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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】腸溶性硬質カプセル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/48 20060101AFI20231016BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/02
A61K47/32
A61K47/38
【請求項の数】 65
(21)【出願番号】P 2020525823
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024713
(87)【国際公開番号】W WO2019245031
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018118980
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019003117
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228110
【氏名又は名称】クオリカプス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大崎 芳朗
(72)【発明者】
【氏名】麻生 慎
(72)【発明者】
【氏名】上野 皓輝
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013260(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/060385(WO,A1)
【文献】特表2009-538315(JP,A)
【文献】特表2009-507875(JP,A)
【文献】特表2007-500176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/48
A61K 47/02
A61K 47/32
A61K 47/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1成分、及び第2成分を含む、又は
(b)第1成分、及び第2成分を含み、さらに第3成分、及び第4成分からなる成分の少なくとも一種を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルであって、
第1成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
第2成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、腸溶性メタクリル酸コポリマーの少なくとも一部は塩であり、腸溶性メタクリル酸コポリマーにおいて塩を形成したカルボキシル基と塩を形成していないカルボキシル基のモル数の合計を100モル%とした場合、塩を形成したカルボキシル基の含有量が2~20モル%であり、
第3成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースであり、及び、
第4成分は、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種、であって、
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第1成分の割合が、30~70質量%、第2成分の割合が、30~60質量%、第1成分と第2成分の割合の合計が70質量%以上である、腸溶性硬質カプセル。
【請求項2】
前期第1成分の粘度値が10mPa・s以上である請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項3】
前記第1成分が、置換度タイプ2910又は置換度タイプ2906のヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項1又は2のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項4】
前記第2成分の腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項5】
前記皮膜の含有水分量が2~10質量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項6】
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第3成分の質量の割合が、0~30質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項7】
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第4成分の割合が、0~12質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項8】
前記第2成分に含まれるカルボキシル基の少なくとも一部がその薬学的に又は食品添加物として許容される塩を形成している、請求項1~7のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項9】
前記塩がナトリウム塩である、請求項1~8のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項10】
前記皮膜の厚みが50~250μmである、請求項1~のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項11】
前記皮膜の25℃、相対湿度63%調湿後における弾性率が1GPa~5GPaである、請求項1~10のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項12】
前記皮膜の25℃、相対湿度22%調湿後における破断伸び率が2%~30%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項13】
前記腸溶性硬質カプセルの皮膜が海島構造を含み、島相が実質的に第1成分からなり、海相が第1成分と第2成分の混合相であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項14】
前記海相には、さらに、第3、第4成分を含むことを特徴とする、請求項13に記載の腸溶性カプセル。
【請求項15】
前記島相の短径が0.1μm以上、かつ30μm未満である、請求項13又は14に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項16】
pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、10%以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項17】
pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、45分後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、75%以上である、請求項16に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項18】
pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が75%以上に達するまでの時間が60分以上である、請求項16に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項19】
pH4.0を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、30%以下である、請求項17又は18に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項20】
第i成分、第ii成分、薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤、及び溶媒含む腸溶性硬質カプセル調製液であって、
第i成分は、粘度値が6mPa・s以上の範囲であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり前記腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部が前記塩基性中和剤によって部分中和されており、前記部分中和の中和度が第ii成分の完全中和に必要な当量に対して、2~20%であり、
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる固形分の質量の合計を100質量%とした場合の第i成分の割合が30~70質量%であり、第ii成分の割合が30~60質量%であり、第i成分と第ii成分の割合の合計が70質量%以上、
である、
腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項21】
前記第i成分の粘度値が、10mPa・s以上である請求項20に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項22】
前記第i成分が、固体粒子として分散されている、請求項20又は21のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項23】
前記第i成分が、置換度タイプが2910又は2906のヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項20~22のいずれか一項に記載の腸溶性カプセル調製液。
【請求項24】
前記部分中和の中和度が第ii成分の完全中和に必要な当量に対して、5~15%である、請求項20~23のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項25】
前記第ii成分が、コロイド粒子として分散されている、請求項2024のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項26】
前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、請求項2025のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項27】
第iii成分として水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースを含む、請求項2026のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項28】
前記第iii成分が、コロイド粒子として分散されている、請求項27に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項29】
第iv成分として薬学的又は食品添加物として許容される可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項2028のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項30】
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の合計を100質量%とした場合の、第iii成分の質量の割合が、0~30質量%である、請求項29に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項31】
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の質量の合計を100質量%とした場合の第iv成分の割合が、0~12質量%である請求項29又は30に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項32】
前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項2031のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項33】
前記腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、前記固形分の質量の合計量が10~30質量%である、請求項2032のいずれか一項に記載の調製液。
【請求項34】
粘度が、100~10,000mPa・sである、請求項2033のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項35】
溶媒中に薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤が存在する条件下で、第i成分と第ii成分とを混合する工程を含む、腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、第i成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、前記腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部が前記塩基性中和剤によって部分中和されており、前記部分中和の中和度が第ii成分の完全中和に必要な当量に対して、2~20%であり、
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる固形分の質量の合計を100質量%とした場合の第i成分の割合が30~70質量%であり、第ii成分の割合が30~60質量%であり、第i成分と第ii成分の割合の合計が70質量%以上である、
調製方法。
【請求項36】
前記第i成分の粘度値が10mPa・s以上である請求項35に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項37】
前記第i成分が、置換度タイプ2910又は置換度タイプ2906のヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項35又は36のいずれか一項に記載の腸溶性カプセル調製液の調製方法。
【請求項38】
前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、請求項3537のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項39】
前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項3538のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項40】
工程A:第ii成分の部分中和液を準備する工程、及び
工程B:第i成分の部分溶解液を準備する工程、
を含む、請求項3539のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項41】
前記工程Aが、前記第ii成分を、薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤により、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解させる部分中和液を調製する工程である、請求項40に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項42】
前記中和度が、5~15%である請求項35~41のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項43】
前記工程Aが、第ii成分のコロイド粒子の分散液に対して、塩基性中和剤を添加して部分中和液を得る工程である、請求項4042のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項44】
前記工程Aが、第ii成分の固形粉末を溶媒中に分散させた後、塩基性中和剤を添加して部分中和液を得る工程である、請求項4042のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項45】
前記工程Bが、前記第ii成分を含む部分中和液に、前記第i成分を部分溶解させた部分溶解液を調製する工程であり、
前記部分溶解液を調製する工程が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第ii成分を含む部分中和液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、請求項4044のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項46】
前記混合する工程で得られた溶液を、前記第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程をさらに含む、請求項45に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項47】
前記温度T3がT2と同じか、それより高い温度である、請求項46に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項48】
前記第3の温度の範囲T3が、30℃~65℃である、請求項47に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項49】
前記第1の温度T1の範囲が、60℃~90℃である、請求項4548のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項50】
前記腸溶性硬質カプセル調製液の粘度が、100~10,000mPa・sである、請求項3549のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項51】
下記工程を含む、腸溶性硬質カプセルの調製方法:
請求項2034のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液、又は請求項3550のいずれか一項に記載の調製方法により得られた腸溶性硬質カプセル調製液の中に、前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程;及び
前記腸溶性硬質カプセル調製液からモールドピンを引き上げて、モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥させる第2工程。
【請求項52】
前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度が、30~65℃である、請求項51に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
【請求項53】
前記調製液に浸漬する前のモールドピンの表面温度が、5~30℃である、請求項51又は52に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
【請求項54】
モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥する温度が、40℃未満である、請求項5153のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
【請求項55】
請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに対し、部分中和された腸溶性メタクリル酸コポリマー及びクエン酸トリエチルを水/エタノール又は水/イソプロパノール混合溶媒に希釈させた溶液を主成分とするシール液によってシールされたことを特徴とする腸溶性硬質カプセル製剤。
【請求項56】
請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに対し、中和されないヒドロキシプロピルメチルアセテートサクシネートを水/エタノール又は水/イソプロパノール混合溶媒に希釈させた溶液を主成分とするシール液によってシールされたことを特徴とする腸溶性硬質カプセル製剤。
【請求項57】
請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の活性薬物の溶出率が、10%以下であることを特徴とする硬質カプセル製剤。
【請求項58】
請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、45分後の活性薬物の溶出率が、75%以上である、請求項57に記載の硬質カプセル製剤。
【請求項59】
請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、活性薬物の溶出率が75%以上に達するまでの時間が60分以上である、請求項57に記載の硬質カプセル製剤。
【請求項60】
請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH4.0を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の活性薬物の溶出率が、30%以下である、請求項58又は59に記載の硬質カプセル製剤。
【請求項61】
酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に請求項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルを内包することを特徴とする2重硬質カプセル製剤。
【請求項62】
活性薬物を含まない薬学的に又は食品添加物として許容される水溶性ポリマー微粒子からなるコア粒子相と、該コア粒子の表面を被覆し、及び/又は、該コア粒子間を結合する結合相からなる、2相構造を有する硬質カプセル皮膜であって、前記結合相には、前記コア粒子相の溶解特性を制御しうる前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーを主として含有する、硬質カプセルであって前記水溶性ポリマーは、その乾燥原料粉体の平均粒径が1~100μmである、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、前記機能性ポリマーは、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、前記腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部が塩基性中和剤によって部分中和されており、前記部分中和の中和度が腸溶性メタクリル酸コポリマーの完全中和に必要な当量に対して、2~20%であり、
前記硬質カプセルの皮膜成分の質量の合計を100質量%とした場合の水溶性ポリマーの割合が30~70質量%であり、機能性コポリマーの割合が30~60質量%であり、水溶性ポリマーと機能性コポリマーの割合の合計が70質量%以上である、
硬質カプセル
【請求項63】
第I成分及び第II成分を含む皮膜からなる腸溶性又は徐放性硬質カプセルであって、第I成分は、乾燥原料粉体の平均粒径が1~100μmである粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
第II成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、前記腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部が塩基性中和剤によって部分中和されており、前記部分中和の中和度が腸溶性メタクリル酸コポリマーの完全中和に必要な当量に対して、2~20%であり、
前記腸溶性又は徐放性硬質カプセルの皮膜成分の質量の合計を100質量%とした場合の第I成分の割合が30~70質量%であり、第II成分の割合が30~60質量%であり、第I成分と第II成分の割合の合計が70質量%以上であり、
前記腸溶性又は徐放性硬質カプセルは、
少なくとも、未溶解の第I成分の微粒子及び第II成分を含を含み、さらに、第II成分を部分的に中和しうる濃度の塩基性中和剤を含む水性分散液からなり、第I成分の下限臨界共溶温度近くの温度に維持した腸溶性又は徐放性硬質カプセル調製液に、
該調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程、及び
該調製液からモールドピンを引き上げてモールドピンに付着した調製液を乾燥させる第2工程、
を含む工程を経て形成される、腸溶性又は徐放性硬質カプセル。
【請求項64】
第I成分及び第II成分を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルであって、
第I成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
第II成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、前記腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部が前記塩基性中和剤によって部分中和されており、前記部分中和の中和度が腸溶性メタクリル酸コポリマーの完全中和に必要な当量に対して、2~20%であり、
前記腸溶性又は徐放性硬質カプセルの皮膜成分の質量の合計を100質量%とした場合の第I成分の割合が30~70質量%であり、第II成分の割合が30~60質量%であり、第I成分と第II成分の割合の合計が70質量%以上であり、
前記腸溶性カプセルは、
少なくとも、未溶解の第I成分の微粒子及び第II成分を含み、さらに、第II成分を部分的に中和しうる濃度の塩基性中和剤を含む水性分散液からなり、30~65℃に維持した腸溶性硬質カプセル調製液に、
該調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程、及び
該調製液からモールドピンを引き上げてモールドピンに付着した調製液を乾燥させる第2工程、
を含む工程を経て形成される、腸溶性硬質カプセル。
【請求項65】
水性溶媒中に、活性薬物を含まない薬学的に又は食品添加物として許容される水溶性ポリマー微粒子が分散し、さらに、前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーが溶解するか、及び/又は前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーのコロイド粒子が分散した、硬質カプセル調製液であって、
前記水溶性ポリマーは、その乾燥原料粉体の平均粒径が1~100μmである、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、前記機能性ポリマーは、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、前記腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部が塩基性中和剤によって部分中和されており、前記部分中和の中和度が腸溶性メタクリル酸コポリマーの完全中和に必要な当量に対して、2~20%であり、
前記硬質カプセル調製液の固形分の質量の合計を100質量%とした場合の水溶性ポリマーの割合が30~70質量%であり、機能性コポリマーの割合が30~60質量%であり、水溶性ポリマーと機能性コポリマーの割合の合計が70質量%以上である、硬質カプセル調製液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸溶性硬質カプセル、腸溶性硬質カプセル調製液、腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法、及び腸溶性硬質カプセルの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「腸溶性」とは、経口投与される製剤の剤形の一つであり、一般に、胃内では溶解しにくい製剤上の特性を意味する。また、前記製剤は、腸に移行してからは溶解しやすいという特性を有する。腸溶性製剤は、強酸性環境下である胃内では薬物活性成分を放出せず、腸内に該製剤が移動してから薬物活性成分を放出する。このため、腸溶性製剤は、主として、胃酸又は胃内酵素から薬物活性成分を保護する目的や、胃から小腸に製剤が移動する時間を利用して持続的に薬物活性成分を放出する目的で使用される。
【0003】
医薬製剤分野において、「腸溶性」は、日本(第17局方、6.10溶出試験法、4.3腸溶製剤の項)、米国(US Pharmacopeia Monograph<711>Dissolution 7, Delayed-Release Dosage Formsの項)、欧州(European Pharmacopeia, 2.9.3、Delayed-release dosage formsの項)のPharmacopeiaにおいてほぼ同様に定義されている。特に、37℃、酸性(約pH 1.2、塩酸希釈液)環境下で、2時間、実質的に不溶と言えるレベルの耐酸性を要求する点については、日本、欧州及び米国で一致している。他方、腸内における溶出特性には、特に、時間的規定はない。放出ターゲット部位が小腸、結腸、大腸であるか、薬物放出特性が即放的であるか、徐放的であるかなどによって要求される溶出特性はさまざまである。
【0004】
製剤剤形が錠剤である場合、錠剤を、いわゆる腸溶性ポリマーによってコーティングすることにより、上記要求を満足する「腸溶性」製剤が調製されている(非特許文献1、Chapter9及び10)。
【0005】
また、製剤剤形が硬質カプセルである場合、内容物を充填した非腸溶硬質カプセルに、錠剤と同様の腸溶性ポリマーのコーティングを施す方法(コーティング法)により、腸溶性硬質カプセル剤を調製すること、場合によっては、浸漬ピンからの離形前の非腸溶空カプセルに、浸漬法により、腸溶コーティングを施す方法が従前より行われている(特許文献1~6、非特許文献2及び3)。
【0006】
さらに、硬質カプセル皮膜自体を腸溶性とする試みもなされている。このような従来技術としては、
(1)耐酸性腸溶性ポリマーの代わりに、又は併用して、ジェランガムのような耐酸性を付与できるゲル化剤を使用し、ゲル化性、皮膜性能を改善しつつ、耐酸性を維持すること(特許文献7~10);
(2)水ベースの溶液の代わりに溶媒ベースの浸漬溶液を用いること(特許文献11);
(3)難水溶性の耐酸性腸溶性ポリマーを主成分として、従来の水溶性かつ皮膜形成能の高いゼラチンや水溶性セルロースなどのポリマーを部分的に使用すること(特許文献12,13);
(4)難水性の腸溶性ポリマーを含む水溶性誘導体を得るために、腸溶性ポリマーのほぼすべての酸基(特にカルボキシル基)を塩化(salifying)する、あるいは、非塩化ポリマーを塩基性中和剤で少なくとも部分的に中和して水に溶解すること、あるいは、非塩化のエマルジョン分散液を利用すること(特許文献12~20、26~28);及び、
(5)射出成形など、ポリマーの可溶化を必要としない代替技術を用いること(特許文献21~25、非特許文献4)
等がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第2196768号明細書
【文献】米国特許第630966号明細書
【文献】米国特許第7094425号明細書
【文献】米国特許第3927195号明細書
【文献】特開2003-325642号広報
【文献】特表2013-500293号公報
【文献】特開2006-16372号公報
【文献】特開2010-202550号公報
【文献】特開2009-196961号公報
【文献】国際公開第2011/036601号
【文献】米国特許第4365060号明細書
【文献】米国特許第3826666号明細書
【文献】米国特許第4138013号明細書
【文献】米国特許第2718667号明細書
【文献】特開2013-504565号公報
【文献】特表2013-540149号公報
【文献】特表2015-518005号公報
【文献】特表2013-540806号公報
【文献】特表2015-515962号公報
【文献】特開昭55-136061号公報
【文献】特開昭47-3547号公報
【文献】特開昭53-52619号公報
【文献】特表2006-52819号公報
【文献】特表2011-503048号公報
【文献】特表2004-522746号公報
【文献】独国第2157435号明細書
【文献】特開昭62-010023
【文献】特開昭60-190725
【文献】特開昭57-109716
【非特許文献】
【0008】
【文献】Aqueous Polymeric Coating For Pharmaceutical Dosage Forms, 4th edition, CRC Press、2017、Chapter4、Chapter9、Chapter10(Table10.5)
【文献】International Journal of Pharmaceutics; 231 (2002), p.83-95
【文献】Drug Dev. Ind. Pharm.; 27(2011) p.1131-1140
【文献】International Journal of Pharmaceutics; 440 (2013), p.264-272
【文献】平成20年度三重県工業研究所研究報告No.33(2009)、p.59-64
【文献】Drug Targeting Technology, CRC press, 2001、PartI-1, pp.1-29
【文献】Journal of Applied Pharmaceutical Science 3 (2013), pp. 139-144
【文献】AAPS PharamScieTech,16(2015), pp.934-943
【文献】J. Soc. Powder Technol., Japan, 42(2005), pp.811
【文献】高分子論文集、40(1983)、pp.273-278
【文献】Eur.J.Pharm.Biopharm. 42(1996), pp.12-15
【文献】Journal of Pharmaceutical Sciences, 106(2017), pp.1042-1050.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般的に、コーティング法による腸溶性硬質カプセル剤の調製は、表面をコーティングする前に、内容物を充填してキャップとボディを嵌め合わせ、嵌合部をシールする必要があるため、調製プロセスが複雑である。また、調製プロセスが複雑になったことによる作業の負担は、硬質カプセルの製造者ではなく、内容物を充填するメーカー側が担うことになる。このことは、製剤形態としての硬質カプセルの利便性を損ねることになる。予め、空カプセルにコーティングする場合には、カプセル皮膜とコーティング皮膜、それぞれに乾燥時間が必要になったり、カプセル皮膜とコーティング皮膜の密着性を高めるために、さらに下地のコーティングが必要になったりして、カプセル製造工程そのものが複雑になる。
このような事情から、硬質カプセルの皮膜そのものが腸溶性であることが望まれる。
【0010】
硬質カプセルは、通常、ディッピング(浸漬)法において調製される。具体的には、浸漬法は、カプセル皮膜ポリマー材料を溶解して水溶液とし、該ポリマー水溶液に成形ピン(一般的にはステンレス鋼製の成形ピン)を浸漬し、該成形ピンを浸漬液から引き上げ、成形ピンを反転させ、そして成形ピンの表面に付着した前記ポリマー水溶液を乾燥させて、厚さ100μm程度の皮膜を形成させる。次いで、乾燥したカプセル皮膜を、成形ピンから取り外し、所望の長さに切断したのち、内容物を充填し、キャップとボディを組み立て、硬質カプセルの表面に印字し、硬質カプセルを包装する。
【0011】
また、浸漬法においては、その浸漬用の水性調製液を得るために、硬質カプセル皮膜の主成分であるポリマーが水溶性であること、あるいは、非常に微細なコロイドもしくは固体微粒子を分散させた分散液とすることが望ましい。また、調製液に浸漬した成形ピンを引き上げる際に、温度の急激な上昇もしくは下降に伴い、ポリマーがゲル化して急激な粘度増加する性質、すなわち熱ゲル化もしくは冷ゲル化能を有することが望ましい。さらに、浸漬用水性調製液は、成形ピン引き上げ直後の液だれを抑制でき、続く水分の蒸発による乾燥固化によって、最終的に、硬質カプセルとして十分硬度と靱性を有する皮膜となることが求められる。
【0012】
しかし、一般的なコーティング用の腸溶性ポリマー(腸溶性基剤ともいう)の物性は、浸漬法による硬質カプセルの調製には適さない。錠剤のコーティング用として市販されている腸溶性ポリマー、もしくはそれを含有するコーティング液から形成される皮膜は、錠剤という固形物表面では皮膜として機能しうるが、必ずしも皮膜単体として自立しうる皮膜形成特性及び強度を有しない。このため、腸溶性ポリマー単独で皮膜を形成させることが困難であり、たとえ自立した皮膜化ができても強度に問題があり、当該皮膜単独では、硬質カプセルとして利用することはできない。
【0013】
また、従来技術は以下の問題を含んでいる。
上記(1)の従来技術は、硬質カプセル皮膜の成形性は改善されるものの、耐酸性は不十分である。さらに、ゲル化剤を使用してポリマーをゲル化させる場合、特にゲル化助剤としてのカチオンを必要とする冷ゲル法において、ポリマーを含む水溶液のpH、又はカチオンと腸溶性ポリマーのイオン基との相互作用により、ポリマー水溶液もしくは分散液の安定性、ゲル化剤の冷ゲル化性能が損なわれるという問題がある。
【0014】
次に、上記(2)の従来技術では、調製過程において揮発する有機溶媒等による作業環境汚染、火災爆発対策が必要であり、また廃溶媒の回収が必要である。さらに、最終製品に溶媒が残留する畏れがあるといった問題を有する。
【0015】
上記、(2)の従来技術においては、ゼラチンを水溶性ポリマー、又は冷ゲル化剤として用いる場合、耐酸性腸溶性ポリマーとの相溶性が不十分でカプセル皮膜に濁りが生じる場合が多い。
【0016】
次に上記(4)の従来技術は、浸漬用の水性調製液を得るため、腸溶性ポリマーの酸基を塩化、又は腸溶性ポリマーをほぼ完全に中和(あるいは、塩化)している。しかし、これらの処理は、成形された硬質カプセル皮膜自体に好ましくない水感受性を与える。ポリマーを含む水溶液のpH、又はカチオンと腸溶性ポリマーのイオン基との相互作用により、ポリマー水溶液もしくは分散液の安定性、ゲル化剤の冷ゲル化性能が損なわれるという問題がある。また、過量の中和剤(例えば、アルカリ剤)を含むため、前記処理を加えた腸溶性ポリマーを主成分とする硬質カプセルを高温の苛酷条件で保管すると、カプセルから中和剤成分が徐々に抜け出す、塩の析出が生じ、外観上黄変したりする可能性がある。特に、中和のためにアンモニアを用いる場合に影響が顕著である。さらに、アンモニアはカプセル製造工程中、特に乾燥工程において揮発するので、作業上の暴露対策も必要になる。
【0017】
完全に中和溶解しないで、部分的に中和して微細な分散液として用いる場合でも、特に、腸溶性基剤として、腸溶性セルロース化合物のみを用いる場合は、その粒径を十分微細化するために、過半数のカルボキシル基を中和する必要性があり、皮膜中の残留塩の量が1~10質量%と高濃度になりうるという課題がある。さらに、腸溶性セルロース化合物を腸溶性ポリマーとして用いる場合、その熱ゲル特性を利用する場合が多く、冷ゲル法による成形に適した浸漬用調製液については知られていない。
【0018】
カルボキシル基を含む酸性の(メタ)アクリル酸コポリマーと中性の(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、それぞれの乳化重合プロセスにおいて、数十nm径のコロイド粒子を含む水性分散液(エマルジョン)が形成される。該(メタ)アクリル酸コポリマーと中性の(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーのコロイド混合分散液を用いた浸漬法によるカプセル形成も提案されているが、カプセル形状は確保できても、硬質カプセルとして十分な機械的強度を得られているとはいえない。また、分散液自体に冷ゲル化能はなく、単に乾燥によって固化させているので液だれが著しく、浸漬法による硬カプセルの量産には適さない。
【0019】
次に、上記(5)の従来技術においては、そもそも浸漬法による一般的な製造装置が使えない。かつ、射出成形ではポリマーの熱可塑性を利用してカプセルを成形するため、成形過程で100℃程度の加熱処理されることによるポリマー自体の熱変性が懸念される。熱可塑性を維持するために使用できるポリマーが限定される。特に、セルロース化合物では、ヒドロキシプロピルセルロースがその加工性の良さから好まれるが、カプセル皮膜としては、硬度が不足しがちである。さらに、射出成形では、加熱下でカプセルの形を成形した後、室温まで冷却する際に、皮膜に熱収縮による過大なストレスがかかるとともに、成形後のカプセルの含有水分がほぼゼロであるため、成形後のカプセルに割れが生じる懸念がある。
【0020】
また、現在一般に流通している硬質カプセルの皮膜は、100μm程度の厚みであり、カプセル充填機によって内容物が充填されている。これに対して、射出成形では、皮膜に耐酸性を犠牲にするほどの可塑剤を混入して割れを防ぐか、数百μm程度の厚い皮膜として機械強度を保つか等の対策が必要になる。このため、大量の添加剤と内容薬物との相互作用が問題となりうる。また、射出成形によって成形された硬質カプセルの皮膜は流通している硬質カプセルよりも皮膜を厚くせざるを得ないため、一般に使用されているカプセル充填機と互換性を維持した腸溶性硬質カプセルの調製は困難である。
【0021】
本発明は、冷ゲル法によって成形可能な腸溶性カプセルを提供することを一課題とする。また、一般に使用されている非腸溶性硬カプセルと充填作業等の作業性において互換性を有する腸溶性硬質カプセルを提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、下記腸溶性硬質カプセルが良好な腸溶性特性及び硬質カプセルとして良好な機械的強度を有することを見出した。さらに前記成分を含む腸溶性硬質カプセル調製液は、冷ゲル法によって硬質カプセルを調製できることを見出した。
【0023】
本発明は、下記実施態様を含みうる。
項1.(a)第1成分、及び第2成分を含む、又は(b)第1成分、及び第2成分を含み、さらに第3成分、及び第4成分からなる成分の少なくとも一種を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルであって、第1成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第2成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、第3成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースであり、及び、第4成分は、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種、であって、前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第1成分の割合が、30~70質量%、第2成分の割合が、30~60質量%、第1成分と第2成分の割合の合計が70質量%以上である、腸溶性硬質カプセル。
項2.前期第1成分の粘度値が10mPa・s以上である項1に記載の腸溶性硬質カプセル。
項3.前記第1成分が、置換度タイプ2910又は置換度タイプ2906のヒドロキシプロピルメチルセルロースである、項1又は2のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項4.前記第2成分の腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、項1~3のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項5.前記皮膜の含有水分量が2~10質量%であることを特徴とする、項1~4のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項6.前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第3成分の質量の割合が、0~30質量%である、項1~5のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項7.前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第4成分の割合が、0~12質量%である、項1~6のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項8.前記第2成分に含まれるカルボキシル基の少なくとも一部がその薬学的に又は食品添加物として許容される塩を形成している、項1~7のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項9.前記皮膜に含まれる前記第2成分における塩を形成したカルボキシル基と塩を形成していないカルボキシル基のモル数の合計を100モル%とした場合、塩を形成したカルボキシル基の含有量が2~20モル%である、項8に記載の腸溶性硬質カプセル。
項10.前記塩がナトリウム塩である、項8又は9のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項11.前記皮膜の厚みが50~250μmである、項1~10のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項12.前記皮膜の25℃、相対湿度63%調湿後における弾性率が1GPa~5GPaである、項1~11のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項13.前記皮膜の25℃、相対湿度22%調湿後における破断伸び率が2%~30%である、項1~11のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項14.前記腸溶性硬質カプセルの皮膜が海島構造を含み、島相が実質的に第1成分からなり、海相が第1成分と第2成分の混合相であることを特徴とする、項1~13のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項15.前記海相には、さらに、第3、第4成分を含むことを特徴とする、項14に記載の腸溶性カプセル。
項16.前記島相の短径が0.1μm以上、かつ30μm未満である、項14又は15に記載の腸溶性硬質カプセル。
項17.pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、10%以下である、項1~16のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項18.pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、45分後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、75%以上である、項17に記載の腸溶性硬質カプセル。
項19.pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が75%以上に達するまでの時間が60分以上である、項17に記載の腸溶性硬質カプセル。
項20.pH4.0を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、30%以下である、項18又は19に記載の腸溶性硬質カプセル。
項21.第i成分、第ii成分、薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤、及び溶媒含む腸溶性硬質カプセル調製液であって、第i成分は、粘度値が6mPa・s以上の範囲であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマー、である、腸溶性硬質カプセル調製液。
項22.
