(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】せん妄患者の脳症の存在をスクリーニングするためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/374 20210101AFI20231016BHJP
【FI】
A61B5/374
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022031829
(22)【出願日】2022-03-02
(62)【分割の表示】P 2018528773の分割
【原出願日】2016-12-05
【審査請求日】2022-03-31
(32)【優先日】2015-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504315680
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ アイオワ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】クロムウェル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シノザキ ゲン
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514096(JP,A)
【文献】国際公開第2015/039689(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/369 - 5/386
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん妄患者の脳症の存在をスクリーニングするためのシステムであって、
a.
2個以上20個未満の、1つ以上の
脳波(EEG)信号を
ある期間にわたって記録するように構成されたセンサと、
b. プロセッサと、
c. 少なくとも1つのモジュールであって、
i.
脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率を測定するために前記脳波(EEG)信号に対してスペクトル密度解析を実行するステップであって、脳波(EEG)信号の高周波成分は7.5Hz以上であり、脳波(EEG)信号の低周波成分は7.5Hz未満であるステップと、
ii.
脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率についての閾値を確立するステップと、
iii. 測定された脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率と脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率についての閾値を比較するステップと、
iv. 測定された脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率が脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率についての閾値以上である場合、脳症のその後の発症の有無または可能性の指標を示すデータを出力するステップと、
を実行するように構成されたモジュールと、
を含むシステム。
【請求項2】
前記システムは、グラウンドリード線をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
ハウジングを含み、前記ハウジングはディスプレイを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは前記ハウジング内に配置されている、請求項
3に記載のシステム。
【請求項5】
脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率についての閾値が、時間の経過とともに更新される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率についての閾値が、患者の電子カルテ(EMR)における生理学的データに基づいて調節される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
脳波(EEG)信号の高周波成分と脳波(EEG)信号の低周波成分の比率についての閾値が、パーソナルおよび集団患者データに基づいて開発された機械学習モデルによって調節される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
脳波(EEG)信号を等しい持続時間のウィンドウに区分する信号処理モジュールをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
1つ以上の脳波(EEG)信号をある期間にわたって記録するように構成されたセンサが5個未満である、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
ヒューマンウェアラブルである、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年12月4日に出願された「せん妄の予測、スクリーニングおよびモニタリング」と題する米国仮特許出願第62/263,325号の優先権を主張するものであり、その全体が米国特許法第35条、§119(e)の下で参照によって本書に援用される。
【0002】
開示された実施形態は、脳症/せん妄の予測、スクリーニング、およびモニタリングのためのシステムおよび方法、より詳細には、信号解析によって患者における脳症/せん妄のその後の発症の有無、または可能性を決定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
脳症(よく見られる診断で、「せん妄」として知られている)は、一般的に診断不足で、非常に危険な病状である。本書で論じるように、「せん妄」は、一般に、患者の症状に基づく診断基準に基づく医師の評価に基づいて典型的には臨床的に診断される症候群に関連し、「脳症」は基礎をなす生理学的状態に関する。本書で使用されるように、「せん妄」および/または「脳症」の両方またはいずれか一方は、様々な実施と併せて使用され得るが、一方の使用は必ずしも他方を排除することを意図しない。
【0004】
せん妄(または脳症)は、高い死亡率、不可逆的に進展する脳機能低下のリスク増加、予防可能な合併症の発生率の増加、入院の長期化、家ではなく養護施設への排出の可能性が高い。これらは深刻な「脳機能障害」状態を表し、一般に術後患者および高齢の一般医(総合内科)の患者を含む様々な病院環境で見られる。せん妄と関連する死亡率は約40%であり、急性心筋梗塞と同程度に高い。米国だけでも毎年1500億ドルを超える費用で、せん妄は、米国および国際的に医療システムにおいて重大な負担となっている。医療費と合併症の重篤さにもかかわらず、せん妄を予防し、認識するための効果的なアプローチはない。
【0005】
せん妄が過小評価されている理由の1つは、せん妄の差し迫った発症を特定するための単純な客観的測定の欠如である。差し迫った心臓発作のための心電図や、糖尿病の合併症のリスクが高いことをモニタ(監視または観察)するための血糖値の血液検査のような、近い将来のせん妄を測定するデバイスはない。
【0006】
今日まで、せん妄を検出する努力は、2つの主要な方法に依存しており、その両方が近代的な病院環境の実際的な要求に達していない。主にカルテ審査と患者との面談に基づくスクリーニング機器は、臨床ワークフローへのこれらの実施の諸課題と、医療サービス機関がそのような機器を使用するための継続的なトレーニングを提供することに失敗してしまった。それに加えて、日常的な使用において感度が悪い。
【0007】
脳波検査(EEG)は、正常な脳機能とせん妄とを効果的に区別することができるが、16~24リードEEGテストを管理(実施)するための熟練技術者および研究(観察)を解釈するためのサブ専門の神経科医を必要とするので、せん妄のスクリーニングに使用することは論理的に不可能である。これは各患者にとって数時間を要し、多忙な病院環境で多数の患者に実施することはほとんど不可能である。加えて、EEG(脳波記録)は、その存在を確認するためにのみ使用され、せん妄の発症を予測するためには使用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脳症/せん妄の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための改善されたシステムおよび方法の要求(必要性)がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本書においては、患者の脳症またはせん妄を検出、同定または他の方法で予測するためのシステム、デバイスおよび方法に関する様々なデバイス、システムおよび方法が論じられている。様々な実施において、脳症の特質であるびまん性徐波化を検出するデバイスが利用される。
【0010】
脳症の予測、スクリーニング、およびモニタリングのための様々なツールおよび手順を使用するためのシステムおよび方法が記載されている。ある特定の実施形態において、本書に記載のツールおよび手順は、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための1つ以上の追加のツールおよび/または手順と共に使用することができる。本書に記載されている実施例は、単に例示を目的とした脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングに関する。多段階プロセスまたは方法に関し、ステップは1以上の異なる関係者、サーバ、プロセッサなどによって実行され得る。
【0011】
