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特許7366861基板昇降異常検出装置、基板処理システム、基板昇降異常検出方法、プログラム、学習モデル及び学習モデルの生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】基板昇降異常検出装置、基板処理システム、基板昇降異常検出方法、プログラム、学習モデル及び学習モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20231016BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20231016BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20231016BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20231016BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
C23C16/458
C23C14/50 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020139133
(22)【出願日】2020-08-20
(62)【分割の表示】P 2020519808の分割
【原出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2020202387
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019022611
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511265154
【氏名又は名称】SPPテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂場 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】藤原 佑揮
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-278271(JP,A)
【文献】特開2008-277706(JP,A)
【文献】特開2008-205313(JP,A)
【文献】特開2007-165917(JP,A)
【文献】特表2004-531883(JP,A)
【文献】特開2012-151216(JP,A)
【文献】特開2016-033778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0238953(US,A1)
【文献】特表2008-539598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
H01L 21/31
C23C 16/458
C23C 14/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
降機構による基板の昇降異常を検出する装置であって、
前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定部と、
前記基板の昇降異常を検出する検出部と、を備え、
前記検出部は、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が入力され、機械学習を用いて生成された学習モデルを具備する、
ことを特徴とする基板昇降異常検出装置。
【請求項2】
降機構による基板の昇降異常を検出する装置であって、
前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定部と、
前記基板の昇降異常を検出する検出部と、を備え、
前記検出部は、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が測定された時点での前記基板の昇降異常の程度を出力する、機械学習を用いて生成された学習モデルを具備する、
ことを特徴とする基板昇降異常検出装置。
【請求項3】
前記学習モデルは、教師データの入力として、前記基板の昇降が正常である場合の前記パラメータの複数の測定値が入力された場合に、前記基板の昇降が正常であることを出力するように、機械学習を用いて生成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の基板昇降異常検出装置。
【請求項4】
前記学習モデルは、k近傍法を用いた機械学習により生成されている、
ことを特徴とする請求項1からの何れかに記載の基板昇降異常検出装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記基板の昇降異常の有無を入力する入力部を備え、前記入力部から入力された前記基板の昇降異常の有無を、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値及び前記検出部による前記基板の昇降異常の検出結果と紐付けて記憶する、
ことを特徴とする請求項1からの何れかに記載の基板昇降異常検出装置。
【請求項6】
基板を昇降させる昇降機構を具備する基板処理装置と、
請求項1からの何れかに記載の基板昇降異常検出装置と、を備える
ことを特徴とする基板処理システム。
【請求項7】
降機構による基板の昇降異常を検出する方法であって、
前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定工程と、
前記基板の昇降異常を検出する検出工程と、を含み、
前記検出工程では、機械学習を用いて生成された学習モデルを用いて、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定工程において時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値を前記学習モデルに入力する
ことを特徴とする基板昇降異常検出方法。
【請求項8】
降機構による基板の昇降異常を検出する方法であって、
前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定工程と、
前記基板の昇降異常を検出する検出工程と、を含み、
前記検出工程では、機械学習を用いて生成された学習モデルを用いて、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定工程において時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が測定された時点での前記基板の昇降異常の程度を前記学習モデルから出力する、
ことを特徴とする基板昇降異常検出方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の基板昇降異常検出方法が含む前記検出工程を前記学習モデルを具備する検出部に実行させるためのプログラム。
【請求項10】
昇降機構による基板の上昇過程において時系列に測定された、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値が入力され、前記基板の昇降異常の程度を出力する、機械学習を用いて作成された学習モデル。
