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特許7366975バッテリ劣化推定装置、バッテリ劣化推定システム、バッテリ劣化推定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】バッテリ劣化推定装置、バッテリ劣化推定システム、バッテリ劣化推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20231016BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231016BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231016BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021161425
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023051009
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】川原 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】小西 俊介
(72)【発明者】
【氏名】内海 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功二
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-92404(JP,A)
【文献】特開2015-59924(JP,A)
【文献】特開2019-168451(JP,A)
【文献】特開2019-168453(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112731159(CN,A)
【文献】特開2020-119658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0132151(US,A1)
【文献】特開2021-124419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得するデータ取得部と、
前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換するデータ変換部と、
前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成する学習用データ生成部と、
前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習する予測モデル学習部と、
前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する劣化状態推定部と、を備え
前記中間データは、前記予測モデルの説明変数として、
前記バッテリが所定の電圧の値を示した時間を積算することによって得られる電圧積算分布情報と、
前記バッテリが所定のSOCの値を示した時間を積算することによって得られるSOC積算分布情報と、
前記バッテリが所定の温度の値を示した時間を積算することによって得られる温度積算分布情報と、
前記バッテリの充電量を積算することによって得られる積算充電電流量と、
前記バッテリの放電量を積算することによって得られる積算放電電流量と、のうちの少なくとも一つを含み、
前記学習用データ生成部は、前記少なくとも1つの説明変数のデータ量を、線形関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成する、
バッテリ劣化推定装置。
【請求項2】
前記予測モデルの目的変数は、前記バッテリの劣化状態に関する指標であり、
前記学習用データ生成部は、前記目的変数のデータ量を、べき乗を含む関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成する、
請求項に記載のバッテリ劣化推定装置。
【請求項3】
前記べき乗を含む関数のべき指数値を変えながら前記目的変数の測定値にべき乗演算を施し、前記中間データを説明変数として前記べき乗演算を施された前記目的変数の測定値を推定するバッテリモデルを学習し、前記学習したバッテリモデルの出力値を評価するステップを繰り返すことによって、前記べき乗を含む関数の最適べき指数値を探索するべき指数値探索部を更に備える、
請求項に記載のバッテリ劣化推定装置。
【請求項4】
前記データ取得部は、前記バッテリが搭載された、電力を使用する機器の停止状態を検出可能であり、前記停止状態における前記機器の前記時系列データを補間する、
請求項からのいずれか1項に記載のバッテリ劣化推定装置。
【請求項5】
電力を使用する複数の機器であって、
バッテリと、
前記バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを提供するデータ提供部と、
を備える、複数の機器と、
管理装置であって、
前記データ提供部からの前記時系列データを取得するデータ取得部と、
前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換するデータ変換部と、
前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成する学習用データ生成部と、
前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習する予測モデル学習部と、
前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する劣化状態推定部と、
を備える、管理装置と、
を備え、
前記中間データは、前記予測モデルの説明変数として、
前記バッテリが所定の電圧の値を示した時間を積算することによって得られる電圧積算分布情報と、
前記バッテリが所定のSOCの値を示した時間を積算することによって得られるSOC積算分布情報と、
前記バッテリが所定の温度の値を示した時間を積算することによって得られる温度積算分布情報と、
前記バッテリの充電量を積算することによって得られる積算充電電流量と、
前記バッテリの放電量を積算することによって得られる積算放電電流量と、のうちの少なくとも一つを含み、
前記学習用データ生成部は、前記少なくとも1つの説明変数のデータ量を、線形関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成する、
