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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】二次電池、装置、人造黒鉛及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20231016BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231016BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20231016BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
C01B32/20
C01B32/205
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2022520025
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 CN2019122649
(87)【国際公開番号】W WO2021108981
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】李▲遠▼源
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼建▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】沈睿
(72)【発明者】
【氏名】何立兵
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154242(JP,A)
【文献】特開2019-121483(JP,A)
【文献】特開2001-148241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0097271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/587
C01B 32/20
C01B 32/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池であって、
負極シートを含み、前記負極シートは、負極活物質を含み、前記負極活物質は、人造黒鉛を含み、前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上であり、
前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、
前記負極シートの圧密度は、1.55g/cm~1.75g/cmであり、
前記負極シートのOI値は、15以下であり、ここで、前記負極シートのOI値は、C004/C110であり、C004は、前記負極シートにおける前記人造黒鉛の004結晶面回折ピークのピーク面積であり、C110は、前記負極シートにおける前記人造黒鉛の110結晶面回折ピークのピーク面積である、
二次電池。
【請求項2】
前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1.2μm~3μmである
請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記人造黒鉛の個数粒径分布D 10は、1.3μm~2μmである、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記人造黒鉛の黒鉛化度は、92%~94%である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記負極シートの圧密度は、1.6g/cm~1.7g/cmある
請求項1乃至のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記負極シートの圧密度は、1.62g/cm ~1.68g/cm である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極シートのOI値は、8~12である、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記人造黒鉛は、さらに、下記の(1)~(4)のうちの一種類又は複数種類を満たすこと、
(1)前記人造黒鉛の体積粒径分布D10は、6μm以上であり、
(2)前記人造黒鉛の体積平均粒径D50は、15μm~22μmであり、
(3)前記人造黒鉛の粒径スパン(D90-D10)/D50は、1.1~1.8であり、
(4)前記人造黒鉛の比表面積SSAは、0.8m/g~2.0m/gである
請求項1乃至のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記人造黒鉛は、さらに、下記の(1)~(4)のうちの一種類又は複数種類を満たすこと、
(1)前記人造黒鉛の体積粒径分布D 10は、6.5μm≦D 10≦10.5μmであり、
(2)前記人造黒鉛の体積平均粒径D 50は、15μm~18μmであり、
(3)前記人造黒鉛の粒径スパン(D 90-D 10)/D 50は、1.2~1.5であり、
(4)前記人造黒鉛の比表面積SSAは、1.0m /g~1.5m /gである、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項10】
前記人造黒鉛は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、前記二次粒子の前記人造黒鉛における個数の割合は、60%以上である
請求項1乃至のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項11】
前記人造黒鉛は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、前記二次粒子の前記人造黒鉛における個数の割合は、70%~90%である、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項12】
前記人造黒鉛のDピークのピーク強度IとGピークのピーク強度Iとは、I/I≦0.25を満た
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項13】
前記人造黒鉛のDピークのピーク強度I とGピークのピーク強度I とは、0.1≦I /I ≦0.2を満たす、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項14】
前記人造黒鉛のタップ密度は、0.85g/cm~1.35g/cmであり、及び/又は、
前記人造黒鉛の2000kg圧力下での粉体圧密度は、1.65g/cm~1.85g/cmある
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項15】
前記人造黒鉛のタップ密度は、0.95g/cm ~1.15g/cm であり、及び/又は、
前記人造黒鉛の2000kg圧力下での粉体圧密度は、1.68g/cm ~1.83g/cm である、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項16】
前記人造黒鉛のグラムあたりの容量は、350mAh/g~359mAh/gである
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項17】
前記人造黒鉛のグラムあたりの容量は、352mAh/g~355mAh/gである、
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項18】
前記負極シートの面密度は、7.5mg/cm~14.0mg/cmある
請求項1に記載の二次電池。
【請求項19】
前記負極シートの面密度は、9.5mg/cm ~12.0mg/cm である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項20】
装置であって、
請求項1乃至19のいずれか一項に記載の二次電池を含む、
装置。
【請求項21】
人造黒鉛であって、
前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上であり、前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、
前記人造黒鉛が1.55g/cm~1.75g/cmの圧密度の負極シートにある場合、前記人造黒鉛の004結晶面のピーク面積と110結晶面のピーク面積との比は、15以下である、
人造黒鉛。
【請求項22】
人造黒鉛の製造方法であって、
(1)生コークス原料を破砕し、分級処理する工程と、
(2)工程(1)で得られた生成物を整形し、その後、微細粉末を除去する工程と、