【請求項11】
降機構による基板の上昇過程において時系列に測定された、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値が測定された時点での前記基板の昇降異常の程度を出力する、機械学習を用いて作成された学習モデル。
【請求項12】
降機構による基板の上昇過程において時系列に測定された、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値が入力され、前記基板の昇降異常の程度を出力する学習モデルを、教師データの入力として、前記基板の昇降が正常である場合の前記パラメータの複数の測定値が入力された場合に、前記基板の昇降が正常であることを出力するように、機械学習を用いて生成する、
ことを特徴とする学習モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降機構による基板の昇降異常を検出する基板昇降異常検出装置、これを備えた基板処理システム、基板昇降異常検出方法、プログラム、学習モデル及び学習モデルの生成方法に関する。特に、本発明は、静電チャックからの基板の脱離不良等に起因した基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出可能な基板昇降異常検出装置、基板処理システム、基板昇降異常検出方法、プログラム、学習モデル及び学習モデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板に処理を施す基板処理装置として、プラズマを用いて基板にエッチング処理や成膜処理等のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置が知られている。
プラズマ処理装置は、一般的に、内部にプラズマが生成されるチャンバと、チャンバ内に配置され基板が載置される載置台と、基板を昇降させるリフトピン等の昇降機構と、を備えている。一般的に、載置台には静電チャックが設けられる。
【0003】
静電チャックは、載置台の上部に設けられ、電極が埋設された誘電体から形成されている。静電チャックの電極に直流電圧を印加することで生じる電極と基板との間の静電力により、基板は静電チャックに静電吸着される。
【0004】
プラズマ処理装置によって基板にプラズマ処理を施す際、静電チャックの電極に直流電圧を印加し、基板を静電チャックに静電吸着させる。そして、静電吸着された基板にプラズマ処理を施す。
プラズマ処理が終了すれば、基板は静電チャックから脱離される。具体的には、静電チャックの電極への直流電圧の印加を停止することで、静電チャックによる基板の静電吸着を停止する。そして、昇降機構によって基板を上昇させた後、搬送機構によって基板をチャンバの外部に搬送する。
【0005】
ここで、静電チャックから基板を脱離しようとするときに、直流電圧の印加停止後も静電チャックに残留する静電力によって基板が静電チャックに吸着され、基板の脱離不良が生じる場合がある。具体的には、吸着する基板を昇降機構によって押し上げることで基板の位置ずれ等が生じ、その後の基板の搬送に支障が生じることがある。また、残留する静電力が大きい場合には、吸着する基板を無理に押し上げることで基板の破損に繋がるおそれもある。
【0006】
したがい、基板の搬送不良や破損を回避するには、上記のような基板の昇降異常(特に基板の上昇時の異常)を迅速に且つ精度良く検出することが望まれている。
【0007】
従来、リフトピンの動作状況の異常を検出する装置として、特許文献1に記載の装置が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、リフトピンの破損等の過度の異常を検出する装置であり、静電チャックからの基板の脱離不良等に起因した基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出できない。
【0008】
また、特許文献2には、静電チャックによる基板の吸着状態を検出する装置が提案されている。
しかしながら、特許文献2に記載の装置は、基板に処理を施す際に静電チャックが適切な静電力で基板を吸着しているか否かを評価する装置であり、静電チャックからの基板の脱離不良等に起因した基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-278271号公報
【文献】特開2008-277706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、静電チャックからの基板の脱離不良等に起因した基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出可能な基板昇降異常検出装置、基板処理システム、基板昇降異常検出方法、プログラム、学習モデル及び学習モデルの生成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討し、基板の上昇過程において昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの時系列の測定値を利用することに着眼した。基板の昇降が正常であるか異常であるかに応じて、上昇過程における昇降機構に加わる荷重の測定値(又は荷重と相関を有する他のパラメータの測定値)の時間的変化の様子が異なるものになると考えたからである。
しかしながら、基板の昇降が正常であるか否かに応じた測定値の時間的変化の差異が僅かであることも考えられる。このため、測定値を単純にしきい値と比較し、その大小で昇降異常を検出するのでは、しきい値の決定が困難であり、昇降異常の検出精度も悪いと考えられる。基板の昇降が正常である場合の測定値と異常である場合の測定値の差異が大きくなるタイミングでしきい値と比較することも考えられるが、このタイミングで昇降異常を検出したのでは、昇降機構の動作停止のタイミングが遅れて、基板の搬送不良や破損の回避が間に合わないおそれもある。このため、本発明者は、昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの時系列の測定値に機械学習を適用することを検討した結果、基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出できることを見出した。
本発明は、上記の本発明者の知見に基づき完成したものである。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、降機構による基板の昇降異常を検出する装置であって、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定部と、前記基板の昇降異常を検出する検出部と、を備え、前記検出部は、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が入力され、機械学習を用いて生成された学習モデルを具備する、ことを特徴とする基板昇降異常検出装置を提供する。
また、前記課題を解決するため、本発明は、昇降機構による基板の昇降異常を検出する装置であって、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定部と、前記基板の昇降異常を検出する検出部と、を備え、前記検出部は、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が測定された時点での前記基板の昇降異常の程度を出力する、機械学習を用いて生成された学習モデルを具備する、ことを特徴とする基板昇降異常検出装置を提供する。
