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特許7367007リチウム金属固体電池用のナノ合金界面層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】リチウム金属固体電池用のナノ合金界面層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20231016BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021515640
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019052379
(87)【国際公開番号】W WO2020068635
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】16/141,609
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルドゥーン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】仁井谷 啓太
(72)【発明者】
【氏名】ボニック,パトリック・ジェイ
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-084512(JP,A)
【文献】特開2018-129159(JP,A)
【文献】特開2018-026199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体リチウム電池用の電極であって、
集電体と、
前記集電体上の電極活性層と、を含み、
前記電極活性層は、リチウム金属又はリチウム金属合金からなり、前記リチウム金属又は前記リチウム金属合金は、元素Mを、第2族元素と、第8族元素~第16族元素と、から選択される少なくとも1つの元素としたときに、前記元素Mからなるナノ粒子を含む又は前記元素Mのリチウム合金からなるナノ粒子を含む均一なナノ合金粒子組成物からなる表面層を有し
前記均一なナノ合金粒子組成物からなる前記表面層の厚さは、1nm~100nmである、固体リチウム電池用の電極。
【請求項2】
前記元素Mは、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Ga、Ge、In、Mg、N、Pb、Pd、Pt、Rh、Ru、S、Sb、Se、Si、Sn、Sr、Te、Tl、及びZn、からなる群から選択される元素である、請求項1に記載の、固体リチウム電池用の電極。
【請求項3】
固体リチウム電池であって、
請求項1に記載の、固体リチウム電池用の少なくとも1つの電極と、
前記均一なナノ合金粒子組成物からなる前記表面層に対して直接的に接触した固体電解質と、を含む、固体リチウム電池。
【請求項4】
固体リチウム電池であって、
リチウム金属又はリチウム金属合金からなるアノードと、
固体電解質と、
カソードと、を含み、
元素Mを、リチウムと合金化可能な元素であるとともに、第2族元素と、第8族元素~第16族元素と、から選択される元素としたときに、前記アノード前記固体電解質との間には、前記元素Mからなるナノ粒子を含む又は前記元素Mのリチウム合金からなるナノ粒子を含む均一なナノ合金粒子組成物からなる界面領域が配置され、前記均一な前記ナノ合金粒子組成物は前記固体電解質に直接接している、固体リチウム電池。
【請求項5】
前記元素Mは、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Ga、Ge、In、Mg、N、Pb、Pd、Pt、Rh、Ru、S、Sb、Se、Si、Sn、Sr、Te、Tl、及びZn、からなる群から選択される元素である、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項6】
前記界面領域の厚さは、1nm~100nmである、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項7】
前記固体電解質は、式(I)のチオリン酸リチウム複合体、LiPS、Li11、Li11、及びLi10GeP11、からなる群から選択されるチオリン酸リチウムであり、
前記式(I)は、
xLiS・yP・(100-x-y)B (I)
であり、
ここで、Bは、LiN、P、LiO、LiN、GeS、又は、XをI、Cl、又はBrとした場合のLiX、を含む材料からなる群から選択される複合材料であり、x及びyのそれぞれは、LiS、P、及びBの合計質量%が100%であるように、33.3質量%~50質量%の値を表す、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項8】
