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特許7367266効率的で生産性の高い機械式コンピューティング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】効率的で生産性の高い機械式コンピューティング
(51)【国際特許分類】
   G06C 15/00 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
G06C15/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023518999
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 US2021051407
(87)【国際公開番号】W WO2022066680
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】63/083,265
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/083,276
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519063358
【氏名又は名称】シービーエヌ ナノ テクノロジーズ インク.
【氏名又は名称原語表記】CBN NANO TECHNOLOGIES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ライリー, ジェイムズ, エフ., ザ・サード
(72)【発明者】
【氏名】ジョブズ, マーク, エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】センプレボン, ジェフリー, イー.
【審査官】豊田 真弓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0248552(US,A1)
【文献】米国特許第04788453(US,A)
【文献】米国特許第05892301(US,A)
【文献】国際公開第2017/116482(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0142440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
論理機構であって、
被駆動要素と、
異なる値を定義する2つの機械式の出力と、
少なくとも2つの機械式の入力と、を備え、
前記被駆動要素は、前記入力を順次配置するように変位させられ、
少なくとも1つの制御要素は、前記入力によって位置決めされ、
前記制御要素(複数可)は、前記制御要素(複数可)の位置(複数可)に基づいて、前記被駆動要素と前記出力の少なくとも1つと相互作用し、前記被駆動要素の動きが前記出力の何れに伝達されるか否かを決定し、
前記制御要素(複数可)の少なくとも1つは、2つ以上の位置にあるときに、そのような決定を行う際に同じ機械的効果を提供する、論理機構。
【請求項2】
請求項1に記載の論理機構であって、
前記制御要素は、前記被駆動要素及び前記出力の1つのうち少なくとも1つの運動を選択的にブロックする役割を果たす、論理機構。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の論理機構であって、
前記被駆動要素の動きが前記出力の何れに伝達されるかの前記決定は、前記入力の少なくとも2つの位置についてのブール論理演算によって定義され、
前記ブール論理演算は、NOR,NAND,又はXORの論理演算である、論理機構。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1に記載の論理機構であって、
前記入力(複数可)及び前記出力(複数可)はカーボンナノチューブで構成される、論理機構。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の論理機構であって、
前記論理機構の体積が0.001mm以下である、論理機構。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載の論理機構であって、
前記論理機構において、前記出力(複数可)の配置のために必要な力は1μN以下である、論理機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、機械式論理構造に関するものであり、小型化、効率化、及び/又は小スケールでの製造が可能な論理機構の方式を含む。
【背景技術】
【0002】
機械式論理及びコンピューティングデザインは、1837年に記述されたBabbageのAnalytical Engineにさかのぼる。最近では、ナノテクノロジー・コンピュータのための機械式論理の開発に関心が集まっていて、例えばDrexlerが1992年に出版した「Nanosystems:Molecular Machinery, Manufacturing, and Computation」に記載されているロッドロジックなどがある。エネルギー消費を低減するように設計された機械式論理機構は、米国特許の第10,481,866号、第10,664,233号、第10,949,166号、及び米国特許公開2021/0149630号に教示されている。'866号特許で教示されているような機構は、メカノシンセシスによる分子規模の製造に適するように設計されている(例えば、米国特許の第8,171,568号、第8,276,211号、第9,676,677号、第10,067,160号、第10,072,031号、第10,138,172号、第10,197,597号、第10,308,514号、第10,309,985号、第10,822,229号、第10,822,230号に示されている技術のように)。しかしながら、このような機構は、典型的には、マイクロ及びナノリソグラフィ技術、他のMEMS(「マイクロエレクトロメカニカルシステム」)又はNEMS(「ナノエレクトロメカニカルシステム」)技術などの従来の技術、及び巨視的製造技術(例えば、CNC、キャスト、成形、3Dプリント)を使用して、計算、計算システムの試験及び設計、並びに教育モデルなどの目的に適した機械式計算装置を作製して大規模作製することにも適している。
【発明の概要】
【0003】
以下に述べる事項は、本願で請求される幾つかの発明的側面の理解を容易にするために、本発明の幾つかの側面について概要を述べるものである。しかしながら、以下の概要は、限定解釈の意図を持つものではなく、追加の発明的側面は、本開示及び請求項の全体から明らかになるであろう。
【0004】
本開示に係る論理機構は、2つ以上の機械式の入力と少なくとも1つの機械式の出力とを有し、入力の位置に基づいて出力(複数可)の位置を定義するように構成される。機構は2つ以上の出力を有してもよい。幾つかの場合において、入力は、機構の被駆動要素(追加の入力とみなすことができる)が変位した後に、1つ以上の出力が存在する位置を決定する。幾つかの場合において、入力の動きは、直接出力(複数可)を特定の位置に移動させる。
【0005】
幾つかの機構は、入力によって位置決めされる少なくとも1つの制御要素を有し、制御要素(複数可)は、被駆動要素及び出力の何れか又は両方と相互作用し、被駆動要素の動きが出力に伝達されるか否かを決定し、さらに、制御要素(複数可)の少なくとも1つが2つ以上の位置で同じ機能を提供することを条件とする。幾つかのこのような機構では、制御要素(複数可)は、被駆動要素から出力への動きの伝達のための経路を形成するように位置決め可能である。
