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特許7366834トンネル施工用の安全装置、及び、トンネルの施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】トンネル施工用の安全装置、及び、トンネルの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 19/00 20060101AFI20231016BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
E21D19/00
E21D9/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020075547
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021172999
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 保幸
(72)【発明者】
【氏名】市場 大伍
(72)【発明者】
【氏名】青柳 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 久人
(72)【発明者】
【氏名】森下 慶一
(72)【発明者】
【氏名】女賀 崇司
(72)【発明者】
【氏名】福島 大介
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋文
(72)【発明者】
【氏名】川端 聡史
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204845(JP,A)
【文献】特開2019-148122(JP,A)
【文献】特開平07-229399(JP,A)
【文献】登録実用新案第3133043(JP,U)
【文献】特開平10-331430(JP,A)
【文献】特開平06-129195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 19/00
E21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽に対してトンネル軸方向に削孔される複数の第1の孔であって、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される複数の第1の孔の各々に一側が挿入される複数の棒体と、
前記複数の棒体の他側間に掛け渡され、切羽の近傍における落石を受け止めるための網状部材と、
を備え、
切羽に削孔される複数の第2の孔の各々には爆薬が装填され、
前記網状部材が前記複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置する、
トンネル施工用の安全装置。
【請求項2】
切羽に対してトンネル軸方向に削孔される複数の第1の孔であって、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される複数の第1の孔の各々に一側が挿入される複数の棒体と、
前記複数の棒体の他側間に掛け渡され、トンネル幅方向を長辺とし、かつ、トンネル軸方向を短辺とする矩形状である網状部材と、
を備え、
切羽に削孔される複数の第2の孔の各々には爆薬が装填され、
前記網状部材が前記複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置する、
トンネル施工用の安全装置。
【請求項3】
前記網状部材に緊張力を導入する緊張装置を更に備える、請求項1又は請求項2に記載のトンネル施工用の安全装置。
【請求項4】
前記複数の棒体の他側間に掛け渡されて前記網状部材のたわみを抑制するたわみ抑制部材を更に備える、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のトンネル施工用の安全装置。
【請求項5】
切羽に対してトンネル軸方向に複数の第1の孔と複数の第2の孔とを削孔する削孔工程であって、前記複数の第1の孔は、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される、削孔工程と、
前記複数の第1の孔の各々に棒体の一側を挿入する棒体設置工程と、
前記棒体の他側間に、切羽の近傍における落石を受け止めるための網状部材を掛け渡す網状部材設置工程と、
