(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20231016BHJP
B60R 22/38 20060101ALI20231016BHJP
B60R 22/46 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/38
B60R22/46
(21)【出願番号】P 2020103468
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】樋口 竜也
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218041(JP,A)
【文献】特開2018-177031(JP,A)
【文献】特開2007-145275(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009017268(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018202917(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/28,22/38,22/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに回転可能に支持されるとともにシートベルトを巻き取るスプールと、
非作動時に前記スプールの回転を許容し、作動時に前記スプールのシートベルト引出し方向の回転を阻止するロッキングベースを有するロック機構と、
プリテンショナの作動時に前記プリテンショナから前記スプールが前記シートベルトを引き込む方向に回転力を受ける駆動部材と、
前記スプール内に内蔵され、一端部が前記スプールに連結され、他端部が前記ロッキングベースでロック可能であって、前記スプールと前記ロッキングベースとの回転差によって塑性変形を生じながら捻じれることで、前記シートベルトにかかる荷重を制限して乗員のエネルギを吸収緩和するトーションバーと、
前記トーションバーの前記他端部と連結され、前記トーションバーの軸方向に延びて前記ロッキングベースと連結される連結部材と、
を備え、
前記ロッキングベースは、前記スプールの前記他端部側に配置される環状の基部と、前記基部の中心から前記スプール側に延在する筒状部とを有し、前記駆動部材は、前記スプールと前記ロッキングベースの前記基部との間、かつ、前記ロッキングベースの前記筒状部の径方向外側に配置され、
前記スプールの径方向から視たときに、前記トーションバーは前記駆動部材よりも前記スプール側にあり、前記連結部材は前記筒状部に挿入されて、前記駆動部材より前記基部側まで延在するよう配置される、
シートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記トーションバーの前記他端部と、前記連結部材との連結部は、前記スプールの内部に配置される、
請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記トーションバーの前記他端部の先端は、前記スプールの径方向から視たときに、前記駆動部材の前記スプール側の端面の位置となるよう配置される、
請求項1または2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記連結部材は、前記ロッキングベースと前記ロッキングベースの変形を伴わない方法で連結される、
請求項1~3のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記連結部材の前記トーションバーとは反対側の端部は、前記ロッキングベースの前記基部から外部に突出するよう配置され、前記端部に設けられるフランジにより前記ロッキングベースと当接することでスラスト方向の位置が規制される、
請求項4に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項6】
前記ロッキングベースの前記筒状部は軸方向に貫通孔を持つ、
請求項1~5のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項7】
前記トーションバーのエネルギ吸収時の捻じれ回転数を規制するストッパを備える、
請求項1~6のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項8】
前記ロッキングベースの前記基部と前記筒状部とが別部品で形成され、
前記筒状部が高硬度材料、前記基部が低硬度材料で形成される、
