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特許7367221グラファイトシートの製造方法及びグラファイトシート用のポリイミドフィルム
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  • 特許-グラファイトシートの製造方法及びグラファイトシート用のポリイミドフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】グラファイトシートの製造方法及びグラファイトシート用のポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20231016BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231016BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20231016BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20231016BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20231016BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C01B32/205
C08G73/10
C08L79/08 B
C08K3/32
C08K5/49
C08J5/18
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022535399
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2021025896
(87)【国際公開番号】W WO2022009972
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020118401
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小林 幹明
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 啓介
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 雅司
(72)【発明者】
【氏名】松谷 晃男
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187621(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187620(WO,A1)
【文献】特開2016-017169(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0103638(KR,A)
【文献】特開2014-136721(JP,A)
【文献】特開2020-164611(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105368048(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/205
C08G 73/10
C08L 79/08
C08K 3/32
C08K 5/49
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、
前記無機粒子の含有量が0.05重量%以上、0.30重量%以下であり、前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下であるポリイミドフィルムを2400℃以上に熱処理する工程を含む、熱拡散率が8.0cm/s以上であり、層間強度が100gf/inch以上であるグラファイトシートの製造方法。
【請求項2】
前記無機粒子が、リン酸水素カルシウムまたはリン酸カルシウムである、請求項1に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項3】
前記リンを含む非金属添加剤が、有機リン化合物である、請求項1または2に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項4】
前記有機リン化合物のリンの価数が5価である、請求項3に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項5】
前記リンを含む非金属添加剤が、TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が200℃以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項6】
前記グラファイトシートが、ロール状で黒鉛化されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムの厚みは、37μm~160μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項8】
前記ポリイミドフィルムは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項9】
前記グラファイトシートの厚みが、16μm~85μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項10】
前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.061重量%以上0.091重量%以下である請求項1~9のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項11】
無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、
前記無機粒子の含有量が0.05重量%以上、0.30重量%以下であり、
前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下である、グラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項12】
前記無機粒子が、リン酸水素カルシウムまたはリン酸カルシウムである、請求項11に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項13】
前記リンを含む非金属添加剤が、有機リン化合物である、請求項11または12に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項14】
前記有機リン化合物のリンの価数が5価である、請求項13に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項15】
前記リンを含む非金属添加剤が、TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が200℃以上である、請求項11~14のいずれか一項に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項16】