前記複数の第2の孔の各々に爆薬を装填する装薬工程と、
を含む、トンネルの施工方法。
【請求項6】
切羽に対してトンネル軸方向に複数の第1の孔と複数の第2の孔とを削孔する削孔工程であって、前記複数の第1の孔は、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される、削孔工程と、
前記複数の第1の孔の各々に棒体の一側を挿入する棒体設置工程と、
前記棒体の他側間に、トンネル幅方向を長辺とし、かつ、トンネル軸方向を短辺とする矩形状の網状部材を掛け渡す網状部材設置工程と、
前記複数の第2の孔の各々に爆薬を装填する装薬工程と、
を含む、トンネルの施工方法。
【請求項7】
前記網状部材設置工程で設置される前記網状部材は、前記複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置し、
前記装薬工程にて前記複数の第2の孔の前記少なくとも一部に前記爆薬が装填されるに先立って、前記網状部材設置工程が実施される、請求項5又は請求項6に記載のトンネルの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル施工用の安全装置、及び、トンネルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発破掘削方式で山岳トンネルを施工する際には、切羽に形成された発破孔に爆薬を装填(装薬)するために作業員が切羽近傍で作業を行う。この作業時に切羽からの落石が作業員に衝突する災害(肌落ち災害)が発生することを防止するために種々の対策が講じられている。
【0003】
この点、特許文献1は、トンネル施工時における切羽崩落時の危険回避を図る切羽防護装置及びトンネルの施工方法を提案している。特許文献1では、切羽を覆う防護ネットを取付部材を介して鋼製支保工などに固定している。また、特許文献1では、防護ネットと切羽との間に介装されたバルーンの膨張度合いを調節することで、防護ネットと切羽との間の間隔を調節している。尚、特許文献1の段落0023,0028には、作業員の作業性を考慮して、防護ネットと切羽との間の間隔を30cm以上に設定する旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-204845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、防護ネットと切羽との間に比較的大きな間隔が空いている。このため、作業員が防護ネット越しに当該間隔に手や腕を入れて作業しているときに、比較的大きな落石が作業員の手や腕に衝突する危険性があった。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑み、作業員による切羽近傍での装薬作業の安全性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため本発明に係るトンネル施工の安全装置の第1態様は、切羽に対してトンネル軸方向に削孔される複数の第1の孔であって、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される複数の第1の孔の各々に一側が挿入される複数の棒体と、複数の棒体の他側間に掛け渡され、切羽の近傍における落石を受け止めるための網状部材と、を備える。ここで、切羽に削孔される複数の第2の孔の各々には爆薬が装填される。網状部材が複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置する。
本発明に係るトンネル施工の安全装置の第2態様は、切羽に対してトンネル軸方向に削孔される複数の第1の孔であって、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される複数の第1の孔の各々に一側が挿入される複数の棒体と、複数の棒体の他側間に掛け渡され、トンネル幅方向を長辺とし、かつ、トンネル軸方向を短辺とする矩形状である網状部材と、を備える。ここで、切羽に削孔される複数の第2の孔の各々には爆薬が装填される。網状部材が複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置する。
【0008】