(3)工程(2)で得られた生成物を造粒し、ここで、前記造粒過程で添加された接着剤の使用量は、生コークス原料の総重量の5%を超えない工程と、
(4)工程(3)で得られた生成物を2800℃~3200℃の温度で黒鉛化処理を行い、前記人造黒鉛を得る工程と、
を含み、
ここで、前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上であり、前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、
前記人造黒鉛が1.55g/cm~1.75g/cmの圧密度の負極シートにある場合、前記人造黒鉛の004結晶面のピーク面積と110結晶面のピーク面積との比は、15以下である、
人造黒鉛の製造方法。
【請求項23】
前記生コークスは、生石油コークス、生ピッチコークス及び冶金コークスから選択される一種類又は複数種類であ
請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記生コークスは、非針状コークスである、
請求項22又は23に記載の製造方法。
【請求項25】
前記生コークスの揮発分の含有量は、6%~12%であり、及び/又は、
前記生コークスの硫黄の含有量は、2%以下である
請求項22乃至24のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項26】
前記生コークスの揮発分の含有量は、7%~10%であり、及び/又は、
前記生コークスの硫黄の含有量は、0.6%以下である、
請求項22乃至24のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項27】
前記工程(3)では、接着剤を添加しない条件で、工程(2)で得られた生成物を造粒する、
請求項22乃至26のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項28】
工程(3)で得られた生成物を、2900℃~3100℃の温度で黒鉛化処理を行う、
請求項22乃至27のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項29】
二次電池の製造方法であって、
請求項21に記載の人造黒鉛を用いて負極シートを製造する工程を含む、
二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、二次電池の技術分野に属し、具体的には、二次電池、装置、人造黒鉛及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、汚染がなく、耐用年数が長いなどの顕著な特徴を有するため、広く応用されている。
【0003】
しかし、二次電池は、サイクル中に体積膨張を起こし、電池の内部応力を増大させ、電池の耐用年数や安全性能に影響を与える。例えば、新エネルギー自動車の急速な普及に伴い、動力型二次電池の耐用年数や安全性能に対する市場の要求がますます高まっている。新エネルギー自動車の市場競争力を強化するために、二次電池の体積膨張を低減することができる新たな技術を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本出願は、低サイクル膨張を有する二次電池、該二次電池を含む装置、二次電池のサイクル中の体積膨張を低減することができる人造黒鉛、及び製造方法を提供する。
【0005】
上記目的を達成するために、本願の第1の態様は、二次電池を提供し、該二次電池は、負極シートを含み、前記負極シートは、負極活物質を含み、前記負極活物質は、人造黒鉛を含み、ここで、
前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上であり、
前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、
前記負極シートの圧密度は、1.55g/cm~1.75g/cmであり、
前記負極シートのOI値は、15以下であり、ここで、前記負極シートのOI値は、C004/C110であり、C004は、前記負極シートにおける前記人造黒鉛の004結晶面回折ピークのピーク面積であり、C110は、前記負極シートにおける前記人造黒鉛の110結晶面回折ピークのピーク面積である。ここで、前記回折ピークのピーク面積は、X線回折スペクトルによって測定することができる。
【0006】
本願の第2の態様は、装置を提供し、該装置は、本願の第1の態様に記載の二次電池を含む。
【0007】
本願の第3の態様は、人造黒鉛を提供し、前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上であり、前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、前記人造黒鉛が1.55g/cm~1.75g/cmの圧密度の負極シートにある場合、前記人造黒鉛の004結晶面のピーク面積と110結晶面のピーク面積との比は、15以下である。
【0008】
本願の第4の態様は、人造黒鉛の製造方法を提供し、
(1)生コークスを破砕し、分級処理する工程と、
(2)工程(1)で得られた生成物を整形し、その後、微細粉末を除去する工程と、
(3)工程(2)で得られた生成物を造粒し、ここで、前記造粒の過程で添加された接着剤の使用量は、生コークス原料の総重量の5%を超えない工程と、
(4)工程(3)で得られた生成物を2800℃~3200℃の温度で黒鉛化処理を行い、前記人造黒鉛を得る工程と、を含み、
ここで、前記人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上であり、前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、前記人造黒鉛が1.55g/cm~1.75g/cmの圧密度の負極シートにある場合、前記人造黒鉛の004結晶面のピーク面積と110結晶面のピーク面積との比は、15以下である。
【0009】
本願の第5の態様は、二次電池の製造方法を提供し、該製造方法は、本願の第3の態様に記載の人造黒鉛を用いて負極シートを製造する工程を含む。
【0010】
本願で提供される二次電池における負極活物質は、人造黒鉛を含み、前記人造黒鉛は、特定の範囲のD10及び黒鉛化度を有し、負極シートの圧密度が1.55g/cm~1.75g/cmである場合、該人造黒鉛の004結晶面のピーク面積と110結晶面のピーク面積との比が特定の範囲内にある。上記条件の総合的な作用の下で、二次電池は高エネルギー密度と低サイクル膨張を同時に両立させることができるので、二次電池の航続力及び安全性能を効果的に向上させることができる。本願の装置は、本願で提供される二次電池を含むため、少なくとも前記二次電池と同様の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本願の実施例の技術的手段をより明確に説明するために、以下は、本願の実施例において用いられる図面を簡単に説明するが、以下に説明される図面は、本願のいくつかの実施例に過ぎず、当業者であれば、クリエイティブな労力なしで、図面に基づいて他の図面を得ることができることは明らかである。
【0012】
図1】本願の実施例に係る二次電池の概略図である。
図2】本願の実施例に係る電池モジュールの概略図である。
図3】本願の実施例に係る電池パックの概略図である。
図4図3の分解図である。
図5】本願の実施例に係る装置の概略図である。
図6a】本願の実施例に係る人造黒鉛のSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)写真である。
図6b】本願の実施例に係る人造黒鉛のSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)写真である。
図6c】本願の実施例に係る人造黒鉛のSEM(scanning electron microscope、走査型電子顕微鏡)写真である。 符号の説明
【0013】
1 電池パック、
2 上部筐体、
3 下部筐体、
4 電池モジュール、
5 二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願の発明の目的、技術的手段及び有益な技術的効果をより明確にするために、以下に実施例を参照して本願をさらに詳細に説明する。理解すべきことは、本明細書に記載された実施形態は、単に本願を解釈するためのものであり、本願を限定するためのものではない。
【0015】
