(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】負極活物質材料及びそれを用いた負極シート、電気化学デバイス及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20231016BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231016BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231016BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20231016BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
B32B9/00 A
B32B9/04
(21)【出願番号】P 2021518001
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 CN2019123348
(87)【国際公開番号】W WO2020140685
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】201910002194.1
(32)【優先日】2019-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姜 道義
(72)【発明者】
【氏名】崔 航
(72)【発明者】
【氏名】謝 遠森
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-010645(JP,A)
【文献】特開2016-225199(JP,A)
【文献】特開2017-152358(JP,A)
【文献】特開2016-143490(JP,A)
【文献】特開2012-195198(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108461723(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/38
B32B 9/00
B32B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチオ化SiO
x材と、
Mがアルミニウム、ホウ素及びリンからなる群から選択される1種又は複数種であるSi-O-M結合を主とする網目状の密着被覆層と、を含
み、
前記Mの含有量は、前記被覆層の0.05wt%~1.0wt%である
負極活物質材料。
【請求項2】
前記リチオ化SiO
x材は、Li
2SiO
3、Li
6Si
2O
7、Li
2Si
2O
5及びLi
4SiO
4からなる群から選択される1種又は複数種を含有する
請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項3】
前記被覆層は、リチオ化SiO
x材が加水分解して表面に形成されるSi-OHと、Mを含有する変性剤が加水分解して形成されるM-OH基とが、脱水縮合して形成されるものであり、
前記Mを含有する変性剤がリン、アルミニウム及びホウ素からなる群から選択される1種又は複数種を含有する化合物である
請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項4】
前記Mを含有する変性剤がリンを含有する化合物であり、リン酸、トリポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム及びトリポリリン酸カリウムからなる群から選択される1種又は複数種である
請求項3に記載の負極活物質材料。
【請求項5】
前記Mを含有する変性剤がアルミニウムを含有する化合物であり、メタアルミン酸ナトリウム、メタメタアルミン酸カリウム、三塩化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される1種又は複数種である
請求項3に記載の負極活物質材料。
【請求項6】
前記Mを含有する変性剤がホウ素を含有する化合物であり、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウムまたはその水和物、四ホウ酸カリウムまたはその水和物、メタホウ酸ナトリウムまたはその水和物、及びメタホウ酸カリウムまたはその水和物からなる群から選択される1種又は複数種である
請求項3に記載の負極活物質材料。
【請求項7】
前記Mを含有する変性剤がリン、アルミニウム及びホウ素の任意の組み合わせを含有する化合物であり、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム及び水素化ホウ素アルミニウムからなる群から選択される1種又は複数種である
請求項3に記載の負極活物質材料。
【請求項8】
2θ値が21.7±1°であるX線回折ピークを有し、
前記X線がCuターゲットX線源を採用するX線である
請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項9】
前記リチオ化SiO
x材は、10nm未満の結晶粒径を有するシリコンナノ結晶粒子を含有する
請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項10】
基材と、請求項1~
9のいずれか一項に記載の負極活物質材料とを含む
負極シート。
【請求項11】
正極シートと、請求項
10に記載の負極シートとを含む
電気化学デバイス。
【請求項12】
請求項
11に記載の電気化学デバイスを含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願へのクロスリファレンス)
