されるハーフトーンマスクに供されるものとされる。
マスクブランクスMBは、図1に示すように、透明基板Sと、この透明基板S上に形成されたハーフトーン層11と、ハーフトーン層11上に形成されたエッチングストップ層12と、このエッチングストップ層12上に形成された遮光層13とで構成される。
【0039】
透明基板Sとしては、透明性および光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板Sの大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板、半導体基板)に応じて適宜選定される。本実施形態では、径寸法100mm程度の基板や、一辺50~100mm程度から、一辺300mm以上の矩形基板に適用可能であり、更に、縦450mm、横550mm、厚み8mmの石英基板や、最大辺寸法1000mm以上で、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0040】
また、透明基板Sの表面を研磨することで、透明基板Sのフラットネスを低減するようにしてもよい。透明基板Sのフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0041】
ハーフトーン層11は、Crを主成分とするものであり、具体的には、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つで構成することができ、また、これらの中から選択される2種以上を積層して構成することもできる。
【0042】
たとえば、ハーフトーン層11は、厚さ方向で最表面となる位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層11aを有する。また、ハーフトーン層11は、厚さ方向の透明基板Sに近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低い光学特性層11bを有する。
ハーフトーン層11においては、光学特性層11bによって、ハーフトーンマスクとしての使用に耐えうる特性を有する。
【0043】
また、ハーフトーン層11においては、厚さ方向において、エッチングストップ層12に近接する最表面位置から透明基板Sに近接する位置に向けて、酸素の組成比が連続して減少する。このハーフトーン層11における酸素濃度の傾きは、厚さ方向に対してほぼ一定となるように設定されている。
【0044】
ハーフトーン層11における酸素濃度の傾きは、最表面位置から厚さ方向に対してなだらかに下降する。
したがって、耐薬層11aと光学特性層11bとの間に、明確な境界面は形成されていない。
【0045】
なお、ハーフトーン層11の最表面位置の付近、および、透明基板Sに隣接する位置の付近においては、酸素の組成比が乱れる場合がある。しかし、数atm%程度であり、ハーフトーン層11としての耐薬性および光学特性には問題がない。
【0046】
ハーフトーン層11は、厚さ方向において、エッチングストップ層12に近接する最表面位置から透明基板Sに近接する位置に向けて、窒素の組成比が連続して増加する。このハーフトーン層11における窒素濃度の傾きは、厚さ方向に対してほぼ一定となるように設定されている。
【0047】
ハーフトーン層11は、厚さ方向において、エッチングストップ層12に近接する最表面位置から透明基板Sに近接する位置まで、炭素の組成比がほぼ一定とされる。ハーフトーン層11は、厚さ方向において、エッチングストップ層12に近接する最表面位置から透明基板Sに近接する位置に向けて、連続して微増する。
【0048】
ハーフトーン層11において、耐薬層11aにおける最も大きい酸素の組成比が、光学特性層11bにおける最も小さい酸素の組成比に比べて4倍より大きく設定される。
ハーフトーン層11において、耐薬層11aにおける最も大きい酸素の組成比が、光学特性層11bにおける最も小さい酸素の組成比に比べて5倍より大きく設定される。
ハーフトーン層11において、耐薬層11aにおける最も大きい酸素の組成比が、光学特性層11bにおける最も小さい酸素の組成比の6倍よりやや小さい程度に設定される。
【0049】
耐薬層11aは、後述の図20に示すように、ハーフトーン層11の厚さ方向において、酸素の組成比が、炭素の組成比または窒素の組成比より高くなる領域とすることができる。
耐薬層11aにおいても、厚さ方向において、エッチングストップ層12に近接する最表面位置から透明基板Sに近接する位置に向けて、酸素の組成比が減少する。
【0050】
一例として、後述の図20に示すように、ハーフトーン層11、耐薬層11aの最表面位置で、酸素の組成比が60atm%より大きくなるように設定される。さらに、ハーフトーン層11、耐薬層11aの最表面位置で、酸素の組成比が65atm%より大きくなるように設定される。
【0051】
また、ハーフトーン層11、耐薬層11aの最表面位置で、クロムの組成比が20atm%より大きく、30atm%より小さくなるように設定される。さらに、ハーフトーン層11、耐薬層11aの最表面位置で、窒素の組成比が10atm%より小さくなるように設定される。
【0052】
また、光学特性層11bにおける最も小さい酸素の組成比が15atm%よりも小さくなるように設定される。光学特性層11bにおける最も小さい酸素の組成比が10atm%程度となるように設定される。光学特性層11bにおける最も小さい酸素の組成比が20atm%より大きくなると好ましくない。
【0053】
光学特性層11bは、後述の図20に示すように、ハーフトーン層11の厚さ方向において、酸素の組成比が、炭素の組成比または窒素の組成比より低くなる領域とすることができる。
光学特性層11bにおいても、厚さ方向において、エッチングストップ層12に近接する耐薬層11a位置から透明基板Sに近接する位置に向けて、酸素の組成比が減少する。
また、光学特性層11bにおける酸素の組成比が最も小さい位置は、透明基板Sに近接する位置に設定される。
【0054】
エッチングストップ層12としては、窒素を含有する金属シリサイド化合物膜、例えば、Ni、Co、Fe、Ti、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属や、これらの金属どうしの合金とSiとを含む膜や、特に、モリブデンシリサイド化合物膜、MoSi(X≧2)膜(例えばMoSi膜、MoSi膜やMoSi膜など)が挙げられる。
【0055】
たとえば、MoSi膜の組成に関しては、MoとSiの組成比において、MoSi膜におけるXの値を2.0~3.7の範囲とすることができる。ここで、MoSi膜におけるXの値をこの範囲内で小さくすると、エッチングレートを高くすることができる。また、MoSi膜におけるXの値をこの範囲内で大きくすると、エッチングレートを低く高くすることができる。
【0056】
エッチングストップ層12は、厚さ方向における遮光層13に近接する位置に、窒素濃度が30atm%以上に設定される高窒素領域が設けられる。
エッチングストップ層12は、高窒素領域と、高窒素領域よりもハーフトーン層11に近接する低窒素領域とをあわせた膜厚が、15nm以上40nm以下となるように設定されている。
【0057】
エッチングストップ層12としては、窒素濃度、および、MoSi膜の組成としてMoとSiの組成比を設定することで、エッチングストップ層12としてのエッチングに対する膜特性、つまり、エッチングレートを設定することができる。
【0058】
これにより、エッチングストップ層12より上側(表面側、外側)に位置する遮光層13のエッチングにおいては、エッチングストップ層12が高い選択性を有して、エッチングストップ層12のエッチングレートを低くし、エッチングストップ層12がエッチング耐性を有し、ハーフトーン層11へのダメージ発生を防止するように膜組成を設定することができる。
【0059】
遮光層13は、Crを主成分とするものであり、具体的には、Crおよび窒素を含むものとされる。さらに、遮光層13が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、遮光層13として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
遮光層13は、所定の光学特性が得られる厚み(例えば、80nm~200nm)で形成される。
【0060】
ここで、遮光層13とハーフトーン層11とは、どちらもクロム系薄膜であり、かつ、酸化窒化されているが、比較すると、ハーフトーン層11の方が遮光層13よりも酸化度が大きく、酸化されにくいように設定されている。
【0061】
本実施形態のマスクブランクスMBは、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクであるハーフトーンマスクMを製造する際に適用することができる。
【0062】
図2は、本実施形態におけるマスクブランクスから製造されるハーフトーンマスクを示す断面図である。
本実施形態のハーフトーンマスクMは、図2に示すように、マスクブランクスMBにおいて、透過領域M1と、ハーフトーン領域M2と、遮光領域M3と、を有する。
【0063】
透過領域M1は、ガラス基板(透明基板)Sの露出した領域とされる。
ハーフトーン領域M2は、マスクブランクスMBにおけるハーフトーン層11からパターン形成されたハーフトーンパターン11pのみがガラス基板(透明基板)Sに形成されている領域とされる。