簡単のために、本明細書にはいくつかの数値範囲のみが明確に開示されている。しかしながら、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、任意の下限は、他の下限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、同様に、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよい。また、明確に記載されていないが、範囲の端点間の各点又は単一の数値はいずれもその範囲内に含まれる。したがって、各点又は単一の数値は、自体の下限又は上限として、任意の他の点又は単一の数値と組み合わせて、或いは他の下限又は上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよい。
【0016】
なお、本明細書の記載において、特に説明しない限り、「以上」及び「以下」は、対象となる数値を含み、「1種類又は複数種類」のうちの「複数種類」は、2種類又は2種類以上を意味することに留意すべきである。
【0017】
本願の上記発明の概要は、本願における各開示の実施形態や各実現形態を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示して説明する。本願の全体における複数の箇所において、様々な組み合わせの形で使用できる一連の実施例によってガイダンスが提供される。各実施例において、列挙は、ただ代表的なグループとして示され、網羅的であると解釈されるべきではない。
【0018】
電気エネルギーは、経済的で、実用的で、クリーンで、かつ制御や変換しやすいエネルギー形式として、ますます多くの装置に応用されている。二次電池は、高エネルギー密度、携帯便利、メモリー効果がなく、環境にやさしいなどのメリットがあるため、装置の電源として優先的に選択される。
[二次電池]
【0019】
したがって、本願の第1の態様では、二次電池を提供する。
【0020】
二次電池は、正極シートと、負極シートと、電解質とを含む。電池の充放電過程において、活性イオンは、正極シートと負極シートとの間で往復して吸蔵及び放出される。電解質は、正極シートと負極シートとの間でイオンを伝送する役割を果たす。
[負極シート]
【0021】
負極シートは、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一方の面に設けられた負極フィルムとを含む。例として、負極集電体は、自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、負極フィルムは、負極集電体の対向する2つの面のいずれか一方又は両方に積層されて設けられている。
【0022】
負極集電体は、良好な導電性及び機械的強度を有する材質を使用することができ、導電及び集電の役割を果たす。いくつかの実施例において、負極集電体は、銅箔を使用することができる。
【0023】
負極フィルムは、負極活物質を含み、負極活物質は、人造黒鉛を含む。
【0024】
本願の発明者は、多くの研究に基づき、高グラムあたりの容量と低膨張性能とを同時に両立させることができる人造黒鉛を提供する。具体的には、前記人造黒鉛の個数粒径分布Dn10は、1μm以上であり、前記人造黒鉛の黒鉛化度は、90%~95%であり、そして、前記人造黒鉛が1.55g/cm~1.75g/cmの圧密度の負極シートにある場合、前記人造黒鉛の004結晶面のピーク面積C004と110結晶面のピーク面積C110との比であるC004/C110は、15以下である。本願の人造黒鉛は、負極シートのサイクル過程での体積膨張を効果的に減少させることができるとともに、高いグラムあたりの容量を有し、二次電池のエネルギー密度を向上させることに有利である。
【0025】
本願の実施例に係る人造黒鉛は、特定の範囲のD10及び黒鉛化度を有し、これにより、高いグラムあたりの容量を有することができる。また、負極シートの圧密度が1.55g/cm~1.75g/cmである場合、該人造黒鉛の配向指数OI値が低い。低い配向度を有する人造黒鉛は、リチウム吸蔵時の膨張を各方向に分散させることができるので、負極シート及び二次電池のサイクル過程での体積膨張を低減させることができる。
【0026】
本願の人造黒鉛を使用すると、上記条件の総合的な作用の下で、二次電池は、高いエネルギー密度と低いサイクル膨張を両立させることができる。
【0027】
二次電池は、サイクル過程での体積増加が小さいため、高い体積エネルギー密度を保持するのに有利である。特に、低サイクル膨張を有する二次電池は、サイクル中に電解液の浸透に適した内部構造を保持することができ、電解液を電池コアに十分に浸透させることで、二次電池のサイクル寿命を向上させる。低サイクル膨張は、さらに該二次電池の電池コアの内部応力を低減し、電池コアの内部応力の作用による変形を減少させ、二次電池の安全性能を効果的に改善することができる。この二次電池を用いた装置の安全性能も向上される。
【0028】
高い黒鉛化度を有することにより、人造黒鉛は、高いグラムあたりの容量を得ることができる。特に、人造黒鉛のD10を特定の範囲内にさせることにより、人造黒鉛のグラムあたりの容量をさらに向上させることができる。したがって、本願の人造黒鉛のグラムあたりの容量は高く、電池のエネルギー密度を向上させることができるので、装置の航続力を向上させるのに有利である。また、本願の人造黒鉛を用いると、負極シートは高い圧密度を得ることができ、二次電池のエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0029】
負極シートの圧密度が1.55g/cm~1.75g/cmである場合、負極シートのOI値は、15以下、13以下、12以下、11.5以下であってもよい。負極シートのOI値が小さいと、その中の人造黒鉛はリチウム吸蔵過程での方向選択性が小さく、リチウム吸蔵膨張を各方向に分散させることができるので、電極シート及び電池のサイクル膨張を低減させることができる。さらに、負極シートの圧密度が1.55g/cm~1.75g/cmである場合、負極シートのOI値は、6以上、7以上、8以上、8.5以上であってもよい。これにより、該負極シートにおける人造黒鉛と負極集電体との間に高い接着力を有することができるので、電極シート及び電池のサイクル膨張をさらに低減させることができる。
【0030】
好ましくは、負極シートの圧密度が1.55g/cm~1.75g/cmである場合、負極シートのOI値は、8~12である。
【0031】
いくつかの実施例において、負極シートの圧密度は、1.6g/cm~1.7g/cmであってもよく、好ましくは、1.62g/cm~1.68g/cmである。これにより、負極シートは高い圧密度を有するとともに、電解液の十分な浸透に適した空隙率を有する。したがって、電池の容量をより効果的に発揮することができ、該電池は優れた動力学的性能を得ることができる。
【0032】
出願人は、適切な黒鉛化度Gを有すると、人造黒鉛は、高いグラムあたりの容量を有するとともに、自体のバルク構造(bulkstructure)の安定性を高くすることができることを見出した。いくつかの実施例において、人造黒鉛の黒鉛化度Gは、90%~95%であり、好ましくは、92%~95%であり、より好ましくは、92%~94%である。
【0033】
人造黒鉛の黒鉛化度が上記範囲内にあると、高い粉体圧密度及びグラムあたりの容量を有することができる。特に、黒鉛化度Gが上記範囲内にある場合、人造黒鉛の電池サイクル中の溶媒共挿入が発生しにくくなり、黒鉛層が剥離しにくく、これにより、電極シート及び電池のサイクル膨張を低減させることができる。同時に、該人造黒鉛の構造安定性が高く、人造黒鉛は負極シートを製造するロールプレスプロセスにおいて解体しにくいので、電極シート内の粒子間の凝集力が高く、電極シート及び電池のサイクル膨張を減少させる。
【0034】
いくつかの実施例において、人造黒鉛の個数粒径分布D10は、1μm以上、1.2μm以上、1.3μm以上、1.5μm以上であってもよい。人造黒鉛のD10が適切であると、人造黒鉛自体は高いグラムあたりの容量を有することができる。また、人造黒鉛のD10はその活性比表面積を小さくするため、人造黒鉛と電解液との副反応が少なく、電池のサイクル膨張もさらに低減させることができる。
【0035】
さらに、人造黒鉛のD10は、4μm以下、3μm以下、2μm以下であってもよい。好ましくは、人造黒鉛のD10は、1.2μm~3μmであり、より好ましくは、1.3μm~2μmである。適量の小さな粒子を含有する人造黒鉛において、小さい粒子は大い粒子の間の隙間に充填され、該人造黒鉛はさらに高いタップ密度及び粉体圧密度を有することができるので、人造黒鉛を使用する負極シートは高い電極シートの圧密度を得ることができ、電池のエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0036】
いくつかの実施例において、人造黒鉛の粒径D50は、15μm~22μmであってもよい。好ましくは、人造黒鉛のD50は、15μm~20μmであってもよく、より好ましくは、15μm~18μmである。
【0037】
人造黒鉛の粒径D50は、人造黒鉛が高い活性イオン及び電子輸送性を有するとともに、電解液の負極における副反応を低減させることができる。適切なD50を有する人造黒鉛は、さらに自体の粉体圧密度を向上させるのに有利である。
