(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】集菌方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20231016BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20231016BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20231016BHJP
C12Q 1/24 20060101ALI20231016BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231016BHJP
C12Q 1/689 20180101ALN20231016BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N1/20 Z
C12N1/14 Z
C12Q1/24
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/689 Z
(21)【出願番号】P 2020552583
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041658
(87)【国際公開番号】W WO2020085420
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018200476
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226862
【氏名又は名称】島津ダイアグノスティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳田 梨紗
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-100283(JP,A)
【文献】特開2010-013454(JP,A)
【文献】特表2004-535207(JP,A)
【文献】特開2010-200668(JP,A)
【文献】特開平02-255074(JP,A)
【文献】特開2010-104250(JP,A)
【文献】特開昭50-135275(JP,A)
【文献】特開2011-193730(JP,A)
【文献】特開2018-163064(JP,A)
【文献】米国特許第05416075(US,A)
【文献】特開昭53-062826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12Q 1/68
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体にアルブミン、カゼイン、加水分解カゼイン、乳蛋白質及びゼラチンからなる群より選択される1以上の蛋白質を添加し、得られた凝集体を回収することを特徴とする、検体中のグラム陽性細菌(ただし、マイコプラズマを除く)、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の集菌方法
であって、
検体が、滅菌水、生理食塩水、液体培地、生体試料、培養上清、緩衝液及びリンゲル液からなる群より選択される液体検体であり、
検体に前記蛋白質を添加した後のpHが5.0超11.0以下である、集菌方法。
【請求項2】
グラム陽性細菌(ただし、マイコプラズマを除く)及び/又はグラム陰性細菌の集菌方法である請求項1記載の方法。
【請求項3】
グラム陽性細菌の集菌方法である、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項4】
グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム属及びバチルス属からなる群より選択される1以上である請求項1~
3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス・アウレウス、バチルス・サブチリス及びクロストリジウム・スポロゲネスからなる群より選択される1以上である請求項1~
3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
検体に、さらに水不溶性担体を添加する請求項1~
5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項記載の方法によって
検体からグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を集菌し、集菌された微生物をポリメラーゼ連鎖反応に付すことを特徴とする、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の測定方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項記載の方法によって
検体からグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を集菌し、集菌された微生物を増菌することを特徴とする、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の集菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の汚染は、飲食品、医薬品、再生医療等に用いられる試薬の重要な管理指標の一つである。そのため、オートクレーブやフィルターを用いることで滅菌を行い、微生物の汚染を回避する方法が知られている。しかし、滅菌が困難な場合は、それらを無菌的に処理し、最終的に微生物汚染がないことを検査する必要がある。また、仮に滅菌処理をしたとしても、滅菌処理の効果が十分であったことを確認する必要がある。一方で、極めて小さな微生物が微量混入したとしても、これを精度よく検出することは難しい。また、検体が大量にある場合、これらの全てを検査することも現実的ではない。そこで、微生物を効率的に集菌又は分離する方法が考えられてきた。
【0003】