請求項1~7のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項9】
前記駆動部材は前記筒状部と同様の高硬度材料で形成され、
前記ロッキングベースには、前記駆動部材との径方向の対向位置にクラッシュリブが設けられ、
前記クラッシュリブは、前記基部と一体的に形成され、前記基部から前記筒状部の周面上に突出して設けられる、
請求項8に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項10】
前記駆動部材の前記スプール側、かつ、前記ロッキングベースの前記筒状部の径方向外側に配置され、前記基部と同様の低硬度材料で形成される環状部材を備え、
前記環状部材には、前記筒状部と前記駆動部材との隙間に進入可能に突出し、前記環状部材と一体的に形成されるクラッシュリブが設けられる、
請求項7または8に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項11】
前記クラッシュリブは、駆動力発生方向と反対側にずらして設けられる、
請求項9または10に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項12】
乗員を拘束するシートベルトと、
前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るとともに、緊急時に作動して前記シートベルトの引出しを阻止する、請求項1~11のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタと、
前記シートベルトリトラクタから引き出された前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、
車体または車両シートに設けられ、前記タングが離脱可能に係止されるバックルと、
を備えるシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シートベルトリトラクタ及びこれを備えるシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シートベルトリトラクタにおいて、トーションバーの一方の端部にフランジ形状を設けて、このフランジ形状をロッキングベースに引っ掛けることによって、トーションバーをロッキングベースに連結する構成が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シートベルトリトラクタにおいて、プリテンショナから駆動力をスプールに伝達する駆動部材を、スプールとロッキングベースとの間に配置する場合がある。この場合、スプールとロッキングベースとの間の距離が増えるので、両者の間を連結するトーションバーも非常に長くなってしまう。トーションバーが長尺となると、加工性が悪化し、重量が大きくなるので、シートベルトリトラクタ全体からみても加工性や軽量化に改善の余地がある。
【0005】
本開示は、加工性を向上でき、かつ、軽量化できるシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るシートベルトリトラクタは、フレームに回転可能に支持されるとともにシートベルトを巻き取るスプールと、非作動時に前記スプールの回転を許容し、作動時に前記スプールのシートベルト引出し方向の回転を阻止するロッキングベースを有するロック機構と、プリテンショナの作動時に前記プリテンショナから前記スプールが前記シートベルトを引き込む方向に回転力を受ける駆動部材と、前記スプール内に内蔵され、一端部が前記スプールに連結され、他端部が前記ロッキングベースでロック可能であって、前記スプールと前記ロッキングベースとの回転差によって塑性変形を生じながら捻じれることで、前記シートベルトにかかる荷重を制限して乗員のエネルギを吸収緩和するトーションバーと、前記トーションバーの前記他端部と連結され、前記トーションバーの軸方向に延びて前記ロッキングベースと連結される連結部材と、を備え、前記ロッキングベースは、前記スプールの前記他端部側に配置される環状の基部と、前記基部の中心から前記スプール側に延在する筒状部とを有し、前記駆動部材は、前記スプールと前記ロッキングベースの前記基部との間、かつ、前記ロッキングベースの前記筒状部の径方向外側に配置され、前記スプールの径方向から視たときに、前記トーションバーは前記駆動部材よりも前記スプール側にあり、前記連結部材は前記筒状部に挿入されて、前記駆動部材より前記基部側まで延在するよう配置される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、加工性を向上でき、かつ、軽量化できるシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るシートベルトリトラクタが適用されるシートベルト装置の構成の一例を示す図
