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  • 特許-油性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】油性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/232 20060101AFI20231017BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231017BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20231017BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20231017BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20231017BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20231017BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20231017BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20231017BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
A61K31/232
A61K47/14
A61K9/48
A23L33/115
A61P9/10
A61P3/06
A61P9/00
A61P27/02
A61P25/28
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020005949
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021113165
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸子
(72)【発明者】
【氏名】平田 愛奈
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏大
(72)【発明者】
【氏名】田渕 良
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206518(JP,A)
【文献】特開2004-135681(JP,A)
【文献】特開平05-086395(JP,A)
【文献】特開2015-073464(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008715(WO,A1)
【文献】特開2011-004640(JP,A)
【文献】特開2005-058018(JP,A)
【文献】特開2005-058017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分を含有する高度不飽和脂肪酸含有油性組成物。
A成分.エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びアラキドン酸から選ばれた1種以上の高度不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含有する油脂 40~90質量%
B成分.カプリル酸グリセリル及び/又はカプリル酸ジグリセリル 2~17質量%
C成分.グリセリン単位の数が4~10のポリグリセリンに、オレイン酸1~3分子がエステル結合したポリグリセリン脂肪酸エステル 5~30質量%
D成分.ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル 1~10質量%
【請求項2】
C成分とD成分の配合質量比がC/D=1~10、かつB成分とC成分とD成分の合計量とD成分の質量比D/(B+C+D)が0.05~0.5である請求項1に記載の油性組成物。
【請求項3】
A成分中に、高度不飽和脂肪酸を10~80質量%含有する請求項1又は2に記載の油性組成物。
【請求項4】
油性組成物中に、エイコサペンタエン酸を1~65質量%、及び/又は、ドコサヘキサエン酸を1~55質量%含有する請求項1~のいずれかに記載の油性組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の油性組成物を含むソフトカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸含有油性組成物中に含有されるエイコサペンタエン酸(以下「EPA」という)やドコサヘキサエン酸(以下「DHA」という)などの高度不飽和脂肪酸類の吸収性が高められた油性組成物及びこの油性組成物を内包するソフトカプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚油に多く含有されているEPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸は、様々な生理作用が確認され、注目されている。例えば、EPAには閉そく性動脈硬化症や高脂血症、心筋梗塞などの予防改善効果、DHAには高脂血症改善効果、視力低下抑制効果、学習機能改善効果などが知られている。このため、これらのEPAやDHAをはじめとする高度不飽和脂肪酸類は、医薬品、健康食品、食品素材として利用されている。医薬品とする場合は、高度不飽和脂肪酸類のエステルが利用され、健康食品や飲食品として利用する場合は、トリグリセリドとして用いられている。健康食品や飲食品として利用される高度不飽和脂肪酸トリグリセリド含有油脂は、高度不飽和脂肪酸を油脂中に10~80質量%含有する。