本出願は、2019年1月2日に提出された中国特許出願第201910002194.1号の利益を主張し、該出願全体が参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、負極活物質材料及びそれを用いた負極シート、電気化学デバイス及び電子機器、特にリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
カメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の電子機器の普及に伴い、電気化学デバイス(例えば、リチウムイオン電池)に求められる性能は、高くなっている。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、サイクル寿命が長く、メモリー効果がないなどの利点を有し、さまざまな分野で広く使用されている。SiOx材は、大容量、低体積膨張、良好なサイクル安定性などの利点を有することから、現時点で次世代リチウムイオン電池の負極活物質材料となる可能性が最も高い。しかし、一般的に75%未満であるその初回クーロン効率は、現在、その実用化が制限されている重要な理由となる。この技術的課題を解決するために、SiOx材に対して予備リチオ化処理を行うことで、その初回クーロン効率を90%以上に高めることが提案された。ただし、予備リチオ化されたSiOx材は、通常のSiOx材よりも耐水安定性に劣る。したがって、水を溶媒として使用して、予備リチオ化されたSiOx材スラリーを調製して負極シートを製造する際に、プロセス同士が合わない問題がある。スラリーを調製して負極シートに製造されるとき、通常、高速攪拌および高粘度の混練操作が使用され、これによって、予備リチオ化されたSiOx材は全体構造が著しく損なわれ、その中の反応活性の高いシリカナノ粒子が露出して水と接触しやすくなり、水素ガスが発生し、材料の容量とサイクル安定性が大幅に低下する。また、リチオ化SiOx材スラリーの調製時に水素やゲル化が発生しやすく、スラリーの保存安定性や安全性に悪影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のことから、従来の水性加工に適するように耐水安定性が高い予備リチオ化されたSiOx負極活物質材料及びそれを用いた負極シート、電気化学デバイス及び電子機器を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施例は、従来の水性加工に適するように耐水安定性が高い予備リチオ化されたSiOx負極活物質材料及びそれを用いた負極シート、電気化学デバイス及び電子機器を提供することにより、少なくともある程度、関連分野に存在する課題の少なくとも1つを解決する。
【0006】
1つの実施例において、本発明は、耐水安定性が高い負極活物質材料を提供し、前記負極活物質材料は、リチオ化SiOx材と、前記リチオ化SiOx材との間に少なくともSi-O-M結合を有し、前記Mがアルミニウム元素、ホウ素元素及びリン元素からなる群から選択される1種又は複数種である被覆層とを備える。
【0007】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記リチオ化SiOx材は、Li2SiO3、Li6Si2O7、Li2Si2O5及びLi4SiO4からなる群から選択される1種又は複数種を含有する。
【0008】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記被覆層は、リン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素からなる群から選択される1種又は複数種を含有する化合物を含む。
【0009】
本発明のいくつかの実施例によれば、リン元素を含有する化合物は、リン酸、トリポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム及びトリポリリン酸カリウムからなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0010】
本発明のいくつかの実施例によれば、アルミニウム元素を含有する化合物は、メタアルミン酸ナトリウム、メタメタアルミン酸カリウム、三塩化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0011】
本発明のいくつかの実施例によれば、ホウ素元素を含有する化合物は、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウムまたはその水和物、四ホウ酸カリウムまたはその水和物、メタホウ酸ナトリウムまたはその水和物、及びメタホウ酸カリウムまたはその水和物からなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0012】
本発明のいくつかの実施例によれば、リン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素の任意の組み合わせを含有する化合物は、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム及び水素化ホウ素アルミニウムからなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0013】
本発明のいくつかの実施例によれば、Mの含有量は、前記被覆層の約0.05wt%~約1.0wt%である。いくつかの実施例において、Mの含有量は、前記被覆層の約0.05wt%~約0.5wt%である。いくつかの実施例において、Mの含有量は、前記被覆層の約0.1wt%~約0.5wt%である。いくつかの実施例において、Mの含有量は、前記被覆層の約0.2wt%である。