1以上のコンピュータのシステムは、操作においてシステムにインストールされるかシステムがその動作を実行させる、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはそれらの組み合わせを含むことにより、特定の作業または動作を実行するように構成され得る。1以上のコンピュータプログラムは、データ処理装置によって実行される際に装置に動作を実行させる命令を含むことによって、特定の作業または動作を実行するように構成され得る。1つの一般的態様は、患者のせん妄スクリーニングのためのシステムを含み、ハウジングを含むハンドヘルドスクリーニングデバイスと、1つ以上の脳信号を記録し、1つ以上の値を生成するように構成された少なくとも2つのセンサと、プロセッサと、前記1つ以上の値についてスペクトル密度解析を実行するように、かつ脳症の、後の発症の有無または可能性の指示をすることについて示すデータを出力するように構成された、少なくとも1つのモジュールと、を含む。この態様の他の実施形態は、それぞれが上記方法の動作を実行するように構成された、1以上のコンピュータストレージデバイスに記録された、対応するコンピュータシステム、装置、およびコンピュータプログラムを含む。
【0012】
実施は、以下の特徴の1つ以上を含むことができる。前記モジュールが1つ以上の脳信号からの1つ以上の値を閾値と比較するように構成されているシステム。前記閾値は、低周波の発生回数に対する高周波の発生回数を含む割合(比率)であるシステム。前記1つ以上の脳信号は、脳波(EEG)信号であるシステム。2つのセンサがあるシステム。前記ハウジングはディスプレイを含むシステム。前記プロセッサがハウジング内に配置されるシステム。前記1つ以上の値が、高周波、低周波、およびこれらの組み合わせを含むグループから選択されるシステム。前記1つ以上の値が、一定期間にわたる1つ以上のフィーチャ(特徴または特色)のそれぞれの発生数の数値表現であるシステム。前記閾値が予め定められているシステム。前記閾値が機械学習モデルに基づいて設定されるシステム。システムは、ディスプレイを含むハンドヘルドハウジングをさらに含み、少なくとも前記2つのセンサはハウジングと電子通信し、プロセッサは該ハウジング内に配置され、ディスプレイは出力データを表示するように構成されている。前記システムは、前記プロセッサが前記1つ以上の脳波周波数を信号データに変換する信号脳(signal brain)を評価するように構成された検証モジュールをさらに含み、前記検証モジュールは、少なくとも1つの所定の信号品質閾値を超える信号データを破棄する。前記信号データは、等しい持続時間のウィンドウに区分されるシステム。前記デバイスは、信号処理モジュールをさらに含む。前記デバイスは、検証モジュールをさらに含む。前記デバイスは、閾値モジュールをさらに含む。記載された技術の実施(実装)は、ハードウェア、方法またはプロセス、またはコンピュータアクセス可能な媒体上のコンピュータソフトウェアを含むことができる。
【0013】
1つの一般的な態様は、脳症の存在を評価するためのシステムを含み、a.1以上の脳波周波数を記録するように構成された少なくとも2つのセンサと、プロセッサと、時間の経過とともに脳波周波数を比較するように、脳波周波数についてのスペクトル密度解析を実行して比率を確立するように、その比率を、確立された閾値と比較するように、後の脳症の発症の有無、または可能性の指示をすることについて示すデータを出力するように構成された少なくとも1つのモジュールと、を含む。この態様の他の実施形態は、それぞれが上記方法の動作を実行するように構成された、1以上のコンピュータストレージデバイスに記録された、対応するコンピュータシステム、装置、およびコンピュータプログラムを含む。
【0014】
実施は、以下の特徴の1つ以上を含むことができる。前記閾値は予め決められているシステム。前記閾値は機械学習モデルに基づいて確立されるシステム。システムは、ディスプレイを備えるハンドヘルドハウジングをさらに含み、前記少なくとも2つのセンサはハウジングと電子通信し、前記プロセッサは前記ハウジング内に配置され、前記ディスプレイは出力データを表示するように構成される。システムは、前記プロセッサが前記1つ以上の脳波周波数を信号データに変換する信号脳(signal brain)を評価するように構成された検証モジュールをさらに含み、前記検証モジュールは、少なくとも1つの所定の信号品質閾値を超える信号データを破棄する。信号データが等しい持続時間のウィンドウに区分されるシステム。前記デバイスは、信号処理モジュールをさらに含む。前記デバイスは、検証モジュールをさらに含む。前記デバイスは、閾値モジュールをさらに含む。記載された技術の実施(実装)は、ハードウェア、方法またはプロセス、またはコンピュータアクセス可能な媒体上のコンピュータソフトウェアを含むことができる。
【0015】
1つの一般的態様は、患者における脳症の、後の発症の有無または可能性を評価するハンドヘルドデバイスを含み、ハウジングと、少なくとも1つの脳波信号を生成するように構成された少なくとも1つのセンサと、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのシステムメモリと、少なくとも1つの脳波信号についてスペクトル密度解析を実行し、患者出力データを生成するように構成された少なくとも1つのプログラムモジュールと、前記患者出力データを表すように構成されたディスプレイとを含む。この態様の他の実施形態は、それぞれが上記方法の動作を実行するように構成された、1以上のコンピュータストレージデバイスに記録された、対応するコンピュータシステム、装置、およびコンピュータプログラムを含む。
【0016】
実施は、以下の特徴の1つ以上を含むことができる。デバイスは、信号処理モジュールをさらに含む。デバイスは、検証モジュールをさらに含む。デバイスは、閾値モジュールをさらに含む。デバイスは、フィーチャ解析モジュールをさらに備える。デバイスは、信号処理モジュールをさらに備える。記載された技術の実施(実装)は、ハードウェア、方法またはプロセス、またはコンピュータアクセス可能な媒体上のコンピュータソフトウェアを含むことができる。
【0017】
1つ以上のコンピュータデバイスは、コンピュータ可読形式でレンダリングされたソフトウェア命令にアクセスすることによって所望の機能を提供するように適合され得る。ソフトウェアが使用される場合、本書に含まれる教示を実施するために、任意の適切なプログラミング、スクリプティング、または他のタイプの言語または言語の組合せを使用することができる。ただし、ソフトウェアを排他的に使用する必要はない。例えば、本書に記載された方法およびシステムのいくつかの実施形態は、配線論理または特定用途向け回路を含むがこれに限定されない他の回路によっても実施され得る。コンピュータ実行ソフトウェアと配線論理または他の回路の組み合わせも同様に適している。
【0018】
複数の実施形態が開示されている一方、本開示のさらに他の実施形態は、開示された装置、システムおよび方法の例示的実施形態を示し、記載する以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。理解されるように、開示された装置、システムおよび方法は、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、様々な明白な態様で変更することができる。したがって、図面および詳細な説明は、本質的に例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書の一部を構成し、本発明の好ましい実施形態を示し、詳細な説明と共に本発明の原理を説明する役割を果たす。図面において:
【
図1】
図1は、患者に使用されている例示的なスクリーニングシステムの概要を示す。
【
図4A】
図4Aは、せん妄の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための例示的なシステムを示す。
【
図4B】
図4Bは、せん妄の予測、スクリーニングおよびモニタリングのコンピュータの使用態様の例示的なシステムを示す。
【
図5A】
図5Aは、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための例示的なシステムを示す。
【
図5B】
図5Bは、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための例示的なシステムを示す。
【
図5C】
図5Cは、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための例示的なシステムを示す。
【
図5D】
図5Dは、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための他の例示的なシステムを示す。
【
図6】
図6は、例示的な実施形態による、スクリーニングデバイスのプログラムモジュールおよびプログラムデータを示す。
【
図7】
図7は、例示的な実施形態による、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための方法の概要である。
【
図8A】
図8Aは、例示的な実施形態による、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための方法の概要である。
【
図8B】
図8Bは、例示的な実施形態による、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための方法の概要である。
【
図10】
図10は、時間に対するスペクトル密度解析の例を示す。
【
図11】
図11は、例示的な実施形態による、最適頻度でのスクリーニング結果の例を示す図である。
【
図12】
図12は、脳症の特徴を識別する機械学習モデルの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本書で開示または企図される様々な実施形態は、せん妄の臨床形態の脳症の客観的な臨床的測定値を提供することができるシステム、方法およびデバイス(装置)に関する。これらの実施(実装)は、脳症の発症の特徴である、患者の脳波におけるびまん性徐波化の存在を検出する。本書で論じる実施形態は、患者の頭部上の少数の別個の場所から記録された脳波に対してスペクトル密度解析を実行することによってびまん性徐波化を検出することができ、それによってハンドヘルドデバイスを使うようなベッドサイド診断を容易にする。すなわち、様々な実施は、患者の頭部に配置された2つ以上のリード線を介して脳波を記録し、記録された低周波から高周波までの周波数の比率を評価し、その比率を決定された閾値と比較して脳症の発症を識別するアルゴリズムを実行することができる。さらなる実施形態では、これらの実施は、診断精度を向上させるために、機械学習および医療記録からのデータなどの追加データを利用する。