前記第i成分の粘度値が、10mPa・s以上である項21に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項23.
前記第i成分が、固体粒子として分散されている、項21又は22のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項24.前記第i成分が、置換度タイプが2910又は2906のヒドロキシプロピルメチルセルロースである項20~22に記載の腸溶性カプセル調製液。
項25.前記、第ii成分の一部が前記塩基性中和剤によって部分中和されている、項21~24に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項26.前記部分中和の中和度が第ii成分の完全中和に必要な当量に対して、2~20%である、項25に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項27.前記部分中和の中和度が第ii成分の完全中和に必要な当量に対して、5~15%である、項26に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項28.前記第ii成分が、コロイド粒子として分散されている、項21~27のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項29.前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、項21~28のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項30.第iii成分として水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースを含む、項21~29のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項31.前記第iii成分が、コロイド粒子として分散されている、項30に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項32.第iv成分として薬学的又は食品添加物として許容される可塑剤、及び界面活性剤、よりなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む、項21~31のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項33.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の質量の合計を100質量%とした場合の第i成分の割合が30~70質量%である、項32に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項34.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分及び、第iii成分、及び第iv成分の質量の合計を100質量%とした場合の第ii成分の割合が30~60質量%である、項32又は33に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項35.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の合計を100質量%とした場合の、第iii成分の質量の割合が、0~30質量%である、項32~34のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項36.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の質量の合計を100質量%とした場合の第iv成分の割合が、0~12質量%である項32~35のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項37.前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、項21~36のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項38.前記腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、前記第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の合計量が12~30質量%である、項32~37のいずれか一項に記載の調製液。
項39.粘度が、100~10,000mPa・sである、項21~38のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項40.溶媒中に薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤が存在する条件下で、第i成分と第ii成分とを混合する工程を含む、腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、第i成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーである、
調製方法。
項41.前記第i成分の粘度値が10mPa・s以上である項40に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項42.前記第i成分が、置換度タイプ2910又は置換度タイプ2906のヒドロキシプロピルメチルセルロースである項40又は41のいずれか一項に記載の腸溶性カプセル調製液の調製方法。
項43.前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、項40~42のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項44.前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、項40~43のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項45.工程A:第ii成分の部分中和液を準備する工程、及び工程B:第i成分の部分溶解液を準備する工程、を含む、項40~44項のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項46.前記工程Aが、前記第ii成分を、薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤により、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解させる部分中和液を調製する工程であり、部分中和液中の第ii成分の中和度が前記第ii成分の完全中和に必要な中和当量に対して2~20%である、項45に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項47.前記中和度が、5~15%である項46に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項48.前記工程Aが、第ii成分のコロイド粒子の分散液に対して、塩基性中和剤を添加して部分中和液を得る工程である、項45~47のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項49.前記工程Aが、第ii成分の固形粉末を溶媒中に分散させた後、塩基性中和剤を添加して部分中和液を得る工程である、項45~47のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項50.前記工程Bが、前記第ii成分を含む部分中和液に、前記第i成分を部分溶解させた部分溶解液を調製する工程であり、前記部分溶解液を調製する工程が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第ii成分を含む部分中和液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、項45~49のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項51.前記混合する工程で得られた溶液を、前記第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程をさらに含む、項50に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項52.前記温度T3がT2と同じか、それより高い温度である、項51に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項53.前記第3の温度の範囲T3が、30℃~65℃である、項52に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項54.前記第1の温度T1の範囲が、60℃~90℃である、項50~53のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項55.前記腸溶性硬質カプセル調製液の粘度が、100~10,000mPa・sである、項40~54のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項56.下記工程を含む、腸溶性硬質カプセルの調製方法:
項21~39のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液、又は項40~55のいずれか一項に記載の調製方法により得られた腸溶性硬質カプセル調製液の中に、前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程;及び前記腸溶性硬質カプセル調製液からモールドピンを引き上げて、モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥させる第2工程。
項57.前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度が、30~65℃である、項56に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
項58.前記調製液に浸漬する前のモールドピンの表面温度が、5~30℃である、項56又は57に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
項59.モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥する温度が、40℃未満である、項56~58のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
項60.項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに対し、部分中和された腸溶性メタクリル酸コポリマー及びクエン酸トリエチルを水/エタノール又は水/イソプロパノール混合溶媒に希釈させた溶液を主成分とするシール液によってシールされたことを特徴とする腸溶性硬質カプセル製剤。
項61.項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに対し、中和されないヒドロキシプロピルメチルアセテートサクシネートを水/エタノール又は水/イソプロパノール混合溶媒に希釈させた溶液を主成分とするシール液によってシールされたことを特徴とする腸溶性硬質カプセル製剤。
項62.項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の活性薬物の溶出率が、10%以下であることを特徴とする硬質カプセル製剤。
項63.項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、45分後の活性薬物の溶出率が、75%以上である、項62に記載の硬質カプセル製剤。
項64.項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、活性薬物の溶出率が75%以上に達するまでの時間が60分以上である、項62に記載の硬質カプセル製剤。
項65.項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH4.0を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の活性薬物の溶出率が、30%以下である、項63又は64に記載の硬質カプセル製剤。
項66.酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に項1~20のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルを内包することを特徴とする2重硬質カプセル製剤。
項67.活性薬物を含まない薬学的に又は食品添加物として許容される水溶性ポリマー微粒子からなるコア粒子相と、該コア粒子の表面を被覆し、及び/又は、該コア粒子間を結合する結合相からなる、2相構造を有する硬質カプセル皮膜であって、前記結合相には、前記コア粒子相の溶解特性を制御しうる前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーを主として含有する、硬質カプセル。
項68.前記水溶性ポリマーは、その乾燥原料粉体の平均粒径が1~100μmである、下限臨界共溶温度を有する水溶性セルロース化合物である、項67に記載の硬質カプセル。
項69.前記水溶性ポリマーは、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである、項68に記載の硬質カプセル。
項70.前記機能性ポリマーが水溶性又はコロイド粒子の水性分散液を形成する腸溶性コーティング基剤及び/又は徐放性コーティング基剤である、項67に記載の硬質カプセル。
項71.前記機能性ポリマーは、腸溶性メタクリル酸コポリマーのコロイド分散液である、項70に記載の硬質カプセル。
項72.第I成分及び第II成分を含む皮膜からなる腸溶性又は徐放性硬質カプセルであって、第I成分は、乾燥原料粉体の平均粒径が1~100μmであり、かつ下限臨界共溶温度を有する水溶性セルロースポリマーであり、第II成分は、水溶性又はコロイド粒子の水性分散液を形成する、腸溶性コーティング基剤及び/又は徐放性コーティング基剤であり、前記腸溶性又は徐放性硬質カプセルは、少なくとも、未溶解の第I成分の微粒子及び第II成分を含む水性分散液を、第I成分の下限臨界共溶温度近くの温度に維持した腸溶性又は徐放性硬質カプセル調製液に、該調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程、及び該調製液からモールドピンを引き上げてモールドピンに付着した調製液を乾燥させる第2工程、を含む工程を経て形成される、腸溶性又は徐放性硬質カプセル。
項73.第I成分及び第II成分を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルであって、第I成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第II成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、前記腸溶性硬質カプセルは、少なくとも、未溶解の第I成分の微粒子及び第II成分を含み、さらに、第II成分を部分的に中和しうる濃度の塩基性中和剤を含む水性分散液からなり、30~65℃に維持した腸溶性硬質カプセル調製液に、該調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程、及び該調製液からモールドピンを引き上げてモールドピンに付着した調製液を乾燥させる第2工程、を含む工程を経て形成される、腸溶性硬質カプセル。
項74.水性溶媒中に、活性薬物を含まない薬学的に又は食品添加物として許容される水溶性ポリマー微粒子が分散し、さらに、前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーが溶解するか、及び/又は前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーのコロイド粒子が分散した、硬質カプセル調製液。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、冷ゲル法によって成形可能な、腸溶性特性を有する硬質カプセル皮膜からなる硬質カプセルを提供できる。また、本発明によれば、ゲル化剤を用いずに腸溶性硬質カプセルを調製することができる。さらに、当該硬質カプセルは、従来使用されているカプセル充填機を使用して内容物を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、腸溶性硬質カプセル調製液の降温過程における動的粘弾性挙動の模式図を示す図である。T0は、曇点又は溶解開始温度を示す。T1、T2及びT3は、それぞれ明細書に記載の第1の温度、第2の温度及び第3の温度を示す。T4は、急激な粘度上昇開始温度を示す。T5は室温(20℃~25℃)を示す。
図2図2は、実施例2-2のカプセル皮膜の横断面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図3図3は、実施例2-2のカプセル調製液(55℃)における光学顕微鏡像を示す図である。
図4図4は、実施例2-2のカプセル調製液の降温時の動的粘弾性挙動を示す図である。縦軸の例えば1.00E+2は100を、1.00E+3は1000を示す。
図5図5は、引張試験における典型的な引張応力―伸び率(ひずみ、%)曲線の例と、弾性率(ヤング率)、破断伸び率の説明。縦軸の弾性率は、低応力の弾性領域での傾きを示す。また、横軸の破断伸び率は、試験片の破断が生じるときの伸び率(ひずみ)、%、である。
図6図6は、本開示に係る腸溶性硬質カプセルを内部に用いた二重カプセルの溶出特性を示す図である。
図7】(a)は、参考例4におけるフィルム溶出試験に用いる試験体の断面構造を示す図である。図7(b)は、当該試験体をシンカーに封入した状態の写真である。
図8図8は、参考例4のキャスト皮膜断面のSEM像である。図8(a)は、参考例4-1の皮膜の断面図である。図8(b)は、参考例4-2の皮膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.用語及び材料の説明
はじめに、本明細書、及び特許請求の範囲等で使用される用語及び材料について説明する。本発明に関する用語及び材料は、特に記載がない限り、本項の説明にしたがう。
【0027】
本発明において、「硬質カプセル」とは、製造されたカプセル皮膜に内容物を充填するための空のカプセルである。通常、硬質カプセルは、キャップ部とボディ部とからなり、ハードカプセル、又はツーピースカプセルとも呼ばれる。本発明における「硬質カプセル」は、ヒト又は動物の対象への経口投与を意図した、市販されている従来の硬質カプセルと同一又は類似の形状を有する。
【0028】
なお、本発明の「硬質カプセル」には、2枚のフィルムの間に内容物を充填し、フィルム同士を接着して製造するソフトカプセル、内容物を皮膜溶液と共に凝固液に滴下して製造するシームレスカプセル、及び基材の析出やエマルジョン化によって内部に有効成分を取り込ませて調製するマイクロカプセルは含まれない。
【0029】
また、本発明では、空の硬質カプセルを単に硬質カプセルもしくはカプセルと呼び、内容物を充填したものを「硬質カプセル製剤」と呼ぶ。
【0030】
本発明において、「腸溶性硬質カプセル」とは、カプセル本体の皮膜自体が下記条件に適合する「腸溶性」の特性を有する硬質カプセルをいう。
すなわち、「腸溶性」とは、少なくとも下記(i)の条件を満たす特性をいう。
【0031】
(i)第17改正日本薬局方(以下、単に「第17局方」ということがある)に記載の溶出試験において、被験対象を37℃±0.5℃の第1液中に2時間浸漬したときの内容物の溶出率が25%以下であり、好ましくは10%以下である。第1液のpHは約1.2である。第1液は、例えば塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0ml及び水を加えて1000mlとすることで調製することができる。
【0032】
「腸溶性」とは、好ましくは上記(i)の条件に加え、下記(ii)の条件も満たす。(ii)前記溶出試験において、被験対象を37℃±0.5℃の第2液中に浸漬したときに内容物が溶出される。第2液のpHは約6.8である。第2液は、例えば、リン酸二水素カリウム3.40g及び無水リン酸水素二ナトリウム3.55gを水に溶かし、1000mLとしたリン酸塩緩衝液1容量に水1容量を加えて調製することができる。ここで、第2液中での内容物の溶出率を測定する時間に制限はない。例えば、腸に到達後、腸管(小腸)上部で、比較的速やかに溶出することが求められる場合には、第2液に被験対象を浸漬してから、45分後の溶出率が、75%以上、好ましくは80%より好ましくは90%以上である。さらに、例えば、第2液に被験対象を浸漬してから、1時間後の溶出率が、75%以上、好ましくは80%、より好ましくは90%以上である。
【0033】
他方、腸管下部(大腸など)に到達するまで溶出を抑制し、腸管下部まで薬物を送達することを狙った製剤では、第2液に被験対象を浸漬してから、溶出率が75%以上に達するのが60分以上経過してからであることが好ましい。なお、体外へそのまま排出されることを防ぐため、12時間以内に75%以上が溶出することが好ましい。
【0034】
さらに、人体の胃液におけるpHのばらつきが、1.2~4程度あるのを考慮して、中間的なpH領域における耐酸性を評価する場合がある。この場合の溶出試験のために、中間領域pHを有する緩衝液を用いる場合がある。本発明においては、pHが約4である以下の緩衝液での評価を行う場合がある。緩衝液の組成としては、例えば、クエン酸水和物3.378g及び無水リン酸水素二ナトリウム2.535gを水に溶かし、1000mLとして調製することができる。
【0035】
本発明において、特に耐酸性にすぐれる条件として、上記緩衝液に被験対象を浸漬してから、2時間後の溶出率が、30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは、20%以下であることが好ましい。
【0036】
溶出試験は、第17局方に定められた溶出試験法(第17局方、6.10-1.2パドル法(パドル回転数50回転/分)、及び、同図6.10-2aに対応するシンカー使用)に従い試験することができる。
溶出試験に使用する内容物は、それ自身が試験溶液中で速やかに溶解される内容物であって、公知の方法によって定量できるものである限り制限されない。例えば、アセトアミノフェンを挙げることができる。
【0037】
本発明においては、分子内にイオン性基を持たず、-OH、=O、などの非イオン性親水基を持つことで水溶性となるセルロース化合物(ポリマー)であって、セルロースのグルコース環の水酸基の一部をエーテル化したセルロースエーテルのうち、特にメチルセルロース(MC)及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(本明細書においてヒプロメロースあるいはHPMCともいうことがある)を第1成分として含む。これらは、非イオン性で特に水溶性である。水溶性セルロースエーテルのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)よりも硬度(弾性率)が高く、硬質カプセルとして好ましい機械的強度を得られる。
【0038】
より具体的には、日本薬局方で規定されるヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースが使用させる。例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基の置換度は好ましくは16.5~30.0質量%、更に好ましくは19.0~30.0質量%、特に好ましくは28.0~30.0質量%であり、ヒドロキシプロポキシ基の置換度は好ましくは4.0~32.0質量%、更に好ましくは4.0~12.0質量%、特に好ましくは7.0~12.0質量%である。また、メチルセルロースのメトキシ基の置換度は好ましくは26.0~33.0質量%、更に好ましくは28.0~31.0質量%である。なお、これらの置換度は、第17局方に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースの置換度の測定方法に準拠した方法で測定できる。
【0039】
なかでも、下記式で示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、皮膜成形性及び低水分下での機械的強度が優れている点で、最適なセルロース化合物である。
【0040】
【化1】
(式中、n及びmは任意の整数を意味する)。
【0041】
本発明で使用されるヒドロキシプロピルメチルセルロースには、第17局方で定められる置換度グレード(タイプ)2910,2906,2208のヒプロメロースが含まれる。中でも、置換度タイプ2910及び2906がより好ましい。