【0013】
本発明に係る基板昇降異常検出装置によれば、測定部によって、基板の上昇過程において昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを時系列に測定し、この複数の測定値を検出部の機械学習を用いて生成された学習モデルに入力することで、学習モデルが基板の昇降異常の程度を出力することになる。検出部は、学習モデルから出力された昇降異常の程度に応じて昇降異常を検出する(例えば、昇降異常の程度が所定のしきい値以上であれば、昇降異常が生じていると判定する)ことが可能である。
本発明に係る基板昇降異常検出装置によれば、機械学習を用いて生成された学習モデルに、測定部によって時系列に測定された昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値を入力するだけでよいため、パラメータの測定値としきい値とを直接比較する場合のように、しきい値の決定に困難が生じない。そして、本発明者が知見したように、基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出可能である。
【0014】
なお、本発明に係る基板昇降異常検出装置が検出する基板の昇降異常は、静電チャックからの基板の脱離不良に起因した基板の昇降異常に限るものではない。例えば、基板処理装置で動作する搬送ロボットが具備する昇降機構で基板を上昇させる過程において、基板が位置ずれ等によって基板処理装置を構成する部材に干渉するような異常を検出することも可能である。
【0015】
好ましくは、前記学習モデルは、教師データの入力として、前記基板の昇降が正常である場合の前記パラメータの複数の測定値が入力された場合に、前記基板の昇降が正常であることを出力するように、機械学習を用いて生成されている。
【0016】
上記の好ましい構成によれば、学習モデルは、教師データ(学習モデルへの既知の入出力の組み合わせ)の入力として、基板の昇降が正常である場合のパラメータの複数の測定値が入力された場合に、基板の昇降が正常であること(具体的には、昇降異常の程度が最小であることを示す数値、例えば、「0」)を出力するように(すなわち、教師データの出力として、例えば、「0」を与えて)、機械学習を用いて生成される。
上記のような教師データを用いた機械学習を行って学習モデルを生成することで、しきい値等の煩雑な調整や、複雑な検出ロジックの検討が不要であり、機械学習後の学習モデルにパラメータの複数の測定値を入力するだけで、基板の昇降異常を容易に検出可能である。
【0017】
本発明に係る基板昇降異常検出装置は、静電チャックからの基板の脱離不良に起因した基板の昇降異常を検出するのに好適に用いられる。
すなわち、好ましくは、前記昇降機構を具備する基板処理装置は、前記基板を処理する際に前記基板を静電吸着する静電チャックを具備し、前記検出部は、前記静電チャックによる前記基板の静電吸着を停止した後の前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値に基づき、前記基板の脱離不良に起因した前記基板の昇降異常を検出する。
【0018】
また、好ましくは、前記昇降機構は、前記基板の裏面に接触して前記基板を昇降させるリフトピンと、前記リフトピンに連結され、前記リフトピンを昇降させるシリンダ装置と、を具備し、前記測定部は、前記シリンダ装置のピストンロッドに取り付けられ、前記ピストンロッドに加わる荷重を測定するロードセルである。
【0019】
上記の好ましい構成によれば、測定部としてのロードセルによって測定したピストンロッドに加わる荷重の測定値が、検出部が具備する学習モデルにパラメータとして入力されることになる。
ただし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、シリンダ装置がモータによって駆動する電動シリンダ装置である場合、このモータのトルクを公知のトルク測定装置で測定し、このトルク測定値を検出部が具備する学習モデルにパラメータ(昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータ)として入力する態様を採用することも可能である。
【0020】
好ましくは、前記学習モデルは、k近傍法を用いた機械学習により生成されている。
【0021】
k近傍法によれば、基板の昇降が正常である場合の教師データのみを用いて機械学習を行うことが可能である。
ただし、本発明はこれに限るものではなく、サポートベクターマシンやニューラルネットワーク(CNN(Convolutional Neural Network)や、RNN(Recurrent neural network)を含む)など、機械学習を用いて生成できる学習モデルである限りにおいて種々の構成を採用可能である。
【0022】
好ましくは、前記基板処理装置は、前記基板を処理する際に真空環境とされるチャンバと、前記基板を処理する際に前記基板を静電吸着する静電チャックと、を具備し、前記測定部は、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータに加え、前記静電チャックと前記基板との間の吸着力と相関を有するパラメータ及び前記チャンバ内の圧力と相関を有するパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータを測定し、前記学習モデルは、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が入力され、前記基板の昇降異常の程度を出力する。
【0023】
上記の好ましい構成によれば、測定部によって、静電チャックと基板との間の吸着力と相関を有するパラメータ及びチャンバ内の圧力と相関を有するパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータが更に測定され、学習モデルに、昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値に加えて、この少なくとも1つのパラメータの複数の測定値が入力されて、学習モデルが基板の昇降異常の程度を出力することになる。このため、昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータのみを用いる場合に比べて、基板の昇降異常をより一層精度良く検出可能であることが期待できる。
【0024】
好ましくは、前記検出部は、前記基板の昇降異常の有無を入力する入力部を備え、前記入力部から入力された前記基板の昇降異常の有無を、前記測定部によって時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値及び前記検出部による前記基板の昇降異常の検出結果と紐付けて記憶する。
【0025】
上記の好ましい構成において、入力部から入力される基板の昇降異常の有無は、例えば、オペレータが基板処理装置の内部を直接目視したり、基板処理装置の内部を撮像した映像をオペレータが目視したり、処理後の基板の破損の有無をオペレータが確認することで判断される。
