(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】パーキングブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20231016BHJP
B60T 13/74 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T13/74 H
(21)【出願番号】P 2020158921
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 孝弘
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-203861(JP,A)
【文献】特開2015-047948(JP,A)
【文献】特開2013-095258(JP,A)
【文献】特開2008-149747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるパーキングブレーキ装置であって、
パーキングブレーキと、
前記パーキングブレーキに制動荷重を与える駆動部と、
前記車両の車速を検知する車速センサと、
前記車両の減速度を取得する減速度取得部と、
前記駆動部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記車両の車速が所定の閾値未満であると判断した場合に、
前記減速度取得部により取得された減速度が所定の目標減速度に達するまで、前記パーキングブレーキの制動荷重を増加させ、前記制動荷重の増加に伴い前記減速度が前記目標減速度に達した場合に前記制動荷重を増加させないようにし、前記制動荷重を増加させないことに伴い前記車速センサにより検知された車速がゼロまで低下した場合に、前記制動荷重を所定の目標制動荷重まで増加させる制動荷重制御を行
い、
前記目標減速度は、前記目標制動荷重より小さい所定の制動荷重に対応する減速度である、
パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記パーキングブレーキ装置は、前記パーキングブレーキの制動荷重を取得する制動荷重取得部をさらに備え、
前記目標減速度は、前記目標制動荷重の中間値に対応する減速度であり、
前記制御部は、
前記制動荷重の増加に伴い前記減速度が前記目標減速度に達した場合に前記制動荷重を一定に保持し、前記制動荷重の保持に伴い前記車速センサにより検知された車速がゼロまで低下した場合に、前記制動荷重を前記目標制動荷重まで増加させる、請求項1に記載のパーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記制動荷重制御において、前記車速がゼロまで低下し、かつ前記減速度がゼロまで低下した場合に、前記制動荷重を前記目標制動荷重まで増加させる、請求項1または2に記載のパーキングブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制動荷重制御において、前記一定に保持された制動荷重を前記目標制動荷重まで増加させる速度は、前記減速度が前記目標減速度に達するまで前記パーキングブレーキの制動荷重を増加させる速度よりも大きい、請求項2に記載のパーキングブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トラック等の車両において、フットブレーキが故障した場合などに、電動パーキングブレーキ装置(electrical parking brake、以下EPBとも称する)により車両を停止させ得るようにすることが義務付けられている。特許文献1には、EPBの一例が開示されている。
【0003】
EPBでは、たとえば、車速が所定の閾値(たとえば5.22(km/h))以上である場合には、EPBによる制動を断続的に行って車両を減速させる制御が行われる一方で、車速が上記閾値未満である場合には、EPBによる制動を断続的ではなく連続的に、すなわちパーキングブレーキに制動荷重を加え続けて車両を停止させる制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車速が上記閾値未満での制動の際に、急激な制動力の発生によってパーキングブレーキに過大な荷重が付加されて、パーキングブレーキが劣化するまたは破損するおそれがあった。