【0042】
【表1】
また、本発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースには、日本国で食品添加剤としての使用が認められている下記分子量を有するヒプロメロースが含まれる。
<分子量>
非置換構造単位:162.14
置換構造単位:約180(置換度1.19)、約210(置換度2.37)
重合体:約13,000(n=約70)~約200,000(n=約1000)。
【0043】
商業的に入手可能なメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、信越化学社の日本薬局方METOLOSE(登録商標)シリーズ、食品添加物用メトローズシリーズ、ロッテ(Lotte,旧Samsung)精密化学社のAnyCoat―CもしくはAnyAddy(登録商標)シリーズ、ダウケミカル(DOW Chemical)社のMETHOCEL(登録商標)シリーズ、Ashland社のBenecel(登録商標)シリーズ等、を挙げることができる。
【0044】
本開示において、粘度値6mPa・s以上のメチルセルロース(MC)又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、HPMC)、及び、これらの混合物を、以下において「水溶性セルロース化合物」と称する。
【0045】
本開示においては、20℃における2質量%水溶液の「粘度値」が、6mPa・s以上の水溶性セルロースを用いることが好ましい。以下では、この粘度の値を単に「粘度値」と表示する場合がある。「粘度値」の測定法については、第15局方以降、国際調和案に基づいて策定された、メチルセルロース及びヒプロメロースの項に準じて測定される。すなわち、「粘度値」は、水溶性セルロースの2質量%水溶液の20℃±0.1℃における粘度の値(mPa・s)をいう。「粘度値」の測定には、「粘度値」600mPa・s未満の場合は、一般試験法2.53粘度測定法の第1法(ウベローデ法)を用い、「粘度値」600mPa・s以上の場合は、一般試験法2.53粘度測定法の第2法、2.1.2単一円筒型回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)を用いる。
【0046】
また、「粘度値」は、化合物メーカーによる表示粘度、(粘度グレード値ということもある)を採用することもできる。表示粘度、及び表示粘度の幅としては、例えば、信越化学工業のMETOLOSE(商標)シリーズでは、表示粘度600mPa・s未満では、表示粘度の80~120%、表示粘度が600mPa・s以上の場合は、表示粘度の75~140%とされる。本発明における下限値100mPa・sに関しては、本発明の趣旨を損なわない限りにおいて、表示粘度をそのまま「粘度値」として用いることができる。
【0047】
本開示において、好ましい「粘度値」の下限値は6mPa・sであり、より好ましくは、10mPa・sである。上限値としては好ましい「粘度値」は、1000mPa・s、より好ましくは500mPa・s、さらに好ましくは、100mPa・sである。なお、「粘度値」6~1000mPa・sに対応する重量平均分子量(g/Mol)は、概ね35,000~200,000である。
【0048】
固体状態の水溶性セルロース化合物は、通常、1~数百00μmオーダーの粒径を有する固体微粒子として供される。その平均粒度(平均粒径)は、1~100μmの範囲にあることが望ましい。ここで、平均粒度とは、その一次粒子の体積平均粒子径(MV)を意味し、例えば一般に用いられているレーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、 マイクロトラック・ベル株式会社製 「マイクロトラック粒度分布径MT3300II EX」)により求めることができる。好ましくは、粒径100μm以下の粒子の体積分率が50%以上であり、さらに好ましくは、60%以上である。また、本発明の第1成分としては、MCもしくは、HPMCの混合物を用いても良いし、異なる粘度値を有するMC及び/もしくはHPMCを混合して用いても良く、その少なくとも1種が粘度値6mPa・s以上であればよい。
【0049】
また、該化合物は下限臨界共溶温度(LCST、Low Critical Solution Temperature)、すなわちT0を持つことが特徴である。LCSTとは、降温過程において水温がT0より低くなると溶解をはじめ、昇温過程においては、水温がT0より高くなると、溶液中の高分子がゲル化もしくは相分離をおこす温度のことである(非特許文献7)。
【0050】
水溶性セルロース化合物を室温付近で溶媒に溶解させると該溶液は透明となる。当該溶液を再び昇温する過程では、T0において、ゲル化もしくは溶媒との相分離は、該水溶液の濁りとして観察されるので、曇点と称される。なお、未溶解の水溶性セルロース粒子(通常1~100μm径)を水に溶解させる場合、まず、曇点T0以上で分散させたのち、水温を下げて溶解させると、粒子が表面から徐々に溶解をはじめるが、40℃程度までは完全に溶解することはなく、固体微粒子の分散状態を保っている。すなわち、分散液(サスペンション)となる。さらに降温して室温付近まで下げると透明な完全な溶解液が得られる。この溶液を再び昇温すると、曇点付近でゲル化もしくは溶媒との相分離を生ずるが、これは、水溶性セルロース化合物がもともとの未溶解の固体微粒子の分散液に戻るものではない。どちらかというとMCとHPMCでは、セルロース高分子のネットワーク中に水分子が取り込まれたゲルを形成し、HPCではセルロース高分子の固体相と、水の相に相分離する。下限臨界共溶温度(以下、「溶解温度」ともいう)と曇点は、それぞれ、降温過程もしくは昇温過程に着目した呼称であり、降温もしくは昇温過程の履歴により、若干のずれを伴う場合があるが概ね一致する。以下の説明では、同等のものとして扱う。
【0051】
水溶性セルロース化合物の曇点は、水溶液のpHなどにも依存するが、通常、40~70℃の範囲にある(高分子論文集, Vol.38(1981)、p.133-137、J. Polym. Sci. C, Vol.36(1971), p.491-508)。例えば、HPMCでは60℃程度、MCでは40℃程度である。
【0052】
本発明においては、「腸溶性」機能を担保するための腸溶性ポリマーとして、第2成分として、腸溶性メタクリル酸コポリマーを用いる。従来、腸溶性ポリマーとして腸溶性セルロース化合物、具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、セルロースアセテートフタレート(CAP)を主として用いた腸溶性硬質カプセルが知られている。(特許文献12~19)。しかし、腸溶性ポリマー本来の性質として、腸溶性セルロース化合物は、長期間の高湿度下の保存において、カルボキシル基の分解による遊離カルボン酸の生成が進みやすいという課題がある(非特許文献6、特にFigure3)。これに対し、腸溶性メタクリル酸コポリマーは、長期間の保存において非常に安定で、さらに、水蒸気の透過率が低い、すなわち、皮膜の防湿性にすぐれるという利点がある(非特許文献6、特にTable2)。
【0053】
「メタクリル酸コポリマー」は、「メタアクリレートコポリマー」ともいう。メタクリル酸コポリマーは、骨格にメタクリル酸モノマー単位を含むポリマーである。
【0054】
より好ましくは、メタクリル酸コポリマーは、アニオン性基であるメタクリル酸モノマー単位と、中性であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルモノマー単位(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと総称する)から構成される。アクリル酸又はメタクリル酸とエステル結合するアルキルとしては、炭素数1~4のアルキル、好ましくは炭素数1~3のアルキルを挙げることができる。アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとして、より具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸ブチルからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0055】
より好ましくは、腸溶性メタクリル酸コポリマーとして、下記メタクリル酸(式(I))と、アクリル酸エチル(式(IV))とのコポリマー(共重合体)、又はメタクリル酸(式(I))と、メタクリル酸メチル(式(II))及びアクリル酸メチル(式(III))とのコポリマー(共重合体)を挙げることができる。
【0056】
【化2】
【0057】
メタクリル酸コポリマーは、腸溶性であることが好ましい。すなわち、概ねpH 5未満の水溶液にはほとんど溶解せず、概ねpH 5以上で一気に溶解が始まるような閾値性を有することが好ましい。具体的には、コポリマー中でのメタクリル酸モノマーと他の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー単位との配合比率によって調整される。
コポリマーを形成するモノマーの総数(総単位数、もしくは、総基数)を100とした場合に、メタクリル酸モノマー単位を少なくとも5%、好ましくは5~70%、特に8~60%含有、より好ましくは、30~60%含有することが好ましい。なお、各モノマー単位の分子量を用いて、容易に、各モノマー単位の比率を質量%に換算できる。
【0058】
好ましいメタクリル酸コポリマーとしては、メタクリル酸(分子量86.04)40~60質量%と、メタクリル酸メチル(分子量100.05)60~40質量%、もしくはアクリル酸エチル(分子量100.05)60~40質量%とからなるポリマーである(例えば、EUDRAGIT(登録商標)L100又はEUDRAGIT(登録商標)L100-55等)。EUDRAGIT(登録商標)L100-55が特に適しており、これはメタクリル酸50質量%とアクリル酸エチル50質量%とからなるコポリマーである。EUDRAGIT(登録商標)L30D-55は、EUDRAGIT(登録商標)L100-55をおよそ30質量%含有する水性分散液である。なお、以下では、L30D-55及びL100-55をL30D55、L10055と記載する場合がある。これらの、メタクリル酸コポリマーは、pHが概ね5.5以上で溶解するように設定されている。
【0059】
他の好ましい例としては、メタクリル酸5~15質量%、メタクリル酸メチル10~30質量%、及びアクリル酸メチル(分子量86.04)50~70質量%とからなるコポリマーである。より具体的には、EUDRAGIT(登録商標)FSであり、これはメタクリル酸10質量%、メタクリル酸メチル25質量%、及び、アクリル酸メチル65質量%からなるコポリマーである。EUDRAGIT(登録商標)FS30Dは、EUDRAGIT(登録商標)FSをおよそ30質量%含有する分散液である。このメタクリル酸コポリマーは、pHが概ね7以上で溶解するように設定されており、よりpHの高い環境である、大腸送達を意図した場合に用いられることがある。
【0060】
上記、腸溶性メタクリル酸コポリマーは、一般的には、乳化重合プロセスによって、モノマーレベルから水溶液中で共重合過程を経て、非常に小さなコロイド状粒子を含む水性分散液(水性エマルジョン、又はラテックスと称することがある)が先に製造される。したがって、固体ポリマー成分の塩基性中和剤による中和による溶解工程を経由しなくても、概ね平均粒径1μm未満の非常に微細で安定したコロイド粒子の水性分散液(乳濁液)が得られるので、水性分散液として用いるのに適している(非特許文献1、Chapter.9)。
【0061】
EUDRAGITリーズ(Evonik社)L30D-55同等の水分散液、同等の商品化されたメタクリル酸コポリマーとしては、Kollicoatシリーズ(BASF社)MAE30D/DP、ポリキッドシリーズ(三洋化成社)PA-30も挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、これらの水分散液(水性エマルジョン)は、通常、0.3%未満の残留モノマー及び、その製造過程及び安定化のために、微量のポリソルベート80及びラウリル硫酸ナトリウムを含むが、本発明硬質カプセル皮膜、及び硬質カプセル調製液に対する不可避的に含まれる不純物として許容されうる。
【0062】
上記L30D―55及びその同等品は、医薬品添加物規格2018に定められたメタクリル酸コポリマーLDに該当する。すなわち、メタクリル酸とアクリル酸エチルの,ポリソルベート80(日局)及びラウリル硫酸ナトリウム(日局)水溶液中で得られた共重合体の乳濁液であり、共重合体構成成分メタクリル酸(C:86.09)11.5~15.5%を含む、とされている。
【0063】
この他、必ずしも商用化されていないものの、実用化可能なことが十分わかっている配合比のコポリマーとして特表2005-526546,H08-81392、DE2135073に開示されたような材料も本カプセルにおける、溶出特性(pH(閾値)依存性、中性~アルカリ性領域での溶出速度の制御など)、機械的強度の制御のために適宜用いることができる。すなわち、モノマーユニットのうちメタクリル酸(MAA),アクリル酸(AA)などカルボキシル基モノマー多いと固く、アクリル酸エチル(EA)、アクリル酸メチル(MA)などのユニットの比率が多いと軟らかいことはDE2135073にも記載されている。また、AA、MAA、MA、EAの3成分の配合比で、硬さ、割れやすさ(脆性)及び、溶出特性を制御できることは知られている。例えば、L30D55の一部をFS30D55で置換することで割れやすさを改善したり、pH 5.5程度より高めのpHまで溶出を抑制したりすることができる。
【0064】
本発明カプセル皮膜中には、第3成分として水不溶性のポリマーとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースを含む。
【0065】
「(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー」とは、実質的に中性の(メタ)アクリル酸コポリマーであり、主としてメタクリル酸もしくはアクリル酸のアルキルエステル中性モノマー単位から構成される。アクリル酸又はメタクリル酸とエステル結合するアルキルとしては、炭素数1~4のアルキル、好ましくは炭素数1~3のアルキルを挙げることができる。アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとして、より具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸ブチルからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。実質的に中性であるためには、中性モノマーの割合は、例えば95質量%超、98質量%超、99質量%超、又は100質量%である。ただし、ポリマー中のイオン性基の存在を完全に排除するものではなく、イオン性基、特にアニオン性基の含分が5質量%未満、好ましくは2質量%未満、好ましくは1質量%未満のメタクリル酸コポリマーが、含まれていても良い。
【0066】
これら実質的に中性の(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、同時に水不溶性である。
【0067】
より好ましくは、メタクリル酸メチル(分子量100.05)20~40質量%、アクリル酸エチル(分子量100.05)60~80質量%から成るコポリマーである(EUDRAGIT(登録商標)NE又はEUDRAGIT(登録商標)NMのタイプ)が適している。中でも、EUDRAGIT(登録商標)NE30DあるいはNM30Dが適しており、これはアクリル酸エチル70質量%と、メタクリル酸メチル30質量%とからなるコポリマー(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー)である。いずれの場合も、メタクリル酸(分子量86.04)を5質量%未満、好ましくは2質量%未満、好ましくは1質量%未満含みうる。
【0068】
これらは、乳化重合プロセスによって、モノマーレベルから水溶液中で共重合過程を経て、非常に小さなコロイド状粒子を含む水性エマルジョン(ラテックス)を先に製造できる。したがって、水不溶性であるにもかかわらず、有機溶剤等による溶解工程を経由しなくても、平均粒径1μm未満の非常に微細なコロイド粒子の水性分散液(乳濁液)が得られる(非特許文献1、Chapter.9)。
【0069】
NE30Dは、また、医薬品添加物規格2018に定められた、「アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液」に該当し、アクリル酸エチルとメタクリル酸メチルをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(100E.O.)を乳化剤として,水溶液中で重合して得られた共重合樹脂の乳濁液で,微量の「ジメチルポリシロキサン(内服用)」を含みうるものとされる。他方、NM30Dは乳化剤として微量のマクロゴールステアリルエーテル(MacrogolStearylether)を含みうる。
【0070】
これらの、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、そのガラス転移温度が100℃未満、あるいは、造膜温度(Minimum Film-forming Temperture、MFT)が、50℃未満であり、特に腸溶性メタクリル酸コポリマーのコロイド粒子を含む分散液を乾燥させて皮膜化した場合に、粒子間の融着を促して、透明かつ割れにくい乾燥皮膜を得る効果がある。また、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、適度な添加量においては、耐酸性を損ねることがないという利点を有する。
【0071】
エチルセルロースは、セルロースの水酸基をエチルエーテル化したもので、エーテル化度約2.6の高置換度エチルセルロースであり、水にほとんど溶けない。ダウケミカル(DOW Chemical)社のETHOCEL(登録商標)シリーズがある。
【0072】
エチルセルロースも、有機溶剤中にエチルセルロースを溶解し、これを乳化剤の存在下に水中に微分散した後、分散液から有機溶剤を留去することなどにより、0.01~0.1μmオーダーの径の非常に微粒子の水性分散液を得ることができる。市販品としては、アクアコートECD30(FMC社)、シュアリース(カラコン社)などが使用できる。
【0073】
医薬品添加物規格2018では、エチルセルロース及びエチルセルロース分散液として定められている。同エチルセルロースは、エトキシ基(-OC)46.5~51.0%を含む。また、同エチルセルロース分散液は、エチルセルロースを主成分とする水懸濁剤であり、エチルセルロースの微粒子(0.1~0.3μm)からなる水系高分子分散体で、「エチルセルロース」,セタノール(日局)及びラウリル硫酸ナトリウム(日局)の混合物である。本品の固形分濃度は28~32%であり、定量するとき、エチルセルロース24.5~29.5%を含むほか,セタノール(C1634O:242.44)1.7~3.3%及びラウリル硫酸ナトリウム(C1225NaOS:288.38)0.9~1.7%を含む、と定義されている。
【0074】
本発明の腸溶性硬質カプセル皮膜には、さらに、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、界面活性剤(乳化剤)、基剤、結合剤、コーティング剤等を含んでいてもよい。また、溶解性、特に、中性pH領域での溶出特性を制御するための徐放化剤、溶解補助剤、可溶化剤等を含んでいても良い。医薬品添加物として許容される上記添加物としては、例えば、医薬品添加物辞典、2016年版(日本医薬品添加剤協会 編集、薬事日報社)に、前記用途別に記載されているものを使用することができるがこれらに限定されるものではない。なお、これら添加物は、複数の用途に重複して分類される場合もある。
【0075】
可塑剤は、上記医薬品添加物辞典で示される具体的物質に必ずしも限定されず、医薬品又は食品組成物に使用でき、カプセル皮膜に添加して柔軟性を付与しうるものであれば特に制限されないが、適当な物質は、一般に分子量(Mw)が100~20,000であり、かつ1分子中に1つ又は複数の親水基、例えばヒドロキシル基、エステル基、又はアミノ基を有するものである。
【0076】
例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ポリエステル、エポキシ化ダイズ油、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル、カオリン、クエン酸トリエチル、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ゴマ油、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物、D-ソルビトール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トウモロコシデンプン由来糖アルコール液、トリアセチン、濃グリセリン、ヒマシ油、フィトステロール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリソルベート80、マクロゴール1500、マクロゴール400、マクロゴール4000、マクロゴール600、マクロゴール6000、ミリスチン酸イソプロピル、綿実油・ダイズ油混合物、モノステアリン酸グリセリン、リノール酸イソプロピルなどを挙げることができる。相溶性に優れ、高い光沢性を付与するという観点から、特に、プロピレングリコール、及び、ポリエチレングリコールが好適である。ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、特に制限されないが、高い光沢を付与するという観点から、好ましくは200~35000である。なお、MCやHPMCに比べて柔らかいヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、可塑剤として用いることができる。
【0077】
界面活性剤(あるいは、乳化剤ともいう)は、可溶化剤、懸濁化剤、乳化剤、分散剤、溶解補助剤、安定化剤、基剤などとしても用いられることもあるが、基本的には、分子内に親水基と、親油基(疎水基)を持つポリマーである。
【0078】
具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムポリオキシエチレン(40)モノステアレート(ステアリン酸ポリオキシル40*)、ソルビタンセスキオレエート(セスキオレイン酸ソルビタン*)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80*)、グリセリルモノステアレート(モノステアリン酸グリセリン*)、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ラウロマクロゴール*)などがあげられる。(*:日本薬局方中の表記)。この他にも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル(モノステアリン酸プロピレングリコール、モノカプリル酸プロピレングリコール等)、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレンノニフェニルエーテル、などがあげられる。界面活性剤(あるいは乳化剤)は、先述のように、メタクリル酸コポリマーや(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーの乳化重合に際して、不可避的に残留する成分も含みうる。
【0079】
本発明の腸溶性硬質カプセル皮膜には、さらに、滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤、結合剤等を、高々5質量%程度含んでいてもよい。金属封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸、酢酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、又はこれらの塩、メタホスフェート、ジヒドロキシエチルグリシン、レシチン、β-シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0080】
滑沢剤としては、医薬品又は食品組成物に使用できるものであれば特に制限されない。例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、カルナバロウ、でんぷん、ショ糖脂肪酸エステル、軽質無水ケイ酸、タルク、水素添加植物油等を挙げることができる。
【0081】
金属封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸、酢酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、又はこれらの塩、メタホスフェート、ジヒドロキシエチルグリシン、レシチン、β-シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0082】