【0003】
これらの油脂、中でも魚油などの高度不飽和脂肪酸のトリグリセリドを高含有する油性組成物中に含まれるDHAやEPA、アラキドン酸などの高度不飽和脂肪酸は、経口摂取したとき吸収性が悪いことが知られている。これは、EPA、DHA、アラキドン酸は、その分子径が大きいため炭素数C18の脂肪酸に比べて、消化吸収速度が劣っているためである。そのため、これらを多く含む魚油などをそのまま投与しても、これらの脂肪酸の本来持つ生理作用を発揮しにくく、治療改善効果を奏しにくい。また高度不飽和脂肪酸含有トリグリセリドに乳化剤を配合した組成物もあるが、必ずしも吸収性が高いとは言えない。
このような問題を解決するため、特許文献1には、油脂組成物を構成するトリグリセリドに、中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合し、含有されるDHAなどのn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸の吸収性を改善する技術が提案されている。
また、特許文献2には、消化吸収性の良い高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドの構造を変換した、2位の脂肪酸がC8~C12の脂肪酸に置換された油脂が記載されている。
【0004】
このように近年、EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸を多く含むトリグリセリドや油脂組成物において、経口投与時のEPAやDHAの体内吸収性改善のため様々な試みが始まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-226693号公報
【文献】特開昭63-87988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油性成分を含有する機能性食品、健康食品、医薬品、医薬部外品等において、油性成分である生理活性物質の体内への利用率及び/又は吸収率が改善された乳化組成物及びそれを含むソフトカプセル製剤が望まれている。
本発明は、EPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸の吸収効率を高めることを課題とする。さらに本発明は、EPAやDHA等の、体内吸収性に優れたソフトカプセル製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な構成は次の通りである。
(1)以下の成分を含有する高度不飽和脂肪酸含有油性組成物。
A成分.高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含有する油脂 40~90質量%
B成分.カプリル酸グリセリル及び/又はカプリル酸ジグリセリル 2~17質量%
C成分.グリセリン単位の数が4~10のポリグリセリンに、オレイン酸1~3分子がエステル結合したポリグリセリン脂肪酸エステル 5質量%以上
D成分.ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル 1~10質量%
(2)C成分とD成分の配合質量比がC/D=1~10、かつB成分とC成分とD成分の合計量とD成分の質量比D/(B+C+D)が0.05~0.5である(1)に記載の油性組成物。
(3)A成分中に、高度不飽和脂肪酸を10~80質量%含有する(1)又は(2)に記載の油性組成物。
(4)高度不飽和脂肪酸中にエイコサペンタエン酸(EPA)及び/又はドコサヘキサエン酸(DHA)を含有する(1)~(3)のいずれかに記載の油性組成物。
(5)油性組成物中に、エイコサペンタエン酸を1~65質量%、及び/又はドコサヘキサエン酸を1~55質量%含有する(1)~(4)のいずれかに記載の油性組成物。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の油性組成物を含むソフトカプセル。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、EPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸の吸収性の良い油性組成物が提供される。本発明の油性組成物は、経口で摂取したときEPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸の吸収性が向上しており、ヒトに投与する場合に、1回あたりの経口摂取するEPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリドの量を減量することができる。