例えば、細胞を簡便かつ高効率に収集する方法としては、細胞表面の糖に結合するMDP1という蛋白質を凝集促進剤として用いて、遠心分離を行うことなく細胞を沈殿させることができることが知られている。加えて、抗体が固定化された粒子等の固体支持体を加える方法も報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、微生物抽出蛋白質を添加し、かつ細胞懸濁液のpHを1から5とすることで細菌を凝集させ、細菌懸濁液から細菌細胞を分離する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法において、MDP1はマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium Bovis、BCG)の蛋白質であり、MDP1を精製する過程が煩雑であるという問題があった。また、特許文献2の方法において、微生物抽出蛋白質には、様々な蛋白質(DNAse、RNAse等の酵素を含む)だけではなく、DNA、RNA等の夾雑物が混入していることが、集菌後の微生物の検査に影響を与える可能性があり、さらに細胞懸濁液のpHを調整する必要がある点も煩雑であった。
【0006】
このようなことから、煩雑な作業なしに高い効率で微生物を集菌する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-104250号公報
【文献】特開昭50-135275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、簡便な作業かつ高い効率で微生物を集菌する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情に鑑み、本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、検体に入手が容易で構造等が判明している特定の5種から選択される蛋白質を、好ましくはさらに水不溶性担体を添加することによって、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物が高い効率で凝集体として集菌できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、以下の[1]~[10]に関する。
[1] 検体にアルブミン、カゼイン、加水分解カゼイン、乳蛋白質及びゼラチンからなる群より選択される1以上の蛋白質を添加し、得られた凝集体を回収することを特徴とする、検体中のグラム陽性細菌(ただし、マイコプラズマを除く)、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の集菌方法。
[2] グラム陽性細菌(ただし、マイコプラズマを除く)及び/又はグラム陰性細菌の集菌方法である前項[1]記載の方法。
[3] 検体に前記蛋白質を添加した後のpHが5.0超11.0以下である前項[1]又は[2]記載の方法。
[4] 検体が、滅菌水、生理食塩水、液体培地、生体試料、培養上清、緩衝液及びリンゲル液からなる群より選択される液体検体である前項[1]~[3]のいずれか1項記載の方法。
[5] グラム陽性細菌の集菌方法である、前項[1]~[4]のいずれか1項記載の方法。
[6] グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム属及びバチルス属からなる群より選択される1以上である前項[1]~[5]のいずれか1項記載の方法。
[7] グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス・アウレウス、バチルス・サブチリス及びクロストリジウム・スポロゲネスからなる群より選択される1以上である前項[1]~[5]のいずれか1項記載の方法。
[8] 検体に、さらに水不溶性担体を添加する前項[1]~[7]のいずれか1項記載の方法。
[9] 前項[1]~[8]のいずれか1項記載の方法によって集菌されたグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物をポリメラーゼ連鎖反応に付すことを特徴とする、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の測定方法。
[10] 前項[1]~[8]のいずれか1項記載の方法によって集菌されたグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を増菌することを特徴とする、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、入手が容易で既知の特定の5種から選択される蛋白質を添加することにより、無添加の場合と比較して、極めて高い効率で、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を集菌することができる。また、本発明の方法を用いることで、検体から、日本薬局方(第十七改正)4.06において規定される無菌試験法でのバリデーションの供試菌株であるグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を効率的に集菌することができる。
【0012】
また、本発明の方法では検査日に合わせて微生物を調製し、微生物蛋白質や微生物抽出蛋白質の調製をする必要がないうえに、それらを調製するために必要な溶媒及び試薬にグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物が混入していないことを確認する必要がないため、利便性が高い。
【0013】
さらに、本発明の方法は、任意にラテックス粒子等の水不溶性担体を用いることにより、少量のグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物であっても、分離後の凝集体が拡散しにくくなると同時に目視で確認しやすくなることで、集菌により菌を沈殿させた後の上清の除去が容易となる。
【0014】
さらにまた、本発明の方法は、細菌を傷つける可能性が低いことから、集菌した細菌を培養等することができるため、培養後のコロニーを用いて他の試験に供試することも可能である。
【0015】
加えて、本発明の方法は、細胞由来のDNA、RNA、DNA分解酵素、RNA分解酵素、その他の蛋白質が混入することがなくなるため、集菌後の核酸増幅反応操作が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について好ましい形態を中心に具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施形態に何ら制約されるものではない。
【0017】
本発明において、「グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の集菌」とは、検体中に含まれるグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を分離・濃縮することである。グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を集菌することによって、その後に行われる無菌試験を容易に行うことができる。
