(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】半導体装置及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20231017BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20231017BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231017BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20231017BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20231017BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20231017BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20231017BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20231017BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652D
H01L29/78 652G
H01L29/78 655A
H01L29/78 655D
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/78 658E
H01L29/86 301M
H01L29/86 301D
H01L29/86 301P
H01L29/86 301F
H01L21/20
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2019096740
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100135976
【氏名又は名称】宮本 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 啓樹
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-002207(JP,A)
【文献】特開2014-039057(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017215(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/739
H01L 29/06
H01L 21/336
H01L 29/872
H01L 21/329
H01L 21/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層と、
前記電極層上に直接配置され、基底面転位密度が、
0.1個/cm
2以下である第1導電型の第1炭化珪素層と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、前記第1炭化珪素層上に配置される前記第1導電型の第2炭化珪素層と、
前記第2炭化珪素層上又は前記第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の炭化珪素領域と、
を備える半導体装置。
【請求項2】
電極層と、
シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて炭化珪素基板上で成長した後当該炭化珪素基板が除去されて形成されており、前記電極層上に直接配置される第1導電型の第1炭化珪素層と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、前記第1炭化珪素層上に配置される前記第1導電型の第2炭化珪素層と、
前記第2炭化珪素層上又は前記第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の第3炭化珪素領域と、
を備え
、
前記第1炭化珪素層における前記電極層側の界面はアモルファスである、半導体装置。
【請求項3】
電極層と、
前記電極層上に直接配置され、基底面転位密度が、1個/cm
2
以下である第1導電型の第1炭化珪素層と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、前記第1炭化珪素層上に配置される前記第1導電型の第2炭化珪素層と、
前記第2炭化珪素層上又は前記第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の炭化珪素領域と、
を備え、
前記第1炭化珪素層における前記電極層側の界面はアモルファスである、半導体装置。
【請求項4】
電極層と、
前記電極層上に直接配置され、基底面転位密度が、1個/cm
2
以下である第1導電型の第1炭化珪素層と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、前記第1炭化珪素層上に配置される前記第1導電型の第2炭化珪素層と、
前記第2炭化珪素層上又は前記第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の炭化珪素領域と、
を備え、
