(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02M 61/14 20060101AFI20231016BHJP
F02B 19/08 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
F02M61/14 320J
F02M61/14 320A
F02M61/14 310P
F02B19/08 H
(21)【出願番号】P 2020218647
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】田頭 佑規
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮
(72)【発明者】
【氏名】金子 莉菜
(72)【発明者】
【氏名】末廣 貴一
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-071719(JP,U)
【文献】実開昭49-082114(JP,U)
【文献】特開2007-162678(JP,A)
【文献】特開2018-189043(JP,A)
【文献】実開昭54-054728(JP,U)
【文献】特開2000-248940(JP,A)
【文献】特開2020-084846(JP,A)
【文献】実開昭52-154518(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/14
F02B 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(3)と、シリンダヘッド(1)と、シリンダヘッド(1)内の渦室(2)と、シリンダ(3)内の主燃焼室(4)と、主燃焼室(4)と渦室(2)を連通させる連通口(5)と、渦室(2)に向かうシリンダヘッド(1)内の挿通孔(1a)と、挿通孔(1a)に挿通された燃料インジェクタ(7)を備えた、ディーゼルエンジンにおいて、
挿通孔(1a)からシリンダヘッド(1)外に突出するスリーブ(10)と、スリーブ(10)の突出端部(10a)に設けられた受圧面(10b)を備え、
燃料インジェクタ(7)は、径大の本体部(7c)と、径小のノズル部(7d)と、本体部(7c)とノズル部(7d)の段差部分に形成された押圧面(7e)を備え、
燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)がスリーブ(10)内から挿通孔(1a)内に亘って挿通され、燃料インジェクタ(7)が押圧力(11)で渦室(2)側に押圧され、燃料インジェクタ(7)にかかる押圧力(11)が燃料インジェクタ(7)の押圧面(7e)から座金(12)を介してスリーブ(10)の受圧面(10b)で受け止められるように構成され、
スリーブ(10)は、突出端部(10a)から突出方向に延長されたスリーブ延長カバー(28a)を備え、スリーブ延長カバー(28a)で座金(12)が外周側から覆われ、
スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)に燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)が
内嵌され、
スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)の内周面(28ad)と、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)の外周面(7cb)の間は、リングガスケット(28ac)で密封されている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載されたディーゼルエンジンにおいて、
エンジン冷却風路(1b)を備え、エンジン冷却風路(1b)内で、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)の外周面(7cb)とスリーブ(10)の外周面(10g)が露出している、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたディーゼルエンジンにおいて、
スリーブ(10)は、シリンダヘッド(1)とは別部品で構成され、シリンダヘッド(1)に取り付けられている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたディーゼルエンジンにおいて、
座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、接着剤(17)で密封されている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたディーゼルエンジンにおいて、
座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、グリス(18)で密封されている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたディーゼルエンジンにおいて、
座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、シートガスケット(19)で密封されている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載されたディーゼルエンジンにおいて、
スリーブ(10)の受圧面(10b)と座金(12)の押圧面(12a)の一方または両方に、その周方向に伸びる同心円形または渦巻き形の溝(20)が形成されている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載されたディーゼルエンジンにおいて、
渦室(2)に臨むノズル部(7d)の先端面(7db)に燃料噴射孔(9)を備え、
ノズル部(7d)の先端面(7db)の一部または全部が渦室(2)内に突出している、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに関し、詳しくは、精密な燃料噴射を行うことができるディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンとして、渦室式燃焼室と、渦室に向かうシリンダヘッド内の挿通孔と、挿通孔に挿通された燃料インジェクタを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-67065号公報(
図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題点》 精密な燃料噴射を行うことができないことがある。
特許文献1のエンジンでは、燃料インジェクタの本体部がシリンダヘッド内に配置されている場合、シリンダヘッドの熱で燃料インジェクタ本体部が過熱し、精密な燃料噴射ができないことがある。