【0014】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極活物質材料は、2θ値が21.7±1°であるX線回折ピークを有する。
【0015】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記リチオ化SiOx材は、約10nm未満の結晶粒径を有するシリコンナノ結晶粒子を含有する。本発明のいくつかの実施例によれば、前記シリコンナノ結晶粒子は、約5nm未満の結晶粒径を有する。
【0016】
別の実施例において、本発明は、基材と、本発明の実施例に記載の負極活物質材料とを含む負極シートを提供する。
【0017】
別の実施例において、本発明は、正極シートと、本発明の実施例に記載の負極シートとを含む電気化学デバイスを提供する。
【0018】
別の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の電気化学デバイスを含む電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例の追加の態様および利点は、後続の説明で部分的に説明、表示されるか、または本発明の実施例の実施によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下、本発明の実施例に対する説明を容易にするために、本発明の実施例や従来技術を説明するために必要な図面を簡単に説明する。明らかに、以下に説明する図面は、本発明の一部の実施例だけに係るものである。当業者にとって、他の実施例の図面は、創造的な努力なしでもこれらの図面に示されている構造に従って得ることが依然としてできる。
【
図1】比較例1及び実施例13に係る負極活物質材料のXRD回折スペクトルを示す。
【
図2】比較例1の負極スラリーの48時間放置後の外観を示す。
【
図3】実施例11の負極スラリーの48時間放置後の外観を示す。
【
図4】比較例1で製造されたリチウムイオン電池及び実施例14で製造されたリチウムイオン電池のサイクル減衰曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。なお、本発明の実施例は、本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0022】
本発明で使用されるように、「約」という用語は、小さな変化を記述し説明するために使用される。イベントや状況と組み合わせて使用される場合、前記用語は、前記イベントや前記状況がまさに発生する例、および前記イベントや状況が非常に近く発生する例を指すことができる。例えば、数値と組み合わせて使用される場合、前記用語は、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、±0.05%以下など、前記数値の±10%以下の変動範囲を指すことができる。また、本発明では、量、比率、その他の数値を範囲形式で記載する場合がある。なお、このような範囲形式は、便宜上および簡潔のために用いられ、柔軟性をもって解釈されるべきであり、範囲を制限する明記される数値だけでなく、前記範囲内にある全ての各数値やサブ範囲を、各値やサブ範囲が明記されるように含む。
【0023】
一.負極シート
SiOx材は、サイクル安定性が良く(500サイクルを超える場合、容量保持率が依然として80%以上である)、容量が高く(1500~1800mAh/g)、サイクル膨張が低い(160%未満の体積膨張)ものであるため、本発明の実施例によれば、電池負極活物質の材料として好適である。
【0024】
しかし、SiOx材は、高い不可逆容量を有し、これによりその初回クーロン効率が一般に75%未満である。この課題は、SiOx材の応用を制限する最大の障害となった。これに対して、現在、SiOxのクーロン効率を88%以上に高めることができるいくつかのリチオ化方式(電気化学、リチウム源と一緒に熱焼結、溶液法)が提案されたが、得られた予備リチオ化されたSiOx材は、一般に、従来の電極シート水性加工方式に合っていない。これにより、例えば、リチオ化材料は、スラリーへ調製する過程においてH2が発生しやすいため、材料の容量およびサイクル安定性が大幅に低下され、あるいは、H2やゲル化が発生しやすいため、スラリーの保存安定性および安全性がひどく影響されるなどの課題がある。したがって、本発明によれば、耐水安定性の高いリチオ化SiOx材は、次世代リチウムイオン電池の負極活物質材料としてより好適である。
【0025】
また、本発明の実施例によれば、負極シートを製造する場合、環境保護、コスト、安全性などの問題を考慮して、一般的に溶媒として水を用いて負極活物質材料を分散させる。良好な分散効果を得るために、加工過程において一般的に高強度混練や高速分散などの手段を採用し、これによって不可避的に耐水安定性が高くない材料を破壊する。予備リチオ化されたSiOx材におけるバッファ相は、一般的に、一連のケイ酸塩の混合物(例えば、Li2SiO3、Li6Si2O7、Li2Si2O5、Li4SiO4又はそれらの混合物)からなる。これらのケイ酸塩は、耐水安定性が高くなく、水溶液系において加水分解重合して一連の珪素-酸素クラスターが発生する。これらの珪素-酸素クラスターは、極めてスラリー系における酸-塩基の変動に影響され、さらに重合してゲル化現象が発生し易い。
【0026】
また、本願の実施例によれば、負極シートを製造する場合、一般的に水を溶媒としてスラリーを製造する。この過程で、高速剪断力の作用により結着剤又は分散剤で材料を湿潤させる必要があり、これによって負極活物質材料の全体構造を深刻に破壊する。これにより負極活物質材料におけるSiOx材の反応活性の高いシリコンナノ粒子が露出して水とより接触しやすくなり、水素ガスが発生するため、SiOx材の容量及びサイクル安定性を大幅に低下させ、負極活物質材料スラリーを大規模に製造する時に水素ガスが発生すると、該スラリーの保存安定性及び安全性に悪影響を与える。
