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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】乳ベース製剤
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/142 20060101AFI20231016BHJP
   A23C 9/15 20060101ALI20231016BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20231016BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20231016BHJP
【FI】
A23C9/142
A23C9/15
A23L2/00 F
A23L2/38 P
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022023727
(22)【出願日】2022-02-18
(62)【分割の表示】P 2017174097の分割
【原出願日】2012-06-19
(65)【公開番号】P2022065126
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】20115726
(32)【優先日】2011-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】500185416
【氏名又は名称】ヴァリオ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Valio Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】ハッリ・カッリオイネン
(72)【発明者】
【氏名】ソイレ・ヤルヴィオ
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-537011(JP,A)
【文献】特開平08-256682(JP,A)
【文献】特表2010-512798(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055932(WO,A1)
【文献】国際公開第1996/008155(WO,A1)
【文献】特表2005-525116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳糖のタンパク質に対する比が最大で1.1であり、乾量基準で少なくとも45%のタンパク質含量を有し、灰分のタンパク質に対する比が、開始原料として使用される乳原料における元の灰分のタンパク質に対する比である、無脂全固形分換算で乳糖の含量が24~43%に低減された乳ベース粉末(アルコール発酵を経て製造されたものを除く)。
【請求項2】
乳糖のタンパク質に対する比が最大で0.9である、請求項1に記載の乳ベース粉末。
【請求項3】
乳糖のタンパク質に対する比が最大で0.4である、請求項2に記載の乳ベース粉末。
【請求項4】
乳糖のタンパク質に対する比が少なくとも0.02である、請求項1~3のいずれか一項に記載の乳ベース粉末。
【請求項5】
一価ミネラルのタンパク質に対する比が、開始原料として使用される乳原料における元の一価ミネラルのタンパク質に対する比である、請求項1~4のいずれか一項に記載の乳ベース粉末。
【請求項6】
無脂全固形分換算で1.0~14%の灰分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の乳ベース粉末。
【請求項7】
無脂全固形分換算で10~13%の灰分を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の乳ベース粉末。
【請求項8】
無脂全固形分換算で、45~65%のタンパク質、24~41%の乳糖、および1.0~14%の灰分を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の乳ベース粉末。
【請求項9】
無脂全固形分換算で、48~60%のタンパク質、および10~13%の灰分を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の乳ベース粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は乳ベース製剤(milk-based formulation)に関する。より具体的に、本発明は炭水化物含量が低減された還元乳(recombined milk)の調製に好適な乳ベース製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
