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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】水回収システムおよび水回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20231016BHJP
   B01D 61/10 20060101ALI20231016BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20231016BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20231016BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20231016BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20231016BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20231016BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20231016BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D61/10
B01D61/02 500
B01D71/56
C02F1/28 D
C02F1/42 A
C02F1/76 A
C02F1/50 510C
C02F1/50 520P
C02F1/50 531L
C02F1/50 540B
C02F1/50 550H
C02F1/50 560E
C02F1/50 560C
C02F1/50 560B
C02F1/50 560D
C02F1/50 560H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022509327
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2021002718
(87)【国際公開番号】W WO2021192583
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2020053020
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌平
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-257206(JP,A)
【文献】特開平07-124559(JP,A)
【文献】特開2011-161435(JP,A)
【文献】NAAKTGEBOREN A. J.,Characterization of a new reverse osmosis composite membrane for industrial application,Desalination,1988年,Vol.68, No.2,Page.223-242
【文献】BETTINGER G. E.,Controlling biological activity in a surface water reverse osmosis plant,Desalination,1981年,Vol.38, No.1,Page.419-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/28
C02F 1/42
C02F 1/44
C02F 1/50
C02F 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む被処理水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理手段と、
前記被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加手段と、
前記透過水を水利用システムの被処理水として供給する供給手段と、
を備え
前記被処理水は、分子量500以下の有機物を含有し、
前記透過水中の有機物濃度がTOCとして0.01mg/L以上であり、
前記透過水中の全塩素濃度が、0.01mg/L以上であることを特徴とする水回収システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水回収システムであって、
前記逆浸透膜が、ポリアミド系逆浸透膜であり、
前記逆浸透膜の膜面の塩素含有量が、0.1atom%以上であることを特徴とする水回収システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水回収システムであって、
前記透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去手段をさらに備えるか、または、前記水利用システムが前記透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去手段を備えることを特徴とする水回収システム。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の水回収システムに用いられるヨウ素系スライム抑制剤であって、
水、ヨウ素、ヨウ化物を含有し、有機物の含有量が100mg/L未満であることを特徴とするヨウ素系スライム抑制剤。
【請求項5】
有機物を含む被処理水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理工程と、
前記被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加工程と、
前記透過水を水利用システムの被処理水として供給する供給工程と、
を含み、
前記被処理水は、分子量500以下の有機物を含有し、
前記透過水中の有機物濃度がTOCとして0.01mg/L以上であり、
前記透過水中の全塩素濃度が、0.01mg/L以上であることを特徴とする水回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜を用いる水回収システムおよび水回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜(RO膜)を用いる水処理方法において、バイオファウリング抑制(スライム抑制)法として各種殺菌剤(スライム抑制剤)を用いることが知られている。次亜塩素酸等の塩素系酸化剤は代表的な殺菌剤であり、スライム抑制目的として通常は逆浸透膜の前段に添加されるが、逆浸透膜を劣化させる可能性が高いため、一般的には逆浸透膜の直前で還元する方法または間欠的に添加する方法が用いられている。
【0003】
また、スライム抑制剤として塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤を逆浸透膜の被処理水中に存在させる方法(特許文献1参照)や、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物との混合物または反応生成物を被処理水に添加する方法(特許文献2参照)が知られている。
【0004】
塩素系酸化剤または臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤は、殺菌能力が高いうえにポリアミド系の逆浸透膜を酸化劣化させにくく、逆浸透膜での阻止率も高く、後段の処理水(透過水)質に影響が少ないため有効である。
【0005】
しかし、逆浸透膜で殺菌剤の大部分が阻止されてしまうため、逆浸透膜の一次側では殺菌剤が有効な場合でも二次側の透過水ラインがスライム汚染を受けることがある。特に被処理水が低分子(例えば、分子量200以下)の有機物を含む場合、低分子の有機物は逆浸透膜による阻止率が低いため、逆浸透膜の一次側では殺菌剤が有効な場合でも二次側で低分子の有機物に起因するスライム汚染が発生することがある。
【0006】