着色剤、遮光剤としては、医薬品又は食品組成物に使用できるものであれば特に制限されない。着色剤としては、例えばアセンヤクタンニン末、ウコン抽出液、塩化メチルロザニリン、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、オパスプレーK-1-24904、オレンジエッセンス、褐色酸化鉄、カーボンブラック、カラメル、カルミン、カロチン液、β-カロテン、感光素201号、カンゾウエキス、金箔、クマザサエキス、黒酸化鉄、軽質無水ケイ酸、ケッケツ、酸化亜鉛、酸化チタン、三二酸化鉄、ジスアゾイエロー、食用青色1号及びそのアルミニウムレーキ、食用青色2号及びそのアルミニウムレーキ、食用黄色4号及びそのアルミニウムレーキ、食用黄色5号及びそのアルミニウムレーキ、食用緑色3号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色2号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色3号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色102号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色104号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色105号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色106号及びそのアルミニウムレーキ、水酸化ナトリウム、タルク、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィル、ハダカムギ緑茶エキス末、ハダカムギ緑茶抽出エキス、フェノールレッド、フルオレセインナトリウム、d-ボルネオール、マラカイトグリーン、ミリスチン酸オクチルドデシル、メチレンブルー、薬用炭、酪酸リボフラビン、リボフラビン、緑茶末、リン酸マンガンアンモニウム、リン酸リボフラビンナトリウム、ローズ油、ウコン色素、クロロフィル、カルミン酸色素、食用赤色40号及びそのアルミニウムレーキ、水溶性アナトー、鉄クロロフィリンナトリウム、デュナリエラカロテン、トウガラシ色素、ニンジンカロテン、ノルビキシンカリウム、ノルビキシンナトリウム、パーム油カロテン、ビートレッド、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ベニコウジ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、マリーゴールド色素、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、アカネ色素、アルカネット色素、アルミニウム、イモカロテン、エビ色素、オキアミ色素、オレンジ色素、カカオ色素、カカオ炭末色素、カキ色素、カニ色素、カロブ色素、魚鱗箔、銀、クサギ色素、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、クーロー色素、クロロフィン、コウリャン色素、骨炭色素、ササ色素、シアナット色素、シコン色素、シタン色素、植物炭末色素、スオウ色素、スピルリナ色素、タマネギ色素、タマリンド色素、トウモロコシ色素、トマト色素、ピーナッツ色素、ファフィア色素、ペカンナッツ色素、ベニコウジ黄色素、ベニノキ末色素、ヘマトコッカス藻色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、油煙色素、ラック色素、ルチン、エンジュ抽出物、ソバ全草抽出物、ログウッド色素、アカキャベツ色素、アカゴメ色素、アカダイコン色素、アズキ色素、アマチャ抽出物、イカスミ色素、ウグイスカグラ色素、エルダーベリー色素、オリーブ茶、カウベリー色素、グースベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、ストロベリー色素、ダークスィートチェリー色素、チェリー色素、チンブルベリー色素、デュベリー色素、パイナップル果汁、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、プラム色素、ブルーベリー色素、ベリー果汁、ボイセンベリー色素、ホワートルベリー色素、マルベリー色素、モレロチェリー色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、レモン果汁、ローガンベリー色素、クロレラ末、ココア、サフラン色素、シソ色素、チコリ色素、ノリ色素、ハイビスカス色素、麦芽抽出物、パプリカ粉末、アカビートジュース、ニンジンジュースなどを挙げることができる。
【0083】
遮光剤としては、例えば酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用緑色3号アルミニウムレーキ、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色102号アルミニウムレーキ、食用赤色104号アルミニウムレーキ、食用赤色105号アルミニウムレーキ、食用赤色106号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキを挙げることができる。
【0084】
医薬用硬質カプセルにおいては、内容物の紫外線等による劣化を防止するため、特に、遮光剤として酸化チタンを添加することができる。
【0085】
結合剤としては、ポリビニルアルコールがあげられる。「ポリビニルアルコール」(PVA)は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる重合物であり、通常、けん化度が97%以上で下記式(1)で表される完全けん化物と、けん化度が78~96%で下記式(2)で表される部分けん化物とがある。本開示では、上記完全けん化物及び部分けん化物のいずれも使用することができる。特に制限されるものではないが、けん化度、n/(n+m)が、78~90%、特に87~90%程度の部分けん化物が好ましく用いられる。
【0086】
【化3】
【0087】
PVAの平均重合度(n)は、フィルム形成能を発揮し得る範囲であればよく、特に制限されるものではないが、通常は400~3300、特に1000~3000程度であることが好ましい。なお、上記平均重合度とけん化度から、係るPVAの重量平均分子量を算出すると約18000~約200000になるが、特にこれに制限されるものではない。PVAの添加により、腸溶性を維持しながら、カプセル皮膜に適度な機械強度(弾性率と割れにくさ)をもたらすことができる。
【0088】
なお、本開示において、PVA及びPVA共重合体を併用してもよい。PVA共重合体としては、前述するPVAに重合性ビニル単量体を共重合させて得られるPVA共重合体を挙げることができる。PVA共重合体として好ましくは、前述する部分けん化PVAを骨格として、アクリル酸とメチルメタクリレートを共重合化した高分子共重合体である。商業的に入手可能なPVA共重合体として、POVACOAT(登録商標)シリーズ(日新化成株式会社)を例示することができる。
【0089】
2.腸溶性硬質カプセル
本発明の第1の態様は、腸溶性硬質カプセルに関する。
【0090】
具体的には、(a)第1成分、及び第2成分を含む、又は(b)第1成分、及び第2成分を含む、さらに第3成分、及び第4成分からなる成分の少なくとも一種を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルである。第1成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである。第2成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーである。第3成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースである。第4成分は、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種である。好ましくは、前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とした場合の第1成分の割合が、30~70質量%、第2成分の割合が、30~60質量%、第1成分と第2成分の割合の合計が70質量%以上である、腸溶性硬質カプセルである。このうち、第1成分は、主として支持体なく自立したカプセル形状となる皮膜形成を助け、第2成分は腸溶性機能を付与するための基本的な成分である。第3,4成分は、カプセル皮膜の機械的強度、表面のサブミクロンオーダーの平坦性等の改善に寄与する。
【0091】
本発明の第1成分として用いられる水溶性セルロース化合物の粘度値を6mPa・s以上とする理由は以下の通りである。
【0092】
従来、pHに依存せず、速溶性で遅延のない溶解性が重視される経口投与のヒプロメロース硬質カプセルでは、水溶性セルロースの表示粘度(粘度グレード)値として、3~15mPa・s、好ましくは3~6mPa・sのものが用いられている(特開平08-208458号公報、特開2001-506692号公報、特開2010-270039号公報、特開2011-500871公報)。これらにおいては、皮膜中のほぼ100%(ゲル化剤、ゲル化助剤、遮光剤、着色料等、0~5質量%程度及び、0~10質量%程度の残留水分を含む場合がある)が水溶性セルロース、特にHPMCである。アセトアミノフェンを指標とした溶出試験では、その溶出速度は、pHにはほとんど依存せず、水溶性セルロースの分子量、従って、粘度値で決まり、通常、pH1.2試験液、6.8試験液及び純水において、30分以内で内部のアセトアミノフェンが100%溶出する速崩壊性カプセルである。他方、粘度値が10mPa・s以上では、溶出遅延を起こす傾向があるので、実際上使用されていない。
【0093】
本発明においては、粘度値が6mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、さらに好ましくは、15mPa・s以上の水溶性セルロース化合物を腸溶性メタクリル酸コポリマーと同量程度以上添加することで、メタクリル酸コポリマー単独ではなしえない硬質カプセルに適した機械的特性を実現できる。なお、理論に拘束されるものではないが、水溶性セルロース化合物は、一般的に比較的柔らかいか脆い腸溶性メタクリル酸コポリマーに対してフィラーとしての機能を発揮しているものと考えられる。さらに、比較的高分子量であるため、水分の侵入による膨潤を適度に抑制し、主成分である腸溶性メタクリル酸コポリマーの有する耐酸性機能を損ねることがない。むしろ、粘度値が6mPa・s未満の低粘度値(低分子量)グレードでは、pH 1.2での溶出が起きてしまい、耐酸性性能が不十分となる。また、フィラーとしての効果が不十分となり割れやすくなる。
【0094】
他方、pH 6.8試験液では、腸溶性メタクリル酸コポリマーが速やかな溶解を促すので、粘度値が6mpa・s以上、さらには、10mPa・s以上であっても溶解遅延が起きにくい。
【0095】
第2成分の腸溶性メタクリル酸コポリマーとしては、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマー又は、メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。より好ましくは、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであり、概ねpH 5以下では、ほとんど溶出が起きず、概ねpH 5.5以上で速やかに溶解する。
【0096】
本発明の第1の態様においては第3成分として水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースを含みうる。水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー、特に、造膜温度(ガラス転移点)が低いものは、腸溶性メタクリル酸コポリマーの粒子を結合し、滑らかな皮膜形成を促進する。他方、その水不溶性により、良好な耐酸性を維持できる。エチルセルロースにおいても皮膜の割れやすさを改善するとともに、その水不溶性により、良好な耐酸性を維持できる。
【0097】
さらに、カプセル皮膜の機械的強度、特に割れ性を改善するために、第4成分として、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、及び界面活性剤(乳化剤)よりなる群から選択される少なくとも一種を含みうる。
【0098】
第1の態様にかかるカプセル皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分の質量の合計を100質量%とし、それぞれの成分の割合をα、β、γ、δ(質量%)、α+β+γ+δ=100、とした場合、水溶性セルロース化合物の割合αとしては、30質量%以上であることが好ましく、40%以上とすることがより好ましい。30質量%未満では割れやすくなる傾向がある。他方、70質量%より多いと、pH 1.2における耐酸性の劣化、もしくは、pH 6.8(中性)における溶出の遅延を招く傾向がある。
【0099】
なお、粘度値が概ね100mPa・sを超える場合、αが30質量%を超えると、pH 6.8の緩衝液でも溶解が遅くなり、腸に移行して徐放的となる(75%以上の溶出率に達するのに概ね60分以上を要する)傾向がある。他方、腸内に移行して速やかな溶解を求める場合は、粘度値10~100mPa・sの水溶性セルロース化合物を用いるのが好ましい。
【0100】
水溶性セルロース化合物の割合αの上限は70質量%であることが好ましく、60質量%とすることがより好ましい。70質量%を超えると対応する第2成分の割合は、必然的に30質量%未満となり、良好な腸溶性を維持することができない。
【0101】
第2成分である腸溶性メタクリル酸コポリマーの割合βは、30質量%以上であることが、腸溶性硬質カプセルとして十分な耐酸性を発揮することができ好ましい。より好ましくは、35質量%以上である。他方、カプセル皮膜の適度な硬さと割れにくさを維持するために、βの上限は、60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下とする。本発明においては、第1成分と第2成分は必須であり、その合計量の割合、(α+β)/(α+β+γ+δ)は、70質量%以上であることが好ましい。本発明の腸溶性硬質カプセは後述のような特徴なる微細構造を有するため、特にα>β、となっても、良好な耐酸性(腸溶性)を実現できる。より具体的には、αが40~60質量%、βが30~50質量%であるような組成がより好ましい。
【0102】
第3成分である水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー又はエチルセルロースは、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが好ましい。第3成分は、可塑剤としても機能するが、別途、第2成分の一部を置換して用いる。すなわち、γ/βが0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることが好ましい。
【0103】
さらに、前記皮膜に含まれる第4成分の割合である、δとしては12質量%以下、好ましくは、10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下とする。第4成分が多すぎると、腸溶性が損なわれる傾向がある。また、可塑剤の一部は、特に、高湿度下でのカプセル皮膜の高度を低下させる傾向がある。
【0104】
なお、本発明において、粘度値6mPa・s以上のMC、又はHPMCの混合物を用いても良いし、異なる粘度値を有するMC及び/又はHPMCを混合して用いても良く、粘度値6mPa・s以上であるこれらの水溶性セルロース全体の量を、第1成分とみなし、その割合をα質量%とすることができる。以下、第2、第3、第4成分についても同様であり、複数種類の腸溶性メタクリル酸コポリマーを用いた場合は、その全体量を第2成分とみなし、その割合をβ質量%とし、複数種類の水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー及び/又はエチルセルロースを用いた場合は、その全体量を第3成分とみなし、その割合をγ質量%とする。第4成分についても、複数種類の可塑剤、界面活性剤(乳化剤)を同時に用いる場合その全体量を第4成分とみなし、その割合をδ質量%とする。
【0105】
なお、本開示の腸溶性硬質カプセル皮膜には、さらに、滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤、結合剤等を、概ね5質量%程度含んでいてもよい。
【0106】
本発明カプセル皮膜中には、腸溶性メタクリル酸コポリマーの中和による塩の存在、及び、それに伴う他の皮膜成分の中和物の存在を許容しうる。すなわち、腸溶性メタクリル酸コポリマーの一部はその薬学的に又は食品添加物として許容される塩としてカプセル皮膜中に存在してもよい。前記塩として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を挙げることができる。好ましくは、当該塩として、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を挙げることができる。特に好ましいのは、Na塩である。具体的には、腸溶性メタクリル酸コポリマーのカルボキシル基が、Naなどの金属イオンにより中和され、-COONaなどの基として固体皮膜中に安定に存在しうる。これら中和された酸(カルボン酸等)残基の割合は、例えば、腸溶性メタクリル酸コポリマーに含まれる中和前のカルボキシル残基のモル数(基数)を100%としたときに、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。これを中和度と称する(中和度の詳細な定義は、態様2で説明)。過剰な塩の存在は、皮膜が割れやすくなったり、塩の析出による皮膜の劣化、水の過剰な浸透による崩壊を起こしうるので好ましくない。他方、適度な塩の存在は、腸溶性メタクリル酸コポリマーを含むカプセル皮膜の水による浸透、膨潤を助ける。カプセル皮膜の膨潤は、キャップとボディの隙間を密着せしめ、溶出をより完全に防ぐ効果がある。このためには、中和度は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。結果、カプセル皮膜に含まれる塩は、その水酸化物(Na塩の場合、NaOH質量)に換算して、皮膜重量に対して、0.2質量%以上が好ましく、より好ましくは、0.5質量%である。他方、2質量%以下でることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0107】
本開示のカプセル皮膜には、適度な可塑性を保持し割れにくさを維持するため、2~10質量%の残留水分(含有水分)が含まれるのが好ましい。通常、30℃から100℃の範囲で成形後のカプセルを乾燥処理すると、所定の飽和残留水分値に落ち着く。当然、飽和水分値に落ち着くまでの時間は、高温で乾燥処理した場合の方が短い。残留水分は、カプセル保存時の環境湿度にも依存するが、ほぼ可逆的に変化する。すなわち、30~100℃で、十分乾燥処理したあとの残留水分値は、さらに、一定温度、相対湿度下で数日間保管した場合、一定の飽和水分値に収束する。本発明においては、室温で相対湿度43%に数日間保管した後の飽和水分値を用いる。
【0108】
皮膜中の残留水分の室温、43%相対湿度における飽和水分値(含有水分量)として、カプセル皮膜全質量に対して、少なくとも2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましい。他方、含有水分量が多すぎると、長期間保存した場合に、内部に充填した薬物と反応を起こす場合があるので、10%以下であることが好ましく、8%以下とするのがより好ましく、6%以下とすることがさらに好ましい。
【0109】
飽和水分量は乾燥減量での含水率で表すことができ、その測定は、以下のようにして行うことができる。
【0110】
<乾燥減量法によるカプセル皮膜中の含有水分量の測定方法>
デシケーターに、炭酸カリウム飽和塩を入れて恒湿状態とした雰囲気中に試料(硬質カプセル、又はフィルム)を入れ密閉し、25℃で1週間調湿する。なお、調湿には、以下の飽和塩(水溶液)を用いる。すなわち、酢酸カリウム飽和塩、炭酸カリウム飽和塩、硝酸アンモニウム飽和塩の存在下では、それぞれ、相対湿度約22%、43%、63%の雰囲気を作成することができる。調湿後の試料の質量(湿質量)を測定した後、次いで当該試料を105℃で2時間加熱乾燥し、再度試料の質量(乾燥質量)を測定する。乾燥前の質量(湿質量)と乾燥後の質量(乾燥質量)の差から、下式に従って、105℃で2時間加熱乾燥することによって減少する水分量の割合(含水率)を算出し、これを含有水分量(質量%)とする。
【0111】
【数1】
【0112】
本発明にかかる腸溶性硬質カプセルは、ヒト又は動物の対象への経口投与を意図した、市販されている従来の硬質カプセルと同一又は類似の形状及び機械的強度(硬さと割れにくさ)を有することが望ましい。参考とすべき市販の硬質カプセルとは、ゼラチン、又はHPMC(ヒプロメロース)カプセルである。したがって、そのカプセルの皮膜の厚みは、50μm以上、好ましくは60μm以上であり、さらに好ましくは70μm以上である。他方上限は、250μm以下であり、好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下である。特に、70~150μmの範囲が、市販の充填機でそのまま使用することに適している。かかる厚みにおいて、市販の硬質カプセル皮膜として同等の機械的強度を有することが必要である。機械的強度は、短冊状に調製した皮膜を用いて、高分子フィルムに通常適用される「引張強度試験」によって評価できる(非特許文献1、Chapter 4)。
【0113】
硬質カプセルの皮膜の機械強度を評価する場合、被験皮膜の厚みをそろえて比較することが重要である。このため、硬質カプセルの各成分組成に依存する皮膜の機械強度は、硬質カプセル調製液の各成分組成と同一成分組成である調製液を用いて、キャスト法によりフィルムを作製し、当該キャストフィルムを用いて評価することができる。
【0114】
キャストフィルムは、室温に保持したガラス面上又はPETフィルム上に金属性のアプリケーターを設置し、50℃~60℃の調製液を流しこみ一定速度で移動させ100μmの均一なフィルムを作製する。その後、室温~30℃で10時間程度の乾燥を行う。
【0115】
100μmの均一な膜厚のフィルムを得るため、ギャップが0.4mm~1.5mmのアプリケーターを適宜使い分けてもよい。
【0116】
作製したフィルムは、例えば、5mm×75mmのダンベル形状(JIS K-7161-2-1BAで規定)にカットした後、例えば、小型卓上試験機(島津製作所EZ-LX)を用いて引張試験を行うことができる。具体的には、フィルムの両端をホルダーにセット(ギャップ長60mm)し、引張速度、10mm/minで引張、フィルムの伸びとフィルム内に生じる応力(引張応力)-伸び率(ひずみ)曲線を示す。図5に、代表的な伸び-引張応力試験結果を示す。図中における低応力時の弾性変形領域の傾きから、硬さの指標である弾性率をもとめ、破断点における伸び率を破断伸び率(%)を求めることができる(非特許文献1、Chapter4)。なお、フィルムの厚みが、100μm±50μmの範囲であれば、弾性率は、近似的に膜厚に比例するものとして、100μm膜厚値に規格化して求める。破断伸び率は、この範囲の膜厚では、ほぼ膜厚に依存しないと考えてよい。
【0117】
前記機械的強度が、通常の使用条件(温度5~30℃程度、相対湿度20~60%程度)の環境下で維持されることが望ましい。例えば、作製したフィルムを、25℃、相対湿度22%(酢酸カリウム飽和塩を使用)の条件の調湿下で一週間以上調湿した後、引張試験を実施し機械的強度を評価することができる。引張試験は、25℃、相対湿度22%の温湿度環境下で行うことが好ましい。
【0118】
硬さの指標である弾性率(ヤング率)は、1~5GPaであることが好ましく、2~5GPaであることがより好ましい。引張試験で評価される割れにくさの指標である破断伸び率は、2~30%程度であることが好ましく、3~20%程度であることがより好ましい。通常、本発明腸溶性硬質カプセル皮膜の硬さと割れにくさは、この範囲でトレードオフの関係にあることが多い。コーティング皮膜や軟カプセル皮膜では、より柔らかく、破断伸び率が大きい場合が多い。例えば、破断伸び率が30%を超えるような皮膜は、通常は柔らかすぎて、自立した硬質カプセル皮膜としては適さないことが多い。本発明腸溶性硬質カプセルの硬度は、室内条件におけるほとんどの相対湿度、温度範囲で、1~5GPaの範囲の弾性率が得られ、さらに2GPa以上とすることができる。他方、前述のように、カプセル皮膜中に数%程度存在する水分は、通常可塑剤として機械的強度、特に割れ性、に影響しうる。相対湿度が低い使用・保存条件下では、含有水分量が減少し、例えば2~3%程度になると割れやすくなる傾向がある。通常、破断伸び率が2%を下回ると、通常のハンドリングにおいても顕著に割れやすくなる。本発明では、特に、比較的低湿度の22%相対湿度、温度25℃の環境下で調湿及び引張試験を行い、破断伸び率が2~30%である皮膜を得ることができ、さらに、破断伸び率を3%以上とできる。