【0006】
幾つかのこのような機構では、入力の少なくとも1つが被駆動要素と係合して、出力に動きが伝達されないように被駆動要素を整列から外すことができる。他のこのような機構では、入力の位置は、複数の位置を有する制御要素の少なくとも1つの位置を定義し、被駆動要素の動きが出力に伝達されるか否かの決定は、2つ以上の位置に対して同じである。このような機構では、制御要素は、被駆動要素と出力との間の動きの伝達のための経路を提供する役割を果たしてもよく、他の機構では、被駆動要素と出力のうち少なくとも一方の動きをブロックする役割を果たしても良い。
【0007】
2つ以上の入力を有する機構であって、動きが出力に伝達されるか否かがその2つ以上の入力により決定される機構においては、そのような決定は、少なくとも2つの入力の位置のブール論理演算によって定義されてもよく、そのようなブール論理演算は、NOR、NAND、又はXOR論理演算であり得る。
【0008】
幾つかの機構は、被駆動要素と出力との間に選択的に介在可能な少なくとも1つの運動伝達要素を有し、運動伝達要素(複数可)の位置(複数可)は、入力(複数可)の位置(複数可)によって定義され、入力(複数可)の位置(複数可)が、動きを伝達するように運動伝達要素(複数可)が被駆動要素と出力との間に介在されるか/介在されないかを決定するようになっている。運動伝達要素(複数可)は、入力(複数可)に取り付けられてもよく、それによって直接位置決めされてもよい。運動伝達要素は、少なくとも2つの入力の組み合わせ位置によって位置決めすることが出来る。機構は、運動伝達要素が活性部分と非活性部分とを有するように構成されてもよく、この活性部分は、被駆動要素と出力との間に介在したときにこれらの間で動きを伝達させるように作用し、この非活性部分は、被駆動要素と出力との間に介在したときに出力に動きを伝達せずに被駆動要素の動きを収容できる。
【0009】
幾つかの機構において、被駆動要素と出力とが整列位置を有し、その整列位置において被駆動要素の動きが出力に伝達されるようにこれらが配置され、且つ1つ以上の入力が、被駆動要素と出力とのうち少なくとも一方を変位させてその整列位置から離脱させるように位置することが可能である。幾つかの場合には、被駆動要素は、そのような整列から外されない限りは動きを出力に伝達するように整列され、少なくとも1つの入力は、被駆動要素を整列から外すように又は整列から外さないように作用する。被駆動要素は、出力と整列されて変位したときに出力と直接係合してもよい。
【0010】
幾つかの機構は運動制御構造を採用していて、この運動制御構造は少なくとも1つの運動制御要素を有しており、この少なくとも1つの運動制御要素は運動制御構造を複数の位置に選択的に配置するために入力によって位置決めされ、運動制御構造は、少なくとも、運動収容形態(出力を動かすことなく被駆動要素の動きを収容可能)と、運動伝達形態(運動制御構造の少なくとも1つの要素によって被駆動要素の動きが出力に伝達される)と、を含む。幾つかのそのような機構では、運動制御構造は、単一の運動制御要素によって提供される。機構は、被駆動要素と出力との間の動きの伝達のための経路を提供する制御要素、及び/又は、被駆動要素、出力、又はその両方の動きをブロックする制御要素を採用することが出来る。
【0011】
機構は、第1及び第2の機械式の入力と、少なくとも1つの機械式の出力と、少なくとも第1の入力によって位置決め可能な少なくとも1つの制御要素と、を有することができ、制御要素(複数可)は、第1及び第2の入力の位置に基づいて出力(複数可)の結果位置(複数可)を決定するように作用し、このような出力(複数可)の位置(複数可)は、入力位置についてのブール論理演算によって定義され、制御要素の少なくとも1つは、2つ以上の位置で同じ機能を提供する。このような機構において、2つ以上の制御要素が存在してもよく、各々が入力の1つによって位置決めされてもよい。幾つかの機構では、入力の位置決めは出力(複数可)を位置決めするように作用し、他の機構では、そのような位置決めは、出力(複数可)が被駆動要素の動きによって変位するか否かを決定するように作用する。幾つかの機構において、制御要素(複数可)は、第2の入力の動きに応答して出力(複数可)の動きを決定する。
【0012】
上述したような多くの機構では、入力(複数可)と出力(複数可)は、カーボンナノチューブで構成することができる。機構は、0.001mmを超えない体積を占めるように、及び/又は、出力(複数可)を配置するために1μNを超えない力を要するように、十分に小さく作製することができる。
【0013】
上記の多くの機構では、出力は、出力によって定義される値とは異なる値を定義する少なくとも1つの相補的出力によって補うことができ、入力(複数可)の位置(複数可)は、出力又は相補的出力(複数可)に動きが伝達されるか否かを決定するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A-1C】図1A図1Cは、被駆動要素からの動きを0値出力又は1値出力の何れかに向けるバランス機構を採用する論理機構を示す図であり、別のバランス作用を介して入力によって動かされる制御要素は、出力のうちの1つが動くことを選択的にブロックする。図示のように、この機構はNAND機能を提供する。
図1D図1Dは、被駆動要素からの動きを0値出力又は1値出力の何れかに向けるバランス機構を採用する論理機構を示す図であり、別のバランス作用を介して入力によって動かされる制御要素は、出力のうちの1つが動くことを選択的にブロックする。図示のように、この機構はNAND機能を提供する。
【0015】
図2A-2B】図2A及び図2Bはそれぞれ、制御要素がNOR機能及びXOR機能を提供するように構成された同様の機構を示す。
【0016】
図3A-3E】図3A図3Eは、OR論理機能を提供し、NOR機能を提供するために(図3Eに示すような)機械式インバータと組み合わせて使用出来る論理機構を示す図である。この機構は、出力を動かす別の被駆動要素の動作なしに、入力値に基づいて直接出力値を提供する。
【0017】
図4A-4C】図4A図4Cは、図3Eに示すインバータの代替品を提供する機械式インバータの幾つかの例を示す図である。
図4D図4Dは、反転出力の効果を達成するために、連続するゲートの向きをどのように反転出来るかの例を示す。
【0018】
図5A-5F】図5A図5Fは2つの入力のNOR機能を提供する論理機構を示す図であり、単一の運動伝達要素は、被駆動要素の動きを伝達するように整列されるか、又は整列されないかのどちらかである。運動伝達要素の位置は、2つの入力の組み合わせ位置によって決定される。
【0019】
図6A-6D】図6A図6Dは、2つの入力のうち何れか一方、又は両方の伸長が、被駆動要素と出力との不整列化に作用する機械式論理機構を示す図である。何れかの入力が伸長される場合、被駆動要素の異なる位置は、同じ出力値をもたらし、NOR論理機能を提供する。
【0020】
図7A-7D】図7A図7Dは機械式論理機構の他の例を示し、2つの入力のうち何れか一方、又は両方の伸長が、被駆動要素と出力との不整列化に作用する。この機構では、入力は共通の要素に設けられ、部品点数が削減される。
図7E-7H】図7E図7Hは、AND論理出力を作成するように結合される3つのNORゲートを示し、1つの機構の出力は、別の機構に対する入力を提供している。
図7I図7Iは、4つのNORゲート(及び信号スプリッタ)を使用して形成され、3つのシーケンシャルクロックパルスによって動作する半加算器を示す。