粉乳および水を還元する(recombining)ことにより調製される還元乳飲料は通常の乳に比べていくつかの欠点を有することが知られている。欠点は、特に乳糖含量を低減した還元乳飲料の調製の際に現れる。欠点は、事実上官能的および栄養的の両方である。例えば、還元乳飲料は加熱処理の間、および特に飲料の保存の間に沈殿/沈渣を形成しやすい。沈殿物は、主に乳タンパク質で構成される。乳タンパク質のうち、乳清タンパク質が非常に熱感受性であることが知られている。いくつかのミネラルもまた、還元乳飲料の沈殿事象に影響を与え得る。現在、還元乳製品の沈殿の感受性、凝集に関連する問題は、製品に安定剤のような添加物を用いることで回避されている。
【0003】
低乳糖または無乳糖乳飲料は還元乳飲料から、それらの乳糖を加水分解することにより調製できる。しかしながら、自然な乳糖含有量は比較的高く、それは、乳糖の加水分解が多量のグルコースおよびガラクトースを生成し、通常ではない甘味が製品に付与されることを意味する。
【0004】
還元乳の様々な問題を引き起こす一つの重要な要因は、還元糖と乳タンパク中の遊離アミノ基との間の非酵素的な褐変反応であるメイラード反応である。メイラード反応は、特に乳糖加水分解乳製品において一般的な問題である。乳糖の加水分解で生成される還元糖、グルコースおよびガラクトースは乳糖よりも反応的であり、その結果、より強いメイラード褐変反応を引き起こす。加水分解乳において、これらの還元単糖のモル含量は通常の乳中の乳糖と比べて約2倍である。さらに、乳糖加水分解乳製品の加熱勝利の間に、メイラード反応がさらに強くなることが知られている。
【0005】
メイラード褐変産物は、風味、色調および構造などの、加熱処理乳の官能特性に望ましくない変化を引き起こす。さらに、メイラード反応は乳の栄養品質に有害な効果を有する。栄養価に重要なアミノ酸であるリジンの生体利用性が減少する。メイラード反応およびリジンの破壊は、乳製品の加熱処理の後、室温での保存の間継続する。
【0006】
メイラード反応は、遊離アミノ基と還元糖の間の反応で形成され、その利用性の損失をもたらすフロシンによりモニターできる。
【0007】
乳の粉末への乾燥は、還元乳製品で見られる乳タンパクの品質を変化させることがさらに知られている。メイラード反応はまた、粉乳の製造工程の間も進行する。タンパク質もまた、乾燥の間に変性する。
【0008】
多くの人々の間で、還元乳製品の使用について、その不完全な官能特性のために、明らかな嫌悪がいまだ多く存在する。典型的に、還元乳製品は通常の乳と同等とは受け入れられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ、低減された炭水化物含量および良好な栄養特性をもち、沈渣の形成が減少または防止され、還元乳の風味および食感の問題が最小化された、還元乳製品の調製に好適な新たな乳製品の必要性が存在する。
【0010】
低減された炭水化物含量をもち、風味および構造において完全に欠点がなく、乳製品に求められる官能特性における消費者の期待を満たし、経済的および簡便に調製できる還元乳製品の達成は非常に困難(very challenging)である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な説明
ここで、低減された炭水化物含量をもち、通常の乳の良好な風味を有し、さらに類似の従来の製品に関する典型的な問題を避ける還元乳製品の調製に好適な乳ベース製剤が見出された。還元乳製品は官能特性、特に風味において完全に欠点がない。
【0012】
一の態様において、本発明は、炭水化物のタンパク質に対する比が最大で1.1であり、乾量基準で少なくとも5.4%のタンパク質含量を有し、灰分のタンパク質に対する比が開始原料として使用される乳原料のものと実質的に同一である、炭水化物含量が低減された乳ベース製剤を提供する。
【0013】
還元乳製品の、沈殿および風味の欠点のような官能特性および栄養品質の欠点が、乳ベースの製剤の乳糖含量を、還元(recombination)に好適な形態に濃縮する前に減少することにより避けられることを驚くべきことに見出した。メイラード反応に関与する、乳の乳糖加水分解で生産された産物の量を減らすと、メイラード反応が有意に抑制され、それに関連する典型的な問題が回避される。