【0021】
開示されたシステム、デバイス(装置)および方法は、従来技術において見出された16リード、20リード、24リードより少ないリード線のEEGを使用した、非侵襲的なポイントオブケア診断に関連する。例えば、
図1に一般的に示されるように、ある特定の実施において、2リード「バイスペクトル脳波検査」(BSEEG)スクリーニングシステム1が使用され、これは、2つのリード線12A、12Bを患者30の額に10分未満付けることによるハンドヘルド式スクリーニングデバイス10で行うことができる。これらの実装形態では、BSEEG内の2つのリード線またはチャネルが説明のために使用されているが、多くの数のリード線またはチャネルが本明細書で考慮されることが理解される。様々な実施において、デバイス10は、最後の測定値4、傾向(トレンド)6、信号品質(クオリティ)8などのような脳症/せん妄の診断に使用する有用な情報のグラフ表示および/または数値表現7をディスプレイ表示することができる。これらの表現7は、ディスプレイ16上で理解されたグラフィカルユーザインタフェース技術の結果であり得ることが理解される。
【0022】
脳波は、様々な周波数および/または周波数の帯域を有することができる。「びまん性徐波化」は、脳症の特徴的な指標である。また、
図2A~3Dは、正常なコントロール3と比較して、脳症2の症状を経験している患者からの一部の脳波測定値を示す。当業者には明らかであるように、様々な状態において、脳症における脳波は、観察された各チャネルにおいて遅い波形が観察され得ることを意味する「びまん性徐波化」2によって特徴付けられ得る。
図2A~2Bから明らかなように、この徐波化は局所的ではなくむしろびまん性であるため、EEG(脳波計)からの様々な電極のほとんど、-典型的には全て-で徐波化(
図2Aに示される)が観察される。
【0023】
図3Aに示すように、より高い周波数の波の数と比較してより緩やかな波2の出現は、患者が脳症を発症している、または発症する可能性がより高い兆候であり得る。
【0024】
図3B~3Dに示すように、びまん徐波化は、EEG電極の全部またはほぼすべてで日常的に観察され得るので、標準的な数の16~24を利用してびまん性徐波を同定し、脳症の発症を予測することが可能である。これらの実施では、本書で論じられるBSEEG実施で利用される2つのリード線は、びまん性徐波化を検出するのに十分であり、適切な信号処理およびユーザインタフェースを含んで、配置または解釈のための特別な専門知識を必要とせず、簡単なハンドヘルドスクリーニングデバイスの助力を得て行い得る。
【0025】
図4Aにおいて、スクリーニング装置10の1つの実施(実装)が示されている。本書で開示される脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのためのシステムおよび方法は、そのようなハンドヘルド式または別の携帯型スクリーニングデバイス10を利用することができる。これらの実施において、スクリーニングデバイス10は、例えば1つ以上のセンサ12A、12Bからの信号を受信するように構成される。びまん性徐波化は患者の脳のいたる所で容易に識別可能であるため、これらのデバイス10は、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のセンサ12のような20個よりはるかに少ないセンサを使用することができる。ある特定の実施においては、6個から20個またはそれ以上のセンサが使用される。したがって、20個未満のセンサ12が使用されるので、開示されるデバイスおよびシステムは、典型的な従来技術のEEGキャップ(キャップ式脳波電極)を適用する必要がないので、患者30上で容易に運搬され使用され得ることが理解される。
【0026】
図4Aの実施(実装)において、1つ以上のセンサ12A、12Bは、限定するものではないが患者に配置された電極のような脳センサである特定の実施形態では、信号は、患者の脳活動を測定する1つ以上の電極からの脳波計(EEG)信号であってもよい。信号は、信号の1つ以上の特徴付けるもの(フィーチャ)を抽出するために処理され得る。1つ以上のフィーチャを解析して、1つ以上のフィーチャのそれぞれについて1つ以上の値を決定することができる。患者が現在疾患の臨床的徴候または症状を示さない場合、上記値つまり1つ以上の値に基づく評価基準(尺度)を閾値と比較して、脳症の、後の発症の有無、または可能性を決定することができる。
【0027】
図4A~4Bについて続けると、スクリーニングデバイス10は、ハウジング14を備えることができる。様々な実施において、ハウジング14は、ハンドヘルドまたは別なやり方で持ち運び可能なサイズにすることができる。ハウジング14は、当業者によって好まれるように、ディスプレイ16およびインタフェース18、例えばボタンまたはタッチスクリーンなどを有することができる。様々な実施において、センサ12A、12Bは、ポート22A、22Bおよびワイヤ24A、24Bを介してデバイス10に接続され、一方、代替の実施(実装)としては、Bluetooth(登録商標)などの無線インタフェースを利用する。
図4Aに示すように、グラウンド(接地)リード線13を設けることもでき、グラウンドリード線13はワイヤ24A、24Bのうちの1本に束ねられて合理化(簡素化)される。様々な実施において、
図5A、5Bに関連して議論されるように、送信コード26または他の接続を使用して、デバイス10をサーバまたは他のコンピュータデバイスと電気的に通信することができる。
【0028】
図4Bにも示されるように、様々な実施形態においてディスプレイ16は、1つ以上の脳波2A、2B、最後の測定値4、傾向(トレンド)6、信号品質(クオリティ)8などを含む脳症/せん妄の診断に使用するための有用な情報のグラフ表示および/数値表現7を描写することができる。例示的な実施において、スペクトル密度を確立された閾値と比較する、以下に説明する閾値ステップのグラフ表示が、最後の測定値4として示されている。これらの表現7は、任意のプログラムデータ67を含むことができ、ディスプレイ16上の理解されたグラフィカルユーザインタフェース技術の結果としてプロバイダに示され得ることが理解される。これらの実施(実装)において、脳波2A、2Bは、患者に取り付けられたセンサ12から引き出され、臨床的または他の状況における脳症の発症を診断および/または予測するために使用することができる。様々な実施において、ハウジング14はまた、電源、およびマイクロプロセッサ、メモリなどのコンピュータ関係のコンポーネントを備える。追加的な実施において、プログラムモジュール(
図6、
図7に関連して説明されている)を介するなどして、デバイスハウジング14内で計算および他の処理が行われるが、追加処理は、本書で説明するように他の場所で行われ得る。これらの実施(実装)の各々において、スクリーニングデバイス10および/またはシステム1は、びまん性徐波化を同定するために20未満のチャネルで行われるスペクトル密度解析によって、患者のびまん性徐波化を判断するように構成されたプロセッサを含む。
【0029】
図5Aは、1つの実施(実装)による脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための例示的なシステム1を示す。この実施において、システム1は、ある特定の実施における
図1のデバイス10である1つ以上のスクリーニングデバイス10(例えば、スクリーニングデバイス1、スクリーニング装置デバイス2、…、スクリーニングデバイスn)を含むことができる。この実施におけるスクリーニングデバイス10は、1つ以上のセンサ12A~12-nと動作可能に連結されている。1つ以上のセンサ12は、個々のセンサ、センサのアレイ、医療機器、または他のコンピュータデバイス、リモートアクセスデバイスなどであってもよい。ある特定の実施形態では、1つ以上のセンサ12は、1つ以上の電極および/または他の脳機能モニタリングデバイスであってもよい。 1つ以上のセンサ12は、患者30の生物学的信号をモニタするために、患者30に直接的または間接的に結合されていてもよい。
【0030】
図5Aにも示すように、センサ12A、12B、12C、12-nから受信した信号の様々な処理および解析は、
図6および
図8に関連して説明したように、スクリーニングデバイス10で行うことができる。ある特定の代替の実施において、
図5B~5Dを参照すると、スクリーニングデバイス10は、他のコンピュータデバイスと共に使用することができる。
【0031】
図5Bの実施において示されるように、スクリーニングデバイスは、ベッドサイドデバイス11に接続され得るあるいは別のやり方でインタフェース接続され得る。様々な実施において、ベッドサイドデバイス11は、患者モニタまたは他の統一されたベッドサイドモニタリングデバイス11であり得る。ベッドサイドデバイス11によって使用することができる。様々な実施において、ベッドサイドデバイス11は、特定の解析または観察ステップを閲覧および/または実行する医療サービス機関によって使用され得る。
【0032】
図5C、5Dに示すように、1つ以上のスクリーニングデバイス10は、1つ以上のサーバ/コンピュータデバイス42、システムデータベース36(例えば、データベース1、データベース2、…、データベースn)に、ネットワークなどを介して直接的におよび/または間接的に動作可能に接続されてもよい。限定されないが、医療機器、医療監視システム、クライアントコンピュータデバイス、コンシューマコンピュータデバイス、プロバイダコンピュータデバイス、リモートアクセスデバイスなどを含む様々なデバイスをシステムに接続することができる。このシステム1は、様々なセンサ、医療機器、コンピュータデバイス、サーバ、データベースなどから1つ以上の入力38および/または1つ以上の出力40を受信することができる。
【0033】
いくつかの実施形態中の
