(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】異方導電性シート、電気検査装置および電気検査方法
(51)【国際特許分類】
H01R 11/01 20060101AFI20231016BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20231016BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231016BHJP
G01R 31/26 20200101ALI20231016BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01R11/01 501H
H01B5/16
C08L83/04
G01R31/26 J
G01R31/28 K
(21)【出願番号】P 2021574054
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2021002673
(87)【国際公開番号】W WO2021153567
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2020015630
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西浦 克典
(72)【発明者】
【氏名】山田 大典
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽二郎
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-216868(JP,A)
【文献】特開2013-170293(JP,A)
【文献】特表2003-533863(JP,A)
【文献】特開2008-066077(JP,A)
【文献】特開2005-294131(JP,A)
【文献】特開2003-022849(JP,A)
【文献】特開2019-173112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 11/01
H01B 5/16
C08L 83/04
G01R 31/26
G01R 31/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面と、前記第1面と前記第2面との間を貫通する複数の貫通孔とを有する絶縁層と、
前記複数の貫通孔のそれぞれの内壁面に配置された複数の導電層と、
を有し、
前記絶縁層は、シリコーン系エラストマーの架橋物を含む弾性体層を有し、
前記導電層は、
前記貫通孔の内壁面に配置され、金属を含む薄膜と、少なくとも一部が前記貫通孔の前記内壁面と前記金属を含む薄膜との間に配置されたバインダーとを含む下地層と、
前記下地層上に、前記金属を含む薄膜と接するように配置された金属めっき層と
、
を有し、
前記バインダーは、チオール基、スルフィド基
およびジスルフィド基
からなる群より選ばれる硫黄含有基と、アルコキシシリル基及びシラノール基からなる群より選ばれる官能基とを有する硫黄含有化合物であ
り、
前記貫通孔の内壁面は、官能基を有し、
前記貫通孔の内壁面上の官能基と、前記硫黄含有化合物の前記官能基とは反応により結合している、
異方導電性シート。
【請求項2】
前記硫黄含有化合物は、芳香族複素環を含む、
請求項
1に記載の異方導電性シート。
【請求項3】
前記硫黄含有化合物は、トリアジンチオール系化合物である、
請求項
2に記載の異方導電性シート。
【請求項4】
前記金属を含む薄膜は、金属ナノ粒子を含む、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径は、1~30nmである、
請求項
4に記載の異方導電性シート。
【請求項6】
前記金属は、金、銀または白金を含む、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項7】
前記下地層の厚みは、10~500nmである、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項8】
前記下地層の厚みをT1、前記金属めっき層の厚みをT2としたとき、
厚みの比T1/(T1+T2)は、0.0025~0.5である、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項9】
前記複数の導電層のそれぞれは、前記貫通孔の内壁面から前記第1面上の前記貫通孔の開口部の周囲まで連続して配置されており、
前記第1面上において、前記複数の導電層の間に配置され、それらを絶縁するための複数の第1溝部をさらに有する、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項10】
前記第1面側における前記複数の貫通孔の開口部の中心間距離は、5~100μmである、
請求項1~
9のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項11】
検査対象物の電気検査に用いられる異方導電性シートであって、
前記検査対象物は、前記第1面上に配置される、
請求項1~
10のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項12】
複数の電極を有する検査用基板と、
前記検査用基板の前記複数の電極が配置された面上に配置された、請求項1~
11のいずれか一項に記載の異方導電性シートと、
を有する、
電気検査装置。
【請求項13】
複数の電極を有する検査用基板と、端子を有する検査対象物とを、請求項1~
11のいずれか一項に記載の異方導電性シートを介して積層して、前記検査用基板の前記電極と、前記検査対象物の前記端子とを、前記異方導電性シートを介して電気的に接続する工程を有する、
電気検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性シート、電気検査装置および電気検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品に搭載されるプリント配線板などの半導体デバイスは、通常、電気検査が行われる。電気検査は、通常、電気検査装置の(電極を有する)基板と、半導体デバイスなどの検査対象物となる端子とを電気的に接触させ、検査対象物の端子間に所定の電圧を印加したときの電流を読み取るなどの方法で行われる。そして、電気検査装置の基板の電極と、検査対象物の端子との電気的接触を確実に行うために、電気検査装置の基板と検査対象物との間に、異方性導電シートが配置される。
【0003】
異方導電性シートは、厚み方向に導電性を有し、面方向に絶縁性を有するシートであり、電気検査におけるプローブ(接触子)として用いられる。特に、電気検査装置の基板と検査対象物との間の電気的接続を確実に行うために、厚み方向に弾性変形する異方性導電シートが求められている。
【0004】
厚み方向に弾性変形する異方性導電シートとしては、例えば厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するシートと、貫通孔の内壁面に配置された複数の導通部とを有する異方導電性シートが知られている(例えば特許文献1および2参照)。
【0005】
これらの異方導電性シートは、基材シートに複数の貫通孔を形成した後、貫通孔の内壁面に、めっき(無電解めっきと電解めっき)により導通部を形成して得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-220512号公報
【文献】特開2010-153263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無電解めっきの代表例として、無電解Niめっきが知られている。しかしながら、貫通孔の内壁面に、無電解Niめっきした後、電解めっきして導通部(導電層)を形成した異方導電性シートは、例えば電気検査時の加圧や除圧によるシートの弾性変形を繰り返すうちに、電解めっき層が剥がれやすいという問題があった。これは、無電解Niめっき層が硬いため、加圧および除圧によるシートの弾性変形に追従できずに、無電解Niめっき層が剥がれるためであると考えられる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、シートの厚み方向の弾性変形に伴う導電層の剥がれを抑制でき、電気検査装置の基板と検査対象物との間で十分な電気的接続を行うことができる異方導電性シート、電気検査装置および電気検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0010】
本発明の異方導電性シートは、厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面と、前記第1面と前記第2面との間を貫通する複数の貫通孔とを有する絶縁層と、前記複数の貫通孔のそれぞれの内壁面に配置された複数の導電層と、を有し、前記導電層は、前記貫通孔の内壁面に配置され、金属を含む薄膜と、少なくとも一部が前記貫通孔の前記内壁面と前記金属を含む薄膜との間に配置されたバインダーとを含む下地層と、前記下地層上に、前記金属を含む薄膜と接するように配置された金属めっき層とを有し、前記バインダーは、チオール基、スルフィド基またはジスルフィド基を有する硫黄含有化合物である。
【0011】
本発明の電気検査装置は、複数の電極を有する検査用基板と、前記検査用基板の前記複数の電極が配置された面上に配置された、本発明の異方導電性シートと、を有する。
【0012】