また、一定の制動荷重を付加する場合は、車両の重量または積載重量が小さい場合に急激な制動力が発生し、車両の重量または積載重量が大きい場合には制動力が弱く制動距離が延びるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、パーキングブレーキ装置に過大な制動荷重が付加されることを抑制しながら、車両を安定的に停止させることができるパーキングブレーキ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパーキングブレーキ装置は、車両に搭載されるパーキングブレーキ装置であって、パーキングブレーキと、前記パーキングブレーキに制動荷重を与える駆動部と、前記車両の車速を検知する車速センサと、前記車両の減速度を取得する減速度取得部と、前記駆動部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記減速度取得部により取得された減速度が所定の目標減速度に達するまで、前記パーキングブレーキの制動荷重を増加させ、前記制動荷重の増加に伴い前記減速度が前記目標減速度に達した場合に前記制動荷重を増加させないようにし、前記制動荷重を増加させないことに伴い前記車速センサにより検知された車速がゼロまで低下した場合に、前記制動荷重を所定の目標制動荷重まで増加させる制動荷重制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パーキングブレーキ装置に過大な制動荷重が付加されることを抑制しながら、車両を安定的に停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置の一部の構成を抽出して示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置によって制動を行った場合の減速度、制動荷重および車速の各々の時間の経過に伴う変化の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置の制御装置による制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明のパーキングブレーキ装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置の構成を示すブロック図である。
図2は、本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置の一部の構成を抽出して示すブロック図である。
【0012】
本実施形態に係るパーキングブレーキ装置1は、トラック等の車両に搭載される。
図1および
図2に示されるように、パーキングブレーキ装置1は、パーキングブレーキ2と、駆動部3と、車速センサ5とを備えている。また、本実施形態では、パーキングブレーキ装置1は、さらにコントロールケーブル4と、制動荷重取得部6と、制御装置7と、操作スイッチ8とを備える。
【0013】
パーキングブレーキ2は、たとえば、公知の電動パーキングブレーキである。パーキングブレーキ2は、制御装置7の制御により制動および制動解除を行う。詳細には、パーキングブレーキ2は、制御装置7の制御により作動する駆動部3の駆動力を、コントロールケーブル4を介して受けることにより作動し、制動力を発生させる。
【0014】
パーキングブレーキ2の構造は特に限定されないが、たとえば、ドラム式ブレーキ装置とすることができる。ドラム式ブレーキ装置は、ブレーキドラムと、コントロールケーブル4の引き操作および戻し操作により作動し、当該引き操作によりブレーキドラムの内周面に押し付けられるブレーキシューと、ブレーキシューを戻し方向に付勢するリターンスプリングとを含む。なお、パーキングブレーキ2は、ドラム型ブレーキ装置に限定されず、たとえば、ディスク式ブレーキ装置であってもよい。
【0015】
駆動部3は、パーキングブレーキ2に制動荷重を与えるアクチュエータである。本明細書において、「制動荷重」とは、パーキングブレーキ2に加わる荷重、具体的には、たとえば、ドラム式ブレーキ装置におけるブレーキドラムとブレーキシューとの間の押圧力を意味する。
【0016】
詳細には、駆動部3は、制御装置7の制御により正転駆動および逆転駆動される正逆回転可能なモータ31と、モータ31の出力軸に接続された複数段のギアからなる減速機構32と、減速機構32の出力により回転駆動されるスクリュー33と、スクリュー33の回転によりスクリュー33の軸方向に沿って往復動するナット34とを含む。
【0017】
ナット34の一方の端部には
図1中の左側のコントロールケーブル4の一端が接続され、ナット34の他方の端部には制動荷重取得部(荷重センサ)6を介して