前記チオリン酸リチウムは、LiI、LiBr、LiCl、LiN、LiPON、LiP、LiO、LiBO、及びLiBH、からなる群から選択されるリチウム塩を含む、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項9】
前記カソードは、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、からなる群から選択されるリチウム金属酸化物を含む、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項10】
前記カソードは、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、からなる群から選択されるリチウム金属酸化物を含む、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項11】
前記カソードは、元素硫黄、セレン、テルル、又は、これらのうちの2つ以上からなる混合物、を含む、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項12】
前記カソードは、元素硫黄、セレン、テルル、又は、これらのうちの2つ以上からなる混合物、を含む、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項13】
前記アノードは、リチウム金属であり、
前記固体電解質は、式(I)の材料であり、
前記式(I)は、
xLiS・yP・(100-x-y)B (I)
であり、
ここで、Bは、LiN、P、LiO、LiN、GeS、又は、XをI、Cl、又はBrとした場合のLiX、を含む材料からなる群から選択される複合材料であり、x及びyのそれぞれは、LiS、P、及びBの合計質量%が100%であるように、33.3質量%~50質量%の値を表す、請求項に記載の固体リチウム電池。
【請求項14】
前記カソードは、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、からなる群から選択されるリチウム金属酸化物を含む、請求項13に記載の固体リチウム電池。
【請求項15】
前記カソードは、元素硫黄、セレン、テルル、又は、これらのうちの2つ以上からなる混合物、を含む、請求項13に記載の固体リチウム電池。
【請求項16】
前記元素Mは、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Ga、Ge、In、Mg、N、Pb、Pd、Pt、Rh、Ru、S、Sb、Se、Si、Sn、Sr、Te、Tl、及びZn、からなる群から選択される元素である、請求項13に記載の固体リチウム電池。
【請求項17】
前記界面領域の厚さは、1nm~100nmである、請求項13に記載の固体リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム金属又はリチウム合金からなるアノードと、固体電解質と、を有し、アノードと電解質との間にリチウムナノ合金界面領域が位置している、固体リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
至る所に存在するLiイオン電池は、とりわけ携帯電話及びノートパソコンなどの携帯型電子機器の革命を可能とし、社会に不可欠な存在となった。次のエポックは、輸送用及び蓄電用に電池が組み込まれることであり、電池への社会的依存度がさらに高まっていくこととなろう。従来技術によるLiイオン電池は、六フッ化リン酸リチウム塩を炭酸塩系の有機溶媒に溶解させた液体電解質を利用している。最近では、無機固体電解質が、可燃性で環境問題を提起する液体電解質の優れた代替品であることがより明らかとなっている。
【0003】
可燃性の有機液体電解質を、固体Liイオン導電相によって置き換えることにより、この安全性の問題が緩和されることとなり、機械的安定性及び熱的安定性が向上するなどの追加的な利点を提供することができる。通常は固体Liイオン伝導体又は固体電解質と称される固体Liイオン伝導相の主要な機能は、電池内の電極どうしの間における電子の直接的な輸送を遮断しながら、放電時にはアノード側からカソード側へと、また、充電時にはカソード側からアノード側へと、Liイオンを伝導することである。
【0004】
