(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】硫黄変性クロロプレンゴム及びその製造方法、硫黄変性クロロプレンゴム組成物、加硫物、並びに、成形品
(51)【国際特許分類】
C08C 19/22 20060101AFI20231016BHJP
C08K 5/38 20060101ALI20231016BHJP
C08K 5/40 20060101ALI20231016BHJP
C08L 11/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C08C19/22
C08K5/38
C08K5/40
C08L11/00
(21)【出願番号】P 2021507285
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010887
(87)【国際公開番号】W WO2020189517
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019052482
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敦典
(72)【発明者】
【氏名】砂田 貴史
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-024779(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/054388(WO,A1)
【文献】特開平01-204907(JP,A)
【文献】特開昭61-207415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/22
C08K 5/38
C08K 5/40
C08L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表されると共に分子末端に位置する官能基Aと、下記一般式(B)で表されると共に分子末端に位置する官能基Bと、を有し、
前記官能基Bの含有量の前記官能基Aの含有量に対する質量比B/Aが0.10~12.00であり、
前記官能基A及び前記官能基Bの合計量が0.15~1.00質量%である、硫黄変性クロロプレンゴム。
【化1】
(式中、R
aは、水素原子、又は、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化2】
(式中、R
b1及びR
b2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル
基を示
し、R
b1
及びR
b2
から選ばれる少なくとも一種の炭素数は、8~10である。)
【請求項2】
下記一般式(A)で表されると共に分子末端に位置する官能基Aと、下記一般式(B)で表されると共に分子末端に位置する官能基Bと、を有し、
前記官能基Bの含有量の前記官能基Aの含有量に対する質量比B/Aが0.10~12.00であり、
前記官能基A及び前記官能基Bの合計量が0.15~1.00質量%である、硫黄変性クロロプレンゴム。
【化3】
(式中、R
a
は、水素原子、又は、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化4】
(式中、R
b1
及びR
b2
は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアリール基を示す。)
【請求項3】
前記官能基Aの含有量が0.05~0.40質量%である、請求項1又は2に記載の硫黄変性クロロプレンゴム。
【請求項4】
前記官能基Bの含有量が0.10~0.80質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴムを含有する、硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項6】
アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量が前記硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して0.10~1.50質量部である、請求項5に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項7】
前記アルキルキサントゲンジスルフィドが、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジプロピルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、及び、ジブチルキサントゲンジスルフィドから選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、請求項6に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項8】
ジチオカルバミン酸系化合物の含有量が前記硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して0.10~2.00質量部である、請求項5~7のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項9】
前記ジチオカルバミン酸系化合物が、ジベンジルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジベンジルジチオカルバミン酸ニッケル、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸カリウム、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸カルシウム、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ-2-エチルヘキシルカルバミン酸アンモニウム、テトラベンジルチウラムジスルフィド、及び、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィドから選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、請求項8に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項10】
アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量Cに対するジチオカルバミン酸系化合物の含有量Dの質量比D/Cが0.1~15である、請求項5~9のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項11】
ムーニー粘度が20~80である、請求項5~10のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴムの加硫物、又は、請求項5~11のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物の加硫物。
【請求項13】
請求項12に記載の加硫物からなる、成形品。
【請求項14】
伝動ベルト、コンベヤベルト、防振ゴム、空気バネ、ホース又はスポンジである、請求項13に記載の成形品。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法、又は、請求項5~11のいずれか一項に記載の硫黄変性クロロプレンゴム組成物の硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法であって、
硫黄の存在下でクロロプレンを乳化重合して重合体を得る工程と、
前記重合体、アルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を混合する工程と、を有する、硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄変性クロロプレンゴム及びその製造方法、硫黄変性クロロプレンゴム組成物、加硫物、並びに、成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄変性クロロプレンゴムは、その加硫物の優れた動的特性を生かし、一般産業用の伝動ベルト又はコンベヤベルト;自動車用空気バネ;防振ゴム:スポンジ等の材料として広く使用されている。これらの製品は、動的な応力により変形及び回帰が繰り返し行われるため、ゴム自体が発熱して劣化したり、製品寿命が短縮したりするという問題がある。このため、発熱性を低減させた硫黄変性クロロプレンゴムの開発が切望されていた。
【0003】
ゴムの発熱性を低減させる技術としては、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム等のエラストマー、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩、BET比表面積が25m2/g以下の酸化マグネシウム、及び、有機過酸化物系架橋剤を含有してなる低発熱性ゴム組成物が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。また、ゴム成分に特定の低発熱性カーボンブラックを含有させたゴム組成物(例えば、下記特許文献2参照)、及び、所定の性質を有する高分子量成分と、所定の性質を有する低分子量成分とを混合して得られる変性共役ジエン系重合体(例えば、下記特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-268239号公報
【文献】特開平10-130424号公報
【文献】特開2010-121086号公報
【文献】特開2012-111899号公報