図1中の右側のコントロールケーブル4の一端が接続されている。左側のコントロールケーブル4の他端は
図1中の左側のパーキングブレーキ2に接続され、右側のコントロールケーブル4の他端は
図1中の右側のパーキングブレーキ2に接続されている。
【0018】
コントロールケーブル4は、パーキングブレーキ2の動作を制御するための張力をパーキングブレーキ2に伝達する。詳細には、駆動部3がコントロールケーブル4の引き操作を行うことにより、パーキングブレーキ2が制動を行い、駆動部3がコントロールケーブル4の戻し操作を行うことにより、パーキングブレーキ2が制動を解除する。コントロールケーブル4の引き操作が行われる際にコントロールケーブル4に加わる張力(以下、ケーブル張力とも称する)は、上記制動荷重の大きさに対応する。本明細書では、「ケーブル張力」が「制動荷重」に相当するものとして説明を行う。
【0019】
車速センサ5は、車両の車速Vを検知し、検知した車速Vのデータを制御装置7へ出力する。車速センサ5は、所定の周期(たとえば、10msec毎)でサンプリングを行って車速Vのデータを取得する。
【0020】
制動荷重取得部6は、パーキングブレーキ2の制動荷重を取得する。制動荷重取得部6の構造は、パーキングブレーキ2の制動荷重を取得することができれば特に限定されない。本実施形態では、制動荷重取得部6は、たとえば、パーキングブレーキ2に接続されたコントロールケーブル4の張力、すなわちケーブル張力Tを検出する荷重センサである(以下、荷重センサ6と呼ぶ)。荷重センサ6により検出されたケーブル張力Tは、制御装置7へ出力される。荷重センサ6の構造は特に限定されないが、たとえば、
図1に示されるように、シャフト60と、シャフト60の周囲に設けられた主ばね61および副ばね62と、マグネット63と、ホールIC64等により構成されている。
【0021】
コントロールケーブル4の引き操作および戻し操作に伴い、シャフト60が軸方向に往復動し、シャフト60の往復動に伴い、マグネット63が往復動する。マグネット63の往復動により、マグネット63に対応して配置されているホールIC64は、ケーブル張力を示す信号を制御装置7へ出力する。
【0022】
制御装置7は、駆動部3を制御する。
図2に示されるように、制御装置7は、マイクロコンピュータからなるCPU(Central Processing Unit)71と、記憶部72と、モータ駆動回路73とを含む。
【0023】
詳細には、CPU71は、減速度取得部711と、制御部712とを有する。記憶部72は、プログラムを格納するROM、および各種データを一時的に保存するRAM等により構成されている。
【0024】
減速度取得部711は、車両の減速度D(m/s2)を取得する。詳細には、減速度取得部711は、たとえば、車速センサ5から受信した車速Vのデータに基づいて減速度Dを算出し、記憶部72に保存する。
【0025】
制御部712は、ユーザによる操作スイッチ8の操作に基づいて、パーキングブレーキ2を制御する。たとえば、制御部712は、車両が停止している状態において操作スイッチ8が操作された場合と、車両が走行している状態において操作スイッチ8が操作された場合とで制御の内容が異なる。
【0026】
詳細には、車両が停止している状態において、操作スイッチ8によりパーキングブレーキ2による制動を行う操作が行われた場合には、制御部712は、パーキングブレーキ2が制動を行うように駆動部3を制御する。そして、制御部712は、操作スイッチ8によりパーキングブレーキ2による制動を解除する操作が行われるまで制動状態を維持する制御を行う。
【0027】
一方、車両が走行している状態において、操作スイッチ8によりパーキングブレーキ2による制動を行う操作が行われた場合には、車速Vが所定の閾値Th(たとえば5.22(km/h))以上である場合と、車速Vが閾値Th未満である場合とで制御の内容が異なる。なお、閾値Thは、車両が停止する寸前の低速域であるかを判断する閾値である。閾値Thは5.22(km/h)に限定されるものではなく、例えば10(km/h)、6(km/h)など、所定の低速域か否かを判断することができる値であれば、任意に変更することが可能である。
【0028】
車速Vが所定の閾値Th以上である場合には、後述するように、制御部712は、パーキングブレーキ2による制動を断続的に行って車両を減速させる制御を行う。車速Vが閾値Th未満である場合には、後述するように、制御部712は、パーキングブレーキ2による制動を連続的に行って車両を減速させる制御を行う。
【0029】