【0005】
本発明の課題は、精密な燃料噴射を行うことができるディーゼルエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の主要な構成は、次の通りである。
図1(A)に例示するように、シリンダ(3)と、シリンダヘッド(1)と、シリンダヘッド(1)内の渦室(2)と、シリンダ(3)内の主燃焼室(4)と、主燃焼室(4)と渦室(2)を連通させる連通口(5)と、渦室(2)に向かうシリンダヘッド(1)内の挿通孔(1a)と、挿通孔(1a)に挿通された燃料インジェクタ(7)を備えた、ディーゼルエンジンにおいて、
図1(A)に例示するように、挿通孔(1a)からシリンダヘッド(1)外に突出するスリーブ(10)と、スリーブ(10)の突出端部(10a)に設けられた受圧面(10b)を備え、
燃料インジェクタ(7)は、径大の本体部(7c)と、径小のノズル部(7d)と、本体部(7c)とノズル部(7d)の段差部分に形成された押圧面(7e)を備え、
燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)がスリーブ(10)内から挿通孔(1a)内に亘って挿通され、燃料インジェクタ(7)が押圧力(11)で渦室(2)側に押圧され、燃料インジェクタ(7)にかかる押圧力(11)が燃料インジェクタ(7)の押圧面(7e)から座金(12)を介してスリーブ(10)の受圧面(10b)で受け止められるように構成され、
図1(A)に例示するように、スリーブ(10)は、突出端部(10a)から突出方向に延長されたスリーブ延長カバー(28a)を備え、スリーブ延長カバー(28a)で座金(12)が外周側から覆われ、
スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)に燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)が
内嵌され、
図1(A)等に例示するように、スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)の内周面(28ad)と、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)の外周面(7cb)の間は、リングガスケット(28ac)で密封されている、ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、次の効果を奏する。
《効果1》 精密な燃料噴射を行うことができる。
図1(A)に例示するように、このエンジンでは、スリーブ(10)により、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)がシリンダヘッド(1)から遠ざけられるため、シリンダヘッド(1)の熱で燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)が過熱し難く、精密な燃料噴射を行うことができる。
《効果2》 座金(12)の外周側からスリーブ(10)内への防水や防塵を図ることができる。
図1(A)に例示するように、このエンジンでは、スリーブ延長カバー(28a)で座金(12)が外周側から覆われるため、座金(12)の外周側からスリーブ(10)内への防水や防塵を図ることができる。
《効果3》 スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)からスリーブ延長カバー(28a)内への防水や防塵を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンに用いるエンジン各部の基本例に関する図で、
図1(A)は渦室とその周辺部分の立断面図、
図1(B)は
図1(A)のB方向矢視拡大図、
図1(C)は
図1(A)のC方向矢視拡大図、
図1(D)は
図1(A)のD方向矢視拡大図である。
【
図2】
図1のエンジンに用いるスリーブに関する図で、
図2(A)は基本例、
図2(B)は変形例1を示している。
【
図3】
図1のエンジンで用いるスリーブの受圧面の密封構造に関する図で、
図3(A)は基本例、
図3(B)は変形例2-1、
図3(C)は変形例2-2、
図3(D)は変形例2-3を示している。
【
図4】
図1のエンジンに用いるスリーブの受圧面等の構造に関する図で、
図4(A)は基本例、
図4(B)は変形例3-1、
図4(C)は変形例3-2を示している。
【0009】
【
図5】
図1のエンジンに用いるスリーブの受圧面の密封構造に関する図で、
図5(A)は変形例4-1、
図5(B)は変形例4-2、
図5(C)は変形例4-3、
図5(D)は変形例4-4を示している。
【
図6】
図1のエンジンに用いるスリーブの内周側の密封構造に関する図で、
図6(A)は基本例、
図6(B)は変形例5-1、
図6(C)は変形例5-2、
図6(D)は変形例5-3を示している。
【
図7】
図1のエンジンに用いるスリーブの内周側の密封構造に関する図で、
図7(A)は変形例5-4、
図7(B)は変形例5-5を示している。
【
図8】
図1のエンジンに用いるスリーブの内周側の密封構造に関する図で、
図8(A)は変形例6-1、
図8(B)は変形例6-2を示している。
【
図9】
図1のエンジンに用いる座金外周の防水防塵構造に関する図で、
図9(A)は基本例、
図9(B)は変形例7を示している。
【
図10】
図1のエンジンに用いるエンジン各部の基本例や変形例の組み合わせ例に関する図で、
図10(A)は基本例、
図10(B)は変形例8を示している。
【0010】
【
図11】
図1のエンジンに用いる燃料インジェクタの燃料噴射孔に関する基本例を説明する図で、
図11(A)は
図1(B)のXIA-XIA線断面図、
図11(B)は
図1(B)相当図、
図11(C)は
図1(C)相当図である。
【
図13】燃料インジェクタの燃料噴射孔の第1比較例に関する
図11(A)相当図である。
【
図14】燃料インジェクタの燃料噴射孔の第2比較例に関する
図11(A)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~12は本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンを説明する図で、
図1は実施形態のエンジンに用いるエンジン各部に関する基本例、
図2~12は実施形態で用いるスリーブや封止構造等に関する基本例と変形例である。
また、
図13~15は、本発明の実施形態に用いる燃料噴射孔に関する基本例や変形例に対する比較例の図である。
【0012】
図1に示す本発明の実施形態では、立形直列多気筒の電子燃料噴射式ディーゼルエンジンが用いられている。
図1(A)に示すように、このエンジンは、シリンダ(3)と、シリンダ(3)の上部に組み付けられたシリンダヘッド(1)と、シリンダ(3)に内嵌されたピストン(14)を備えている。