図7J図7Jは、比較のために4つのNORゲートを使用して形成される等価な半加算器の従来の論理図である。
【0021】
図8A-8C】図8A図8Cは論理機構の2つの例を示す図であり、2つの入力の組み合わせ位置が中間要素(定形板として形成)の位置を制御し、この中間要素は、動かずに被駆動要素の動きを収容することが出来るか又はそれとともに強制的に動かされ、その場合において、動きを出力に伝達するものである。図8A及び図8Bは、板が入力の位置に基づいてNAND機能出力を提供するように構成される機構を示す。図8Cは、板がXOR機能出力を提供するように構成される機構を示す。
図9A-9C】図9A図9Cは、被駆動要素及び出力に取り付けられた成形板を有する機構の2つの例を示し、その板に係合するコネクタは、2つの入力の組み合わせ位置によって位置決めされる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面及び添付の説明には、構築可能な論理機構の幾つかの例が示されており、その多くは、同等の機能を提供するための米国特許第10,481,866号及び関連特許/出願で教示された構造に比べて、簡略化された構造、より少ない部品、及び/又はより小さいサイズを提供する。特定の例が例示されているが、同じ方策を採用する代替的なアレンジメントは、特定の例の変形を使用して設計され得る。多くの場合、明確さの理由から、アンカー構造、ガイド構造、入力を所望の値に設定するための構造、クロック信号発生器(これは、例えば、モータ、歯車、カム、カムフォロア、及び関連するリンケージ及び他の部品から構成され得る)、クロック信号を分配及び/又は方向転換するための構造(例えば、電子機器においてバスバーと呼ばれるものと物理的に等価である)、出力からの動きを分配及び/又は方向転換するための要素、1ビット以上の情報を一時的に保持するためのバッファなどの、機械式コンピューティングデバイスに採用される従来の追加的な要素は示されていないことに留意されるべきである。示された例の多くは、従来の製造技術(マイクロ及びナノスケールのリソグラフィーを含む)によって製造されるようにスケールされた構造に関するものであるが、等価な分子スケール及び原子レベルの精密構造が、類似した部品配置を持つように形成されることが可能であろう
【0023】
論理機構の幾つかの例が図示及び説明されていて、この幾つかの例は、2つ以上の機械式入力の位置に基づいて1つ以上の機械式出力の位置を定義するための異なるスキームを組み込んだものである。一般に、各入力及び各出力は、その位置によって値を定義する又は符号化する可動要素である。1つのスキームでは、ニュートラル位置からの変位は1の値を示し、そのような変位がない場合は0の値を示す。他のスキームでは、相補的な要素のセットが採用され、複数の要素のうちの1つが移動して出力値などの値を示すこともある。2値方式の例では、1つの出力が移動して1の値を示し、もう1つの出力が移動して0の値を示す。これらの出力オプションは、他の機構の対応する入力オプションと一致させてもよい。機構は、シングル入力又はデュアル入力(「シングルレール」及び「デュアルレール」とも呼ばれる)を使用するように設定可能である。デュアルレール入力は、可能な入力と入力値がそれぞれ独自のラインを持つものである。例えば、AとBという2つの入力があり、それぞれが0又は1の値を持つことができる場合、4つの入力ライン、即ち、A=0、A=1、B=0、B=1がある。どのような計算でも、各入力について1つの入力ラインが、論理的に「真」を意味する位置に設定される。例えば、(A,B)=(1,0)であれば、A=1ラインがセットされ、B=0ラインがセットされる。これは、1つのラインがAを表し1つのラインがBを表しそのラインの位置に応じて例えば値が0か1かが判断される方式(通常、1に対して変位され、0に対して変位されない)とは、異なるものである。シングル入力は入力ラインの数を減らすことができるが、デュアル入力は機構の簡略化やその他の改善などのメリットがある。いずれの方式でも任意の論理演算が可能である。
【0024】
特定の用途については、特定の実施例の特徴を組み合わせて特定の状況及び/又は用途に最適化された機械式論理機構を提供することが、有益であり得る。ある機構においては、入力(複数可)の位置決めは、出力(複数可)の位置を直接決めるように働き、別の機構においては、入力(複数可)の位置が決められることにより、機械式クロック信号等の被駆動要素が変位することに応答する出力(複数可)の位置(複数可)が定義される。このような被駆動要素は、入力とみなすことができるが、1つ以上のデータ入力を配置するように順次変位させられる。機械式コンピューティングデバイスにクロック信号を提供するのに適した機構の例は、米国特許第10,683,924号及び国際特許出願PCT/US2020/031645に教示されている。
【0025】
ここで教示される幾つかの論理機構において、当該機構は、要素が整列しているか否かに従って機械式出力値が決まるように設計され、そのような整列又は不整列は1つ以上の機械式入力値の位置に基づいていて、且つ、そのような整列又は不整列は、被駆動要素(これは、ここで用いられるように、「クロック信号」又は「入力」でもよい)から特定の出力へと運動を伝達する経路があるか否かを決定するように機能する。機械式の入力は、運動伝達経路を形成するために要素を整列させるように配置されてもよく、及び/又はそのような経路の形成を避けるために要素を整列位置から変位させるように作用してもよい。機械式の入力は、被駆動要素が機械式のクロック信号などによって変位したときに、被駆動要素が特定の出力と係合しないか又は係合するように、被駆動要素を直接に整列から外したり又は整列させたりする役割を果たしてもよい。幾つかの機構では、出力への運動伝達経路を定義する整列又は不整列は、被駆動要素の可能自由運動に対して加えられる制限を定義する入力(複数可)として特徴付けられ、出力を動かす力を付与することなく被駆動要素の動きを収容可能か否かを決定することができる。
【0026】
幾つかの論理機構では、入力が並列に作用して、整列された運動伝達経路が存在するか否かを決定する。入力自体に加えて、入力により位置決めされ且つ運動を伝達する経路が存在するか否かを決定する要素が採用されてもよく、この要素は、機構の特定の構成に応じて「制御要素」、「運動伝達要素」、及び/又は「運動制御要素」とみなされてもよい。
【0027】
ここで教示される幾つかの論理機構において、1つ以上の構成要素は、異なる入力値に対して同じ結果の出力値を提供するために、入力位置を混同するように構成される。幾つかの機構では、このような混同は、上述したように、異なる入力の位置が類似した要素の整列又は不整列(より典型的)を提供するような方法で、要素の整列及び/又は不整列から生じる。幾つかの機構では、このような混同は、特定の出力が動くのを阻止する役割を果たす2つ以上の位置を有するブロック要素、2つの位置の何れかにおいて別の要素を同じ距離だけ動かす制御要素、又は2つ以上の位置で動きを収容又は伝達する制御要素のように、2つ以上の位置で機構内に同じ機械的効果を提供する論理機構内の少なくとも1つの構成要素から生じる。
【0028】
