(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】光測距装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4865 20200101AFI20231017BHJP
G01S 17/10 20200101ALI20231017BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G01S7/4865
G01S17/10
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
(21)【出願番号】P 2019094254
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 謙太
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/081301(WO,A1)
【文献】特開2018-194501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0196509(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0081195(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
G01S 13/00 - 13/95
G01S 17/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
H04N 5/222- 5/257
H04N 5/30 - 5/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を用いて対象物までの距離を測定する光測距装置(20)であって、
パルス光を、所定の範囲に射出する発光部(40)と、
前記パルス光に対応した前記所定の範囲からの反射光を、検出を行なう画素(66)に結像させる光学系(30)と、
前記反射光をそれぞれ検出可能な複数の小画素(69、s1からs9)を、前記画素内に配列した受光部(60)と、
前記複数の小画素による前記反射光の検出を制御して、前記対象物からの反射光を前記発光部による前記パルス光の射出からの経過時間として繰り返し検出する演算部(100)と、
を備え、
前記演算部は、
少なくとも、前記複数の小画素のうち
の一部の小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す前記反射光の第1の検出と、他の前記小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す前記反射光の第2の検出と
、を行なう検出部(120)と、
前記検出部による前記第1の検出と前記第2の検出とを異なる位相で行なわせるタイミング制御部(170)と、
前記各小画素により前記時間的な間隔をおいて繰り返される前記第1の検出の結果および第2の検出の結果をそれぞれ加算して、各小画素毎のヒストグラムを生成するヒストグラム生成部(131-139)と、
前記時間的な間隔をおいて繰り返される前記第1の検出の結果と前記第2の検出の結果と
から得られた前記ヒストグラムを重ね合わせ
た結果を用いて、前記所定の範囲に存在する対象物までの距離を含む前記対象物の空間上の位置を特定する特定部(
140,150)と
を備えた光測距装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光測距装置であって、
前記小画素は、光の入射を電気的な応答信号として個別に検出可能な複数の光検出回路(68)を備え、
前記特定部は、前記小画素毎に、
前記時間的な間隔をおいた前記第1の検出および前記第2の検出のタイミングにおいて、前記小画素に含まれる前記光検出回路の応答信号の数を合算する加算部(121から129)と、
前記合算した前記応答信号の数を、少なくとも1回の測距分、記憶する記憶部(m1からm9)と、
を備える光測距装置。
【請求項3】
前記光検出回路は、シングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD)を用いた回路である請求項2記載の光測距装置。
【請求項4】
前記タイミング制御部は、前記複数の小画素毎に、前記第1の検出または前記第2の検出の位相を異ならせる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載に光測距装置。
【請求項5】
前記タイミング制御部は、前記各小画素における前記時間的な間隔を一定とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光測距装置。
【請求項6】
前記タイミング制御部は、前記各小画素における前記第1の検出または前記第2の検出の前記時間的な間隔を変更可能である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光測距装置。
【請求項7】
前記時間的な間隔の変更に先立って、前記パルス光の射出と前記小画素を用いた前記時間的な間隔をおいた第1の検出および前記第2の検出とを行ない、当該検出の結果から、前記各小画素による前記第1の検出または前記第2の検出の時間的な間隔を決定する、請求項6記載の光測距装置。
【請求項8】
前記小画素による第1の検出の時間的な間隔および前記第2の検出の時間的な間隔は、前記発光部により射出される前記パルス光の幅よりも短い、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光測距装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の光測距装置であって、
前記特定部は、
前記小画素による前記時間的な間隔をおいた前記第1の検出または前記第2の検出の結果に応じて、前記所定の範囲に存在する対象物を、第1の空間上の分解能かつ第1の時間軸上の分解能で検出する第1処理と、
前記第1の検出および前記第2の検出の位相が互いに異なる複数の小画素による時間的な間隔をおいた前記第1の検出および前記第2の検出の結果を重ね合わせた結果に応じて、前記所定の範囲に存在する前記対象物を、前記第1の空間上の分解能より低い第2の空間上の分解能かつ前記第1の時間軸上の分解能より高い第2の時間軸上の分解能で検出する第2処理と
を行なう、光測距装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の光測距装置であって、
前記特定部は、前記第1の検出および前記第2の検出の位相が互いに異なる複数の小画素のうちの一部の小画素による時間的な間隔をおいた前記第1の検出および前記第2の検出の結果を重ね合わせた結果に応じて、前記所定の範囲に存在する前記対象物の空間上の位置を、前記画素を単位とする分解能より高い分解能で検出する
光測距装置。
【請求項11】
前記時間的な間隔をおいた前記第1の検出および前記第2の検出の結果を重ね合わせる前記一部の小画素の数は、変更可能である、請求項10に記載の光測距装置。
【請求項12】