また、本発明のソフトカプセル剤は、経口で摂取したときのEPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸の吸収性が向上した製剤となる。その結果、ソフトカプセル製剤1錠あたりの内包するトリグリセリド量を減量できるため、製剤を小型化することができる。このため、本発明の製剤は、嚥下能力の低下した高齢者や、小児でも楽に嚥下することが可能となる。さらにまた、高価な多価不飽和脂肪酸含有トリグリセリドの配合を減量できるために、製造コストの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の組成物及びコントロールを投与したラットの血中EPA濃度の経時的測定結果から求めた24時間AUCを示すグラフである。
図2】実施例1の組成物及びコントロールを投与したラットの血中DHA濃度の経時的測定結果から求めた24時間AUCを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、吸収性の良いEPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリドを含む油性組成物の発明である。
また本発明は、EPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリドを含む油性組成物のソフトカプセル製剤の発明である。
【0011】
本発明の高度不飽和脂肪酸を含む油性組成物は、EPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを油相成分として含有し、乳化剤としてカプリル酸グリセリル及び/又はカプリル酸ジグリセリルと、グリセリン単位の数が4~10のポリグリセリンにオレイン酸1~3分子がエステル結合したポリグリセリン脂肪酸エステルと、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することによって、水系液体中への分散性が高まる。その結果、消化管内において上記の吸収されにくいEPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸の体内へ吸収が促進される。
【0012】
本明細書において、「油脂」とは、トリグリセリドのみを含む油と、トリグリセリドを主成分とし、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、コレステロール、遊離脂肪酸等の他の脂質が含まれている油も包含する。
【0013】
本明細書において、「油性組成物」とは前記の「油」を主成分とし、これに乳化剤等の添加剤を含む組成物をいう。
【0014】
本明細書における「脂肪酸」とは、遊離の飽和若しくは不飽和脂肪酸それら自体だけでなく、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド等に含まれる構成単位としての脂肪酸も含まれる。
【0015】
本明細書における「高度不飽和脂肪酸」とは不飽和結合数が4以上の脂肪酸を高度不飽和脂肪酸という。DHA、EPA、アラキドン酸を代表的な高度不飽和脂肪酸として例示できる。
【0016】
本発明の油性組成物の水分散性とは、組成物をピペットで採取してその1滴(約0.1mL)を100mLの水に滴下した後3分間撹拌したときの分散粒子の平均粒子径が20μm以下を示す場合を、組成物が分散性を有すると評価する。水中で油相粒子が20μm以下の粒子サイズを維持することでEPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが、消化管において乳化されて、酵素反応によって脂肪酸とトリグリセリドとなり消化管から速やかに吸収される。なお分散性の測定の詳細は実施例において具体的に説明する。
【0017】
また、本発明の組成物は、EPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを経口摂取するための組成物として、ゼラチンソフトカプセルに内包して経口剤として摂取できる。
【0018】
次に本発明の油性組成物について説明する。
<高度不飽和脂肪酸を含むトリグリセリド>
本発明の油性組成物は、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含有する。高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドは、魚油に由来するものが具体的に例示できる。あるいは、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが含有されていることが公知の微生物(藻類や菌類)由来、又は甲殻類由来の油であってもよい。
魚油は、高度不飽和脂肪酸を高濃度に含んでいることが知られ、すでに高度不飽和脂肪酸を構成主成分とする精製魚油が市販されており、これを購入して本発明に使用することができる。
精製魚油としては、魚類に含まれる油脂、リン脂質、ワックスエステルなどを含む脂質を例示できる。いわゆる青魚に分類されるニシン、イワシ、カタクチイワシ、サンマ、あるいはマグロ類及びこれらに由来の油混合物である。
魚油は、必要により公知の方法によって、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを選択的に精製した油脂とすることができる。
【0019】
