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特許7367088熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/58 20060101AFI20231016BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231016BHJP
   B29D 7/01 20060101ALI20231016BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20231016BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20231016BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B29C43/58
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29D7/01
B29C43/34
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022013574
(22)【出願日】2022-01-31
(65)【公開番号】P2023111633
(43)【公開日】2023-08-10
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 充
(72)【発明者】
【氏名】下津 太年
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/225678(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0200801(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートにおいて、前記熱伝導性フィラーが、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向していて、
前記熱伝導性フィラーが、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びカーボンファイバーからなる群から選択される1種以上であり、
熱伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、前記熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、前記熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)が10以下であり、
スカイブ加工された熱伝導性シート。
【請求項2】
前記熱伝導性フィラーが、鱗片状、針状又は繊維状の形状を有する、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が、10以上である、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記バインダーが、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素ゴム、及びシリコーンゴムからなる群から選択される1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及びテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群から選択される1種以上である、請求項4に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
厚さ方向の熱伝導率が3.00(W/m・K)以上である、請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
長尺状のシートである、請求項1~6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
フッ素樹脂を主として含むバインダー及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートであって、
前記熱伝導性フィラーが、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びカーボンファイバーからなる群から選択される1種以上であり、
熱伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、前記熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、前記熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)が10以下である、熱伝導性シート。
【請求項9】
(1)バインダー及び熱伝導性フィラーを含む原料組成物を加圧成形して成形体を形成する工程と、
(2)前記成形体の外周面を、前記加圧成形の成形方向に対して垂直方向に切削するスカイブ加工処理を行う工程と、を含み、
前記熱伝導性フィラーが、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びカーボンファイバーからなる群から選択される1種以上であり
伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、前記熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、前記熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)を10以下に調整する、熱伝導性シートの製造方法。
【請求項10】
ヒートシンク部材上に、請求項1~8のいずれかに記載の熱伝導性シートを介して半導体素子が搭載されてなる、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンの高性能化や、電気自動車等に用いられるインバーター等の需要増加に伴い、パワーモジュールの需要が増加しており、発熱量の高い半導体と放熱用ヒートシンクの間を繋ぐ熱伝導材(TIM:Thermal InterfaceMaterial)の重要性が高まっている。
これらのパワーモジュールに用いられる半導体基材としては、従来から用いられてきたSiに代わり、次世代半導体基材であるSiCやGaN、Ga23が注目されており、モジュールとしての耐熱設定温度を、これまでの100℃以下から300℃以上の温度に設定することが可能となっている。
【0003】