バッテリ劣化推定システム。
【請求項6】
コンピュータが、
バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得し、
前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換し、
前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成し、
前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習し、
前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定し、
前記中間データは、前記予測モデルの説明変数として、
前記バッテリが所定の電圧の値を示した時間を積算することによって得られる電圧積算分布情報と、
前記バッテリが所定のSOCの値を示した時間を積算することによって得られるSOC積算分布情報と、
前記バッテリが所定の温度の値を示した時間を積算することによって得られる温度積算分布情報と、
前記バッテリの充電量を積算することによって得られる積算充電電流量と、
前記バッテリの放電量を積算することによって得られる積算放電電流量と、のうちの少なくとも一つを含み、
前記少なくとも1つの説明変数のデータ量を、線形関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成する、
バッテリ劣化推定方法。
【請求項7】
コンピュータに、
バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得させ、
前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換させ、
前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測させ、学習用データを生成させ、
前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習させ、
前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定させ、
前記中間データは、前記予測モデルの説明変数として、
前記バッテリが所定の電圧の値を示した時間を積算することによって得られる電圧積算分布情報と、
前記バッテリが所定のSOCの値を示した時間を積算することによって得られるSOC積算分布情報と、
前記バッテリが所定の温度の値を示した時間を積算することによって得られる温度積算分布情報と、
前記バッテリの充電量を積算することによって得られる積算充電電流量と、
前記バッテリの放電量を積算することによって得られる積算放電電流量と、のうちの少なくとも一つを含み、
前記少なくとも1つの説明変数のデータ量を、線形関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成する、
プログラム。
【請求項8】
バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得するデータ取得部と、
前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換するデータ変換部と、
前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成する学習用データ生成部と、
前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習する予測モデル学習部と、
前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する劣化状態推定部と、を備え、
前記データ取得部は、前記バッテリが搭載された、電力を使用する機器の停止状態を検出可能であり、前記停止状態における前記機器の前記時系列データを補間し、
前記中間データは、前記時系列データを積算することによって得られる前記予測モデルの説明変数を含む、
バッテリ劣化推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ劣化推定装置、バッテリ劣化推定システム、バッテリ劣化推定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリの劣化状態(SOH:State Of Health)を推定する技術が知られている。例えば、特許文献1には、蓄電素子の第1時点でのSOH及び第1時点より後の第2時点でのSOHを取得するSOH取得部と、第1時点から第2時点までの間の蓄電素子のSOCの代表値を取得する代表値取得部と、第1時点でのSOH及び代表値を入力データとし、第2時点でのSOHを出力データとする学習用データに基づいて学習モデルを学習させる学習処理部と、を備える劣化推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-168452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、SOHが取得された期間の範囲における学習用データを用いて、SOHを推定する学習モデルを学習させるものである。このように学習された学習モデルは、一般的に、学習用データが取得された範囲内において高い推定精度を期待することができる。しかしながら、学習用データは予測の対象となる全ての範囲について取得できるものとは限らず、学習用データが取得された範囲の外では、学習モデルの推定精度が著しく悪化する場合があった。その結果、例えば、長期的なSOHの予測を行うためには、長期的な学習用データを準備する必要があり、コストが増加する問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、長期的な学習用データを準備する必要なく、長期的なSOHの予測を行うことができる、バッテリ劣化推定装置、バッテリ劣化推定システム、バッテリ劣化推定方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るバッテリ劣化推定装置、バッテリ劣化推定システム、バッテリ劣化推定方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係るバッテリ劣化推定装置は、バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得するデータ取得部と、前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換するデータ変換部と、前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成する学習用データ生成部と、前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習する予測モデル学習部と、前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する劣化状態推定部と、を備えるものである。