【文献】特開2016-141736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硫黄変性クロロプレンゴムについては、その加硫物の物性を向上させる技術が開発されつつあるものの、発熱性を更に低減させることが求められている。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、発熱性が低減された加硫物が得られる硫黄変性クロロプレンゴムを提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記硫黄変性クロロプレンゴムを含有する硫黄変性クロロプレンゴム組成物を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記硫黄変性クロロプレンゴムの加硫物を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記加硫物からなる成形品(加硫物を用いた成形品)を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究を行った結果、硫黄変性クロロプレンゴムの分子末端に特定の構造を導入することにより、発熱性が低減された加硫物が得られる硫黄変性クロロプレンゴムを製造することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一側面は、下記一般式(A)で表されると共に分子末端に位置する官能基Aと、下記一般式(B)で表されると共に分子末端に位置する官能基Bと、を有し、前記官能基Bの含有量の前記官能基Aの含有量に対する質量比B/Aが0.10~12.00であり、前記官能基A及び前記官能基Bの合計量が0.15~1.00質量%である、硫黄変性クロロプレンゴムを提供する。
【化1】
(式中、R
aは、水素原子、又は、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【化2】
(式中、R
b1及びR
b2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、又は、置換基を有してもよいアリール基を示す。)
【0009】
本発明の一側面に係る硫黄変性クロロプレンゴムによれば、発熱性が低減された加硫物を得ることができる。
【0010】
本発明の他の一側面は、上述の硫黄変性クロロプレンゴムを含有する、硫黄変性クロロプレンゴム組成物を提供する。本発明の他の一側面は、上述の硫黄変性クロロプレンゴムの加硫物又は上述の硫黄変性クロロプレンゴム組成物の加硫物を提供する。本発明の他の一側面は、上述の加硫物からなる成形品を提供する。本発明の他の一側面は、上述の硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法、又は、上述の硫黄変性クロロプレンゴム組成物の硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法であって、硫黄の存在下でクロロプレンを乳化重合して重合体を得る工程と、前記重合体、アルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を混合する混合工程と、を有する、硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、発熱性が低減された加硫物が得られる硫黄変性クロロプレンゴムを提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記硫黄変性クロロプレンゴムを含有する硫黄変性クロロプレンゴム組成物を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記硫黄変性クロロプレンゴムの加硫物を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記加硫物からなる成形品(加硫物を用いた成形品)を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「アルキル基」は、特に断らない限り、直鎖状、分岐又は環状のいずれであってもよい。
【0014】
<硫黄変性クロロプレンゴム>
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムは、下記一般式(A)で表されると共に分子末端に位置する官能基A(以下、「末端官能基A」という)と、下記一般式(B)で表されると共に分子末端に位置する官能基B(以下、「末端官能基B」という)と、を有し、末端官能基Bの含有量の末端官能基Aの含有量に対する質量比B/Aが0.10~12.00であり、末端官能基A及び末端官能基Bの合計量が0.15~1.00質量%である。すなわち、本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムは、下記一般式(A)で表される構造、及び、下記一般式(B)で表される構造を分子末端に有する硫黄変性クロロプレンゴムであって、下記一般式(A)で表される末端官能基Aと、下記一般式(B)で表される末端官能基Bの質量比B/Aが0.10~12.00、かつ、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部中の末端官能基Aと末端官能基Bの合計量(A+B)が0.15~1.00質量部である硫黄変性クロロプレンゴムである。
【0015】
【化3】
(式中、R
aは、水素原子、又は、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0016】
【化4】
(式中、R
b1及びR
b2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、又は、置換基を有してもよいアリール基を示し、R
b1及びR
b2は、互いに同一でもよく、互いに異なってもよい。)
【0017】
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムを加硫することで加硫物を得ることができる。本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムによれば、硫黄変性クロロプレンゴムを加硫して得られる加硫物として、発熱性が低減された(優れた耐発熱性を有する)加硫物が得られる。
【0018】
ところで、従来、圧縮永久歪みに優れた硫黄変性クロロプレンゴムの開発も切望されている。ゴムの圧縮永久歪みを改善する技術としては、クロロプレンゴム及び天然ゴムを合計で100質量部と、スチレンとブタジエンとの共重合体0.1~10質量部と、エチレンチオウレア0.1~3質量部と、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド0.1~3質量部と、を含有するクロロプレンゴム組成物が知られている(例えば、上記特許文献4参照)。
【0019】
さらに、クロロプレンゴムの耐スコーチ性を改善する技術として、クロロプレンゴム100重量部と、ジチオカルバミン酸のアミン塩1~10重量部と、チウラム系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物0.1~5重量部と、を含有するゴム組成物が知られている(例えば、上記特許文献5参照)。
【0020】
しかしながら、従来、加硫物において、耐スコーチ性に優れると共に、圧縮永久歪み及び発熱性を低減させる技術はこれまでに存在しなかった。一方、本願発明者らは、鋭意研究を行った結果、硫黄変性クロロプレンゴムの分子末端に上述の特定の構造を導入することにより、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られる硫黄変性クロロプレンゴムを製造することに成功した。すなわち、本実施形態によれば、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された(優れた耐圧縮永久歪み性及び耐発熱性を有する)加硫物が得られる硫黄変性クロロプレンゴムを提供することもできる。
【0021】
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムは、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)由来の構造単位を有する重合体である。硫黄変性クロロプレンゴムは、分子鎖に硫黄原子を含んでおり、主鎖に硫黄原子を含んでよい。硫黄変性クロロプレンゴムは、分子鎖にポリスルフィド結合(S2~S8)を含んでよく、主鎖にポリスルフィド結合(S2~S8)を含んでよい。
【0022】
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムは、クロロプレンと共重合可能な単量体由来の構造単位を有してよい。クロロプレンと共重合可能な単量体としては、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、メタクリル酸、エステル類等が挙げられる。クロロプレンと共重合可能な単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
クロロプレンと共重合可能な単量体のうち、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを用いると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの結晶化速度を遅くすることができる。結晶化速度が遅い硫黄変性クロロプレンゴムは、低温環境下においてもゴム弾性を維持することができ、例えば、低温圧縮永久歪みを改善することができる。
【0024】
クロロプレンと共重合可能な単量体を用いる場合、クロロプレンと共重合可能な単量体の使用量(クロロプレンと共重合可能な単量体由来の構造単位の含有量)は、クロロプレンを含む全単量体(硫黄変性クロロプレンゴムを構成する構造単位の全量)中、10質量%以下であることが好ましい。この使用量が10質量%以下であると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの耐熱性が向上しやすいと共に加工性の低下を抑制しやすい。同様の観点から、クロロプレンの使用量(クロロプレン由来の構造単位の含有量)は、クロロプレンを含む全単量体(硫黄変性クロロプレンゴムを構成する構造単位の全量)中、90質量%以上、92質量%以上、95質量%以上、又は、98質量%以上であることが好ましい。硫黄変性クロロプレンゴムを構成する構造単位がクロロプレン由来の構造単位からなる(硫黄変性クロロプレンゴムを構成する構造単位の実質的に100質量%がクロロプレン由来の構造単位である)態様であってもよい。