前記第1炭化珪素層における前記電極層側の領域に、前記第1導電型の不純物と前記第2導電型の不純物とを含む、半導体装置。
【請求項5】
電極層と、
シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて炭化珪素基板上で成長した後当該炭化珪素基板が除去されて形成されており、前記電極層上に直接配置される第1導電型の第1炭化珪素層と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、前記第1炭化珪素層上に配置される前記第1導電型の第2炭化珪素層と、
前記第2炭化珪素層上又は前記第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の第3炭化珪素領域と、
を備え、
前記第1炭化珪素層における前記電極層側の領域に、前記第1導電型の不純物と前記第2導電型の不純物とを含
む、半導体装置。
【請求項6】
前記第1炭化珪素層の不純物濃度は、1×10
17
cm
-3
以上、2×10
19
cm
-3
以下の範囲にある、請求項1~5の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1炭化珪素層と前記第2炭化珪素層とをあわせた厚さは、50μm以上且つ80μm以下であり、前記第2炭化珪素層の不純物濃度は、3×10
15
cm
-3
以下である、請求項1~6の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第2炭化珪素層の基底面転位密度は、前記第1炭化珪素層よりも低い、請求項1~7の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体装置は、MOSFETあるいはIGBTである、請求項1~8の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて、炭化珪素基板上に第1導電型の第1炭化珪素層を形成する第1工程と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有する前記第1導電型の第2炭化珪素層を、前記第1炭化珪素層上に形成する第2工程と、
第2導電型の炭化珪素領域を、前記第1炭化珪素層上に形成するか又は前記第1炭化珪素層内に形成する第3工程と、
前記炭化珪素基板を除去して、前記第1炭化珪素層を露出させる第4工程と、
前記第1炭化珪素層の露出した面上に、電極層を形成する第5工程と、
を含み、
前記第1工程では、前記第1炭化珪素層を形成するのに用いる原料ガスにおけるシリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R1であり、
前記第2工程では、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R2の原料ガスを用いて、前記第2炭化珪素層を形成しており、
前記比R2に対する前記比R1の比R1/R2は、0.46~0.99の範囲内にあ
る、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて、炭化珪素基板上に第1導電型の第1炭化珪素層を形成する第1工程と、
前記第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有する前記第1導電型の第2炭化珪素層を、前記第1炭化珪素層上に形成する第2工程と、
第2導電型の炭化珪素領域を、前記第1炭化珪素層上に形成するか又は前記第1炭化珪素層内に形成する第3工程と、
前記炭化珪素基板を除去して、前記第1炭化珪素層を露出させる第4工程と、
前記第1炭化珪素層の露出した面上に、電極層を形成する第5工程と、
を含み、
前記第1工程では、原料ガスとして、前記第1導電型の導電性を与える不純物を含むガスと前記第2導電型の導電性を与える不純物を含むガスとを添加す
る、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第4工程では、ドライエッチング又は化学機械研磨を用いる請求項
10又は11に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン(Si)に代わる半導体材料の一つとして炭化珪素(SiC)が注目されている。炭化珪素のバンドギャップは、シリコンと比べて約3倍と大きいので、高い耐電圧特性を有する。多数キャリアで動作する半導体装置を用いることにより、オン抵抗を低減すると共に、高温での優れた動作特性が得られる。また、炭化珪素の熱伝導度は、シリコンと比べて大きいので、半導体装置を冷却するための冷却装置を小型にできる。このような特徴を有する炭化珪素は、例えば電力用の半導体装置への応用が期待されている。
【0003】
単結晶の炭化珪素基板は、例えば昇華法を用いて製造されるが、この昇華法を用いて製造された炭化珪素基板には、基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)という欠陥が存在することが知られている。
【0004】
半導体装置の炭化珪素基板が基底面転位を有すると、電気的特性の経時劣化が観測される場合のあることを、
図1(A)~
図1(C)を参照しながら、以下に説明する。
【0005】
図1(A)に示すように、半導体装置100は、炭化珪素基板110と、n型ドリフト層111と、p