一方、特許文献3では、ヨウ素からなる添加剤を逆浸透膜装置に用いることによって逆浸透膜装置の生物学的汚染を抑制できることが記載されており、また、特許文献4では、半透膜の性能回復処理方法としてヨウ素および/またはヨウ素化合物が添加されたヨウ素含有溶液を被処理水に添加する方法が記載されているが、いずれの文献においても逆浸透膜に対する影響および性能評価がなされているに過ぎず、ヨウ素を用いることによる逆浸透膜後段の処理水(透過水)に対する影響評価がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-263510号公報
【文献】特開2015-062889号公報
【文献】特開昭56-033009号公報
【文献】特開2011-161435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、有機物を含む被処理水からの逆浸透膜を用いる水回収において、逆浸透膜の二次側においてもスライム汚染を抑制することができる、水回収システムおよび水回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、有機物を含む被処理水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理手段と、前記被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加手段と、前記透過水を水利用システムの被処理水として供給する供給手段と、を備え、前記被処理水は、分子量500以下の有機物を含有し、前記透過水中の有機物濃度がTOCとして0.01mg/L以上であり、前記透過水中の全塩素濃度が、0.01mg/L以上である、水回収システムである。
【0013】
前記水回収システムにおいて、前記逆浸透膜が、ポリアミド系逆浸透膜であり、前記逆浸透膜の膜面の塩素含有量が、0.1atom%以上であることが好ましい。
【0014】
前記水回収システムにおいて、前記透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去手段をさらに備えるか、または、前記水利用システムが前記透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去手段を備えることが好ましい。
【0015】
本発明は、前記水回収システムに用いられるヨウ素系スライム抑制剤であって、水、ヨウ素、ヨウ化物を含有し、有機物の含有量が100mg/L未満である、ヨウ素系スライム抑制剤である。
【0017】
本発明は、有機物を含む被処理水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理工程と、前記被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加工程と、前記透過水を水利用システムの被処理水として供給する供給工程と、を含み、前記被処理水は、分子量500以下の有機物を含有し、前記透過水中の有機物濃度がTOCとして0.01mg/L以上であり、前記透過水中の全塩素濃度が、0.01mg/L以上である、水回収方法である。
【0018】
前記水回収方法において、前記被処理水は、生物処理手段から得られた生物処理水を含むことが好ましい。
【0019】
前記水回収方法において、前記逆浸透膜処理工程からの前記透過水をさらに逆浸透膜処理する2段目の逆浸透膜処理工程をさらに含むことが好ましい。
【0022】
前記水回収方法において、前記逆浸透膜が、ポリアミド系逆浸透膜であり、前記逆浸透膜の膜面の塩素含有量が、0.1atom%以上であることが好ましい。
【0023】
前記水回収方法において、前記透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去工程をさらに含むか、または、前記水利用システムが前記透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、有機物を含む被処理水からの逆浸透膜を用いる水回収において、逆浸透膜の二次側においてもスライム汚染を抑制することができる、水回収システムおよび水回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る水回収システムの一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る水回収システムの他の例を示す概略構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る水回収システムの他の例を示す概略構成図である。
図4】本発明の実施形態に係る水回収システムの他の例を示す概略構成図である。
図5】本発明の実施形態に係る水回収システムの他の例を示す概略構成図である。
図6】本発明の実施形態に係る水回収システムの他の例を示す概略構成図である。
図7】実施例3~6における、全塩素透過率(%)を示すグラフである。
図8】実施例7(総ヨウ素CT値:20(mg/L・min))における、透過濃度(μg/L)を示すグラフである。
図9】実施例7(総ヨウ素CT値:50(mg/L・min))における、透過濃度(μg/L)を示すグラフである。
図10】実施例9における、実際に測定した通水差圧(kPa)から初期の通水差圧(kPa)を差し引いた値の経時変化を示すグラフである。
図11】実施例10における、経過時間(min)に対する菌数(CFU/mL)を示すグラフである。
図12】実施例13における、経過時間(min)に対する全塩素濃度(mg/L)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0027】
<逆浸透膜を用いる水回収システムおよび水回収方法>
本発明の実施形態に係る水回収システムの一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0028】
図1に示す水回収システム1は、有機物を含む被処理水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理手段として、逆浸透膜処理装置12を備える。水回収システム1は、被処理水を貯留するための被処理水槽10を備えてもよい。
【0029】
水回収システム1において、被処理水槽10の入口には、被処理水配管14が接続されている。被処理水槽10の出口と、逆浸透膜処理装置12の一次側の入口とは、被処理水供給配管16により接続されている。逆浸透膜処理装置12の二次側の透過水出口には、透過水配管18が接続され、一次側の濃縮水出口には、濃縮水配管20が接続され、透過水配管18は、系外の水利用システム26と接続されている。被処理水槽10および被処理水供給配管16のうちの少なくとも1つには、被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加手段として、ヨウ素系酸化剤添加配管22またはヨウ素系酸化剤添加配管24が接続されている。
【0030】
水回収システム1において、被処理水は、被処理水配管14を通して、必要に応じて被処理水槽10に送液され、貯留される。被処理水槽10において、被処理水中にヨウ素系酸化剤添加配管22を通してヨウ素系酸化剤が添加され、ヨウ素系酸化剤を存在させる(ヨウ素系酸化剤添加工程)。ヨウ素系酸化剤は、被処理水配管14において添加されてもよいし、図1に示すようにヨウ素系酸化剤添加配管24を通して被処理水供給配管16において添加されてもよい。
【0031】
ヨウ素系酸化剤が添加された被処理水は、被処理水供給配管16を通して、逆浸透膜処理装置12に供給され、逆浸透膜処理装置12において、逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離される(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、処理水として透過水配管18を通して水利用システム26の被処理水として供給され(供給工程)、濃縮水は濃縮水配管20を通して排出される。ここで、透過水を水利用システムの被処理水として供給する供給手段として、透過水配管18が機能することになる。
【0032】
本発明者らが鋭意検討した結果、殺菌剤としてヨウ素系酸化剤を用いるとヨウ素はイオンや塩類の除去性能が最も高いとされる逆浸透膜であっても十分な濃度で透過することを見出した。これにより、有機物を含む被処理水からの逆浸透膜を用いる水回収において、逆浸透膜の二次側においてもスライム汚染を抑制することができる。
