(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】優れた機械的及び耐食特性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20231016BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20231016BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/08
C08K7/04
(21)【出願番号】P 2020536273
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 KR2018016669
(87)【国際公開番号】W WO2019132513
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0182038
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522063446
【氏名又は名称】エイチディーシー ポリオール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】オ・ヒョングン
(72)【発明者】
【氏名】シン・ジョンウク
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ミョンウク
(72)【発明者】
【氏名】チェ・セラン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ヘリ
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-146852(JP,A)
【文献】国際公開第2010/058748(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0287201(US,A1)
【文献】特開2017-141452(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0156565(US,A1)
【文献】米国特許第03451873(US,A)
【文献】中国特許出願公開第105970333(CN,A)
【文献】特開2007-070587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総重量に対してそれぞれ、40~65重量%のポリアリーレンスルフィド樹脂、0.1~1.0重量%の遷移金属粒子、30~55重量%の繊維状無機フィラー、及び0.1~2重量%の無機核形成剤を含んで成り、
前記遷移金属粒子は、1~10μmの平均径を有し、及び
前記遷移金属粒子は、銅、ニッケル、亜鉛、及び金から成る群から選択される少なくとも1つの遷移金属を含んで成る、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が300℃で300~10000ポアズの溶融粘度及び7000~30000g/モルの数平均分子量を有する、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記繊維状無機フィラーが、6~15μmの平均径及び1~5mmの平均長さを有し、並びにアミノ系シラン、エポキシ系シラン、ウレタン系シラン及びこれらの組合せから成る群から選択されるシランで表面処理される、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記繊維状無機フィラーがアルミノホウケイ酸ガラス繊維である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機核形成剤が、ホウ酸塩、硫化ホウ素(B
2S
3)、塩化ホウ素(BCl
3)、ホウ酸(H
3BO
3)、灰硼石、ホウ酸亜鉛、炭化ホウ素(B
4C)、窒化ホウ素(BN)、及び酸化ホウ素(B
2O
3)から成る群から選択される少なくとも1つを含んで成る、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ系シラン、メルカプト系シラン、及びアミノ系シランから成る群から選択される少なくとも1つの相溶化剤をさらに含んで成る、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、スリップ剤及び顔料から成る群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含んで成る、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形することにより生成される成形品。
【請求項9】
自動車部品、電気部品、又は電子部品である、請求項
8に記載の成形品。