【0064】
遮光領域M3は、マスクブランクスMBにおけるハーフトーン層11とエッチングストップ層12と遮光層13とからパターン形成されて、ハーフトーンパターン11pとエッチングストップパターン12pと遮光パターン13pとが積層された領域とされる。
【0065】
このハーフトーンマスクMにおいて、ハーフトーン領域M2は、たとえば、露光処理において、半透過性を透過光にもたせることが可能な領域とされる。遮光領域M3は、露光処理において、遮光パターン13pによって、照射光を透過しないことが可能な領域とされる。
【0066】
たとえば、ハーフトーンマスクMによれば、露光処理において、波長領域の光、特にg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)を含む複合波長を露光光として用いることができる。これにより、露光と現像をおこなって有機樹脂の形状を制御して、適切な形状のスペーサーや開口部を形成することが可能になる。また、パターン精度が大幅に向上し、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。
【0067】
このハーフトーンマスクによれば、上記波長領域の光を用いることでパターン精度の向上を図ることができ、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。これにより、高画質のフラットパネルディスプレイ等を製造することができる。
【0068】
以下、本実施形態のマスクブランクスMBの製造方法について説明する。
【0069】
本実施形態におけるマスクブランクスMBは、図3または図4に示す製造装置により製造される。
図3は、本実施形態におけるマスクブランクスを製造する製造装置を示す模式図である。
【0070】
図3に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置および酸化処理可能な装置とされる。製造装置S10は、ロード・アンロード室S11と、成膜室(真空処理室、成膜部)S12と、酸化処理をおこなう酸化処理室(酸化処理部)S13とを有するものとされる。
【0071】
ロード・アンロード室S11には、搬送手段S11aと、排気手段S11bと、が設けられる。
搬送手段S11aは、外部から搬入されたガラス基板Sを成膜室S12へと搬送する。 排気手段S11bは、ロード・アンロード室S11の内部を粗真空引きするロータリーポンプ等とされる。
ロード・アンロード室S11は、密閉手段S17を介して成膜室S12に接続される。
【0072】
成膜室S12には、基板保持手段S12aと、ターゲットS12bを有するカソード電極(バッキングプレート)S12cと、電源S12dと、ガス導入手段S12eと、高真空排気手段S12fと、が設けられている。
【0073】
基板保持手段S12aは、搬送手段S11aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜中にターゲットS12bと対向するようにガラス基板Sを保持する。
基板保持手段S12aは、また、ガラス基板Sをロード・アンロード室S11から搬入可能とされている。基板保持手段S12aは、また、ガラス基板Sをロード・アンロード室S11へ搬出可能とされている。
【0074】
ターゲットS12bは、後述する元ハーフトーン層11Aをガラス基板Sに成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
電源S12dは、ターゲットS12bを有するカソード電極(バッキングプレート)S12cに負電位のスパッタ電圧を印加する。
【0075】
ガス導入手段S12eは、成膜室S12の内部にガスを導入する。
高真空排気手段S12fは、成膜室S12の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
これらカソード電極(バッキングプレート)S12c、電源S12d、ガス導入手段S12e、高真空排気手段S12fは、少なくともハーフトーン層11を成膜する材料を供給するための構成である。
成膜室S12は、密閉手段S18を介して酸化処理室S13に接続される。
【0076】
酸化処理室S13には、基板保持手段S13aと、ガス導入手段S13eと、ガス励起手段S13rと、高真空排気手段S13fと、が設けられている。
【0077】
基板保持手段S13aは、基板保持手段S12aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、酸化処理中にガス励起手段S13rと対向するようにガラス基板Sを保持する。
基板保持手段S13aは、また、ガラス基板Sを成膜室S12から搬入可能とされている。基板保持手段S13aは、また、ガラス基板Sを成膜室S12へ搬出可能とされている。
【0078】
ガス導入手段S13eは、酸化処理室S13の内部にガスを導入する。
高真空排気手段S13fは、酸化処理室S13の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
ガス励起手段S13rは、ガス導入手段S13eから酸化処理室S13の内部に供給するガスを励起して、励起酸化ガスとする。
【0079】
ここで、励起酸化ガスとは、プラズマ、ラジカル、イオン等の状態を意味している。
ガス励起手段S13rは、基板保持手段S13aによって保持されたガラス基板Sに励起酸化ガスを向けて噴出可能とされる。
これらガス励起手段S13r、ガス導入手段S13e、高真空排気手段S13fは、元ハーフトーン層11Aを酸化処理するための構成である。
また、ガス励起手段S13r、ガス導入手段S13eは、励起ガス供給部である。
【0080】
図3に示す製造装置S10においては、ロード・アンロード室S11から搬入したガラス基板Sに対して、まず、成膜室(真空処理室)S12においてスパッタリング成膜により元ハーフトーン層11Aを成膜する。その後、酸化処理室S13において元ハーフトーン層11Aを酸化処理してハーフトーン層11を形成する。そして、ロード・アンロード室S11から処理の終了したガラス基板Sを外部に搬出する。
【0081】
成膜時には、ガス導入手段S12eから成膜室S12にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S12cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS12b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S12cのターゲットS12bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に所定の膜が形成される。
【0082】
図4は、本実施形態におけるマスクブランクスを製造する製造装置を示す模式図である。
図4に示す製造装置S20は、インライン式のスパッタリング装置および酸化処理可能な装置とされる。製造装置S20は、ロード室S21と、成膜室(真空処理室、成膜部)S22と、酸化処理室(酸化処理部)S23と、アンロード室S25と、を有するものとされる。
【0083】
ロード室S21には、搬送手段S21aと、排気手段S21bと、が設けられる。
搬送手段S21aは、外部から搬入されたガラス基板Sを成膜室S22へと搬送する。 排気手段S21bは、ロード室S21の内部を粗真空引きするロータリーポンプ等とされる。
ロード室S21は、密閉手段S27を介して成膜室(真空処理室)S22に接続される。
【0084】
成膜室S22には、基板保持手段S22aと、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cと、電源S22dと、ガス導入手段S22eと、高真空排気手段S22fと、が設けられている。
【0085】
基板保持手段S22aは、搬送手段S21aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜中にターゲットS22bと対向するようにガラス基板Sを保持する。
基板保持手段S22aは、また、ガラス基板Sをロード室S21から搬入可能とされている。基板保持手段S22aは、また、ガラス基板Sを酸化処理室(酸化処理部)S23へ搬出可能とされている。
【0086】
ターゲットS22bは、後述する元ハーフトーン層11Aをガラス基板Sに成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
カソード電極(バッキングプレート)S22c、電源S22d、ガス導入手段S22e、高真空排気手段S22fは、ハーフトーン層11他等を成膜する材料を供給するための構成である。
【0087】
電源S22dは、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cに負電位のスパッタ電圧を印加する。
ガス導入手段S22eは、成膜室S22の内部にガスを導入する。
高真空排気手段S22fは、成膜室S22の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
成膜室S22は、密閉手段S28を介して酸化処理室(酸化処理部)S23に接続される。
【0088】
酸化処理室S23には、基板保持手段S23aと、ガス導入手段S23eと、ガス励起手段S23rと、高真空排気手段S23fと、が設けられている。