上記の好ましい構成によれば、入力部から入力された基板の昇降異常の有無と、測定部によって時系列に測定されたパラメータの複数の測定値及び検出部による基板の昇降異常の検出結果とが、検出部に紐付けて記憶される。
したがい、入力部から入力された基板の昇降異常の有無を真として、測定部によって時系列に測定されたパラメータの複数の測定値を用いて検出部が検出した昇降異常の検出結果の適否を判断可能である。入力部から入力された基板の昇降異常の有無と、検出部が検出した昇降異常の検出結果が合致しない場合には、検出部が具備する学習モデルの再学習を行うことで、検出部の検出精度をより一層高めることが可能である。
【0026】
また、前記課題を解決するため、本発明は、基板を昇降させる昇降機構を具備する基板処理装置と、前記の何れかに記載の基板昇降異常検出装置と、を備えることを特徴とする基板処理システムとしても提供される。
【0027】
また、前記課題を解決するため、本発明は、降機構による基板の昇降異常を検出する方法であって、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定工程と、前記基板の昇降異常を検出する検出工程と、を含み、前記検出工程では、機械学習を用いて生成された学習モデルを用いて、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定工程において時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値を前記学習モデルに入力する、ことを特徴とする基板昇降異常検出方法としても提供される。
また、前記課題を解決するため、本発明は、昇降機構による基板の昇降異常を検出する方法であって、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定工程と、前記基板の昇降異常を検出する検出工程と、を含み、前記検出工程では、機械学習を用いて生成された学習モデルを用いて、前記昇降機構による前記基板の上昇過程において、前記測定工程において時系列に測定された前記パラメータの複数の測定値が測定された時点での前記基板の昇降異常の程度を前記学習モデルから出力する、ことを特徴とする基板昇降異常検出方法としても提供される。
【0028】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記基板昇降異常検出方法が含む前記検出工程を前記学習モデルを具備する検出部に実行させるためのプログラムとしても提供される。
このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。
【0029】
また、前記課題を解決するため、本発明は、昇降機構による基板の上昇過程において時系列に測定された、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値が入力され、前記基板の昇降異常の程度を出力する、機械学習を用いて作成された学習モデルとしても提供される。
また、前記課題を解決するため、本発明は、昇降機構による基板の上昇過程において時系列に測定された、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値が測定された時点での前記基板の昇降異常の程度を出力する、機械学習を用いて作成された学習モデルとしても提供される。
【0030】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、降機構による基板の上昇過程において時系列に測定された、前記昇降機構に加わる荷重と相関を有するパラメータの複数の測定値が入力され、前記基板の昇降異常の程度を出力する学習モデルを、教師データの入力として、前記基板の昇降が正常である場合の前記パラメータの複数の測定値が入力された場合に、前記基板の昇降が正常であることを出力するように、機械学習を用いて生成する、ことを特徴とする学習モデルの生成方法としても提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、静電チャックからの基板の脱離不良等に起因した基板の昇降異常を迅速に且つ精度良く検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態に係る基板処理システムの概略構成を模式的に示す図である。
図2図1に示す検出部の機能ブロック図である。
図3図1に示す基板昇降異常検出装置が備える測定部によって測定される荷重測定値を説明する説明図である。
図4図1に示す測定部によって測定した荷重測定値の一例を示す図である。
図5】第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置を用いた試験結果の一例を示す図である。
図6】第2実施形態に係る基板昇降異常検出装置を用いた試験結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る基板昇降異常検出装置及びこれを備えた基板処理システムについて説明する。
【0034】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板処理システムの概略構成を模式的に示す図である。図1(a)は基板処理システムの全体構成を示す図であり、図1(b)は基板処理システムの基板昇降異常検出装置が備える検出部の概略構成を示すブロック図である。図2は、図1に示す検出部の機能ブロック図である。図1(a)において、基板処理システムの基板処理装置は断面で図示している。
図1(a)に示すように、第1実施形態に係る基板処理システムは、基板処理装置10と、基板昇降異常検出装置100と、を備える。
【0035】
第1実施形態の基板処理装置10は、プラズマ処理装置であり、チャンバ11と、チャンバ11の下部に設けられた筐体12と、を備える。チャンバ11内は、基板Sに処理を施す際に真空環境とされ、筐体12内は常に大気圧環境とされている。
基板処理装置10は、チャンバ11内に配置され基板Sを載置する載置台13と、載置台13の上部に設けられ、基板Sを処理する際に基板Sを静電吸着する静電チャック14と、基板Sを昇降させる昇降機構4と、を具備する。第1実施形態の昇降機構4は、基板Sの裏面に接触して基板Sを昇降させる複数のリフトピン15と、複数のリフトピン15の下端に接続され複数のリフトピン15を同時に昇降させる昇降体(図1においてT字状で図示された部材)16と、昇降体16の下端に接続され昇降体16を昇降させるシリンダ装置(第1実施形態ではエアシリンダ装置)17と、を具備する。
なお、載置台13は、内壁によって区画された空隙を有し、この空隙内に昇降体16の上部(T字の横方向に延びる部位)が収容されている。また、昇降体16は、シリンダ装置17のピストンロッド18に取り付けられている。さらに、昇降体16の下部(載置台13の下方に突出している部位)はベローズ19によって覆われている。
【0036】
基板Sに処理を施す際、静電チャック14の電極(図示せず)に直流電圧が印加され、基板Sが静電チャック14に静電吸着する。そして、この状態で、チャンバ11内に、ガス供給源(図示せず)からプラズマを生成するための処理ガスが供給される。
基板処理装置10が誘導結合プラズマ(ICP)方式のプラズマ処理装置である場合には、チャンバ11を囲うようにコイル(図示せず)が配置され、このコイルに高周波電力を印加することで、チャンバ11内に供給された処理ガスがプラズマ化される。