ここで教示される様々な機構は、NOR又はNANDゲートの「汎用的な」論理機能を提供し、これらは、他の任意のブール論理機能を提供するように構成及び/又は組み合わせられることが可能である。適切なクロック方式を用いて、メモリを提供するフリップフロップを形成するためにNOR又はNANDゲートを接続することができる。シンプルな論理ゲートに基づく算術論理演算及び/又はメモリを提供するためのより洗練された機構は、そのようなより上位の機構が類似の電子論理ゲート及びそれらの組み合わせを用いて例えばシフトレジスタ、加算器、及び更に上位の機構、完全なコンピューティングシステムに至るまで構築されてきている方法と同様の方法で形成されうるであろう。同じパラダイムを用いた他のデバイスとして、半加算器、全加算器、リップルキャリー加算器などが設計されうるであろう。電子論理ゲートから上位の構造を構築するのと類似の方法で、汎用ゲートから上位の機構を形成することができるが、そのような機構は、1つ以上の入力値に基づいて1つ以上の出力値を得るために、ここで教示されたパラダイムを用いてより直接に作製されることも可能であろう。
【0029】
本メカニズムは比較的単純な構造であるため、従来のMEMS製造技術を用いたマイクロスケールでの製造、又はナノリソグラフィやメカノシンセシスによる分子集合体などの技術を用いたナノスケールでの製造に適している。マイクロスケールでの製作では、一辺が100μmの立方体の体積に収まるような機構が得られ、1μN以下の作動力で動作するようなデバイスが期待される。更に小さな機構であれば、10μmや1μmの立方体の体積に収まるように製作することができ、その場合の作動力は100nNや10nNなど、より小さなものになる。更に小さなデバイスは、ナノスケールの製造技術によって作製され、一辺が100nmの立方体の体積内に収まる可能性があり、あるいは50nmの立方体、25nmの立方体、又は10nmの立方体の内部に収まるほど小さくできる可能性もある。ここで議論される機構の多くについて、言及された第1及び第2の部分、入力、及び出力などの構成要素は、カーボンナノチューブ又はダイヤモンド、ロンズデーライト、又はダイヤモンドイド材料の構造で構成され得る。ナノスケールの機構では、作動力は1nN又はそれ未満となりうるであろうし、また、分子動力学シミュレーションからの導出によれば、部品の動きを調整するためにNCFを使用する論理ゲートなどの幾つかの機構は、100pN以下、あるいは10pN以下の作動力で機能するであろう。
【0030】
ナノスケールの機構では、多くの要素が、カーボンナノチューブ(CNT)、ダイヤモンド、ロンズデーライト、及び/又はダイヤモンドイドなどの材料から形成され、剛性構造を持つことができる。CNTは、炭素原子の六角形構造を五角形や七角形に置き換えることで、所望の形状に曲げたり分岐させたりすることができる。フレキシブル要素は、グラフェンシート、リボン、又は同様のグラフェン形状、ポリイン、ポリテトラフルオロエチレン、ハイドロカーボン又はその置換変異体、又は特定の用途に必要な適切な直径、長手方向の剛性、及び横方向の柔軟性の特性を備えた他の構造である。ハイドロカーボンヒンジ、シングルボンド(例えば、アセチレン)ロータリージョイント、又はネストされたCNTは、接続要素間のピボットジョイントを提供するために使用され得る。これらの例によって、採用可能な材料が限定されるものとは考えるべきではない。
【0031】
図1A図1Dは、図示されているように、NANDゲートを提供するように構成される機構100を示す図である。機構100は、バランス106に係合する可撓性のU字型部材に形成された入力102及び104を有し、バランス106は、今度はノッチ110を有する制御要素108を位置決めする。機構100はまた、バランスの機能を果たす別の可撓性のU字型部材である被駆動要素112を有し、その上に2つの出力114及び116を有する。制御要素108の位置に応じて、ノッチ110は、(仮想線で示すように)変位される被駆動要素112に応答する出力114(ここでは、0の出力値を表すように選択される)又は出力116(1の出力値を有するように選択される)の通過を許容するように位置決めされる。図示の例では、(図1A、1B、1Cにそれぞれ示すように)(0,0)、(0,1)、(1,0)の入力位置に対して、ノッチ110は1値出力116がそれを通過することを可能にするように位置決めされ、制御要素108は0値出力114が動くのをブロックするように、制御要素108が構成される。入力値(1,1)については、図1Dに示すように、ノッチ110は0値出力114がそれを通過することを可能にするように位置決めされ、制御要素108は1値出力116をブロックする。制御要素108が、入力値(0,1)(図1B)及び(1,0)(図1C)に対して、入力値(0,0)(図1A)とは異なる位置にあるとしても、制御要素108のこれらの両方の位置は、1値出力116の動きを許容しながら0値出力114をブロックするという同じ機能を提供し、その結果、被駆動要素112が変位されるときに出力(114,116)が同じ位置となる。NANDゲートが示されているが、制御要素の構成の変更、及び/又は、出力に割り当てる値の変更によって、代替的な論理演算が提供され得る。2つの例を図2A及び2Bに示す。入力バランス、被駆動要素、及び制御要素は平面構造であるため、この方式を用いた分子規模の論理機構では、これらの要素を提供するためにグラフェンテープを使用し、残りの構成要素はダイヤモンド材料又は変性CNTから作製することが可能であろう。
【0032】
図2Aは、制御要素108に代わる制御要素202を有する機構200を示し、入力(102、104)に対してNOR論理機能を提供する。図2Aに示すように、入力値(0,0)を表す入力(102,104)が変位されない場合、制御要素202は、ノッチ204が1値出力116の動きを許容するように位置決めされ、制御要素202は0値出力114の動きをブロックするように、位置決めされ、構成される。入力値(0,0)については、被駆動要素112が変位される際、出力値は1である。入力(102,104)の何れか一方又は両方の変位は、1値出力116の動きをブロックするように制御要素202を動かし、0値出力114の動きを許容する位置にノッチ206を動かす。入力値(0,1)、(1,0)、(1,1)については、出力値は0である(この特定のケースにおいては、単一の広いノッチは、示された両方のノッチ(204,206)の機能を提供し得ることに留意されたい)。制御要素202は、2つ以上の位置で同じ機能(出力114の動きを許容し、出力116をブロックする)を提供する。
【0033】
図2Bは、別の代替案である、入力(102、104)のXOR論理機能を提供する機構250を示す。機構250は、単一の1値ノッチ254と一対の0値ノッチ256を有する制御要素252を有する。制御要素252は、入力(102、104)の一方が変位される場合にのみ1値出力116の動きを許容し、入力の両方が変位される場合には1値出力116の動きを許容しないように、1値ノッチ254が位置決めされるように、構成される。1値ノッチ254がそのように位置決めされると、制御要素252は0値出力114の動きをブロックするように位置決めされる(0値ノッチ256が0値出力114を括る)。入力値(0、1)又は(1,0)に対しては、被駆動要素112が変位されるときの出力値は1である。入力(102、104)のどちらも変位されていない場合、又は両方が変位された場合、0値ノッチ256の1つは0値出力114の変位を可能にするように位置決めされ、制御要素252は1値出力116の動きをブロックするように位置決めされる。入力値(0,0)又は(1,1)に対しては、被駆動要素112が変位されるときの出力値は0である。制御要素252は、再度2つ以上の位置で同じ機能を提供する。
【0034】
