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特許7367267眠気度推定装置、眠気度推定装置を備えた機器および空調装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】眠気度推定装置、眠気度推定装置を備えた機器および空調装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20231016BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/02 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023541007
(86)(22)【出願日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2023002795
【審査請求日】2023-07-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514116671
【氏名又は名称】株式会社カレアコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 怜司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一雄
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003549(WO,A1)
【文献】藤田悦則,指尖容積脈波情報を用いた入眠予兆現象計測法の開発,人間工学,2005年,Vol.21,No.4,pp.203-212
【文献】鈴木桂輔,森林系エアサプリメントがドライバの運転行動に及ぼす影響,日本機械学会論文集,2006年,(C編) 72巻723号 論文No.06-0152,pp.3584-3592
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの脈波を検出するドップラーセンサーと、
前記ドップラーセンサーで検出された前記脈波を解析する解析部と、を備え、
前記解析部は、前記脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて前記脈波を数値化した指標値を生成し、前記指標値に基づいて前記ユーザの眠気度を推定し、推定した前記眠気度に関する眠気度情報を出力するものであり、
前記カオス解析は、
前記脈波形状変位の時系列データと予め設定した遅延時間とから特定されるベクトルを計算するステップと、
前記ベクトルを3次元以上の多次元状態空間内に時系列順に配列したアトラクターを生成するステップと、
前記アトラクターの軌道に初期状態として超球を与え、前記超球を、前記軌道に基づいて予め設定されたスライド時間毎に引きのばす作業をくり返して、前記超球が楕円体となる拡大率を、前記指標値であるリアプノフ指数として計算するステップと、を順次実施する処理であり、前記指標値は、前記軌道が前記初期状態から離れていく度合いを示し、前記指標値が大きくなるほど脳活動の度合いが高いことを示し、
前記解析部は、前記指標値が大きいほど前記眠気度が低いことを示し、前記指標値が小さいほど前記眠気度が高いことを示す前記眠気度情報を出力し、
前記眠気度情報は、現在の眠気度または時系列の眠気度またはその両方を示す情報である眠気度推定装置。
【請求項2】
前記ドップラーセンサーは、前記ユーザの脈拍を検出し、
前記解析部は、前記指標値に基づいて前記ユーザの脳活動の度合いを推定すると共に、前記脈拍に基づいて前記ユーザの自律神経活動の度合いを推定し、前記脳活動の度合いと前記自律神経活動の度合いとに基づいて、前記眠気度を推定する請求項1記載の眠気度推定装置。
【請求項3】
ユーザの脈波を検出するドップラーセンサーと、
前記ドップラーセンサーで検出された前記脈波を解析する解析部と、を備え、
前記解析部は、前記脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて前記脈波を数値化した指標値を生成し、前記指標値に基づいて前記ユーザの眠気度を推定し、推定した前記眠気度に関する眠気度情報を出力するものであり、
前記ドップラーセンサーは、前記ユーザの脈拍を検出し、
前記解析部は、前記指標値に基づいて前記ユーザの脳活動の度合いを推定すると共に、前記脈拍に基づいて前記ユーザの自律神経活動の度合いを推定し、前記脳活動の度合いと前記自律神経活動の度合いとに基づいて、前記眠気度を推定する眠気度推定装置
【請求項4】
前記解析部は、
前記脳活動の度合いが前記眠気度に与える影響の大きさを示す第1寄与度と、前記自律神経活動の度合いが前記眠気度に与える影響の大きさを示す寄与度であって前記第1寄与度よりも小さい第2寄与度とを有し、
前記脳活動の度合いと前記自律神経活動の度合いとに加えて、前記第1寄与度と前記第2寄与度とに基づいて前記眠気度を推定する請求項2又は請求項3に記載の眠気度推定装置。
【請求項5】
前記第1寄与度は6割以上8割以下であり、
前記第2寄与度は2割以上4割以下である請求項に記載の眠気度推定装置。
【請求項6】
前記解析部は、
前記指標値に基づいて、ある時点の前記ユーザの眠気度である1点眠気度を計算する1点眠気度計算部と、
前記1点眠気度の短区間の時系列データを平均処理して短区間眠気度を計算する短区間眠気度計算部と、
前記短区間よりも長い長区間の前記1点眠気度または前記短区間眠気度の時系列データを平均処理して長区間眠気度を計算する長区間眠気度計算部と、
前記短区間眠気度と前記長区間眠気度とに基づいて前記ユーザの眠気度の変化を推定する眠気度変化推定部と、を備えた請求項1~請求項のいずれか一項に記載の眠気度推定装置。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の眠気度推定装置と、
前記眠気度推定装置から出力された前記眠気度情報に基づいて機器本体の運転を制御する制御装置と、を備えた機器。
【請求項8】
表示を行う表示部を備え、
前記表示部は、前記解析部から出力された前記眠気度情報を表示する請求項に記載の機器。
【請求項9】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の眠気度推定装置と、
室内空間を空調する空調部と、
前記眠気度推定装置から出力された前記眠気度情報に基づいて前記空調部を制御する制御装置と、を備えた空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ユーザの眠気の度合いである眠気度を推定する眠気度推定装置、眠気度推定装置を備えた機器および空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度検知手段で取得した室内の温度情報と、撮像手段で取得したユーザの画像から判別した眠気を示す動作と、ユーザの表面温度と、年齢または性別に応じたデータベースと、に基づいてユーザの眠気度を推定する眠気度推定装置がある(例えば、特許文献1参照)。この眠気度推定装置は、眠気度が上昇している場合、頬杖をつくといった動作をとるなどを前提として眠気度を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-082282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の眠気度推定装置は、頬杖をつくと眠気度が上昇しているなど、予め想定した前提に基づいて眠気度を推定している。しかし、頬杖をついたからといって眠気度が上昇しているとは限らず、特許文献1の眠気度推定装置は、推定精度の向上に改善の余地が大いにあった。
【0005】
上記のような問題点を解決するためのものであり、眠気度を高精度に推定することが可能な眠気度推定装置、眠気度推定装置を備えた機器および空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る眠気度推定装置は、ユーザの脈波を検出するドップラーセンサーと、ドップラーセンサーで検出された脈波を解析する解析部と、を備え、解析部は、脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて脈波を数値化した指標値を生成し、指標値に基づいてユーザの眠気度を推定し、推定した眠気度に関する眠気度情報を出力するものであり、カオス解析は、脈波形状変位の時系列データと予め設定した遅延時間とから特定されるベクトルを計算するステップと、ベクトルを3次元以上の多次元状態空間内に時系列順に配列したアトラクターを生成するステップと、アトラクターの軌道に初期状態として超球を与え、超球を、軌道に基づいて予め設定されたスライド時間毎に引きのばす作業をくり返して、超球が楕円体となる拡大率を、指標値であるリアプノフ指数として計算するステップと、を順次実施する処理であり、指標値は、軌道が初期状態から離れていく度合いを示し、指標値が大きくなるほど脳活動の度合いが高いことを示し、解析部は、指標値が大きいほど眠気度が低いことを示し、指標値が小さいほど眠気度が高いことを示す眠気度情報を出力し、眠気度情報は、現在の眠気度または時系列の眠気度またはその両方を示す情報であるものである。
【0007】
本開示に係る機器は、上記の眠気度推定装置と、眠気度推定装置から出力された眠気度情報に基づいて機器本体の運転を制御する制御装置と、を備えたものである。
【0008】
本開示に係る空調装置は、上記の眠気度推定装置と、室内空間を空調する空調部と、眠気度推定装置から出力された眠気度情報の眠気度に基づいて空調部を制御する制御装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、眠気度推定装置、眠気度推定装置を備えた機器および空調装置は、ドップラーセンサーで検出した脈波の波形形状の時系列変位に基づいて生成した指標値に基づいて眠気度を推定できる。ここで、脈波は、心臓の脈動ひいては脳の神経系の活動に関連しているバイタルデータであり、眠気度推定装置は、このような脈波に基づいて数値化した指標値に基づいて眠気度を推定するため、眠気度を高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る眠気度推定装置の構成および眠気度推定装置の利用構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係るドップラーセンサーのアンテナ面の模式図である。
図3】実施の形態1に係るドップラーセンサーの基板部品実装面の模式図である。
図4】実施の形態1に係るドップラーセンサーで検出された脈波の例を示す図である。
図5】実施の形態1に係る眠気度推定装置の脈波形状変位の時系列データを示す図である。
図6】実施の形態1に係る眠気度推定装置のカオス解析におけるアトラクターの概念図である。
図7】実施の形態1に係る眠気度推定装置におけるリアプノフ指数化の概念図である。
図8】リアプノフ指数と、中枢神経系の脳活動が異なる様々な行動と、の関係性を棒グラフで示す図である。
図9】ワーク中のリアプノフ指数の変化例を示す図である。
図10】実施の形態1に係る眠気度推定装置における眠気度の推定処理のフローチャートである。
図11】公知例で用いられているWORFの手法の説明図である。
図12】実施の形態2に係る眠気度推定装置の構成および眠気度推定装置の利用構成を示すブロック図である。
図13】実施の形態3に係る眠気度推定装置の解析部のブロック図である。
図14】実施の形態3に係る眠気度推定装置1において計算される1次短区間眠気度、2次短区間眠気度および長区間眠気度の概念図である。
図15】実施の形態3に係る眠気度推定装置の解析部の処理の概略を示すフローチャートである。
図16】実施の形態4に係る空調装置の構成を示す図である。
図17】実施の形態4に係る空調装置のブロック図である。
図18】実施の形態4に係る空調装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略または簡略化する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る眠気度推定装置1の構成および眠気度推定装置1の利用構成を示すブロック図である。図2は、実施の形態1に係るドップラーセンサー10のアンテナ面の模式図である。図3は、実施の形態1に係るドップラーセンサー10の基板部品実装面の模式図である。眠気度推定装置1は、ユーザの眠気度を推定する装置である。眠気度推定装置1は、眠気度を数値化することで、眠気度を客観化できる。
【0013】
眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10と解析部103とを有する。ドップラーセンサー10は、マイクロ波帯または準ミリ波帯と呼ばれるおよそ24GHzの一定正弦波の電波を、眠気度の推定対象のユーザに向けて発振する。ユーザの体表面は、心臓の脈動に伴う血流の変化で血管が動くことで変位しており、ユーザの体表面とドップラーセンサー10との距離が変化すると、ドップラー効果によってユーザの体表面で反射した反射波が変化する。
【0014】
ドップラーセンサー10は、血管の動きに応じたユーザからの反射波を受信し、反射波とドップラーセンサー10から発振された送信波との周波数差に基づいてユーザの中枢神経系の脈波を検出する。脈波とは、心臓の脈動による人の体表面の動きの変化を示す波形であり、血管の動きの変化の波形および心臓部分の体表面の変化の波形を含む。血管はユーザの体内の至る部分に通っており、ドップラーセンサー10は、心臓でなくても頭の一部または腕の一部などユーザの体の一部を対象として血管の動きを検出できる。
【0015】
ところで、距離測定用途では、60~79GHzの測定周波数が分解能の高さから用いられることが多い。しかし、ここでは動きの大きい体動などとは異なり脈波の検出を目的としており、約1Hzという超低周波特性の微小なゆらぎを解析する必要がある。このため、24GHzのドップラー方式によるアナログ検出は脈波の検出に好適である。
【0016】
ドップラーセンサー10は、上記のように電波を用いることで、ユーザの脈波を非接触で検出できるメリットを有する。よって、ドップラーセンサー10は、ユーザの体表面の広い範囲を測定対象とできる。なお、ドップラーセンサー10は、脈波のピーク間隔を解析することで、脈拍数、呼吸数、体動、睡眠状態および自律神経バランスといったバイタルデータを測定できるものであるが、実施の形態1では脈波の検出に用いられる。
【0017】
なお、脈波の検出センサーは、非接触型のセンサーであるドップラーセンサーの他、ユーザに接触して検出を行う接触型センサーもある。接触型で脈拍を測定する機器は多数あるが、ウエアラブル機器には光電方式の脈波センサーがよく使われる。脈波センサーは、心臓が血液を送り出すことに伴い発生する、血管の容積変化を波形としてとらえるもので、この容積変化をモニターする検知器を備えている。脈波センサーは、得られた脈波のピークとピークとの間隔を数えることで、脈拍間隔を得ることができる。1分間あたりの脈拍数は、脈拍間隔を逆数にすることで算出できる。例えば、脈拍間隔が平均で800ms(0.8秒)であると、脈拍数は、60÷0.8で1分間に75回となる。
【0018】
脈波センサーには、測定方法の違いから透過型と反射型とがある。透過型の脈波センサーは、赤外線または赤色光を体表面に照射し、心臓の脈動に伴って変化する血流量の変化を、体内を透過する光の変化量として計測することで脈波を測定できる。ただし、透過型の脈波センサーでは、測定できる個所が、指先または耳たぶなど赤外線または赤色光が透過しやすい個所に限定されてしまう。