本発明の電気検査方法は、複数の電極を有する検査用基板と、端子を有する検査対象物とを、本発明の異方導電性シートを介して積層して、前記検査用基板の前記電極と、前記検査対象物の前記端子とを、前記異方導電性シートを介して電気的に接続する工程を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シートの厚み方向の弾性変形に伴う導電層の剥がれを抑制でき、電気検査装置の基板と検査対象物との間で十分な電気的接続を行うことができる異方導電性シート、電気検査装置および電気検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、本実施の形態に係る異方導電性シートを示す平面図であり、
図1Bは、
図1Aの異方導電性シートの1B-1B線の部分拡大断面図である。
【
図4】
図4A~Fは、本実施の形態に係る異方導電性シートの製造方法を示す断面模式図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態に係る電気検査装置を示す断面図である。
【
図6】
図6AおよびBは、他の実施の形態に係る異方導電性シートを示す部分拡大図である。
【
図7】
図7Aは、他の実施の形態に係る異方導電性シートを示す平面図であり、
図7Bは、
図7Aの異方導電性シートの7B-7B線の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.異方導電性シート
図1Aは、本実施の形態に係る異方導電性シート10の平面図であり、
図1Bは、
図1Aの異方導電性シート10の1B-1B線の部分拡大断面図である。
図2は、
図1Bの拡大図である。
図3は、
図2の領域Aの拡大模式図である。
【0016】
図1AおよびBに示されるように、異方導電性シート10は、複数の貫通孔12を有する絶縁層11と、複数の貫通孔12のそれぞれに対応して配置された複数の導電層13(例えば、a1およびa2で示される2つの導電層13など)とを有する。このような異方導電性シート10は、導電層13で囲まれた複数の空洞12’を有する。
【0017】
本実施の形態では、絶縁層11の第1面11a(異方導電性シート10の一方の面)に、検査対象物が配置されることが好ましい。
【0018】
1-1.絶縁層11
絶縁層11は、厚み方向の一方の側に位置する第1面11aと、厚み方向の他方の側に位置する第2面11bと、第1面11aと第2面11bとの間を貫通する複数の貫通孔12とを有する(
図1B参照)。
【0019】
貫通孔12は、その内壁面に導電層13を保持するとともに、絶縁層11の可撓性を高めて、絶縁層11の厚み方向に弾性変形させやすくしうる。
【0020】
貫通孔12の形状は、特に制限されず、円柱状であってもよいし、角柱状であってもよい。本実施の形態では、貫通孔12の形状は、円柱状である。また、貫通孔12の軸方向に直交する断面の円相当径は、軸方向に一定であってもよいし、異なってもよい。軸方向とは、貫通孔12の第1面11a側の開口部と第2面11b側の開口部の中心同士を結ぶ線の方向をいう。
【0021】
第1面11a側における貫通孔12の開口部の円相当径D1は、複数の貫通孔12の開口部の中心間距離(ピッチ)pが後述の範囲となるように設定されればよく、特に制限されず、例えば1~330μmであることが好ましく、3~55μmであることがより好ましい(
図2参照)。第1面11a側における貫通孔12の開口部の円相当径D1とは、第1面11a側から貫通孔12の軸方向に沿って見たときの、貫通孔12の開口部の円相当径をいう。
【0022】
第1面11a側における貫通孔12の開口部の円相当径D1と、第2面11b側における貫通孔12の開口部の円相当径D2とは、同じであってもよいし、異なってもよい。第1面11a側における貫通孔12の開口部の円相当径D1と、第2面11b側における貫通孔12の開口部の円相当径D2とが異なる場合、それらの比(第1面11a側の開口部の円相当径D1/第2面11b側の開口部の円相当径D2)は、例えば0.5~2.5であり、好ましくは0.6~2.0、さらに好ましくは0.7~1.5である。
【0023】
第1面11a側における複数の貫通孔12の開口部の中心間距離(ピッチ)pは、特に制限されず、検査対象物の端子のピッチに対応して適宜設定されうる(
図2参照)。検査対象物としてのHBM(High Bandwidth Memory)の端子のピッチは55μmであり、PoP(Package on Package)の端子のピッチは400~650μmであることなどから、複数の貫通孔12の開口部の中心間距離pは、例えば5~650μmでありうる。中でも、検査対象物の端子の位置合わせを不要とする(アライメントフリーにする)観点では、第1面11a側における複数の貫通孔12の開口部の中心間距離pは、5~55μmであることがより好ましい。第1面11a側における、複数の貫通孔12の開口部の中心間距離pとは、第1面11a側における、複数の貫通孔12の開口部の中心間距離のうち最小値をいう。貫通孔12の開口部の中心は、開口部の重心である。複数の貫通孔12の開口部の中心間距離pは、軸方向に一定であってもよいし、異なってもよい。
【0024】
貫通孔12の軸方向の長さL(絶縁層11の厚み)と、第1面11a側における貫通孔12の開口部の円相当径D1の比(L/D1)は、特に制限されないが、3~40であることが好ましい(
図2参照)。
【0025】
絶縁層11は、厚み方向に圧力が加わると、弾性変形するような弾性を有する。すなわち、絶縁層11は、少なくとも弾性体層を有し、全体として弾性を損なわない範囲で、他の層をさらに有してもよい。本実施の形態では、絶縁層11自体が、弾性体層である。
【0026】
(弾性体層)
弾性体層は、エラストマー組成物の架橋物を含む。
【0027】
弾性体層を構成するエラストマー組成物の架橋物のガラス転移温度は、-40℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度は、JIS K 7095:2012に準拠して測定することができる。
【0028】
また、弾性体層を構成するエラストマー組成物の架橋物の線膨脹係数(CTE)は、特に制限されないが、例えば60ppm/Kよりも高いことが好ましく、200ppm/K以上であることがより好ましい。線膨脹係数は、JIS K7197:1991に準拠して測定することができる。
【0029】
また、弾性体層を構成するエラストマー組成物の架橋物の25℃における貯蔵弾性率は、1.0×107Pa以下であることが好ましく、1.0×105~9.0×106Paであることがより好ましい。弾性体層の貯蔵弾性率は、JIS K 7244-1:1998/ISO6721-1:1994に準拠して測定することができる。
【0030】
エラストマー組成物の架橋物のガラス転移温度、線膨脹係数および貯蔵弾性率は、当該エラストマー組成物の組成により調整されうる。また、弾性体層の貯蔵弾性率は、その形態(多孔質かどうかなど)によっても調整されうる。
【0031】
エラストマー組成物に含まれるエラストマーは、絶縁性を示し、かつエラストマー組成物の架橋物のガラス転移温度、線膨脹係数または貯蔵弾性率が上記範囲を満たすものであればよく、特に制限されないが、その例には、シリコーンゴム、ウレタンゴム(ウレタン系ポリマー)、アクリル系ゴム(アクリル系ポリマー)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、フッ素系ゴムなどのエラストマーであることが好ましい。中でも、シリコーンゴムが好ましい。
【0032】
エラストマー組成物は、必要に応じて架橋剤をさらに含んでもよい。架橋剤は、エラストマーの種類に応じて適宜選択されうる。例えば、シリコーンゴムの架橋剤の例には、ヒドロシリル化反応の触媒活性を有する金属、金属化合物、金属錯体など(白金、白金化合物、それらの錯体など)の付加反応触媒や;ベンゾイルパーオキサイド、ビス-2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が含まれる。アクリル系ゴム(アクリル系ポリマー)の架橋剤の例には、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物などが含まれる。
【0033】
例えば、シリコーン系エラストマー組成物の架橋物としては、ヒドロシリル基(SiH基)を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーン系エラストマー組成物の付加架橋物やビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物;SiCH3基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーン系エラストマー組成物の架橋物などが含まれる。
【0034】
エラストマー組成物は、例えば粘着性や貯蔵弾性率を上記範囲に調整しやすくする観点などから、必要に応じて粘着付与剤、シランカップリング剤、フィラーなどの他の成分もさらに含んでもよい。
【0035】
弾性体層は、例えば貯蔵弾性率を上記範囲に調整しやすくする観点から、多孔質であってもよい。すなわち、多孔質シリコーンを用いることもできる。
【0036】
(他の層)
絶縁層11は、必要に応じて上記以外の他の層をさらに有してもよい。他の層の例には、耐熱性樹脂層(後述する
図6B参照)や接着層などが含まれる。
【0037】
(前処理)
絶縁層11の表面(少なくとも貫通孔12の内壁面12c)は、下地層16との接着性を高める観点などから、前処理されていてもよい。
【0038】