本発明に係るトンネルの施工方法の第1態様は、切羽に対してトンネル軸方向に複数の第1の孔と複数の第2の孔とを削孔する削孔工程であって、複数の第1の孔は、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される、削孔工程と、複数の第1の孔の各々に棒体の一側を挿入する棒体設置工程と、棒体の他側間に、切羽の近傍における落石を受け止めるための網状部材を掛け渡す網状部材設置工程と、複数の第2の孔の各々に爆薬を装填する装薬工程と、を含む。
本発明に係るトンネルの施工方法の第2態様は、切羽に対してトンネル軸方向に複数の第1の孔と複数の第2の孔とを削孔する削孔工程であって、複数の第1の孔は、トンネルの底面から所定の高さ位置で、かつ、トンネル幅方向に互いに間隔を空けて削孔される、削孔工程と、複数の第1の孔の各々に棒体の一側を挿入する棒体設置工程と、棒体の他側間に、トンネル幅方向を長辺とし、かつ、トンネル軸方向を短辺とする矩形状の網状部材を掛け渡す網状部材設置工程と、複数の第2の孔の各々に爆薬を装填する装薬工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、切羽に削孔された複数の第1の孔に一側が挿入された複数の棒体の他側間に網状部材が掛け渡される。ゆえに、網状部材を棒体の他側に沿って切羽近傍まで寄せることができるので、切羽近傍での落石を網状部材が確実に受け止めることができる。従って、作業員による切羽近傍での装薬作業の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態におけるトンネルの施工サイクルのフローチャート
図2】前記一実施形態における切羽に形成された棒体挿入孔及び発破孔の配置パターンの一例を示す図
図3】前記一実施形態におけるドリルジャンボの概略構成を示す図
図4】前記一実施形態におけるトンネル施工用の安全装置の設置方法を示す図
図5】前記一実施形態における棒体を示す図
図6】前記一実施形態における防護網ユニットの平面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態におけるトンネルの施工サイクル(1サイクル分)のフローチャートである。図2は、切羽1に形成された棒体挿入孔2及び発破孔3の配置パターンの一例を示している。図3は、削孔機の一例であるドリルジャンボ5の概略構成を示している。図4は、トンネル施工用の安全装置50の設置方法を示している。
【0013】
本実施形態では、発破掘削方式で山岳トンネル(以下単に「トンネル」と称する)を施工する。このトンネルの施工方法については、図1に示す施工サイクルを繰り返すことでトンネルの施工を進める。
ここで、トンネル施工進行方向を前進方向として、図2及び図4に示すように前後左右を規定して以下説明する。
【0014】
図1に示すように、施工サイクルは、削孔工程(ステップS1)、棒体設置工程(ステップS2)、網状部材設置工程(ステップS3)、装薬工程(ステップS4)、撤去工程(ステップS5)、発破工程(ステップS6)、掘削工程(ステップS7)、及び、支保工程(ステップS8)を含む。
【0015】
ここで、図4(ア)は削孔工程(ステップS1)に対応し、図4(イ)は棒体設置工程(ステップS2)に対応して、図4(ウ)は網状部材設置工程(ステップS3)に対応する。すなわち、図4(ア)~(ウ)に示すように、トンネル施工用の安全装置50の設置方法は、削孔工程(ステップS1)、棒体設置工程(ステップS2)、及び、網状部材設置工程(ステップS3)を含む。
【0016】
ステップS1では、削孔工程として、図2に示すように、トンネルの切羽1に複数の棒体挿入孔2と複数の発破孔3とを削孔する。ここで、図2において、棒体挿入孔2は黒丸で示されており、発破孔3は白丸で示されている。
本実施形態では、棒体挿入孔2が本発明の「第1の孔」に対応し、発破孔3が本発明の「第2の孔」に対応する。
【0017】
本実施形態では、図2に示すように3つの棒体挿入孔2が切羽1に形成されるとして以下説明するが、切羽1に形成される棒体挿入孔2の個数は3つに限らず、2つ以上の任意の個数であり得る。発破孔3の個数及び配置パターンについても、図2に図示されているものに限らない。
【0018】
棒体挿入孔2と発破孔3とは、各々が前後方向(トンネル軸方向)に延びている。棒体挿入孔2の長さ(深さ)は例えば1m程度である。発破孔3の長さ(深さ)については、地山の性状や発破条件などに応じて適宜設定され得る。
【0019】