【0038】
いくつかの実施例において、人造黒鉛の粒径D10は、6μm以上である。例えば、人造黒鉛のD10は、6μm以上、6.5μm以上、7μm以上、7.5μm以上であってもよい。該人造黒鉛の活性比表面積が小さいので、人造黒鉛を使用する二次電池における副反応をさらに減少させることができる。さらに、人造黒鉛のD10は、11μm以下、10.5μm以下、10μm以下、9.5μm以下、9μm以下であってもよい。これにより、電極シートが高い圧密度を得るのに有利である。好ましくは、6.5μm≦D10≦10.5μmである。
【0039】
人造黒鉛の粒径スパンを、Span=(D90-D10)/D50、と定義する。いくつかの実施例において、人造黒鉛の粒径スパン(Span)は、1.1~1.8であってもよく、好ましくは、1.2~1.5である。
【0040】
人造黒鉛の粒径スパン(Span)が適切であれば、その中に適量の大い粒子と小さい粒子が含まれ、人造黒鉛の間の堆積性能を改善させることができ、それを使用する負極シートは適切な空隙率を有する。同時に、該人造黒鉛はさらに適切な活性比表面積を有し、高い電気化学反応活性と高い表面安定性を両立させることができるので、該人造黒鉛表面の電解液の副反応が少なく、副反応による電解液の消費や材料表面のSEI(solid electrolyte interphase、固体電解質)膜の厚さの増加を大幅に減らすことができる。これにより、電池の低サイクル膨張性能をさらに向上させることができる。
【0041】
また、適切な粒径スパン(Span)は、人造黒鉛に高いタップ密度及び粉体圧密度を持たせることができ、それを使用する負極シートの圧密度も高くなるため、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0042】
いくつかの実施例において、人造黒鉛の比表面積(SSA)は、0.8m/g~2.0m/gであってもよい。例えば、人造黒鉛の比表面積(SSA)は、0.8m/g以上、1m/g以上、1.2m/g以上であってもよく、かつ2.0m/g以下、1.8m/g以下、1.5m/g以下、1.3m/g以下であってもよい。好ましくは、人造黒鉛の比表面積(SSA)は、1.0m/g~1.5m/gである。
【0043】
人造黒鉛が適切な比表面積を有すると、その表面での電解液の副反応を減少させ、ガスの生成量を減らすので、二次電池のサイクル過程での体積膨張を低減させることができる。同時に、該人造黒鉛は高い電気化学反応活性を有するため、二次電池は高い動力学的性能を有し、装置の電力需要を満たすのに有利である。また、適切な比表面積は、さらに人造黒鉛と接着剤との結合力を強くすることができるので、電極シートの凝集力及び接着力を向上させ、二次電池のサイクル膨張をさらに低減させることができる。
【0044】
いくつかの好ましい実施例において、前記人造黒鉛は、さらに、人造黒鉛のD50が15μm~22μmであり、D10が6μm以上であり、(D90-D10)/D50が1.1~1.8であり、及びSSAが0.8m/g~2.0m/gであることを選択的に同時に満たすことができる。該人造黒鉛は、良好な粒子の配合を有するため、高い堆積密度を得るので、人造黒鉛の粉体圧密度を向上させることができ、電池のエネルギー密度を向上させるのに有利である。同時に、該人造黒鉛の比表面積は、その電気化学反応活性の需要を満たすのに有利であり、かつ人造黒鉛の粒子間の配合効果が良く、負極シートは高い液相イオン輸送性能及び固相イオン輸送性能を有し、これにより、電池が良好な動力学的性能を有することを保証することができる。
【0045】
いくつかの実施例において、人造黒鉛は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含む。これにより、人造黒鉛自体の配向性を低くすることができ、電池のサイクル膨張を減少させることができる。
【0046】
いくつかの実施例において、二次粒子の形態は、ブロック状、球状及び略球状のうちの一種類又は複数種類であってもよい。略球状とは、例えば、楕円球状、略楕円球状または球状に近似する形状の構造である。図6a~6cは、例としての人造黒鉛の粒子形態のSEM写真である。
【0047】
いくつかの実施例において、二次粒子の人造黒鉛における個数の割合は、60%以上であり、さらに、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上である。該人造黒鉛を使用する負極シートのOI値が小さいため、負極シート及び電池のサイクル膨張を低減させることができる。さらに、二次粒子の人造黒鉛における個数の割合は、95%以下、90%以下、85%以下である。人造黒鉛に適量の一次粒子が含まれると、そのタップ密度や粉体圧密度を向上させることができる。好ましくは、二次粒子の前記人造黒鉛における個数の割合は、70%~90%である。
【0048】
Dピーク及びGピークは、黒鉛材料のラマン(Raman)特性ピークである。人造黒鉛のDピーク及びGピークは、Advantage 785TM型ラマン分光計のようなレーザーラマンスペクトルを用いて測定することができる。本願の人造黒鉛をラマン分光計で測定したラマンスペクトル図において、Dピークは、1300cm‐~1400cm‐の範囲内にあり、Gピークは、1580cm‐~1620cm‐の範囲内にある。I/Iは、Dピークのピーク強度IとGピークのピーク強度Iとの比を示す。
【0049】
いくつかの実施例において、好ましくは、本願の人造黒鉛のI/Iは、0.25以下である。例えば、人造黒鉛のI/Iは、0.23以下、0.2以下、0.18以下、0.16以下、0.15以下であってもよい。本願の人造黒鉛のI/Iが小さいため、人造黒鉛の表面安定性が高いと考えられ、これにより、二次電池のサイクル過程での体積膨張をさらに低減させることができる。さらに、人造黒鉛のI/Iは、0.05以上、0.08以上、0.1以上、0.12以上であってもよい。これにより、人造黒鉛は高い電気化学反応活性を有し、電池動力学的性能の需要を満たすことができる。好ましくは、0.1≦I/I≦0.2である。
【0050】
いくつかの実施例において、人造黒鉛のタップ密度は、0.85g/cm~1.35g/cmであってもよく、好ましくは、0.95g/cm~1.15g/cmである。
【0051】
いくつかの実施例において、人造黒鉛の2000kg圧力下での粉体圧密度は、1.65g/cm~1.85g/cmであり、好ましくは、1.68g/cm~1.83g/cmである。
【0052】
人造黒鉛は、2000kgの圧力下で高い粉体圧密度を有するため、該人造黒鉛を使用する負極シートは高い圧密度を有することができるので、電池は高いエネルギー密度を有する。
【0053】
いくつかの好ましい実施例において、本願の人造黒鉛のグラムあたりの容量は、350mAh/g~359mAh/gであり、例えば、350mAh/g~357mAh/gであり、また例えば、352mAh/g~355mAh/gである。本願の人造黒鉛は、高いグラムあたりの容量を有するとともに、高い内部構造安定性を有し、人造黒鉛は負極シートを製造するロールプレスプロセスにおいて解体しにくいので、電極シート内の粒子間の凝集力が高く、電極シート及び電池のサイクル膨張を減少させる。
【0054】
いくつかの実施例において、負極フィルムは、選択的に、二次電池の負極に用いられる他の負極活物質をさらに含む。他の負極活物質は、他の黒鉛材料(例えば、他の人造黒鉛、天然黒鉛)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMBと略称する)、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン系材料、スズ系材料のうちの一種類又は複数種類であってもよい。
【0055】
いくつかの実施例において、負極フィルムは、接着剤をさらに含む。例として、接着剤は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、カルボキシメチルキトサン(CMCS)から選択される1種類又は複数種類であってもよい。
【0056】
いくつかの実施例において、負極フィルムは、選択的に、増稠剤をさらに含む。例として、増稠剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)であってもよい。
【0057】
いくつかの実施例において、負極フィルムは、選択的に、導電剤をさらに含む。例として、負極フィルムに用いられる導電剤は、黒鉛、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーから選択される一種類又は複数種類であってもよい。
【0058】