【
図2】第1実施形態に係るシートベルトリトラクタの要部の分解斜視図
【
図3】
図2に示すシートベルトリトラクタの要部の組立斜視図
【
図4】
図2、3に示すシートベルトリトラクタの要部の縦断面図
【
図5】連結部材を設けることによる第1実施形態の効果を説明する模式図
【
図6】トーションバーと連結部材との連結構造の変形例を示す模式図
【
図7】連結部材とロッキングベースとの連結構造の第1変形例を示す模式図
【
図8】連結部材とロッキングベースとの連結構造の第2変形例を示す模式図
【
図9】連結部材とロッキングベースとの連結構造の第3変形例を示す模式図
【
図10】連結部材とロッキングベースとの連結構造の第4変形例を示す模式図
【
図11】第2実施形態に係るシートベルトリトラクタの要部の分解斜視図
【
図12】
図11中のロッキングベースの基部のx負方向側から視た平面図
【
図13】
図11中のパドルホイールのx負方向側から視た平面図
【
図14】
図11中のロッキングベースの基部と筒状部を組み立てた状態の斜視図
【
図15】ロッキングベースとパドルホイールを組み立てた状態の側面図
【
図16】ロッキングベースとパドルホイールを組み立てた状態のx負方向側から視た平面図
【
図17】第2実施形態におけるクラッシュリブの作用効果を示す模式図
【
図18】クラッシュリブの配置の変形例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、
図2以降の各図面で示すx方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向はスプール11の回転軸の方向である。y方向、z方向は、それぞれスプール11の回転軸からの遠心方向であり、典型的にはz方向は上下方向である。
【0011】
[第1実施形態]
図1~
図10を参照して第1実施形態について説明する。まず
図1を参照して、第1実施形態に係るシートベルトリトラクタ3が適用されるシートベルト装置1の構成の一例を説明する。
【0012】
シートベルト装置1は、車両に搭載された車載システムの一例である。シートベルト装置1は、例えば、シートベルト4と、シートベルトリトラクタ3と、ショルダーアンカー6と、タング7と、バックル8とを備える。
【0013】
シートベルト4は、車両のシート2に座る乗員9を拘束するウェビングの一例であり、リトラクタ3に引き出し可能に巻き取られる帯状部材である。シートベルト4の先端のベルトアンカー5は、シート2又はシート2の近傍の車体に固定される。
【0014】
シートベルトリトラクタ3は、シートベルト4の巻き取り又は引き出しを可能にする巻き取り装置の一例であり、車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わると、シートベルト4がシートベルトリトラクタ3から引き出されることを制限する。シートベルトリトラクタ3は、シート2又はシート2の近傍の車体に固定される。
【0015】
ショルダーアンカー6は、シートベルト4が挿通するベルト挿通具の一例であり、シートベルトリトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員9の肩部の方へガイドする部材である。
【0016】
タング7は、シートベルト4が挿通するベルト挿通具の一例であり、ショルダーアンカー6によりガイドされたシートベルト4に摺動可能に取り付けられた部品である。
【0017】
バックル8は、タング7が離脱可能に係止される部品であり、例えば、シート2又はシート2の近傍の車体に固定される。
【0018】
次に
図2~
図4を参照して、第1実施形態に係るシートベルトリトラクタ3の要部の構成を説明する。
図2は、第1実施形態に係るシートベルトリトラクタ3の要部の分解斜視図である。
図3は、
図2に示すシートベルトリトラクタ3の要部の組立斜視図であり、部分的に断面が示されている。
図4は、
図2、3に示すシートベルトリトラクタ3の要部の縦断面図である。
【0019】
シートベルトリトラクタ3は、プリテンショナ(PT)サブアセンブリと、シャフトサブアセンブリ10と、ロック機構と、を備える。
図2~4に示す要部はシャフトサブアセンブリ10に対応する部分である。
【0020】