【0027】
これからわかるように、リチオ化SiOx材は、それによる負極活物質材料からなるスラリーの加工過程及びスラリーの保存安定性に一定の影響を与え、塗布の均一性及び効果を酷い影響を与える。
【0028】
前述の課題を克服するために、本発明は、従来の水性加工プロセスを満たすために、耐水安定性が高い負極活物質材料を提供する。該負極活物質材料は、リチオ化SiOx材と、前記リチオ化SiOx材との間に少なくともSi-O-M結合を有し、前記Mがアルミニウム元素、ホウ素元素及びリン元素からなる群から選択される1種又は複数種である被覆層とを含む。いくつかの実施例において、前記被覆層は、水素元素及び酸素元素からなる群から選択される1種又は複数種をさらに含む。
【0029】
リチオ化SiOx材が加水分解された後、SiOx材の表面にシラノール基(Si-OH)を主成分とする水和層が形成される。リン元素、アルミニウム元素、ホウ素元素からなる群から選択される1種又は複数種を含有する化合物が加水分解された後、SiOx材材料の表面に結合しやすいM-OH基が生成する。この基は、さらに表面のシラノール基と脱水縮合し、これによりSiOx材の表面にSi-O-M結合を主とする網目状の密着被覆層を形成することができる。この被覆層は、ケイ酸イオンの加水分解による材料崩壊を効果的に抑制することができ、リチオ化SiOx材の水性加工過程での安定性を維持することに役立つ。
【0030】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記リチオ化SiOx材は、Li2SiO3、Li6Si2O7、Li2Si2O5和Li4SiO4からなる群から選択される1種又は複数種を含む。
【0031】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記被覆層は、リン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素からなる群から選択される1種又は複数種を含有する化合物を含む。
【0032】
本発明のいくつかの実施例によれば、リン元素を含有する化合物は、リン酸、トリポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム及びトリポリリン酸カリウムからなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0033】
本発明のいくつかの実施例によれば、アルミニウム元素を含有する化合物は、メタアルミン酸ナトリウム、メタメタアルミン酸カリウム、三塩化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0034】
本発明のいくつかの実施例によれば、ホウ素元素を含有する化合物は、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウムまたはその水和物、四ホウ酸カリウムまたはその水和物、メタホウ酸ナトリウムまたはその水和物、及びメタホウ酸カリウムまたはその水和物からなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0035】
本発明のいくつかの実施例によれば、リン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素の任意の組み合わせを含有する化合物は、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム及び水素化ホウ素アルミニウムからなる群から選択される1種又は複数種に由来する。
【0036】
本発明のいくつかの実施例によれば、Mの含有量は、前記被覆層の約0.05wt%~約1.0wt%である。いくつかの実施例において、Mの含有量は、前記被覆層の約0.05wt%~約0.5wt%である。いくつかの実施例において、Mの含有量は、前記被覆層の約0.1wt%~約0.5wt%である。いくつかの実施例において、Mの含有量は、前記被覆層の約0.2wt%である。
【0037】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極活物質材料は、2θ値が21.7±1°であるX線回折ピークを有する。
【0038】
本発明のいくつかの実施例によれば、リチオ化SiOx材は、シリコンナノ結晶粒子を含む。いくつかの実施例において、前記ナノシリコン結晶粒は、シリコン(111)結晶面に起因する、2θ値が28.3±0.1°、半値幅が0.81°より大きいX線回折ピークを有する。シェラーの式により、前記シリコンナノ結晶粒子は、約10nm未満の結晶粒径を有する。いくつかの実施例において、前記ナノシリコン結晶粒は、約5nm未満の結晶粒径を有する。
【0039】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記リチオ化SiOx材の表面の少なくとも一部は、約5nm~約100nmの厚さを有する炭素層で覆われる。いくつかの実施例において、前記炭素層は、約5nm~約80nmの厚さを有する。いくつかの実施例において、前記炭素層は、約5nm~約60nmの厚さを有する。いくつかの実施例において、前記炭素層は、約5nm~約40nmの厚さを有する。いくつかの実施例において、前記炭素層は、約5nm~約20nmの厚さを有する。
【0040】
別の実施例において、本発明は、基材と、本発明の実施例に記載の負極活物質材料とを含む負極シートを提供する。いくつかの実施例において、前記基材は、銅箔である。
【0041】
二.正極シート
本願の実施例における正極に用いることができる材料、構成及びその製造方法は、当業者によく知られている技術のいずれを包含する。いくつかの実施例において、正極は、米国特許出願US9812739Bに記載の正極であり、該出願全体が参照により本出願に組み込まれる。