【0019】
反射型の脈波センサーは、赤外線、赤色光、または550ナノメートル付近の緑色波長の光を生体に向けて照射し、フォトダイオードまたはフォトトランジスタを用いて、生体内を反射した光を計測する。動脈の血液内には酸化ヘモグロビンが存在し、入射光を吸収する特性がある。このため、反射型の脈波センサーは、心臓の脈動に伴って変化する血流量(血管の圧力変化)を時系列にセンシングすることで脈波信号を計測できる。具体的には、脈波センサーは、発光素子と受光素子とを備え、発光素子から光を照射し、手の指で反射された反射光を受光素子で検出する。指で反射した光の強度は、指先の毛細血管を流れるヘモグロビンの増減量を表し、反射型の脈波センサーは、ヘモグロビンの増減量(血流量)に応じた脈波時系列データを得ることができる。このように反射型の脈波センサーは、反射光による計測のため、透過型のように測定箇所を限定する必要がない。
【0020】
ただし、脈波センサーのような接触型のセンサーは、装着して測定する必要があり、装着が煩わしく、また、離れたところから測定ができないなどの課題がある。このため、眠気度推定装置1は、ユーザの脈波を測定するセンサーとして、非接触型であるドップラーセンサー10を用いる。眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10を用いることにより、非接触でユーザの脈波を取得でき、ユーザがセンサーを装着する必要が無いため、ユーザにセンサーの装着の煩わしさを与えることなく、眠気度の推定に必要なデータを取得できる。また、眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10を用いることにより、ユーザの体表面の広い範囲を脈波の測定対象とすることができる。
【0021】
ドップラーセンサー10は、受信信号に発振信号をミキシングし、ドップラー効果による変動成分を抽出して、IQ信号の脈波を生成する。ドップラーセンサー10は、具体的には、アンテナ部100と、無線部101と、アナログ回路部102と、基板部10aと、を有する。アンテナ部100は、中枢神経活動であるユーザの脈波を取得する部分である。アンテナ部100は、発振部であるTXと、受信部であるRXと、を有する。アンテナ部100は、図2に示すように複数(ここでは12個)のアンテナ100aを有する。TXおよびRXは、それぞれここでは6個のアンテナ100aを有している。
【0022】
無線部101は、RF(Radio Frequency)と呼ばれる24GHzの電波を作り出し、TXから電波を発振して、RXで反射波を受信する。アナログ回路部102は、反射波をIQ検波してIQ信号に変換し、反射波のドップラー変化である周波数成分を変換する回路部を有する。また、アナログ回路部102は、図3に示すように必要な周波数帯を取り出して増幅するアナログ増幅フィルター部(OPAMP)と、数値解析を可能にするためのアナログデジタル変換部(LDO)と、を有する。
【0023】
基板部10aは、解析部103または眠気度推定装置1を備えた機器に情報を出力するためのコネクタ部およびメモリーなどを備えている。無線部101、アナログ回路部102および解析部103は、図3に示すように金属製のシールドケースで覆われている。図3において、シールドケース部分をドットで示している。
【0024】
解析部103は、ドップラーセンサー10で検出された脈波を解析する部分である。解析部103は、脈波の波形形状(以下、脈波形状という)の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて脈波を数値化した指標値を生成し、指標値に基づいて眠気度を推定する。解析部103における眠気度の推定については改めて説明する。解析部103は、眠気度の推定結果を示す眠気度情報を出力する。眠気度情報とは、眠気度に関する情報である。解析部103から出力された眠気度情報は、後述の制御内容決定部104またはクラウド部106などに入力される。
【0025】
解析部103は、マイクロプロセッサユニットにより構成されている。解析部103は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを備えており、ROMには制御プログラムなどが記憶されている。なお、解析部103は、マイクロプロセッサユニットに限定するものではない。例えば、解析部103は、ファームウェアなどの更新可能なもので構成されていてもよい。また、解析部103は、プログラムモジュールであって、図示しないCPUなどからの指令により、実行されるものでもよい。また、解析部103は、ドップラーセンサー10の外部にドップラーセンサー10とは別体として備えても良いし、ドップラーセンサー10内の基板上に備えて1つのセンサー内でエッジ処理しても良い。
【0026】
解析部103で推定された眠気度は、眠気度推定装置1を備えた機器の制御に用いることができる。眠気度推定装置1を備えた機器とは、具体的には例えば空調装置などがあるが、その詳細については後述の実施の形態4で改めて説明する。眠気度推定装置1を備えた機器は、制御内容決定部104と、機器制御部105と、を有する。制御内容決定部104は、入力された眠気度情報に基づいて機器の制御内容を決定し、制御データを生成して機器制御部105に出力する。機器制御部105は、制御内容決定部104からの制御データに基づいて機器の各種アクチュエータを制御する。
【0027】
また、眠気度推定装置1の利用形態として、解析部103から出力された眠気度情報はクラウド部106に入力されてもよい。クラウド部106は、解析部103から入力された眠気度情報を蓄積する。解析部103は更に、ドップラーセンサー10で得られた脈波データであるバイタルデータ自体を出力してクラウド部106に蓄積させてもよい。クラウド部106に蓄積された眠気度情報およびバイタルデータは、表示部107に表示することで視覚化できる。また、クラウド部106に蓄積された眠気度情報およびバイタルデータは、視覚化することに限られず、クラウド部106を介して別のクラウドからデータ収集部108に提供して、様々な用途に活用することもできる。
【0028】
表示部107は、表示を行う液晶パネルなどのディスプレイである。表示部107は、スマートフォンの表示部でもよく、スマートフォンにインストールされたアプリケーション上に眠気度情報を表示して視覚化するものでもよい。
【0029】
ところで、従来の撮像手段で取得した画像から人の眠気度を推定する方式では、頬杖をつくと眠気度が上昇しているなど、予め想定した前提に基づいて眠気度を推定している。しかし、頬杖をついたからといって眠気度が上昇しているとは限らず、この方式では、推定精度の向上に改善の余地がある。また、従来、脳波計を用いて人の感情を推定する装置があるが、脳波のα波およびβ波の定量化が簡単ではない。また、脳波計を用いた推定装置は、推定処理にあたってある一定期間の測定データが必要であるためリアルタイムに推定を行えない、脳波計を頭に装着する必要がある、システムが複雑化する、といった実用性および分析時間の課題があった。
【0030】
これに対し、本実施の形態1の眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10を用いて非接触で検出した脈波から、以下に説明するカオス解析によって眠気度を短時間で推定できる。
【0031】
ここで、カオス解析の詳細について説明する。生理心理学は、生体信号に現れる生理的変化から、人の生理状態および心理状態の推定を行うものである。従来の生理心理学において、種々の生体信号である脳波、心電図、心拍間隔、血圧および呼吸指尖容積脈波などが様々な手法を用いて解析され、多くの知見が得られてきた。しかし、多くの解析の大半は、線形理論に基づく解析手法が主流であった。しかしながら、生体信号には非線形的性質が含まれており、これらはカオス(chaos)と呼ばれる非線形的性質により変動することが知られている。カオスとは、システムの状態遷移規則が決定論的であるにも関わらず、システム自体の非線形性によって確率系と等価な複雑さを生み出す現象のことを指す。対象の状態は、方程式などによって決定論的に記述されうるが、対象の状態の様相には法則性が見出せず、様相はランダムネスのような非常に複雑な挙動を表す。
【0032】
しかし、カオス現象は、一見無秩序に見えるものの、実際にその背景に確固たる規則が存在する現象である。言い換えると、次に起こる現象が確率で決まるのではなく、ある一定のルールに従って決定論的に決まるのである。規則に従っているのに対象が無秩序に見えるのは、その対象を構成する要素の一つ一つの動きが、単純であっても、集合体として振る舞うと複雑になるからである。その複雑系から産出される生体信号には、カオス情報が存在する可能性が高いと判断されてきた。
【0033】
近年、人の生理心理状態を推定するカオス解析(chaos analysis)の有効性が様々な実験により証明されている。従来のカオス解析では、人が感じる温冷感または心理状態など、一義的に決まらない情報をカオス対象として、カオス解析することで、一見関連性がなさそうな情報から関連性を見出している。カオス解析では、何をカオス対象とするかが重要である。対象とするものが変わると、それは全くの別の概念となる。
【0034】
眠気度推定装置1は、中枢神経系の脳活動をカオス対象としている。従来、中枢神経系の脳活動をカオス対象としたものはない。眠気度は、中枢神経系の脳活動に深く関連している。このため、眠気度推定装置1は、中枢神経系の脳活動をカオス対象とし、カオス解析の結果に基づいて眠気度を推定する。眠気度推定装置1は、波形自体の動き方に着目した脈波形状ゆらぎを解析元にしてカオス解析する。脈波形状ゆらぎは、脈波の波形形状の変位の時系列データ、言い換えれば、脈波の波形形状の時系列変位データで表現される。眠気度推定装置1は、脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて脈波を数値化した指標値を生成し、指標値に基づいてユーザの眠気度を推定する。
【0035】
カオス解析は、以下の(1)~(3)の3つのステップを順次実施するものである。なお、各ステップの詳細については改めて説明する。
(1)第1ステップは、脈波形状変位の時系列データと予め設定した遅延時間とから特定されるベクトルを計算するステップである。
(2)第2ステップは、ベクトルを3次元状態空間内に時系列順に配列したアトラクターを生成するステップである。
(3)第3ステップは、アトラクターの軌道に基づいて指標値であるリアプノフ指数を計算するステップである。
【0036】
ところで、心臓の脈動間隔は1拍毎に変動があるが、その起源は脳にあり自律神経を通じて心臓に伝達されている。そこで、本発明者らは、眠気度を推定するにあたり、自律神経系に限らず中枢神経系にも心臓の脈動との関連があると考え、心臓の脈動と脳活動の度合いとの相関性を見出すことで、最終的に眠気度を推定することに着想した。
【0037】
また、従来、脈拍の変化を利用して脳の覚醒度合いを推定する技術がある。脳の覚醒度合いは、眠気度とは逆の指標と捉えることができる。脳の覚醒度合いを推定する技術は、例えば、脈拍の変化が大きければ覚醒度合いが高い状態にあり、脈拍の変化が小さければ覚醒度合いが低く眠気が働いている状態にある、と判断する技術である。脈拍の変化は、脈波のピークとピークとの間隔の時間変動であり、脈波のピーク情報のみをピンポイントで使用して検出される。以下、脈波のピークとピークとの間隔の時間変動を1次元パターン脈拍変位または脈拍ゆらぎと呼ぶことがある。脈波のピークとピークとの間隔の時間変動には脈波の高さは関係なく、脈拍間隔の変位のみから周波数変換してバイタルデータを得るので、1次元と表現している。
【0038】
上記従来の覚醒度合いを図る技術は、脈拍の変化を用いた技術であるが、本発明者らは、脈拍の変化だけでは生体の複雑な神経活動情報を判断しきれないと考えた。そして、本発明者らは、脈波のピーク情報のみのピンポイント検出とは違う方法を模索し、脈波波形の変位に着目するに至った。ただし、ピーク間隔ゆらぎと、脈波自体の波形から波形への2次元の波形パターンのゆらぎと、のそれぞれの複雑さを比較すると、2次元の波形パターンのゆらぎ(つまり脈波形状のゆらぎ)の複雑さは、1次元の脈拍間隔のゆらぎに対して比較にならないほど複雑である。これは、脈波形状ゆらぎが、6層の大脳皮質からなる神経細胞活動に関連しているからと考えられる。このため、本発明者らは、従来の解析手法ではなく、脳活動引いては眠気度を解析するための手法としてカオスを用いることとした。
【0039】
次に、眠気度推定装置1の解析部103で行われるカオス解析について説明する。まず、解析部103は、ドップラーセンサー10から脈波を得る。次の図4は、ドップラーセンサー10で検出された脈波の例を示している。
【0040】
図4は、実施の形態1に係るドップラーセンサー10で検出された脈波の例を示す図である。図4の横軸は時間、縦軸はアナログ脈波高さを示している。ここで脈波高さとは、パワーである。脈波高さは、最も脈波のパワーが高いピーク部分のみのパワーを指し示す言葉ではなく、脈波のピーク部分を含む時系列における時間毎のパワーのことである。ドップラーセンサー10は図4に示すアナログ波形を得て解析部103に出力する。脈波高さは、ドップラーセンサー10と測定対象のユーザとの距離が離れるにつれて減少する。しかし、本実施の形態1のカオス解析では、脈波高さの変位を解析するため、脈波の数値化においては脈波高さの絶対値は必要な情報ではない。ただし、脈波高さが大きい方が、脈波形状が明確になり、後述のアトラクター化の精度は高まる。このため、ドップラーセンサー10からユーザまでの距離は近いほうが好ましい。
【0041】
解析部103は、脈波形状の時系列データの解析にあたり、精度確保に必要な脈波高さを得たい場合には、次のようにすればよい。解析部103は、脈波高さの偏差を算出し、偏差が予め設定された閾値より小さい場合、入力信号増幅率を自動的に調整し、アナログ脈波波形を疑似的に大きくする。こうすることで、脈波の形状が明確になり、解析部103は、ドップラーセンサー10からユーザ迄の距離が遠くても精度の高い解析を行える。
【0042】
例えば、ドップラーセンサー10からユーザ迄の距離が近い場合は、入力信号倍率は1倍でよい。一方、ドップラーセンサー10からユーザ迄の距離が遠くなるに連れて脈波自体が小さくなり、脈波形状の変位が見にくくなって偏差も小さくなる。このため、解析部103は、偏差の小ささに応じて倍率を決めればよい。具体的には例えば、解析部103は、偏差が第1閾値よりも小さい場合は、入力信号倍率を2倍に設定し、偏差が第1閾値よりも小さい第2閾値よりも小さい場合は、入力信号倍率を3倍に設定するなどとすればよい。つまり、解析部103は、ドップラーセンサー10からユーザ迄の距離が遠いほど、入力信号増幅率を自動的で大きくして、アナログ波形を大きくする。これにより、解析部103は、ドップラーセンサー10からユーザ迄の距離が遠くても、脈波形状ゆらぎ(脈波形状の時系列変位データ)の解析が可能になる。
【0043】
また、ドップラーセンサー10からユーザ迄の距離が同じでも、幼児などユーザの面積および血管に送る血流のパワーが小さい場合、脈波レベルが小さいので解析がしにくくなる。このため、解析部103は、ユーザの面積が小さいほど、また、脈波高さの偏差が小さいほど、入力信号増幅率を自動的で大きくして、アナログ波形を大きくする。これにより、解析部103は、脈波レベルが小さい場合に解析しにくい問題を解決できる。