【請求項10】
薄層成形品又は射出成形品である、請求項
8に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関し、当該組成物は機械的特性、耐食性、ヘーズ特性、及び耐熱性において優れ、並びに当該組成物から成形される物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド(PAS)は、高温熱安定性、難燃性、低含水量等
を有する熱可塑性樹脂である。ポリアリーレンスルフィドは、鋼の代替品及び構造材料として有利に使用される。特に、ポリフェニレンスルフィド(PPS)は、その構造上の特徴により耐薬品性において優れている。それによって、従来のポリエステル樹脂やポリアミド樹脂によって置き換えることができなかった自動車部品や電気及び電子部品に幅広く使用されている(韓国公開特許公報2013-0020860、韓国特許番号10-1082636及び10-1475658を参照)。
【0003】
一方で、薄膜射出成形が、自動車部品や電気及び電子部品の小型化及び軽量化の傾向のために、成形品の生成に一般的に使用される。同時に、電気及び電子部品としての小型及び薄型成形品の機械的特性の向上が求められる。さらに、PPSは大抵ハロゲン系副産物を有する。これらの副産物は射出成形の際に型の腐食等の問題をもたらすだけでなく、成形工程間の製品の不良率も増大し、製品の耐久性を減少させる。したがって、射出加工性及び機械的特性において優れ、それにより製品の耐久性が向上する樹脂組成物に対する要求が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、射出加工性及び機械的特性に優れ、及び改良されたヘーズ特性及び耐熱性を有する樹脂組成物、並びにその樹脂組成物から成形された物品を供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂、遷移金属粒子、繊維状無機フィラー、及び無機核形成剤(又は成核剤、核剤;nucleating agent)を含んで成る樹脂組成物を供し、当該樹脂組成物は組成物の総重量に対して(又は基づいて;based on)遷移金属粒子を0.05~5重量%含んで成る。
【0006】
さらに、本発明は樹脂組成物を成形することにより生成される成形品を供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明による樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んで成り、その加工中にハロゲン系副産物を効果的に除去することができる。それによって、射出成形の間又は加工製品において引き起こされ得る腐食現象を改善することにより型の耐久性を向上することができる。特に、樹脂組成物は機械的特性、ヘーズ特性、及び耐熱性に優れ、自動車部品や電気及び電子部品に対して求められる基準を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂、遷移金属粒子、繊維状無機フィラー、及び無機核形成剤を含んで成る樹脂組成物を供する。
【0009】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は300℃で300~10000ポアズの溶融粘度を有し得る。具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂は300℃で300~5000ポアズ、又は1000~3000ポアズの溶融粘度を有し得る。
【0010】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は5000~30000g/モルの数平均分子量を有し得る。具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂は7000~30000g/モル、又は8000~20000g/モルの数平均分子量を有し得る。
【0011】
好ましくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂は300℃で300~10000ポアズの溶融粘度及び7000~30000g/モルの数平均分子量を有し得る。ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度が上記範囲内である場合、樹脂組成物の射出加工性が向上し得る。ポリアリーレンスルフィド樹脂の数平均分子量が上記範囲内である場合、加工製品の機械的特性が向上し得る。
【0012】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は265~290℃、具体的には270~285℃、又は275~285℃の融点を有し得る。