【0033】
特に、逆浸透膜として昨今主流であるポリアミド系逆浸透膜等のポリアミド系高分子膜は、酸化剤に対する耐性が比較的低く、遊離塩素等をポリアミド系逆浸透膜等に連続的に接触させると、膜性能の著しい低下が起こる。しかしながら、被処理水にヨウ素系酸化剤を添加する水回収方法ではポリアミド逆浸透膜等においても、このような著しい膜性能の低下が起こりにくい。
【0034】
ヨウ素系酸化剤は、ヨウ素を含む酸化剤である。ヨウ素系酸化剤に含まれる「ヨウ素」はいずれの形態もよく、分子状ヨウ素、ヨウ化物、多ヨウ化物、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ化水素、ポリビニルピロリドンやシクロデキストリン等の有機溶媒に配位されたヨウ素のうちのいずれか一つ、またはその組み合わせでもよい。また、これらヨウ素のいずれかの形態を得るための方法としては、固体ヨウ素を、ベンゼンや四塩化炭素等の無極性溶媒やアルコール類に溶解する、アルカリ剤と水とを用いて溶解する、またはヨウ化物塩と水とを用いて溶解する方法を用いてもよく、ヨウ化物塩およびヨウ化物イオンのうち少なくとも1つを含有する溶液に酸または酸化剤を加えることによって全ヨウ素を得てもよい。また、ポリビニルピロリドンにヨウ素を配位させたポピドンヨード、シクロデキストリンに包接させたヨウ素包接シクロデキストリン、有機ポリマーおよび界面活性剤等にヨウ素を担持させたヨードホール等を用いて、ポリビニルピロリドンやシクロデキストリン等の有機溶媒に配位されたヨウ素を得てもよい。ヨウ素系酸化剤としては、ハンドリング性や、被処理水および処理水への水質影響等の観点から、有機物を用いずに固体ヨウ素をヨウ化物塩と水とを用いて溶解したものが好ましい。なお、ヨウ化物とは、酸化数1のヨウ素化合物のことを指し、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化水素、ヨウ化銀等が挙げられる。また、これらのヨウ化物は当然、水に溶解することで解離し、ヨウ化物イオンになる。ヨウ化物塩としてはヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等の無機ヨウ化物塩等が挙げられるが、ヨウ化カリウムを用いることが好ましい。
【0035】
被処理水が、有機物、特に逆浸透膜を透過しやすい有機物をTOCとして0.01mg/L以上含む場合、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.5mg/L以上500mg/L以下含む場合に、本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法をより好適に適用することができる。被処理水中の有機物の含有量が0.01mg/L未満であると、逆浸透膜の二次側においてスライム汚染が発生しにくいため、ヨウ素系酸化剤によるスライム抑制効果が十分に発揮されない場合がある。
【0036】
また、透過水中の有機物濃度がTOCとして0.01mg/L以上である場合、好ましくは0.05mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上100mg/L以下である場合に、本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法をより好適に適用することができる。透過水中の有機物濃度がTOCとして0.01mg/L未満であると、逆浸透膜の二次側においてスライム汚染が発生しにくいため、ヨウ素系酸化剤によるスライム抑制効果が十分に発揮されない場合がある。
【0037】
逆浸透膜に接触するヨウ素系酸化剤は、全塩素濃度として、0.01mg/L以上であることが好ましく、0.01~100mg/L(全ヨウ素濃度に換算すると0.035~350mg/L)の範囲であることがより好ましく、0.05~10mg/Lの範囲であることがさらに好ましい。逆浸透膜に接触するヨウ素が全塩素濃度として0.01mg/L未満であると、十分なスライム抑制効果を得ることができない場合があり、100mg/Lより多いと、逆浸透膜の劣化、配管等の腐食を引き起こす可能性がある。この場合、透過水中の全塩素濃度を、0.01mg/L以上、好ましくは0.01~100mg/Lの範囲とすればよい。
【0038】
本明細書において、酸化剤の全ての酸化力をDPD法による全塩素として表す。本明細書において、「全塩素」とは「JIS K 0120:2013の33.残留塩素」に記載の硫酸N,N-ジエチル-p-フェニレンジアンモニウム(DPD)を用いる吸光光度法によって求めた濃度を指す。例えば、0.2mol/Lリン酸二水素カリウム溶液2.5mLを比色管50mLにとり、これにDPD希釈粉末(硫酸N,N-ジエチル-p-フェニレンジアンモニウム1.0gを粉砕し、硫酸ナトリウム24gを混合したもの)0.5gを加え、ヨウ化カリウム0.5gを加えて試料を適量加え、水を標線まで加えて溶解して約3分間放置する。発色した桃色から桃紅色を波長510nm(または555nm)付近の吸光度を測定して定量する。DPDはあらゆる酸化剤によって酸化され、酸化剤としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、過酸化水素、オゾン等が挙げられ、測定対象とすることができる。本実施形態におけるヨウ素系酸化剤では、酸化力を持ちうる全てのヨウ素の形態(例えばI、IO 、IO、HI)をまとめて、「全塩素」として測定した。また、「全塩素」は「全ヨウ素」に換算することが可能である。具体的には「塩素の分子量」と「ヨウ素の分子量」を元に換算する。すなわち、「全塩素」×(126.9/35.45)≒「全塩素」×3.58=「全ヨウ素」となる。
【0039】
ヨウ素系酸化剤添加工程において、(被処理水中の全ヨウ素(mg/L))×(ヨウ素系酸化剤の添加時間(h))で表される全ヨウ素CT値(mg/L・h)が、0.7(mg/L・h)以上であることが好ましく、1.0(mg/L・h)以上であることがより好ましい。全ヨウ素CT値(mg/L・h)が0.7(mg/L・h)以上であると、逆浸透膜でのヨウ素系酸化剤の透過をより高くすることができるため、逆浸透膜の二次側においてスライム汚染をより抑制することができる。
【0040】
ヨウ素系酸化剤がヨウ化カリウム等のヨウ化物塩を用いてヨウ素を溶解させた酸化剤、すなわちヨウ素とヨウ化物とを含有する酸化剤である場合、ヨウ素に対するヨウ化物(ヨウ化物塩およびヨウ化物イオンのうちの少なくとも1つ)のモル比(ヨウ化物(ヨウ化物塩およびヨウ化物イオンのうちの少なくとも1つ)/ヨウ素)は1以上3以下であることが好ましく、1.5以上2.5以下であることがより好ましい。ヨウ素に対するヨウ化物のモル比(ヨウ化物(ヨウ化物塩およびヨウ化物イオンのうちの少なくとも1つ)/ヨウ素)が1より低いと、逆浸透膜を透過するヨウ素の濃度が低くなる場合がある。
【0041】
ヨウ素系酸化剤の被処理水への添加方法としては、ヨウ素系酸化剤を連続的に添加する連続添加でもよいし、被処理水中にヨウ素系酸化剤を添加する添加期間と被処理水中にヨウ素系酸化剤を添加しない無添加期間とを設ける間欠添加でもよい。ヨウ素系酸化剤は塩素系酸化剤や臭素系酸化剤等の他の酸化剤に比べて比較的コストが高い一方で殺菌力は高く、連続的な添加でスライム抑制にかかるコストが増大する場合は間欠添加であっても十分なスライム抑制効果を得ることができる。また、ヨウ素は即効性が高いため、添加期間を短く設定することも可能となる。ヨウ素系酸化剤を被処理水中に連続的に添加すれば、被処理水中に常時、有効成分を含有させることができる。
【0042】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法において、被処理水にヨウ素系酸化剤を例えば連続的に添加することによって、ヨウ素が逆浸透膜に吸着し、ヨウ素系酸化剤の添加を停止しても逆浸透膜から有効成分が徐々に放出される。そのため、トラブルや不具合等によって水回収システムおよびヨウ素系酸化剤の注入ポンプ等が停止して長時間水が滞留する場合またはヨウ素系酸化剤の添加が停止する場合等であっても持続的に殺菌効果を得ることができる。また、逆浸透膜に有効成分が吸着することによって、従来の殺菌剤のようなバイオフィルム表面(流路面)からの殺菌、洗浄に対して、バイオフィルムの表面からだけでなく、バイオフィルムの裏面(バイオフィルムと膜との付着面)からの殺菌、洗浄効果が期待できる。