【0042】
いくつかの実施例において、正極は、集電体と、該集電体上に位置する正極活物質材料層とを含む。正極活物質材料は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出する少なくとも1種のリチオ化層間化合物を含む。いくつかの実施例において、正極活物質材料は、複合酸化物を含む。いくつかの実施例において、この複合酸化物は、リチウムと、コバルト、マンガン及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む。
【0043】
いくつかの実施例において、正極活物質材料としては、
LiaA1-bXbD2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5)、
LiaE1-bXbO2-cDc(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05)、
LiaE2-bXbD4(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5)、
LiaE2-bXbO4-cDc(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05)、
LiaNi1-b-cCobXcDα(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2)、
LiaNi1-b-cCobXcO2-αTα(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2)、
LiaNi1-b-cCobXcO2-αT2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2)、
LiaNi1-b-cMnbXcDα(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2)、
LiaNi1-b-cMnbXcO2-αTα(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2)、
LiaNi1-b-cMnbXcO2-αT2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2)、
LiaNibEcGdO2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1)、
LiaNibCocMndGeO2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦
0.1)、
LiaNiGbO2(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1)、
LiaCoGbO2(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1)、
LiaMnGbO2(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1)、
LiaMn2GbO4(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1)、
QO2、QS2、LiQS2、V2O5、LiV2O5、LiIO2、LiNiVO4、Li(3-f)J2(PO4)3(0≦f≦2)、Li(3-f)Fe2(PO4)3(0≦f≦2)又はLiFePO4が挙げられるが、これらに制限されない。
(ここで、AはNi、Co、Mn及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;XはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;DはO、F、S、P及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;EはCo、Mn及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;TはF、S、P及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;GはAl、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;QはTi、Mo、Mn及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;IはCr、V、Fe、Sc、Y及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される;かつ、JはV、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。)
【0044】
いくつかの実施例において、正極活物質材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン(NCM)三元系材料、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施例において、正極活物質材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)である。
【0045】
いくつかの実施例において、正極活物質材料は、その表面にコーティング層を有してもよく、又はコーティング層を有する他の化合物と混合してもよい。このコーティング層は、被覆元素の酸化物、被覆元素の水酸化物、被覆元素のオキシ水酸化物、被覆元素の炭酸塩および被覆元素の塩基性炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の被覆元素化合物を含んでもよい。コーティング層に用いる化合物は、非結晶性であっても結晶性であってもよい。