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記中間データは、前記予測モデルの説明変数として、前記バッテリが所定の電圧の値を示した時間を積算することによって得られる電圧積算分布情報と、前記バッテリが所定のSOCの値を示した時間を積算することによって得られるSOC積算分布情報と、前記バッテリが所定の温度の値を示した時間を積算することによって得られる温度積算分布情報と、前記バッテリの充電量を積算することによって得られる積算充電電流量と、前記バッテリの放電量を積算することによって得られる積算放電電流量と、のうちの少なくとも一つを含み、前記学習用データ生成部は、前記少なくとも1つの説明変数のデータ量を、線形関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成するものである。
【0008】
(3):上記(2)の態様において、前記予測モデルの目的変数は、前記バッテリの劣化状態に関する指標であり、前記学習用データ生成部は、前記目的変数のデータ量を、べき乗を含む関数を用いて増加させることによって前記学習用データを生成するものである。
【0009】
(4):上記(3)の態様において、前記バッテリ劣化推定装置は、前記べき乗を含む関数のべき指数値を変えながら前記目的変数の測定値にべき乗演算を施し、前記中間データを説明変数として前記べき乗演算を施された前記目的変数の測定値を推定するバッテリモデルを学習し、前記学習したバッテリモデルの出力値を評価するステップを繰り返すことによって、前記べき乗を含む関数の最適べき指数値を探索するべき指数値探索部を更に備えるものである。
【0010】
(5):上記(2)から(4)のいずれかの態様において、前記データ取得部は、前記バッテリが搭載された、電力を使用する機器の停止状態を検出可能であり、前記停止状態における前記機器の前記時系列データを補間するものである。
【0011】
(6):この発明の別の態様に係るバッテリ劣化推定システムは、電力を使用する複数の機器であって、バッテリと、前記バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを提供するデータ提供部と、を備える、複数の機器と、管理装置であって、前記データ提供部からの前記時系列データを取得するデータ取得部と、前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換するデータ変換部と、前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成する学習用データ生成部と、前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習する予測モデル学習部と、前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する劣化状態推定部と、を備える、管理装置と、を備えるものである。
【0012】
(7):この発明の別の態様に係るバッテリ劣化推定方法は、コンピュータが、バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得し、前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換し、前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成し、前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習し、前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定するものである。
【0013】
(8):この発明の別の態様に係るプログラムは、コンピュータに、バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得させ、前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換させ、前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測させ、学習用データを生成させ、前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習させ、前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定させるものである。
【発明の効果】
【0014】
(1)~(8)の態様によれば、長期的な学習用データを準備する必要なく、長期的なSOHの予測を行うことができる。
【0015】
(2)又は(3)の態様によれば、説明変数又は目的変数を増加させることにより、データの収集コストを抑制しつつ、長期的なSOHの予測を高精度に行う予測モデルを作成することができる。
【0016】
(4)の態様によれば、個々のバッテリの特性に応じた最適べき指数値を探索することにより、予測モデルの精度を向上させることができる。
【0017】
(5)の態様によれば、停止中のデータを補間することにより、データの収集コストを抑制しつつ、長期的なSOHの予測を高精度に行う予測モデルを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るバッテリ劣化推定装置100が適用される車両10の構成の一例を示す図である。
図2】実施形態に係るバッテリ劣化推定装置100の構成の一例を示す図である。
図3】車両10が停止状態にある期間における時系列データ172を補間する方法の一例を示す図である。
図4】バッテリ40のSOCの時系列データ172を中間データ174に変換する方法の一例を示す図である。
図5】バッテリ40の温度の時系列データ172を中間データ174に変換する方法の一例を示す図である。