基板処理装置10が容量結合プラズマ(CCP)方式のプラズマ処理装置である場合には、チャンバ11内に載置台13と平行に電極(図示せず)が配置され、この電極に高周波電力を印加することで、チャンバ11内に供給された処理ガスがプラズマ化される。
【0037】
上記のようにしてチャンバ11内に生成されたプラズマにより、基板Sにエッチング処理や成膜処理等のプラズマ処理が施される。
プラズマ処理が終了した後、静電チャック14の電極への直流電圧の印加を停止することで、静電チャック14による基板の静電吸着を停止する。そして、基板Sを昇降機構4によって上昇させた後、搬送機構(図示せず)によって基板Sをチャンバ11の外部に搬送する。
【0038】
基板昇降異常検出装置100は、上記の構成を有する基板処理装置10において基板Sの昇降異常を検出する装置である。第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置100は、静電チャック14による基板Sの静電吸着を停止した後の昇降機構4による基板Sの上昇過程において、基板Sの脱離不良に起因した基板Sの昇降異常を検出する装置である。
基板昇降異常検出装置100は、昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータを測定する測定部2と、基板Sの昇降異常を検出する検出部3と、を備える。
【0039】
第1実施形態の測定部2は、昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータとして、荷重そのものを測定する。第1実施形態では、測定部2として、シリンダ装置17のピストンロッド18に取り付けられ、ピストンロッド18に加わる荷重を測定するロードセルが用いられている。具体的には、ピストンロッド18が上下に分割され、その間に測定部2としてのロードセルが挟まれて取り付けられている。測定部2には、分割されたピストンロッド18の上部分及び下部分の双方から引張荷重又は圧縮荷重が加わることになる。これにより、測定部2は、ピストンロッド18に加わる荷重(鉛直方向の荷重)を測定可能である。
【0040】
検出部3は、測定部2に電気的に接続されており、例えば、コンピュータから構成される。
図1(b)に示すように、第1実施形態の検出部3は、一般的なコンピュータが備える構成と同様に、CPU又はGPU3a、ROM3b及びRAM3cを有するコンピュータ本体と、該コンピュータ本体に接続されたハードディスク(H/D)3dと、モニタ3eと、キーボード3fと、マウス3gと、を具備する。図2に示すように、第1実施形態の検出部3は、機能的な観点からは、機械学習を用いて生成された学習モデル(分類器ともいう)31と、判定部32と、を具備する。学習モデル31及び判定部32は、例えば、コンピュータが具備するROM3b、RAM3c等のメモリや、該メモリに記憶され、学習モデル31及び判定部32としての動作をCPU又はGPU3aに実行させるプログラムによって構成される。
なお、検出部3としては、基板処理装置10に近接したコンピュータに限らず、基板処理装置10から遠隔に配置されたクラウドサーバやエッジサーバを用いることも可能である。
【0041】
第1実施形態の検出部3が具備する学習モデル31には、昇降機構4による基板Sの上昇過程において、測定部2によって連続的に測定された複数の荷重測定値が入力される。
具体的には、図2に示すように、測定部2によって所定のサンプリング周期(例えば、100msec)毎に測定された複数(n個。例えば、n=5)の荷重測定値P~Pが学習モデル31に入力される。学習モデル31は、入力された複数の荷重測定値P~Pに基づき、基板Sの昇降異常の程度(以下、これを適宜「異常度」という)を出力する。換言すれば、荷重測定値Pを測定した時点での異常度を出力する。次に、図示を省略するが、1サンプリング周期分だけずれて測定された複数の荷重測定値P~Pn+1が学習モデル31に入力される。学習モデル31は、入力された複数の荷重測定値P~Pn+1に基づき、荷重測定値Pn+1を測定した時点での異常度を出力する。次に、更に1サンプリング周期分だけずれて測定された複数の荷重測定値P~Pn+2が学習モデル31に入力される。学習モデル31は、入力された複数の荷重測定値P~Pn+2に基づき、荷重測定値Pn+2を測定した時点での異常度を出力する。以下、上記の動作を繰り返すことで、学習モデル31からサンプリング周期毎に異常度が出力されることになる。第1実施形態の学習モデル31から出力される異常度は、0~1の値に設定されており、昇降異常の程度が高くなるほど大きな値になる。
【0042】
第1実施形態の学習モデル31は、k近傍法を用いた機械学習により生成されている。第1実施形態で用いたk近傍法は公知の内容と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
具体的には、学習モデル31の学習時には、教師データの入力として、基板Sの昇降が正常である場合の複数(n個。例えば、n=5)の荷重測定値を与え、前記入力と組み合わされる教師データの出力として、基板Sの昇降が正常であること(第1実施形態では、異常度=0)を与えて、前記入力を学習モデル31に入力した場合に、学習モデル31から異常度=0が出力されるように、k近傍法を用いた機械学習を行う。上記の教師データの入力としては、前述の荷重測定値P~P、荷重測定値P~Pn+1、荷重測定値P~Pn+2等と同様に、1サンプリング周期分だけずれて測定された複数の荷重測定値が用いられ、何れの入力に対しても出力として異常度=0が与えられる。
なお、学習モデル31の機械学習は一度に限られない。必要に応じて、新たな教師データを用いて学習モデル31の再学習を行ったり、従来の教師データに新たな教師データを追加して学習モデル31の再学習を行うことも可能である。
【0043】
上記のようにして学習した後の学習モデル31により、順次入力される複数の荷重測定値に基づき基板Sの昇降異常を検出する検出時には、学習モデル31に複数の荷重測定値が順次入力され、学習モデル31から異常度が順次出力される。学習時と異なり、検出時に出力される異常度の値は、0≦異常度≦1となる。
【0044】
第1実施形態の判定部32には、学習モデル31から出力された異常度が入力される。判定部32は、入力された異常度に応じて基板Sの昇降異常を検出する(昇降異常が生じていると判定する)。具体的には、判定部32には、しきい値Thが予め設定されている。そして、判定部32は、異常度がこのしきい値Thよりも小さければ、基板Sの昇降は正常であると判定し、異常度がしきい値以上であれば、基板Sの昇降異常が生じていると判定する。前述のように、学習モデル31による異常度の出力が荷重測定値のサンプリング周期毎に行われるため、判定部32による判定も荷重測定値のサンプリング周期毎に行われる。
【0045】
なお、本実施形態では、好ましい態様として、学習モデル31から出力された異常度や、判定部32で判定した結果が、検出部3が具備するモニタ3eに表示されるように構成されている。また、判定部32で基板Sの昇降異常が生じていると判定した場合には、検出部3が具備するスピーカ(図示せず)から警報音を発するように構成されている。これらのモニタ3eの表示をオペレータが目視したり、警報音をオペレータが聞くことで、オペレータが強制的に昇降機構4の動作を停止することも可能である。
【0046】
