(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】音圧レベル推定方法、音圧レベル推定プログラム、及びサーバ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20231016BHJP
A61B 5/12 20060101ALI20231016BHJP
G10K 15/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61B5/16
A61B5/12
G10K15/00 L
(21)【出願番号】P 2022053859
(22)【出願日】2022-03-29
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】竹下 真
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 莉紗
(72)【発明者】
【氏名】小西 昌之
(72)【発明者】
【氏名】早坂 卓馬
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-137879(JP,A)
【文献】特開昭56-139740(JP,A)
【文献】特開昭56-089240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16
A61B 5/12
G10K 15/00-15/12
G10L 25/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音について試聴者の官能評価の調査を行うときに、音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認するために、人の耳に聞こえる音であって且つ第1周波数の第1音の音圧レベルを制御装置が推定する音圧レベル推定方法であって、
人の耳に聞こえる音であって且つ前記第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音の最小可聴値を測定する第1測定ステップと、
前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップの第1最小可聴値と前記第2測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、
前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、を含む
音圧レベル推定方法。
【請求項2】
音について試聴者の官能評価の調査を行うときに、音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認するために、人の耳に聞こえる音であって且つ第1周波数の第1音の音圧レベルを制御装置が推定する音圧レベル推定方法であって、
人の耳に聞こえる音であって且つ前記第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音の最小可聴値を取得する取得ステップと、
前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する測定ステップと、
前記取得ステップの第1最小可聴値と前記測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、
前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、を含む
音圧レベル推定方法。
【請求項3】
前記第1周波数と前記第2周波数と
の差は
200Hz以内である
請求項1又は2に記載の音圧レベル推定方法。
【請求項4】
前記第1音は定常音であって、
前記第2音は間欠音である
請求項1~3のいずれか一項に記載の音圧レベル推定方法。
【請求項5】
前記第1音及び前記第2音は、正弦波で表される純音である
請求項1~4のいずれか一項に記載の音圧レベル推定方法。
【請求項6】
音について試聴者の官能評価の調査を行うときに、音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認するために、人の耳に聞こえる音であって且つ第1周波数の第1音の音圧レベルを推定する音圧レベル推定プログラムであって、
人の耳に聞こえる音であって且つ前記第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音の最小可聴値を測定する第1測定ステップと、
前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップの第1最小可聴値と前記第2測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、
前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、をコンピュータが実行する
音圧レベル推定プログラム。
【請求項7】
音について試聴者の官能評価の調査を行うときに、音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認するために、人の耳に聞こえる音であって且つ第1周波数の第1音の音圧レベルを推定する音圧レベル推定プログラムであって、
人の耳に聞こえる音であって且つ前記第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音の最小可聴値を取得する取得ステップと、