厚みが37μm~160μmである、請求項11~15のいずれか一項に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項17】
4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む、請求項11~16のいずれか一項に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【請求項18】
前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.061重量%以上0.091重量%以下である請求項11~17のいずれか一項に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシートの製造方法及びグラファイトシート用のポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトシートは、優れた放熱特性を有していることから、コンピュータなどの各種電子機器又は電気機器に搭載されている半導体素子、他の発熱部品などに放熱部品として用いられる。
【0003】
このようなグラファイトシートは、ポリイミドフィルムを焼成して得ることができる。例えば、特許文献1には、無機粒子を含有したポリイミドフィルムを焼成してグラファイトシートを製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2014-136721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラファイトシートは、ハンドリング中に端部から裂けやすいため、特にロール状のグラファイトシートは、その加工性向上のために、微粘着フィルムをグラファイトシートの片面に貼り、使用されることがある。しかしながら、従来のグラファイトシートでは、微粘着フィルムを剥がす際に、グラファイトの層間から剥離が起こるなど、微粘着フィルムからの引き剥がし性に課題があった。
【0006】
本発明の一態様は、微粘着フィルムからの引き剥がし性が良好なグラファイトシートを製造するための、グラファイトシートの製造方法及びグラファイトシート用のポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、無機粒子及びリンを含む非金属添加剤を含有し、無機粒子および合計リン含有量が所定の範囲内であるポリイミドフィルムを原料とすることにより、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下を包含する。
【0008】
無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、前記無機粒子の含有量が0.05重量%以上、0.30重量%以下であり、前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下であるポリイミドフィルムを200℃以上に熱処理する工程を含む、熱拡散率が8.0cm/s以上であり、層間強度が100gf/inch以上であるグラファイトシートの製造方法。
【0009】
無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、
前記無機粒子の含有量が0.05重量%以上、0.30重量%以下であり、
前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下である、グラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、微粘着フィルムからの引き剥がし性が良好なグラファイトシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】グラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性評価Cの一例
図2】本発明の連続炭化工程及び連続炭化装置の模式図。
図3】黒鉛化工程でのフィルムセット方法の一例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0013】
<1.本発明の技術的思想>
特許文献1に記載のような、従来のグラファイトシート製造方法により得られるグラファイトシートは、微粘着フィルムを剥がす際に、グラファイトの層間から剥離が起こる(すなわち、一部の炭素が剥がれ落ちる)など、微粘着フィルムからの引き剥がし性に課題があった。
【0014】
そこで、本発明者らは、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートの製造方法を提供するべく鋭意検討を行った結果、従来知られていた無機粒子に加え、(i)リンを含む非金属添加剤を含み、かつ、(ii)上記無機粒子と、上記リンを含む非金属添加剤の含むリンの含有量(合計量)が一定の範囲内であるポリイミドフィルムを熱処理することにより、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートを提供できることを初めて見出した。また、本発明者らは、上記方法により得られるグラファイトシートが、熱拡散率及び層間強度に優れ、かつ、黒鉛化工程における炭素質フィルムの融着を防ぐことができ、グラファイトシートを高い生産性で提供できることも初めて見出した。
【0015】
従来、無機粒子を含むポリイミドフィルムからなるグラファイトシートは、熱拡散率には優れるものの、微粘着フィルムからの引き剥がし性には大きく劣るものであった。このような状況下、本発明者らは「リンを含む非金属添加剤」を添加し、さらに、「無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量」を一定の範囲内とすることで、優れた熱拡散率を維持しつつ、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートの製造方法を提供できることを見出した。さらに、当該グラファイトシートの製造方法によれば、層間強度に優れるグラファイトシートを提供でき、かつ、製造過程におけるフィルムの融着を防ぐことができることも見出した。
【0016】
本発明者らは、上記のグラファイトシートの製造方法によって、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートを提供できる理由について以下のように推察している。
【0017】
グラファイトシートの製造方法において、ポリイミドフィルムを炭素化してなる炭素質フィルムを黒鉛化する際に、前記ポリイミドフィルムに由来する無機粒子が加熱によって昇華する。この際に、従来使用される無機粒子(例えば、カルシウム)は、炭素と親和性が高いため、グラファイトシートを形成する炭素(グラファイト)と反応しつつ(すなわち、炭素と化合物を形成しつつ)昇華する。これにより、グラファイトシートから、一部の炭素が失われ、また、無機粒子の昇華に伴い、グラファイト層に空隙が生じることで、グラファイトの配向(炭素の配向)が乱される。これにより、特に配向が乱れた部位のグラファイトが剥がれやすくなり、微粘着フィルムを引きはがす際に、グラファイトの剥離(層間剥離)が起こりやすくなる。すなわち、グラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性が悪化する。