【0089】
基板保持手段S23aは、基板保持手段S22aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、酸化処理中にガス励起手段S23rと対向するようにガラス基板Sを保持する。
基板保持手段S23aは、また、ガラス基板Sを成膜室S22から搬入可能とされている。基板保持手段S23aは、また、ガラス基板Sをアンロード室S25へ搬出可能とされている。
【0090】
ガス導入手段S23eは、酸化処理室S23の内部にガスを導入する。
高真空排気手段S23fは、酸化処理室S23の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
ガス励起手段S23rは、ガス導入手段S23eから酸化処理室S23の内部に供給するガスを励起して、励起酸化ガスとする。
【0091】
ここで、励起酸化ガスとは、プラズマ、ラジカル、イオン等の状態を意味している。
ガス励起手段S23rは、基板保持手段S23aによって保持されたガラス基板Sに励起酸化ガスを向けて噴出可能とされる。
ガス励起手段S23r、ガス導入手段S23eは、励起ガス供給部である。
【0092】
また、これらガス励起手段S23r、ガス導入手段S23e、高真空排気手段S23fは、少なくとも元ハーフトーン層11Aを酸化処理するための構成である。
酸化処理室(酸化処理部)S23は、密閉手段S28を介してアンロード室S25に接続される。
【0093】
アンロード室S25には、酸化処理室(酸化処理部)S23から搬入されたガラス基板Sを外部へと搬送する搬送手段S25aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S25bが設けられる。
【0094】
図4に示す製造装置S20においては、ロード室S21から搬入したガラス基板Sに対して、まず、成膜室(真空処理室)S22においてスパッタリング成膜により元ハーフトーン層11Aを成膜する。その後、酸化処理室S23において元ハーフトーン層11Aを酸化処理する。そして、アンロード室S25から成膜の終了したガラス基板Sを外部に搬出する。
【0095】
図5は、本実施形態におけるマスクブランクス、ハーフトーンマスクを製造する製造工程を示すフローチャートである。図6図10は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造工程を示す断面図である。
本実施形態におけるマスクブランクスMBの製造方法は、図5に示すように、基板準備工程S00と、元ハーフトーン層成膜工程S01aと、酸化処理工程S01bと、エッチングストップ層成膜工程S02と、遮光層成膜工程S03と、を有する。
【0096】
ここで、本実施形態におけるマスクブランクスMBの製造方法の説明においては、図4に示す製造装置S20による処理を説明する。図3に示す製造装置S10によってマスクブランクスMBの製造する場合には、S20番代の符号をS10番代に読みかえ、アンロード室S25をロード・アンロード室S11等に読みかえるものとする。
【0097】
図5に示す基板準備工程S00においては、上述した表面処理などをおこなったガラス基板Sを準備する(図6)。その後、図4に示すロード室S21に透明基板Sを搬入する。
ロード室S21では、搬送手段S21aによって透明基板Sを支持し、ロード室S21を密閉した後、排気手段S21bによりロード室S21の内部を粗真空引きする。
【0098】
この状態で、密閉手段S27を解放して、搬送手段S21aによって透明基板Sを搬送し、基板保持手段S22aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜室(真空処理室)S22に透明基板Sを搬入する。
成膜室S22では、密閉手段S27を密閉する。
成膜室(真空処理室)S22において、基板保持手段S22aによって透明基板Sを保持する。
【0099】
図5に示す元ハーフトーン層成膜工程S01aにおいては、図4に示す成膜室(真空処理室)S22において、高真空排気手段S22fにより成膜室S22の内部を高真空引きしておく。そして、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0100】
成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に元ハーフトーン層11Aを成膜する(図7)。
【0101】
ここで、あらかじめ元ハーフトーン層11Aの成膜に必要な組成を有するターゲットS22bに交換しておく。また、元ハーフトーン層11Aの成膜に必要な成膜ガスとして、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスなどを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
このとき、成膜する元ハーフトーン層11Aは、後述の図19に示すように、厚さ方向において、所定の酸素の組成比、炭素の組成比、窒素の組成比、クロムの組成比をそれぞれ有することができる。
【0102】
図5に示す酸化処理工程S01bにおいては、図4に示す成膜室S22から密閉手段S28を解放して、基板保持手段S22aによって透明基板Sを搬送し、基板保持手段S23aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、酸化処理室S23に透明基板Sを搬入する。
透明基板Sには元ハーフトーン層11Aが成膜されている。
酸化処理室S23では、密閉手段S28を密閉する。
酸化処理室S23において、基板保持手段S23aによって、透明基板Sを保持する。
【0103】
酸化処理室S23において、高真空排気手段S23fにより酸化処理室S23の内部を高真空引きしておく。そして、ガス導入手段S23eから酸化処理室S23に酸化処理ガスを供給する。
同時に、ガス励起手段S23rによってガス導入手段S23eから酸化処理室S23の内部に供給するガスを励起して、プラズマ、ラジカル、イオン等の励起酸化ガスとする。
【0104】
ガス励起手段S23rは、ガラス基板Sの元ハーフトーン層11Aの表面に向けて励起酸化ガスを噴出する。
励起酸化ガスを吹き付けられた元ハーフトーン層11Aは酸化されて、後述の図20に示すように、厚さ方向において、所定の酸素の組成比、炭素の組成比、窒素の組成比、クロムの組成比をそれぞれ有するハーフトーン層11となる(図8)。
【0105】
ハーフトーン層11においては、厚さ方向で最表面となる位置に耐薬層11aが形成される。また、ハーフトーン層11においては、厚さ方向の透明基板Sに近接する位置に光学特性層11bが形成される。
耐薬層11aは、上述したように酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高く形成される。
また、光学特性層11bは、上述したように酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く形成される。
【0106】
このとき、酸化処理ガスとしては、クロム等を含有する元ハーフトーン層11Aを酸化可能なものであればよく、酸素ガス、二酸化炭素、酸窒化ガスとしてNO、NO、などが適応できる。
【0107】
ここで、耐薬層11aおよび光学特性層11bを有するハーフトーン層11を形成するためには、酸化状態を正確に制御することが必要である。したがって、酸化処理ガスにおける酸化能は、強すぎないほうが好ましい。
【0108】
たとえば、酸化処理工程S01bにおける酸化処理ガスの酸化能は、
> HO > CO > CO > NO >NO
の順に小さくなるため、クロムの酸化状態を精密に制御するためには、NOガスを用いることが好ましい。
ここで、酸化能がNOガスよりも強いCOガスを用いた際の組成比を後述の図21に示す。
【0109】
また、酸化処理ガスの条件としては、酸化処理を行う装置に導入するガス流量により制御することが可能であり、例えば酸化処理ガスの流量により制御することが可能である。さらに窒素ガスやアルゴンガス等のガスにより希釈して処理することも可能である。
【0110】
また、酸化処理ガスの励起条件としては、プラズマ放電を用いる場合には放電圧力あるいは放電電力により励起状態を制御することができる。また、スパッタ装置中において、放電電力を小さくして成膜速度を低くすることで酸化処理を行うことも可能である。
【0111】
図5に示すエッチングストップ層成膜工程S02においては、図4に示す密閉手段S28を解放して、酸化処理室S23から基板保持手段S23aによって透明基板Sを搬送し、基板保持手段S22aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜室S22に透明基板Sを搬入する。
【0112】
成膜室(真空処理室)S22において、高真空排気手段S22fにより成膜室S22の内部を高真空引きしておく。そして、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0113】
成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面にエッチングストップ層12を成膜する(図9)。
【0114】
