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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】鉄基金属ガラス合金粉末
(51)【国際特許分類】
   C22C 45/02 20060101AFI20231017BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231017BHJP
   C22C 1/11 20230101ALN20231017BHJP
   B22F 9/02 20060101ALN20231017BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
C22C45/02 A
B22F1/00 Y
C22C1/11
B22F9/02 B
B22F9/08 M
B22F9/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019035343
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139192
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-05-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 久也
(72)【発明者】
【氏名】木野 泰志
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226956(JP,A)
【文献】特開2014-169482(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101603159(CN,A)
【文献】特開2005-076083(JP,A)
【文献】特開2008-095180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 45/02
B22F 1/00
C22C 1/11
B22F 9/02
B22F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式:
(Fe1-s-tCosNit100-x-y (Siabm(Pcdnx(M1)y
[式中、Fe、Co及びNiの組成比率(原子%)が、
19≦x≦22、
0≦y≦6.0、
0≦s≦0.35、
0≦t≦0.35、及び
s+t≦0.35であり、
Si、B、P及びCの組成比率(原子%)が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
M1が、Nb又はMoである]
で表される組成を有する原料鉄基金属ガラス合金粉末に対し、Al及びCaが添加されている鉄基金属ガラス合金粉末であり
Al及びCaの含有量が、鉄基金属ガラス合金粉末の全重量に対して、
Al:0.05~2重量%、及び
Ca:0.001~0.027重量%
である、鉄基金属ガラス合金粉末。
【請求項2】
下記組成式:
(Fe1-s-tCosNit100-x-y (Siabm(Pcdnx(M1)y
[式中、Fe、Co及びNiの組成比率(原子%、)が、
19≦x≦22、
0≦y≦6.0、
0≦s≦0.35、
0≦t≦0.35、及び
s+t≦0.35であり、
Si、B、P及びCの組成比率(原子%)が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
M1が、Nb又はMoである]
で表される組成を有する原料鉄基金属ガラス合金粉末に対し、Caが添加されている鉄基金属ガラス合金粉末であり
Caの含有量が、鉄基金属ガラス合金粉末の全重量に対して、0.001~0.027重量%である、鉄基金属ガラス合金粉末。
【請求項3】
Al及びCaの含有量が、鉄基金属ガラス合金粉末の全重量に対して、
Al:0.05~2重量%、及び
Ca:0.001~0.025重量%
である、請求項1に記載の鉄基金属ガラス合金粉末。
【請求項4】
Al及びCaの含有量が、鉄基金属ガラス合金粉末の全重量に対して、
Al:0.08~1.5重量%、及び
Ca:0.0015~0.025重量%
である、請求項3に記載の鉄基金属ガラス合金粉末。
【請求項5】
鉄基金属ガラス合金粉末の全重量に対して2~6重量%のCr及びZnからなる群から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の鉄基金属ガラス合金粉末。
【請求項6】