【0018】
一方、リン含有の非金属添加剤は、昇華する際に、炭素(グラファイト)と反応しないため、グラファイトの配向を乱しにくい。そのため、製造されたグラファイトシートにおけるグラファイトの配向が維持され、グラファイトの層間剥離が起こりにくくなる。すなわち、グラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性が良好となると考えられる。
【0019】
<2.グラファイトシートの製造方法>
本発明の一態様のグラファイトシートの製造方法は、無機粒子の含有量が0.05重量%以上0.30重量%以下、かつ合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下であるポリイミドフィルムを2400℃以上に熱処理する工程を含むものであればよい。本明細書において、「本発明の一態様のグラファイトシートの製造方法」を、「本製造方法」と称する場合がある。
【0020】
本製造方法は、ポリイミドフィルムを不活性ガス雰囲気下や減圧下で熱処理する、いわゆる高分子熱分解法である。具体的には、ポリイミドフィルムを1000℃程度の温度まで予備加熱し、炭素化されたポリイミドフィルムを得る炭化工程と、炭化工程で作製された炭素化されたポリイミドフィルムを2400℃以上の温度まで熱処理(加熱)し、グラファイト化する黒鉛化工程と、任意で、これを圧縮する圧縮工程とを経て、グラファイトシートが得られる。なお、炭化工程と黒鉛化工程とは連続して行っても、炭化工程を終了させて、その後黒鉛化工程のみを単独で行っても構わない。
【0021】
(炭化工程)
炭化工程は、ポリイミドフィルムを1000℃程度の温度まで熱処理し、ポリイミドフィルムを炭素化(炭化)する工程である。炭化工程におけるポリイミドフィルムの炭化方法は特に限定されず、例えば、では、長方形状のポリイミドフィルムを積層した状態で炭化してもよく、ロール状のポリイミドフィルムをロール状のまま炭化してもよく、ロール状ポリイミドフィルムからフィルムを繰り出して連続的に炭化してもよい。中でも、ロール状ポリイミドフィルムからフィルムを繰り出して連続的に炭化する、連続炭化方式は、生産性に優れるため、好ましい。なお、炭化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしては窒素が好適に用いられる。なお、本明細書において、炭化工程により得られる炭素化したポリイミドフィルムを、炭素質フィルムと称する場合がある。
【0022】
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭化工程で得た炭素質フィルムを2400℃以上の温度まで熱処理し、炭素質フィルムを黒鉛化する工程である。黒鉛化工程は、炭素質フィルムを熱処理し、グラファイトシートを得る工程であるとも言える。黒鉛化工程において、炭化工程で得た炭素質フィルムを熱処理する際の温度(最高温度)としては、例えば、2400℃以上、2600℃以上、2800℃以上、2900℃以上、又は3000℃以上を好ましく例示できる。上限は特に限定されないが、3300℃以下であることが好ましく、3200℃以下であることがより好ましい。黒鉛化工程において、炭化工程で得た炭素質フィルムを熱処理する際の温度(最高温度)が2400℃以上であれば、得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好となるという利点があり、3300℃以下であれば、黒鉛化炉中の黒鉛部材の昇華を抑制できるという利点がある。なお、黒鉛化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、又はヘリウムが適当である。
【0023】
黒鉛化工程では、長方形状の炭素質フィルムを積層した状態で黒鉛化してもよく、ロール状の炭素質フィルムをロール状のまま黒鉛化してもよく、ロール状炭素質フィルムからフィルムを繰り出して連続的に黒鉛化してもよい。長尺のフィルムが得られるため、ロール状のまま黒鉛化又はロール状炭素質フィルムを繰り出して連続的に黒鉛化する方法が好ましい。
【0024】
(圧縮工程)
黒鉛化後の発泡したグラファイトシートに圧縮工程を施してもよい。圧縮工程を施すことによって、グラファイトシートに柔軟性を付与することができる。圧縮工程は、面状に圧縮する方法や、金属ロールなどを用いて圧延する方法などを用いることができる。圧縮工程は室温でおこなっても、黒鉛化工程中におこなってもかまわない。圧縮工程は、柔軟化工程とも言える。
【0025】
<3.グラファイトシート>
本製造方法で得られるグラファイトシートの熱拡散率は、8.0cm/s以上であることが好ましく、8.4cm/s以上であることがより好ましく、8.7cm/s以上であることがさらに好ましい。熱拡散率が8.0cm/s以上であるグラファイトシートは、放熱性に優れるものであり、電子機器の等の優れた放熱性を要求される分野において、放熱部品として好適に利用できる。換言すると、熱拡散率が8.0cm/s未満であるグラファイトシートは、放熱性が十分でなく、放熱部品としての使用には適さない。それゆえ、本発明の一実施形態に係るグラファイトシートとはみなさない。
【0026】
また、本発明の一実施形態に係るグラファイトシートの層間強度は、100gf/inch以上であることが好ましく、110gf/inch以上であることがより好ましく、120gf/inch以上であることがさらに好ましい。かかる範囲内であれば、当該グラファイトシートは、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れると言える。すなわち、グラファイトシートに貼り合わせた微粘着フィルム(微粘着工程紙)を剥がす際に、グラファイトシートの熱拡散率低下の原因となる、層間剥離を起こさないため、好ましい。
【0027】
また、本発明の一実施形態に係るグラファイトシートの厚みは、16~85μmであることが好ましく、16μm~80μmであることがより好ましく、23μm~60μmであることがさらに好ましく、30μm~50μmであることがよりさらに好ましい。グラファイトシートの厚みが上記範囲内であれば、例えば、薄型の電子機器内(例えば、高機能スマートフォン等)に使用した際に優れた放熱効果を発揮するという利点を有する。
【0028】
本発明の一実施形態に係るグラファイトシートの厚みの下限は、16μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、23μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることがよりさらに好ましい。また、グラファイトシートの厚みの上限としては、85μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることよりさらに好ましい。グラファイトシートの厚みが16μm以上であれば、電子機器の放熱に十分な放熱効果を有し、85μm以下であれば、空間に余裕の少ない薄型電子機器内等にも搭載可能であるという利点を有する。