前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する測定ステップと、
前記取得ステップの第1最小可聴値と前記測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、
前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、をコンピュータが実行する
音圧レベル推定プログラム。
【請求項8】
音について試聴者の官能評価の調査を行うときに、音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認するために、人の耳に聞こえる音であって且つ第1周波数の第1音の音圧レベルを推定するサーバであって、
人の耳に聞こえる音であって且つ前記第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音の最小可聴値を測定する第1測定部と、
前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する第2測定部と、
前記第1測定部が測定した第1最小可聴値と前記第2測定部が測定した第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出部と、
前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出部と、を備える
サーバ。
【請求項9】
音について試聴者の官能評価の調査を行うときに、音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認するために、人の耳に聞こえる音であって且つ第1周波数の第1音の音圧レベルを推定するサーバであって、
人の耳に聞こえる音であって且つ前記第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音の最小可聴値を取得する取得部と、
前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する測定部と、
前記取得部が取得した第1最小可聴値と前記測定部が測定した第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出部と、
前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出部と、を備える
サーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音圧レベル推定方法、音圧レベル推定プログラム、及びサーバに関する。
【背景技術】
【0002】
音の検査や測定は、検査室等ではなく、インターネットを介してパーソナルコンピュータなどの個人の音響機器において実施することが考えられている。
例えば、特許文献1に記載の測定装置では、被検者の耳の近傍に音を監視する発生音監視手段を設け、所定周波数・音圧発生手段により発生した音を取得する音特性取得手段により監視し、調整制御手段が音を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の測定装置では、被検者の耳の近傍で発生音を取得する音特性取得手段が別途必要であり、基準となる音圧も必要である。そこで、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する音圧レベル推定方法は、第1周波数の第1音の音圧レベルを推定する音圧レベル推定方法であって、前記第1周波数と異なる第2周波数の第2音の最小可聴値を測定する第1測定ステップと、前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する第2測定ステップと、前記第1測定ステップの第1最小可聴値と前記第2測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、を含む。
【0006】
上記課題を解決する音圧レベル推定方法は、第1周波数の第1音の音圧レベルを推定する音圧レベル推定方法であって、前記第1周波数と異なる第2周波数の第2音の最小可聴値を取得する取得ステップと、前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する測定ステップと、前記取得ステップの第1最小可聴値と前記測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、を含む。
【0007】
発明者らは、第1周波数における第1音の音圧レベルと第2周波数における第2音がマスキングされる量との関係から第1音の音圧レベルを求められることを発見した。そして、上記方法によれば、第2周波数の第2音の最小可聴値と、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値とを測定することで第1音による第2音へのマスキング量を算出して、この第2音へのマスキング量から第1音の音圧レベルを算出する。よって、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することができる。
【0008】
上記音圧レベル推定方法について、前記第2周波数は、前記第1周波数よりも高いことが好ましい。
