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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20231017BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20231017BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20231017BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20231017BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20231017BHJP
   A61J 1/00 20230101ALI20231017BHJP
【FI】
C08L29/04 Z
C08L71/02
C08L71/00
C08K5/09
C08K5/053
A61J1/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020569367
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2019040119
(87)【国際公開番号】W WO2020158056
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019014812
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100849
【氏名又は名称】株式会社アイセロ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】重政 承希
(72)【発明者】
【氏名】朽名 陽平
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘和
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-520812(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106798665(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127458(US,A1)
【文献】国際公開第2012/063947(WO,A1)
【文献】特開2008-050574(JP,A)
【文献】特表2007-526294(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167135(WO,A1)
【文献】特開2016-069442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、B29C41、C08K、G02B5、A61J1
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~C成分を含有する薬剤包装用水溶性アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルム:
A.アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂、
B.グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール及びジグリセリンから選ばれた1種以上、
C.ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びアルカン-1,2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上。
【請求項2】
C成分が、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びドデカン-1,2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上である請求項1に記載の薬剤包装用水溶性アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
【請求項3】
D成分として、炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩を含有する請求項1又は2に記載の薬剤包装用水溶性アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
【請求項4】
リン原子含有界面活性剤を含有しないアニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を金属ロール上に被覆し、乾燥後に該金属ロールから剥離して得られ、その剥離時の剥離強度が550gf/200mm以下である請求項1~のいずれかに記載の薬剤包装用水溶性アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
【請求項5】
2枚のアニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをシールバーにより加熱加圧してシールする際の、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅70mm当たりの、150℃でのシールバーに対する密着強度が500gf/70mm以下である請求項1~のいずれかに記載の薬剤包装用水溶性アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
【請求項6】
下記A~C成分を含有するアニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルム溶液を回転する金属表面に供給して、薬剤包装用水溶性アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを得る方法:
A.アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂、
B.グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール及びジグリセリンから選ばれた1種以上、
C.ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びアルカン-1,2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製膜又はヒートシールをより円滑に行い得るポリビニルアルコール系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、ポリビニルアルコール、可塑剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を含有するポリビニルアルコール溶液を、金属ロール表面にキャスティングして製膜すること、及び、得られたポリビニルアルコール系樹脂フィルムは金属ロールからの剥離性が良好であることは公知である。
特許文献2に記載のように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム製膜後にドラム型ロールからの剥離性を向上させるために、ポリビニルアルコール系樹脂溶液にポリオキシエチレンアルキルアミン等の界面活性剤を予め含有させることは公知である。