【0025】
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムにおいて末端官能基Aは、主鎖及び/又は側鎖の末端に位置してよい。末端官能基Aは、例えば、後述の可塑化工程においてアルキルキサントゲンジスルフィドを用いることにより得ることができる。Raであるアルキル基に対する置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、カルボン酸塩基、シアノ基、スルホ基、スルホン酸塩基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。Raであるアルキル基は、置換基を有していなくてもよい。
【0026】
Raは、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、炭素数2又は3のアルキル基が更に好ましい。
【0027】
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムにおいて末端官能基Bは、主鎖及び/又は側鎖の末端に位置してよい。末端官能基Bは、例えば、後述の可塑化工程においてジチオカルバミン酸系化合物を用いることにより得ることができる。
【0028】
Rb1及びRb2から選ばれる少なくとも一種の炭素数は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、6~10が好ましく、7~9がより好ましく、7~8が更に好ましい。Rb1又はRb2であるアルキル基に対する置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、カルボン酸塩基、シアノ基、スルホ基、スルホン酸塩基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。Rb1又はRb2であるアリール基としては、ベンジル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。Rb1又はRb2であるアリール基に対する置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、カルボン酸塩基、シアノ基、スルホ基、スルホン酸塩基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。Rb1又はRb2であるアルキル基又はアリール基は、置換基を有していなくてもよい。
【0029】
末端官能基Aの含有量は、硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として下記の範囲が好ましい(すなわち、硫黄変性クロロプレンゴムは、当該硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して下記の数値の含有量(単位:質量部)の末端官能基Aを含有することが好ましい)。末端官能基Aの含有量は、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が更に低減される観点から、0.50質量%以下、0.45質量%以下、0.42質量%以下、0.40質量%以下、0.38質量%以下、0.35質量%以下、0.30質量%以下、0.25質量%以下、又は、0.23質量%以下が好ましい。末端官能基Aの含有量は、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が更に低減される観点から、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上、0.05質量%以上、0.06質量%以上、0.08質量%以上、0.09質量%以上、0.10質量%以上、0.11質量%以上、0.12質量%以上、0.13質量%以上、0.14質量%以上、又は、0.15質量%以上が好ましい。これらの観点から、末端官能基Aの含有量は、0.01~0.50質量%、又は、0.05~0.40質量%が好ましい。末端官能基Aの含有量は、0.20質量%以下、0.18質量%以下、0.16質量%以下、0.15質量%以下、0.14質量%以下、0.13質量%以下、0.12質量%以下、0.11質量%以下、0.10質量%以下、0.09質量%以下、0.08質量%以下、0.07質量%以下、0.06質量%以下、0.05質量%以下、又は、0.04質量%以下であってよい。末端官能基Aの含有量は、0.16質量%以上、0.18質量%以上、0.20質量%以上、0.23質量%以上、0.25質量%以上、0.30質量%以上、0.35質量%以上、0.38質量%以上、0.40質量%以上、又は、0.42質量%以上であってよい。末端官能基Aの含有量は、後述の可塑化工程で用いるアルキルキサントゲンジスルフィドの量、可塑化工程の可塑化時間及び可塑化温度等により調整できる。
【0030】
末端官能基Bの含有量は、特に限定されないが、硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として下記の範囲が好ましい(すなわち、硫黄変性クロロプレンゴムは、当該硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して下記の数値の含有量(単位:質量部)の末端官能基Bを含有することが好ましい)。末端官能基Bの含有量は、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が更に低減される観点から、0.90質量%以下、0.80質量%以下、0.70質量%以下、0.60質量%以下、0.50質量%以下、0.45質量%以下、0.40質量%以下、0.35質量%以下、0.30質量%以下、又は、0.28質量%以下が好ましい。末端官能基Bの含有量は、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が更に低減される観点から、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.09質量%以上、0.10質量%以上、0.12質量%以上、又は、0.14質量%以上が好ましい。これらの観点から、末端官能基Bの含有量は、0.01~0.90質量%、又は、0.10~0.80質量%が好ましい。末端官能基Bの含有量は、0.25質量%以下、0.20質量%以下、0.18質量%以下、0.17質量%以下、0.16質量%以下、0.15質量%以下、0.14質量%以下、0.10質量%以下、又は、0.09質量%以下であってよい。末端官能基Bの含有量は、0.15質量%以上、0.16質量%以上、0.17質量%以上、0.18質量%以上、0.20質量%以上、0.25質量%以上、0.28質量%以上、0.30質量%以上、0.35質量%以上、0.40質量%以上、0.45質量%以上、0.50質量%以上、0.60質量%以上、0.70質量%以上、又は、0.80質量%以上であってよい。末端官能基Bの含有量は、後述の可塑化工程で用いるジチオカルバミン酸系化合物の量、可塑化工程の可塑化時間及び可塑化温度等により調整できる。
【0031】
末端官能基Bの含有量の末端官能基Aの含有量に対する質量比B/Aは、0.10~12.00である。質量比B/Aが12.00を超えてしまう場合、又は、質量比B/Aが0.10未満である場合、得られる加硫物の耐スコーチ性、耐圧縮永久歪み及び耐発熱性が低下する。
【0032】
質量比B/Aは、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、11.00以下、10.00以下、9.30以下、9.00以下、8.00以下、7.00以下、6.00以下、5.00以下、3.00以下、2.00以下、1.00以下、0.70以下、又は、0.67以下が好ましい。質量比B/Aは、0.65以下、0.60以下、又は、0.50以下であってよい。質量比B/Aは、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、0.20以上、0.30以上、0.40以上、又は、0.45以上が好ましい。質量比B/Aは、0.50以上、0.60以上、0.65以上、0.67以上、0.70以上、1.00以上、2.00以上、3.00以上、5.00以上、6.00以上、7.00以上、8.00以上、9.00以上、9.30以上、10.00以上、又は、11.00以上であってよい。
【0033】
末端官能基A及び末端官能基Bの合計量(末端官能基A及び末端官能基Bの含有量の合計。質量合計(A+B))は、硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として0.15~1.00質量%である。質量合計(A+B)が0.15質量%に満たないと、得られる加硫物の耐スコーチ性、耐圧縮永久歪み性及び耐発熱性が低下する。質量合計(A+B)が1.00質量%を超えると、得られる硫黄変性クロロプレンゴム組成物のムーニー粘度の低下が著しく実用的でない(加硫物が得られない)。
【0034】
質量合計(A+B)は、硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として下記の範囲が好ましい。質量合計(A+B)は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、0.20質量%以上、又は、0.24質量%以上が好ましい。質量合計(A+B)は、0.30質量%以上、0.35質量%以上、0.37質量%以上、0.38質量%以上、0.39質量%以上、0.40質量%以上、0.43質量%以上、0.45質量%以上、0.50質量%以上、0.55質量%以上、0.60質量%以上、0.65質量%以上、0.70質量%以上、0.75質量%以上、0.80質量%以上、0.85質量%以上、又は、0.90質量%以上であってよい。質量合計(A+B)は、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、0.95質量%以下、0.90質量%以下、0.85質量%以下、0.80質量%以下、0.75質量%以下、0.70質量%以下、0.65質量%以下、0.60質量%以下、0.55質量%以下、0.50質量%以下、0.45質量%以下、又は、0.43質量%以下が好ましい。質量合計(A+B)は、0.40質量%以下、0.39質量%以下、0.38質量%以下、0.37質量%以下、0.35質量%以下、0.30質量%以下、又は、0.24質量%以下であってよい。