【0119】
第1の態様にかかる腸溶性硬質カプセル皮膜は、水溶性セルロース化合物を主成分とする相と、実質的にその他の成分からなる相とに分離した多相構造を呈する。当該構造を、水溶性セルロース化合物を主成分とする相を「島」相、実質的にその他の成分からなる相を「海」相と見做し、海島構造と称する。島相は実質的に第1成分からなるコア粒子からなる相である。ここで、「実質的に」とは、島相には、他の成分、が微量侵入して含まれうることを意味し、一方、海相には、一部溶解した第1成分が含まれうることを意味する。また、海相には、第2成分であるメタクリル酸コポリマー、可塑剤、遮光剤、顔料、色素、滑沢剤等も含まれる。島部分は必ずしも海に囲まれて孤立していることを意味せず、島同士、海同士が連結しているラメラ状の構造を有していても構わない。μmオーダー以上の2相構造としてとらえることができる。「海島構造」は、後述の実施例において示されているように、硬質カプセル皮膜の横断面を走査型電子顕微鏡等で観察することで確認することができる。また、各成分の島又は海への分布状態は、ラマン顕微鏡等で観察することで推定できる。
【0120】
本開示において、特に、第1成分の含有量αが、30~70質量%であり、第2成分の腸溶性メタクリル酸コポリマーの含有量βが、30~60質量%であって、第2成分の量が比較的少なくても、十分な腸溶性が担保されるのは、第1成分からなるコア粒子が、第2成分の分子もしくはコロイド粒子によって被覆されているためと推定される。すなわち、1μmないしは10μmオーダーのサイズの第1成分の個々のコア粒子が、個別に腸溶コーティングされており、それらが凝集した皮膜構造を有しているためであると推定される。
【0121】
このような多相、すなわち「海島構造」は、後述のように溶液状態での一種の分散液の準平衡状態を経る必要があるため、皮膜成分ポリマーの熱可塑性を利用した射出成形や押し出し成形によっては形成困難と推定される。また、第1成分を一旦溶解させて熱ゲル化過程を経て皮膜化される場合もこのような海島構造を形成することは困難であると推定される。
【0122】
各島相の大きさは、硬質カプセルの調製に用いた水溶性セルロース化合物の固体微粒子の大きさに依存する。通常、短径は皮膜厚み方向であり、皮膜厚みの1/3以下、さらには、1/4以下であることが好ましい。硬質カプセル皮膜中の島相は短径が0.1μm以上、かつ30μm未満であることが好ましい。より好ましくは、島相は短径が0.2μm以上、かつ20μm未満である。このような島相のサイズを実現するためには、水溶性セルロースポリマー(メチルセルロース/ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の乾燥原料粉末の平均粒径は、1~100μmであることが好ましい。本開示では、粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる散乱パターンから等価な球体の粒子径を求めるレーザー回折法による。特に、粒径100μm以上の粉末の体積分率は、50%未満であることが好ましく、40%未満であることがさらに好ましい。
【0123】
なお、レーザー回折法及び同法によって得られる粒径、平均粒径、体積分率などの定義は、JIS Z 8825による。
【0124】
3.腸溶性硬質カプセル調製液及びその調製方法
本発明の第2の態様は、上記2.に記載の腸溶性硬質カプセルを調製するための調製液(単に「調製液」ともいう)に関する。本発明硬質腸溶性カプセルは、本態様調製液を乾燥して溶媒を除去して得られる皮膜からなる。
【0125】
具体的には、20℃における2%水溶液の「粘度値」が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである第i成分と、腸溶性メタクリル酸コポリマーである第ii成分と、及び塩基性中和剤と、溶媒とを含を含む腸溶性硬質カプセル調製液である。
【0126】
ここで、調製液に用いる溶媒は、水を主成分とし、特に、精製水であることが好ましい。ただし、水溶性セルロース化合物、及び/又は腸溶性メタクリル酸コポリマーの固体粉末から分散液を得る溶解過程において、水と;エタノール及び無水エタノールから選択される少なくとも一種と;の混合溶媒を用いることができる。本発明の調製液の調製中、あるいは、浸漬工程においては、このエタノールはほとんどが蒸発するため、浸漬中の調製液としては、実際上、水分の含有量が80質量%であり、さらに好ましくは90質量%以上である。不可避的に含まれる不純物を除き、実質的に100%の精製水を用いることが好ましい。
【0127】
前述のように、第i成分のメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースは、未溶解の水溶性セルロースの微粒子(通常1~100μm径)を水に溶解させる場合、まず、曇点T0(下限臨界共溶温度)以上で分散させたのち、水温を下げて溶解させると、微粒子が表面から徐々に溶解をはじめ、膨潤するが、概ね30℃以上では、完全に溶解することはなく、(膨潤した)固体微粒子の分散状態を保っている。すなわち、分散液(サスペンション)となる。分散液をかき回しながらその温度を30~60℃の範囲の適当な温度に保つことにより、該分散状態は、少なくとも数日間は安定である。
【0128】
より好ましくは、第ii成分としては、乳化重合プロセスによって、モノマーレベルから水溶液中で共重合過程を経て、その径が概ね0.01μm程度より大きく、1μ未満の非常に小さなコロイド状粒子を含む水性エマルジョンが先に形成される、腸溶性メタクリル酸コポリマーのコロイド分散液を用いることが好ましい。これにより、固体ポリマー成分の塩基性中和剤による中和による溶解工程を経由しなくても、概ね平均粒径1μm未満の非常に微細なコロイド粒子の分散液が得られる。
【0129】
あるいは、乳化重合により生成された水性エマルジョンの水分を蒸発させて乾燥させ、固形分のみ抽出して得られる、固形粉末化された腸溶性メタクリル酸コポリマーを用いる場合、水中で塩基性中和剤で部分的に中和することにより、再び水性分散液を得ることができる。
【0130】
当該塩基性中和剤としては、薬学的又は食品添加物として許容される化合物である限り、制限されない。当該塩基性中和剤として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。好ましくは、当該塩基性中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を挙げることができる。さらに好ましくは、塩基性中和剤は、水酸化ナトリウムである。
【0131】
これらの金属水酸化物もしくはアンモニアに替えて、もしくはさらに加えて、塩として、リン酸水素2ナトリウム(NaHPO)、亜硫酸2ナトリウム(NaSO)、クエン酸3ナトリウム・2水和物(CNa・2HO)、グルコン酸カルシウム・1水和物(C1222CaO14・HO)、DL-リンゴ酸2ナトリウム・n水和物(NaOOCCH(OH)CHCONa・nHO)などを用いることができる。中でも、リン酸水素2ナトリウム、亜硫酸2ナトリウム、クエン酸3ナトリウムが好ましく、特にリン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0132】
なお、塩基性中和剤が、アンモニア、もしくは炭酸アンモニウムである場合は、皮膜形成後、アンモニアを揮発させて、皮膜中の塩をできるだけ除去することが望ましい。
【0133】
第ii成分の完全中和の当量、及び中和度は以下のように定義できる。
【0134】
第ii成分を完全に中和するためには、第ii成分に含まれるカルボキシル基の1モルに対して、塩基性中和剤に由来する陽イオンが等価以上となるように添加することで達成される。なお、塩基性中和剤に由来する陽イオンが2価以上の場合には、1/価数で置き換える。第iii成分と塩基性中和剤とを、塩基性中和剤に由来する陽イオンが第ii成分に含まれるカルボキシル基とほぼ等価量となるように溶媒に溶解した場合を完全中和という。等価である陽イオンのモル数、すなわち「当量(等モル量)」は、例えば、腸溶性メタクリル酸コポリマーに含まれる中和前のカルボキシル残基のモル数(基数)を100%中和によって封鎖しうる量の陽イオンのモル数である。
【0135】
具体的には、目的とする腸溶性メタクリル酸コポリマー1gを中和するために必要なKOH(分子量56.10)の質量、(KOH)mg/gとして規定(KOH当量)することができる。また、中和度は、完全中和に必要な塩基性中和剤の当量に対する、実際に添加された塩基性中和剤の質量の割合で定義される。塩基性中和剤が水酸化ナトリウムNaOH(分子量40.00)、及び水酸化カルシウムCa(OH)(分子量74.09)、アンモニアNH(分子量17.03)、炭酸アンモニウム(NHCO(分子量96.09)である場合の当量は、下式
【0136】
[数2]
[(KOH当量)×(塩基性中和剤の分子量/価数)]/(KOH分子量)
で換算して得られる。
【0137】
通常、完全中和に必要な塩基性中和剤の当量は、メーカーによって、カルボキシル基の置換度の許容範囲として、±10~20%程度の幅を持って表示されうる。
【0138】
例えば、第ii成分がEvonik社製Eudragit, L30D-55、L100-55である場合、そのKOH当量は、301.2mg/gとされ、塩基性中和剤が水酸化ナトリウムである場合は、214.8mg/gとなる。また、アンモニアである場合には、91.4mg/gとなる。第ii成分がEvonik社製Eudragit, FS30Dである場合、そのKOH当量は、56.7mg/g、塩基性中和剤が水酸化ナトリウムである場合は、40.4mg/g、アンモニアである場合には、17.2mg/gとなる。より正確な中和当量は、一般的な滴定法によって決定できる。
【0139】
中和度とは、中和当量に相当する塩基性中和剤の量に対して、実際に添加した塩基性中和剤の質量比で定義される;
[数3]
中和度(%)=(加えた塩基性中和剤の質量)/{(中和当量、質量)×腸溶性ポリマーの質量}×100
【0140】
例えば、腸溶性メタクリル酸コポリマー、L30D-55、Γgに対して、ΕmgのNaOHを用いた場合、その中和度は、Ε/(241.8×Γ)×100(%)、となる。中和度は、同時に、カルボン酸残基のモル数のうち中和により封鎖された残基のモル数と等しい。
【0141】
塩基性中和剤は、2種類以上、併用することもでき、その場合の中和度は、それぞれの中和剤の中和度の合計とみなす。例えば、L30D-55に対し、NaOHを中和度が8%相当となるように加え、さらに、Na2HPO4(KOH当量、316mg/g)を中和度が6%相当となるよう加えた場合、全体としての中和度を14%とみなすことができる。
【0142】
本発明において、腸溶性メタクリル酸コポリマーの例である、L30D-55のコロイド分散液のpHは約2~3であり、部分中和後のpHは、5~6の範囲となる。
【0143】
予め、乳化重合においてコロイド粒子化された水性分散液(ラテックス)として供される腸溶性メタクリル酸コポリマーを用いる場合、さらに塩基性中和剤を用いるのは、第ii成分のコロイド分散液中のコロイドのさらなる溶解や微細化のためではなく、後述のように、第i成分との混合分散液の安定性を実現するためであり、少量で十分である。その添加量は、腸溶性メタクリル酸コポリマーに対する中和度として、高々20%以下でよく、好ましくは、15%以下である。これにより、カプセル調製液のpHは概ね5~6の範囲となる。
【0144】
前記第i成分、及び第ii成分、及び塩基性中和剤に加えて、第iii成分として、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーを加えることができる。好ましくは、そのコロイド粒子の分散液が好ましい。水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーコロイド粒子の分散液は乳化重合プロセスによって、直接製造できるものがあり、分散状態が安定であるので、安定な水性分散液を得ることができ好ましい。
【0145】
さらに、第iv成分として、前述のような、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、界面活性剤(乳化剤)剤を含んでいてもよい。薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、界面活性剤 (乳化剤)は、カプセル調製液の粘度の調整(粘度を下げる)や、分散状態の安定性を向上させる効果もある。
【0146】
腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の質量の合計を100質量%とした場合の各成分の割合をそれぞれα’、β’、γ’、δ’質量%、α’+β’+γ’+δ’=100、とした場合に、その割合は、ほぼそのまま、当該調製液に浸漬し、乾燥して得られる硬質カプセル皮膜中の各成分の割合、α、β、γ、δと等しくなる。したがって、まずは、カプセル皮膜として好ましい成分比率が適用されうる。ここで、各成分の質量は、ポリマー成分の質量であり、分散液を用いた場合の溶媒成分の質量は含まない。
【0147】
また、乾燥後のカプセル皮膜中に残留する塩(Na,K,Caなど)の比率は、ほぼ、調製液中の中和度に対応する。すなわち、ほぼ全量の塩が皮膜に取り込まれる。残存した塩の効果により、一般的には、pH 1.2での溶出は抑制されるが、pH 4程度の中間的なpHに対する溶出が増加する傾向がある。この観点からも、メタクリル酸コポリマーの中和度は、20%以下にすることが望ましい。
【0148】
また、腸陽性硬質カプセル調製液に含まれる前記第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分のポリマー成分の合計質量は、硬質カプセル調製液を調製できる限り制限されない。好ましくは、腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、前記第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分のポリマー成分合計質量の割合(ポリマー成分濃度)が10~30質量%であることが好ましく、12~25質量%であることがより好ましい。前記第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分のポリマー成分合計質量の割合が10質量%未満である場合、乾燥時間が非常に長くなるため、乾燥中に液だれが生じやすくなる。
特に、第i成分と第ii成分のポリマー成分(固形分)濃度は、7~20質量%であることが望ましい。また、塩基性中和剤のカプセル調製液に対する濃度としては、0.02~0.7質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。
【0149】
さらに、滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤等を含む場合には、これらの合計が腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0150】
通常、これら、第i~iv成分以外に溶解もしくは分散されたポリマー成分、遮光剤等の成分及び塩基性中和剤は、カプセル皮膜中にほぼそのままの成分比を保って存在する。この他に、皮膜中には、溶媒中の水分が一部残存しうるのは、前述のとおりである。
【0151】
本発明においては、本来、それぞれ単独では冷ゲル化能を有しない、少なくとも部分溶解した水溶性セルロース化合物、分散した腸溶性メタクリル酸コポリマーを含む腸溶性硬質カプセル調製液について、前記2成分の混合により、腸溶性硬質カプセル調製液に冷ゲル化能を付与することができることを見出した。特に、適量の塩基性中和剤の存在下での第i成分である高濃度の水溶性セルロース化合物と第ii成分である腸溶性メタクリル酸コポリマーの相互作用が重要であることを見出だした。本発明の腸溶性硬質カプセル調製液として好ましくは、図1に示すように、第i成分である水溶性セルロース化合物の曇点T0(曇点又は溶解開始温度)よりも低い温度から降温させたとき、好ましくは第2の温度T2又は第3の温度T3よりも低い、第4の温度T4(急激な粘度上昇開始温度)で、貯蔵及び損失弾性率が急激に増加し、室温近傍で、ゲル状態、すなわち、貯蔵弾性率G’が損失弾性率G’’よりも高くなる腸溶性硬質カプセル調製液である。重要なことは、室温近傍で、ほとんど乾燥されてない多量の水分を含んだ状態で、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’となることである。T0からT4の間でのG’とG’’の大小関係は、特に限定されないが、G’がG’’とほぼ同等か、小さいほうが好ましい。
【0152】
本発明カプセル調製液の冷却過程におけるT4近傍の急激な粘度上昇は、第ii成分(のコロイド分散液)、第iii成分(のコロイド分散液)、第iv成分の水溶液単体、あるいは第ii成分、第iii成分、第ivの混合溶液では通常起こらない。T4近傍の急激な粘度上昇は、主として、第i成分である部分溶解した水溶性セルロース化合物の分散微粒子同士の相互作用による構造粘性により引き起こされていると推定される。第1成分が下限臨界共溶温度を有することは、このような分散液を得るために適している。特に、本発明で用いる高粘度(すなわち高分子量)の水溶性セルロース化合物の作用により、冷却過程において概ね30~60℃の温度域T4で粘度が急激に、かつ一桁以上増大する傾向が顕著になる。このような降温時の急激な粘度上昇を利用するためにも、前記調製液に含まれる第i成分の割合α’が、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。30質量%未満では粘度上昇が緩やかになる傾向(特に粘度値が10mPa・s未満の場合)があり、70質量%より多いと、粘度が高すぎで後述の浸漬法による成形が困難となる傾向がある(特に粘度値が100mPa・sより大きな場合)。
【0153】
少なくとも室温近傍で、ゲル状態、すなわち、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’となる冷ゲル化特性を有するためには、比較的高濃度の第ii成分と第i成分の相互作用が重要である。実際、第i成分だけでは、降温過程において形成される分散液において、構造粘性による急激な粘度上昇は起きるものの、さらに30℃程度以下にまで降温すると、第i成分の溶解が進んで未溶解微粒子がすべて溶解してしまい、構造粘性は消失する。すなわち、単なる高分子溶液となってしまい、G’<G’’となる。本発明者らは、第i成分と第ii成分が同時に存在することにより、未溶解の第i成分微粒子が室温近傍になっても安定的に存在しうることを見出した。これが、結果的にG’>G’’という冷ゲル化につながっていると推定される。
【0154】
第i成分と第ii成分は必須であり、その合計量の割合、(α’+β’)/(α’+β’+γ’+δ’)は、70質量%以上であることが好ましい。また、第i成分と第ii成分の相互作用によるゲルの強度を維持するためには、α’とβ’の組成比が極端にずれないほうが好ましく、α’が30~60質量%、βが30~60質量%であるような組成であるが好ましく、特に、α’は、40~60質量%、β’は、30~50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0155】
第ii成分としては、コポリマー中における、メタクリル酸モノマー単位数が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。より具体的には、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることが好ましい。メタクリル酸モノマー単位の割合が、20質量%未満である場合、冷ゲル化が起こりにくい傾向がある。あるいは、(α’+β’+γ’+δ’)の合計質量うち、メタクリル酸モノマー単位が、6質量%以上であることが望ましい。
【0156】
さらに、第i成分の前記調製液に対する濃度が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。第i成分濃度が希薄であると降温過程における急激な粘度上昇が発現しにくくなる。他方、調製液の粘度は、T0~T4間の粘度が浸漬法によるカプセル皮膜の成形に適した粘度であるためには、第i成分の調製液に対する濃度は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましい。
【0157】
図1のような冷ゲル化特性は、スプレーコーティング等のコーティングでは、ゲル化物により、スプレー用のノズル等に閉塞を生じるので好ましくないものとされるので、高濃度かつ6mPa・s以上の水溶性セルロース化合物と腸溶性メタクリル酸コポリマーを選択的に組み合わせることは、通常は行われない。
【0158】
他方、溶媒中に塩基性中和剤が全く存在しない状態化で、第i成分と第ii成分を直接混合すると、直ちに、ゲル化して凝縮を起こすので、後述のような調製方法に関する留意が必要である。
【0159】
すなわち、本発明の第3の態様は、第2の態様の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。
【0160】
具体的には、第3の態様は、溶媒中に塩基性中和剤が存在する条件下で、第i成分と第ii成分が混合される腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、第i成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーである、調製方法、である。腸溶性メタクリル酸コポリマーに関しては、コロイド分散液を用いるのが好ましい。
【0161】
前述のように、降温過程において急激な粘度上昇と室温付近での冷ゲル化を生じさせるためには、第i成分である、粘度値が6mPa・s以上の範囲である前記水溶性セルロース化合物と、第ii成分である、腸溶性メタクリル酸コポリマー、を、合わせ用いることが重要であるが、通常は、両者を直接混合した場合、直ちに凝集を生じ、安定な分散液が得られない場合があるので、溶媒中に塩基性中和剤が存在する条件下で混合する必要がある。そのためには、第ii成分に対する中和度は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。他方、過剰な中和は、冷ゲル化を阻害するので、中和度を20%以下とするのが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは10%以下とする。なお、理論に拘束されるものではないが、上記、凝集現象と冷ゲル化現象には、腸溶性メタクリル酸コポリマーのコロイド粒子間の相互作用、及び/又は腸溶性メタクリル酸コポリマーに含まれるメタクリル酸のカルボキシル基と、水溶性セルロースの水酸基との間での相互作用が関与しているものと推定される。
【0162】
第3の態様において、より具体的には、以下の第3-1の態様が挙げられる。
【0163】
本発明における第3-1の態様は、
工程A:第ii成分の部分中和液を準備する工程、及び、
工程B:第ii成分の部分中和液に第i成分を加え第i成分の部分溶解液を準備する工程、を含む皮膜成分及び溶媒を含む腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。
【0164】
各工程は、溶媒に対して各成分を添加しても良く、前工程で調製されたすでに他の成分を含む溶液に対して、当該成分を添加もしくは混合してもよい。各工程間の移行温度、もしくは、各工程で調製された溶液の混合に際しての温度調節は、以下の要件に従って適宜設定することができる。
【0165】
第ii成分であるメタクリル酸コポリマーに関しては、本来、中和による付加的な分散工程が省略できるコロイド分散液を用いるのが好ましい。しかしながら、第i成分もしくは、第i成分の部分溶解分散液との混合による好ましくない凝集・沈殿を防いで、カプセル調製液の分散状態を安定化させるために、最小限の塩基性中和剤の存在下で、第i成分との混合を行うことが望ましい。
【0166】
このため、工程Aにおいて、予め第ii成分を薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤を添加して、第ii成分の部分中和液を調製するのであるが、その中和度は前述のように、比較的低く、2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。他方、20%以下とすることが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは、12%以下とする。中和度がこれより低すぎると、第i成分と第ii成分を混合した直後に凝集が発生して、安定した水性分散液が得られない。他方、中和度が高すぎると、カプセル調製液の冷ゲル化性能が損なわれる傾向がある。
【0167】