図6】データ変換部120によって生成される中間データ174の構成の一例を示す図である。
図7】中間データ174の説明変数の将来値を予測関数に従って予測する方法の一例を示す図である。
図8】中間データ174の目的変数の将来値を予測関数に従って予測する方法の一例を示す図である。
図9】べき指数値探索部160によって実行されるべき指数値の探索方法の流れの一例を示す図である。
図10】べき指数値を実験的に探索する方法の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明のバッテリ劣化推定装置、バッテリ劣化推定システム、バッテリ劣化推定方法、およびプログラムの実施形態について説明する。
【0020】
[車両の構成]
図1は、実施形態に係るバッテリ劣化推定装置100が適用される車両10の構成の一例を示す図である。図1に示した車両10は、走行用のバッテリ(二次電池)から供給される電力によって駆動される電動機(電動モータ)によって走行するBEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)である。代替的に、車両10は、ハイブリッド車両に外部充電機能を持たせたPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)又はPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であってもよい。なお、車両10は、例えば、四輪の車両のみならず、鞍乗り型の二輪の車両や、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)の車両、アシスト式の自転車、さらには、電動船など、バッテリから供給される電力によって駆動される電動モータによって走行する移動体の全般が含まれる。
【0021】
モータ12は、例えば、三相交流電動機である。モータ12の回転子(ロータ)は、駆動輪14に連結される。モータ12は、バッテリ40が備える蓄電部(不図示)から供給される電力によって駆動され、回転の動力を駆動輪14に伝達させる。また、モータ12は、車両10の減速時に車両10の運動エネルギーを用いて発電する。
【0022】
ブレーキ装置16は、例えば、ブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、を備える。ブレーキ装置16は、ブレーキペダル(不図示)に対する車両10の利用者(運転者)による操作によって発生した油圧を、マスターシリンダを介してシリンダに伝達する機構をバックアップとして備えてもよい。なお、ブレーキ装置16は、上記説明した構成に限らず、マスターシリンダの油圧をシリンダに伝達する電子制御式油圧ブレーキ装置であってもよい。
【0023】
車両センサ20は、例えば、アクセル開度センサと、車速センサと、ブレーキ踏量センサと、を備える。アクセル開度センサは、アクセルペダルに取り付けられ、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出し、検出した操作量をアクセル開度として後述するPCU30が備える制御部36に出力する。車速センサは、例えば、車両10の各車輪に取り付けられた車輪速センサと速度計算機とを備え、車輪速センサにより検出された車輪速を統合して車両10の速度(車速)を導出し、制御部36に出力する。ブレーキ踏量センサは、ブレーキペダルに取り付けられ、運転者によるブレーキペダルの操作量を検出し、検出した操作量をブレーキ踏量として制御部36に出力する。
【0024】
PCU30は、例えば、変換器32と、VCU(Voltage Control Unit)34と、制御部36と、を備える。なお、図1においては、これらの構成要素をPCU30として一まとまりの構成としたのは、あくまで一例であり、車両10におけるこれらの構成要素は分散的に配置されても構わない。
【0025】
変換器32は、例えば、AC-DC変換器である。変換器32の直流側端子は、直流リンクDLに接続されている。直流リンクDLには、VCU34を介してバッテリ40が接続されている。変換器32は、モータ12により発電された交流を直流に変換して直流リンクDLに出力する。
【0026】
VCU34は、例えば、DC-DCコンバータである。VCU34は、バッテリ40から供給される電力を昇圧して直流リンクDLに出力する。
【0027】
制御部36は、車両センサ20が備えるアクセル開度センサからの出力に基づいて、モータ12の駆動を制御する。制御部36は、また、車両センサ20が備えるブレーキ踏量センサからの出力に基づいて、ブレーキ装置16を制御する。制御部36は、また、バッテリ40に接続された後述するバッテリセンサ42からの出力に基づいて、例えば、バッテリ40のSOC(State Of Charge;以下「バッテリ充電率」ともいう)を算出し、VCU34に出力する。VCU34は、制御部36からの指示に応じて、直流リンクDLの電圧を上昇させる。
【0028】
バッテリ40は、例えば、リチウムイオン電池など、充電と放電とを繰り返すことができる二次電池である。バッテリ40の正極を構成する正極活物質は、例えば、NCA(nickel cobalt aluminum)、LFP(lithium ferrophosphate)、LMO(lithium manganese oxide)などの材料のうち少なくとも一つを含む物質であり、バッテリ40の負極を構成する負極活物質は、例えば、ハードカーボンやグラファイトなどの材料のうち少なくとも一つを含む物質である。また、バッテリ40は、車両10に対して着脱自在に装着される、例えば、カセット式などのバッテリパックであってもよい。バッテリ40は、車両10の外部の充電器(不図示)から供給される電力を蓄え、車両10の走行のための放電を行う。
【0029】
バッテリセンサ42は、バッテリ40の電流や、電圧、温度などの物理量を検出する。バッテリセンサ42は、例えば、電流センサ、電圧センサ、温度センサを備える。バッテリセンサ42は、電流センサによってバッテリ40を構成する二次電池(以下、単に「バッテリ40」という)の電流を検出し、電圧センサによってバッテリ40の電圧を検出し、温度センサによってバッテリ40の温度を検出する。バッテリセンサ42は、検出したバッテリ40の電流値、電圧値、温度などの物理量のデータを制御部36や通信装置50に出力する。
【0030】