図3A~3Eは、対向する入力302、304を採用し、入力(302、304)のOR関数によって定義される出力306を提供するように構成される機構300を示す。この場合、出力306は入力(302,304)の作用によって直接位置決めされ、出力306を動かす別の被駆動要素は存在しない(しかしながら、機構300は、入力の一方を他方より先に変位させて順次動作させ得る。この場合、後に変位した入力は、被駆動要素と同様の効果を有する)。図示のように、機構300は、主に円筒形の要素で構成されており、変性CNTを用いたナノスケールの作製に適している。
【0035】
入力(302,304)の各々は、リンク部材308に枢動可能に接続され、リンク部材308は、共通の軸を中心として中間部材310に枢動可能に接続される(リンク部材308及び中間部材310は、すべて「制御要素」として考えることができることに留意されたい)。中間部材310は、入力(302,304)に対して平行に延在する出力バー312を備え、出力バー312は、入力(302,304)の移動軸に垂直な軸に沿って出力306を位置決めするように、出力306に係合する。ナノスケールの機構の場合、出力バー312と出力306との間の接触はファンデルワールス(VDW)力によって維持することができ、構造は、要素間の引力を高めるように設計され得る(例えば、トラフと整列した要素の軸方向突出部によって摺動可能に係合するもう一方の要素にトラフ又はチャネルを設けることによって)。より大規模な機構の場合、要素間の摺動接続を提供する代替構造、及び/又は、それらの係合を維持するためのガイド構造又は支持構造が提供され得る。入力(302,304)が変位されない場合(図3Aに示すように入力値(0,0)の場合)、中間部材310は下降位置にあり、出力306は変位されない(出力値0を示す)。入力304のみが変位される場合(図3Bに示すように入力値(0,1)の場合)、入力304の変位を収容するリンク部材308の複合作用がヒンジとして作用して中間部材310を上昇させ、出力バー312と出力306との係合により変位して出力値1を示す。同様に、入力302のみが変位される場合(図3Cに示すように入力値(1,0)の場合)、中間部材310は同じ高さまで上昇し、出力306は再度変位される。中間部材310は入力値(0,1)の場合とは異なる位置を占め、したがって、出力バー312は、その長さに沿った異なる位置で出力306を係合させるが、変位の高さは同じであることに留意されたい。
【0036】
リンク部材306は、(その上昇位置にあるとき)それらが三角形を形成するように、入力(302,304)の変位に対して構成され、三角形の底辺は入力(302,304)のどちらかのスローの距離の半分に等しい。両方の入力(302,304)が変位される場合(図3Dに示すように入力値(1,1)の場合)、リンク部材308は、互いに通り過ぎて同じ三角形の脚を形成する位置まで押されるが、それらの位置は逆である(結果として、それぞれの入力(302,304)の変位は、どちらの入力(302,304)も変位されない場合に形成される三角形の底辺の2/3となる)。これにより、再び制御要素310が上昇位置まで上昇し、今度は出力306を変位させて出力値1を示す。リンク部材308は、2つの異なる位置にあるとき、中間部材310を上昇させるという同じ機能を提供する。入力(302,304)が両方とも1値の位置に動かされる場合、リンク部材308は、図3Dに示す最終位置に達する前に中間部材310がより高い位置を通るように、中間部材310を上昇させることに留意されたい。
【0037】
出力306は、入力(302,304)の両方が0であれば0であり、入力(302,304)の何れか又は両方が1であれば1であり、OR論理機能を提供する。出力306の値は、図15Eに示すようにインバータ350を使用するなどして、NOR論理機能(「ユニバーサル」ゲートを提供する)を提供するために反転させることができる。インバータ350は、インバータ入力352とインバータ出力354を有し、それらの両方は、それ自体がピボットピン358を中心に回転するレバー356に枢動可能に係合される。インバータ入力352とインバータ出力354はそれぞれレバー356のスロット部360に枢動可能に係合し、レバー356の長さに沿った限られた程度の並進を可能にして結合を回避し、インバータ入力352とインバータ出力354の動きはスリーブ362によって並進に制限されており、そのスリーブはピボットピン358に関して固定されている。レバー356は、レバーベアリング364を介してピボットピン358に係合し、レバー356を、ピボットピン358の軸を中心とした回動運動に制限する。出力306が変位すると、それによってインバータ入力352が変位し、今度はそれが係合しているスロット部360が変位し、レバー356を強制的に回転させる。この回転の結果、インバータ出力354に係合するスロット要素360が移動し、インバータ出力354をより低い位置に引っ込める。このような下降位置は、実際にはインバータ出力354の変位であるが、下降位置は変位していない出力値0を示し、上昇位置は変位した出力値1を示すという機構300の慣習に対応する。図示したインバータは、採用され得る運動の見かけ上の方向を反転させる機構の一例に過ぎず、図示したようなインバータは、本明細書に開示した様々な機構の何れにも採用し得るものであり、入力(複数可)、出力(複数可)、又はその両方に適用され得ることに留意されたい。あるいは、図4Dに関して後述するように、一方の変位位置が他方の非変位位置に対応し、一方の出力が他方の入力に接続されるように、機構を互いに相対的に配置することもできる。
【0038】
図4A図4Cは、機構300と共に、又は、入力又は出力を反転することが望まれる他の機構と共に、採用され得る代替インバータの幾つかの例を示す。図4Aは、ラックアンドピニオン機構406によって往復運動するインバータ入力402及びインバータ出力404を有するインバータ400を示す。ラックアンドピニオン機構406は、インバータ入力402に取り付けられる入力ラック410に係合するピニオンギア408と、インバータ出力404に取り付けられる出力ラック412と、を有する。図4Bは、ベルト機構436によって往復運動するインバータ入力432及びインバータ出力434を有するインバータ430を示す。ベルト機構436は、一対のローラ440上を通過するベルト438を有し、インバータ入力432及びインバータ出力434は、それぞれベルト438の反対側に取り付けられている。図4Cは、インバータ350と同様に機能するインバータ450を示し、レバー456によって接続される入力452及び出力454を有するが、インバータ450では、レバー456はスロット部ではなく、トラック458を有する。トラック458は、インバータ入力452及びインバータ出力454の半径方向の動きを収容して結合を回避しつつ、ファンデルワールス引力などの非接触力を介してこれらの要素(452、454)を係合する。インバータ入力452及びインバータ出力454は、トラック458との係合力を高めるために、拡張足460を備えることができる。図4Dは、反転出力の効果を達成するために、1つの機構の向きを別の機構に対して反転させる概念を示している。ゲート470は、ゲート476に入力474を提供する出力472を有する。しかし、ゲート476は、ゲート470に対して逆の向きにあり、したがって、出力472の拡張(1値)位置は、ゲート476によって、後退(0値)位置として見られる。
【0039】