【0013】
図1(A)に示すように、このエンジンは、シリンダヘッド(1)内の渦室(2)と、シリンダ(3)内の主燃焼室(4)と、主燃焼室(4)と渦室(2)を連通させる連通口(5)と、渦室(2)に向かうシリンダヘッド(1)内の挿通孔(1a)と、挿通孔(1a)に挿通された燃料インジェクタ(7)を備えている。
【0014】
このエンジンは、4サイクルエンジンで、このエンジンでは、圧縮行程の上死点付近で主燃焼室(4)から連通口(5)を介して渦室(2)に圧縮空気が押し込まれ、渦室(2)で発生した圧縮空気の旋回流(2a)に燃料インジェクタ(7)から
図11(A)に示す噴射燃料(13)が噴射され、渦室(2)での燃焼で発生した燃焼ガスが
図1(A)に示す連通口(5)から主燃焼室(4)に噴出し、燃焼ガス中に含まれる未燃燃料が主燃焼室(4)内の空気と混合されて燃焼する。
【0015】
図1(A)に示すように、ピストン(14)にはピストンリング(14a)が外嵌され、シリンダ中心軸線(3a)側を前側、シリンダ周壁(3b)側を後側として、ピストン(14)の上面に、前側に近づくにつれて次第に浅くなるガス案内溝(14b)を備えている。
渦室(2)は、球形で、シリンダヘッド(1)内に形成されている。
図1(A)中の符号(2b)は渦室(2)の中心である。
連通口(5)は、シリンダヘッド(1)に内嵌された口金(15)に形成され、主燃焼室(4)から後斜め上向きで渦室(2)に向けられている。連通口(5)の主燃焼室(4)側の開口(5d)はガス案内溝(14b)の後端部(14c)の真上に配置されている。
主燃焼室(4)は、シリンダ(3)内でシリンダヘッド(1)とピストン(14)で上下から挟まれた空間で形成されている。
シリンダ(3)とシリンダヘッド(1)及び口金(15)の間にはヘッドガスケット(16)が挟み付けられている。
【0016】
図1(A)に示すように、このエンジンは、挿通孔(1a)からシリンダヘッド(1)外に突出するスリーブ(10)と、スリーブ(10)の突出端部(10a)に設けられた受圧面(10b)を備えている。
図1(A)に示すように、燃料インジェクタ(7)は、径大の本体部(7c)と、径小のノズル部(7d)と、本体部(7c)とノズル部(7d)の段差部分に形成された押圧面(7e)を備えている。
このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)がスリーブ(10)内から挿通孔(1a)内に亘って挿通され、燃料インジェクタ(7)が押圧力(11)で渦室(2)側に押圧され、燃料インジェクタ(7)にかかる押圧力(11)が燃料インジェクタ(7)の押圧面(7e)から座金(12)を介してスリーブ(10)の受圧面(10b)で受け止められるように構成されている。
図1(A)に示すように、スリーブ(10)は、突出端部(10a)から突出方向に延長されたスリーブ延長カバー(28a)を備え、スリーブ延長カバー(28a)で座金(12)が外周側から覆われている。
スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)に燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)が内嵌されている。
【0017】
図1(A)に示すように、このエンジンでは、スリーブ(10)により、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)がシリンダヘッド(1)から遠ざけられるため、シリンダヘッド(1)の熱で燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)が過熱し難く、精密な燃料噴射を行うことができる。
また、このエンジンでは、スリーブ延長カバー(28a)で座金(12)が外周側から覆われるため、座金(12)の外周側からスリーブ(10)内への防水や防塵を図ることができる。
なお、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)にかかる押圧力(11)は、圧縮したバネ板(図外)の弾性復元力を燃料インジェクタ(7)が受けることにより生じる。
【0018】
図1(A)に示すように、スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)の内周面(28ad)と、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)の外周面(7cb)の間は、リングガスケット(28ac)で密封されている。
このため、このエンジンでは、スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)からスリーブ延長カバー(28a)内への防水や防塵を図ることができる。
なお、
図1(A)に示すように、ノズル部(7d)にはガスシール(7f)が外嵌され、このガスシール(7f)により挿通孔(1a)の内周面とノズル部(7d)の外周面との間が密封され、渦室(2)で発生した燃焼ガスが挿通孔(1a)を経て外側に漏れないようにしている。
【0019】
燃料インジェクタ(7)は電子燃料噴射式である。
電子燃料噴射式の燃料インジェクタ(7)は、エンジンECUで電子制御され、所定のタイミングで所定量の噴射燃料(13)が噴射される。
ECUは、電子制御ユニットの略称である。
このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)内の電子部品が過熱し難く、精密な電子燃料噴射制御を行うことができる。
【0020】
図1(A)に示すように、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)に弁体(7da)が収容され、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)内に弁体(7da)の動弁駆動装置(7ca)の電子部品が収容されている。
このため、このエンジンでは、シリンダヘッド(1)の熱で本体部(7c)内の動弁駆動装置(7ca)の電子部品が過熱し難く、精密な電子燃料噴射制御を行うことができる。
動弁駆動装置(7ca)の電子部品には、電子ソレノイドの電磁コイルや、ピエゾ素子等がある。
【0021】
図1(A)に示すように、このエンジンは、エンジン冷却風路(1b)を備え、エンジン冷却風路(1b)内で、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)の外周面(7cb)とスリーブ(10)の外周面(10g)が露出している。
このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)とスリーブ(10)の熱がエンジン冷却風路(1b)を通過する冷却風に放熱され、シリンダヘッド(1)の熱で燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)が過熱し難く、精密な電子燃料噴射制御を行うことができる。