熱伝導材としては、例えばグリス系熱伝導材、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の接着剤系熱伝導材、シリコーンゴム、アクリルゴム等のシート系熱伝導材が知られている。しかしながら、これらの熱伝導材の殆どが、耐熱温度が180℃以下と低い値にとどまるため、熱伝導材としてより優れた耐熱性、熱伝導性を有するものが求められている。
【0004】
例えばグラファイト(黒鉛)や窒化ホウ素等の無機材料は、高い熱伝導率を有するため、熱伝導材用のフィラーとして使用されている。
しかしながら、これらの熱伝導性フィラーは一般に、層状の結晶構造を有するため、バインダーと混合してプレス成形、ロール成形等の通常の成形方法によりシート状に成形すると、フィラーがシート面に沿って水平方向に配向する(例えば特許文献1参照)。このため、熱伝導性フィラーを含む熱伝導材は、面方向の熱伝導性には優れるものの、厚さ方向の熱伝導性に劣るという問題がある。
【0005】
シートの厚さ方向にフィラーを配向させる方法として、例えば、短繊維に高電圧を印加して基材に直立させた状態で、バインダー樹脂を含浸させて硬化させる方法(特許文献2参照)、熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物をギャップに導入した後、ギャップの他端部から連続的に押出すことにより、帯状に折り畳まれた熱伝導性樹脂成形品を作製し、熱伝導性フィラーの配向方向に対して垂直方向にスライス加工する方法(特許文献3参照)、黒鉛層と樹脂層を一方向に二層以上で積層、接着して得られた積層体を、厚さ方向に垂直に又は角度をつけて切断する方法(特許文献4参照)が開示されている。
【0006】
特許文献2に開示の方法では、高電圧印加時に、バインダー樹脂中でフィラーが移動できる程度に当該バインダー樹脂が低粘度を保つ必要があるため、例えばPTFE等の、溶融粘度が高粘度となり易い樹脂の適用が困難である。
特許文献3に開示の方法では、熱伝導性樹脂成形品の厚さ方向の中央領域を切り出して使用するため、歩留まりが悪く、また当該方法を実施するのに高い技術を要するため、長尺のシートや大サイズのシートを作製することは実質上困難であり、量産には適しない。
特許文献4に開示の方法では、黒鉛粒子を含有する層を多数積層して接着する必要があり、得られた積層体を切断する際には、積層方向に対して所定の方向となるように切断方向を都度調整する必要があるため、手間やコストが増大し易い。また、特許文献4の方法では、上述した積層工程や切断工程を考慮すると、長尺のシートや大サイズのシートを作製することは実質上困難であり、量産には適しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-137562号公報
【文献】国際公開第2014-203955号
【文献】国際公開第2017-135237号
【文献】特開2009-055021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、シートの厚さ方向の熱伝導性に優れ、また量産に適した熱伝導性シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の熱伝導性シート等が提供される。
1.バインダー及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートにおいて、前記熱伝導性フィラーが、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向している、スカイブ加工された熱伝導性シート。
2.前記熱伝導性フィラーが、グラファイト、六方晶窒化ホウ素、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びカーボンファイバーからなる群から選択される1種以上である、1に記載の熱伝導性シート。
3.前記熱伝導性フィラーが、鱗片状、針状又は繊維状の形状を有する、1又は2に記載の熱伝導性シート。
4.前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が、10以上である、1~3のいずれかに記載の熱伝導性シート。
5.前記バインダーが、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素ゴム、及びシリコーンゴムからなる群から選択される1種以上である、1~4のいずれかに記載の熱伝導性シート。
6.前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及びテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群から選択される1種以上である、5に記載の熱伝導性シート。
7.熱伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、前記熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、前記熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)が10以下である、1~6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
8.厚さ方向の熱伝導率が3.00(W/m・K)以上である、1~7のいずれかに記載の熱伝導性シート。
9.長尺状のシートである、1~8のいずれかに記載の熱伝導性シート。
10.フッ素樹脂を主として含むバインダー及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートであって、熱伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、前記熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、前記熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)が10以下である、熱伝導性シート。
11.(1)バインダー及び熱伝導性フィラーを含む原料組成物を加圧成形して成形体を形成する工程と、(2)前記成形体の外周面を、前記加圧成形の成形方向に対して垂直方向に切削するスカイブ加工処理を行う工程と、を含む熱伝導性シートの製造方法。
12.ヒートシンク部材上に、1~10のいずれかに記載の熱伝導性シートを介して半導体素子が搭載されてなる、半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シートの厚さ方向の熱伝導性に優れ、また量産に適した熱伝導性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の熱伝導性シートの製造方法の一実施形態を説明する概略図である。
図2】シートBの説明図である。