図5Dに示されるように、1つ以上のスクリーニングデバイス10は、コネクション32を経由して1つ以上のサーバ/コンピュータデバイス42と直接結合され得るおよび/または一体化され得る、および/または1つ以上のネットワーク接続(コネクション)32を通じて1つ以上のサーバ/コンピュータデバイス42と結合され得る。スクリーニングデバイス10および/または1つ以上複数のサーバ/コンピュータデバイス42は、ネットワークなどを通じて1つ以上のサードパーティーサーバ/データベース34(例えば、データベース1、データベース2、…、データベースn)に直接および/または間接的に、動作可能なように接続されることも可能である。1つ以上のサーバ/コンピュータデバイス42は、例えば、サーバや、サーバ、パーソナルコンピュータ(PC)、ラップトップ、スマートフォン、タブレットなどのコンピュータデバイスのうちの任意の1つ以上を表すことができる。
【0034】
様々な実施において、コネクション32は、例えば、ハードワイヤ接続、無線接続や、インターネット、イントラネット、ワイドエリアネットワーク、セルラーネットワーク、Wi-Fi(登録商標)ネットワークなどのローカルエリアネットワークの任意の組み合わせを代表することができる。少なくとも1つのプロセッサおよび/またはメモリを含むことができる1つ以上のセンサ12は、任意のセンサ、医療機器、あるいはコンピュータデバイスのセットに代表することができ、1つ以上のスクリーニングデバイス10またはサーバ/コンピュータデバイス42にデータ入力をそれぞれ送信する、および/または1つ以上のスクリーニングデバイス10またはサーバ/コンピュータデバイス42からデータ出力を受信するアプリケーションを実行する。このようなサーバ/コンピュータデバイス42は、例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップ、モバイルコンピュータデバイス(例えば、タブレット、スマートフォン、ウェアラブルデバイス)、サーバコンピュータ、および/またはその他のうちの1つ以上を含むことができる。ある特定の実施形態において、入力データは、1つ以上のサーバ/コンピュータデバイス10で処理するための、例えばEEGシステム、他の脳波測定などからのアナログおよび/またはデジタル信号を含むことができる。
【0035】
様々な実施において、データ出力40は、例えば、医学的指示(表示)、推奨、通知、アラート、データ、画像、および/またはその他を含むことができる。開示された具現化の実施形態は、複数のユーザがログインし、様々な場所からデータプロジェクトに対して様々な操作を実行する共同プロジェクトにも使用することができる。ある特定の実施形態は、コンピュータベース、ウェブベース、スマートフォンベース、タブレットベースおよび/またはヒューマンウェアラブルデバイスベースであり得る。
【0036】
他の例示的な実施において、スクリーニングデバイス10(および/またはサーバ/コンピュータデバイス42)は、
図6に示されるように、システムメモリ46に結合された少なくとも1つのプロセッサ44を含むことができる。
【0037】
リード線からのスペクトル密度解析は、様々な電子的およびコンピュータメカニズムによって実行することができる。
図6の実施(実装)においては、プログラムモジュール48が設けられている。これらのプログラムモジュールは、信号処理モジュール52、フィーチャ解析モジュール54、検証モジュール55、びまん性徐波化または脳症判定、または閾値モジュール56、出力モジュール59、および、オペレーティングシステム、デバイスドライバーなどの他のプログラムモジュール58を含むことができる。様々な実施において、各プログラムモジュール52~58は、プロセッサ44によって実行可能なコンピュータプログラム命令のそれぞれのセットを含むことができる。
【0038】
図6は、プログラムモジュールのセットの一例を示し、プログラムモジュールの他の数および配置は、サーバ/コンピュータデバイス10および/またはシステム1の特定の任意の設計および/またはアーキテクチャの機能として熟考される。例示的な実施において、プログラムデータ50は、信号データ60、フィーチャデータ62、検証データ63、びまん性徐波化または脳症判定モジュール64、出力データ67および他のプログラムデータ66(例えば、データ入力、サードパーティーデータ、および/または
図7、
図8で説明した様々なステップを実施するように構成されたその他のものを含む。
【0039】
様々な実施において、プログラムデータ50は、上述の様々なプログラムモジュール48に対応することができる。これらの様々な実施では、(
図1Aおよび
図8Bの16に示されるように)ディスプレイおよび/または、
図5Bのベッドサイドモニタリングデバイス11、
図5Cの様々なシステムデータベース36および/またはサードパーティーサーバまたはデータベース34、
図5Dのシステムサーバ/コンピュータデバイス42などの本書で説明される他のコンピュータデバイス、あるいは、モジュールがハウジング14内に収容されていない実施では、スクリーニングデバイス10自体および
図12のゲートウェイ210または、出力モジュールと電気的または物理的に通信する任意の他のコンピュータデバイス、ストレージデバイスまたは通信デバイス、のいずれかに、出力データ67を記録、解析、および他の方法で出力するために、プログラムモジュール48および/またはプログラムデータ50が使用され得る。出力データ67は、せん妄または脳症の症状を診断または識別するために、ポイントオブケア提供者に患者の脳波の特徴を提供することが理解される。例えば、特定の実施において、本書の他の箇所で説明したように、スペクトル密度の最後に測定された読み取り値はもちろん、信号品質(クオリティ)および傾向(トレンド)の定性的測定を提供することができる。
【0040】
図7は、脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングのための一実施形態による例示的な方法5の概要である。脳症の予測、スクリーニングおよびモニタリングを達成するために、システムおよび方法は、いくつかの任意的なステップを実行することができる。
【0041】
1つの任意的なステップは、記録ステップ70である。このステップでは、1つ以上の信号などの入力データが、例えば
図4A、
図4B、
図5A~
図5Dおよび
図6に示されるセンサ12、デバイス10、プロセッサ40および/またはシステムメモリ46の1つまたは全てによって受信および/または記録され得る。
【0042】
図7について続けると、任意の処理ステップ71において、
図6に示されるプログラムデータ50および/または信号処理モジュール52などによって、1つ以上の信号を処理することができる。ある特定の実施において、これらの信号は、
図8Aにも示されているように、信号をウィンドウに区分するように処理することができる。信号はまた、
図8Aに関してさらに説明されているように、1つ以上の信号および/またはウィンドウから1つまたは複数の値を抽出するように処理され得る。これらの値は、特定の実施態様において、EEGからの生信号のフィーチャ(特徴または特色)を含むことができる。
図11Aおよび11Bに関してさらに説明されるように、様々な実施において、システム1は、これらの値をシステムの精度が向上する方向に向かせることができる。
【0043】
図7について続けると、任意的な解析ステップ72は実行され得、ここで1つ以上の値が信号またはウィンドウの特定のフィーチャを決定すべく解析され得る。ある特定の実施(実装)において、この解析ステップは、高速フーリエ変換100を実行してフィーチャデータを作成またはそれ以外の方法で比較する(
図6の64に示す)ことを含むことができる。
【0044】
別の任意のステップでは、検証ステップ73を実行することができる。これらの実施において、
図8Aに示すように、スペクトル密度102および/または他の生信号値104A、104Bまたは他のフィーチャ(特徴または特色)は、後続のステップでの使用から除外または含めるために区分された信号ウィンドウ(一般に84A、84Bで示す)からの個々の読み取り値を比較するために使用することができる。様々な実施において、このステップは、検証モジュール55および検証データ63によって実行することができる。様々な実施形態において、検証ステップ73は、本書で説明される他のステップと並行してまたは別のやり方で繰り返しの反復で実行され得、結果の信号データがその後の解析の準備ができるまで、エラー収集アルゴリズムを利用する。例えば、
図8Aにさらに説明するように、検証ステップ73は、特定の測定された所定の誤差値の上または下のすべての読み取り値がさらなる処理から除外されていることを保証するために使用することができる。
【0045】
図7について続けると、びまん性徐波化または脳症判定ステップ、または閾値ステップ74を実行することができる。このステップでは、1つ以上の値またはフィーチャの少なくとも1つ、または1つ以上の値のうちの少なくとも1つに基づく評価基準(尺度)を、(
図6の64で示されているように)びまん性徐波化閾値データを介して実施可能な、確立された(
図8の65に示す)びまん性徐波化閾値と比較することができる。ある特定の実施形態では、閾値比較に基づいた患者の脳症の、後の発症の有無、または可能性の指示を決定することができる。例えば、以下の実例で論じるように、閾値データ64として3Hz/10Hzの読み取り値の平均値と、1.44(陽性≧1.44および陰性<1.44)の閾値65を使用して、スクリーニングデバイス10は、閾値65を表示してもしなくても、陽性および/または陰性の読み取りをグラフィカルに示すことができる。閾値65は、システムの改善および強化の結果として、ならびに追加のデータ66および他の要因に基づいて、経時的に変更されてもよいことが理解される。
【0046】
例示的な実施において、閾値ステップのグラフ表示がスクリーニングデバイス10または他のモニタリングシステムにおいて表示され、スペクトル密度と確立された閾値との比較が最後の測定値4として示される。これらの任意のステップの各々は、本書に開示された実施例に関連して以下でさらに詳細に論じられる。
【0047】
図8Aに示されるように、システム1の1つの例示的な実施において、患者30は、
