(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】環状オレフィン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/207 20060101AFI20231016BHJP
C07C 13/605 20060101ALI20231016BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
C07C1/207
C07C13/605
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022531733
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022062
(87)【国際公開番号】W WO2021261264
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020110761
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】槇尾 晴之
(72)【発明者】
【氏名】矢野 孝明
(72)【発明者】
【氏名】松浦 陽
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239584(JP,A)
【文献】国際公開第2008/062553(WO,A1)
【文献】特開2011-102277(JP,A)
【文献】国際公開第17/106176(WO,A2)
【文献】TROST, B. M. and CHEN, F.,Transition metal mediated eliminations in anhydrides and thioanhydrides,Tetrahedron Letters,1971年,Vol.28,pp.2603-2607
【文献】JOHN, A et al.,Anhydride-Additive-Free Nickel-Catalyzed Deoxygenation of Carboxylic Acids to Olefins,Organometallics,2017年,Vol.36, No.3,pp.506-509
【文献】WENJING, L et al.,Effective deoxygenation of fatty acids over Ni(OAc)2 in the absence of H2 and solvent,Green Chemistry,2015年,Vol.17, No.8,pp.4198-4205
【文献】LIU, M T et al,Carbon chain shape selectivity by the mouse olfactory receptor OR-I7,Organic & Biomolecular Chemistry,2018年,Vol.16, No.14,pp.2541-2548,Supplementary information p.1-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される2価のニッケル錯体を作用させて、脂環式ジカルボン酸無水物を脱カルボニルおよび脱炭酸することにより、環状オレフィン化合物を製造する工程を含み、
前記2価のニッケル錯体が下記一般式(2)~(7)、(X1)および(Y1)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含
み、
前記環状オレフィン化合物を製造する工程では、前記ニッケル錯体に対して配位子となりうる化合物がさらに存在し、
前記配位子となりうる化合物は、下記一般式(14)で表される化合物および下記一般式(15)で表される化合物から選択される少なくとも一種を含む、
環状オレフィン化合物の製造方法。
Ni(Y)
m(L)
n (1)
(ここで、Niは2価のニッケルであり、Yはアニオン性の単座もしくは多座配位子で少なくとも一つのNi-E共有結合を有し、Eはヘテロ原子またはπ-結合性基であり、mは1または2であり、Lは中性配位子であり、nは0~6の実数である。)
【化1】
(R
1は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化2】
(R
2は置換基を有してもよい2価の炭化水素基である。)
【化3】
(R
3、R
4およびR
5は置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
3とR
5またはR
4とR
5は互いに結合して環を形成してもよい。また、R
3、R
4およびR
5は水素原子でもよい。)
【化4】
(R
6は置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、R
7は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基、またはオキソ基である。R
7が炭化水素基である場合は、R
6と結合して環を形成してもよい。)
【化5】
(Z'はハロゲンまたはOHである。)
【化6】
(OxはNO
3-、CO
3
2-およびPO
4
3-から選択されるオキソ酸である。)
【化7】
(R
1'、R
2'、R
3'、R
4'およびR
5'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化8】
(R
6'、R
7'およびR
8'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化9】
(X
1
、X
2
およびX
3
は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化10】
(X
4
、X
5
、X
6
およびX
7
は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基であり、Zは炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、フェロセニレン基またはビナフチレン基である。)
【請求項2】
前記2価のニッケル錯体が、上記一般式(2)、(3)、(4)および(X1)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む、請求項1に記載の環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記2価のニッケル錯体が下記一般式(9)、(11)~(13)、(Z1)、式(8)および(10)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化11】
【化12】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化13】
【化14】
(R
7およびR
8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
7とR
8は互いに結合して環を形成してもよい。)
【化15】
(R
9およびR
10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
9とR
10は互いに結合して環を形成してもよい。)
【化16】
(Z''はClまたはBrである。)
【化17】
【請求項4】
請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記環状オレフィン化合物を製造する工程では、前記ニッケル錯体1モルに対して、前記配位子となりうる化合物が10~500モル存在する環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項
1乃至4のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記配位子となりうる化合物が含リン化合物を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項
1乃至
5のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記配位子となりうる化合物がトリフェニルホスフィンを含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
アルコール化合物を添加する工程を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記アルコール化合物の沸点は、前記脂環式ジカルボン酸無水物の沸点よりも低い、環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物はカルボン酸化合物またはカルボン酸無水物の少なくともいずれか(但し、前記脂環式ジカルボン酸無水物を除く)を不純物として含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
アルコール化合物を添加する工程を含み、
前記アルコール化合物と前記不純物とを液相で接触させ、前記アルコール化合物と、前記不純物中の前記カルボン酸化合物または前記カルボン酸無水物とが反応した後、未反応の前記アルコール化合物を除去する工程を含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項
10に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記アルコール化合物の沸点は、上記脂環式ジカルボン酸無水物の沸点よりも低い、環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至
11のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(16)で表される化合物を含み、
前記環状オレフィン化合物が下記一般式(17)で表される化合物を含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
【化18】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化19】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
【請求項13】
請求項1乃至
12のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(18)で表される5,6-ベンゾ-2,3-ジカルボン酸無水物類を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化20】
(R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16およびR