上記方法によれば、周波数マスキングは第1周波数に対して周波数の低い側よりも高い側においてマスキングの効果が大きいため、第2周波数が第1周波数よりも高いことで、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0009】
上記音圧レベル推定方法について、前記第1周波数と前記第2周波数とは近い周波数であることが好ましい。
上記方法によれば、周波数マスキングは周波数が近い方がマスキングの効果が大きいため、第1周波数と第2周波数とが近い周波数であることで、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0010】
上記音圧レベル推定方法について、前記第1音及び前記第2音は、正弦波で表される純音であることが好ましい。
上記方法によれば、純音であれば音を聞き取りやすいため、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0011】
上記音圧レベル推定方法について、前記第1音は定常音であって、前記第2音は間欠音であることが好ましい。
上記方法によれば、定常音の再生中に間欠音を再生するので、間欠音である第2音を聞き取りやすくなる。このため、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0012】
上記課題を解決する音圧レベル推定プログラムは、第1周波数の第1音の音圧レベルを推定する音圧レベル推定プログラムであって、前記第1周波数と異なる第2周波数の第2音の最小可聴値を測定する第1測定ステップと、前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する第2測定ステップと、前記第1測定ステップの第1最小可聴値と前記第2測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、をコンピュータが実行する。
【0013】
上記課題を解決する音圧レベル推定プログラムは、第1周波数の第1音の音圧レベルを推定する音圧レベル推定プログラムであって、前記第1周波数と異なる第2周波数の第2音の最小可聴値を取得する取得ステップと、前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する測定ステップと、前記取得ステップの第1最小可聴値と前記測定ステップの第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出ステップと、前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出ステップと、をコンピュータが実行する。
【0014】
発明者らは、第1周波数における第1音の音圧レベルと第2周波数における第2音がマスキングされる量との関係から第1音の音圧レベルを求められることを発見した。そして、上記プログラムによれば、第2周波数の第2音の最小可聴値と、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値とを測定することで第1音による第2音へのマスキング量を算出して、この第2音へのマスキング量から第1音の音圧レベルを算出する。よって、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することができる。
【0015】
上記課題を解決するサーバは、第1周波数の第1音の音圧レベルを推定するサーバであって、前記第1周波数と異なる第2周波数の第2音の最小可聴値を測定する第1測定部と、前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する第2測定部と、前記第1測定部が測定した第1最小可聴値と前記第2測定部が測定した第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出部と、前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出部と、を備える。
【0016】
上記課題を解決するサーバは、第1周波数の第1音の音圧レベルを推定するサーバであって、前記第1周波数と異なる第2周波数の第2音の最小可聴値を取得する取得部と、前記第1音を再生しながら前記第2音の最小可聴値を測定する測定部と、前記取得部が取得した第1最小可聴値と前記測定部が測定した第2最小可聴値との差から前記第1音による前記第2音へのマスキング量を算出するマスキング量算出部と、前記第2音へのマスキング量と前記第1音の音圧レベルとの関係に基づいて前記第2音へのマスキング量から前記第1音の音圧レベルを算出する音圧レベル算出部と、を備える。
【0017】
発明者らは、第1周波数における第1音の音圧レベルと第2周波数における第2音がマスキングされる量との関係から第1音の音圧レベルを求められることを発見した。そして、上記構成によれば、第2周波数の第2音の最小可聴値と、第1音を再生しながら第2音の最小可聴値とを測定することで第1音による第2音へのマスキング量を算出して、この第2音へのマスキング量から第1音の音圧レベルを算出する。よって、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】音圧レベル推定方法を実施する制御装置の第1実施形態の概略構成を示すブロック図。
【
図2】同実施形態の音圧レベル推定方法のマスキングを示す図。
【
図3】同実施形態の音圧レベル推定方法のマスキングを示す図。
【
図4】同実施形態の音圧レベル推定方法の第1音の音圧レベルと第2音へのマスキング量との関係を示す図。
【
図5】同実施形態の音圧レベル推定処理を示すフローチャート。