【0046】
いくつかの実施例において、コーティング層に含まれる被覆元素としては、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。正極活物質材料の性能に悪影響を与えない限り、任意の方法でコーティング層を施すことができる。例えば、この方法としては、スプレー、浸漬等が挙げられる。
【0047】
正極活物質材料層は、接着剤をさらに含み、また導電性材料を含んでもよい。接着剤は、正極活物質材料粒子同士の結合を向上させ、そして、正極活物質材料と集電体との結合を向上させる。
【0048】
いくつかの実施例において、接着剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキサイド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリレート化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロン等が挙げられるが、これらに制限されない。いくつかの実施例において、接着剤は、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)である。
【0049】
いくつかの実施例において、導電性材料としては、炭素系材料、金属系材料、導電性ポリマーおよびこれらの混合物が挙げられるが、これらに制限されない。いくつかの実施例において、炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維及びこれらの任意の組み合わせから選択される。いくつかの実施例において、炭素系材料は、カーボンブラックである。いくつかの実施例において、金属系材料としては、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などが挙げられる。いくつかの実施例において、導電性ポリマーは、ポリフェニレン誘導体である。
【0050】
いくつかの実施例において、集電体は、アルミニウムである。
【0051】
正極は、当業者によく知られている製造方法により製造することができる。例えば、正極は、活物質、導電性材料および接着剤を溶媒に混合して活物質材料組成物を製造し、この活物質組成物を集電体上に塗布する方法により得ることができる。いくつかの実施例において、溶媒は、N-メチルピロリドン等を含んでもよいが、これに制限されない。
【0052】
三.電解液
本発明の実施例に係る電解液に用いることができる電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiSO3F、LiN(FSO2)2等の無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、シクロヘキサフルオロプロパン‐1,3‐ビス(スルホニル)イミドリチウム、シクロ-テトラフルオロエタン-1,2-ビス(スルホニル)イミドリチウム、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等の含フッ素有機リチウム塩;リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩などが挙げられるが、これらに制限されない。また、前記電解質は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。例えば、いくつかの実施例において、電解質は、LiPF6及びLiBF4の組み合わせを含む。いくつかの実施例において、電解質は、LiPF6、LiBF4等の無機リチウム塩と、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等の含フッ素有機リチウム塩との組み合わせを含む。いくつかの実施例において、電解質の濃度は、約0.8~約3mol/Lの範囲内、例えば、約0.8~約2.5mol/Lの範囲内、約0.8~約2mol/Lの範囲内、約1~約2mol/Lの範囲内にあり、例えば、約1mol/L、約1.15mol/L、約1.2mol/L、約1.5mol/L、約2mol/L又は約2.5mol/Lである。
【0053】
四.セパレータ
いくつかの実施例において、正極シートと負極シートとの間には、短絡を防止するために、セパレータを設置する。本願の実施例に用いることができるセパレータは、材料や形状については特に制限されず、当業者に知られている構成を任意に採用することができる。いくつかの実施例において、セパレータとしては、本発明に係る電解液に対し安定な材料で形成されたポリマー又は無機物等が含まれる。
【0054】
例えば、セパレータは、基材層及び表面処理層を含むことができる。基材層は、多孔質構造を有する不織布、膜又は複合膜であり、基材層の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である。具体的には、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜(英語原文:polypropylene-polyethylene-polypropylene porous composite film)を用いることができる。いくつかの実施例において、セパレータは、ポリエチレン(PE)多孔質高分子膜である。
【0055】
基材層の少なくとも1つの表面には、表面処理層が設けられており、表面処理層は、ポリマー層又は無機物層であってもよく、ポリマーと無機物を混合して形成された層であってもよい。
【0056】