本実施形態では、3つの棒体挿入孔2が、左右方向(トンネル幅方向)に互いに間隔を空けて切羽1に形成されている。これら棒体挿入孔2は、トンネルの底面1aから所定の高さhの高さ位置に形成されている。所定の高さhは例えば2m~3mの範囲内であり、後述する網状部材20が設置されたときに、この網状部材20の下で作業員が立った状態で作業ができる程度の高さに設定されている。
また、棒体挿入孔2は、例えば、切羽1の高さ方向中央部以下の高さ位置に形成されてもよい(つまり、切羽1における、トンネルの下半に対応する部分に形成されてもよい)。
【0020】
切羽1に形成される複数の発破孔3のうち、棒体挿入孔3(及び、網状部材設置工程(ステップS3)にて設置される網状部材20)より下方に位置するものからなるグループG1については、トンネルの底面1a上の作業員によって装薬作業(ステップS4)が行われ得る。一方、切羽1に形成される複数の発破孔3のうち、前述のグループG1以外のものについては、例えば図3に示すドリルジャンボ5のバスケット9に乗った作業員によって装薬作業(ステップS4)が行われ得る。
【0021】
図3に示すドリルジャンボ5は、削孔工程(ステップS1)で用いられる削孔機の一例である。ドリルジャンボ5は、アウトリガ(図示せず)を備える自走式のベースマシン6と、ベースマシン6の先端に設けられて切羽1の削孔を行う削孔用ドリフター7と、ベースマシン6の上部に上下揺動可能に支持され、かつ伸縮可能なブーム8と、ブーム8の先端に配置されたバスケット9とを備えている。バスケット9は、削孔工程(ステップS1)において作業監視用の作業員が配備される場所であり、また、装薬工程(ステップS4)において装薬作業を行う作業員が配置される場所である。バスケット9については、デッキプレート9aの周囲を手すり9bで囲うことによって作業員の安全を確保している。ここで、ブーム8及びバスケット9により、「高所作業用設備」の機能が実現され得る。すなわち、削孔工程(ステップS1)で用いられる削孔機は、高所作業用設備を備えている。
【0022】
ドリルジャンボ5は、例えば、2つの削孔用ドリフター7と2つのバスケット9(ブーム8)とを備える。しかしながら、ドリルジャンボ5が備える削孔用ドリフター7の個数及びバスケット9(ブーム8)の個数は2つに限らず任意の個数である。
【0023】
削孔工程(ステップS1)では、ドリルジャンボ5を用いて、一連の削孔作業で、複数の棒体挿入孔2と複数の発破孔3とを切羽1に形成する。ゆえに、棒体挿入孔2の内径と発破孔3の内径とは略同等になる。
【0024】
図4(ア)は、削孔工程(ステップS1)において、切羽1に棒体挿入孔2が形成された状態を示している。ここにおいて、図4(ア)~(ウ)は、図2のA-A断面に対応するものであるが、図示簡略化のために発破孔3の図示を省略している。
【0025】
図1に戻り、ステップS2では、棒体設置工程として、複数(本実施形態では3つ)の棒体挿入孔2の各々に、棒体10の前側11を挿入する。
ここで、図4(イ)は、棒体設置工程(ステップS2)において、棒体挿入孔2に棒体10の前側11が挿入されて、後側12が切羽1からトンネルの内部空間に向けて略水平に突出している状態を示している。
【0026】
尚、棒体10の前側11が本発明の「棒体の一側」に対応し、棒体10の後側12が本発明の「棒体の他側」に対応する。
また、棒体10は、トンネル施工用の安全装置50を構成するものである。
【0027】
以下では、本実施形態で切羽1に形成される3つの棒体挿入孔2について、左側の棒体挿入孔2L、中央の棒体挿入孔2C、及び、右側の棒体挿入孔2Rとして説明する。棒体挿入孔2L,2Rについては、切羽1の周縁部に形成されている。
【0028】
図5(ア)は、棒体挿入孔2L,2Rに前側11が挿入される棒体10の一例として、棒体10-1を示している。図5(イ)は、棒体挿入孔2Cに前側11が挿入される棒体10の一例として、棒体10-2を示している。図5(ウ)は、棒体挿入孔2L,2Rに前側11が挿入される棒体10の別の例として、棒体10-3を示している。
【0029】
棒体10(例えば棒体10-1~10-3)は例えば鋼製である。棒体10の断面形状は例えば六角形状又は円形状である。棒体10の長さは例えば2m程度である。棒体10の長さは2m程度である場合に、例えば、棒体10の前側11の1m分が棒体挿入孔2に挿入されて、棒体10の後側12の1m分が切羽1から突出する。
【0030】