【
図6】同実施形態の音圧レベル推定方法の第1最小可聴値の測定を示す図。
【
図7】同実施形態の音圧レベル推定方法の第2最小可聴値の測定を示す図。
【
図8】音圧レベル推定方法の第2最小可聴値の測定の変形例を示す図。
【
図9】サーバの第2実施形態の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~
図7を参照して、音圧レベル推定方法の第1実施形態について説明する。音圧レベル推定方法は、試聴者が実際に音を聞くために利用するパーソナルコンピュータ(PC)や携帯端末等の制御装置において実施される。
【0021】
(制御装置10)
図1に示すように、制御装置10は、制御部11と、記憶部12と、音出力部13と、入出力部14とを備えている。記憶部12には、音圧レベル推定プログラムが記憶されている。音出力部13には、音を出力するスピーカー31、イヤホン32、ヘッドホン33等が接続可能である。入出力部14には、ディスプレイ等の表示装置41及びタッチパネルやマウス等の入力装置42が接続される。スピーカー31、表示装置41、及び入力装置42の少なくとも一つは、制御装置10と同じ装置として設けられていてもよく、別体として設けられていてもよい。
【0022】
制御部11は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。制御部11すなわちプロセッサにより実行される処理には、音圧レベル推定方法が含まれる。音圧レベル推定方法は、後述する第1測定ステップと、第2測定ステップと、マスキング量算出ステップと、音圧レベル算出ステップとを含む。なお、制御部11は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはその組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。制御部11は、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御部11は、記憶部12又はそれ以外の記憶媒体からオペレーティングシステムやその他のプログラムをメモリにロードし、メモリから取り出した命令を実行する演算装置である。記憶部12に格納されたプログラムには音圧レベル推定プログラムが含まれる。音圧レベル推定プログラムは、第1測定ステップと、第2測定ステップと、マスキング量算出ステップと、音圧レベル算出ステップとを制御部11に実行させる。
【0023】
(音のマスキング)
次に、
図2及び
図3を参照して、音のマスキングについて説明する。
図2及び
図3では、第1周波数の第1音S1と、第1周波数と異なり、第1周波数よりも高い周波数である第2周波数の第2音S2とを示している。
【0024】
図2では、異なる周波数(Frequency)の第1音S1と第2音S2とが同じ音量、言い換えると音の大きさ(Loudness)で出力されている状態を示している。この場合には、第2音S2が第1音S1によってマスキングされて、第2音S2が試聴者には聞こえ難くなる。
図2では、各音によってマスキングされる周波数領域をドットで示している。なお、周波数の高い音によって周波数の低い音もマスキングされる。しかしながら、周波数の低い音によって周波数の高い音がマスキングされる領域の方が周波数の高い音によって周波数の低い音がマスキングされる領域よりも広くなっている。
【0025】
図3では、第1音S1が出力されている状態で第2音S2の音量が第1音S1の音量よりも小さい音量で出力されている状態を示している。第2音S2が第1音S1のマスキング領域の音量である場合には、第1音S1によって第2音S2がマスキングされて、第2音S2が試聴者にはほとんど聞こえなくなる。音量を徐々に小さく変更していき、試聴者が聞こえる最小の音量を最小可聴値としている。発明者らは、第1周波数の第1音S1の音圧レベルと第1音S1によってマスキングされた第2周波数の第2音S2のマスキング量との関係から第1音S1の音圧レベルを求められることを発見した。
【0026】
次に、
図4を参照して、第1音S1の音圧レベルの推定について説明する。
図4は、第1周波数の第1音S1の音圧レベルと第1音S1による第2周波数の第2音S2へのマスキング量との関係を示している。この関係によって、スピーカー等の音出力装置において実際に出力されている音圧レベルを確認したいときに、上記音圧レベル推定方法を用いることで音圧レベルを推定することができる。なお、制御装置10は、第1音S1の音量は変更せず、第2音S2の音量のみを変更して、試聴者に聞かせることで、第1音S1を再生していないときの第2音S2の最小可聴値と、第1音S1を再生しているときの第2音S2の最小可聴値とを測定する。そして、それらの値の差から再生されている第1音S1の音圧レベルを推定する。このとき試聴者に聞こえている第1音S1の音圧レベルが設定したいレベルでなかった場合、ここで初めて再生する第1音S1の音圧レベルを変更し、同様の推定を実施する。
【0027】
(音圧レベル推定処理)
次に、
図5を併せ参照して、上記音圧レベル推定方法を用いた音圧レベル推定処理について説明する。音圧レベル推定処理では、第1音S1の音量を変更せず、第2音S2の最小可聴値を測定することで、第1音S1の音圧レベルをスピーカー等の音出力装置から出力されている音圧レベルとして推定する。
【0028】