最適な範囲は、メタクリル酸コポリマー中のメタクリル酸モノマー単位と他の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー単位の構成比や、カプセル調製液における固形分濃度により調整しうる。具体的には、第ii成分が、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマー(より具体的には、L30D-55)である場合、適当な中和度は、2~20%である。
【0168】
その後、工程Bにおいて、塩基性中和剤と第ii成分を含む溶液に、第i成分を添加して部分溶解させた部分溶解液を調製する。第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第ii成分を含む中和液、又は第ii成分の中和液と第iv成分の分散液の混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する。
【0169】
本態様3-1において、第1の温度T1は、曇点T0以上であり、溶媒の沸点よりも低い温度である限り制限されない。例えば、60℃~90℃の範囲内とすることができる。好ましくは、温度T1を70℃~90℃範囲内とすることができる。
【0170】
本態様3-1において、第2の温度T2は、室温(20℃~25℃)よりも高く、曇点T0よりも低い温度であることが好ましい。例えば、30℃~60℃の範囲内とすることができる。好ましくは、温度T2を40℃~60℃範囲内とすることができる。
【0171】
本態様3-1において、水溶性セルロース化合物がT0以上の温度で未溶解で分散している分散液の粘度は、非常に低く、概ね100mPa・s未満である。水溶性セルロース化合物の溶解が始まると徐々に粘度が増加し、100mPa・sより高粘度になるので、降温過程においてT0を通過したことが知れる。概ねT0から10℃以内の範囲では、未溶解の水溶性セルロースの固体微粒子が安定的に存在する分散液が得られる。さらに、降温すると、1~2桁にわたる急激な粘度増加が継続して1000mPa・s以上となり、さらに、室温近傍に近づくと、高い粘度を概ね維持しつつ、水溶性セルロース化合物の固体微粒子がほぼすべて溶解する。水溶性セルロース化合物がほぼ完全に溶媒に溶解してしまい、カプセル被膜の海島構造が保てなくなる。また、カプセル調製液として粘度が高くなりすぎる(概ね10,000mPa・s以上となる)ので、温度T2はT0以下であって、30℃を下回らないようにすることが好ましい。
【0172】
以上により、第i成分である水溶性セルロース化合物を曇点T0以上の温度T1で第iii成分の中和液に懸濁し、第2の温度T2まで降温することにより、第i成分が部分溶解した分散液を調製することができる。なお、T0とT2の温度差が大きいほど溶解が進むので、この温度差により部分溶解の程度を適宜制御可能である。
【0173】
本発明調製液及び本発明調製液の調製工程おいては、工程Aもしくは工程Bにおいて、第iii成分を加える工程Cを追加できる。第iii成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、第i成分、第ii成分のいずれともほとんど粘度や化学的安定性に影響する相互作用はなく、水分散液として、工程A、工程Bのいずれかの工程に続いて添加することが可能である。
【0174】
さらに、本態様3-1では、工程B又はCで得られた溶液を第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程Dをさらに含んでいてもよい。また、第3の温度T3は、T2よりも高く、曇点T0よりも10℃以上は低くない温度であることが好ましい。これにより、第i成分の分溶解状態を安定的に保つことができる。例えば、30℃~60℃の範囲内とすることができる。好ましくは、温度T3を50℃~60℃範囲内とすることができる。
【0175】
本発明の調製液の第iv成分については、通常、B,C、Dのいずれかの工程の後で加えることができる。
【0176】
さらに、本態様3における調製のすべての工程において、撹拌を継続して行うことが望ましい。例えば、円筒状容器で調製工程を実施する場合、プロペラ状の撹拌翼を1~数百rpmで回転させて、撹拌することが好ましい。
【0177】
カプセル調製液の粘度は、主として第i成分の粘度値、濃度とともに、その部分溶解の程度によっても調整できる。すなわち、溶解温度T0と温度T2ないしはT3の差が大きいほど溶解が進み、粘度は高くなることを利用して調整することもできる。また、アルカリ金属塩、アルカリ金属土類塩、具体的には、NaCl,KCl、リン酸水素2ナトリウム、亜硫酸2ナトリウム、クエン酸3ナトリウムなどを微量添加した場合、塩析効果(Salting Out)によりT0が低下することが知られており、T0の調整により、第i成分の部分溶解の程度を調整することもできる。
【0178】
4.腸溶性硬質カプセルの調製方法
本発明の第4の態様は、腸溶性硬質カプセルの調製方法に関する。本発明によれば、他の硬質カプセルを調製するカプセル調製機を使用して、腸溶性硬質カプセルを調製することができる。本発明、硬質カプセルは、浸漬法、中でも「コールドピン浸漬法」によって形成されることを特徴とする。「コールドピン浸漬法」は、浸漬時の成形ピンの表面温度が、カプセル調製液の温度よりも低いことを特徴とする。
【0179】
腸溶性硬質カプセルの調製(成形)方法は、本発明にかかる腸溶性硬質カプセル調製液を使用してカプセルを調製する工程を含む限り、特に制限されない。腸溶性硬質カプセルは、一般には、腸溶性硬質カプセル調製液中に、カプセルの鋳型となるモールドピン(カプセル成形用ピン)を浸漬させ、引き上げたときに付着してくる皮膜を硬化、乾燥させることで所望のカプセル形状と厚みを得る(ディッピング法)。具体的には、腸溶性硬質カプセルの調製方法は、上記の方法により腸溶性硬質カプセル調製液を調製するか、腸溶性硬質カプセル調製液を購入する等によって準備する工程と、かかる腸溶性硬質カプセル調製液にモールドピンを浸漬した後、これを引き上げ、モールドピンを上下反転させ、モールドピンに付着した溶液を乾燥する調製工程によって製造される。
【0180】
より具体的には、本発明で用いる腸溶性硬質カプセルは下記の成形工程を経て製造することができる。
(1)腸溶性硬質カプセル調製液に、モールドピンを浸漬する工程(浸漬工程)、
(2)腸溶性硬質カプセル調製液調製液(浸漬液)からモールドピンを引き上げて、モールドピンの外表面に付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥する工程(乾燥工程)、
(3)乾燥したカプセルフィルム(皮膜)をカプセル成形用ピンから脱離する工程(脱離工程)。
【0181】
ここで、腸溶性硬質カプセル調製液は、モールドピンを浸漬するときに、水溶性セルロース化合物の曇点よりも低い温度であり、かつ室温(20℃~25℃)よりも高い温度T5で保持される。T5は、曇点T0よりも10℃以上は低くない温度であることが好ましく、T2と同じか、より高い温度であることがより好ましい。これにより、第i成分の部分溶解状態を安定的に保つことができる。例えば、30℃~60℃の範囲内とすることが好ましい。性水溶性セルロース化合物が、HPMC又はMCである場合である場合には、温度T5を40℃~60℃範囲内とすることができる。なお、T3とT5を同程度の温度とすることができる。
【0182】
カプセル調製液の浸漬時の粘度は、その保持温度T5において、100mPa・s以上とするのが好ましく、500mPa・s以上とするのがより好ましく、1000mPa・s以上とすることがさらに好ましい。
【0183】
また、カプセル調製液の浸漬時の粘度は、その保持温度T5において、10000mPa・s以下とするのが好ましく、5000mPa・s以下とするのがより好ましく、3000mPa・s以下とすることがさらに好ましい。
【0184】
カプセル調製液の粘度は、単一円筒型回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計、B型粘度計)を使用して測定することができる。例えば、粘度は、1Lビーカーでカプセル調製液を調製(液量は600ml)したのち、55℃に維持したカプセル調製液に、M3ロータ(測定範囲 0~10,000mPa・s)を入れ、ロータ回転数、12 r.p.m.、測定時間50秒で測定することができる。
【0185】
これに対し、浸漬時のモールドピンの表面温度T6は、腸溶性硬質カプセル調製液の液温T5よりも低く、さらには、冷ゲル化による急激な粘度増加を生じる温度T4より低い温度であることが好ましい。例えば、20℃~30℃の範囲であり、より好ましくは20~28℃の範囲である。
【0186】
乾燥工程(2)は、特に制限されるものではないが、室温(20~30℃)で行うことができる。通常、室温の空気を送風することによって行なわれる。
【0187】
カプセル調製液から引き揚げた直後のモールドピン表面に付着した未乾燥の皮膜は、ほぼ調製液と同じ組成となっているので、水分含有量は、例えば、70~90%程度となっている。乾燥後の皮膜の水分含有量が、少なくとも2%以上となるように乾燥温度、湿度、及び時間を調整することが好ましい。
【0188】
斯くして調製されるカプセル皮膜は、所定の長さに切断された後、ボディ部とキャップ部を一対に嵌合した状態又は嵌合しない状態で、腸溶性硬質カプセルとして提供することができる。
【0189】
腸溶性硬質カプセルの皮膜厚みは、通常、50~250μmの範囲とされる。特に、カプセルの側壁部分の厚みは、現在市販されているカプセルでは、70~150μm、より好ましくは、80~120μmとするのが通常である。腸溶性硬質カプセルのサイズとしては、00号、0号、1号、2号、3号、4号、5号等があるが、本発明ではいずれのサイズの腸溶性硬質カプセルも調製することができる。
【0190】
5.腸溶性硬質カプセル製剤
本発明腸溶性硬質カプセルを用いれば、に活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の活性薬物の溶出率が、10%以下であることを特徴とする硬質カプセル製剤が実現できる。
【0191】
本発明の腸溶性硬質カプセルに充填される活性薬物としては、例えば滋養強壮保健剤、解熱鎮痛消炎薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、アレルギー用薬、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、抗リウマチ薬、骨格筋弛緩薬、鎮けい剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤などから選ばれた1種又は2種以上の成分が充填される。なお、これらの薬効成分は、特に制限されず公知のものを広く挙げることができる。これらの成分は単独又は他の成分との合剤として使用することができる。また、これらの成分は、患者の疾患、年齢等に応じて適宜、定められた公知の適量が充填される。
【0192】
滋養強壮保健剤には、例えばビタミンA、ビタミンD、ビタミンE(酢酸d-α-トコフェロールなど)、ビタミンB1( ジベンゾイルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩など)、ビタミンB2(酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンなど)、ビタミンC(アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウムなど)、ビタミンB12(酢酸ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミンなど)のビタミン、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル、タンパク、アミノ酸、オリゴ糖、生薬などが含まれる。
【0193】
解熱鎮痛消炎薬としては、例えばアスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェン、塩酸ジフェンヒドラミン、dl-マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジヒドロコデイン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、カフェイン、無水カフェイン、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、トルフェナム酸、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、サリチルアミド、アミノピリン、ケトプロフェン、インドメタシン、ブコローム、ペンタゾシンなどが挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0194】
特に、腸溶性硬質カプセルを適用することで有用性が高いのは、胃で溶解した場合、胃に対して副作用を有する恐れがある場合である。あるいは、酸に不安定で胃内で溶解せずに腸内で吸収される必要性がある場合である。すなわち、胃酸により有効成分の効能が低下し得る製剤は、本発明腸溶性硬質カプセル製剤によって、胃酸から有効成分を保護して、効果的に胃を通過させ、腸に送達させることができ、特に有用である。
【0195】
例えば、アスピリンは例えば裸顆粒で多量に投与すると、胃潰瘍様の症状を引き起こす副作用を有することが知られており、腸溶性硬質カプセルの適用が望まれる代表的薬物の一つである。
【0196】
他方、酸に不安定な薬効成分の例としては、プロトンポンプインヒビター(PPI)として知られる、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、エソメプラゾールマグネシウム水和物、などがあげられる。PPIは、血流に乗って壁細胞へ達し、壁細胞の分泌細管において高濃度の水素イオンに接して活性化される。ところがPPIは酸性環境下で極めて不安定な薬剤であり、壁細胞に到達する前に酸にさらされると十分な効果が発揮できなくなる。このため、PPIの強い酸分泌抑制力を発揮するために、通常、腸溶性製剤化する。
【0197】
特に、酸に弱い活性薬物を保護するためには、pH4.0を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、25%以下である腸溶性硬質カプセルを用い、pH4.0を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の活性薬物の溶出率が、30%以下である硬質カプセル製剤とすることが好ましく、25%以下とすることがより好ましい。
【0198】
pH 4.0の意義は、一般に、食後の1時間程度でPHが4.0近くまで上昇することが知られており、この間も、胃内での溶出を抑制できることが好ましいからである。
【0199】
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬と呼ばれる抗うつ薬の一つであるデュロキセチンも、やはり、酸に弱いので、腸溶製剤化が望ましい原薬の例である。
【0200】
本発明の腸溶性硬質カプセルには、健康食品(特定保健用食品又は栄養補助食品も含む、フコイダン、ヘム鉄、ポリフェノール類など)としては、ペプチド類やアミノ酸類(例えば、ローヤルゼリー、オルニチン、シトルリン、アミノレブリン酸、黒酢、又は、疎水性のアミノ酸であるメチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシンなど)、タンパク質類(ラクトフェリンなどの乳タンパク、コラーゲン、プラセンタ、など)、糖タンパク質類、酵素発酵食品類(ナットウキナーゼなど)、補酵素類(コエンザイムQ10など)、ビタミン類(βカロテンなど)、ミネラル類、生菌類(酵母、乳酸菌、ビフィズス菌など)、植物抽出物(生薬、ハーブ類、例えば、ウコンエキス、人参エキス、梅エキス、イチョウ葉エキス、ブルーベリーエキス、甜茶エキスなど)、プロポリス等の天然有機物、又はこれらの任意の組合せを充填することができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0201】
かかる内容物の腸溶性硬質カプセル内への充填は、それ自体公知のカプセル充填機、例えば全自動カプセル充填機(型式名:LIQFILsuper80/150、クオリカプス(株)社製)、カプセル充填・シール機(型式名:LIQFILsuperFS、クオリカプス(株)社製)等を用いて実施することができる。こうして得られる硬質カプセルのボディ部とキャップ部は、内容物をボディ部に充填したのち、該ボディ部にキャップ部を被覆して両者を嵌合させることによりボディ部とキャップ部を接合させる。ついで必要に応じて充填済みカプセルは、継ぎ目を永久に封止するための適切な技術を使用することによって不正開封防止にされ得る。典型的に、シーリング又はバンディング技術が使用され得、ここで、これらの技術はカプセルの分野の当業者に周知である。具体的な例としては、キャップ部の端縁部を中心とした一定幅でボディ部の表面とキャップ部の表面にボディ部とキャップ部との円周方向に、ポリマー溶液のシール剤を1 回~ 複数回、好ましくは1~2回塗布することにより嵌合部を封緘して腸溶性硬質カプセル剤とすることができる。ポリマー溶液は、腸溶性ポリマーの希釈水溶液、あるいは、水/エタノール又は水/イソプロパノール溶剤に溶解した液を用いることができる。希釈水溶液、もしくは水を含む溶媒に溶解した液を用いる場合、前述のような塩基性中和剤で部分的に溶解して用いることもできる。また、可塑剤、界面活性剤を加えることもできる。
【0202】
より具体的な態様としては、カプセル皮膜に使用される(メタ)アクリル酸コポリマーである、L30D-55の固形分を乾燥し紛体化したL100-55を10~50質量%、塩基性中和剤であるNaOHを0.0~0.6質量%、クエン酸トリエチルを0.5~40質量%含み、残部を水/エタノール混合溶媒とするシール液である。好ましくは、L100-55を12.5~40.0質量 %、塩基性中和剤であるNaOHを0.0~0.4質量%、クエン酸トリエチルを1.0~3.5質量%含み、残部を水/エタノール混合溶媒とする。より好ましくは、L100-55を15.0~30.0質量 %、塩基性中和剤であるNaOHを0.0~0.2質量%、クエン酸トリエチルを1.5~3.0質量%含み、残部を水/エタノール混合溶媒とする。
【0203】
なお、水/エタノール混合溶媒のエタノールの比率としては、10~70質量%、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%とする。
【0204】
他の態様として、腸溶性ポリマーとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を用いることもできる。より具体的には、HPMCAS-MF(信越化学製)を10~40質量%、残部をエタノールとするシール液である。好ましくは、HPMCAS-MFを12.5~35質量%、残部をエタノールとする。より好ましくは、HPMCAS-MFを15~30質量%、残部をエタノールとする。
【0205】
カプセル封緘時、バンドシール調製液は、一般に室温あるいは加温下で使用することができる。硬質カプセルの液漏れ防止という観点から、好ましくは約23~45℃、さらに好ましくは約23~35℃、最も好ましくは約25~35℃の温度範囲内にあるシール調製液を用いることが望ましい。なお、シール調製液の温度調節は、パネルヒーター、温水ヒーター等のそれ自体公知の方法で実施することができるが、例えば循環式温水ヒーターあるいは前記一体型カプセル充填シール機のシールパンユニットを循環式温水ヒーター型に改造したもの等で調節するのが、温度幅が微妙に調節できるので好ましい。
【0206】
こうして得られる本発明の腸溶性硬質カプセル製剤は、ヒト又は動物の体内に投与及び摂取されたときに、胃内では耐酸性を示し、主に腸に移行してカプセル皮膜が溶解し内容物が放出されるように設計されている。このため、胃内での放出が好ましくない医薬品や食品を充填した製剤として好適である。
【0207】
本発明において、腸溶性機能を強化するため、さらなる薬物送達制御機能、あるいは、気体や水分の透過性を制御するため、カプセル皮膜は、追加の1つ又はそれ以上のポリマー層で外部からコーティングされていてもよい。
【0208】
特に記載されない限り、機能的ポリマー層は、コーティングされたカプセル皮膜へ特定の機械的又は化学的特性を付与する機能的ポリマーを含有する層を意味する。機能的ポリマーは、薬学的固体投薬形態をコーティングするために従来使用されている腸溶性ポリマー及び/又は結腸放出性ポリマー(即ち、被験体の結腸領域においてコーティングされた投薬形態を崩壊させるために使用されるポリマー)等である。
【0209】
本発明硬質カプセルは、腸内環境、すなわち、pHが6.8に達してからの溶出速度(溶出率の時間による増加率)の違いを制御できるので、以下のような態様の薬物送達の応用ができる。
【0210】
すなわち、
(態様5-1)
腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、45分後の活性薬物の溶出率が、75%以上である、硬質カプセル製剤に関する。
特に、小腸上部に活性薬物を送達することで、小腸内での吸収効率を向上できる。
【0211】
(態様5-2)
腸溶性硬質カプセルに活性薬物が充填された硬質カプセル製剤であって、pH6.8を有する溶液を用いた溶出試験において、活性薬物の溶出率が75%以上に達するまでの時間が60分以上である、硬質カプセル製剤に関する。
【0212】
特に、小腸下部、大腸に活性薬物を送達することで、当該部位での炎症性疾の抑制に効果が見込まれる。あるいは、小腸内での活性薬物放出時間が長くなり、持続的薬効が期待できる。
【0213】
(態様5-3)
本開示に係る腸溶性硬質カプセルを用いた新規な応用例として、酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に本開示に係る腸溶性硬質カプセルを内包することを特徴とする硬質カプセル製剤が挙げられる。酸性条件で溶解可能な硬質カプセルとしては、ゼラチンカプセル及びヒプロメロースカプセル、あるいは、プルランカプセルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、ヒプロメロース硬質カプセルでは、水溶性セルロースの表示粘度(粘度グレード)値として、3~15mPa・sのものが用いられている(特開平08-208458号公報、2001-506692号公報、特開2010-270039号公報、特開2011-500871号公報)。これらにおいては、皮膜中のほぼ100%(ゲル化剤、ゲル化助剤、遮光剤、着色料等、0~5質量%程度及び、0~10質量%程度の残留水分を含む場合がある)が水溶性セルロース、特にHPMCである。本開示に係る腸溶性硬質カプセルに予め有効成分Bを充填しておき、酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に、薬効成分A及び該充填済腸溶性硬質カプセルを、充填する。このような二重カプセル製剤は、胃において有効成分Aを放出させ、腸に達してから薬効成分Bを放出させるような、複数部位に選択的かつ異なる薬効成分の送達を可能にする。有効成分A及び有効成分Bは、上記5.に記載の活性薬物を挙げることができる。
【0214】
6.2相構造を有する硬質カプセル皮膜、及び前記皮膜構造を有する硬質カプセルの調製方法
本明細書に開示される、硬質カプセルの皮膜に特徴的な海島構造、及び前記皮膜構造を有する硬質カプセルの調製方法(製造プロセス)は、腸溶性硬質カプセルに限定されるものではなく、以下のような新規な機能性硬質カプセル及びその調製方法をも包含しうるものである。
【0215】
すなわち、本明細書の開示には、
活性薬物を含まない水溶性ポリマー微粒子からなるコア粒子相と、該コア粒子の表面を被覆し、及び/又は、該コア粒子間を結合する結合相からなる、2相構造を有する硬質カプセル皮膜であって、前記結合相には、前記コア粒子相の溶解特性を制御しうる、前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーを主として含有する、硬質カプセルを含む。硬質カプセルに必要な機械的強度のうち、特に弾性率は、コア粒子相となる水溶性ポリマーによって達成さる。このためには、皮膜の全成分のうち、コア粒子相成分が、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。他方、上限は70質量%以下であることが好ましい。あるいは、硬質カプセル皮膜断面におけるコア粒子相の合計の断面積は、30%以上であることが好ましく、40%以上あることがより好ましい。コア粒子相は、2種以上の水溶性ポリマーからなっていても良い。その上限は70%以下であることが好ましい。他方、機能性ポリマーの質量のカプセル皮膜全体の質量に対する割合は、30~60質量%であることが好ましい。さらには、コア粒子相成分と機能性ポリマー成分の合計が、皮膜質量全体の70質量%以上であることが好ましい。
【0216】