図5(ア)に示す棒体10-1の後端部(後側12の端部)には板状部材14が取り付けられている。板状部材14は、棒体10-1の後側12に引っ掛けられたフック31,32(図4(ウ)及び図6参照)が棒体10-1の後側12から脱落するのを防止するためのストッパーとして機能するものである。
【0031】
図5(イ)に示す棒体10-2の後側12には、左右両側にアイボルト15が5つずつ取り付けられている。左側の5つのアイボルト15には左側の防護網ユニット21のフック33,34(図4(ウ)及び図6参照)が引っ掛けられる。右側の5つのアイボルト15には右側の防護網ユニット21のフック33,34(図4(ウ)及び図6参照)が引っ掛けられる。
【0032】
図5(ウ)に示す棒体10-3は、棒体挿入孔2L,2R用として棒体10-1の代わりに用いられ得るものである。
棒体10-3の後側12には、4つのアイボルト15が取り付けられている。これらアイボルト15にはフック31,32(図6参照)が引っ掛けられる。
【0033】
棒体設置工程(ステップS2)で、棒体挿入孔2に前側11が挿入される棒体10の例として、図4(イ)及び(ウ)、図5(ア)~(ウ)、及び図6を参照しつつ、棒体10-1~10-3を説明したが、棒体10の後側12の構成は棒体10-1~10-3の後側12の構成に限らない。棒体10の後側12に取り付けられるアイボルト15の個数は任意である。また、棒体10の後側12に板状部材14やアイボルト15を取り付けなくてもよい。つまり、フック31~34の一部又は全部が、棒体10の後側12に、直接的に、又は、アイボルト15などの取付金具等を介して間接的に、取り付けられ得る。
【0034】
本実施形態では、フック31~34を棒体10の後側12に取り付けるための取付金具としてアイボルト15を挙げて説明したが、この取付金具はアイボルト15以外のものであってもよい。
【0035】
図1に戻り、ステップS3では、網状部材設置工程として、隣り合う棒体10の後側12同士の間に網状部材20を掛け渡す。
本実施形態では、網状部材設置工程(ステップS3)において、網状部材20を含んで構成される防護網ユニット21を、隣り合う棒体10の後側12同士の間に掛け渡す。
ここで、防護網ユニット21は、トンネル施工用の安全装置50を構成するものである。
【0036】
尚、本実施形態では、トンネル幅方向に2つの防護網ユニット21を直列に設置する例を示しているが、設置される防護網ユニット21の個数は2つに限らない。トンネルの断面積が小さければ、防護網ユニット21が1つである場合もあり得る。また、トンネルの断面積が大きければ、トンネル幅方向に3つ以上の防護網ユニット21が直列に設置されてもよい。
【0037】
図6は、防護網ユニット21の平面図である。
防護網ユニット21は、網状部材20と、周回ロープ22と、前後一対のたわみ抑制ワイヤ23と、複数(図6では5つ)の連結ワイヤ24とを含んで構成される。尚、防護網ユニット21を構成する連結ワイヤ24の個数は5つに限らず、任意の個数である。また、たわみ抑制ワイヤ23が本発明の「たわみ抑制部材」に対応して、網状部材20のたわみを抑制する機能を実現する。
【0038】
網状部材20は、左右方向(トンネル幅方向)を長辺とし、前後方向(トンネル軸方向)を短辺とする矩形シート状である。網状部材20は例えばポリエステル製などの樹脂製である。
網状部材20の周縁部には、網状部材20の外縁に沿うように周回ロープ22が取り付けられている。ゆえに、周回ロープ22は、左右方向(トンネル幅方向)を長辺とし、前後方向(トンネル軸方向)を短辺とする矩形閉ループ状である。
【0039】
周回ロープ22の一方の短辺部分の前部及び後部には、それぞれ、後述する緊張装置40のフック35が引っ掛けられ得る。周回ロープ22の他方の短辺部分には、3つのフック33が取り付けられている。これら3つのフック33は、周回ロープ22の他方の短辺部分における前部、前後方向中央部、及び、後部に取り付けられている。
【0040】
たわみ抑制ワイヤ23は、周回ロープ22の長辺部分の近傍にて、周回ロープ22の長辺部分と略平行に(つまり左右方向(トンネル幅方向)に)延びている。たわみ抑制ワイヤ23の一端部にはフック31が取り付けられており、他端部にはフック34が取り付けられている。
ここで、たわみ抑制ワイヤ23は、フック31,34を棒体10の後側12への取付部として、棒体10の後側12間に掛け渡され得る。この棒体10の後側12間の間隔と、たわみ抑制ワイヤ23の長さとは、略同等である。
【0041】