図3は、本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置によって制動を行った場合の減速度、制動荷重および車速の各々の時間の経過に伴う変化の一例を示す図である。
図3において、左側の縦軸、右側の縦軸、および横軸は、それぞれ、車両の減速度(m/s
2)、制動荷重(N)、および時間(s)を示している。また、
図3において、グラフGD1(一点鎖線で示す)は従来の制御による車両の減速度の変化を示すグラフであり、グラフGD2(破線で示す)は本実施形態の制御部712の制御による車両の減速度Dの変化を示すグラフであり、グラフGL(実線で示す)は本実施形態の制御部712の制御による制動荷重Lの変化を示すグラフであり、グラフGV(二点鎖線で示す)は本実施形態の制御部712の制御による車速Vの変化を示すグラフである。
【0030】
なお、
図3に示す例では、車両が走行している状態において操作スイッチ8によりパーキングブレーキ2による制動を行う操作が行われ、その後、車速Vが閾値Th未満に低下した場合の制御部712による制御について説明する。
【0031】
従来の制御では、車速Vが閾値Th(たとえば5.22(km/h))未満に低下した後、
図3のグラフGD1に示されるように、制御部は、減速度Dが目標制動荷重TLに対応する所定の減速度になるまで単調増加で減速度Dを増加させる。
図3に示される例では、目標制動荷重TLは1600(N)であり、1600(N)の目標制動荷重TLに対応する減速度Dは2.0(m/s
2)である。このような制御を行った場合、車両の重量または積載重量が大きい場合には、急激な制動力の発生および車両の揺り返しの発生によってEPBに過大な制動荷重Lが付加されて、EPBが劣化するおそれがある。また、車両の重量または積載重量が小さい場合に急激な制動力が発生し、車両の重量または積載重量が大きい場合には制動力が弱く制動距離が延びるおそれがある。
【0032】
これに対し、本実施形態においては、車速Vが閾値Th未満に低下した後、制御部712は、駆動部3を以下のように制御する。すなわち、制御部712は、車速Vが閾値Th未満である場合には、パーキングブレーキ装置1による制動を断続的ではなく連続的に、すなわちパーキングブレーキ2に制動荷重Lを加え続けて車両を停止させる制御を行う。
【0033】
詳細には、
図3のグラフGD2に示されるように、制御部712は、車速Vが閾値Th未満に低下したことを契機として、断続的な制動から連続的な制動へ切り替えて制動を行う(時刻t0)。
図3に示される例では、連続的な制動の開始時における減速度Dおよび制動荷重Lは、それぞれ、0.5(m/s
2)および400(N)である。
【0034】
そして、
図3のグラフGD2、GL、GVに示されるように、制御部712は、以下の制動荷重制御を行う。制動荷重制御では、制御部712は、まず、減速度取得部711により取得された減速度D(グラフGD2参照)が所定の目標減速度TD(
図3に示される例では、1.5(m/s
2))に達するまで、パーキングブレーキ2の制動荷重L(グラフGL参照)を増加させる(時刻t0~時刻t1参照)。次に、制御部712は、制動荷重Lの増加に伴い減速度Dが目標減速度TDに達した場合に制動荷重Lを増加させないようにする処理を行う(時刻t1~時刻t3参照)。次に、制御部712は、制動荷重Lを増加させないことに伴い車速センサ5により検知された車速V(グラフGV参照)がゼロまで低下した場合に(時刻t2参照)、制動荷重Lを所定の目標制動荷重TLまで増加させる制動荷重制御を行う(時刻t3~時刻t4参照)。
【0035】
「目標制動荷重TL」は、車両を安定的に停止させるために設定される、制動荷重の目標値であり、車速Vが閾値Th未満に低下した時点(時刻t0参照)から、パーキングブレーキ2による制動完了の時点(時刻t4参照)までの期間を通じて最大の値である。目標制動荷重TLの値は特に限定されないが、たとえば、500N~1600Nの範囲内で設定することができる。また、「目標減速度TD」は、パーキングブレーキ装置1に過大な制動荷重Lが付加されることを抑制するために、制動荷重Lを段階的に増加させる、つまり、制動荷重Lを一旦或る中間値まで増加させる前段増加期間(時刻t0~時刻t1参照)の後、制動荷重Lの増加しない非増加期間(時刻t1~時刻t3参照)をはさんで、後段増加期間(時刻t3~時刻t4参照)において制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる際の、当該前段増加期間の終点(時刻t1参照)における減速度D、すなわち制動荷重Lが当該中間値に到達した時点(時刻t1参照)における減速度Dである。目標減速度TDの値は特に限定されないが、たとえば、0.5m/s2~2.0m/s2の範囲内で設定することができる。