【0003】
特許文献3に記載のように、特に変性及び未変性のポリビニルアルコール系樹脂とグリセリン及びソルビトールを含有し、場合により着色剤を含有する1回分の液体洗剤等を包装するポリビニルアルコール系樹脂フィルムは公知である。そして、液体洗剤等を包装する際には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの端部同士をヒートシールすることにより液体洗剤を密封する工程を要する。
このとき確実に密封するため十分に加熱することを要する。さらに、連続してヒートシールによる密封を行う際には、加熱されたシールバー等によってポリビニルアルコール系樹脂フィルムの端部同士を圧着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-12778号公報
【文献】特開2006-342236号公報
【文献】国際公開2016/160116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリビニルアルコール系樹脂溶液を回転する金属ロール等表面に薄膜を形成するように供給し、金属ロール等上にて乾燥した後に、製膜されたポリビニルアルコール系樹脂を金属ロール等表面から剥離して、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを製造することは公知の方法である。
しかしながら、製膜されたポリビニルアルコール系樹脂が金属ロール表面に付着して、ポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一部表面は金属ロール表面から剥離できないことがある。
このような状態はポリビニルアルコール系樹脂フィルムの破損等の原因となるので、製膜されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、金属ロール等表面からより円滑に剥離されることが必要である。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いて、洗剤等の内容物を包装するために、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム同士を水シール又はヒートシールする工程を採用できる。
本発明は金属ロール等表面への被覆を通じて、水シール又はヒートシールする工程にて使用できるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを円滑に得ることを課題とする。
【0006】
さらに、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いて、洗剤等の内容物を包装するために、上記のようにポリビニルアルコール系樹脂フィルム同士をヒートシールする工程を採用する。そこで、ヒートシールする工程時にはポリビニルアルコール系樹脂フィルムを加熱し、圧着するための金属製シールバーや金属製のシール用ロール等を用いることになる。
この金属製シールバー等を用いてヒートシールを行う工程は、2枚重ねたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに加熱された金属製シールバー等を密着し、加熱終了後に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから金属製シールバー等を離す手段を有する。
このようにヒートシールを行うことを予定したポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ヒートシール工程の困難性によって、上記水シールを予定するポリビニルアルコール系樹脂フィルムよりも、採用される材料の点において制限がある。
【0007】
通常は金属製シールバー等を、ヒートシールされたポリビニルアルコール系樹脂フィルムから離すことができる。特に長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを連続してヒートシールするために、金属製シールバー等に密着する場合であっても、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの移動が金属製シールバー等に対する剥離力を生じ、結果的に金属製シールバー等からポリビニルアルコール系樹脂フィルムが剥離される。
しかし、場合により簡単に離すことができないときも発生する。このときには、ヒートシールされたポリビニルアルコール系樹脂フィルムは金属製シールバー等に付着するので、ヒートシール温度を下げる、又は、生産スピードを落とす等の工夫が必要となる。またヒートシール工程自体を停止せざるを得ない結果となり、生産性を低下させる。
本発明はこの生産性の低下に繋がる現象の発生を解決し、金属製シールバー等に付着させないために、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの組成を検討し、金属製シールバー等に対する密着力を低下させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の手段で解決することができることを見出し、本発明をなすに至った。
1.下記A~C成分を含有するポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
A.ポリビニルアルコール系樹脂
B.可塑剤
C.ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びアルカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上
2.C成分が、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びドデカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上である1に記載のポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
3.B成分がグリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール及びジグリセリンから選ばれた1種以上である1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
4.D成分として、炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩を含有する1~3のいずれかに記載のポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
5.リン原子含有界面活性剤を含有しないポリビニルアルコール系樹脂水溶液を金属ロール上に被覆し、乾燥後に該金属ロールから剥離して得られ、その剥離時の剥離強度が550gf/200mm以下である1~4のいずれかに記載のポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
6.2枚のポリビニルアルコール系樹脂フィルムをシールバーにより加熱加圧してシールする際の、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅70mm当たりの、150℃でのシールバーに対する密着強度が500gf/70mm以下である1~5のいずれかに記載のポリビニルアルコール系樹脂フィルム。