PTサブアセンブリは、フレームにプリテンショナが搭載されている。プリテンショナは、シャフトサブアセンブリ10のパドルホイール18(駆動部材)と接続されており、プリテンショナの作動によって、パドルホイール18がプリテンショナから回転力を受け、これによりスプール11がシートベルト4を引き込む方向に回転する。
【0021】
シャフトサブアセンブリ10は、シートベルト4の一端が係止され、シートベルト4が巻きつけられるスプール11を備える。シャフトサブアセンブリ10は、x方向の回転軸まわりに回転可能にPTサブアセンブリのフレームに取り付けられる。また、シャフトサブアセンブリ10は、シートベルト4にかかる荷重を制限して乗員9のエネルギを吸収緩和するトーションバー12も備える。
【0022】
ロック機構は、スプール11の軸部を構成するトーションバー12に連結され、非作動時にスプール11の回転を許容し、作動時にスプール11のシートベルト引出し方向の回転を阻止する。ロック機構は、ロックサブアセンブリや、
図2~
図4に示すロッキングベース13などを有する。
【0023】
なお、PTサブアセンブリやロック機構などのシートベルトリトラクタ3の基本的な構造は周知であり、例えば国際公開第2015/076377号などに開示されているため、詳細な説明は省略する。
【0024】
図2に示すように、シャフトサブアセンブリ10は、スプール11と、トーションバー12と、ロッキングベース13と、連結部材17(スピンドルともいう)と、パドルホイール18と、ベアリングプレート19と、ストッパ20と、を有する。
【0025】
トーションバー12は、シートベルトにかかる荷重を制限して乗員のエネルギを吸収緩和するための棒状部材である。トーションバー12は、スプール11とロック機構(ロッキングベース13)との回転差によって塑性変形を生じながら捻じれることでエネルギを吸収する。トーションバー12は、スプール11の軸中心に形成された貫通孔11Aに挿入されてスプール11内に内蔵される。トーションバー12は、x負方向側の端部12A(一端部)がスプール11に連結され、x正方向側の端部12B(他端部)が、ロッキングベース13と一体回転可能に連結される。トーションバー12の端部12Aからx負方向側に回転軸12Dが設けられ、回転軸12Dはスプール11のx負方向側端部から外部に突出するように形成されている。回転軸12Dは、プッシュナット22によりスプール11に固定されている。
【0026】
ロッキングベース13は、非作動時にスプール11の回転を許容し、作動時にスプール11のシートベルト引出し方向の回転を阻止する。ロッキングベース13は、基部14と、筒状部15とを有する。基部14は、トーションバー12の軸方向(x軸方向)を中心とする円環状の部材である。基部14の中央の貫通穴14Aにx正方向側から筒状部15が篏合されて一体的に連結される。筒状部15には、軸方向(x方向)沿って貫通する貫通孔15Aが設けられる。ロッキングベース13は、x正方向側から筒状部15の先端側の一部がスプール11の貫通孔11Aに挿入されて、基部14がスプール11のx正方向側に配置される。
【0027】
基部14にはパウル16が揺動可能に設置されている。パウル16は緊急時に作動されて、基部14の径方向外側に突出し、フレーム等の固定部材と係合することで、スプール11のベルト引出し方向の回転がロックされるようになっている。
【0028】
なお、ロッキングベース13は、基部14と筒状部15とが一体的に形成される構成でもよい。
【0029】
トーションバー12の端部12Bは、ロッキングベース13の筒状部15の内部にて連結される。また、トーションバー12の端部12Bは、連結部材17と連結される。連結部材17のx方向側の端部の中央には貫通孔17Aが設けられる。トーションバー12の端部12Bからさらにx正方向側に円柱状の凸部12Cが設けられ、この凸部12Cが貫通孔17Aに挿通されて、プッシュナット21により固定されている。
【0030】
連結部材17は、トーションバー12の端部12Bと連結され、トーションバー12の軸方向に延びてロッキングベース13と連結される。より詳細には、連結部材17は、トーションバー12よりx正方向側に延在して、x正方向側の部分がロッキングベース13の基部14から外部に露出するよう形成されている。露出部分には、径方向外側に突出するようにフランジ17Bが設けられ、フランジ17Bの中心位置からx正方向側に突出するように回転軸17Cが設けられる。フランジ17Bは、ロッキングベース13の基部14のx正方向側の端面に係止されている。つまり、トーションバー12の端部12Bと連結部材17とは、ロッキングベース13の筒状部15の貫通孔15Aに挿入されて、ロッキングベース13と連結されている。また、連結部材17は、フランジ17Bによりロッキングベース13と当接することでスラスト方向の位置が規制されている。