無機物層は、無機粒子及び結着剤とを含む。無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムからなる群から選択される1種又は複数種の組み合わせである。結着剤は、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択される1種又は複数種の組み合わせである。
【0057】
ポリマー層にはポリマーが含まれ、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステル重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0058】
五.電気化学デバイス
本発明の電気化学デバイスとしては、電気化学反応を起こす任意のものが挙げられ、具体例としては、全ての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池又はコンデンサが挙げられる。特には、この電気化学デバイスは、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池又はリチウムイオンポリマー二次電池等のリチウム二次電池である。いくつかの実施例において、本発明の電気化学デバイスは、金属イオンを吸蔵・放出可能な正極活物質材料を有する正極シート、本発明の実施例に係る負極シート、電解液、及び正極シートと負極シートとの間に設置されたセパレータを含む。
【0059】
六.電子機器
本発明の電気化学デバイスの用途は、特に制限されず、従来の技術に知られている任意の電子機器に用いることができる。1つの実施例において、本発明の電気化学デバイスは、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池及びリチウムイオンキャパシタ等に用いることができるが、これらに制限されるものではない。
【0060】
以下、リチウムイオン電池を例にして具体的な実施例を参照しながらリチウムイオン電池の製造を説明する。本発明に記載の製造方法は、一例に過ぎず、他の適切な製造方法もいずれも本発明の範囲内にあることは、当業者には理解すべきである。
【0061】
実施例
以下、本発明に係るリチウムイオン電池の実施例及び比較例の性能評価について説明する。
【0062】
一.リチウムイオン電池の製造
1.負極シートの製造
変性剤を500mLの水とエタノールの混合物に添加し、均一に撹拌する。100gの予備リチオ化されたSiOx材(C%=3.2%、D50=6.4μm、シリコン結晶粒径が5nm、バッファ相がLi2SiO3である)を上記の溶液に添加し、400rpmで6時間撹拌し、懸濁液を得る。懸濁液を濾過し、固体を得る。80℃で12時間乾燥させ、乾燥材料を得る。乾燥材料を粉砕し、篩過し、負極活物質材料を得る(実施例1~16)。
【0063】
黒鉛、変性された予備リチオ化されたSiOx材、導電材(導電性カーボンブラック、Super P(R))及び結着剤(変性ポリアクリル酸、PAA)を70%:15%:5%:10%の質量比で混合し、適量の水を添加し、固形分量55%~70%で混練する。適量の水を添加し、スラリーの粘度を4000~6000Pa・sに調節し、負極スラリーを製造する。
【0064】
製造された負極スラリーを負極集電体である銅箔に塗布し、乾燥させ、冷間プレス処理し、負極シートを得る。
【0065】
2.正極シートの製造
LiCoO2、導電性カーボンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95%:2.5%:2.5%の質量比でN-メチルピロリドン溶媒系で十分に撹拌し、均一に混合し、正極スラリーを得る。得られた正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に塗布し、乾燥させ、冷間プレス処理し、正極シートを得る。
【0066】
3.電解液の製造
乾燥アルゴン雰囲気下で、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)(重量比1:1:1)で混合された溶媒に、LiPF6を添加して均一に混合し、前記LiPF6の濃度が1.15mol/Lであり、そして、7.5wt%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加した後に均一に混合し、電解液を得る。
【0067】
4.セパレータの製造
PE多孔質高分子膜をセパレータとする。
【0068】
5.リチウムイオン電池の製造
セパレータを正極シートと負極シートの間に位置させて隔離する役目を果たすように、正極シート、セパレータ、負極シートを順に積層する。巻き回してゼリーロールを得る。ゼリーロールを外装に入れ、電解液を注入し、封止する。化成、脱気、トリミングなどのプロセスフローを経て、リチウムイオン電池を得る。
【0069】
二.試験方法
1.被覆層中のMの含有量の測定方法
0.2gの負極活物質材料(実施例1~16)を秤量し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材質のビーカーに入れ、直示天秤の測定値が安定したら、試料の重量を0.0001gまで正確に記録する。試料に10mLの濃HNO3及び2mLのHFをゆっくりと添加し、220℃の平板ヒータに置き、ほぼ蒸発して乾くまで加熱して消化分解させる。10mLの硝酸をゆっくりと添加し、続けて約15min加熱して消化分解させ、試料を十分に溶解させる。溶解した試料をヒュームフードに入れ、室温まで冷却する。試料溶液を均一に振り混ぜ、単層濾紙を有する漏斗にゆっくりと注ぎ、ビーカーと濾残を3回洗浄する。20±5℃で50mLに定容し、均一に振り混ぜる。誘導結合プラズマ発光分析装置(PE7000)を利用して濾液のイオンスペクトル強度を測定し、検量線に基づいてイオン濃度を算出し、それにより試料に含まれる元素含有量を算出する。
【0070】
2.負極活物質材料のX線回折による特性評価法