【0018】
本発明のグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の集菌方法は、検体にアルブミン、カゼイン、加水分解カゼイン、乳蛋白質及びゼラチンからなる群より選択される1以上の蛋白質を添加することで形成される凝集体を回収するものである。
【0019】
本発明において、グラム陽性細菌とは、グラム染色により紺青色又は濃紫色に染色される細菌をいう。グラム陽性細菌は一般的に、細胞壁が厚く、外膜のない菌であり、ペプチドグリカン層が厚いという特徴を有する。グラム陽性細菌は、形状により、グラム陽性球菌及びグラム陽性桿菌に分けられる。なお、マイコプラズマは、便宜上グラム陽性細菌として分類されるが、細胞壁を持たずグラム染色できないことから、本発明におけるグラム陽性細菌からは除かれる。
【0020】
グラム陽性球菌には、スタフィロコッカス属[例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)等。]、エンテロコッカス属[例えば、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)等。]、ストレプトコッカス属[例えば、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)等。]等が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
グラム陽性桿菌には、クロストリジウム属[例えば、クロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes)等。]、コリネバクテリウム属[例えば、コリネバクテリウム・レナーレ(Corynebacterium renale)等。]、バチルス属[例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)等]等が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
これらのグラム陽性細菌のうち、スタフィロコッカス・アウレウス、バチルス・サブチリス及びクロストリジウム・スポロゲネスから選ばれる1以上を対象とすることが好ましい。これらの細菌は、日本薬局方(第十七改正)4.06において規定される無菌試験法のバリデーションにおける供試菌株であり、本発明の集菌方法を実施することにより、無菌試験に使用される試料の無菌性を担保することができる。
【0023】
本発明において、グラム陰性細菌とは、グラム染色においてクリスタルバイオレットによる染色が脱色される細菌をいう。グラム陰性細菌は一般的に、リポ多糖類に覆われた外膜を有し、ペプチドグリカン層が薄い細胞壁を有する。グラム陰性細菌は、形状により、グラム陰性球菌及びグラム陰性桿菌に分けられる。
【0024】
グラム陰性球菌には、ナイセリア属[例えば、ナイセリア・メニンギティス(Neisseria meningitis)等。]、ベイロネラ属[ベイロネラ・パルブラ(Veillonella parvula)等。]が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
グラム陰性桿菌には、エシュリキア属[例えば、エシュリキア・コリ(Echerichia coli)等。]、サルモネラ属[例えば、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)等。]、エンテロバクター属[例えば、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等。]、バクテロイデス属[例えば、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)等。]、シュードモナス属[例えば、(シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等。]が含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明における真菌には、カンジダ属[例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)等。]、アスペルギルス属[アスペルギルス・ブラジリエンシス(Aspergillus brasiliensis)]等が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明において、グラム陰性細菌及び真菌は蛋白質を添加しなくても集菌可能であるが、本発明の前記蛋白質を添加する方法によって、集菌効率を向上することができる。よって、試料が無菌試験のバリデーションにおける供試菌株であるスタフィロコッカス・アウレウス、バチルス・サブチリス、クロストリジウム・スポロゲネス、シュードモナス・エルギノーサ、カンジダ・アルビカンス及びアスペルギルス・ブラシレンシスを集菌することができ、かかる試料の無菌性を担保するのに用いることができる。
【0028】
本発明において、検体とは、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の感染の有無を試験するための試料をいい、液状であることが好ましい。例えば、検体としては、水(滅菌水、蒸留水等)、生理食塩水、液体培地(例えば、真核細胞等の細胞を培養するために用いられるもの、例えば、RPMI1640、DMEM、α―MEM、HANKS等)、生体試料、培養上清、緩衝液(例えば、所定のpHに調製したTris-HClバッファー、HEPESバッファー、MOPSバッファー、HEPPSバッファー、TAPSバッファー、リン酸バッファー(PBS)等)、リンゲル液等がある。検体はまた、細胞懸濁上清又は細胞を培養した後の培養上清でもよい。
【0029】