【0031】
ロッキングベース13の筒状部15の外周面には、パドルホイール18やベアリングプレート19も取り付けられる。トーションバー12は、端部12Bがロック機構でロック可能であり、ロック機構の作動時には端部12Bの回転が停止される。
【0032】
特に本実施形態では、
図3、
図4に示すように、スプール11の径方向から視たときに、トーションバー12は、パドルホイール18よりもスプール11側にあり、連結部材17は筒状部15に挿入されて、パドルホイール18より基部14側まで延在するよう配置される。
【0033】
第1実施形態において、このようにトーションバー12と連結部材17とを設けることの効果について
図5を参照して説明する。
図5は、連結部材17を設けることによる第1実施形態の効果を説明する模式図である。
図5(A)は従来の連結部材17を設けない構成を示し、
図5(B)は本実施形態の連結部材17を設ける構成を示す。
【0034】
図5に示す例では、(A)(B)共に、プリテンショナの作動時にプリテンショナからスプール11がシートベルト4を引き込む方向に回転力を受ける駆動部材としてのパドルホイール18は、スプール11とロッキングベース13の基部14との間、かつ、ロッキングベース13の筒状部15の径方向外側に配置される。
【0035】
ここで、
図5(A)に示すように、従来より、トーションバー12の一方の端部にフランジ形状を設けて、このフランジ形状をロッキングベース13に引っ掛けることによって、トーションバー12をロッキングベース13に連結する構成が知られている。このようなトーションバー12とロッキングベース13との連結構造の場合、スプール11とロッキングベース13との間にパドルホイール18が挿入配置される構成に適用すると、
図5(A)に示すように、スプール11とロッキングベース13との間の距離が増えるので、両者の間を連結するトーションバー12も非常に長くなってしまう。トーションバー12が長尺となると、加工性が悪化し、重量が大きくなるので、シートベルトリトラクタ3全体からみても加工性や軽量化に改善の余地がある。
【0036】
これに対して本実施形態では、
図5(B)に示すように、トーションバー12とロッキングベース13との間に連結部材17が配置される。トーションバー12は連結部材17と連結され、連結部材17のフランジ17Bがロッキングベース13に係止される。これにより、
図5に示すフランジによる係止構造でも、トーションバー12の長尺化を防止できる。長尺化防止により、トーションバー12のフランジ形状を廃止する事でトーションバーの形状を簡素化でき、これにより加工性を向上できる。さらに、連結部材17をトーションバー12の材料より軽量の材料で形成すれば、シートベルトリトラクタ3全体の軽量化も図れる。この結果、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ3は、加工性を向上でき、かつ、軽量化できる。
【0037】
トーションバー12の材料は、例えば鉄である。連結部材17の材料は、例えばアルミである。ロッキングベース13の材料は、従来の比較的硬度の低い場合は亜鉛ダイキャストなどであるが、高硬度材料としては炭素鋼などである。
【0038】
なお、従来のロッキングベース13とトーションバー12との連結手法には、本実施形態のフランジにより係止する手法のようにロッキングベース13の変形を伴わない方法の他に、トーションバー12の端部とロッキングベース13とをカシメ加工等で締結したり、トーションバー12の端部をロッキングベース13の内部に圧入固定するなどの手法も知られている。これらの他の手法の場合は、トーションバー12の端部をロッキングベース13の外部まで延在させる必要はないので、上記の長尺化の問題は生じにくい。ただし、これらの他の手法では、締結のためにロッキングベース13側を変形させる必要があるため、ロッキングベース13の材料がトーションバー12の材料より柔らかいことが好ましい。一方、本実施形態では、このような他の連結手法ではなく、フランジによる係止手法を適用するが、その理由を以下に説明する。
【0039】
本実施形態では、
図2~
図4に示したように、シャフトサブアセンブリ10の内部、トーションバー12の外周面のまわりにストッパ20が設けられる。ストッパ20は、トーションバー12のねじれ回転を所定回転数で止めて、トーションバー12の過度の捻じれによる破断を防止するための要素である。このようなストッパ20を設ける構成では、一般的にロック機構作動によってロッキングベース13が受ける外力が大きいため、ロッキングベース13の強度を上げるべく、従来の一般的な材料より相対的に硬度が高い材料が用いられることが多い。この場合、ロッキングベース13がトーションバー12より高い硬度となるため、上記の他の手法のようにロッキングベース13を変形させてトーションバー12を締結させることは難しく、フランジによる係止手法を取らざるを得ない。