その上、非水性電解質を使用して構成されたリチウム電池では、充放電サイクルを繰り返すうちに、アノードからカソードに向けて突出するデンドライト状リチウム金属構造が形成されることが知られている。このようなデンドライト構造がカソードにまで突出して短絡を起こした場合、電池のエネルギーが急速に放出され、非水性電解質の有機溶媒の点火を引き起こし得る。
【0005】
したがって、全固体リチウム電池につながる新たな固体Liイオン伝導性材料の発見に多くの関心及び努力が集中している。過去数十年間の研究は、主に、LISICON(Li14ZnGe16)、NASICON(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)、ペロブスカイト(例えば、La0.5Li0.5TiO)、ガーネット(LiLaZr12)、LiPON(例えば、Li2.88PO3.730.14)、及び、例えばLiPSやLi11やLGPS(Li10GeP12)のような硫化物、などのイオン伝導性酸化物に焦点を当ててきた。
【0006】
リチウム金属負電極を使用した電池は、リチウム金属が、3,860mAh/gという極めて大きな比容量と、標準水素電極と比較して-3.04Vという低い還元電位と、を有していることのために、電池の研究開発において最大の関心事となり得る。しかしながら、このような低い還元電位のため、ほとんどの材料は、リチウム金属に対して曝された時には、還元される。例えば、空気(すなわち、HO、CO、N、及びO)に対して曝されると、リチウム金属は、表面上における、LiCO、LiN、LiOH、及びLiO、などのリチウム塩の層によって、即座に損なわれる。液体電解質(例えば、炭酸塩)に対して曝されたリチウム金属は、有機種と無機種との混合物を含む層を形成する。固体電解質でも、あまり状況が良くならず、ほとんどがリチウムと反応して、リチウムと、その固体電解質を構成する他の元素と、からなる塩を形成する。
【0007】
例えば、リチウムと接触したチオリン酸リチウム固体電解質は、LiS及びLiPへと分解する[R Garcia-Mendez,F Mizuno,R Zhang,TS Arthur,J Sakamoto,Electrochimica Acta,vol 237,pg. 144-151(2017)]。Li金属と接触した時には、チオリン酸リチウム中のリンは、以下のように還元される(J.Mater.Chem.A,2016,4,3253-3266)。
LiPS+5Li→P+4Li
P+3Li→Li
【0008】
同様に、Li10GeP12も、また、リチウム金属と接触した時には、以下のようにして劣化することが報告されている(J.Mater.Chem.A,2016,4,3253-3266)。
Li10GeP12+10Li→2P+8LiS+LiGeS
P+3Li→Li
4LiGeS+31Li→16LiS+Li15Ge
Li10GeP12では、Ge4+とP5+との両方が、示されているようにして、還元される。
【0009】
別の例では、二次カチオンLa3+及びZr4+を含むLiLaZr12は、リチウム金属と接触した時には、以下の化学式に従って、化学分解を受ける(J.Mater.Chem,A,2016,4,3253-3266)。
6LiLaZr12+40Li→4ZrO+41LiO+9La
ZrO+2Li→LiO+3Zr
La+6Li→2La+3Li
【0010】
例示されているように、固体Liイオン伝導体は、Li金属アノードに対して直接的に接触した時には、安定性の問題を有している。これらの場合のそれぞれにおいて、分解生成物の不均一性が、及び多くの場合、そのような生成物の多くの高抵抗性が、リチウム堆積時におけるリチウム電極表面上にわたっての不均一な電流分布をもたらし、このため、不均一な挿入及びデンドライト形成をもたらす。
【0011】
研究されている固体電解質系のうち、チオリン酸リチウムは、より良好なイオン伝導性及び展性を呈する傾向がある。効果的なLi伝導性結晶格子の構造特性は、既知のLiイオン伝導体であるLi10GeP12及びLi11に関して、Cederらによって記述されており(Nature Materials,14,2015,1026-1031)、そこでは、両方の材料の硫黄副格子が、六角格子構造と非常に密接に一致することが示された。さらに、隣接した四面体配位Li格子サイトを横断したLiイオンホッピングが、最も低い活性化エネルギーの経路を提供することが示された。チオリン酸リチウム固体電解質の最も注目すべき例は、LiPS、Li11、及びLi10GeP11、を含む。熱的に安定な固体電解質は、熱管理を簡素化することによりまたバイポーラ積層を可能とすることにより、電池パック設計のパラダイムシフトを可能とし、これにより、液体電解質を含むLiイオン電池で可能であるものを超えて、エネルギー密度を劇的に向上させることができる。