たわみ抑制ワイヤ23と、それに隣接する周回ロープ22の長辺部分とは、複数の連結用カラビナ26を介して連結されている。ここにおいて、連結用カラビナ26以外の別の連結手段を用いて、たわみ抑制ワイヤ23と、それに隣接する周回ロープ22の長辺部分とを連結してもよいことは言うまでもない。
【0042】
連結ワイヤ24は前後方向(トンネル軸方向)に延びており、前端部が前側のたわみ抑制ワイヤ23に固定され、後端部が後側のたわみ抑制ワイヤ23に固定されている。つまり、連結ワイヤ24は、前後方向(トンネル軸方向)に間隔を空けて略平行に左右方向(トンネル幅方向)に延びる前後一対のたわみ抑制ワイヤ23に跨るように設けられている。複数の連結ワイヤ24は、左右方向(トンネル幅方向)に間隔を空けて並んでいる。
【0043】
従って、前後一対のたわみ抑制ワイヤ23と複数の連結ワイヤ24とは、左右方向(トンネル幅方向)に延びる梯子状に連結されており、これらからなる補強構造に周回ロープ22及び複数の連結用カラビナ26を介して網状部材20が取り付けられていることによって、網状部材20の平面性が補強されている。
【0044】
尚、連結ワイヤ24は、前後一対のたわみ抑制ワイヤ23同士の間の間隔を保持する機能(換言すれば当該間隔を所定値以内に制限する機能)を有する。この間隔(前述の所定値)は、網状部材20の短辺の長さよりも若干大きく、また、周回ロープ22の短辺部分の長さよりも若干大きいことが好ましい。
【0045】
網状部材設置工程(ステップS3)では、防護網ユニット21を棒体10の後側12間に掛け渡すのと並行して、又は、防護網ユニット21を棒体10の後側12間に掛け渡した後に、緊張装置40が防護網ユニット21(特に本実施形態で周回ロープ22)に設置される。つまり、この緊張装置設置工程は、網状部材設置工程(ステップS3)に含まれ得るものである。ここで、緊張装置40は、トンネル施工用の安全装置50を構成するものである。
【0046】
緊張装置40は、ロープ41と、ロープ41の一端に設けられたフック35と、ロープ41の緊張状態を保持可能な緊張器42と、緊張器42に設けられたフック32とを備える。
【0047】
フック35は、周回ロープ22の一方の短辺部分に取り付けられる。フック32は、棒体10(例えば棒体10-1又は棒体10-3)の後側12に、直接的に、又は、前述のアイボルト15などの取付金具等を介して間接的に、取り付けられる。
【0048】
緊張器42は、市販されている一般的な親綱緊張器を転用したものであり、当該親綱緊張器において親綱の代わりにロープ41を用いるものである。緊張器42は、ロープ41の他端側41aを作業員が引っ張ることでロープ41に緊張力を導入したときにその緊張状態を保持するようにロックすることができるように、また、このロックを解除してロープ41を弛緩させることができるように構成されている。緊張器42の構成については、例えば、特開2010-252888号公報や特開平7-171225公報に開示されているあらゆる周知の構成を採用することができる。
【0049】
従って、緊張装置40のフック35を周回ロープ22に取り付け、かつ、フック32を棒体10の後側12に取り付けた状態で、ロープ41の他端側41aを作業員が引っ張ると、ロープ41に緊張力を導入され、更に周回ロープ22を介して網状部材20に緊張力が導入される。この緊張力は、主として、左右方向(トンネル幅方向)に作用する。この緊張力導入工程は、網状部材設置工程(ステップS3)に含まれ得るものである。
【0050】
ここで、網状部材設置工程(ステップS3)にて設置された防護網ユニット21(つまり、隣り合う棒体10の後側12同士の間に掛け渡された防護網ユニット21)は、前述のグループG1に属する発破孔3より上方に位置する。
本実施形態では、網状部材設置工程(ステップS3)の完了後に、トンネルの略全幅にわたって、網状部材20が張られた状態となる。
【0051】
図1に戻り、ステップS4では装薬工程として発破孔3に爆薬が装填される。
ここで、前述のグループG1に属する発破孔3については、トンネルの底面1a上の作業員によって装薬作業が行われ得る。一方、前述のグループG1に属さない発破孔3については、例えばドリルジャンボ5のバスケット9に乗った作業員によって装薬作業が行われ得る。
【0052】
前述のグループG1に属する発破孔3に対する装薬作業時に、切羽1の近傍で作業している作業員の頭上は、網状部材20(防護網ユニット21)で覆われた状態である。ゆえに、作業員を落石から防護することができる。