いくつかの実施例において、負極シートの面密度は、7.5mg/cm~14.0mg/cmであてもよく、好ましくは、8.5mg/cm~13.0mg/cmであり、より好ましくは、9.5mg/cm~12.0mg/cmである。負極シートの面密度とは、負極集電体の片面における負極フィルムの面密度である。負極シートの面密度が適切な範囲内にあると、高い容量を有するとともに、さらに高い活性イオン及び電子輸送性能を有する。
【0059】
本願において、前記人造黒鉛のD10、D10、D50、D90は、標準GB/T 19077.1-2016を参照して、レーザ粒度分析計(例えば、Malvern Master Size 3000)を使用して測定することができる。
【0060】
ここで、D10、D10、D50、D90の物理的定義は、以下のとおりである。
10は、前記人造黒鉛の累積個数分布パーセントが10%に達した時に対応する粒径である。
10は、前記人造黒鉛の累積体積分布パーセントが10%に達した時に対応する粒径である。
50は、前記人造黒鉛の累積体積分布パーセントが50%に達した時に対応する粒径である。
90は、前記人造黒鉛の累積体積分布パーセントが90%に達した時に対応する粒径である。
【0061】
前記人造黒鉛の形態は、本分野の既知の方法で測定することができる。例えば、人造黒鉛を導電性接着剤に付着させ、走査型電子顕微鏡・分光器(例えばsigma300型)を使用し、粒子の形態を測定する。測定は、JY/T 010-1996を参照することができる。500倍の拡大倍率で、二次粒子の数及び総粒子の数を統計することができる。二次粒子の割合は、総粒子の数に対する二次粒子の数の比である。
【0062】
前記人造黒鉛の比表面積は、本分野の既知の方法で測定することができる。例えば、GB/T 19587-2017を参照して、窒素ガス吸着による比表面積分析測定方法を使用して測定し、かつBET(Brunauer Emmett Teller)法で計算することができる。ここで、窒素ガス吸着による比表面積分析測定は、米国Micromeritics社のTri-Star 3020型比表面積孔径分析測定機によって行うことができる。
【0063】
負極シートのOI値の測定において、X線回折分析は、標準JISK 0131-1996を参照し、X線回折計(例えば、Bruker D8 Discover型X線回折計)を用いて測定することができる。X線回折分析測定において、銅ターゲットを陽極のターゲットとして使用し、厚さが0.02mmであるNiフィルターを使用してCuKβを濾過し、CuKα線を放射源とし、放射線波長λは、1.5418Å(Kα1及びKα2の加重平均値を取る)であり、走査2θ角範囲は、20°~80°であり、走査速度は、4°/minである。本願において、具体的には、負極シートのOI値の測定方法は、次のとおりである。製造された負極シートをX線回折計に直接配置し、X線回折分析法によって負極シート内の負極活物質の004結晶面回折ピークのピーク面積C004及び110結晶面回折ピークのピーク面積C110を得る。負極シートのOI値は、C004/C110である。
【0064】
人造黒鉛の004結晶面に対応する2θ角は、53.5°~55.5°(例えば、54.5°)であり、人造黒鉛の110結晶面に対応する2θ角は、76.5°~78.5°(例えば、77.4°)である。
【0065】
前記人造黒鉛のタップ密度は、本分野の既知の方法で測定することができる。例えば、標準GB/T 5162-2006を参照して、粉体タップ密度測定機(例えば丹東百特BT-301)を使用して測定することができる。
【0066】
前記人造黒鉛の粉体圧密度は、本分野の既知の方法で測定することができる。例えば、GB/T 24533-2009を参照して、電子圧力測定機(例えば、UTM7305)を使用して測定することができる。一定量の粉末を圧密専用金型に置き、異なる圧力を設定し、異なる圧力での粉末の厚さを読み出し、異なる圧力での圧密度を計算することができる。
【0067】
前記人造黒鉛の黒鉛化度は、本分野の既知の方法で測定することができる。例えば、黒鉛化度は、X線回折計(例えば、Bruker D8 Discover)を用いて測定することができる。測定は、JIS K 0131-1996、JB/T 4220-2011を参照して、d002の大きさを測定することができる。次に、式G=(0.344-d002)/(0.344-0.3354)に基づいて黒鉛化度を計算し、ここで、d002は、ナノ(nm)で表される人造黒鉛結晶構造における層間のピッチである。
[正極シート]
【0068】
正極シートは、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の面に設置され、かつ正極活物質を含む正極フィルムとを含む。例として、正極集電体は、自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、正極フィルムは、正極集電体の対向する2つの面のいずれか一方又は両方に積層されて設けられている。
【0069】
正極集電体は、良好な導電性及び機械的強度を有する材質を使用することができる。いくつかの実施例において、正極集電体は、アルミニウム箔を使用することができる。
【0070】
本願では、正極活物質の具体的な種類は特に限定されず、二次電池の正極に用いることができる本分野の既知の材料を使用してもよく、当業者は、実際の必要に応じて選択することができる。
【0071】
いくつかの実施例において、二次電池は、リチウムイオン二次電池であってもよい。正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物及びその改質材料から選択され、改質材料は、リチウム遷移金属酸化物をドープ改質及び/又は被覆改質することができる。例えば、リチウム遷移金属酸化物は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物及びオリビン構造のリチウム含有リン酸塩から選択される1種類又は複数種類であってもよい。
【0072】
例として、二次電池の正極活物質は、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM333)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)、LiNi0.85Co0.15Al0.05、LiFePO(LFP)及びLiMnPOから選択される一種類又は複数種類であってもよい。
【0073】
いくつかの実施例において、正極フィルムには、選択的に、接着剤がさらに含まれる。接着剤の種類は特に限定されず、当業者は、実際の必要に応じて選択することができる。例として、正極フィルム用の接着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうちの一種類または複数種類を含み得る。
【0074】
いくつかの実施例において、正極フィルムには、選択的に、導電剤がさらに含まれる。導電剤の種類は特に限定されず、当業者は、実際の必要に応じて選択することができる。例として、正極フィルム用の導電剤は、黒鉛、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一種類又は複数種類を含み得る。
[電解質]
【0075】
電解質は、正極シートと負極シートとの間に設けられてイオン伝送の役割を果たす。本願の電解質の種類は特に限定されず、実際の必要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、固体電解質及び液体電解質(即ち電解液)から選択される少なくとも1種類であってもよい。
【0076】
いくつかの実施例において、電解質は、電解液を使用する。電解液は、電解質塩及び溶媒を含む。
【0077】
いくつかの実施例において、電解質塩は、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiClO(過塩素酸リチウム)、LiAsF(ヘキサフルオロヒ酸リチウム)、LiFSI(ジフルオロスルホニルイミドリチウム)、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiBOB(ジシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiPO(ジフルオロリン酸リチウム)、LiDFOP(ジフルオロジシュウ酸リン酸リチウム)及びLiTFOP(テトラフルオロシュウ酸リン酸リチウム)から選択される一種類又は複数種類であってもよい。
【0078】
いくつかの実施例において、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1、4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)から選択される一種又は複数種であってもよい。
【0079】