【0012】
よって、リチウム金属電極による還元から固体電解質を安定化させるとともにリチウム金属アノードの比容量をフルに利用した電池開発を可能とする保護手段を見出すことが要望されている。具体的には、リチウム金属電極による還元からチオリン酸リチウム固体電解質を安定化させる保護手段を見出すことが要望されている。
【0013】
したがって、本出願の目的は、リチウム金属電極上において、隣接した固体電解質を還元分解から保護する保護構造を提供することである。
【0014】
別の目的は、そのような構造を準備するための方法を提供することである。
【0015】
別の目的は、リチウム金属アノードと固体電解質とを含む全固体リチウム電池を提供することである。
【0016】
別の目的は、リチウム金属アノードとチオリン酸リチウム固体電解質とを含む全固体リチウム電池を提供することである。
【発明の概要】
【0017】
これらの目的及び他の目的は、本開示の実施形態によって提供され、その第1実施形態は、固体リチウム電池用の電極であって、
集電体と、
集電体上の電極活性層と、を含み、
電極活性層は、リチウム金属又はリチウム金属合金を含み、リチウム金属又はリチウム金属合金は、元素Mを、第2族元素と、第8族元素~第16族元素と、から選択される少なくとも1つの元素としたときに、元素Mからなるナノ粒子を含む又は元素Mのリチウム合金からなるナノ粒子を含む均一なナノ合金粒子組成物からなる表面層を有している、固体リチウム電池用の電極を含む。
【0018】
第1実施形態の一態様では、ナノ粒子組成物からなる表面層の厚さは、1nm~100nmである。
【0019】
第2実施形態では、本開示は、固体リチウム電池であって、第1実施形態による及びそのすべての態様による、固体リチウム電池用の少なくとも1つの電極と、均一なナノ合金粒子組成物からなる表面層に対して直接的に接触した固体電解質と、を含む、固体リチウム電池を含む。
【0020】
第3実施形態では、本開示は、固体リチウム電池であって、リチウム金属又はリチウム合金金属からなるアノードと、固体電解質と、カソードと、を含み、合金成分Mを、リチウムと合金化可能な元素であるとともに、第2族元素と、第8族元素~第16族元素と、から選択される元素としたときに、アノード金属と固体電解質との間には、LiM合金ナノ粒子とM元素ナノ粒子とのうちの少なくとも一方からなる界面領域が、均一に配置されている、固体リチウム電池を含む。
【0021】
第3実施形態の一態様では、界面領域の厚さは、1nm~100nmである。
【0022】
第3実施形態の別の態様では、固体電解質は、式(I)のチオリン酸リチウム複合体、LiPS、Li11、Li11、及びLi10GeP11、からなる群から選択されるチオリン酸リチウムであり、式(I)は、
xLiS・yP・(100-x-y)B (I)
であり、ここで、Bは、LiN、P、LiO、LiN、GeS、又は、XをI、Cl、又はBrとした場合のLiX、を含む材料からなる群から選択される複合材料であり、x及びyのそれぞれは、LiS、P、及びBの合計質量%が100%であるように、33.3質量%~50質量%の値を表す。
【0023】
上記の態様のさらなる選択肢では、チオリン酸リチウムは、LiI、LiBr、LiCl、LiN、LiP、LiO、LiBO、及びLiBH、からなる群から選択されるリチウム塩を含む。
【0024】
第3実施形態の別の態様では、カソードは、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、からなる群から選択されるリチウム金属酸化物を含む。
【0025】
第3実施形態の別の態様では、カソードは、元素硫黄、セレン、テルル、又は、これらのうちの2つ以上からなる混合物、を含む。
【0026】
上記の段落は、一般的な導入として提供されており、以下の特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。説明する実施形態は、さらなる利点とともに、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することにより、最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本開示の一実施形態によるナノ合金界面層の形成と、固体リチウム電池内への界面層の組込と、を示す概略図である。
図2図2は、リチウム箔をInI溶液に対して接触させることによって得られたナノ合金界面層に関するXPS分析を示す。