【0029】
本発明の一実施形態に係るグラファイトシートの密度は、1.60g/cm以上が好ましく、1.80g/cm以上であることがより好ましく、1.90g/cm以上であることがさらに好ましく、2.00g/cm以上であることがさらに好ましい。密度の上限は特に決められていないが、通常、グラファイトシートは2.26g/cm以下である。グラファイトシートの密度が1.60g/cm以上であれば、当該グラファイトシートは、優れた放熱効果を発揮するという利点を有する。
【0030】
<4.グラファイトシート用のポリイミドフィルム>
以下、本発明の一実施形態に使用し得るポリイミドフィルムについて詳説する。本製造方法に用いられるグラファイトシート用のポリイミドフィルムは、酸二無水物成分と、ジアミン成分とを原料とするポリイミドフィルムであり、所定量の無機粒子とリンを含有するものである。
【0031】
(無機粒子)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの、無機粒子の含有量の下限は、0.05重量%であることが好ましく、0.08重量%であることがより好ましく、0.12重量%であることがさらに好ましい。無機粒子含有量の上限は、0.30重量%であることが好ましく、0.20重量%であることがより好ましく、0.18重量%であることがさらに好ましい。かかる範囲内であれば、最終的に得られるグラファイトシートの層間強度と熱拡散率の両方の物性が優れる。また、ポリイミドフィルムにおける無機粒子の含有量が、0.05重量%以上であれば、当該ポリイミドフィルムは搬送性に優れる。それゆえ、製造過程(例えば、炭化工程)において、当該ポリイミドフィルムに破断が生じる虞がなく、得られるグラファイトシートの収率が向上し、生産性に優れるグラファイトシートとなる。また、ポリイミドフィルムにおける無機粒子の含有量が0.30重量%未満であれば、最終的に得られるグラファイトシートの熱拡散率が優れる。
【0032】
本発明の一実施形態において使用可能な無機粒子としては、炭酸カルシウム(CaCO)、シリカ、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸カルシウム(Ca)などを挙げることができる。これら無機粒子のなかでも、リンを含むリン酸水素カルシウム及びリン酸カルシウムを等のリンを含む無機粒子が、後述のリンを含む非金属添加剤の量を減らすことができるため、好ましく使用し得る。
【0033】
(リンを含む非金属添加剤)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムは、後述する無機粒子とリンを含む非金属添加剤との合計リン含有量が好ましい範囲になるように、リンを含む非金属添加剤を含むことが好ましい。本発明の一実施形態において使用可能なリンを含む非金属添加剤としては、リン酸エステル類、ホスフィンオキシド類、亜リン酸エステル類、ホスフィン類、ホスホン酸エステル類、ホスフィン酸エステル類、ピロリン酸、メタリン酸、赤リン、などを挙げることができる。なかでも、リン酸エステル類、ホスフィンオキシド類、亜リン酸エステル類、ホスフィン類、ホスホン酸エステル類、ホスフィン酸エステル類、などの有機リン化合物は、ポリアミド酸やポリイミドに対して安定であるため、好ましく使用し得る。また、安定性の観点から、有機リン化合物は5価のリンを主成分とすることが好ましい。本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムがリンを含む非金属添加剤を含む場合、当該ポリイミドフィルムは、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートを提供できすることができ、さらに、熱拡散率に優れ、かつ、黒鉛化工程における炭素質フィルムの融着を防ぐことができるため、グラファイトシートを高い生産性で提供できる。
【0034】
また、リンを含む非金属添加剤は、TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましい。リンを含む非金属添加剤の重量減少率が5%となる温度が、200℃以上であれば、ポリイミドフィルムを炭化する炉の汚れを軽減することができる。
リンを含む非金属添加剤は、ポリイミド樹脂に対する相溶性に優れるものが、好適に用いられる。かかる添加剤であれば、ポリイミドフィルム中に良好に分散し、面内の発泡度のばらつきの少ないグラファイトシートを得ることができる。
【0035】
また、リンを含む非金属添加剤は、常温常圧で液体のものが、好適に用いられる。かかる添加剤であれば、ポリイミドフィルム中で析出することが無く、黒鉛化中に異常な発泡を起こすことが少ないグラファイトシートを得ることができる。
【0036】
(無機粒子とリンを含む非金属添加剤との合計リン含有量)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムにおける、無機粒子とリンを含む非金属添加剤との合計リン含有量の下限は、0.055重量%であることが好ましく、0.061重量%であることがより好ましく、0.068重量%であることがさらに好ましい。無機粒子とリンを含む非金属添加剤との合計リン含有量の上限は、0.097重量%であることが好ましく、0.091重量%であることがより好ましく、0.085重量%であることがさらに好ましい。ポリイミドフィルムにおける、無機粒子とリンを含む非金属添加剤との合計リン含有量が、0.055重量%~0.097重量%であれば、最終的に得られるグラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性が優れ、さらに、熱拡散率と層間強度にも優れる。また、特に、ポリイミドフィルムにおける、無機粒子とリンを含む非金属添加剤との合計リン含有量が、0.061重量%~0.091重量%であれば、熱拡散率と層間強度の両方の物性がより優れるという利点を有する。
【0037】
(酸二無水物成分)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの原料として使用し得る酸二無水物成分としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7,-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、1,1-(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を挙げることができる。これらを任意の割合で混合することができる。酸二無水物成分としては、これら酸二無水物を単独で使用してもよく、これら酸二無水物の複数種類を任意の割合で混合することもできる。これら酸二無水物のなかでも、ピロメリット酸二無水物、または、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。かかる酸二無水物成分を使用することにより、最終的に得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好なものとなる。