【0014】
さらに、本発明の還元乳製品の、特に室温での、保存可能期間が延長される。
【0015】
他の態様において、乳原料から炭水化物を除去して、炭水化物含量が低減された本発明の乳ベース製剤を製造する方法を提供する。
【0016】
さらに他の態様において、本発明は、
a)乳原料の成分をタンパク質画分、炭水化物画分およびミネラル画分に分離する、
b)タンパク質画分の少なくとも一部分およびミネラル画分の少なくとも一部分を組み合わせて、乳ベース製剤を提供する、
工程を含む乳ベース製剤の製造方法を提供する。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、最大で1.1の炭水化物のタンパク質に対する比および乾量基準で少なくとも5.4%のタンパク質含量を有する、低減された炭水化物含量をもつ還元乳製品の調製に好適な粉乳の使用を提供する。
【0018】
本発明の粉乳は、無乳糖乳が調製される工場で設備投資なしに、良好な風味の無乳糖乳を調製することを可能にする。無乳糖乳は、本発明の粉乳および水および/または通常の乳から調製できる。粉乳の良好な組成により、減少したメイラード反応の下で粉末に乾燥できる。本発明の粉乳から調製された還元乳製品の品質は、それゆえ向上している。
【0019】
またさらなる態様において、最大で1.1の炭水化物のタンパク質に対する比および乾量基準で少なくとも5.4%のタンパク質含量を有する粉乳を液体および任意に他の原料で還元し、低減された炭水化物含量をもつ還元乳を提供することを含む、低減された炭水化物含量をもつ還元乳製品を製造する方法を提供する。還元乳製品の組成物は、ミネラルサプリメントのようなさらなる添加物なしに、粉乳および液体を組み合わせることによって、乳糖を除いて通常の乳に相当するように調製される。
【0020】
本発明は、簡潔で、経済的で、大規模に工業的に利用可能で、追加のコストを生じない方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、輸送コストを顕著に抑制する方法を提供する。
【0022】
本発明は経済的で、効果的および簡便な、還元の不利な効果を制御可能にする方法をさらに提供する。
【0023】
加熱処理還元乳製品の調製における自然の乳の酵素活性および微生物的に誘導された酵素活性ならびにラクターゼ酵素および典型的な商業的酵素製剤の副次的な活性により引き起こされる風味、色調および構造的な欠点は、本発明の方法により避けられる。本発明の方法で、炭水化物含量が減少した還元乳製品の官能特性、特に室温での風味特性および構造の安定性を向上でき、その結果として、製品の保存可能期間が延長される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本明細書で用いられる「還元乳製品」なる用語は、乳ベースの製剤を液体で還元することにより調製される乳製品を意味する。乳脂(クリーム、バター)の様なさらなる原料を、製品の所望の脂肪分を得るために還元乳製品に組み込むことができる。製剤はまた所望の脂肪、タンパク質およびミネラル含量で調製できる。
【0025】
本明細書で用いられる「液体」なる用語は、乳原料、または植物(野菜)起源原料、またはそれらの組み合わせを意味する。したがって、液体は、例えば、乳製品または植物(野菜)製品の工場の処理パイプ、コンテナおよび容器の洗浄/すすぎ工程から得られる流れに由来するすすぎ水(洗浄水)などの乳製品の製造工程から得られる副産物(side stream)とすることができる。典型的に、副産物はUF透過液(UF permeate)、NF透過液、RO透過液、RO保持液(RO-retentate)、ダイアウォーター(diawater)またはそれらの混合物を含む。好ましくは、液体は水、脱脂乳またはRO-保持液である。
【0026】
本明細書で用いられる「乳原料」なる用語は、ヒトの消費に適した乳を生産する牛、羊、ヤギ、ラクダ、ロバまたはいかなる他の動物などの動物から得られる乳、乳清および乳および乳清の組み合わせそのもの、または、所望により予備処理された、例えば濃縮物としての、乳を意味する。乳は、脂肪、タンパク質または糖画分などの乳製品の調製において一般的に用いられる原料で補強されてもよい。乳はそれゆえ、例えば全脂乳、クリーム、低脂肪乳または脱脂乳、限外ろ過乳、透析ろ過乳(diafiltered milk)、精密ろ過乳または粉乳からの還元乳、有機乳またはこれらの組み合わせであり得る。乳原料は、例えば乳製品の製造工程から得られる副産物であり得る。好ましくは、乳原料は脱脂乳である。
