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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】積層型圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/87 20230101AFI20231017BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20231017BHJP
   H10N 30/50 20230101ALI20231017BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20231017BHJP
【FI】
H10N30/87
H10N30/20
H10N30/50
H10N30/853
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018039497
(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公開番号】P2019153734
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文久
(72)【発明者】
【氏名】松井 幸弘
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】恩田 春香
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-157581(JP,A)
【文献】特開平2-237083(JP,A)
【文献】特許第5883202(JP,B1)
【文献】特開平8-274381(JP,A)
【文献】特開2001-230463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N30/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電体層及び1以上の内部電極が交互に積層されてなる矩形状積層体と、前記1以上の内部電極の一の端部に接続された接続電極と、を備える積層型圧電素子であって、
前記内部電極の一の端部と向かい合う他方の端部において、前記他方の端部の2つの角部にのみ、前記内部電極が島状に形成されることによる、前記内部電極が不連続に形成されてなる電界緩和領域を有する積層型圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型の携帯電話及びタブレット等の電子機器において、レシーバやスピーカ等の用途として矩形状の圧電素子が用いられている。近年、これらの電子機器においては液晶表示画面の大画面化が進み、より大きい変位量が求められるようになっている。大きい変位量を得るためには、圧電素子に印加する電圧を高くすればよいが、印加電圧を高くして長期間使用すると、特に電荷の集中する内部電極の角部に位置する圧電体層に絶縁破壊が生じるおそれがある。また、電荷の集中する圧電素子の内部電極の角部にクラックが発生して、圧電素子が破損する場合がある。
【0003】
そこで、電極の角部への電荷集中を改善するために、例えば、特許文献1には、内部電極及び圧電体層が複数積層された平面視矩形状の積層体と、複数の内部電極の一方の端部と接続される複数の接続電極とを備え、複数の内部電極の他方の端部における角部が隅切り状とされた圧電素子が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、角型の積層型圧電素子の4つの隅部それぞれの近傍において、厚さ方向に隣接する複数の電極のうち一部の電極に切り欠き部が形成された圧電発音体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5883202号公報
【文献】特開2011-244379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献に記載された圧電素子では、角部が切り欠きによって欠損しているため、複数の内部電極が圧電体層を挟んだ構造の積層型圧電素子では、角周辺の厚さが薄くなり、素子面内で膜厚が不均一になる。膜厚が不均一であると長時間の使用によって圧電体層にクラックが発生することが懸念される。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高電圧を印加して長時間使用した場合においても絶縁破壊及び破損の発生が抑制された圧電素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、隅切りした形状の内部電極よりも、特定の形状を有する内部電極とすることにより、さらに高電圧を印加しても電界集中が起こりにくく、長時間使用しても絶縁破壊及び破損が起こりにくいことを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、複数の圧電体層及び1以上の内部電極が交互に積層されてなる矩形状積層体と、1以上の内部電極の一の端部に接続された接続電極と、を備える積層型圧電素子であって、
内部電極の一の端部と向かい合う他方の端部において、2つの角部の少なくとも一方に、内部電極が不連続に形成されてなる電界緩和領域を有する。
ここで、「角部」とは、内部電極が矩形状に形成された場合に存在する仮想的な角及びその近傍を含む領域を意味する。
【0008】
電界緩和領域は、複数の電極欠損部が設けられてなるものであることが好ましい。
【0009】
さらに、複数の電極欠損部は孔であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高電圧を印加して長時間使用しても絶縁破壊及び破損の発生が抑制された積層型圧電素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の積層型圧電素子の一実施形態を示す概略平面図である。
図2図2は、図1におけるA-A断面図である。
図3図3は、一実施形態の積層型圧電素子の第一の内部電極の電界緩和領域を示す概略平面図である。
図4図4は、一実施形態の積層型圧電素子の第二の内部電極の電界緩和領域を説明する概略平面図である。