7.下記A~C成分を含有するポリビニルアルコール系樹脂フィルム溶液を回転する金属ロール表面に供給して、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを得る方法。
A.ポリビニルアルコール系樹脂
B.可塑剤
C.ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びアルカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する溶液を金属ロールや金属ベルト等(以下「合わせて金属ロール等」というときがある)上に供給し、乾燥、製膜してなるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの製造を良好にできる。具体的には、製膜後に金属ロール等の表面からポリビニルアルコール系樹脂フィルムを剥離し巻回する場合において、金属ロール等の表面からポリビニルアルコール系樹脂フィルムが剥がれやすく、フィルムを破損したり、金属ロール等の表面にポリビニルアルコール系樹脂フィルムが付着したりしない。
さらに、本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのヒートシール時において、金属製シールバー等に対するポリビニルアルコール系樹脂フィルムの密着強度が低いため、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムがシールバー等に付着することがなく、ヒートシール工程を円滑に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について詳細に説明する。
(A.ポリビニルアルコール系樹脂)
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する。
ポリビニルアルコール系樹脂としては特に限定されず、公知のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。そして、公知の方法に従って、ビニルエステルを溶液重合法、塊状重合法及び懸濁重合法等により重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化することにより得られる。ケン化は、アルカリ又は酸を用いてなされ、特にアルカリを用いることが好ましい。上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0011】
上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0012】
ポリビニルアルコール系樹脂は、未変性であってもよく、マレイン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂等のアニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂、カチオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。
水に対する溶解性を調整することを考慮して、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を採用することが好ましい。アニオン性基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。
【0013】
アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂、イタコン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル酸変性ポリビニルアルコール系樹脂、メタクリル酸変性ポリビニルアルコール系樹脂、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。なかでもマレイン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。
変性ポリビニルアルコール系樹脂を採用するには、変性のために反応されたモノマー等のモル数が、変性ポリビニルアルコール系樹脂を構成する全モノマーのモル数に対する比率(変性度)として、10.0モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0モル%以下、さらに好ましくは4.0モル%以下、より好ましくは2.0モル%以下である。
また変性ポリビニルアルコール系樹脂を採用するときには、変性のために反応されたモノマー等のモル数が、変性ポリビニルアルコール系樹脂を構成する全モノマーのモル数に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは1.0モル%以上、さらに好ましくは1.5モル%以上である。
そしてこれらの上限と下限から選択して、変性度の範囲とすることができる。
【0014】
本実施形態で用いられるポリビニルアルコール系樹脂では、そのポリビニルアルコール系樹脂中に、予め下記のモノマーからなる繰り返し単位を有していてもよい。なお、下記のモノマーは、ポリビニルアルコール系樹脂を構成する全モノマーに対して、本発明の効果を阻害しない範囲にて上記の変性用のモノマーと同様の割合になるようにしても良い。
例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類の完全アルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド等が挙げられる。
【0015】
更に、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3-ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体等も挙げられる。
【0016】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、特に限定されない。70~100モル%の範囲であると水への溶解度を調整することが容易になるため好ましく、80~99モル%が更に好ましく、87~98モル%が特に好ましく、88~94モル%が最も好ましい。
なお、上記の平均ケン化度は、JISK6726-1994に準拠して測定される。
【0017】
ポリビニルアルコール系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は特に限定されないが、例えば、2.8~240mPa・sが好ましく、5~150mPa・sが更に好ましく、8~50mPa・sが特に好ましい。粘度が上記範囲の場合には、フィルムの機械的強度、及びフィルムの溶解性が特に良好である。なお、4重量%水溶液粘度は、JISK6726-1994に準拠して測定される。
【0018】
上記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は特に限定されない。例えば、700~2500が好ましく、900~2200が更に好ましく、1200~2000が最も好ましい。重合度が上記範囲の場合には、水溶性包装用フィルムを成形するときの粘度を適度な範囲に調整できる。上記重合度は、JIS K6726-1994に準拠して測定される。