本発明において用いられる蛋白質は、アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、霊長類血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、齧歯類血清アルブミン、ウマ類血清アルブミン、ヤギ血清アルブミン、ヒツジ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、モルモット血清アルブミン、ニワトリ血清アルブミン、ブタ血清アルブミン等の動物アルブミン)、カゼイン、加水分解カゼイン、乳蛋白質(例えば、商品名:ブロックエース(DSファーマバイオメディカル製))及びゼラチンから選択される1種以上である。グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を集菌後PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)に付した際の菌の混入を避ける観点から、無菌の蛋白質を用いることが好ましい。これらの蛋白質は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明のグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の集菌方法では、検体に前記蛋白質を添加して得られた凝集体を回収する。具体的には、まず、遠心チューブに検体及び前記蛋白質を加える。凝集を確実にするために、任意の時間(例えば、1秒間~60分間)攪拌又は放置してもよい。得られた凝集体の回収は、例えば、遠心分離により行うことができる。遠心分離において遠心力は、特に限定されないが、例えば、3,000~30,000Gであり、好ましくは5,000~28,000G、より好ましくは14,000~25,000Gである。遠心分離時間は、特に限定されないが、例えば、10秒間~120分間、好ましくは1分間~60分間、より好ましくは10分間~30分間である。遠心分離時の温度は、特に限定されないが、例えば、4~35℃、好ましくは7~30℃、より好ましくは10~25℃である。遠心分離を行うことで、遠心チューブ下部に、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の凝集体が沈殿する。その後上清を除去してグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の凝集体を残渣として得ることができる。必要に応じて、この遠心分離及び上清を除去する工程を2回以上繰り返してもよい。
【0031】
なお、前記凝集体を得るために、検体には任意に物理的処理及び/又は化学的処理を施してもよい。物理的処理としては、加熱処理、超音波照射処理、凍結、溶融処理等が挙げられる。化学的処理としては、化学試薬処理、例えば、消化酵素、界面活性剤、溶菌剤等を用いる変性処理等が挙げられる。
【0032】
前記蛋白質の使用量は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を十分に凝集できる量であれば特に限定されないが、例えば、検体1mLに対して0.1~500mgが好ましく、より好ましくは0.2~100mg、さらに好ましくは2~20mgである。
【0033】
検体に前記蛋白質を添加した後のpHは特に限定されないが、生菌を得ることを目的とする場合には、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物が変性しない範囲、例えば5.0超11.0以下が好ましく、5.1から10.0がより好ましく、6.0~8.0の範囲がさらに好ましく、6.8~7.4の範囲がいっそう好ましい。また、蛋白質の添加、並びにグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の凝集体の回収は、例えば、4~35℃、好ましくは7~30℃、より好ましくは10~25℃の条件で行うことができる。
【0034】
本発明において前記蛋白質に加えて、水不溶性担体を添加することができる。水不溶性担体としては、前記蛋白質と併用することで、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を凝集することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレート等のラテックス粒子(例えば有機高分子ラテックス粒子)、物理吸着用やカルボキシル基を介した化学結合用といった処理加工を施したラテックス粒子、着色セルロース粒子、シリカ粒子、金コロイド粒子等が挙げられる。これらのうち、ラテックス粒子、特に有機高分子ラテックス粒子が、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の凝集性の点で好ましい。水不溶性担体を添加することにより、遠心分離後の菌体の凝集体が可視化できるため、上清を除去する際に菌体が除去されることを防ぐことができる。
【0035】
水不溶性担体の形状は、特に限定されないが、球状または略球状であることが、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を十分に凝集する観点から好ましい。
【0036】
水不溶性担体の粒子径は、特に限定されるものではないが、視認性及び実験の簡便性から、例えば、平均粒子径が10~2,000nmが好ましく、より好ましくは50~1,500nm、さらに好ましくは100~1,000nmである。水不溶性担体の粒子径は、例えば、電子顕微鏡(TEM)法を用いて測定することができる。
【0037】
水不溶性担体の使用量は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を十分に凝集できる量であれば特に限定されないが、例えば、検体1mLに対して0.0005~10mg、好ましくは0.001~1mg、さらに好ましくは0.002~0.1mgである。
【0038】
前記蛋白質と水不溶性担体の重量比は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の凝集性の点から、例えば、前記蛋白質:水不溶性担体=1:1~50,000:1が好ましく、より好ましくは10:1~10,000:1であり、さらに好ましくは200:1~1,000:1である。
【0039】
本発明はまた、前記の方法によって集菌されたグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を含む残渣をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に付すことによってグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を測定する方法に関する。
【0040】
該方法は、前記の方法で得られたグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の凝集体を含む残渣を用いて、市販のキット(例えば、細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)等)で公知の方法によりDNA抽出を行い、公知のPCR法やその変法(例えば、リアルタイムPCR)により、公知の条件によってグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の検出試験を行うことができる。この際、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物に保存された領域を対象としたプライマー及びプローブを用いることで、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の検出が可能であり、検出したい微生物特有の領域を対象とするプライマー及びプローブを用いることで、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の同定をすることも可能である。