図3】実施例1で得られた熱伝導性シートの表面のSEM画像である。
図4】実施例3で得られた熱伝導性シートの表面のSEM画像である。
図5】(a)は、実施例1の熱伝導性シートのX線回折スペクトルであり、(b)は、比較例1の熱伝導性シートのX線回折スペクトルである。
図6】(a)は、実施例2の熱伝導性シートのX線回折スペクトルであり、(b)は、比較例2の熱伝導性シートのX線回折スペクトルである。
図7】(a)は、実施例3の熱伝導性シートのX線回折スペクトルであり、(b)は、比較例3の熱伝導性シートのX線回折スペクトルである。
図8】(a)は、実施例4の熱伝導性シートのX線回折スペクトルであり、(b)は、比較例4の熱伝導性シートのX線回折スペクトルである。
図9】(a)は、実施例5の熱伝導性シートのX線回折スペクトルであり、(b)は、比較例5の熱伝導性シートのX線回折スペクトルである。
図10】参考例1の熱伝導性シートのX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0013】
[熱伝導性シート]
(第一の態様)
本発明の第一の態様に係るシートは、バインダー及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートにおいて、前記熱伝導性フィラーが、前記熱伝導性シートの厚さ方向に配向している、スカイブ加工された熱伝導性シートである。
本明細書において、シートとは、厚みに関わらず、平面をなす一面とその裏面である他面を有するものをいい、帯状、平板状等の形状で構成されることができ、例えば、フィルム、テープを含む。
【0014】
図1は、本発明の熱伝導性シートの製造方法の一実施形態を説明する概略図である。
スカイブ加工とは、スカイビング加工とも呼ばれる手法であり、図1(c)に示すように、原料組成物を加圧成形して得られる成形体5を回転させながら、成形体5の表面に切削刃6を当てて薄く連続的にシートを削り出す方法をいう。以下の説明では、当該加工処理をスカイブ加工処理と示す。
また、以下の説明では、スカイブ加工により削り出されたシートにおいて、切削刃6により切削された面50a、50bをスカイブ加工面という(図1(c)参照)。成形体5の外周面を一面に有して切り出された部分は、通常、製品としては除かれることに鑑み、スカイブ加工面とは典型的にはシートの両平面をいう。
また、以下の説明において、図1中矢印Sで示す方向をスカイブ加工方向という。
【0015】
本態様の熱伝導性シートを製造する製造方法では、熱伝導性フィラーとして例えば形状異方性を有するフィラーを用いたときに、原料組成物を加圧成形して得られる成形体5の内部において、加圧成形時の加圧方向P(図1(a)参照)に垂直な方向(即ち、押圧面3a、3bに平行な方向)にフィラーが配向した状態を得られ易い。
このような成形体5の外周面を、加圧方向Pに対して垂直方向に切削刃6を進行させるようにスカイブ加工処理することで(図1(c)参照)、フィラーがシートの厚さ方向に配向した熱伝導性シートを得ることができる。これにより、熱伝導性シートの面方向と比較して、厚さ方向により高い熱伝導率を示す熱伝導性シートを得ることができる。
また、本態様の熱伝導性シートによれば、例えば複数枚のシートを積層して所定の方向で切断する等の煩雑な作業を行うことなく、簡便な方法により、シートの厚さ方向に良好な熱伝導性を示すシートを得られるため、量産に適している。
【0016】
本明細書において、熱伝導性フィラーが「シートの厚さ方向に配向」しているとは、熱伝導性フィラーがシートの厚みに対して完全に平行且つシート面に対して完全に垂直である必要はなく、熱伝導性フィラーがシートの面方向よりも厚み方向に配向していると言える範囲で配向していればよい。
【0017】
本明細書において、シートがスカイブ加工されたものであること、換言すれば、シートがスカイブ加工によって得られたものであることは、以下のようにして特定することができる。
シート平面にスカイブ加工の加工痕が残っている場合は、当該加工痕の存在により、シートがスカイブ加工により得られたものであると特定できる。スカイブ加工の加工痕とは、スカイブ加工面に形成された、スジ形状の合成樹脂の樹脂片をいう。具体的には、加工痕は、スカイブ加工面であるシート平面において、合成樹脂の樹脂片がシート平面の空隙(シート平面において陥没した部分)に架設された態様をいい、当該空隙上の樹脂片と、当該樹脂片により画定される空隙とをいう。換言すれば、加工痕とは、シート平面の空隙上において所定の方向に伸長するスジ形状の合成樹脂の樹脂片と、当該樹脂片により画定される空隙をいう。
【0018】
(第二の態様)
本発明の第二の態様に係るシートは、フッ素樹脂を主として含むバインダー及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートであって、熱伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、前記熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、前記熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)が10以下である、熱電導性シートである。
【0019】
第二の態様に係る熱伝導性シートは、バインダーとして、フッ素樹脂を主として含むものを用いる点、及び、回折ピーク強度比(I002/I110)が10以下である点を除いて、第一の態様に係る熱伝導性シートと同様である。
【0020】
以下の説明において、「フッ素樹脂を主として含むバインダー」とは、バインダーの全量に対して、フッ素樹脂が占める割合が30質量%以上であるものをいう。
第二の態様に係る熱伝導性シートは、バインダーとしてフッ素樹脂を主として含むものを用いることで、熱伝導シートが優れた耐熱性を示す。
また、第二の態様に係る熱伝導性シートは、回折ピーク強度の比(I002/I110)が10以下であり、後述するように、熱伝導性フィラーがシートの厚さ方向に配向しているため、熱伝導性シートの面方向と比較して、厚さ方向により高い熱伝導率を示す。
【0021】
第二の態様に係る熱伝導性シートについて、フッ素樹脂の種類、フッ素樹脂以外のバインダー成分の種類、熱伝導性フィラーの種類、形状、及び熱伝導性フィラー以外の充填剤の種類、並びに、これらの中で好適に用いられるものについては、それぞれ、後述の熱伝導性シートの製造方法において挙げるものと同様のものを挙げることができる。
また、第二の態様に係る熱伝導性シートにおける、熱伝導性フィラーの平均粒子径及びアスペクト比の範囲については、それぞれ、後述の熱伝導性シートの製造方法において説明するのと同様の範囲とすることができる。