【0013】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は1~10の多分散指数(PDI)を有し得る。具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂は2~10、2~8、又は2~5の多分散指数(PDI)を有し得る。
【0014】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、樹脂組成物の総重量に対して40~65重量%の量で用いられ得る。具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、樹脂組成物の総重量に対して50~65重量%の量で用いられ得る。ポリアリーレンスルフィド樹脂が40重量%以上の量で用いられる場合、それによって生成される製品の機械的特性は悪化しない。65重量%以下の量で用いられる場合、それによって生成される製品の機械的特性が向上する。
【0015】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を作製するための方法は、上記物理特性を満たす限り、特に限定されない。例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂は溶融重合によって作製され得る。具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、二ヨウ化芳香族化合物(diiodide aromatic compound)及び硫黄元素を含んで成る反応物を溶融重合することによって作製され得る。
【0016】
上記溶融重合で用いられるような二ヨウ化芳香族化合物は、二ヨウ化ベンゼン(diiodobenzene)(DIB)、二ヨウ化ナフタレン(diiodonaphthalene)、二ヨウ化ビフェニル(diiodobiphenyl)、二ヨウ化ビスフェノール(diiodobisphenol)、及び二ヨウ化ベンゾフェノン(diiodobenzophenone)から成る群から選択される少なくとも1つであり得るが、それらに限定されない。さらに、二ヨウ化芳香族化合物は、上記化合物に結合したアルキル基又はスルホン基等の置換基を有し得て、又は酸素や窒素等の原子が芳香族基中に含んで成る二ヨウ化芳香族化合物も使用され得る。さらに、二ヨウ化芳香族化合物は、ヨウ素原子が結合する位置によって様々な異性体を有する。これらの中で、パラ二ヨウ化ベンゼン(para-diiodobenzene)(p-DIB)、2,6-二ヨウ化ナフタレン(2,6-diiodonaphthalene)、又はp,p’-二ヨウ化ビフェニル(p,p'-diiodobiphenyl)等のヨウ素がパラ位置に結合した化合物がより適し得る。
【0017】
二ヨウ化芳香族化合物と反応させるような硫黄元素は、特に限定されない。通常、硫黄元素は、室温で、8原子が結合されているシクロオクタサルファ-(S8)中に存在する。硫黄は、上記形態以外の任意の固体又は液体の状態で、市販で利用できるものであれば、制限なく使用されることができる。
【0018】
二ヨウ化芳香族化合物及び硫黄元素を含んで成る反応物は、重合開始剤、安定剤、又はそれらの混合物をさらに含んで成り得る。具体的には、重合開始剤は、1,3-二ヨウ化-4-ニトロベンゼン、メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオベンゾチアゾール、シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、及びブチルベンゾチアゾールスルフェンアミドから成る群から選択される少なくとも1つであり得るが、それらに限定されない。安定剤は、樹脂の重合反応で一般的に使用される安定剤である限り、特に限定されない。
【0019】
なお、重合停止剤が反応物の重合の間に、反応物に添加され得る。重合停止剤は、重合される重合体中に含まれるヨウ素基を除去することにより重合を停止することができる化合物である限り、特に限定されない。具体的には、重合停止剤は、ジフェニル型、ベンゾフェノン型、モノヨウ素アリル型、ベンゾチアゾール型、ベンゾチアゾールスルフェンアミド型、チウラム型、ヨウ素ビフェニル型、及びジチオカルバメート型から成る群から選択される少なくとも1つであり得る。より具体的には、重合停止剤は、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジベンゾチアゾールジスルフィド、ヨードフェノール、ヨードアニリン、ヨードベンゾフェノンノン、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、2-モルホリノチオベンゾチアゾール、N,N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、及びジフェニルジスルフィドから成る群から選択される少なくとも1つであり得る。