【0044】
次に、解析部103は、脈波形状から後述のアトラクターを生成する。脈波形状とは、脈波の2次元波形パターンである。脈波の波形から波形への脈波形状の時系列データは、規則を見出すのは困難なデータであるものの、脈波形状の時系列データをアトラクターに変換すると、一定のパターンが存在している。アトラクターとは、ある力学系がそこに向かって時間発展をする集合のことである。ある力学系においてアトラクターに十分近い点から運動するとき、その系は、そのアトラクターに十分近いままであり続ける。アトラクターに含まれる軌道は、そのアトラクターの内部にとどまり続けること以外に制限はない。
【0045】
次に、解析部103で行われるカオス解析の第1ステップから第3ステップを順に説明する。本実施の形態1は、中枢神経系の脳活動をカオス対象とし、カオス解析の解析元に、脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を用いたことを特徴としており、カオス解析の手法自体は従来公知の手法を用いる。このため、以下のカオス解析の説明では、概要を説明する。
【0046】
(第1ステップ)
第1ステップは、上述したように脈波形状変位の時系列データと予め設定した遅延時間とから特定されるベクトルを計算するステップである。
【0047】
図5は、実施の形態1に係る眠気度推定装置1の脈波形状変位の時系列データを示す図である。図5の横軸は時間、縦軸はアナログ脈波高さを示している。x(i)(i=1、2、…、n)は、ドップラーセンサー10にて得られたセンサデータに基づく脈波形状の時系列データである。x(i)のときの脈波高さとx(i+1)のときの脈波高さとの差が脈波形状変位である。なお、x(0)は、計算窓長の時間で得られたセンサデータの初期値である。計算窓長とは、任意に設定した時間長さであり、例えば20秒などである。計算窓長が短い方が計算は早くできるが、計算窓長が長い方が脈波形状の形状データが多く、精度が高い。
【0048】
この時系列データを用いて、2次元の時系列変化をd次元状態空間に埋め込むために、言い換えればd次元状態空間の中に軌跡を描くために、解析部103は、適当な遅延時間となる時間遅れτを設定してベクトルをつくる。具体的には、解析部103は、ベクトルX(i)={x(i)、x(i+τ)、x(i+2τ)、…、x(i+(d-1)τ)}をつくる。例えば、dを3とし、2次元の時系列変化を3次元状態空間に埋め込むとすると、解析部103は、状態変数の個数が3個であるベクトルをつくる。3次元状態空間の場合のベクトルX(i)は、X(i)={x(i)、x(i+τ)、x(i+2τ)}である。i=1、2、…、nであるため、ベクトルXはn個作られる。ここで、τは埋め込み遅延時間と呼ばれるパラメータである。
【0049】
(第2ステップ)
第2ステップは、ベクトルを3次元以上の多次元状態空間内に時系列順に配列したアトラクターを生成するステップである。
【0050】
図6は、実施の形態1に係る眠気度推定装置1のカオス解析におけるアトラクターの概念図である。このベクトルX(i)を、座標軸x(i)、x(i+τ)、x(i+2τ)、…、x(i+(d-1)τ)に順次プロットしていくと、軌道が得られる。図6は、3次元状態空間であり、座標軸はx(i)と、x(i+τ)と、x(i+2τ)と、の3つである。例えば、d=3、遅延時間を0.05秒などとして、第1ステップで得たベクトルを3次元状態空間内に時系列順にプロット(配列)していくと、図6のような軌跡が得られる。この軌跡がアトラクターの軌道である。アトラクターの軌道の形状を見ると、渦状の軌跡が得られているので、2次元パターン脈波形状のゆらぎ方の中にカオス情報が存在することが実証されている。
【0051】
(第3ステップ)
第3ステップは、アトラクターの軌道に基づいて指標値であるリアプノフ指数を計算するステップである。リアプノフ指数は、アトラクターの軌道の不安定性または発散性を評価して求められる。
【0052】
図7は、実施の形態1に係る眠気度推定装置1におけるリアプノフ指数化の概念図である。図7は、多次元状態空間が3次元状態空間の場合を示している。最終的に眠気度を推定するためには、脈波形状の時系列変位を数値化する必要がある。この数値化した指標値には、リアプノフ指数が用いられる。3次元以上の多次元状態空間のアトラクターには軌道の不安定性がある。不安定性は発散性とも言い換えることができる。この軌道不安定性を定量化したのがリアプノフ指数である。リアプノフ指数とは、近接した2点から出発した二つの軌道が、どのくらい離れていくかを表す尺度である。言い換えれば、リアプノフ指数とは、力学系においてごく接近した軌道が離れていく度合いを表す値である。ここで、リアプノフ指数が大きいほど、アトラクターの変動幅は大きくなり、ゆらぎの幅が大きい。
【0053】
リアプノフ指数の計算では、まず、図7に示すように、3次元のカオス力学系のアトラクターの軌道に、初期値として半径εの微小球(超球)を与える。具体的には、アトラクターの軌道上に、軌道上の点を中心とする微小半径εの球を超球として設定する。カオス解析では、アトラクターの軌道上で、この超球の中に入る点を探し出し、それぞれの点からスライド時間後の点への変化量を、線形近似することによりe1、e2、e3方向の拡大率を計算する。スライド時間とは、前の球から次の球までの時間間隔のことである。超球は、最初は球であるが、予め設定されたスライド時間Sを経て、1回写像されることによって、e1方向には引き延ばされ、e2方向にはほぼ変わらず、e3方向には押し潰される結果、楕円体となる。ここで、e1、e2、e3方向に対する単位時間当たりの拡大率の対数がλ1、λ2、λ3であるとすると、このλ1、λ2、λ3がリアプノフ指数である。
【0054】
これらのリアプノフ指数の組は、リアプノフスペクトラムと呼ばれる。カオス解析では、スライド時間S毎に、この球を引き延ばす作業をくり返して、拡大率が計算される。それらの総和を取って平均化することにより全体のリアプノフスペクトラムが算出される。計算されたリアプノフ指数の中で最大のリアプノフ指数が最大リアプノフ指数と呼ばれる。力学系において初期状態から軌道が離れていく度合いは、最大リアプノフ指数をみることでわかる。つまり、リアプノフ指数は、初期の状態に対して、n番目の状態がどの程度離れているかを示しており、脳活動で言えば、初期状態から離れているほど人の脳が活発に動いていて、初期状態と変わらないほど脳は動いていないことがわかる。もちろん、精度は下がるが、スライド時間Sごとに複数回計算するのでなく、スライド時間を1区間分として、2つの状態を比較してリアプノフ指数を計算しても良い。
【0055】
なお、カオス解析では、スライド時間を短くすると計算精度が向上するが計算時間が長くなる。また、球の中に入る点が多過ぎると、計算時間が長くなるので、計算時間短縮のために、球の中に入る点の数の上限値として近傍点数を設定しても良い。球の中に、設定した上限数よりも多くの点をカウントした場合は、次の球の計算へ移る。
【0056】
ここでは、多次元状態空間が3次元状態空間の場合を説明したが、解析部103は、3次元以上の状態空間におけるアトラクターを生成できる。ただし、多次元が5次元以上では、精度は上がるが計算時間が長くなり実用性が落ちる。このため、カオス性が得られることと計算時間とを考慮して、多次元は3次元または4次元として好ましい。
【0057】
リアプノフ指数は、軌道が離れていく度合いを示していることを説明したが、軌道が離れていく度合いと脳活動との関係では、軌道が初期状態から離れているほど人の脳が活発に動いていて脳活動の度合いが高いことがわかる。一方、軌道が初期状態と変わらないほど脳は動いておらず脳活動の度合いが低いことがわかる。
【0058】
リアプノフ指数は、具体的には以下のようにして計算される。例えば、球の半径が0.08、計算窓長が20秒、スライド時間が1秒、測定周波数が200Hzとする。測定周波数が200Hzであるため、1秒間に得られるデータ数は200個であり、計算開始から計算窓長の時間で得られるデータは4000個である。リアプノフ指数は、状態空間の次元数が3次元である場合、測定開始から20秒で4000個のデータを用いて3次元分のλ1、λ2、λ3からなるリアプノフスペクトラムが得られる。そして、次の1秒間で同様にλ1、λ2、λ3からなるリアプノフスペクトラムが得られる。
【0059】
出力窓長が60秒に設定された場合には、60秒間、上記作業が繰り返される。つまり、最初の20秒で1つ目のリアプノフスペクトラムが得られ、その後の40秒間にスライド時間の1秒毎にリアプノフスペクトラムが得られ、計40個のリアプノフスペクトラムが得られる。そして、40個のリアプノフスペクトラムをλ1、λ2、λ3毎に総和を取って平均化して、平均化したλ1、λ2、λ3を決定する。これらのうち最大のリアプノフ指数が最大リアプノフ指数であり、この最大リアプノフ指数が出力窓長で得られる1つのデータである。つまり、最大リアプノフ指数が、その系の初期値からの離れていく度合として採用される。
【0060】
ここで、バイタルデータである脈波データの測定数について検討する。例えば、測定周波数が200Hz、出力窓長が60秒に設定された場合、60秒間で12000個のデータが得られる。解析部103は、12000個のデータを用いてアトラクターの軌道をつくり、リアプノフ指数を計算する。なお、出力窓長とは、上述したように1データを出力するために必要な時間であり、1つのリアプノフ指数を計算するために必要な時間である。また、例えば測定周波数が500Hz、出力窓長が60秒に設定された場合には、60秒間で30000個のデータが得られる。この場合、解析部103は、30000個のデータを用いてアトラクターの軌道をつくり、リアプノフ指数を計算する。
【0061】
データ数が多いほど正確性は高まるメリットがある。しかし、データ数が多い場合、測定時間が長くなる、眠気度の変化に追従できない、CPUの処理時間が長くなったり計算できなくなったりする、といったデメリットがある。逆にデータ数が少ないほど精度は下がる。しかし、データ数が少ない場合、測定時間が短い、CPUの処理時間が短い、追従性が良いといったメリットがある。
【0062】
従って、測定周波数は100Hzから1000Hz程度が好ましい。また、出力窓長は、30秒以上5分未満が好ましい。中枢神経系の反応時間は早いので、出力窓長は、自律神経系の測定を行う場合よりも短い時間がよく、30秒以上60秒以下が好ましい。更に、解析部103は、精度を高めるために次のようにしてもよい。解析部103は、出力された1データを、設定時間毎に集めて平均化してもよい。例えば出力窓長が30秒、設定時間が5秒であるとすると、解析部103は、5秒毎のタイミングでそのタイミング前の30秒間のバイタルデータに基づき出力された1データを集める。解析部103は、30データ分、集まったところで、その30データを平均化し、1つのデータを得てもよい。この場合、解析部103は、数値化に3分をかけた精度の高い1つのデータ(リアプノフ指数)を得ることができる。
【0063】
次に、本発明者らが見出した、「リアプノフ指数」と、眠気度と関連の深い「中枢神経系の脳活動」と、に相関がある点について次の図8を用いて説明する。次の図8は、ユーザに、脳活動が異なる様々な行動をさせ、その行動を行っているユーザから取得した脈波に基づいてリアプノフ指数を計算した実験結果に基づいて作成された図である。
【0064】
図8は、リアプノフ指数と、中枢神経系の脳活動が異なる様々な行動と、の関係性を棒グラフで示す図である。縦軸の数値は、安静の場合を1として規格化した値である。つまり、安静以外の他の行動の場合の縦軸の数値は、その行動のときのリアプノフ指数を、安静の場合のリアプノフ指数で除算した値である。横軸は、脳活動の度合いが異なる人間の行動を示している。横軸の行動には、次の4つの行動を採用した。4つの行動は、安静にする、記事を読む、メールを打つ、資料をタイピングで書き写す、である。記事を読むとは、例えば資料をパソコンまたはスマートフォンで読む行動を指す。また、資料をタイピングで書き写すとは、資料に記載の文字をタイピング作業でパソコンに入力する行動を指す。
【0065】
図8より、安静にする、記事を読むといった軽作業に比べて、メールを打つ、資料をタイピングで書き写すなど、ユーザの主観申告でも脳活動の度合いが高いとされる重作業の方が、縦軸の数値が大きいことが確認できた。つまり、脳活動の度合いが高い方が、リアプノフ指数が大きくなることが確認できた。よって、中枢神経系の脳活動の度合いとリアプノフ指数とには関係性があることが確認できた。
【0066】
また、安静時は、資料をタイピングで書き写す時と比較して眠気度が高い状態である。これはユーザの主観申告でも確認している。よって、行動とリアプノフ指数と眠気度とは相関があり、リアプノフ指数は、眠気度というメンタル指標としても扱うことが可能であると考えられる。具体的には、リアプノフ指数が大きい場合、眠気度が低い、リアプノフ指数が小さい場合、眠気度が高いと評価できると考えられる。よって、図8の縦軸は、眠気度の指標としてみることもできる。つまり、縦軸の数値が大きい方が、眠気度が低く、縦軸の数値が小さい方が、眠気度が高いといった具合である。よって、縦軸の数値は、例えば眠気度を示す眠気指数として捉えてもよいと推測される。
【0067】
また、本発明者らは、ワークをしているユーザの人の近傍にドップラーセンサーを設置し、ユーザの脈波を連続して測定した測定結果に基づいてリアプノフ指数を連続して計算した。昼食後など一日に何度か訪れる「眠気があった」というユーザの主観申告時と、「眠気がなかった」というユーザの主観申告時と、のそれぞれのリアプノフ指数を計算した。次の図9は、リアプノフ指数の計算結果を示している。
【0068】
図9は、ワーク中のリアプノフ指数の変化例を示す図である。横軸は経過時間(分)、縦軸はそのときのリアプノフ指数を示している。また、図9には、ユーザからの眠気度の主観申告結果を併せて記載している。図9は、リアプノフ指数を1分間隔で計算した結果をプロットしたグラフである。図9より、ユーザの眠気度に関する主観申告が、「眠くない」状態から、「すごく眠い」状態を経て、「眠くない」状態に変化した時のリアプノフ指数の変化がわかる。「眠くない」、「すごく眠い」、「眠くない」のそれぞれの状態の経過時間は、約12分、15分、7分ほどの連続した時間である。
【0069】
図9より、リアプノフ指数は、「眠くない」状態と、「すごく眠い」状態とを比較すると、「眠くない」状態のときに大きく、「すごく眠い」状態のときに小さいことが確認できた。つまり、リアプノフ指数は、眠気度が低い場合に大きく、眠気度が高い場合に小さい値となることが確認できた。また、リアプノフ指数は、「眠くない」状態から「すごく眠い」状態に移るときに、徐々に低下することが確認できた。また、「すごく眠い」状態から「眠くない」状態に移るときに、徐々に上昇することが確認できた。
【0070】
上記測定結果より、リアプノフ指数と眠気度とには相関があることが確認でできた。ワーク中は眠気度が上昇すると作業効率が低下するため、測定結果を表示部107に表示するなどしてユーザに注意喚起を行い、眠気度に応じて休憩をとることを促すなどの活用ができる。
【0071】
ところで、図9の縦軸のリアプノフ指数は、眠気度推定装置1を一時的に実験用の装置として用いて計算して得られた値である。このため、図9より、リアプノフ指数が眠気度推定装置1により1分間隔で得られることが分かる。そして、脈波からリアプノフ指数を計算する処理が、一般的に短時間と言える1分で行えることが図9より証明された。なお、ここでは図9が眠気度推定装置1を用いて得られた実験結果であるとしたが、図9は、あくまでもリアプノフ指数と眠気度との相関を測定した実験結果を示したものであり、眠気度推定装置1ではなく実験専用の装置を用いて作成されたものでもよい。