ここで、あらかじめエッチングストップ層12の成膜に必要な組成を有するターゲットS22bに交換しておく。また、エッチングストップ層12の成膜に必要な成膜ガスとして、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスなどを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0115】
具体的には、エッチングストップ層12として、金属シリサイド膜を形成する。金属シリサイド膜としては、様々な膜を用いることが可能であるが、本実施携帯においてはモリブデンシリサイドを用いる。この際、モリブデンシリサイドを形成するためには反応性スパッタリング法を用いて形成することが可能である。
【0116】
モリブデンシリサイドは膜中に窒素を含有しないと酸やアルカリ溶液に対して非常に容易にエッチングされるという性質を有している。そのため、モリブデンシリサイドをエッチングストップ膜として用いる場合において窒素を含有するモリブデンシリサイドを用いる必要がある。
【0117】
ここで反応性スパッタリング法を用いてモリブデンシリサイドを形成する場合には、添加ガスに窒素を含有する窒素や一酸化窒素や二酸化窒素等を用いる。これにより、膜中に窒素を含有するモリブデンシリサイドを形成することが可能である。さらに、添加ガスのガス流量を制御することで、モリブデンシリサイドに含有される窒素の含有量も制御することが可能である。
【0118】
図5に示す遮光層成膜工程S03においては、図4に示す成膜室(真空処理室)S22において、高真空排気手段S22fにより成膜室S22の内部を高真空引きしておく。そして、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0119】
成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に遮光層13を成膜する(図10)。
【0120】
ここで、あらかじめ遮光層13の成膜に必要な組成を有するターゲットS22bに交換しておく。また、遮光層13の成膜に必要な成膜ガスとして、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスなどを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0121】
遮光層13は、クロムニウムを主成分とする。この際、遮光層13の反射率を低減するために、酸素濃度を高めた屈折率が低い反射防止層を遮光膜表面に形成することもできる。
【0122】
さらに、これらハーフトーン層11、エッチングストップ層12、遮光層13の成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、図1に示す本実施形態のマスクブランクスMBを製造する。
【0123】
金属シリサイド膜をエッチングストップ膜とした下置き構造のハーフトーンマスクブランクスが形成することが可能である。
【0124】
以下、このように製造された本実施形態のマスクブランクスMBからハーフトーンマスクMを製造する方法について説明する。
図11図18は、本実施形態におけるマスクブランクスによるハーフトーンマスクの製造工程を示す断面図である。
【0125】
本実施形態におけるハーフトーンマスクMの製造方法は、図5に示すように、フォトレジスト層形成工程S04aと、レジストパターン形成工程S04bと、透過パターン形成工程S04cと、洗浄工程S04dと、フォトレジスト層形成工程S05aと、レジストパターン形成工程S05bと、遮光パターン形成工程S05cと、エッチングストップパターン形成工程S05dと、洗浄工程S05eと、を有する。
【0126】
図5に示すフォトレジスト層形成工程S04aとして、マスクブランクスMBの最上層である遮光層13の上にフォトレジスト層PR1が形成される(図11)。フォトレジスト層PR1は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、ポジ型とすることができる。フォトレジスト層PR1としては、液状レジスト、密着フィルム等が用いられる。
【0127】
図5に示すレジストパターン形成工程S04bにおいては、フォトレジスト層PR1を露光するとともに、現像することで、遮光層13の上に所定のパターン形状(開口パターン)を有するフォトレジストパターンPR1pが形成される(図12)。
フォトレジストパターンPR1pは、遮光層13,エッチングストップ層12、ハーフトーン層11のエッチングマスクとして機能し、これらの各層11,12,13のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
一例として、フォトレジストパターンPR1pは、ガラス基板Sが露出した透過領域M1を除き、ハーフトーン領域M2と遮光領域M3とに対応した形状に設定される。
【0128】
次いで、図5に示す透過パターン形成工程S04cとして、フォトレジストパターンPR1p越しに所定のエッチング液を用いて遮光層13、エッチングストップ層12、ハーフトーン層11を順にウエットエッチングする。
このとき、クロムを含有する遮光層13、ハーフトーン層11のエッチングでは、クロムエッチャント、たとえば、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができる。
【0129】
また、エッチングストップ層12のエッチングでは、異なるエッチャント、たとえば、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることができる。
これにより、遮光層透過パターン13p0、エッチングストップ層透過パターン12p0、ハーフトーンパターン11pを形成する(図13)。
【0130】
次いで、図5に示す洗浄工程S04dにおいて、所定の洗浄液を用いて、フォトレジストパターンPR1pを除去する。
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
この状態のマスクブランクスMBでは、遮光層透過パターン13p0、エッチングストップ層透過パターン12p0、ハーフトーンパターン11pが成膜された領域と、ガラス基板Sが露出した透過領域M1とを有する(図14)。
【0131】
次に、図5に示すフォトレジスト層形成工程S05aとして、マスクブランクスMBの最上層である遮光層透過パターン13p0の上にフォトレジスト層PR2を形成する。このとき、透過領域M1にもフォトレジスト層PR2を形成する(図15)。
フォトレジスト層PR2は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、ポジ型とすることができる。フォトレジスト層PR2としては、液状レジストが用いられる。
【0132】
続いて、図5に示すレジストパターン形成工程S05bとして、フォトレジスト層PR2を露光するとともに現像することで、遮光層透過パターン13p0の上にフォトレジストパターンPR2pが形成される(図16)。
フォトレジストパターンPR2pは、遮光層透過パターン13p0、エッチングストップ層透過パターン12p0のエッチングマスクとして機能する。
【0133】
フォトレジストパターンPR2pは、遮光層透過パターン13p0、エッチングストップ層透過パターン12p0を除去するハーフトーン領域M2のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
一例として、フォトレジストパターンPR2pは、ハーフトーン領域M2においては、形成する遮光パターン13p、エッチングストップパターン12pの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0134】
次いで、図5に示す遮光パターン形成工程S05cとして、このフォトレジストパターンPR2p越しに所定のエッチング液(エッチャント)を用いて遮光層透過パターン13p0をウエットエッチングする工程を開始する。
【0135】
遮光層透過パターン13p0をエッチングする際に、エッチングストップ層透過パターン12p0が、遮光層透過パターン13p0のエッチング液によってエッチングされないことが重要である。
クロムニウムを主成分とする遮光層透過パターン13p0を用いる場合においては、エッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができる。
【0136】
また、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
エッチング液として硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液を用いることが一般的である。
【0137】
ここで、エッチングストップ層透過パターン12p0はこのエッチング液に対して、遮光層透過パターン13p0に比べて高い耐性を有する。このため、まず遮光層透過パターン13p0のみがパターニングされて遮光パターン13pが形成される。
遮光パターン13pは、フォトレジストパターンPR2pに対応した開口幅を有し、ハーフトーン領域M2に対応する形状に除去される。遮光パターン13pは、遮光領域M3に対応する形状に形成される(図17)。
【0138】
このとき、エッチングストップ層透過パターン12p0は、エッチング液に対して、必要な選択比を有し、エッチングレートが極めて小さく設定されている。このため、エッチングストップ層透過パターン12p0は、充分なエッチング耐性を有する。したがって、遮光層13と同系統のCrを有するハーフトーン層11にダメージが発生することがない。