また、本実施形態では、好ましい態様として、検出部3が、入力部(キーボード3f、マウス3gなど)から入力された基板Sの昇降異常の有無を、測定部2によって連続的に測定された複数の荷重測定値及び検出部3による基板Sの昇降異常の検出結果(学習モデル31から出力された異常度、判定部32で判定した結果)と紐付けて、ハードディスク3dに記憶するように構成されている。入力部から入力される基板Sの昇降異常の有無は、例えば、オペレータが基板処理装置10の内部を直接目視したり、基板処理装置10の内部を撮像した映像をオペレータが目視したり、処理後の基板Sの破損の有無をオペレータが確認することで判断される。入力部から入力された基板Sの昇降異常の有無を真として、測定部2によって連続的に測定された複数の荷重測定値を用いて検出部3が検出した昇降異常の検出結果の適否を判断可能である。入力部から入力された基板の昇降異常の有無と、検出部3が検出した昇降異常の検出結果が合致しない場合には、検出部3が具備する学習モデル31の再学習を行ったり、判定部32に設定するしきい値Thを見直すことで、検出部3の検出精度をより一層高めることが可能である。
【0047】
以下、測定部2によって測定される荷重測定値について、より具体的に説明する。
図3は、第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置100が備える測定部2によって測定される荷重測定値を説明する説明図である。図3(a)はリフトピン15が下限位置にある状態(基板Sの処理が終了した直後の状態)を、図3(b)はリフトピン15が上昇中の状態を、図3(c)はリフトピン15が上限位置にある状態を示す。なお、図3において、白で塗りつぶした矢符は測定部2に加わる圧縮荷重を、斜線のハッチングを施した矢符は測定部2に加わる引張荷重を意味する。また、何れの矢符もその長さが荷重の大きさ(絶対値)を意味する。
【0048】
図3(a)に示す状態では、昇降体16は、その上部が載置台13の内壁下面に接触しており、シリンダ装置17によって下方に引っ張られている。この状態では、昇降体16は載置台13の内壁下面で支持されて静止しているため、昇降体16に加わる荷重の合力が釣り合っている。このため、測定部(ロードセル)2には、シリンダ装置17が昇降体16を下方に引っ張る推力に相当する変動荷重F4(図3(a)に示す状態では引張荷重)が加わる。図3(a)に示す状態において、変動荷重F4の大きさは最大で150N程度である。
すなわち、図3(a)に示す状態において、測定部2で測定される荷重測定値をFとし、変動荷重F4の大きさ(絶対値)をF4とすると、荷重測定値Fは、以下の式で表わされる。
F=F4
【0049】
図3(b)に示す状態では、測定部2には、基板S、リフトピン15、昇降体16及びピストンロッド18の上部分の重量の総和に略相当する固定の圧縮荷重F1が加わる。また、チャンバ11内は真空環境で、筐体12内は大気圧環境であるため、この差圧によって生じる固定の引張荷重F2が測定部2に加わる。また、リフトピン15の上昇(昇降体16の上昇)に伴いベローズ19が縮むため、ベローズ19が伸びようとする力に相当する圧縮荷重F3が測定部2に加わる。この圧縮荷重F3はベローズ19の伸縮に依存する変動荷重である。さらに、シリンダ装置17が昇降体16を上方に押し上げる推力に相当する変動荷重F4(図3(b)に示す状態では圧縮荷重)が測定部2に加わる。そして、圧縮荷重の符号と引張荷重の符号とを異なるものにしたとき(例えば、引張荷重の符号を正とし、圧縮荷重の符号を負とする)の圧縮荷重F1、F3、F4と引張荷重F2との総和が、荷重測定値として測定部2で測定されることになる。
すなわち、図3(b)に示す状態において、測定部2で測定される荷重測定値をFとし、各荷重F1~F4の大きさ(絶対値)をF1~F4とすると、荷重測定値Fは、以下の式で表わされる。
F=-F1+F2-F3-F4
【0050】
図3(c)に示す状態では、昇降体16は、その上部が載置台13の内壁上面に接触しており、シリンダ装置17によって上方に押し上げられている。この状態では、昇降体16は載置台13の内壁上面に接触して静止しているため、昇降体16に加わる荷重の合力が釣り合っている。このため、測定部(ロードセル)2には、シリンダ装置17が昇降体16を上方に押し上げる推力に相当する変動荷重F4(図3(c)に示す状態では圧縮荷重)が加わる。図3(c)に示す状態において、変動荷重F4の大きさは50N程度である。
すなわち、図3(c)に示す状態において、測定部2で測定される荷重測定値をFとし、変動荷重F4の大きさ(絶対値)をF4とすると、荷重測定値Fは、以下の式で表わされる。
F=-F4
したがい、図3(a)~(c)に示すような基板Sの上昇過程において、測定部2で測定される荷重測定値は、引張荷重から圧縮荷重に遷移することになる。
【0051】
図4は、測定部2によって測定した荷重測定値の一例を示す図である。図4の横軸は基板Sの上昇を開始した時点を基準とする経過時間であり、縦軸は荷重測定値である。荷重測定値の符号が正の場合は、図3を用いて説明した荷重F4又はF1~F4の総和が引張荷重であることを意味する。荷重測定値の符号が負の場合は、荷重F4又は荷重F1~F4の総和が圧縮荷重であることを意味する。
図4には、基板Sの昇降が正常である場合の荷重測定値の時間的変化と、基板Sの脱離不良に起因して基板Sの昇降が異常である場合の荷重測定値の時間的変化とを示している。
【0052】
図4に示す例では、基板Sの昇降が正常である場合の荷重測定値の時間的変化と、基板Sの昇降が異常である場合の荷重測定値の時間的変化との間には有意差が認められる。このため、オペレータが図4を目視して判断すると、基板Sの昇降異常を検出できる可能性がある。
しかしながら、実際には、基板Sの昇降が正常であるか否かに応じた荷重測定値の時間的変化の差異が僅かであることも考えられる。また、基板Sの昇降が正常であっても荷重測定値の時間的変化にある程度のばらつきが生じる。このため、荷重測定値を単純にしきい値と比較し、その大小で昇降異常を自動検出しようとすると、しきい値の決定が困難であり、昇降異常の検出精度も悪くなると考えられる。また、昇降異常の検出タイミングが遅れると、昇降機構4の動作停止のタイミングも遅れて、基板Sの搬送不良や破損の回避が間に合わないおそれもある。
【0053】
したがい、第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置100は、前述のように、機械学習を用いて生成された学習モデル31を具備する検出部3によって基板Sの昇降異常を検出する構成となっている。これにより、基板Sの昇降異常を迅速に且つ精度良く検出可能である。
【0054】
なお、昇降機構4による基板Sの上昇速度は、基板Sを処理するサイクルタイムに支障が生じない限り、できるだけ遅い速度に設定することが好ましい。特に、シリンダ装置17がエアシリンダ装置である場合には、昇降異常を検出して直ちに昇降機構4の動作を停止しようとしても、完全に停止するまでに不可避的な時間遅れが存在する。したがい、基板Sの上昇速度を遅くすることで、基板Sの昇降異常に伴う基板Sの搬送不良や破損を確実に回避することができる。
また、基板Sの昇降異常に伴う基板Sの搬送不良や破損を確実に回避するには、昇降機構4による基板Sの上昇を間欠的に行ってもよい。すなわち、基板Sを一定の短い距離だけ上昇させた後に、いったん基板Sの上昇を停止し、それまでに測定した荷重測定値を用いて基板Sの昇降が正常であるか異常であるかを判定することが考えられる。そして、正常と判定した場合には、再び基板Sを一定の短い距離だけ上昇させて、同様の動作を繰り返す態様を採用することも可能である。