【0072】
また、本発明者らは、寝る前後のユーザの近傍にドップラーセンサーを設置してリアプノフ指数を連続測定した。寝る前に訪れる「眠気があった」という主観申告時のリアプノフ指数と、「眠気がなかった」という主観申告時のリアプノフ指数とを比較した結果、眠気のある時は、眠気がない時に比べてリアプノフ指数が小さくなることが、寝る前においても確認できた。つまり、就寝前の眠気度とリアプノフ指数とは相関があることが確認できた。就寝前は眠気度があがると寝入りが良いため、測定結果を表示部107に表示するなどしてユーザに通知し、眠気度に応じてベッドに入ることを促すなどの活用ができる。
【0073】
以上より、リアプノフ指数と眠気度とは直接の相関があり、リアプノフ指数は眠気度というメンタル指標としても扱うことが可能であると言える。具体的には、リアプノフ指数が小さいほど眠気度が高く、リアプノフ指数が大きいほど眠気度が低いと評価できる。また、本手法では、大量な過去データとの紐づけおよび複雑なデータの記憶が不要で、リアルタイムに簡単に眠気度を評価できる。
【0074】
以上の関係を踏まえ、眠気度推定装置1は、リアプノフ指数に基づいて眠気度を推定する。
【0075】
図10は、実施の形態1に係る眠気度推定装置1における眠気度の推定処理のフローチャートである。眠気度推定装置1は、脈波形状データを取得するステップ(ステップS1)と、脈波形状データに基づいてカオス解析を行うステップ(ステップS2)と、を有する。カオス解析を行うステップは、上述したように、3つのステップ(ステップS21~ステップS23)を有する。第1ステップは、脈波形状変位の時系列データと予め設定した遅延時間とから特定されるベクトルを計算するステップ(ステップS21)である。第2ステップは、ベクトルを3次元状態空間内に時系列順に配列したアトラクターを生成するステップ(ステップS22)である。第3ステップは、アトラクターの軌道に基づいて指標値であるリアプノフ指数を計算するステップ(ステップS23)である。
【0076】
解析部103は、リアプノフ指数に基づいて眠気度を推定(ステップS3)し、推定結果を示す眠気度情報を出力する。解析部103は、リアプノフ指数が小さいほど眠気度が高く、リアプノフ指数が大きいほど眠気度が低いと推定する。解析部103は、リアプノフ指数そのものを眠気度情報として出力してもよいし、例えばリアプノフ指数を、眠気度を示す段階数値(例えば、1~10)に変換して出力してもよい。段階数値は、例えば、数値の小さい方から大きい方の順に、眠気度が低い状態から高い状態にあることを示す数値である。また、解析部103は、例えば安静時のリアプノフ指数を保持しておき、安静時のリアプノフ指数に対する、解析部103で解析して得たリアプノフ指数の100分率(%)の数値を、眠気度を示す数値として出力してもよい。また、解析部103は、上記のように眠気度を数値で出力することに限られず、他に例えば段階画像などで出力してもよい。段階画像とは、例えば、顔の表情が眠気度に応じて段階的に異なる画像を指す。以上のように、解析部103は、リアプノフ指数を、眠気度を示す眠気度情報にして出力する。
【0077】
解析部103から出力された眠気度情報は、クラウド部106を介して表示部107に入力されて表示される。このように眠気度推定装置1は、眠気度情報を解析部103から出力して視覚化するので、ユーザは眠気度を把握することができる。なお、解析部103から出力された眠気度情報は、クラウド部106を介してデータ収集部108に蓄積されてもよい。また、解析部103から出力された眠気度情報は、クラウド部106を介さず直接、表示部107に入力されて表示されてもよい。また、解析部103から出力された眠気度情報は、制御内容決定部104に入力され、眠気度推定装置1を備えた機器の制御内容を決定するために用いられてもよい。
【0078】
また、眠気度情報は、現在の眠気度または時系列の眠気度またはその両方を示す情報としてもよい。
【0079】
前述のように、主観申告で眠気度が高い状態では、脳活動が低く、リアプノフ指数が低くなる。従って、眠気度推定装置1は、リアプノフ指数が小さいほど、眠気度が高いとして解析部103から出力して好適である。
【0080】
なお、眠気度は、集中度の逆の指標として捉えることもできるため、解析部103は、眠気度情報に代えて集中度情報を出力するようにしてもよい。これにより、ユーザは、集中度を視覚的に確認できる。
【0081】
眠気度推定装置1は、指標値から脳活動量推定の結果に応じて、眠気度情報を出力できることをこれまで記載してきたが、「眠気度」という文字または言葉に限らず、人の感情またはメンタル、脳活動が活発となる行動が同じ意味合いであれば、他の文字または言葉で表してもよい。例えば、「眠気度」は、退屈度、怠惰度などと言い換えて使用できる。従って、脳活動量から得られる情報は、「眠気度」以外に、退屈度、怠惰度などと表現しても良い。
【0082】
以上説明したように、実施の形態1の眠気度推定装置1は、電波を用いてユーザの体表面の広い範囲を対象として脈波を検出するセンサーである、非接触のドップラーセンサー10と、ドップラーセンサー10で検出された脈波を解析する解析部103と、を備える。解析部103は、脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて脈波を数値化した指標値を生成し、指標値に基づいてユーザの眠気度を推定する。
【0083】
このように、眠気度推定装置1は、脈波の波形形状の時系列変位に基づいて生成した指標値に基づいて眠気度を推定できる。脈波は心臓の脈動ひいては脳の神経系の活動に関連しているバイタルデータである。眠気度推定装置1は、このような脈波に基づいて計算された指標値に基づき眠気度を推定するため、従来の頬杖をつくなどによる推定方法に比べて高精度に眠気度を推定できる。
【0084】
眠気度推定装置1は、ユーザの脈波を検出するセンサーとしてドップラーセンサー10を用いている。以下、眠気度推定装置1が、接触式である脈波センサーではなくドップラーセンサー10を用いて検出した脈波に基づいて眠気度を推定する優位性について説明する。
【0085】
ユーザの脈波を用いてユーザの心身の状態を検出する技術として、特開平4-208136号公報、特開2009-195384号公報および特開2015-16273号公報に開示された技術がある。これらの公知例の技術はいずれも、接触式の脈波センサーを用いて脈波を検出している。具体的には、上記公知例の技術はいずれも、指先に装着した脈波センサーを用いて、フォトダイオードなどで毛細血管を流れるヘモグロビンの移動を検知して脈波を測定している。
【0086】
接触式の脈波センサーは、ドップラーセンサー10と同じく脈の振動を波として捉える点は同じであるが、装着位置が指先などに限定され、眠気度を推定するための脳活動の主要部分である脳からの距離が遠い。このため、脈波センサーによって取得される情報は、ドップラーセンサー10によって取得される情報に比べて限定され、中枢神経活動である脳活動の影響が表れにくくなる。
【0087】
眠気度推定装置1は、24GHz以上の電波を用いた非接触のドップラーセンサー10を利用して、血管の脈による振動を検知する。ドップラーセンサー10は、電波を用いることで、脈による体表面の振動だけでなく、電波が届く範囲の頭部情報、または、体表面だけではない体内部の血管の振動も同時に検知できる。また、ドップラーセンサー10は、電波エリア内の体全体の脈波情報を取得できる。このため、眠気度推定装置1は、自律神経または中枢神経に関して得られる情報量が増え、脈波の形状変化に対する解析の相関精度が高まる利点がある。
【0088】
このように、眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10により、脳から遠い指の部分の情報だけでなく、頭部、肩部または胸部を含む、体全体の脈波情報を取得できる。このため、眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10を用いることで、中枢神経活動である脳活動引いては眠気度がより深く影響した脈波を測定でき、結果として精度の高い眠気度の推定が可能である。
【0089】
ドップラーセンサー10は、心臓の拍動による体全体の微細な振動を検出することができる。ドップラーセンサー10は、内部的には受信信号に送信信号をミキシングし、ドップラー効果による変動成分を抽出して、IQ信号の脈波を生成する。厳密には、ドップラーセンサー10で生成される脈波情報は、指先に備えた脈波センサーの容積脈波とは異なり、電波IQ信号で作った脈波情報である。
【0090】
上記の特開平4-208136号公報、特開2009-195384号公報および特開2015-16273号公報の技術は、ユーザの心身の状態を検出するにあたり、脈波のカオス解析を用いている。しかし、上記公知例の技術は、いずれもユーザの眠気度を推定する眠気度推定装置1とは、最終的に得る情報が異なる。
【0091】
特開平4-208136号公報では、リラックスしている、読書している、マンガの本を見ている、美しい絵を眺めている、といった被験者の体または心理状態を得ている。また、特開2009-195384号公報では、人の疲労の度合いとしての疲労度を得ている。特開2015-16273号公報では、被験者のココロのバランス、例えば、被験者の精神面の状態が「理想ゾーン」、「気を張りすぎ」、「抑うつ気分」、「気が緩みすぎ」、「本能のまま」、「準理想ゾーン」のいずれに該当するのかを得ている。
【0092】
このように、上記公知例のいずれも、最終的に得る情報が異なり、ユーザの眠気度を推定する技術とは異なる。
【0093】
カオス解析は、脈波形状変位の時系列データと予め設定した遅延時間とから特定されるベクトルを計算するステップと、ベクトルを3次元以上の多次元状態空間内に時系列順に配列したアトラクターを生成するステップと、アトラクターの軌道に初期状態として超球を与え、超球を、軌道に基づいて予め設定されたスライド時間毎に引きのばす作業をくり返して、超球が楕円体となる拡大率を、指標値であるリアプノフ指数として計算するステップと、を順次実施する処理である。
【0094】
このように、眠気度推定装置1は、カオス解析により、指標値であるリアプノフ指数を計算できる。
【0095】
ところで、解析部103が脈波のカオス解析においてアトラクターからリアプノフ指化を計算する際に用いる手法は、上記の特開平4-208136号公報、特開2009-195384号公報および特開2015-16273号公報の公知例で用いられているWORFの手法とは、大きく異なる。
【0096】
特開平4-208136号公報では、最終的に得られた2次元データの始点から次の点を探索して、時間と移動距離との比からリアプノフ指数を計算している。特開平4-208136号公報では、前述の点から点への移動距離から算出したリアプノフ指数をアトラクター全体において繰り返して平均化することでリアプノフ指数としているWORFの手法を用いている。
【0097】
特開2009-195384号公報では、連続的なデータ計算値に対し、所定の時間幅でアトラクターを再構成し、時間幅を1秒ずつスライドさせることによって最大リアプノフ指数の値を1秒毎にプロットしている。よって、特開2009-195384号公報で用いている手法は、同様にWORFの手法である。
【0098】
特開2015-16273号公報では、ココロの柔軟性検出処理に、同様にWORFの手法を用いている。
【0099】
以下、公知例で用いられているWORFの手法について簡単に説明する。
【0100】
図11は、公知例で用いられているWORFの手法の説明図である。ここでは、WORFの手法として、Alan WOLF他, DETERMINING LYAPUNOV EXPONENTS FROM A TIME SERIES, Physica 16D(1985)285-317に記載の内容について詳細に説明する。
【0101】
WORFの手法は、解析部103で行うリアプノフ指数の計算方法に比べて単純であり、カオスアトラクター中の着目点Piから単位距離Lにある点Pjを検索し、それらの単位時間Δt後の距離LΔtとLとの比の対数を計算するものである。WORFの手法は、この対数の計算処理を、Piをずらしながらカオスアトラクター全体について行い、計算された複数の対数を単純平均した数値をリアプノフ指数λ1とする。分析対象が周期性を有するならば、λ1は0、カオスならば正の値になる。WORFの手法は、アトラクターを2次元画像化してからリアプノフ指数を計算している。WORFの手法は、2点間の距離の伸び縮みを計算しており、力学系の情報または挙動が簡便である。
【0102】
一方で、解析部103におけるリアプノフ指数の計算方法は、上述の通りであり、3次元以上の多次元の軌道で、初期状態として与えた微小球(超球)の多次元方向ごとの時間変化から拡大率を計算して、立体の伸び縮みを計算している。多次元の超級が時間ごとに連続的に発展する様子から拡大率を計算するので、情報量が多くて計算精度が高まる。この点が、WORFとの大きな違いである。
【0103】
また、公知例の技術において、WOLFの手法で得られたリアプノフ指数は、脳活動、引いては眠気度との相関性が弱く、本発明者らの実験および検討では、脳活動との相関が得られなかった。
【0104】
これに対し、解析部103は、多次元のカオス力学系に微小球(超球)与えてリアプノフ指数化する上記の手法により、異なる脳活動量の各状態の即時計測が可能で、脳活動量引いては眠気度との相関性および線形性が高い推定指標としてリアプノフ指数を得ることができる。
【0105】
また、公知例は、ユーザ試験結果に基づき得られるリアプノフ指数と脳活動との関係が本開示とは異なる。特開平4-208136号公報では、リアプノフ指数は、意識の集中が高いほどが小さくなり、脳内情報処理が活発になるに従って小さくなると記述されている。つまり、特開平4-208136号公報では、リアプノフ指数は、脳活動が高くなると小さくなる値となっている。これに対し、解析部103で得られる指標値であるリアプノフ指数は、脳活動が高くなると、言い換えれば眠気度が低下すると大きくなる値であり、指標値としての意味合いが、公知例とは全く逆である。
【0106】
また、特開平4-208136号公報では、アトラクターを2次元画面に出力しており、アトラクターが小さいほどユーザがリラックスした状態を示すと記述されている。また、特開平4-208136号公報では、アトラクターが2次元であるため、アトラクターの渦巻状の局所構造について粗密の記載があり、意識の集中が高くなると局所構造が粗から密になると記載されている。しかし、アトラクターの粗密の関係は、解析部103で得られるリアプノフ指数とは関連性が全く無い。
【0107】
また、特開2015-16273号公報には、リアプノフ指数を計算することについて記載があるものの、リアプノフ指数と眠気度とに関わるユーザ試験結果は記載されていない。
【0108】
このように、上記の公知例はいずれも、リアプノフ指数と、脳活動引いては眠気度と、の関係が本開示とは異なる。
【0109】
解析部103は、指標値が大きいほど眠気度が低いことを示し、指標値が小さいほど眠気度が高いことを示す眠気度情報を出力し、眠気度情報は、現在の眠気度または時系列の眠気度またはその両方を示す情報である。
【0110】
これにより、ユーザは眠気度情報に基づいて眠気度を把握できる。
【0111】
実施の形態2.