通信装置50は、セルラー網やWi-Fi網を接続するための無線モジュールを含む。通信装置50は、Bluetooth(登録商標)など利用するための無線モジュールを含んでもよい。通信装置50は、無線モジュールにおける通信によって、車両10に係る種々の情報を、例えば、バッテリ劣化推定装置100との間で送受信する。通信装置50は、制御部36又はバッテリセンサ42により出力されたバッテリ40の物理量のデータ(SOCと、温度と、電流を少なくとも含む)を、バッテリ劣化推定装置100に送信する。通信装置50は、後述するバッテリ劣化推定装置100により診断されて送信されたバッテリ40の特性を表す情報を受信し、受信したバッテリ40の特性を表す情報を車両10のHMI(不図示)に出力してもよい。
【0031】
[バッテリ劣化推定装置の構成]
次に、車両10のバッテリ40の特性を推定するバッテリ劣化推定装置100の一例について説明する。図2は、実施形態に係るバッテリ劣化推定装置100の構成の一例を示す図である。バッテリ劣化推定装置100は、例えば、データ取得部110と、データ変換部120と、学習用データ生成部130と、予測モデル学習部140と、劣化状態推定部150と、べき指数値探索部160と、を備える。データ取得部110と、データ変換部120と、学習用データ生成部130と、予測モデル学習部140と、劣化状態推定部150と、べき指数値探索部160は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。記憶部170は、例えば、HDDやフラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等である。記憶部170は、例えば、時系列データ172と、中間データ174と、学習用データ176と、予測モデル178とを記憶する。
【0032】
データ取得部110は、バッテリ劣化推定装置100に搭載された不図示の通信インターフェースを用いて、通信装置50から、バッテリ40のSOC、温度、電流値などの時系列データを取得し、時系列データ172として記憶部170に格納する。このとき、データ取得部110は、取得した時系列データのうち、欠損や異常が発生したデータを除外する処理を行ってもよい。
【0033】
データ取得部110は、さらに、時系列データ172として、車両10が駆動状態にあるか又は停止状態にあるか否かを示す情報も通信装置50から取得する。データ取得部110は、例えば、車両センサ20によって検出された、車両10のメインリレーのON/OFF状態を示す情報を通信装置50から取得することによって、車両10が駆動状態にあるか又は停止状態にあるかを把握することができる。
【0034】
一般的に、車両10が停止状態にある場合、バッテリセンサ42も同様に停止状態にあるため、データ取得部110は、車両10が停止状態にある期間における時系列データ172を取得することができない。その結果、機械学習に用いる学習用データが不足し、学習する予測モデルの精度が低下することが想定される。そのため、本実施形態では、データ取得部110は、車両10が停止状態にある期間における時系列データ172を、車両10が駆動状態にある期間における時系列データ172を用いて補間することによって生成する。
【0035】
図3は、車両10が停止状態にある期間における時系列データ172を補間する方法の一例を示す図である。図3の左部のグラフは、車両10が停止状態にある期間におけるSOCの時系列データ172を補間する方法を示し、図3の中央部のグラフは、車両10が停止状態にある期間における温度の時系列データ172を補間する方法を示し、図3の右部のグラフは、車両10が停止状態にある期間における電流の時系列データ172を補間する方法を示している。
【0036】
図3に示す通り、データ取得部110は、時点t1において、車両10が停止状態にあることを示す情報を取得した後に、時点t2において、車両10が駆動状態にあることを示す情報を取得したと仮定する。この場合、時点t1と時点t2との間の期間において、バッテリセンサ42は停止状態にあるため、データ取得部110は、当該期間における時系列データ172を取得することができない。そのため、データ取得部110は、時点t1と時点t2との間の期間におけるバッテリ40のSOC、温度、及び電流値の時系列データ172を補間する。
【0037】
具体的には、図3の左部のグラフに示す通り、データ取得部110は、時点t1におけるSOCの値と、時点t2におけるSOCの値とを線形補間することによって、時点t1と時点t2との間の期間におけるバッテリ40のSOCの時系列データ172を補間する。また、図3の中央部のグラフに示す通り、データ取得部110は、時点t1における温度の値と、時点t2における温度の値とを線形補間することによって、時点t1と時点t2との間の期間におけるバッテリ40の温度の時系列データ172を補間する。また、図3の右部のグラフに示す通り、データ取得部110は、時点t1と時点t2との間の期間におけるバッテリ40の電流値をゼロに設定することによって、当該期間におけるバッテリ40の電流の時系列データ172を補間する。これは、SOCや温度と異なり、車両10が停止状態にある場合、取得される電流値は略ゼロとなるためである。なお、図3では、一例として、時系列データ172の補間方法として線形補間を用いる例を示したが、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、ラグランジュ補間やスプライン補間などの任意の補間法を用いてもよい。
【0038】
データ変換部120は、記憶部170に記憶された時系列データ172を、機械学習可能な中間データ174に変換して、記憶部170に記憶する。図4は、バッテリ40のSOCの時系列データ172を中間データ174に変換する方法の一例を示す図である。データ変換部120は、バッテリ40のSOCの時系列データ172に基づいて、SOCが所定の区間の範囲内に滞在していた時間を積算して、当該区間に対応するSOC累積時間を中間データ174として算出する。