【0038】
(ジアミン成分)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの原料として使用し得るジアミン成分としては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン及びそれらの類似物を挙げることができる。これらを任意の割合で混合することができる。なかでも、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルやp-フェニレンジアミンを使用することが好ましい。かかるジアミン成分を使用することにより、最終的に得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好なものとなる。
【0039】
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの原料としては、ピロメリット酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび/またはp-フェニレンジアミンとを組み合わせて使用することが好ましい。当該構成によれば、ポリイミドフィルムの製膜性に優れるという利点を有する。
【0040】
(ポリイミドフィルムの厚み)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの厚みは、37μm~160μmであることが好ましく、37μm~150μmであることがより好ましく、50μm~125μmであることがさらに好ましく、62μm~100μmであることがよりさらに好ましい。ポリイミドフィルムの厚みが前記範囲内であれば、熱拡散率と層間強度の両立したグラファイトシートが得られる。
【0041】
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムの厚みの下限は、37μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、62μm以上であることがさらに好まし。また、ポリイミドフィルムの厚みの上限としては、160μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、125μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることよりさらに好ましい。ポリイミドフィルムの厚みが37μm以上であれば、層間強度に優れるという利点を有し、160μm以下であれば、熱拡散率に優れるという利点を有する。
【0042】
(ポリイミドフィルムの作製方法)
本発明の一実施形態に係るポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミド酸をイミド化(イミド転化)することにより作製することができる。ポリイミドフィルムの作製方法において、前駆体であるポリアミド酸をイミド化方法する方法としては、例えば、前駆体であるポリアミド酸を加熱してイミド転化する熱キュア法、または、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤や、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類に代表されるイミド化促進剤を用いて前駆体であるポリアミド酸をイミド転化するケミカルキュア法、のいずれを用いてもよい。ケミカルキュア法を用いる場合のイミド化促進剤としては、上で挙げた第3級アミン類が好ましい。
【0043】
特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトシートを得ることができるという観点から、ケミカルキュア法の方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤とを併用することで、得られるフィルムの線膨張係数がより小さく、弾性率がより大きく、複屈折がより大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので、加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0044】
(ポリアミド酸の作製方法)
ポリアミド酸の製造方法としては特に制限されないが、例えば、芳香族酸二無水物とジアミンとを実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解し、この有機溶液を酸二無水物とジアミンとの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌することによってポリアミド酸が製造され得る。重合方法としては特に制限されないが、例えば次のような重合方法(1)-(5)のいずれかが好ましい。なお、本明細書において、実質的に等モル量とは、それぞれ異なる2種類以上の物質のモル量の比率が、100:98~100:102の範囲内であることを意図する。
【0045】
(1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、芳香族ジアミンと、これと実質的に等モル量の芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させて重合する方法。
【0046】
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、これに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、プレポリマに、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モル量である芳香族ジアミン化合物を重合させる方法。
【0047】
上記(2)の方法の具体例は、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに、前記プレポリマの合成に使用したジアミンと同種のジアミンまたは異なる種類のジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法が挙げられる。(2)の方法においても、プレポリマと反応させる芳香族ジアミンは、前記プレポリマの合成に使用した芳香族ジアミンと同種の芳香族ジアミンであってもよく、異なる種類の芳香族ジアミンであってもよい。
【0048】
(3)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、これに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物とが実質的に等モル量となるように、プレポリマと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを重合する方法。
【0049】