+型層112を備える。炭化珪素基板110の表面に基底面転位が存在すると、炭化珪素基板110上にn型ドリフト層111をエピタキシャル成長させている時に、基底面転位BPDがn型ドリフト層111内に伝搬することがある。エピタキシャル成長時に形成された基底面転位BPDは、n型ドリフト層111に残る。
【0006】
図1(B)に示すように、半導体装置100が少数キャリアを発生するようなバイポーラ動作をすると、正孔hと電子eとの再結合が基底面転位BPDの近傍で生じて、高いエネルギーが発生する。
【0007】
図1(C)に示すように、高いエネルギーが基底面転位BPDに与えられることによって、BPDを起点として積層欠陥SFが生じる現象がみられる。この積層欠陥は広い範囲でキャリアの移動を阻害するのでオン抵抗を増大させ、半導体装置100の順方向電圧の経時的な上昇が観測される。
【0008】
そこで、
図2に示すように、炭化珪素基板110上に、炭化珪素基板の基底面転位を刃状転位に変換する転位変換層113を形成し、転位変換層113上にn型ドリフト層111と及びp
+型層112を順番にエピタキシャル成長させることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0009】
転位変換層113は、この層が炭化珪素基板110上にエピタキシャル成長している時に、炭化珪素基板110の表面から侵入してきた基底面転位を、刃状転位に変換する。刃状転位は、基底面転位と比べて半導体装置の電気的特性に与える影響の少ないことが確認されている。そのため、刃状転位が、転位変換層113からn型ドリフト層111へ伝搬した場合でも、半導体装置200に対する電気的特性に与える影響は小さいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、
図2に示す半導体装置200においても、半導体装置200の動作中に少数キャリアが炭化珪素基板110の基底面転位に到達した場合、基底面転位を起点とした積層欠陥が生じて、積層欠陥がn型ドリフト層111内まで伝搬するおそれがある。
【0012】
本明細書では、炭化珪素層内の基底面転位を低減する半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書に開示する半導体装置によれば、電極層と、電極層上に直接配置され、基底面転位密度が、1個/cm2以下である第1導電型の第1炭化珪素層と、第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、第1炭化珪素層上に配置される第1導電型の第2炭化珪素層と、第2炭化珪素層上又は第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の炭化珪素領域と、を備える。電極層は、金属とシリコンとのシリサイド、または金属、もしくはその両方を含む。
【0014】
本明細書に開示する他の半導体装置によれば、電極層と、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて炭化珪素基板上で成長した後当該炭化珪素基板が除去されて形成されており、電極層上に直接配置される第1導電型の第1炭化珪素層と、第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有し、第1炭化珪素層上に配置される第1導電型の第2炭化珪素層と、第1炭化珪素層上又は第2炭化珪素層内に配置される第2導電型の第3炭化珪素領域と、を備える。
【0015】
これらの半導体装置において、第1炭化珪素層の不純物濃度は、1×1017cm-3以上、2×1019cm-3以下の範囲にあることが好ましい。
【0016】
これらの半導体装置において、第1炭化珪素層における電極層側の領域に、第1導電型の不純物と第2導電型の不純物とを含むことが好ましい。
【0017】
これらの半導体装置において、第1炭化珪素層における電極層側の界面はアモルファスであることが好ましい。
【0018】
これらの半導体装置において、第1炭化珪素層と第2炭化珪素層とをあわせた厚さは、50μm以上であり、第2炭化珪素層の不純物濃度は、3×1015cm-3以下であることが好ましい。
【0019】
これらの半導体装置において、第2炭化珪素層の基底面転位密度は、第1炭化珪素層よりも低いことが好ましい。
【0020】
これらの半導体装置は、MOSFETあるいはIGBTであることが好ましい。
【0021】
また、本明細書に開示する半導体装置の製造方法によれば、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて、炭化珪素基板上に第1導電型の第1炭化珪素層を形成する第1工程と、第1炭化珪素層よりも低い不純物濃度を有する第1導電型の第2炭化珪素層を、第1炭化珪素層上に形成する第2工程と、第2導電型の炭化珪素領域を、第1炭化珪素層上に形成するか又は第1炭化珪素層内に形成する第3工程と、炭化珪素基板を除去して、第1炭化珪素層を露出させる第4工程と、第1炭化珪素層の露出した面上に、電極層を形成する第5工程と、を含む。
【0022】
この半導体装置の製造方法において、第1工程では、第1炭化珪素層を形成するのに用いる原料ガスにおけるシリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R1であり、第2工程では、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R2の原料ガスを用いて、第2炭化珪素層を形成しており、比R2に対する比R1の比R1/R2は、0.46~0.99の範囲内にあることが好ましい。