前処理は、(下地層16に含まれる)硫黄含有化合物の結合性部位と反応する官能基を付与する処理であることが好ましい。硫黄含有化合物の結合性部位と反応する官能基の例には、水酸基、シラノール基、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基などが含まれ、好ましくは水酸基またはシラノール基である。例えば、硫黄含有化合物の結合性部位がアルコキシシリル基を含む場合、貫通孔12の内壁面12cには水酸基またはシラノール基が付与されていることが好ましい。
【0039】
上記のような官能基を付与する前処理の例には、後述する酸素プラズマ処理であってもよいし、シランカップリング剤による処理であってもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0040】
シランカップリング剤は、加水分解によりシラノール基(Si-OH)を生成するアルコキシシリル基と、エポキシ基、ビニル基、アミノ基とを有する化合物でありうる。
【0041】
シランカップリング剤の例には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラなどのエポキシ基を有するエポキシ系シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシランなどのビニル基を有するビニル系シランカップリング剤;γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどの分子内にアミノ基を有するアミン系シランカップリング剤などが含まれる。
【0042】
そして、貫通孔12の内壁面12cに導入された官能基の少なくとも一部と、後述する下地層16に含まれるバインダー(硫黄含有化合物)の官能基の少なくとも一部とは、反応により結合していることが好ましい。例えば、貫通孔12の内壁面12cの水酸基またはシラノール基と、硫黄含有化合物のアルコキシシリル基とは、縮合してシリカ結合を形成していることが好ましい。それにより、両者が強固に結合しうる。
【0043】
(厚み)
絶縁層11の厚みは、非導通部分での絶縁性を確保できる程度であればよく、特に制限されないが、例えば40~400μm、好ましくは100~300μmでありうる。
【0044】
1-2.導電層13
導電層13は、少なくとも貫通孔12の内壁面12cに配置されている。本実施の形態では、導電層13は、貫通孔12の内壁面12cと、第1面11a上の貫通孔12の開口部の周囲と、第2面11b上の貫通孔12の開口部の周囲とに連続して配置されている。そして、a1やa2で示される単位の導電層13が、導電路としてそれぞれ機能する(
図1B参照)。
【0045】
導電層13は、金属を含む薄膜16Aおよびバインダー16Bを含む下地層16と、当該下地層16の金属を含む薄膜16Aと接するように配置された金属めっき層17とを有する(
図2および3参照)。なお、
図3では、金属を含む薄膜16Aが、金属ナノ粒子Mを含む例を示している。
【0046】
1-2-1.下地層16
下地層16は、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17との間に配置されている。そして、下地層16は、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17との接着性を高めるとともに、金属めっき層17を電解めっき法により形成可能にしうる。
【0047】
下地層16は、前述の通り、金属を含む薄膜16Aと、バインダー16Bとを含む。
【0048】
(金属を含む薄膜16A)
金属を含む薄膜16Aは、貫通孔12の内壁面12c上に、バインダー16Bを介して配置されうる。具体的には、金属を含む薄膜16Aは、金属と、当該金属に硫黄含有基を介して吸着しているバインダー16Bとの複合膜でありうる。
【0049】
金属を含む薄膜16Aを構成する金属の種類は、導電性を付与できる金属であればよく、特に限定されないが、金、銀、銅、白金、錫、鉄、コバルト、パラジウム、真鍮、モリブデン、タングステン、パーマロイ、スチールまたはこれらのうち1種の合金であることが好ましい。中でも、導電性に優れる点から、金属を含む薄膜16Aは、金、銀または白金を含むことが好ましく、金を含むことがより好ましい。
【0050】
金属を含む薄膜16Aは、下地層16の形成方法によって種々の形態をとりうるが、金属ナノ粒子を含んでもよいし、金属ナノ粒子を含まなくてもよい。
【0051】
金属を含む薄膜16Aが金属ナノ粒子を含む場合、金属ナノ粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、1~100nmであることが好ましい。金属ナノ粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、水中の粒子安定性が高く、長期間、高い分散性を維持する。同様の観点から、金属ナノ粒子の平均粒子径は、10~30nmであることがより好ましい。金属ナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法や透過型電子顕微鏡により測定することができる。
【0052】
金属を含む薄膜16Aの厚みは、特に限定されないが、例えば10~200nmであることが好ましい。金属を含む薄膜16Aの厚みが10nm以上であると、貫通孔12の内壁面12cの表面に十分な導電性を付与しやすく、200nm以下であると、製造効率が損なわれにくい。同様の観点から、金属を含む薄膜16Aの厚みは、20~100nmであることがより好ましい。
【0053】
(バインダー)
バインダーは、その少なくとも一部が、貫通孔12の内壁面12cと、金属を含む薄膜16Aとの間に配置されており、当該薄膜16Aを構成する金属を付着または吸着しうる。
【0054】
すなわち、バインダーは、チオール基、スルフィド基またはジスルフィド基を有する硫黄含有化合物(硫黄含有基を有する有機化合物)である。これらの硫黄含有基は、金属との親和性が高く、金属が付着または結合しやすい。すなわち、バインダーは、硫黄含有基以外の部位(好ましくは結合性部位)で貫通孔12の内壁面12cと結合し、硫黄含有基で(金属を含む薄膜16A中の)金属と結合することで、貫通孔12の内壁面12c上に、金属を含む薄膜16Aを固定しうる。
【0055】
硫黄含有化合物は、硫黄含有基を1つだけ有してもよいし、2以上有してもよい。特に、金属補足性能を高める観点では、硫黄含有化合物は、硫黄含有基を2以上有することが好ましい。
【0056】
また、硫黄含有化合物は、重合体であってもよい。重合体の例には、上記官能基を有する化合物の重合体(例えばアルコキシシランの重合体)を、硫黄含有基を有する化合物で変性した重合体、上記硫黄含有基を有する単量体と上記官能基を有する単量体の共重合体などが含まれる。
【0057】
硫黄含有化合物は、貫通孔12の内壁面12cと結合する結合性部位をさらに有することが好ましい。結合性部位は、貫通孔12の内壁面12c上の官能基と、静電的引力(例えば水素結合など)や反応(例えば縮合反応など)により結合しうるような官能基を有することが好ましい。
【0058】
そのような官能基の例には、アルコキシシリル基(-SiRn(OR)3-n、n=0~2の整数)、シラノール基、アミノ基(-NH2、-NHR、-NR3)、イミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アルコキシ基、水酸基、およびイソシアネート基が含まれる。中でも、貫通孔12の内壁面12c上に水酸基などが存在する場合、は、それと反応しうるアルコキシシリル基、シラノール基、カルボキシル基およびアミノ基などが好ましい。例えば、絶縁層11がシリコーン系エラストマーの架橋物であり、それにコロナ処理を施してシラノール基が生成している場合、硫黄含有化合物は、結合性部位の官能基としてアルコキシシラン基を有することが好ましい。
【0059】
硫黄含有化合物は、芳香環を有しない化合物(脂肪族化合物)であってもよいし、芳香環を有する化合物(芳香族化合物)であってもよい。
【0060】
芳香環を有しない化合物は、例えば炭素原子数1~10、好ましくは2~8のアルキレン基を有しうる。そのような化合物の例には、チオクト酸、メルカプトペンチルジスルフィド、下記式(1)で表される化合物などのアルキルジスルフィド類;アミルメルカプタン、デカンチオール、下記式(2)で表される化合物などのアルキルチオール類が含まれる。
【化1】
【0061】
式(1)または(2)中、
mは、0または1であり、
nは、2~8の整数であり、
Xは、アルコキシ基であり、
Meは、メチル基であり、
Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、
Yは、チオール基である。
【0062】
式(1)で表される化合物の例には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシランが含まれる。式(2)で表される化合物の例には、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドが含まれる。
【0063】
芳香環を有する化合物における芳香環は、芳香族炭化水素環であってもよいし、芳香族複素環であってもよい。芳香環を有する化合物の例には、アミノフェニルジスルフィド、4,4’-ジチオジピリジンなどのジスルフィド類;6-メルカプトプリン、4-アミノチオフェノール、ナフタレンチオール、2-メルカプトベンズイミダゾール、トリアジンチオール系化合物などのチオール類が含まれる。
【0064】