具体的には、図4において、第1SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが0~10[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第2SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが10~20[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第3SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが20~30[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第4SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが30~40[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第5SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが40~50[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第6SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが50~60[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第7SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが60~70[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第8SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが70~80[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第9SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが80~90[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第10SOC累積時間とは、バッテリ40のSOCが90~100[%]の範囲内に滞在していた時間の積算値である。すなわち、第1SOC累積時間から第10SOC累積時間が、バッテリ40のSOCの中間データ174に相当する。なお、図4では、一例として、SOCの区間を10%間隔に設定した例を示したが、本発明はこのような構成に限定されず、任意の間隔でSOCの区間を設定してもよい。
【0039】
図5は、バッテリ40の温度の時系列データ172を中間データ174に変換する方法の一例を示す図である。データ変換部120は、バッテリ40の温度の時系列データ172に基づいて、温度が所定の区間の範囲内に滞在していた時間を積算して、当該区間に対応する温度累積時間を中間データ174として算出する。具体的には、図5において、第1温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第1温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第2温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第1温度範囲より高い第2温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第3温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第2温度範囲より高い第3温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第4温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第3温度範囲より高い第4温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第5温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第4温度範囲より高い第5温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第6温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第5温度範囲より高い第6温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第7温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第6温度範囲より高い第7温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第8温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第7温度範囲より高い第8温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第9温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第8温度範囲より高い第9温度範囲内に滞在していた時間の積算値であり、第10温度累積時間とは、バッテリ40の温度が第9温度範囲より高い第10温度範囲内に滞在していた時間の積算値である。すなわち、第1温度累積時間から第10温度累積時間が、バッテリ40の温度の中間データ174に相当する。
【0040】
データ変換部120は、バッテリ40の電流の時系列データ172に基づいて、バッテリ40の充電量を積算することによって積算充電電流量を算出し、バッテリ40の放電量を積算することによって積算放電電流量を算出する。積算充電電流量および積算放電電流量が、バッテリ40の電流の中間データ174に相当する。データ変換部120は、さらに、バッテリ40の劣化指標として、バッテリ40の初期の満充電容量[Ah]を100%とした際における、劣化時の満充電容量の割合を示すSOH(State Of Health)を、時系列データ172に基づいて、任意のSOH診断アルゴリズムによって算出し、算出したSOHを中間データ174として記憶部170に記憶する。
【0041】
図6は、データ変換部120によって生成される中間データ174の構成の一例を示す図である。図6に示す通り、中間データ174は、後述する予測モデル学習部140によって機械学習される予測モデルの説明変数として機能する第1SOC累積時間から第10SOC累積時間と、第1温度累積時間から第10温度累積時間と、積算充電電流量と、積算放電電流量が、目的変数として機能するSOHに対応付けられたものである。データ変換部120は、例えば、一週間間隔で時系列データ172を中間データ174に変換し、1つのレコードとして記憶部170に記憶する。
【0042】