エンジン冷却風路(1b)には、エンジン運転中、エンジン冷却ファン(図示せず)で起こされたエンジン冷却風が通過している。
【0022】
図1(A)のエンジンでは、
図2(A)に示すスリーブ(10)の基本例が用いられ、この基本例のスリーブ(10)は、シリンダヘッド(1)とは別部品で構成され、シリンダヘッド(1)に取り付けられている。
このため、このエンジンでは、シリンダヘッド(1)からスリーブ(10)への熱伝達が、スリーブ(10)の取り付け箇所で邪魔され、シリンダヘッド(1)の熱でインジェクタ(7)の本体部(7c)内の電子部品が過熱され難く、精密な電子燃料噴射制御を行うことができる。
また、この基本例のスリーブ(10)を用いると、後述する
図2(B)に示す変形例1のスリーブ(10)、すなわち、シリンダヘッド(1)と一体型のスリーブ(10)を用いる場合と比べ、シリンダヘッド(1)の形状が簡素になり、シリンダヘッド(1)の製造が容易になる。
【0023】
図1(A)のエンジンでは、シリンダヘッド(1)は、挿通孔(1a)の外側開口部に設けられた嵌入孔(1c)を備え、嵌入孔(1c)にスリーブ(10)の基端部(10c)が内嵌されている。
スリーブ(10)の基端部(10c)は、嵌入孔(1c)に圧入で固定されている。
スリーブ(10)の基端部(10c)は、嵌入孔(1c)に、圧入、接着、溶接、圧入と接着、圧入と溶接のいずれかの手段で固定すればよい。接着には接着剤を用いる。
このエンジンでは、シリンダヘッド(1)の素材は鋳鉄、スリーブ(10)の素材は鋼を用いることができる。シリンダヘッド(1)はアルミダイカストとし、スリーブ(10)の素材にアルミその他の金属を用いてもよい。スリーブ(10)には耐熱性樹脂を用いてもよい。シリンダヘッド(1)の素材とスリーブ(10)の素材は、同じであっても、相違してもよい。
【0024】
図2(B)に示す変形例1のように、スリーブ(10)は、シリンダヘッド(1)と一体成型品であってもよい。
この
図2(B)に示す変形例1のスリーブ(10)を用いた場合、
図2(A)に示す基本例のスリーブ(10)、すなわちシリンダヘッド(1)と別部品のスリーブ(10)を用いた場合に比べ、部品点数を削減できる利点がある。
図2(B)の変形例2の他の構成や機能は、特に矛盾のない限り、
図2(A)の基本例と同じである。
図2(B)中、
図2(A)と同一の要素には、
図2(A)と同一の符号を付してある。
【0025】
図1(A)に示すエンジンでは、スリーブ(10)の受圧面(10b)の密封構造は、
図3(A)に示す基本例が用いられている。
図3(A)に示すように、この基本例では、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、押圧力(11)による圧接のみで密封されている。
【0026】
スリーブ(10)の受圧面(10b)の密封構造は、
図3(B)に示す変形例2-1のように、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、接着剤(17)で密封されているものであってもよい。
この変形例2-1を用いると、圧接による密封が接着剤(17)で強化され、密封性が高まる。
この場合、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間から、水や塵埃がスリーブ(10)内に進入し難くなる。スリーブ(10)内に進入した水や塵埃は、燃料インジェクタ(7)に進入し、その故障の原因となる。また、エンジンの焼き付け塗装前にスリーブ(10)内に進入した水は、焼き付け塗装時の熱で気化し、塗膜を内側から膨らませ、剥がれの原因となる。
【0027】
スリーブ(10)の受圧面(10b)の密封構造は、
図3(C)に示す変形例2-2のように、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、グリス(18)で密封されているものであってもよい。
この変形例2-2によれば、圧接による密封がグリス(18)で強化され、密封性が高まる。
【0028】
スリーブ(10)の受圧面(10b)の密封構造は、
図3(C)に示す変形例2-3のように、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)との間が、シートガスケット(19)で密封されているものであってもよい。
この変形例2-3を用いると、圧接による密封がシートガスケット(19)で強化され、密封性が高まる。
シートガスケット(19)には、金属、樹脂、ゴム等の素材を用いることができる。
【0029】
図1(A)のエンジンでは、座金(12)の押圧面(12a)やスリーブ(10)の受圧面(10b)には、
図4(A)に示す基本例が用いられている。
図4(A)に示す基本例では、スリーブ(10)の受圧面(10b)や座金(12)の押圧面(12a)は、いずれも平坦面のみで構成されている。
【0030】
座金(12)の押圧面(12a)やスリーブ(10)の受圧面(10b)は、
図4(B),4(C)に示す変形例3-1や変形3-2のように、スリーブ(10)の受圧面(10b)と座金(12)の押圧面(12a)の両方または一方に、その周方向に伸びる同心円形または渦巻き形の溝(20)が形成されているものであってもよい。
図4(B)に示す変形例3-1では、同心円形の溝(20)が形成され、
図4(B)に示す変形例3-2では、渦巻形の溝(20)が形成されている。
この変形例3-1や変形例3-2を用いると、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)の圧接面積が溝(20)で減る分だけ、接圧が高まり、密封性が高まる。
また、溝(20)に水や塵埃が進入しても、これらは溝(20)に沿って周方向に移動するため、スリーブ(10)内には進入し難い。
【0031】
スリーブ(10)の受圧面(10b)の密封構造は、
図5(A)~(C)に示す変形例4-1~4-3のように、スリーブ(10)の受圧面(10b)に凹設したリング溝(21)に内嵌されたリングガスケット(22)を用いたものであってもよい。
リングガスケット(22)は、
図5(A)に示す変形例4-1ではOリング(22a)が、
図5(B)に示す変形例4-2では断面がX字状のXリング(22b)が、
図5(C)に示す変形例4-3では断面が三角形の三角リング(22c)がそれぞれ用いられている。
変形例4-1~4-3のリングガスケット(22)を用いると、リング溝(21)内で位置ずれし難いリングガスケット(22)の弾性復元力で、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)の間の密封を確実に行うことができる。
リングガスケット(22)は、ゴムを素材としている。
【0032】
スリーブ(10)の受圧面(10b)の密封構造は、