中でも、下地層16の形成方法にもよるが、貫通孔12の内壁面12cとの接着性に優れる下地層16が得られやすい観点から、芳香族複素環を有する硫黄含有化合物が好ましく、芳香族複素環と2以上の硫黄含有基とを有する化合物がより好ましく、トリアジンチオール系化合物が特に好ましい。トリアジンチオール系化合物が、特に良好な接着性を示す理由は明らかではないが、トリアジン環が分子間でパッキングしやすく、バインダー密度を高めやすい点や、1分子中にチオール基を複数有するため、金属の補足性能が高い点などによると考えられる。
【0065】
トリアジンチオール系化合物は、トリアジン骨格と、チオール基とを有する。チオール基は、トリアジン骨格を構成する炭素原子に結合していることが好ましい。
【0066】
そのようなトリアジンチオール系化合物の例には、下記式(3)で表される化合物が含まれる。
【0067】
【0068】
式(3)中、R1は、水素原子または1価の炭化水素基を表す。1価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。1価の炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば1~10でありうる。中でも、R1は、水素原子、CH3-、C2H5、n-C3H7-、CH2=CHCH2-、n-C4H9-、C6H5-、またはC6H11-であることがより好ましい。
【0069】
R2は、2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基は、水素原子と炭素原子以外の他の原子もしくは官能基を含むものであってもよい。例えば、R2は、硫黄原子、窒素原子またはカルバモイル基もしくはウレア基を含む2価の炭化水素基であってもよい。2価の炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば2~10でありうる。中でも、R2は、エチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、デカニル基、-CH2CH2-S-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-S-CH2CH2CH2-、-CH2CH2-NH-CH2CH2CH2-、-(CH2CH2)2-N-CH2CH2CH2-、-CH2-Ph-CH2-、-CH2CH2O-CONH-CH2CH2CH2-、-CH2CH2NHCOCNHCH2CH2CH2-などが好ましい。
【0070】
Xは、水素原子または1価の炭化水素基を表す。1価の炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば1~5でありうる。中でも、Xは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基であることが好ましい。
【0071】
Yは、アルコキシ基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は、1~5である。中でも、Yは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基であることが好ましい。
【0072】
nは、1~3の整数であり、好ましくは3である。
【0073】
Mは、アルカリ金属を表し、好ましくはLi、Na、KまたはCsである。
【0074】
トリアジンチオール系化合物の他の例には、下記式(4A-1)~(4A-3)で表されるトリアジン化合物と、(結合性部位を有し、かつ)それと反応または吸着可能な有機化合物との反応生成物も含まれる。
【化3】
【0075】
式(4A-1)~(4A-3)中、
A1~A6は、それぞれ水素原子、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、または、置換若しくは無置換のアンモニウムを表し、好ましくは水素原子である。これらは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0076】
上式(4A-1)~(4A-3)のいずれかで表されるトリアジン化合物と反応または吸着可能な有機化合物は、前述の結合性部位を有することが好ましい。そのような有機化合物は、例えばアルコキシシリル基、アミノ基(-NH
2、-NHR、-NR
3)、カルボキシル基、水酸基、およびイソシアネート基からなる群より選ばれる官能基を有する化合物、具体的には、下記式(4B-1)~(4B-10)のいずれかで表される化合物でありうる。
【化4】
【0077】
上記式中、
R1は、置換または無置換のフェニレン基、キシリレン基、アゾ基、アゾ基を有する有機基、2価のベンゾフェノン残基、2価のフェニルエーテル残基、アルキレン基、シクロアルキレン基、ピリジレン基、エステル残基、スルフォン基、または、カルボニル基を表し;
R2およびR3は、それぞれ水素原子またはアルキル基を表す。
【0078】
そのような化合物の例には、ジアミノベンゼン、ジアミノアゾベンゼン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゾフェノン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジフェニルエーテル、N,N′-ジメチルテトラメチレンジアミン、ジアミノピリジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m-ヘキサメチレン-トリアミン、ベンジジン、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノ-ジシクロヘキシルメタン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、メタアミノベンジルアミンなどが含まれる。
【0079】
【0080】
上記式中、R4は、フェニル基、ビフェニリル基、置換または無置換のベンジル基、アゾ基を有する有機基、ベンゾイルフェニル基、置換または無置換のアルキル基、シクロアルキル基、アセタール残基、ピリジル基、アルコキシカルボニル基、または、アルデヒド基を有する有機基を示す。
【0081】
そのような化合物の例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-ノニルアミン、ステアリルアミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o-アミノジフェニル、1-メチルブチルアミン、2-エチルブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、2-フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、o-メトキシベンジルアミン、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール、アミノフェノールなどが含まれる。
【0082】
【0083】
上記式中、R5およびR6は、それぞれフェニル基、アゾ基を有する有機基、ベンゾイルフェニル基、アルキル基、ピリジル基、アルコキシカルボニル基、アルデヒド基、ベンジル基、または、不飽和基を表す。
【0084】
【0085】
上記式中、R7、R8、R9は、それぞれフェニル基、ベンジル基、アゾ基を有する有機基、ベンゾイルフェニル基、置換または無置換のアルキル基、ピリジル基、アルコキシカルボニル基、アルデヒド基、ニトロソ基を表す。
【0086】
そのような化合物の例には、1,1-ジメトキシトリメチルアミン、1,1-ジエトキシトリメチルアミン、N-エチルジイソプロピルアミン、N-メチルジフェニルアミン、N-ニトロソジエチルアミン、N-ニトロソジフェニルアミン、N-フェニルジベンジルアミン、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、アミノエチルピペラジン、2,4,6-トリスジメチルアミンメチルフェノール、テトラメチルグアニジン、2-メチルアミノメチルフェノールなどが含まれる。
【0087】
【0088】
上記式中、R10は、置換または無置換のフェニレン基、アゾ基を有する有機基、2価のベンゾフェノン残基、アルキレン基、シクロアルキレン基、ピリジレン基、または、アルコキシカルボニル基を表す。
【0089】
そのような化合物の例には、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシアゾベンゼン、ジヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシベンゾフェノン、1,2-ジヒドロキシエタン、1,4-ジヒドロキシブタン、1,3-ジヒドロキシプロパン、1,6-ジヒドロキシヘキサン、1,7-ジヒドロキシペンタン、1,8-ジヒドロキシオクタン、1,9-ジヒドロキシノナン、1,10-ジヒドロキシデカン、1,12-ジヒドロキシドデカン、1,2-ジヒドロキシシクロヘキサンなどが含まれる。
【0090】
【0091】
上記式中、
R11およびR12は、それぞれ不飽和基を表し、
X1は、2価のマレイン酸残基、2価のフタル酸残基、または、2価のアジピン酸残基を示す。
【0092】
そのような化合物の例には、クロレンド酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリルなどが含まれる。
【0093】
【0094】
上記式中、
R13は、不飽和基を表し、
X2は、置換または無置換のフェニル基、アルキル基、アミノ酸残基、水酸基を有する有機基、シアヌル酸残基、または、アルコキシカルボニル基を表す。