【0023】
この半導体装置の製造方法において、第1工程では、原料ガスとして、第1導電型の導電性を与える不純物を含むガスと第2導電型の導電性を与える不純物を含むガスとを添加することが好ましい。
【0024】
この半導体装置の製造方法において、第4工程では、ドライエッチング又は化学機械研磨を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
上述した本明細書に開示する半導体装置によれば、炭化珪素層内の基底面転位を低減できる。
【0026】
また、上述した本明細書に開示する半導体装置の製造方法によれば、炭化珪素層内の基底面転位が低減した半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(A)~(C)は、従来例の半導体装置を説明する図である。
【
図2】従来例の他の半導体装置を説明する図である。
【
図3】本明細書に開示する半導体装置の第1実施形態を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態の半導体装置の変型例1を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態の半導体装置の変型例2を示す断面図である。
【
図6】第1実施形態の半導体装置の変型例3を示す断面図である。
【
図7】第1実施形態の半導体装置の変型例4を示す断面図である。
【
図8】本明細書に開示する半導体装置の第2実施形態を示す断面図である。
【
図9】本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一実施形態の工程を説明する図(その1)である。
【
図10】本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一実施形態の工程を説明する図(その2)である。
【
図11】本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一実施形態の工程を説明する図(その3)である。
【
図12】本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一実施形態の工程を説明する図(その4)である。
【
図13】本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一実施形態の工程を説明する図(その5)である。
【
図14】本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一実施形態の工程を説明する図(その6)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本明細書で開示する半導体装置の好ましい一実施形態を、図を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0029】
本明細書及び添付の図面においては、nを付した層又は領域では、電子が多数キャリアであることを意味し、pを付した層又は領域では、正孔が多数キャリアであることを意味する。また、n又はpに付す+は、それが付されていない層又は領域よりも不純物濃度が高いことを意味し、n又はpに付す-は、それが付されていない層や領域よりも不純物濃度が低いことを意味する。以下の実施形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明する。
【0030】
また、ミラー指数の表記において、「-」はその直後の指数に付すバーを意味しており、ミラー指数の前に「-」を付けることで負の指数を表す。
【0031】
図3は、本明細書に開示する半導体装置の第1実施形態を示す断面図である。本実施形態の半導体装置10は、第1導電型の炭化珪素層及び第2導電型の炭化珪素層を有する半導体装置である。具体的には、半導体装置10は、トレンチ型のゲート電極を有する縦型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。
【0032】
半導体装置10は、第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層であるn+型転位変換層11と、炭化珪素エピタキシャル層12と、第2導電型のp型炭化珪素エピタキシャル層13と、第1導電型のソース領域14と、第2導電型のコンタクト領域15を備える。また、半導体装置10は、ゲート絶縁膜16と、ゲート電極17と、層間絶縁膜18と、ソース電極19と、ドレイン電極20を備える。
【0033】
まず、n
+型転位変換層11について、以下に説明する。n
+型転位変換層11は、第1導電型の極性を与える不純物、例えば、窒素が添加された炭化珪素エピタキシャル層である。n
+型転位変換層11は、半導体装置10の製造工程において、単結晶の炭化珪素基板上に形成されたものである(
図9参照)。n
+型転位変換層11は、半導体装置10の製造工程において、炭化珪素基板からn
+型転位変換層11内へ侵入した基底面転位を刃状転位に変換して、炭化珪素エピタキシャル層12上に配置される他の層又は領域内に基底面転位が伝搬することを抑制する。半導体装置10の製造工程では、n