図1のスクリーニングデバイス10を用いるなどしてセンサ12A、12Bによってモニタ(監視)されている。この実施において、センサ12は、患者30から1つ以上の信号80A、80Bを生成する。1つ以上の信号80A、80Bは、アナログおよび/またはデジタル信号であり得る。1つ以上のセンサ12A、12Bは、1つまたは複数の信号を受信するシステムとは別個であってもよく、または1つ以上の信号を受信するシステムと一体であってもよい。現在説明されているシステム1がEEG信号の収集に関連している一方、代替の実施において、1つ以上のセンサ12A、12Bは、以下の生理学的状態:心拍数、脈拍数、EKG(心電図)、心拍変動、呼吸数、皮膚温度、運動パラメータ、血圧、酸素レベル、心臓体温、体外熱流、ガルバニック皮膚反応(GSR)、筋電図(EMG)、眼電図(EOG)、体脂肪、水分レベル、活動レベル、酸素消費量、グルコースまたは血糖値、身体の位置、筋肉や骨への圧力、紫外線(UV)吸収など、のうちの1つ以上を測定、検出、決定および/またはモニタ(監視)することができる。
【0048】
様々な実施において、
図1A~
図6に関して説明したように、システム1は、スクリーニングデバイス10内または他の場所に配置することができる1つまたは複数の信号処理デバイスを含む。処理は、特定の信号特徴(フィーチャ)に対応する信号情報を探すために1つ以上の信号を解析することによって1つ以上のフィーチャを決定することができる。ある特定の実施形態では、1つ以上の信号を処理して、1つ以上の高周波および/または1つ以上の低周波の存在を判定することができる。1つ以上のフィーチャは、例えば、これに限定されるものではないが、高周波および/または低周波などの波のタイプであり得る。
【0049】
図8A実施において、信号80A、80Bは、上記のように、処理のために第1の82Aおよび第2の82Bチャネルを通じて受信される。他の実施も可能である。これらの方法は、8ビットまたは16ビットの組み込みデバイス環境、またはよりロバストな環境に統合することもできる。これらの方法は、既存の病院の患者のワークフローに統合することができる。
【0050】
図8Aにも示されるように、特定の実施において信号80A、80Bは、その信号を等しい逐次区画(一般に84Aおよび84Bで示す)のウィンドウに処理され得る。図示された実施において、10分の信号持続時間が示されており、信号は10個の個別1分ウィンドウ(一般に84Aおよび84Bで示されている)に窓分けされているが、他の実施では、他の信号持続時間および窓の数を使用することができることが理解される。様々な実施において、信号は、1秒未満であってもよいし、1時間以上であってもよく、または任意の数分であってもよい。同様に、任意の数のウィンドウが存在することができ、ウィンドウは1秒から数分またはそれ以上の時間間隔(区分)の範囲であり得る。
【0051】
図8Aの実施において、信号80A、80Bが区分された後、
図7に関して説明したように、いくつかの任意の処理および解析ステップを実行することができる。様々な実施において、値86A、86Bが抽出され、様々な任意のステップを、値86A、86Bに対して実行して、それぞれの信号80A、80Bに対して確立され得る最小/最大振幅88A、88B、平均振幅90A、90B、四分位範囲(IQR)振幅92A、92B、振幅の平均偏差94A、94Bおよび/または信号エントロピー96A、96Bの一部または全部であるような生データフィーチャ104A、104Bを同定することができる。当業者には明らかであるように、他の生データフィーチャ104A、104Bを同定することができる。
【0052】
解析ステップにおいて、びまん性徐波化を同定するためにスペクトル密度解析102が利用され得る。
図8Aにも示されているように、ある特定の実施形態では、追加のフィーチャ104A、104Bを同定するために、1つ以上の信号80A、80Bに対して高速フーリエ変換100を実行することができる。高速フーリエ変換100は、単独で、またはスペクトル密度を評価するために他の解析ツールと組み合わせて使用することができる。低周波密度105A、高周波密度105B、および低周波密度と高周波密度の比(比率)105Cなどの1つ以上のスペクトル密度フィーチャ104A、104Bを決定するために、スペクトル密度解析102を1つ以上の信号に対して実行することができる。スペクトル密度解析102からのこれらのフィーチャ104A、104Bは、様々な任意のステップおよび組み合わせを使用することによって、生信号から引き出された様々な値104A、104Bと組み合わせて、単独で、または脳症を予測および/または診断するために使用することができる。
【0053】
ある特定の実施(実装)において、異なる患者状態を区別するために、図示されたEEG信号などの1つ以上の信号80A、80Bのそれぞれに対してスペクトル密度解析102A、102Bを実行することができる。ある特定の実施形態では、スペクトル密度解析102A、102Bは、高周波脳電気活動の比率105Cを含む値104A、104Bを、低周波脳電気活動に提供することができる。例えば、びまん性徐波化を確立するために、約10Hzの信号対約2Hz、3Hz、または4Hzの信号の比率を比較することができる。1つ以上の信号80A、80B内の1つ以上の帯域またはウィンドウは、本書に記載のシステムおよび方法での使用のために識別されてもよい。
【0054】
ある特定の実施(実装)において、検証ステップ73を実行することができる(ボックス106に示す)。これらの実施において、スペクトル密度102および/または他の生信号値104A、104Bを使用して、解析からから除外または含めるために区分信号ウィンドウ(一般に84A、84Bで示す)からの個々の読み取り値を比較することができる。例えば、ある特定の実施では、補正アルゴリズム108が実行され得る。1つの実施において、エラー収集アルゴリズム108は、多くの任意のステップを実行する。1つの任意のステップでは、所与のウィンドウ内の特定の所定のエラー閾値より上または下の様々な値104A、104Bが破棄される(110)。別の任意のステップでは、IQRおよび/または密度比105Cが所定の近接度112内にある場合、これらのウィンドウ信号は、後述するように、集約および再結合116のために保持される。他の任意のステップも可能である。
【0055】
これらの実施(実装)において、任意の追加の組換えステップ116を実施することができる。組換えステップ116において、検証ステップ73(ボックス106)の結果として除去されなかったウィンドウ84A、84Bは、それらのウィンドウからの値104A、104B、104A、104Bがびまん性徐波化閾値データ64として集約されるように組み合わせることができる。
【0056】
びまん性徐波化閾値データ(
図6の符号64で示す)を使用して、びまん性徐波化または脳症閾値処理ステップ74が、
図9A~
図13にさらに明示されるように実行される。これらの実施において、集約された閾値データ64は、閾値モジュール56によって確立された閾値65と比較することができる。様々な実施において、電子機器による医療記録(電子カルテ)などの他の情報源66からのデータも、閾値65と比較して、例えば、
図5A~
図5Dに関連して、本書に記載されている他のデバイスおよびシステムのいずれかに図形的に提示することができる出力67を確立する。そのような1つの例は、
図9A~
図9Dに見られるような最後の測定値4、傾向(トレンド)6、品質(クオリティ)8、電力(出力、電源またはpower)75および他の図形表現を含むことのできる出力データ67の表示である。
【0057】
図2A~
図3Dに示すように、脳症における脳波は、「びまん性徐波化」によって特徴付けられ、これは、EEGからの電極、好ましくは全ての電極が、緩徐波形を示すことを意味する。上述したように、脳波は様々な周波数および/または周波数の帯域を有する可能性がある。びまん性徐波化は、より緩徐な波、より低い周波数のものが、全部ではないにしても大部分のEEGの電極にわたって見られることを意味し得る。より高い周波数の波の数と比較してより緩徐な波が出現することは、患者が脳症を発症しているか、または発症する可能性がより高いという兆候になり得る。びまん性徐波化を検出するには、2つのリード線(およびグラウンド)が適当であり、適切な信号処理およびユーザインタフェースを伴って、配置または解釈に特別な専門知識を必要としなくてよい。
【0058】
ある特定の実施形態では、
図9A、9Bを参照すると、スペクトル密度解析102A、102Bは、1つ以上の信号における高周波の数および/または1つ以上の信号における低周波の数であり得る1つ以上の値104A、104Bで実行される。
図9Aに示されるように、各チャネル82A、82Bは、出力データ67として「高」および「低」周波および他の特性を決定すべく、
図8Aに関連して説明したステップによって解析することができる。様々な実施において、これらの表現は、このプロセスで上述した様々な形態のデータのいずれかとして使用することができ、デバイスディスプレイ16(
図4Bに示される)に表示することができる。
【0059】
ある特定の実施形態において、値104A、104Bは、上述したステップのいずれかの一部として、1つ以上の信号80A、80Bの全体にわたって計算され得る。ある特定の実施形態において、値104A、104Bは、1つ以上の信号のサブセットまたは1つ以上の信号の時間のサブセットにわたって計算されてもよい。例えば、1つ以上の信号が5分の持続時間である場合、値104A、104Bは、4分、3分、2分、1分、30秒など、5分未満にわたって計算され得る。したがって、1つ以上の値104A、104Bは、所定の時間(量)にわたって、フィーチャ104A、104Bおよび/または値104A、104Bであってもよい。ある特定の実施形態において、1つ以上の値104A、104Bは、ある期間にわたる多数の高周波および/またはある期間にわたる多数の低周波であってもよい。ある特定の実施形態において、1つ以上の値104A、104Bは、多数の高周波と多数の低周波との比とすることができる。ある特定の実施形態において、1つ以上の値104A、104Bは、ある期間にわたる多数の低周波波に対するある期間にわたる高周波数の比率であってもよい。
【0060】
図8A、8Bおよび
図9A~9Dに示されるように、デバイス10、システム1および方法5の様々な実施において、各チャネルに対し高周波と低周波の波の比(比率)がプロットされ得、びまん性徐波化または脳症の判定ステップ(