このように、中間データ174は、データ取得部110が時系列データ172の取得を開始してから現時点までの期間に生成されるものである。そのため、中間データ174を学習用データとして予測モデルを学習した場合、時系列データ172が取得された期間の範囲内においては高い予測精度を期待することができる一方、当該期間の範囲の外では、予測モデルの推定精度が悪化することが想定される。
【0043】
上記の事情を背景にして、学習用データ生成部130は、中間データ174の説明変数および目的変数の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データ176を生成する。図7は、中間データ174の説明変数の将来値を予測関数に従って予測する方法の一例を示す図である。図7において、L1は、中間データ174の説明変数である第1SOC累積時間から第10SOC累積時間と、第1温度累積時間から第10温度累積時間と、積算充電電流量と、積算放電電流量とのうちの任意の項目の値の推移を示し、t1は、データ変換部120が中間データ174を生成した最後の時点(例えば、現時点)を示す。すなわち、図7は、時点0から時点t1までの期間において中間データ174の説明変数の値が取得された状況を表している。
【0044】
学習用データ生成部130は、中間データ174の説明変数の値の推移L1に基づいて、当該説明変数の将来値を予測する。具体的には、学習用データ生成部130は、説明変数の値の推移L1に対して、図中L2によって示される線形関数a+b×tをフィッティングすることによって、説明変数の将来値を予測する。学習用データ生成部130は、中間データ174の説明変数と、予測された説明変数の将来値とを合わせて、学習用データ176の説明変数として記憶部170に記憶する。
【0045】
図8は、中間データ174の目的変数の将来値を予測関数に従って予測する方法の一例を示す図である。図8において、L3は、中間データ174の目的変数であるSOHの値の推移を示し、t1は、データ変換部120が中間データ174を生成した最後の時点(例えば、現時点)を示す。すなわち、図8は、時点0から時点t1までの期間において中間データ174の目的変数の値が取得された状況を表している。
【0046】
学習用データ生成部130は、中間データ174の目的変数の値の推移L3に基づいて、当該目的変数の将来値を予測する。具体的には、学習用データ生成部130は、目的変数の値の推移L3に対して、図中L4によって示されるべき乗を含む関数a-b×t(nは任意の正の実数)をフィッティングすることによって、目的変数の将来値を予測する。学習用データ生成部130は、中間データ174の目的変数と、予測された目的変数の将来値とを合わせて、学習用データ176の目的変数として記憶部170に記憶する。なお、フィッティングされるべき関数のべき指数値は、後述するべき指数値探索部160によって探索されるものとするが、べき指数値探索部160の処理については後述する。
【0047】
予測モデル学習部140は、学習用データ生成部130によって生成された学習用データ176を用いて、バッテリ40のSOHを推定する予測モデル178を学習する。より具体的には、予測モデル学習部140は、学習用データ176の第1SOC累積時間から第10SOC累積時間と、第1温度累積時間から第10温度累積時間と、積算充電電流量と、積算放電電流量とを説明変数とし、SOHを目的変数として、一般化線形モデルや決定木、ニューラルネットワークなどのアルゴリズムによって、予測モデル178を学習する。予測モデル学習部140によって学習される学習用データ176は、時系列データ172が取得された期間の範囲内のデータに限定されず、当該期間の範囲外のデータをも含むものである。そのため、学習用データ176を用いて学習された予測モデル178は、SOHの予測を長期的に行うことができる。
【0048】
劣化状態推定部150は、予測モデル学習部140によって学習された予測モデル(学習済みモデル)に、予測したいバッテリ使用条件に即した将来の仮想的な履歴データ(仮想履歴データ)を入力することによって、バッテリ40の将来のSOHを推定する。例えば、バッテリ劣化推定装置100のユーザは、バッテリ劣化推定装置100が提供するインターフェース画面上で、予測したいバッテリ使用条件に即したSOC、温度、および電流の将来値を入力し、劣化状態推定部150は、入力されたSOC、温度、および電流の将来値を予測モデル178に入力することによって、ユーザにSOHの予測値を提供する。
【0049】
なお、上記の説明においては、データ取得部110がバッテリ40のSOCの時系列データ172を取得するものとしている。しかし、本発明はそのような構成に限定されず、データ取得部110は、バッテリ40のSOCに代えて、又は加えて、電圧の時系列データ172を取得してもよい。この場合、データ取得部110は、例えば、電圧の時系列データ172のうち、当該電圧がOCV(open circuit voltage)と見なせる時系列データ172のみを抽出し(例えば、電流が所定値以下である場合に、電圧はOCVと見なせる)、OCVと見なせない期間については、フィッティングなどの任意のアルゴリズムによって、電圧値を補間する。次に、データ変換部120は、電圧値が所定の区間の範囲内に滞在していた時間を積算することによって、SOCの場合と同様に、例えば、第1電圧累積時間から第10電圧累積時間を求め、中間データ174を生成することができる。
【0050】
[べき指数値の探索]
次に、図9を参照して、べき指数値探索部160によって実行されるべき指数値の探索方法について説明する。図9は、べき指数値探索部160によって実行されるべき指数値の探索方法の流れの一例を示す図である。
【0051】
始めに取得ステップST1では、べき指数値探索部160は、バッテリ40と同種のサンプルバッテリに対する複数の使用履歴パラメータ(すなわち、第1SOC累積時間から第10SOC累積時間、第1温度累積時間から第10温度累積時間、積算充電電流量、および積算放電電流量)及びSOH測定値の所定のサンプル期間(例えば、40週間)分の時系列データを、n組(nは2以上の整数)分取得する。
【0052】
次に探索ステップST8では、べき乗演算ステップST2、データ分割ステップST3、学習ステップST4、検証ステップST5、及びべき指数変更ステップST6を複数回にわたり繰り返し行った後、評価ステップST7を行う。以下、各ステップST2~ST7の内容について詳細に説明する。
【0053】
始めにべき乗演算ステップST2では、べき指数値探索部160は、取得ステップST1において取得した複数のSOH測定値を所定のべき指数値xでべき乗演算することにより、複数の出力パラメータの時系列データを生成する。べき指数値xの初期値は、0~1の範囲内の任意の実数(例えば、0.5)に設定される。