前記重ね合わせる小画素の数の変更に先立って、前記パルス光の射出と前記小画素を用いた前記時間的な間隔をおいた第1の検出または前記第2の検出とを行ない、当該第1の検出または前記第2の検出の結果から、前記重ね合わせる小画素の数を決定する、請求項11に記載の光測距装置。
【請求項13】
光を用いて対象物までの距離を測定する光測距方法であって、
パルス光を、所定の範囲に射出し、
前記パルス光に対応した前記所定の範囲からの反射光を、検出を行なう画素であって、前記反射光をそれぞれ検出可能な複数の小画素が配列された前記画素に結像させ、
前記複数の小画素による前記反射光の検出を制御して、前記対象物からの反射光を前記パルス光の射出からの経過時間として繰り返し検出する際、
少なくとも、前記複数の小画素のうち
の一部の小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す前記反射光の第1の検出と、他の前記小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す前記反射光の第2の検出と
、を異なる位相で行なわせ、
前記各小画素により前記時間的な間隔をおいて繰り返される前記第1の検出の結果および第2の検出の結果をそれぞれ加算して、各小画素毎のヒストグラムを生成し、
前記時間的な間隔をおいて繰り返される前記第1の検出の結果と前記第2の検出の結果と
から得られた前記ヒストグラムを重ね合わせ
た結果を用いて、前記所定の範囲に存在する対象物までの距離を含む前記対象物の空間上の位置を特定する
光測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光を用いた対象物の検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光などのパルス光を照射して、対象物からの反射光を受光部で検出し、照射から受光までの戻り時間(TOF)を計測することで、対象物の存否の検出や対象物までの距離を測定する技術が知られている。こうした装置では、対象物を捉える分解能を高める工夫が種々行なわれている。分解能としては、対象物の空間上の位置を検出する際の分解能(以下、空間分解能ともいう)と、対象物までの距離に対応した戻り時間を計測する際の分解能(以下、時間分解能ともいう)との2つがある。前者を高めるためには、発光素子や受光素子の大きさを小さくすれば可能であり、例えば特許文献1では、受光素子の受光領域よりも小さな発光領域の発光素子を複数用意し、複数の発光素子を時分割で発光させることで、受光素子の分解能より高い分解能で距離画像を取得する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術では、1回の測距において、小さな発光領域を有するレーザダイオードを時分割で発光させるので、測距に要する時間が長くなってしまい、結果的にフレームレートの低下を招いてしまう。他方、受光素子の内部を複数の小画素に分割し、小画素毎の検出を可能にする技術も想定できるが、空間分解能は高められるものの、そのままでは、時間分解能を高めることはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。即ち、本開示の光測距装置(20)は、光を用いて対象物までの距離を測定するものであり、パルス光を、所定の範囲に射出する発光部(40)と、前記パルス光に対応した前記所定の範囲からの反射光を、検出を行なう画素(66)に結像させる光学系(30)と、前記反射光をそれぞれ検出可能な複数の小画素(69、s1からs9)を、前記画素内に配列した受光部(60)と、前記複数の小画素による前記反射光の検出を制御して、前記対象物からの反射光を前記発光部による前記パルス光の射出からの経過時間として繰り返し検出する演算部(100)と、を備える。ここで、前記演算部は、少なくとも、前記複数の小画素のうちの一部の小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す前記反射光の第1の検出と、他の前記小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す前記反射光の第2の検出と、を行なう検出部(120)と、前記検出部による前記第1の検出と前記第2の検出とを異なる位相で行なわせるタイミング制御部(170)と、前記各小画素により前記時間的な間隔をおいて繰り返される前記第1の検出の結果および第2の検出の結果をそれぞれ加算して、各小画素毎のヒストグラムを生成するヒストグラム生成部(130)と、前記時間的な間隔をおいて繰り返される前記第1の検出の結果と前記第2の検出の結果とから得られた前記ヒストグラムを重ね合わせた結果を用いて、前記所定の範囲に存在する対象物までの距離を含む前記対象物の空間上の位置を特定する特定部(140,150)とを備える。
【0006】
この光測距装置によれば、複数の小画素のうちの少なくとも一部の小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す反射光の第1の検出と、他の小画素が時間的な間隔をおいて繰り返す反射光の第2の検出とを、異なる位相で行なわせることができるので、各小画素により時間的な間隔をおいて繰り返される第1の検出の結果と前記第2の検出の結果とを重ね合わせることで、所定の範囲に存在する対象物までの距離を含む対象物の空間上の位置の特定において、小画素間の検出の位相差により時間軸上の分解能を、また複数の小画素の検出結果を用いることで、空間上の分解能を、それぞれ高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】SPAD演算部の内部構成を示すブロック図。
【
図4】受光回路を構成するSPAD回路の一例を示す説明図。
【
図5】各SPAD回路の検出結果を重ね合わせてピークを検出する様子を示す説明図。
【
図6】加算部、ヒストグラム生成部、ピーク検出部の詳細構成を示すブロック図。
【
図7】タイミング制御回路の内部構成と各加算器に出力されるタイミング制御信号とを示す説明図。
【
図8】4つの小画素を例に取り、各小画素での検出の位相差を示す説明図。
【
図10】各ヒストグラム生成器が生成するヒストグラムの一例を示す説明図。
【
図11】各ヒストグラム生成器が生成するヒストグラムの他の例を示す説明図。
【
図12】第2実施形態におけるタイミング制御回路の内部構成と各加算器の出力されるタイミング制御信号とを示す説明図。
【
図13】第2実施形態において各SPAD回路の検出結果を重ね合わせてピークを検出する様子を示す説明図。
【
図14】他の測距処理として、各小画素における検出のタイミングの位相を2回目の動作において変更する様子を示す説明図。
【
図15】2つの小画素の組み合わせの例を示す説明図。
【
図16】2つの小画素の組み合わせの他の例を示す説明図。
【
図17】4つの小画素の組み合わせの例を示す説明図。
【
図18A】4×4個の小画素から3×3個の小画素を組み合わせる場合を示す説明図。
【
図18B】4×4個の小画素から2×2個の小画素の組み合わせに変更する場合を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A1)装置構成:
第1実施形態の光学装置である光測距装置20は、距離を光学的に測距するものであり、
図1に示すように、測距する対象物である物体OBJ1に対して測距のための光を投射し、反射光を受ける光学系30および光学系30を駆動し、また光学系30から得られた信号を処理するSPAD演算部100を備える。光学系30は、レーザ光を射出する発光部40と、発光部40からのレーザ光を測距する所定の範囲に射出して走査する走査部50と、レーザ光を走査した範囲からの反射光を受光する受光部60とを備える。
【0009】
光学系30の詳細を
図2に示す。図示するように、発光部40は、測距用のレーザ光を射出する半導体レーザ素子(以下、単にレーザ素子とも言う)41、レーザ素子41の駆動回路を組み込んだ回路基板43、レーザ素子41から射出されたレーザ光を平行光にするコリメートレンズ45を備える。レーザ素子41は、いわゆる短パルスレーザを発振可能なレーザダイオードであり、レーザ光のパルス幅は、5nsec程度である。5nsecの短パルスを用いることで、測距の分解能を高めることができる。
【0010】
走査部50は、コリメートレンズ45により平行光とされたレーザ光を反射する表面反射鏡51、この表面反射鏡51を回転軸54により回転可能に保持するホルダ53、回転軸54を回転駆動するロータリソレノイド55を備える。ロータリソレノイド55は、外部からの制御信号Smを受けて、所定の角度範囲(以下、画角範囲という)内で正転および逆転を繰り返す。この結果、回転軸54、延いては表面反射鏡51もこの範囲で回動する。結果的にコリメートレンズ45を介してレーザ素子41から入射したレーザ光は、図示横方向(H方向)に所定の画角範囲で走査される。ロータリソレノイド55は、図示しないエンコーダを内蔵しており、その回転角度を、出力可能である。従って、表面反射鏡51の回転角度をエンコーダの出力として読み取ることにより、走査位置を取得することができる。
【0011】
表面反射鏡51を所定範囲内で駆動することにより、発光部40が射出されたレーザ光は、横方向(H方向)に走査される。レーザ素子41は、H方向に対して、これに直交する方向(以下、V方向という)に長い形状を備えている。上述した走査部50の表面反射鏡51を含む光学系30は、筐体32内に収納されており、物体OBJ1に向けて射出される光および物体OBJ1からの反射光は、筐体32に設けられたカバー31を通過する。
【0012】
走査部50は、レーザ光のV方向高さと、走査部50によるH方向の角度範囲とで規定される所定範囲に、レーザ素子41が出射するパルス光を走査させる。光測距装置20から、この領域に向けて出力されるレーザ光は、人や車などの物体OBJ1があると、その表面で乱反射し、その一部は、走査部50の表面反射鏡51方向に戻ってくる。この反射光は、表面反射鏡51で反射し、受光部60の受光レンズ61に入射する。受光レンズ61で集光された反射光は、受光面を形成する受光アレイ65に結像する。受光アレイ65には、
図4に示すように、反射光を検出する複数の受光素子66が配列されている。
【0013】
受光部60の受光アレイ65からの出力信号は、
図3に示したように、測距部に相当するSPAD演算部100に入力される。
図3、
図4を用いて、SPAD演算部100の構成と働きについて説明する。SPAD演算部100は、レーザ素子41を発光させて外部の空間を走査しつつ、レーザ素子41が照射パルスを出力した時点から受光部60の受光アレイ65が反射光バルスを受け取るまでの時間TFから、物体OBJ1までの距離を演算する。SPAD演算部100は、周知のCPUやメモリを備え、予め用意されたプログラムを実行することで、測距に必要な処理を行なう。具体的には、SPAD演算部100は、全体の制御を行なう制御部110の他、加算部120、ヒストグラム生成部130、ピーク検出部140、距離演算部150、タイミング制御回路170等を備える。
【0014】
図4に示すように、受光部60の受光アレイ65には、複数の受光素子66が配列されている。各受光素子66は、反射光の検出を行なう通常の単位であることから、以下の説明では、画素66とも呼ぶ。各画素66は、3×3個の小画素69からなる。各小画素69は、複数、ここでは3×3個のSPAD回路68から構成されている。
図4に示したように、3×3個の小画素69は、いずれも3×3個のSPAD回路68から構成されている点で同一の構成を有するが、画素66内での配置が異なるので、各小画素69を区別する必要がある場合には、左上の小画素69から右下に向けて順に、小画素s1、s2・・・s9と呼ぶ。画素66を構成する小画素69の数は、複数個であれば任意の数とし得るが、分解能の下限やS/N比の改善の効果等を考えると、4個(例えば2×2個)から16個(例えば4×4個)程度が好ましい。
【0015】
加算部120は、受光部60を構成する画素66に含まれる小画素69を構成するSPAD回路68の出力を加算する回路である。本実施形態では、受光部60の受光アレイ65は、
図4に示すように、反射光のV方向に配列された複数の画素66から構成されている。画素66は、測距の際に、物体OBJ1を検出し、物体OBJ1までの距離を測定する際の単位である。他方、1つの画素66は、3×3個の小画素69からなり、各小画素69は、個別にそのオン・オフを制御できる。つまり画素66全体としては、本実施形態では、9個の小画素s1からs9を個別に作動させることができる。
【0016】
SPAD回路68は、高い応答性と優れた検出能力とを実現するアバランシェフォトダイオード(APD)が用いられる。APDに反射光(フォトン)が入射すると、電子・正孔対が生成され、電子と正孔が各々高電界で加速され、次々と衝突電離を引き起こして新たな電子・正孔対が生成される(アバランシェ現象)。このように、APDはフォトンの入射を増幅することができることから、遠くの物体のように反射光の強度が小さくなる場合には、APDが用いられることが多い。APDの動作モードには、降伏電圧未満の逆バイアス電圧で動作させるリニアモードと、降伏電圧以上の逆バイアス電圧で動作させるガイガモードとがある。リニアモードでは、生成される電子・正孔対よりも高電解領域から出て消滅する電子・正孔対の数が大きく、電子・正孔対の崩壊は自然に止まる。このため、APDからの出力電流は、入射光量にほぼ比例する。
【0017】
他方、ガイガモードでは、単一フォトンの入射でもアバランシェ現象を起こすことができるため、検出感度を更に高めることができる。こうしたガイガモードで動作されるAPDを、シングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD:Single Photon Avalanche Diode)と呼ぶことがある。
【0018】
各SPAD回路68は、