【0043】
また、ヨウ素は浸透性の高い物質であるため、前述したようなスライム形成の抑制効果を得られるだけでなく、既に形成されたスライム内部に浸透し、効果的に剥離効果を得ることも可能である。
【0044】
被処理水のpHは、2~12の範囲であることが好ましく、4~9の範囲であることがより好ましい。被処理水のpHが9を超えると有効成分の低下によってスライム抑制効果が低下し、さらに12を超えると十分なスライム抑制効果が得られない場合があり、2未満であると、ヨウ素の結晶が析出し、十分なスライム抑制効果が得られない場合がある。
【0045】
逆浸透膜を透過しやすい有機物としては、低分子の有機物が挙げられる。低分子の有機物とは、分子量が500以下の有機物を指し、例えば、分子量が500以下の、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール化合物、モノエタノールアミン、尿素等のアミン化合物、水酸化テトラメチルアンモニム等のテトラアルキルアンモニウム塩、酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。
【0046】
逆浸透膜においては分子量が低いほど除去率が低下することが知られている。前記低分子の有機物は逆浸透膜処理においても除去率が低いことが広く知られており、例えば、表1および表2に示すように低分子量の有機物は逆浸透膜を透過することが知られており、特に分子量500以下の有機物の逆浸透膜透過率が高いとされている。また、側鎖数1以下の有機物の逆浸透膜透過率が高いとされている。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法で用いられる逆浸透膜の膜種および操作圧力に特に制限はなく、逆浸透膜から透過水を得られる圧力で運転されていればよい。たとえば、かん水用逆浸透膜(低圧逆浸透膜)を0.2~1.2MPaで運転してもよく、海水淡水化用逆浸透膜(高圧逆浸透膜)を3~5.5MPaで運転してもよく、海水淡水化用逆浸透膜(高圧逆浸透膜)をかん水用途に1.5~3.5MPaで運転してもよい。
【0050】
逆浸透膜がポリアミド系の逆浸透膜である場合、逆浸透膜の膜面の塩素含有量が0.1atom%以上であることが好ましく、0.5atom%以上であることがより好ましい。逆浸透膜の膜面の塩素含有量が0.1atom%未満であると、ヨウ素の透過量が低減され、逆浸透膜の二次側のスライム汚染の抑制効果が低くなる場合がある。逆浸透膜面の塩素含有量は、X線電子分光法によって測定することができる。
【0051】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法で得られた処理水(透過水)は水利用システム26の被処理水として供給(回収)されるが、水利用システム26としては、特に制限はなく、あらゆる水利用設備に用いることが可能であり、分離膜処理装置、イオン除去装置、純水製造装置、冷却塔、スクラバー用水、設備用水の貯留タンク等に供給して用いることができる。水利用システム26が分離膜処理装置、イオン除去装置、純水製造装置である場合、処理水(透過水)に含まれる低分子有機物がスライム形成リスクとなるため、本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法を好適に用いることができる。水利用システム26が冷却塔、スクラバー用水、設備用水の貯留タンクである場合、処理水(透過水)に含まれる低分子有機物に加え、気液混合状態であることによるスライム形成リスクが増加するため、本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法をより好適に用いることができる。
【0052】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法における逆浸透膜処理装置12の被処理水は、有機物を含む被処理水であり、有機物および窒素化合物を含む被処理水であってもよい。有機物を含む被処理水は、例えば、排水処理手段から得られた処理水である。排水処理手段は、生物処理、凝集沈殿、加圧浮上、砂ろ過、生物活性炭等のいずれを用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。被処理水は、生物処理手段(生物処理工程)から得られた生物処理水を含んでもよい。
【0053】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法は、特に、排水回収への適用、例えば、電子産業排水、食品製造排水、飲料水製造排水、化学工場排水、メッキ工場排水等の回収への適用が考えられる。特に電子産業排水の回収水にはアンモニアが含まれることが多く、排水回収するフローとして、例えば、図2に示すような、生物処理装置36と膜処理装置40とを備える生物処理システム56の後段に、本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水回収システムおよび水回収方法を適用する、逆浸透膜処理装置12を備える水回収システム1を有するフローが考えられる。
【0054】
図2に示す水処理システム2は、例えば、生物処理手段として生物処理装置36と、生物処理水槽38と、膜処理手段として膜処理装置40と、膜処理水槽42と、上記水処理装置1とを備える。水処理システム2は、第2逆浸透膜処理手段として第2逆浸透膜処理装置30を備えてもよい。
【0055】
水処理システム2において、生物処理装置36の入口には、原水配管44が接続されている。生物処理装置36の出口と、生物処理水槽38の入口とは、生物処理水配管46により接続されている。生物処理水槽38の出口と、膜処理装置40の入口とは、生物処理水供給配管48により接続されている。膜処理装置40の出口と、膜処理水槽42の入口とは、膜処理水配管50により接続されている。膜処理水槽42の出口と、被処理水槽10の入口とは、被処理水配管14により接続されている。被処理水槽10の出口と、逆浸透膜処理装置12の一次側の入口とは、被処理水供給配管16により接続されている。逆浸透膜処理装置12の二次側の透過水出口には、透過水配管18が接続され、透過水配管18は、系外の水利用システム26と接続されている。逆浸透膜処理装置12の一次側の濃縮水出口と、第2逆浸透膜処理装置30の一次側の入口とは、濃縮水配管20により接続されている。第2逆浸透膜処理装置30の一次側の濃縮水出口には、濃縮水配管34が接続され、第2逆浸透膜処理装置30の二次側の透過水出口と、被処理水槽10の透過水入口とは、透過水配管32により接続されている。生物処理水槽38、膜処理水槽42、被処理水槽10のうちの少なくとも1つには、被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加手段として、ヨウ素系酸化剤添加配管54a,54b,54cのうち少なくとも1つが接続されている。
【0056】
水処理システム2において、原水として例えば電子産業排水が原水配管44を通して生物処理装置36に送液され、生物処理装置36において生物処理が行われる(生物処理工程)。生物処理された生物処理水は、必要に応じて生物処理水槽38に貯留された後、膜処理装置40に送液され、膜処理装置40において除濁膜等により膜処理(除濁)が行われる(膜処理工程)。膜処理された膜処理水は、必要に応じて膜処理水槽42に貯留された後、被処理水として被処理水配管14を通して水回収システム1の被処理水槽10に必要に応じて送液され、貯留される。例えば、被処理水槽10において、被処理水中にヨウ素系酸化剤添加配管54cを通してヨウ素系酸化剤が添加され、ヨウ素系酸化剤を存在させる(ヨウ素系酸化剤添加工程)。ヨウ素系酸化剤は、ヨウ素系酸化剤添加配管54aを通して生物処理水槽38において添加されてもよいし、ヨウ素系酸化剤添加配管54bを通して膜処理水槽42において添加されてもよいし、被処理水配管14において添加されてもよいし、被処理水供給配管16において添加されてもよい。
【0057】