図5(D)に示す変形例4-4のように、弾性端部(10ab)を用いたものであってもよい。
変形例4-4では、スリーブ(10)は、基端部(10c)側の本体部(10ca)と、
突出端部(10a)の一部を構成する弾性端部(10ab)を備え、弾性端部(10ab)と本体部(10ca)を密嵌させ、弾性端部(10ab)は本体部(10ca)及び座金(12)よりも弾性係数の小さい(すなわち弾性変形しやすい)素材で形成され、弾性端部(10ab)に前記スリーブ(10)の受圧面(10b)が形成されている。
【0033】
この変形例4-4の弾性端部(10ab)を用いると、本体部(10ca)に密嵌で位置ずれなく支持された弾性端部(10ab)の弾性復元力で、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)の間の密封を確実に行うことができる。
この場合、弾性端部(10ab)がガスケットの機能を果たすため、スリーブ(10)の受圧面(10b)を密封する専用のガスケットは不要になる。
なお、
図3(B)、3(C)の変形例2-1,2-2のように、座金(12)の押圧面(12a)とスリーブ(10)の受圧面(10b)の間は接着剤(17)やグリス(18)で密封してもよい。
本体部(10ca)及び座金(12)の素材を鋼とした場合、弾性端部(10ab)には、鋼よりも弾性係数の小さい銅、アルミ、ゴム、樹脂等を素材とすればよい。
【0034】
変形例4-4では、弾性端部(10ab)と本体部(10ca)は、入れ子式のインロー構造で密嵌されている。
すなわち、スリーブ(10)の本体部(10ca)は弾性端部(10ab)側の開口周縁に内面が断面L字形の嵌合溝(10cb)を備え、弾性端部(10ab)は、嵌合溝(10cb)と密嵌される筒部(10ac)と、弾性端部(10ab)側の本体部(10ca)の開口端面(10cc)に沿って筒部(10ac)から径方向に張り出されたフランジ部(10ad)を備え、フランジ部(10ad)の開口端面(10ae)がスリーブ(10)の前記受圧面(10b)とされている。
【0035】
図1(A)のエンジンのスリーブ(10)の内周側は、
図6(A)の基本例のようにガスケットがなく、密封機能がないが、スリーブ(10)の内周側に密封機能を持たせるため、
図6(B)~(D),
図7(A)に示す変形例5-1~5-4のように、スリーブ(10)の内周面(10d)に凹設されたリング溝(23)に内嵌されたリングガスケット(24)による密封構造を用いてもよい。
リングガスケット(24)は、
図6(B)に示す変形例5-1ではOリング(24a)が、
図6(C)に示す変形例5-2では断面がX字状のXリング(24b)が、
図6(D)に示す変形例5-3では断面が三角形の三角リング(24c)が、
図7(A)に示す変形例5-4ではシールリップリング(24d)がそれぞれ用いられている。シールリップリング(24d)は、内周にシールリップ(24da)を備えている。
シールリップリング(24d)は、リング溝(23)に圧入されている。リングガスケット(24)は、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)に圧接されている。
【0036】
この変形例5-1~5-4のリングガスケット(22)を用いると、リング溝(21)内で位置ずれし難いリングガスケット(22)の弾性復元力で、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)との間の密封を確実に行うことができる。
【0037】
スリーブ(10)の内周側の密封構造は、
図7(B)に示す変形例5-5のように、スリーブ(10)の内周面(10d)に焼き付けで固定されたリングガスケット(24)を用いたものであってもよい。
図7(B)に示す変形例5-5では、断面が三角形の三角リング(24c)が用いられている。
この三角リング(24c)は、スリーブ(10)の内周面(10d)の軸長方向に複数配置されている。
三角リング(24c)は、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)に圧接している。
【0038】
この変形例5-5のリングガスケット(24)を用いると、焼き付けで位置ずれしないリングガスケット(22)の弾性復元力で、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)との間の密封を確実に行うことができる。
【0039】
スリーブ(10)の内周側の密封構造は、
図8(A)に示す変形例6-1のように、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)との間に埋め込まれた埋め込みシール(25)を用いたものであってもよい。
埋め込みシール(25)は、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)に密着している。
埋め込みシール(25)の素材には、ゴムやアクリル等の樹脂を用いることができる。
【0040】
この変形例6-1の埋め込みシール(25)を用いると、埋め込みで位置ずれしない埋め込みシール(25)で、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)との間の密封を確実に行うことができる。
【0041】
スリーブ(10)の内周側の密封構造は、
図8(B)に示す変形例6-2のように、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)との間に充填された充填シール剤(26)を用いたものであってもよい。
充填シール剤(26)は、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)の隙間に充満させる。
充填シール剤(26)の素材には、グリスや樹脂を用いることができる。
スリーブ(10)の周壁は充填シール剤(26)を注入する注入孔(10e)を備えている。
注入孔(10e)は、充填シール剤(26)を注入した後、プラグ(10f)で塞ぐ。
【0042】
この変形例6-2の充填シール剤(26)を用いると、充満した充填シール剤(26)で、スリーブ(10)の内周面(10d)と燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の外周面(7de)との間の密封を確実に行うことができる。
【0043】
図1(A)のエンジンでは、座金(12)の外周側は、
図9(A)の基本例のように、スリーブ延長カバー(28a)のみで防水防塵が図られているが、
図9(B)の変形例7のように、燃料インジェクタ(7)に取り付けられた取り付けカバー(28b)を追加してもよい。
取り付けカバー(28b)は、燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)に係止されている。