(4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モル量になるように芳香族ジアミン化合物を加えて、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物とを重合させる方法。
【0050】
(5)実質的に等モル量の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの混合物を、有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0051】
本発明の一実施形態は、以下の様な構成であってもよい。
【0052】
〔1〕無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、前記無機粒子の含有量が0.05重量%以上、0.30重量%以下であり、前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下であるポリイミドフィルムを2400℃以上に熱処理する工程を含む、熱拡散率が8.0cm/s以上であり、層間強度が100gf/inch以上であるグラファイトシートの製造方法。
【0053】
〔2〕前記無機粒子が、リン酸水素カルシウムまたはリン酸カルシウムである、〔1〕に記載のグラファイトシートの製造方法。
【0054】
〔3〕前記リンを含む非金属添加剤が、有機リン化合物である、〔1〕または〔2〕に記載のグラファイトシートの製造方法。
【0055】
〔4〕前記有機リン化合物のリンの価数が5価である、〔3〕に記載のグラファイトシートの製造方法。
【0056】
〔5〕前記リンを含む非金属添加剤が、TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が200℃以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のグラファイトシートの製造方法。
【0057】
〔6〕前記グラファイトシートが、ロール状で黒鉛化されることを特徴とする、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のグラファイトシートの製造方法。
【0058】
〔7〕前記ポリイミドフィルムの厚みは、37μm~160μmである、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のグラファイトシートの製造方法。
【0059】
〔8〕前記ポリイミドフィルムは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のグラファイトシートの製造方法。
【0060】
〔9〕前記グラファイトシートの厚みが、16μm~85μmである、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載のグラファイトシートの製造方法。
【0061】
〔10〕前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.061重量%以上0.091重量%以下である〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のグラファイトシートの製造方法。
【0062】
〔11〕無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、前記無機粒子の含有量が0.05重量%以上、0.30重量%以下であり、前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下である、グラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0063】
〔12〕前記無機粒子が、リン酸水素カルシウムまたはリン酸カルシウムである、〔11〕に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0064】
〔13〕前記リンを含む非金属添加剤が、有機リン化合物である、〔11〕または〔12〕に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0065】
〔14〕前記有機リン化合物のリンの価数が5価である、〔13〕に記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0066】
〔15〕前記リンを含む非金属添加剤が、TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が200℃以上である、〔11〕~〔14〕のいずれかに記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0067】
〔16〕厚みが37μm~160μmである、〔11〕~〔15〕のいずれかに記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0068】
〔17〕4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む、〔11〕~〔16〕のいずれかに記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0069】
〔18〕前記無機粒子と前記リンを含む非金属添加剤の合計リン含有量が0.061重量%以上0.091重量%以下である〔11〕~〔17〕のいずれかに記載のグラファイトシート用のポリイミドフィルム。
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例
【0071】
<ポリイミドフィルム中のリンの含有量>
ポリイミドフィルム中のリンの含有量を、波長分散型蛍光X線分析装置(株式会社リガク社製 ZSX PrimusII)を用いて、リン濃度既知のポリイミドフィルムとの比率で求めた。
【0072】
<ポリイミドフィルムの搬送性>
ポリイミドフィルムの搬送性は、後述の実施例で記述する連続炭化工程において、ポリイミドフィルムに異常が見られるかどうかに基づいて、評価をおこなった。
【0073】
なお、ポリイミドフィルムの搬送性の評価基準は以下のとおりとした。
A:ハンドリング性・外観などに問題が見られない
B:静電気によってフィルム同士が貼り付くが、外観に問題なくハンドリング可能
C:搬送中に細かいキズやシワができ、外観収率が低下する
<連続炭化炉の汚染>
連続炭化炉の汚染は、後述の実施例で記述する連続炭化工程において、連続炭化炉の汚染の程度について評価をおこなった。
【0074】
なお、連続炭化炉の汚染の評価基準は以下のとおりとした。
A:簡単に拭き取ることができる汚れが付着
B:有機溶剤を用いて拭き取ることができる汚れが付着
C:連続炭化中の汚れにより、フィルムに細かなキズをつける
D:連続炭化中に汚れがたまり、フィルムにキズをつけて外観収率低下
E:連続炭化中に大量に汚れがたまり、フィルムが破断する
<グラファイトシートの面方向の熱拡散率>