また、第二の態様に係る熱伝導性シートにおける、バインダーと熱伝導性フィラーとの含有比率、熱伝導性フィラーの含有割合、及びバインダーの含有割合の範囲は、それぞれ、後述の熱伝導性シートの製造方法において用いる原料組成物における、バインダーと熱伝導性フィラーとの混合比率、熱伝導性フィラーの含有割合、及びバインダーの含有割合と同様の範囲とすることができる。
【0022】
[熱伝導性シートの製造方法]
以下に本発明の熱伝導性シートの製造方法について説明する。
本発明の第一の態様に係る熱伝導性シートの製造方法は、下記工程(1)及び(2)を含む。
(1)バインダー及び熱伝導性フィラーを含む原料組成物を加圧成形して成形体を形成する工程
(2)成形体の外周面を、加圧成形の成形方向に対して垂直方向に切削するスカイブ加工処理を行う工程
【0023】
一実施形態に係る熱伝導性シートの製造方法は、下記(a)~(d)の工程を含む:
(a)バインダー及び熱伝導性フィラーを含む原料組成物を準備する工程
(b)原料組成物を加圧成形して成形体を形成する工程
(c)成形体を焼成する工程
(d)焼成した成形体の外周面を、加圧成形の成形方向に対して垂直な方向に切削してシート状にするスカイブ加工処理を行う工程
【0024】
(工程(a))
<バインダー>
バインダーとしては、一般に用いられているものを特に限定なく使用できるが、例えばフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン等の合成樹脂、フッ素ゴム、シリコーンゴム、合成ゴム等のエラストマー、粘土、無機接着剤等の無機材料等が挙げられる。
バインダーとしては、上述したものを一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、熱伝導性シートとしたときに優れた耐熱性を得る観点から、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリイミド、又はシリコーン樹脂を好適に使用できる。
【0025】
フッ素樹脂としては、一般に用いられているものを特に限定なく使用できるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、テトラフルオロエチレンの単独重合体である。
【0026】
また、フッ素樹脂としては、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)を用いてもよい。変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)は、パーフルオロアルキルビニルエーテルで変性されたポリテトラフルオロエチレンである。
上記パーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、下記式(1)で表されるパーフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
CF=CF-OR (1)
(式(1)中、Rは炭素数1~10(好ましくは炭素数1~5)のパーフルオロアルキル基、又は下記式(2)で表されるパーフルオロ有機基である。)
【化1】
(式(2)中、nは1~4の整数である。)
【0027】
式(1)の炭素数1~10のパーフルオロアルキル基としては、例えばパーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、好ましくはパーフルオロプロピル基である。
【0028】
PTFE及び変性PTFE以外のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
【0029】
<熱伝導性フィラー>
熱伝導性フィラーとしては、グラファイト(黒鉛)、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、六方晶窒化ホウ素、ダイアモンド、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、銅、アルミニウム、銀、金等の比較的高い熱伝導性を有する金属等を単独で、若しくは2種類以上を併せて使用することができる。
中でも、熱伝導性及び取り扱い性の観点から、グラファイト、六方晶窒化ホウ素が好ましい。
【0030】
熱伝導性フィラーの形状は、特に限定されず、鱗片状、針状、繊維状、板状、扁平状、塊状、又は球状等が挙げられる。
中でも優れた熱伝導性を得る点から、鱗片状、針状、及び繊維状が好ましい。鱗片状、針状、及び繊維状の熱伝導性フィラーは、アスペクト比が比較的高いため、後述する工程(b)~(d)を行って熱伝導性シートとしたときに、シートの厚さ方向に配向する熱伝導性フィラーにより、シートの厚さ方向について優れた熱伝導性を得ることができる。
【0031】
熱伝導性フィラーの平均粒子径は、1μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、40μm以上、100μm以上、200μm以上、300μm以上、又は500μm以上であってもよく、また2000μm以下、1000μm以下、800μm以下、又は700μm以下であってもよい。
熱伝導性フィラーの平均粒子径が1μm以上であることにより、後述する工程(b)~(d)を行って熱伝導性シートとしたときに、シートの厚さ方向について優れた熱伝導性を得ることができる。
また、平均粒子径が2000μm以下であることにより、後述する工程(d)(スカイブ加工処理工程)時における、シートの割れや欠けを抑制することができ、得られるシートが機械的強度及び外観に優れる。
【0032】
本明細書において、熱伝導性フィラーの平均粒子径とは、体積粒度分布において、粒子径の小さいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)をいう。
熱伝導性フィラーの平均粒子径の測定方法は、実施例で詳しく説明する。
【0033】
熱伝導性フィラーのアスペクト比は、1以上、5以上、8以上、10以上、20以上、30以上、50以上、又は60以上であってもよい。
熱伝導性フィラーのアスペクト比が1以上であることにより、後述する工程(b)~(d)を行って熱伝導性シートとしたときに、シートの厚さ方向について優れた熱伝導性を得ることができる。
熱伝導性フィラーのアスペクト比の上限は、特に限定されないが、通常、100000以下であってもよい。
本明細書において、アスペクト比とは、熱伝導性フィラーの最大長さの最小長さ(最大長さに対して垂直方向)に対する比(最大長さ/最小長さ)をいう。例えば、熱伝導性フィラーの形状が板状である場合、アスペクト比は、熱伝導性フィラーの最大長さの、厚みに対する比(最大長さ/厚み)をいう。
熱伝導性フィラーのアスペクト比の測定方法は、実施例で詳しく説明する。
【0034】