【0095】
【0096】
上記式中、
R14は、置換または無置換のフェニル基、ナフチル基、置換または無置換のアルキル基、ベンジル基、ピリジル基、または、アルコキシカルボニル基を表す。
【0097】
そのような化合物の例には、アリルメタクリレート、1-アリル-2-メトキシベンゼン、2-アリルオキシ-エタノール、3-アリルオキシ-1、2-プロパンジオール、4-アリル-1、2-ジメトキシベンゼン、酢酸アリル、アリルアルコール、アリルグリシジルエーテル、ヘプタン酸アリル、イソフタル酸アリル、イソ吉草酸アリル、アリルメタクリレート、n-酪酸アリル、n-カプリン酸アリル、フェノキシ酢酸アリル、プロピオン酸アリル、アリルベンゼン、o-アリルフェノール、シアヌル酸トリアリル、トリアリルアミンなどが挙げられる。
【0098】
【0099】
上記式中、
R15は、フェニル基、置換または無置換のアルキル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、または、ビニル基を表し、
X3は、アクリル酸残基を表す。
【0100】
そのような化合物の例には、アクリル酸-2-(ジメチル)アミノエチル、2-アセトアミドアクリル酸、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸、3-メトキシアクリル酸メチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ビニル、3-アクリルアミド-N、N-ジメチルプロピルアミンなどが含まれる。
【0101】
【0102】
上記式中、R16およびR17は、それぞれフェニル基、アルキル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、または、ビニル基を表す。
【0103】
そのような化合物の例には、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2-クロロマレイン酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、安息香酸無水物、酪酸無水物、シュウ酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ピロメット酸無水物、トリメット酸無水物、トリメット酸無水物ドリコール、メチルナジック酸無水物クロトン酸無水物、ドデシルコハク酸無水物、ジクロルマレイン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物等が挙げられる。
【0104】
バインダー16Bは、導電性を有する化合物であってもよい。
【0105】
下地層16は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、無電解めっき液に含まれる還元剤に由来する成分や、金属めっき層17を構成するめっき成分でありうる。ただし、下地層16は、硬度が高くなりすぎないようにする観点から、ニッケルを実質的に含まないことが好ましい。ニッケルを実質的に含まないとは、ニッケルまたはその化合物の含有量が、下地層16に対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下であることをいう。それにより、下地層の硬度が高くなりにくく、シートを厚み方向に弾性変形させた際に剥がれにくくしうる。
【0106】
なお、本実施の形態では、下地層16が、金属を含む薄膜16Aとバインダー16Bとを含む例(
図3参照)を示したが、これに限定されない。すなわち、金属を含む薄膜16Aとバインダー16Bとの境界は必ずしも明確ではないため、要は、下地層16全体が、金属とバインダーとを含む層(有機-無機複合層)であればよい。例えば、下地層16は、金属とバインダーとを含む層であって、金属が、下地層16の表層部(金属めっき層17と接する表層部)に偏在していてもよい、すなわち、(貫通孔12の内壁面12c側から)金属が相対的に少ない領域と、金属が相対的に多い領域とを有してもよい。
【0107】
(厚み)
下地層16の厚みは、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17とを十分に接着させうる程度であればよい。例えば、下地層16の厚みは、その形成方法にもよるが、例えば、10~500nmであることが好ましい。下地層16の厚みが10nm以上であると、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17とを十分に接着させやすい。下地層16の厚みが500nm以下であると、例えば異方導電性シート10を厚み方向に繰り返し弾性変形させても、下地層16が剥がれにくい。同様の観点から、下地層16の厚みは、30~300nmであることがより好ましい。
【0108】
本実施の形態では、下地層16の厚みT1は、第1面11a(または第2面11b)上では、絶縁層11の厚み方向の厚みをいい、内壁面12c上では、絶縁層11の厚み方向と直交する方向の厚みをいう(
図2参照)。
【0109】
下地層16の厚みは、走査型電子顕微鏡にて撮影した断面画像により測定することができる。
具体的には、異方導電性シート10の厚み方向に沿った断面を、走査型電子顕微鏡により観察する。そして、下地層16に相当する領域を特定し、その厚みを測定する。下地層16と金属めっき層17との境界は、例えば金属ナノ粒子を含む金属を含む薄膜16A(金属ナノ粒子法で形成された金属を含む薄膜)では、二次電子像において、当該金属ナノ粒子の外縁を結んだ線を境界として特定することができる。また、金属ナノ粒子を含まない金属を含む薄膜16A(分子接合法で形成された金属を含む薄膜)では、SEM-EDXまたはTEM-EDXなどで得られる特性X線像において、硫黄原子を含有する領域の外縁を境界として特定することができる。
【0110】
下地層16の厚みT1は、金属めっき層17の厚みT2よりも薄いことが好ましい。具体的には、下地層16の厚みT1と金属めっき層17の厚みT2の合計に対する、下地層16の厚みT1の比T1/(T1+T2)は、0.0025~0.5であることが好ましい(
図3参照)。0.0025以上であると、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17とを十分に接着させやすく、0.5以下であると、十分な導電性が発現しやすい。同様の観点から、比T1/(T1+T2)は、0.005~0.2であることがより好ましい。
【0111】
1-2-2.金属めっき層17
金属めっき層17は、下地層16の金属を含む薄膜16Aと接するように配置された、導電層13の主体となる層である。金属めっき層17は、下地層16の金属を含む薄膜16Aを起点として電解めっき法により形成された層でありうる。
【0112】
金属めっき層17を構成する材料の体積抵抗率は、十分な導電性が得られる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1.0×10×10-4Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×10×10-6~1.0×10-9Ω・cmであることがより好ましい。金属めっき層17を構成する材料の体積抵抗率は、ASTM D 991に記載の方法で測定することができる。
【0113】
金属めっき層17を構成する金属は、下地層16上に電解めっきなどにより形成可能なものであればよい。金属めっき層17を構成する金属の例としては、下地層16の金属を含む薄膜16Aを構成する金属の例として挙げたものと同様でありうる。下地層16の金属を含む薄膜16Aを構成する金属と、金属めっき層17を構成する金属とは、同じであってもよいし、異なってもよい。下地層16と金属めっき層17との接着性をより高くしうる観点では、下地層16の金属を含む薄膜16Aを構成する金属と、金属めっき層17を構成する金属とは、同じであることが好ましい。
【0114】
(厚み)
金属めっき層17の厚みは、十分な導電性が得られ、かつ貫通孔12が塞がれたり、シートの弾性変形により剥がれたりしない程度であればよく、特に制限されない。具体的には、金属めっき層17の厚みは、厚み比(T1/(T1+T2))が上記範囲を満たすことが好ましく、例えば0.2~4μmであることが好ましい。金属めっき層17の厚みが0.2μm以上であると、十分な導電性が得られやすく、4μm以下であると、シートの弾性変形によって、金属めっき層17が剥がれたり、金属めっき層17との接触により検査対象物の端子が傷付いたりしにくくしうる。同様の観点から、金属めっき層17の厚みは、例えば0.5~2μmであることがより好ましい。
【0115】
本実施の形態では、金属めっき層17の厚みは、下地層16と同様に、第1面11a(または第2面11b)上では、絶縁層11の厚み方向の厚みをいい、内壁面12c上では、絶縁層11の厚み方向と直交する方向の厚みをいう。
【0116】
1-2-3.共通事項
第1面11a側における導電層13で囲まれた空洞12’の円相当径は、第1面11a側における貫通孔12の開口部の円相当径D1から導電層13の厚み分を差し引いて求められるが、例えば1~330μmでありうる。
【0117】
1-3.第1溝部14および第2溝部15
第1溝部14および第2溝部15は、異方導電性シート10の一方の面および他方の面にそれぞれ形成された溝(凹条)である。具体的には、第1溝部14は、第1面11a上において複数の導電層13の間に配置され、それらの間を絶縁する。第2溝部15は、第2面11b上において複数の導電層13の間に配置され、それらの間を絶縁する。