図3図3は、リチウム箔をSn(TFSI)溶液に対して接触させることによって得られたナノ合金界面層に関するXPS分析を示す。
図4図4は、リチウム金属上におけるナノ合金界面層を試験するための、対称的なセル設計及び組立を示す。
図5図5は、25℃かつ0.1mA/cmで、1時間を半サイクルとした複数のサイクルでの、Li/LiPS/Liセルに関するサイクル性能を示す。
図6図6は、25℃かつ0.1mA/cmで、1時間を半サイクルとした複数のサイクルでの、Li(InI)/LiPS/(InI)Liセルに関するサイクル性能を示す。
図7図7は、25℃かつ0.1mA/cmで、40時間を半サイクルとした複数のサイクルでの、Li/LiPS/Liセルに関するサイクル性能を示す。
図8図8は、25℃かつ0.1mA/cmで、40時間を半サイクルとした複数のサイクルでの、Li(InI)/LiPS/(InI)Liセルに関するサイクル性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書を通して、「電気化学セル」及び「電池」という用語は、本明細書の文脈が電気化学セルと電池とを明確に区別しない限り、互換的に使用することができる。さらに、「固体電解質」及び「固体イオン伝導体」という用語は、異なることが明示的に指定されていない限り、互換的に使用することができる。
【0029】
数値と関連付けられた場合の「約」という用語は、基準値の-10%から基準値の+10%までの範囲を表す。
【0030】
本明細書において使用された際には、「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び同種の用語は、「1つ又は複数の」という意味を有している。「~からなる群から選択される」、「~から選択される」、及び同種の語句は、指定された材料どうしの混合物を含む。「含む」及び同種の用語は、別段の具体的な注記がない限り、「少なくとも含む」という意味のオープンな用語である。本明細書において言及したすべての参考文献、特許、出願、試験、規格、文書、刊行物、パンフレット、教本、論文、等は、参照により本明細書に援用される。数値限定又は数値範囲が記載されている場合には、端点が含まれる。また、数値限定又は数値範囲の内部に属するすべての数値及び部分範囲は、明示的に書き出されているかのようにして、具体的に含まれる。
【0031】
上述したようにリチウム金属に対して接触した際の電解質の還元分解を考慮して、本発明者らは、リチウム金属と固体電解質との間に均一なナノ合金界面領域を導入することにより、驚くべきことに、固体電解質の分解が抑制されること、そして、リチウム金属の脱離及び挿入が促進されるとともに、デンドライト状の成長が阻害されること、を見出した。したがって、リチウム金属アノードのサイクル寿命が向上する。
【0032】
性能の驚くべき向上は、実施例4及び図5図8に示されており、そこでは、本開示の実施形態によるナノ合金界面層を含む電池に関する長期サイクル性能が、「裸の」リチウム電極を含む電池よりも、著しく安定であることが示された。
【0033】
リチウム金属上のナノ合金界面層は、リチウム金属を正負両方の電極として使用した場合に、主に、定電流サイクルで対称型リチウムセルによって試験された。図4は、対称型セルの設計及び組立に関する概略図を示している。まず、固体電解質の粉末を、プレスしてペレットにした。次に、ピストンを取り外して、リチウムディスクを、そのペレットの両側において、セル内へと入れた。ピストンを交換し、それらに対して、軽い圧力を印加した。新鮮なセルに関して、低速度(10μA/cm)での調整サイクルを実施し、ナノ合金が、サイクルの前に、完全にリチウム化されたことを確認した。
【0034】
一般に、電極サイクル時の安定的な過電位は、リチウム金属と固体電解質との間の安定的な界面層の指標であることにより、望ましい。チオリン酸リチウム固体電解質がリチウムに対して直接的に接触した時には、LiP、LiS、及び、おそらく他のリチウム塩(使用されるチオリン酸リチウムのブレンドに応じて、例えば、ハロゲン化リチウム、硝酸リチウム、等)が形成され、これらが、セルの抵抗を増加させることができ、それに対応して、挿入及び脱離時に過電位を増加させ得る。[Garcia-Mendezら、DOI:10.1016/j.electacta.2017.03.200]加えて、リチウム金属は、固体電解質を通して成長することができ、これは、セルの抵抗を低下させる。リチウムの成長が両電極を接続してセルを短絡させると、セル抵抗は、最終的にはゼロに到達する。図5図8は、天然の界面層のサイクル挙動(図5及び図7)と、リチウム金属を溶液に浸漬することにより、チオリン酸リチウムとリチウム金属の間に、通常は形成されないであろう界面層を意図的に形成したナノ合金界面層のサイクル挙動(図6及び図8)と、を比較している。