【0139】
次いで、図5に示すエッチングストップパターン形成工程S05dとして、フォトレジストパターンPR2pおよび遮光パターン13p越しに所定のエッチング液を用いてエッチングストップ層透過パターン12p0をウエットエッチングする工程を開始する。
【0140】
エッチング液としては、エッチングストップ層12がMoSiである場合には、エッチング液として、フッ素系、つまり、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることが好ましい。
【0141】
エッチングストップ層透過パターン12p0のウエットエッチングでは、遮光パターン13pに覆われていないハーフトーン領域M2において、エッチングストップ層透過パターン12p0がエッチングされて、エッチングストップパターン12pが形成される(図18)。
【0142】
エッチングストップ層透過パターン12p0がエッチングされてハーフトーン層11が露出した時点で、エッチングストップ層12のエッチングは終了する。これにより、ハーフトーン領域M2において、ハーフトーンパターン11pが露出する。
【0143】
次いで、図5に示す洗浄工程S05eとして、フォトレジストパターンPR2pを除去する。
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
このとき、遮光パターン13pの積層された遮光領域M3では、洗浄水がハーフトーンパターン11pに接触しない。これに対し、ハーフトーン領域M2においては、洗浄水がハーフトーンパターン11pに接触する。
【0144】
ハーフトーンパターン11pの洗浄では、耐薬層11aが露出面に配置される。
耐薬層11aは、上述した酸素等の組成比を有することにより、硫酸過水やオゾン水とされる洗浄液に対して、耐薬性を有する。このため、耐薬層11aは、洗浄工程S05eにおいて、洗浄液による膜厚や光学特性の変化が光学特性層11bに生じることを防止する。
【0145】
したがって、耐薬層11aにより、洗浄工程S05eにおいて、洗浄液による膜厚や光学特性の変化がハーフトーンパターン11pに生じることを抑制できる。
これにより、ハーフトーンパターン11pにおいて、光学特性層11bによって光学特性を担保することができる。
【0146】
これにより、図2に示すように、光学的に設定された所定の遮光パターン13pとエッチングストップパターン12pと、所望の光学特性を有するハーフトーンパターン11pとを有し、透過領域M1とハーフトーン領域M2と遮光領域M3とが形成されたハーフトーンマスクMを得ることができる。
【0147】
あるいは、上述したプロセス工程において、エッチングストップ層12となるモリブデンシリサイド膜の加工後に、モリブデンシリサイド膜をマスクとしてクロムニウムを主成分とするハーフトーン層11をエッチングする。その後にレジスト層を剥離することで、遮光層13とエッチングストップ層12とハーフトーン層11を加工する工程を完了することもできる。
ここで、遮光層透過パターン13p0とエッチングストップ層透過パターン12p0のみをエッチングすることで、ハーフトーン層11のみのパターンを形成することも可能である。
【0148】
本実施形態のマスクブランクスMBによれば、図1に示すように、ハーフトーン層11が耐薬層11aと光学特性層11bとを有することにより、所望の光学特性を備えたハーフトーンマスクMを製造することができる。
また、元ハーフトーン層成膜工程S01aによって元ハーフトーン層11Aを成膜し、酸化処理工程S01bによって元ハーフトーン層11Aを酸化処理することで、耐薬性と光学特性の変動抑制とを有するハーフトーン層11が形成可能とされることができる。
これにより、従来の製造工程に酸化処理工程S01bを追加するだけで、所望の光学特性を備えたハーフトーンマスクMを製造することができる。
【0149】
また、本実施形態のマスクブランクスMBによれば、図2に示すように、洗浄工程S05eにおける耐薬性と、光学特性の変動抑制とを同時に維持することが可能であり、所望の光学特性を備えたハーフトーンマスクMを製造することができる。
【0150】
以下、本発明に係るマスクブランクス、ハーフトーンマスク、製造方法、製造装置の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図26図37は、本実施形態におけるハーフトーンマスクの製造方法を示す工程図であり、図38は、本実施形態におけるマスクブランクス、ハーフトーンマスクの製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、ハーフトーン層の積層位置に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0151】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、図33に示すように、透明基板Sと、この透明基板S上に形成された遮光層13と、遮光層13上に形成されたハーフトーン層11とで構成される。
遮光層13は、遮光パターン13pとされていてもよい。
【0152】
ハーフトーン層11は、厚さ方向で最表面となる位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高い耐薬層11aを有する。また、ハーフトーン層11は、厚さ方向の透明基板Sおよび遮光パターン13pに近接する位置に酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低い光学特性層11bを有する。
ハーフトーン層11における組成比は、上述した第1実施形態と同様の構成とされる。
【0153】
本実施形態のハーフトーンマスクMは、図37に示すように、マスクブランクスMBにおいて、透過領域M1と、ハーフトーン領域M2と、遮光領域M3と、を有する。
【0154】
透過領域M1は、ガラス基板(透明基板)Sの露出した領域とされる。
ハーフトーン領域M2は、マスクブランクスMBにおけるハーフトーン層11からパターン形成されたハーフトーンパターン11pのみがガラス基板(透明基板)Sに形成されている領域とされる。
【0155】
遮光領域M3は、マスクブランクスMBにおける遮光層13とハーフトーン層11とからパターン形成されて、遮光パターン13pとハーフトーンパターン11pとが積層された領域とされる。
【0156】
本実施形態におけるマスクブランクス、ハーフトーンマスクの製造方法は、図38に示すように、基板準備工程S00と、遮光層成膜工程S011と、フォトレジスト層形成工程S012aと、レジストパターン形成工程S012bと、遮光パターン形成工程S012cと、洗浄工程S012dと、元ハーフトーン層成膜工程S013aと、酸化処理工程S013bと、フォトレジスト層形成工程S014aと、レジストパターン形成工程S014bと、透過パターン形成工程S014cと、洗浄工程S014dと、を有する。
【0157】
ここで、本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法の説明においては、第1実施形態と同様に、図4に示す製造装置S20による処理を説明する。図3に示す製造装置S10によってマスクブランクスMBの製造する場合には、S20番代の符号をS10番代に読みかえ、アンロード室S25をロード・アンロード室S11等に読みかえるものとする。なお、本実施形態においては、製造装置S20における動作においては、適宜省略する。
【0158】
図38に示す基板準備工程S00においては、ガラス基板Sを準備する(図26)。その後、図4に示すロード室S21を経て成膜室(真空処理室)S22に透明基板Sを搬入する。成膜室(真空処理室)S22において、基板保持手段S22aによって透明基板Sを支持する。
【0159】
図38に示す遮光層成膜工程S011においては、図4に示す成膜室(真空処理室)S22において、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0160】
成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に遮光層13を成膜する(図27)。
【0161】
遮光層13は、クロムニウムを主成分とする。ここで、あらかじめ遮光層13の成膜に必要な組成を有するターゲットS22bに交換しておく。また、遮光層13の成膜に必要な成膜ガスとして、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスなどを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
その後、図4に示すアンロード室S25を経て、ガラス基板Sを外部に搬出する。
【0162】
図38に示すフォトレジスト層形成工程S012aとして、マスクブランクスの最上層である遮光層13の上にフォトレジスト層PR1が形成される(図28)。フォトレジスト層PR1は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、ポジ型とすることができる。フォトレジスト層PR1としては、液状レジスト、密着フィルム等が用いられる。
【0163】