熱伝導性フィラーが例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー等の繊維状の形状を有するものである場合、平均繊維径は1nm~1μmであってもよく、10nm~500nmであってもよい。また、熱伝導性フィラーが繊維状である場合のアスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は、シートの厚さ方向に良好な熱伝導性を得る観点から、10以上、50以上、又は100以上であってもよい。また、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)の上限は特に限定されないが、例えば100000以下であってもよい。
繊維状の熱伝導性フィラーの平均繊維径は、走査型電子顕微鏡で観察したときの、所定の視野内の複数本の熱伝導性フィラーの繊維径を測定し、得られた測定値を測定した本数で算術平均して算出することができる。また、平均繊維長も平均繊維径と同様にして算出することができる。
【0035】
一実施形態において、原料組成物における、バインダーと熱伝導性フィラーとの混合比率は、質量比で、バインダー:熱伝導性フィラー=10:90~90:10であってもよく、30:70~70:30であってもよい。
バインダーと熱伝導性フィラーとの混合比率を上記範囲とすることで、後述する工程(b)~(d)を行って熱伝導性シートとしたときに、シートの厚さ方向に良好な熱伝導性を得ることができ、また、当該シートが良好な外観及び機械的強度を有する。
【0036】
一実施形態において、原料組成物に含まれる熱伝導性フィラーの含有割合は、10質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、45質量%以上、又は50質量%以上であってもよく、90質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、55質量%以下、又は45質量%以下であってもよい。
原料組成物全体に占める熱伝導性フィラーの含有割合が10質量%以上であることにより、後述する工程(b)~(d)を行って熱伝導性シートとしたときに、シートの厚さ方向に良好な熱伝導性を得ることができる。
また、原料組成物全体に占める熱伝導性フィラーの含有割合が90質量%以下であることにより、後述するスカイブ加工(工程(d))時における、シートの割れや欠けを抑制することができ、得られるシートが機械的強度及び外観に優れる。
【0037】
一実施形態において、原料組成物に含まれるバインダーの含有割合は、10質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、45質量%以上、又は50質量%以上であってもよく、90質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、55質量%以下、又は45質量%以下であってもよい。
バインダーと熱伝導性フィラーとの混合比率を上記範囲とすることで、後述する工程(b)~(d)を行って熱伝導性シートとしたときに、シートの厚さ方向に良好な熱伝導性を得ることができ、また、良好な外観及び機械的強度を得ることができる。
【0038】
<その他充填材>
一実施形態において、原料組成物はさらに熱伝導性フィラー以外の充填材を含んでもよい。当該充填材としては、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、ガラスファイバー、ガラスビーズ、マイカが挙げられる。これら充填材は、1種又は2種以上を使用できる。
【0039】
原料組成物中に、熱伝導性フィラー以外の充填材として、酸化チタン、硫酸バリウム、ガラスファイバー、ガラスビーズ及びマイカから選択される1種以上を含む場合、その含有量は、例えば0.5~50質量%であり、好ましくは1~35質量%である。なお、シート中には必ずしも、熱伝導性フィラー以外の充填剤を含んでいなくてもよい。
【0040】
一実施形態において、原料組成物は、例えば、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上、又は100質量%が、
バインダー及び熱伝導性フィラー;
及び任意に酸化チタン、ガラスファイバー、ガラスビーズ及びマイカから選択される1種類以上の熱伝導性フィラー以外の充填材からなってもよい。
【0041】
(工程(b))
上記原料組成物1を金型2に充填して、加圧成形することにより圧縮して、加圧成形体を形成する(図1(a)参照)。面圧は、1~200MPaであってもよく、20~150MPaであってもよく、30~100MPaであってもよい。
図1(a)では、成形体の上面側及び下面側から押圧する例を示したが、成形体の上面側からのみ、又は下面側からのみ押圧することにより加圧してもよい。
このように原料組成物1を加圧成形することで、熱伝導性フィラーが所定の方向に配向した状態で、原料組成物1が圧縮された加圧成形体が得られる。
原料組成物1に含まれる熱伝導性フィラーは、工程(b)において加圧成形する原料組成物1の体積が大きい程、加圧成形後に得られる成形体中において、高い配向性を示し易い。
【0042】
工程(b)は、必ずしも工程(c)の前に行わなくてもよく、例えば工程(c)と同時に行ってもよい。但し、原料組成物1のバインダーとして、例えばPTFEや変性PTFEのように、溶融状態で高粘度を示すために溶融成形が困難な樹脂を用いる場合、又はバインダーとして、粘土や無機接着剤等の無機材料のように溶融状態とすることが困難な材料を用いる場合には、工程(c)の前に工程(b)を行うことが好ましい。
【0043】
(工程(c))
得られた加圧成形体を焼成し、成形体(ビレット)5を得る(図1(b)参照)。焼成温度は100~400℃であってもよく、350~370℃であってもよく、360~370℃であってもよい。
【0044】
原料組成物1のバインダーとして、例えばPFA等の溶融成形が可能な樹脂、又はフッ素ゴム等のエラストマーを用いる場合は、原料組成物1を金型内部に充填したまま加熱して、溶融状態とするか若しくは加熱焼成した後、必要に応じて冷却することで硬化させるか、又は原料組成物1を金型内部に充填したまま加熱して化学反応させることにより硬化させることが好ましい。その場合には、必ずしも工程(c)の前に加圧成形(工程(b))を行わなくてもよく、工程(c)において、金型2内部を加熱した状態で、熱プレスにより金型2内部の原料組成物1を加圧成形(工程(b))してもよい(図1(a)参照)。
【0045】
例えば原料組成物1のバインダー成分として、PFAを用いる場合、原料組成物1を金型2に充填し、PFAの融解温度(300℃)以上の温度に加熱して原料組成物1を溶融状態とした後、熱プレスにより金型内部の原料組成物1を加圧成形する(図1(a)参照)。
熱プレスによる加圧成形を行う際の面圧は、1~200MPaであってもよく、20~150MPaであってもよく、30~100MPaであってもよい。