他方、硬質カプセルに付与される機能は、機能性ポリマーを主として含有する結合相によって達成される。ここで「機能」は、好ましくはカプセル皮膜の溶解性特性の制御を意図する。溶解特性の制御とは、pH依存性を利用した腸溶性、あるいはpH7より高めの環境である腸管下部での溶解性、さらには、徐放性などの特性をいう。一般的には、徐放性は、腸管下部への薬物送達及び腸管内での持続的放出を意図することが多いため、腸溶性でかつ徐放性であるようなポリマーか、腸溶性ポリマーと徐放性ポリマーを併用することで達成される。いずれのポリマーも中性の水溶媒中では難溶性である。具体的には、メクリル酸と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのコポリマーである、腸溶性又は徐放性(メタ)アクリル酸コポリマーからなるコーティング剤があげられる。また、水不溶性の(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーも、水の浸透を抑制し徐放性機能を付与することに用いることができる。より具体的には、腸溶性機能を有する(メタ)アクリル酸コポリマーとしては、前述のメタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマー等を用いることができる。徐放性機能を有する水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーとしては、やはり前述のメタクリル酸メチル20~40質量%、アクリル酸エチル60~80質量%から成るコポリマー等を用いることができる。
【0217】
カルボキシル基を含む腸溶性ポリマー、特にメタクリル酸コポリマー、と中性(水不溶性)ポリマーの配合比により、溶出特性が制御できることは、従来より知られている。(特許文献27、28、29)。この溶解特性の制御手法は、本硬質カプセル皮膜の結合相に適用することで、カプセル皮膜全体としての溶出特性の制御に利用しうる。ただし、これら特許文献では、水溶性ポリマー、特に、水溶性セルロースをさらに相当量、例えば30質量%以上、含むような組成、及び、そのコア粒子相を含む多相構造とすること、についての示唆はない。通常、これらコーティング剤は、単独では自立可能な皮膜強度が得られない。また、例えば、腸溶性メタクリル酸コポリマーコーティング剤は、それ自体が酸性であるため、直接、酸に弱い活性薬物にコーティングすると、活性薬物を変質及び/又は分解するという機能上の矛盾を生じる(非特許文献8)。このため、活性薬物を含む芯(通常は素錠)に直接被覆せず、コアの上に、酸との直接接触を避けるための中間層をコーティングしてから、腸溶性ポリマーを主成分とするコーティング液をコーティングするなどの複雑な製剤工程が必要になる。
【0218】
上記2相構造を有する皮膜は、水溶性ポリマーコア粒子相により硬質カプセル皮膜の機械的強度を維持し、かつ比較的少量の機能性ポリマーの混合により、単なる水溶性ポリマーからなる硬質カプセル外部表面に、中間層及び機能性ポリマーのコーティングをするという複雑な工程を経なくても、カプセル皮膜単体で、十分な機械的強度を維持し、かつその溶解特性を制御することができる。また、充填される活性薬物とコーティング液との直接接触を避けることができ、前述の腸溶性コーティング剤による活性薬物の劣化が防止できる。このため、水溶性ポリマーからなるコア粒子の質量のカプセル皮膜全体の質量に対する割合は、30~70質量%であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。これまでのところ、活性薬物を含む粉体や顆粒に、スプレー―コーティング法等により、機能性コーティングによる被覆を行い、さらに、当該被覆済紛体や顆粒に結合剤を加えるなどした上で圧縮して固形錠剤化するなどして、所望の崩壊、溶解特性を実現した製剤は存在した(非特許文献9)。しかしながら、活性薬物を含まない水溶性ポリマーからなるコア粒子を予め被覆し、のちに、特に、浸漬法による一回の操作で皮膜化して、硬質カプセルとしたものは知られていない。
【0219】
ここで、前記2相構造の形成を、硬質カプセルの一般的な浸漬法によって一回の浸漬で形成するためには、水性溶媒中に、活性薬物を含まない薬学的に又は食品添加物として許容される水溶性ポリマー微粒子が分散し、さらに、前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーが溶解するか、及び/又は前記水溶性ポリマーとは異なる機能性ポリマーのコロイド粒子が分散した、硬質カプセル調製液を用いる。浸漬用のカプセル調製液において、水溶性ポリマーのコア粒子の少なくとも一部が、好ましくは大部分が未溶解で残存したサスペンション(固体微粒子分散液)となっており、かつ、溶媒中に、機能性ポリマーが溶解もしくは、コア粒子よりさらに微小なコロイド分散液となって安定な分散液として共存していることが好ましい。硬質カプセル皮膜の厚みとしては、50~250μmの範囲にあることが好ましい。コア粒子を形成する水溶性ポリマー原料は、通常、乾燥原料(紛体)として供給されるが、その平均粒径は、カプセル皮膜厚みより十分小さく、平均粒径が1~100μmの範囲にあることが望ましい。
【0220】
他方、機能性ポリマーがコロイド粒子を形成する場合、コロイド粒子の平均粒径は、コア粒子をより概ね一桁小さく、1μm未満であることが好ましく、0.1μm未満であることがより好ましい。
【0221】
コア粒子は、未溶解で残った水溶性ポリマー微粒子であるので、別途加えた機能性ポリマーは、分散質であるコア粒子内に深く侵入することはできず、専ら、コア粒子相間の溶媒中に溶解、もしくはコロイド粒子として分散している。かかる分散媒は結合相の形成につながる。乾燥減量時の個体粒子が水性溶媒中で機能性ポリマーの表面被覆されることにより、さらなる溶解を抑止し、安定的なコア粒子の分散液が形成されることが望ましい。
【0222】
このようなコア粒子相を形成するに際して、水溶性ポリマーは、それ単独で、水に速溶する硬質カプセルの皮膜材料として用いられるものが好ましい。中でも、下限臨界共溶温度(単に溶解温度と呼ぶことがある)(Low Critical Solution Temperature、LCST)、すなわちT0、を有する水溶性ポリマー(以下、LCSTポリマーと称する場合がある)は、特に、降温過程において、(準)安定な未溶解微粒子の分散液(コア相分散液)を形成するのに適している。前記水溶性セルロースの乾燥原料粉末を下限臨界共溶温度T0より十分高い温度の水に均一に分散させながら温度を低下させると、T0近傍を経過したところで、粉末微粒子(コア粒子となる)が徐々に膨潤し、おそらくはその表面から部分的に溶解を始める。
【0223】
下限臨界共溶温度T0を有する水溶性ポリマー(LCSTポリマー)単体の水溶液である場合、T0以下の降温過程において、最初、部分溶解して微粒子の分散液を形成する。かかる分散液は、溶解濃度が適当であれば、構造粘性に由来すると推定される粘度の急上昇を一旦示した後、さらに溶解が進むと粘度が低下し消失し、概ね室温付近で、高濃度のほぼ完全な溶解水溶液となる。急激な粘度上昇の初期の状態にある分散液は、それ以上の降温を停止して、温度を一定に保てば、カプセル皮膜中のコア粒子となりうる微粒子の安定な分散液を形成する。なお、該分散液は、完全な平衡安定状態である必要はなく、工業的に使用可能な程度の時間もしくは保管条件において安定(準安定状態)であればよい。
【0224】
他方、降温を続け、一旦、完全溶解させたLCSTポリマーの水溶液の粘度は、部分溶解した分散液の粘度に比べて非常に低くなる。また、再度T0未満の温度に上昇させても、完全溶解水溶液のままである。従って、少なくとも、T0未満では、μmオーダーのサイズのコア粒子相は再形成されず、水溶液が再び白濁することはない。これは、LCSTポリマーの性質である。
【0225】
カプセル調製液を、該調製液温度よりも低い温度のモールドピンに付着させたのち、ピン表面にて乾燥する場合、さらになる降温過程において、ピン表面のカプセル調製液は完全に溶解してしまい、調製液中で存在したコア粒子相は消滅してしまう。このことを防ぐために、コア粒子表面に機能性ポリマー分子もしくはコロイド粒子が被覆されている、すなわち、機能性ポリマーの一端が、コア粒子表面に吸着していることが求められる。カプセル調製液中において、部分溶解状態にあるLCSTポリマーからなるコア粒子相がすでに機能性ポリマーで被覆されることにより、さらなる降温過程において、溶解が進むことが阻害されるので、2相構造が温存されることとなる。
【0226】
機能性ポリマーの例えば、コア粒子表面の機能性ポリマーによる被覆は、カプセル調製液中において、コア粒子表面に出ている水溶性ポリマーの官能基と機能性ポリマーの官能基が水素結合等の相互作用を有することで実現されうる。同時にこの吸着により、個々のコア粒子表面が、機能性ポリマー分子でほぼ覆い尽くされることが望ましい。機能性ポリマーが溶解していれば、もちろん、ち密な表面吸着層を形成しやすいであろう。機能性ポリマーがコロイド粒子のエマルジョンである場合も、そのコロイド粒子の平均粒子径がコア粒子の平均粒子径より、概ね一桁以上小さいことは、コア粒子表面へのち密な表面吸着層の形成に有利であり、好ましい。
【0227】
水溶性ポリマーとして、例えば水溶性セルロース化合物(水溶性セルロースポリマー)を挙げることができる。水溶性セルロースポリマー(概ね5質量%未満の濃度の)の希釈水溶液中に、他の高分子のコロイド粒子(ラテックス)を分散させた分散液において、溶解された水溶性ポリマー分子が吸着する現象自体は知られている(非特許文献10、11)。また、有機溶媒中ではあるが、水溶性セルロース中の水酸基と、機能性ポリマー(メタクリル酸コポリマー)中のカルボキシル基間の相互作用(水素結合が関与していると考えられる)について示唆した報告もある(非特許文献12)。これらの理論は、水溶性セルロースとしては、概ね5質量%未満の濃度の希釈溶液(水溶液もしくは有機溶剤)で、溶解した水溶性セルロース分子とコロイド粒子表面との相互作用について述べているが、かかる相互作用は、本明細書に開示されるように、高濃度(概ね10質量%以上)の、水溶性ポリマー微粒子と機能性ポリマーの水性分散液中における、水溶性ポリマーコア粒子表面と機能性ポリマー分子乃至はコロイド粒子との相互作用においても機能していると考えられる。なお、適度な部分中和などの処置によって、該相互作用を制御し、温度依存(冷ゲル化)する粘弾性挙動を利用した具体例は知られていない。他方、本明細書に開示される2相構造を有する硬質カプセル皮膜は、かかる、水溶液中での相互作用(水素結合、静電力、ファンデルワールス力等)の理論及び調製方法に束縛されるものではない。また、コア粒子と機能性ポリマーとの相互作用は、少なくとも、浸漬用水溶液中に分散されたコア粒子に対して機能性ポリマーの吸着、被覆が担保され、より好ましくは、該分散液が安定であればよく、冷ゲル化などの現象を伴うことは、必ずしも要さない。ゲル化は、機能性ポリマーとは別に、カプセル調製液中に、添加したゲル化剤、及び、ゲル化助剤で担保されても良い。その添加量は、カプセル調製液の全容量を100質量%とした場合に、概ね3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下、であることがより好ましい。
【0228】
機能性ポリマー本来のコーティング機能を生かすためには、少なくともコア粒子の表面積をほぼ覆い尽くすだけの吸着される機能性ポリマー(又は、そのコロイド粒子)の量が必要となる。機能性ポリマーの分子量や機能性ポリマーコロイド粒子の粒子径にも依存すると考えられるが、概ね、機能性ポリマーの質量のカプセル皮膜全体の質量に対する割合は、30~60質量%であることが好ましい。コア粒子は、ほとんどが未溶解であるから、これにより、結合相においては、機能性ポリマーが主成分となる組成が自然に達成され、コア粒子に対するコーティング層として有効に機能する。
【0229】
他方、水溶性ポリマーコア粒子相と結合相との密着性を高めるために、結合相には、一部溶解した水溶性ポリマーが含まれていても良い。例えば、態様3-1で述べたとおり、LCSTポリマーをコア粒子相として用いる場合、LCST温度、T0より若干低い温度T2まで低下させることで、部分溶解の程度の制御、すなわち、結合相における水溶性ポリマー濃度を適宜調製できる。ただし、結合相では、機能性ポリマーが主成分であることが好ましい。すなわち、結合相成分の総質量を100質量%とした場合、機能性ポリマーの質量の割合が50質量%であることが子に増しく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%であることがさらに好ましい。これにより、結合相全体として機能性ポリマーの有する溶解性制御機能が担保される。
【0230】
ここで、機能性ポリマーがコロイド粒子として分散している場合、コロイド粒子が残存していてもいいし、一部が溶解していてもよい。従って、結合相自体は、必ずしも単一相を形成するとは限らず、下位相構造を有していてもよい。さらに、コア粒子相の水溶性ポリマー微粒子には、2種類以上の水溶性ポリマーが含まれていてもよい。さらにまた、個々のコア粒子相は、結合相によって囲まれて孤立していても、コア粒子相同士が接続したラメラ構造であってもよい。
【0231】
LCSTを有する水溶性セルロース化合物としては、セルロース分子中の水酸基の一部を置換し、水溶性を付与したセルロース誘導体が知られている。より具体的には、水酸基の一部をメチル基、及び/もしくはヒロドキシプロピル基で置換したセルロース誘導体であり、さらに具体的には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。そのLCSTは、概ね30~60℃の範囲にある。
【0232】
硬質カプセル皮膜の厚みとしては、前述のように50~250μmの範囲にあることが好ましい。従って、前記水溶性ポリマー原料は、通常、乾燥原料(紛体)として供給されるが、その平均粒径は、カプセル皮膜厚みより十分小さく、平均粒径が1~100μmの範囲にあることが望ましい。
【0233】
より好ましくは、水溶性ポリマーは、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであることが望ましい。
【0234】
一般的な浸漬法によって一回の浸漬で形成される、前記2相構造を有する硬質カプセル皮膜からなる腸溶性又は徐放性硬質カプセルの具体的な態様としては、第I成分及び第II成分を含む皮膜からなる腸溶性又は徐放性硬質カプセルである。第I成分は、下限臨界共溶温度を有する平均粒径が1~100μmの水溶性セルロースポリマーであり得る。第II成分は、水溶性又はコロイド粒子の水性分散液を形成する、腸溶性コーティング基剤、及び/又は徐放性コーティング基剤であり得る。前記腸溶性又は徐放性硬質カプセルは、少なくとも、未溶解の第I成分の微粒子及び第II成分を含む水性分散液を、第I成分の下限臨界共溶温度近くの温度に維持したカプセル調製液に、前記調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程、及び前記調製液からモールドピンを引き上げてモールドピンに付着した調製液を乾燥させる第2工程を含む工程、を経て形成され得る。
【0235】
別の態様として、一般的な浸漬法によって一回の浸漬で形成される、前記2相構造を有する硬質カプセル皮膜からなる腸溶性硬質カプセルの具体的な態様としては、第I成分及び第II成分を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルである。第I成分は、粘度値が6mPa・s以上であるメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり得る。第II成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり得る。前記腸溶性硬質カプセルは、少なくとも、第I成分の微粒子及び第II成分を含み、さらに、第II成分を部分的に中和しうる塩基性中和剤を含む水性分散液からなる腸溶性硬質カプセル調製液であって、30~65℃に維持した腸溶性硬質カプセル調製液に、前記調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程、及び前記調製液からモールドピンを引き上げてモールドピンに付着した調製液を乾燥させる第2工程を含む工程、を経て形成され得る。
【0236】
以上で述べたLCSTを有する水溶性ポリマーをコア粒子相とする、本実施態様における2相構造形成の推定メカニズムの一例に関する考察は、後述の実施例を踏まえて、本明細書の開示を本明細書の記載に限定されず硬質カプセルの技術分野に広範囲に適用するうえで、理論的根拠を与え得る。ただし、本開示における硬質カプセル皮膜の微細構造自体が新規であって、必ずしも、前記、一形成方法とその理論が本明細書に開示される態様を束縛するものではない。
【実施例
【0237】
I.使用材料
実施例、参考例、比較例に用いる材料は下記のとおりである。
1.水溶性セルロース化合物
メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は信越化学工業(株)のMETOLOSE(登録商標)シリーズもしくはTC-5(登録商標)シリーズ、SHシリーズを使用し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は日本曹達(株)のNISSO HPCシリーズを使用した。具体的な製品名と置換度タイプ、「粘度値」、(表示粘度もしくは粘度グレード)は表2の通りである。
【0238】
TC-5シリーズ、SHシリーズのHPMCの粒径分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 「マイクロトラック粒度分布径MT3300II EX」)で測定した。平均粒径は、50~100μmの範囲にあった。また、粒径100μm以上の粒子の体積分率は、50%以上であった。
【0239】
【表2】
【0240】
2.腸溶性メタクリル酸コポリマー
Evonik Industries AG社、EUDRAGIT(登録商標)シリーズのL30D-55及びFS30Dを使用した。いずれも固形分含有量30質量%の水分散液である。L30D-55の水酸化ナトリウムに対する中和の当量は、214.8mg/g、FS30Dの水酸化ナトリウムに対する中和の当量は、40.4mg/gである。
【0241】
3.水不溶性ポリマー
(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、Evonik Industries AG社、Eudragit(登録商標)シリーズのNE30Dを使用した。固形分含有量30質量%の水分散液として供される。また、エチルセルロースは、FMC社、アクアコート(Aquacoa(登録商標))ECD-30を使用した。固形分含有量30質量%の水性分散液として供される。
【0242】
4.可塑剤、界面活性剤(乳化剤)
ステアリン酸ポリオキシル40(日光ケミカル)は、常温で固体、Tween80(一般名ポリソルベート80、関東化学もしくは日光ケミカル)は、常温で液体、HCO60(一般名ポリオキシエチレン硬化ひまし油60、日光ケミカル)は、常温で固体、SEFSOL218(一般名モノカプリル酸プロピレングリコール,日光ケミカル)は常温で液体、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(岸田化学)は常温で固体、の界面活性剤(乳化剤)である。なお、これらの界面活性剤は、同時に、安定(化)剤,可塑剤,滑沢剤,可溶(化)剤,基剤,結合剤等の複合的な用途も有する。PG(プロピレングリコール、和光純薬)は、常温で液体の可塑剤である。
【0243】
5.その他
水酸化ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、亜硫酸2ナトリウム、及びクエン酸3ナトリウムは和光純薬工業株式会社から購入した。酸化チタン(タイペークA-100)は石原産業株式会社から購入した。
【0244】
II.測定及び試験方法
1.カプセルの溶出試験
本発明においては、原則、第17改正日本薬局方における溶出試験を適用した。ただし、日本薬局方は、空の硬質カプセル自体の溶解性を規定しているわけではないので、本発明では、速溶性のアセトアミノフェンの溶出を評価することによって、カプセル自体の溶解性(溶出特性)を評価した。1カプセルあたり、アセトアミノフェン40mg、乳糖140mg、デンプングリコール酸ナトリウム20mgを充填し、得られた腸溶性硬カプセル剤を日本薬局方に定められた溶出試験法(第17局方、6.10-1.2パドル法(パドル回転数50回転/分)、及び、同図6.10-2aに対応するシンカー使用)に従い試験し、アセトアミノフェンの溶出率の時間変化を測定した。溶出試験にはDistek社製バス型溶出試験器Model 2100を用いた。同容量のアセトアミノフェンを別途、全量、溶出試験器バス内の溶液に溶解させたときの244nmにおける吸光度を100 %とし、カプセルからのアセトアミノフェンの溶出に伴って上昇する溶出試験器バス内の溶液の244 nmにおける吸光度から溶出率を求めた。n数に関しては、n=1~6とし、n=2以上の場合、溶出率はその平均値を使った。なお、ここで緩衝液として以下の第1液、第2液、及び緩衝液3として、下記の水溶液を使用した。いずれもバス内の溶液の温度は37℃とした。
【0245】
・第1液:塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0mL及び水を加えて溶かし1000 mLに調整した(pHは、約1.2、以下酸性溶液と称することがある。)。
・第2液:リン酸二水素カリウム3.40g及び無水リン酸水素二ナトリウム3.55gを水に溶かし、1000 mLとしたリン酸塩緩衝液1容量に水1容量を加えて調製した(pHは、約6.8、以下中性溶液と称することがある)。
・緩衝液3:クエン酸水和物3.378g及び無水リン酸水素二ナトリウム2.535 gを水に溶かし、1000mLとして調製した。
【0246】
2.カプセル調製液の動的粘弾性の測定
カプセル調製液の動的粘弾性はAntonPaar社製、レオメーター(MCR102)を用いて測定した。測定には二重円筒管測定治具(型番CC27/T200/SS)と温度制御システムC-PTD200を使用した。液量は約19mLとした。また、測定中の水分蒸発を防ぐため、円筒管中のサンプル液の最表面に1mL程度の綿実油を垂らした。温度依存性は、60℃から20℃まで、1℃/分で低下させ、同時にひずみの振り角を1から0.1%まで線形に低下させながら測定した。角周波数ω(rad/sec)は、2π/秒である。動的粘弾性として、貯蔵弾性率G’(Pa)、損失弾性率G’’(Pa)、複素粘度|η*|=|G*|/ω=√(G’2+G’’2)/ω(Pa・s)、及び、粘度η’’=G’’/ω(Pa・s)の値を測定した。
【0247】
3.カプセル調製液の粘度
カプセル調製液(55℃)の粘度は、ブルックフィールド粘度計(TVB-10M(東機産業))を使用して測定した。測定にはM3ロータ(測定範囲0~10,000 mPa・s)を使用した。ロータ回転数は、12 r.p.m.、1Lビーカーでカプセル調製液を調製(液量は600 ml)したのち、該ビーカーにロータを入れて測定時間50秒で測定した。
【0248】
4.皮膜構造の観察
皮膜構造の観察には、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び顕微ラマンを使用した。
(1)SEM
走査型電子顕微鏡は、Carl Zeiss社製Ultra55を使用した。
カプセル被膜の断面を観察するため、調製したカプセル皮膜を輪切りにした小片に切り出し、エポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで薄切し観察用の切片(およそ300~400μm四方で2~3μm厚み)を作製した。切片にPtPdで蒸着処理した。電子線は、加速電圧3kVで照射し、切片をスキャンした。
【0249】
(2)顕微鏡ラマン
顕微鏡ラマン装置にはThermo Fisher Scientific製Nicolet Almega XRを使用した。励起波長は、532nm、分解能は、約10/cm(10カイザー)、照射径は、1μmφ(100倍対物レンズ、25μmピンホール:平面方向 1μmφ × 深さ方向(=切片厚み) 2μmの円柱状内部の情報が得られる。)、励起出力は、100%(10mW以下@試料位置)、露光時間×積算回数は10sec×2回とした。
【0250】
輪切りにしたカプセル小片をエポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで薄切し、厚み2μmの切片を作成した。切片を金属板上にのせ、観察した。
【0251】
また、イメージングラマン分光法による腸溶カプセルの微細構造観察においては、ナノフォトン社製RAMANplusを用いた。励起波長は532nm、0.9NA、100倍対物レンズ、分解能約4cm-1である。励起出力、露光時間等は適宜調整している。TC-5S及びL30D-55のそれぞれに固有のラマンシフトとしてそれぞれ、1370cm-1(δCH3)と1730cm-1(νC=O)のピークに注目してマッピングを行った。
【0252】
5.調製液の観察
調製液の観察は、ステージの温度調節機能を有する光学顕微鏡(オリンパス社製BX53)を使用して行った。接眼レンズは10倍、対物レンズは10倍のものを使用し、
透過観察した。55℃の調製液をやはり55℃のステージ上で予熱したスライドガラス上に滴下し、さらにその上をやはり55℃に予熱したカバーガラスで覆った。
【0253】