【0035】
硫黄変性クロロプレンゴム中の末端官能基A及び末端官能基Bの含有量は、実施例に記載の手順にて定量できる。
【0036】
<硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法>
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法は、本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法、又は、後述する硫黄変性クロロプレンゴム組成物の硫黄変性クロロプレンゴムを得るための製造方法である。本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法は、硫黄(S8)の存在下でクロロプレンを乳化重合して重合体を得る重合工程と、前記重合体、アルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を混合する可塑化工程(混合工程)と、を有する。本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法では、硫黄変性クロロプレンゴム組成物の構成成分として硫黄変性クロロプレンゴムが得られてよい。本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法の一態様は、少なくともクロロプレンゴムと硫黄とを乳化重合して重合液を得る重合工程と、重合液中にアルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を添加することにより、重合液中の重合体を可塑化する可塑化工程と、を有する。
【0037】
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法では、例えば、重合体(例えば重合体の主鎖)に硫黄を導入することが可能であり、ポリスルフィド結合(S2~S8)を導入することもできる。本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムは、硫黄の存在下で、クロロプレン単独、又は、クロロプレンと他の単量体とを乳化重合して硫黄を導入した硫黄変性クロロプレン重合体を、アルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を用いて可塑化することにより得られるラテックス、及び、このラテックスを一般的な方法で乾燥洗浄して得られた硫黄変性クロロプレンゴムを包含する。
【0038】
以下、硫黄変性クロロプレンゴムの製造工程に沿って詳細に説明する。
【0039】
(重合工程)
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法では、まず、重合工程において、硫黄の存在下でクロロプレンを乳化重合して重合体を得る。重合体は、重合液中の重合体であってよい。重合工程では、必要に応じて、クロロプレンと、クロロプレンと共重合可能な上述の単量体と、を乳化重合させてよい。クロロプレンの使用量、又は、クロロプレンと共重合可能な単量体の使用量は、上述の使用量であることが好ましい。
【0040】
乳化重合における硫黄(S8)の使用量は、単量体(重合させる単量体の合計)100質量部に対して下記の範囲が好ましい。硫黄の使用量は、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの充分な機械的特性又は動的特性が得られやすい観点から、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。硫黄の使用量は、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの金属への粘着性が強くなりすぎることが抑制されることにより加工しやすい観点から、0.6質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。これらの観点から、硫黄の使用量は、0.01~0.6質量部が好ましく、0.1~0.5質量部がより好ましい。
【0041】
乳化重合に用いる乳化剤としては、クロロプレンの乳化重合に用いることが可能な公知の乳化剤を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。乳化剤としては、ロジン酸類、脂肪酸類、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸カリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルホン酸カリウム等が挙げられる。乳化剤としては、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、ロジン酸類が好ましい。「ロジン酸類」とは、ロジン酸、不均化ロジン酸、不均化ロジン酸のアルカリ金属塩(例えば不均化ロジン酸カリウム)等を意味する。不均化ロジン酸の構成成分としては、セスキテルペン、8,5-イソピマル酸、ジヒドロピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、デイソプロピルデヒドロアビエチン酸、デメチルデヒドロアビエチン酸等が挙げられる。脂肪酸類としては、脂肪酸(例えば炭素数6~22の飽和又は不飽和の脂肪酸)、脂肪酸の金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0042】
乳化剤としては、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の金属塩が好ましく、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩がより好ましい。β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩は、汎用に用いられる乳化剤であり、少量添加することで安定性が向上し、製造過程において凝集及び析出をすることなく、安定的にラテックスを製造することができる。好適に用いられる他の乳化剤としては、例えば、不均化ロジン酸のアルカリ金属塩と、炭素数6~22の飽和又は不飽和の脂肪酸との混合物からなるアルカリ石鹸水溶液が挙げられる。
【0043】
乳化重合開始時の乳化液(例えば水性乳化液)のpHは、10.5以上であることが好ましい。ここで、「乳化液」とは、乳化重合開始直前の、クロロプレンと他の成分(クロロプレンと共重合可能な単量体、乳化剤、硫黄(S8)等)との混合液である。「乳化液」は、これらの他の成分(クロロプレンと共重合可能な単量体、硫黄(S8)等)の後添加、分割添加などによりその組成が順次変わる場合も包含する。乳化液のpHが10.5以上であることで、重合中のポリマー析出等を防止し、安定的に重合を制御することができる。乳化剤としてロジン酸類を用いた場合に当該効果を特に好適に得ることができる。乳化液のpHは、乳化重合時に存在している水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ成分量により調整できる。
【0044】
乳化重合の重合温度は、重合制御性及び生産性に優れる観点から、0~55℃が好ましく、30~55℃がより好ましい。
【0045】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を用いることができる。例えば、重合は、下記の範囲の重合率(転化率)で行われ、次いで、重合停止剤(重合禁止剤)を加えて停止させる。
【0046】
重合率は、生産性に優れる観点から、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。重合率は、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの加工性に影響を及ぼす分岐構造の発達又はゲルの生成を抑制する観点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。これらの観点から、重合率は、60~95%が好ましく、70~90%がより好ましい。
【0047】
重合停止剤としては、ジエチルヒドロキシアミン、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール等が挙げられる。重合停止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(可塑化工程)
可塑化工程では、重合工程で得られた重合体、アルキルキサントゲンジスルフィド、及び、ジチオカルバミン酸系化合物を混合する。可塑化工程では、重合工程で得られた重合体、アルキルキサントゲンジスルフィド、及び、ジチオカルバミン酸系化合物を反応させることにより重合体を可塑化することが可能であり、例えば、重合工程で得られた重合液中にアルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を添加することにより、重合液中の重合体を可塑化することができる。可塑化工程では、例えば、ジチオカルバミン酸系化合物がアルキルキサントゲンジスルフィドと反応し、アルキルキサントゲンジスルフィド単体又はジチオカルバミン酸系化合物単体を用いる場合と比較して重合体(例えば重合体の主鎖)中の硫黄(例えばポリスルフィド結合(S2~S8))との反応性が高い反応物を形成し、ムーニー粘度を容易に調整できる。反応物が重合体中の硫黄(例えばポリスルフィド結合。例えば重合体の主鎖中の硫黄)と反応することで、アルキルキサントゲンジスルフィドに由来する上述の末端官能基Aと、ジチオカルバミン酸系化合物に由来する上述の末端官能基Bと、を形成しながら、重合体を切断又は解重合させることができる。以下、重合体を切断又は解重合するために用いる薬品を「可塑化剤」と称する。可塑化工程により得られた硫黄変性クロロプレンゴムを加硫して得られる加硫物は、耐スコーチ性が良好であり、得られる加硫物の圧縮永久歪み及び発熱性の物性バランスが良好である。