【0027】
一の態様において、本発明は、最大で1.1の、炭水化物のタンパク質に対する比、乾量基準で少なくとも5.4%のタンパク質含量を有し、灰分のタンパク質に対する比が開始原料として使用される乳原料のものと実質的に同一である、炭水化物含量が低減された乳ベース製剤を提供する。
【0028】
一の実施形態において、製剤は8~60%の乾物含量を有する。
【0029】
一の実施形態において、製剤は粉末である。粉末の乾物含量は典型的には94~100%の範囲である。
【0030】
製剤の、灰分のタンパク質に対する比は、製剤の官能特性、特に風味に有意な影響を与える。本発明の一の実施形態において、灰分は製剤中の乳ベースのミネラルとして提供される。
【0031】
一の実施形態において、炭水化物のタンパク質に対する比は最大で0.9である。他の実施形態において、炭水化物のタンパク質に対する比は最大で0.4である。また他の実施形態において、炭水化物のタンパク質に対する比は少なくとも0.02である。
【0032】
一の実施形態において、乳ベース製剤は乾量基準で5.4~80%のタンパク質を含む。
【0033】
一の実施形態において、乳の一価のミネラルのタンパク質に対する比は、乳原料のものと実質的に同一である。
【0034】
一の実施形態において、乳ベース製剤は粉末である。
【0035】
天然の乳のタンパク質含量は、動物の種類、品種、給餌および季節等によって非常に広い範囲で変化し得ることが一般的に知られている。例えば、牛から得られる乳のタンパク質含量は1.8~6.3%の間で変化し得る。
【0036】
一の実施形態において、乳ベース製剤は、無脂全固形分換算で5.4~65%のタンパク質、4.6~41%の炭水化物、および1.0~14%の灰分を含む。他の実施形態において、乳ベース製剤は約48~60%のタンパク質、約24~43%の炭水化物および10~13%の灰分を含む。
【0037】
乳原料の炭水化物含量は当分野で既知のいかなる手段によって減少できる。天然の乳に存在する炭水化物は主に乳糖である。乳糖除去の前に、乳原料の脂肪分が減少され得る。
【0038】
他の態様において、本発明は、乳原料から炭水化物を除去して、炭水化物含量が低減された乳ベース製剤を提供することを含む、炭水化物含量が低減された本発明の乳ベース製剤を製造する方法を提供する。
【0039】
一の実施形態において、乳ベース製剤は適切な工程、例えばスプレードライによって粉末に濃縮される。
【0040】
一の実施形態において、乳糖は沈殿により乳原料から除去される。沈殿は当分野で公知の方法により実施できる。乳糖の沈殿は、他の全ての乳成分が所望の方法において実質的に保持されながら、乳原料から乳糖を効率的に除去することを可能にする。
【0041】
他の実施形態において、乳糖の除去は酵素反応の手段によって実施できる。乳糖を分割する、または乳糖をラクチュロース、ラクチトール、ラクトビオン酸およびそれらの分解産物などの誘導体に変換する従来の酵素的方法は、本分野で一般に知られている。乳にカビまたは酵母由来のラクターゼを添加する段階を含む、乳糖を分割する工程は、ラクトースを80%を超える単糖、すなわちグルコースおよびガラクトース、に分けるような方法である。酵素は典型的にいくつかの型の反応、すなわちラクターゼは加水分解およびトランスグリコシル化、を触媒する。
【0042】
また他の実施形態において、乳糖はクロマトグラフィー分離で乳原料から除去される。乳原料は陽イオン交換樹脂を充填したカラムを通して溶出される。分離は、乳糖がカラムに残る一方で、タンパク質およびミネラルの大部分が単一の画分に集められることで実施できる。
【0043】
また他の実施形態において、乳糖は膜ろ過技術の手段により乳原料から除去される。異なるカットオフ値の膜の使用は、様々な乳成分、すなわちタンパク質、炭水化物およびミネラルを、各々異なる画分に効率的に分離することを可能にする。
【0044】
所望により、乳糖除去のための上記の様々な技術が適切な方法で組み合わせられる。
【0045】
したがって、一の態様において、本発明は、
a)乳原料の成分をタンパク質画分、炭水化物画分およびミネラル画分に分離する、
b)タンパク質画分の少なくとも一部分およびミネラル画分の少なくとも一部分を組み合わせて、乳ベース製剤を提供する、
工程を含む、低減された炭水化物含量の、本発明の乳ベース製剤の製造方法を提供する。。
