(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20231016BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/20 H
(21)【出願番号】P 2021537330
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029899
(87)【国際公開番号】W WO2021025035
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019143630
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】因藤 雅人
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-105076(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002850(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180555(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に搭載される上部旋回体と、
前記下部走行体を動かす走行用アクチュエータと、
前記走行用アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記上部旋回体の振動を検出し、前記上部旋回体の振動の態様に基づき、前記走行用アクチュエータを動作させる指令値の変動を抑制する、
ショベル。
【請求項2】
前記制御装置は、前記上部旋回体又は前記下部走行体に取り付けられたセンサの出力に基づいて前記上部旋回体の振動の態様を予測する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記制御装置は、前記指令値の変動を平滑化することで前記指令値の変動を抑制する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項4】
前記制御装置は、連続走行時間が所定時間を上回った場合に、前記指令値の変動を抑制する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項5】
前記上部旋回体に搭載される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出する作動油によって駆動されて前記下部走行体を動かす前記走行用アクチュエータとしての走行用油圧モータと、
前記油圧ポンプから前記走行用油圧モータへの作動油の流れを制御する制御弁と、
前記制御弁に作用するパイロット圧を制御する電磁弁と、を備え、
前記制御装置は、前記上部旋回体の振動の態様に基づき、前記電磁弁に対する前記指令値の変動を抑制する、
請求項1に記載のショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行用油圧モータを備えたショベルが知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のショベルは、走行中に発生する振動が、操作者の身体の揺れを引き起こすことで、操作者による走行操作に及ぼす悪影響を抑制する構成を備えていない。そのため、操作者による走行操作は、ショベルの走行中に不安定になってしまうおそれがある。
【0005】
上述に鑑み、走行中に操作者による走行操作が不安定になってしまうのを抑制することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るショベルは、下部走行体と、前記下部走行体に搭載される上部旋回体と、前記下部走行体を動かす走行用アクチュエータと、前記走行用アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記上部旋回体の振動を検出し、前記上部旋回体の振動の態様に基づき、前記走行用アクチュエータを動作させる指令値の変動を抑制する。
【発明の効果】
【0007】
上述の手段により、走行中に操作者による走行操作が不安定になってしまうのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るショベルの側面図である。
【
図2】キャビンの内部構造を示すキャビンの斜視図である。
【
図3】
図1のショベルに搭載される基本システムの構成例を示す図である。
【
図4】
図1のショベルに搭載される油圧システムの構成例を示す図である。
【
図5】
図4の油圧システムにおける、走行用油圧モータに関する部分の構成例を示す図である。
【
図6B】上部旋回体の前後軸方向における加速度の時間的推移を示す図である。
【
図7】電気式操作システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に、
図1を参照し、本発明の実施形態に係る建設機械としての掘削機(ショベル100)について説明する。
図1はショベル100の側面図である。
図1に示すショベル100の下部走行体1には旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には作業要素としてのブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端には作業要素としてのアーム5が取り付けられ、アーム5の先端に作業要素及びエンドアタッチメントとしてのバケット6が取り付けられている。ブーム4は、ブームシリンダ7により駆動される。アーム5は、アームシリンダ8により駆動される。バケット6は、バケットシリンダ9により駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン11等の動力源が搭載されている。また、上部旋回体3には、慣性センサS4が取り付けられている。
【0010】
慣性センサS4は、ショベル100の運動状態を計測するように構成されている。慣性センサS4は、例えば、6軸慣性計測ユニットであり、上部旋回体3の前後軸回りの角速度、上部旋回体3の左右軸回りの角速度、上部旋回体3の上下軸(旋回軸)回りの角速度、上部旋回体3の前後軸方向における加速度、上部旋回体3の左右軸方向における加速度、及び、上部旋回体3の上下軸方向における加速度を計測できるように構成されている。上部旋回体3の前後軸及び左右軸は、例えば、ショベル100の旋回軸上の一点であるショベル中心点で互いに直交する。但し、慣性センサS4は、6軸のうちの少なくとも1つに関するデータを計測できるように構成されていてもよい。本実施形態では、慣性センサS4は、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサとの組み合わせで構成されている。
【0011】
慣性センサS4は、例えば、仮想水平面等の所定の平面に対する上部旋回体3の傾斜を検出するように構成されていてもよい。本実施形態では、慣性センサS4を構成する加速度センサは、上部旋回体3の前後軸回りの傾斜角(ロール角)、左右軸回りの傾斜角(ピッチ角)、及び旋回軸回りの傾斜角(ヨー角)を検出できるように構成されている。