いくつかの実施例において、電解液には、選択的に、添加剤がさらに含まれる。例えば、添加剤は、負極成膜用添加剤を含んでもよく、正極成膜用添加剤を含んでもよく、さらに電池の特定の性能を改善できる添加剤を含んでもよく、例えば、電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、電池の低温性能を改善する添加剤などを含んでもよい。
[セパレータ]
【0080】
電解液を用いた二次電池、及び固体電解質を用いた二次電池は、セパレータをさらに含む。セパレータは、正極シートと負極シートとの間に設けられて隔離の役割を果たす。本願のセパレータの種類は特に限定されず、任意の公知の良好な化学的安定性及び機械的安定性を有する多孔質構造セパレータを選択することができる。いくつかの実施例において、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリジフッ化ビニリデンから選択される一種類又は複数種類であってもよい。セパレータは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよい。セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同じであってもよく、異なってもよい。
[外装]
【0081】
いくつかの実施例において、二次電池は、正極シート、負極シート及び電解質を封止するために用いられる外装を含んでもよい。一例として、正極シート、負極シート、及びセパレータは、積層又は巻回により積層構造の電池コア又は巻回構造の電池コアを形成し、電池コアは、外装内に封止されている。電解質は、電解液を用いてもよく、電解液は、電池コアに浸透される。二次電池における電池コアの個数は、一つ又は複数であってもよく、必要に応じて調整することができる。
【0082】
いくつかの実施例において、二次電池の外装は、ソフトパックであってもよく、例えば、袋状のソフトパックである。ソフトパックの材質は、プラスチックであってもよく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)などのうちの一種類又は複数種類を含んでもよい。二次電池の外装は、硬質シェルであってもよく、例えば、アルミニウムシェル等であってもよい。
[製造方法]
【0083】
二次電池の製造方法は、負極シート、正極シート、及び電解質を組み立てて二次電池を形成する工程を含んでもよい。いくつかの実施例において、セパレータが正極シートと負極シートとの間に位置して隔離の役割を果たすように、正極シート、セパレータ、負極シートを順次に巻回又は積層することにより、電池コアを得る。電池コアを外装内に配置し、電解液を注入して封止し、二次電池を得る。
【0084】
いくつかの実施例において、二次電池の製造方法は、正極シートを製造する工程をさらに含んでもよい。例として、正極活物質、導電剤、及び接着剤を溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、NMPと略称する)に分散させて、均一な正極スラリーを形成する。次に、正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレス等の工程を経て、正極シートを得る。
【0085】
いくつかの実施例において、二次電池の製造方法は、本願のいずれか一種類又は複数種類の人造黒鉛を用いて負極シートを製造する工程を含む。
【0086】
いくつかの実施例において、本願のいずれか一種類又は複数種類の人造黒鉛を用いて負極シートを製造する工程は、次の工程を含んでもよい。本願のいずれか一種類又は複数種類の人造黒鉛を含む負極活物質、接着剤、及び選択的な増稠剤及び導電剤を溶媒に分散させて、均一な負極スラリーを形成し、ここで、溶媒は、脱イオン水であってもよい。次に、負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレス等の工程を経て、負極シートを得る。
【0087】
次に、本願は、人造黒鉛の製造方法をさらに提供し、該製造方法により、上記のいずれかの人造黒鉛を製造することができる。
【0088】
本願の実施例に係る人造黒鉛の製造方法は、以下の工程を含む。
工程S10では、生コークス原料を破砕し、分級処理する。
工程S20では、工程S10で得られた生成物を整形し、その後、微細粉末を除去する。
工程S30では、工程S20で得られた生成物を造粒し、ここで、前記造粒過程で添加された接着剤の使用量は、生コークス原料の総重量の5%を超えない。
工程S40では、工程S30で得られた生成物を2800℃~3200℃の温度で黒鉛化処理を行い、前記人造黒鉛を得る。
【0089】
上記製造方法では、工程S10において、前記生コークス原料は、生石油コークス、生ピッチコークス、冶金コークスから選択される一種類又は複数種類であってもよく、好ましくは、生石油コークスを含む。
【0090】
好ましくは、前記生コークス原料は、非針状コークスである。前記非針状コークスは、非針状生石油コークス、及び非針状生ピッチコークスから選択される一種類又は複数種類であってもよい。好ましくは、前記非針状コークスは、非針状生石油コークスを含む。
【0091】
いくつかの実施例において、工程S10において、好ましくは、生コークス原料の揮発分の含有量は、6%~12%(重量百分率)である。例えば、生コークス原料の揮発分の含有量は、6%以上、6.5%以上、7%以上、7.5%以上であってもよく、且つ、12%以下、11%以下、10%以下、9%以下であってもよい。好ましくは、生コークス原料の揮発分の含有量は、7%~10%である。
【0092】
生コークス原料の揮発分の含有量が適切であると、工程S20の造粒過程において高い自己接着性を有し、人造黒鉛中の一次粒子間の接着強度を向上させ、人造黒鉛が高い構造強度を有することができる。同時に、該生コークス原料は、人造黒鉛の緻密な内部構造を形成するのに有利であり、人造黒鉛の構造強度をさらに向上させる。
【0093】
生コークス原料の揮発分の含有量は、本分野の既知の方法で測定することができる。例えば、SH/T 0026―1990を参照して測定する。
【0094】
いくつかの実施例において、生コークス原料の硫黄の含有量は、2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。生コークス原料が低い硫黄の含有量を有すると、後続のプロセスで多くの硫黄成分が逸出して黒鉛材料の比表面積が増大するのを防止することができる。これは、人造黒鉛の比表面積が上述の要件を満たすのに有利である。好ましくは、生コークス原料の硫黄の含有量は、0.6%以下である。
【0095】
生コークス原料の硫黄の含有量は、本分野の既知の方法で測定することができ、例えば、GB/T 2286-2008を参照して測定する。
【0096】
いくつかの実施例では、工程S10において、生コークス原料は、例えば、ジェットミル、機械ミル、又はローラミルなどの本分野の既知の装置及び方法を使用して破砕してもよい。破砕工程では、多くの場合、多くの過小粒子が生成され、場合によっては、過大粒子も存在するため、破砕後には必要に応じて分級処理を行い、破砕後の粉体中の過小粒子と過大粒子を除去してもよい。分級処理後に、良好な粒径分布を有する粒子生成物を得るので、後続の整形及び造粒プロセスが容易になる。分級処理は、例えば、分級篩、重力分級機、遠心分級機などの本分野の既知の装置及び方法を用いて行うことができる。
【0097】
工程S10で得られた粒子生成物の粒径分布を調整・制御することにより、D10、D50及び/又はD90が適切な範囲内にあるため、後続の造粒工程における造粒度を改善することができ、人造黒鉛自体が高い等方性を有し、かつ高いグラムあたりの容量を兼ね備える。
【0098】
工程S20において、整形することにより工程S10で得られた粒子生成物のエッジ角を研磨する。これにより、後続の造粒プロセスが容易になり、得られた人造黒鉛における二次粒子は高い構造安定性を有する。
【0099】
いくつかの実施例において、工程S20は、例えば、整形機又は他の整形装置のような本分野の既知の装置及び方法を用いて工程S10で得られた粒子生成物に対して整形処理を行うことができる。
【0100】
本願の発明者は、工程S20での整形後の微細粉末を除去する処理により、整形後の粒子生成物のD10を適切な範囲内に調整・制御すれば、得られた人造黒鉛のD10が所望の範囲になることを見出した。いくつかの実施例では、工程S20において、得られた粒子生成物のD10は、0.5μm以上に制御することができ、例えば、0.5μm~1.5μmに制御することができる。
【0101】
微細粉末の除去は、例えば、分級篩、重力分級機、遠心分級機などの本分野の既知の装置及び方法を用いて行うことができる。
【0102】