17は各々独立して水素原子またはヘテロ原子を有してもよい置換基である。)
【請求項14】
請求項
13に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記一般式(18)においてR
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16およびR
17がすべて水素である環状オレフィン化合物の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至
12のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(19)で表されるジカルボン酸無水物を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化21】
(nは0または1であり、X'はOまたはCH
2である。)
【請求項16】
請求項1乃至
15のいずれか一項に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記環状オレフィン化合物を製造する工程では、生成した前記環状オレフィン化合物を反応系外に除去しながら行なう環状オレフィン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン化合物は、エチレン等の低級オレフィンとの共重合や開環メタセシス重合により得られる環状オレフィン(コ)ポリマー(COC、COP)の原料として有用である。環状オレフィン化合物の製造方法に関しては多くの方法が知られているが、その中で(1)脂環式ジカルボン酸無水物の脱カルボニル、脱炭酸反応、あるいは(2)脂環式ジカルボン酸無水物の加水分解によって得られるジカルボン酸誘導体の酸化的脱炭酸反応がある。
【0003】
これらの反応の原料となる脂環式ジカルボン酸無水物は、共役ジエン化合物と無水マレイン酸類とのDiels-Alder反応によって得ることができる。一般にDiels-Alder反応において無水マレイン酸類は高い反応性を示すことから、付加体が良好な収率で得られる場合が多い。したがってこれらの脂環式ジカルボン酸無水物あるいはそれらの加水分解によって得られるジカルボン酸誘導体から効率良く脱カルボニルあるいは脱炭酸を行なうことができれば、種々のジエン化合物と無水マレイン酸類との組み合わせにより多様な構造をもつ環状オレフィン化合物を高収率で合成することが期待できる。
【0004】
このような環状オレフィン化合物の製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1(国際公開第2008/062553号)に記載のものが挙げられる。
【0005】
特許文献1には、特定の化学式で表される脂環式ジカルボン酸無水物を、配位子となりうる化合物の共存下でニッケル錯体を触媒として脱カルボニル、脱炭酸し、特定の化学式で表される環状オレフィン化合物を製造する方法であって、上記反応は、生成した上記環状オレフィン化合物を反応系外に除去しながら行なうことを特徴とする環状オレフィン化合物の製造方法が記載されている。
特許文献1には、上記のような製造方法により、触媒であるニッケル錯体の使用量を大幅に低減することが可能であり、高価な原料を多量に必要とするためコストがかかる、生成物の収率が低い、生成物の分離精製が煩雑である、多量の廃棄物を排出する、などの公知の方法における問題点を解決できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によれば、特許文献1で使用されているニッケル錯体触媒は実質的にゼロ価の化合物であり、高価であるとともに大気中で分解するなど不安定であるため、特許文献1に記載の環状オレフィン化合物の製造方法は環状オレフィン化合物の製造の操作性や安定性の観点から改善の余地があることが明らかになった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、特定の2価のニッケル錯体を用いることにより、ニッケル錯体が大気に曝されても環状オレフィン化合物を安定的に製造できる環状オレフィン化合物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す環状オレフィン化合物の製造方法が提供される。
【0009】
[1]
下記一般式(1)で表される2価のニッケル錯体を作用させて、脂環式ジカルボン酸無水物を脱カルボニルおよび脱炭酸することにより、環状オレフィン化合物を製造する工程を含み、
上記2価のニッケル錯体が下記一般式(2)~(7)、(X1)および(Y1)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む環状オレフィン化合物の製造方法。
Ni(Y)
m(L)
n (1)
(ここで、Niは2価のニッケルであり、Yはアニオン性の単座もしくは多座配位子で少なくとも一つのNi-E共有結合を有し、Eはヘテロ原子またはπ-結合性基であり、mは1または2であり、Lは中性配位子であり、nは0~6の実数である)
【化1】
(R
1は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化2】
(R
2は置換基を有してもよい2価の炭化水素基である。)
【化3】
(R
3、R
4およびR
5は置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
3とR
5またはR
4とR
5は互いに結合して環を形成してもよい。また、R
3、R
4およびR
5は水素原子でもよい。)
【化4】
(R
6は置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、R
7は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基、またはオキソ基である。R
7が炭化水素基である場合は、R
6と結合して環を形成してもよい。)
【化5】
(Z'はハロゲンまたはOHである。)
【化6】
(OxはNO
3-、CO
3
2-およびPO
4
3-から選択されるオキソ酸である。)
【化7】
(R
1'、R
2'、R
3'、R
4'およびR
5'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化8】
(R
6'、R
7'およびR
8'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
[2]
上記[1]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記2価のニッケル錯体が下記一般式(9)、(11)~(13)、(Z1)、式(8)および(10)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化9】
【化10】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化11】
【化12】
(R
7およびR
8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
7とR
8は互いに結合して環を形成してもよい。)
【化13】
(R
9およびR
10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
9とR
10は互いに結合して環を形成してもよい。)
【化14】
(Z''はClまたはBrである。)
【化15】
[3]
上記[1]または[2]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記環状オレフィン化合物を製造する工程では、上記ニッケル錯体に対して配位子となりうる化合物がさらに存在する環状オレフィン化合物の製造方法。
[4]
上記[3]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記環状オレフィン化合物を製造する工程では、上記ニッケル錯体1モルに対して、上記配位子となりうる化合物が10~500モル存在する環状オレフィン化合物の製造方法。
[5]
上記[3]または[4]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記配位子となりうる化合物が含リン化合物を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
[6]
上記[3]乃至[5]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記配位子となりうる化合物は、下記一般式(14)で表される化合物および下記一般式(15)で表される化合物から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化16】
(X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化17】
(X
4、X
5、X
6およびX
7は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基であり、Zは炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、フェロセニレン基、またはビナフチレン基である。)
[7]
上記[3]乃至[6]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記配位子となりうる化合物がトリフェニルホスフィンを含む環状オレフィン化合物の製造方法。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
アルコール化合物を添加する工程を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
[9]
上記[8]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記アルコール化合物の沸点は、上記脂環式ジカルボン酸無水物の沸点よりも低い、環状オレフィン化合物の製造方法。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記脂環式ジカルボン酸無水物はカルボン酸化合物またはカルボン酸無水物の少なくともいずれか(但し、上記脂環式ジカルボン酸無水物を除く)を不純物として含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
[11]
上記[10]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
アルコール化合物を添加する工程を含み、