ヨウ素系酸化剤が添加された被処理水は、被処理水供給配管16を通して、逆浸透膜処理装置12に供給され、逆浸透膜処理装置12において、逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離される(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、処理水として透過水配管18を通して水利用システム26の被処理水として供給され(供給工程)、濃縮水は濃縮水配管20を通して排出される。逆浸透膜処理で得られた濃縮水は、必要に応じて第2逆浸透膜処理装置30に送液され、第2逆浸透膜処理装置30においてさらに逆浸透膜処理が行われてもよい(第2逆浸透膜処理工程)。第2逆浸透膜処理で得られた濃縮水は濃縮水配管34を通して系外に排出される。第2逆浸透膜処理で得られた透過水は系外に排出されてもよいし、必要に応じて透過水配管32を通して被処理水槽10に送液され、循環されてもよい。
【0058】
図2の水処理システム2では、生物処理装置36、生物処理水槽38、膜処理装置40を個別に備える生物処理システム56を例示したが、これらを1つのユニットにまとめた膜分離活性汚泥装置(MBR)を用いてもよい。
【0059】
図2の水処理システム2では、原水中に低分子有機物等の有機物が含有され、生物処理システム56では十分に処理されずに生物処理システム56の処理水中に残留し、水回収システム1の被処理水中に混入することによって逆浸透膜処理装置12の透過水配管18等の汚染につながることがある。
【0060】
活性汚泥法等の生物処理方法を用いて窒素除去を行う場合、脱窒工程で水素供与体としてメタノール等の安価な低分子有機物を添加することが一般的である。この際に添加したメタノール等の安価な低分子有機物は、通常は後段の再曝気槽で分解処理されるが、残留して生物処理システム56の処理水中に残留する可能性がある。これにより、逆浸透膜処理装置12の被処理水中に混入し、逆浸透膜処理装置12の透過水配管18等の汚染につながる。水素供与体としては有機物を含有する原水を添加する方法もあるが、原水中に低分子有機物が含有されている場合もあり、メタノール等の低分子有機物を添加する場合と同様に生物処理システム56の処理水中に残留する可能性がある。
【0061】
先に述べたように、逆浸透膜におけるメタノールの除去率は極めて低く、その他の低分子有機物においても除去率が低いことが知られており、生物処理システム等の排水処理手段から得られる処理水を逆浸透膜処理手段の被処理水として用いる場合、被処理水に低分子有機物が混入し、逆浸透膜の透過水配管等が汚染されるリスクが高い。図2の水処理システム2では、逆浸透膜の被処理水中に、十分な濃度の透過が可能なヨウ素系酸化剤を存在させることによって逆浸透膜の透過水配管等の汚染を抑制することができる。
【0062】
水処理システム2のような排水回収のフローでは、水回収率を高めるために第2逆浸透膜処理装置30(ブラインRO)を設けることが一般的である。第2逆浸透膜処理装置30は、逆浸透膜処理装置12の濃縮水を被処理水とし、例えば、透過水を被処理水槽10に返送し、濃縮水を系外へ排出する。
【0063】
図2の水処理システム2では、逆浸透膜処理の前処理として生物処理を例として説明したが、逆浸透膜処理の前処理工程においては、生物処理、凝集処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過処理、膜分離処理、活性炭処理、オゾン処理、紫外線照射処理等の生物学的、物理的または化学的な前処理、およびこれらの前処理のうちの2つ以上の組み合わせが必要に応じて行われてもよい。
【0064】
水処理システム2において、システム内に逆浸透膜の他に、ポンプ、安全フィルタ、流量測定装置、圧力測定装置、温度測定装置、酸化還元電位(ORP)測定装置、残留塩素測定装置、電気伝導度測定装置、pH測定装置、エネルギー回収装置等を必要に応じて備えてもよい。
【0065】
水処理システム2において、必要に応じて、ヨウ素系酸化剤以外のスケール抑制剤や、pH調整剤が、生物処理水槽38およびその前後の配管、膜処理水槽42およびその前後の配管、被処理水槽10およびその前後の配管のうちの少なくとも1つにおいて、生物処理水、膜処理水、被処理水のうちの少なくとも1つに添加されてもよい。
【0066】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法において、逆浸透膜処理手段である逆浸透膜処理装置12からの透過水をさらに逆浸透膜処理する2段目の逆浸透膜処理手段をさらに備えてもよい。例えば、図3に示すような、本実施形態に係る逆浸透膜を用いる水回収システムおよび水回収方法を適用する少なくとも1つの逆浸透膜処理装置12(図3の例では、つの逆浸透膜処理装置12a,12b,12c,12d)の後段に、逆浸透膜処理装置12からの透過水をさらに逆浸透膜処理する2段目の逆浸透膜処理手段として少なくとも1つの2段目の逆浸透膜処理装置60(図3の例では、2つの第2逆浸透膜処理装置60a,60b)をさらに備えるフローが考えられる。
【0067】
図3に示す水回収システム3において、逆浸透膜処理装置12a,12b,12c,12dの一次側の入口には、被処理水供給配管16a,16b,16c,16dがそれぞれ接続されている。逆浸透膜処理装置12a,12b,12c,12dの二次側の透過水出口には、透過水配管18a,18b,18c,18dがそれぞれ接続され、一次側の濃縮水出口には、濃縮水配管20a,20b,20c,20dがそれぞれ接続されている。透過水配管18a,18b,18c,18dは、透過水配管62a,62bに合流し、透過水配管62aは、第2逆浸透膜処理装置60aの一次側の入口に接続され、透過水配管62bは、第2逆浸透膜処理装置60bの一次側の入口に接続されている。第2逆浸透膜処理装置60aの二次側の透過水出口には、透過水配管64aが接続され、一次側の濃縮水出口には、濃縮水配管66aが接続され、透過水配管64aは、系外の水利用システム26と接続されている。第2逆浸透膜処理装置60bの二次側の透過水出口には、透過水配管64bが接続され、一次側の濃縮水出口には、濃縮水配管66bが接続され、透過水配管64bは、系外の水利用システム26と接続されている。透過水配管64a、透過水配管64bは、それぞれ別の系外の水利用システムと接続されていてもよい。
【0068】
被処理水供給配管16a,16b,16c,16dには、被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加手段として、ヨウ素系酸化剤添加配管24a,24b,24c,24dがそれぞれ接続されている。
【0069】
水回収システム3において、被処理水は、それぞれ被処理水配管を通して、必要に応じて被処理水槽に送液され、貯留された後、被処理水供給配管16a,16b,16c,16dにおいて、被処理水中にヨウ素系酸化剤添加配管24a,24b,24c,24dを通してヨウ素系酸化剤がそれぞれ添加され、ヨウ素系酸化剤を存在させる(ヨウ素系酸化剤添加工程)。ヨウ素系酸化剤は、被処理水供給配管16a,16b,16c,16dにそれぞれ接続された被処理水槽において添加されてもよいし、被処理水槽に接続された被処理水配管において添加されてもよい。
【0070】
ヨウ素系酸化剤が添加された被処理水は、被処理水供給配管16a,16b,16c,16dを通して、逆浸透膜処理装置12a,12b,12c,12dにそれぞれ供給され、逆浸透膜処理装置12a,12b,12c,12dにおいて、逆浸透膜で透過水と濃縮水とにそれぞれ分離される(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、処理水として透過水配管18a,18b,18c,18d、透過水配管62a,62bを通して第2逆浸透膜処理装置60a,60bにそれぞれ供給される。濃縮水は濃縮水配管20a,20b,20c,20dを通してそれぞれ排出される。第2逆浸透膜処理装置60a,60bにおいて、逆浸透膜で透過水と濃縮水とにそれぞれ分離される(第2逆浸透膜処理工程)。第2逆浸透膜処理で得られた透過水は、透過水配管64a,64bを通して処理水として水利用システム26の被処理水として供給され(供給工程)、濃縮水は濃縮水配管66a,66bを通してそれぞれ排出される。第2逆浸透膜処理で得られた透過水は、それぞれ別の系外の水利用システムの被処理水として供給されてもよい。
【0071】