【0036】
このように、本実施形態に係るパーキングブレーキ装置1は、車両の減速度Dが目標減速度TDに到達した後、車速Vがゼロになるまでの間は制動荷重Lが増加しないように荷重制御を行い、車速Vがゼロになったら、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる。すなわち、パーキングブレーキ装置1は、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで一気に増加させるのではなく、制動荷重Lが目標制動荷重TLに達する前に制動荷重Lの増加を一旦止める、具体的には、制動荷重Lが増加しない期間(時刻t1~時刻t3参照)をはさんで制動荷重Lを段階的に目標制動荷重TLまで増加させる。したがって、パーキングブレーキ装置1に過大な制動荷重Lが付加されることを抑制することができるため、パーキングブレーキ2の劣化を抑制することができる。また、車両が停止するのを待ってから制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させるため、車両の揺り返しの発生を抑制しながら、目標制動荷重TLによって車両を安定的に停止させることができる。
【0037】
なお、パーキングブレーキ装置1は、
図1に示されるように、パーキングブレーキ2の制動荷重Lを取得する制動荷重取得部(荷重センサ)6を備え、制御部712(
図2参照)は、
図3に示されるように、制動荷重Lの増加に伴い減速度Dが目標減速度TDに達した場合に制動荷重Lを一定に保持し、制動荷重Lの保持に伴い車速センサ5により検知された車速Vがゼロまで低下した場合に、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる構成であることが好ましい。すなわち、制動荷重Lの増加に伴い減速度Dが目標減速度TDに達した場合に制動荷重Lを増加させないようにする処理(時刻t1~時刻t3参照)は、
図3のグラフGLに示されるように、制動荷重Lを一定に保持する処理であることが好ましい。
【0038】
この場合、制動荷重制御部6により制動荷重Lを取得することができるため、減速度Dが目標減速度TDに達した場合に制動荷重Lを一定に保持することが容易となり、減速度Dの変化および車速Vがゼロになるまでの時間を調整しやすくなる。これにより、制動完了までの時間を調整しやすくなる。また、制動荷重Lの増加に伴い減速度Dが目標減速度TDに達した場合に制動荷重Lを一定に保持する場合、制動荷重Lが一定に保持されずに減少していくような場合と比べて、車両を早期に停止させることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、制御部712は、制動荷重Lの増加に伴い減速度Dが目標減速度TDに達した場合に、
図3における時刻t1~時刻t3の期間において、制動荷重Lを一定に保持しない構成であってもよい。この場合、たとえば、当該期間において、制御部は、制動荷重Lを次第に減少させるように構成されていてもよい。
【0040】
また、制御部712は、制動荷重制御(時刻t3~時刻t4参照)において、車速センサ5により検知された車速V(グラフGV参照)がゼロまで低下し、かつ減速度Dがゼロまで低下した場合に(時刻t2参照)、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させることが好ましい。
【0041】
この場合、車速Vがゼロまで低下し、かつ減速度Dがゼロまで低下した場合に、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させることになるため、車速がゼロに収束した状態、つまり、完全に停止した状態の車両に対して目標制動荷重TLを加えることができ、車両をより安定的に停止させることができる。具体的には、一瞬だけ車速Vがゼロになるような状況、たとえば、前進する車両が減速して車速Vがゼロになった直後に後退し始めるような状況では、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる制御は行われない。したがって、パーキングブレーキ装置1は、車両が完全に停止してから制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させて、車両の停止状態をより確実に維持することができる。