負極活物質材料試料を直径1cmの円形窪みに置き、表面を平になるように均し、X線スペクトロメータ(D8 Advance,CuターゲットX線源)を用いて試料にたいして走査を行い、傾斜角2θを10°~85°とし、走査周波数を3°/minとする。
【0071】
3.負極スラリーの沈降の評価方法
負極活物質材料スラリーを48時間保存し、負極スラリーの最終粘度を測定する。最終粘度を初期粘度と比較すると、粘度低下が1000Pa・s未満の場合、沈降しなかったと記録し、粘度低下が1000~2000Pa・sである場合、僅かに沈降したと記録し、粘度低下が2000Pa・sを超える場合、大幅に沈降したと記録する。
【0072】
4.負極スラリーのゲル化の評価方法
負極活物質材料スラリーを48時間保存し、動的光散乱法で負極スラリーの下層の粒子を測定する。負極スラリーに50~100μmの粒子が現れた場合、僅かにゲル化したと記し、負極スラリーに100~1000μmの粒子が現れた場合、顕著にゲル化したと記す。
【0073】
5.負極スラリーのガス発生量の測定方法
100gの負極活物質材料スラリーを250mLの密閉容器に48時間密封する。ガスクロマトグラフィーで発生した水素ガスの割合を測定する。反応原理により、体系内の他のガスがほとんど変化せず、水素ガスのみが発生した場合、混合系全体における水素ガスの体積比率でガス発生量を示す。
【0074】
6.リチウムイオン電池のサイクル試験の方法
25℃で、0.7Cの定電流で4.4Vまで充電し、定電圧で0.025Cまで充電し、5分間静置する。その後、0.5Cで3.0Vまで放電する。上記ステップで得られた容量を初期容量とする。0.7C充電/0.5C放電でサイクル試験を行い、各ステップの容量と初期容量との比率を求め、50サイクル毎に小電流回復(0.2C定電流で4.4Vに充電し、定電圧で0.025Cまで充電し、5分間静置し、0.2Cで3.0Vまで放電する)を行い、容量減衰曲線(英語原文:capacity decay curve)を得る。
【0075】
三.試験結果
以下の表は、従来技術に係る比較例と、本発明の実施例に係る負極活物質材料の組成及び安定性(沈降、ゲル化及びガス発生量)を示す。
【0076】
【0077】
負極活物質材料の基体にリン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素のうちの1種又は複数種を含有する変性剤を添加した後、本願で得られた負極活物質材料は、(
図1に示すように)2θ値が21.7±1°であるX線回折ピークを有し、リン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素のうちの1種又は複数種が被覆層に存在することが示される。
【0078】
上記表における結果からわかるように、実施例1~16では、比較例1と比較して、負極活物質材料の基体にリン元素、アルミニウム元素及びホウ素元素のうちの1種又は複数種を含有する変性剤を添加することにより、負極活物質材料の被覆層とリチオ化SiO
x材との間にSi-O-M結合(Mは、アルミニウム元素、ホウ素元素、リン元素からなる群から選択される1種又は複数種である)が形成されるため、予備リチオ化されたSiO
x負極活物質材料の沈降の度合い、ゲル化の度合い及び/又は水素ガスの発生量を顕著に低減することができ、負極活物質材料の安定性を顕著に向上させる。
図2及び
図3に示すように、比較例1の負極活物質材料スラリーは、顕著な沈降と顕著なゲル化現象が発生したのに対して、実施例11の負極活物質材料スラリーは、沈降やゲル化が発生しなかった。
【0079】
実施例1~4では、リン元素を含有する変性剤を使用し、実施例5~7では、アルミニウム元素を含有する変性剤を使用し、実施例8~10では、ホウ素元素を含有する変性剤を使用し、実施例11~16では、アルミニウム元素、ホウ素元素及び/又はリン元素の組み合わせを含有する変性剤を使用した。その結果は、複合元素を有する負極活物質材料は、単一のアルミニウム元素、ホウ素元素又はリン元素を有する負極活性材料に比べてより優れた安定性を有することを示す。
【0080】
また、従来技術に比べて、本発明の負極活物質材料で製造されたリチウムイオン電池は、良好な電気化学的性能を有する(
図4に示すとおりである)。
【0081】
上記実施例では、Li2SiO3のみをバッファ相として使用して負極活物質材料を製造し、その性能を評価する。これらの実施例は、リチオ化SiOx材を制限するものとして解釈されるべきではない。本発明の他のリチオ化SiOx材(例えばLi6Si2O7、Li2Si2O5及びLi4SiO4のうちの1種又は複数種)は、Li2SiO3とほぼ一致する効果を達成することができる。
【0082】
明細書全体における「実施例」、「一部の実施例」、「1つの実施例」、「別の例」、「例」、「具体例」又は「一部の例」に対する引用は、本発明における少なくとも1つの実施例又は例が、該実施例又は例に説明された特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。したがって、「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「1つの実施例において」、「別の例において」、「一例において」、「特定の例において」または「例」など、本明細書全体における各箇所に示される説明は、必ずしも本発明における同じ実施例または例を引用するわけではない。また、本明細書における特定の特徴、構造、材料又は特性は、任意の適切な方式で1つ又は複数の実施例又は例に組み合わせることができる。
【0083】
例示的な実施例を示し説明したが、上記実施例が本発明を制限するものとして解釈されるべきではなく、かつ本発明の精神、原理及び範囲から逸脱することなく実施例に対して変更、代替、補正する可能であることは、当業者には理解すべきである。