図7の74で示される)で比較され得る。これらの実施では、1つ以上の値またはフィーチャの少なくとも1つまたは閾値データ64に含まれる1つ以上の値のうちの少なくとも1つに基づく評価基準(尺度)がモジュール56を介して確立されたびまん性徐波化閾値65と比較され得る。ある特定の実施形態では、上記比較に基づいて、患者に対して脳症の、後の発症の有無、または可能性が決定され得る。様々な実施において、周波数は各信号に対し経時的に比較され、結果が解析される。以下にさらに説明するように、
図9Aおよび
図9Bは、それぞれのチャネルの各々についての経時的な生EEGチャネル信号を示す。
図9Cおよび
図9Dは、各チャネルに対してスペクトル密度解析結果102を示す。
【0061】
実験結果は添付の実施例で実証され、結論が与えられる。
【0062】
実施例1:せん妄の臨床診断と比較したBSEEGによる脳症のスクリーニング
【0063】
この実施例では、スクリーニング装置10、システム1および方法5によって得られた脳波信号を比較するために、65歳以上の80人以上の患者(臨床的にせん妄の有無を問わず)を利用して予備研究を行った。ベースライン認知機能は、モントリオール認知評価(MoCA)を用いて評価した。
【0064】
この実施例では、ICU(集中治療部)におけるせん妄評価法(CAM-ICU)を用いて、せん妄の存在に対して患者がスクリーニングされた。評価に続いて、現在説明されているBSEEGによるデバイス、システムおよび方法を使用して脳波の読み取りを行い、すなわち、患者の額に2つのEEGリードをセットし、脳半球ごとに1つずつ、10分のコースによって左右から2チャネルの信号を得る。グラウンドリードも使用された。患者達の入院中にこのプロセスを1日2回、最大7日間繰り返し、その時点以降に精神状態の変化が観察されなければ試験を終了した。精神状態の変化が観察された場合、追加の時間に関して変化がモニタ(監視)された。
【0065】
この実施例においては、現在説明されているスクリーニングデバイスからのEEG信号の質を、同じ患者の伝統的な20リードEEGマシンから得られたEEG信号と同時に比較した。これら結果間に有意差がないことが確証された。
【0066】
この実施例では、せん妄の有無にかかわらず、限られた数の症例からのデータの予備的解析を行った。最初の解析は、現在説明されているデバイス、システムおよび方法が、これらの患者を明確に区別し、異なる時間に同一患者のせん妄およびせん妄の欠如を検出したことを示した。BSEEGの結果と信号処理アルゴリズムに基づいて、陽性(真陽性)および陰性(真陰性)として正しく分類された被験者の数を数える。この例では、陽性(偽陽性)および陰性(偽陰性)として誤って分類された症例の数を集計する。CAM-ICU所見と比較して、陽性結果および陰性結果のいくつかの閾値で感度および特異度を計算することが可能である。
【0067】
続いて受信者動作特性(ROC)解析が実施され、スクリーニングデバイス出力データを評価するためのアルゴリズムが開発された。目標予測精度(AUC)が0.7以上(1.0が理想的)の最適なアルゴリズムを開発するためにROCプロセスが複数のアルゴリズムで繰り返された。様々な実施において、このアルゴリズムは、上述したように、ベッドサイド診断およびシステム改善で使用するハンドヘルドスクリーニングデバイス10(例えば、
図4Aに示される)またはシステム5内の他の場所などの、システムに組み入れることができる。
【0068】
実施例2:スクリーニングデバイスの評価
【0069】
この実施例において、最初のトレーニングセットのデータセットは、せん妄の臨床的なまたはCAM(せん妄評価法)の証拠と相関している186の全患者のEEG(脳波)サンプルを含んでいた。これらのサンプルは、実施される解析にはデータ品質が不十分である5つの陽性、179の陰性および2つの陰性の症例を表し、したがって、さらなる検討から除外された。
【0070】
この実施例では、もともとは15Hzのローパスフィルタを使用していたが、予備結果では陽性と陰性の症例間でFFT周波数情報が不均等に減衰し、そのためにローパスフィルタが除去されていた。
【0071】
処理されたサンプルの処理中に、4秒のウィンドウが良好な結果を明示するのに十分であることが観察された。また、この実施例では、高振幅ピークを含むウィンドウを、例えば、
図9Aおよび
図9Bに示すように、500μVの閾値を用いて除外した。
【0072】
また、
図9Cおよび
図9Dは、低/高周波数比を確立するために強度(W/Hz単位)を各周波数(Hz単位)と比較することができるチャネルのスペクトル密度を示す。3Hz/10Hzの比を使用すると、2Hz/10Hzまたは4Hz/10Hz比とは対照的に、このトレーニングセットにおいて好ましい予測結果が得られることが観察された。
【0073】
図10において、システム1および方法5を用いて、時系列130のスペクトル密度解析を確立して、時間の経過とともに、せん妄状態の132を「正常な」134の波の周波数と比較することができる。せん妄状態の被験者139から明らかなように、システムは、コントロール(被験者122)と比較して低(3Hz)波形から高(10Hz)波形の比率の増加を識別することができ、それによって脳症の存在を示す。様々な実施において、これらの結果は、集団の閾値と比較してスペクトル密度を確立することによって、脳症の発症を前向きに同定するために使用することができる。
【0074】
図11に示されるように、CAM-ICU(または他の臨床的に特定された患者)とは対照的に、しきい値65を1.44(陽性≧1.44および陰性<1.44)に設定した閾値データ64として3Hz/10Hzの平均を使用しているパフォーマンス指標が表1に示されている。
【0075】
【0076】
多数の追加の例が提供され得ることが理解される。
【0077】
実施例3:機械学習
【0078】
図12に示されるように、特定の実施において、機械学習モデル(ボックス200(機械学習モジュール))が、せん妄/脳症の特徴を確認するために使用され、閾値(
図6~8の65)を精緻化することなどにより、本書に記載の他のシステム、診断の精度を向上させることができる。
これらの実施では、モデルを使用して、パーソナルおよび集団患者データ(一般にボックス202で示す)を計算機(コンピュータ)(ボックス204)内に関連付ける。一般に、様々な機械学習アプローチは、スクリーニングデバイス10、サーバ/コンピュータデバイス42、データベース36、サードパーティーサーバ34や、スクリーニングデバイス10および/またはセンサ12(
図5A~5Dの実施においても示されている)と動作可能に通信する他のコンピュータデバイスまたは電子記憶デバイス上での実行のためにコード化することができる。
【0079】
このモデルは、患者30からの記録またはそうでなければ観察されたデータ(ボックス202)(例えば、スペクトル密度解析102、出力データ67、および
図8Aに関連して説明した他の値など)はもちろん、他の記録データ、例えば電子カルテ(EMR-ボックス201)からのデータなどにおいて実行され得る。
【0080】
様々な実施において、EMRデータ201は、限定されないが以下の生理学的状態:心拍数、脈拍数、EKG、心拍変動、呼吸数、皮膚温度、運動パラメータ、血圧、酸素レベル、心臓体温、体外熱流、GSR、EMG、EEG、EOG、体脂肪、水分レベル、活動レベル、酸素消費量、グルコースまたは血糖値、身体の位置、筋肉や骨への圧力、紫外線(UV)吸収など、のうちの1つ以上を含むことができる。本書に記載されたこれらの組み合わされたEMRおよび他のシステムからの観察されたデータ出力はまた、EMR、別個の患者モニタリングシステム、デバイス上のグラフィカルユーザインタフェースなどに提供され得る。
【0081】
したがって、機械学習モデル(ボックス200)を使用する様々なシステムおよび方法は、様々なコンピュータデバイスからの情報並びに患者のEMRをゲートウェイ210または他の接続機構を経由してせん妄のモニタリング、スクリーニング、または予測用に、送信および/または受信することができる。特定の実施において、システムおよび方法は、スクリーニングデバイス10および関連するシステム1および方法5と関連して行われるせん妄のモニタリング、スクリーニング、または予測の精度を改善するためにEMRデータを利用することができる。
【0082】
様々な実施において、患者データ202は、適切なツリーアルゴリズムまたはロジスティック回帰式を生成するために、コンピュータの任意のコンピュータストレージデバイスにロードされ得る。いったん生成されると、if-then条件の大きなセットの形態を取ることができるツリーアルゴリズムは、テスト実施のための任意の一般的な計算言語を使用してコード化することができる。例えば、実行時に新しい患者データ202を受け取り、計算された予測または他のグラフィカル表現(ボックス208)を含むことができる結果208を出力する機械実行可能モジュール(ボックス206)を生成するためにif-then条件が捕捉されコンパイルされ得る。出力は、p値、chiスコアなどの関連する統計指標と一緒に予測値または確率値を示すグラフの形態であってもよい。様々な実施において、これらの結果208は、学習モジュール200または他の場所に再導入されて、全体を通して使用される様々な閾値を更新することを含む、システムの機能を継続的に改善することができる。これらの実施は、デバイス、システムおよび方法の性能を改善すべくそれぞれのデータ値および読み取り値を傾向させることもできることが理解される。これらの実施において、例えば、追加の任意的な評価ステップを提供するために使用できるトレンドデータの連続ストリーム、および時間の経過による傾向を識別することができる。様々な実施において、モデルは、精度を向上させるための追加のプログラムデータ(
図6において48で示す)を提供することができ、
図8において116で示されるように集合に含めることもできる。
【0083】
より良いアルゴリズムを生成し、機械学習モデル(ボックス200)における変数の重要性をさらに判定するために、強化された分類および回帰ツリー手法を使用することができる。例えば、前述の他の機械学習技術と同様に、分類および回帰ツリー、ランダムフォレスト、ブーストツリー、サポートベクトルマシン、ニューラルネットワークを使用することができる。これらのアプローチのそれぞれのリフト値を示すリフトチャートを