一般的に脂肪酸を表記する際に、炭素数、二重結合の数及び二重結合の場所を、それぞれ数字とアルファベットを用いて簡略的に表した表現を用いることがある。例えば、炭素数20の飽和脂肪酸は「C20:0」と表記され、炭素数18の一価不飽和脂肪酸は「C18:1」等と表記される。例えばドコサヘキサエン酸(DHA)は「C22:6,n-3」等と表記される。ここで、「n-3」はω-3としても表記されるが、これは、最後の炭素(ω)からカルボキシに向かって数えたときの最初の二重結合の結合位置が3番目であることを示す。この方法は当業者には周知であり、この方法に従って表記された脂肪酸については、当業者であれば容易に特定することができる。高度不飽和脂肪酸の表記は、このような簡略的表記を採用して表示することができる。
【0020】
本明細書において組成物中の高度不飽和脂肪酸の含有率は、特に断らない限り、脂肪酸組成に基づいて決定する。脂肪酸組成は、常法に従って求めることができる。具体的には、測定対象となる組成物中の脂肪酸が脂肪酸低級アルキルエステル以外の場合には、測定対象となる脂肪酸を、低級アルコールと触媒を用いてエステル化して得た脂肪酸低級アルキルエステルを用いる。測定対象となる組成物中の脂肪酸が脂肪酸低級アルキルエステルの場合には、測定対象の脂肪酸をそのまま用いる。次いで、得られた脂肪酸低級アルキルエステルを試料として、ガスクロマトグラフィーを用いて分析する。得られたガスクロマトグラフィーのチャートにおいて各脂肪酸に相当するピークを同定し、各脂肪酸のピーク面積を求める。ピーク面積とは、各種脂肪酸を構成成分とする油脂をガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC/FID)等を用いて分析したチャートのそれぞれの成分のピーク面積の全ピーク面積に対する割合(面積%)であり、そのピークの成分の含有比率を示すものである。上述の測定方法により得られた面積%による値は、試料中の脂肪酸の合計質量に対する各脂肪酸の質量%による値と同一として互換可能に使用できる(日本油化学会(JOCS)制定 基準油脂分析試験法 2018年増補改訂版を参照のこと)。本明細書では、脂肪酸含有量を「質量%」として表記する。
【0021】
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド含有油脂における高度不飽和脂肪酸の含有率は、本発明においては、当該油脂の使用目的に応じて任意に決定できる。通常高度不飽和脂肪酸含有量10~80質量%のものが、EPAやDHAの供給源として好ましい。
【0022】
<油性組成物>
本発明の油性組成物は、A成分として、上記の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含む油脂(例えば魚油)、又は高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含む油脂(魚油)と植物油とを混合して得られた油脂と、下記に示すB~Dの水性乳化剤を配合することで得られる。油性組成物には乳化剤以外に酸化防止剤、油溶性ビタミン等任意の油溶性成分を配合してもよい。
本発明の油性組成物においては、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含有する油脂を40~90質量%、好ましくは50~85質量%含有する。
また、本発明の組成物にあっては、(A)成分中、高度不飽和脂肪酸を10~80質量%含有する。高度不飽和脂肪酸としてはEPA及び/又はDHAを含有する。
本発明に使用する高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含有する油脂は、市販されている精製魚油を使用してもよい。このような市販の精製魚油としては、EPA-28G2(日本水産株式会社)、EPA-70(タマ生化学株式会社)、DHA-55(日本水産株式会社)を例示できる。
【0023】
<乳化剤>
本発明の油性組成物は、
B成分.カプリル酸グリセリル及び/又はカプリル酸ジグリセリル
C成分.グリセリン単位の数が4~10のポリグリセリンに、オレイン酸1~3分子がエステル結合したポリグリセリン脂肪酸エステル
D成分.ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
を乳化剤として含有する。
【0024】
本発明の組成物は、B成分であるカプリル酸グリセリル及び/又はカプリル酸ジグリセリルを2~30質量%、好ましくは2~20質量%、特に好ましくは2~17質量%配合する。市販のカプリル酸グリセリルとしては、サンソフトNo.700P-2(太陽化学株式会社)、カプリル酸ジグリセリルとしてはSYグリスターMCA-180(阪本薬品工業株式会社)を例示できる。
【0025】
本発明の組成物は、C成分であるグリセリン単位の数が4~10のポリグリセリンに、1~3分子のオレイン酸がエステル結合したポリグリセリン脂肪酸エステルを3~45質量%、好ましくは5~40質量%、特に好ましくは5~30質量%含有する。このようなポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、オレイン酸ポリグリセリル-4、オレイン酸ポリグリセリル-5、オレイン酸ポリグリセリル-10、トリオレイン酸ポリグリセリル-5を例示できる。これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、市販されており、それぞれ市販の乳化剤として、オレイン酸ポリグリセリル-4(SY-グリスターMO-3S:阪本薬品工業株式会社)、オレイン酸ポリグリセリル-5(サンソフトA-171E:太陽化学株式会社)、オレイン酸ポリグリセリル-10(ポエムJ-0318IV:理研ビタミン株式会社)、トリオレイン酸ポリグリセリル-5(サンソフトA-173E:太陽化学株式会社)等を例示できる。