工程S30において、工程S20で得られた粒子生成物を造粒することにより、独立して分散された一次粒子を凝集して二次粒子を形成し、これにより、人造黒鉛の等方性を著しく向上させることができ、負極シートのOIを低減させる。造粒工程において、前記接着剤の使用量は、生コークス原料の総重量の5%を超えない(即ち、前記接着剤の使用量は、前記コークス原料の総重量の5%以下である)。好ましくは、接着剤を添加しない条件で、工程S20で得られた生成物を造粒する(即ち、前記接着剤の使用量が生コークス原料の総重量の0%である)。例えば、生コークスの揮発分の含有量が7%以上である場合、前記工程S30は、接着剤を添加しない条件で、工程20で得られた粒子生成物を造粒することができる。
【0103】
接着剤が減少又は存在しない条件で造粒すると、人造黒鉛のグラムあたりの容量をさらに向上させることができる。特に、接着剤が減少又は存在しない条件で、生コークスの自己接着性を利用して造粒すると、人造黒鉛の粒子全体の構造強度を向上させることができるので、電池のサイクル膨張をさらに低減させることができる。ただし、揮発分の含有量は大きすぎないようにする必要がある。大きすぎると、負極活物質のグラムあたりの容量を低減させ、且つ後続の使用過程での加工性に影響を及ぼす。
【0104】
いくつかの実施例において、工程S30は、例えば、造粒機のような本分野の既知の装置を用いて造粒を行うことができる。造粒機は、一般的に、撹拌用反応釜と、反応釜の温度を制御するモジュールとを含む。造粒工程における撹拌速度、加熱速度、造粒温度、冷却速度等を調整することにより、得られた人造黒鉛の構造強度及び等方性を向上させるのに有利であり、人造黒鉛のC004/C110は要求を満たすことができる。
【0105】
さらに、上記プロセス条件を調整することにより、造粒された生成物の体積平均粒径D50を所望の範囲内にさせることができ、特に、造粒された生成物のD10、D50及びD90のすべてを所望の範囲内にさせることができる。
【0106】
工程S10及び/又はS30の粒径分布を調整・制御することにより、最終的に製造された人造黒鉛のD50、D10、D90及び/又は(D90-D10)/D50を所望の範囲内にさせることができる。
【0107】
工程S40において、工程S30で得られた造粒生成物に対して超高温条件下での黒鉛化処理を行うことにより、適切な黒鉛化度を有する人造黒鉛を得る。いくつかの実施例において、工程S40で黒鉛化処理を行う温度は、2800℃~3200℃であってもよく、好ましくは、2900℃~3100℃である。適切な黒鉛化温度で製造された人造黒鉛は適切な黒鉛化度を得ることができるので、人造黒鉛は高い構造安定性及びグラムあたりの容量を得ることができる。
【0108】
工程S30において、本分野の既知の装置を用いて黒鉛化を行うことができ、例えば、黒鉛化炉であり、さらに、例えば、アチソン式黒鉛化炉である。黒鉛化処理が終了した後、篩によって高温黒鉛化中に造粒生成物が凝集して形成された少量の過大粒子を除去することができる。これにより、過大粒子が、スラリーの安定性、塗布性能等の材料の加工性能に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0109】
いくつかの実施例において、工程S40の後に、工程S40で得られた人造黒鉛を有機炭素源と混合し、次いで850℃~1250℃の温度で加熱し、非晶質炭素被覆層を有する人造黒鉛を得る工程S50をさらに含んでもよい。有機炭素源は、フェノール樹脂、ピッチ、フルフラール樹脂、エポキシ樹脂から選択される一種類又は複数種類であってもよく、好ましくは、ピッチである。
【0110】
本願の二次電池の形状は特に限定されず、円筒形、四角形、又は他の任意の形状であってもよい。図1は、一例としての四角形構造の二次電池5である。
【0111】
いくつかの実施例において、二次電池は、組み立てられて、電池モジュールを形成することができ、電池モジュールに含まれる二次電池の個数は複数であってもよく、具体的な個数は、電池モジュールの応用及び容量に応じて調整することができる。
【0112】
図2は、一例としての電池モジュール4である。図2を参照すると、電池モジュール4において、複数の二次電池5は、電池モジュール4の長さ方向に沿って順次に配列されてもよい。もちろん、他の任意の方式で配列することもできる。さらに、この複数の二次電池5を締結具によって固定してもよい。
【0113】
選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するケースをさらに含んでもよく、複数の二次電池5は、該収容空間に収容される。
【0114】
いくつかの実施例において、上記電池モジュールは、組み立てられて、電池パックを形成することができ、電池パックに含まれる電池モジュールの個数は、電池パックの応用及び容量に応じて調整することができる。
【0115】
図3及び図4は、一例としての電池パック1である。図3及び図4を参照すると、電池パック1には、電池ボックスと、電池ボックス内に設けられている複数の電池モジュール4とが含まれてもよい。電池ボックスは、上部筐体2、及び下部筐体3を備え、上部筐体2は、下部筐体3を覆うように設けられ、かつ電池モジュール4を収容する密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、電池ケース内に任意の方式で配置されてもよい。
[装置]
【0116】
本願の第2の態様は、本願の第1の態様の二次電池を含む装置を提供し、前記二次電池は、前記装置へ電源を供給する。前記装置は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコン等)、電気自動車(例えば、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電気トラック等)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システム等を含むが、これらに限定されない。
【0117】
前記装置は、その使用の必要に応じて、二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0118】
図5は、一例としての装置である。該装置は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車等である。二次電池の高電力及び高エネルギー密度に対する該装置の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを使用してもよい。
【0119】
他の例としての装置は、携帯電話、タブレット、ノートパソコン等であってもよい。該装置は、一般的に、軽量化及び薄型化が要求され、二次電池を電源として使用することができる。
実施例
【0120】
以下の実施例は、本願に開示された内容をより具体的に説明し、これらの実施例は、単に説明するために用いられ、本願に開示された内容の範囲内で様々な修正及び変更を行うことは、当業者にとって明らかである。特に説明しない限り、以下の実施例に記載されている全ての部、百分率、及び比率は、重量を基にしたものであり、かつ実施例で使用された全ての試薬は、市販のものであるか、又は常用の方法に従って合成されたものであり、さらに処理することなく直接使用することができる。また、実施例で使用される装置は、市販のものである。
性能測定
【0121】
(1)負極シートのサイクル膨張率の測定
負極シートの冷間プレス後の厚さをHと表記する。冷間プレス後の負極シートと正極シート、セパレータ、電解液を用いて二次電池を製造する。25℃で、二次電池を新威(Neware)充放電機で100%DOD(100%放電深度、即ち、満充電後に完全放電)の1C/1C室温サイクルを行う。1回目のサイクルの放電容量(即ち、初期容量)を100%と表記し、サイクル容量維持率が初期容量の80%になると、サイクルを停止する。次に、二次電池を100%SOC(State of Charge、充電状態)に充電し、二次電池を解体して対応する負極シートの厚さを測定し、Hと表記する。負極シートのサイクル膨張率は、(H/H-1)×100%である。
【0122】
(2)材料のグラムあたりの容量の測定
調製した人造黒鉛と導電剤 Super-Pと結着剤(PVDF)とを、91.6:1.8:6.6の質量比で、溶媒 NMP(N-メチルピロリドン)に均一に混合させて、スラリーを調製する。調製されたスラリーを銅箔集電体に塗布し、オーブンで乾燥してバックアップ用とする。金属リチウムシートを対極とする。ポリエチレン(PE)フィルムをセパレータとする。エチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を、1:1:1の体積比で混合した後、LiPFを上記溶液に均一に溶解させ、電解液を得るが、ここで、LiPFの濃度は、1mol/Lである。アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で上記各部をCR2430型のボタン型電池に組み立てる。