図5A図5Fは機構500を表す図であり、この機構500は、入力値に応答する動きを伝達するための経路を形成するか又は分断するために、VDW力に打ち勝つことの潜在的必要性を回避することに加えて、NOR論理機能を提供する。機構500において、単一の運動伝達要素502は、被駆動要素504から出力506に動きを伝達するために整列して配置されるか(これは、入力値(0、0)について、被駆動要素504を動かす前及び動かした後をそれぞれ示す図5A及び図5Bに示されている)、又は、動きを伝達しないように、整列から外されて配置される(これは、図5C図5Fに示されている。図5Dは、被駆動要素504が変位したときにそのような位置のうちの1つにおける機構500を示す)。この機構における運動伝達要素502の位置は、2つの入力508に依存していて、その各々は、運動伝達要素502が取り付けられるヒンジ510の片側を移動させるように作用する。ヒンジ510は、入力508の組み合わせ位置によって位置決めされる「制御要素」とみなされることができ、運動伝達要素502は、3つの不整列位置のいずれかに配置されることができる。運動伝達要素502がその整列された運動伝達位置へ又はそこから移動されるときにVDW力が変化するのを避けるために、被駆動要素504及び出力506にはトラック要素512が設けられ、このトラック要素512は、被駆動要素504及び出力506と整列したときに力の伝達を可能にするためにピボット運動可能である(図5Bに示すように、被駆動要素504が変位して、運動伝達要素502を押し、ヒンジ510をピボットさせる)。ガイド514内での被駆動要素504及び出力506の回転により、入力508の一方又は両方が変位したとき、どちらの入力(複数可)508が移動したかにかかわらず、トラック要素512を運動伝達要素502が移動する経路に沿って延在させることができる。トラック要素512は、運動伝達要素502の運動経路に沿ってのびているので、運動伝達要素502とトラック要素512との間のVDW力は、一定のままである。明らかなことは、機能に影響するほどの十分な移動抵抗を生じない程度にVDW力の変化が小さいようなより大きなスケールの実装のために、トラック要素512は省略され得る。
【0040】
幾つかの機構において、被駆動要素は、デフォルトで出力と整列しており、変位したときに、これら要素の一方又は両方がデフォルトの整列から外されない限りは出力を変位させるように作用する。このような場合、1つ以上の入力により、要素が整列から外されるか否かを決定することができる。入力は、要素の1つを直接押すことができ、又は要素が通過するガイドを移動させることができる。幾つかの場合において、1つ以上の入力は、被駆動要素と出力との間に介在可能な1つ以上の運動伝達要素を位置決めする役割を果たすことができる。
【0041】
図6A図6DはNORゲート600を提供する機構を示す図であり、NORゲート600は、入力602及び604、被駆動要素606、及び出力608を有する。ゲート600において、被駆動要素606は弾性的に柔軟で且つクロックガイド610内でスライドするものであり、クロックガイド610は、出力608がスライドする出力ガイド612(これは、整列を容易にするために、図示のように裾広がり状であってもよい)と整列する。整列から外れていない場合、被駆動要素が(機械式のクロック信号などによって)動かされると、被駆動要素606は出力608と係合して押し、それによって図6Aに示すように出力608を変位位置(この例では1値)に押し出す。しかしながら、図6B図6Dに示されるように、入力(602、604)のいずれかが伸長される場合(この例ではその1値の位置)、かかる入力(602、604)は傾斜路614によって軸外に押し出され、(入力602の場合には直接、又は入力604の場合には他の入力602を介して)被駆動要素606を整列から外す。注目される点として被駆動要素606はさまざまな位置に変位することができ、幾つかの位置は、ちょうど出力ガイド612に入らない位置であったり、更に整列から反れる位置であったりし、異なる入力値、及び被駆動要素606に対する入力(602、604)と傾斜路614との構成に左右される。被駆動要素606が出力ガイド612に入らないように整列から十分に外れている限り、入力602、604及び被駆動要素606の正確な位置は出力608の位置に影響を与えない。NORゲート600は、出力608を含めて、4つの可動部しかない。ナノスケール機構では、ガイド(610、612)及び傾斜路614は、ダイヤモンドイド材料又は変性CNTによって提供され得るであろうし、可動要素(602、604、606、608)は、ポリイン、ポリテトラフルオロエチレン、ハイドロカーボン又はその置換変異体、グラフェン系構造、あるいは適切な直径、長手方向の剛性及び横方向の柔軟性をもつ他の構造などの、弾力的に柔軟な分子によって提供されうるであろうし、おそらくガイド内移動の抗力が低くなる可能性があるであろう。
【0042】
図7A図7Dは、撓みに基づく機構の他の例であるNORゲート700を示す。ゲート700は3つの可動部のみを採用しており、入力702及び704が共に可撓性のU字型要素706に設けられており、U字型要素706は固定ガイド708内をスライドするものであり、固定ガイド708はU字型要素706を位置決めして入力(702、704)の何れか又は両方が伸長した場合に被駆動要素710に係合してこれを逸らせるものである。被駆動要素710は、固定ガイド712内をスライドする。整列から外れない場合(図示の例では、図7Aに示すように、入力位置(0、0)の場合)、被駆動要素710は、被駆動要素710が伸長したときに、固定ガイド716内をスライドする出力714と係合するように整列させられている。被駆動要素710の複数の位置に応じて出力714の配置がゲート600と同様の結果となる。
【0043】
図7E図7Hは、3つのゲート700A~Cを組み合わせて、被駆動要素710A、710B、710Cによって駆動される異なる論理機構、この例ではAND論理機構750を形成できる方法の一例を示している。整列されることにより、ゲート700Cの入力702C及び704Cは、ゲート700A及び700Bの出力として機能するように配置される。もし入力702A及び702Bがそれらの格納(0値)位置に保持されると、その場合には入力704A及び704Bがそれぞれ入力702C及び704Cの位置を決定し、これによりAND関数が提供され、このAND関数はNAND関数を提供するために反転され得るであろう(出力値の反転については、図3E~4Dに関して上述したとおりである)。対応する被駆動要素(710A、710B)を整列状態から外すように入力(704A、704B)のどちらも伸長されていないか又は1つだけが伸長されている場合(入力値(0、0)、(0、1)、(1、0)の場合)、被駆動要素(710A、710B)のうち少なくとも1つが対応する入力(702C、704C)を押し、被駆動要素710Cを撓ませ、出力714Cを押すことを妨げる(図7E~7Gに示すように)。出力714Cは所定の位置に留まり、ここでは出力値0を表す。両方の入力(704A、704B)が伸長されているとき(図7Hに示すような入力値(1、1))にのみ、被駆動要素(710A、710B)のどちらも対応する入力(702C、704C)を押すように配置されない。そのため、被駆動要素710Cは撓まず、変位時に出力714Cを押すように整列させられる。
【0044】
下記の真理値表は、入力702A及び702Bが変位せずに保持される場合に可能な状態を示していて、結果の出力714Cが「自由」な入力704A及び704BのAND論理関数によって定義される。この出力は、NAND出力を提供するために反転され得る。
【表1】
【0045】