ここで、第2音S2の第2周波数は、第1音S1の第1周波数よりも高い周波数であることが望ましい。第1音S1の第1周波数と第2音S2の第2周波数とは、近い周波数であることが望ましい。第1周波数と第2周波数との差は200Hz以内が好ましく、さらには100Hz以内が好ましい。例えば、第1音S1の第1周波数を800Hz、第2音S2の第2周波数を1000Hzとしたり、第1音S1の第1周波数を400Hz、第2音S2の第2周波数を500Hzとしたりしてもよい。また、第1音S1及び第2音S2は、正弦波で表される純音であることが望ましい。さらに、第1音S1は、定常音であり、第2音S2は、間欠音であることが望ましい。
【0029】
まず、
図5に示すように、制御装置10は、第2音S2の最小可聴値を測定する(ステップS11)。すなわち、制御装置10は、音出力部13から第1音S1を再生せず、第2音S2のみを再生する。試聴者は、音が聞こえる最小音量のところでタッチパネルやマウス等の入力装置42によって音が聞こえたことを入力する。つまり、
図6に示すように、制御装置10は、第2音S2の音量を徐々に小さく変更して第2音S2の最小可聴値を測定する。この最小可聴値を第1最小可聴値とする。なお、ステップS11は、第1測定ステップに相当する。
【0030】
続いて、制御装置10は、第1音S1を再生しながら第2音S2の最小可聴値を測定する(ステップS12)。すなわち、制御装置10は、音出力部13から第1音S1を再生しながら第2音S2も再生する。試聴者は、第2音S2が聞こえる最小音量のところでタッチパネルやマウス等の入力装置42によって音が聞こえたことを入力する。つまり、
図7に示すように、制御装置10は、第1音S1の音量は変更せず、第2音S2の音量を徐々に小さく変更して第1音S1再生時の第2音S2の最小可聴値を測定する。この最小可聴値を第2最小可聴値とする。なお、ステップS12は、第2測定ステップに相当する。
【0031】
続いて、制御装置10は、第2音S2へのマスキング量を算出する(ステップS13)。すなわち、ステップS11において測定した第1最小可聴値とステップS12において測定した第2最小可聴値との差から第1音S1による第2音S2へのマスキング量を算出する。言い換えれば、
図7に示すように、第2最小可聴値から第1最小可聴値を引いた値が第1音S1による第2音S2へのマスキング量として算出される。なお、ステップS13は、マスキング量算出ステップに相当する。
【0032】
続いて、制御装置10は、第1音S1の音圧レベルを算出する(ステップS14)。すなわち、制御装置10は、
図4に示した第1音S1による第2音S2へのマスキング量と第1音S1の音圧レベルとの関係に基づいて、第1音S1による第2音S2へのマスキング量から第1音S1の音圧レベルを算出する。よって、制御装置10は、第1音S1の音圧レベルを推定することができる。なお、ステップS14は、音圧レベル算出ステップに相当する。
【0033】
制御装置10は、推定された音圧レベルを基に音を出力することで、各試聴者が聞く音の大きさ(音圧レベル)を同じにして音圧レベルを校正することができる。よって、音について試聴者の官能評価等の調査を行うときに、音出力装置による音圧レベルの差をなくすことができる。
【0034】
次に、第1実施形態の効果について説明する。
(1)第2周波数の第2音S2の最小可聴値と、第1音S1を再生しながら第2音S2の最小可聴値とを測定することで第1音S1による第2音S2へのマスキング量を算出して、この第2音S2へのマスキング量から第1音S1の音圧レベルを算出する。よって、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することができる。
【0035】
(2)周波数マスキングは周波数の低い側よりも高い側においてマスキングの効果が大きいため、第2周波数が第1周波数よりも高いことで、第1音S1を再生しながら第2音S2の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0036】
(3)周波数マスキングは周波数が近い方がマスキングの効果が大きいため、第1周波数と第2周波数とが近い周波数であることで、第1音S1を再生しながら第2音S2の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0037】
(4)第1音S1と第2音S2とがそれぞれ純音であれば音を聞き取りやすいため、第1音S1を再生しながら第2音S2の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0038】
(5)第1音S1を定常音とし、第2音S2を間欠音とすることで、定常音の再生中に間欠音を再生するので、間欠音である第2音S2を聞き取りやすくなる。このため、第1音S1を再生しながら第2音S2の最小可聴値を測定するときに測定が容易となる。
【0039】
(第2実施形態)
以下、
図9を参照して、第2実施形態のサーバについて説明する。この実施形態は、音圧レベル推定処理をサーバが行う点が上記第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0040】
(サーバ50)
図9に示すように、サーバ50は、音について官能評価等の調査を行う事業者等が用いるものである。サーバ50は、制御部51と、記憶部52と、通信部53とを備えている。制御部51は、制御装置10の制御部11と同様の構成である。制御部51は、複数の演算回路を組み合わせて構成されていてもよい。また、記憶部52は、制御装置10の記憶部12と同様の構成である。通信部53は、ネットワークNWを介して、サーバ50及び他の制御装置10とデータを送受信することができる。ネットワークNWは、ローカルエリアネットワーク、インターネット等、各種のネットワークを含む。サーバ50は、複数の装置から構成されていてもよく、制御部51、記憶部52、及び通信部53はそれらの装置に分散されて設けられていてもよい。制御装置10は、ネットワークNWを介してサーバ50等と通信を行う通信部15を備えている。