【0020】
一方で、重合停止剤を添加するタイミングは、ポリアリーレンスルフィド樹脂の目標粘度、又は目標分子量を考慮して決定することができる。具体的には、重合停止剤は初期反応に含まれる二ヨウ化芳香族化合物の70~100重量%が反応により消費した際に添加され得る。
【0021】
さらに、上記のような溶融重合のための条件は、二ヨウ化芳香族化合物及び硫黄元素を含んで成る反応物の重合を開始することができる限り、特に限定されない。例えば、溶融重合は、昇温及び減圧条件下で実行することができ、重合反応は180~250℃及び50~450トルの初期反応条件から270~350℃及び0.001~20トルの最終反応条件へ、温度が上昇し圧力が減少しながら、約1~30時間で実施され得る。具体的には、重合反応は約280~300℃及び約0.1~1トルの最終反応条件下で実施され得る。
【0022】
一方で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を作製するための方法は、溶融重合の前に、二ヨウ化芳香族化合物及び硫黄要素を含んで成る反応物を溶融混合することをさらに含んでなり得る。溶融混合は混合物が溶融混合されることができる限り、特に限定されない。例えば、130~200℃又は160~190℃の温度で実施され得る。溶融混合工程が上記のように溶融重合前に実施される場合、その後に実施される溶融重合はより容易に進行することができる。
【0023】
本発明の一実施形態によると、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融重合は、ニトロベンゼン系触媒の存在中で実施されることができる。さらに、溶融混合工程が上記のような溶融重合前に実施される場合、ニトロベンゼン系触媒は溶融混合工程中に加えられ得る。例えば、ニトロベンゼン系触媒は、1、3-ジヨード-4-ニトロベンゼン又は1-ヨード-4-ニトロベンゼンであり得るが、それらに限定されない。
【0024】
遷移金属粒子
遷移金属粒子は、樹脂組成物の総重量に対して0.05~5重量%の量で用いられ得る。具体的には、遷移金属粒子は樹脂組成物の総重量に対して0.05~3.0重量%、0.1~3.0重量%、0.1~2.0重量%、又は0.1~1.0重量%の量で用いられ得る。より具体的には、0.2~0.7重量%又は0.2~1.0重量%の量で用いられ得る。
【0025】
遷移金属粒子が上記範囲内で用いられる場合、樹脂組成物の機械的強度及び耐食性能が向上される。
【0026】
遷移金属粒子は、樹脂組成物の高温処理の間のポリマー鎖の熱分解を防ぎ、副産物によるガス形成を抑制し、それにより、耐熱性及び機械的強度を向上する。それによって、遷移金属粒子を含んで成る樹脂組成物は射出成形時における型の腐食の原因とならず、連続射出が可能となる。
【0027】
遷移金属粒子は、銅、ニッケル、チタン、パラジウム、クロム、金、亜鉛、鉄、モリブテン、コバルト、銀及び白金から成る群から選択される少なくとも1つの遷移金属を含んで成り得る。具体的には、遷移金属粒子は銅、ニッケル、チタン、亜鉛、クロム及び金から成る群から選択される少なくとも1つの遷移金属を含んで成り得る。
【0028】
遷移金属粒子は0.1~10μmの平均径(又は平均径;average diameter)を有する。遷移金属粒子は球状、プレート形状(又は板状;plate shape)、アモルファス形状(又は無定形状、又は不定形状;amorphous shape)、又はそれらの混合物で有し得る。具体的には、遷移金属粒子は1~10μm、1~8μm、又は2~8μmの平均径、及び球状、プレート形状、アモルファス形状、又はそれらの混合物を有する。
【0029】
繊維状無機フィラー
繊維状無機フィラーは樹脂組成物の耐熱性及び機械的強度を改善するのに役立つ。
【0030】
繊維状無機フィラーは、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、チタン繊維、アラミド繊維、及びアスベスト繊維から成る群から選択される少なくとも1つを含んで成り得る。具体的には繊維状無機フィラーは、ガラス繊維であり得る。より具体的には、繊維状無機フィラーはアルミノホウケイ酸ガラス繊維であり得る。
【0031】
繊維状無機フィラーは6~15μmの平均径、及び1~5mmの平均長さを有し得る。具体的には、繊維状無機フィラーは6~13μm又は9~12μmの平均径又は、及び2~5mmの平均長さを有し得る。
【0032】
繊維状無機フィラーは、樹脂との界面接着性を改善するために表面処理され得る。具体的には、繊維状無機フィラーは、アミノ系シラン、エポキシ系シラン、ウレタン系シラン、及びこれらの組合せから成る群から選択されるシランで表面処理され得る。
【0033】