【0042】
また、本実施形態に係るパーキングブレーキ装置1では、一定に保持された制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる速度(
図3における時刻t3~時刻t4間の車速増加の速度)は、減速度Dが目標減速度TDに達するまでパーキングブレーキ2の制動荷重Lを増加させる速度(
図3における時刻t0~時刻t1間の車速増加の速度)よりも大きい構成であることが好ましい。すなわち、たとえば、
図3に示される例では、時刻t3~時刻t4間におけるグラフGLの傾きの平均値は、時刻t0~時刻t1間におけるグラフGLの傾きの平均値よりも大きい。この場合、パーキングブレーキ装置1は、車両が停止した後にパーキングブレーキ2の制動荷重Lを急激に増加させることによって、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる時間を短縮することができるので、車両を安定的に停止させながら制動完了までの時間を短縮する、つまり、車両を安定的に停止させるタイミングを早めることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、制御部712は、一定に保持さたれた制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させる速度が、減速度Dが目標減速度TDに達するまでパーキングブレーキ1の制動荷重Lを増加させる速度以下となるような構成であってもよい。具体的には、たとえば、
図3において、時刻t3~時刻t4間におけるグラフGLの傾きの平均値が、時刻t0~時刻t1間におけるグラフGLの傾きの平均値以下となる構成であってもよい。
【0044】
上述のように、本実施形態では、制動荷重Lの大きさは、ケーブル4の引き操作が行われる際のケーブル張力Tの大きさに対応する。ここで言う「対応する」とは、たとえば、「略等しい」および「略比例関係にある」など、一定の相関関係にあることを意味する。また、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させることは、ケーブル張力Tを目標ケーブル張力GTまで増加させることに対応する。
【0045】
したがって、上述の制動荷重制御は、本実施形態では、パラメータとしてケーブル張力Tを用いる以下の制御に対応する。すなわち、制動荷重制御では、
図3のグラフGD2、GL、GVに示されるように、制御部712は、まず、減速度取得部711により取得された減速度D(グラフGD2参照)が所定の目標減速度TDに達するまで、モータ31の回転数を増加させてケーブル張力T(制動荷重Lであるとみなして、グラフGL参照)を増加させる(時刻t0~時刻t1参照)。次に、制御部712は、ケーブル張力Tの増加に伴い減速度Dが目標減速度TDに達した場合にケーブル張力Tを増加させないようにモータ31の回転数を調節する(時刻t1~時刻t3参照)。次に、制御部712は、ケーブル張力Tを増加させないことに伴い車速センサ5により検知された車速V(グラフGV参照)がゼロまで低下した場合に(時刻t2参照)、モータ31の回転数をさらに増加させてケーブル張力Tを所定の目標ケーブル張力GTまで増加させる(時刻t3~時刻t4参照)。
【0046】
モータ駆動回路73は、制御部712からの信号に基づいて駆動部3のモータ31を所定のデューティ比で正転および逆転に回転制御する。これにより、コントロールケーブル4が引き操作および戻し操作されることにより、パーキングブレーキ2の制動および制動解除が行われる。
【0047】
操作スイッチ8は、たとえば、車両の停止状態および走行状態において、パーキングブレーキ2の制動および制動解除を行うために、ユーザからの操作に応じて、パーキングブレーキ2の制動を指示する信号およびパーキングブレーキ2の制動解除を指示する信号を制御装置7へ送信する。
【0048】
なお、パーキングブレーキ2の制動解除の指示は、たとえば、ユーザによるアクセルペダルの踏み込み操作が所定のセンサによって検知され、その検知信号を制御装置7が受信したことを契機として行われてもよい。
【0049】
次に、制御部712の処理について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の一実施形態のパーキングブレーキ装置の制御装置による制御の一例を示すフローチャートである。
【0050】
なお、
図4に示す例は、
図3に示す例と同様に、車両が走行している状態において操作スイッチ8によりパーキングブレーキ2による制動を行う操作が行われた場合を想定したものである。