【0046】
一の実施形態において、上記の製造された乳ベース製剤は粉末に濃縮される。
【0047】
乳業において、限外ろ過は乳の乳糖およびミネラルからタンパク質および脂質を分離するために典型的に用いられる。限外ろ過の前に、乳の脂肪分は、例えば分離により標準化できる。乳糖およびミネラルが透過液に通過する一方で、乳タンパクおよびいかなる脂肪も限外ろ過保持液に維持される。限外ろ過は、典型的に1~10の濃縮係数(concentration factor)で実施される。
【0048】
限外濾過透過液に存在する乳糖および一価のミネラル、主にナトリウムおよびカリウム、は、ナノろ過によって各々から分離できる。乳糖はナノろ過保持液に残り、一価ミネラルはナノろ過透過液へと通過する。ナノろ過の濃縮係数は典型的に1~6の範囲である。
【0049】
一価ミネラルを含むナノろ過透過液は逆浸透で濃縮され、本発明の乳ベース製剤における使用のためのミネラル濃縮液を提供する。逆浸透は、一般的に濃縮係数2~20で実施される。
【0050】
一の実施形態において、膜ろ過から得られた乳タンパク画分および/または乳ミネラル画分の乾物含量は蒸発によって、例えば約17%に、増加でき、乳ベース製剤の調製のための蒸発画分として使用される。
【0051】
上述のとおり、乳原料からの乳糖の沈殿、酵素的乳糖加水分解または変換、およびクロマトグラフィーによる乳糖分離は、乳糖を除いた他の全ての乳成分が組成中に残った状態で乳ベース製剤を提供する。膜ろ過技術は、さらに乳糖および主に一価ミネラルである乳ミネラルを各々分離し、別個に最適化されたテイラーメイドの本発明の乳ベース製剤をタンパク質およびミネラル画分から構成する可能性を提供する。
【0052】
一の実施形態において、1つ以上の乳成分画分が適切な工程で別個に粉末に濃縮され、その後所望の組成の本発明の乳ベース製剤の調製のために使用される。他の実施形態において、乳ベース製剤はまず該画分から適切な手段で調製され、その後粉末に乾燥される。
【0053】
さらなる態様において、本発明は最大で1.1の、炭水化物のタンパク質に対する比、および乾量基準で少なくとも5.4%のタンパク質含量を有する乳粉末の、炭水化物含量が低減された乳ベース製剤の調製のための使用を提供する。一の実施形態において、灰分のタンパク質に対する比が開始原料として使用される乳原料のものと実質的に同一である。一の実施形態において、乳粉末のタンパク質含量が少なくとも37%である。他の実施形態において、タンパク質含量は少なくとも45%である。
【0054】
一の実施形態において、還元乳製品は乳飲料である。
【0055】
一の実施形態において、乳粉末は本発明の乳ベース製剤であるか、または上記の本発明の方法により調製される。
【0056】
還元乳製品中の乳粉末の量は0.5~15重量%、好ましくは2~7重量%である。
【0057】
またさらなる態様において、本発明は最大で1.1の、炭水化物のタンパク質に対する比、および乾量基準で少なくとも5.4%のタンパク質含量を有する乳粉末を、液体および任意に他の原料で還元し、炭水化物含量が低減された還元乳製品を製造することを含む、炭水化物含量が低減された還元乳製品の製造方法を提供する。一の実施形態において、乳粉末のタンパク質含量が少なくとも37%である。他の実施形態において、タンパク質含量は少なくとも45%である。
【0058】
本発明の方法は工業的な大規模製造または家庭的な小規模での製造に適用され得る。
【0059】
還元乳製品の乳糖含量は最大で3.1重量%である。
【0060】
乳粉末は、水、乳原料、植物(野菜)起源原料、またはそれらの組み合わせであり得る液体中で還元できる。一の実施形態において還元乳は低減した炭水化物を除いて通常の脱脂乳の組成に相当するように調製される。一の実施形態において、還元乳製品の灰分のタンパク質に対する比は通常の脱脂乳のものと同様である。一の実施形態において、灰分は還元乳製品中で乳ベースのミネラルとして提供される。還元乳製品の組成は、乳粉末およびミネラルサプリメントのようないかなるさらなる添加物なしに、乳粉末および液体を組み合わせることにより、炭水化物の低減を除いて、通常の脱脂乳に相当する程度に調整できる。しかしながら、乳ベースのミネラルを還元乳製品に添加することもできる。
【0061】
本発明の還元乳製品は乳製品で典型的に用いられる原料で補強できる。任意の原料は乳脂または菜種油、分画パーム油またはヤシ油などの植物油のような食用油、ビタミン、ミネラル、繊維、プロバイオティクス、香料を含む。