図5図5は、内部電極に対する電界緩和領域の面積比を説明するための概略平面図である。
図6図6は、本発明の積層型圧電素子の他の実施形態における内部電極を示す概略平面図である。
図7図7は、本発明の積層型圧電素子のさらに他の実施形態における内部電極を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層型圧電素子の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
本発明の積層型圧電素子の一実施形態について図1から図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の積層型圧電素子の一実施形態を示す概略平面図である。図2は、図1におけるA-A断面図である。
本実施形態の積層型圧電素子10は、図1に示すように、矩形状積層体11の積層方向(図1中Z方向)に垂直な面(主面)上に、第一の外部電極12及び第二の外部電極22が形成されている。第一の外部電極12及び第二の外部電極22は、それぞれ、後述する第一の接続電極14及び第二の接続電極24に接続されている。
【0014】
積層型圧電素子10は、図2に示すように、複数の矩形状の圧電体層15及び複数の矩形状の内部電極(13,23)が交互に積層されてなる矩形状積層体11と、矩形状積層体11の一の側面に形成され、複数の第一の内部電極13の一の端部13aに接続された第一の接続電極14と、矩形状積層体11の一の側面と向かい合う他の側面に形成され、複数の第二の内部電極23の一の端部23aに接続された第二の接続電極24とを備えるものである。第一の接続電極14及び第二の接続電極24は、第一の外部電極12及び第二の外部電極22にそれぞれ接続されている。
積層型圧電素子10は、外部電極(12,22)より電圧が印加されると、内部電極(13,23)との間の圧電体層15に電圧が加わり、矩形状積層体11が積層方向に変位する。
【0015】
(内部電極及び電界緩和領域)
積層型圧電素子10は、図3に示すように、第一の内部電極13の一の端部13aと向かい合う他方の端部13bにおいて、2つの角部13c及び13dの少なくとも一方に、第一の内部電極13が不連続に形成されてなる電界緩和領域16c及び16dを有する。
ここで、内部電極が端面に沿って角までベタに形成されて矩形を呈している状態を連続というのに対し、電極材料が存在しない領域が部分的に存在する状態を「不連続」という。
本実施形態における電界緩和領域16c及び16dは、図3に示すように、角部13c及び13dにおいて、第一の内部電極13が規則的に複数の電極欠損部13eが形成されてなるものである。
電界緩和領域16c及び16dは、複数の第一の内部電極13のうち、1つの第一の内部電極13だけに形成されていてもよく、複数の第一の内部電極13のうち2以上に形成されていてもよい。
なお、図3では、第一の内部電極13の他方の端部13bの2つの角部13c及び13dの両方に電解緩和領域が形成された場合を示したが、2つの角部13c及び13dの一方に形成されていてもよい。
【0016】
またさらに、本実施形態の積層型圧電素子10は、図4に示すように、第二の内部電極23の他方の端部23bの角部23c及び23dに電界緩和領域26c及び26dを有してもよい。
【0017】
本発明の積層型圧電素子10は、複数の第一の内部電極13の他方の端部13bの角部13c及び13dに、第一の内部電極13が不連続に形成されてなる電界緩和領域16c及び16dを有することによって、高電圧印加時における第一の内部電極13の角部13c及び13dへの電荷の集中を分散させることができ、圧電体層15の絶縁破壊を抑制することができる。また、高電圧印加に伴う圧電体層15の変形により、圧電体層15には大きな応力が集中するが、第一の内部電極13の角部13c及び13dに電界緩和領域16c及び16dを有することによって応力を分散できるため、圧電体層15の破損を抑制することができる。
【0018】
さらに、従来の積層型圧電素子では、内部電極の角部において隅切り部を設けることによって電界集中を緩和した構造が用いられているが、本発明における電界緩和領域16c及び16dは、隅切り部を設けた積層型圧電素子よりも、内部電極の厚みが全体に亘って同じであるため、積層型圧電素子全体の平坦性を損なうことがない。したがって、素子にクラックが発生することを良好に抑制することができる。
またさらに、電極欠損部13eを設けることによって、電極材料の使用量を抑えることができ、積層型圧電素子10の製造コストを低減させることができる。
【0019】
電界緩和領域16c及び16dは、図5に示すように、1つの内部電極の平面視における面積aに対して、電界緩和領域における電極欠損部13eの面積bの合計が、0.1%以上20%以下となるように形成することが好ましい。より好ましくは、0.5%以上10%以下である。0.1%以上であることにより、良好に絶縁破壊及び破損の発生を抑制することができる。また、20%以下であることにより、積層型圧電素子全体の平坦性を維持することができる。
【0020】
内部電極は、例えば、銀(Ag)、又は、銀(Ag)-パラジウム(Pd)合金によって形成される。特に、本発明では、内部電極における銀の含有量が多いことが好ましい。内部電極の銀の含有量は、50重量%以上であることが好ましい。
【0021】
(圧電体層)
複数の圧電体層15は、圧電特性を有するセラミックスからなる。圧電特性を有するセラミックスとして、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO-PbTiO)及びアルカリニオブ酸系圧電セラミックス等のペロブスカイト型酸化物、鉛を含まない所謂非鉛系のニオブ酸リチウム(LiNbO)及びタンタル酸リチウム(LiTaO)等を用いることができる。
圧電体層15の厚みは、低電圧で駆動させる観点から、例えば0.01~0.1mm程度に設定することが好ましい。また、変位量を大きくする観点から、200pm/V以上の圧電定数d31を有することが好ましい。
【0022】
(外部電極)
図2に示すように、本発明の積層型圧電素子10は、第一の内部電極13と電気的に接続された第一の外部電極12と、第二の内部電極23と電気的に接続された第二の外部電極22とを備える。第一の外部電極12は、積層型圧電素子10一方の主面に設けられていて、第二の外部電極22は矩形状積層体11の両主面に設けられている。外部電極の構成は、本実施形態に限られず、第一の外部電極12が、矩形状積層体11の積層方向Zに対して垂直な両主面に形成されていてもよい。