【0035】
図5に示すように、未処理のリチウム金属電極(ナノ合金界面層が存在しない)を含むセルでは、脱離電位及び挿入電位は、25℃かつ0.1mA/cmで、1時間を半サイクルとした複数のサイクルを通して、徐々に低下し、このことは、リチウムがゆっくりと固体電解質を浸透し、セルの抵抗を低下させることを示している。これは、分解生成物の不均一性の結果と考えられ、多くの場合、そのような生成物の多くが高抵抗であることにより、リチウム堆積時にリチウム電極表面にわたっての不均一な電流分布をもたらし、これが不均一な挿入及びデンドライト形成をもたらすことの結果であると考えられる。
【0036】
比較すると、図6に示すように、ナノ合金界面層によって保護されたリチウム金属を含むセルでは、同一条件下での長期サイクルにおいて、平均脱離電位及び平均挿入電位は、複数のサイクルを通して一定のままであり、このことは、ナノ合金界面層が、安定していること、及び、リチウム金属との反応から固体電解質を保護していること、を示している。
【0037】
図7は、チオリン酸リチウム固体電解質と、試験前に未処理のリチウム金属電極(ナノ合金界面層によって保護されていない)と、を使用したLi-Li対称型セルのサイクルを示している。脱離過電位及び挿入過電位は、25℃かつ0.1mA/cmで、40時間を半サイクルとした複数のサイクルを通して安定しておらず、文献[Garcia-Mendezら、DOI:10.1016/j.electacta.2017.03.200]からの報告に類似した短絡が発生している。
【0038】
図7と比較して、図8は、チオリン酸リチウム固体電解質を使用したLi-Li対称型セルのサイクルを示す。リチウム金属電極は、試験前に、ジメチルエーテル溶媒中のヨウ化インジウムによって処理された。脱離電位及び挿入電位は、サイクルを通してより安定しており、安定的なナノ合金界面層を示唆している。
【0039】
よって、本開示は、固体リチウム電池用の電極であって、集電体と、この集電体上の電極活性層と、を含み、ここで、元素Mを、第2族元素と、第8族元素~第16族元素と、から選択される少なくとも1つの元素としたときに、電極活性層は、元素Mからなるナノ粒子あるいは元素Mのリチウム金属合金からなるナノ粒子を含有したナノ合金粒子組成物表面層を有したリチウム金属又はリチウム金属合金を含む、固体リチウム電池用の電極を提供する。
【0040】
ナノ合金表面層は、リチウム金属電極表面を、金属Mの塩の非水性溶液に対して曝すことにより、形成することができる。リチウム電極は、非水性のM溶液内に浸漬することができる、あるいは、噴霧によって、又は、インクジェット適用などの方法によって、リチウム電極の表面に対して適用することができる。ナノ合金界面層は、リチウムによって塩の金属が還元される際に生成され、リチウム表面上においてナノ粒子の形態で堆積する。金属Mは、リチウム金属と容易に合金化する元素であり、第2族と、第8族~第16族と、のうちの任意の元素とすることができ、例えば、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Ga、Ge、In、Mg、N、Pb、Pd、Pt、Rh、Ru、S、Sb、Se、Si、Sn、Sr、Te、Tl、Znなどが挙げられるが、これらに限定されない。塩Xは、任意のアニオンとすることができ、例えば、ヨウ化物、臭化物、塩化物、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、ヘキサフルオロリン酸塩(PF )、硝酸塩(NO )、ビス(トリメチルシリル)アミド(HMDS)、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
非水性溶液中のMX塩の濃度は、0.1mmol/L~50mmol/Lとすることができ、リチウム金属又は合金に対して塩溶液を曝露する時間は、1秒間~600秒間とすることができる。一般に、溶液の温度は、20℃~30℃とすることができる。得られるナノ合金粒子層の厚さは、溶液中のMX塩の濃度と、表面露光の時間及び温度と、によって決定される。ナノ合金層の厚さは、特に限定されないが、一般的には1nm~100nm、好ましくは5nm~50nm、最も好ましくは10nm~25nm、の範囲とすることができる。
【0042】