【0053】
装薬工程(S4)において、少なくとも、前述のグループG1に属する発破孔3に対する装薬作業が完了した後に、ステップS5(撤去工程)として、全ての棒体10、防護網ユニット21及び緊張装置40を撤去する。
【0054】
当該撤去が完了した後、かつ、全ての発破孔3に対する爆薬の装填が完了した後に、発破工程(ステップS6)として、当該爆薬を爆破させる。
この後、掘削工程(ステップS7)として、地山を掘削して切羽1を前進させる。
すなわち、ステップS6,S7にて、発破掘削方式で、地山の掘削を行う。
【0055】
この後、支保工程(ステップS8)として、前述の掘削工程(ステップS7)にて露出した掘削面(トンネルの切羽面及び周壁面)にコンクリートを吹き付ける(1次吹付工程)。そして、トンネルの周壁面に関して、鋼製支保工を建て込み(支保工建込工程)、金網を設置して(金網設置工程)、コンクリートを吹き付ける(2次吹付工程)。また、必要に応じて、ロックボルトの打設や補助工法(例えば先受け工)の施工を行う。
尚、支保工程(ステップS8)の施工内容については、地山の性状などに応じて適宜変更され得る。
【0056】
このようにして、削孔工程(ステップS1)、棒体設置工程(ステップS2)、網状部材設置工程(ステップS3)、装薬工程(ステップS4)、撤去工程(ステップS5)、発破工程(ステップS6)、掘削工程(ステップS7)、及び、支保工程(ステップS8)を含む施工サイクルを繰り返すことで、トンネルの施工が進められる。
【0057】
本実施形態によれば、トンネル施工用の安全装置50は、切羽1に削孔される複数の第1の孔(棒体挿入孔2)の各々に一側(前側11)が挿入される複数の棒体10と、複数の棒体10の他側(後側12)間に掛け渡される網状部材20と、を備える。切羽1に削孔される複数の第2の孔(発破孔3)の各々には爆薬が装填される。網状部材20が複数の第2の孔(発破孔3)の少なくとも一部(例えば、グループG1に属する発破孔3)より上方に位置する。ゆえに、網状部材20を棒体10の他側(後側12)に沿って切羽1の近傍まで寄せることができるので、切羽1の近傍での落石を網状部材20が確実に受け止めることができる。
【0058】
また本実施形態によれば、トンネル施工用の安全装置50は、網状部材20に緊張力を導入する緊張装置40を更に備える。これにより、網状部材20に張力をかけて網状部材20を張ることができるので、網状部材20に落石したときの網状部材20のたわみ量を小さくすることができる。従って、網状部材20の下にいる作業員に落石が衝突する可能性を大幅に低減することができる。
【0059】
また本実施形態によれば、トンネル施工用の安全装置50は、複数の棒体10の他側(後側12)間に掛け渡されて網状部材20のたわみを抑制するたわみ抑制部材(たわみ抑制ワイヤ23)を更に備える。これにより、網状部材20に落石したときの網状部材20のたわみ量を小さくすることができるので、網状部材20の下にいる作業員に落石が衝突する可能性を大幅に低減することができる。
【0060】
また本実施形態によれば、複数の第1の孔(棒体挿入孔2)と複数の第2の孔(発破孔3)とは、ドリルジャンボ5などの削孔機による一連の削孔作業で切羽1に形成される。ゆえに、切羽1の削孔作業を集約化して効率よく実施することができる。
【0061】
また本実施形態によれば、トンネルの施工方法は、切羽1に複数の第1の孔(棒体挿入孔2)と複数の第2の孔(発破孔3)とを削孔する削孔工程(ステップS1)と、複数の第1の孔(棒体挿入孔2)の各々に棒体10の一側(前側11)を挿入する棒体設置工程(ステップS2)と、棒体10の他側(後側12)間に網状部材20を掛け渡す網状部材設置工程(ステップS3)と、複数の第2の孔(発破孔3)の各々に爆薬を装填する装薬工程(ステップS4)と、を含む。網状部材設置工程(ステップS3)で設置される網状部材20は、複数の第2の孔(発破孔3)の少なくとも一部(例えば、グループG1に属する発破孔3)より上方に位置する。装薬工程(ステップS4)にて複数の第2の孔(発破孔3)の少なくとも一部(例えば、グループG1に属する発破孔3)に爆薬が装填されるに先立って、網状部材設置工程(ステップS3)が実施される。ゆえに、網状部材20を棒体10の他側(後側12)に沿って切羽1の近傍まで寄せることができるので、切羽1の近傍での落石を網状部材20が確実に受け止めることができる。
【0062】