【0041】
本発明はまた、検体に対して前記蛋白質、好ましくはさらに水不溶性担体を含む、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の集菌用キットに関する。該キットに含まれる蛋白質及び水不溶性担体は前記の通りである。該キットには、適宜前記のような操作を説明したマニュアルが添付されていてもよい。
【0042】
本発明はさらに、集菌の対象となるグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の増殖能を保持した状態で集菌することができるので、集菌したグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を様々な検査に利用することもできる。例えば、集菌したグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物を平板培地、液体培地等に接種することで増菌し、集菌されたグラム陽性細菌、グラム陰性細菌及び真菌からなる群より選択される1以上の微生物の数の測定、生化学検査等の同定試験や、薬剤感受性試験等に用いることもできる。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。
【0044】
実施例1 蛋白質と水不溶性担体による集菌効果
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を生理食塩水に懸濁し、濁度をマクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLの生理食塩水に添加した。これに、350μLの30%(w/v)BSA溶液(ウシ血清由来BSA溶液、脂肪酸フリー、和光純薬工業株式会社製)及び2.5μLの10%(w/v)ラテックス溶液(粒径315nmのポリスチレン系ラテックス粒子(IMMUTEX(登録商標、JSRライフサイエンス株式会社製)))を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分間、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈した菌液を、羊血液寒天培地(前記と同様)に10μL接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を106倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種した。
【0045】
また、試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0046】
培養試験の結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1の結果から、BSA単独で添加した場合、及びBSAとラテックスを組み合わせて添加した場合は、ラテックス単独で添加した場合や生理食塩水を添加した場合に比較して、集菌なしの数値に近いコロニー数を示した。したがって、BSAを添加することで、グラム陽性細菌であるスタフィロコッカス・アウレウスを効率的に集菌することができる。また、BSAに加えてラテックスを添加することにより、遠心分離時の沈殿物が可視化され、上清を除去することが容易であった。
【0049】
次に、PCRの結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2の結果から、PCRにおいても、BSA単独で添加した場合、及びBSAとラテックスを組み合わせて添加した場合は、集菌なしのCq値に近い値を示した。したがって、BSAを添加して濃縮することにより、グラム陽性細菌であるスタフィロコッカス・アウレウスを十分に集菌することができる。一方、生理食塩水を添加した場合やラテックス単独で添加した場合は、Cq値が高くなり、集菌が不十分であった。
【0052】
実施例2 グラム染色性と集菌効果の関係
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)又はチョコレート寒天培地(商品名:ニッスイプレートチョコレート寒天培地EXII、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したコリネバクテリウム・レナーレ(C.renale)、ナイセリア・メニンギティス(N.meningitis)及びエシュリキア・コリ(E.coli)を生理食塩水に懸濁し、濁度をマクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLの生理食塩水に添加した。これに、350μLの30%(w/v)BSA溶液(脂肪酸フリー、和光純薬工業株式会社製)を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分、10℃)し、上清を除き1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈した菌液(ただし、コリネバクテリウム・レナーレについては、試験液を用いた。)を、羊血液寒天培地(前記と同様)又はチョコレート寒天培地(前記と同様)に接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。この際、ナイセリア・メニンギティスについては、アネロパック・CO2(株式会社スギヤマゲン製)を用いて、37℃の条件下で培養した。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を106倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種した。
【0053】
また、試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0054】
培養試験の結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