上記アルコール化合物と上記不純物とを液相で接触させ、上記アルコール化合物と、上記不純物中の上記カルボン酸化合物または上記カルボン酸無水物とが反応した後、未反応の上記アルコール化合物を除去する工程を含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
[12]
上記[11]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記アルコール化合物の沸点は、上記脂環式ジカルボン酸無水物の沸点よりも低い、環状オレフィン化合物の製造方法。
[13]
上記[1]乃至[12]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(16)で表される化合物を含み、
上記環状オレフィン化合物が下記(17)で表される化合物を含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
【化18】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
【化19】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。)
[14]
上記[1]乃至[13]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(18)で表される5,6-ベンゾ-2,3-ジカルボン酸無水物類を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化20】
(R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16およびR
17は各々独立して水素原子またはヘテロ原子を有してもよい置換基である。)
[15]
上記[14]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記一般式(18)においてR
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
16およびR
17がすべて水素である環状オレフィン化合物の製造方法。
[16]
上記[1]乃至[13]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(19)で表されるジカルボン酸無水物を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化21】
(nは0または1であり、X'はOまたはCH
2である。)
[17]
上記[1]乃至[16]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
上記環状オレフィン化合物を製造する工程では、生成した上記環状オレフィン化合物を反応系外に除去しながら行なう環状オレフィン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ニッケル錯体が大気に曝されても環状オレフィン化合物を安定的に製造できる環状オレフィン化合物の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される2価のニッケル錯体を作用させて、脂環式ジカルボン酸無水物を脱カルボニルおよび脱炭酸することにより、環状オレフィン化合物を製造する工程を含み、2価のニッケル錯体が下記一般式(2)~(7)、(X1)および(Y1)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む。
Ni(Y)m(L)n (1)
ここで、Niは2価のニッケルであり、Yはアニオン性の単座もしくは多座配位子で少なくとも一つのNi-E共有結合を有し、Eはヘテロ原子またはπ-結合性基であり、mは1または2であり、Lは中性配位子であり、nは0~6の実数である。
【0013】
上記一般式(1)で表される2価のニッケル錯体は、酸素や水分を含む大気に曝されても安定であるため、本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法によれば、環状オレフィン化合物を安定的に製造することができる。
さらに、上記一般式(1)で表される2価のニッケル錯体はハンドリングが容易で、かつ、合成が容易で安価であるため、本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法は環状オレフィン化合物の大量生産に向いている。
【0014】
上記一般式(1)のEは、好ましくはカルボキシレート基またはシクロペンタジエニル基である。
π-結合性基は、例えば、シクロペンタジエニル基およびその誘導体、π-アリル基およびその誘導体等が挙げられる。Eがπ-結合性基である場合、上記2価のニッケル錯体は、例えば、ニッケロセンおよびその誘導体、ビス(π-アリル)ニッケルおよびその誘導体等が挙げられる。
上記一般式(1)のEは、水や酸素に対する安定性が向上することから、ヘテロ原子であることがより好ましい。
Lは、リン、窒素、硫黄、酸素などを含む中性化合物で、例えば、ホスフィン類、アミン類、エーテル類、チオエーテル類、アルコール、チオール、水、一酸化炭素等であり、好ましくは水、ホスフィン類、一酸化炭素である。
【0015】
【0016】
R1は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~30までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ラウリル基、ステアリル基等の長鎖アルキル基が挙げられる。これらの中でもR1としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0017】
【0018】
R2は置換基を有してもよい2価の炭化水素基である。2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、ビニレン、1,2-フェニレン、2,3-ナフタレン、1,2-シクロへキシレン、1,2-ビシクロ[2,2,1]ヘプタレン、1,4-ジヒドロー1,4-メタノ-2,3-ナフタレン、等が挙げられる。これらの中でも、R2は1,4-ジヒドロー1,4-メタノ-2,3-ナフタレンが好ましい。
【0019】
【0020】
R3、R4およびR5は置換基を有してもよい炭化水素基であり、R3とR5またはR4とR5は互いに結合して環を形成してもよい。また、R3、R4およびR5は水素原子でもよい。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~8までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの中でもR3、R4およびR5としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0021】
【0022】
R6は置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、R7は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基、またはオキソ基である。R7が炭化水素基である場合は、R6と結合して環を形成してもよい。
R6の2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン基が挙げられる。また、R7-C-R6を合わせて、ビニレン、1,2-フェニレン、2,3-ナフタレン、1,2-シクロへキシレン、1,2-ビシクロ[2,2,1]ヘプタレン、1,4-ジヒドロー1,4-メタノ-2,3-ナフタレン等の2重結合あるいは環状構造を形成してもよい。これらの中でも、エチレン、1,2-ビシクロ[2,2,1]ヘプタレン、1,4-ジヒドロー1,4-メタノ-2,3-ナフタレンが好ましい。
R7の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~8までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの中でもR7としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0023】
【0024】
Z'はハロゲンまたはOHであり、好ましくはClまたはBrである。
【0025】
【0026】
OxはNO3-、CO3
2-およびPO4
3-から選択されるオキソ酸であり、好ましくはCO3
2-である。
【0027】
【0028】
R1'、R2'、R3'、R4'およびR5'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、好ましくは水素原子である。
【0029】
【0030】
R6'、R7'およびR8'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、好ましくは水素原子である。
【0031】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、2価のニッケル錯体は、下記一般式(9)、(11)~(13)、(Z1)、式(8)および(10)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種を含むことが好ましく、カルボキシレート基を含むことがより好ましい。
【0032】
【0033】
【0034】
Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~8までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの中でもRおよびR'としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
また、Xは一般式(3)におけるR2の一部をなす環を構成するのに必要な非金属原子群である。
置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0035】
【0036】
【0037】
R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R7とR8は互いに結合して環を形成してもよい。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~8までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの中でもR7およびR8としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。またR7とR8は互いに結合して形成する環状構造としては、例えば、1,2-フェニレン、2,3-ナフタレン、1,2-シクロへキシレン、1,2-ビシクロ[2,2,1]ヘプタレン、1,4-ジヒドロー1,4-メタノ-2,3-ナフタレン、等が挙げられる。これらの中でも、1,2-ビシクロ[2,2,1]ヘプタレン、1,4-ジヒドロー1,4-メタノ-2,3-ナフタレンが好ましい。