【0040】
したがって、本実施形態のようにトーションバー12の捻じれ回転規制用のストッパ20を設ける構成の場合には、必然的にロッキングベース13を高硬度材料で形成し、トーションバー12との連結にフランジによる係止手法を取ることになる。この場合、
図5などに示すように、連結の構造の都合上、トーションバー12をロッキングベース13に貫通させるまで延ばす必要があるため、ロッキングベース13とトーションバー12との間に連結部材17を介在させるのが特に効果的である。なお、本実施形態とは異なり、ストッパ20を設けない構成や、ロッキングベース13が高硬度材料で形成されない構成であっても、トーションバー12とロッキングベース13とをフランジにより係止する構成であれば、本実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0041】
また、上述のフランジによる係止手法(以下では「引掛け構造」とも表記する)は、カシメ加工等の他の連結手法に対して下記のような利点がある。カシメの構造を採る場合、(1)ロッキングベースの材質はカシメによる変形を許容するものである必要があること、(2)トーションバーをロッキングベースに挿入した後にカシメ加工を行う手順となるため、組付けラインにカシメ用の設備が必要になること、などの制約がある。一方、引掛け構造の場合は、部品形状のままフランジがロッキングベースに当接するまでトーションバーを挿入または軽圧入するのみで済むので、ロッキングベースの材質は不問であり、かつ、カシメ設備が不要となる。また、引掛け構造のほうが、カシメ構造よりも締結部に軸方向負荷が入った場合に強度が高い。
【0042】
また、トーションバー12の長尺化は避けるべき課題であるが、トーションバー12が短すぎると、所望の捻じれ回転数を実現できない虞がある。このため、トーションバー12は無暗に短くしないほうがよい。例えば、トーションバー12の他端部の先端(
図2~
図4の例では凸部12Cの先端位置)は、スプール11の径方向から視たときに、パドルホイール18のスプール11側の端面の位置となるよう配置されるのが好ましい。この構成により、トーションバー12を充分に捻じれ回転可能として充分なエネルギ吸収機能を実現できると共に、シートベルトリトラクタ3の加工性の向上や軽量化の効果も奏することができる。
【0043】
また、トーションバー12の端部12Bと、連結部材17との連結部(連結部材17の貫通孔17Aやプッシュナット21、凸部12Cなどを含む部分)は、例えば
図5(B)に示すように、スプール11の内部に配置されるのが好ましい。これにより、シャフトサブアセンブリ10の軸方向寸法の短縮化を図れる。
【0044】
図6は、トーションバー12と連結部材17との連結構造の変形例を示す模式図である。
図5などを参照して説明したように、上記実施形態では、トーションバー12の他端部に設けられた円柱状の凸部12Cが、連結部材17に設けられる貫通孔17Aに挿通されて固定される構成、すなわち、トーションバー12側が凸形状で、連結部材17側が凹形状である構成を例示した。この凹凸関係を入れ替えてもよい。例えば
図6に示すように、トーションバー12の端部の端面に軸方向に沿って孔12Eを設け、連結部材17の端面に円柱状の凸部17Dを設けて、凸部17Dが孔12Eに篏合されて固定される構成でもよい。
【0045】
また、トーションバー12と連結部材17との間の連結構造は、上記実施形態のようにプッシュナット21などの締結部材による締結の他に、ねじによる固定や、カシメ加工による圧入固定などの任意の手法を適用してもよい。また、端面同士を接着剤で接着する手法とすれば、端面に穴や凸部を設ける加工が不要となるので加工性をさらに向上できる。
【0046】
図7~
図10は、連結部材17とロッキングベース13との連結構造の第1~第4変形例を示す模式図である。連結部材17は、ロッキングベース13の変形を伴わない方法でロッキングベース13と、連結される。上記実施形態では具体的な連結構造の一例として、フランジ17Bによる係止手法を例示したが、他の手法でもよい。
【0047】
例えば
図7に示す第1変形例のように、連結部材17の外周側に突出するテーパ17Eを設け、このテーパ17Eによってロッキングベース13に係止される構成でもよい。また、