【0044】
このエンジンでは、取り付けカバー(28b)により、スリーブ延長カバー(28a)の延長端部(28aa)の内周面(28ad)と燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)の外周面(7cb)の密封箇所からスリーブ延長カバー(28a)内への防水や防塵を図ることができる。
【0045】
図2~
図9に示す基本例や変形例は、相互に自由に組み合わせることができる。
図10(A)は
図2~
図9に示す基本例同士を組み合わせた組み合わせの基本例である。
図10(B)は、
図3(D)の変形例2-1の接着剤(17)と
図5(D)の変形例4-4の弾性端部(10ab)を組み合わせた組み合わせの変形例8である。変形例8には、
図4(B)(C)のスリーブの受圧面等の構造、
図6(B)~(D),
図7(A)(B)のスリーブの内周側の密封構造を組み合わせてもよい。
【0046】
次に、燃料インジェクタ(7)の先端配置について説明する。
図1(B)に示すように、燃料インジェクタ(7)は、渦室(2)に臨むノズル部(7d)の先端面(7db)に燃料噴射孔(9)を備えている。
図1(A)に示すように、このエンジンでは、ノズル部(7d)の先端面(7db)の一部が渦室(2)内に突出している。
このエンジンでは、ノズル部(7d)の先端面(7db)の全部が渦室(2)内に突出していてもよい。
【0047】
このエンジンでは、
図1(A)に示すように、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の先端面(7db)の一部または全部が渦室(2)内に突出しているため、
図11(A),12(A)に示す燃料噴射孔(9)の出口付近の燃焼火炎が
図1(A)に示す旋回流(2a)で吹き流され易く、燃焼火炎の熱で燃料インジェクタ(7)の本体部(7c)内の動弁駆動装置(7ca)の電子部品が過熱され難く、精密な電子燃料噴射制御を行うことができる。
【0048】
次に、燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)について説明する。
図11は燃料噴射孔(9)の基本例、
図12は変形例9に関するものである。
図11(A),12(A)に示すように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状とされている。
【0049】
このエンジンでは、
図11(A),12(A)に示すように、燃料噴射孔(9)は先拡がりテーパ形状であるため、燃料噴射孔(9)の出口で煤が堆積しても、燃料噴射が邪魔され難く、燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積に拘わらず、精密な燃料噴射制御が行える。
【0050】
また、このエンジンでは、
図1(A)に示すように、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の先端面(7db)の一部または全部が渦室(2)内に突出しているため、
図11(A),12(A)に示す燃料噴射孔(9)の出口付近の燃焼ガスが
図1(A)に示す旋回流(2a)で吹き流され易く、燃焼ガス中の煤が燃料噴射孔(9)の出口で成長し難い。
【0051】
図1(A)(B)に示すように、燃料インジェクタ(7)のノズル部(7d)の先端面(7db)には、燃料噴射孔(9)の周囲に平坦な渦流ガイド面(7dc)を備えている。
図1(A)に示すように、渦流ガイド面(7dc)の全部が、渦室(2)内に突出している。
このエンジンでは、渦流ガイド面(7dc)の一部が、渦室(2)内に突出していてもよい。
【0052】
図1(A)に示すように、このエンジンでは、渦流ガイド面(7dc)の少なくとも一部が、渦室(2)内に突出しているため、渦室(2)内を旋回する旋回流(2a)が渦流ガイド面(7dc)で案内され、旋回流(2a)が渦室(2)内をスムーズに旋回し、圧縮空気と噴射燃料(13)の混合が良好になり、渦室(2)内で煤が発生し難い。
燃料噴射孔(9)は、ノズル部(7d)の先端面(7db)の中央にある突球面状の最先端面(7dd)に形成されている。
【0053】
図1(B),11(B),12(B)に示すように、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)1本につき複数個の燃料噴射孔(9)を備えている。
このため、11(B),12(B)に示す噴射燃料(13)が渦室(2)内に広く分散し、圧縮空気と噴射燃料(13)の混合が良好になり、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0054】
図1(B),11(B),12(B)に示すように、燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき6個設けられている。
このエンジンでは、燃料噴射孔(9)は、燃料インジェクタ(7)1本につき2~6個設けるのが望ましい。
【0055】
図1(B)、11(A)、11(B)に示す燃料噴射孔(9)の基本例では、1本の燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積をA平方mmとし、1気筒分の排気量をC立方mmとして、前者の値Aを後者の値Cで除したA/Cの値が0.75×10
-6となるようにした。具体的には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積Aを0.224平方mm、1気筒分の排気量Cを299000立方mmとした。
図12に示す燃料噴射孔(9)の変形例9でも同様にした。
このエンジンでは、A/Cの値が0.5×10
-6~1.0×10
-6となるようにするのが望ましい。
【0056】
A/Cの値が0.5×10-6未満の場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aが不足し、必要な出力が得られないことがある。A/Cの値が1.0×10-6を越える場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aが過大になり、燃料噴射速度が遅く、渦室(2)内で噴射燃料(13)の油滴が微細化せず、圧縮空気と噴射燃料の混合が不良になり、渦室(2)内で煤が発生し易くなる。
これに対し、A/Cの値が0.5×10-6~1.0×10-6の場合には、必要な出力が得られると共に、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0057】