【0055】
以下、第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置100によって基板Sの昇降異常を検出する試験を行った結果の一例について説明する。
【0056】
上記の試験では、基板Sの昇降が正常である場合の荷重測定値の時間的変化を16データ(No.1~No.16のデータ)と、基板Sの昇降が異常である場合の荷重測定値の時間的変化を2データ(No.17及びNo.18のデータ)とを、それぞれ測定部2によって100msecのサンプリング周期で測定した。そして、No.1~No.14のデータを学習モデル31の教師データの入力として用いた。なお、学習モデル31には、No.1~No.14の何れのデータについても、サンプリング周期の100msec毎に測定された連続する5個の荷重測定値を1サンプリング周期分だけずらして順次入力することで機械学習を行った。
【0057】
以上のようにして学習した後の学習モデル31に、判定用としてNo.15~No.18のデータを入力し、判定部32で基板Sの昇降異常が生じているか否かを判定した。なお、この際、学習時と同様に、No.15~No.18の何れのデータについても、サンプリング周期の100msec毎に測定された連続する5個の荷重測定値を1サンプリング周期分だけずらして順次入力することで、判定部32による判定をサンプリング周期毎に行った。判定部32に設定するしきい値Thは0.1とした。
【0058】
図5は、第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置100を用いた上記の試験結果の一例を示す図である。図5(a)は、No.16のデータ(正常)を用いたときの荷重測定値及び異常度を示す。図5(b)は、No.18のデータ(異常)を用いたときの荷重測定値及び異常度を示す。図5の横軸は基板Sの上昇を開始した時点を基準とする経過時間であり、縦軸は荷重測定値及び異常度である。
【0059】
図5(a)に示すように、基板Sの昇降が正常である場合、学習モデル31から出力される異常度の値は小さく、少なくとも基板Sの上昇開始から1秒を経過した後には、しきい値Th=0.1よりも小さくなった。図5(a)からも分かるように、基板Sの上昇開始から1秒程度は荷重測定値の変動(低下)が大きいため、本試験ではこの間の異常度は無視し、1秒経過以降の異常度を用いて判定した。この結果、図5(a)に示すNo.16のデータは、実際と同じく正常であると判定可能であった。
【0060】
一方、図5(b)に示すように、基板Sの昇降が異常である場合、学習モデル31から出力される異常度の値が大きくなる時点があり、基板Sの上昇開始から1.5秒を経過した時点で初めて、異常度がしきい値Th=0.1以上となった。この結果、図5(b)に示すNo.18のデータは、実際と同じく異常であると判定可能であった。また、基板Sの上昇開始から約1.5秒を経過した時点で昇降異常を検出できたため、直ちに昇降機構4の動作を停止することで、基板Sの搬送不良や破損を回避することが可能である。
【0061】
表1は、上記試験の結果を纏めた表である。図5に示していないNo.15のデータ(正常)及びNo.17のデータ(異常)についても、実際と同じ判定結果が得られると共に、昇降異常を迅速に検出可能であった。
【表1】
【0062】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る基板処理システムは、基板昇降異常検出装置の検出部が具備する学習モデルがサポートベクタマシンである点だけが第1実施形態と異なる。
したがい、以下の説明では、第1実施形態に係る基板処理システムの説明で用いた図面や各構成要素の符号をそのまま援用する。また、第2実施形態で用いたサポートベクタマシンは公知の内容と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0063】
第2実施形態においても、学習モデル31には、昇降機構4による基板Sの上昇過程において、測定部2によって連続的に測定された複数の荷重測定値が入力される。
具体的には、測定部2によって所定のサンプリング周期(例えば、100msec)毎に測定された複数の荷重測定値が学習モデル31に入力される。ただし、第2実施形態では、第1実施形態のように、1サンプリング周期分だけずれて測定された複数の荷重測定値を順次入力するのではなく、所定期間(例えば、基板Sの上昇開始から1~2.5sec)に測定した複数の荷重測定値を一度に学習モデル31に入力することになる。
【0064】
第2実施形態の学習モデル31の学習時には、教師データの入力として、基板Sの昇降が正常である場合の複数(例えば、基板Sの上昇開始から1~2.5secに相当する個数。サンプリング周期が100msecの場合には16個)の荷重測定値を与え、前記入力と組み合わされる教師データの出力として、基板Sの昇降が正常であること(第2実施形態でも、異常度=0)を与えて、前記入力を学習モデル31に入力した場合に、学習モデル31から異常度=0が出力されるように、機械学習を行う。
上記の機械学習により、概念的には、例えば、横軸を基板Sの上昇を開始した時点を基準とする経過時間とし、縦軸を荷重測定値とする座標空間が生成され、正常であると考えられる領域(正常領域)がこの座標空間に描かれることになる。
【0065】
そして、基板Sの昇降異常を検出する検出時(昇降異常が生じているか否かを判定する判定時)には、学習モデル31に学習時と同じ複数(例えば、基板Sの上昇開始から1~2.5secに相当する個数)の荷重測定値が入力される。入力された荷重測定値は、概念的には、学習時に生成された座標空間にプロットされ、学習モデル31はプロットした各点が正常領域内にあるか否かを判定することになる。そして、学習モデル31は、全ての点の個数に対する正常領域外にある点の個数の割合を異常度として出力する。
【0066】
判定部32が、異常度が予め設定されたしきい値Thよりも小さければ、基板Sの昇降は正常であると判定し、異常度がしきい値Th以上であれば、基板Sの昇降異常が生じていると判定する点は、第1実施形態と同様である。
【0067】
以下、第2実施形態に係る基板昇降異常検出装置100によって基板Sの昇降異常を検出する試験を行った結果の一例について説明する。
【0068】
上記の試験でも、第1実施形態に係る基板昇降異常検出装置100を用いた試験の場合と同じNo.1~No.18のデータを用いた。ただし、第1実施形態の試験と異なり、第2実施形態の試験では、No.1~No.8のデータを学習モデル31の教師データの入力として用いた。なお、学習モデル31には、No.1~No.8の何れのデータについても、基板Sの上昇開始から1~2.5secに測定された複数(16個)の荷重測定値を入力することで機械学習を行った。なお、第2実施形態の学習モデル31として用いるサポートベクタマシンのパラメータとして、nu=0.01、gamma=1を設定した。
【0069】
以上のようにして学習した後の学習モデル31に、判定用としてNo.9~No.18のデータを入力し、判定部32で基板Sの昇降異常が生じているか否かを判定した。なお、この際、学習時と同様に、No.9~No.18の何れのデータについても、基板Sの上昇開始から1~2.5secに測定された複数の荷重測定値を入力し、判定部32による判定を行った。判定部32に設定するしきい値Thは第1実施形態と同様に0.1とした。