図8に示す第2変形例のように、ロッキングベース13に外周面か径方向に沿って軸心側の貫通孔15Aまで貫通するネジ穴13Aを設け、このネジ穴13Aに径方向外側からイモネジ13Bを螺合させて、貫通孔15Aの内周面に進出させて、イモネジ13Bの先端部で連結部材17の外周面を固定する構成でもよい。また、
図9に示す第3変形例のように、ロッキングベース13の貫通孔15Aの内周面に雌ねじ部13Cを設け、連結部材17の外周面に雄ねじ部17Fを設け、雌ねじ部13Cと雄ねじ部17Fとの螺合によって連結する構成でもよい。また、
図10に示す第4変形例のように、ロッキングベース13に径方向に延在する挿入孔13Dを設け、連結部材17も径方向に貫通する貫通孔17Gを設け、これらの挿入孔13D及び貫通孔17Gにピン13Eを挿通させて連結する構成でもよい。
【0048】
[第2実施形態]
図11~
図18を参照して第2実施形態について説明する。
図11は、第2実施形態に係るシートベルトリトラクタ3の要部の分解斜視図である。
図12は、
図11中のロッキングベース13の基部14のx負方向側から視た平面図である。
図13は、
図11中のパドルホイール18のx負方向側から視た平面図である。
図14は、
図11中のロッキングベース13の基部14と筒状部15を組み立てた状態の斜視図である。
図15は、ロッキングベース13とパドルホイール18を組み立てた状態の側面図である。
図16は、ロッキングベース13とパドルホイール18を組み立てた状態のx負方向側から視た平面図である。
【0049】
なお、第2実施形態のシートベルトリトラクタ3の構成要素のうち、
図11などに図示される要素(ロッキングベース13の基部14及び筒状部15、パドルホイール18)を除く他の要素については、第1実施形態と同様の構成であるので説明を省略する。
【0050】
図11に示すように、ロッキングベース13の基部14と筒状部15とが別部品で形成される。筒状部15は、例えば基部14や、スプール11等のシートベルトリトラクタ3の他の部品と比較して相対的に硬度が高い高硬度材料で形成され、このような高硬度材料としては例えば炭素鋼が挙げられる。一方、基部14は、筒状部15に対して相対的に硬度が低い低硬度材料で形成され、このような材料としては例えば亜鉛ダイキャストが挙げられる。この構成により、ロッキングベース13の全体を高硬度材料で形成せず、高硬度が求められない基部14を低硬度材料で形成できるので、ロッキングベース13の硬度の要件を満たしつつ、かつ、製造コストを抑えることができる。また、基部14の材料は、低硬度に加えて、筒状部15に対して相対的に軽量であるのが好ましい。これにより、ロッキングベース13やシートベルトリトラクタ3の軽量化の効果も奏することができる。
【0051】
図11、
図14に示すように、基部14の中央の貫通穴14Aにx正方向側から筒状部15が篏合されて一体的に連結されることで、ロッキングベース13が形成される。筒状部15のx負方向側の周面15Bは多角形状(
図11の例では六角形状)に形成されている。一方、貫通穴14Aの内周面は、周面15Bが篏合できるよう周面15Bと同様の多角形状に形成される。筒状部15が基部14に篏合された状態では、
図14に示すように、この多角形状の周面15Bの一部が基部14からx負方向側に露出する。
【0052】
図11、
図13、
図14に示すように、パドルホイール18の中央には貫通孔18Aが設けられ、貫通孔18Aに筒状部15が篏合されることで、
図15に示すようにロッキングベース13と一体的に連結される。この貫通孔18Aは、筒状部15の周面15Bと篏合できるように、周面15Bと同様の多角形状に形成される。
【0053】
図14、
図16に示すように、ロッキングベース13には、パドルホイール18との径方向の対向位置にクラッシュリブ14Bが設けられる。クラッシュリブ14Bは、
図11、
図12に示すように、基部14と一体的に形成され、基部14から筒状部15の周面15B上に突出して設けられる。クラッシュリブ14Bは、x方向から視たときに、基部14の貫通穴14Aの多角形状の周縁に配置されている。
【0054】
パドルホイール18(駆動部材)は、ロッキングベース13の筒状部15と同様の高硬度材料で形成される。一方、ロッキングベース13のクラッシュリブ14Bは、基部14と一体的に形成されるので、基部14と同様に低硬度材料で形成される。このため、ロッキングベース13にパドルホイール18を連結する際に、クラッシュリブ14Bがパドルホイール18の貫通孔18Aと筒状部15の周面15Bとの間隙に圧入されるので、ロッキングベース13とパドルホイール18との連結をより強固にできる。なお、このようなクラッシュリブ14Bによる効果を奏するために、クラッシュリブ14Bの材料の硬度は、パドルホイール18と筒状部15との間隙に圧入できる程度のものであればよい。