置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0038】
【0039】
R9およびR10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R9とR10は互いに結合して環を形成してもよい。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~8までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの中でもR9およびR10としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0040】
【0041】
Z''はClまたはBrである。
【0042】
【0043】
本実施形態において、原料として使用する脂環式ジカルボン酸無水物としては、例えば、下記一般式(16)で表される化合物等が挙げられ、得られる環状オレフィン化合物としては、下記一般式(17)で表される化合物等が挙げられる。
【0044】
【0045】
Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。
【0046】
【0047】
Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である。
【0048】
Xは、環を形成するのに必要な非金属原子群を示し、これらから構成される環は飽和環でも不飽和環でもよく、例えば、シクロヘキサン、ノルボルナン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]ドデカン等の飽和環;ノルボルネン、テトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]-8-ドデセン、ベンゾノルボルネン等の不飽和環;7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、7-チアビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の非プロトン性ヘテロ環が挙げられる。
【0049】
RおよびR'は、それぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基を表す。炭化水素基としては、炭素数1~8までの基を挙げることができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0050】
RおよびR'としては、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
【0051】
RおよびR'はお互いと、あるいはXで構成される環と架橋して、炭素原子2~8個のアルキレン基を形成してもよい。また、Xで構成される環、RおよびR'は反応に不活性な置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アルキルチオ基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。また、これらの置換基のうち、隣接する置換基が架橋されて、その結合炭素原子を含む環を形成してもよい。
【0052】
一般式(16)で表される脂環式ジカルボン酸無水物としては、具体的に一般式(18)で表される5,6-ベンゾ-2,3-ジカルボン酸無水物類、一般式(19)で表されるジカルボン酸無水物などを用いることができる。
【0053】
【0054】
R11、R12、R13、R14、R15、R16およびR17は各々独立して水素原子またはヘテロ原子を有してもよい置換基である。
【0055】
一般式(18)において、R11、R12、R13、R14、R15、R16およびR17は、各々独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい置換基を表し、R11、R12、R13、R14、R15、R16およびR17はすべて水素であることが好ましい。置換基としては、上記の置換基を用いることができる。本実施形態においては、R11~R17のいずれの置換基も水素原子である化合物が好ましい。
【0056】
【0057】
nは0または1であり、X'はOまたはCH2である。
【0058】
2価のニッケル錯体は、市販されているものをそのまま使用できるが、例えば公知の方法で合成し、使用してもよい。
2価のニッケル錯体の使用量は、一般的には原料である脂環式ジカルボン酸無水物1モルあたり0.0001~0.2モルであり、好ましくは0.001~0.05モルである。
【0059】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、上記環状オレフィン化合物を製造する工程では、ニッケル錯体を活性化するため、および生成する触媒種の安定性を向上させるため、ニッケル錯体に対して配位子となりうる化合物(以下、単に化合物ともいう)がさらに存在してもよい。
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、上記環状オレフィン化合物を製造する工程では、ニッケル錯体を活性化するため、および生成する触媒種の安定性を向上させるため、ニッケル錯体に対して配位子となりうる化合物(以下、単に化合物ともいう)が環状オレフィン化合物の製造における反応系内にさらに存在してもよい。
本実施形態において使用される配位子となりうる化合物は、配位原子として周期律表第V族元素、すなわち、窒素、リン、ヒ素、アンチモンを有する単座または多座の電子供与性化合物である。なお、本実施形態において用いられる配位子となりうる化合物は、ニッケル錯体における配位子と同一であってもよく異なっていてもよい。
【0060】
配位子となりうる化合物としては、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,2-フェニレンジアミンなどの第三級アミン類、2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリンなどの含窒素芳香族類、N,N'-ジフェニル-1,4-ジアザブタジエン、1,6-ジフェニル-2,5-ジアザ-1,5-ヘキサジエンなどのイミン類に代表される含窒素化合物;トリブチルヒ素、トリフェニルヒ素などの含ヒ素化合物;トリブチルアンチモン、トリフェニルアンチモンなどの含アンチモン化合物;下記一般式(14)で表されるまたは下記一般式(15)で表される含リン化合物が挙げられる。
これらの中でも、本実施形態に係る配位子となりうる化合物は、下記一般式(14)で表される化合物および下記一般式(15)で表される化合物から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0061】
【0062】
式中、X1、X2およびX3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。
【0063】
【0064】
式中、X4、X5、X6およびX7は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。また、Zは炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、フェロセニレン基またはビナフチレン基を表す。
【0065】
X1~X7における炭化水素基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、芳香族基、炭素環および/またはヘテロ環が縮合してなる縮合環等を挙げることができる。また、その置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
【0066】
上記一般式(14)で表される配位子となりうる化合物としては、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリベンジルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン類や、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン(オルト、メタ、およびパラの各種置換異性体を含む)、トリス(メトキシフェニル)ホスフィン(オルト、メタ、およびパラの各種置換異性体を含む)、トリス(フルオロフェニル)ホスフィン(オルト、メタ、およびパラの各種置換異性体を含む)、トリ(α-ナフチル)ホスフィンなどのトリアリールホスフィン類、ジフェニルシクロヘキシルホスフィンなどのジアリールアルキルホスフィン類、ジシクロヘキシルフェニルホスフィンなどのジアルキルアリールホスフィン類などが挙げられるが、好ましくはトリアリールホスフィン類であり、さらに好ましくはトリフェニルホスフィンである。また、X1、X2およびX3は二つの基の間で架橋されてリン原子を含む環を構成してもよく、そのようなホスフィンとしては、フェニルビフェニレンホスフィンなどが挙げられる。
【0067】
上記一般式(15)で表される配位子となりうる化合物としては、例えば、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンなどが挙げられる。
【0068】
本実施形態においては、高い選択率で、高純度の目的物質を得る観点から、一般式(14)または(15)で表される配位子となりうる化合物を用いることが好ましい。
【0069】
本実施形態においては、ニッケル錯体の安定性を向上させるため、配位子となりうる化合物を過剰に共存させることが好ましい。配位子となりうる化合物の量が少なすぎると触媒の安定性が低下する場合がある。一方、配位子の量が多い場合には、触媒の安定性が使用量に比例して向上するわけではなく不経済であったり、反応速度が低下したりする場合がある。
【0070】
したがって、本実施形態に係る環状オレフィン化合物を製造する工程では、配位子となりうる化合物の使用量はその種類によって必ずしも一定ではないが、例えば、ニッケル錯体1モルあたり10~500モルであり、好ましくは20~200モルである。
【0071】
配位子となりうる化合物を上記の量で用いることにより、高い選択率で、高純度の環状オレフィンを製造することができる。さらに、この範囲内であれば、この化合物自身を溶媒として用いてもよい。その場合使用される化合物は、目的化合物に対して安定であり、かつ、比較的安価なものが好ましい。中でもトリフェニルホスフィンは有用な化合物の一つである。
【0072】