【0062】
一の実施形態において、還元乳製品は本発明の粉末1を脱脂乳および水で還元することにより調製される。他の実施形態において、還元乳製品は2.5%の粉末1を1.54%の脱脂乳および43.6%の水で還元することにより調製される。
【0063】
一の実施形態において、還元乳製品は熱処理に供される。熱処理は例えば153℃4秒間で実施される。
【0064】
所望により、還元乳製品に存在するいかなる残余の乳糖が乳糖加水分解および/または変換に供される。乳糖加水分解および/または変換は市販のラクターゼ酵素で自体公知の方法で実施できる。一の実施形態において、還元乳製品の乳糖含量は1重量%未満であり、一般的に低乳糖乳飲料として設計される。他の実施形態において、乳糖含量は0.01重量%未満であり、一般的に無乳糖乳飲料として設計される。
【0065】
乳糖加水分解は上記の方法において熱処理された還元乳製品、またはその後に熱処理に供された還元乳製品に実施できる。一の実施形態において、乳糖加水分解は熱処理の後に実施される。
【0066】
本発明により調製された還元乳飲料のフロシン含量は、飲料の熱処理の前後に計測された。フロシン含量は、参照として使用される、脱脂乳(飲料6)および通常の脱脂粉乳および水で還元することにより調製された還元脱脂乳(飲料7)のものと比較された。本発明の乳組成物から調製された飲料のフロシン含量は、熱処理の前後両方で、参照の還元脱脂乳のものよりも低かった。特に、本発明の乳組成物を水または脱脂乳と水の混合物で還元して調製された乳飲料において、フロシン含量は参照還元脱脂乳よりも有意に低かった。このことは、熱処理還元乳飲料であってもメイラード反応が効果的に抑制されたことを示す。一の実施形態において、本発明の還元乳製品のフロシン含量は、製品の熱処理の前で、最大で0.61mg/gタンパク質であり、本発明の還元乳製品のフロシン含量は製品の熱処理の後で最大で0.92mg/gタンパク質である。
【0067】
予期しないことに、本発明により調製された還元乳製品の官能特性は、室温で長時間の保存の間でさえ維持された。方法は、有意な追加のコストなしの製造条件で容易に実施される。
【0068】
以下の実施例は、それらへ発明を限定することなしに、本発明のさらなる例示のために存在する。
【実施例
【0069】
実施例1
脱脂乳をGR61PP膜(Dow、米国)で10℃の温度、濃縮係数4で限外ろ過し、限外濾過(UF)透過液および限外濾過(UF)保持液を得た。UF透過液をさらにDesal DK膜(Osmonics、米国)で10℃~15℃の温度、濃縮係数4でナノろ過し、ナノろ過(NF)透過液およびナノろ過(NF)保持液を得た。NF透過液をFilmtec RO-390-FF膜(Dow、米国)での濃縮係数10の逆浸透(RO)により濃縮し、RO透過液およびRO保持液を提供した。
【0070】
RO保持液を乾物含量17%まで蒸発させた。
【0071】
乳原料、すなわち脱脂乳、UF保持液および透過液、RO保持液および蒸発させたRO保持液、の組成を、下記の表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
蒸発させたRO保持液(700kg)およびUF保持液(10000kg)を共に混合し、乾物含量33%~40%まで蒸発させた。得られた混合物を、従来のローヒート粉乳の熱処理に相当する処理で粉末に乾燥した(粉末1)。
【0074】
脱脂乳の限界ろ過から得られたUF保持液を蒸発させ、従来のローヒート粉乳の熱処理に相当する処理で粉末に乾燥した(粉末2)。
【0075】
粉末1および粉末2の組成を下記の表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例2
脱脂乳を濃縮係数が1.6であることを除いて実施例1に記載のとおりに限外ろ過し、UF保持液を得た。
【0078】
チーズ乳清をDesal DK膜(Osmonics、米国)で、<15℃の温度および濃縮係数4.5でナノろ過し、ナノろ過(NF)透過液およびナノろ過(NF)保持液を得た。NF透過液を、実施例1に記載のとおりに逆浸透により濃縮した。得られたRO保持液を乾物含量17.5%まで蒸発させた。
【0079】
UF保持液、チーズ乳清、RO保持液および蒸発させたRO保持液の組成を下記の表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