溶融状態の原料組成物1を熱プレスにより加圧成形することで、当該原料組成物1中で、熱伝導性フィラーが所定の方向に配向した状態とすることができる。
次いで、加圧状態を維持したまま金型2内部を冷却し、溶融状態の原料組成物1を硬化させた後、脱型することにより、成形体5を形成する(図1(b)参照)。これにより、熱伝導性フィラーが所定の方向に配向した成形体5が得られる。
【0046】
なお、原料組成物1のバインダー成分として、PFA等の溶融成形可能な樹脂やフッ素ゴム等のエラストマーを用いる場合には、前述したように、工程(c)において、熱プレスにより金型2内の原料組成物1の加圧成形(工程(b))を行うことが好ましいが、必ずしも必須ではない。
例えば、工程(c)の前に予め、原料組成物1の加圧成形(工程(b))を行う場合には、原料組成物1のバインダーとして前述した溶融成形可能な樹脂やエラストマーを用いる場合であっても、必ずしも工程(c)において、熱プレスによる加圧成形を行わなくてもよい。
【0047】
後述するスカイブ加工の行い易さの点から、ビレット(成形体)の形状は、好ましくは円筒状である。ビレット(成形体)が円筒体である場合、当該円筒体の直径は、例えば10~20000mmであってもよく、100~500mmであってもよい。
【0048】
なお、工程(c)は、必ずしも必須ではなく、例えばPTFEや変性PTFEのように溶融成形が困難な樹脂や、無機材料のように溶融状態とすることが困難な材料をバインダーとして含む原料組成物1を用いる場合に、工程(b)で原料組成物1を高圧で加圧成形することで、バインダーと熱伝導性フィラーとを一体成形できる場合には、必ずしも工程(c)を行わなくてもよい。
また、前述したように、工程(c)は、必ずしも工程(b)の後で行わなくてもよく、例えば工程(b)と同時に行ってもよい。
【0049】
また、原料組成物1に配合する樹脂の種類によっては、原料組成物1を金型内部に充填したまま加熱することなく、常温で化学反応させることにより硬化させて成形体(ビレット)5を得ることが可能である。その場合には、工程(c)は、必ずしも必須ではない。また、その場合には、原料組成物1は、例えば金型内に充填されて密閉されることにより加圧成形されればよく、必ずしも上述した面圧範囲で押圧することにより加圧成形しなくてもよい。
【0050】
(工程(d))
次に、焼成した成形体5(ビレット)の外周面を切削してシート状にするスカイブ加工処理を行う(図1(c)参照)。
スカイブ加工処理は、工程(b)で行った加圧成形の成形方向Pに対して垂直な方向に切削刃6を進行させることにより、成形体5の外周面を切削する。
成形体5(ビレット)の内部では、工程(b)の加圧成形により、熱伝導性フィラーが所定の方向に配向しているため、当該成形体5(ビレット)から外周面に沿ってシートを削り取ることで、熱伝導性フィラーが厚さ方向に配向したシートが得られる。
【0051】
成形体5(ビレット)が円筒体である場合、焼成した円筒体の長手方向外周表面を切削してシート状にする工程を実施する前に、焼成した円筒体の外周表面、内周表面及び端面表面をそれぞれ表面外側から3mmまでの厚みを除去してもよい。
【0052】
焼成した円筒体の長手方向外周表面を切削してシート状にするスカイブ加工工程は図1(c)に示す装置を用いて実施できる。切削して得られるシートの厚さは、例えば0.01~1mmであってよく、0.01~0.5mmであってもよい。
図1(c)において、焼成した成形体5(ビレット)を回転させ、切削刃6で切削することにより、熱伝導性シート(シートA)が得られる。切削刃6の幅や成形体の寸法により、熱伝導性シート幅(例えば、1mm~100mm)を調整することができる。
【0053】
本発明の製造方法によれば、長尺状に長い一連のシートとして熱伝導性シートを製造することができる。
得られる熱伝導性シートの長さは特に限定されないが、例えば5m~100m以上のシートを得ることが可能である。
【0054】
以上説明した本発明の製造方法により得られる熱伝導性シートは、加圧成形の成形方向に対して垂直方向に切削刃を進行させて切削するスカイブ加工処理を行って得られたことにより、シートの面方向に対して、厚さ方向に熱伝導性フィラーが配向しやすい。
【0055】
以上は、第一の態様に係る熱伝導性シートの製造方法について説明したが、バインダーとしてフッ素樹脂を主として含むものを用いる点以外は、上述した製造方法と同様の方法によって、第二の態様に係る熱伝導シートを製造することができる。
【0056】
熱伝導シートに含まれるフィラーの、シートの厚さ方向における配向状態は、シートの表面にX線を照射して得られるX線回折スペクトルにより確認することができる。X線回折は、実施例で説明する方法で行うことができる。
例えばグラファイトがシートの厚さ方向に配向している場合には、その面内方向((110)方向)が、シートの厚さ方向に沿うように配向していると換言できる。ここで、面内方向((110)方向)がシートの厚さ方向に沿うように配向していることは、すなわち、グラファイトの厚み方向((002)方向)が、シートの厚さ方向に対して垂直になるように配向していることを意味する。
したがって、シートの表面にX線を照射してX線回折したときに、フィラーの面内方向(グラファイトの場合(110)方向)及びフィラーの厚み方向(グラファイトの場合(002)方向)のそれぞれにおいてピークが確認され、かつ各々のピーク強度の比((厚み方向ピーク)/面内方向ピーク)が小さいことが、シート中におけるフィラーの配向状態(即ち、フィラーがシートの厚さ方向に配向しているか否か)の指標となる。
【0057】
一実施形態において、熱伝導性シートの表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、熱伝導性フィラーの(002)面に相当する回折ピーク強度(I002)の、熱伝導性フィラーの(110)面に相当する回折ピーク強度(I110)に対する比(I002/I110)が10以下である。
これにより、熱伝導性フィラーとして配合されたフィラー(グラファイト)が、熱伝導性シートの厚さ方向に配向していることが確認できる。
X線回折パターンを得る方法は、実施例で詳しく説明する。
【0058】
一実施形態に係る熱伝導性シートは、回折ピーク強度の比(I002/I110)が10以下であり、熱伝導性フィラーがシートの厚さ方向に配向しているため、熱伝導性シートの面方向と比較して、厚さ方向により高い熱伝導率を示す。
【0059】
一実施形態において、熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率は、1.00W/mK以上であってもよく、2.00W/mK以上であってもよく、3.00W/mK以上であってもよく、5.00W/mK以上であってもよく、10.00W/mK以上であってもよい。
熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率は、後述する実施例に記載する方法により測定する。