これらの配位子となりうる化合物は単独で用いてもよいが、いずれか二種以上の混合物として用いてもよい。これらの配位子となりうる化合物の混合物を用いる場合、それらを任意の割合で混合してもよいが、これらの化合物の総使用量がニッケル錯体1モルに対して上記の範囲内になることが好ましい。
【0073】
反応温度は高いほうが反応速度の点では有利であるが、高すぎると触媒の分解や生成物である環状オレフィンの転位、重合などの好ましくない副反応を引き起こして選択率の低下を招く恐れがある。したがって通常100~300℃、特に150~250℃で反応を行なうのが好ましい。
【0074】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、環状オレフィン化合物を製造する工程では、ニッケル錯体の活性低下を抑制するため、さらには生成する環状オレフィン化合物の熱履歴を少なくすることによって選択率を高めるため、生成した環状オレフィン化合物を反応系外に除去しながら行なうことが好ましい。したがって反応蒸留方式を採用することが望ましい。
【0075】
反応圧力は生成するオレフィンの沸点に大きく依存するが、生成物の反応系外からの速やかな除去が達成される限りにおいては特に制限はない。生成物の沸点が低い場合は、常圧で反応させることができる。一方、生成物の沸点が高い場合は、減圧下で反応を行なうことが好ましい。
【0076】
一般式(16)の脂環式ジカルボン酸無水物から得られる一般式(17)で表される環状オレフィン化合物は、気体の形で取り出された後、凝縮によりCOとCO2を含むガスから分離される。このようにして得られる粗製の環状オレフィン化合物は、必要に応じて蒸留などによりさらに精製してもよい。
【0077】
反応に際しては、配位子となりうる化合物自身が溶媒の役割を担うことができる場合、それ以外の溶媒を用いることなく反応を行ってもよいが、必要に応じて新たに溶媒を用いても差し支えない。
【0078】
溶媒としては、原料、触媒、および配位子となりうる化合物に対して不活性な溶媒であれば、任意のものを使用することができる。例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、ベラトロール等のエーテル類、テトラリン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
【0079】
溶媒(または配位子となりうる化合物)は、生成物である環状オレフィンと容易に分離できるものが好ましく、一般には生成する環状オレフィンよりも高沸点のものが使用される。上記のような溶媒を使用すれば、反応混合物から目的物である環状オレフィンを含む生成物を反応蒸留によって分離する際、触媒と配位子となりうる化合物を溶解している反応液中からの溶媒(または配位子となりうる化合物)の留出を抑制することができるため、これらの溶媒(または配位子となりうる化合物)を新たに供給する必要がなく、また、生成物の煩雑な分離精製を回避できるという点からも有利である。
【0080】
反応は酸素や水分を除いた状態で行なうことが好ましく、通常、窒素あるいはアルゴンのような不活性雰囲気下で行なわれる。
【0081】
反応はバッチ方式、あるいは、ニッケル錯体、配位子となりうる化合物、原料であるジカルボン酸無水物、および溶媒を反応器に連続的に供給する連続式の何れの方式においても実施することができる。
また、反応はバッチ方式、あるいは、ニッケル錯体、配位子となりうる化合物、原料であるジカルボン酸無水物、および溶媒を反応器に連続的に供給する連続式、あるいはこれらを組み合わせたセミバッチ方式の何れの方式においても実施することができるが、セミバッチ方式にて実施することが好ましい。これにより、反応開始までに要する時間(反応誘導期)を短縮することができ、また、原料及び生成物の滞留時間を短くできるため、熱履歴の短縮により副生成物の発生を抑制することができる。
さらに、後述するように、環状オレフィン化合物を製造する工程で、ニッケル錯体に対して配位子となりうる化合物が存在する場合、配位子となりうる化合物を予め反応系内に一定量仕込み、原料とニッケル錯体を連続的に供給するセミバッチ方式にて反応を実施することにより、配位子となりうる化合物当たりの環状オレフィン化合物の収率を向上できる。
【0082】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、アルコール化合物を添加する工程を含むことができる。これにより、脂環式ジカルボン酸無水物製造時に生成する不純物を無害化することが可能である。脂環式ジカルボン酸無水物に含まれる不純物が存在すると、2価のニッケル錯体の活性化を阻害し、反応開始までに要する時間(反応誘導期)が長くなってしまう。そのため、アルコール化合物を添加し、脂環式ジカルボン酸無水物に含まれる不純物を無害化することにより、反応誘導期を短縮することができ、環状オレフィン化合物の生産速度を向上させることができる。
ここで、アルコール化合物を添加する工程は、環状オレフィン化合物を製造する工程とは別におこなってもよいし、環状オレフィン化合物を製造する工程と同時におこなってもよい。すなわち、不純物を含む脂環式ジカルボン酸無水物をアルコール化合物で処理してから、脂環式ジカルボン酸無水物に2価のニッケル錯体や配位子となりうる化合物を混合し、次いで、環状オレフィン化合物を製造する工程をおこなってもよい。あるいは、不純物を含む脂環式ジカルボン酸無水物、2価のニッケル錯体、配位子となりうる化合物を混合する際に、さらにアルコール化合物を添加してもよい。この場合、不純物を含む脂環式ジカルボン酸無水物、2価のニッケル錯体、配位子となりうる化合物、アルコール化合物を添加する順番は特に限定されない。しかし、脂環式ジカルボン酸無水物の脱カルボニルおよび脱炭酸反応が始まる前にアルコール化合物を添加し、脂環式ジカルボン酸無水物の脱カルボニルおよび脱炭酸反応が始まる前にアルコール化合物を除去することが好ましい。
【0083】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、上記アルコール化合物の沸点は、脂環式ジカルボン酸無水物の沸点よりも低いことが好ましい。これにより、不純物の無害化が完了した後、環状オレフィン化合物の合成の前に系内からアルコール化合物を選択的に除去することが可能となる。
アルコール化合物としては、製造する環状オレフィン化合物がベンゾノルボルナジエンの場合、例えば、1-ブタノール、3-ペンタノール、2-メトキシエタノール、イソアミルアルコール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノールから選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0084】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、脂環式ジカルボン酸無水物は、例えば、カルボン酸化合物またはカルボン酸無水物の少なくともいずれか(但し、前記脂環式ジカルボン酸無水物を除く)を不純物として含む場合がある。
これらの不純物が2価のニッケル錯体の種類によっては、その活性化を阻害することがある。本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、アルコール化合物を添加する工程をさらに含む場合、不純物中のカルボン酸化合物または酸無水物は、アルコール化合物と反応し、無害化される。
【0085】
本実施形態に係る環状オレフィン化合物の製造方法において、上記アルコール化合物を添加する工程では、アルコール化合物と上記不純物とを液相で接触させ、上記アルコール化合物と、上記不純物中の上記カルボン酸化合物または上記カルボン酸無水物とが反応した後、未反応の上記アルコール化合物を除去する工程を含むことが好ましい。
これにより、アルコールによる環状オレフィン化合物の合成反応の阻害が抑制されるため、環状オレフィン化合物の生産速度を向上させることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明の有用性を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるのもではない。なお、分析はガスクロマトグラフィーで行い、転化率及び選択率は内部標準法(mol%)により、純度は面積百分率(%)により求めた。また、発生する一酸化炭素および二酸化炭素の濃度は島津製作所の赤外線式ガス濃度測定装置CGT-7000を使用して行った。
【0087】
[合成例1]
ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)の合成
SUS316製1.5Lオートクレーブに、インデン(JFEケミカル製、純度96%)380.1g(3.14mol)、無水マレイン酸282.9g(2.88mol)、フェノチアジン5.69g(28.6mmol)、メチルイソブチルケトン501.5gを仕込み、220℃で4時間攪拌を行った。反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を吸引ろ過により分別し、メチルイソブチルケトンで洗浄した後、乾燥した(424.0g)。この固形物のマススペクトルおよびNMRによる分析を行った結果、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物であった(EI m/z 214(M+))。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99%以上であった(無水マレイン酸基準での単離収率69%)。
なお、得られた化合物を以下の合成例4で用いた。
【0088】
[合成例2]
[(tmeda)Ni(C2H4COO)](N,N'-Tetramethylethylenediamine Nickelacyclopropionate)の合成
(参考文献:Z.anorg.allg.Chem.,1989,577,111-114)
細かく砕いた無水コハク酸(0.207g)を乾燥した50mLのフラスコに秤取した。ここに窒素雰囲気下のグローブボックス内でビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0.854g)を加え、さらに乾燥させたテトラメチルエチレンジアミン(tmeda、2.077g)を加え生成した黄色スラリーを、室温下、終夜で撹拌したところライムグリーンのスラリーが得られた。このスラリーを窒素下でろ過し、残った固体を乾燥したメタノールに溶解した。さらに窒素下でこの溶液をろ過し、乾燥メタノールで洗浄した。得られたろ液を濃縮し析出した固体を回収した(0.4g、収率78%)。1H NMR(CD3OD,25℃):δ0.46(br,2H,Ni-CH2),1.83(br,2H,CH2COO),2.26-2.52(m,4H+6H+6H,NCH2CH2N+N(CH3)2+N(CH3)2)ppm.