【0118】
第1溝部14(または第2溝部15)の、延設方向に対して直交する方向の断面形状は、特に制限されず、矩形、半円形、U字型、V字型のいずれであってもよい。本実施の形態では、第1溝部14(または第2溝部15)の断面形状は、矩形である。
【0119】
第1溝部14(または第2溝部15)の幅wおよび深さdは、異方導電性シート10を厚み方向に押圧したときに、第1溝部14(または第2溝部15)を介して一方の側の導電層13と、他方の側の導電層13とが接触しない範囲に設定されることが好ましい。
【0120】
具体的には、異方導電性シート10を厚み方向に押圧すると、第1溝部14(または第2溝部15)を介して一方の側の導電層13と、他方の側の導電層13とが近づいて接触しやすい。したがって、第1溝部14(または第2溝部15)の幅wは、導電層13の厚みよりも大きいことが好ましく、導電層13の厚みに対して2~40倍であることが好ましい。
【0121】
第1溝部14(または第2溝部15)の幅wは、第1面11a(または第2面11b)において、第1溝部14(または第2溝部15)が延設される方向に対して直交する方向の最大幅である(
図2参照)。
【0122】
第1溝部14(または第2溝部15)の深さdは、導電層13の厚みと同じであってもよいし、それよりも大きくてもよい。すなわち、第1溝部14(または第2溝部15)の最深部は、絶縁層11の第1面11aに位置していてもよいし、絶縁層11の内部に位置していていもよい。中でも、第1溝部14(または第2溝部15)を挟んで一方の導電層13と他方の導電層13とが接触しない範囲に設定しやすくする観点から、第1溝部14(または第2溝部15)の深さdは、導電層13の厚みよりも大きいことが好ましく、導電層13の厚みに対して1.5~20倍であることがより好ましい(
図2参照)。
【0123】
第1溝部14(または第2溝部15)の深さdは、絶縁層11の厚み方向と平行な方向において、導電層13の表面から最深部までの深さをいう(
図2参照)。
【0124】
第1溝部14と第2溝部15の幅wおよび深さdは、それぞれ互いに同じであってもよいし、異なってもよい。
【0125】
1-4.効果
本実施の形態の異方導電性シート10では、導電層13は、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17との間に配置された下地層16を有する。下地層16は、バインダーを含むため、適度な柔軟性を有しつつ、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17とを良好に接着させうる。それにより、電気検査時において、異方導電性シート10を、加圧または除圧により繰り返し厚み方向に弾性変形させても、金属めっき層17が剥がれにくい。それにより、電気検査装置の基板と検査対象物との間で十分な電気的接続を行うことができる。
【0126】
また、本実施の形態では、異方導電性シート10は、貫通孔12の内壁面12cだけでなく、絶縁層11の第1面11aおよび第2面11b(または異方導電性シート10の表面)にも導電層13を有する。それにより、電気検査の際に、検査用基板の電極と検査対象物の端子との間に挟んで圧力を加えた場合に、確実に電気的接触を行うことができる。
【0127】
2.異方導電性シートの製造方法
図4A~Fは、本実施の形態に係る異方導電性シート10の製造方法を示す断面模式図である。
【0128】
本実施の形態に係る異方導電性シート10は、例えば1)絶縁シート21を準備する工程(
図4A参照)と、2)絶縁シート21に、複数の貫通孔12を形成する工程(
図4B参照)と、3)複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21の表面に、下地層22を形成する工程と(
図4C参照)、4)下地層22上に金属めっき層23を形成して、導電層24を得る工程と(
図4D参照)、5)絶縁シート21の第1面21a側の一部と第2面21b側の一部とを除去して(
図4E参照)、複数の導電層13を得る工程(
図4F参照)とを経て製造される。
【0129】
1)の工程(絶縁シート準備工程)について
まず、絶縁シート21を準備する。本実施の形態では、前述のエラストマー組成物の架橋物(弾性体層)を含む絶縁シート21を準備する。
【0130】
2)の工程(貫通孔形成工程)について
次いで、絶縁シート21に、複数の貫通孔12を形成する。
【0131】
貫通孔12の形成は、任意の方法で行うことができる。例えば、機械的に孔を形成する方法(例えばプレス加工、パンチ加工)や、レーザー加工法などにより行うことができる。中でも、微細で、かつ形状精度の高い貫通孔12の形成が可能である点から、貫通孔12の形成は、レーザー加工法によって行うことがより好ましい(
図4A参照)。
【0132】
レーザーの媒質は、特に限定されず、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、YAGレーザーのいずれであってもよい。レーザーのバルス幅も、特に限定されず、ピコ秒レーザー、ナノ秒レーザー、フェムト秒レーザーのいずれであってもよく、樹脂を精度良く穿孔しやすい観点から、フェムト秒レーザーが好ましい。
【0133】
なお、レーザー加工では、レーザーが照射される時間が最も長い、絶縁層11のレーザー照射面において、貫通孔12の開口径が大きくなりやすい。つまり、絶縁層11の内部からレーザーの照射面へ向かうにつれて開口径が大きくなるテーパ形状となりやすい。そのようなテーパ形状を低減する観点から、レーザーが照射される面に犠牲層(不図示)をさらに有する絶縁シート21を用いて、レーザー加工を行ってもよい。犠牲層を有する絶縁シート21のレーザー加工方法は、例えば国際公開第2007/23596号の内容と同様の方法で行うことができる。
【0134】
3)の工程(下地層形成工程)について
次いで、複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21の表面全体に、1つの連続した下地層22を形成する(
図4C参照)。具体的には、絶縁シート21の、複数の貫通孔12の内壁面12cと、その開口部の周囲の第1面21aおよび第2面21bとに連続して下地層22を形成する。
【0135】
下地層22の形成は、任意の方法で行うことができる。例えば、絶縁シート21を、バインダーを含む溶液と接触させて、絶縁シート21上にバインダーを付着させた後、金属イオンが溶解した溶液とさらに接触させて、絶縁シート21に付着したバインダー上に金属薄膜を析出させる方法(分子接合法)で行ってもよいし;下地層22は、複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21を、金属ナノ粒子とバインダーとを含む分散液と接触させて形成してもよいし(金属ナノ粒子法)。
【0136】
(分子接合法)
分子接合法では、A)絶縁シート21を、バインダーを含む溶液と接触させて、絶縁シート21上にバインダーを付与する工程と、B)バインダーを付与した絶縁シート21を、金属イオンが溶解した溶液とさらに接触させて、絶縁シート21のバインダー上に金属薄膜を析出させる工程とを経て、下地層16を形成する。それにより、金属を含む薄膜16Aを有する下地層22を得ることができる。
【0137】
A)の工程(バインダー付与工程)について
まず、複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21を、バインダーを含む溶液と接触させる。それにより、絶縁シート21の表面にバインダーを付与する。
【0138】
バインダーを含む溶液は、バインダーを含む水溶液であり、必要に応じて水溶性有機溶剤などをさらに含んでもよい。バインダーは、前述のものを使用することができる。中でも、本方法に使用されるバインダーは、トリアジンチオール系化合物であることが好ましい。バインダーの含有量は、特に制限されないが、貫通孔12の内部にも浸透させやすくする観点などから、水溶液に対して例えば0.01~10質量%程度としうる。
【0139】
バインダーを含む溶液との接触は、前述と同様に、上記溶液を絶縁シート21に噴霧または塗布して行ってもよいし、上記溶液中に絶縁シート21を浸漬して行ってもよい。中でも、絶縁シート21を上記溶液に浸漬することが好ましい。
【0140】
その後、絶縁シート21を溶液から取り出して、乾燥させる。乾燥は、加熱乾燥であってもよい。浸漬条件および乾燥条件は、前述の方法と同様としうる。
【0141】
なお、絶縁シート21とバインダ-との密着性を向上させるために、絶縁シート21とバインダーを含む溶液とを接触させる前に、絶縁シート21の表面および貫通孔12の内壁面12cに、水酸基などの官能基を導入もしくは結合させておくことが好ましい(後述の6)の工程(前処理工程)を参照)。
【0142】
B)の工程(無電解めっき工程)について
次いで、バインダーを付与した絶縁シート21を、金属イオンが溶解した溶液(無電解めっき液)とさらに接触させて、無電解めっきを行う。それにより、絶縁シート21に付与したバインダー上に、金属薄膜を析出させる。
【0143】
なお、金属を含む薄膜16Aを形成しやすくする観点から、無電解めっきを行う前に、活性化処理を行うことが好ましい。
【0144】
(活性化処理)
絶縁シート21を、活性化液に浸漬して、バインダーの硫黄含有基(例えばチオール基)を活性化させる。
【0145】
使用される活性化液は、パラジウム塩、金塩、白金塩、銀塩、塩化スズなどのスズ塩と、アミン錯体とを含む水溶液でありうる。この水溶液に、例えば-SH基と-S-S-基を有する絶縁シート21を浸漬すると、これらの基には、パラジウム、白金および銀などの金属が析出して化学的に結合する(接着する)ため、洗浄しても脱落しにくい。