【0060】
[半導体装置]
以上説明した本発明の第一の態様及び第二の態様に係る熱伝導性シートは、半導体装置の製造に適用することができる。
例えば、ヒートシンク部材上に、本発明の熱電導性シートを設置し、当該熱電導性シート上に半導体素子を設置することで、半導体装置を得ることができる。
ヒートシンク部材上に、本発明の熱電導性シートを介して、半導体素子を設置することで、半導体素子から生じた熱が、熱電導性シートの厚さ方向に伝わり、ヒートシンク部材に達することで、半導体装置の外部に速やかに熱放出することが出来る。
【実施例
【0061】
実施例1
<成形体(ビレット)の作製>
バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(「PTFE 62-J」、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製)、及び熱伝導性フィラーとして鱗片状黒鉛(「F#1」、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径538μm)とをヘンシェルミキサーで混合して、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量が60質量%、鱗片状黒鉛の含有量が40質量%である混合パウダー(原料組成物)を得た。
得られた混合パウダー1を円柱状の成形用金型2に充填して、二軸の油圧プレスにて、上面3a側及び下面3b側から方向Pに押圧し(図1(a)参照)、最終面圧80MPaで5分間、加圧成形により圧縮して、円柱状の予備成形体(外径53mm×高さ50mm)を得た。
得られた予備成形体を電気炉に投入して、PTFEの融点以上の温度である365℃まで昇温し、365℃で4時間焼成し、円柱状の成形体5を得た(図1(b)参照)。
【0062】
<スカイブ加工>
得られた円柱状の成形体5(外径53mm×高さ50mm)を図1(c)中の矢印Qで示す方向に回転させながら、その外周面を、前述した加圧成形の加圧成形方向Pに対して垂直な方向に旋盤6を進行させるようにスカイブ加工した(図1(c)参照)。
これにより、加圧成形方向Pに平行な面(以下、MD面と示す。)を有するテープ状のシートAとして、シートA1(厚さ約0.3mm、幅10mm、長さ5m)を得た(図1(c)参照)。
【0063】
実施例2
混合パウダーの混合割合を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量が40質量%、鱗片状黒鉛の含有量が60質量%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして円柱状の成形体を作製し、実施例1と同様にして、シートA2を得た。
【0064】
実施例3
熱伝導性フィラーとして、鱗片状黒鉛(「F#1」、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径538μm)に代えて、鱗片状六方晶窒化ホウ素(「PCTP-30」、サンゴバン株式会社製、平均粒径29.3μm)を使用し、混合パウダーの混合割合を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量が40質量%、鱗片状六方晶窒化ホウ素の含有量が60質量%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして円柱状の成形体を作製し、実施例1と同様にして、シートA3を得た。
【0065】
実施例4
熱伝導性フィラーとして、鱗片状黒鉛(「F#1」、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径538μm)に代えて、人造黒鉛(破砕形状)(「AGB60」、伊藤黒鉛工業株式会社製、平均粒径50.6μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして円柱状の成形体を作製し、実施例1と同様にして、シートA4を得た。
【0066】
実施例5
熱伝導性フィラーとして、鱗片状黒鉛(「F#1」、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径538μm)に代えて、鱗片状六方晶窒化ホウ素(「MBN-010T、三井化学株式会社製、平均粒径3.14μm)を使用し、混合パウダーの混合割合を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量が40質量%、鱗片状六方晶窒化ホウ素の含有量が60質量%となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして円柱状の成形体を作製し、実施例1と同様にして、シートA5を得た。
【0067】
比較例1
実施例1においてスカイブ加工を行った後の成形体5を、押圧面3a、3bに水平な面で切断して切断面を研磨し、加圧成形方向Pに垂直な面(以下、CD面と示す。)を有するシートBとして、シートB1(厚さ0.3mm、外径53mm)を得た(図2参照)。
【0068】
比較例2~5
比較例1の成形体5に代えて、実施例2~5においてスカイブ加工を行った後の成形体5を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、シートB2~B5を得た。
【0069】
参考例1
スカイブ加工を行わずに製造したシート(「SIGRAFLEX」、SGLカーボンジャパン株式会社製)を準備した。
参考例1のシートは、膨張黒鉛100%からなるシート(バインダーを含まない)であり、原料である膨張黒鉛粉末の成形体を加圧して圧縮成形することにより、シート状に成形したものである。
【0070】
[熱伝導性フィラーの平均粒子径]
実施例1~5、比較例1~5で用いた熱伝導性フィラーについて、それぞれ粒度分布計(「MS3000」、Malvern Instruments社製)を用いて体積粒度分布を測定し、粒子径の小さいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)を算出して、平均粒子径とした。
【0071】
[熱伝導性フィラーのアスペクト比]
走査型電子顕微鏡(「SU-3500」:株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、実施例1~5、比較例1~5で用いた熱伝導性フィラーを観察し、得られた各々の観察画像における熱伝導性フィラーの最大長さ及び最小長さ(最大長さに対して垂直方向の長さ)を測定して、最大長さ/最小長さの比を算出した。
各々の熱伝導性フィラー250個について、最大長さ/最小長さの比の算出を行い、その算術平均値をアスペクト比とした。