【0054】
次にデータ分割ステップST3では、べき指数値探索部160は、上記ステップST1~ST2を経て生成されるSOH測定値及び使用履歴パラメータのサンプル期間分の時系列データのうち、学習用期間(例えば、第2週~第20週)内に属するものを学習データと定義し、この学習用期間以降の検証用期間(例えば、第22週~第40週)内に属するものを検証データと定義する。
【0055】
次に学習ステップST4では、べき指数値探索部160は、複数の使用履歴パラメータを説明変数としSOH予測値を目的変数とする線形回帰モデルを上記ステップST3において定義された学習データを用いて学習することによってバッテリモデルを構築し、このバッテリモデルをステップST2において設定したべき指数値と関連付けた状態で記憶媒体に格納する。
【0056】
次に検証ステップST5では、べき指数値探索部160は、ステップST3において定義した検証データを用いて、ステップST4において構築した学習済みのバッテリモデルの予測精度を評価する。より具体的には、検証データに含まれる使用履歴パラメータを説明変数として学習済みのバッテリモデルに入力することによって得られるSOH予測値と検証データに含まれるSOH測定値とを比較することによって、学習済みのバッテリモデルの予測精度を評価する。本実施形態では、SOH予測値とSOH測定値との間の平均絶対誤差(以下、「MAE」との略称を用いる)、平均平方二乗誤差(以下、「RMSE」との略称を用いる)、及び決定係数(以下、「R2」との略称を用いる)等を学習済みバッテリモデルの予測精度指標とした場合について説明する。
【0057】
次にべき指数変更ステップST6では、べき指数値探索部160は、べき乗演算ステップST2において定義したべき指数値xを、0~1の範囲内でありかつ過去の設定値と異なる値に変更し、べき乗演算ステップST2に戻る。
【0058】
探索ステップST8では、以上のようにべき指数値xを変えながらステップST2~ST6を複数回にわたり繰り返し行うことにより、複数のべき指数値xと、複数のべき指数値xと関連付けられた複数の学習済みバッテリモデルと、各学習済みバッテリモデルに対する予測精度指標と、を得ることができる。
【0059】
次に評価ステップST7では、べき指数値探索部160は、ステップST2~ST6において算出された複数の予測精度指標に基づいて、べき指数値xに対する最適べき指数値x_optを探索する。より具体的には、評価ステップST7では、べき指数値探索部160は、予測精度指標の算出結果に基づいて最も予測精度が高い学習済みバッテリモデルを決定し、この学習済みバッテリモデルと関連付けられたべき指数値xを最適べき指数値x_optとして決定する。これにより、個々の電池の特性に応じた最適べき指数値を探索することにより、予測モデル178の精度を向上させることができる。
【0060】
なお、上記では、べき指数値探索部160が線形回帰モデルを用いて、べき指数値を探索する例について説明したが、本発明はそのような構成に限定されない。例えば、べき指数値探索部160は、実際の走行車両(一台でも複数台であってもよい)から、実測データとして、SOHのデータを収集し、当該データにフィッティングするべき乗を含む関数を求めることにより、べき指数値を探索してもよい。また、例えば、べき指数値探索部160は、実験的に、バッテリ40を充放電させてSOHの値を計測し、当該データにフィッティングするべき乗を含む関数を求めることにより、べき指数値を探索してもよい。市場データを用いてべき指数値を探索する場合、バッテリ40の温度などの条件がデータごとに異なることに起因して、求めたべき指数値に誤差が発生することがあり得る。一方、実験的にべき指数値を探索する場合には、温度などの条件を一定にしてSOHの値を計測することにより、より正確なべき指数値が求められ得る。
【0061】
図10は、べき指数値を実験的に探索する方法の概要を説明するための図である。図10に示す通り、まず、複数の設定温度ごとに、バッテリ40の充放電を通じて変化するSOHの値を計測する。次に、設定温度ごとに計測したSOHの値に、べき乗を含む関数をフィッティングさせることにより、設定温度ごとのべき指数を算出する。次に、算出したべき指数の平均を取ることにより、最終的なべき指数値が求められる。なお、上記で説明した実測手法および実験手法におけるフィッティングの評価に当たっては、フィッティング誤差と決定係数のいずれを用いてもよい。
【0062】
以上の通り説明した本実施形態によれば、バッテリ劣化推定装置は、バッテリの時系列データを学習可能な中間データに変換し、中間データの説明変数および目的変数の将来値を予測関数に従って予測して学習用データを生成し、生成した学習用データに基づいて、バッテリの劣化状態に関する指標を予測する予測モデルを学習する。これにより、長期的な学習用データを準備する必要なく、長期的なSOHの予測を行うことができる。
【0063】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
プログラムを記憶した記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、
バッテリの電圧又はSOC(State Of Charge)と、温度と、電流と、のうちの少なくとも一つを含む時系列データを取得し、
前記時系列データを、学習可能な中間データへ変換し、
前記中間データの将来値、及び劣化状態に関する指標の将来値を予測関数に従って予測し、学習用データを生成し、前記学習用データに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する予測モデルを学習し、前記予測モデルに基づいて、前記バッテリの劣化状態に関する指標を推定する、
ように構成されている、バッテリ劣化推定装置。
【0064】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 車両
12 モータ
14 駆動輪
16 ブレーキ装置
20 車両センサ
30 PCU
32 変換器
34 VCU
36 制御部
40 バッテリ
42 バッテリセンサ
50 通信装置
100 バッテリ劣化推定装置
110 データ取得部
120 データ変換部
130 学習用データ生成部
140 予測モデル学習部
150 劣化状態推定部
160 べき指数値探索部
170 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10