【0012】
慣性センサS4は、上部旋回体3の旋回角速度を検出するように構成されていてもよい。本実施形態では、慣性センサS4を構成するジャイロセンサは、上部旋回体3の旋回角速度及び旋回角度を検出するように構成されている。慣性センサS4は、上部旋回体3の旋回角速度を検出するためのレゾルバ又はロータリエンコーダ等を含んでいてもよい。
【0013】
図2は、キャビン10の内部構造を示すキャビン10の斜視図である。キャビン10の内部には、主に、操作装置26及び運転席DSが配置されている。
【0014】
運転席DSは、キャビン10の中央に配置され、シートダンパSDを介してフロアボードFBに取り付けられている。すなわち、運転席DSは、操作者の快適性を保つため、ショベル100の作業に伴う振動を操作者に直接的には伝えないように構成されている。なお、シートダンパSDは、例えば、スプリング等で構成されている。
【0015】
操作装置26は、アクチュエータの操作のために操作者が用いる装置である。アクチュエータは、油圧アクチュエータ及び電動アクチュエータの少なくとも一方を含む。本実施形態では、操作装置26は、左操作レバー26L、右操作レバー26R、走行レバー26D、及び走行ペダル26DPを含む。アクチュエータは、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、走行用油圧モータ20(
図3参照。)、及び旋回用油圧モータ2A(
図3参照。)を含む。走行用油圧モータ20は、走行用アクチュエータの一例であり、左走行用油圧モータ20L及び右走行用油圧モータ20Rを含む。走行用アクチュエータは、走行用電動発電機であってもよい。
【0016】
左操作レバー26Lは、アームシリンダ8及び旋回用油圧モータ2Aを動かすために操作者が左手で操作するように構成された装置であり、運転席DSの左側で運転席DSに取り付けられている。
【0017】
右操作レバー26Rは、ブームシリンダ7及びバケットシリンダ9を動かすために操作者が右手で操作するように構成された装置であり、運転席DSの右側で運転席DSに取り付けられている。
【0018】
走行レバー26Dは、走行用油圧モータ20の操作のために操作者が用いる走行操作装置の一例であり、運転席DSの前側でフロアボードFBに取り付けられている。操作者は、典型的には、走行レバー26Dを前方に倒すことでショベル100を前進させることができ、走行レバー26Dを後方(手前)に倒すことでショベル100を後進させることができる。
【0019】
具体的には、走行レバー26Dは、互いに独立してフロアボードFBに取り付けられる左走行レバー26DL及び右走行レバー26DRを含む。そして、左走行レバー26DLは、左走行用油圧モータ20Lを動かすために操作者が左手で操作するように構成された装置であり、右走行レバー26DRは、右走行用油圧モータ20Rを動かすために操作者が右手で操作するように構成された装置である。
【0020】
走行ペダル26DPは、走行用油圧モータ20の操作のために操作者が用いる走行操作装置の別の一例であり、運転席DSの前側でフロアボードFBに取り付けられている。走行ペダル26DPは、走行レバー26Dと連動するように構成されている。具体的には、走行ペダル26DPは、左走行ペダル26DPL及び右走行ペダル26DPRを含む。そして、左走行ペダル26DPLは、左走行用油圧モータ20Lを動かすために操作者が左足で操作するように構成された装置であり、右走行ペダル26DPRは、右走行用油圧モータ20Rを動かすために操作者が右足で操作するように構成された装置である。
【0021】
図2に示すように、運転席DSがシートダンパSDを介してフロアボードFBに取り付けられているのに対し、走行レバー26Dは、フロアボードFBに直接的に取り付けられている。そのため、ショベル100が不整地を走行している際、運転席DSの揺れ方(振動モード)は、フロアボードFB(走行レバー26D)の揺れ方(振動モード)とは異なる場合がある。走行ペダル26DPについても同様である。この揺れ方の違いは、シートダンパSDによる制振性が高いほど、すなわち、キャビン10の揺れが運転席に着座する操作者に伝わりにくいほど、大きくなる傾向を有する。そして、運転席DSに着座する操作者の揺れ方が、走行レバー26Dの揺れ方と異なる場合、走行レバー26Dの把持部に置かれた操作者の手の揺れ方も、走行レバー26Dの揺れ方と異なるため、この揺れ方の違いは、走行レバー26Dの操作を不安定化させてしまうおそれがある。また、この不安定化は、操作者が小柄であるほど顕著になるおそれがある。操作者が小柄であるほどフロアボードFBへの足つき性が悪くなるためである。また、この揺れ方の違いは、操作者の体重が軽いほど顕著になるおそれがある。そして、走行レバー26Dの操作の不安定化は、より大きなショベル100の揺れを引き起こしてしまうおそれがある。ショベル100は、以下で説明する構成により、操作者による走行レバー26Dの操作が不安定になってしまうのを防止できる。
【0022】
次に、
図3~
図5を参照し、ショベル100に搭載されている基本システム及び油圧システムの構成例について説明する。
図3は、
図1のショベル100に搭載されている基本システムの構成例を示す図である。
図4は、
図1のショベル100に搭載されている油圧システムの構成例を示す図である。
図5は、
図4の油圧システムにおける、走行用油圧モータ20に関する部分の構成例を示す図である。
【0023】
図3~
図5では、機械的動力伝達ライン、作動油ライン、パイロットライン、及び電気制御ラインがそれぞれ二重線、実線、破線、及び一点鎖線で示されている。
【0024】
ショベル100の基本システムは、
図3に示すように、エンジン11、レギュレータ13、メインポンプ14、コントロールポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26、吐出圧センサ28、操作圧センサ29、コントローラ30、及び電磁弁31等を含む。
【0025】
エンジン11は、ショベルの駆動源である。本実施形態では、エンジン11は、例えば、所定の回転数を維持するように動作する内燃機関としてのディーゼルエンジンである。エンジン11の出力軸は、メインポンプ14及びコントロールポンプ15のそれぞれの入力軸に連結されている。
【0026】
レギュレータ13は、メインポンプ14の吐出量(押し退け容積)を制御できるように構成されている。本実施形態では、レギュレータ13は、コントローラ30からの制御指令に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによってメインポンプ14の吐出量(押し退け容積)を制御する。
【0027】
メインポンプ14は、作動油ラインを介して作動油をコントロールバルブ17に供給できるように構成されている。本実施形態では、メインポンプ14は、斜板式可変容量型油圧ポンプである。
【0028】