実施の形態1の眠気度推定装置1は、脈波形状のゆらぎを解析して中枢神経の脳活動の度合いを推定し、脳活動の度合いのみに基づいて眠気度を推定するものであった。実施の形態2の眠気度推定装置1は、脳活動の度合いに加えて更に、脈拍間隔ゆらぎに基づいて自律神経活動の度合いを推定し、中枢神経活動と自律神経活動との両方に基づいて眠気度を推定する。以下、実施の形態2が実施の形態1と異なる点を中心に説明するものとし、実施の形態2で説明されていない構成は実施の形態1と同様である。
【0112】
図12は、実施の形態2に係る眠気度推定装置1の構成および眠気度推定装置1の利用構成を示すブロック図である。ドップラーセンサー10は、ユーザの脈波に加えて更に、ユーザの脈拍も検出する。
【0113】
脈拍間隔は、一般的にR-R Interval(RRI)と呼ばれる。RRIは、周波数変換されることで、後述する自律神経バランスなど、様々な情報に変換される。脈拍、血圧および呼吸などを解析するバイタル解析では、体動解析などとは異なり、約1Hzという超低周波特性の微小なゆらぎを解析する。このため、バイタル解析では、分解能が高く距離測定用途でよく使われる60~79GHzに比べて、24GHzのドップラー方式によるアナログ検出が好ましい。
【0114】
ドップラーセンサー10は、ユーザの脈拍間隔の変位(1次元パターン脈拍変位)から自律神経バランスを検出する。自律神経バランスは、交感神経と副交感神経とのバランスである。自律神経バランスは、LF(Low Frequency)とHF(High Frequency)との比率であり、LF/HFで計算される。LFは交感神経活動を示しており、HFは副交感神経活動を示している。交感神経は、昼間または活性状態において優位となり、副交感神経は夜間または鎮静状態において優位となると言われている。
【0115】
LFは、特性曲線において例えば0.05Hzから0.15Hzといった低い周波数帯域におけるパワーの積算値で求められる。HFは、特性曲線において例えば0.15Hzから0.40Hzといった高い周波数帯域におけるパワーの積算値で求められる。特性曲線とは、脈拍間隔の時系列間隔を周波数展開して得られた曲線であり、横軸が周波数、縦軸がパワーである座標軸上に描かれる曲線である。
【0116】
自律神経バランスはLF/HFであるため、LFが相対的に大きくなると、交感神経が優位であり、興奮状態または活性状態にあると推定でき、LFが相対的に小さくなると、副交感神経が優位であり、リラックス状態にあると推定できる。また、自律神経バランスの数値が大きい場合、興奮状態にあり、自律神経バランスの数値が小さい場合、リラックス状態または快状態にあると推定できる。人体が興奮状態または活性状態にある場合、自律神経系の活動度合いが大きく、自律神経バランスの値が大きくなる。一方、人体がリラックス状態にある場合、自律神経系の活動度合いが小さく、自律神経バランスの値が小さくなる。よって、自律神経バランスは、自律神経活動の度合いを示す指標として用いることができる。
【0117】
自律神経バランスと、自律神経活動の度合いと、ユーザの状態と、の対応関係は、以下通りである。すなわち、自律神経バランスの数値が小さい場合、自律神経活動の度合いが低く、ユーザがリラックス状態または快状態にあり、自律神経バランスの数値が大きい場合、自律神経活動の度合いが高く、ユーザが興奮状態または活性状態にあるということになる。
【0118】
このように、ドップラーセンサー10は、自律神経バランスに基づいて自律神経活動の度合いを検出できる。また、ドップラーセンサー10は、上述したように脈波に基づく中枢神経系の脳活動の度合いを検出できる。つまり、ドップラーセンサー10は、それ1つで自律神経活動と中枢神経活動とを検出できる。ここで、ドップラーセンサー10で測定できる脈拍とは、脈拍数または脈の動きを指すものであり、脈拍数の大小または脈拍数の時系列増減、脈拍間隔の大小または脈拍間隔の時系列増減、LFの大小またはLFの時系列増減、LF/HFの大小またはLF/HFの時系列増減を含む。
【0119】
実施の形態2の眠気度推定装置1は、中枢神経活動と自律神経活動との両方から眠気度を推定する。以下、中枢神経活動と自律神経活動との両方から眠気度を推定する考え方について説明する。
【0120】
まず、本発明者らは、自律神経活動の度合いが眠気度の精度に関連することを見出した。本発明者らは、一定時間の間、ユーザの脈拍を計測しながら、ユーザから眠い状態と眠くない状態とのどちらにあるかの主観申告を受ける実験を行った。これにより、本発明者らは、複数のユーザにおいて、眠い状態にあるときの脈拍数が、眠くない状態にあるときの脈拍数より平均的に4回/分の低下することを確認した。従って、脈拍数は眠気度の推定に影響することを確認した。
【0121】
眠気度は、上述したように中枢神経系の脳活動の度合いのみによって推定できるが、本発明者らは、眠気度の推定にあたり、自律神経活動の度合いも組み合わせて推定することで推定精度を上げられることを見出した。本発明者らは、脳活動の度合いが低いほど眠気度が高い状態を示すが、脳活動の度合いの低さが同じでも、自律神経活動の度合いが低い方がリラックス状態にあり、眠気度がより高い状態にあることを試験により確認した。また、本発明者らは、脳活動の度合いが高いほど眠気度が低い状態を示すが、脳活動の度合いの高さが同じでも、自律神経活動の度合いが高い方が興奮状態または活性状態にあり、眠気度がより低い状態にあることを試験により確認した。
【0122】
これらの試験から、本発明者らは、自律神経活動の度合いが低い程、眠気度が高いという推定結果の精度が向上し、自律神経活動の度合いが高い程、眠気度が低いという推定結果の精度が向上することを見出した。つまり、本発明者らは、中枢神経系の脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとの2つを組み合わせることで、眠気が高い状態と眠気が低い状態の両方の精度が向上する新たな効果が得られることを見出した。
【0123】
ここで、眠気度が中枢神経系の脳活動の度合いだけでなく自律神経活動の度合いにも関わることに関し、簡単な例で説明する。人間は1日中自律神経を稼働させているが、眠気がある状態、特にうとうとする状態では、リラックス状態または快状態が高まっている。このことから、眠気度の推定には、中枢神経系の脳活動だけでなく自律神経活動も評価することで、より精度の高い眠気度の推定が可能になると考えられる。よって、眠気度が中枢神経系の脳活動と自律神経活動との両方を用いて推定されることで、精度の高い眠気度の推定を可能にする効果が得られる。
【0124】
眠気度は、中枢神経活動の方が自律神経活動よりも大きく影響を受ける。言い換えれば、中枢神経活動を示す脳活動の方が、自律神経活動よりも眠気度に対する寄与度が大きい。このため、眠気度の推定にあたり、脳活動の度合いは、少なくとも5割以上9割以下の寄与度で用いられると良い。好ましくは、脳活動の度合いは、6割以上8割以下の寄与度で用いられると良い。脳活動の度合いの寄与度が上記の範囲外であると、推定される眠気度の精度が低下する可能性があるため、脳活動の度合いの寄与度は、6割以上8割以下が良い。
【0125】
逆に、眠気度の推定にあたり、自律神経活動の度合いは、脳活動の度合いよりも少ない寄与度で用いられると良い。好ましくは、自律神経活動の度合いは、2割以上4割以下の寄与度で用いられると良い。自律神経活動の度合いの寄与度が上記の範囲外であると、推定される眠気度の精度が低下する可能性があるため、自律神経活動の寄与度は、2割以上4割以下が良い。以下、脳活動の度合いの眠気度に対する寄与度を第1寄与度、自律神経活動の度合いの眠気度に対する寄与度を第2寄与度という。第1寄与度は、脳活動の度合いが眠気度に与える影響の大きさを示す。第2寄与度は、自律神経活動の度合いが眠気度に与える影響の大きさを示す。
【0126】
以下、寄与度を用いた眠気度の推定の一例について説明する。第1寄与度が7割、第2寄与度が3割である場合、眠気度は、眠気度=0.7×脳活動の度合い+0.3×自律神経活動の度合い、で計算される。例えば、眠気度が1~100の段階数値で表され、値が大きいほど眠気度が高いことを示すものとする。また、脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとのそれぞれも、1~100の段階数値で表されるものとする。眠気度の数値は、眠気度が高い場合に大きくなるため、上記計算式で用いられる脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとのそれぞれは、眠気度が高い方に大きい数値が割り当てられる。つまり、脳活動の度合いは、脳活動の度合いが低いほど大きな値をとり、自律神経活動の度合いは、自律神経活動の度合いが低いほど大きな値をとる。
【0127】
なお、上記計算式で用いる自律神経活動の度合いの数値の大小関係は、自律神経バランスを示すLF/HFに基づく自律神経活動の度合いの大小関係とは逆であることに注意されたい。つまり、LF/HFに基づく自律神経活動の度合いは、自律神経活動の度合いが高いほど大きい値をとるものであり、上記計算式で用いる自律神経活動の度合いの数値とは大小関係が逆となっている。上記計算式で用いる自律神経活動の度合いの数値の大小関係は、寄与度を用いた眠気度の計算に限り用いられるものであり、以下の説明において自律神経活動の度合いは、LF/HFに基づく大小関係を有するものとする。
【0128】
脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとのそれぞれが、上記のような段階数値で表される場合において、脳活動の度合いが100、自律神経活動の度合いが100であるとき、眠気度は、上記式より最大の100となる。また、脳活動の度合いが80、自律神経活動の度合いが50であるとき、眠気度は71となる。
【0129】
以上により、脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとの両方を用いて眠気度を推定する考え方が明らかになったところで、図12の説明に戻る。
【0130】
眠気度推定装置1は、ドップラーセンサー10によりユーザの脈波と脈拍とを検出する。解析部103は、ドップラーセンサー10で検出された脈波を解析して中枢神経系の脳活動の度合いを推定すると共に、脈拍から自立神経系の活動度合いを推定する。解析部103は、第1寄与度と第2寄与度とを有する。第1寄与度は、第2寄与度よりも大きく、第2寄与度は、第1寄与度よりも小さい。第1寄与度は、上述したように6割以上8割以下、第2寄与度は、2割以上4割以下が好ましい。解析部103は、脳活動の度合いと、自律神経活動の度合いと、第1寄与度と、第2寄与度と、に基づいて上記のようにして眠気度を推定する。そして、解析部103は、推定した眠気度を示す眠気度情報を出力する。
【0131】
解析部103から出力された眠気度情報は、クラウド部106を介して表示部107に入力されて表示される。このように眠気度推定装置1は、眠気度情報を解析部103から出力して視覚化するので、ユーザは眠気度を把握することができる。なお、解析部103から出力された眠気度情報は、クラウド部106を介してデータ収集部108に蓄積されてもよい。また、解析部103から出力された眠気度情報は、クラウド部106を介さず直接、表示部107に入力されて表示されてもよい。また、解析部103から出力された眠気度情報は、制御内容決定部104に入力され、眠気度推定装置1の機器の制御内容を決定するために用いられてもよい。
【0132】
ところで、人間は1日中自律神経を稼働させているが、主に日中のワーク中および勉強中においては、良いストレスと言われている自律神経系の交感神経が高い状態である。また、人間は、自律神経系の交感神経が高い状態にあるとき、脳を興奮させて、気管を広げて、心拍を速めにして、血管を収縮させて、血圧をあげて、胃腸の働きを抑えて、発汗を促進する。よって、自律神経系の交感神経が高い状態は、ワークおよび勉強に対して良い状態にあると言える。すなわち、LFの交感神経が高い、またはLF/HFで表される自律神経バランスの比率が高い時、ユーザは、ワークおよび勉強に対して良い状態にある。また、「眠気度が低く」かつ「興奮または活性感情が高い」時には、ユーザは、はかどる状態にある。
【0133】
つまり、眠気度が低く且つ自律神経バランスの比率が高いとき、ユーザは最もワークおよび勉強に適した状態、言い換えればユーザによる作業効率が高い状態にあると評価することができる。よって、解析部103は、脳活動の度合いが予め設定された第1閾値より低く且つ自律神経活動の度合いが予め設定された第2閾値よりも高い場合、ユーザによる作業効率が高いことを示す作業効率情報を出力するようにしてもよい。このように、解析部103は、眠気度を出力する他に、脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとから特定される他の情報を出力するようにしてもよい。
【0134】
また、人間は、自律神経系の交感神経が低い状態にあるとき、脳を鎮静させて、気管を狭めて、心拍を遅めにして、血管を拡大させて、血圧をさげて、胃腸の働きを活発にして、発汗を抑制する。よって、自律神経系の交感神経が低い状態は、リラックス状態にあると言える。すなわち、LFの交感神経が低い、またはLF/HFで表される自律神経バランスの比率が低い時、ユーザは、リラックス状態または快状態にある。また、「眠気度が高く」かつ「興奮または活性感情が低い」時には、ユーザは、リラックス状態にある。
【0135】
つまり、眠気度が高く且つ自律神経バランスの比率が低いときは、ユーザは最もリラックス状態または快状態にあり、言い換えれば休息に良い状態にあると評価することができる。よって、解析部103は、脳活動の度合いが予め設定された第3閾値より高く且つ自律神経活動の度合いが予め設定された第4閾値よりも低い場合、ユーザによるリラックス度が高いことを示すリラックス度情報を出力するようにしてもよい。このように、解析部103は、眠気度を出力する他に、脳活動の度合いと自律神経活動の度合いとから特定される他の情報を出力するようにしてもよい。
【0136】
以上説明したように、実施の形態2の眠気度推定装置1は、実施の形態1と同様の効果が得られると共に、ドップラーセンサー10によって脈拍を検出することで自律神経活動の度合いを推定できる。このため、眠気度推定装置1は、中枢神経系の脳活動の度合いに加えて自律神経活動の度合いを推定できる。そして、眠気度推定装置1は、中枢神経系の脳活動の度合いと、自律神経活動の度合いと、第1寄与度と、第2寄与度と、から眠気度を高精度に推定できる。また、中枢神経活動と自律神経活動とは1つのドップラーセンサー10で測定できるため、眠気度推定装置1は、脳波計または撮像手段を用いる装置に比べて、装着が不要で短時間かつ遠距離でも感情推定を行える。
【0137】
実施の形態3.
上記実施の形態1および実施の形態2の眠気度推定装置1は、1つのリアプノフ指数からユーザのある時点での眠気度を推定していた。実施の形態3の眠気度推定装置1は、ある一定区間の平均のユーザの眠気度と、眠気度の変化と、を推定する。以下、実施の形態3が実施の形態1および実施の形態2と異なる点を中心に説明するものとし、実施の形態3で説明されていない構成は実施の形態1および実施の形態2と同様である。
【0138】
実施の形態3の眠気度推定装置1は、実施の形態1および実施の形態2の眠気度推定装置1と同様に、解析部103が脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて脈波を数値化した指標値であるリアプノフ指数を生成する。実施の形態3の眠気度推定装置1は、リアプノフ指数に基づいて、ある1つの時点でのユーザの眠気度(以下、1点眠気度という)を推定する。そして、実施の形態3の眠気度推定装置1は、解析部103が更に、ある一定区間の平均の眠気度と、眠気度の変化と、を推定する。実施の形態3の眠気度推定装置1は、解析部103が、ある一定区間の平均の眠気度と、眠気度の変化と、を推定する点、が実施の形態1および実施の形態2の眠気度推定装置1と異なる。
【0139】
眠気度推定装置1は、上述したように、例えば1分間などの短時間間隔でリアプノフ指数を計算し、眠気度を推定して眠気度情報を出力できる。ただし、眠気度推定装置1が空調装置などの機器に備えられた場合に、機器が、眠気度推定装置1から短時間間隔で出力される眠気度情報に基づいて機器の制御変更を行うと、以下の課題が生じる。例えば、機器が空調装置である場合に、眠気度が短時間間隔で変動し、その眠気度の変動がそのまま空調制御または表示部の注意喚起などに反映されると、空調制御変更または表示部の注意喚起が短時間に頻繁に行われ、ユーザに不快感を与える可能性がある。
【0140】
眠気度推定装置1は、このような眠気度推定装置1が備えられる機器で行われる制御を踏まえ、1点眠気度に加えて、1点眠気度の時系列データを平均化した1次短区間眠気度Bと、1次短区間眠気度Bの時系列データを平均化した2次短区間眠気度Cと、を計算して出力する。つまり、眠気度推定装置1は、ある一定区間の平均のユーザの眠気度を計算し、その一定区間毎に眠気度情報を出力する。これにより、眠気度推定装置1を備えた機器において、機器制御が適切な頻度で行われ、不要な機器制御の回数の低減が可能となる。
【0141】