これに代えて、ナノ合金界面層は、リチウム金属上へと任意の1つ又は複数のリチウム合金元素を堆積(スパッタリング又はALDなど)させることにより、化学的又は物理的気相成長(CVD又はPVD)によって形成することができる。
【0043】
ナノ合金表面層は、組成が均一であり、このことは、ナノ合金粒子がリチウム金属表面上にわたって均一にかつ均等に分散していることを意味する。よって、ナノ合金表面層は、ナノ粒子の組成及び濃度に関して均一である。
【0044】
第2実施形態では、本開示は、固体リチウム電池であって、第1実施形態による、固体リチウム電池用の少なくとも1つの電極と、均一なナノ合金粒子組成物表面層に対して直接的に接触した固体電解質と、を含む、固体リチウム電池を提供する。
【0045】
第3実施形態では、本開示は、固体リチウム電池であって、リチウム金属又はリチウム合金金属からなるアノードと、固体電解質と、カソードと、を含み、ここで、合金成分Mを、リチウムと合金化可能な元素であり、第2族元素と、第8族元素~第16族元素と、から選択される元素としたときに、アノード金属と固体電解質との間には、LiM合金ナノ粒子とM元素ナノ粒子とのうちの少なくとも一方からなる界面領域が、均一に配置されている、固体リチウム電池を提供する。
【0046】
金属Mは、リチウム金属と容易に合金化する元素であり、第2族と、第8族~第16族と、のうちの任意の元素とすることができ、例えば、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Ga、Ge、In、Mg、N、Pb、Pd、Pt、Rh、Ru、S、Sb、Se、Si、Sn、Sr、Te、Tl、Zn、などが挙げられるが、これらに限定されない。界面領域の厚さは、特に限定されないが、一般的には1nm~100nm、好ましくは5nm~50nm、最も好ましくは10nm~25nm、の範囲とすることができる。
【0047】
販売される電解質は、当該技術分野で知られている任意の組成物とすることができ、上述した任意のものとすることができる。第3実施形態の好ましい態様では、電解質は、式(I)のチオリン酸リチウム組成物とすることができる。
xLiS・yP・(100-x-y)B
ここで、Bは、LiN、P、LiO、LiN、GeS、又は、XをI、Cl、又はBrとした場合のLiX、を含む材料からなる群から選択される複合材料であり、x及びyのそれぞれは、LiS、P、及びBの合計質量%が100%であるように、33.3質量%~50質量%の値を表す。また、関心のあるチオリン酸リチウム化合物としては、LiPS、Li11、及びLi10GeP11が挙げられる。このような複合材料の合成は、2018年7月24日付けで出願された米国特許出願第16/043,944号明細書に記載されており、その開示は、参照により本明細書に援用される。
【0048】
加えて、チオリン酸リチウムは、LiI、LiBr、LiCl、LiN、LiP、LiPON、LiO、LiBO、又はLiBH、などのリチウム塩でドープすることができる。
【0049】
カソードは、リチウムイオン電池に従来から採用されている任意のものとすることができ、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、及び、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、などの複合リチウム金属酸化物を含むが、これらに限定されない。また、他のカソード活物質は、元素硫黄、セレンやテルルなどの他のカルコゲナイド、及び金属硫化物複合材料、を含むことができる。カソードは、当該技術分野において慣用的に知られている方法に従って構成することができ、導電性カーボンとバインダとを含むことができる。また、カソードは、銅、アルミニウム、及びステンレス鋼、などの集電体を含むことができる。
【0050】
一態様では、カソード活物質は、遷移金属とすることができ、好ましくは、銀又は銅とすることができる。そのような遷移金属に基づくカソードは、集電体を含まない場合がある。
【実施例
【0051】
実施例1:リチウム金属を、ジメチルエーテル(DME)中の50mmol/Lのヨウ化インジウムの溶液内に、600秒間にわたって、浸漬した。図2に示すように、X線光電子分光法(XPS)分析により、451.6eV及び444.1eVに非対称ピークが存在することに基づいて、リチウム金属表面上に元素(金属)インジウムが存在することが実証された。
【0052】
実施例2:リチウム金属を、1,3ジオキソラン中の50mmol/Lのヨウ化インジウムの溶液内に、600秒間にわたって、浸漬した。XPS分析は、図2と同様であった。
【0053】