【0041】
記憶部52には、音圧レベル推定プログラムが格納されている。制御部51は、音圧レベル推定プログラムを実行することにより、第1測定部51Aと、第2測定部51Bと、マスキング量算出部51Cと、音圧レベル算出部51Dとして機能する。
【0042】
サーバ50は、ネットワークNWを介して制御装置10に音圧レベル推定に係る表示と入出力を行わせる。すなわち、制御部11は、サーバ50から取得した表示及び音等を出力する。制御部11は、入出力部14から表示装置41に音圧レベル推定を行うための表示を出力させる。また、制御部11は、音出力部13からスピーカー31、イヤホン32、又はヘッドホン33に音を出力させる。そして、制御部11は、試聴者が入力装置42に入力した入力データを入出力部14から取得して、サーバ50に出力する。サーバ50は、制御装置10から取得した入力データによって音圧レベル推定処理を行う。なお、音圧レベル推定処理を制御装置10ではなく、サーバ50が制御装置10とネットワークNWを介して行うことが異なるだけで、音圧レベル推定処理は
図5と同様である。
【0043】
第2実施形態によれば、第1実施形態の(1)~(5)の効果を奏する。
また、サーバ50が音圧レベル推定処理を行うため、サーバ50は、パーソナルコンピュータ(PC)や携帯端末等の制御装置10における音圧レベルの推定結果を蓄積することができる。よって、サーバ50は、蓄積した推定結果から各制御装置と同じ制御装置における最適な音圧レベルの校正を得ることもできる。
【0044】
(他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0045】
・上記各実施形態では、第1音S1が定常音であって、第2音S2が間欠音であるとした。しかしながら、第1音S1が定常音であって、第2音S2も定常音であってもよい。また、第1音S1と第2音S2とが定常音ではなくてもよい。
【0046】
・上記各実施形態では、第1音S1及び第2音S2が正弦波で表される純音であるとした。しかしながら、第1音S1及び第2音S2が正弦波で表される純音でなくてもよい。
・上記各実施形態では、第1音S1の第1周波数と第2音S2の第2周波数とは近い周波数であるとした。しかしながら、第1音S1の第1周波数と第2音S2の第2周波数とは遠い周波数でもよい。周波数の差が200Hzよりも大きくてもよい。
【0047】
・上記各実施形態では、第2音S2の第2周波数を第1周波数よりも高くした。しかしながら、第2音S2の第2周波数が第1周波数よりも低くてもよい。
・上記各実施形態では、音量を徐々に小さく変更していき、試聴者が聞こえる最小の音量を最小可聴値とした。しかしながら、
図8に示すように、音量を徐々に大きく変更していき、試聴者が聞こえるようになった音量を最小可聴値としてもよい。また、音量を徐々に小さくして得た結果と音量を徐々に大きくして得た結果との平均値を最小可聴値としてもよい。また、1回ではなく、複数回の平均値を最小可聴値としてもよい。
【0048】
・上記第1実施形態では、パーソナルコンピュータ(PC)や携帯端末等の制御装置10において音圧レベル推定方法を実施した。しかしながら、音出力装置と音圧レベルを推定する装置とが別々の装置であってもよい。
【0049】
・上記各実施形態では、ステップS11において第1音S1を再生していないときの第2音S2の最小可聴値を測定した。しかしながら、暗騒音によって第2音S2の最小可聴値を取得したり、元々取得していたデータを用いて第2音S2の最小可聴値を取得したりしてもよい。このようにすれば、第1音S1を再生していないときの第2音S2の最小可聴値の測定を省略することができる。なお、この処理が取得ステップに相当し、ステップS12の第2測定ステップが測定ステップに相当する。サーバ50で第2音S2の最小可聴値を取得する場合には、制御部51が取得部として機能し、第2測定部51Bが測定部に相当する。
【0050】
・上記各実施形態における「音」は、主に空気を振動させて、鼓膜を通して伝達させる「気導音」として説明した。しかしながら、「音」は、「気導音」と置き換えて、頭蓋骨などの骨を振動させて、聴覚神経に伝達させる「骨導音」としてもよい。このようにすれば、音圧レベル推定方法によって、気導音と同様に骨導音でも、音特性取得手段等を別途設けることなく、音圧レベルを推定することができる。
【0051】
・上記第1実施形態では、制御部11が全ての処理を行ったが、複数の処理の一部又は全部が分散するように制御部を設けてもよい。制御部は、機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成することができるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0052】
S1…第1音
S2…第2音
10…制御装置
11…制御部
12…記憶部
13…音出力部
14…入出力部
15…通信部
31…スピーカー
32…イヤホン
33…ヘッドホン
41…表示装置
42…入力装置
50…サーバ
51…制御部
51A…第1測定部
51B…第2測定部
51C…マスキング量算出部
51D…音圧レベル算出部
52…記憶部
53…通信部
NW…ネットワーク