脱脂乳(10000kg)のUF保持液およびチーズ乳清(120kg)の蒸発させたRO保持液を共に混合し、実施例1に記載のとおり蒸発させ、粉末に乾燥した(粉末3)。粉末3の組成を下記の表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
実施例3
脱脂乳を蒸発させ乾物含量30%の乳濃縮物を得た。乳濃縮物を、陽イオン交換樹脂を充填したクロマトグラフィーカラムにポンプ輸送した。陽イオン交換樹脂を通して溶出した脱脂乳を、乳ミネラルおよびタンパク質の大部分が同じ画分になるように回収した。画分の回収が終了するとき、乳糖の大部分はクロマトグラフィーカラムにまだ残っていた。クロマトグラフィーによる分離は約60℃の温度で実施した。
【0084】
クロマトグラフィーによる分離から得られた画分を、実施例1に記載のとおりに粉末に乾燥した(粉末4)。
【0085】
クロマトグラフィーから回収された画分および粉末4の組成を下記の表5に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
実施例4
さまざまな乳飲料を実施例1~3で得られた画分および粉末から調製した。具体的な配合は表7に示す。数値は配合中の各々の画分の百分率を示す。
【0088】
該画分および粉末に加えて、乳およびローヒート粉乳を飲料の調製に使用した。それらの組成は表6に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
飲料を直接蒸気吹き込みUHT(超高温)装置(APV、デンマーク)で153℃、4秒間殺菌した。飲料を無菌的に包装した。包装の前に、0.03重量%のラクターゼ(Godo YNL2、Oenon、日本)を飲料に無菌的に添加した。乳飲料は、1週間の保存の後、無乳糖であった。上記の9個の飲料の組成を表8に示す。
【0092】
【表8】
【0093】
約15℃の温度を有する飲料を、それらの製造1週間後に官能特性を評価した。評価の結果を表9に示す。官能特性は、天然の乳糖含量を含む通常の脱脂乳(飲料6)と比較した。
【0094】
【表9】
【0095】
飲料1~9の全てを、タンパク質含量が所望の水準、すなわち約3.3%となるように調製した(表8)。したがって、飲料の他の結果は比較可能であり信頼できるものである。表8に示される結果から、脱脂粉乳のみから調製された還元乳飲料である参照の飲料7のフロシン含量が他の飲料に比べて有意に高いことがわかる。最も低いフロシン量は、低減された脂肪含量を有するが、乳糖含量が通常のものである通常の脱脂乳、および脱脂乳、水、UF保持液およびRO保持液から構成された飲料9で達成される。驚くべきことに、他の飲料が全て乳のタンパク質含有粉末から調製されたが、飲料6および9と比較してフロシン含量のわずかな増加のみが検出された。飲料3、5および7はすべて水および乳ベース粉末から調製されたが、飲料3および5のフロシン含量もまた、飲料7のものよりも低かった。
【0096】
飲料の風味に関して、通常のUHT処理脱脂乳に最も近いものは飲料1、2、3、5、8、および9であった。飲料4の風味はわずかに水っぽかったことを除いて通常の乳と同等であった。風味の面で最も大きい逸脱は飲料6および7で見出され、それらは著しく甘く、通常のUHT処理乳に特性の面で相当しないものであった。
【0097】
さらに、飲料5を除く飲料2~9について、それらにクリーム(38%)を補充して飲料に1.5%の脂肪含量を与えたものを調製した。
【0098】
実施例1の粉末1について、3.1%の脂肪を含む乳を限外ろ過して乾燥することにより乳から調製し、粉末1と同様に飲料1および5の製造に用いた。飲料1および5は1.5%の脂肪分を有した。
【0099】
各々の1.5%脂肪含有飲料から得られた結果は、飲料4の水っぽい風味が脂肪質により部分的にマスクされたことを除き、表9に示される結果と同等であった。
【0100】
飲料の品質は6ヶ月間、官能面で制御されており、有意な変化は全くなかった。
【0101】
結果は、実施例1の粉末1から調製された本発明の無乳糖乳飲料が通常の脱脂粉乳から調製された還元乳(飲料7;参照)よりも良い風味を有することを示す。さらに、本発明の飲料のフロシン含量は参照の乳よりも実質的に低い。さらに、驚くべきことに、本発明の飲料における風味および食感は通常のUHT処理脱脂乳よりも良く維持されていた。
【0102】
技術の進歩に応じて、本発明の概念を様々な態様で実施し得ることは、当業者には自明
である。本発明およびその実施態様は、上述した例示に限定されるものではなく、特許請
求の範囲内において様々に変更することができる。