図4の等価回路に示すように、電源Vccと接地ラインとの間に直列にアバランシェダイオードDaとクエンチ抵抗器Rqとを接続し、その接続点の電圧を論理演算素子の一つである反転素子INVに入力し、電圧レベルが反転したデジタル信号に変換している。反転素子INVの出力信号Sout は、外部にそのまま出力される。クエンチ抵抗器RqはFETとして構成されており、選択信号SCがアクティプとなっていれば、そのオン抵抗がクエンチ抵抗器Rqとして働く。選択信号SCがノンアクティブとなれば、クエンチ抵抗器Rqはハイインピーダンス状態となるので、光がアバランシェダイオードDaに入射しても、クエンチ電流は流れず、結果的にSPAD回路68は、動作しない。選択信号SCは、小画素69内の3×3個のSPAD回路68に対しては、一括して出力され、各画素66のどの小画素69からの信号を読み出すか読み出さないかを指定するのに用いられる。なお、アバランシェダイオードDaをリニアモードで用い、その出力をアナログ信号のまま扱ってもよい。また、アバランシェダイオードDaに代えて、PINフォトダイオードを用いることも可能である。
【0019】
SPAD回路68に光が入射していなければ、アバランシェダイオードDaは、非導通状態に保たれる。このため、反転素子INVの入力側は、クエンチ抵抗器Rqを介してプルアップされた状態、つまりハイレベルHに保たれている。従って、反転素子INVの出力はロウレベルLに保たれる。各SPAD回路68に外部から光が入射すると、アバランシェダイオードDaは、入射した光(フォトン)により通電状態となる。この結果、クエンチ抵抗器Rqを介して大きな電流が流れ、反転素子INVの入力側は一旦ロウレベルLとなり、反転素子INVの出力はハイレベルHに反転する。クエンチ抵抗器Rqを介して大きな電流が流れた結果、アバランシェダイオードDaに印加される電圧は低下するから、アバランシェダイオードDaへの電力供給は止り、アバランシェダイオードDaは、非導通状態に復する。この結果、反転素子INVの出力信号も反転してロウレベルLに戻る。結果的に、反転素子INVは、各SPAD回路68に光(フォトン)が入射すると、ごく短時間、ハイレベルとなるパルス信号を出力することになる。そこで、各SPAD回路68が光を受光するタイミングに合わせて、選択信号SCをハイレベルHにすれば、アンド回路SWの出力信号、つまり各SPAD回路68からの出力信号Sout は、アバランシェダイオードDaの状態を反映したデジタル信号となる。
【0020】
小画素69に含まれる3×3個のSPAD回路68の合計9個の出力信号Sout は、
図4に、小画素69の一つ分を示したように、加算部120内に用意されたブロック内加算器121に入力され、加算される。従って、加算部120には、9個のブロック内加算器121から129が備えられている。以下の説明では、ブロック内加算器は、単に「加算器」とも呼ぶ。各小画素69内の9個のSPAD回路68の出力は、それぞれ、加算器121から129によりまとめられ、ヒストグラム生成部130に出力され、ヒストグラムの生成に用いられる。
【0021】
この様子を、
図5に例示した。発光部40のレーザ素子41を発光させて、物体OBJ1からの反射光が受光部60の受光面に配置された一つの画素に相当する画素66に入射すると、各小画素69は反射光を受け取ったタイミング(時間TOFのタイミング)でパルス信号を出力する。これを詳しくみると、
図5左欄に示したように、小画素s1からs9を構成する各SPAD回路68のそれぞれは、外乱光(ノイズ)などの影響もあり、様々なタイミングで出力信号Sout を出力する。これが
図5左欄のSPAD_1からSPAD_N(ここではN=9)である。なお、
図5における符号tは、時間を示す(他の図面でも同じ)。
【0022】
このSPAD回路68の各々が出力する出力信号Sout は、小画素s1からs9の各々について、加算器121から129によって合算され、
図5中央に示すように、SPAD応答数As1からAs9が求められる。図示するように、各SPAD回路68はノイズによる出力信号Sout も出力するが、レーザ素子41が射出したパルス光に対する反射光に対応する戻り時間TOFの近傍では各SPAD回路68は出力信号Sout を出力するから、これを合算したSPAD応答数As1からAs9では、戻り時間TOFにSPAD応答数のピークが現れる。こうした各小画素s1からs9に関して求められたSPAD応答数As1からAs9は、更に合算され画素66に対するヒストグラムが求められる。これを
図5の右欄に示した。
【0023】
同じ走査位置で複数回の測定を行なって、加算部120が小画素s1、s2・・・s9について求めたSPAD応答数As1からAs9を、更にヒストグラム生成部130が重ね合わせると、
図5右欄に例示するように、戻り時間TOFにピークを有するヒストグラムが生成される。小画素s1、s2・・・s9についてSPAD応答数を合算すると、時間TOF近傍に、応答数のピークが形成される。SPAD回路68の性質上、出力されるパルス信号には、ノイズも含まれる。ノイズは、太陽光などの外乱光によりランダムに発生する。ノイズによるパルス信号は、ランダムに発生するので、SPAD回路68からの出力信号Sout を加算し、更に小画素s1、s2・・・s9について求めたSPAD応答数As1からAs9を合算すると、ノイズはランダムに現れるのに対して、物体OBJ1からの反射光は戻り時間で検出されるから、特定の戻り時間にピークが得られる。つまり、反射光パルスに対応する信号は累積され、ノイズに対応する信号は累積されないので、反射光パルスに対応する信号が明確になる。いわゆるS/N比が高くなる。
【0024】
こうしてヒストグラム生成部130が画素に対するヒストグラムを生成すると、これを受けて、ピーク検出部140が信号のピークを検出する。信号のピークは、測距の対象となっている物体OBJ1からの反射光パルスに対応する戻り時間に生じる。こうしてピークが検出されると、距離演算部150は、照射光パルスから、反射光パルスのピークまでの時間TOFを測定することで、物体までの距離Dを検出する。検出された距離Dは、外部に、例えば光測距装置20が自動運転車両に搭載されていれば、自動運転装置などに出力される。もとより、ドローンや自動車、船舶などの移動体の他、固定された測距装置として用いることも可能である。
【0025】
図3に示した制御部110は、発光部40の回路基板43に対してレーザ素子41の発光タイミングを決定する指令信号SLや、SPAD回路68をアクティブにするかを決定する選択信号SCの他、ヒストグラム生成部130に対するヒストグラムの生成タイミングやヒストグラムの補正を指示する信号Stや、ピーク検出部140に対するピーク検出の閾値Tnを切換える信号Spや、走査部50のロータリソレノイド55に対する駆動信号Sm等を出力する。更に、制御部110に設けられたタイミング制御部170は、加算部120に対して、各小画素69が加算を行なう位相を調整するタイミング制御信号Saを出力する。制御部110が予め定めたタイミングでこれらの信号を出力することにより、SPAD演算部100は、所定の範囲に存在する物体OBJ1を、その物体OBJ1までの距離Dと共に検出する特定部として働く。
【0026】
次に本実施形態における加算部120、ヒストグラム生成部130、ピーク検出部140の構成と、これら各部の動作タイミングを調整するタイミング制御部170の構成と働きについて順次説明する。
図6に示すように、画素66を構成する9つの小画素69(s1からs9)は、それぞれ加算部120を構成する加算器121から129に接続されている。加算器121から129の構成については、