グラファイトシートの面方向の熱拡散率は、(株)ベテル社の「サーモウェーブアナライザTA3」を用い、30mm×30mmの形状に切り取られたグラファイトシートのサンプルについて、25℃の雰囲気下で周波数100Hzの条件下で測定することにより求めた。なおサンプルは、シートの中央部を打ち抜き、作製した。ここで、「中央部」とは、得られたグラファイトシートにおいて、幅方向において中央であって、かつ、長手方向においても中央である部分を示す。
【0075】
<グラファイトシートの層間強度>
グラファイトシートの層間強度は、以下のようにして求めた。得られたグラファイトシートの両面に、両面テープを貼り合わせ、中央部を25mm×80mmに打ち抜き、サンプルを得た。このサンプルの片面をSUS製の板に固定し、反対面の両面テープを、90°の角度を保つように剥離した。その際、グラファイトシート内部で剥離が起きた時の力を、デジタルフォースゲージ((株)イマダ社製ZTS-5N)で測定し、グラファイトシートの層間強度とした。
【0076】
<グラファイトシートの密度>
得られたグラファイトシートの中央部を50mm角に打ち抜き、サンプルを得た。その後、上記サンプルの重量、面積、および厚みを測定した。その重量の測定値に基づき、グラファイトシートの密度=サンプルの重量/(サンプルの面積×サンプルの厚み)の式を用いて、グラファイトシートの密度を算出した。
【0077】
<グラファイトシートの厚み>
得られたグラファイトシートにおいて、その角の4箇所および中央の1箇所の厚みを(株)ミツトヨ製マイクロメーターを用いて測定した。ここで、「中央の1箇所」とは、得られたグラファイトシートにおいて、それぞれの角における4点の測定箇所から対角に位置する測定箇所に対角線を引いた際のその交点の位置を示す。そして、得られた厚みの測定値の平均値をグラファイトシートの厚さとした。
【0078】
<グラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性>
グラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性の評価方法を、図1に基づいて詳説する。図1は、グラファイトシート11に張り付けた微粘着フィルム12を引張速度300mm/minで引き剥がした直後を示す図であり、微粘着フィルム12上には、剥離したグラファイト13が観察できる。まず、25mm角に打ち抜いたグラファイトシート11と、25mm角にカットした微粘着フィルム12(株式会社スミロン社製、E-203)を、ラミネーターを用いて貼り合わせた。このグラファイトシート11に張り付けた微粘着フィルム12を、剥離角度:180°で、引張速度1000mm/min、または、引張速度300mm/minの条件で引き剥がした際に、グラファイトフィルム11の層間からグラファイトの剥離が起き、剥離したグラファイト13が、引き剥がした微粘着フィルム12上に観察されるかどうかに基づいて、グラファイトシートの微粘着フィルムからの引き剥がし性を評価した。
【0079】
なお、評価基準は以下のとおりとした。
A:引張速度1000mm/minで剥がしても、剥離したグラファイトが観察されない。
B:引張速度1000mm/minで剥がすと剥離したグラファイトが観察されるが、300mm/minで剥がしても剥離したグラファイトが観察されない。
C:引張速度300mm/minで剥がしても剥離したグラファイトが観察される。
【0080】
(実施例1)
<ポリイミドフィルムの作製方法>
4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)75モル%を溶解したジメチルホルムアミド溶液に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)を100モル%溶解した後、p-フェニレンジアミン(PDA)25モル%を溶解して、ポリアミド酸を18.5重量%含むポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液に、リン酸水素カルシウムを濃度がポリアミド酸の固形分に対して0.16重量%となるように添加した。この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、ジメチルホルムアミド、およびレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)をポリアミド酸の固形分に対して0.84重量%となるように含むイミド化触媒を添加し脱泡し、混合溶液を得た。なお、この際に用いたレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)は、リン含有率が10.5重量%、TG-DTAにおける5%重量減少温度は261℃であった。
【0081】
次にこの混合溶液を、乾燥後に厚さ62μmになるようにアルミ箔上に塗布し、混合溶液層を得た。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、および、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0082】
具体的な乾燥方法は以下のとおりである。まず、アルミ箔上の混合溶液層を、熱風オーブンで120℃において200秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で25秒、275℃で34秒、400℃で35秒、450℃で40秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で18秒と段階的に加熱して乾燥した。なお、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)は乾燥中(製膜中)に一部が揮発した。かかる操作により、リン酸水素カルシウムの含有量0.16重量%、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の含有量0.54重量%、合計リン含有量が0.095重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルム(A-1)を作製した。
【0083】
<グラファイトシートの製造方法>
厚み62μm、幅250mm、長さ300mのポリイミドフィルム(A-1)の巻き物を、フィルムを搬送する装置の巻き出し側にセットし、加熱処理装置に連続的に移動させながら連続炭化工程を実施した。
【0084】
連続炭化工程は、図2に示すような連続炭化装置を用いておこなった。当該連続炭化装置は、ポリイミドフィルム23を搬送する装置22と、出入口と、加熱空間と、を有する加熱処理装置21とを組み合わせて、前記ポリイミドフィルム23を前記加熱処理装置21内で加熱処理(炭化工程)することにより炭素質フィルム24を連続的に得られる装置である。前記加熱処理装置21は、MD方向に6つの加熱空間を持ち、各加熱空間のMD方向の長さは500mm、TD方向の長さは300mmとし、各加熱空間を窒素で置換し窒素雰囲気流通下(2L/min)におき、設定温度はそれぞれ600℃、615℃、630℃、645℃、670℃、720℃に調整した。連続炭化工程におけるフィルム(前記ポリイミドフィルム23および前記炭素質フィルム24)の搬送速度は1.6m/min、調整し、前記フィルムに対する張力が10Nとなるように搬送方向25の方向に前記フィルムを搬送した。前記加熱処理装置21の加熱空間内では炉内材である膨張黒鉛シート(熱伝導率200W/m・K、厚み400μm)でフィルムを上下から挟み込み、前記フィルムを搬送した。なお、前炉内材は、前記フィルムと接触するように設けられており、連続炭化工程においては、前記フィルムを、前記炉内材上を滑らせるように搬送した。また、前記炉内材は加熱空間内の前記フィルムの通過範囲よりも広い範囲を覆うように設けた。