図38に示すレジストパターン形成工程S012bにおいては、フォトレジスト層PR1を露光するとともに、現像することで、遮光層13の上に所定のパターン形状(開口パターン)を有するフォトレジストパターンPR1pが形成される(図29)。
フォトレジストパターンPR1pは、遮光層13のエッチングマスクとして機能し、遮光層13のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
一例として、フォトレジストパターンPR1pは、ガラス基板Sが露出した透過領域M1とハーフトーン領域M2とを除き、遮光領域M3とに対応した形状に設定される。
【0164】
次いで、図38に示す遮光パターン形成工程S012cとして、フォトレジストパターンPR1p越しに所定のエッチング液を用いて遮光層13をウエットエッチングして、遮光パターン13pを形成する(図30)。
このとき、クロムを含有する遮光層13のエッチングでは、クロムエッチャント、たとえば、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができる。
【0165】
次いで、図38に示す洗浄工程S012dにおいて、所定の洗浄液を用いて、フォトレジストパターンPR1pを除去する。洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
この状態のマスクブランクスMBでは、遮光パターン13pが形成された遮光領域M3と、ガラス基板Sが露出した領域M1,M2とを有する(図31)。
【0166】
次いで、図4に示す成膜室(真空処理室)S22に透明基板Sを搬入する。
図38に示す元ハーフトーン層成膜工程S013aにおいては、図4に示す成膜室(真空処理室)S22において、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0167】
成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sおよび遮光パターン13pに付着することにより、ガラス基板Sおよび遮光パターン13pの表面に元ハーフトーン層11Aを成膜する(図32)。
【0168】
ここで、あらかじめ元ハーフトーン層11Aの成膜に必要な組成を有するターゲットS22bに交換しておく。また、元ハーフトーン層11Aの成膜に必要な成膜ガスとして、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスなどを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
このとき、成膜する元ハーフトーン層11Aは、厚さ方向において、所定の酸素の組成比、炭素の組成比、窒素の組成比、クロムの組成比をそれぞれ有することができる。
【0169】
図38に示す酸化処理工程S013bにおいては、図4に示す成膜室S22から酸化処理室S23に透明基板Sを搬入する。
透明基板Sには元ハーフトーン層11Aが成膜されている。酸化処理室S23において、基板保持手段S23aによって、透明基板Sを保持する。
【0170】
酸化処理室S23において、高真空排気手段S23fにより酸化処理室S23の内部を高真空引きしておく。そして、ガス導入手段S23eから酸化処理室S23に酸化処理ガスを供給する。
同時に、ガス励起手段S23rによってガス導入手段S23eから酸化処理室S23の内部に供給するガスを励起して、プラズマ、ラジカル、イオン等の励起酸化ガスとする。
【0171】
ガス励起手段S23rは、ガラス基板Sの元ハーフトーン層11Aの表面に向けて励起酸化ガスを噴出する。
励起酸化ガスを吹き付けられた元ハーフトーン層11Aは酸化されて、厚さ方向において、所定の酸素の組成比、炭素の組成比、窒素の組成比、クロムの組成比をそれぞれ有するハーフトーン層11となる(図33)。
【0172】
ハーフトーン層11においては、厚さ方向で最表面となる位置に耐薬層11aが形成される。また、ハーフトーン層11においては、厚さ方向の透明基板Sおよび遮光パターン13pに近接する位置に光学特性層11bが形成される。
耐薬層11aは、上述したように酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より高く形成される。
また、光学特性層11bは、上述したように酸素の組成比がクロムの組成比と窒素の組成比より低く形成される。
【0173】
このとき、酸化処理ガスとしては、クロム等を含有する元ハーフトーン層11Aを酸化可能なものであればよく、酸素ガス、二酸化炭素、酸窒化ガスとしてNO、NO、などが適応できる。
【0174】
ここで、耐薬層11aおよび光学特性層11bを有するハーフトーン層11を形成するためには、酸化状態を正確に制御することが必要である。したがって、酸化処理ガスにおける酸化能は、強すぎないほうが好ましい。
【0175】
たとえば、酸化処理工程S01bにおける酸化処理ガスの酸化能は、
> HO > CO > CO > NO >NO
の順に小さくなるため、クロムの酸化状態を精密に制御するためには、NOガスを用いることが好ましい。
【0176】
また、酸化処理ガスの条件としては、酸化処理を行う装置に導入するガス流量により制御することが可能であり、例えば酸化処理ガスの流量により制御することが可能である。さらに窒素ガスやアルゴンガス等のガスにより希釈して処理することも可能である。
【0177】
また、酸化処理ガスの励起条件としては、プラズマ放電を用いる場合には放電圧力あるいは放電電力により励起状態を制御することができる。また、スパッタ装置中において、放電電力を小さくして成膜速度を低くすることで酸化処理を行うことも可能である。
【0178】
酸化処理工程S01bにおいては、酸化状態を精密に制御して、ハーフトーン層11のシート抵抗を、
1.3×10Ω/sq以下に設定する。
さらに、ハーフトーン層11のシート抵抗を、
7.0×10Ω/sq以上に設定することもできる。
その後、図4に示すアンロード室S25を経て、ガラス基板Sを外部に搬出する。
【0179】
次に、図38に示すフォトレジスト層形成工程S014aとして、マスクブランクスMBの最上層であるハーフトーン層11の耐薬層11aの上にフォトレジスト層PR2を形成する。このとき、透過領域M1、ハーフトーン領域M2および遮光領域M3にフォトレジスト層PR2を形成する(図34)。
フォトレジスト層PR2は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、ポジ型とすることができる。フォトレジスト層PR2としては、液状レジストが用いられる。
【0180】
続いて、図38に示すレジストパターン形成工程S014bとして、フォトレジスト層PR2を露光するとともに現像することで、ハーフトーン層11の耐薬層11aの上にフォトレジストパターンPR2pが形成される(図35)。
フォトレジストパターンPR2pは、ハーフトーン層11のエッチングマスクとして機能する。
【0181】
フォトレジストパターンPR2pは、ハーフトーン層11を除去する透過領域M1のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
フォトレジストパターンPR2pは、ガラス基板Sを露出する透過領域M1を除き、ハーフトーン領域M2と遮光領域M3とに対応した形状に設定される。
【0182】
次いで、図38に示す透過パターン形成工程S014cとして、このフォトレジストパターンPR2p越しに所定のエッチング液(エッチャント)を用いてハーフトーン層11をウエットエッチングする工程を開始する。
クロムニウムを主成分とするハーフトーン層11を用いる場合においては、エッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができる。
【0183】
また、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
エッチング液として硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液を用いることが一般的である。
ハーフトーンパターン11pは、フォトレジストパターンPR2pに対応した開口形状を有し、ハーフトーン領域M2および遮光領域M3に対応する形状に除去される。ハーフトーンパターン11pは、透過領域M1に対応する形状に形成される(図36)。
【0184】
次いで、図38に示す洗浄工程S014dとして、フォトレジストパターンPR2pを除去する。
洗浄液として、硫酸過水、あるいは、オゾン水を用いることができる。
このとき、遮光領域M3およびハーフトーン領域M2においては、洗浄水がハーフトーンパターン11pに接触する。
【0185】
ハーフトーンパターン11pの洗浄では、耐薬層11aが露出面に配置される。
耐薬層11aは、上述した酸素等の組成比を有することにより、硫酸過水やオゾン水とされる洗浄液に対して、耐薬性を有する。このため、耐薬層11aは、洗浄工程S014dにおいて、洗浄液による膜厚や光学特性の変化が光学特性層11bに生じることを防止する。
【0186】
したがって、耐薬層11aにより、洗浄工程S014dにおいて、洗浄液による膜厚や光学特性の変化がハーフトーンパターン11pに生じることを抑制できる。
これにより、ハーフトーンパターン11pにおいて、光学特性層11bによって光学特性を担保することができる。