コントロールポンプ15は、パイロットラインを介して操作装置26を含む油圧制御機器に作動油を供給できるように構成されている。本実施形態では、コントロールポンプ15は、固定容量型油圧ポンプである。但し、コントロールポンプ15は、省略されてもよい。この場合、コントロールポンプ15が担っていた機能は、メインポンプ14によって実現されてもよい。すなわち、メインポンプ14は、コントロールバルブ17に作動油を供給する機能とは別に、絞り等により作動油の圧力を低下させた後で操作装置26等に作動油を供給する機能を備えていてもよい。
【0029】
コントロールバルブ17は、ショベルにおける油圧システムを制御する油圧制御装置である。本実施形態では、コントロールバルブ17は、メインポンプ14が吐出する作動油の流れを制御する複数の制御弁を含む。そして、コントロールバルブ17は、それら制御弁を通じ、メインポンプ14が吐出する作動油を1又は複数の油圧アクチュエータに選択的に供給するように構成されている。それら制御弁は、メインポンプ14から油圧アクチュエータに流れる作動油の流量、及び、油圧アクチュエータから作動油タンクに流れる作動油の流量を制御するように構成されている。
【0030】
操作装置26は、操作者がアクチュエータの操作のために用いる装置である。本実施形態では、操作装置26は、油圧式であり、パイロットラインを介して、コントロールポンプ15が吐出する作動油を油圧アクチュエータのそれぞれに対応する制御弁のパイロットポートに供給する。パイロットポートのそれぞれに供給される作動油の圧力(以下、「パイロット圧」とする。)は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26を構成するレバー又はペダルの操作方向及び操作量に応じた圧力である。但し、操作装置26は電気式であってもよい。
【0031】
吐出圧センサ28は、メインポンプ14の吐出圧を検出するためのセンサであり、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0032】
操作圧センサ29は、操作装置26を用いた操作者の操作内容を検出するように構成されている。本実施形態では、操作圧センサ29は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26を構成するレバー又はペダルの操作方向及び操作量を圧力の形で検出する圧力センサであり、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作装置26の操作内容は、操作角センサ、加速度センサ、角速度センサ、レゾルバ、電圧計、及び電流計等の少なくとも1つである、圧力センサ以外の他の装置の出力を用いて検出されてもよい。すなわち、操作装置26の操作量は、操作圧ばかりでなく、操作角度、操作加速度の2回積分値、操作角速度の積分値、電圧値、及び電流値等の少なくとも1つで表されてもよい。
【0033】
コントローラ30は、ショベル100を制御するための制御装置である。本実施形態では、コントローラ30は、CPU、揮発性記憶装置、及び不揮発性記憶装置等を備えたコンピュータで構成されている。そして、コントローラ30は、走行判定部300、振動検出部301、及び走行指令生成部302等の機能要素に対応するプログラムをCPUに実行させる。
【0034】
コントローラ30は、例えば、吐出圧センサ28及び操作圧センサ29等の少なくとも1つの出力に基づき、機能要素による演算を実行する。そして、コントローラ30は、演算結果に応じた制御指令を電磁弁31等に対して出力する。
【0035】
電磁弁31は、コントローラ30からの制御指令に応じて動作するように構成されている。本実施形態では、電磁弁31は、操作装置26とコントロールバルブ17における対応する制御弁のパイロットポートとの間を繋ぐ油路に配置される減圧弁であり、対応する制御弁のパイロットポートに作用するパイロット圧を調整できるように構成されている。
【0036】
ショベル100に搭載される油圧システムは、
図4に示すように、エンジン11によって駆動される左メインポンプ14Lから左センターバイパス油路40L又は左パラレル油路42Lを経て作動油タンクまで作動油を循環させ、且つ、エンジン11によって駆動される右メインポンプ14Rから右センターバイパス油路40R又は右パラレル油路42Rを経て作動油タンクまで作動油を循環させる。左メインポンプ14L及び右メインポンプ14Rは、
図3のメインポンプ14に対応する。
【0037】
左センターバイパス油路40Lは、コントロールバルブ17内に配置された制御弁171L~175Lを通る作動油ラインである。右センターバイパス油路40Rは、コントロールバルブ17内に配置された制御弁171R~175Rを通る作動油ラインである。
【0038】
制御弁171Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油を左走行用油圧モータ20Lへ供給し、且つ、左走行用油圧モータ20Lが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0039】
制御弁171Rは、走行直進弁としてのスプール弁である。制御弁171Rは、下部走行体1の直進性を高めるべく左メインポンプ14Lから左走行用油圧モータ20L及び右走行用油圧モータ20Rのそれぞれに作動油が供給されるように作動油の流れを切り換えることができる。具体的には、走行用油圧モータ20と他の何れかの油圧アクチュエータとが同時に操作された場合、左メインポンプ14Lが左走行用油圧モータ20L及び右走行用油圧モータ20Rの双方に作動油を供給できるように制御弁171Rは第1弁位置に切り換えられる。他の油圧アクチュエータが何れも操作されていない場合には、左メインポンプ14Lが左走行用油圧モータ20Lに作動油を供給でき、且つ、右メインポンプ14Rが右走行用油圧モータ20Rに作動油を供給できるように、制御弁171Rは第2弁位置に切り換えられる。
図4は、制御弁171Rが第2弁位置にあるときの状態を示している。
【0040】
制御弁172Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油をオプションの油圧アクチュエータへ供給し、且つ、オプションの油圧アクチュエータが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。オプションの油圧アクチュエータは、例えば、グラップル開閉シリンダである。
【0041】
制御弁172Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油を右走行用油圧モータ20Rへ供給し、且つ、右走行用油圧モータ20Rが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0042】
制御弁173Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油を旋回用油圧モータ2Aへ供給し、且つ、旋回用油圧モータ2Aが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0043】