繊維状無機フィラーは、樹脂組成物の総重量に対して20~65重量%の量で使用され得る。具体的には、繊維状無機フィラーは、樹脂組成物の総重量に対して30~55重量%、35~55重量%、35~50重量%の量で用いられ得る。繊維状無機フィラーが20重量%以上の量で用いられ得る場合、繊維状無機フィラーの添加により物理特性が強化され得る。65重量%以下の量で用いられ得る場合、樹脂組成物の加工性が低下する問題を防ぐことができる。
【0034】
無機核形成剤
無機核形成剤は、結晶成長を促進し、結晶サイズを減少しながら結晶化速度を増加させるために、結晶性ポリマーの初期の結晶核として作用する。
【0035】
特に、樹脂組成物が無機核形成剤を含んで成る場合、結晶化速度が促進され、それによって射出成形の間のサイクルタイムが減少し、結晶化度が低温成形でも増加させることができる。特に、ポリアリーレンスルフィド樹脂から生成された物品の表面特性は射出成形の間の成形温度によって大きく変化する。一般に、成形温度(又は型温度;mold temperature)が130℃以下の際にフィラーの突起等の表面欠陥が製品の表面に発生する。しかしながら、樹脂組成物が無機核形成剤を含んで成る場合、樹脂組成物の結晶が成形温度が低い際にでも促進され、それにより成形品の外観品質が大幅に向上する。
【0036】
無機核形成剤はタルク等のホウ素系(又はボロン系;boron)核形成剤あり得る。具体的には、無機核形成剤は、ホウ酸塩(borate)、硫化ホウ素(B2S3)、塩化ホウ素(又は三塩化ホウ素;BCl3)、ホウ酸(H3BO4)、灰硼石(又はコールマン石、又はコレマナイト;colemanite)、ホウ酸亜鉛、炭化ホウ素(B4C)、窒化ホウ素(BN)、及び酸化ホウ素(B2O3)から成る群から選択される少なくとも1つを含んで成り得る。具体的には、無機核形成剤は、窒化ホウ素(BN)、酸化ホウ素、又はそれらの組合せであり得る。より具体的には、無機核形成剤は、無機核形成剤の総重量に対して、5重量%以下又は0.5重量%以下の酸化ホウ素(B2O3)、及び95重量%の窒化ホウ素(BN)を含んで成り得る。より具体的には、無機核形成剤は、無機核形成剤の総重量に対して、0.01~0.5重量%の酸化ホウ素(B2O3)、及び99.5~99.99重量%の窒化ホウ素(BN)を含んで成り得る。
【0037】
ホウ酸亜鉛は、Zn2O14.5H7B6、Zn4O8B2H2、及びZn2O11B6から成る群から選択される少なくとも1つであり得る。
【0038】
無機核形成剤は、樹脂組成物の総重量に対して、0.1~2重量%の量で用いられ得る。具体的には、無機核形成剤は、樹脂組成物の総重量に対して、0.1~1.5重量%、又は0.1~1重量%の量で用いられ得る。無機核形成剤が上記の量の範囲での量で用いられる場合、冷却時間が短縮され、それにより製品の成形性が向上し、及び加工時間が減少し、それにより製品の加工効率が向上する。
【0039】
相容化剤
樹脂組成物はさらに相容化剤を含んで成り得る。
【0040】
相容化剤は、物理特性を強化するための物質である。相容化剤は、ポリアリーレンスルフィドと繊維状無機フィラーとの間の相溶性を向上することにより、ポリアリーレンスルフィドと繊維状無機フィラーとの間の界面接着性を改善する働きをする。
【0041】
相容化剤はシランであり得る。具体的には、樹脂組成物はさらにエポキシ系シラン、メルカプト系シラン、及びアミノ系シランから成る群から選択される少なくとも1つの相容化剤を含んで成り得る。
【0042】
相容化剤はドライシラン(又は乾燥シラン;dry silane)であり得る。ドライシランは、微細孔を含んで成る無機材に液体シランを担持することにより作製され得る。ドライシランに含まれるシランの量は、50~80重量%、60~75重量%のドライシランの総重量であり得る。液体シランは、エポキシシラン、メルカプトシラン、及びアミノシランから成る群から選択され得る。
【0043】
樹脂組成物は、樹脂組成物の総重量に対して1.0重量%以下の量で相容化剤を含んで成り得る。具体的には、樹脂組成物は、樹脂組成物の総重量に対して、0.1~1.0重量%、0.1~0.8重量%、又は0.3~0.7重量%の量で相容化剤を含んで成り得る。
【0044】
樹脂組成物は、熱安定剤、帯電防止剤、潤滑剤、スリップ剤(又は滑剤、又はすべり剤;slip agent)、及び顔料から成る群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含んで成り得る。
【0045】
成形品
本発明は、樹脂組成物を成形することにより生成される成形品を供する。
【0046】
成形品は、自動車部品及び電気又は電子部品であり得る。
【0047】
成形品は、二軸押出機、射出等の分野で公知である方法により、本発明の樹脂組成物を成形することにより生成され得る。例えば、成形品はフィルム、シート、薄層、又は繊維の様々な形態であり得る。さらに、成形品は射出成形品、押出成形品、薄層成形品、又はブロー成形品(又は吹込み成形品;blow molded article)であり得る。具体的には、成形品は薄層成形品、又は射出成形品であり得る。