外部電極の形成材料としては、銀及び銀にシリカを主成分としたガラス等を含有させた銀化合物、ならびにニッケル等を用いることができる。
【0023】
(接続電極)
積層型圧電素子10は、図2に示すように、矩形状積層体11の積層方向Zに並行な一の側面に、複数の第一の内部電極13の一方の端部13aに接続する第一の接続電極14が設けられている。また、矩形状積層体11の一の側面と向かい合う他の側面に、複数の第二の内部電極23の一方の端部23aに接続する第二の接続電極24が設けられている。
接続電極の形成材料としては、外部電極と同様の、銀及び銀にシリカを主成分としたガラス等を含有させた銀化合物、ニッケル等を用いることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、第一の外部電極12と第一の内部電極13とを電気的に接続する第一の接続電極14として、圧電体層15と内部電極(13,23)とを交互に積層されてなる矩形状積層体11の側面に形成された側面電極を備えた積層型圧電素子10について説明したが、この側面電極にかえて第一の内部電極13の一方の端部13a及び圧電体層15を貫通する貫通導体であってもよい。
【0025】
次に、本発明の積層型圧電素子の他の実施形態について、図6を参照しながら説明する。
図6に示すように、本実施形態の積層型圧電素子10の第一の内部電極33は、角部33c及び33dに、複数の孔33eが規則的に形成されてなる電界緩和領域36c及び36dを有する。
本実施形態では、複数の孔33eが規則的に形成されてなる電界緩和領域36c及び36dを示したが、複数の孔33eは不規則に形成されていてもよい。
【0026】
さらに、本発明の積層型圧電素子の他の実施形態について、図7を参照しながら説明する。
図7に示すように、本実施形態の積層型圧電素子の第一の内部電極53は、角部53c及び53dに形成された隅切り部53eと、隅切り部53eに形成された、第一の内部電極53と導通しない島状の電極部材層57とからなる電界緩和領域56c及び56dを有する。
本実施形態では、島状の電極部材層57は、第一の内部電極53と導通していないが、電界緩和領域の形成範囲について、前述の「1つの内部電極の平面視における面積a」に、島状の電極部材層57の面積を含めて電解緩和領域を調整する。
【0027】
図6及び図7では、第一の内部電極について説明したが、第二の内部電極についても同様に電界緩和領域を有してもよい。
【0028】
本発明の積層型圧電素子10の形成は、例えば、上記圧電体層15の材料粉末と有機溶剤、バインダ、可塑剤、及び分散剤等を所定の比率で混合してスラリーを準備し、例えば公知のドクターブレード法等によりセラミックグリーンシートを作成し、内部電極(13,23)及び外部電極(12,22)に積層した後、大気中500℃で脱バインダ処理し、大気中1000℃で一体焼成することにより得ることができる。また、ドクターブレード法に限定されるものではなく、例えば、圧電体層の材料粉末を含むスラリーと電極材料を含む導電ペーストとを交互に印刷及び積層する、いわゆるスラリービルド法等を用いて積層した後、一体焼成することによっても得ることができる。
【0029】
本発明の積層型圧電素子は、薄型の電子機器、携帯型の電子機器等に搭載されるバイブレータとして好適である。
【実施例
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
層厚75μmの圧電素子を4層積層し、長さ50mm、幅8mm、厚み0.3mmの積層型圧電素子を作製した。圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO-PbTiO)を使用し、内部電極は、銀(Ag)-パラジウム(Pd)合金を使用した。
内部電極は、長さ48mmおよび幅7mmとし、角部における不連続部分(電界緩和領域)は角から1mmの範囲で、図3に示すパターンを形成した。
次に、主成分を銀(Ag)とした外部電極と接続電極を形成し、分極を行った。
実施例1における電界緩和領域は、平面視における内部面積a(図5参照)に対して、電界緩和領域における電極欠損部13eの面積bの合計は、0.5%であった。
【0032】
[実施例2]
角部における不連続部分(電界緩和領域)は、角から4mmの距離において、図3に示すパターンとしたこと以外は、実施例1と同様に形成した。
電界緩和領域は、平面視における内部面積aに対して、電界緩和領域における電極欠損部13eの面積bの合計は、10%であった。
【0033】
[比較例1]
不連続部分が無く、角のある矩形状の内部電極とした以外は実施例1と同様に作製した。
【0034】
[評価]
実施例及び比較例の積層型圧電素子について、配線をはんだ付けしてHALT(Highly accelerated limit test)試験を行った
HALT試験では、電界緩和領域を有する実施例1及び実施例2では、90Vpp印加の複合ステップ試験を5サイクル行っても異常なかったが、電界緩和領域が無い比較例1では、試験中に異常が生じ、クラックが発生した。
以上から、本発明の積層型圧電素子は、電界緩和領域を有していることにより、長時間使用しても絶縁破壊及び破損の発生が抑制され、高い信頼性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0035】
10 積層型圧電素子
11 矩形状積層体
12 第一の外部電極
22 第二の外部電極
13、33、53 第一の内部電極
23 第二の内部電極
13a、23a、33a、53a 一の端部
13b、23b、33b、53b 他方の端部
13c、13d、23c、23d、33c、33d、53c、53d 角部
14 第一の接続電極
24 第二の接続電極
15 圧電体層
16c、16d、26c、26d、36c、36d、56c、56d 電界緩和領域
13e 電極欠損部
33e 孔
53e 隅切り部
57 島状の電極部材層
a 内部電極の面積
b 電極欠損部の面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7