制御弁173Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給し、且つ、バケットシリンダ9内の作動油を作動油タンクへ排出するためのスプール弁である。
【0044】
制御弁174Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。制御弁174Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。本実施形態では、制御弁174Lは、ブーム4の上げ操作が行われた場合にのみ作動し、ブーム4の下げ操作が行われた場合には作動しない。
【0045】
制御弁175Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。制御弁175Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0046】
左パラレル油路42Lは、左センターバイパス油路40Lに並行する作動油ラインである。左パラレル油路42Lは、制御弁171L~174Lの何れかによって左センターバイパス油路40Lを通る作動油の流れが制限或いは遮断された場合に、より下流の制御弁に作動油を供給できる。右パラレル油路42Rは、右センターバイパス油路40Rに並行する作動油ラインである。右パラレル油路42Rは、制御弁172R~174Rの何れかによって右センターバイパス油路40Rを通る作動油の流れが制限或いは遮断された場合に、より下流の制御弁に作動油を供給できる。
【0047】
左レギュレータ13Lは、左メインポンプ14Lの吐出圧に応じて左メインポンプ14Lの斜板傾転角を調節することによって、左メインポンプ14Lの吐出量を制御する。右レギュレータ13Rは、右メインポンプ14Rの吐出圧に応じて右メインポンプ14Rの斜板傾転角を調節することによって、右メインポンプ14Rの吐出量を制御する。左レギュレータ13L及び右レギュレータ13Rは、
図3のレギュレータ13に対応する。左レギュレータ13Lは、例えば、左メインポンプ14Lの吐出圧が増大した場合に左メインポンプ14Lの斜板傾転角を調節して吐出量を減少させる。また、右レギュレータ13Rは、例えば、右メインポンプ14Rの吐出圧が増大した場合に右メインポンプ14Rの斜板傾転角を調節して吐出量を減少させる。吐出圧と吐出量との積で表されるメインポンプ14の吸収馬力がエンジン11の出力馬力を超えないようにするためである。
【0048】
走行操作装置は操作装置26の一例である。本実施形態では、走行操作装置は、互いに連動する走行レバー26Dと走行ペダル26DPの組み合わせで構成されている。走行レバー26Dは、左走行レバー26DL及び右走行レバー26DRを含み、走行ペダル26DPは、左走行ペダル26DPL及び右走行ペダル26DPRを含む。
【0049】
左走行レバー26DLは、左走行用油圧モータ20Lを操作するために用いられる。左走行レバー26DLは、コントロールポンプ15が吐出する作動油を利用して、操作量に応じたパイロット圧を制御弁171Lのパイロットポートに作用させる。具体的には、左走行レバー26DLは、前進操作方向に操作された場合に制御弁171Lの左側パイロットポートにパイロット圧を作用させ、後進操作方向に操作された場合に制御弁171Lの右側パイロットポートにパイロット圧を作用させる。左走行ペダル26DPLについても同様である。
【0050】
右走行レバー26DRは、右走行用油圧モータ20Rを操作するために用いられる。右走行レバー26DRは、コントロールポンプ15が吐出する作動油を利用して、操作量に応じたパイロット圧を制御弁172Rのパイロットポートに作用させる。具体的には、右走行レバー26DRは、前進操作方向に操作された場合に制御弁172Rの右側パイロットポートにパイロット圧を作用させ、後進操作方向に操作された場合に制御弁172Rの左側パイロットポートにパイロット圧を作用させる。右走行ペダル26DPRについても同様である。
【0051】
左吐出圧センサ28L及び右吐出圧センサ28Rは、
図3の吐出圧センサ28の一例である。左吐出圧センサ28Lは、左メインポンプ14Lの吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。右吐出圧センサ28Rは、右メインポンプ14Rの吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0052】
走行操作圧センサ29Dは、
図3の操作圧センサ29の一例であり、左走行操作圧センサ29DL及び右走行操作圧センサ29DRを含む。左走行操作圧センサ29DLは、左走行レバー26DLに対する操作者の操作内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。右走行操作圧センサ29DRは、右走行レバー26DRに対する操作者の操作内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作内容は、例えば、操作方向及び操作量(操作角度)等である。
【0053】
ブーム操作レバー、アーム操作レバー、バケット操作レバー、及び旋回操作レバー(何れも図示せず。)はそれぞれ、ブーム4の上下、アーム5の開閉、バケット6の開閉、及び、上部旋回体3の旋回を操作するための操作装置である。これらの操作装置は、左走行レバー26DLと同様に、コントロールポンプ15が吐出する作動油を利用して、レバー操作量に応じたパイロット圧を油圧アクチュエータのそれぞれに対応する制御弁の左右何れかのパイロットポートに作用させる。また、これらの操作装置のそれぞれに対する操作内容は、対応する操作圧センサによって圧力の形で検出され、検出値がコントローラ30に対して出力される。
【0054】
ここで、
図4の油圧システムで採用されるネガティブコントロール制御について説明する。以下の説明は、左メインポンプ14Lのネガティブコントロール制御に関するが、右メインポンプ14Rのネガティブコントロール制御にも同様に適用される。
【0055】
左センターバイパス油路40Lは、最も下流にある制御弁175Lと作動油タンクとの間に左絞り18Lを備える。左絞り18Lは、左メインポンプ14Lが吐出した作動油の流れを制限する。そして、左絞り18Lは、左レギュレータ13Lを制御するための制御圧を発生させる。
【0056】
左制御圧センサ19Lは、左絞り18Lの上流で発生させた制御圧を検出するように構成されている。同様に、右制御圧センサ19Rは、右絞り18Rの上流で発生させた制御圧を検出するように構成されている。本実施形態では、左制御圧センサ19L及び右制御圧センサ19Rは、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0057】
コントローラ30は、例えば、左制御圧センサ19Lが検出した制御圧に応じた制御指令を左レギュレータ13Lに対して出力する。左レギュレータ13Lは、制御指令に応じて左メインポンプ14Lの斜板傾転角を調節することによって、左メインポンプ14Lの吐出量を制御する。典型的には、左レギュレータ13Lは、制御圧が大きいほど左メインポンプ14Lの吐出量を減少させ、制御圧が小さいほど左メインポンプ14Lの吐出量を増大させる。