実施例3:リチウム金属を、ジメチルスルホキシド中の50mmol/Lのスズビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)内に、600秒間にわたって、浸漬した。図3に示すように、スズ塩との接触後におけるリチウム金属の表面のXPS分析は、約493.6eV及び484.8eVに位置するピークに基づいて、元素スズの存在を明らかにする。
【0054】
実施例4:対称型リチウム/固体電解質/リチウムセルを、熱を加えて又は熱を加えずに、固体電解質ペレットの両側にリチウムをプレスすることによって、作製した。典型的な手順は、以下の2つの工程、すなわち、(1)固体電解質の粉末をプレスしてペレットにすること、(2)固体電解質の両面に対してアノード材料を広げる又は適用し、積層体をもう一度プレスすること、を含むこととなる。この方法は、図4に概略的に示されている。まず、300mgのチオリン酸リチウムを、10トンの圧力を使用して、直径が1.128cmのペレットへと、冷間でプレスした。リチウム金属ディスクを、固体電解質ペレットの両面上へと静かにプレスすることにより、対称型セルを完成させた。
【0055】
図5は、チオリン酸リチウム固体電解質を使用したLi-Li対称型セルに関しての、25℃かつ0.1mA/cmで、1時間を半サイクルとした複数のサイクルでの長期サイクルを示している。リチウム金属電極は、試験前に未処理(すなわち、裸のリチウム金属)であった。脱離電位及び挿入電位は、サイクルを通して徐々に減少し、このことは、リチウムが固体電解質へとゆっくりと浸透し、セルの抵抗を低下させることを示している。
【0056】
図6は、チオリン酸リチウム固体電解質を使用したLi-Li対称型セルに関しての、25℃かつ0.1mA/cmで、1時間を半サイクルとした複数のサイクルでの長期サイクルを示している。リチウム金属電極は、試験に先立って、1,2ジメトキシエタン溶媒中のヨウ化インジウムによって処理した(すなわち、ナノ合金界面層によってリチウム金属を保護した)。平均脱離電位及び平均挿入電位は、サイクルを通して一定のままであり、このことは、ナノ合金界面層が安定していること、及び、リチウム金属と反応しないように固体電解質が保護されていること、を示している。
【0057】
図7は、チオリン酸リチウム固体電解質を使用したLi-Li対称型セルに関しての、25℃かつ0.1mA/cmで、40時間を半サイクルとした複数のサイクルでの長期サイクルを示している。リチウム金属電極は、試験前に、ナノ合金界面層によって保護されていなかった。脱離過電位及び挿入過電位は、サイクルを通して安定しておらず、文献[Garcia-Mendezら、DOI:10.1016/j.electacta.2017.03.200]からの報告と同様に短絡が発生した。
【0058】
図8は、チオリン酸リチウム固体電解質を使用したLi-Li対称型セルに関しての、25℃かつ0.1mA/cmで、40時間を半サイクルとした複数のサイクルでの長期サイクルを示している。リチウム金属電極は、試験に先立って、ジメチルエーテル溶媒中のヨウ化インジウムによって処理した。脱離電位及び挿入電位は、サイクルを通してより安定であり、安定的なナノ合金界面層を示唆している。
【0059】
実施例5:硫黄/固体電解質/リチウムセルを、以下のようにして作製した。まず、300mgのチオリン酸リチウムを、10トンの圧力を使用して、直径が1.128cmのペレットへと、冷間でプレスした。次に、硫黄、炭素、及びチオリン酸リチウムの混合物300mgを、固体電解質ペレットの上に広げ、6トンの圧力で積層体を再度プレスした。さらに、リチウム箔を固体電解質の反対側の面上に配置し、次いで、集電体として機能する銅箔を配置し、積層体を4トンの圧力でプレスした。
【0060】
上記の説明は、当業者が本発明を実施して使用し得るように提示したものであり、特定の用途及びその必要条件に照らして提供したものである。好ましい実施形態に対する様々な改変は、当業者には容易に自明であろうし、また、本明細書において規定した一般的な原理は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、他の実施形態に対して及び他の用途に対して適用することができる。よって、本発明は、示された実施形態に限定されることを意図したものではなく、本明細書において開示した原理及び特徴点と整合する最も広い範囲と調和するものである。この点に関して、本発明の範囲内にある特定の実施形態は、広範に考慮される本発明のあらゆる利益を示す、というわけではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8