要素を強制的に撓ませる場合に生じ得る問題の1つは、そのような動作により、入力を後退させる傾向のある力を付与する可能性があることである。ある要素が別の要素をブロックするがそのブロック動作が垂直ではなく傾斜方向に向けられる機構では、同様の「後退」力が生じる可能性があり、この場合にはランプ又はカム効果を生み出す傾向があり、或いは、ブロック要素の動作が固定構造ではなくブロックする要素との係合によって制限される機構でも「後退」力が生じる可能性がある。このような「後退」力は、複数の論理機構が採用されたシステムにおいて蓄積される可能性があり、従って、このような力を回避するように及び/又は複数の機構にわたる伝播を阻止するように機構を設計することがしばしば望まれる。このような力を回避するためには、ブロックしている動きに対して直角に動くようなブロック要素を配置することが、一般的なアプローチの1つである。
【0046】
図7Iは半加算器770を示す図であり、上述したNORゲート700と同様のNORゲートをより上位の機構に組み合わせることができる方法の一例を示す。5つのNORゲート772が、幾つかの場合には信号分割器774と共に、一緒に接続され、信号分割器774は単一の入力から複数の出力を提供する役割を果たす。ゲート772は、3つのシーケンシャルクロック入力776によって動作する。二つのデータ入力778によって符号化された値は、順次処理されて、合計出力780とキャリー出力782とに値を提供する。比較のために、図7Jは、半加算器についての従来の論理回路790を示し、これは従来のNORゲート792を用いて作製され得るものである。従来のNORゲートを使用して作製される任意の回路の機能は、既述されたものと同様の機械式のNORゲートを使用することによって提供され得るであろう。
【0047】
図8A~8Cは、複数の入力が、被駆動要素の動きを収容するか、又はそれとともに動かすことが出来る制御要素(成形板として形成)の位置を決定し、それが被駆動要素とともに移動するときに出力を移動する機構の2つの例を示す。制御要素は、同じ機能を提供する少なくとも2つの異なる位置を有する。図8A及び図8Bは機構800を示し、板802は、被駆動要素804から出力806に運動を伝達するために、又は伝達しないために採用される。板802は、(対向するエッジを提供する)板切り抜き808と経路領域810を有する。被駆動要素804は被駆動誘引要素812を有し、出力806は出力誘引要素814を有する。両方の誘引要素(812、814)は、板802に誘引され、したがって、板802によって提供される活性表面と相互作用する係合要素としての役割を果たす。誘引要素(812、814)は、(板802が強磁性材料で形成されている場合)磁石によって提供され得るか、又はファンデルワールス引力が実効的なナノスケール構造における材料であり得る(ナノスケール機構の2つの例が図9A~9Cに示されている)。板802は、被駆動要素804の並進方向に対して垂直に動くコネクタ816に並進可能に取り付けられ、このコネクタは、バランス820に接続される2つの入力818の複合作用により位置決めされる。板802は、入力818のどちらも変位しないか、入力818の一方又は両方が変位するかに依存して、3つの位置に配置することができる。板802は、板802が下側位置(入力値が(0,0)の場合)又は図示のような中間位置(入力値が図示のように(0,1)、又は(1,0)の何れかの場合)の何れかにあるときに、板切り抜き808が被駆動誘引要素812と出力誘引要素814の間に介在するように構成される。説明のために、被駆動要素804と出力806の位置は、3つの垂直位置(そのうちの2つは仮想線で示されている)の板802に対して示されており、垂直方向に移動するのは板802であるにもかかわらず、被駆動要素804と出力806は一定の高さに留まる。板802の下側又は中間位置の何れかにおいて、被駆動要素804の変位は、被駆動誘引要素812を切り抜き808のエッジの1つに対して動かすように作用し、被駆動誘引要素812をエッジを越えて切り抜き808内に押し込むのに必要な作業を避けるために、図8Bの部分図に示すように、板802は被駆動要素804とともに動く。同様に、出力誘引要素814と切り抜きとの相互作用は、出力誘引要素814を切り抜き808に押し込む作業を避けるために、板802と共に出力806を移動させる役割を果たす。入力値(0,0)、(0,1)、又は(1,0)に対応する板802のこれらの位置の何れかにおいて、被駆動要素804の動きが出力806に伝達される。
【0048】
両方の入力818が変位して入力値(1,1)を符号化すると、板802はその上部位置まで上昇し、切り抜き808はもはや被駆動誘引要素812の経路内に配置されず、経路領域810は被駆動誘引要素812と整列する。この位置では、被駆動誘引要素812を任意のエッジを超えて移動させる仕事をする必要性がなく、経路領域810を横切って被駆動誘引要素812を移動させることによって、被駆動要素804の運動を収容することができる。この場合、板802は強制的に移動させられることはなく、板802は被駆動要素804の出力806への運動を伝達しない。その結果、被駆動要素840の移動に応答する出力値は、入力値(0,0)、(0,1)、(1,0)に対して1、入力値(1,1)に対して0となり、NAND関数を提供する。板802は、2つの活性位置、即ち運動伝達位置と、1つの非活性位置、即ち運動収容位置とを有する制御要素であると考えることができる。同様に、板802は、活性部分と非活性部分を有すると考えることができ、活性部分は切り抜き808を含み、活性部分が被駆動要素804と出力806の間に介在するときに運動伝達要素としての役割を果たし、非活性部分は経路領域810を含み、非活性部分が被駆動要素804と出力806の間に介在するときに被駆動要素804の運動を収容可能である。板802において、切り込み808は、被駆動要素804及び出力806の運動方向に対して垂直なエッジで構成されており、これらの要素の運動による板802の不要なカム状の付勢を回避するようになっている。代替的な機構では、1つの入力だけが変位したときに、経路領域も被駆動要素の動きを受け入れるように位置決めされるように、短い切り抜きと2倍の幅の経路領域を有する板を使用し得る。このような機構の板は、1つの活性位置と2つの非活性位置を有し、NOR関数を提供するであろう。
【0049】
図8Cは、機構800と類似しているが、XOR機能を提供するように構成された異なる板852を採用する機構850を示す。それ以外は、上述の事項は機構850にも適用される。板852は、板850が入力位置(1,1)に対応するその上部位置、又は入力値(0,0)に対応するその下部位置の何れかにあるときに、被駆動要素804の動きを収容可能な一対の経路領域856によって括られた小さい切り抜き854を有する。入力値(0,1)又は(1,0)の場合、板852は(図示の通り)その中間位置にあり、切り抜き854は被駆動誘引要素812の経路を遮るように配置され、したがって被駆動要素804の動きは板852によって出力806に伝達される。この場合、板852は、1つの活性位置と2つの非活性位置とを有する。
【0050】
図9A及び図9Bは、上述した機構(800、850)と同様の、被駆動要素902から出力904への運動の収容又は伝達の原理を使用する機構900を示す。機構900は、バランス908に接続される2つの入力906を有し、このバランス908が、コネクタリンク912を介してコネクタ910を位置決めする。コネクタリンク912は、コネクタ910が被駆動要素902及び出力904の運動に平行な方向に並進することを可能にするコネクタスリーブ914を有し、運動方向に垂直な方向におけるコネクタ910の位置は、入力906の組み合わせ位置に基づいて決定される。