【0058】
油圧アクチュエータが何れも操作されていない場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、左センターバイパス油路40Lを通って左絞り18Lに至る。そして、左メインポンプ14Lが吐出する作動油の流れは、左絞り18Lの上流で発生する制御圧を増大させる。その結果、左レギュレータ13Lは、左メインポンプ14Lの吐出量を許容最小吐出量まで減少させ、吐出した作動油が左センターバイパス油路40Lを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)を抑制する。
【0059】
一方、何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する制御弁を介して、操作対象の油圧アクチュエータに流れ込む。そして、左メインポンプ14Lが吐出する作動油の流れは、左絞り18Lに至る量を減少或いは消失させ、左絞り18Lの上流で発生する制御圧を低下させる。その結果、左レギュレータ13Lは、左メインポンプ14Lの吐出量を増大させ、操作対象の油圧アクチュエータに十分な作動油を循環させ、操作対象の油圧アクチュエータの駆動を確かなものとする。
【0060】
上述のような構成により、
図4の油圧システムは、油圧アクチュエータが何れも操作されていない場合には、左メインポンプ14Lにおける無駄なエネルギ消費を抑制できる。無駄なエネルギ消費は、左メインポンプ14Lが吐出する作動油が左センターバイパス油路40Lで発生させるポンピングロスを含む。油圧アクチュエータが操作されている場合には、
図4の油圧システムは、左メインポンプ14Lから必要十分な作動油を作動対象の油圧アクチュエータに確実に供給できるようにする。
【0061】
次に、
図5を参照し、左走行パイロット回路の構成例について説明する。
図5は、左走行パイロット回路の構成例を示す図である。
【0062】
左走行パイロット回路は、左走行レバー26DLが生成するパイロット圧を制御弁171Lのパイロットポートに伝えるように構成されている。
【0063】
具体的には、左走行パイロット回路は、制御弁171Lと左走行用油圧モータ20Lの第1ポート20LAとを作動油ライン21Lによって接続し、制御弁171Lと左走行用油圧モータ20Lの第2ポート20LBとを作動油ライン21Rによって接続するように構成されている。
【0064】
左走行レバー26DLが前進操作方向へ操作されると、作動油ライン21Lは、左メインポンプ14Lに接続され、且つ、作動油ライン21Rは、作動油タンクに接続される。そのため、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、制御弁171L及び作動油ライン21Lを介して左走行用油圧モータ20Lの第1ポート20LAに流入する。そして、第1ポート20LAに流入した作動油は、左走行用油圧モータ20Lを順回転させた後、作動油ライン21R及び制御弁171Lを介して作動油タンクに戻される。この場合、下部走行体1を構成する左クローラは、左走行用油圧モータ20Lによって順回転させられる。
【0065】
一方、左走行レバー26DLが後進操作方向へ操作されると、作動油ライン21Rは、左メインポンプ14Lに接続され、且つ、作動油ライン21Lは、作動油タンクに接続される。そのため、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、制御弁171L及び作動油ライン21Rを介して左走行用油圧モータ20Lの第2ポート20LBに流入する。そして、第2ポート20LBに流入した作動油は、左走行用油圧モータ20Lを逆回転させた後、作動油ライン21L及び制御弁171Lを介して作動油タンクに戻される。この場合、下部走行体1を構成する左クローラは、左走行用油圧モータ20Lによって逆回転させられる。
【0066】
制御弁171Lは、左走行レバー26DLによって生成されるパイロット圧に応じて動くように構成されている。左走行レバー26DLは、コントロールポンプ15から作動油の供給を受け、この作動油を用いて制御弁171Lを動かすためのパイロット圧を生成する。
【0067】
操作者が左クローラを順回転させるために左走行レバー26DLを前進操作方向に倒すと、左走行レバー26DLは、パイロットライン24Lを介して制御弁171Lの左側パイロットポートに向けて作動油を供給することで、制御弁171Lの左側パイロットポートにパイロット圧を作用させる。
図5の例では、パイロットライン24Lには電磁弁31Lが配置されている。そのため、コントローラ30は、必要に応じ、左走行レバー26DLが生成したパイロット圧を電磁弁31Lで調節し、制御弁171Lの左側パイロットポートに調節後のパイロット圧を作用させることができる。この調節後のパイロット圧により制御弁171Lは右方に動かされ、作動油ライン21Lが左メインポンプ14Lに接続され且つ作動油ライン21Rが作動油タンクに接続される。
【0068】
操作者が左クローラを逆回転させるために左走行レバー26DLを後進操作方向に倒すと、左走行レバー26DLは、パイロットライン24Rを介して制御弁171Lの右側パイロットポートに向けて作動油を供給することで、制御弁171Lの右側パイロットポートにパイロット圧を作用させる。
図5の例では、パイロットライン24Rには電磁弁31Rが配置されている。そのため、コントローラ30は、必要に応じ、左走行レバー26DLが生成したパイロット圧を電磁弁31Rで調節し、制御弁171Lの右側パイロットポートに調節後のパイロット圧を作用させることができる。この調節後のパイロット圧により制御弁171Lは左方に動かされ、作動油ライン21Rが左メインポンプ14Lに接続され且つ作動油ライン21Lが作動油タンクに接続される。
【0069】
次に、コントローラ30が有する機能要素である走行判定部300、振動検出部301、及び走行指令生成部302について説明する。
【0070】
走行判定部300は、ショベル100が走行中であるか否かを判定するように構成されている。本実施形態では、走行判定部300は、操作圧センサ29の出力に基づいてショベル100が走行中であるか否かを判定するように構成されている。具体的には、走行判定部300は、例えば、走行操作圧センサ29Dの出力に基づいて走行レバー26Dが操作されていると判定した場合に、ショベル100が走行中であると判定し、走行レバー26Dが操作されていないと判定した場合に、ショベル100が走行中でないと判定してもよい。
【0071】
或いは、走行判定部300は、上部旋回体3に取り付けられた撮像装置が撮像した画像に基づいてショベル100が走行中であるか否かを判定してもよい。具体的には、走行判定部300は、例えば、上部旋回体3に取り付けられたカメラが撮像した画像における、所定の物体の画像の表示位置の変化に基づき、ショベル100が走行中であるか否かを判定してもよい。
【0072】