【0026】
本発明の組成物は、D成分であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとして、リシノレイン酸同士がエステル結合した縮合物とポリグリセリンをさらにエステル結合したものが配合される。配合量としては1~10質量%が好ましい。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは食品に広く利用されている。本発明にあっては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのグリセリン単位については特に制限はないが、好ましくは3~5である。本発明に使用するポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとしては、グリセリン単位が5である縮合リシノレイン酸ポリグリセリル-5が特に好ましい。
本発明に適した市販されている縮合リシノレイン酸ポリグリセリル-5として、サンソ
フトNo.818R(太陽化学株式会社)を例示できる。
【0027】
本発明の組成物にあっては、さらに上記のC、Dについて、C成分とD成分の配合質量比がC/D=1~10、かつB成分とC成分とD成分の合計量とD成分の質量比D/(B+C+D)が0.05~0.5とすることで、組成物の分散性をより確実にすることができ、さらにEPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸の消化管での吸収性を向上させる。従来の高度不飽和脂肪酸含有油性組成物では、このような吸収性の向上を確認できなかった。一方本発明にあっては、これは、油性組成物の分散性が高まることに加えて、高度不飽和脂肪酸の立体配位が変化して、長鎖の脂肪酸の形状が吸収しやすい構造に変化していると考えられる。
【0028】
<その他の成分>
本実施形態の油性組成物は、前記した各成分の他に、必要に応じて任意の他の成分(例えば、栄養成分、有効成分、薬理成分など生理活性成分、色素酸化防止剤、糖類を含有していてもよい。このような成分としては、飲食品、医薬品に使用可能なものであれば、特に制限されない。
【0029】
本発明の組成物は、その特性から、抗酸化剤を含有することが好ましい。
抗酸化剤としては、特に限定されず、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物、トコフェロール等のビタミンE及びその誘導体、ビタミンA、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチノイン酸トコフェリルなどを例示できる。また抗酸化剤は、本発明の油性組成物の原料である高度不飽和脂肪酸含有トリグリセリドや油脂にあらかじめ配合しておいてもよい。
【0030】
<油性組成物の製造方法>
本発明の実施形態の組成物は、A~Dの各成分を秤量後、50~70℃、好ましくは60℃で加温しながら撹拌し、各成分を溶解混合することで容易に調製することができる。また、必要に応じて増粘剤を添加して増粘してもよい。増粘剤として、室温で固体のグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。溶解液が気泡を含む場合は、減圧脱気などの方法で気泡を除去することが好ましい。
【0031】
<ソフトカプセル製剤の製造方法>
調製した油性組成物は、加温状態で公知のソフトカプセル成型機を用いてソフトカプセル製剤とする。ソフトカプセル製剤製造に当たっては、特段の制限はなく、ソフトカプセル封入装置の製造条件にしたがって製造可能である。
なお、ソフトカプセル皮膜(以下、単に皮膜とも称する。)を形成する基材としては、デンプン、加工デンプン、寒天、ゼラチン、ジェランガム、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース等の物質を皮膜成分として使用することが可能である。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例、比較例を示し具体的に説明する。
1.油性組成物の調製
下記表1に示す市販の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド含有油脂を用いて油性組成物を調製した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示した高度不飽和脂肪酸含有トリグリセリド含有油脂と乳化剤を配合して油性組成物を調製した。各成分を60℃~70℃で加温混合し、室温に冷却して実施例1~14(表2)及び比較例1~15(表3)の油性組成物を調製した。なお比較例は、B成分に類似の成分としてラウリン酸グリセリル、カプリン酸グリセリルを、またC成分に類似の成分としてラウリン酸ポリグリセリル-5、ミリスチン酸ポリグリセリル-5、ステアリン酸ポリグリセリル-5、ラウリン酸ポリグリセリル-10、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、ステアリン酸ポリグリセリル-10を用いて比較例の組成物を調製した。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