なお、2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を併用する際には、ポリビニルアルコール系樹脂全体としての重合度を、それぞれのポリビニルアルコール系樹脂の重量比率による加重平均とする。
【0019】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルム100重量%中、上記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は60~97重量%であることが好ましい。
上記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が上記60重量%未満であると、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから可塑剤等がブリードアウトする可能性があり、97重量%を超えると、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの強度や柔軟性が不足する可能性がある。
またポリビニルアルコール系樹脂の含有量がこの範囲であると含水率を適切な範囲に調整しやすくなる。
【0020】
(B.可塑剤)
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、可塑剤を含有する。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、高温多湿の地域や寒冷地でも運搬、貯蔵、使用がなされるため、高い引張強度や耐久性が要求される。さらに低温での耐衝撃性も重視される。本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、可塑剤を含有することで、ガラス転移点を下げることが可能となり、かつ、低温での耐久性や水に対する溶解性を向上させることもできる。また可塑剤を含有することにより、引張弾性率を低下させ、柔軟なポリビニルアルコール系樹脂フィルムとすることができる。
【0021】
上記可塑剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂の可塑剤として一般に用いられているものであれば特に制限はなく、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル類、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどのフェノール誘導体、ソルビトール等の糖アルコール、N-メチルピロリドンなどのアミド化合物、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物、PEG400等のポリエチレングリコール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を用いてもよい。
上記可塑剤のなかでは、水溶性を向上させる点からみて、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールが好ましく、特に水溶性向上の効果が大きいことからグリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、トリメチロールプロパン、及びPEG400等のポリエチレングリコールが特に好ましい。
金属ロール等表面からの剥離性向上、つまり金属ロール等表面からの剥離強度が低いこと、またフィルムの包装材としての柔軟性及びシールバー密着強度の低下及びブロッキング防止の点からみてグリセリン、ソルビトール、ジグリセリン、ポリエチレングリコールから選ばれた1種以上を採用することがさらに好ましい。また、ヒートシール用のフィルムにする際にはヒートシールバー密着強度を低下させる点から、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール及びポリエチレングリコールの1種以上を採用することが好ましい。
仮にグリセリンとソルビトールを併用するときの、グリセリンとソルビトールの配合量としては、重量比でグリセリン:ソルビトール=1:0.1~1:5が好ましく、中でも1:0.4~1:4がより好ましい。
なお、このグリセリンとソルビトールの併用は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを溶液流延法により得るために特に好ましい手段である。
【0022】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、上記可塑剤を3~60重量部含有することが好ましく、6~55重量部がより好ましく、10~45重量部が更に好ましく、15~30重量部が特に好ましい。上記可塑剤の含有量が3重量部未満であると、可塑剤の配合効果が認められない。一方、可塑剤の配合割合が60重量部を超えると、可塑剤のブリードアウトが大きくなり、得られるポリビニルアルコール系樹脂フィルムのブロッキング防止性が悪化する。
可塑剤としてグリセリンのみを選択して、ヒートシールバーへの密着強度を低下させるためには、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、グリセリンを13重量部以上、好ましくは16重量部以上、さらに好ましくは17重量部以上配合することである。
【0023】
(C.ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びアルカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上)
(ア.金属ロール面にポリビニルアルコール系樹脂溶液を供給してフィルムを得る方法によりポリビニルアルコール系樹脂フィルムを得る場合、及び得られたフィルムを用いて包装するときに、その封止部を水シールによりシールしてなることを予定する場合)
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩及びアルカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩から選ばれた1種以上を含有することが好ましい。
そして、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウムの中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、及び/又は、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムがより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩の中でも、炭素数が12~14のアルキル基であるものがより好ましく、N-アルキル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩の中でも、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩が好ましく、アルカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩の中でも、ドデカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩がより好ましい。
これらの化合物を採用することによって、製膜時に金属ロールから剥離する際の剥離強度が好ましくは550gf/200mm以下、より好ましくは300gf/200mm以下、更に好ましくは200gf/200mm以下、特に好ましくは100gf/200mm以下になり、剥離が容易になると共に、金属ロール表面に付着することによる剥離時のフィルムの破れ等を防止できる。