振動検出部301は、ショベル100の所定部位の振動を検出するように構成されている。本実施形態では、振動検出部301は、慣性センサS4の出力に基づいてキャビン10の振動の態様を検出するように構成されている。具体的には、振動検出部301は、例えば、上部旋回体3のピッチ角の変動(時間的変化)をキャビン10の振動として検出してもよい。或いは、振動検出部301は、上部旋回体3のロール角、ヨー角、前後軸方向における加速度、左右軸方向における加速度、及び、上下軸方向における加速度のそれぞれの変動(時間的変化)のうちの1つをキャビン10の振動として検出してもよい。或いは、振動検出部301は、上部旋回体3のピッチ角、ロール角、ヨー角、前後軸方向における加速度、左右軸方向における加速度、及び、上下軸方向における加速度のそれぞれの変動(時間的変化)の少なくとも2つの組み合わせをキャビン10の振動として検出してもよい。
【0073】
また、振動検出部301は、必ずしも慣性センサS4の出力に基づいてキャビン10の振動の態様を検出する必要は無く、慣性センサS4以外のブーム角度センサ、アーム角度センサ、及びバケット角度センサ等の出力に基づいてキャビン10の振動の態様を検出してもよい。また、ショベル100の走行中は、アタッチメントが激しく操作されることもないため、振動検出部301は、アタッチメントに取り付けられたブーム角度センサ、アーム角度センサ、及びバケット角度センサの少なくとも1つの出力を用いてキャビン10の振動の態様を検出することも可能である。
【0074】
或いは、振動検出部301は、上部旋回体3に取り付けられた測位装置としてのGNSS受信機の出力に基づいてキャビン10の振動の態様を検出するように構成されていてもよい。この場合、振動検出部301は、上部旋回体(キャビン10)の緯度、経度、及び高度のそれぞれの変動(時間的変化)の少なくとも1つをキャビン10の振動として検出してもよい。
【0075】
或いは、振動検出部301は、慣性センサS4の出力とGNSS受信機の出力との組み合わせに基づいてキャビン10の振動として検出するように構成されていてもよい。
【0076】
或いは、振動検出部301は、上部旋回体3に取り付けられたカメラが撮像した画像における、所定の物体の画像の表示位置の変化に基づき、キャビン10の振動の態様を検出してもよい。
【0077】
また、振動検出部301は、運転席DS(
図2参照。)に取り付けられた別の慣性センサの出力に基づいて運転席DSの振動の態様を検出するように構成されていてもよい。
【0078】
走行指令生成部302は、走行指令を生成するように構成されている。走行指令生成部302は、例えば、走行操作圧センサ29Dが検出する走行操作装置の操作内容に基づいて走行指令値を生成する。本実施形態では、走行指令生成部302は、左走行操作圧センサ29DLが検出する左走行レバー26DLの操作内容に基づいて左走行指令値を生成し、且つ、右走行操作圧センサ29DRが検出する右走行レバー26DRの操作内容に基づいて右走行指令値を生成する。
【0079】
そして、走行指令生成部302は、左走行指令値に対応する制御指令を電磁弁31に出力し、左走行用油圧モータ20Lを所望の回転速度で所望の回転方向に回転させるようにする。右走行用油圧モータ20Rを回転させる場合についても同様である。
【0080】
また、走行指令生成部302は、走行判定部300により走行中であると判定されている場合で、且つ、所定条件が満たされた場合に、走行指令値を補正するように構成されている。
【0081】
所定条件は、例えば、走行指令値の増減が所定回数以上繰り返されたこと、振動検出部301が検出した上部旋回体3の前後軸方向における加速度の増減が所定回数以上繰り返されたこと、及び、振動検出部301が検出した運転席DSの前後軸方向における加速度の増減が所定回数以上繰り返されたこと等の少なくとも1つを含む。
【0082】
そして、走行指令生成部302は、所定条件が満たされた場合、走行に伴う振動(以下、「走行振動」とする。)によって走行操作が不安定になっていると判定し、所定の制御周期毎に生成される走行指令値を補正して走行指令値の変動を平滑化する。走行指令値の変動の平滑化は、例えば、ローパスフィルタの適用等によって実現される。但し、走行指令値の変動の平滑化は、走行指令値の変動率の制限、走行指令値の上限の設定、走行指令値の下限の設定、バンドパスフィルタの適用、又は制御ゲインの変更等の他の方法によって実現されてもよい。
【0083】
なお、走行指令生成部302は、走行判定部300により走行中であると判定されている期間である連続走行時間が所定時間を上回る場合に限り、走行指令値を補正できるように構成されていてもよい。操作者による走行操作装置の微操作に確実に対応できるようにするためである。
【0084】
次に、
図6A及び
図6Bを参照し、走行指令値の補正による効果について説明する。
図6A及び
図6Bは、走行指令値の時間的推移と上部旋回体3の前後軸方向における加速度の時間的推移との関係を示す。具体的には、
図6Aは、ショベル100が不整地を走行する際の左走行用油圧モータ20Lに関する左走行指令値TCの時間的推移を示す。
図6Aの点線は、平滑化される前の左走行指令値TCの時間的推移を表し、実線は、平滑化された後の左走行指令値TCの時間的推移を表している。
図6Bは、ショベル100が不整地を走行する際の上部旋回体3の前後軸方向における加速度ACの時間的推移を示す。
図6Bの点線は、左走行指令値TCが平滑化されないときの加速度ACを表し、実線は、左走行指令値TCが平滑化されたときの加速度ACの時間的推移を表している。
【0085】
時刻t1において、左走行レバー26DL及び右走行レバー26DRが同じレバー操作量で前進操作方向に操作されると、ショベル100は前進を開始し、左走行指令値TCは、左走行レバー26DLのレバー操作量に応じた値TC1まで増加する。図示しない右走行指令値についても同様である。また、加速度ACは、
図6Bの例では、増減を繰り返しながら推移する。不整地を走行する際に上部旋回体3が前後軸方向に振動するためである。
【0086】
そして、上部旋回体3が前後軸方向に振動すると、シートダンパSDを介してキャビン10のフロアボードFBに取り付けられている運転席DSは、上部旋回体3に剛結されているキャビン10の振動モードとは異なる振動モードで振動する。そのため、運転席DSに着座する操作者は、キャビン10のフロアボードFBに取り付けられている走行レバー26Dの振動の位相とは異なる位相で振動してしまう場合がある。その結果、左走行指令値TCは、
図6Aの点線で示すように、操作者の意思とは無関係に増減してしまい、加速度ACの増減幅は、
図6Bの点線で示すように大きくなってしまう。走行レバー26Dに対する不安定な操作(レバー操作量の増減)により、不整地を走行することによって不可避的に引き起こされる上部旋回体3の振動が増幅されてしまうためである。
【0087】