なお、(tmeda)Ni(C2H4COO)は、以下の式(A)で表される。
【0089】
【0090】
[合成例3]
[(dppe)Ni(C2H4COO)]の合成(dppe:Ph2P(CH2)2PPh2)(Phはフェニル基)
合成例2と同様にして合成した[(tmeda)Ni(C2H4COO)]の粗生成物(0.835g)にdppe(1.03g)を加え、さらに乾燥THF30mLを加え、濃緑色のスラリーを得た。さらに室温で4時間撹拌して得られた黄色スラリーを窒素下でろ過、乾燥して黄色の固体を得た(1.23g、収率69%)。1H NMR(CD2Cl2,25℃):δ0.82(m,2H,Ni-CH2),2.03-2.36(m,2H+2H+4H,P-CH2+P-CH2+CH2COO),7.47-7.87(m,20H,4Ph)ppm.
なお、(dppe)Ni(C2H4COO)は、以下の式(B)で表される。
【0091】
【0092】
[合成例4]
ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸ニッケル(BNDCA-Ni)の合成
200ml三口フラスコに、水酸化ナトリウム3.20g(80mmol)、水80mlを装入し溶解させた。ここにベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)8.57g(40mmol)を一括装入し、80℃で攪拌を行った。BNDCAの溶解を確認後、水20mlに溶解させた塩化ニッケル6水和物9.51g(40mmol)を滴下漏斗を用いて装入し、80℃で1時間半攪拌を行った。反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を吸引ろ過により分別し、水およびアセトンで洗浄した後、乾燥し緑色の固体を得た(9.91g、収率86%)。なお、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸ニッケル(BNDCA-Ni)は、以下の式(C)で表される。
【化45】
【0093】
[実施例1]
蒸留装置を備えた50mLガラス製フラスコに、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)9.97g、トリフェニルホスフィン5.10g、酢酸ニッケル・4水和物(Ni(OAc)2・4H2O)0.097gを仕込み、各成分を混合し、次いで、30torrの減圧下で223℃に加熱した。
223℃に達した時間を反応スタートとした時、反応開始の50分後に液体の留出が始まり、5.5時間後に液体の留出はほぼおさまった。留出した液体は1H NMRにより分析した結果、ベンゾノルボルナジエンであった。ベンゾノルボルナジエンの収率は85.1%、選択率は99.7%、純度は99.3%であった。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は1.94であった。
なお、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比とは、仕込んだトリフェニルホスフィン1モルに対して、得られたベンゾノルボルナジエンのモル量を示す。この値が大きいほど、トリフェニルホスフィン当たりのベンゾノルボルナジエンの収量が大きいことを表す。
【0094】
[実施例2]
実施例1と同様の装置を用い、BNDCA10.20g、トリフェニルホスフィン5.20g、BNDCA-Ni(ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸ニッケル)0.114gを仕込み、反応温度を228℃に変更して、実施例1と同様の操作を行った。ベンゾノルボルナジエンの収率は67.6%、選択率は99.4%、純度は98.4%であった。なお、上記BNDCA-Ni(ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸ニッケル)は、以下の式(C)で表される合成例4で得られたものを用いた。
【0095】
【0096】
[実施例3]
実施例1と同様の装置を用い、BNDCA10.28g、トリフェニルホスフィン5.33g、合成例2で得られたニッケル錯体0.0984gを仕込み、実施例1と同様に操作した。ベンゾノルボルナジエンの収率は21.5%であった。
【0097】
[実施例4]
実施例1と同様の装置を用い、BNDCA10.15g、トリフェニルホスフィン5.18g、合成例3で得られたニッケル錯体0.2103gを仕込み、反応温度を218℃に変更して、実施例1と同様に操作した。ベンゾノルボルナジエンの収率は49.3%、選択率は99.7%、純度は98.1%であった。
【0098】
[実施例5]
実施例4において、反応温度を228℃に変更する以外は、実施例4と同様に操作した。ベンゾノルボルナジエンの収率は59.6%、選択率は99.6%、純度は98.0%であった。
【0099】
[実施例6]
実施例1と同様の装置を用い、BNDCA10.36g、トリフェニルホスフィン5.28g、ニッケル(II)アセチルアセトナート(Ni(acac)2)0.106gを仕込み、かつ反応温度を228℃に変更して、実施例1と同様に操作した。ベンゾノルボルナジエンの収率は79.0%、選択率は99.6%、純度は99.3%であった。
【0100】
[実施例7]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gを塩化ニッケル・6水和物(NiCl2・6H2O)0.0956gに、反応温度を220℃に変更する以外は、実施例1と同様に操作した。
ベンゾノルボルナジエンの収率は40.3%、選択率は96.4%、純度は95.1%であった。
[実施例8]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gを臭化ニッケル(NiBr2)0.088gに変更し、各成分を実施例1と同様に混合した。30torrの減圧下で220℃まで昇温した後、段階的に235℃まで昇温しながら、150分間反応させた。ベンゾノルボルナジエンの収率は28.2%、選択率は98.3%、純度は96.5%であった。
【0101】
[実施例9]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gの代わりにニッケロセン(Cp2Ni)0.0628gに変更し、反応温度を220℃に変更する以外は、実施例1と同様に操作した。ベンゾノルボルナジエンの収率は74.9%,選択率は99.5%、純度は98.4%であった。
【0102】
[実施例10]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gの代わりに炭酸ニッケル(NiCO3)0.0819gに変更し、各成分を実施例1と同様に混合した。30torrの減圧下で220℃で160分反応させた後、段階的に温度を235℃まで上げて8時間反応させた。ベンゾノルボルナジエンの収率は26.5%、選択率は99.8%、純度は96.1%であった。
【0103】
[実施例11]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gをギ酸ニッケル・2水和物(Ni(OCOH)2・2H2O)0.074gに変更し、かつ反応温度を228℃に変更する以外は、実施例1と同様に操作した。
228℃で70分反応させた後、温度を237℃まで上げてさらに100分反応させた。ベンゾノルボルナジエンの収率は62.8%、選択率は99.8%、純度は98.5%であった。
【0104】
[実施例12]
実施例1において、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、トリフェニルホスフィン、酢酸ニッケル・4水和物に加えて、1-ヘキサノール0.142gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様に操作した。反応温度が220℃に達する直前からCOおよびCO2ガスが発生し、また220℃に達した直後からは液体の留出が始まり、280分後、液体の留出はほぼおさまった。ベンゾノルボルナジエンの収率は68.4%、選択率は99.5%、純度は99.2%であった。1-ヘキサノール添加の有無および反応温度(220℃)に達してからCOおよびCO2ガスが発生するまでの時間(誘導期(分))を表2に示す。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は1.64であった。
【0105】
[実施例13]