剥離強度の測定条件は、実施例に記載の剥離強度測定方法と同じである。
特に金属ロールからの剥離性を高めるためには、これらの化合物は界面活性剤として使用され、ポリビニルアルコール100重量部に対して、好ましくは0.03~3.00重量部、より好ましくは0.08~1.20重量部、更に好ましくは0.15~1.00重量部、最も好ましくは0.17~0.60重量部配合される。
なお規制上の理由により、リン原子含有界面活性剤は使用しないほうが良い。
そして得られたポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、水シール後のシール強度が好ましくは10.0N/15mm以上、より好ましくは12.0N/15mm以上である。
【0024】
(イ.ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いて包装するときに、その封止部をヒートシールによりシールすることを予定する場合)
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、上記C成分の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム、及び/又は、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩を含有することが好ましい。
そして、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウムの中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウムがさらに好ましく、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩の中でも炭素数が12~14のアルキル基であるものがさらに好ましい。
これらの化合物は界面活性剤として使用され、特にヒートシール性を維持するためには、ポリビニルアルコール100重量部に対して0.07~1.00重量部配合され、好ましくは0.10~0.50重量部配合する。
これらの化合物を採用することによって、製膜時に金属ロールから剥離する際の剥離強度が好ましくは550gf/200mm以下、より好ましくは300gf/200mm以下、更に好ましくは200gf/200mm以下、特に好ましくは100gf/200mm以下になり、剥離が容易になると共に、金属ロール表面に付着することによる剥離時のフィルムの破れ等を防止できる。
剥離強度の測定条件は、実施例に記載の剥離強度測定方法と同じである。
このような組成とすることにより、金属製シールバー等に対する密着強度を低下させて、150℃のシールバーを0.1MPaの力で1秒間フィルムに密着させてシールしたとき、シールバーとの密着強度は、500gf/70mm以下、より好ましくは400gf/70mm以下、更に好ましくは350gf/70mm以下、特に好ましくは300gf/70mm以下とすることができる。
また130℃のシールバーを0.35MPaの力で1秒間フィルムに密着させてシールしたとき、シールバーとの密着強度は、650gf/70mm以下、より好ましくは500gf/70mm以下、更に好ましくは450gf/70mm以下、特に好ましくは420gf/70mm以下、最も好ましくは400gf/70mm以下とすることができる。
さらに、シールバーとの密着強度に加えて、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム同士のヒートシール後のシール強度は、150℃のシールバーにより、0.2MPaの力で1秒間シールした後において、6.0N/15mm以上であることが好ましく、7.0N/15mm以上であることがより好ましく、10.0N/15mm以上であることが更に好ましい。
【0025】
(D.炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩)
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに脂肪酸アルカリ金属塩が存在することによっても、ヒートシール時の金属製シールバー等との密着抑制効果が得られる。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを溶液流延法により得る場合、炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩を含有させることができる。特にポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヒートシールする用途に使用する場合には、シールバー密着強度を低下させ、かつヒートシール強度を向上させるために、場合により、この炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩を配合する。
炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩を含有させる場合には、本発明中のポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、上記脂肪酸アルカリ金属塩の含有量は好ましくは0.03~3.00重量部、より好ましくは0.10~2.00重量部、更に好ましくは0.20~1.50重量部であり、特に好ましくは0.30~1.00重量部である。
本発明における炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩としては特に限定されるものではないが、中でもカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪族カルボン酸のナトリウム又はカリウム塩が好ましい。
上記アルカリ金属塩の含有量が0.03重量部未満であると、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのヒートシール時の金属製シールバー等との密着抑制効果が不足したり、巻回されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの繰出張力及びブロッキング強度が高くなりすぎたりする可能性があり、3.00重量部より多いと外観が悪化する。
【0026】
これらの脂肪酸アルカリ金属塩から1種又は2種以上を使用することができる。特にヒートシールに使用する場合には、炭素数が6~22脂肪酸アルカリ金属塩を使用することが好ましいが、なかでも、炭素数6~14の脂肪酸アルカリ金属塩を採用すると、シールバーに対する密着強度低下の効果とポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面同士のブロッキング防止の効果を共に向上させることができ、炭素数12の脂肪酸アルカリ金属塩を採用することが最も好ましい。
炭素数が22より大きい脂肪酸アルカリ金属塩であるとき、及び、炭素数が6より小さい脂肪酸アルカリ金属塩、又は脂肪酸アルカリ金属塩ではなく脂肪酸アルカリ土類金属塩を採用したときには、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの外観にムラが発生したり、ブロッキング強度が高くなりすぎたりする可能性が高くなる。特に溶液流延法によりフィルムを得る場合には、炭素数が6~22の脂肪酸アルカリ金属塩を採用することが好ましい。