また、眠気度推定装置1は、ある時点または一定区間の眠気度を数値化できるが、ユーザ毎に数値の大小が異なるため、不特定多数のユーザを対象とした装置の汎用性を考えたときに、眠気度が上昇または低下したかを推定できることが更に求められる。眠気度が上昇または低下したのかがわかることで、眠気度推定装置1を備えた機器は、眠気度の上昇または低下に応じて正確な機器制御を実施したり、アプリ画面、音または光を用いた注意喚起を正確なタイミングで実施したりできる。そこで、実施の形態3の眠気度推定装置1は、以下に詳述するように眠気度の変化も推定できる。
【0142】
以下、具体的な構成について説明する。実施の形態3の眠気度推定装置1は、実施の形態1および実施の形態2の眠気度推定装置1と解析部103の構成が異なる。
【0143】
図13は、実施の形態3に係る眠気度推定装置1の解析部103のブロック図である。解析部103は、1点眠気度計算部103aと、短区間眠気度計算部103gと、長区間眠気度計算部103dと、眠気度変化推定部103eと、眠気度情報出力部103fと、を有する。短区間眠気度計算部103gは、1点眠気度の短区間の時系列データを平均処理して短区間眠気度を計算する部分であり、1次短区間眠気度Bを計算する1次計算部103bと、2次短区間眠気度Cを計算する2次計算部103cと、を有する。これらの計算部は、解析部103を構成するCPUと制御プログラムとにより機能的に構成されている。以下、図13と次の図14とを用いて、各計算部の動作、1次短区間眠気度B、2次短区間眠気度Cおよび長区間眠気度Dについて説明する。
【0144】
図14は、実施の形態3に係る眠気度推定装置1において計算される1次短区間眠気度B、2次短区間眠気度Cおよび長区間眠気度Dの概念図である。1点眠気度計算部103aは、実施の形態1で説明した第1ステップ~第3ステップの処理でリアプノフ指数を計算し、リアプノフ指数に基づいて1点眠気度Aを推定して出力する。具体的には、1点眠気度計算部103aは、まず、ベクトルX(0)からX(n)に基づいてアトラクターを生成し、アトラクターの軌道に基づいてリアプノフ指数を計算する。そして、1点眠気度計算部103aは、計算したリアプノフ指数に基づいて1つの時点での眠気度を指数化した1点眠気度Aを計算して出力する。ここで1点眠気度Aを計算するにあたって使用するリアプノフ指数は、リアプノフ指数の生値でもよいし、リアプノフ指数の生値を100%化または段階化などで規格化した値でもよい。いずれにしろ、1点眠気度計算部103aは、リアプノフ指数に基づいて1つの時点である1点眠気度Aを計算して出力する。
【0145】
例として、出力窓長である時間T1が60秒、サンプリング時間間隔が1秒である場合、1点眠気度計算部103aは、60秒間で得たX(0)からX(60)まで60個の時系列データからアトラクターを生成して、測定開始から60秒後に1つの1点眠気度Aを出力する。他の例として、時間T1が60秒、サンプリング時間間隔が2秒である場合、1点眠気度計算部103aは、60秒間で得た30個の時系列データからアトラクターを生成して、測定開始から60秒後に1つの1点眠気度Aを出力する。
【0146】
時間T1およびサンプリング時間間隔は、精度、計算時間およびメモリー容量に応じて適宜選択ができる。ただし、人間の眠気度は1分程度でも変化が起こるため、時間T1は1分以内として最適である。逆に、時間T1が5分など長い時間であると、計測している間に眠気度が上昇または低下など別の方向に変化し、正確なアトラクターが描けないので不適である。また、時間T1が5分など長い時間であると、1点眠気度Aは、その長い時間の中で平滑化されてしまい、途中の眠気度変化が見えにくくなるデメリットがあり、推定精度の低下を招く。よって、時間T1は5分未満がよい。
【0147】
1点眠気度計算部103aは、ドップラーセンサー10で測定中、1点眠気度Aを出力する処理を繰り返す。1点眠気度計算部103aは、1点眠気度Aを計算するために用いるベクトルXの時系列ベクトルデータに、サンプリング時間間隔ずつずらしたものを用いる。以下、解析部103の各計算部におけるサンプリング時間間隔は1秒であるものとして説明する。
【0148】
具体例として、時間T1が60秒の場合について説明する。この場合、1点眠気度計算部103aは、測定開始から60秒間で得たX(1)からX(60)の60個の時系列ベクトルデータに基づいてアトラクターを生成し、最初の1つ目の1点眠気度A(1)を計算して出力する。1点眠気度計算部103aは、次の2つ目の1点眠気度A(2)を求めるにあたり、時系列ベクトルデータをずらして、X(2)からX(61)の時系列ベクトルデータを用いる。つまり、1点眠気度計算部103aは、X(2)からX(61)の時系列ベクトルデータに基づいてアトラクターを生成し、1点眠気度A(2)を計算して出力する。同様にして、1点眠気度計算部103aは、X(3)からX(62)の時系列ベクトルデータに基づいてアトラクターを生成し、1点眠気度A(3)を出力する。1点眠気度計算部103aは、最初の1点眠気度A(1)を出力以降、1秒毎に1点眠気度Aを出力する処理を測定終了まで繰り返す。
【0149】
1次計算部103bは、1点眠気度計算部103aから出力された1点眠気度Aの時系列データを取得する。1次計算部103bは、短区間に取得した1点眠気度Aの時系列データを移動平均処理などの平均処理をして1次短区間眠気度Bを計算する。図14において、1次計算部103bにおける短区間は、時間T2である。つまり、1次計算部103bは、時間T2分の複数の1点眠気度Aを平均化して1次短区間眠気度Bを計算する。1次計算部103bは、計算した1次短区間眠気度Bを出力する。1次計算部103bは、1次短区間眠気度Bを計算するために用いる1点眠気度Aの時系列データに、サンプリング時間間隔ずつずらしたものを用いる。
【0150】
具体例として、時間T2が90秒、つまり図14のnが90である場合について説明する。この場合、1次計算部103bは、A(1)、・・・、A(90)の90個の時系列データを平均処理して、1次短区間眠気度B(1)を計算し、出力する。1次計算部103bは、次の2つ目の1次短区間眠気度B(2)を計算するにあたり、時系列データをずらして、A(2)、・・・、A(91)の時系列データを用いる。つまり、1次計算部103bは、A(2)、・・・、A(91)の時系列データを用いて1次短区間眠気度B(2)を計算して出力する。1次計算部103bは、最初の1次短区間眠気度B(1)を出力以降、1秒毎に1次短区間眠気度Bを出力する処理を測定終了まで繰り返す。
【0151】
1次短区間眠気度Bは、1点眠気度Aの時系列データを平均処理したものであるので、1点眠気度Aの上下の数値変動を吸収したデータとなる。つまり、1次短区間眠気度Bは、1点眠気度Aの時系列データに上下変動があっても、正確な眠気度を把握できる指標値となる。このため、眠気度推定装置1を備えた機器は、眠気度に応じた機器制御を行うにあたり、眠気度として1次短区間眠気度Bを用いることで、1点眠気度Aを用いるよりも安定して制御を行える。人間の眠気度は、1分程度の間でも上昇が観測されるため、時間T2は、時間T1と同様に1分以内として最適である。時間T2は、あまり長く設定されると、眠気度が平滑化されすぎて途中の眠気度の変化が見逃される可能性があるため、3分以内が好ましい。
【0152】
平均処理には、算術平均、加重平均、幾何平均(相乗平均)または調和平均などの様々な処理が用いられる。眠気度は時系列傾向があるため、平均処理には移動平均処理を用いるのが好適である。
【0153】
1次短区間眠気度Bをある一定期間計算して得た時系列データは、縦軸を1次短区間眠気度Bとしたグラフにおいて滑らかな曲線で表され、最終的に時間T2間の区間毎の眠気度の変化傾向が反映された眠気度が得られる。この方式は、脳活動または脈波のように頻繁に変動する事象、また入力信号に重畳されたノイズの除去にも有効な手法である。
【0154】
ここで、眠気度推定装置1は、眠気度の推定にあたり、更に計算時間または計算量を少なくしたい場合には、単純平均を用いるのが好適である。例えば時間T2が90秒であれば、1次短区間眠気度Bは、A(1)、・・・、A(90)の90個の1点眠気度Aを単純平均した値としてもよい。この場合、精度は低下するが、計算量は軽くなる利点がある。
【0155】
2次計算部103cは、1次計算部103bから出力された1次短区間眠気度Bの時系列データを取得する。2次計算部103cは、短区間に取得した1次短区間眠気度Bの時系列データを更に平均処理した2次短区間眠気度Cを計算して出力する。図14において、2次計算部103cにおける短区間は、時間T3である。つまり、2次計算部103cは、時間T3分の複数の1次短区間眠気度Bを平均化して2次短区間眠気度Cを計算する。2次計算部103cは、計算した2次短区間眠気度Cを出力する。2次計算部103cは、2次短区間眠気度Cを計算するために用いる1次短区間眠気度Bの時系列データに、サンプリング時間間隔ずつずらしたものを用いる。
【0156】
具体例として、時間T3が60秒、つまり図14のmが60である場合について説明する。この場合、2次計算部103cは、B(1)、・・・、B(60)の60個の時系列データを平均処理して、2次短区間眠気度C(1)を計算し、出力する。2次計算部103cは、次の2つ目の2次短区間眠気度C(2)を計算するにあたり、時系列データをずらして、B(2)、・・・、B(61)の時系列データを用いる。つまり、2次計算部103cは、B(2)、・・・、B(61)の時系列データを用いて2次短区間眠気度C(2)を計算し、出力する。2次計算部103cは、最初の2次短区間眠気度C(1)を出力以降、1秒毎に2次短区間眠気度Cを出力する処理を測定終了まで繰り返す。
【0157】
1点眠気度計算部103aから出力された1点眠気度A、1次計算部103bから出力された1次短区間眠気度Bおよび2次計算部103cから出力された2次短区間眠気度Cは、眠気度情報出力部103fに入力される。眠気度情報出力部103fは、1点眠気度A、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cのいずれか一つを、眠気度情報として出力してもよいし、一部または全部を出力してもよい。
【0158】
2次短区間眠気度Cは、1次短区間眠気度Bに比べて更に平滑化されて数値または数値傾向が安定した指標値である。一方で、2次短区間眠気度Cは、途中の眠気度の細かい上昇が現れにくくなる。このため、眠気度情報出力部103fは、1点眠気度A、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cのいずれか一つを出力する場合は、眠気度推定装置1が備えられる機器において制御変更を行いたい頻度、応答性および推定時間に応じて選択して出力すればよい。
【0159】
ここで、精度を上げながらも計算時間および計算量を少なくしたい場合、解析部103は、以下の処理を行えば良い。解析部103は、まず、時間T2を時間T1よりも十分短い時間に設定し、短い時間内で1点眠気度Aの時系列データに移動平均処理を実施して1次短区間眠気度Bを計算することで、単純平均を用いる場合に比べて眠気度の推定精度を上げることができる。例えば、T1が30秒、T2が10秒~15秒などに設定される。そして、解析部103は、1次短区間眠気度Bの時間T3分の時系列データを、単純平均を用いて平均処理し、2次短区間眠気度Cを計算する。眠気度推定装置1は、T3が30秒であれば、30個の1次短区間眠気度Bの単純平均で2次短区間眠気度Cを計算する。解析部103は、単純平均を用いると、精度は低下するが計算量は軽くなる利点がある。解析部103は、以上のように処理することで、解析部103は、精度を上げながらも計算時間および計算量を少なくできる。
【0160】
長区間眠気度計算部103dは、長区間眠気度Dを計算する。長区間眠気度計算部103dは、短区間眠気度と同様な手法で上記短区間よりも長い長区間に取得した1点眠気度Aまたは短区間眠気度の時系列データを用いて長区間眠気度Dを計算する。図12において、長区間は、時間T4である。時間T4は、1次短区間眠気度Bの計算に用いる時系列データの取得時間である時間T2よりも長い時間に設定される。
【0161】
長区間眠気度計算部103dは、時間T4分の1点眠気度Aの時系列データを移動平均処理などの平均化処理をして長区間眠気度Dを計算する。長区間眠気度計算部103dは、短区間眠気度の時系列データを平均化処理して長区間眠気度Dを計算してもよい。長区間眠気度計算部103dは、長区間眠気度Dの計算に短区間眠気度を用いる場合には、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cのどちらを用いてもよい。長区間眠気度計算部103dは、移動平均処理で平均化処理する場合において短区間眠気度を用いると、1点眠気度Aを用いるよりも移動平均時間を短くできて記憶領域または計算時間を減らすことができる。平均化処理は、移動平均処理でもよいし、点数が少ない場合には過去の複数の短区間眠気度の単純平均処理でもよい。
【0162】
長区間眠気度Dは、ユーザの平常的な眠気度を表す指標値として定義される。長区間眠気度Dは、後述の眠気度変化推定部103eにおいて眠気度の変化を推定する際に用いられる。眠気度が変化しているかを推定するには、その推定時現在の眠気度と、比較対象の眠気度と、が必要である。長区間眠気度Dは、その比較対象として用いられる。推定時現在の眠気度には、1次短区間眠気度Bまたは2次短区間眠気度Cが用いられる。
【0163】
時間T4は、上述したように時間T2よりも長い時間に設定され、時間T2は、例えば1分程度であり、長くても5分程度である。時間T4は、例えば3分から60分までのいずれかの値が好適である。時間T4が3分より短いと、時間T2との時間的な差異がないため、長区間眠気度Dと1次短区間眠気度Bとの差別化が図れず比較が難しい。時間T4が時間T2の3倍以上であると、長区間眠気度Dと1次短区間眠気度Bとの差別化が図れるので比較が容易である。ただし、時間T4が60分より長すぎると、長区間眠気度Dの計算結果に、ユーザの通常とは異なる行動または状態が含まれる可能性があり、長区間眠気度Dがユーザの平常的な眠気度を示す指標値とは言い難くなる。この場合、眠気度の変化の推定結果の精度が低下する可能性がある。このため、時間T4は、長くても60分までが好ましい。
【0164】
眠気度変化推定部103eは、ユーザの眠気度の変化を推定する。眠気度変化推定部103eは、眠気度の変化として、眠気度の上昇または低下を推定する。また、眠気度変化推定部103eは、眠気度の変化として、眠気度の変化度合いを推定する。眠気度変化推定部103eは、眠気度の上昇および低下のどちらの推定もできるが、推定の考え方はどちらも基本的に同様であるため、以下では眠気度の上昇を推定する場合について説明する。
【0165】
眠気度変化推定部103eは、短区間眠気度計算部103gで計算された短区間眠気度と、長区間眠気度計算部103dで計算された長区間眠気度Dと、に基づいて、眠気度が上昇しているかを推定する。眠気度変化推定部103eは、短区間眠気度に1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cのどちらを用いてもよいが、ここでは、1次短区間眠気度Bを用いるものとして説明を続ける。
【0166】
眠気度変化推定部103eは、推定時現在の1次短区間眠気度Bと、過去の長区間眠気度Dと、を用いて眠気度の上昇を推定する。推定時現在の1次短区間眠気度Bとは、推定時に1次計算部103bから眠気度変化推定部103eに入力された最新を含むリアルタイムの1次短区間眠気度Bを指す。眠気度変化推定部103eは、長区間眠気度Dには、過去の時間帯の長区間眠気度Dを用いる。長区間眠気度Dは、現在の眠気度との比較対象として用いられるため、眠気度が比較的上昇していない時間帯の測定データから計算されたものが好ましい。よって、眠気度変化推定部103eは、長区間眠気度計算部103dで計算された、推定時現在よりも過去の長区間眠気度Dの時系列データの中で、眠気度が最も低い時間帯または眠気度が比較的低い時間帯の長区間眠気度Dを採用する。
【0167】
また、眠気度変化推定部103eは、長区間眠気度Dには、推定時現在の1次短区間眠気度Bの計算に用いた1点眠気度Aを含まない、過去に遡った1点眠気度Aの時系列データを用いて計算された長区間眠気度Dを採用することが望ましい。図14の例で言えば、眠気度変化推定部103eが1次短区間眠気度B(1)の出力タイミングで眠気度の上昇を推定する場合、眠気度変化推定部103eは、1次短区間眠気度B(1)と長区間眠気度Daとを用いて、眠気度の上昇を推定することが望ましい。長区間眠気度Daは、1次短区間眠気度B(1)の計算に用いた1点眠気度A(1)、・・・、A(n)を含まない過去に遡った時間T4a分の1点眠気度Aの時系列データを用いて計算されたものである。
【0168】
眠気度の上昇の推定に用いる長区間眠気度Dが、1次短区間眠気度B(1)の計算に用いた1点眠気度A(1)、・・・、A(n)を含んで計算されたものであると、計算された長区間眠気度Dに現時点の眠気度が影響してしまう。このため、長区間眠気度Dには、1次短区間眠気度B(1)の計算に用いた1点眠気度A(1)、・・・、A(n)を含まない過去に遡った1点眠気度Aの時系列データを用いて計算されたものとすることが望ましい。ただし、長区間眠気度Dは、精度は落ちるが、1点眠気度A(1)、・・・、A(n)を含んで計算されたものでもよい。