蒸留装置を備えた50mLガラス製フラスコに、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物9.97g、トリフェニルホスフィン5.06g、1-ヘキサノール0.135gを仕込み、30torrの減圧下で220℃で5分間加熱した。60℃程度まで冷ました後に窒素で常圧に戻し、酢酸ニッケル・4水和物0.096gを加えた。ついで、再度30torrの減圧下で220℃に加熱したところ、220℃に達する直前からCOおよびCO2ガスが発生し、その10分後には液体の留出が始まり、3.5時間後、液体の留出はほぼおさまった。ベンゾノルボルナジエンの収率は87.9%、選択率は99.7%、純度は98.3%であった。1-ヘキサノール添加の有無および反応温度(220℃)に達してからCOおよびCO2ガスが発生するまでの時間(誘導期(分))を表2に示す。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は2.12であった。
【0106】
[実施例14]
蒸留装置および滴下漏斗を備えた50mLガラス製フラスコに、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物10.01g、トリフェニルホスフィン5.13g、1-ヘキサノール0.072gを仕込んだ。別のフラスコに酢酸ニッケル・4水和物0.157gを加え、テトラエチレングリコールジメチルエーテル2.27gでスラリー化し、撹拌しながら空気に曝した。反応器を30torrの減圧下で220℃に加熱し、滴下漏斗から空気に曝したニッケルスラリーを少量ずつ280分に渡って添加した。最初のスラリー添加の20分後から液体の留出が始まり、280分後に留出はほぼ収まった。留出物のうちベンゾノルボルナジエンが5.84g、テトラエチレングリコールジメチルエーテルは1.09gであった。この反応のベンゾノルボルナジエンの収率は96.9%、選択率は99.8%、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを除いた純度は94.0%であった。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は2.32であった。
【0107】
[実施例15]
蒸留装置を備えた50mLガラス製フラスコに、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)18.33g、トリフェニルホスフィン3.97g、酢酸ニッケル・4水和物(Ni(OAc)2・4H2O)0.353gを仕込み、各成分を混合し、次いで、30torrの減圧下で220℃に加熱した。
220℃に達した時間を反応スタートとした時、反応開始の90分後に液体の留出が始まり、3時間後に液体の留出はほぼおさまった。留出した液体は1H NMRにより分析した結果、ベンゾノルボルナジエンであった。ベンゾノルボルナジエンの収率は77.0%、選択率は99.9%、純度は92.2%であった。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は4.3であった。結果を表3に示す。
【0108】
[実施例16]
蒸留装置およびバルブで開閉可能な均圧管付き滴下漏斗を備えた50mLガラス製フラスコ(1)に、トリフェニルホスフィン4.34gを仕込んだ。別の2口フラスコ(2)に、窒素下でベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)22.24g、酢酸ニッケル・4水和物(Ni(OAc)2・4H2O)0.323g、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを29.43g仕込みスラリー化した。フラスコ(1)を、30torrの減圧下でオイルバスにより220℃に加熱した。
その後、(あ)フラスコ(2)のスラリーを撹拌下、一定量(約2g)シリンジで抜き取り、滴下漏斗に装入し、その重量を装入前後のシリンジの重さから精秤し、次いで、(い)滴下漏斗の均圧管バルブをゆっくり開け、反応器と同じ圧力にした後にスラリーを反応器に装入した(反応開始)。(あ)(い)の操作を20分おきに22回繰り返した。反応開始直後から、ガスの発生と液体の留出が観察された。
460分後、41mLの液体が留出した。この液体はベンゾノルボルナジエンのテトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液であり、ベンゾノルボルナジエンの収率は97.9%、選択率は99.9%、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを除いた純度は96.4%であった。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は5.9であった。結果を表3に示す。
【0109】
[実施例17]
実施例16において、トリフェニルホスフィン4.33g、ベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)21.57g、酢酸ニッケル・4水和物(Ni(OAc)2・4H2O)0.209g、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを27.24gに変更した以外は、実施例16と同様に操作した。
480分後、40mLの液体が留出した。この液体はベンゾノルボルナジエンのテトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液であり、ベンゾノルボルナジエンの収率は96.0%、選択率は99.8%、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを除いた純度は96.7%であった。また、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は5.6であった。結果を表3に示す。
【0110】
[実施例18]
蒸留装置およびバルブで開閉可能な均圧管付き滴下漏斗2本を備えた50mLガラス製フラスコ(1)に、トリフェニルホスフィン3.54gを仕込み、滴下漏斗の1本をラバーヒータで覆い180℃に保温した。別の2口フラスコ(2)に、窒素下でベンゾノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(BNDCA)27.00gおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテルを44.07g仕込みスラリー化した。さらに別のシュレンク管に酢酸ニッケル・4水和物(Ni(OAc)2・4H2O)0.424g、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを10.20g仕込みスラリー化した。フラスコ(1)を、30torrの減圧下でオイルバスにより220℃に加熱した。
(あ)フラスコ(2)のスラリーを撹拌下、一定量(約2.5g)シリンジで抜き取り、180℃に保温した滴下漏斗に装入し、その重量を装入前後のシリンジの重さから精秤した。
(い)シュレンク管のスラリーを撹拌下、一定量(約2.5g)シリンジで抜き取り、もう一方の滴下漏斗に装入し、その重量を装入前後のシリンジの重さから精秤した。
(う)(あ)の溶液、(い)のスラリーを、実施例16と同様の操作で20分おきに500分かけて反応器に装入した。
その結果、反応開始直後から、ガスの発生と液体の留出が観察され、最終的に54mLの液体が留出した。この液体はベンゾノルボルナジエンのテトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液であり、ベンゾノルボルナジエンの収率は86.8%、選択率は99.9%、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを除いた純度は95.2%で、ベンゾノルボルナジエンとトリフェニルホスフィンのモル比は7.3であった。結果を表3に示す。
【0111】
実施例16~18においては、誘導期が無く、高い収率を保ったまま、トリフェニルホスフィン当たりのベンゾノルボルナジエン収量を向上させることができた。
【0112】
[比較例1]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gを硫酸ニッケル・6水和物(NiSO4・6H2O)0.100gに変更し、かつ反応温度を228℃に変更する以外は、実施例1と同様に操作した。段階的に温度を240℃まで上げたが、液体の留出物は全く得られなかった。
[比較例2]
実施例1において、酢酸ニッケル・4水和物0.097gを酸化ニッケル(NiO)0.03gに変更し、かつ反応温度を222℃に変更する以外は、実施例1と同様に操作した。段階的に温度を237℃まで上げたが、液体の留出物は全く得られなかった。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
以下、参考形態の例を付記する。
[1]
下記一般式(1)で表される2価のニッケル錯体を作用させて、脂環式ジカルボン酸無水物を脱カルボニルおよび脱炭酸することにより、環状オレフィン化合物を製造する工程を含み、