粒径(D50)が0.5~50μmである、請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄基金属ガラス合金粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄基金属ガラス合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源回路で使用されるパワーインダクタとしては、小型化・低背化の要求から大電流・高周波数で使用できる軟磁性材料が望まれている。従来、インダクタの主材料として酸化物であるフェライト系材料が使用されてきたが、飽和磁化が低いため小型化には不利である。そこで、近年は飽和磁化が高く小型・低背化に有利な合金系材料を使用したメタルインダクタが急増している。メタルインダクタには、鉄を主材料とした軟磁性合金粉末が用いられ、軟磁性合金粉末と樹脂とを混合し、圧縮成形した圧粉磁心などが知られている。圧粉磁心の磁気特性(飽和磁化、透磁率、コアロス、周波数特性など)は、使用する軟磁性合金粉末の磁気特性や粒度分布、充填性、電気抵抗に依存する。
【0003】
鉄基金属ガラス合金粉末は、圧粉成形した場合に優れた磁気特性が得られる。例えば、メタルインダクタに用いられる合金系材料として、電子材料として好適に用いることができる優れた磁気特性を有する鉄基合金粉末が特許文献1に開示されている。また、合金系材料としての信頼性向上のため、耐食性を向上させた鉄基金属ガラス合金粉末が特許文献2に開示されている。また、難着火性を付与した鉄基金属ガラス合金粉末が特許文献3に開示されている。
【0004】
メタルインダクタの製造方法としては、一般的に、圧粉プレス加工が用いられている。しかし、圧粉プレス加工は、高い充填率を得るために、300~600MPaもの高い圧力を加える必要があるので、プレス加工された圧粉の生産性が低い。その為、低圧成型法であるトランスファー成形(射出成型)法など、より生産性の高い製造方法により、メタルインダクタを製造したいという需要がある。そのためには、従来よりも、粉末と樹脂とを混合した際に、より高いスラリーの流動性が求められる。スラリーの流動性は粉末の形状や表面状態により変化し、一般に比表面積の小さい粉末が求められる。さらに、より小型化、高周波化が求められるパワーインダクタ等の用途において、より損失を低減することが求められている。即ち、より比表面積が小さく、より高い特性を有する鉄基金属ガラス粉末が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-290468号公報
【文献】特開2014-169482号公報
【文献】国際公開2017/175831号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比表面積が小さく、高い流動性を有することにより低圧成型法においても高充填が得られる鉄基金属ガラス合金粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の研究を行った結果、鉄基金属ガラス合金粉末にAl及び/又はCaを添加したことにより、驚くべきことに、鉄基金属ガラス合金粉末の形状及び表面状態が改善して低比表面積化することにより、粉末の流動性が向上し、低圧成型法を用いた場合でも高充填が得られ、更には、磁性材料としての特性が向上するとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の鉄基金属ガラス合金粉末である:
〔1〕Al及びCaの少なくともいずれかが添加されており、Alを0.05~5重量%を含む、鉄基金属ガラス合金粉末。
〔2〕Al及びCaの少なくともいずれかが添加されており、Caを0.001~0.03重量%を含む、鉄基金属ガラス合金粉末。
【0009】
本発明の一態様によれば、
Al及びCaが添加されており、
Al:0.05~2重量%、及び
Ca:0.001~0.025重量%
を含む、上記の鉄基金属ガラス合金粉末が提供される。
【0010】
本発明の一態様によれば、
Al:0.08~1.5重量%、及び
Ca:0.0015~0.025重量%
を含む、上記の鉄基金属ガラス合金粉末が提供される。
【0011】
本発明の一態様によれば、
鉄基金属ガラス合金粉末が、下記組成式:
(Fe1-s-tCosNit100-x-y-z{(Siabm(Pcdnx(M1)y(M2)
[式中、Fe、Co及びNiの組成比率が、
19≦x≦22、
0≦y≦6.0、
0≦s≦0.35、
0≦t≦0.35、及び
s+t≦0.35であり、
Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
M1が、Nb又はMoであり、
M2が、Al及び/又はCaであり、
0<zである]
で表される組成を有する、上記の鉄基金属ガラス合金粉末が提供される。
【0012】
本発明の一態様によれば、Cr及びZnからなる群から選択される少なくとも1種を更に含む、上記鉄基金属ガラス合金粉末が提供される。
【0013】