【0169】
ここでは、長区間眠気度Dが1点眠気度Aに基づいて計算される例を説明したが、長区間眠気度Dは、上述したように1次短区間眠気度Bまたは2次短区間眠気度Cの短区間眠気度に基づいて計算されてもよい。長区間眠気度Dが短区間眠気度に基づいて計算される場合には、長区間眠気度Dは、推定時現在の短区間眠気度を含まずに計算される方が高精度に計算できるが、推定時現在の短区間眠気度を含んで計算されたものでもよい。
【0170】
本発明者らは、ワーク中のユーザの観察結果から、眠気度が上昇しているユーザに覚醒を促すには、15分から60分あたり1回から2回の気流付与または休憩提案を行って、これを繰り返すのが最適だと考えた。このため、眠気度の変化の推定に用いる長区間眠気度Dには、推定時と同じ日の測定中に計算された長区間眠気度Dであって、推定時現在の短区間眠気度を含まない過去に遡った長区間眠気度Dを採用する。例として推定時現在の短区間眠気度が、ある1分間の測定データに基づく眠気度である場合、長区間眠気度Dには、その1分間を含まないそれより前、好ましくはその1分間の直前の例えば3分から30分間の測定データに基づいて計算されたものが採用される。
【0171】
また、眠気度変化推定部103eは、眠気度の変化を適宜のタイミングで繰り返し推定して出力するが、2回目以降の再推定の際に用いる長区間眠気度Dには、以下の値を用いてもよい。眠気度変化推定部103eは、2回目以降の再推定の際に用いる長区間眠気度Dに、前回眠気度が上昇していないと推定したときに用いた長区間眠気度Dを用いてもよい。このようにすると、眠気度変化推定部103eは、実際には眠気度が上昇しているにもかかわらず、眠気度が上昇していないという誤推定を防止できる効果がある。
【0172】
以下、1次短区間眠気度Bと長区間眠気度Dとを用いた眠気度の上昇の推定方法について説明する。この推定には、眠気度上昇指標値を用いる。長区間眠気度Dに対する1次短区間眠気度Bの倍数で表される。眠気度上昇指標値は、短区間眠気度/長区間眠気度で計算される。眠気度が、例えば1~100の100段階で表され、眠気度が高くなるにつれて大きな値となる場合、眠気度上昇指標値は、0~100の範囲を取り得る。眠気度上昇指標値は、長区間眠気度Dと1次短区間眠気度Bとが同じで眠気度が変化していない場合、1.0であり、眠気度の上昇度合いが大きくなるにつれ、1.0から離れていく。通常の仕事または勉強をしている状態の実測定では、1次短区間眠気度Bは基準となる長区間眠気度Dの半分から2倍程度の値となり、眠気度上昇指標値は0.5~2.0の範囲を取り得ることが多い。
【0173】
眠気度変化推定部103eは、眠気度上昇指標値が閾値以上であるとき、眠気度が上昇したと推定する。閾値は、例えば1.1から1.7までのいずれかの値として最適である。閾値が1.7より大きいと、眠気度がかなり大きく上昇しないと眠気度が上昇したと推定できないリスクが高まる。機器の制御頻度を下げたい場合には閾値を高めにしてもよいが、少なくとも眠気度上昇の推定を行うためには閾値は1.7以下が好ましい。
【0174】
また、閾値が1.1以上であれば、眠気度推定装置1を備えた機器は、眠気度の上昇がそれほど大きくない段階で眠気度が上昇したと推定して覚醒を促す機器制御を行えるため、現在の眠気度の維持を可能にする。眠気度推定装置1は、脳活動の度合いを指数化することで眠気度の推定精度が高い手法であるが、閾値が1.1より小さいと、眠気度が実際には上昇しているとは言えない段階で眠気度が上昇していると誤推定をしてしまう可能性がある。このため、閾値は小さくても1.1である。閾値が1.2から1.5までのいずれかの値であると、眠気度が大きく上昇する場合にしか、眠気度が上昇したという推定結果が得られないリスクを回避できると共に、誤推定を回避できる。
【0175】
眠気度上昇指標値は、上述したように長区間眠気度Dと1次短区間眠気度Bとが等しい時に1.0であり、眠気度が上昇すると1.0より大きくなる。具体的な例として、眠気度が1~100%の100段階で表される場合には、例えば、基準である長区間眠気度Dを40%とした場合、1次短区間眠気度Bが45%であれば1.125倍であり、1次短区間眠気度Bが70%であれば1.75倍である。この場合、眠気度が上昇したと推定する閾値は、制御頻度を上げるために眠気度上昇を早めに検出したい場合には1.1に近い値を採用する。つまり、基準の40%から5%以上の上昇を検出して眠気度上昇したとする。
【0176】
また、眠気度が上昇したと推定する閾値は、制御頻度を下げるために眠気度上昇が大きくなってから検出したい場合には1.7に近い値を選択する。つまり、眠気度上昇指標値が基準の40%から30%以上の上昇を以て、眠気度が上昇したとする。眠気度が1~10の10段階で表される場合には、眠気度上昇指標値は、0~10が計算上は取り得る。例えば、基準である長区間眠気度Dを4とした場合、1次短区間眠気度Bが5であれば1.25倍であり、1次短区間眠気度Bが7であれば1.75倍である。この場合も、眠気度が上昇したと推定する閾値は、前述の100段階と同様の考え方で設定できる。
【0177】
眠気度変化推定部103eは、眠気度上昇指標値が閾値以上であり、眠気度が上昇していると推定した場合、1を出力し、眠気度上昇指標値が閾値未満であり、眠気度が上昇していないと推定した場合、0を出力する。また、眠気度変化推定部103eは、眠気度上昇指標値自体を推定結果として出力してもよい。眠気度変化推定部103eから出力されたこれらの値は、眠気度情報出力部103fに入力される。なお、眠気度変化推定部103eは、眠気度上昇指標値が、1未満の閾値よりも小さい値である場合、眠気度が低下していると推定することも可能である。
【0178】
眠気度変化推定部103eは、眠気度の上昇を推定するにあたり、測定データに基づいて計算した長区間眠気度Dを比較対象として用いており、予め設定した設定値を用いていない。この理由は、平常時の眠気度はユーザ毎に異なるため、眠気度の上昇推定に予め設定した設定値を用いると、不特定多数のユーザを対象とした場合に正確な推定ができないからである。眠気度の上昇を正確に推定できないと、眠気度推定装置1を備えた機器は、機器制御を過剰に行ったり、過小に行ったりする可能性がある。よって、眠気度変化推定部103eは、眠気度の上昇推定に長区間眠気度Dを用いている。これにより、眠気度変化推定部103eは、測定対象が不特定のユーザであっても適切な推定を行うことができる。
【0179】
眠気度情報出力部103fは、上述したように1点眠気度A、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cのいずれか一つを、眠気度情報として出力してもよいし、一部または全部を出力してもよい。また、眠気度情報出力部103fは、眠気度変化推定部103eから1が入力された場合、眠気度が上昇したこと示す眠気度情報を出力し、眠気度変化推定部103eから0が入力された場合、眠気度が上昇していないことを示す眠気度情報を出力する。また、追加の方法として、眠気度情報出力部103fは、推定精度を更に高めるために、閾値を低めに設定して、眠気度変化推定部103eから入力される1の回数をカウントし、カウント数が複数、観測されたときに眠気度が上昇したと確定してもよい。これにより、眠気度推定装置1を備えた機器は、頻繁な制御変更を抑制しながら制御の正確性も向上する。
【0180】
また、眠気度情報出力部103fは、眠気度変化推定部103eから眠気度上昇指標値が出力された場合、眠気度上昇指標値そのものを眠気度情報として出力してもよい。眠気度上昇指標値は、上述したように、眠気度が変化していない場合、1であり、眠気度の上昇度合いが大きくなるにつれ、1.0から離れていく。例えば長区間眠気度Dに対して1次短区間眠気度Bが2倍では、上昇指標値は2.0であり、眠気度が上昇すると1.0より大きくなっていく。このため、眠気度情報出力部103fは、眠気度上昇指標値によって眠気度の上昇度合いを眠気度情報として出力できる。
【0181】
図15は、実施の形態3に係る眠気度推定装置1の解析部103の処理の概略を示すフローチャートである。解析部103は、1点眠気度Aを計算する(ステップS11)。続いて、解析部103は、ステップS11で計算された1点眠気度Aの時系列データに基づいて1次短区間眠気度Bを計算する(ステップS12)。解析部103は、ステップS11で計算された1点眠気度AまたはステップS12で計算された1次短区間眠気度Bの時系列データに基づいて長区間眠気度Dを計算する(ステップS13)。解析部103は、1次短区間眠気度Bと長区間眠気度Dとに基づいて、上述のようにして眠気度の上昇推定を行い(ステップS14)、眠気度情報を出力する(ステップS15)。なお、図15のフローチャートでは、2次短区間眠気度Cの計算については省略しているが、眠気度の上昇推定に2次短区間眠気度Cを用いる場合には、解析部103は、当然、2次短区間眠気度Cの計算を行う。
【0182】
解析部103は、眠気度情報として上述したように1点眠気度A、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cの一部または全部を出力するようにしてもよいし、眠気度が上昇しているか否かの情報を出力してもよい。解析部103は、眠気度推定装置1が備えられる機器に応じて適宜、出力できる情報を変更できる。
【0183】
また、解析部103は、1点眠気度A、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cのいずれかの眠気度に基づいて、眠気度が高いか低いかを示す眠気度情報を出力してもよい。解析部103は、眠気度が高いか低いかの推定は例えば以下のように行えば良い。解析部103は、眠気度が段階数値で表され、眠気度が高くなるにつれて大きな値を取る場合、推定した眠気度が閾値よりも大きければ眠気度が高いと推定し、推定した眠気度が閾値よりも大きければ眠気度が高いと推定すればよい。
【0184】
以上に説明した解析部103は、ドップラーセンサー10でユーザの脈波の測定が開始され、最初の1点眠気度Aを計算して以降、1秒毎に眠気度情報を出力することができる。解析部103は、眠気度情報の出力タイミングを、1秒毎としてもよいし、設定タイミング毎としてもよい。
【0185】
解析部103は、例えば、眠気度が上昇したか否かを眠気度情報として繰り返し出力する場合に、設定タイミングを時間T2とし、時間T2毎に眠気度情報を出力するようにしてもよい。眠気度が上昇したかの推定には、上述したように短区間眠気度が必要であり、時間T2は、1次短区間眠気度Bの計算に必要な1点眠気度Aの時系列データを取得するために必要な時間である。言い換えれば、時間T2は、1次短区間眠気度Bの計算に必要な最小時間である。よって、解析部103が時間T2毎に眠気度情報を出力することで、結果的に、1点眠気度Aの時系列データを毎回全て入れ替えて計算した1次短区間眠気度Bに基づく眠気度の変化の推定結果を出力できる。解析部103は、眠気度の上昇を繰り返し推定するにあたり、1点眠気度Aの時系列データを毎回全て入れ替えて計算した1次短区間眠気度Bを用いることで、眠気度の低下を精度よく推定できる。
【0186】
なお、上記では、解析部103が、眠気度情報の出力タイミングを調整できるとしたが、眠気度を推定する度に眠気度情報を出力し、眠気度情報を取得した機器側が、必要な眠気度情報を選択して機器制御に使用するようにしてもよい。
【0187】
以上説明したように、実施の形態3の眠気度推定装置1は、実施の形態1または実施の形態2と同様の効果が得られると共に、1点眠気度Aだけでなく、1次短区間眠気度B、2次短区間眠気度Cを眠気度情報として出力できる。また、眠気度推定装置1は、ユーザ毎に短区間眠気度と長区間眠気度とに基づいて眠気度の変化を推定し、推定結果を示す眠気度情報を、正確に適切な頻度でリアルタイムに出力できる。
【0188】
実施の形態4.
実施の形態4は、実施の形態1~実施の形態3の眠気度推定装置1を備えた機器に関するもので、特にここでは機器が空調装置である場合について説明する。
【0189】
<空調装置201の構成>
図16は、実施の形態4に係る空調装置201の構成を示す図である。空調装置201は、空調空間である室内空間271を空調する設備である。空調とは、空調空間の空気の温度、湿度、清浄度および気流などを調整することであって、具体的には、暖房、冷房、除湿、加湿および空気清浄などである。
【0190】
図16に示すように、空調装置201は、家屋203に設置される。空調装置201は、例えばHFC(ハイドロフルオロカーボン)などを冷媒として用いたヒートポンプ式の空調設備である。空調装置201は、蒸気圧縮式の冷媒回路を搭載しており、図示しない商用電源、発電設備または蓄電設備などから電力を得て動作する。
【0191】
図16に示すように、空調装置201は、家屋203の外側に設けられる室外機211と、家屋203の内側に設けられる室内機213と、ユーザによって操作されるリモートコントローラ255と、を備える。室外機211と室内機213とは、冷媒が流れる冷媒配管261と、各種信号が転送される通信線263と、を介して接続されている。空調装置201は、室内機213から空調空気、例えば、冷風を吹き出すことで室内空間271を冷房し、温風を吹き出すことで室内空間271を暖房する。
【0192】
室外機211は、圧縮機221と、四方弁222と、室外熱交換器223と、膨張弁224と、室外送風機231と、室外機制御部251と、を備える。室内機213は、室内熱交換器225と、室内送風機233と、室内機制御部252と、人感センサー256と、を備える。冷媒配管261は、圧縮機221と、四方弁222と、室外熱交換器223と、膨張弁224と、室内熱交換器225と、を環状に接続している。空調装置201は、圧縮機221と、四方弁222と、室外熱交換器223と、膨張弁224と、室内熱交換器225と、を冷媒配管261によって接続して構成された冷媒回路を有する。冷媒回路は、冷媒を循環させて冷凍サイクルの動作を行う。
【0193】
圧縮機221は、冷媒を圧縮して冷媒配管261を循環させる。具体的に説明すると、圧縮機221は、低温かつ低圧の冷媒を圧縮し、高圧かつ高温となった冷媒を四方弁222に吐出する。圧縮機221は、駆動周波数に応じて運転容量を変化させることができるインバータ回路を備える。運転容量とは、圧縮機221が単位時間当たりに冷媒を送り出す量である。圧縮機221は、室外機制御部251からの指示に従って運転容量を変更する。
【0194】
四方弁222は、圧縮機221の吐出側に設置されている。四方弁222は、空調装置201の運転が冷房運転もしくは除湿運転であるか、または暖房運転であるかに応じて、冷媒配管261中の冷媒の流れ方向を切り替える。膨張弁224は、室外熱交換器223と室内熱交換器225との間に設置されており、冷媒配管261を流れる冷媒を減圧して膨張させる。膨張弁224は、その開度が変更可能に制御可能な電子式膨張弁である。膨張弁224は、室外機制御部251からの指示に従って開度を変更して、冷媒の圧力を調整する。
【0195】
室外熱交換器223は、冷媒配管261を流れる冷媒と、室内空間271の外部である室外空間(外部空間)272の空気と、の間で熱交換を行う。室外送風機231は、室外熱交換器223の傍に設けられており、室外空間272の空気を吸い込み、吸い込んだ空気を室外熱交換器223に送る。室外熱交換器223に送られた空気は、冷媒配管261を流れる冷媒と熱交換した後、室外空間272に吹き出される。
【0196】
室内熱交換器225は、冷媒配管261を流れる冷媒と、室内空間271の空気と、の間で熱交換を行う。室内送風機233は、室内熱交換器225の傍に設けられており、室内空間271の空気を吸い込み、吸い込んだ空気を室内熱交換器225に送る。室内熱交換器225に送られた空気は、冷媒配管261を流れる冷媒と熱交換した後、室内空間271に吹き出される。室内熱交換器225で熱交換された空気は、空調空気として室内空間271に供給される。これにより、室内空間271が空調される。
【0197】
室外機制御部251は、室外機211の動作を制御する。室内機制御部252は、室内機213の動作を制御する。
【0198】
室内空間271にはリモートコントローラ255が配置されている。リモートコントローラ255は、室内機213が備えている室内機制御部252との間で各種信号を送受信する。リモートコントローラ255は、後述の図17に示すように表示部255aを備えている。表示部255aは、タッチスクリーン、液晶ディスプレイおよびLED(Light Emitting Diode)などを備えている。また、リモートコントローラ255は、押圧ボタン(図示せず)を備えている。リモートコントローラ255は、ユーザからの各種指令を受け付ける指令受付部、および、各種情報をユーザに表示する表示部として機能する。ユーザは、リモートコントローラ255を操作することで、空調装置201に指令を入力する。指令は、例えば、運転と停止との切替指令、または、運転モード、設定温度、設定湿度、風量、風向若しくはタイマーなどの切替指令である。空調装置201は、入力された指令に従って運転する。
【0199】