図13に示される。
【0084】
樹木のブースティング手法は、一連の分類器変数を組み合わせて最終的な分類器を実現する。様々な実施において、これは、モデル開発データに基づいて初期決定木を構築して従属変数を分類することによって行われる。結果が誤って分類された開発データセットの全事例について、これらの事例の重みが増加され(ブーストされ)、新たな決定木が生成されて、新しい事例の重みに基づいて結果の分類が最適化される。誤って分類された事例は再び重み付けされ、新しい決定木が生成される。このアプローチは、最適なブーストされた樹木が同定されるまで、典型的には数百または数千回反復して繰り返される。このブーストされた決定木は、その後、検証データセットに適用され、検証データセットにおける事例は、応答者または非応答者として分類される。多くの他の既知のアプローチが使用され得る。
【0085】
ブーストされた樹木の機械学習手法およびより高機能の樹木生成手法のいずれも、先に説明したように非常に複雑なアルゴリズム(多くのif-then条件を含む)を生成する可能性があることに留意すべきである。代わりに、アルゴリズムを生成するための回帰および分類木技法のいずれかへの入力として使用される変数の選択および/または変数の相対的重要性は、アルゴリズムを一意に識別する。
【0086】
この例では、機械学習アルゴリズム(ボックス200のアルゴリズムと同様)が13,819人の患者のコホートで開発された。この例では、実験室での値、薬物、年齢などの変数が利用された。このアルゴリズムは、これらの患者のうち12,461人に訓練され、1,358のテストケースで検証された。各患者におけるせん妄結果は、3より大きいスコアがせん妄を示す手動管理されるスクリーニングツールであるDOSSスケールと比較された。
【0087】
この実施例では、モデルの実績は以下の通りであった:真陰性:951;偽陽性:62;真陽性:132。したがって、観察されたエラー率は20%であり、精度は80%であった。重要なことには、このモデルはスクリーニングデバイス10からの出力を含まなかった。スクリーニングデバイス10と組み合わせて使用するとき、精度は80%を超えて増加することができることが理解される。
図13に示されるように、様々な追加の実施が可能である。
【0088】
値、フィーチャ、および閾値: 本書で使用される場合、用語「値」および「フィーチャ」は交換可能であり、生データおよび解析データを数値、時間スケール、グラフィカルあるいはその他にして熟考する。本書に記載されたもののような様々な実施では、高周波の数などの値を閾値と比較することができる。あるいは、またはさらに、2つ以上の値の比を閾値と比較することができる。閾値は所定の値であってよい。閾値は、個体集団からの情報など、せん妄のその後の発生の有無、またはその可能性に関する統計的情報に基づくことができる。ある特定の実施形態において、閾値は、1人以上の患者に対して予め決定されてもよい。ある特定の実施形態において、閾値は、全ての患者に対して一貫していてもよい。ある特定の実施形態において、閾値は、現在の健康状態、年齢、性別、人種、病歴、他の医学的状態などのような、患者の1つ以上の特徴に特異的であってもよい。ある特定の実施形態において、閾値は、患者の電子カルテ(EMR)における生理学的データに基づいて調整されてもよい。
【0089】
ある特定の実施形態において、閾値は、高周波と低周波との比であってもよい。ある特定の実施形態において、閾値は、一定期間にわたる低周波に対するある期間にわたる高周波の比率であってもよい。ここでの開示を通じて、この比率は、高周波と低周波との比と呼ばれるが、その比率の形式がプロセス全体を通して一貫している限り、低周波から高周波までの比率であってもよいことが理解される。例えば、比較は、高周波と低周波との比、あるいは逆の低周波/高周波の比であってもよい。
【0090】
1つ以上のフィーチャまたは値は、予め決定されてもよい。例えば、高周波の範囲は、設定値よりも大きいものとして予め定められていてもよい。同様に、低周波の範囲は、設定値未満であるとして予め定められていてもよい。設定値は、すべての患者について同じであってもよく、または特定の患者の特性に応じて変化してもよい。
【0091】
1つ以上の信号の他のフィーチャまたは値を抽出することができる。例えば、信号対雑音比は、他の用途のために決定されてもよい。データの品質は、生理的でない電気的活動の周波数を探すことによって評価することができる。データの収集および/または解釈は、データ品質が許容レベルを下回った場合に停止するように制限されてもよい。
【0092】
デバイス特性および信号収集: 本書に記載のシステムおよび方法は、簡単で便利で使い易い特殊用途のスクリーニングデバイス10、システム1および方法5を提供することができる。ある特定の実施形態では、システムおよび方法は、エンドユーザのために簡略化された脳波(EEG)技術を利用することができる。このシステムおよび方法は、患者によるせん妄のモニタリング、スクリーニング、またはその後の発症に関するデータを自動的に解釈し、医療従事者に指導(助言)を提供することができる。旧来、EEGデータは訓練された神経科医によって視覚的に検査され、プロセスの自動化は行われない。本書に記載されるある特定の実施形態では、自動化されたプロセスを作り出すための標準的なモニタリング設備、モバイルデバイス、クラウド技術などとのインタフェースのためのオプションが存在し得る。
【0093】
本書に記載されたある特定の実施形態は、限定されないが、集中治療、術前および術後治療、老人看護施設、養護施設、救急処置室および外傷(または心的外傷)治療などの様々な医療分野において有用であり得る。モニタリング、スクリーニング、または予測は、病院または他の医療環境において患者ケアを改善することができる。患者は、健康管理環境にないときに、遠隔から自分の状態をモニタリングできるようにするために、パーソナル医療デバイスとモニタリングを利用することもできる。例えば、パーソナル医療デバイスは、自宅または医療施設外の他の場所の患者をモニタ(監視)し、せん妄のモニタリング、スクリーニングまたは予測を提供することができる。リモートセンシングおよび/または解析システムは、医療従事者によって利用されるシステムとインタフェースすることができる。
【0094】
様々な実施形態に示されるように、1つ以上のセンサ12は、患者30と通信するように配置されてもよい。ある特定の実施形態では、1つ以上のセンサ12は、1つ以上のEEGリード線/電極などのEEGデバイスなどの1つ以上の脳センサであり得るが、これに限定されない。この開示の目的のために、用語「リード」および「電極」は互換的に使用される。1つ以上の信号は、EEG信号であってもよい。EEG信号は、患者の脳のニューロン内のイオン電流から生じる電圧変動を含むことができる。ある特定の実施形態において、複数のセンサがあってもよい。ある特定の実施形態において、2つのEEG電極のような2つのセンサがあってもよい。従来の16または24電極EEGシステムよりも少ない使用は、せん妄の予測、スクリーニング、またはモニタリングのためのコストおよび複雑さの低減をもたらす可能性がある。様々な実施形態において、2つ以上のリードまたはセンサが使用される。ある特定の実施形態では、2,3,4,5,6,7,8,9または10個のセンサが使用される。追加の実施では、11,12,13,14、または15個のセンサが使用される。さらに別の実施態様では、15個以上のセンサが使用される。様々な実施において、容易に配置された最小数のEEGリードを使用することができ、これは先行技術で実証されたものよりも少なく、それによって熟練したEEG技術者および/またはサブ専門の神経科医の必要性を排除および/低減できる。様々な実施形態では、少なくとも1つのグラウンドリード線が使用され、代りの実施においては、2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16またはそれ以上のグラウンドリード線が使用される。
【0095】
ある特定の実施形態において、1つ以上のセンサ12は非侵襲性であってもよい。ある特定の実施形態において、非侵襲性電極は、患者の皮膚上に配置され得る。ある特定の実施形態では、最小限の2つの皮膚接触点、すなわちセンサおよびグラウンドセンサが存在してもよい。これらのセンサを通って外部電流が流れないという点でパッシブセンサがあるかもしれない。ある特定の実施形態では、電気的アクティブセンサを使用することができる。ある特定の実施形態において、1つ以上のセンサは、プリント回路を有する接着パッチ、またはセンサを皮膚につなぐ非接着ヘッドセットであってもよい。ある特定の実施形態において、1つ以上のセンサは、患者の頭部に、例えば額および/または患者の1つ以上の耳の後ろに配置することができる。ある特定の実施形態において、1つ以上のセンサは、互いに接触しないように、センサ間の最小間隔が提供されてもよい。
【0096】
ある特定の実施形態において、最小侵襲性または侵襲性のセンサを使用することができる。最小侵襲性または侵襲性のセンサは、1つ以上の信号を、脳活動などの生理学的状態の表示度数として提供することができる。
【0097】
必要に応じて、1つ以上の信号をアナログ信号からデジタル信号に変換することができる。変換は、処理デバイスによって、処理デバイスにおいて、または別個のデバイスにおいて1つ以上の信号が受信される前に実行され得る。1つ以上の信号がデジタル信号として生成または受信される場合、変換は必要ない可能性がある。
【0098】