【0051】
図4に示されるように、たとえば、車両のイグニッションスイッチがオン状態にされると、それに伴って、制御装置7が起動する(ステップS1)。
【0052】
次に、制御装置7の制御部712は、車速センサ5から受信した計測信号に基づいて、車速Vが閾値Thより小さいか否かを判断する。閾値Thは、たとえば、時速5.22(km/h)である(ステップS2)。
【0053】
ステップS2においてYesと判断された場合、制御部712は、制動荷重Lを増加させる。詳細には、制御部712は、モータ31の回転数を増加させることにより、コントロールケーブル4の引き操作のストロークを増加させる。これにより、ケーブル張力Tが増加するとともに、制動荷重Lが増加する(ステップS3)。
【0054】
次に、制御装置7の減速度取得部711は、車速センサ5の計測結果に基づいて、車両の減速度Dを算出する。そして、制御部712は、減速度Dが所定の目標減速度TDと略等しいか否かを判断する。本実施形態では、目標減速度TDは、たとえば、1.5(m/s
2)である。すなわち、
図3に示されるように、目標減速度TDは、目標制動荷重TLに対応する減速度(図示例では2.0(m/s
2))よりも低い値である(ステップS4)。
【0055】
ステップS4においてYesと判断された場合、制御部712は、モータ31の回転を停止させる。これにより、ケーブル張力Tの増加が停止するとともに、制動荷重Lの増加が停止する。詳細には、ケーブル張力Tが略一定に保たれるとともに、制動荷重Lの大きさが略一定に保たれる。すなわち、制御部712は、従来のように減速度Dを目標制動荷重TLに対応する高い減速度(
図3に示す例では2.0(m/s
2))まで一気に増加させるのではなく、減速度Dが当該高い減速度よりも低い目標減速度TDに達した場合に、一旦、制動荷重Lを一定に維持する。したがって、パーキングブレーキ装置1に過大な制動荷重Lが付加されるのを抑制することができる(ステップS5)。
【0056】
次に、制御部712は、車速Vが0(km/h)であるか否かを判断する。すなわち、制御部712は、車両が停止したか否かを判断する(ステップS6)。
【0057】
ステップS6においてYesと判断された場合、制御部712は、減速度Dが0(m/s2)であるか否かを判断する。すなわち、制御部712は、車両が完全に停止したか否かを判断する。つまり、車速Vが0(km/h)で、かつ減速度Dが0(m/s2)であることを確認することにより、車両が一瞬だけ停止するのではなく、車両がある程度の時間に亘って完全に停止したと判断することができる(ステップS7)。
【0058】
ステップS7においてYesと判断された場合、制御部712は、制動荷重Lを増加させる。詳細には、制御部712は、モータ31の回転数を増加させることにより、コントロールケーブル4の引き操作のストロークを増加させる。これにより、ケーブル張力Tが増加するとともに、制動荷重Lが増加する(ステップS8)。
【0059】
次に、制御部712は、荷重センサ6の計測結果に基づいて、制動荷重Lを算出する。そして、制御部712は、制動荷重Lが所定の目標制動荷重TLと略等しいか否かを判断する。本実施形態では、目標制動荷重TLは、たとえば、1600(N)である(ステップS9)。
【0060】
ステップS9においてYesと判断された場合、処理を終了する。すなわち、車両が停止した状態、より好ましくは、完全に停止した状態で、制動荷重Lを目標制動荷重TLまで増加させることにより、車両を安定的に停止させることができる。
【0061】
なお、ステップS2においてNoと判断された場合、制御部712は、従来のように断続的に制動を行う(ステップS10)。また、ステップS4においてNoと判断された場合、ステップS3の処理を再度行う。また、ステップS6およびステップ7においてNoと判断された場合、各々、ステップS5の処理を再度行う。また、ステップS9においてNoと判断された場合、ステップS8の処理を再度行う。
【符号の説明】
【0062】
1 パーキングブレーキ装置
2 パーキングブレーキ
3 駆動部
31 モータ
32 減速機構
33 スクリュー
34 ナット
4 ケーブル
5 車速センサ
6 制動荷重取得部(荷重センサ)
60 シャフト
61 主ばね
62 副ばね
63 マグネット
64 ホールIC
7 制御装置
71 CPU
711 減速度取得部
712 制御部
72 記憶部
73 モータ駆動回路
8 操作スイッチ
D 減速度
TD 目標減速度
TL 目標制動荷重
L 制動荷重
V 車速