【0085】
次に、連続炭化工程後の炭素質フィルム24を室温(23℃)まで冷却し、内径100mmのロール状にして、図3に示す炭素質フィルムの巻物31を得た。図3のようにフィルムの幅方向が垂直になるように炭素質フィルムの巻物31を炉床32セットして2900℃まで2℃/minの昇温速度で黒鉛化工程を行なった。なお、図において矢印33は重力方向を表している。
【0086】
次いで、黒鉛化工程後のフィルムを室温(23℃)まで冷却し、室温(23℃)にて黒鉛化フィルムを10MPaの圧力で圧縮工程(柔軟化工程)を実施し、グラファイトシートを得た。圧縮後のグラファイトシートについて、上述の試験により各特性を調べた。
【0087】
(実施例2~11、比較例1~5)
リン酸水素カルシウムとレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の添加量を表1に記載の量とした以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0088】
(実施例12)
リン酸水素カルシウムに代えて、炭酸カルシウムを用い、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の添加量を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、レゾルシノール ビス(ジフェニルホスフェート)の含有量0.53重量%、合計リン含有量が0.056重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0089】
(実施例13)
リン酸水素カルシウムに代えて、シリカを用い、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の添加量を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、レゾルシノール ビス(ジフェニルホスフェート)の含有量0.53重量%、合計リン含有量が0.056重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0090】
(実施例14)
リン酸水素カルシウムに代えて、リン酸カルシウムを用い、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の添加量を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、レゾルシノール ビス(ジフェニルホスフェート)の含有量0.36重量%、合計リン含有量が0.070重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0091】
(実施例15)
レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)に代えて、トリフェニルホスフェート(リン含有率が9.5重量%、TG-DTAにおける5%重量減少温度は220℃)を1.30重量%添加した以外は、実施例1と同様にして、トリフェニルホスフェートの含有量0.34重量%、合計リン含有量が0.070重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0092】
(実施例16)
レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)に代えて、トリフェニルホスフィンオキシド(リン含有率が11.1重量%、TG-DTAにおける5%重量減少温度は243℃)を0.80重量%添加した以外は、実施例1と同様にして、トリフェニルホスフィンオキシドの含有量0.29重量%、合計リン含有量が0.070重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0093】
(実施例17)
レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)に代えて、ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)(リン含有率が9.5重量%、TG-DTAにおける5%重量減少温度は395℃)を0.40重量%添加した以外は、実施例1と同様にして、ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)の含有量0.34重量%、合計リン含有量が0.070重量%、厚さ62μmのポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。
【0094】
(実施例18~21)
ポリイミドフィルムの厚みを表1に記載の厚みとした以外は、実施例4と同様にして、ポリイミドフィルムを作製し、これを用いてグラファイトシートを作製した。なお、ポリイミドフィルムの製膜時間および、黒鉛化工程の昇温時間については、厚みに比例して焼成時間を調整した。例えば厚さ50μmのフィルムの場合には、100μmの場合よりも焼成時間を1/2に短く設定した。
【0095】
実施例1~21および比較例1~5のグラファイトシートの製造条件および物性を表1に示す。
【0096】
【表1】
実施例1~21により、無機粒子とリンを含む非金属添加剤とを含有し、無機粒子の含有量が0.05重量%以上0.30重量%以下、かつリンの含有量が0.055重量%以上0.097重量%以下のポリイミドフィルムから得られるグラファイトシートは、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れ、かつ、層間強度と熱拡散率の両方の物性が優れることがわかる。一方、比較例1~3により、リンの含有量が0.055重量%未満のポリイミドフィルムから得られるグラファイトシートは、微粘着フィルムからの引き剥がし性に劣ることが分かる。また、比較例4により、無機粒子の含有量が0.30重量%以上のポリイミドフィルムから得られるグラファイトシートは、熱拡散率に劣ることが分かる。比較例5により、無機粒子の含有量が0.05重量%未満のポリイミドフィルムから得られるグラファイトシートは微粘着フィルムからの引き剥がし性に劣り、かつ、ポリイミドフィルムの搬送性に劣るため、外観収率が低下し、かつ層間強度に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明で得られるグラファイトシートは、微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるため、電子機器の放熱部材として好適に利用することができる。

図1
図2
図3