1段目の逆浸透膜処理において被処理水中に低分子有機物等の有機物が含有されている場合、1段目の逆浸透膜の透過水に低分子有機物等の有機物が透過し、2段目の逆浸透膜の汚染を招く可能性がある。1段目の逆浸透膜の被処理水中に十分な濃度の透過が可能なヨウ素系酸化剤を存在させることによって、1段目の逆浸透膜の透過水配管および2段目の逆浸透膜の汚染を抑制することができる。
【0072】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法において、被処理水は、前段の逆浸透膜処理手段からの濃縮水であってもよい。このような構成の水回収システムの例を図4に示す。図4に示す水回収システム4は、有機物を含む原水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する前段の逆浸透膜処理手段として、前段逆浸透膜処理装置72と、前段の逆浸透膜処理手段からの濃縮水をさらに逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜処理手段として、逆浸透膜処理装置12とを備える。水回収システム4は、有機物を含む原水を貯留するための原水槽68、有機物を含む原水の活性炭処理を行う活性炭処理装置70、被処理水である前段の逆浸透膜処理手段からの濃縮水を貯留するための被処理水槽10を備えてもよい。
【0073】
水回収システム4において、原水槽68の入口には、原水配管74が接続されている。原水槽68の出口と、活性炭処理装置70の入口とは、原水供給配管76により接続されている。活性炭処理装置70の出口と、前段逆浸透膜処理装置72の一次側の入口とは、活性炭処理水供給配管78により接続されている。前段逆浸透膜処理装置72の二次側の透過水出口には、透過水配管80が接続され、一次側の濃縮水出口と、被処理水槽10の入口とは、濃縮水配管82により接続されている。被処理水槽10の出口と、逆浸透膜処理装置12の一次側の入口とは、被処理水供給配管16により接続されている。逆浸透膜処理装置12の二次側の透過水出口には、透過水配管18が接続され、一次側の濃縮水出口には、濃縮水配管20が接続され、透過水配管18は、系外の水利用システム26と接続されている。被処理水槽10および被処理水供給配管16のうちの少なくとも1つには、被処理水にヨウ素系酸化剤を添加するヨウ素系酸化剤添加手段として、ヨウ素系酸化剤添加配管22またはヨウ素系酸化剤添加配管24が接続されている。
【0074】
水回収システム4において、有機物を含む原水は、原水配管74を通して、必要に応じて原水槽68に送液され、貯留される。原水は、原水供給配管76を通して、活性炭処理装置70に送液され、活性炭処理装置70において、活性炭処理が行われる(活性炭処理工程)。活性炭処理が行われた活性炭処理水は、活性炭処理水供給配管78を通して、前段逆浸透膜処理装置72に供給され、前段逆浸透膜処理装置72において、逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離される(前段逆浸透膜処理工程)。前段逆浸透膜処理で得られた透過水は、透過水配管80を通して排出され、濃縮水は被処理水として濃縮水配管82を通して、必要に応じて被処理水槽10に送液され、貯留される。被処理水槽10において、被処理水中にヨウ素系酸化剤添加配管22を通してヨウ素系酸化剤が添加され、ヨウ素系酸化剤を存在させる(ヨウ素系酸化剤添加工程)。ヨウ素系酸化剤は、濃縮水配管82において添加されてもよいし、図4に示すようにヨウ素系酸化剤添加配管24を通して被処理水供給配管16において添加されてもよい。
【0075】
ヨウ素系酸化剤が添加された被処理水は、被処理水供給配管16を通して、逆浸透膜処理装置12に供給され、逆浸透膜処理装置12において、逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離される(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、処理水として透過水配管18を通して水利用システム26の被処理水として供給され(供給工程)、濃縮水は濃縮水配管20を通して排出される。
【0076】
前段の逆浸透膜処理の原水中に低分子有機物等の有機物が含有されている場合、当然、前段の逆浸透膜の濃縮水中に低分子有機物等の有機物が混入する。前段の逆浸透膜処理の濃縮水をさらに逆浸透膜(ブラインRO)処理する場合、この濃縮水に低分子有機物等の有機物が混入し、逆浸透膜処理装置12の被処理水槽10および透過水配管18のスライム汚染を引き起こす可能性がある。前段逆浸透膜処理装置72の濃縮水、すなわち逆浸透膜処理装置12の被処理水中に十分な濃度の透過が可能なヨウ素系酸化剤を存在させることによって、逆浸透膜処理装置12の被処理水槽10および透過水配管18の汚染を抑制することができる。
【0077】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法において、ヨウ素系酸化剤を添加した後の被処理水、逆浸透膜手段からの透過水または濃縮水に酸を添加またはUV照射を行うことが好ましい。このような構成の水回収システムの例を図5に示す。
【0078】
図5に示す水回収システム5は、ヨウ素系酸化剤を添加した後の被処理水、透過水および濃縮水のうちの少なくとも1つに、酸の添加を行う酸添加手段として酸添加配管84a,84b,84cまたはUV照射を行うUV照射手段としてUV照射装置86a,86b,86cのうちの少なくとも1つをさらに備える。
【0079】
水回収システム5において、被処理水供給配管16におけるヨウ素系酸化剤添加配管24の接続点の後段、透過水配管18、および濃縮水配管20のうちの少なくとも1つに、酸添加配管84aまたはUV照射装置86a、酸添加配管84bまたはUV照射装置86b、または酸添加配管84cまたはUV照射装置86cのうちの少なくとも1つが設置されている。
【0080】
ヨウ素系酸化剤が添加された被処理水は、酸添加またはUV照射が行われた(酸添加工程またはUV照射工程)後、被処理水供給配管16を通して、逆浸透膜処理装置12に供給され、逆浸透膜処理装置12において、逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離される(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理で得られた透過水は、酸添加またはUV照射が行われた(酸添加工程またはUV照射工程)後、水利用システム26の被処理水として供給されてもよいし(供給工程)、濃縮水は、酸添加またはUV照射が行われた(酸添加工程またはUV照射工程)後、濃縮水配管20を通して排出されてもよい。
【0081】
ヨウ素が十分な濃度で透過するとはいえ、微生物の殺菌のためにヨウ素が消費されて殺菌力を失うことによって逆浸透膜の2次側以降のスライム抑制のための殺菌力が不足してしまう場合がある。図5の水回収システム5においては、ヨウ素系酸化剤を添加した後の被処理水、逆浸透膜の透過水または濃縮水に酸を添加するまたはUV照射することによって殺菌によって消費されたヨウ素を再活性化し、2次側以降における十分な殺菌力を再獲得することができる。
【0082】
濃縮水に添加する酸は酸性物質であればよく、酸性溶液を用いることが好ましく、強酸である塩酸、硫酸、硝酸を用いることがより好ましい。
【0083】
UV照射装置は、紫外線(例えば、100nm~400nmの光、好ましくは254nmの光を含む光)を照射できるものであればよく、特に制限はない。
【0084】
本実施形態に係る水回収システムおよび水回収方法において、逆浸透膜処理手段を用いて得られる逆浸透膜の透過水に対してヨウ素除去手段を用いてもよい。このような構成の水回収システムの例を図6に示す。
【0085】
図6に示す水回収システム6は、透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去手段としてヨウ素除去装置88を備える。または、水利用システム26が透過水中のヨウ素成分を除去するヨウ素除去手段としてヨウ素除去装置を備えてもよい。
【0086】
水回収システム6において、透過水配管18にヨウ素除去装置88が設置されており、逆浸透膜処理で得られた透過水は、ヨウ素除去装置88において透過水中のヨウ素成分が除去された(ヨウ素除去工程)後、水利用システム26の被処理水として供給される(供給工程)。水利用システム26にヨウ素除去装置が設置され、逆浸透膜処理で得られた透過水が水利用システム26の被処理水として供給された(供給工程)後、水利用システム26におけるヨウ素除去装置において透過水中のヨウ素成分が除去されてもよい(ヨウ素除去工程)。