走査型電子顕微鏡による観察は、加速電圧:5keV、倍率100倍、1000倍、及び10000倍の条件で行った。
【0072】
実施例1~5、比較例1~5及び参考例1で得られた各シートについて、以下の評価を行った。
【0073】
[電子顕微鏡画像]
実施例1、3で得られたシートA1、A3の表面について、走査型電子顕微鏡(「SU-3500」:株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、加速電圧:15keV、BSE-3Dで、倍率100倍で観察した。
実施例1(シートA1)について取得した電子顕微鏡画像(倍率100倍)を図3に示し、実施例3(シートA3)について取得した電子顕微鏡画像(倍率100倍)を図4に示す。
【0074】
図3、4に示すように、実施例1,3で得られたシートA1、A3は、いずれも、加圧成形方向Pに対して垂直方向に熱伝導性フィラーが配向していることが確認できた。
【0075】
[シートのX線回折分析]
実施例1~5で得られたシートA1~A5、比較例1~5で得られたシートB1~B5、及び参考例1のシートから切り出した試験片(円形状(直径10mm))について、X線回折装置(「UltimaIV」、株式会社リガク製)を用いて、2θ=5~85.0°にて測定を行った。
なお、実施例1~5については、各試験片において、シートA1~A5のMD面に相当する面にX線を照射して、X線回折分析を行った。また、比較例1~5については、各試験片において、シートB1~B5のCD面に相当する面にX線を照射して、X線回折分析を行った。また、参考例1については、試験片において、シート表面に相当する面にX線を照射して、X線回折分析を行った。
X線回折分析の条件は以下のとおりである。
・X線回折分析の条件:
管球 :Cu
管電圧 :40kV
管電流 :20mA
開始角度 :5°
終了角度 :85.0°
スキャンスピード:10°/分
なお、X線回折分析は、上記以外の条件についてはJIS K0131:1996に準拠して行った。
【0076】
図5~10に、実施例1~5で得られたシートA(シートA1~A5)、比較例1~5で得られたシートB(シートB1~B5)、及び参考例1のシートについてのX線回折スペクトルを示す。図5~9において、(a)は実施例1~5のシート(シートA1~A5;MD面を有するシート)についてのX線回折スペクトルを示し、(b)は、(a)と同じ成形体から得られた、比較例1~5のシート(シートB1~B5;CD面を有するシート)についてのX線回折スペクトルを示す。
(002)面のピークは2θ=26~28°に、(110)面のピークは2θ=75~78°に観測される。
各X線回折スペクトルから、(002)面のピーク強度(I002)及び(110)面のピーク強度(I110)をそれぞれ測定し、これらの測定値から、ピーク強度比((I002)/(I110))を算出した。結果((I002)/(I110))を表1に示す。
【0077】
例えば、図5(a)に示すX線回折スペクトル(スカイブ加工処理を経て得られたシート)では、(002)面及び(110)面の双方に回折ピークが確認されており、かつこれらのピーク強度の差は小さいため、(I002/I110)の数値は2.3と小さい値となっている。したがって、実施例1で得たシートA1では、熱伝導性フィラーがシートの厚さ方向に高い配向性を示すことが確認できる。
一方、図5(b)に示すX線回折スペクトル(押圧面に水平な面で切断して得られたシート)では、(002)面の回折ピーク強度と比較して、(110)面の回折ピーク強度が小さいため、(I002/I110)の数値が500と、図5(a)の場合と比較して、格段に大きい値となっている。したがって、シートB1の熱伝導性フィラーについては、シートの厚さ方向への配向性は高くないことが確認できる。
【0078】
[熱伝導率]
実施例1~5で得られたシートA(シートA1~A5)、比較例1~5で得られたシートB(シートB1~B5)、及び参考例1のシートについて、レーザフラッシュ法を利用して、以下の手順で、シートの厚さ方向についての熱伝導率を算出した。結果を表1に示す。
<熱拡散率>
各シートから切り出した試験片(10×10×0.3mm)について、Xeフラッシュアナライザー(「LFA467」、NETZSCH株式会社製)を用いて、室温における熱拡散率(α)を測定した。
<比熱容量>
熱拡散率の測定に用いた各試験片について、示差走査熱量計(「DSCvesta」、株式会社リガク製)を用いて、比熱容量ρを測定した。
<比重>
熱拡散率の測定に用いた各試験片について、浮力法により比重cを測定した。
<熱拡散率>
上記で得られた熱拡散率α、比熱容量ρ、比重cを用いて、
下記式(I):
λ[W/m・K]=α・ρ・c
により、温度25℃における各シートの厚さ方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、スカイブ加工により得られた実施例1~5のシートA1~A5では、同じ成形体からスカイブ加工を行うことなく得られた各シートB1~B5よりも、シートの厚さ方向に高い熱伝導性を示すことが確認できた。
中でも実施例1~3では、シートA1~A3において、ピーク強度比((I002)/(I110))がいずれも10以下であるのに対し、同じ成形体から得られた比較例1~3のシートB1~B3では、各シートのピーク強度比((I002)/(I110))が500以上と、両者の差が大きかった。これらの対比から、実施例1~3のシートA1~A3において、フィラーがシートの厚さ方向に高い配向性を示すことが確認できた。
また、実施例1~3では、同じ成形体から作製したシートB1~B3の熱伝導率と比較して、シートA1~A3の熱伝導率が大幅に向上しており、スカイブ加工することにより、シートの厚さ方向に高い熱伝導性を得られることが確認できた。
また、実施例1~3のシートA1~A3では、熱電導性フィラーとして、アスペクト比が10以上と形状異方性の高いフィラーを用いているため、スカイブ加工により得られたシートのピーク強度比((I002)/(I110))が10以下であり、フィラーが高い配向性を示すシートを得られた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の熱伝導シートは、一般産業用や車載用パワーモジュールに使用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 原料組成物(混合パウダー)
2 成形用金型
3a 押圧面(上面)
3b 押圧面(下面)
5 成形体(ビレット)
6 切削刃(旋盤)
50a、50b スカイブ加工面
P 加圧成形方向
Q 成形体の回転方向
A 加圧成形方向Pに平行な面(MD面)を有するシート
B 加圧成形方向Pに垂直な面(CD面)を有するシート
S スカイブ加工方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10