なお、アルカリ金属塩ではない脂肪酸塩や遊離の有機酸を配合することもできるが、これらの脂肪酸塩や遊離酸を配合すると、特定の脂肪酸アルカリ金属塩を配合することによる効果を毀損する場合があるため、本発明による効果を毀損しない範囲で配合してもよい。なお、規制上の理由で、リン原子含有界面活性剤を配合しないほうがよい。
またポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヒートシールではなく水又は水性溶媒によるシールによる包装体の製造に使用する場合には、使用する脂肪酸アルカリ金属塩として炭素数が6~22のものを採用することができる。さらに、脂肪酸アルカリ金属塩の脂肪酸の炭素数が6~14であるときには、耐ブロッキング性の向上と低い繰出張力を両立することができる。
【0027】
(E.充填剤)
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、シリカや炭酸カルシウム、澱粉、タルク、アルミノケイ酸塩等の充填剤(フィラー)を含有しても良く、又はしなくても良い。このような充填剤を含有することにより、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面粗さを大きくし、かつグロスを低下させて、ブロッキング強度及び原反繰出張力を低下させることができ、安定に保存し巻回したロールから円滑に繰り出すことができる。
充填剤を配合する際の配合量としては、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して0.5~10重量部である。0.5重量部未満であると、充填剤を配合することによる効果を十分に得ることができず、10重量部を超えるとポリビニルアルコール系樹脂フィルムの柔軟性及びヒートシール性を毀損する可能性がある。
【0028】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚さは、25~100μm、好ましくは28~90μmである。厚さが25μm未満であると十分な強度を有することができず、100μmを超えると包装用等にヒートシールする際のパッケージング性やヒートシールの作業性を低下させる可能性がある。
好ましい含水率は2.0~10.0重量%、より好ましくは2.5~9.0重量%、最も好ましくは3.0~8.0重量%である。
【0029】
(F.粉体の付着)
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの少なくとも片面には、粉体を塗布し付着させておくことができる。粉体としては澱粉、タルク、マイカ、炭酸カルシウム粉末等があり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面粗さを大きくし、かつグロスを低下させて、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム間のブロッキング防止や原反繰出張力を低下させることができる。
粉体を塗布する場合の付着量は0.02~0.20g/m、好ましくは0.03~0.20g/mである。0.02g/m未満では粉体を塗布し付着させたことによる十分な効果を発揮できず、0.20g/mを超えてもそれ以上に効果を発揮できないと共に、余分な粉がフィルム上から落ちることで包装環境を汚染する場合がある。
【0030】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、さらに必要に応じて、着色剤、香料、増量剤、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、苦味剤などの通常の添加剤を適宜配合できる。ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、リン原子含有界面活性剤ではない界面活性剤を0.01~5重量部の割合で配合しても良い。
但し、本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、二塩基酸アルカリ金属塩、脂肪酸アルカリ土類金属塩を含有しない。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面にエンボス加工により微細な凹凸が形成されていても、いなくても良い。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは不透明、透明の何れでも良く、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、無機顔料や体質顔料を30重量部未満添加して透明としても良く、特に隠蔽性に優れた顔料である酸化チタンを10重量部未満、又は8重量部未満添加してもよい。不透明なポリビニルアルコール系樹脂フィルムにする際には、本発明の効果を毀損しない範囲で、任意の顔料を必要なだけ添加することもできる。また、アクリル系樹脂、流動パラフィン、糖アルコール、ジプロピレングリコールのいずれかを含有してもしなくても良い。
【0031】
<ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの製造方法>
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの製造方法としては、公知の装置を使用した支持部材である回転する金属ロール等表面(金属ベルト表面を含む)に対して、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの組成物の水溶液又は水性溶媒溶液を供給し、乾燥させながら、該金属ロール等表面(金属ベルト表面を含む)からの剥離と巻き取りを行う方法を採用する。
なおこの供給方法としては、溶液流延法(キャスト法)やロールコーティング法等の公知の手段を採用できる。
【0032】
上記支持部材は、ポリビニルアルコール系樹脂等を含有する水溶液の流延時に、その水溶液を支持部材の表面(キャスト面)上に維持し、かつ得られるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを支持可能である。そして、乾燥後に剥離可能であることも必要である。上記支持部材の材料としては、例えば、金属、ポリオレフィン、ポリエステル及びアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これら以外の材料により形成された支持部材を用いてもよい。上記ポリオレフィンとしては、エチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。上記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等が挙げられる。上記支持部材の材料は、ポリビニルアルコール系樹脂ではないことが好ましい。
但し、特に鉄、クロムメッキ、アルミニウム等の表面である金属ロールや金属ベルトを支持部材とすることが好ましい。
【0033】
上記支持部材上に上記ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を流延等した後の乾燥方法は、適宜の方法を用いることができ、特に限定されない。乾燥方法としては、自然乾燥する方法、加熱乾燥する方法等が挙げられる。乾燥支持部材の表面(キャスト面)側ではなく、直接空気に触れている側の面をエア面という。