表3の結果から、グラム陽性桿菌であるコリネバクテリウム・レナーレは、生理食塩水では集菌することができないのに対し、BSAを添加することによって集菌が可能となった。一方、グラム陰性球菌であるナイセリア・メニンギティス及びグラム陰性桿菌であるエシュリキア・コリでは、BSAを添加しなくても集菌可能であったが、BSAを添加することで、集菌効率が向上した。
【0057】
次に、PCRの結果を表4に示す。
【0058】
【0059】
表4の結果から、PCRでも、グラム陽性桿菌であるコリネバクテリウム・レナーレは、生理食塩水を添加した場合と比較して、BSAを添加した場合にCq値が低くなった。一方で、グラム陰性球菌であるナイセリア・メニンギティス及びグラム陰性桿菌であるエシュリキア・コリでは、BSAを添加した場合、生理食塩水と集菌なしの場合に比べ、Cq値がやや低くなった。
【0060】
実施例3 蛋白質の種類による集菌効果
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を生理食塩水に懸濁し、濁度をマクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLの生理食塩水に添加した。これに、350μLの30%(w/v)BSA溶液(脂肪酸フリー、和光純薬株式会社製)、ゼラチン又は乳蛋白質(商品名:ブロックエース、DSファーマバイオメディカル社製)をそれぞれ添加した。各溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈した菌液を、羊血液寒天培地(前記と同様)に接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を106倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種した。
【0061】
試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0062】
培養試験の結果を表5に示す。
【0063】
【0064】
表5の結果から、BSA単独、乳蛋白質(ブロックエース)単独、及びゼラチン単独の場合、生理食塩水を添加した場合に比較して、集菌なしの数値に近いコロニー数を示した。
【0065】
PCRの結果を表6に示す。
【0066】
【0067】
表6の結果から、PCRにおいても、ゼラチンはBSAと同等のCq値を示した。したがって、蛋白質としてBSAだけでなく、ゼラチンを使用しても、グラム陽性細菌であるスタフィロコッカス・アウレウスを効率的に集菌することができる。
【0068】
実施例4 水不溶性担体を用いた集菌試験
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したコリネバクテリウム・レナーレ(C.renale)及びエンテロコッカス・フェカーリス(E.faecalis)をそれぞれ生理食塩水に懸濁し、マクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLの生理食塩水に添加した。これに、350μLの30%(w/v)BSA溶液、及び水不溶性担体として2.5μLの10%(w/v)ラテックス溶液を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分間、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈したものを、90μLずつ羊血液寒天培地(前記と同様)に接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を105倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種した。
【0069】
また、試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0070】
培養試験の結果を表7に示す。
【0071】
【0072】
表7の結果から、グラム陽性桿菌であるコリネバクテリウム・レナーレを集菌する際にBSAとラテックスの組み合わせを添加した場合、集菌を実施しなかった理論値に対して97%の回収率であった。一方、生理食塩水を添加した場合は、理論値の0%であった。したがって、BSA及びラテックスの組み合わせを添加した場合、コリネバクテリウム・レナーレの集菌効率が極めて高かった。
【0073】
また、グラム陽性球菌であるエンテロコッカス・フェカーリスを集菌する際にBSAとラテックスの組み合わせを添加した場合、集菌を実施しなかった理論値の90%の回収率であった。一方、生理食塩水を添加した場合は、理論値の10%の回収率であった。したがって、BSAとラテックスの組み合わせにより、エンテロコッカス・フェカーリスの集菌効率が極めて高いことが分かった。
【0074】
さらに、いずれの試験においても、BSAに加えてラテックスを添加することにより遠心分離時の沈殿物が可視化され、上清を除去することが容易であった。
【0075】
次に、PCRの結果を表8に示す。
【0076】
【0077】
表8の結果から、PCRにおいても、BSAとラテックスの組み合わせを添加して集菌を行った場合、集菌を実施しなかった理論値のCqに近い値を示し、十分な集菌効率であった。一方、生理食塩水のみを添加した場合、Cq値が高くなり、集菌が不十分であった。
【0078】
実施例5 集菌時のpHによる影響
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を生理食塩水に懸濁し、濁度をマクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLのpH6.0、pH7.0、pH8.0の0.01Mリン酸ナトリウム緩衝液にそれぞれ添加した。これらに、350μLの30%(w/v)BSA溶液(ウシ血清由来BSA溶液、脂肪酸フリー、和光純薬工業株式会社製)を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分間、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈した菌液を、羊血液寒天培地(前記と同様)に10μL接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を生理食塩水で106倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種したものを使用した。
【0079】
また、試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0080】
培養試験の結果を表9に示す。
【0081】
【0082】
また、BSA添加後のpH値を3回測定した。測定結果を、その平均値とともに表10に示す。
【0083】
【0084】