【0048】
具体的には、成形品が射出成形によって生成される場合、成形温度は約130℃以上に設定され得る。成形品がフィルム又はシートの形状である場合、例えば、未延伸、一軸延伸、又は二軸延伸の様々なフィルム又はシートであり得る。成形が繊維である場合、未延伸糸、延伸糸、又は高度延伸糸等の様々な繊維であり得る。当該繊維は、布、編物、不織布(例えば、スパンボンド、メルトブロー、及びステープル)、ロープ、又は網として用いられ得る。成形品は、コンピューター部品、電子部品、建築部材、自動車部品、機械部品、日用品、化学薬品と接触する部品用のコーティング、又は産業用途のための耐薬品性テキスタイル等の電気部品として用いられ得る。
【0049】
発明の形態
以下に、下記実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、それら実施例は本発明を例示するために述べ、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【0050】
作製例1:PPS-1の作製
反応器内部の温度を測定することができる熱電対並びに窒素パージ及び真空に適用することができる真空ラインを備えた5リットル反応器に、5130gのパラ二ヨウ化ベンゼン(p-DIB)及び450gの硫黄を入れた。次いで、反応器を180℃に加熱し、p-DIBと硫黄を完全に溶解し混合した。その後、徐々に、初期反応条件である220℃及び350トルから最終反応条件である300℃及び0.6~0.9トルへと、温度が上昇し圧力が低下し、各添加における1回量が19gで硫黄を7回添加しながら重合反応を実施した。重合反応の進捗を、「(現在の粘度/目標粘度)×100%」の式により目標粘度に対する現在の粘度の相対比として測定した。目標粘度を2000ポアズに設定し、現在の粘度は重合反応の間に採取したサンプルを粘度計で測定した。重合反応が完成の80%進行した際、重合停止剤としてジフェニルジスルフィド35gを加え、反応を1時間行った。その後、真空を0.1~0.5トルで徐々に適用して目標粘度に到達し、反応を停止してポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS-1樹脂)を合成した。このようにして作製した樹脂を小さなストランドカッターを用いてペレットの形状に加工した。
【0051】
このようにして得られたPPS-1樹脂の融点(Tm)、数平均分子量(Mn)、多分散指数(PDI)、及び溶融粘度(MV)を下記方法に従って測定した。結果として、280℃の融点、11420g/モルのMn、2.8のPDI、及び2150ポアズの溶融粘度を有していた。
【0052】
融点
温度を示差走査熱量測定(DSC)で10℃/分の速度で30℃から320℃まで昇温し、その後30℃に冷却し、再度温度を10℃/分の速度で30℃から320℃まで昇温し、融点を測定した。
【0053】
数平均分子量(Mn)及び多分散指数(PDI)
PPS樹脂を0.4重量%の濃度で1-クロロナフタレンに250℃で25分間撹拌しながら溶解し、サンプルを作製した。次いで、高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)システム(210℃)で1ml/分の流速でサンプルを流し、異なる分子量を有するポリフェニレンスルフィドをカラム内で順次分離した。その後、異なる分子量を有する分離したポリフェニレンスルフィドの強度をRI検出器で測定した。既知の分子量を有する標準資料(即ち、ポリスチレン)で検量線を作製し、サンプルの数平均分子量(Mn)及び多分散指数(PDI)を計算した。
【0054】
溶融粘度(MV)
溶融粘度は回転ディスク粘度計を用いて300℃で測定した。スイープ周波数法による測定において、0.6rad/秒~500rad/秒まで角周波数を測定し、1.84rad/秒での粘度を溶融粘度と規定した。
【0055】
作製例2:PPS-2樹脂の作製
PPS-2樹脂を、目標粘度を調整したことを除き、作製例1のような同様の方法で作製した。PPS-2は1980ポアズの溶融粘度、281℃の融点、17290g/モルのMn、2.9のPDIを有した。
【0056】
実施例と比較例で用いた組成を以下の表1に示した。
【0057】
【0058】
実施例1:樹脂組成物の作製
作製例1で得られた59.3重量%のPPS-1樹脂、アミノシランで表面処理された40重量%のガラス繊維、0.2重量%のホウ素系核形成剤、及び0.5重量%の遷移金属粒子を混合用二軸スクリュー押出機に供給し、樹脂組成物を作製した。
【0059】