前記2価のニッケル錯体が下記一般式(2)~(7)、(X)および(Y)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む環状オレフィン化合物の製造方法。
Ni(Y)m(L)n (1)
(ここで、Niは2価のニッケルであり、Yはアニオン性の単座もしくは多座配位子で少なくとも一つのNi-E共有結合を有し、Eはヘテロ原子またはπ-結合性基であり、mは1または2であり、Lは中性配位子であり、nは0~6の実数である)
【化47】
(R
1は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
【化48】
(R
2は置換基を有してもよい2価の炭化水素基である)
【化49】
(R
3、R
4およびR
5は置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
3とR
5またはR
4とR
5は互いに結合して環を形成してもよい)
【化50】
(R
6は置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、R
7は水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基、またはオキソ基である。R
7が炭化水素基である場合は、R
6と結合して環を形成してもよい)
【化51】
(Z'はハロゲンまたはOHである)
【化52】
(OxはNO
3-、CO
3
2-およびPO
4
3-から選択されるオキソ酸である)
【化53】
(R
1'、R
2'、R
3'、R
4'およびR
5'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
【化54】
(R
6'、R
7'およびR
8'はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
[2]
[1]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記2価のニッケル錯体が下記一般式(8)~(13)および(Z)のいずれかで表されるアニオン性配位子Yを少なくとも一種含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化55】
【化56】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
【化57】
【化58】
(R
7およびR
8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
7とR
8は互いに結合して環を形成してもよい)
【化59】
(R
9およびR
10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基であり、R
9とR
10は互いに結合して環を形成してもよい)
【化60】
(Z''はClまたはBrである)
【化61】
[3]
[1]または[2]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記環状オレフィン化合物を製造する工程では、前記ニッケル錯体に対して配位子となりうる化合物がさらに存在する環状オレフィン化合物の製造方法。
[4]
[3]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記環状オレフィン化合物を製造する工程では、前記ニッケル錯体1モルに対して、前記配位子となりうる化合物が10~500モル存在する環状オレフィン化合物の製造方法。
[5]
[3]または[4]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記配位子となりうる化合物が含リン化合物を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
[6]
[3]乃至[5]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記配位子となりうる化合物は、下記一般式(14)で表される化合物および下記一般式(15)で表される化合物から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化62】
(X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である)
【化63】
(X
4、X
5、X
6およびX
7は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基であり、Zは炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、フェロセニレン基またはビナフチレン基である)
[7]
[3]乃至[6]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記配位子となりうる化合物がトリフェニルホスフィンを含む環状オレフィン化合物の製造方法。
[8]
[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
アルコール化合物を添加する工程を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
[9]
[8]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記アルコール化合物の沸点は、前記脂環式ジカルボン酸無水物の沸点よりも低い、環状オレフィン化合物の製造方法。
[10]
[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物はカルボン酸化合物またはカルボン酸無水物の少なくともいずれか(但し、前記脂環式ジカルボン酸無水物を除く)を不純物として含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
[11]
[10]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記アルコール化合物と前記不純物とを液相で接触させ、前記アルコール化合物と、前記不純物中の前記カルボン酸化合物または前記カルボン酸無水物とが反応した後、未反応の前記アルコール化合物を除去する工程を含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
[12]
[1]乃至[11]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(16)で表される化合物を含み、
前記環状オレフィン化合物が下記一般式(17)で表される化合物を含む、環状オレフィン化合物の製造方法。
【化64】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
【化65】
(Xは環を形成するのに必要な非金属原子群であり、RおよびR'は各々独立して水素原子または置換基を有してもよい炭化水素基である)
[13]
[1]乃至[12]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(18)で表される5,6-ベンゾ-2,3-ジカルボン酸無水物類を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化66】
(R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は各々独立して水素原子またはヘテロ原子を有してもよい置換基である)
[14]
[13]に記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記一般式(18)においてR
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7がすべて水素である環状オレフィン化合物の製造方法。
[15]
[1]乃至[14]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記脂環式ジカルボン酸無水物が下記一般式(19)で表されるジカルボン酸無水物を含む環状オレフィン化合物の製造方法。
【化67】
(nは0または1であり、X'はOまたはCH
2である)
[16]
[1]乃至[15]のいずれか一つに記載の環状オレフィン化合物の製造方法において、
前記環状オレフィン化合物を製造する工程では、生成した前記環状オレフィン化合物を反応系外に除去しながら行なう環状オレフィン化合物の製造方法。
【0117】
この出願は、2020年6月26日に出願された日本出願特願2020-110761号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。