図4を用いて既に説明した。加算器121から129は、それぞれ小画素s1からs9内に備えられた3×3個のSPAD回路68の出力、SPAD応答数As1からAs9を演算し、出力する。
【0027】
加算器121から129が出力するSPAD応答数As1からAs9は、メモリm1からm9に入力され、メモリm1からm9に順次記憶される。メモリm1からm9に記憶されたSPAD応答数As1からAs9は、次段のヒストグラム生成部130に備えられたヒストグラム生成器131から139により所定のタイミングで読み取られる。
【0028】
ヒストグラム生成器131から139は、小画素69による複数回の検出結果、つまり複数回のSPAD応答数As1からAs9を、それぞれ積算して、小画素s1からs9毎のヒストグラムT1からT9を生成する。生成されたヒストグラムT1からT9は、ピーク検出部140のピーク検出器141から149のそれぞれと、合算ピーク検出器160とに入力される。各ピーク検出器141から149は、小画素s1からs9についてそれぞれ生成されたヒストグラムT1からT9に基づき、そのピークの位置、時間軸上の戻り時間TOFを検出する。これは、小画素s1からs9のそれぞれに対応する物体からの反射光の戻り時間である。また、合算ピーク検出器160は、全小画素s1からs9について生成されたヒストグラムT1からT9を合算したヒストグラムTTに基づき、そのピークの位置、時間軸上の戻り時間TOFを検出する。これは、小画素s1からs9からなる画素66に対応する物体からの反射光の戻り時間である。
【0029】
以上説明した各加算器121から129、メモリm1からm9は、制御部110内のタイミング制御部170からのタイミング制御信号Saにより定められるタイミングで動作し、SPAD回路68からの信号の読取りと記憶を行なう。タイミング制御部170の構成とタイミング制御部170が出力するタイミング制御信号Saについて説明する。
【0030】
タイミング制御部170は、
図7に示すように、所定周波数のクロック信号CLKを出力する発振器(OSC)180と、このクロック信号CLKを入力し、クロック信号CLKの位相を所定時間ずつ遅らせる8段のディレイ回路172から179を備える。発振器180が出力するクロック信号CLKは、基準のタイミング制御信号Saとして、加算器121およびメモリm1のトリガ端子に入力される。タイミング制御信号Sa1がトリガ端子に入力されると、加算器121は、そのタイミングでのSPAD応答数As1を出力し、メモリm1はこれを記憶する。この基準のタイミング制御信号Sa1からディレイ回路172による遅れ時間DLだけ位相が遅れたタイミング制御信号Sa2は、加算器122およびメモリm2のトリガ端子に入力される。タイミング制御信号Sa2がトリガ端子に入力されると、加算器122は、そのタイミングでのSPAD応答数As2を出力し、メモリm2はこれを記憶する。以下、同様に、一つずつ位相が遅れたタイミング制御信号Sa3からSa9により、加算器123から129がSPAD応答数As3からAs9をそれぞれ出力し、メモリm3からm9のそれぞれが、対応するSPAD応答数As3からAs9を記憶する。
図7では図示を省略しているが、各メモリm1からm9が記憶したSPAD応答数As1からAs9は、所望のタイミングで、後段のピーク検出部140に備えられたピーク検出器141から149および合算ピーク検出器160により読み取られる。
【0031】
こうした位相が少しずつ遅らされたタイミング制御信号によるSPAD応答数の読取りの様子を
図8に示した。
図8では、理解の便を図って、SPAD回路68を4つとしている。
図8において、白丸「○」は、SPAD応答数が、タイミング制御信号Sa1で求められることを示し、黒丸「●」は、タイミング制御信号Sa1からディレイ時間DLだけ位相が遅れたタイミング制御信号Sa2で求められることを示す。また、白四角「□」は、SPAD応答数が、タイミング制御信号Sa2からディレイ時間DLだけ更に位相が遅れたタイミング制御信号Sa3で求められることを示し、黒四角「■」は、タイミング制御信号Sa3からディレイ時間DLだけ位相が遅れたタイミング制御信号Sa4で求められることを示す。
【0032】
図8の最上段に示したように、SPAD応答数は各タイミング制御信号Sa1からSa4により繰り返し求められる。このうち、タイミング制御信号Sa1により求められるSPAD応答数As1を2段目に、タイミング制御信号Sa2により求められるSPAD応答数As2を3段目に、タイミング制御信号Sa3により求められるSPAD応答数As3を4段目に、タイミング制御信号Sa4により求められるSPAD応答数As4を5段目に、それぞれ示した。
図8の最上段は、この4つのSPAD応答数As1からAs4を合算したものに相当する。
【0033】
図8に例示した様に、各小画素s1からs4により検出されるSPAD応答数As1からAs4のサンプリングのタイミングは、ディレイ回路172の遅れ時間DLだけ順次ずれる。
図8に示した例では、発光部40による発光の周期を丁度4等分するように遅れ時間DLが設定されているので、各小画素s1からs4によるSPAD応答数As1からAs4の検出に重複は生じない。
図1から
図7に示した本実施形態では、小画素69は3×3個設けられているので、実際の構成では、遅れ時間DLは、発光部40による発光パルスの発光周期を9等分するよう遅れ時間DLは設定されている。つまり、小画素s1からs9による検出の時間的な間隔は、発光部40により射出されるパルス光の幅よりも短い。
【0034】
(A2)測距処理の詳細:
以上説明したハードウェア構成を前提として、制御部110に備えられたCPUが行なう制御について、
図9を用いて説明する。
図9に示した測距処理ルーチンは所定のインターバルで繰り返し実行される。この処理ルーチン開始すると、まず小画素s1~s9に関してステップS210からs230を所定回数繰り返す処理を行なう(ステップS201s~S201e)。
【0035】
この繰り返しの処理においては、まずタイミング制御を行なう(ステップS210)。タイミング制御とは、
図7,
図8を用いて示したように、測距において加算部120,ヒストグラム生成部130に出力するタイミング制御信号Sa1からSa9を準備する処理である。本実施例では、各タイミング制御信号Sa1からSa9は、クロック信号CLKとディレイ回路172から179の出力として確定しているが、後述するように、各タイミング制御信号Sa1からSa9は任意に指定する場合がある。このため、タイミング制御処理(ステップS210)を行なうものとした。
【0036】
タイミングの制御を行なった後、制御部110は発光部40に対して司令信号SLを出力し、レーザ素子41をパルス発光させる発光処理を行ない(ステップS220)、続けて受光処理を行なう(ステップS230)。ここで受光処理では、制御部110は、受光部60に選択信号SCを出力し、また加算部120にタイミング制御信号Sa1からSa9を出力し、上述した加算器121から129によるSPAD応答数As1からAs9の演算および出力と、メモリm1からm9によるSPAD応答数As1からAs9の記憶とを行なう。
【0037】