【0049】
アルキルキサントゲンジスルフィドとしては、公知のアルキルキサントゲンジスルフィドを1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。アルキルキサントゲンジスルフィドは、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、ジアルキルキサントゲンジスルフィドを含むことが好ましく、少なくとも一方のアルキル基の炭素数が1~6であるジアルキルキサントゲンジスルフィドを含むことがより好ましく、少なくとも一方のアルキル基の炭素数が2~4であるジアルキルキサントゲンジスルフィドを含むことが更に好ましい。アルキルキサントゲンジスルフィドは、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジプロピルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、及び、ジブチルキサントゲンジスルフィドから選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0050】
アルキルキサントゲンジスルフィドの使用量(添加量)は、重合体(例えば重合液中の重合体)100質量部に対して0.2~3質量部が好ましい。アルキルキサントゲンジスルフィドの使用量が0.2質量部以上であることで、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上しやすいと共に、圧縮永久歪みを低減させやすい。アルキルキサントゲンジスルフィドの使用量が3質量部以下であることで、適度なムーニー粘度の硫黄変性クロロプレンゴム組成物を得やすく、その結果、加硫成形性を向上させやすい。アルキルキサントゲンジスルフィドの使用量が0.2~3質量部であることにより、硫黄変性クロロプレンゴムにおける末端官能基Aの含有量を0.01~0.50質量%(例えば0.05~0.40質量%。基準:硫黄変性クロロプレンゴムの全量)に調整しやすいと共に、硫黄変性クロロプレンゴム組成物におけるアルキルキサントゲンジスルフィドの含有量(残存量)を0.01~2.00質量部(例えば0.10~1.50質量部。基準:硫黄変性クロロプレンゴム100質量部)に調整しやすい。
【0051】
ジチオカルバミン酸系化合物としては、ジチオカルバミン酸、ジチオカルバミン酸塩、モノアルキルジチオカルバミン酸、モノアルキルジチオカルバミン酸塩、モノアリールジチオカルバミン酸、モノアリールジチオカルバミン酸塩、ジアルキルジチオカルバミン酸、ジアルキルジチオカルバミン酸塩、ジアリールジチオカルバミン酸、ジアリールジチオカルバミン酸塩、テトラアルキルチウラムジスルフィド、テトラアリールアルキルチウラムジスルフィド等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、ニッケル塩等が挙げられる。
【0052】
ジチオカルバミン酸系化合物としては、公知のジチオカルバミン酸系化合物を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。ジチオカルバミン酸系化合物は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、テトラアルキルチウラムジスルフィド及びテトラアリールアルキルチウラムジスルフィドから選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。ジチオカルバミン酸系化合物は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、ジチオカルバミン酸、ジチオカルバミン酸ナトリウム、ジチオカルバミン酸カリウム、ジチオカルバミン酸カルシウム、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸アンモニウム、ジチオカルバミン酸ニッケル、モノ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、モノ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸ナトリウム、モノ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸カリウム、モノ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸カルシウム、モノ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、モノ-2-エチルヘキシルカルバミン酸アンモニウム、モノ-2-エチルヘキシルカルバミン酸ニッケル、モノベンジルジチオカルバミン酸、モノベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、モノベンジルジチオカルバミン酸カリウム、モノベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、モノベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、モノベンジルジチオカルバミン酸アンモニウム、モノベンジルジチオカルバミン酸ニッケル、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸カリウム、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸カルシウム、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ-2-エチルヘキシルカルバミン酸アンモニウム、ジ-2-エチルヘキシルカルバミン酸ニッケル、ジベンジルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジベンジルジチオカルバミン酸ニッケル、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、及び、テトラベンジルチウラムジスルフィドから選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0053】
ジチオカルバミン酸系化合物の使用量(添加量)は、特に限定されないが、重合体(例えば重合液中の重合体)100質量部に対して、0.5~8質量部が好ましく、0.5~4質量部がより好ましい。ジチオカルバミン酸系化合物の使用量がこれらの範囲内であることで、得られる硫黄変性クロロプレンゴム組成物のムーニー粘度の制御が一層容易となり、得られる加硫物の耐スコーチ性が一層向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が一層低減される。ジチオカルバミン酸系化合物の使用量が0.5~8質量部であることにより、硫黄変性クロロプレンゴムにおける末端官能基Bの含有量を0.01~0.90質量%(例えば0.10~0.80質量%。基準:硫黄変性クロロプレンゴムの全量)に調整しやすいと共に、硫黄変性クロロプレンゴム組成物におけるジチオカルバミン酸系化合物の含有量(残存量)を0.01~2.50質量部(例えば0.10~2.00質量部。基準:硫黄変性クロロプレンゴム100質量部)に調整しやすい。
【0054】
前記可塑化工程を経た重合液を一般的な方法で冷却、pH調整、凍結、乾燥等を行って硫黄変性クロロプレンゴムを得てよい。
【0055】
<硫黄変性クロロプレンゴム組成物、加硫物及び成形品>
本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴム組成物は、本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムを含有し、硫黄変性クロロプレンゴム以外の成分を更に含有する。本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴム組成物は、未反応の可塑化剤(アルキルキサントゲンジスルフィド、ジチオカルバミン酸系化合物等)を含有してよい。可塑化剤としては、可塑化工程に関して上述した可塑化剤を用いることができる。
【0056】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物におけるアルキルキサントゲンジスルフィドの含有量(アルキルキサントゲンジスルフィドに該当する化合物の合計量。例えば残存量)は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して下記の範囲が好ましい。また、硫黄変性クロロプレンゴム組成物における特定のアルキルキサントゲンジスルフィド(例えば、上述のとおり例示した各アルキルキサントゲンジスルフィド。ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等)の含有量は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して下記の範囲が好ましい。アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量(例えば未反応のアルキルキサントゲンジスルフィドの残存量)は、可塑化工程で用いるアルキルキサントゲンジスルフィドの量、可塑化工程の可塑化時間及び可塑化温度等により調整できる。
【0057】
アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量は、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が更に低減する観点から、0.01質量部以上、0.05質量部以上、0.09質量部以上、0.10質量部以上、0.11質量部以上、0.12質量部以上、0.14質量部以上、0.15質量部以上、0.20質量部以上、0.30質量部以上、0.35質量部以上、0.40質量部以上、又は、0.41質量部以上が好ましい。アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量は、得られる加硫物の耐スコーチ性が向上し、圧縮永久歪み及び発熱性が更に低減する観点から、2.00質量部以下、1.60質量部以下、1.50質量部以下、1.30質量部以下、1.20質量部以下、1.00質量部以下、0.90質量部以下、0.80質量部以下、又は、0.78質量部以下が好ましい。これらの観点から、アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量は、0.01~2.00質量部、又は、0.10~1.50質量部が好ましい。アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量は、0.50質量部以上、0.60質量部以上、0.70質量部以上、0.75質量部以上、0.78質量部以上、0.80質量部以上、0.90質量部以上、1.00質量部以上、1.20質量部以上、1.30質量部以上、又は、1.50質量部以上であってよい。アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量は、0.75質量部以下、0.70質量部以下、0.60質量部以下、0.50質量部以下、0.41質量部以下、0.40質量部以下、0.35質量部以下、0.30質量部以下、0.20質量部以下、0.15質量部以下、0.14質量部以下、0.12質量部以下、0.11質量部以下、0.10質量部以下、又は、0.09質量部以下であってよい。
【0058】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物におけるジチオカルバミン酸系化合物の含有量(ジチオカルバミン酸系化合物に該当する化合物の合計量。例えば残存量)は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して下記の範囲が好ましい。また、硫黄変性クロロプレンゴム組成物における特定のジチオカルバミン酸系化合物(例えば、上述のとおり例示した各ジチオカルバミン酸系化合物。ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド等)の含有量は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して下記の範囲が好ましい。ジチオカルバミン酸系化合物の含有量(例えば未反応のジチオカルバミン酸系化合物の残存量)は、可塑化工程で用いるジチオカルバミン酸系化合物の量、可塑化工程の可塑化時間及び可塑化温度等により調整できる。
【0059】
ジチオカルバミン酸系化合物の含有量は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、2.50質量部以下、2.00質量部以下、1.80質量部以下、1.67質量部以下、1.66質量部以下、1.50質量部以下、1.20質量部以下、1.00質量部以下、0.96質量部以下、0.90質量部以下、0.80質量部以下、0.70質量部以下、又は、0.63質量部以下が好ましい。ジチオカルバミン酸系化合物の含有量は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、0.01質量部以上、0.05質量部以上、0.07質量部以上、0.10質量部以上、0.20質量部以上、0.25質量部以上、又は、0.26質量部以上が好ましい。これらの観点から、ジチオカルバミン酸系化合物の含有量は、0.01~2.50質量部、又は、0.10~2.00質量部が好ましい。ジチオカルバミン酸系化合物の含有量は、0.60質量部以下、0.50質量部以下、0.40質量部以下、0.30質量部以下、0.26質量部以下、0.25質量部以下、0.20質量部以下、0.10質量部以下、又は、0.07質量部以下であってよい。ジチオカルバミン酸系化合物の含有量は、0.30質量部以上、0.40質量部以上、0.50質量部以上、0.60質量部以上、0.63質量部以上、0.70質量部以上、0.80質量部以上、0.90質量部以上、0.96質量部以上、1.00質量部以上、1.20質量部以上、1.50質量部以上、1.66質量部以上、1.67質量部以上、1.80質量部以上、又は、2.00質量部以上であってよい。
【0060】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物において、アルキルキサントゲンジスルフィドの含有量(例えば残存量)Cに対するジチオカルバミン酸系化合物の含有量(例えば残存量)Dの質量比D/Cは、下記の範囲が好ましい。質量比D/Cは、得られる加硫物の耐スコーチ性、圧縮永久歪み及び発熱性の物性バランスが一層良好である観点から、20以下、18以下、15以下、10以下、8以下、7以下、6以下、5以下、3以下、2以下、又は、1以下が好ましい。質量比D/Cは、得られる加硫物の耐スコーチ性、圧縮永久歪み及び発熱性の物性バランスが一層良好である観点から、0.01以上、0.05以上、0.07以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、又は、0.4以上が好ましい。これらの観点から、質量比D/Cは、0.01~20、又は、0.1~15が好ましい。質量比D/Cは、0.8以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、又は、0.1以下であってよい。質量比D/Cは、0.5以上、0.6以上、0.8以上、1以上、2以上、3以上、5以上、6以上、7以上、8以上、10以上、又は、15以上であってよい。
【0061】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物中のアルキルキサントゲンジスルフィドの含有量及びジチオカルバミン酸系化合物の含有量は、実施例に記載の手順にて定量できる。
【0062】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物は、加硫剤、加工助剤、安定剤、金属化合物、可塑化剤、充填剤等の添加剤を含有してよい。
【0063】
加硫剤としては、金属酸化物等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、四酸化三鉛、三酸化鉄、二酸化チタン、酸化カルシウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。加硫剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加硫剤の含有量は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して3~15質量部が好ましい。
【0064】
加工助剤としては、ステアリン酸等の脂肪酸;ポリエチレン等のパラフィン系加工助剤;脂肪酸アミドなどが挙げられる。加工助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤の含有量は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して0.5~5質量部が好ましい。
【0065】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物は、貯蔵時のムーニー粘度の変化を防止するため、安定剤(例えば少量の安定剤)を含有することができる。安定剤としては、クロロプレンゴムに用いることが可能な公知の安定剤を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。安定剤としては、フェニル-α-ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス-(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)等が挙げられる。安定剤としては、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物が得られやすい観点から、オクチル化ジフェニルアミン及び4,4’-チオビス-(6-tert-ブチル-3-メチルフェノールから選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0066】
金属化合物は、硫黄変性クロロプレンゴムの加硫速度を調整するため、又は、硫黄変性クロロプレンゴムの脱塩酸反応によって生じる塩化水素等の塩素源を吸着して、硫黄変性クロロプレンゴムが劣化することを抑制するために添加可能な化合物である。金属化合物としては、亜鉛、チタン、マグネシウム、鉛、鉄、ベリリウム、カルシウム、バリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、バナジウム、モリブテン、タングステン等の酸化物又は水酸化物などを用いることができる。金属化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
金属化合物の含有量は、特に限定されないが、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して3~15質量部の範囲が好ましい。金属化合物の含有量をこの範囲に調整することにより、得られる硫黄変性クロロプレンゴム組成物の機械的強度を向上させることができる。
【0068】
可塑化剤は、硫黄変性クロロプレンゴムの硬度を下げて、その低温特性を改良するために添加可能な成分である。また、硫黄変性クロロプレンゴム組成物を用いてスポンジを製造する際に、そのスポンジの風合いを向上させることもできる。可塑化剤としては、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート{別名:アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)}、ホワイトオイル、シリコンオイル、ナフテンオイル、アロマオイル、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート等が挙げられる。可塑化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