図11(A)に示す燃料噴射孔(9)の基本例では、1本の燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の出口開口(9b)6個の総開口面積をB平方mmとし、1本の燃料インジェクタ(7)の燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積をA平方mmとして、前者の値Bを後者の値Aで除したB/Aの値が1.26(注)参照となるようにした。具体的には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)6個の総開口面積Aを上記のように、0.224平方mm、燃料噴射孔(9)の出口開口(9b)6個の総開口面積Bを0.282平方mmとした。
図12(A)に示す燃料噴射孔(9)の変形例9では、B/Aの値は1.26よりも若干大きくなる。
このエンジンでは、B/Aの値が1.08~1.44となるようにするのが望ましい。
【0058】
B/Aの値が1.08未満の場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aに対して出口開口(9b)の総開口面積Bが小さ過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で堆積した少量の煤で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
B/Aの値が1.44を超える場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)の総開口面積Aに対して出口開口(9b)の総開口面積Bが大き過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で煤の堆積物の成長速度が速く、多量の煤の堆積物で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
これに対し、B/Aの値が1.08~1.44である場合には、少量の煤の堆積物では燃料噴射が邪魔されないうえ、燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度が遅く、燃料噴射制御の精度が低下し難い。
【0059】
B/Aの値が1.44を超える場合に、燃料噴射孔(9)の出口で煤の堆積物の成長速度が速くなるのに対し、1.44以下でその成長速度が遅くなる理由は、次のように推定される。すなわち、前者では燃料噴射孔(9)の出口で噴射燃料(13)の周囲に形成される隙間(9h)が過大になり、この隙間(9h)に煤を含む燃焼ガスが多量に流入し、煤の堆積物が急速に成長するのに対し、後者では燃料噴射孔(9)の出口で噴射燃料(13)の周囲に形成される隙間(9h)が適度な大きさになり、煤の堆積物の成長速度と噴射燃料(13)による煤の堆積物の除去速度が拮抗し、燃料噴射孔(9)の出口で成長した煤の堆積物が直ぐに噴射燃料で除去されるためと推定される。
【0060】
図2(C)に示すように、このエンジンでは、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)が連通口(5)を通過し、
図11(B)に示すように、複数個(6個)の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
図11(C)に示すように、複数個(6個)の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の全本数(6本)が連通口(5)を通過するようにしている。
このエンジンでは、渦室側延長線(9d)の全本数(6本)の一部のみが連通口(5)を通過するようにしてもよい。
このエンジンでは、多くの噴射燃料(13)が連通口(5)を介して主燃焼室(4)に噴射されるため、渦室(2)での過剰な燃焼が防止され、渦室(2)で煤が発生し難い。
複数個(6個)の燃料噴射孔(9)は、インジェクタ中心軸線(7a)の周囲で、インジェクタ先端面(8)の最先端突出面(8a)の周方向に一定間隔を保持して配置されている。
【0061】
図12に示す変形例9の燃料噴射孔(9)では、
図12(C)に示すように、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)は連通口(5)を通過し、
図12(B)に示すように、各燃料インジェクタ(7)の複数個(6個)の燃料噴射孔(9)は、各インジェクタ中心軸線(7a)の周囲に配置され、
図12(C)に示すように、各燃料インジェクタ(7)の複数個(6個)の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の一部本数(5本)が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにしている。残り本数(1本)は、連通口(5)を貫通している。
このエンジンでは、全本数(6本)が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たるようにしてもよい。
このエンジンでは、多くの噴射燃料(13)が連通口(5)を介して主燃焼室(4)に噴射されるため、渦室(2)での過剰な燃焼が防止され、渦室(2)で煤が発生し難い。
【0062】
図12(C)に示すように、変形例9の燃料噴射孔(9)では、インジェクタ中心軸線(7a)の渦室側延長線(7b)と平行な向きに見て、相互に直交する前後方向と横方向の各寸法とをそれぞれ1.5倍ずつ拡大した渦室側開口(5a)と相似形の相似形仮想線(5c)を想定し、この相似形仮想線(5c)と渦室側開口(5a)との間の渦室内周面が、燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)が突き当たる渦室側開口(5a)の周縁部(5b)とされている。
図12に示す燃料噴射孔(9)の変形例9では、
図11に示す燃料噴射孔(9)の基本例と同一の要素には、
図11と同一の符号を付しておく。
図12に示す燃料噴射孔(9)の変形例の要素は、特記しない限り、
図11に示す燃料噴射孔(9)の基本例の要素と同一の構造と機能を備える。
【0063】
渦室(2)での煤の発生状況を調べたところ、複数個(6個)の燃料噴射孔(9)の噴射孔中心軸線(9c)の渦室側延長線(9d)の全本数(6本)が連通口(5)を通過する
図11の基本例や、一部本数(5本)が連通口(5)の渦室側開口(5a)の周縁部(5b)に突き当たる
図12の変形例9では、全本数(6本)が渦室側開口(105a)の周縁部(105b)の外側に突き当たる
図15(C)の第3比較例に比べ、渦室(2)での煤の発生量が少なかった。
図15に示す第3比較例では、
図11に示す基本例や
図12に示す変形例と同一の要素には、
図11,12の符号に100を加算した符号を付しておく。
図13に示す第1比較例や
図14に示す第2比較例でも、同様にしておく。
【0064】
図11(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)(またはその渦室側延長線(9d))の拡開角度(α)は、4°とされている。