【0087】
逆浸透膜処理装置12の透過水を供給する水利用システム26において、ヨウ素の管理基準の遵守や水利用システム26へのヨウ素負荷低減を目的として、水利用システム26の内部、水利用システム26の前段のいずれかにヨウ素除去手段を設置することによってその目的を達することが可能となる。
【0088】
ヨウ素除去手段としては、還元剤添加、活性炭、アニオン交換体、スクラバー、脱気膜のうちの1つ以上を用いてもよく、活性炭、アニオン交換体を用いることが好ましい。活性炭としては、活性炭ろ過装置または活性炭フィルターのいずれを用いてもよく、活性炭フィルターであることが好ましい。アニオン交換体としては弱アニオン交換樹脂または強アニオン交換樹脂のいずれを用いてもよく、強アニオン交換樹脂であることが好ましい。ヨウ素除去手段は、逆浸透膜処理装置12の透過水を水利用システム26に供給する前に設置してもよく、水利用システム26の中に設置してもよく、両方を組み合わせてもよい。
【0089】
<ヨウ素系スライム抑制剤>
本実施形態に係るヨウ素系スライム抑制剤は、上記水回収システムおよび水回収方法における逆浸透膜の二次側のスライム抑制のために用いられるスライム抑制剤であり、有機物を含む被処理水からの逆浸透膜を用いる水回収において、逆浸透膜の二次側においてもスライム汚染を抑制することができる。
【実施例
【0090】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
[逆浸透膜透過率および排除率への影響試験]
<実施例1>
以下の試験条件で、逆浸透膜処理装置の給水(被処理水)に、下記の方法で調製したヨウ素系酸化剤(1)を添加して、逆浸透膜の全塩素の透過率、透過流束の保持率、逆浸透膜の排除率、差圧上昇率、濃縮水中の菌数を比較した。逆浸透膜の全塩素の透過率は被処理水中の全塩素濃度および透過水の全塩素濃度を測定して求め、透過流束は、「(透過水量)/(膜面積・供給圧力)×水温補正係数」として求め、透過流束の保持率は、「(実際に測定した透過流束)/(初期の透過流束)×100」として求め、逆浸透膜の排除率は、「(1-(透過水EC/供給水EC))×100」として求め、通水差圧は、差圧計を用いて「供給水の圧力―濃縮水の圧力」として求め、菌数はシートチェックR2A(NIPRO製)を用いて測定した。有機物含有量は、GE Analytical InstrumentsのSievers900型TOC分析装置を用いて測定した。
【0092】
(試験条件)
・試験水:相模原井水(脱塩素処理、塩酸を用いてpH7.0~4.0に調整、有機物含有量:0.15mg/L、菌数:2×10CFU/mL)
・pH:7.5、7.0、6.5、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0
・逆浸透膜:日東電工社製、4インチ逆浸透膜エレメント(LFC3)
・薬剤:ヨウ素系酸化剤(1)
【0093】
(ヨウ素系酸化剤(1))
表3に示す配合組成(質量%)でヨウ素、48%水酸化カリウム水溶液、水を混合して調製した。組成物のpH、全塩素濃度(質量%)、有機物含有量(TOC)(mg/L)は表3に示す通りであった。全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/3900を用いて測定した。有機物含有量(TOC)は、GE Analytical InstrumentsのSievers900型TOC分析装置を用いて測定した。ヨウ素系酸化剤(1)の詳細な調製方法は以下の通りである。
【0094】
具体的には、水に、撹拌しながら48%水酸化カリウム溶液を溶解し、略均一な溶液となったところにヨウ素を入れ、約30分撹拌して略均一なヨウ素系酸化剤(1)を調製した。
【0095】
【表3】
【0096】
なお、pHの測定は、以下の条件で行った。
電極タイプ:ガラス電極式
pH測定計:東亜ディーケーケー社製、HM-42X型
電極の校正:関東化学社製フタル酸塩pH(4.01)標準液(第2種)、中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の3点校正で行った
測定温度:25℃
測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値
【0097】
ヨウ素系酸化剤(1)をpHが7.0~4.0の逆浸透膜の給水に濃縮水中の全塩素濃度が0.05mg/Lとなるように添加した(実施例1-1~1-8)。結果を表4に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
すべてのpH条件で全塩素の透過率は90%であり、透過水量の低下はほとんど無く、差圧の上昇もほとんどなかった。逆浸透膜の排除率への影響はほとんどなく(pH低下により逆浸透膜の荷電反発が弱くなることによる排除率の低下は除く。)、濃縮水中の菌数は同等レベルに低下していた。ヨウ素系酸化剤(1)は、逆浸透膜の透過率が90%であり、逆浸透膜への影響がほとんどなく、十分な殺菌力が得られることを示した。
【0100】
<実施例2、比較例1>
[全ヨウ素CT値の検討]
(被処理水中の全ヨウ素(mg/L))×(ヨウ素系酸化剤の添加時間(h))で表される全ヨウ素CT値(mg/L・h)を変えて処理を行った。結果を表5に示す。
【0101】
(試験条件)
試験水:相模原井水(脱塩素処理、菌数2×10CFU/mL)
薬剤:表3に示す配合組成(質量%)でヨウ素系酸化剤(1)と同様の方法によって調製したヨウ素系酸化剤(2)を使用
pH:7.0
逆浸透膜:ES20、ESPA2、LFC3、TML10D
【0102】
【表5】
【0103】
いずれの被処理水中の全ヨウ素濃度であっても、透過水の菌数は<10に減少した。透過水中の全ヨウ素濃度を高くするためには、全ヨウ素CT値が0.7以上であることが好ましいことがわかる。
【0104】
[薬剤による逆浸透膜透過率の違い]
<実施例3~6>
以下の方法で、薬剤による逆浸透膜透過率の違いを確認する試験を行った。
【0105】
(試験条件)
・試験水:相模原井水(脱塩素処理、有機物含有量:0.15mg/L)
・pH:7.0に調整
・逆浸透膜:日東電工社製、4インチ逆浸透膜エレメント(LFC3)
・薬剤:実施例3ではヨウ素系酸化剤(1)、実施例4,5,6では表3に示す配合組成(質量%)でヨウ素系酸化剤(1)と同様の方法によって調製したヨウ素系酸化剤(3)、ヨウ素系酸化剤(4)、ヨウ素系酸化剤(5)をそれぞれ使用
【0106】
被処理水に上記薬剤をそれぞれ12時間以上連続して添加し、被処理水中の全塩素濃度および透過水の全塩素濃度を測定し、透過率を求めた。結果を図7に示す。
【0107】
実施例3~6ではそれぞれヨウ素系酸化剤(1),(3)~(5)を用いて測定したところ、実施例3,4では透過率は約90%であり、実施例5では約83%、実施例6では約78%であった。ヨウ素と水酸化カリウムまたはヨウ化カリウムとで調製した製剤が逆浸透膜を十分に透過し、逆浸透膜の透過水のスライム抑制効果を十分に得られることが明らかとなった。
【0108】
<実施例7>
以下の方法で、ヨウ素の透過を確認する試験を行った。
【0109】
(試験条件)
・試験水:相模原井水(脱塩素処理水)
・試験装置:逆浸透膜エレメント試験装置
・薬剤:表3に示す配合量でヨウ素に対するヨウ化物のモル比(ヨウ化物/ヨウ素)がそれぞれ1.5,2,3となるようにヨウ素とヨウ化カリウムを混合して調製したヨウ素系酸化剤(6),(3),(7)を用いた。
【0110】
(総ヨウ素原子の測定)
総ヨウ素原子はICP-MS(PerkinElmer製、ELAN DRC-e ICP質量分析装置)を用いて測定した。サンプル水に十分な量のチオ硫酸ナトリウムを添加し、全てのヨウ素を還元し、アンモニア水を用いてpH9~10とすることによってイオンの安定化を図ったうえで測定を実施した。検量線はヨウ素酸カリウムを用いて作成した。
【0111】
逆浸透膜の被処理水のサンプルの総ヨウ素原子濃度を測定し、添加時間を乗じることで総ヨウ素CT値とした。