また本実施形態によれば、トンネルの施工方法は、複数の第2の孔(発破孔3)の少なくとも一部(例えば、グループG1に属する発破孔3)に爆薬が装填された後に網状部材20及び棒体10を撤去する撤去工程(ステップS5)と、撤去工程(ステップS5)の後に爆薬を爆発させる発破工程(ステップS6)と、発破工程(ステップS6)の後に地山を掘削して切羽1を前進させる掘削工程(ステップS7)と、を更に含む。削孔工程(ステップS1)、棒体設置工程(ステップS2)、網状部材設置工程(ステップS3)、装薬工程(ステップS4)、撤去工程(ステップS5)、発破工程(ステップS6)、及び、掘削工程(ステップS7)を有する施工サイクルを繰り返すことで、トンネルの施工を進める。従って、網状部材20の設置及び撤去を施工サイクルに組み込んだかたちで効率よく実施することができる。
【0063】
また本実施形態によれば、削孔工程(ステップS1)では、一連の削孔作業で、複数の第1の孔(棒体挿入孔2)及び第2の孔(発破孔3)を切羽1に形成する。ゆえに、切羽1の削孔作業を集約化して効率よく実施することができる。
【0064】
また本実施形態によれば、網状部材設置工程(ステップS3)は、網状部材20に緊張力を導入することを含む。ゆえに、網状部材20に張力をかけて網状部材20を張ることができるので、網状部材20に落石したときの網状部材20のたわみ量を小さくすることができる。従って、網状部材20の下にいる作業員に落石が衝突する可能性を大幅に低減することができる。
【0065】
図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
尚、出願当初の請求項は以下のとおりであった。
[請求項1]
切羽に削孔される複数の第1の孔の各々に一側が挿入される複数の棒体と、
前記複数の棒体の他側間に掛け渡される網状部材と、
を備え、
切羽に削孔される複数の第2の孔の各々には爆薬が装填され、
前記網状部材が前記複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置する、
トンネル施工用の安全装置。
[請求項2]
前記網状部材に緊張力を導入する緊張装置を更に備える、請求項1に記載のトンネル施工用の安全装置。
[請求項3]
前記複数の棒体の他側間に掛け渡されて前記網状部材のたわみを抑制するたわみ抑制部材を更に備える、請求項1又は請求項2に記載のトンネル施工用の安全装置。
[請求項4]
切羽に複数の第1の孔と複数の第2の孔とを削孔する削孔工程と、
前記複数の第1の孔の各々に棒体の一側を挿入する棒体設置工程と、
前記棒体の他側間に網状部材を掛け渡す網状部材設置工程と、
前記複数の第2の孔の各々に爆薬を装填する装薬工程と、
を含む、トンネルの施工方法。
[請求項5]
前記網状部材設置工程で設置される前記網状部材は、前記複数の第2の孔の少なくとも一部より上方に位置し、
前記装薬工程にて前記複数の第2の孔の前記少なくとも一部に前記爆薬が装填されるに先立って、前記網状部材設置工程が実施される、請求項4に記載のトンネルの施工方法。
[請求項6]
前記複数の第2の孔の前記少なくとも一部に前記爆薬が装填された後に前記網状部材及び前記棒体を撤去する撤去工程と、
前記撤去工程の後に前記爆薬を爆発させる発破工程と、
前記発破工程の後に地山を掘削して切羽を前進させる掘削工程と、
を更に含み、
前記削孔工程、前記棒体設置工程、前記網状部材設置工程、前記装薬工程、前記撤去工程、前記発破工程、及び、前記掘削工程を有する施工サイクルを繰り返すことで、トンネルの施工を進める、請求項5に記載のトンネルの施工方法。
[請求項7]
前記削孔工程では、一連の削孔作業で、前記第1の孔及び前記第2の孔を切羽に形成する、請求項4~請求項6のいずれか1つに記載のトンネルの施工方法。
【符号の説明】
【0066】
1…切羽、1a…底面、2,2C,2L,2R…棒体挿入孔、3…発破孔、5…ドリルジャンボ、6…ベースマシン、7…削孔用ドリフター、8…ブーム、9…バスケット、9a…デッキプレート、9b…手すり、10,10-1,10-2,10-3…棒体、11…前側、12…後側、14…板状部材、15…アイボルト、20…網状部材、21…防護網ユニット、22…周回ロープ、23…たわみ抑制ワイヤ、24…連結ワイヤ、26…連結用カラビナ、31~35…フック、40…緊張装置、41…ロープ、41a…他端側、42…緊張器、50…トンネル施工用の安全装置、h…高さ、G1…グループ
図1
図2
図3
図4
図5
図6