2.油性組成物の水分散性の評価
水への分散性の評価は次のとおりである。
調製した油性組成物を採取し、これをピペットで採取し、ビーカー中の室温の水100mLに1滴(約0.1mL)を滴下し、マグネチックスターラーで3分間撹拌後目視観察した。
滴下した油性組成物が水に均一に分散したことが観察された場合を「〇」、わずかに分散するが一部分離が観察された場合を「△」、全く分散が観察されない場合(油滴が浮上)を「×」と評価した。その結果を表2及び表3に分散性評価として記載した。
【0038】
3.分散粒子の平均粒子径
また上記のとおり、水分散性が「〇」評価となった実施例1~14及び「△」の評価となった比較例4~6の組成物について、目視評価の結果を数値化するため、分散液をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-960)を用いて平均粒子径を測定した。
測定結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
実施例は全て分散粒子径が20μm以下で、特に実施例1、2、8、11は粒子径が小さかった。
この結果から、水分散性の良い組成は、分散粒子径が20μm以下となる必要があることが分かった。
実施例1~14、比較例1~15の分散性評価結果から、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含む油性組成物は、従来使用されている乳化剤の配合では、きわめて水分散性が悪いことが分かった。この分散性の悪さが、EPAやDHAの吸収性低下に悪影響を与えることが考えられた。
実施例、比較例の結果からB成分、C成分、D成分以外の類似の特性を持つ他の乳化剤を置換しても水分散性が改善しないことから、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドの水分散性には、B、C、Dの3種の乳化剤を含有することが必須であると結論付けられた。
【0041】
一方、比較例9~12の組成物は、B成分、C成分、D成分を含有する組成であるにもかかわらず、組成物の水分散性が不良であった。比較例9はB成分の含有量が低いため、比較例10、11は C/Dが小さいため、比較例12は、D成分の含有量が低いためと考えられた。
【0042】
4.動物を用いた高度不飽和脂肪酸の吸収性試験
(1)試験条件
6匹のラット(SD、雄性)に絶食条件下で、実施例1の組成物を、EPAとして233mg/kg DHAとして100mg/kg、となるよう単回強制的に経口投与した。投与前、投与後1、2、4、6、8、24時間後に尾静脈より採血した。血液を次の手順で処理し、血漿中のEPA及びDHA濃度をLCクロマトグラフ質量計(LC/MS)により測定した。
【0043】
(2)血漿分析方法
・サンプル前処理方法
血漿 50μL

メタノール(90):10N-NaOH(10) 200μL
90℃ 60分 インキュベーション

ヘキサン 400μL 5分Mix
↓ヘキサン除去
水層 6N-HCl 200μL

ヘキサン 600μL 5分Mix

ヘキサン層 400μL dryup

アセトニトリル 50μL

LCMS注入
【0044】
・LC条件
カラム:BEH C18, 2.1mm×50mm 1.7μm カラム温度:40℃
A:0.1%ギ酸水溶液
B:アセトニトリル
A:B=20:80
流速 0.35mL/分
【0045】
・MS条件
Source (ES-)
Capillary(kV) 4
Cone (V) 30
Source Temp 120℃
Desolvation Temp 50℃
【0046】
・MS検出(DHA)
Parent(M/Z)327
Daughter(M/Z)283
Dwell(s)0.1
Cone(V)32
Collision(v)12

・MS検出(EPA)
Parent(M/Z)301
Daughter(M/Z)257
Dwell(s)0.1
Cone(V)32
Collision(v)12
【0047】
また、対照(コントロール)として実施例1の原料であるEPA-28G2を中鎖脂肪酸トリグリセリド(ココナードRK)で希釈し、実施例1の組成物と同様にEPAとして233mg/kg DHAとして100mg/kg、となるよう単回強制的に経口投与し、同様に採血して分析に供した。
【0048】
(3)試験結果
実施例1及びコントロールをそれぞれ投与したラット血漿中のEPA及びDHA濃度から、薬物濃度時間曲線下面積(AUC)を求め、結果を下記の表5及び図1図2に示した。
【0049】
【表5】
【0050】
表5及び図1図2から明らかなように、実施例1の組成物は、コントロールよりも顕著に血中EPA及びDHA濃度(AUC)を高めることができた。
すなわち、本発明の組成物は、経口で投与すると、含有する高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドの吸収性を改善し、血中の高度不飽和脂肪酸濃度を高めた。
図1
図2