可塑化剤の含有量は、特に限定されないが、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して50質量部以下の範囲が好ましい。可塑化剤の含有量をこの範囲に調整することにより、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの引き裂き強度を維持しつつ、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物を得ることができる。
【0070】
充填剤は、硫黄変性クロロプレンゴムの補強材として添加可能な成分である。充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等が挙げられる。充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
充填剤の含有量は、特に限定されないが、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して100質量部以下の範囲が好ましい。充填剤の含有量をこの範囲に調整することにより、硫黄変性クロロプレンゴム組成物の成形加工性を好適に維持しつつ、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減された加硫物を得ることができる。
【0072】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、特に限定されないが、下記の範囲が好ましい。ムーニー粘度は、硫黄変性クロロプレンゴム組成物の加工性を維持しやすい観点から、10以上、15以上、20以上、25以上、又は、30以上が好ましい。ムーニー粘度は、硫黄変性クロロプレンゴム組成物の加工性を維持しやすい観点から、80以下、75以下、70以下、65以下、60以下、55以下、又は、50以下が好ましい。これらの観点から、ムーニー粘度は、10~80、又は、20~80が好ましい。硫黄変性クロロプレンゴム組成物のムーニー粘度は、可塑化剤の添加量、可塑化工程の時間及び可塑化温度等により調整できる。
【0073】
本実施形態に係る加硫物は、本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの加硫物、又は、本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴム組成物の加硫物であり、本実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴム、又は、硫黄変性クロロプレンゴム組成物中の硫黄変性クロロプレンゴムに加硫処理を施すことにより得ることができる。
【0074】
本実施形態に係る成形品は、本実施形態に係る加硫物からなる成形品であり、本実施形態に係る加硫物を成形することにより得ることができる。成形品としては、伝動ベルト、コンベヤベルト、防振ゴム、空気バネ(例えば自動車用空気バネ)、ホース(ホース製品)、スポンジ(スポンジ製品)等が挙げられる。硫黄変性クロロプレンゴム組成物の構成成分(硫黄変性クロロプレンゴム、金属化合物、可塑化剤、充填剤等)を混合した後、所望する形状に成形し、さらに、加硫処理を施して成形品を得てよい。また、硫黄変性クロロプレンゴム組成物の構成成分を混合した後、加硫処理を施し、さらに、所望する形状に成形して成形品を得てもよい。硫黄変性クロロプレンゴム組成物の構成成分は、ロール、バンバリーミキサー、押出機等を用いて混合できる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0076】
<硫黄変性クロロプレンゴムの作製>
(実施例1)
内容積30Lの重合缶に、クロロプレン100質量部、硫黄0.55質量部、純水120質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)4.00質量部、水酸化ナトリウム0.60質量部、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」:花王株式会社製)0.6質量部を添加した。重合開始前の水性乳化液のpHは12.8であった。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加した後、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。転化率85%となった時点で、重合停止剤であるジエチルヒドロキシアミン0.05質量部を加えて重合を停止させることによりクロロプレンの重合液を得た。
【0077】
得られた重合液に、クロロプレン(溶剤)5質量部、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(可塑化剤、商品名「サンビットDIX」:三新化学工業株式会社製)2質量部、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム(可塑化剤、大内新興化学工業株式会社製)2質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(乳化剤)0.05質量部、及び、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)0.05質量部からなる可塑化剤乳化液を添加し、可塑化前の硫黄変性クロロプレン重合体ラテックスを得た。当該操作においては、より安定した可塑化を可能とする観点から、クロロプレン(溶剤)に可塑化剤を溶解させて得られた可塑化剤液にラウリル硫酸ナトリウム等を添加して乳化状態の可塑化剤乳化液を得た後、重合液にこの可塑化剤乳化液を添加した。
【0078】
得られた硫黄変性クロロプレン重合体ラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体を除去した後、撹拌しながら温度50℃で1時間保持して可塑化することにより、硫黄変性クロロプレンゴムを含有する生ゴム(可塑化後のラテックス)を得た。「生ゴム」は、未反応の可塑化剤等を含有し得る硫黄変性クロロプレンゴム組成物である。
【0079】
[末端官能基の含有量の分析]
生ゴムを冷却した後、常法の凍結-凝固法で重合体を単離して硫黄変性クロロプレンゴムを得た。硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として、下記式(A1)で表されるジイソプロピルキサントゲンジスルフィド由来の末端官能基(キサントゲン末端種A1)の含有量は0.15質量%であり、下記式(B1)で表されるジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム由来の末端官能基(ジチオカルバミン酸末端種B1)の含有量は0.28質量%であった。
【0080】
【0081】
【0082】
硫黄変性クロロプレンゴムにおける末端官能基の含有量は以下の手順にて定量した。まず、硫黄変性クロロプレンゴムをベンゼン及びメタノールで精製した後、再度凍結乾燥して測定用試料を得た。この測定用試料を用いて、JIS K-6239に従って1H-NMR測定を行った。得られた測定データを、溶媒として用いた重水素化クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正した。補正した測定データに基づいて、1.30~1.45ppmにピークトップを有するピークの面積を算出して末端官能基(キサントゲン末端種)の含有量を定量し、5.05~5.50ppmにピークトップを有するピークの面積を算出して末端官能基(ジチオカルバミン酸末端種)の含有量を定量した。
【0083】
[可塑化剤の残存量の測定]
生ゴム中の硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対する可塑化剤の含有量(残存量)を以下の手順にて定量した。まず、得られた生ゴム1.5gをベンゼン30mLに溶解した後、メタノール60mLを滴下した。これにより、ゴム成分(ポリマー分)を析出させて溶媒から分離し、溶媒可溶成分として非ゴム分を含有する液相を回収した。析出物に対し、再度、同様の手順でベンゼン溶解及びメタノール滴下を行うことによりゴム成分を分離し、溶媒可溶成分として非ゴム分を含有する液相を回収した。1回目及び2回目の液相を混合した後に200mLに定容して得られた液を測定用試料として得た。この測定用試料を液体クロマトグラフ(LC、株式会社日立製作所製、ポンプ:L-6200、L-600、UV検出器:L-4250)に20μL注入した。液体クロマトグラフの移動相は、アセトニトリル及び水の比率を変化させながら使用し、1mL/minの流量で流した。カラムとしては、Inertsil ODS-3(φ4.6×150mm、5μm、GLサイエンス株式会社製)を用いた。アルキルキサントゲンジスルフィド(測定波長:280nm)の標準液10ppm、50ppm及び100ppmと、ジチオカルバミン酸系化合物(測定波長:280nm)の標準液10ppm、50ppm及び100ppmとを用いてピーク検出時間を確認し、そのピーク面積から求めた検量線により定量値を求めた。本定量値と、分析に用いたサンプル量との比較により、生ゴム中の未反応のアルキルキサントゲンジスルフィド及び未反応のジチオカルバミン酸系化合物の含有量を求めた。
【0084】
(実施例2)
可塑化剤であるジイソプロピルキサントゲンジスルフィドの添加量を2質量部から1質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から4質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0085】
(実施例3)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を2質量部から3質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から1質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0086】