表9から、BSAを添加した場合、pH6.0、pH7.0、pH8.0のいずれのpH領域であっても、グラム陽性球菌であるスタフィロコッカス・アウレウスを集菌することができ、それらは培養可能であることが分かった。なお、表10の結果から、BSAの添加後のpHについては、変動が殆ど確認されなかった。
【0085】
次に、PCRの結果を表11に示す。
【0086】
【0087】
表11の結果から、pH6.0、pH7.0、pH8.0の各リン酸ナトリウム緩衝液にBSAを添加した場合、集菌を行わなかった場合と近いCq値を示した。一方で、BSAを加えなかった検体液を添加した場合、Cq値が集菌を行わなかった場合よりも高い値を示したことから、集菌が不十分であった。
【0088】
実施例6 クロストリジウム・スポロジェネスの結果
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したクロストリジウム・スポロジェネス(C.sporogenes)を生理食塩水に懸濁し、濁度をマクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLの生理食塩水にそれぞれ添加した。これに、350μLの30%(w/v)BSA溶液(ウシ血清由来BSA溶液、脂肪酸フリー、和光純薬工業株式会社製)を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分間、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈した菌液を、羊血液寒天培地(前記と同様)に10μL接種して、アネロメイト-P「ニッスイ」(日水製薬株式会社製)を用いて、一晩培養を行った(37℃)。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を生理食塩水で106倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種した。
【0089】
また、試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0090】
培養試験の結果を表12に示す。
【0091】
【0092】
表12の結果から、グラム陽性桿菌であるクロストリジウム・スポロジェネスを集菌する際にBSAを添加した場合、集菌を実施しなかった理論値に対して151%の回収率であった。一方、生理食塩水を添加した場合は、理論値の57%であった。したがって、BSAを添加した場合、クロストリジウム・スポロジェネスの集菌効率が極めて高かった。
【0093】
次に、PCRの結果を表13に示す。
【0094】
【0095】
表13の結果から、PCRにおいても、BSAを添加して集菌を行った場合、集菌を実施しなかった理論値のCq値に近い値を示し、十分な集菌効率であった。一方、生理食塩水のみを添加した場合、Cq値が高くなり、集菌が不十分であった。
【0096】
実施例7 酸性域のpHによる影響
羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)を用いて前培養したスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を生理食塩水に懸濁し、濁度をマクファーランド1.0とした菌懸濁液を調製した。その後、菌懸濁液を103倍希釈したものを希釈菌液とし、0.1mLの希釈菌液を24.9mLのpH4.3の0.01Mクエン酸ナトリウム緩衝液にそれぞれ添加した。これらに、350μLの30%(w/v)BSA溶液(ウシ血清由来BSA溶液、脂肪酸フリー、和光純薬工業株式会社製)を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分間、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を10倍希釈した菌液を、羊血液寒天培地(前記と同様)に10μL接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。なお、集菌を行わない比較対象として、菌懸濁液を生理食塩水で106倍希釈したものを100μL羊血液寒天培地(前記と同様)に接種したものを使用した。
【0097】
また、試験液から細菌DNA抽出キット(三井化学株式会社製)を用いてDNAを抽出し、Yeast-made Taq DNA polymerase(三井化学株式会社製)、フォワードプライマー:agagtttgatcMtggctcag(配列番号1)、リバースプライマー:ctttacgcccaRtRaWtccg(配列番号2)、プローブ:6FAM-tNttaccgcggctgctggcacg-BHQ(配列番号3)を用いてリアルタイムPCRを実施した。反応は95℃で5秒間の後、95℃で5秒間及び60℃で30秒間を1サイクルとして、45サイクル行った。
【0098】
培養試験の結果を表14に示す。
【0099】
【0100】
また、BSA添加後のpH値を3回測定した。測定結果を、その平均値とともに表15に示す。
【0101】
【0102】
表14から、BSAの添加の有無にかかわらず、pH4.3のpH領域であれば、グラム陽性球菌であるスタフィロコッカス・アウレウスを集菌することができた。なお、表15の結果から、BSAの添加後のpHについては、変動が殆ど確認されなかった。
【0103】
次に、PCRの結果を表16に示す。
【0104】
【0105】
表16の結果から、BSAの添加の有無にかかわらず、pH4.3のクエン酸ナトリウム緩衝液の場合、集菌を行わなかった場合と近いCq値を示した。
【0106】
実施例8 カンジダ・アルビカンスの集菌
2個のBioBall550(商品名:Bioball550、ビオメリュー・ジャパン株式会社製)を25mLの生理食塩水に添加し、1100CFU/25mL相当の菌懸濁液を調製した。その後、350μLの30%(w/v)BSA溶液(ウシ血清由来BSA溶液、脂肪酸フリー、和光純薬工業株式会社製)及び水不溶性担体として2.5μLの10%(w/v)ラテックス溶液を添加した。それらの溶液を攪拌後、遠心分離(20,000G、15分間、10℃)し、上清を除去し、1mLの試験液とした。この試験液を、羊血液寒天培地(商品名:ニッスイプレート羊血液寒天培地、日水製薬株式会社製)に100μL接種して、一晩培養を行った(37℃、好気条件)。
【0107】
培養試験の結果を表17に示す。
【0108】
【0109】
表17の結果から、グラム陽性を示す真菌であるカンジダ・アルビカンスを集菌する際にBSA及びラテックスを添加した場合、理論値に対して80.5%であり、生理食塩水を加えた場合の65.9%よりも回収効率が良好であった。
【配列表】