コントローラ30は、必要に応じて左走行指令値TCを補正することで、このような加速度ACの増減幅の拡大を防止できる。具体的には、コントローラ30の走行判定部300は、走行操作圧センサ29Dの出力に基づいて走行レバー26Dが操作されていると判定した場合に、ショベル100が走行中であると判定する。そして、コントローラ30の走行指令生成部302は、振動検出部301が検出した加速度ACの増減が所定回数以上繰り返されたことを検知すると、所定条件が満たされたと判定する。そして、走行指令生成部302は、左走行操作圧センサ29DLが検出する左走行レバー26DLの操作内容に基づいて生成した左走行指令値TCをローパスフィルタに入力し、左走行指令値TCを平滑化する。その結果、左走行指令値TCは、Aの実線で示すように平滑化され、加速度ACの増減幅は、
図6ABの実線で示すように、
図6Bの点線で示すような左走行指令値TCが平滑化されない場合に比べて小さくなる。
【0088】
このように、コントローラ30は、操作者による走行レバー26Dの操作が不安定になっている場合、或いは、不安定になると予測される場合に走行指令値を補正することで、キャビン10の振動によって引き起こされる操作者が意図しない手の動きに起因する走行指令値の乱れを抑制或いは防止できる。
【0089】
この際、コントローラ30は、操作者情報、設定情報、及び作業環境情報等の少なくとも1つも同時に取得し振動に関する情報と合わせて記憶してもよい。コントローラ30は、エンジン起動の際に入力される操作者のIDを操作者情報として用いてもよく、キャビン10内に取り付けられた撮像装置の出力により操作者を判断し、その判断結果を入力してもよい。設定情報には走行モードに関する情報(例えば低速高トルクモード又は高速低トルクモードの何れが選択されているか等)、エンジン設定モードに関する情報(例えば設定回転数又は設定馬力等に関する情報)が含まれる。作業環境情報には、施工情報、天候情報又は走行面情報等が含まれ、例えば撮像装置により取得される。走行面情報には走行面の凹凸の度合い又は走行面の種類等が含まれる。走行面の種類は、「粘土」、「シルト」、「砂」、「小石(礫・レキ)」、「粗石」、「コンクリート」、「鉄板」、「アスファルト」等である。走行面の種類は、ショベル100の位置情報を基に外部サーバに登録された地理情報等を用いて決定されてもよい。
【0090】
その結果、コントローラ30は、ショベル100が不整地を走行する際に発生する加速度ACの増減の幅が拡大されてしまうのを抑制或いは防止でき、ひいては、運転席DSに着座する操作者の前後方向の揺れが拡大されてしまうのを抑制或いは防止できる。操作者は、前後方向の揺れの拡大が抑制或いは防止されるため、ショベル100が不整地を走行しているときであっても、視界の確保(周囲の視認)が容易になる。
【0091】
なお、
図6A及び
図6Bの例では、コントローラ30は、上部旋回体3の前後軸方向における加速度の増減をキャビン10の振動として検出しているが、上部旋回体3のピッチ角、ヨー角、若しくはロール角の増減、上部旋回体3の左右軸方向における加速度の増減、又は、上部旋回体3の上下軸方向における加速度の増減等をキャビン10の振動として検出してもよい。そして、コントローラ30は、このようにして検出したキャビン10の振動に基づき、所定条件が満たされたか否かを判定してもよい。或いは、コントローラ30は、このようにして検出したキャビン10の振動に基づき、操作者による走行レバー26Dの操作が不安定になっているか否か、或いは、不安定になると予測されるか否かを判定してもよい。
【0092】
上述のように、本発明の実施形態に係るショベル100は、下部走行体1と、下部走行体1に搭載される上部旋回体3と、下部走行体1を動かす走行用アクチュエータとしての走行用油圧モータ20と、走行用油圧モータ20を制御する制御装置としてのコントローラ30と、を備えている。そして、コントローラ30は、上部旋回体3の振動を検出し、その振動の態様に基づき、走行用油圧モータ20を動作させる際に生成される指令値である走行指令値の変動を抑制するように構成されている。
【0093】
この構成により、コントローラ30は、ショベル100の走行中に操作者による走行操作が不安定になってしまうのを防止できる。具体的には、コントローラ30は、例えば、操作者による走行操作装置に対する操作が不安定になっている場合、或いは、不安定になると予測される場合に、走行操作装置の操作量に応じて変化する走行指令値の変動を抑制するため、キャビン10の振動によって引き起こされる操作者が意図しない手の動きに起因する走行指令値の乱れを抑制或いは防止できる。すなわち、コントローラ30は、このような走行指令値の乱れが、実際の走行用アクチュエータの動きに反映されてしまうのを抑制或いは防止できる。その結果、コントローラ30は、例えば、不整地を走行する際に不可避的に発生するキャビン10の振動が、上述のような走行指令値の乱れによって増幅されてしまうのを抑制或いは防止でき、更には、そのような増幅されたキャビン10の振動によって操作者による走行操作が不安定になってしまうのを抑制或いは防止できる。
【0094】
コントローラ30は、典型的には、上部旋回体3に取り付けられた慣性センサS4の出力に基づいて上部旋回体3の振動を検出するように構成されている。但し、コントローラ30は、下部走行体1に取り付けられた慣性センサの出力に基づいて上部旋回体3の振動の態様を予測することで、上部旋回体3の振動を検出するように構成されていてもよい。或いは、コントローラ30は、下部走行体1及び上部旋回体3の少なくとも一方に取り付けられた画像センサが取得した周囲の画像の変化に基づいて上部旋回体3の振動の態様を予測してもよく、下部走行体1及び上部旋回体3の少なくとも一方に取り付けられた傾斜センサ又は振動センサ等の出力に基づいて上部旋回体3の振動の態様を予測してもよい。或いは、コントローラ30は、燃料残量センサの出力(燃料タンク内における燃料の液面に浮かぶフロートの上下動を表す値)に基づいて上部旋回体3の振動の態様を予測してもよい。すなわち、コントローラ30は、下部走行体1及び上部旋回体3の少なくとも一方に取り付けられた、慣性センサ以外の他のセンサの出力に基づき、上部旋回体3の振動の態様を予測することで、上部旋回体3の振動を検出するように構成されていてもよい。この構成により、コントローラ30は、上部旋回体3の振動を簡易に且つ安定的に検出できる。
【0095】
また、コントローラ30は、典型的には、走行指令値の変動を平滑化することで走行指令値の変動を抑制するように構成されている。具体的には、コントローラ30は、例えば、ローパスフィルタを利用して走行指令値の変動を平滑化することで走行指令値の変動を抑制するように構成されている。この構成により、コントローラ30は、適切なタイミングで、簡易に且つ迅速に、走行指令値の変動を抑制できる。
【0096】
また、コントローラ30は、典型的には、連続走行時間が所定時間を上回った場合に、走行指令値の変動を抑制するように構成されている。この構成により、コントローラ30は、操作者による走行操作装置の微操作に応じた走行指令値の変動が抑制されてしまうのを防止できるため、操作者による走行操作装置の微操作に確実に対応できる。
【0097】