【0187】
同時に、ハーフトーン層11のシート抵抗を、上述したように設定することで、ハーフトーン領域M2における露光光の波長差に起因して生じる透過率の差を小さくすることができる。
なお、ハーフトーン層11のシート抵抗と、ハーフトーン領域M2における露光光の波長差に起因して生じる透過率の差と、の関係は、後述するように図39に示す。
【0188】
これにより、図37に示すように、光学的に設定された所定の遮光パターン13pと、所望の光学特性を有するハーフトーンパターン11pとを有し、透過領域M1とハーフトーン領域M2と遮光領域M3とが形成されたハーフトーンマスクMを得ることができる。
【0189】
本実施形態のマスクブランクスMBによれば、図33に示すように、ハーフトーン層11が耐薬層11aと光学特性層11bとを有することにより、所望の光学特性を備えたハーフトーンマスクMを製造することができる。
【0190】
また、元ハーフトーン層成膜工程S013aによって元ハーフトーン層11Aを成膜し、酸化処理工程S013bによって元ハーフトーン層11Aを酸化処理することで、耐薬性と光学特性の変動抑制と波長による透過率差抑制とを有するハーフトーン層11を形成可能とすることができる。
【0191】
これにより、従来の製造工程に酸化処理工程S013bを追加するだけで、所望の光学特性を備えたハーフトーンマスクMを製造することができる。しかも、エッチングストップ層を設けることなく、エッチングストップパターンの形成の必要のないハーフトーンマスクMを製造することができる。
【0192】
さらに、ハーフトーン層11のシート抵抗を設定することで、ハーフトーン層11において露光光の波長による透過率差を小さくすることができる。このように、露光光の波長による透過率の差が発生することを抑制して、複合波長の露光光への対応を容易におこなうことが可能なハーフトーンマスクMを製造可能とすることができる。
【0193】
本実施形態によれば、遮光パターン13p上部にハーフトーン層11が形成されたいわゆる上置き型となるハーフトーンマスクMを製造することが可能である。上置き型のハーフトーンマスクMにおいてもハーフトーンパターン11pを形成する際に、オゾンや硫酸過水等を用いた洗浄工程S014dをおこなう。
【0194】
この洗浄工程S014d等においてハーフトーンマスクの透過率が変動してしまうと、そのマスクを用いてパターン形成した場合に、被露光物であるレジストパターンでは、所望の形状を得ることができなくなるという課題が発生する。
【0195】
そのため、本実施形態のハーフトーンマスクを用いることで、露光波長における透過率差(透過率の変化)を小さくした上で、薬液を用いた洗浄工程S014d後のハーフトーン層11における透過率変化を抑制することが可能となる。
【0196】
上置きハーフトーンマスクは、まず、ガラス基板の上に遮光層13となるクロムニウム膜を形成する。その後、所望のパターンを形成するために、レジストプロセスを用いてクロムニウム膜のパターニングをおこなう。その後、クロムニウム膜で形成されたハーフトーン層11を形成する。この際に本発明を適用することで、洗浄工程においても透過率変動の少ないハーフトーン層を形成することが可能となる。
【0197】
その後、引き続き、ハーフトーン層をレジストプロセスにより所望のパターンに形成することで、上置き型ハーフトーンマスクを形成することができる。
【実施例
【0198】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0199】
なお、本発明におけるマスクブランクス、ハーフトーンマスクの具体例として、まず、マスクブランクスの製造について説明する。
【0200】
<実験例>
まず、マスクを形成するためのガラス基板上に、半透過性のハーフトーン膜を形成する。
ここでは、まず従来と同様のクロムニウム、酸素、窒素、炭素等の組成比を有する膜として成膜した後、酸化処理をおこなう。
【0201】
この際に形成するハーフトーン膜はクロムニウム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。ハーフトーン膜に含有するクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を、成膜時および酸化処理時に制御することで所望の透過率を有するハーフトーン膜を得ることが可能である。
【0202】
その後、エッチングストップ膜として金属シリサイド膜を形成する。金属シリサイド膜としては、様々な膜を用いることが可能であるが、本実施例においてはモリブデンシリサイドを用いている。この際にモリブデンシリサイドを形成するためには反応性スパッタリング法を用いて形成することが可能である。
【0203】
モリブデンシリサイドは膜中に窒素を含有しないと酸やアルカリ溶液に対して非常に容易にエッチングされるという性質を有している。そのため、モリブデンシリサイドをエッチングストップ層として用いる場合において窒素を含有するモリブデンシリサイドを用いる。
【0204】
ここで反応性スパッタリング法を用いてモリブデンシリサイドを形成する場合には、添加ガスに窒素を含有する窒素や一酸化窒素や二酸化窒素等を用いることで膜中に窒素を含有するモリブデンシリサイドを形成することが可能である。さらに、この場合、添加ガスのガス流量を制御することで、モリブデンシリサイドに含有される窒素の含有量も制御することが可能である。
【0205】
その後、クロムニウムを主成分とする遮光層を成膜する。
この際に遮光層の反射率を低減するために酸素濃度を高めた屈折率が低い反射防止層を遮光層表面に形成する。このように、金属シリサイド膜をエッチングストップ層とした下置き構造のハーフトーンマスクブランクスを形成する。
【0206】
さらに、ハーフトーンマスクを形成する場合には、まずレジストプロセスを用いて、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離のプロセス工程を経ることで遮光膜を所望のパターンに加工する。ここで、遮光膜をエッチングする際に、エッチングストップ膜が遮光膜のエッチング液によってエッチングされないことが重要である。クロムニウムを主成分とする遮光膜を用いる場合においては、エッチング液として硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液を用いることが一般的である。
【0207】
モリブデンシリサイドをエッチングストップ膜として用いる場合においては、モリブデンシリサイドがクロムニウムのエッチング液に対してほとんどエッチングされないために、良好なエッチングストップ膜として機能する。
【0208】
次にモリブデンシリサイド膜についても、同様にレジストプロセスを用いて、エッチングストップ膜を加工する。
ここでモリブデンシリサイド膜をエッチングするために用いたエッチング液は、フッ化水素酸と酸化剤を含む溶液である。
【0209】
エッチングストップ膜となるモリブデンシリサイド膜の加工後にモリブデンシリサイド膜をマスクとしてクロムニウムを主成分とするハーフトーン膜をエッチングする。その後にレジスト膜を剥離することで、遮光膜とエッチングストップ膜とハーフトーン膜を加工する工程が完了する。
【0210】
上述したように、下置き型のハーフトーンマスクMにおいては、レジストを用いたパターニング工程が少なくとも2回以上必要となる。このため、パターニング工程においてエッチング液や洗浄液にそれぞれの膜が処理される工程が上置き型のハーフトーンマスクと比較して増加する。
【0211】
このために、ハーフトーン層11が遮光層13よりも前に形成された下置き型のハーフトーンマスクMでは、高い薬液耐性が求められる。
また、ハーフトーン層11の透過率が40%以上等のように、透過率を高く設定する場合には、ハーフトーン層11の膜厚を薄く設定する必要がある。このために、ハーフトーン層11の薬液耐性が低いと透過率の変化も大きくなってしまうために、より高い薬液耐性が求められる。
【0212】
また、ハーフトーン層11の透過率の波長依存性を低減したフラットハーフトーン膜の重要性が高まっている。
FPDにおけるパネルの露光工程においては、露光の処理速度が非常に重要であるので、露光工程においては半導体における露光工程と違い多波長の光が用いられる。
【0213】
一般的には高圧水銀ランプの強い輝線スペクトルであるg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)の光を用いて露光される。このために、これらの波長での透過率が互いにできる限り近い値であることが望ましい。
このため、これまでハーフトーン膜として比較的あまり酸化がされていない金属的なクロムニウム膜を用いることが一般的である。
【0214】
しかしながら、比較的酸化の進んでいないクロムニウム膜をハーフトーン膜として用いた場合に、次のような問題が生じることがわかった。この問題は、マスクの洗浄工程として用いられる硫酸と過酸化水素水の混合溶液(硫酸過水)を用いた洗浄工程や、オゾン洗浄工程において、ハーフトーン膜がエッチングされることでハーフトーン膜の透過率が変化してしまうというものである。
【0215】
一方、ハーフトーン膜の酸化を強くすることで、耐薬特性を改善可能であるが、膜中の酸素濃度が高すぎる場合には、透過率の波長依存性が大きくなるという問題が発生する。 このような課題を解決するために、本実施例においては、ハーフトーン膜表面の酸素濃度を高めて、表面の酸素濃度を適切に制御するとともに、ハーフトーン膜の深さ方向に酸素濃度を低下させることで、透過率の波長依存性を一定以下に抑制したままで、耐薬特性を高めることが可能である。