上記の処理(ステップS210からS230)は、所定回数繰り返されるから、繰り返しの処理が終了すると、メモリm1からm9には、対応する小画素s1からs9について、タイミング制御部170からのタイミング制御信号Sa1からSa9に基づくSPAD応答数As1からAs9が、繰り返しの回数分記憶される。そこで、続くステップS240において、ヒストグラム生成部130の各ヒストグラム生成器131から139により、対応するメモリm1からm9に記憶された複数回分のSPAD応答数As1からAs9を合算し、それぞれのヒストグラムを生成する。
【0038】
こうして得られた各小画素s1からs9についてのヒストグラムを用いて、続くステップS250において、画素および小画素に対する物体の検出・測距処理を行なう。この処理は、ピーク検出部140における各ピーク検出器141から149および合算ピーク検出器160によるピーク検出の処理に相当する。また、ステップS250では、後述するように、小画素69を単位として検出および測距(第1処理)と、画素66を単位とした検出および測距(第2処理)とを行なうことができる。この処理を終えると、測距処理ルーチンを終了する。
【0039】
ステップS250として示した画素および小画素に対する物体の検出・測距処理について説明する。ステップS250の処理が開始される時点では、ヒストグラム生成部130のヒストグラム生成器131から139は、メモリm1からm9に記憶された複数回分のSPAD応答数As1からAs9を合算したヒストグラムを生成している。小画素s1からs9について得られたヒストグラムは、
図8に示したように、SPAD応答数を検出したタイミングがそれぞれ異なる。
【0040】
この小画素s1からs9に対応するヒストグラムT1からT9およびこれらのヒストグラムを合算した合算ヒストグラムTTを用いて、ピーク検出部140がピークを検出する。この様子を
図10に示した。ピーク検出部140の各ピーク検出器141から149および合算ピーク検出器160は、得られたヒストグラムT1からT9および合算ヒストグラムTTを閾値r1からr9および閾値Rと比較することで、ピークの存在およびその時間軸上の位置(戻り時間)を検出する。このとき、閾値を上回るピークが存在しないヒストグラムも存在する。つまり、小画素s1からs9が物体OBJ1を検出する際の空間上の空間分解能の限界として機能している。しかも、各小画素s1からs9についてのSPAD応答数As1からAs9の検出は、同じタイミングではなく、
図8に示したように、遅れ時間DLずつずれたタイミングで行なわれている。この結果、SPAD応答数As1からAs9をそれぞれ複数回重ね合わせて得られたヒストグラムT1からT9は、時間軸上の位置が相違することから、時間軸に関して、パルス発光の間隔より高い時間分解能を有していることになる。この結果、これらを更に合算した合算ヒストグラムTTは、
図8最上段に示したように、高い時間軸上の分解能を有するものとなっている。
【0041】
例えば、
図10に示す例では、小画素s1についてのヒストグラムT1は、時間t1において閾値r1を上回っており、ピークが検出される。他方、小画素s9についてのヒストグラムT9は、いずれの時間でも閾値r9を上回るピークは存在しない。更に、合算ヒストグラムTTは、時間t1において、閾値Rを上回っている。この結果、距離演算部150は、少なくとも小画素s1に対応する位置であって、戻り時間t1の場所に、物体OBJ1が存在すると判断し、その位置と距離Dとを演算する。他方、小画素s9には、物体OBJ1は存在しないと判断する。更に、小画素s1からs9からなる画素66全体としてみれば、画素66に対応する位置であって、戻り時間t1に対応する距離Dに物体OBJ1が存在すると判断する。なお、仮に小画素s2についてのヒストグラムT2に、時間t1直後の時間t2にピークが検出されていれば、小画素s2に対応する空間上の位置であって、かつ戻り時間t2対応する距離に物体OBJ1が存在すると判断し、かつ合算ヒストグラムTTから、画素66において、戻り時間t1,t2に対応する距離に物体OBJ1が存在すると判断する。つまり、少なくとも小画素s1,s2に跨がる大きさの物体OBJ1が戻り時間t1,t2近傍に存在すると判断できる。
【0042】
図11に別の検出の様子を例示した。
図11に示した例では、小画素s1についてのヒストグラムT1は、時間t1において閾値r1を上回っており、ピークが検出される。他方、小画素s9についてのヒストグラムT9は、時間t9において閾値r9を上回っており、ピークが検出される。加えて、他の小画素s2からs8ではピークが検出されなかったものとする。他方、合算ヒストグラムTTは、時間t1,時間t9においても閾値Rを下回っており、ピークが検出されていない。この場合は、小さな物体OBJ1,OBJ2が、小画素s1,s9に存在し、その物体までの距離は、戻り時間t1,t9のようにかなり異なるので、この場合は、小画素に対応する程度の大きさの物体が、異なる距離に存在していると判断できる。つまり、この実施形態のSPAD演算部100は、小画素s1からs9による時間的な間隔をおいた検出の結果に応じて、所定範囲に存在する対象物を、第1の空間上の分解能かつ第1の時間軸上の分解能で検出する処理と、検出の位相が互いに異なる複数の小画素による時間的な間隔をおいた検出の結果を重ね合わせた結果に応じて、所定の範囲に存在する対象物OBJ1,OBJ2を、第1の空間上の分解能より低い第2の空間上の分解能かつ第1の時間軸上の分解能より高い第2の時間軸上の分解能で検出する処理とを行なうことかできる。
【0043】
以上説明したように、第1実施形態の光測距装置20よれば、発光部40による発光パルスの間隔よりも高い時間分解能、かつ画素66より高い空間分解能で、物体の位置と距離とを検出できる。しかもそのために必要なメモリ容量は、画素66単位で時間分解能を高めて検出した場合と同等以下に抑えられる。即ち、空間分解能を高めているにもかかわらず、
図8の最上段に示した画素全体の検出を行なっている場合よりも記憶しておくデータ量を増やす必要がない。本実施形態では、タイミング制御部170からのタイミング制御信号Sa1からSs9を用いた検出を繰り返し、そのデータを全てメモリm1からm9に記憶しておき、その後、ヒストグラムの生成を行なったが、タイミング制御信号Sa1からSa9が出力される度に、前のサイクルで検出したSPAD応答数As1からAs9に、今回検出したSPAD応答数As1からAs9を加算してメモリm1からm9に記憶するようにすれば、更にメモリm1からm9の容量を低減することができる。この場合は、ヒストグラム生成部130は、メモリm1からm9に記憶された累積値を読み出すだけの構成とすることも可能である。
【0044】
B.第2実施形態:
次に第2実施形態について説明する。第2実施形態の光測距装置20は、SPAD演算部100を構成する制御部110Aおよび加算部120Aの構成が異なる点を除いて第1実施形態と同様の構成を備える。第2実施形態では、制御部110Aと加算部120Aとは、