本発明の一態様によれば、粒径(D50)が0.5~50μmである、上記鉄基金属ガラス合金粉末が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高い流動性を有することにより低圧成型法においても高充填が得られる鉄基金属ガラス合金粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例44に係る鉄基金属ガラス合金粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】ブランク2に係る鉄基金属ガラス合金粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例46に係る鉄基金属ガラス合金粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】ブランク4に係る鉄基金属ガラス合金粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、以下の説明において、「A~B」は、「A以上かつB以下」を意味する。
【0017】
第1の実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、Al及びCaの少なくともいずれかが添加されており、Alを0.05~5重量%を含む。また、第2の実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、Al及びCaの少なくともいずれが添加されており、Caを0.001~0.03重量%を含む。
【0018】
本実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、
Al及びCaの少なくともいずれかが添加され、Alを0.05~2重量%、好ましくは、0.08~1.5重量%、及びCaを0.001~0.025重量%、好ましくは、0.0015~0.025重量%を含む。
本明細書において、鉄基金属ガラス合金とは、Fe-P-C系金属ガラス合金、Fe-B-Si系金属ガラス合金などの従来公知の鉄基金属ガラス合金である。
Al及び/又はCaが添加されることにより、鉄基金属ガラス合金粉末の形状及び表面状態が改善して低比表面積化する。鉄基金属ガラス合金粉末の形状及び表面状態の改善とは、鉄基金属ガラス合金粉末がより真球に近い形状となり、鉄基金属ガラス合金粉末の表面の起伏がより少なく平滑化することである。即ち、低比表面積化により、鉄基金属ガラス合金粉末の流動性が向上する。
更には、低比表面積化に伴う、鉄基金属ガラス合金粉末の形状及び表面状態の変化により、鉄基金属ガラス合金粉末の磁性特性が向上する。
【0019】
<Al(アルミニウム)>
第1の実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、Alを0.05~5重量%含む。当該範囲のAlが存在することにより、粉末の形状が改善する。0.05重量%未満の場合、上述の効果が小さく、また、5重量%を超えると、粉末の形状が悪化し、磁気特性を低下させ得る。
【0020】
<Ca(カルシウム)>
第2の実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、Caを0.001~0.03重量%含む。当該範囲のCaが存在することにより、粉末中の酸素量を低減させる。0.001重量%未満の場合、上述の効果が小さく、また、0.03重量%を超えると、磁気特性を低下させ得る。
【0021】
Al又はCaのそれぞれ一方のみが、鉄基金属ガラス合金粉末に含まれる場合も上述の効果を奏し得るが、Al及びCaの両元素を複合的に含有させることにより、驚くべきことに、飛躍的に鉄基金属ガラス合金粉末が低比表面積化し、酸素量が低下する。これは、酸素との親和性が高いAl及びCaにより、合金粉末作製のための溶湯の表面張力が変化することや溶湯の酸素量が変化することによる結果であると考えられる。なお、Al及びCaと同様に酸素との親和性が高い元素であれば、Al及びCaの場合と同様の効果を奏し得る。
Al及びCaの両元素を含む、一実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、Alを0.05~2重量%、好ましくは、0.08~1.5重量%、及びCaを0.001~0.025重量%、好ましくは、0.0015~0.025重量%含む。
【0022】
本実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、鉄基金属ガラス合金粉末が、下記組成式:
(Fe1-s-tCosNit100-x-y-z{(Siabm(Pcdnx(M1)y(M2)
[式中、Fe、Co及びNiの組成比率が、
19≦x≦22、
0≦y≦6.0、
0≦s≦0.35、
0≦t≦0.35、及び
s+t≦0.35であり、
Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
M1が、Nb又はMoであり、
M2が、Al及び/又はCaであり、
0<zである]
で表される組成を有する鉄基金属ガラス合金粉末であることが好ましい。zは、Al及びCaの含有率に依存し、0<z≦10、0<z≦7.5、0<z≦5、0<z≦2.5、0<z≦1、0<z≦0.5、0<z≦0.25、0<z≦0.1、0<z≦0.05などの範囲であり得る。