【0216】
<実験例1>
実験例1として、従来用いていたハーフトーン膜と変わらない同じ組成比を有するハーフトーン膜を形成した。
成膜したハーフトーン膜に酸化処理をおこなわないで、このハーフトーン膜をオージェ電子分光法を用いて組成評価を行った。
その結果を図19に示す。
なお、図19に組成評価を示したハーフトーン膜を、上述した元ハーフトーン層11Aとすることができる。
【0217】
<実験例2>
実験例2として、実験例1と同じハーフトーン膜を形成した後に、NOガスを用いて酸化処理を行った。
この場合も、実験例1と同様に、酸化処理した後のハーフトーン膜を、オージェ電子分光法を用いて組成評価を行った。
その結果を図20に示す。
【0218】
<実験例3>
実験例3として、実験例1と同じハーフトーン膜を形成した後に、COガスを用いて酸化処理を行った。
この場合も、実験例1と同様に、酸化処理した後のハーフトーン膜を、オージェ電子分光法を用いて組成評価を行った。
その結果を図21に示す。
【0219】
これらの結果から、図19に組成評価を示した実験例1のハーフトーン膜は膜中の酸素濃度が低く、実験例2,実験例3のようにNOガスおよびCOガスを用いて酸化処理を行うことで、ハーフトーン膜表面の酸素濃度を高くすることが可能であることがわかる。
なお、実験例2,実験例3のようにNOガスおよびCOガスを用いて酸化処理を行うことで、ハーフトーン膜の膜厚が増加しており、対応するハーフトーン膜の厚さ方向位置を図19図22にそれぞれ矢印で示している。
【0220】
また、図20の実験例2と図21の実験例3とを比較することで、COガスを用いた実験例3の場合と比較して、NOガスを用いて酸化処理をした実験例2のほうが、ハーフトーン膜表面のみの酸素濃度を高めることが可能であることがわかる。
これはCOガスをプラズマで励起した場合の酸化力が、NOガスと比較して高いためであると考えられる。
【0221】
さらに、これらのハーフトーン膜のh線における透過率、g線とi線とでの透過率の差、膜厚、硫酸過水による洗浄後の透過率変化を測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0222】
【表1】
【0223】
この結果から、酸化処理をおこなった実験例2,3においては、硫酸過化洗浄前後でのハーフトーン膜における透過率変化を抑制することが可能なことがわかる。
【0224】
また、酸化処理をおこなった実験例2,3においては、g線とi線とにおける透過率の差は、酸化処理を行っていない実験例1ハーフトーン膜と比較して大きくなる。
【0225】
さらに、NOガスで酸化処理を行った実験例2のハーフトーン膜の方が、COガスで酸化処理を行った実験例3のハーフトーン膜と比較して、g線とi線の透過率の差を小さくすることが可能である。これはNOガスでは酸化処理によりハーフトーン膜の内部の酸化を抑制して、ハーフトーン膜表面の酸化を強くすることができるためと考えられる。
【0226】
次に、強い耐薬特性と透過率の波長依存性が少ないハーフトーン膜を得るために、ハーフトーン膜に様々なNOガスを用いた酸化処理を行って、ハーフトーン膜における表面酸素濃度を変化させ、形成したハーフトーン膜の硫酸過水洗浄前後での透過率の変化を調査した。
【0227】
<実験例4>
実験例4として、ハーフトーン膜における表面酸素濃度を変化させ、ハーフトーン膜の表面酸素濃度と硫酸過水洗浄前後での透過率変化との関係を調査した。
その結果を図22に示す。
【0228】
<実験例5>
実験例5として、ハーフトーン膜の表面窒素濃度と硫酸過水洗浄前後での透過率変化との関係を調査した。
その結果を図23に示す。
【0229】
実験例4,5の結果から検討すると、硫酸過水に対する耐性を高めるためには、ハーフトーン膜表面の酸素濃度が40%以上、窒素濃度は20%以下が望ましいことがわかった。
なお、好ましい組成比の範囲をそれぞれ図22図23に示す。
【0230】
次に、強い耐薬特性と透過率の波長依存性が少ないハーフトーン膜を得るために、ハーフトーン膜に様々なNOガスを用いた酸化処理を行って、ハーフトーン膜における表面酸素濃度を変化させ、形成したハーフトーン膜の分光透過率特性の変化を調査した。
【0231】
<実験例6>
実験例4と同様に、ハーフトーン膜における表面酸素濃度を変化させ、実験例6として、ハーフトーン膜の表面酸素濃度と、g線およびi線でのそれぞれの透過率の差との関係を調査した。
その結果を図24に示す。
【0232】
<実験例7>
実験例5と同様に、ハーフトーン膜における表面窒素濃度を変化させ、実験例7として、ハーフトーン膜の表面窒素濃度と、g線およびi線でのそれぞれの透過率の差との関係を調査した。
その結果を図25に示す。
【0233】
一般的に、ハーフトーンマスクに求められるg線の透過率とi線での透過率の差は0.6%程度である。
実験例6,7の結果から検討すると、上記の基準を満たすハーフトーン膜表面の酸素濃度が55%以下、窒素濃度は15%以上が望ましいことがわかった。
なお、好ましい組成比の範囲をそれぞれ図24図25に示す。
【0234】
これまでの検討結果より、耐薬特性が高く、かつ、透過率の波長依存性の小さいハーフトーン膜を得るためには、ハーフトーン膜をNOガスを用いて酸化処理を行うことでハーフトーン膜表面の酸素濃度を高め、膜中の酸素濃度を低くすることが望ましいことがわかる。
【0235】
さらに、ハーフトーン膜表面の酸素濃度は40%以上55%以下、窒素濃度は15%以上20%以下にすることが望ましいことがわかる。
このハーフトーン膜を下置きハーフトーンマスクに適用することでマスク製造工程で必要となる薬液処理を行っても透過率の変化が少なく、かつ透過率の波長依存性の小さいハーフトーンマスクを得ることが可能なことがわかる。
【0236】
上記の実施例においては、薬液処理工程の多い下置き型のハーフトーンマスクを例として説明を行ったが、ハーフトーン膜が遮光膜の上に形成された上置き型のハーフトーンマスクに、本発明を適用することもできる。
これにより、薬液耐性が強く、かつ、透過率の波長依存性の少ない上置き型のハーフトーンマスクを製造することが可能である。
【0237】
また、上記の実施形態においては、成膜した元ハーフトーン層を酸化処理してハーフトーン層11としたが、成膜時に酸化処理ガスを供給して、酸素濃度を上述した組成比としてハーフトーン層11を成膜することもできる。
この場合、成膜室S12,S22に酸化処理ガスを供給可能な酸化処理ガス供給部を設けることが可能であり、酸化処理室S13,S23を設けないことができる。
【0238】
<実験例8>
実験例8として、実験例1~7と同じハーフトーン膜を形成した後に、NOガス等を用いて酸化処理を行った。さらに、酸化処理した後のハーフトーン膜において、シート抵抗を測定した。
この実験例8では、酸化条件を変化させて、シート抵抗を0.7×10Ω/sq~1.3×10Ω/sqの範囲で変化させた。
【0239】
さらに、シート抵抗の変化したハーフトーン膜において、g線(436nm)、および、i線(365nm)の光を用いてそれぞれの透過率を測定して、
g線透過率-i線透過率
の差の値(ΔT(g-i line)(%))を算出した。
その結果を図39に示す。
【0240】
この結果から、本発明を用いたハーフトーン膜のg線(436nm)およびi線(365nm)における透過率差と、シート抵抗との関係は、シート抵抗が高くなるにつれて、g線とi線の透過率差が大きくなることがわかった。
【0241】
本発明のハーフトーン膜は膜厚方向に酸素濃度が大きく変化しており、ハーフトーン膜の表面近傍の酸素濃度が高い。このために、酸化工程における酸化条件を強くするにつれて酸素濃度が高くなり、それに伴って、ハーフトーン膜のシート抵抗が高くなることがわかる。
【0242】
このことから、ハーフトーン膜の抵抗率を深さ方向で変化させて、ハーフトーン膜の表面近傍の抵抗率を高くして、下層の抵抗率を低くすることで、本発明の効果を得ることができることがわかる。
しかも、本発明のハーフトーン膜はウエットエッチングの前後において、透過率差の変化を抑制できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0243】
本発明の活用例として、半導体およびフラットディスプレイ用のマスクおよびマスクブランクスを挙げることができる。
【符号の説明】
【0244】
MB…マスクブランクス
M…ハーフトーンマスク
M1…透過領域
M2…ハーフトーン領域
M3…遮光領域
S…ガラス基板(透明基板)
PR2,PR2…フォトレジスト層
PR1p、PR2p…フォトレジストパターン
11…ハーフトーン層
11a…耐薬層
11b…光学特性層
11A…元ハーフトーン層
11p…ハーフトーンパターン
12…エッチングストップ層
12p0…エッチングストップ層透過パターン
12p…エッチングストップパターン
13…遮光層
13p0…遮光層透過パターン
13p…遮光パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
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図37
図38
図39