6.皮膜中の残留塩濃度
カプセル皮膜中の塩(ナトリウム)は以下の手順で乾式灰化処理後、原子吸光光度法(AAS)で定量した。試料を白金坩堝に精秤し、濃硫酸を添加後650℃の電気炉で有機物がなくなるまで加熱した。残った灰分を希塩酸に溶解し、適宜希釈して原子吸光度計(VARIAN社製SpectrAA-220)で定量した。
【0254】
7.飽和水分量
<乾燥減量法によるカプセル皮膜中の含水率の測定方法>
デシケーターに、炭酸カリウム飽和塩を入れて恒湿状態とした雰囲気中に試料(硬質カプセル、又はフィルム)を入れ密閉し、25℃で1週間調湿した。なお、炭酸カリウム飽和水溶液の存在下では、相対湿度約43%の雰囲気を作成することができる。調湿後の試料の質量(湿質量)を測定した後、次いで当該試料を105℃で2時間加熱乾燥し、再度試料の質量(乾燥質量)を測定した。乾燥前の質量(湿質量)と乾燥後の質量(乾燥質量)の差から、下式に従って、105℃で2時間加熱乾燥することによって減少する水分量の割合(含水率)を算出した。
【数4】
【0255】
8.カプセル皮膜の機械強度(弾性率と破断伸び率の測定)
硬質カプセルの皮膜の機械強度を評価する場合、被験皮膜の厚みをそろえて比較することが重要である。このため、硬質カプセルの各成分組成に依存する皮膜の機械強度は、ディッピング法によって成形された硬質カプセルのかわりに、硬質カプセル調製液の各成分組成と同一成分組成である調製液を用いて、キャスト法によりフィルムを作製し、当該キャストフィルムを用いて評価した。当該フィルムは、厚みの均一性、評価の再現性に優れており、かつカプセル皮膜としての機械強度をよく反映するものである。
【0256】
キャストフィルムは、室温に保持したガラス面上又はPETフィルム上に金属性のアプリケーターを設置し、50℃~60℃の調製液を流しこみ一定速度で移動させ100μmの均一なフィルムを作製した。その後、室温~30℃で10時間程度の乾燥を行った。
100μmの均一な膜厚のフィルムを得るため、ギャップが0.4mm~1.5mmのアプリケーターを適宜使い分けた。
【0257】
作製したフィルムは、5mm×75mmのダンベル形状(JIS K-7161-2-1BAで規定) にカットした後、小型卓上試験機(島津製作所EZ-LX)を用いて引張試験を行った。フィルムの両端をホルダーにセット(ギャップ長60mm)し、引張速度、10mm/minで引張、フィルムの伸びとフィルム内に生じる応力(引張応力)-伸び率(ひずみ)曲線を求めた。図5中における低応力時の弾性変形領域の傾きから、硬さの指標である弾性率をもとめ、破断点における伸び率を破断伸び率(%)とした(非特許文献4、Chapter4)。
【0258】
まず、25℃、相対湿度22%(酢酸カリウム飽和塩を使用)の条件の調湿下で一週間以上調湿した後、引張試験を実施し機械的強度を評価した。引張試験は、やはり、25℃、相対湿度22%の温湿度環境下で行った。また、25℃、相対湿度63%(硝酸アンモニウム飽和塩を使用)の条件の調湿化で一週間以上調湿した後、引張試験を実施し機械的強度を評価した。引張試験は、やはり、25℃、相対湿度63%の温湿度環境下で行った。
【0259】
III.調製液の調製方法
以下手順に従って、カプセル調製液を調製した。操作はすべて溶液を撹枠しながら行った。以下においては、第i~iv成分の固形分(第iv成分の場合、液体状高分子であっても固形分と称することがある)をポリマー成分と称する。また、全溶液質量は、溶媒である精製水に加え、ポリマー成分、塩基性中和剤、その他の固形分(可塑剤、遮光剤など)合計質量となる。ポリマー成分濃度とは、前記ポリマー成分合計質量の全溶液質量に対する比率(質量%)をいう。
【0260】
III-1、調製液の調製方法(態様3-1に相当)
a.後に加える第ii成分のメタクリル酸コポリマーの水分散液(固形分濃度30質量%)、第iii成分の(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー分散液(固形分濃度30質量%)及び遮光剤である酸化チタンの分散液(濃度22質量%)の水分量を考慮し、ポリマー固形分濃度が、所定濃度(20%程度)となるような量の室温の精製水を用意した。
b.室温にて、メタクリル酸コポリマー分散液を所定量上記精製水に投入し、その後塩基性中和剤として水酸化ナトリウム(NaOH)及び他の塩類を投入し、部分中和液を調製した。NaOHは、特に断らない限り、以下の例においては、メタクリル酸コポリマーのカルボキシル基の約8%を部分中和するのに相当する分量を用いた。すなわち、メタクリル酸コポリマーの固形分1gに対し、MaOHの中和当量214.2mg/gの約8%の量を加えた。他の塩類は、この工程において、さらに追加で加えている。部分中和後の調製液のpHは、概ね5~6の範囲にある。第iii成分及び第iv成分は、この段階で投入した。
c.この部分中和溶液を83℃にまで昇温させたのち、酸化チタン分散液を投入しスリーワンモターで十分撹拌した後、水溶性セルロース化合物を投入し、だま、ができないように均一に分散させ懸濁液を調製し、脱泡した。その後、投入し溶解させた。
d.前記溶液の温度を下げ、水溶性ポリマーの溶解温度(曇点、T0)以下の温度T2まで降温し、水溶性セルロース化合物を部分溶解させた分散液を調製した。T2は、50~55℃とした。
e.d.で調製された分散液を調製液温度T3(55℃)で保持した。なお、第iii成分の分散液、第iv成分は、この段階で加えることもできる。結果、ブルックフィールド粘度計での粘度が、ほぼ1,000~3,000mPa・sの範囲となった。なお、最終的な全ポリマー成分濃度は、粘度がこの範囲になるよう、温純水の追加、蒸発による微調整を行った。また、上記すべての工程で、プロペラ翼を用いて、100~1,000rpmで撹拌を行った。
【0261】
ここで、d.において、水溶性セルロース化合物の溶解が始まっているかどうかは、分散液の粘度の変化を指標に判断することができる。具体的にはそれまでほぼ水と同じ粘度であった分散液の粘度が溶解開始を期に急激に増加する。また白濁した分散液が、一部の粒子の溶解に伴い、乳白色の半透明な溶液となる。したがって、あらかじめ水溶性セルロース化合物単独の分散液で、動的粘弾性評価により急激に粘弾性の上昇する温度、もしくは、半透明となるおよその温度T4を測定しておき、T2、T3がT4より手前(高温側)となるようにした。
【0262】
IV.カプセルの成形方法
上記III.で調製されたカプセル調製液を用いて、コールドピン浸漬法により硬質カプセルを調製した。保持温度T3=55℃で、ほぼ一定温度に保ったカプセル調製液中に、室温(25℃程度)に放置したモールドピン(サイズ2号)を数秒間浸漬させたのち、大気中に引き上げた。カプセル調製液が付着した成形ピンを上下反転させ、室内雰囲気温度で10時間以上乾燥させた。
【0263】
V.調製例
V-1.調製例V-1
以下の実施例、比較例においては、調製例III-1(調製方法の態様3-1)に従ってカプセル調製液を調製し、成形方法IVによって成形を行った。第i成分、第ii成分、第iii成分及び第iv成分の固形分質量合計(ポリマー成分質量合計)を100質量%としたときのそれぞれの質量%を、α、β、γ、δとした。塩基性中和剤(NaOH)及び他の塩類、酸化チタン(遮光剤)の、上記ポリマー成分質量合計に対する質量比をそれぞれ、ε(%)、σ(%)とした。また、溶媒である精製水と第i~iv成分の固形分の合計質量における、第i~iv成分のポリマー成分の質量比をポリマー成分濃度(%)とした。表3にそれぞれの具体的な組成を示した。また、これらの表中において中和度(対第2成分)とは、調製方法の工程Aにおける、第ii成分の固形分に対する中和度である。
【0264】
1.実施例1、比較例1
表3に、pH1.2(第1液)、4(緩衝液3)、及び6.8(第2液)におけるカプセルの溶出率、カプセル皮膜と同一組成のキャストフィルムの弾性率、伸び率、水分含有量を示した。また、HPMCAS-MFを20質量%、残部をエタノールとするバンドシール液、もしくは、L100-55を19.1質量%、NaOHを0.169質量%、クエン酸トリエチルを1.74質量%含み、(無水)エタノールの比率を40質量%とする水/エタノール混合溶媒とするバンドシール液の2種類のバンドシール液を作成し、実施例1のいくつかのカプセルのキャップとボディの結合部分を覆うように、幅約5mmのバンド状に塗布し、室温で乾燥しバンドシールとした。溶出試験中剥離等を生じることはなかった。また、pH1.2での2時間後の溶出率を若干抑制できた。むしろ、個々のカプセルのキャップとボディの間のばらつきによる、内容薬物の漏れ出しを抑制し、全体として平均溶出率のばらつきを抑制する効果があると考えられた。この効果は、溶出試験の時間経過とともに、カプセル皮膜が少し膨潤して、前記ギャップを閉じる効果と合わせて、カプセルの密封性を良好に保つのに寄与すると考えられた。
【0265】
実施例1-9と同じ組成比を保ちながら、さらに、第4成分の界面活性剤をSEFSOL218,ジオクチルソジウムスルホサクシネート、HCO60に置き換えた場合も、腸溶性を損ねることなく、割れ性の改善(破断伸び率の増加)が確認できた。カプセル調製液の粘度を下げることができ、浸漬時の粘度調整に有用である。これらの、界面活性剤、可塑剤は、10質量%を大きく超える場合、63%RHにおける弾性率が1GPa・Sを下回る傾向があった。
【0266】
すなわち、実施例1の各組成のポリマー成分を含有するカプセル調製液の55℃でのB型粘度計における粘度は、500~10000mPa・Sの範囲にあった。なお、実施例1-12において、リン酸水素2ナトリウムを添加することは、その塩析効果によりカプセル調製液の粘度を低下させる効果がある。実際、同じ組成比を保ちながら、リン酸水素2ナトリウムを添加しなかった場合、HPMCである60SH50の粘度値(重合度)が非常に高く、固形分濃度を数質量%以下にしなければ、カプセル調製液の粘度を10,000mPa以下にすることが困難であった。このような低固形分濃度では、水分の蒸発に時間がかりすぎるため、浸漬法によるカプセル製造には好ましくない。他方、実施例1-12の組成比を保ちながら、リン酸水素2ナトリウムを同質量%の亜硫酸2ナトリム、または、クエン酸3ナトリウム・2水和物に置換した場合でも、塩析効果により粘度が顕著に低下し、浸漬法によるカプセル成形に適した範囲となった。
【0267】
比較例1-1は、第1成分を粘度値4.5mPa・sとした例である。比較例1-1は非常に割れやすく、皮膜の機械的強度が不十分であった。
【0268】
比較例1-2は、第1成分をヒドロキシプロピルセルロース(HPC)とした例である。比較例1-2は、カプセル皮膜、キャストフィルムともに表面が荒れており、また、伸び率が低く、硬質カプセルとしては不十分なその機械的強度であった。
【0269】
比較例1-3は、第1成分と第2成分の合計の割合を、70質量%未満した例である。特に、第1成分の割合が30質量%未満の場合、非常に割れやすいキャスト皮膜となり、硬質カプセル成形が困難であった。ここで、非常に割れやすいとは、実際上、硬質カプセル成形及が困難で、伸び率が2%を大きく下回ると推定される場合である。
【0270】
比較例1-4は、第1成分と第2成分の合計の割合を、70質量%未満した例である。特に、第2成分の割合が30質量%未満の場合、pH1.2における溶出抑制が不十分であり、硬質カプセルとして適さないことが示された。
【0271】
比較例1-5、1-6は、第1成分と第2成分の合計の割合が、70質量%以上であるが、第2成分の割合が30質量%未満の例である。この場合、pH1.2における溶出抑制が不十分であり、硬質カプセルとして適さないことが示された。
【0272】
比較例1-7は、第1成分と第2成分の合計の割合が、70質量%以上であるが、第2成分の割合が60質量%以上の例である。この場合、非常に割れやすいキャスト皮膜となり、硬質カプセルとして成形が困難であった。
【0273】
なお、第1成分も第2成分もともに30質量%未満の場合には、自立した乾燥皮膜が得られず、カプセル化が困難であったり、溶出特性、機械特性のいずれかが、腸溶性硬質カプセルとしての要件を満足しなかった。
【0274】
比較例1-8、1-9、1-10は、第1成分であるHPMCを含まず、第2成分(L30D-55)と第3成分(NE30D)のみからなるキャストフィルムの例である。錠剤等のコーティングで用いる場合が多い。これらにおいて、第2成分と第3成分の組成比を変更してみたものの硬質カプセル皮膜に適した機械的強度は得られなかった。引張試験を実施するのが困難なほど自立皮膜としては強度が不十分であり、極端に柔らかいか、割れやすいかのいずれかであった。
【表3】
【0275】
次に、実施例1-3のカプセルの皮膜の横断面を切り出し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、図2に示すように、細長い島相と、海相からなる構造が観察された。顕微ラマン分析により、それぞれの相の成分を分析したところ、図中の黒っぽい粒が存在する相が海相で、黒っぽい粒子は、海相に分散した酸化チタンの凝集体であった。粒径が荒い、又は、凝集しているので、未溶解のHPMCの島部分に侵入できなかったものと推定される。原子吸光光度計で測定したカプセル皮膜中の残留ナトリウムの組成は、ゼリー溶液中のNaOH濃度とほぼ同量であった。このことから、NaOHのほぼ全量が塩(-COONa)を形成し皮膜中に取り込まれていると推定された。当該カプセルを60℃、乾燥オーブン内で3日間保管したが、黄変等の変化は見られなかった。また、溶出試験結果もほとんど変化しなかった。腸溶性メタクリル酸コポリマーの腸溶性ポリマー全体に対する部分中和量は、十分低く、8%程度であるため、塩による皮膜への弊害は見られないものと考えられる。
【0276】
さらに、実施例1-3において酸化チタンを加えない皮膜サンプルに対して、イメージングラマン分光法による腸溶カプセルの微細構造観察を行ったところ、ほとんどHPMC固有のピークのみが検出される領域と、HPMC及びL30D-55両方のピークが同等に検出される領域に分離していることがわかった。すなわち、HPMCを主成分とする相(島相)と、HPMCとL30D55とが混じった相(海相)の2つの相が観察された。本発明カプセル調製液において、未溶解のHPMCの固体微粒子が残存して島となり、一部、水溶媒中に溶け出したHPMCとL30D-55が各島を取囲む海相を形成するとの推定が裏付けられた。中和度が8%程度であることから、大部分のL30D-55はコロイド粒子として含まれると推定される。また、海相におけるHPMC(1370cm-1(δCH3))とL30D-55(1730cm-1(νC=O))のピーク強度比は、約32.5対62.5であり、L30D-55が主成分であり、海相が腸溶性機能を担保していることが推定される。また、海相に溶解したHPMCと腸溶性ポリマーが混在することが、島相(未溶解HPMC粒子)間の密着性を強め、全体としてカプセル皮膜の機械的強度を強めることに寄与していることも推定される。
【0277】
次に、実施例1-3で用いた調製液の温度を55℃に保ったステージ上のスライドガラス上に滴下し、さらに55℃で予熱したカバーガラスで封入後、光学顕微鏡で観察したときの透過像を図3に示した。図中の白っぽい部分が未溶解のHPMCの固体微粒子である。周辺の黒っぽい領域は、腸溶性ポリマーを主成分とする水溶液であり、酸化チタンを含むために黒っぽく見える。さらに、カバーガラスとスライドガラスで挟み込んだ上記調製液を顕微鏡ステージ上に保持したまま、10℃/minで降温しながら観察を行ったところ、微粒子への水分浸透によると思われる膨潤から、粒径や粒子形状の変化はあるものの、室温まで、ほぼすべての未溶解HPMC微粒子は残存した。他方、HPMC粒子(第i成分)の分散液では、概ね30℃を下回ったところで、未溶解粒子はなくなり全量が溶解した。なお、硬質カプセル調製過程においては、乾燥工程において前記膨潤した分散微粒子中の水分が蒸発し、皮膜厚み方向に圧縮され、図2の皮膜断面図からわかるように、厚み方向の径は、カプセル皮膜厚み(約100μm)より十分小さく、概ね30μm以下となっている。
【0278】
このカプセル調製液を55℃にて撹拌容器中にて保管したところ、このHPMCに固体微粒子の分散液は、少なくとも1週間以上、安定であることが確認された。この期間、初期変動を除き、粘度も安定であった。
【0279】
さらに、図4に、実施例1-3で用いた調製液を温度T1から室温まで降温したときの貯蔵弾性率G’(Pa)、損失弾性率G’’(Pa)の変化を示す。40℃~45℃の間で、貯蔵弾性率G’(Pa)が損失弾性率G’’(Pa)を上回っており、そのまま室温付近まで維持され、冷ゲル法による硬質カプセルの調製に適した調製液であることが示された。
【0280】
【表4】
【0281】
2.参考例1、2、3
第i成分、及び第ii成分、及び適量の塩基性中和剤がすべてそろっていることが、本発明のコールドピン浸漬法の調製液及び硬質カプセルに必要なことを確認するため、参考例1-1~1-5は、実施例1-3において、また、参考例2-1~2-5は、実施例1-5において、酸化チタンを加えない組成を基本とし、調製方法の態様3-1において、いずれかの成分を抜き、その分の質量を単純に精製水でおきかえた各種溶液を作成し、カプセル調製液としての適性を確認した。
【0282】
表4に調製液の組成(いずれの場合も酸化チタンは含まない)、レオメーターでの降温時の動的粘弾性測定結果、すなわち、室温付近でのゲル化の有無(レオメーター測定で、G’>G’’ならばゲル化と判断し、「○」で表す。G’<G’’であるか、見かけ上G’>G’’であっても、G’が非常に小さくて、実際上固体化不能である場合は、「×」で表す)及び30~50℃での急激な粘度増加の有無を示す。また、「自立乾燥皮膜形成」として、キャスト法により自立した皮膜が得られるかどうかを評価した。この評価は、他の支持材によらずに、自立した皮膜が形成できるかどうか、さらには、空の硬質カプセル皮膜として適当な機械強度を有るかどうかを示している。表4において自立した皮膜が形成できたものは○で示す。キャスト法において多少ポリマー成分濃度を調製しても、調製液を塗布する基板からはがす際に脆すぎたり、柔らかすぎたりして、自立可能な皮膜として剥離困難なものは×で示す。
【0283】
第i成分としてHPMC (TC-5S、60SH-50)、第ii成分としてEudragit、L30D-55の分散液の組み合わせ、及び、適切な部分中和をするための塩基性中和剤のすべてが含まれる本発明カプセル調製液(参考例1-4、2-4)と、いずれかの成分が欠ける参考例1-1~1-3、2-1~2-3)の溶液とで、降温時の動的粘弾性挙動を比較した。除外した成分は、単純に同質量の精製水で置換した。
【0284】
第i成分が部分溶解された分散液(参考例1-1、2-1)は、構造粘性によるものと推定される30~50℃での粘度上昇は示したが、室温付近でのゲル化(G’>G”)は示さなかった。第ii成分分散液(参考例2-2)単独では、全温度域でほぼ完全に液体的挙動を示し、G’、G’’ともに非常に小さく、55℃から室温にわたって、概ね100mPa・s未満であった。すなわち、降温過程での適当な粘度上昇も室温付近での冷ゲル化能も示さなかった。さらに、第ii成分と第iii成分の混合液(参考例2-2)でも、降温過程での適当な粘度上昇と冷ゲル化能を示さなかった。
【0285】
第i成分と、塩基性中和剤無(中和剤無)の第ii成分分散液のみを含む場合(参考例1-3)、両成分を混合した直後に著しい凝集がおき、カプセル調製液としては不適当であった。この現象は、第iii成分又は第iv成分の存在にはほとんど影響されなかった。第i成分と第ii成分、及び第iii成分を含むが、第ii成分を中和剤で完全中和した場合(参考例1-5、2-5)、降温時に粘度の若干の増加は見られたが、全体に、非常に低い粘度(概ね100mPa・s以下)で好ましい冷ゲル化特性が失われた。第i成分と中和度8%程度の第ii成分を混合した場合(参考例1-4、2-4)の場合にのみ、適度な冷ゲル化特性が得られた。このことから、腸溶性硬質カプセルを調製するためのカプセル調製液としては、第i成分、第ii成分及び第ii成分を部分的に中和できる塩基性中和剤がすべてそろっていることが重要であると考えられた。
【0286】
さらに、参考例3-1~3~5において、L30D-55に対するNaOHによる中和度を変化させた例を示す。中和度2%では、若干凝集塊が見え始めている。また、中和度が20%では、降温過程で一旦G’>G’’となりゲル化するものの最後に室温付近、特に25℃以下で、再交差してG’<G’’となる傾向がみられ、カプセル成形は可能なレベルであるものの、冷ゲル化特性が損なわれるようになった。これ以上の中和度では、液だれのためカプセル成形が困難になる。冷ゲル化には、適切な中和度が必要であることが確認された。
第ii成分をFS30Dとした場合にも、同様の現象により、2%未満の中和度では、第i成分と混合した際に直ちに凝集が起きた。
【0287】
当然のことながら、腸溶性基剤である第ii成分の存在なくして乾燥後の皮膜の腸溶性は担保出来ない。第ii成分自体は、及び第ii成分と第iii成分のみでは、割れやすく自立した皮膜化が困難であった。本発明では、特に、皮膜成分中の第i成分の割合を20質量%以上、好ましくは、30質量%以上、さらには、40質量%以上とすることができ、第i成分と第ii成分(及び少量の塩基性中和剤)のみでも自立した皮膜化が実現できた。
【0288】
3.実施例2
実施例1-3の本開示に係る腸溶性硬質カプセル(サイズ3号)に、アセトアミノフェン混合末を充填したカプセル製剤を用意しこれを内部カプセルとした。ヒプロメロースカプセル(Quali-V(登録商標)、サイズ0号)にカフェイン100mgと、前記内部カプセルを充填した2重カプセル構造を有するカプセル製剤を用意した。pH 1.2の第1液中で2時間溶出試験を行った後、当該カプセルを取り出し、引き続き、pH 6.8の第2液中で溶出試験を行った。カフェイン及びアセトアミノフェンの溶出率の時間変化を図6に示す。第1液中ではpH依存性のないヒプロメロースカプセルのみが速やかに溶解し、中身のカフェインのみが短時間でほぼ100%溶出したが、内側の本開示に係る腸溶性硬質カプセルは溶解せず、アセトアミノフェンの溶出は10%未満であった。第2液中に移行してから、速やかに溶解が始まり、アセトミノフェンが約30分で100%溶出していることが示された。
【0289】
4.参考例4
表5に示すような組成において、参考例4-1では、実施例1と同様の調製工程を経て、HPMC微粒子が分散された、白濁して不透明なカプセル調製液を作成し、55℃で保温した。他方、参考例4-2は、まず、HPMC原料粉末のみを約80℃の温水に投入後、室温まで下げて、HPMC粒子をほぼ完全に溶解させ透明になった水溶液を調製した。ついで、室温で、薄く白濁したL50D-55コロイド分散液に水酸化ナトリウムを加えた部分中和液を作成し、前記HPMC水溶液と混合した。酸化チタン分散液は最後に加え、室温で保温した。参考例4-2の調製液は、このままでは冷ゲル化機能を有しない。それぞれ、55℃、及び、室温で保持した参考例4-1、4-2の調製液を用い、キャスト法によるフィルムを作製した。
【表5】
【0290】
図7(a)断面図のように、ブリスターパック容器(ポリ塩化ビニル製、高さ約5mm、開口部直径10mmφ)の開口部に前記皮膜を接着し、内部に溶出試験に用いるアセトアミノフェン混合末、198.45mg、を充填した試験体を用意した。さらに、図7(b)のようにシンカー内に封じ、pH=1.2の溶出試験液中(37℃)で溶出試験を行った。(以下、フィルム溶出試験と称する。)
【0291】
2時間後の溶出率は、参考例4-1と4-2それぞれに対して、3.5%と11.5%であった。
【0292】
参考例4-1,4-2の処方で、酸化チタンを含まないフィルムの断面のSEM観察を行ったところ、参考例4-1の皮膜は、本発明による未溶解のHPMC粒子をコア相とする2相構造を有している。他方、参考例4-2の皮膜は、HPMCがいったん完全に溶解されているため同様の多相構造を形成しない。全成分がほぼ均一に溶解され、かつ、そのまま乾燥して皮膜化されていることがわかった。このことは、それぞれ、55℃、及び、室温で保持した参考例4-1、4-2の調製液を顕微鏡観察しても確認できる。すなわち、参考例4-1の調製液では、乾燥後にコア粒子となる未溶解のHPMC粒子と、乾燥後に結合相となる溶液部分が観察される。他方、参考例4-2の調製液では、光学的には均一な溶液が観察される。
【0293】
HPMCコア粒子を残さず、いったん完全溶解させた場合、HPMC分子と腸溶性ポリマー(数nmのコロイド粒子構造がある程度は残存するとしても)均一に混合されており、μmオーダー以上の相構造は消失すると考えられる。この場合、40質量%程度の機能性(腸溶性)ポリマー含有率では、十分な機能(耐酸性)が担保できない。機能性を担保するためには、機能性ポリマーが主成分である、すなわち、おおむね60質量%以上の機能性ポリマー(L30D-55)を加える必要があり、その場合には、非常に脆くなって、硬質カプセルとして適した皮膜強度が得にくい。
【0294】
他方、水溶性のHPMCコア粒子を、腸溶性ポリマーを主成分とする相で結合することで、コア粒子が腸溶性ポリマーを主成分とする相でほぼ完全に被覆され、より少ない機能性(腸溶性)コポリマーで所望の(耐酸性)機能を付与することができることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8