鉄基金属ガラス合金粉末が上記の組成を有する鉄基金属ガラス合金粉末であることにより、安価に製造することができ、優れた軟磁気特性を有する。
【0023】
本実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、Cr及びZnからなる群から選択される少なくとも1種を更に含むことが好ましい。Cr及びZnからなる群から選択される少なくとも1種を更に含むことにより、鉄基金属ガラス合金粉末の耐食性が改善し、更には、難燃性が向上する。Cr及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の含有率は、鉄基金属ガラス合金粉末の全重量に対して、2~6重量%、好ましくは2.8~5.5重量%、更に好ましくは、2.8~4.0重量%である。
【0024】
<その他の元素>
本実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、不可避的不純物として、N、S、O等の元素を目的とする特性に影響を与えない程度で含み得る。
【0025】
本実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、粒径(D50)が0.5~50μmであることが好ましい。「粒径」とは、メディアン径:D50を意味し、従来公知の方法、例えば、レーザー回折・散乱法により測定されるものである。上述の鉄基金属ガラス合金粉末の低比表面積化や磁気特性の向上の効果は、幅広い粒径を有する鉄基金属ガラス合金粉末において得られるが、粒径(D50)が0.5~50μm、好ましくは、0.5~30μmであることにより、特に、高い効果が得られる。
【0026】
[製造方法]
本実施形態に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、従来公知のアトマイズ法により製造されることが好ましい。例えば、所望の組成に調整した材料を溶解した溶湯に対してAl及びCaを添加し、所望の冷却条件や粒径となるようパラメータを設定したアトマイズ法により粉末が得られる。Al及びCaの添加は、金属の形態であるAl及びCaを溶湯に添加することにより行い、添加する順番は問わない。Al及びCaは酸化物になり易いため、目的とする合金組成に対し、ある程度過剰量のAl及びCaを添加することを要する。
その後、得られた粉末を乾燥、分級し、必要に応じて、表面処理を行い、目的とする鉄基金属ガラス合金粉末を得ることができる。
【実施例
【0027】
以下に本発明の実施例を示す。本発明の内容はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0028】
[鉄基金属ガラス合金粉末の製造]
以下の2つの組成を有するように調製した原料混合物を高周波誘導炉にて溶解し、
〔組成1〕(Fe1-s-tCosNit100-x-y{(Siabm(PcdnxNby
[式中、s=0、t=0、x=22、y=0.89、m:n=2.9:1、a:b=3.8:6.2、c:d=7.7:2.3であり、Cr:3.0wt%を含む。]
〔組成2〕(Fe1-s-tCosNit100-x-y{(Siabm(Pcdnx(M1)
[式中、s=0、t=0、x=24.5、y=0、m:n=6.9:1、a:b=5.2:4.8、c:d=0.5:9.5]
水アトマイズ法を用いてブランク(比較材)としての鉄基金属ガラス合金粉末を製造した。
上記ブランク(比較材)の鉄基金属ガラス合金粉末の製造した時と同様に調製した原料混合物を高周波誘導炉にて溶解し、表1に示される各目標とするAl、Ca組成になるようにAl、Caを添加し、水アトマイズ法を用いて鉄基金属ガラス合金粉末を得た。水アトマイズ法の条件は以下の通りである。
<水アトマイズ条件>
・水圧:100MPa
・水量:100L/分
・水温:20℃
・オリフィス径:φ4mm
・溶湯温度:1500℃
【0029】
得られた鉄基金属ガラス合金粉末を振動真空乾燥機(VU-60:中央化工機製)により乾燥させた。乾燥条件は以下の通りである。
<乾燥条件>
・温度 100℃
・圧力 10kPa以下
・時間 60分
乾燥後の鉄基金属ガラス合金粉末の組成についての定量分析をICP発光分析装置〔SPS3500DD:日立ハイテクサイエンス製〕にて行った。
【0030】
乾燥後の鉄基金属ガラス合金粉末を気流分級装置(ターボクラシファイア:日清エンジニアリング製)により分級し、目的とする鉄基金属ガラス合金粉末を得た。得られた鉄基金属ガラス合金粉末の粒径(D50)は、湿式粒度分析装置〔MT3300EX II:マイクロトラック・ベル製〕を用いて測定した。
【0031】
上述のように製造した鉄基金属ガラス合金粉末に対し、以下を行った。
[評価項目]
1.形状観察
走査型電子顕微鏡(SEM)〔JSM7200:日本電子製〕を用いて、鉄基金属ガラス合金粉末の形状を観察した。
2.比表面積測定
比表面積測定装置〔BELSORP-mini:マイクロトラック・ベル製〕を用いて、鉄基金属ガラス合金粉末の比表面積をBET法にて測定した。