ショベル100は、典型的には、上部旋回体3に搭載される油圧ポンプとしてのメインポンプ14と、メインポンプ14が吐出する作動油によって駆動されて下部走行体1を動かす走行用アクチュエータとしての走行用油圧モータ20と、メインポンプ14から走行用油圧モータ20への作動油の流れを制御する制御弁171L及び制御弁172Rと、制御弁171L及び制御弁172Rのそれぞれに作用するパイロット圧を制御する電磁弁31と、を備えている。そして、コントローラ30は、上部旋回体3の振動の態様に基づき、電磁弁31に対する指令値である走行指令値の変動を抑制するように構成されている。この構成により、コントローラ30は、ショベル100の走行中に操作者による走行操作が不安定になってしまうのを防止できる。
【0098】
以上、本発明の好ましい実施形態が説明された。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に限定されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形又は置換等が適用されてもよい。また、上述の実施形態を参照して説明された特徴のそれぞれは、技術的に矛盾しない限り、適宜に組み合わされてもよい。
【0099】
例えば、
図5に示した例では、左走行レバー26DLに関する油圧式パイロット回路を備えた油圧式操作システムが開示されている。左走行レバー26DLに関する油圧式パイロット回路では、コントロールポンプ15から左走行レバー26DLへ供給される作動油が、左走行レバー26DLの前進操作方向への傾倒によって開かれるリモコン弁27の開度に応じた流量で、制御弁171Lの左側パイロットポートに供給される。
【0100】
但し、このような油圧式パイロット回路を備えた油圧式操作システムではなく、電気式操作レバーを備えた電気式操作システムが採用されてもよい。この場合、電気式操作レバーとしての左走行レバー26DLのレバー操作量は、電気信号としてコントローラ30へ入力される。また、コントロールポンプ15と制御弁171Lのパイロットポートとの間には電磁弁が配置されている。電磁弁は、コントローラ30からの電気信号に応じて動作するように構成されている。この構成により、電気式操作レバーとしての左走行レバー26DLを用いた手動操作が行われると、コントローラ30は、レバー操作量に対応する電気信号によって電磁弁を制御し、制御弁171Lのパイロットポートに作用するパイロット圧を増減させることで制御弁171Lを移動させることができる。
【0101】
図7は、電気式操作システムの構成例を示す。具体的には、
図7の電気式操作システムは、左走行操作システムの一例であり、主に、パイロット圧作動型のコントロールバルブ17(厳密にはコントロールバルブ17内に含まれる制御弁)と、電気式操作レバーとしての左走行レバー26DLと、コントローラ30と、前進操作用の電磁弁60と、後進操作用の電磁弁62とで構成されている。
図7の電気式操作システムは、右走行操作システム、ブーム操作システム、アーム操作システム、バケット操作システム、及び旋回操作システム等にも同様に適用され得る。
【0102】
パイロット圧作動型のコントロールバルブ17は、
図4に示すように、左走行用油圧モータ20Lに関する制御弁171L、右走行用油圧モータ20Rに関する制御弁172R、及び、旋回用油圧モータ2Aに関する制御弁173L等を含む。
図7の例では、電磁弁60は、コントロールポンプ15と制御弁171Lの左側パイロットポートとを繋ぐパイロットライン24Lの流路面積を調節できるように構成されている。電磁弁62は、コントロールポンプ15と制御弁171Lの右側パイロットポートとを繋ぐパイロットライン24Rの流路面積を調節できるように構成されている。
【0103】
具体的には、コントローラ30は、左走行レバー26DLの操作信号生成部が出力する操作信号(電気信号)に応じて前進操作信号(電気信号)又は後進操作信号(電気信号)を生成する。左走行レバー26DLの操作信号生成部が出力する操作信号は、左走行レバー26DLの操作量及び操作方向に応じて変化する電気信号である。
【0104】
操作信号生成部は、
図3に示す走行指令生成部302の一例であり、操作信号(電気信号)は、上述の走行指令に対応している。
【0105】
具体的には、コントローラ30は、左走行レバー26DLが前進操作方向に操作された場合、レバー操作量に応じた前進操作信号(電気信号)を電磁弁60に対して出力する。電磁弁60は、前進操作信号(電気信号)に応じて流路面積を調節し、制御弁171Lの左側パイロットポートに作用するパイロット圧を制御する。同様に、コントローラ30は、左走行レバー26DLが後進操作方向に操作された場合、レバー操作量に応じた後進操作信号(電気信号)を電磁弁62に対して出力する。電磁弁62は、後進操作信号(電気信号)に応じて流路面積を調節し、制御弁171Lの右側パイロットポートに作用するパイロット圧を制御する。
【0106】
左走行レバー26DLの操作信号生成部が出力する操作信号を平滑化する場合、コントローラ30は、例えば、左走行レバー26DLの操作信号生成部が出力する操作信号の代わりに、補正操作信号(電気信号)に応じて前進操作信号(電気信号)又は後進操作信号(電気信号)を生成する。補正操作信号は、コントローラ30が生成する電気信号であってもよく、コントローラ30以外の外部の制御装置等が生成する電気信号であってもよい。
【0107】
本願は、2019年8月5日に出願した日本国特許出願2019-143630号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0108】
1・・・下部走行体 2・・・旋回機構 2A・・・旋回用油圧モータ 3・・・上部旋回体 4・・・ブーム 5・・・アーム 6・・・バケット 7・・・ブームシリンダ 8・・・アームシリンダ 9・・・バケットシリンダ 10・・・キャビン 11・・・エンジン 13・・・レギュレータ 13L・・・左レギュレータ 13R・・・右レギュレータ 14・・・メインポンプ 14L・・・左メインポンプ 14R・・・右メインポンプ 15・・・コントロールポンプ 17・・・コントロールバルブ 18L・・・左絞り 18R・・・右絞り 19L・・・左制御圧センサ 19R・・・右制御圧センサ 20・・・走行用油圧モータ 20L・・・左走行用油圧モータ 20R・・・右走行用油圧モータ 20LA・・・第1ポート 20LB・・・第2ポート 21L、21R・・・作動油ライン 24L、24R・・・パイロットライン 26・・・操作装置 26D・・・走行レバー 26DL・・・左走行レバー 26DR・・・右走行レバー 26DP・・・走行ペダル 26DPL・・・左走行ペダル 26DPR・・・右走行ペダル 26L・・・左操作レバー 26R・・・右操作レバー 27・・・リモコン弁 28・・・吐出圧センサ 29・・・操作圧センサ 29DL・・・左走行操作圧センサ 29DR・・・右走行操作圧センサ 30・・・コントローラ 31、31L、31R・・・電磁弁 40L・・・左センターバイパス油路 40R・・・右センターバイパス油路 42L・・・左パラレル油路 42R・・・右パラレル油路 60、62・・・電磁弁 171L~175L、171R~175R・・・制御弁 300・・・走行判定部 301・・・振動検出部 302・・・走行指令生成部 DS・・・運転席 FB・・・フロアボード S4・・・慣性センサ SD・・・シートダンパ