(実施例4)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を2質量部から6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0087】
(実施例5)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を2質量部から1質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0088】
(実施例6)
可塑化剤であるジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から0.07質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0089】
(実施例7)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を2質量部から0.5質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から4質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0090】
(実施例8)
可塑化剤であるジイソプロピルキサントゲンジスルフィドの添加量を2質量部から0.5質量部に変更し、可塑化の保持時間を1時間から3時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0091】
(実施例9)
可塑化剤であるジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から0.5質量部に変更し、可塑化の保持時間を1時間から3時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0092】
(実施例10)
可塑化剤であるジイソプロピルキサントゲンジスルフィドの添加量を2質量部から4質量部に変更し、可塑化の保持時間を1時間から15分に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0093】
(実施例11)
可塑化剤であるジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を2質量部から4質量部に変更し、可塑化の保持時間を1時間から15分に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0094】
(実施例12)
可塑化剤として、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドを、下記式(A2)で表されるジエチルキサントゲンジスルフィド(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として、ジエチルキサントゲンジスルフィド由来の末端官能基(キサントゲン末端種A2)の含有量は0.15質量%であり、上述の式(B1)で表されるジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム由来の末端官能基(ジチオカルバミン酸末端種B1)の含有量は0.34質量%であった。
【0095】
【0096】
(実施例13)
可塑化剤として、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムを、下記式(B2)で表されるテトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(商品名「ノクセラーTOT-N」:大内新興化学工業株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として、上述の式(A1)で表されるジイソプロピルキサントゲンジスルフィド由来の末端官能基(キサントゲン末端種A1)の含有量は0.16質量%であり、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド由来の末端官能基(ジチオカルバミン酸末端種B2)の含有量は0.26質量%であった。
【0097】
【0098】
(実施例14)
可塑化剤として、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドを、上述の式(A2)で表されるジエチルキサントゲンジスルフィドに変更すると共に、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムを、上述の式(B2)で表されるテトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィドに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として、ジエチルキサントゲンジスルフィド由来の末端官能基(キサントゲン末端種A2)の含有量は0.14質量%であり、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド由来の末端官能基(ジチオカルバミン酸末端種B2)の含有量は0.32質量%であった。
【0099】
(比較例1)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を1質量部から3質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を4質量部から12質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0100】
(比較例2)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を1質量部から0.3質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を4質量部から0.6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0101】
(比較例3)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を1質量部から0.5質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を4質量部から12質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0102】
(比較例4)
可塑化剤であるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの添加量を1質量部から3質量部に変更し、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を4質量部から0.3質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。
【0103】
(比較例5)
可塑化剤として、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド及びジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムを、下記式で表されるテトラエチルチウラムジスルフィドに変更し、その添加量を2.5質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法にて生ゴムを得た。硫黄変性クロロプレンゴムの全量を基準として、テトラエチルチウラムジスルフィド由来の末端官能基の含有量は0.26質量%であった。
【0104】
【0105】
<ムーニー粘度の測定>
実施例1~14及び比較例1~5の生ゴムについて、JIS K 6300-1に準拠して、L型ロータの予熱時間1分、回転時間4分、試験温度100℃にてムーニー粘度(ML1+4)の測定を行った。比較例1の生ゴムのムーニー粘度は低すぎて測定不能であった。
【0106】
<評価>
(サンプルの作製)
実施例1~14及び比較例1~5の生ゴム100質量部に、ステアリン酸1.0質量部、オクチル化ジフェニルアミン2.0質量部、酸化マグネシウム4.0質量部、カーボンブラック(GPF)40質量部、及び、酸化亜鉛5.0質量部を、8インチロールを用いて混合した後、160℃で20分間プレス架橋して評価用のサンプル(加硫物)を作製した。比較例1では、生ゴムのムーニー粘度が低すぎることからサンプルを作製できなかったため各評価を行わなかった。
【0107】
(耐スコーチ性)
上述の各サンプルについて、JIS K 6300-1に準拠してムーニースコーチ試験を実施した。
【0108】
(圧縮永久歪み)
上述の各サンプルについて、JIS K 6262に準拠し、100℃、72時間の試験条件で圧縮永久歪みを測定した。
【0109】
(発熱性)
発熱性の評価は、グッドリッチフレクソメーター(Goodrich Flexometer:JIS K 6265)により行った。グッドリッチフレクソメーターは、加硫ゴム等の試験片に動的繰り返し負荷を加えて、試験片内部の発熱による疲労特性を評価する試験方法であって、詳しくは、一定の温度条件で試験片に静的初期荷重を加え、さらに、一定振幅の正弦振動を加え、時間の経過と共に変化する試験片の発熱温度又はクリープ量を測定するものである。JIS K 6265に準拠し、50℃、歪み0.175インチ、荷重55ポンド、振動数毎分1800回の条件で発熱量(ΔT)を測定した。
【0110】
<結果>
実施例の結果を下記表1及び表2に示し、比較例の結果を下記表3に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
表1~3に示す通り、実施例1~14の硫黄変性クロロプレンゴムを用いて得られる加硫物は、耐スコーチ性に優れ、かつ、圧縮永久歪み及び発熱性が低減されることが確認できた。アルキルキサントゲンジスルフィド及びジチオカルバミン酸系化合物を用いていても、硫黄変性クロロプレンゴム中の末端官能基の含有量の合計(A+B)が1.00質量%を超える比較例1については、ムーニー粘度が低すぎて、評価サンプル(加硫物)を作製することができなかった。