【0051】
コネクタ910は、非接触力(NCF)を介して被駆動板916及び出力板918と係合し、その何れか又は両方は、入力906の位置に対して所望の論理応答を提供するように成形することができる。被駆動要素902の動きが出力904に伝達されるか否かは、コネクタ910の位置と板(916、918)の構成によって決定される。機構900において、被駆動板916はL字形であり、エッジ920と経路領域922とを有し、入力906の両方が変位するときにのみコネクタ910が経路領域922と整列するように構成されている。コネクタ910が、入力906のどちらも変位しないか又は一方のみが変位する結果の位置の何れかにあるとき(入力(1,0)について図9Aに示す中間位置など)、被駆動板916の変位は、コネクタ910の方向にエッジ920を動かすように作用する。コネクタ910は、エッジ920を越えて移動するためにNCFバリアに打ち勝たなくてもよいように、被駆動板916と共に移動する。同様に、コネクタ910と出力板918との間のNCF力は、コネクタ910と共に出力板を移動させるように作用する(図9Aにおいて仮想線で示すように)。コネクタ910は、板(916、918)と係合するための拡径端部924を持つように形成されている。
【0052】
コネクタ910が入力906の両方の変位によって位置決めされると(図9Bの部分図に示すように)、被駆動板916の経路領域922と整列し、したがって被駆動板916の動きは、コネクタ910が単に経路領域922に沿って移動することによって収容でき、NCFの変化はない。コネクタ910が移動しないので、この場合、動きは出力板918に伝達されない。出力904の変位は、入力値(0、0)、(0、1)、及び(1、0)に対して起こるが、入力値(1、1)に対しては起こらず、2つの入力906について実行されるNAND論理機能を提供する。機構900は、図8A及び図8Bに示されるNANDゲート機構800と原理的に類似しており、被駆動板及び/又は出力板は、代替応答を提供するように構成され得る。例えば、短いエッジと2倍の幅の経路領域を有し、NOR機能を提供する板や、XOR機能を提供するためにエッジを括る2つの経路領域を有する板(図8Cに示す機構850のものと同様)などが挙げられる。さらに、コネクタの位置に対して複数の位置、及び/又は異なるエッジ間隔を持つ板を形成し、コネクタの異なる位置に対して出力を異なる距離に移動させ得る。
【0053】
本明細書で教示される機械式論理構造の多くは、メカノシンセシスによる分子的作製を含むナノスケール作製によく適している。一例として、機構900は、摩擦を低減するためにコネクタ910に接触するためのグラフェン表面を任意に有するダイヤモンド材料(例えば、ダイヤモンド又はロンズデーライトなど)から形成される板(916、918)を採用し得る。被駆動要素902、出力904、入力906、バランス908、コネクタ910、及びコネクタリンク912はすべて変性CNTから形成することができ、コネクタ910はファンデルワールス引力によって板(916、918)に係合する。これらの要素は、より大きなCNTから形成されるスリーブ(コネクタスリーブ914など)に摺動可能に取り付け可能であり、例えば、摺動要素(902、904、906、910、912)が10-0CNTから形成されている場合、スリーブは18-0CNTから形成することができる。同様に、入力906及びコネクタリンク912は、18-0CNTの一部を介してバランス908に係合し、回動接続を提供することができる。
【0054】
図9Cは、機構900と機能的に類似しているが、出力板952が被駆動板916の上に部分的に重なっており、板(910、952)の間にコネクタ956の拡径端部954が配置されている機構950の部分図である。板(910、952)の重ね合わせにより、機構900と比較して機構950の全体の体積が小さくなる。図9Cはまた、ガイドスリーブ958がアンカー962(そのうちの1つだけが示されている-異なるガイドスリーブ958用のアンカーは単一の剛性構造の一部であり得る)に貼付される支持体960に取り付けられる方法の一例を示している。アンカー962は、ロンズデーライトのようなダイヤモンド又はダイヤモンドイド材料の表面であり得る。支持体960は、9―0CNTで形成されたベース部964を採用することによってアンカー962に結合することができ、ベース部964をそれに結合するのを容易にするために、ロンズデーライトの六角形の配列に厳密に一致する炭素原子の配列を提供する。図示された支持体960はそれぞれ、18-0CNTの短い部分によって形成される移行部966と、10-0CNTの一部によって形成されるスリーブ装着部968を有する。10-0CNTは、スリーブ958として機能する18-0CNTと安定したT分岐を形成し、10-0及び9-0CNTの両方が移行部966の18-0CNTに移行可能である。さらに、移行部966の18-0サイズは、スリーブ958の18-0CNTのサイズと一致するので、各組のスリーブ958を互いに接触させて配置すると、移行部966が互いに接触することにもなり、支持体960の間隔を安定させる役割を果たす。
【0055】
本発明は、特定の実施例を参照して説明されているが、本発明の利益を得るために他の機構も可能である。従って、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲は、本明細書に含まれる特定の実施例の説明に限定されるべきではない。
【0056】
本出願は、参照による取り込みが適切である法域において、出願人が以前に出願した米国仮出願63/083,265及び63/083,276、並びに効率的で製造可能な機械式コンピューティング(Efficient and Manufacturable Mechanical Computing)と題する同時出願(ドケット番号COMP-002-PCT)及び機構における非接触力マネジメント(ドケット番号MECH-003-PCT)の開示を、参照して組み込むものである。米国特許の第10,481,866号、第10,664,233号、第10,949,166号、第8,171,568号、第8,276,211号、第9,676,677号、第10,067,160号、第10,072,031号、第10,138,172号、第10,197,597号、第10,308,514号、第10,309,985号、第10,822,229号、第10,822,230、第10,683,924号、米国特許出願公開2021/0149630号、及び国際特許出願PCT/US2020/031は、かかる組み込みが適切な法域において参照によりすべて本明細書に組み込まれる。
【要約】
論理機構は、2つ以上の機械式の入力の位置に基づいて少なくとも1つの機械式の出力の位置を定義するように動作し、出力が移動するかどうかを(少なくとも部分的に)決定するように機能し、且つ2つ以上の位置で同じ機能を提供する少なくとも1つの制御要素を採用する。幾つかの機構は、入力位置に基づいて、出力に動きを伝達する経路が存在するかしないかを決定するように構成される。幾つかの機構は、入力位置に基づいて、出力を動かすことなく被駆動要素の動きを収容可能か否かを決定するように構成される。
【選択図】図1A
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A-2B】
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図8A-8C】
図9A
図9B
図9C