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、上記の流延後乾燥の前後の任意の時期において、支持部材から剥離して得られる。
【0034】
水溶液を支持部材に流延等し、乾燥する方法を採用して得たポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、支持部材の表面性状により、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム表面を平滑性に優れたものや微細な凹凸を備えたものにすることができる。さらに、包装する対象物は液体及び粉体、タブレット等の固体の何れでも良い。またこの方法により得たポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、好ましくは本発明中の脂肪酸アルカリ金属塩の中でも炭素数6~22のもの、更に好ましくは炭素数6~14のものを使用すると、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのブロッキング防止性を向上させることができる。
またポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水溶液の流延により得る場合には、本発明において使用する可塑剤として、グリセリン及び/又はソルビトールを選択することが好ましい。これらの可塑剤を選択することにより、脂肪酸アルカリ金属塩との相互作用もあって、特に金属製シールバー等への密着強度が小さい点において優れたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを得ることができる。
さらに水溶液を流延して本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを得る際には、充填剤を配合してもしなくても良く、本発明による効果を毀損しない範囲において、リン原子含有界面活性剤も配合してもしなくても良く、粉体を付着してもしなくても良い。
【0035】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは1層のみから形成されていても良く、本発明中のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの組成を有する2層以上の層を積層させてなるものでも良い。またヒートシール用又は水シール用として使用されるものである。
上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの用途としては、例えば、洗剤、農薬、医薬品等の薬剤包装用等に用いられる薬剤包装用フィルム等が挙げられる。剤の形態としては、粉末、固体、ゲル、液体等が挙げられる。
【実施例
【0036】
<ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムの作製方法>
A.金属ロールの準備
クロムメッキを施した金属ロールを使用する。
1.金属ロール表面を水で湿らせた布で拭く。
2.金属ロール表面をメタノールで湿らせたラボタオル(ユニケミー社製)を用いて、2回拭く。
B.水溶性フィルム作製条件
金属ロール表面温度:70~90℃
ポリビニルアルコール系樹脂等水溶液粘度:2000~5000mPa・s(85℃での測定値、B型粘度計で測定)
フィルム厚み:75μm
フィルム含水率:2~5%
1.ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を金属ロールに、フィルムのTD(Transverse Direction)幅が200mmになるようにキャストする。
2.金属ロールを回転しながら、フィルム含水率が2~5%になるように、所定時間乾燥する。
3.金属ロールを停止させる。
【0037】
<剥離強度測定方法>
1.金属ロール表面から、200mm幅のフィルムをMD(Machine Direction)に10mmほど剥がし、フォースゲージ(イマダ社製:DS2-50N)を取り付ける。
2.金属ロール表面と剥がしたフィルムのMDが常に直角となるように、800mm/分で少なくともフィルムをMDに200mm以上剥がす。
このときの剥離強度(gf/200mm)の平均値を求めた。
同時に剥離後のフィルムの外観を確認した。
フィルムの外観として、目視にてシワ、傷、破れ等の支障がないものを○とし、これらの支障が発生したものを×とした。
【0038】
<含水率(シール時に測定した含水率)測定方法)>
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの水分率を、カールフィッシャー水分測定装置(平沼産業社製:AQV-2200S)を用いて測定した。
【0039】
<水シール強度測定方法>
A4サイズのポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、水で湿らせたラボタオル(ユニケミー社製)を用いて、水塗布量が35~50g/mになるように塗布した。
その水塗布したフィルムを、すぐにもう1枚の水を塗布していないフィルムに重ね、1.5Kgのアルミ製ローラーで3回圧着した。
貼り合わせたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの水シール部分を15mm幅に切り取り、引張試験機(島津製作所社製:AGS-1kN)を用いて最大強度(N/15mm)を測定した。
引張試験スピード:300mm/分
各実施例及び比較例のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを2枚用い、上記の方法により水シールしたところ、いずれのポリビニルアルコール系樹脂フィルムも15~27N/15mmのシール強度を有した。
【0040】
<ヒートシール強度1測定方法>
70mm幅のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを2枚重ね、ヒートシールテスター(テスター産業社製:TP-701B)を用いてヒートシールした。得られた結果をヒートシール強度1とする。
シール上段:幅10mmのテフロンコート(テフロンは登録商標)を施したアルミ製シールバー、150℃
シール下段:ゴム製、テフロンテープ(テフロンは登録商標)有り、30℃
シール時間:1秒
シール圧:0.2MPa
このヒートシール部分を15mm幅に切り取り、引張試験機(島津製作所社製:AGS-1kN)を用いて最大強度を測定した。
引張試験スピード:300mm/分
各実施例及び比較例のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを2枚用い、上記の方法によりヒートシールした。
【0041】
<ヒートシール強度2測定方法>
上記ヒートシール強度1の測定方法において、シール上段で使用したシールバーを、テフロンコートを施していないアルミ製シールバーに変更し、その他の条件を変更せずにヒートシールした。得られた結果をヒートシール強度2とする。
各実施例及び比較例のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを2枚用い、上記の方法によりヒートシールした。
【0042】
<シールバー密着強度1測定方法(150℃シールバー)>