1つ以上の信号は、患者の1つ以上の脳機能を示すことができる。ある特定の実施形態において、1つ以上の信号は、患者の脳波活動に関する情報を提供することができる。患者のために脳波が測定され得る。ある特定の実施形態では、頭皮からの脳の電気的活動の記録であり得るEEGによって脳波が遂行され得る。記録された波形は、皮質の電気的活動を反映することがある特定の実施形態において、ある実施形態では、EEGの信号強度は小さく、マイクロボルトで測定することができる。旧来、EEGを用いて検出され得る数種の周波数および/または周波数帯域が存在する。高周波および低周波の定義は、患者集団を含むがこれに限定されない様々な要因に応じて変化し得る。ある特定の実施形態において、高周波および低周波の定義は、患者集団全体で一貫していてもよい。ある特定の実施形態において、低周波は、約7.5Hz未満、約7.0Hz未満、約6.5Hz未満、約5.5Hz未満、約5Hz未満、約4.5Hz未満、約4.0Hz未満、約3.5Hz未満、または約3.0Hz未満である特定の実施形態において、高周波は、約7.5Hz以上、約8.0Hz以上、約8.5Hz以上、約9.0Hz以上、約9.5Hz以上、約10.0Hz以上、約10.5Hz以上、約11.0Hz以上、約11.5Hz以上、約12.0Hz以上、約12.5Hz以上、約13.0Hz以上、または約14.0Hz以上である。
【0099】
ある特定の実施形態において、1つ以上の信号は、リアルタイムまたはほぼリアルタイムのデータストリームであり得る。ある特定の実施形態において、処理および/または解析の前に、1つ以上の信号を測定および/または保存することができる。
【0100】
必須ではないが、システムおよび方法は、従来のサーバ/デスクトップ/ラップトップ、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイス、ウェアラブルデバイス、医療機器、他の医療システムなどの形態を取ることができる1つ以上のコンピュータデバイスによって実行されるソフトウェアおよび/またはコンピュータプログラム命令の一般的な背景にて説明される。コンピュータデバイスは、コンピュータプログラムモジュールおよびデータ用のデータストレージに接続される1つ以上のプロセッサを含むことができる。限定されることはないが、主要技術には、Microsoft(登録商標)およびLinux(登録商標)/Unix(登録商標)ベースのオペレーティングシステムのマルチ業界標準、SQL Server(登録商標)、Oracle(登録商標)、NOSQL(登録商標)、DB2(登録商標)などのデータベース、SPSS(登録商標)、Cognos(登録商標)、SAS(登録商標)などのビジネス解析/インテリジェンスツール、Java(登録商標)、.NET Framework(登録商標)(VB.NET(登録商標)、ASP.NET(登録商標)、AJAX.NET(登録商標)など)などの開発ツール、およびその他の電子商取引製品、コンピュータ言語、開発ツールなどが含まれる。そのようなプログラムモジュールは、特定のタスクを実行し、データ、データ構造を利用し、および/または特定の抽象データ型を実装するために1つ以上のプロセッサによって実行されるルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネントなどのコンピュータプログラム命令を含むことができる。システム、方法、および装置は前述の文脈で説明されているが、以下に説明される活動および作業もまたハードウェアで実施され得る。
【0101】
解析と診断: ある特定の実施形態において、せん妄の存在は、本書に記載の様々なデバイス、システムおよび方法によって確認することができる。ある特定の実施形態において、せん妄の不在は、本書に記載のシステムおよび方法によって確認または決定することができる。
【0102】
ある特定の実施形態において、患者30は、現在、せん妄を有すると診断され得る。医療従事者は、患者のせん妄の状態をモニタ(監視)したい場合がある。本書に記載の実施形態は、患者のせん妄の状態をモニタするための効率的でコスト効率の良いシステムおよび方法を提供することができる。本書に記載の実施形態では、患者のせん妄が改善しているか、安定しているか、または悪化しているかを医療従事者が判断することを可能にする。ある特定の実施形態では、医療従事者は、患者がせん妄を有するか否かを確信できないかもしれない。例えば、患者は、せん妄と関連する臨床的徴候および症状の全てではないが、一部を有する可能性がある。本書に記載の実施形態は、患者が現在せん妄を有するか否かを医療従事者が判断することを可能にする。
【0103】
ある特定の実施形態において、患者30は、現在せん妄と診断され得ず、現在、せん妄の臨床的徴候および症状のうちの1つ以上を有していない可能性がある。本開示の目的のために、「せん妄の臨床的徴候および症状」は、DSM-5せん妄の基準(米国精神医学会(2013)).精神障害の診断と統計マニュアル(第5版).ワシントンD.C.)に従って定義され得る。特に、せん妄の臨床的徴候および症状は、以下の通りであり得る:
A. 注意障害(すなわち、注意を向ける能力、集中、維持の低下、および注意のすり替え)および認識(環境に対する見当識の低下)。
B. 注意障害は、短期間(通常は数時間から数日)に発生し、ベースラインの注意力および認識からの変化を表し、1日の経過中に重症度が変動する傾向がある。
C. さらなる認知障害(例えば、記憶不足、見当識障害、言語、視空間的能力、または知覚力の障害)。
D. 基準AおよびCにおける障害は、既存の、確立されたまたは進化しつつある神経認知障害によってはうまく説明されず、昏睡などの著しく低下した覚醒のレベルの状況下では起こらない。
E. 前歴(病歴)、身体検査、または検査所見から、注意障害は、別の病状、物質中毒または禁断症状、または毒素への曝露の直接的な生理学的影響であるか、または複数の病因によるものであるという証拠がある。
【0104】
ある特定の実施形態では、患者30は、基準A~Eの全てが満たされない限り、せん妄と診断されたとはみなされない。他の実施形態では、患者がせん妄と診断されるとみなされる前に、基準A~Eのすべてが満たされなければならない。ある特定の実施形態では、基準A~Cが満たされる場合、患者はせん妄と診断されたとみなされ得る。ある特定の実施形態では、基準A~Eのうちの2つ以上が満たされている場合、患者はせん妄と診断されたとみなすことができる。ある特定の実施形態では、基準A~Eの3つ以上が満たされている場合、患者はせん妄と診断されたとみなすことができる。ある特定の実施形態では、患者が、基準Aまたは基準Cを満たす場合、患者はせん妄と診断されたとみなすことができる。ある特定の実施形態では、基準Aまたは基準Cおよび基準B、DまたはEの少なくとも1つを満たす場合、患者はせん妄と診断されたとみなされ得る。ある特定の実施形態では、基準A~Eの3つ以下が満たされる場合、患者はせん妄と診断されないとみなされ得る。
【0105】
本開示の目的のために、患者30は、現在医療従事者によってせん妄を有すると診断されていない場合には、せん妄の臨床的徴候および症状を有さない場合がある。上記の症状は、DSM-5に基づくせん妄の診断のための現在のガイドラインである。ある特定の実施形態では、これらのガイドラインまたは他のガイドラインの新しいバージョンおよび/または更新されたバージョンを使用して、患者がせん妄を有するかどうかを判定し、異なる臨床的徴候および症状を有する可能性がある。本書のデバイス10、システム1および方法5は、診断に利用される基準にかかわらず、1つまたはすべての臨床的徴候および症状を示す前に、患者がせん妄を発症することを予測することができる。
【0106】
ある特定の実施形態は、患者のせん妄の臨床的徴候および症状が現在患者に存在しない場合に、患者によるせん妄のその後の発症を予測するためのシステムおよび方法を提供することができる。
【0107】
ある特定の実施形態において、患者がせん妄と現在診断されていないときに、患者に対するせん妄のその後の発生の可能性に関して予測を行うことができる。ある特定の実施形態において、患者は、せん妄のその後の発生の可能性を決定する時点で、現在、せん妄の臨床的徴候および症状の1つ以上を有していない可能性がある。
【0108】
ある特定の実施形態では、その後のせん妄の発症の有無、または可能性の指示を、患者に出力することができる。この出力は、通知、警告、視覚的指示、聴覚的指示、触覚的指示、報告、医療記録の入力、電子メール、テキストメッセージ、およびそれらの組み合わせを含む様々な形態を取ることができる。
【0109】
その後のせん妄の発症の有無、または可能性の指示は、例えば、「はい」または「いいえ」のようなバイナリ的な指示であってもよい。例として、出力は、患者がせん妄を有する「はい」、またはせん妄を有しない「いいえ」であり得る。出力は、患者がせん妄を発症する可能性がある「はい」、またはせん妄を発症しそうもないことを「いいえ」とすることもできる。
【0110】
ある特定の実施形態において、せん妄のその後の発症の有無、または可能性の指示は、非バイナリ的な指示であり得る。指示は、例えばパーセンテージリスク、すなわち、その後のせん妄発症の70%の可能性、で示す場合がある。ある特定の実施形態において、せん妄のその後の発症の有無、または可能性の指示は、分類別にすることができる。指示は、例えばユーザが「高」、「中」または「低」のリスク、および「中高」または「中低」などの中間カテゴリを有することであってもよい。指示はまた、1-5、1-10などのような任意のスケールであってもよい。
【0111】
患者のその後のせん妄を発症する可能性の指示は、可能性の割合に基づくことができる。例えば、患者がその後にせん妄を発症する恐れがあるという指示(表示度数)は、患者がその後にせん妄を発症する50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上の可能性に基づくことができる。
【0112】
上記指示(表示度数)は、せん妄のモニタリング、スクリーニング、または予測のいずれかであり得る。指示は、信頼スコアを計算および/または出力することもできる。例えば、指示は、患者が特定の期間にせん妄を発症する80%の信頼スコアを含むことができる。
【0113】
以上の説明は、本発明の好ましい実施形態に向けられているが、当業者には他の変形および変更(改良)が明らかであり、本発明の精神または範囲から逸脱することなくなされ得ることに留意されたい。さらに、本発明の一実施形態に関連して説明された特徴は、上記に明示されていなくても、他の実施形態と併せて使用され得る。
【0114】
本開示は好ましい実施形態を参照して説明されているが、当業者は、開示された装置、システムおよび方法の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において変更がなされ得ることを認識するであろう。