図12(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例9では、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)(またはその渦室側延長線(9d))の拡開角度(α)は、7°とされている。
このエンジンでは、インジェクタ中心軸線(7a)に対する各噴射孔中心軸線(9c)(またはその渦室側延長線(9d))の拡開角度(α)は、4°~7°とするのが望ましい。
【0065】
拡開角度(α)が4°未満である場合には、複数の噴射燃料(13)の一部同士が重なり合い易く、渦室(2)内で煤が発生し易くなる。
拡開角度(α)が7°を越える場合には、噴射燃料(13)の多くが連通口(5)を通過せずに渦室(2)の内面に衝突し、渦室(2)内での過剰な燃焼で煤が発生し易い。
これに対し、拡開角度(α)が4°~7°である場合には、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0066】
渦室(2)内での煤の発生状況を調べたところ、拡開角度(α)が4°の基本例(
図11)や7°の変形例9(
図12)では、0°の第1比較例(
図13)や1°の第2比較例(
図14)や10°の第3比較例(
図15)に比べ、渦室(2)内での煤の発生が少なかった。
【0067】
図11(A)に示す基本例の燃料噴射孔(9)では、各燃料噴射孔(9)のテーパ角度(β)は、12°とされている。
図12(A)に示す燃料噴射孔(9)の変形例9では、各燃料噴射孔(9)のテーパ角度(β)は、18°とされている。
このエンジンでは、テーパ角度(β)は、12°~18°とするのが望ましい。
【0068】
テーパ角度(β)が12°未満の場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)に対して出口開口(9b)が小さ過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で堆積した少量の煤で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
テーパ角度(β)が18°を超える場合には、燃料噴射孔(9)の入口開口(9a)に対して出口開口(9b)が大き過ぎ、燃料噴射孔(9)の出口で煤の堆積物の成長速度が速く、多量の煤の堆積物で燃料噴射が邪魔され、燃料噴射制御の精度が低下するおそれがある。
これに対し、テーパ角度(β)が12°~18°の場合には、少量の煤の堆積物では燃料噴射が邪魔されないうえ、燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度が遅く、燃料噴射制御の精度が低下し難い。
【0069】
燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度を調べたところ、テーパ角度(β)が12°の基本例(
図11)や18°の変形例9(
図12)では、0°の第1比較例(
図13)や6°の第2比較例(
図14)や24°の第3比較例(
図15)に比べ、燃料噴射孔(9)の出口での煤の堆積物の成長速度が遅かった。
【0070】
図15の第3比較例のように、テーパ角度(β)が18°を超える場合に、燃料噴射孔(109)の出口で煤の堆積物の成長速度が速くなるのに対し、
図11の基本例や
図12の変形例9のように、テーパ角度(β)が18°以下では、その成長速度が遅くなる理由は、次のように推定される。すなわち、前者では燃料噴射孔(109)の出口で噴射燃料(113)の周囲に比較的大きな隙間(109h)が形成され、この大きな隙間(109h)に煤を含む燃焼ガスが多量に流入し、煤の堆積物が急速に成長するのに対し、後者では燃料噴射孔(9)の出口で噴射燃料(13)の周囲の隙間(9h)が適度な大きさになり、煤の堆積物の成長速度と噴射燃料(13)による煤の堆積物の除去速度が拮抗し、燃料噴射孔(9)の出口で成長した煤の堆積物が直ぐに噴射燃料で除去されるためと推定される。
【0071】
図11(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、1°とされている。
図12(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の変形例9では、インジェクタ中心軸線(7a)と、インジェクタ中心軸線(7a)に沿う各噴射孔内周面(9g)との挟角(γ)は、3°とされている。
このエンジンでは、挟角(γ)は、1°~3°とするのが望ましい。
【0072】
挟角(γ)が1°未満である場合には、複数の噴射燃料(13)の一部同士が重なり合い易く、渦室(2)内で煤が発生し易くなる。拡開角度(α)が3°を越える場合には、噴射燃料(13)の多くが連通口(5)を通過せずに渦室(2)の内面に衝突し、渦室(2)内での過剰な燃焼で煤が発生し易い。
これに対し、挟角(γ)が1°~3°である場合には、渦室(2)内で煤が発生し難い。
【0073】
渦室(2)内での煤の発生状況を調べたところ、挟角(γ)が1°の基本例(
図11)や3°の変形例9(
図12)では、0°の第1比較例(
図13)や4°の比較例(図示せず)に比べ渦室(2)内での煤の発生量が少なかった。
【0074】
図11(A)に示すように、燃料噴射孔(9)の基本例では、燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を備えている。
図12(A)に示す燃料噴射孔(9)の変形例9でも、燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を備えている。
【0075】
このエンジンでは、燃料噴射孔(9)の入口開口縁(9e)は、面取り仕上げされていない先鋭なピン角(9f)を残すことにより、面取り仕上げが不要になり、燃料インジェクタ(7)の製作が容易になる。
また、このエンジンでは、燃料インジェクタ(7)は渦室(2)に燃料を噴射するため、直噴式のものに比べ、燃料噴射圧が低くて済み、燃料の噴射圧によるピン角(9f)の摩耗が起こり難く、これに起因する燃料噴射精度の低下は起こり難い。
【0076】
上記ピン角(9f)はRが0.1mm以下の先鋭形状の開口縁である。
【符号の説明】
【0077】
(1)…シリンダヘッド、(1a)…挿通孔、(1b)…エンジン冷却風路、(2)…渦室、(3)…シリンダ、(4)…主燃焼室、(5)…連通口、(6)…挿通孔、 (7)…燃料インジェクタ、(7c)…本体部、(7cb)…外周面、(7d)…ノズル部、(7db)…先端面、(7dc)…渦流ガイド面、(10)…スリーブ、(10a)…突出端部、(10b)…受圧面、(11)…押圧力、(12)…座金、(12a)…押圧面、(17)…接着剤、(18)…グリス、(19)…シートガスケット、(20)…溝、(28a)…スリーブ延長カバー、(28aa)…延長端部、(28ac)…リングガスケット、(28ad)…内周面。