総ヨウ素CT値(mg/L・min)=(被処理水中総ヨウ素原子濃度(mg/L))×(添加時間(min))
【0112】
実施例7-1、実施例7-2、実施例7-3ではヨウ素系酸化剤(6),(3),(7)をそれぞれ総ヨウ素CT値として20(mg/L・min)となるように連続的に添加したところ、透過量はそれぞれ156μg/L、194μg/L、224μg/Lであった。結果を図8に示す。
【0113】
実施例7-4、実施例7-5、実施例7-6ではヨウ素系酸化剤(6),(3),(7)をそれぞれ総ヨウ素CT値として50(mg/L・min)となるように連続的に添加したところ、透過量はそれぞれ252μg/L、310μg/L、336μg/Lであった。結果を図9に示す。
【0114】
総ヨウ素CT値が20(mg/L・min)および50(mg/L・min)のいずれの場合もヨウ素に対するヨウ化物のモル比が高くなるにつれて透過するヨウ素濃度が高くなっていることがわかる。ヨウ素を透過させるためにはヨウ素に対するヨウ化物のモル比を高くすることが有効であることがわかる。
【0115】
[膜種による透過率の違い]
<実施例8>
以下の方法で、膜種による透過率の違いを確認する試験を行った。
【0116】
(試験条件)
・試験水:相模原井水(脱塩素処理、有機物含有量:0.15mg/L)
・pH:7.0に調整
・逆浸透膜:実施例8-1では4インチ逆浸透膜エレメントLFC3(日東電工社製)、実施例8-2では4インチ逆浸透膜エレメントES20(日東電工社製)、実施例8-3では4インチ逆浸透膜エレメントCPA5(日東電工社製)を使用
・薬剤:ヨウ素系酸化剤(1)
【0117】
実施例8-1、実施例8-2、実施例8-3では逆浸透膜面の塩素含有量がそれぞれ0.5atom%、1.1atom%、0atom%であるLFC3、ES20、CPA5を用い、被処理水の全塩素濃度および透過水の全塩素濃度を測定し、透過率を求めた。結果を表6に示す。なお、逆浸透膜面の塩素含有量は、PHI社製QuanteraSXM XPS(X線電子分光法)分析装置によって測定した。
【0118】
【表6】
【0119】
実施例8-1、実施例8-2、実施例8-3の透過率はそれぞれ90%、90%、75%であり、高い透過率を得た。膜面の塩素含有量が0.1atom%以上であることによって、透過率を90%とすることが可能となることがわかった。
【0120】
[スライム剥離効果の検討]
<実施例9>
以下の方法で、スライム剥離効果を確認する試験を行った。
【0121】
(試験条件)
・試験水:相模原井水(脱塩素処理、酢酸を1ppm添加、有機物含有量:0.55mg/L)
・pH:7.0±1
・逆浸透膜:日東電工社製、4インチ逆浸透膜エレメント(ESPA2)
・薬剤:表3に示す配合組成(質量%)でヨウ素系酸化剤(1)と同様の方法によって調製したヨウ素系酸化剤(8)を使用
【0122】
逆浸透膜の給水(相模原井水)に酢酸を1ppm添加し、バイオフィルムの形成を促進した。実施例9では全試験期間中、給水への酢酸は一定して1ppmを添加し続け、約170時間のところでヨウ素系酸化剤(8)を濃縮水中の全塩素濃度として0.05mg/Lとなるように添加し、それ以降も添加を継続した。結果を図10に示す。図10において、横軸は、運転開始からの時間(hr)、縦軸は、実際に測定した通水差圧(kPa)から初期の通水差圧(kPa)を差し引いた値の経時変化を示す。
【0123】
図10に示すように、運転開始から約80時間でバイオフィルムの形成による差圧上昇が始まり、その後、顕著に差圧が上昇したが、約170時間のところでヨウ素系酸化剤()を添加したところ、徐々に差圧が低下していくことが確認され、ヨウ素系酸化剤によってスライム剥離効果が得られることがわかった。
【0124】
<実施例10>
ごく低濃度の透過した有機物に対して、透過するヨウ素系酸化剤で殺菌可能かを試験した。
【0125】
(試験条件)
試験水:相模原井水(脱塩素)に0.01ppmの酢酸(TOCとして0.004mg/L)添加し、30℃で3日間培養
薬剤:表3に示す配合組成(質量%)でヨウ素系酸化剤(1)と同様の方法によって調製したヨウ素系酸化剤(2)を使用
添加濃度:実施例10-1では全塩素として0.05mg/L、実施例10-2では全塩素として0.10mg/Lとなるように添加
【0126】
薬剤添加から5分後、10分後の菌数を測定した。菌数はシートチェックR2A(NIPRO製)を用いて測定した。結果を図11に示す。
【0127】
0.05mg/L、0.10mg/Lという低い濃度(透過する濃度として考えられる濃度)でも十分な殺菌効果を示した。
【0128】
[酸剤の添加、紫外線照射の効果確認]
<実施例11>
以下の方法で、酸剤の添加の効果を確認する試験を行った。
【0129】
(試験条件)
・試験水:ヨウ素系酸化剤(8)を用い、全塩素濃度として0.05mg/Lとなるように純水で希釈した。pHは5.69であった。
・酸剤:pH調整剤として塩酸を使用
【0130】
初期pH5.69、全塩素濃度として0.05mg/Lの試験水に対して塩酸を添加して実施例11-1ではpHを3.08に、実施例11-2ではpHを1.91にそれぞれ調整した。結果を表7に示す。
【0131】
【表7】
【0132】
実施例11-1ではpHを3.08に、実施例11-2ではpHを1.91にそれぞれ調整したところ、全塩素濃度はそれぞれ0.07mg/L、0.09mg/Lとなり、有効成分の増加を確認した。
【0133】
<実施例12>
以下の方法で、紫外線照射の効果を確認する試験を行った。
【0134】
(試験条件)
・試験水:ヨウ素系酸化剤(8)を用い、全塩素濃度として0.43mg/Lとなるように純水で希釈した。
・紫外線:254nm
【0135】
全塩素濃度として0.43mg/Lの試験水に対して254(nm)の紫外線を30秒間照射した。結果を表8に示す。
【0136】
【表8】
【0137】
254(nm)の紫外線を照射したところ、照射後の全塩素は0.50mg/Lとなり、有効成分の増加を確認した。
【0138】
[逆浸透膜への吸着試験]
<実施例13>
以下の方法で、逆浸透膜への吸着を確認する試験を行った。
【0139】
(試験条件)
・試験装置:逆浸透膜エレメント試験装置
・運転圧力:0.75MPa
・給水:相模原井水(脱塩素処理、塩酸を用いてpH7.0に調整、有機物含有量:0.15mg/L、菌数:2×10CFU/mL)
・薬剤:ヨウ素系酸化剤(1)
・逆浸透膜:日東電工社製、4インチ逆浸透膜エレメント(LFC3)
【0140】
被処理水にヨウ素系酸化剤(1)を連続的に24時間以上添加した後に、薬剤添加を停止し、濃縮水、透過水の有効成分の経時変化を確認した。図12に、経過時間(min)に対する全塩素濃度(mg/L)を示す。
【0141】
図12に示す通り、薬剤添加を停止しても濃縮水、透過水からの有効成分の検出が継続することから、吸着した有効成分が徐々に放出されていると考えられる。
【0142】
以上のように、有機物を含む被処理水からの逆浸透膜を用いる水回収において、実施例の通り、ヨウ素系酸化剤を逆浸透膜の被処理水に添加することによって、逆浸透膜の二次側においてもスライム汚染を抑制することができた。
【符号の説明】
【0143】
1,3,4,5,6 水回収システム、2 水処理システム、10 被処理水槽、12,12a,12b,12c,12d 逆浸透膜処理装置、14 被処理水配管、16,16a,16b,16c,16d 被処理水供給配管、18,18a,18b,18c,18d,32,62a,62b,64a,64b,80 透過水配管、20,20a,20b,20c,20d,34,66a,66b,82 濃縮水配管、22,24,24a,24b,24c,24d,54a,54b,54c ヨウ素系酸化剤添加配管、26 水利用システム、30 第2逆浸透膜処理装置、36 生物処理装置、38 生物処理水槽、40 膜処理装置、42 膜処理水槽、44,74 原水配管、46 生物処理水配管、48 生物処理水供給配管、50 膜処理水配管、56 生物処理システム、60a,60b 第2逆浸透膜処理装置、68 原水槽、70 活性炭処理装置、72 前段逆浸透膜処理装置、76 原水供給配管、78 活性炭処理水供給配管、84a,84b,84c 酸添加配管、86a,86b,86c UV照射装置 88 ヨウ素除去装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12