得られたボタン型電池を12時間静置した後、0.05Cの電流で0.005Vまで定電流放電し、10分間静置した後、さらに50μAの電流で0.005Vまで定電流放電し、10分間静置した後、さらに10μAの電流で0.005Vまで定電流放電し、その後、0.1Cの電流で2Vまで定電流充電し、充電容量を記録する。充電容量と人造黒鉛の質量の比は、製造された人造黒鉛のグラムあたりの容量である。
【0123】
(3)二次電池のエネルギー密度の測定
25℃で、各実施例及び比較例で製造された二次電池を1/3C-1/3Cで充放電測定を行い(測定装置は、新威(Neware)測定機を使用することができる)、電圧区間は、2.8V~4.3Vであり、電池の最初回のサイクルで放出されたエネルギーを記録し、電池の重量で割ると、即ち、電池の重量エネルギー密度であり、単位は、Wh/kgである。
【0124】
(4)動力学的性能の測定
25℃で、実施例及び比較例で製造された電池をxCで満充電、1Cで完全放電を10回繰り返した後、さらに電池をxCで満充電し、その後、負極シートを取り出し、負極シートの表面のリチウム析出状況を観察する。負極シートの表面にリチウムが析出していなければ、負極シートの表面にリチウムが析出するまで、充電倍率xCを0.1Cずつ増加させて再び測定を行い、リチウムが析出されると測定を停止し、この時の充電倍率(x-0.1)Cは、即ち、電池の最大充電倍率である。
実施例1
人造黒鉛の製造
【0125】
1)原料の破砕:機械ミル又はロールミルを用いて、原料の非針状生石油コークスを破砕する。該非針状生石油コークスの揮発分の含有量は、12%であり、硫黄の含有量は、0.4%である。破砕した後、分級処理を行い、得られた粒子生成物の粒径分布を調整・制御する。
2)整形及び微細粉末の除去:破砕後に得られた粒子生成物を整形し、微細粉末を除去する。
3)造粒:整形後に得られた粒子生成物を造粒機の反応釜に入れ、接着剤を添加しない条件で、生コークス原料に対して造粒処理を行う。
4)黒鉛化:造粒して得られた生成物を黒鉛化炉に入れ、3000℃まで加熱して超高温黒鉛化を行い、人造黒鉛を得る。
負極シートの製造
【0126】
上記製造された人造黒鉛と導電剤(SuperP)と接着剤(SBR)と増稠剤(CMC-Na)を、96.2:0.8:1.8:1.2の質量比で、適量の脱イオン水の中で十分に撹拌して混合し、均一な負極スラリーを形成する。負極スラリーを負極集電体銅箔の表面に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て、負極シートを得る。前記負極シートの圧密度は、1.65g/cmであり、面密度は、10.7mg/cmである。
正極シートの製造
【0127】
正極活物質LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523)と導電剤(Super P)と接着剤(PVDF)を、96.2:2.7:1.1の重量比で、適量のNMPの中で十分に撹拌して混合し、均一な正極スラリーを形成する。正極スラリーを正極集電体アルミニウム箔の表面に塗布し、乾燥、冷間プレスを経て、正極シートを得る。前記正極シートの圧密度は、3.45g/cmであり、面密度は、18.8mg/cmである。
電解液の調製
【0128】
エチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を、1:1:1の体積比で混合した後、LiPFを上記溶液中に均一に溶解させて電解液を得るが、ここで、LiPFの濃度は、1mol/Lである。
セパレータ
【0129】
ポリエチレン(PE)フィルムを使用する。
二次電池の製造
【0130】
正極シート、セパレータ、負極シートを順序に積層し、巻いて電池コアを得て、電池コアを外装内に入れ、上記電解液を注入し、封止、静置、化成、エージング等の工程を経て、二次電池を得る。前記外装は、長さ*幅*高さ=148mm*28.5mm*97.5mmの硬質シェルケースを選択する。
実施例2~16
【0131】
実施例2~5は、実施例1の製造工程と類似しており、異なる点は、生コークス原料の揮発分及び硫黄の含有量を調整することである。
【0132】
実施例6~11は、実施例1の製造工程と類似しており、異なる点は、整形後の微細粉末の除去の程度を調整することである。
【0133】
実施例12~16は、実施例1の製造工程と類似しており、異なる点は、黒鉛化温度を調整することである。
比較例1~4
【0134】
比較例1~4は、実施例1の製造工程と類似しており、異なる点は、人造黒鉛の製造プロセスのパラメータを調整し、異なる人造黒鉛を取得することである。具体的には、以下を含む。
【0135】
比較例1及び4で使用された原料は、焼成後の針状石油コークス(即ち、針状▲カ▼焼石油コークス)であり、造粒工程3)では、原料の総重量に対する使用量が8%である接着剤のピッチを添加する。
【0136】
比較例2では、造粒後に微細粉末を除去する工程がない。
【0137】
比較例3及び4では、黒鉛化温度を調整する。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
表2及び以下の表において、粒度スパン=(D90-D10)/D50である。
【0141】
表2の人造黒鉛の他のパラメータについて、実施例1~16及び比較例1~4の人造黒鉛のI/Iは、約0.16~0.18である。
【0142】
【表3】
【0143】
実施例1~16と比較例1~4との比較から明らかなように、前記人造黒鉛のD10及び黒鉛化度が適切な範囲内にあり、かつ前記負極シートの圧密度が1.55g/cm~1.75g/cmである場合、人造黒鉛のOI値は適切な範囲にあり、電極シート及び電池のサイクル膨張を効果的に低減させることができ、かつ人造黒鉛は高いグラムあたりの容量を兼ね備える。
【0144】
比較例1において、人造黒鉛の配向指数OI値が高く、負極シートのサイクル中の膨張率が大きくなる。
【0145】
比較例2において、人造黒鉛のD10が低く、電極シートのサイクル膨張はある程度緩和されるが、人造黒鉛自体のグラムあたりの容量は低かった。
【0146】
比較例3において、人造黒鉛の黒鉛化度が低く、電極シートのサイクル膨張が小さいにもかかわらず、人造黒鉛自体は高いグラムあたりの容量を兼ね備えにくい。
【0147】
比較例4において、人造黒鉛の黒鉛化度及び配向指数OI値はいずれも範囲外であり、自体のグラムあたりの容量は高いが、電極シートのサイクル膨張が大きい。
実施例17~21及び比較例5~6
【0148】
実施例17~21及び比較例5~6は、実施例7の製造工程と類似しており、異なる点は、負極シートの圧密度を調整することである。
【0149】
【表4】
【0150】
【表5】
【0151】
実施例17~21から分かるように、負極シートの圧密度が所与の範囲内にある場合、電池は低いサイクル膨張と高いエネルギー密度を同時に両立させることができる。
【0152】
比較例5の負極シートの圧密度が低く、それに対応する電池エネルギー密度が低い。
【0153】
比較例6の負極シートの圧密度が高く、電池のサイクル膨張が大きい。
実施例22~26
【0154】
実施例22~26は、実施例7の製造工程と類似しており、異なる点は、原料の破砕程度及び造粒過程におけるプロセスパラメータ(例えば、装置の回転数、加熱曲線等)を調整することにより人造黒鉛の粒度を調整することである。
【0155】
【表6】
【0156】
人造黒鉛の他のパラメータ:実施例22~26の人造黒鉛の黒鉛化度は、約92%~93%であり、I/Iは、約0.16~0.18である。
【0157】
【表7】
【0158】
実施例22~26と実施例7との比較から分かるように、人造黒鉛の粒度分布が適切な範囲内にある場合、電極シート及び電池のサイクル膨張を改善し、人造黒鉛のグラムあたりの容量を向上させるとともに、電池は良好な動力学的性能を有することができる。
実施例27
【0159】
実施例27は、実施例7の製造工程と類似しており、異なる点は、工程(4)の後に、工程(5)をさらに含むことである。工程(5)では、工程(4)で得られた人造黒鉛をピッチと混合した後、1100℃の温度で加熱処理し、被覆層を有する人造黒鉛を得る。
【0160】
【表8】
【0161】
【表9】
【0162】
実施例27と実施例7との比較から分かるように、本願の人造黒鉛の表面に非晶質炭素被覆層をさらに有する場合、電極シートのサイクル膨張及び材料のグラムあたりの容量に影響を与えることなく、該人造黒鉛の動力学的性能を向上させることができる。
【0163】
以上、本願の具体的な実施形態について説明したが、本願の保護範囲はこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本願に開示された技術的範囲内において、様々な等価な修正又は置換を容易に想到でき、これらの修正又は置換はいずれも本願の保護範囲内に含まれるべきである。したがって、本願の保護範囲は、特許請求の範囲に準ずるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c