【0146】
(無電解めっき)
次いで、得られた絶縁シート21を、無電解めっき液と接触させる。無電解めっき液との接触は、例えば無電解めっき液を絶縁シート21に噴霧または塗布して行ってもよいし、無電解めっき液中に絶縁シート21を浸漬して行ってもよい。中でも、絶縁シート21を無電解めっき液に浸漬することが好ましい。
【0147】
無電解めっき液は、金属塩と、還元剤とを含み、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤および改良剤などの補助成分をさらに含んでもよい。
【0148】
金属塩を構成する金属の種類は、金、銀、銅、コバルト、鉄、パラジウム、白金、真鍮、モリブデン、タングステン、パーマロイ、スチール、ニッケルなどとこれらの合金であり、これらの金属塩が単独または混合して使用される。
【0149】
金属塩の具体例には、KAu(CN)2, KAu(CN)4, Na3Au(SO3)2, Na3Au(S2O3)2、NaAuCl4、AuCN、Ag(NH3)2NO3、AgCN、CuSO4・5H2O、CuEDTA、NiSO4・7H2O, NiCl2、Ni(OCOCH3)2、CoSO4、CoCl2、SnCl2・7H2O、PdCl2などを挙げることができる。これらの濃度は、通常、0.001~1mol/Lの範囲でありうる。
【0150】
還元剤は、上記の金属塩を還元して金属を生成する作用を持つものである。還元剤の例には、KBH4、NaB、NaH2PO2、(CH3)2NH・BH3、CH2O、NH2NH2、ヒドロキシルアミン塩、N,N-エチルグリシンなどである。これらの濃度は、通常、通常、0.001~1mol/Lの範囲でありうる。
【0151】
また、無電解めっき液は、上記成分に加えて、無電解めっき液の耐久性を延長させたり、還元効率を高めたりする目的で補助成分をさらに含んでもよい。そのような補助成分の例には、塩基性化合物、無機塩、有機酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、水酸化アンモニア、EDTA、ジアミノエチレン、酒石酸ナトリウム、エチレングリコール、チオ尿素、トリアジンチオール、トリエタノールアミンが含まれる。これら成分の濃度は、0.001~0.1mol/Lでありうる。
【0152】
浸漬条件は、導電性が得られる程度に下地層22を形成可能な条件であればよい。例えば、浸漬温度は、20~50℃とすることができ、浸漬時間は、30分~24時間としうる。
【0153】
その後、絶縁シート21を無電解めっき液から取り出して、乾燥させる。乾燥は、好ましくは加熱乾燥でありうる。加熱乾燥は、金属の酸化を抑制する観点から、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気下で行うことが好ましい。加熱温度は、絶縁シート21にダメージを与えない程度の温度であることが好ましく、例えば50~200℃の温度範囲で、1~180分間行われる。
【0154】
(金属ナノ粒子法)
金属ナノ粒子法では、複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21を、金属ナノ粒子とバインダーとを含む分散液と接触させる。それにより、複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21の表面に、バインダー16Bを介して金属ナノ粒子を付着させて、金属ナノ粒子を含む金属を含む薄膜16Aを形成することができる。
【0155】
金属ナノ粒子とバインダーとを含む分散液は、例えば金属ナノ粒子の分散液と、前述のバインダーとを混合して得ることができる。
【0156】
金属ナノ粒子の分散液は、金属を含む薄膜16Aに対応する金属を含む金属塩と、還元剤と、水とを、必要に応じて加熱下で混合して得ることができる。すなわち、用いられる金属塩や還元剤は、前述の無電解めっき液で使用される金属塩や還元剤と同様のものを使用できる。
【0157】
バインダーは、前述のものを使用することができる。中でも、本方法に使用されるバインダーは、結合性部位を有するアルキルジスルフィド類(例えばチオクト酸やメルカプトペンチルジスルフィドなど)であることが好ましい。
【0158】
上記分散液は、必要に応じて水以外の成分をさらに含んでもよい。水以外の成分の例には、水溶性溶剤(例えばエタノールなどのアルコール類やアセトンなどのケトン類)が含まれる。
【0159】
上記分散液との接触は、前述と同様に、上記分散液を絶縁シート21に噴霧または塗布して行ってもよいし、上記分散液中に絶縁シート21を浸漬して行ってもよいが、絶縁シート21を上記分散液に浸漬することが好ましい。浸漬条件は、前述の方法における無電解めっきにおける浸漬条件と同様としうる。
【0160】
その後、絶縁シート21を上記分散液から取り出して、乾燥させる。乾燥は、好ましくは加熱乾燥でありうる。乾燥条件は、前述の方法における乾燥条件と同様としうる。
【0161】
4)の工程(金属めっき層形成工程)について
次いで、得られた下地層22上に、金属めっき層23を形成する(
図4D参照)。
【0162】
金属めっき層23の形成は、例えば無電解めっき法や電解めっき法などの任意の方法で行うことができる。中でも、下地層22は、表層部分に金属を含む薄膜(
図3の金属を含む薄膜16A参照)を含み、導電性を有することから、当該金属を含む薄膜を起点として電解めっき法により金属めっき層23を形成することが好ましい。それにより、下地層22と、金属めっき層17とを有する導電層24を形成することができる(
図4D参照)。
【0163】
なお、金属を含む薄膜16Aの導電性が不足している場合は、無電解めっき法にて金属めっき薄膜をさらに形成した後、電解めっき法にて、金属めっき層23を形成してもよい。無電解めっき法にて用いる無電解めっき液に用いられる金属塩や還元剤などの各成分は、前述の無電解めっき液と同様としうる。
【0164】
5)の工程(導電層形成工程)について
そして、絶縁シート21の第1面および第2面に、複数の第1溝部14および複数の第2溝部15をそれぞれ形成する(
図4F参照)。それにより、導電層24を、貫通孔12ごとに設けられた複数の導電層13としうる(
図4F参照)。
【0165】
複数の第1溝部14および第2溝部15の形成は、任意の方法で行うことができる。例えば、複数の第1溝部14および複数の第2溝部15の形成は、レーザー加工法により行うことが好ましい。本実施の形態では、第1面11a(または第2面11b)では、複数の第1溝部14(または複数の第2溝部15)は、格子状に形成されうる(
図1A参照)。
【0166】
他の工程について
なお、異方導電性シート10の製造方法は、必要に応じて他の工程をさらに含んでもよい。例えば、2)の工程と3)の工程の間に、6)複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21を前処理する工程をさらに行うことが好ましい。
【0167】
6)の工程(前処理工程)について
複数の貫通孔12が形成された絶縁シート21について、下地層22を形成しやすくするための前処理を行うことが好ましい。
【0168】
具体的には、3)の工程(下地層形成工程)において、バインダーを含む分散液と接触させる前に、バインダーとの密着性を向上させるために、絶縁シート21の表面および貫通孔の内壁面12cに水酸基などの官能基を導入もしくは結合させる処理を行うことが好ましい。この官能基(好ましくは水酸基)の導入もしくは結合は、公知の方法をはじめとして様々な方法として可能である。好適な方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、UV照射処理、イトロ処理の方法がある。
【0169】
中でも、官能基を導入しうるだけでなく、レーザー加工で発生したスミアの除去(デスミア処理)も可能であることなどから、プラズマ処理が好ましく、酸素ガスまたは、酸素/4フッ化炭素混合ガスによるプラズマ処理がより好ましい。具体的には、空気や酸素ガスを、絶縁シート21の貫通孔12にフローさせながら、プラズマ処理を行うことが好ましい。それにより、貫通孔12の内壁面12cが親水化され、下地層22との接着性を一層高めうる。
【0170】
例えば絶縁シート21が、シリコーン系エラストマー組成物の架橋物で構成されている場合、絶縁シート21を酸素プラズマ処理することで、アッシング/エッチングが可能であるだけでなく、シリコーンの表面を酸化し、シリカ膜を形成することができる。シリカ膜を形成することで、めっき液が貫通孔12内に浸入しやすくしたり、導電層22と貫通孔12の内壁面との密着性を高めたりしうる。
【0171】
酸素プラズマ処理は、例えばプラズマアッシャーや高周波プラズマエッチング装置、マイクロ波プラズマエッチング装置を用いて行うことができる。
【0172】
あるいは、下地層22との接着性を高めるために、シランカップリング剤による処理を行ってもよい。使用されるシランカップリング剤は、前述の通りである。それにより、例えば貫通孔12の内壁面12cなどに、シランカップリング剤に由来するアミノ基などの官能基が導入される。それにより、下地層22を形成する際に、バインダーの結合性部位(例えばカルボキシル基を有する部位)とイオン結合としうるため、貫通孔12の内壁面12cなどと下地層22との接着性を一層高めうる。
【0173】
あるいは、絶縁層11を構成するエラストマーや樹脂として、表面に水酸基が存在するような材料を選択してもよい。
【0174】
得られた異方導電性シートは、好ましくは電気検査に用いることができる。