図12に示す構成を備える。第2実施形態では、110Aは、タイミング制御部170Aとして、発振器180Aとメモリセレクタ190とを備える。第2実施形態における発振器180Aは、第1実施形態と比べるとその発振周波数は約9倍程度高い。この発振器180Aから出力されるクロック信号CLKは、加算部120Aに設けられた加算器121から129とメモリm1からm9に供給される。また、メモリセレクタ190からは、9つのタイミング制御信号Sa1からSa9がメモリm1からm9に出力されている。このメモリセレクタ190によりタイミング制御信号Sa1からSa9は、メモリセレクタ190から出力されるが、その出力タイミングは、第1実施形態での測距処理ルーチンで説明したステップS210のタイミング制御において、決定される。タイミング制御信号Sa1からSa9については、後で詳しく説明する。
【0045】
上記構成を有する第2実施形態の光測距装置20では、加算部120Aの加算器121から129には、高い周波数のクロック信号CLKが入力され、各加算器121から129は、
図8最上段に示したように、各クロック信号CLK毎にSPAD応答数As1からAs9を求める。SPAD応答数As1からAs9は、
図4に示したように、加算器121がハードウェアにより各SPAD回路68の出力を加算して求めているので、その応答性は高い。従って、第1実施形態より高い周波数のクロック信号CLKに追従して、SPAD応答数As1からAs9を求めることができる。
【0046】
他方、メモリm1からm9は、対応するタイミング制御信号Sa1からSa9に応じて、それぞれ加算器121から129からのSPAD応答数As1からAs9の信号を記憶する。つまり、各加算器121から129は、
図8最上段のように動作して、全てのタイミングでSPAD応答数As1からAs9を求めているが、メモリm1からm9は、
図8の2段目以下に示したように、タイミング制御信号Sa1からSa9が出力される度に、そのタイミングで出力されているSPAD応答数As1からAs9を記憶する。
【0047】
従って、このタイミング制御信号Sa1からSa9を第1実施形態とほぼ同じタイミング、つまりクロック信号CLKずつ遅れたタイミングで出力されるものとすれば、第1実施形態と同様に、発光部40による発光パルスの間隔よりも高い時間分解能、かつ画素66より高い空間分解能で、物体の位置と距離とを検出できる。しかもそのために必要なメモリ容量は、画素66単位で時間分解能を高めて検出した場合と同等以下に抑えられる。即ち、空間分解能を高めているにもかかわらず、
図8の最上段に示した画素全体の検出を行なっている場合よりも記憶しておくデータ量を増やす必要がないなど、第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。なお、こうした作用効果は、以下の第3実施形態を含む他の実施形態でも同様である。
【0048】
C.第3実施形態:
図12に示したように、上述した第2実施形態で採用したハードウェアによれば、加算部120のメモリm1からm9に出力するタイミング制御信号Sa1からSa9のタイミングは、メモリセレクタ190により自由に設定することができる。このため、例えば発光部40により発光パルスの射出と受光部60による受光処理とを複数回繰り返す場合(
図9,ステップS201sからS201e)、そのたびにメモリセレクタ190から出力するタイミング制御信号Sa1からSa9を変更することも可能である。この例を第3実施形態として、以下に示す。
【0049】
例えば
図13に示すように、繰り返しの処理の度に、タイミング制御(ステップS210)において、メモリm1からm9に記憶するタイミングを入替えても良い。
図13では、理解の便を図って、
図8と同様に、4つの小画素s1からs4からのSPAD応答数As1からAs4を扱うものとして図示している。この例では、メモリセレクタ190は、繰り返しの1回目では、小画素s1からs4に対して、メモリm1からm4に記憶するタイミングがクロック信号CLKずつ遅れたタイミング制御信号Sa1からSa4を出力するので、結果的にメモリm1からm4に記憶されるSPAD応答数As1からAs4は、
図8に示したものと同じになる。各タイミングを示す白丸「○」、黒丸「●」、白四角「□」、黒四角「■」は、
図8と同じである。これを、SPAD応答数As11からAs41として示した。SPAD応答数Asijの添え字は、前者iが小画素s1からs4の番号を示し、後者jが繰り返し回数を示す。繰り返し2回目のSPAD応答数As12からAs42は、図示するように、タイミング制御信号Sa1からSa4は、繰り返し1回目と比べて、小画素について1つずつずれたものとなっている。繰り返し3回目、4回目は、更にタイミングを1つずつずらしたものになっている。
【0050】
図13の右欄には、4回繰り返された場合、各回に検出されてメモリm1からm4に記憶されたSPAD応答数を重ね合わせた重ね合わせ応答数At1からAt4を示した。これは、ヒストグラム生成部130の各ヒストグラム生成器131から134が生成するヒストグラムT1からT4に相当する。更にこれらを合算して合算ヒストグラムTTに相当する合算応答数Attを求めることも可能である。これを
図13の再下段に示した。
【0051】
こうすれば、全ての小画素s1からs9について、小画素s1からs9の大きさに対応した高い空間分解能、かつクロック信号CLKに対応した高い時間分解能で、反射光のピークを検出することができる。しかも、メモリm1からm9の容量は第1,第2実施例から増加することがない。また、メモリセレクタ190から出力されるタイミング制御信号Sa1からSa9は、SPAD応答数As1からAs9の検出を繰り返す度に変更できるので、必ずしも
図13に示したように、サイクリックにタイミングを変更する必要はない。複数回繰り返す検出のうちの2回以上を同じタイミングとし、他を異なるタイミングとするといったことも可能である。
【0052】
D.第4実施形態:
同様に、メモリセレクタ190から出力されるタイミング制御信号Sa1からSa9が、SPAD応答数As1からAs9の検出を繰り返す度に変更できることを利用して、1回目の検出結果を用いて、2回目以降のタイミングを変更するといったことも可能である。この例を、第4実施形態として、以下に示す。
図14は、1回目の検出によって、2回目以降の検出のタイミングを変えて計測した例を示す。
図14も、
図8、
図13と同様に、理解の便を図って、小画素s1からs4に限って図示しているが、小画素s1からs9に対して実施できることは当然である。
【0053】
図14に示した例では、左欄は繰り返しの1回目の動作を示し、右欄は2回目以降の動作を示す。繰り返しの1回目の動作では、
図8に示したのと同様に、小画素s1からs4に対して、発光・受光のサイクルを4等分したタイミングでSPAD応答数Bs11からBs41が読込まれる。SPAD応答数Bsijの添え字ijの意味は、
図13と同じである。
【0054】