【0055】
クラッシュリブ14Bは、駆動力発生方向と反対側にずらして設けられる。より詳細には、クラッシュリブ14Bは、
図12、
図16などに示すように、筒状部15の周面15Bの六角形の6つの辺のうち一辺ずつ空けた3辺に配置される。さらに、各辺の中点より駆動力発生方向と反対側(
図12、
図16の例では時計回り方向)にずらされている。
【0056】
一方、
図13、
図14、
図16に示すように、パドルホイール18の貫通孔18Aのこの六角形の6つの辺のうち、クラッシュリブ14Bと対向する3辺には、クラッシュリブ14Bと篏合するよう周方向外側に窪んで形成される3つの凹部18Bが形成されている。
【0057】
図17を参照して、クラッシュリブ14Bを上記の配置とすることの効果について説明する。
図17は、第2実施形態におけるクラッシュリブ14Bの作用効果を示す模式図である。
【0058】
まず初期状態では、パドルホイール18の貫通孔18Aの内周面は、ロッキングベース13のクラッシュリブ14Bと接触している状態である。次に、シートベルトリトラクタ3のプリテンショナが作動すると、パドルホイール18がx軸まわりに駆動力を受ける。次に、パドルホイール18が、受けた駆動力によって、ロッキングベース13の筒状部15に対して駆動力発生方向(
図17の例では時計回り方向)に相対的に回転する。
【0059】
この相対回転によって、
図17に示すように、パドルホイール18の貫通孔18Aの内周面が、筒状部15の周面15Bの六角形状の頂点部分15Cと当接すると、パドルホイール18と筒状部15とが3つのクラッシュリブ14Bと、6つの頂点部分15Cとを介して相互に固定され、パドルホイール18と筒状部15との間の相対回転が停止する。これにより、ロッキングベース13とパドルホイール18との部品同士を固定でき、ロッキングベース13とパドルホイール18の軸中心のずれを規制でき、かつ、ロッキングベース13とパドルホイール18との間の回転位相のずれも規制できる。この結果、ロッキングベース13とパドルホイール18との間の連結と軸出しが完成する。
【0060】
このように、クラッシュリブ14Bを駆動力発生方向と反対側にずらして設けることにより、駆動力伝達の上流側であるパドルホイール18と、下流側のロッキングベース13との間で、部品間固定、軸中心規制、及び回転位相規制を確実にでき、駆動力伝達のロスやバラつきの発生を防止できる。
【0061】
図18は、クラッシュリブの配置の変形例を示す斜視図である。第2実施形態では、ロッキングベース13とパドルホイール18との連結部にクラッシュリブが設けられる構成であればよく、
図11~
図17に示したようなクラッシュリブ14Bがロッキングベース13の基部14と一体的に形成される構成以外でもよい。
【0062】
たとえば
図18に示すように、ベアリングプレート19(環状部材)にクラッシュリブ19Bを設ける構成でもよい。ベアリングプレート19は、
図2、
図18などに示すように、パドルホイール18のスプール11側、かつ、ロッキングベース13の筒状部15の径方向外側に配置され、基部14と同様の低硬度材料で形成される。ベアリングプレート19には、
図18に示すように、筒状部15とパドルホイール18との隙間に進入可能にベアリングプレート19からx正方向側に突出し、ベアリングプレート19と一体的に形成されるクラッシュリブ19Bが設けられる。
【0063】
ベアリングプレート19の中央には貫通孔19Aが設けられ、貫通孔19Aに筒状部15が篏合されることで、ロッキングベース13及びパドルホイール18と一体的に連結される。クラッシュリブ19Bは、x方向から視たときに、貫通孔19Aの周縁に配置されている。クラッシュリブ19Bは、パドルホイール18とベアリングプレート19がロッキングベース13の筒状部15に篏合した状態で、筒状部15の周面15Bとパドルホイール18の貫通孔18Aとの隙間に圧入され、これにより、ロッキングベース13とパドルホイール18と、ベアリングプレート19との連結をより強固にできる。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 シートベルト装置
3 シートベルトリトラクタ
4 シートベルト
7 タング
8 バックル
10 シャフトサブアセンブリ
11 スプール
12 トーションバー
13 ロッキングベース
14 基部
14B、19B クラッシュリブ
15 筒状部
15A 貫通孔
17 連結部材
17B フランジ
18 パドルホイール(駆動部材)
19 ベアリングプレート(環状部材)