図17は、実施の形態4に係る空調装置201のブロック図である。空調装置201は、制御装置250と、空調部280と、実施の形態1~実施の形態3の眠気度推定装置1と、を備えている。また、空調装置201には、ユーザによって操作される情報機器290がネットワークNを介して接続されている。
【0200】
制御装置250は、空調装置201全体を制御する。また、制御装置250は、眠気度推定装置1から出力された眠気度情報に基づいて機器本体、言い換えれば空調部280の運転を制御する。制御装置250は、上述の室外機制御部251と室内機制御部252とを備えている。また、図17では図示省略しているが、制御装置250は、実施の形態1で説明した制御内容決定部104と、機器制御部105と、を備えている。制御内容決定部104および機器制御部105は、室外機制御部251および室内機制御部252のどちらに備えられてもよい。
【0201】
室外機制御部251は、制御部251aと、記憶部251bと、計時部251cと、通信部251dと、を備える。これら各部はバス(図示せず)を介して接続されている。
【0202】
制御部251aは、室外機全体の制御を行う。記憶部251bは、RAMまたはROMなどのメモリーで構成されており、制御に必要なデータを記憶している。計時部251cは、時間を計時する部分である。通信部251dは、通信線263(図16参照)を介して室内機制御部252と通信するためのインタフェースである。
【0203】
室外機制御部251は、図16に示したように通信線263によって室内機制御部252と接続されている。室外機制御部251は、室内機制御部252と通信線263を介して各種信号を受信することにより室外機制御部251と協調動作する。
【0204】
室内機制御部252は、室外機制御部251およびリモートコントローラ255との通信を行う通信部252aを備えている。通信部252aは、室外機制御部251およびリモートコントローラ255と通信するためのインタフェースである。通信部252aは更に、ネットワークNを介して情報機器290に接続されている。通信部252aは、ユーザからの各種指令をリモートコントローラ255から受信する処理と、リモートコントローラ255から受信した各種指令を室内機制御部252に送信する処理と、を行う。また、通信部252aは、ユーザに報知するための報知情報をリモートコントローラ255に送信する処理と、を行う。
【0205】
室外機制御部251および室内機制御部252は、マイクロプロセッサユニットにより構成されている。室外機制御部251および室内機制御部252は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを備えており、ROMには制御プログラムなどが記憶されている。なお、室外機制御部251および室内機制御部252は、マイクロプロセッサユニットに限定するものではない。例えば、室外機制御部251および室内機制御部252は、ファームウェアなどの更新可能なもので構成されていてもよい。また、室外機制御部251および室内機制御部252は、プログラムモジュールであって、図示しないCPUなどからの指令により、実行されるものでもよい。また、ここでは、制御装置250が室外機制御部251と室内機制御部252とを有し、室外機211と室内機213とに分けて構成した例を示したが、両方の機能を備えた一つの制御部で構成してもよい。
【0206】
空調部280は、室内空間271を空調する部分であり、図16の冷媒回路、室外送風機231および室内送風機233に相当する。
【0207】
以上のように構成された空調装置201は、眠気度推定装置1から出力された眠気度情報に基づいて空調部280の運転を制御する。具体的には、空調装置201の制御装置250は、例えば、眠気度情報が、眠気度が高いという情報であれば、空調部280を制御してユーザの覚醒を促す動作を行う。従来、風があたることでユーザが覚醒することが確認されている。よって、制御装置250は、ユーザの眠気度が高い場合、ユーザの覚醒を促す覚醒動作として、例えば室内送風機233の回転数を上げて送風量を増やす。
【0208】
また、空調装置201は、ユーザの位置を感知する人感センサー256を備えている。制御装置250は、ユーザの眠気度が高い場合、人感センサー256で感知されたユーザの位置に基づいて、空調部280を制御して、ユーザの覚醒を促す以下の覚醒動作を行う。制御装置250は、室内機213に設けられた上下風向板(図示せず)を上下に動かすスイング動作によって風が間欠的にユーザにあたるようにするか、左右風向板(図示せず)を左右に動かすスイング動作によって風が間欠的にユーザにあたるようにする。以上の制御により、空調装置201は、眠気度が高いユーザの覚醒を促すことができる。
【0209】
また、室温は、ユーザが適温と感じる温度より1℃程度低めの方が、脳を冷やす効果があって作業効率が良いとされている。特に暖房時は、設定温度が高すぎることで眠気度が上昇すると言われている。このため、制御装置250は、覚醒動作として室内の設定温度を現在の温度よりやや低めの温度に調節する制御を行ってもよい。
【0210】
反対に、眠気度が低い場合には、制御装置250は、室内送風機233の回転数を下げて送風量を減らすか、上下風向板をなるべく上方向に制御してユーザに風があたらないようにする。また、制御装置250は、ユーザに風があたらないように上下風向板(図示せず)および左右風向板(図示せず)の一方または両方を制御する。以上の制御により、空調装置201は、ユーザに風があたることでユーザの意識が風に向かい、集中度の低下を招くことを抑制できる。言い換えれば、空調装置201は、眠気度が低く、集中度が高い状態のユーザが風を意識することなく作業を行える効果が得られる。
【0211】
ここで、眠気度推定装置1が実施の形態3の眠気度推定装置1である場合、眠気度推定装置1から出力される眠気度情報の眠気度には、1点眠気度A、1次短区間眠気度Bおよび2次短区間眠気度Cがある。空調装置201が1点眠気度A、つまりユーザのある時点の眠気度に基づいて空調部280の運転を制御すると、空調装置201の制御変更が頻繁に実施される可能性がある。この場合、ユーザは、空調装置201の動作が気になったり、温度または気流が変わることでの不快を頻繁に感じたりする可能性がある。このため、空調装置201は、ユーザの眠気度に基づいて制御を行うにあたり、1次短区間眠気度Bまたは2次短区間眠気度Cを用いることで、適度な回数かつ正確に傾向を反映して制御を決定できるメリットがある。
【0212】
ただし、2次短区間眠気度Cは、平均処理を2度行って計算される値であるため、空調装置201は、2次短区間眠気度Cに基づいて制御を行うと、1次短区間眠気度Bに基づいて制御を行う場合に比べて、細かい眠気度上昇に応じた応答の速い制御を行いにくくなる。また、2次短区間眠気度Cは、平均処理を2度行って計算される値であるため、1次短区間眠気度Bに比べて計算時間を要する。このため、空調装置201は、ユーザの眠気度に2次短区間眠気度Cを用いると、制御変更の推定に時間を要する。よって、空調装置201は、制御変更を行いたい頻度、応答性および推定時間に応じて、1次短区間眠気度Bまたは2次短区間眠気度Cを選択して好適である。
【0213】
また、空調装置201は、眠気度が上昇したという変化があった場合に覚醒動作を行うように空調部280の運転を制御することもできる。この場合の制御について、次の図18を参照して説明する。
【0214】
図18は、実施の形態4に係る空調装置201の動作を示すフローチャートである。以下の説明で登場する時間T2は、実施の形態3の時間T2と同様である。空調装置201は、眠気度推定装置1から出力された眠気度情報を取得する(ステップS31)。空調装置201は、眠気度推定装置1から時間T2毎に出力された眠気度情報を取得するものとする。以下の説明において、眠気度情報R1、眠気度情報R2、眠気度情報R3は、眠気度情報R4は、順に、眠気度推定装置1から時間T2毎に出力された眠気度情報の1回目、2回目、3回目、4回目を指すものとする。
【0215】
空調装置201は、ステップS31で取得した眠気度情報R1がユーザの眠気度が上昇しているという情報であるかを判断する(ステップS32)。空調装置201は、眠気度情報R1が、眠気度が上昇しているという情報である場合、後述のステップS33を経て、空調部280を制御して、ユーザの覚醒を促す覚醒動作を開始する(ステップS34)。覚醒動作は、上述したように上下風向板を上下に動かすスイング動作である。そして、空調装置201は、覚醒動作の実行回数をカウントする(ステップS35)。ここでは、空調装置201は1をカウントする。
【0216】
空調装置201は、次の眠気度情報R2を取得するまでの間、覚醒動作を継続する。そして、空調装置201は、新たに眠気度情報R2を取得すると(ステップS36)、眠気度情報R2が、ユーザの眠気度が上昇しているという情報であるかを判断する(ステップS37)。眠気度情報R2が、引き続き眠気度が上昇しているという結果である場合、空調装置201は、カウント回数が設定回数未満であるかを判断する(ステップS38)。設定回数は、ここでは3であるとすると、現在のカウント回数は1であり、設定回数未満である。このため、空調装置201は、ステップS34に戻り、覚醒動作を継続する。空調装置201は、この覚醒動作を、前回のステップS34で覚醒動作を開始した際と同じ風量で続けてもいいし、覚醒を更に促すために風量を増してもよい。空調装置201は、風量を増した方が、ユーザの眠気度を早く低下させることができる。そして、空調装置201は、覚醒動作の実行回数を、ここでは2にカウントする(ステップS35)。
【0217】
空調装置201は、次の眠気度情報R3を取得するまでの間、覚醒動作を継続する。そして、空調装置201は、新たに眠気度情報R3を取得すると(ステップS36)、眠気度情報R3が、ユーザの眠気度が上昇しているという情報であるかを判断する(ステップS37)。眠気度情報R3が、引き続き眠気度が上昇しているという情報である場合、空調装置201は、カウント回数が設定回数未満であるかを判断する(ステップS38)。現在のカウント回数は2であり、設定回数の3未満である。このため、空調装置201は、ステップS34に戻り、覚醒動作を継続する。空調装置201は、この覚醒動作の際、前回のステップS34で覚醒動作の継続時と同じ風量で続けてもいいし、覚醒を更に促すために風量を増してもよい。そして、空調装置201は、覚醒動作の実行回数を、ここでは3にカウントする(ステップS35)。
【0218】
空調装置201は、次の眠気度情報R4を取得するまでの間、覚醒動作を継続する。そして、空調装置201は、新たに眠気度情報R4を取得すると(ステップS36)、眠気度情報R4が、ユーザの眠気度が上昇しているという情報であるかを判断する(ステップS37)。眠気度情報R4が、引き続き眠気度が上昇しているという結果である場合、空調装置201は、カウント回数が設定回数未満であるかを判断する(ステップS38)。カウント回数は3であり、設定回数未満ではない。このため、空調装置201は覚醒動作を停止する(ステップS39)。
【0219】
つまり、空調装置201は、覚醒動作を設定回数行ってもユーザの眠気度が低下しない場合には、気流感により不快を与える可能性があるので覚醒動作を停止する。設定回数は、ここでは3としているが、設定回数は3に限られたものではない。また、空調装置201は、覚醒動作としてスイング動作を行うとしたが、ユーザを覚醒させるための時間はかかるが、脳を冷やすために室温を低下させる制御を実施してもよい。つまり、上記の覚醒動作には、スイング動作の他、室温を低下させる動作が含まれる。
【0220】
また、空調装置201は、ステップS37において、眠気度情報R2または眠気度情報R3が、ユーザの眠気度が上昇しているという情報ではない場合、つまりユーザが覚醒した場合、ステップS34の覚醒動作に戻ることなく、覚醒動作を停止する(ステップS39)。
【0221】
ここで、ステップS33について説明する。空調装置201は、ステップS32で眠気度が上昇したと推定した場合、直ちに覚醒動作の実行に入るのではなく、前回の覚醒動作から不作動時間が経過したと判断した場合に覚醒動作に入るようにしている。つまり、空調装置201は、眠気度が上昇したと推定されてから一旦、覚醒動作を行った後、一定時間は覚醒動作を行わない不動作時間を設けている。これは、ユーザは、空調装置201の覚醒動作によって覚醒した後、その覚醒状態が維持されると考えられるためである。
【0222】
仮に不動作時間を設けていないと、空調装置201は、ユーザに頻繁に風を当て続ける可能性があり、快適性を損ねる可能性がある。空調装置201は、不動作時間を設けていることで、気流による不快感または温冷的な不快感をユーザに与えることを避けることができる。不動作時間は、眠気度の低下がよく観察される例えば10分から15分として好適である。
【0223】
以上説明したように、空調装置201は、眠気度推定装置1から出力された眠気度情報を用いて空調部280の制御を行うことで、ユーザの眠気度に応じて正確に適切な頻度で覚醒動作を行うことができる。その結果、空調装置201は、ユーザのワークまたは勉強における作業効率を維持できる。または、空調装置201は、ユーザの眠気度の上昇を抑制して、作業効率の向上を実現できる効果がある。
【0224】
ところで、リモートコントローラ255は、空調装置201の構成品の一部としての位置づけであるが、情報機器290はユーザ所有の機器との位置づけである。情報機器290は、液晶パネルなどの表示部291を有し、表示部291に各種の情報が表示される。情報機器290は、例えばスマートフォンまたはタブレットなどで構成される。情報機器290にはユーザの眠気度などを表示するためのアプリケーションがインストールされている。また、情報機器290は、空調制御用のアプリケーションがインストールされることで、リモートコントローラ255の代わりとして用いることもできる。
【0225】
情報機器290は、ユーザによって操作が行われると、アプリケーションを起動し、眠気度推定装置1から出力された眠気度情報を、ネットワークNを介して取得し、表示部291に表示する。具体的な制御としては、空調装置201の制御装置250が、情報機器290からの要求に応じて眠気度推定装置1で出力された眠気度情報を、通信部252aを介して情報機器290に送信し、情報機器290に表示させる処理を行う。なお、ここでは眠気度情報が情報機器290に表示されるとしたが、リモートコントローラ255の表示部255aに表示されてもよい。
【0226】
このように、空調装置201は、眠気度情報を情報機器290またはリモートコントローラ255の表示部255aに表示して視覚化することで、ユーザは眠気度を視覚的に確認できる。
【0227】
なお、ここでは、眠気度推定装置1を備えた機器が空調装置201であるものとして説明したが、空調装置201に限られず、電気機器、車または娯楽機器など様々な機器に組み込むことができる。また、眠気度推定装置1は、例えば労務管理装置または学習管理装置などにも組み込むことができる。
【0228】
また、眠気度推定装置1は、ヘルスケア、労務、教育、睡眠、マインドフルネス、メディテーション、カスタマーサービス、マーケティングまたはスポーツメンタルトレーニングなど幅広い分野の機器に組み込むことができる。眠気度推定装置1がこれらの機器に組み込まれた場合、機器は、眠気度の推定結果を利用した機器制御およびユーザへの眠気度の推定結果の提示を行える。このように、眠気度推定装置1が様々な機器に適用されることで、その機器のユーザに対し、眠気度を視覚化して提示できる。
【符号の説明】
【0229】
1 眠気度推定装置、10 ドップラーセンサー、10a 基板部、100 アンテナ部、100a アンテナ、101 無線部、102 アナログ回路部、103 解析部、103a 1点眠気度計算部、103b 1次計算部、103c 2次計算部、103d 長区間眠気度計算部、103e 眠気度変化推定部、103f 眠気度情報出力部、103g 短区間眠気度計算部、104 制御内容決定部、105 機器制御部、106 クラウド部、107 表示部、108 データ収集部、201 空調装置、203 家屋、211 室外機、213 室内機、221 圧縮機、222 四方弁、223 室外熱交換器、224 膨張弁、225 室内熱交換器、231 室外送風機、233 室内送風機、250 制御装置、251 室外機制御部、251a 制御部、251b 記憶部、251c 計時部、251d 通信部、252 室内機制御部、252a 通信部、255 リモートコントローラ、255a 表示部、256 人感センサー、261 冷媒配管、263 通信線、271 室内空間、272 室外空間、280 空調部、290 情報機器、291 表示部。
【要約】
眠気度推定装置は、ユーザの脈波を検出するドップラーセンサーと、ドップラーセンサーで検出された脈波を解析する解析部と、を備え、解析部は、脈波の波形形状の時系列変位である脈波形状変位を解析元にしたカオス解析に基づいて脈波を数値化した指標値を生成し、指標値に基づいてユーザの眠気度を推定し、推定した眠気度に関する眠気度情報を出力する。
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
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図18