3.抵抗率評価
粉体抵抗測定ユニット〔ハイレスターUX,ロレスタGX:三菱ケミカルアナリテック製〕を用いて、四端子法で粉体の抵抗率を評価した。
4.充填率評価
鉄基金属ガラス合金粉末とエポキシ樹脂とを混合して造粒紛を作製し、造粒紛をリング状に圧粉成形(成形圧力:5MPa)して圧粉磁心(外径:15mm、内径:9mm、厚さ:3mm)を作製し、重量と外形寸法から充填率を求めた。
5.磁気特性(透磁率測定)
充填率評価を行った圧粉磁心に線径:0.3mmの銅線をバイファイラ巻きしたトロイダルコアを作製し評価試料とした。BHアナライザ〔SY8258:岩通計測製〕を用いて、測定周波数:1MHz、最大磁束密度:25mTの条件で透磁率を測定した。
【0032】
[評価結果]
評価結果を表1に示す。
表1中の「比表面積理論値倍率」は、下記の手法で求めた。

・粉末が単一の真球である場合の比表面積の理論値を以下の式から算出する。
真球1個の体積の算出
真球1個の体積(μm)=4/3 × 円周率 × 真球の半径(μm)・・・[A]
真球1個の表面積の算出
真球1個の表面積(μm)=4 × 円周率 × 真球の半径(μm) ・・・[B]
1cm=10μmであるので、1cm=1012μmとなる。
1cm中の真球の個数の算出
1cm中の真球の個数(個)=1012(μm) / [A]・・・[C]
1cm中の真球の表面積の算出
1cm中の真球の表面積=[B] × [C](μm)・・・[D]
真球の比重は粉末の比重7.5g/cmと等しいと考えると、真球の比表面積は、
[D] / 7.5(μm/g)・・・[E]となる。
1m=1012μmであるので、
[E] / 1012(m/g)・・・[F]により真球の比表面積を求めた。
・各粒径ごとに[F]を求めることで、比表面積と粒径(真球の直径)との間には、
真球の比表面積(m/g)=0.8 / 粒径(μm)・・・[G]の関係を得た。
・比表面積理論倍率は以下の式で算出した。
比表面積理論倍率=測定の実測値 / [G]から算出した理論値 ・・・[H]

[算出例-表1中ブランク-1]
[G]から算出した理論値=0.8/0.7(μm)
=1.143(m/g)
[H]から算出した比表面積理論倍率=2.51(m/g)/1.143(m/g)
=2.20

表1中の「球形化評価」とは、各Al及び/又はCaが添加された試料の比表面積理論値倍率の値を、粒径(D50)が同等であるブランク(表1中の「比較試料」)の比表面積理論値倍率の値と比較し、比表面積理論値倍率の低減率が、50%以上の場合が◎であり、20%~50%の場合が〇であり、20%以内の場合が△であり、悪化した場合が×である。
表1中の「磁気特性評価」とは、各Al及び/又はCaが添加された試料の透磁率の測定値を、粒径(D50)が同等であるブランク(表1中の「比較試料」)の透磁率の測定値と比較し、透磁率の上昇率が、30%以上の場合が◎であり、10%~30%の場合が〇であり、10%以内の場合が△であり、悪化した場合が×である。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示されるように、実施例に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、ブランク及び比較例に係る鉄基金属ガラス合金粉末に比べ、比表面積が低下し、より真球に近い粉末の形状を有していることから、粉末の形状が改善しており、また、充填率が向上していることから、流動性が向上していることが分かる。
さらに、実施例に係る鉄基金属ガラス合金粉末は、抵抗率及び透磁率が向上している。すなわち、本発明の鉄基金属ガラス合金粉末は、優れた磁気特性を有しており、各種電子部品の圧粉成型用材料等として優れた特性を有していることが言える。
表1に示されるように、本発明は、粉末の粒径(D50)に依存せず、鉄基金属ガラス合金粉末に高い流動性と磁気特性を付与する効果を奏している。また、組成が異なる粉末に対しても、同様に、高い流動性と磁気特性を付与することが分かる。すなわち、他の組成を有する鉄基金属ガラス合金粉末であっても本願実施例に示される効果と同様の効果が得られることが分かる。
【0035】
図1は実施例44に、図3は実施例46係る鉄基金属ガラス合金粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、図2はブランク2に、図4はブランク4に係るAl及びCaが添加されていない鉄基金属ガラス合金粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図1及び図2図3及び図4との比較から明らかなように、実施例に係る鉄基金属ガラス合金粉末はブランクの鉄基金属ガラス合金粉末に比べ、明らかに真球に近い形状を有しており、表面の起伏が少なく平滑化されているおり、明らかに異なる形状を有している。表1に示される粉末物性及び磁気物性を向上は、この図1から図4に示される形状及び表面状態の変化によるものということができる。

図1
図2
図3
図4