ヒートシールテスター(テスター産業社製:TP-701B)及びデジタルフォースゲージ(イマダ社製:DS2-50N)を用いて、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅70mm当たりのシールバー密着強度を測定した。
・ヒートシールテスターの準備
1)ヒートシール前に、粒度#1000の紙やすりを用いて、上段のアルミ製シールバーを10回磨いた。
2)さらに、メタノールで湿らせたラボタオル(ユニケミー社製)を用いて、上段のアルミ製シールバーを10回拭いた。この試験準備は試験するフィルムの組成を変える毎に毎回実施した。
・ヒートシール条件
シール上段:幅10mmのアルミ製シールバーで、150℃で0.1MPaの力で1秒加圧
シール下段:ゴム製、テフロンテープ(テフロンは登録商標)有り、30℃
・シールバー密着強度
試験対象の組成の2枚のフィルムのそれぞれ違う場所を連続して10回ヒートシールした後に、横幅70mmの新たなフィルムを用意してヒートシールし、縦10mm×横70mmのヒートシール部分を作製した。この時、フィルムの一端のヒートシールされた部分はシールバーに密着していた。その後、ヒートシールしていない他端をクリップで挟み、デジタルフォースゲージの先端をクリップに引っ掛けて、シールバーからヒートシール部分を剥がすために横方向にデジタルフォースゲージを引張り、シールバーからヒートシール部分が剥がれるまでの最大強度を測定した。
この時、70mm幅のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、溶液流延法で製膜したフィルムはエア面同士が、内側になるように2枚重ねた。
【0043】
<シールバー密着強度2測定方法(130℃シールバー)>
上記シールバー密着強度1測定方法において、ヒートシール条件中のシール上段を、130℃、0.35MPaの力で1秒加圧した以外は同じ条件で、シールバー密着強度2を測定した。
シールバーに対する密着強度が低いほど、実際のヒートシール時において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの移動に伴う、金属製シールバー等の表面とポリビニルアルコール系樹脂フィルム表面との間の剪断力によって、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを金属製シールバー等から確実に剥離させることができる。
【0044】
各実施例及び比較例にて使用した原料は以下の通り。
A-1:重合度1700、平均ケン化度89モル%、変性度1.9モル%、マレイン酸変性ポリビニルアルコール
A-2:重合度1000、平均ケン化度89モル%、変性度1.9モル%、マレイン酸変性ポリビニルアルコール
A-3:重合度1700、平均ケン化度94モル%、変性度1.9モル%、マレイン酸変性ポリビニルアルコール
A-4:重合度1700、平均ケン化度97モル%、変性度1.9モル%、マレイン酸変性ポリビニルアルコール
A-5:重合度1700、平均ケン化度95モル%、変性度3.6モル%、マレイン酸変性ポリビニルアルコール
A-6:重合度1000、平均ケン化度88モル%、未変性ポリビニルアルコール
B-1:グリセリン
B-2:ソルビトール
B-3:ジグリセリン
B-4:PEG400(重合度400のポリエチレングリコール)
C-1:ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム
C-2:ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム
C-3:ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩
C-4: N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム塩
C-5:ドデカン-1, 2-ジオール酢酸ナトリウム塩
C-6:ポリオキシエチレン2級アルキルエーテルフォスフェート金属塩
C-7:アルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩
C-8:ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム:ジオクチルスルホサクシネート
C-9:アルカンスルホン酸ナトリウム
C-10:ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート硫酸塩
C-11:ポリオキシエチレンラウリルエーテル
C-12:ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン
C-13:ポリオキシエチレン(繰り返し単位数が10)オクチルフェニルエーテル
E-1:シリカ、平均粒子径4.7μm、見掛比重0.26mg/ml
【0045】
(実施例及び比較例)
下記表1及び2に示す組成となるように、ポリビニルアルコール系樹脂(A)、可塑剤(B)、界面活性剤(C)、脂肪酸類(D)、充填剤(E)及び水を加え、樹脂組成物の水溶液を得た。これを用いて、上記の水溶性フィルム作製方法に基づいて、厚さ75μmのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを製膜した。
得られたフィルムについて上記の試験を行い、その結果を表1及び2に示す。
なお数字で示した実施例は、主に金属ロール表面からの剥離性及び水シール性に優れた例であり、アルファベットで示した実施例は、主に金属ロール表面からの剥離性及び水シール性、更にヒートシール性及びシールバー(ヒートシールバー)からの剥離性に優れた例である。表中の斜線は測定しなかった項目である。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1~20は、リン原子含有界面活性剤を使用せず、規制上の制約がないこと、及び、金属ロールからの剥離強度が小さく、フィルム成形時において、より円滑に剥離でき、剥離後のフィルム表面を損なうことがない。加えて水シールによって、十分な水シール強度を得ることができた。
実施例A~Mは、実施例1~20による効果と同様の効果を得ることに加え、適切なヒートシール強度を得ることができ、さらにヒートシールバーに対する密着強度が低いので、ヒートシール時にフィルムがヒートシールバーに強く付着することがない。その結果、確実にヒートシールを行うことができ、ヒートシール時にフィルムを破損することがない。
そして実施例A~Mのフィルムは水シール及びヒートシール用として使用することができる。ヒートシール強度2により、実施例16、I、J、Lのフィルムは十分なヒートシール強度があることを確認できた。
これに対して、比較例1、3及び11は金属ロール剥離強度及びヒートシールバー密着強度が低く、水シール強度及びヒートシール強度が高いものの、界面活性剤としてリン化合物を使用するために、使用が規制される可能性がある。
比較例2は界面活性剤として、アルキルスルホコハク酸二ナトリウム塩を使用した例である。この結果、金属ロールから剥離した後のフィルムの外観がひどく不良であり、かつフィルムが伸びて試験困難であった。
比較例4~8は界面活性剤が本発明中のものではなかった。そのため、金属ロールからの剥離強度及びヒートシールバー密着強度が高かった。
比較例9は界面活性剤が本発明中のものではなかった。そのため、金属ロールからの剥離強度が高いものであった。
比較例10は界面活性剤を使用しなかった。そのため、金属ロールからの剥離強度が高く、剥離時にノック皺などが入り外観不良となった。但し、各種試験は可能であったが、ヒートシールバー密着密度が高かった。