二軸スクリュー押出機は、直径が40mm及びL/Dは44(SM Platek)であった。押出条件は250rpmのスクリュー速度、40kg/時の供給速度、280℃~320℃のバレル温度、及び60%のトルクであった。原材料を合計2つのフィーダーを通じて別々に供給し、第1のフィーダーをPPS-1樹脂、ホウ素系核形成剤、及び遷移金属粒子の供給のために使用し、第2のフィーダーをガラス繊維の供給ために使用し、それによりPPS樹脂組成物を作製するために使用した。
【0060】
実施例2~6及び比較例1~4
下記表2に示されるような成分及び量であることを除き、PPS樹脂組成物を実施例1のような同じ方法で作製した。
【0061】
【0062】
実施例における物理特性の測定
実施例1~6及び比較例1~4で作製されたPPS樹脂組成物の物理特性を下記のような方法に従って各々測定し、測定結果を下記表3に示す。まず、実施例1~6及び比較例1~4で作製されたPPS樹脂組成物を310℃で各々射出成形し、物理特性を測定する射出成形の検体を作製した。
【0063】
(1)引張強度及び伸び
試験検体の引張強度及び伸びを、ISO527の方法に従って、ユニバーサル・テスト・マシン(Universal Testing Machine)(Zwick Roell Z010)を用いて測定した。
【0064】
(2)衝撃強度
80mm×10mm×4mm(長さ×幅×厚さ)の射出成形の検体の衝撃強度を、ISO179の方法に従って、シャルピー衝撃試験機(東洋精機)を用いて測定した。
【0065】
(3)曲げ強度及び曲げ弾性率
80mm×10mm×4mm(長さ×幅×厚さ)の射出成形の検体の曲げ強度及び曲げ弾性率を、ISO178の方法に従った測定した。
【0066】
(4)熱変形温度(HDT)
80mm×10mm×4mm(長さ×幅×厚さ)の射出成形の検体の熱変形温度(HDT)を、ISO75の方法に従って測定した。
【0067】
(5)耐食性
鋼板及び射出成形の検体を、加圧装置を備えたサイクルオーブン中に置いた。試験片を鋼板で挟み、2kgの重さでプレスし、及び85℃、85%の湿度の条件下で放置した。同じ組成の検体10個をチャンバー内に置き、腐食を確認するために2分毎にそれらの内の1個を取り出した。その場合、最初の腐食が発生した時間を記録した。射出成形の検体のサイズは60mm×40mm×2mmであった。耐食-1の鋼板はステンレス鋼(ポスコ(Posco)製、商品名:304LN)、及び耐食-2の鋼板はニッケルメッキ鋼(シンスン(Shinsung)ケミカル株式会社製、商品名:ニクラド(NiKlad)752)であった。
【0068】
【0069】
上記表3に示すように、遷移金属粒子を含んで成る実施例1~6の樹脂組成物は、引張強度、引張伸び、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、熱変形温度、及び耐食性が優れていた。一方で、遷移金属粒子を含んでいない比較例1~4の樹脂組成物は、耐食性が劣っていた。特に、遷移金属粒子を有しないPPS-2を含んで成る比較例3の樹脂組成物は、実施例3と比較して著しく低い引張強度、曲げ強度、及び衝撃強度を示した。
【0070】
(6)アウトガス
実施例1と比較例1のペレット型サンプル(10mg)を、等温熱重量分析装置(TGA)を用いて320℃で30分間各々維持し、5分の増分で発生する放出ガス(アウトガス;outgas)の量(即ち、発生割合(%))を測定した。測定結果を下記表4に示す。
【表4】
【0071】
(7)ヘーズ
実施例1及び比較例1の80mm×10mm×4mmの射出成形の検体を230℃、5時間各々維持し、試験前後のヘーズ(曇り又は曇り度;haze)の変化を測定した。測定結果を下記表5に示す。
【0072】
【0073】
表4及び5で示すように、遷移金属粒子を含んで成る実施例1の樹脂組成物は低いヘーズを有したが、一方で遷移金属粒子を含まない比較例1は著しく増加したヘーズを有した。高温環境下で発生する放出ガスによる製品のヘーズを、遷移金属粒子を添加することにより、著しく低減することができることが上記から確認された。
【0074】
(8)短期耐熱性
実施例1及び2並びに比較例1及び2の0.8mmのASTM曲げ検体が、250℃の高温オーブンで7分及び14分間各々エイジングされ、21分のサイクルエイジングを受け(7分のエイジングと7分の休止を3回)、耐熱性を評価した。エイジング前に測定した曲げ強度を100%として、エイジング前の曲げ強度に対するエイジング後の曲げ強度を測定することにより耐熱性を測定した。
【0075】
【0076】
表6に示すように、遷移金属粒子を含んで成る実施例1及び2の樹脂組成物は耐熱性において優れており、一方で遷移金属粒子を含まない比較例1及び2の樹脂組成物は著しく低い耐熱性値を有した。
【0077】
結果として、実施例1~6の樹脂組成物は、遷移金属の添加により機械的特性及び耐食性と同様、ヘーズ特性及び熱安定性において優れていた。対照的に、遷移金属粒子を含まない比較例1~4の樹脂組成物は、それらの特性の全て又はいくつかは劣っていた。それによって、それらは自動車部品及び電気・電子部品用の原材料として適切ではない。