1回目の動作が行なわれると、SPAD応答数Bs1からBs4が合算され、合算ヒストグラムBt1が求められる。この合算ヒストグラムBt1を検出すると、反射光のピークの概略位置を知ることができる。そこで、1回目の動作で合算ヒストグラムBt1を検出し、そのピークと思われる箇所の立ち上がりと立ち下がりの部分での検出が細かく行なえるように、タイミング制御信号Sa1からSa4を調整する。具体的には、ピークを形成する波形の立ち上がりの部分Ra1と立ち下がりの部分Ra2でSPAD応答数の検出がきめ細かく行なえるように、小画素s1,s2についてのタイミング制御信号Sa1,Sa2をそれぞれ僅かに遅らせ、小画素s3についてのタイミング制御信号Sa3を僅かに早め、小画素s4についてのタイミング制御信号Sa4をもとのままに維持する。こうすることで、各小画素s1からs4についてのタイミング制御信号Sa1からSa4を、ピークを形成する波形の立ち上がりの部分Ra1と立ち下がりの部分Ra2とに集めることができる。この結果、ピークを形成する波形の最も重要な部分の情報を細かく取得することができる。ピークを形成する波形の立ち上がりや立ち下がりの形状は、検出されている物体OBJ1が、金属やコンクリートなど輪郭の明確なものか、樹木や人体など輪郭の曖昧なものか、といった情報を知るのに役立てること等ができる。
【0055】
上記実施形態では、各小画素s1からs4の検出の間隔は一定のまま、小画素毎にその検出の位相を進めたり遅めたりしたが、タイミング制御部170から出力するタイミング制御信号Saを間隔を含めて自由に設定できるようにしてもよい。こうすれば、反射光パルスの立ち上がりや立ち下がりの検出精度を更に高めることができる。もとより、立ち上がり、立ち下がりだけでなく、反射光パルスのピーク近傍など、検出精度を高める場所は自由に設定して差し支えない。また、上記実施形態では、1回目の測定を用いて、2回目の測定の位相を調整したが、毎回の測定結果を利用して次回の測定の位相を調整するようにしてもよい。
【0056】
E.第5実施形態:
(1)以上いくつかの実施形態について説明したが、これ以外の形態も可能である。小画素s1からs9からのSPAD応答数の検出を、複数の小画素をまとめて行なうものを第5実施形態として示す。この場合には、
図6に示した構成では、ヒストグラム生成部130のヒストグラム生成器が例えばメモリm1,m2の内容を交互に読み出して合算すればよい。こうした複数の小画素のSPAD応答数を合算する構成を
図15に示した。
図15に示した例では、縦に2つの並んだ小画素のSPAD応答数をヒストグラム生成器が合算して、ヒストグラムを生成する。この場合の小画素s1,s5を合わせたSPAD応答数の合算値として生成されるヒストグラムTu1は、小画素s1およびs4についてそれぞれ生成されるヒストグラムTs1+Ts4に一致する。複数の小画素を合わせたSPAD応答数の合算値として生成されるヒストグラムを、以下、グループヒストグラムという。
【0057】
図15に示した例では、各グループヒストグラムは以下の通りである。
Tu1:Ts1+Ts4
Tu2:Ts2+Ts5
Tu3:Ts3+Ts6
Tu4:Ts4+Ts7
Tu5:Ts5+Ts8
Tu6:Ts6+Ts9
【0058】
かかる構成を採用すれば、画素66に対して縦に並んだ2つの小画素に対応する位置に跨がって存在する物体を精度良く検出することができる。
【0059】
(2)グループヒストグラムを求める場合の小画素のまとめ方は、
図15に示した例に限らず、
図16のように、小画素が横に隣接するようにしてもよい。この場合の各グループヒストグラムTv1からTv6と小画素について生成されるヒストグラムとは、以下の対応関係を備える。
Tv1:Ts1+Ts2
Tv2:Ts2+Ts3
Tv3:Ts4+Ts5
Tv4:Ts5+Ts6
Tv5:Ts7+Ts8
Tv6:Ts8+Ts9
この場合の物体の位置の検出と測距の手法は、上記実施形態で示したものと同様である。こうすれば、画素66に対して横に並んだ2つの小画素69に対応する位置に跨がって存在する物体を精度良く検出することができる。
【0060】
(3)小画素のヒストグラムTsは2つずつグループ化する場合に限られず、M個(M≧3)ずつグループ化してもよい。
図17は、4つずつグループ化した場合を例示する。この場合は、ヒストグラムTs1~Ts9を4つずつ組み合わせ、グループヒストグラムTwを求める構成とした。具体的には、グループヒストグラムTwは、
Tw1=Ts1+Ts2+Ts4+Ts5
Tw2=Ts2+Ts3+Ts5+Ts6
Tw3=Ts4+Ts5+Ts7+Ts8
Tw4=Ts5+Ts6+Ts8+Ts9
として求める。グループヒストグラムTwを求め、物体を検出、測距する処理は、他の実施形態と同様である。
【0061】
このように、SPAD演算部100は、検出の位相が互いに異なる複数の小画素s1からs9のうちの一部の小画素による時間的な間隔をおいた検出の結果を重ね合わせた結果に応じて、前記の範囲に存在する前記対象物OBJ1の空間上の位置を、画素66を単位とする分解能より高い分解能で検出することができる。
【0062】
F.第6実施形態:
こうした組み合わせる小画素の数や組み合わせを、測定の途中で変更する構成を、第6実施形態として示す。第6実施形態では、
図18Aおよび
図18Bに例示するように、画素66を構成する小画素が4×4個(合計16個)あるような場合、グループ化を3×3個の小画素によって行なったり、あるいはグループ化を2×2個の小画素によって行なったりしてもよい。こうしたグループ化は、繰り返しの1回目の検出で、反射光の戻り時間が短く、物体OBJ1が近くにあると判断できる場合には、グループ化する小画素数を多くし、繰り返しの1回目の検出で、反射光の戻り時間が長く、物体OBJ1が遠くにあると判断できる場合には、グループ化する小画素数を少なくするといった対応が有用である。物体OBJ1が近くにあれば、物体OBJ1からの反射光は同時に複数の小画素に入る可能性が高く、物体OBJ1が遠くにあれば、物体OBJ1からの反射光が複数の小画素に入る可能性は低くなるからである。また、縦方向に細長い物体が存在する可能性が高いと判断された場合は、小画素の組み合わせを縦長になるようにし、横方向に細長い物体が存在する可能性が高いと判断された場合は、小画素の組み合わせを横長になるようにするなど、小画素の組み合わせを、測定の途中で変更するようにしてもよい。こうした組み合わせの数をビニング数と呼ぶことがある。
【0063】
こうすれば、物体OBJ1の距離に応じて、時間分解能を優先するか、空間分解能を優先するかを、ビニング数を変えることで、容易に切り替えることができる。グループ化する小画素数を増やせば、グループヒストグラムに含まれるSPAD応答数が増えるので、ヒストグラムを生成する際の時間を短縮することができ、同じ位置での測距の回数を減らして、スキャン回数を増やすことも可能である。
【0064】
G.その他の実施形態:
上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。また、上記光測距装置において行なわれ処理は、光測距方法として実施しているものとして把握できる。
【0065】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
20 光測距装置、30 光学系、40 発光部、41 レーザ素子、50 走査部、60 受光部、66(画素) 受光素子、68 SPAD回路、69(s1からs9) 小画素、100 SPAD演算部、110 制御部、114 メモリ、120 加算部、121から129 ブロック内加算器、130 ヒストグラム生成部、131から139 ヒストグラム生成器、140 ピーク検出部、 141から149 ピーク検出器、150 距離演算部、160 合算ピーク検出器、170 タイミング制御回路、