【0175】
3.電気検査装置および電気検査方法
(電気検査装置)
図5は、本実施の形態に係る電気検査装置100の一例を示す断面図である。
【0176】
電気検査装置100は、
図1Bの異方導電性シート10を用いたものであり、例えば検査対象物130の端子131間(測定点間)の電気的特性(導通など)を検査する装置である。なお、同図では、電気検査方法を説明する観点から、検査対象物130も併せて図示している。また、異方導電性シート10の断面図は、
図1Bと同様であることから、その図示は省略する。
【0177】
図5に示されるように、電気検査装置100は、保持容器(ソケット)110と、検査用基板120と、異方導電性シート10とを有する。
【0178】
保持容器(ソケット)110は、検査用基板120や異方導電性シート10などを保持する容器である。
【0179】
検査用基板120は、保持容器110内に配置されており、検査対象物130に対向する面に、検査対象物130の各測定点に対向する複数の電極121を有する。
【0180】
異方導電性シート10は、検査用基板120の電極121が配置された面上に、当該電極121と、異方導電性シート10における第2面11b側の導電層13とが接するように配置されている。
【0181】
検査対象物130は、特に制限されないが、例えばHBMやPoPなどの各種半導体装置(半導体パッケージ)または電子部品、プリント基板などが挙げられる。検査対象物130が半導体パッケージである場合、測定点は、バンプ(端子)でありうる。また、検査対象物130がプリント基板である場合、測定点は、導電パターンに設けられる測定用ランドや部品実装用のランドでありうる。
【0182】
(電気検査方法)
図5の電気検査装置100を用いた電気検査方法について説明する。
【0183】
図5に示されるように、本実施の形態に係る電気検査方法は、電極121を有する検査用基板120と、検査対象物130とを、異方導電性シート10を介して積層して、検査用基板120の電極121と、検査対象物130の端子131とを、異方導電性シート10を介して電気的に接続させる工程を有する。
【0184】
上記工程を行う際、検査用基板120の電極121と検査対象物130の端子131とを、異方導電性シート10を介して十分に導通させやすくする観点から、必要に応じて、検査対象物130を押圧するなどして加圧したり、加熱雰囲気下で接触させたりしてもよい。
【0185】
前述の通り、異方導電性シート10は、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17との間に配置された下地層16を有する。下地層16は、貫通孔12の内壁面12cと金属めっき層17とを良好に接着させうる。それにより、電気検査時において、異方導電性シート10が、加圧または除圧により、繰り返し厚み方向に弾性変形しても、金属めっき層17が剥がれないようにすることができる。それにより、電気検査装置の基板と検査対象物との間で十分な電気的接続を行うことができる。
【0186】
また、本実施の形態では、異方導電性シート10は、貫通孔12の内壁面12cだけでなく、絶縁層11の第1面11aおよび第2面11b(または異方導電性シート10の表面)にも導電層13を有する。それにより、電気検査の際に、検査用基板の電極と検査対象物の端子との間に挟んで圧力を加えた場合に、確実に電気的接触を行うことができる。
【0187】
[変形例]
なお、上記実施の形態では、
図1に示される異方導電性シート10の例で説明したが、これに限定されない。
【0188】
図6AおよびBは、他の実施の形態に係る異方導電性シート10を示す部分断面図である。すなわち、上記実施の形態では、導電層13は、絶縁層11の第1面11aと第2面11bの両方に配置される例を示したが(
図1B参照)、これに限定されず、絶縁層11の第1面11aのみに配置されてもよい(
図6A参照)。
【0189】
また、上記実施の形態では、絶縁層11全体が、弾性体層である例を示したが、これに限定されず、弾性変形しうる範囲で、他の層をさらに有してもよい。例えば、絶縁層11は、第1面11a(または第2面11b)を含む弾性体層11Aと、第2面11b(または第1面11a)を含む耐熱性樹脂層11Bとを有してもよい(
図6B参照)。
【0190】
(耐熱性樹脂層11B)
耐熱性樹脂層11Bは、耐熱性樹脂組成物で構成される。
【0191】
耐熱性樹脂層11Bを構成する耐熱性樹脂組成物は、弾性体層11Aを構成するエラストマー組成物の架橋物よりも高いガラス転移温度を有することが好ましい。具体的には、電気検査は、約-40~150℃で行われることから、耐熱性樹脂組成物のガラス転移温度は、150℃以上であることが好ましく、150~500℃であることがより好ましい。耐熱性樹脂組成物のガラス転移温度は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0192】
また、耐熱性樹脂層11Bを構成する耐熱性樹脂組成物は、弾性体層11Aを構成するエラストマー組成物の架橋物よりも低い線膨脹係数を有することが好ましい。具体的には、耐熱性樹脂層11Bを構成する耐熱性樹脂組成物の線膨脹係数は、60ppm/K以下であることが好ましく、50ppm/K以下であることがより好ましい。
【0193】
また、耐熱性樹脂層11Bは、例えば無電解めっき処理などにおいて薬液に浸漬されるため、これらを構成する耐熱性樹脂組成物は、耐薬品性を有することが好ましい。
【0194】
また、耐熱性樹脂層11Bを構成する耐熱性樹脂組成物は、弾性体層11Aを構成するエラストマー組成物の架橋物よりも高い貯蔵弾性率を有することが好ましい。
【0195】
耐熱樹脂組成物11Bの組成は、ガラス転移温度、線膨脹係数または貯蔵弾性率が上記範囲を満たし、かつ耐薬品性を有するものであればよく、特に制限されない。耐熱性樹脂組成物に含まれる樹脂の例には、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのエンジニアリングプラスチック、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂が含まれる。耐熱性樹脂組成物は、必要に応じてフィラーなどの他の成分をさらに含んでもよい。
【0196】
耐熱性樹脂層11Bの厚みTbは、特に制限されないが、絶縁層11の弾性が損なわれにくくする観点では、弾性体層11Aの厚みTaよりも薄いことが好ましい(
図6B参照)。具体的には、耐熱性樹脂層11Bの厚みTbと弾性体層11Aの厚みTaとの比(Tb/Ta)は、例えば5/95~30/70であることが好ましく、10/90~20/80であることがより好ましい。耐熱性樹脂層11Bの厚みの割合が一定以上であると、絶縁層11の弾性(弾性変形しやすさ)を損なわない程度に、絶縁層11に適度な硬さ(コシ)を付与できる。それにより、ハンドリング性を高めることができるだけでなく、絶縁層11の伸縮などによって導電層13が破壊されたり、熱によって複数の貫通孔12の中心間距離が変動したりするのを抑制できる。
【0197】
このように、
図6Bの異方導電性シート10では、絶縁層11は、弾性が高い弾性体層11Aと、耐熱性が高い(または線膨脹係数が低い)耐熱性樹脂層11Bとを有する。そのため、絶縁層11の弾性(弾性変形しやすさ)を損なわない程度に、絶縁層11に適度な硬さ(コシ)を付与できる。それにより、ハンドリング性を高めることができるだけでなく、熱による絶縁層11の伸縮などによって導電層13が破壊されたり、熱によって複数の貫通孔12の中心間距離が変動したりするのを抑制できる。
【0198】
弾性体層11A、耐熱性樹脂層11Bは、それぞれ1層であってもよいし、2層以上あってもよい。また、接着層(不図示)なども含まれてもよい。
【0199】
図7Aは、他の実施の形態に係る異方導電性シートを示す平面図であり、
図7Bは、
図7Aの異方導電性シートの7B-7B線の部分拡大断面図である。
【0200】
すなわち、上記実施の形態では、導電層13は、貫通孔12の内壁面12cだけでなく、絶縁層11の第1面11aおよび第2面11bにも配置される例を示したが(
図1B参照)、これに限定されず、貫通孔12の内壁面12cのみに配置されてもよい(
図7B参照)。その場合、隣り合う2つの貫通孔12は、互いに絶縁されることから、第1溝部14および第2溝部15は、いずれも不要である。
【0201】
また、上記実施の形態では、異方導電性シートを電気検査に用いる例を示したが、これに限定されず、2つの電子部材間の電気的接続、例えばガラス基板とフレキシブルプリント基板との間の電気的接続や、基板とそれに実装される電子部品との間の電気的接続などに用いることもできる。
【0202】
本出願は、2020年1月31日出願の特願2020-015630に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明によればシートの厚み方向の弾性変形に伴う導電層の剥がれを抑制でき、電気検査装置の基板と検査対象物との間で十分な電気的接続を行うことができる異方導電性シート、電気検査装置および電気検査方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0204】
10 異方導電性シート
11 絶縁層
11a 第1面
11b 第2面
11A 弾性体層
11B 耐熱性樹脂層
12 貫通孔
12c 内壁面
13、24 導電層
14 第1溝部
15 第2溝部
16、22 下地層
17、23 金属めっき層
21 絶縁シート
100 電気検査装置
110 保持容器
120 検査用基板
121 電極
130 検査対象物
131 (検査対象物の)端子