【0070】
図6は、第2実施形態に係る基板昇降異常検出装置100を用いた試験結果の一例を示す図である。図6(a)は、学習時に生成された座標区間及び正常領域を示す。図6(b)は、No.16のデータ(正常)を用いたときの荷重測定値を図6(a)の座標空間にプロットしたものを示す。図6(c)は、No.18のデータ(異常)を用いたときの荷重測定値を図6(a)の座標空間にプロットしたものを示す。図6の横軸は基板Sの上昇を開始した時点を基準とする経過時間であり、縦軸は標準化した荷重測定値である。標準化にはZスコア(標準化した荷重測定値=(荷重測定値-荷重測定値の平均値)/荷重測定値の標準偏差)を用いた。
【0071】
図6(a)に示すように、機械学習により、学習モデル31に、横軸を基板Sの上昇を開始した時点を基準とする経過時間とし、縦軸を標準化した荷重測定値とする座標空間が生成され、正常領域(図6(a)に示す白で塗りつぶした領域)がこの座標空間に描かれて記憶されることになる。
【0072】
図6(b)に示すように、基板Sの昇降が正常である場合、学習モデル31に入力された荷重測定値を座標空間にプロットした各点(黒丸の点)は、何れも正常領域内にあった。したがい、学習モデル31からは異常度として0が出力され、しきい値Th=0.1よりも小さくなった。この結果、図6(b)に示すNo.16のデータは、実際と同じく正常であると判定可能であった。
【0073】
一方、図6(c)に示すように、基板Sの昇降が異常である場合、学習モデル31に入力された荷重測定値を座標空間にプロットした各点には、正常領域外にある点(白抜きの丸でプロットした点)が存在し、その割合は0.5であった。したがい、学習モデル31からは異常度として0.5が出力され、しきい値Th=0.1以上となった。この結果、図6(c)に示すNo.18のデータは、実際と同じく異常であると判定可能であった。また、基板Sの上昇開始から約2.5秒を経過した時点で昇降異常を検出できることになるため、直ちに昇降機構4の動作を停止することで、基板Sの搬送不良や破損を回避することが可能である。
【0074】
表2は、上記試験の結果を纏めた表である。図6に示していないNo.9~No.15のデータ(正常)及びNo.17のデータ(異常)についても、実際と同じ判定結果が得られると共に、基板Sの上昇開始から約2.5秒を経過した時点で昇降異常を検出できることになる。
【表2】
【0075】
以上に説明したように、第1及び第2実施形態に係る基板昇降異常検出装置100によれば、静電チャック14からの基板Sの脱離不良に起因した基板Sの昇降異常を迅速に且つ精度良く検出可能である。
【0076】
なお、第1及び第2実施形態では、測定部2としてロードセルを用い、このロードセルを上下に分割されたピストンロッド18に挟んで取り付ける態様について説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、ロードセルを昇降体16とピストンロッド18との間に取り付けたり、昇降体16を上下に分割してその間に取り付けることも可能である。
また、シリンダ装置17として電動シリンダ装置を用いる場合には、電動シリンダ装置を駆動するモータのトルクを測定し、このトルク測定値を学習モデル31にパラメータ(昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータ)として入力する態様を採用することも可能である。
【0077】
また、第1及び第2実施形態では、測定部2が昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータ(荷重測定値)を測定し、学習モデル31に昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータを入力する態様について説明したが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、測定部2が、昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータに加え、静電チャック14と基板Sとの間の吸着力と相関を有するパラメータ及びチャンバ11内の圧力と相関を有するパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータを測定し、学習モデル31が、昇降機構4による基板Sの上昇過程において、測定部2によって連続的に測定された前記パラメータの複数の測定値が入力され、基板Sの昇降異常の程度を出力する態様を採用することも可能である。これにより、昇降機構4に加わる荷重と相関を有するパラメータのみを用いる場合に比べて、基板Sの昇降異常をより一層精度良く検出可能であることが期待できる。
なお、静電チャック14と基板Sとの間の吸着力と相関を有するパラメータを測定する測定部2としては、例えば、特開2006-100630号に記載のように、静電チャック14のリーク電流を測定する電流計や、特開2008-177464号に記載のように、基板Sの変位量を測定する変位計や、シリンダ装置(エアシリンダ装置)17への圧縮空気の圧力を測定する圧力計を挙げることができる。また、チャンバ11内の圧力と相関を有するパラメータを測定する測定部2としては、例えば、チャンバ11に取り付けられた真空計を挙げることができる。
【0078】
また、第1形態では、学習モデル31がk近傍法を用いた機械学習により生成されている態様を例示し、第2実施形態では、学習モデル31がサポートベクタマシンである態様を例示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、ニューラルネットワーク(CNN(Convolutional Neural Network)や、RNN(Recurrent neural network)を含む)など、機械学習を用いて生成できる学習モデルである限りにおいて種々の構成を採用可能である。
【0079】
また、第1及び第2実施形態では、基板Sの脱離不良に起因した基板Sの昇降異常を検出する態様について説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、基板処理装置10で動作する搬送ロボットが具備する昇降機構で基板Sを上昇させる過程において、基板Sが位置ずれ等によって基板処理装置10を構成する部材に干渉するような異常を検出することも可能である。
【0080】
さらに、第1及び第2実施形態では、基板処理装置10がプラズマ処理装置である場合を例示したが、本発明はこれに限るものではない。基板Sを昇降させる昇降機構を具備する限りにおいて、種々の基板処理装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
10・・・基板処理装置
11・・・チャンバ
13・・・載置台
14・・・静電チャック
15・・・リフトピン
16・・・昇降体
17・・・シリンダ装置
18・・・ピストンロッド
2・・・測定部
3・・・検出部
4・・・昇降機構
31・・・学習モデル
32・・・判定部
100・・・基板昇降異常検出装置
S・・・基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6