+型転位変換層11上に炭化珪素エピタキシャル層12等の他の構成要素が形成された後、n
+型転位変換層11の下面から炭化珪素基板が取り除かれて、ドレイン電極20が形成される。
【0034】
半導体装置10は、炭化珪素基板が取り除かれているので、動作中に少数キャリアがn+型転位変換層11を通過してドレイン電極20へ到達しても、炭化珪素基板内に存在する基底面転位を起因とした積層欠陥が生じることはない。
【0035】
n+型転位変換層11は、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数のC/Si比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて形成される。原料ガスにおけるC/Si比が大きい程、形成されるn+型転位変換層11は、炭化珪素基板の基底面転位を刃状転位に変換する作用を有すると考えられる。n+型転位変換層11は、原料ガスにおけるC/Si比が0.7以上であることにより、炭化珪素基板上において成長する時に炭化珪素基板の基底面転位を刃状転位に変換して、基底面転位がn+型転位変換層11を貫通して伝搬することを十分に抑制できる。一方、原料ガスにおけるC/Si比が1.1よりも大きいと、n+型転位変換層11においてC/Si比に起因した欠陥が生じるおそれがある。原料ガスにおけるC/Si比は、例えば、n+型転位変換層11の製造時におけるシリコンを含むガスと炭素を含むガスとの流量比により決定することができる。
【0036】
原料ガスにおけるC/Si比は、特に、0.8以上、1.0以下であることが、炭化珪素基板とn+型転位変換層11との界面において、炭化珪素基板の基底面転位を刃状転位に変換して、基底面転位をn+型転位変換層11内に侵入させない観点から好ましい。
【0037】
なお、通常、半導体装置の炭化珪素層を形成するのに使用される原料ガスのC/Si比は、1.1以上、1.5以下の範囲にあるので、上述したn+型転位変換層11を形成するのに使用される原料ガスのC/Si比は、炭化珪素層を形成するのに通常使用される範囲とは異なっている。
【0038】
本実施形態の半導体装置のn+型転位変換層11は、上述したように、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数のC/Si比が0.7以上、1.1以下の範囲内にある原料ガスを用いて形成される。このように、本実施形態の半導体装置は、製造工程を構成要素の一部として有する。以下、本実施形態の半導体装置が、製造工程を特徴の一部として有することの理由を説明する。本実施形態の半導体装置と従来技術との差は、炭化珪素層であるn+型転位変換層が、炭化珪素基板上で成長して形成される時に炭化珪素基板の基底面転位を刃状転位に変換する作用を有し且つ不要な欠陥を多くは含まないことであるが、n+型転位変換層の不均一性に照らすと、そのような作用を有さない炭化珪素層と、n+型転位変換層11との違いに係る構造又は特性を文言により一概に特定することは非常に困難である。一方、n+型転位変換層の構成は、電子顕微鏡による観察及び元素分析等を用いて原理的には可能であるかもしれないが、本実施形態の半導体装置と従来技術の半導体装置とをそれぞれ統計上有意となる数だけ製造し、電子顕微鏡による観察及び元素分析の結果を求め、その統計的処理をした上で、本実施形態と従来技術を区別する有意義な指標とその値を見出さなければならず、膨大な時間とコストがかかることになる。しかも、従来技術については膨大な可能性があるため、統計上有意となる数を一義的に決めることも困難である。従って、上記のような指標とその値を見いだし、本実施形態の半導体装置の特徴を物の構造又は特性のみにより直接特定することは、およそ現実的ではない。以上の考えに基づいて、炭化珪素基板上で成長して形成される時に炭化珪素基板の基底面転位を刃状転位に変換する作用を有し且つ不要な欠陥を多くは含まないことという特徴を規定するために、本実施形態の半導体装置の構成の一部には、製造工程が含まれている。
【0039】
n+型転位変換層11は、炭化珪素基板の基底面転位を、主に炭化珪素基板とn+型転位変換層11との界面において刃状転位に変換するので、n+型転位変換層11の基底面転位密度が、1個/cm2以下となり、好ましくは0.1個/cm2以下となる。n+型転位変換層11に含まれる基底面転位は少ない程好ましいが、n+型転位変換層11には、通常、少なくとも100個/cm2程度の基底面転位密度が存在する。n+型転位変換層11の基底面転位密度は、例えば、X線トポグラフィ法を用いて測定することができる。
【0040】
n+型転位変換層11の厚さ方向において、n+型転位変換層11に含まれる基底面転位は、ドレイン電極20側から炭化珪素エピタキシャル層12側に向かう方向において、n+型転位変換層11を貫通するように存在する場合と、途中の深さで刃状転位に変換される場合と、途中の深さまで侵入して停止する場合があり得る。本明細書において、n+型転位変換層11の基底面転位密度は、n+型転位変換層11の厚さ方向において、基底面転位の数が最大となる深さにおける密度を意味する。
【0041】
なお、炭化珪素基板の基底面転位が、炭化珪素基板とn+型転位変換層11との界面において刃状転位に変換される場合には、この炭化珪素基板の基底面転位は、n+型転位変換層11内には侵入していないので、n+型転位変換層11の基底面転位密度には含まれない。
【0042】
また、n+型転位変換層11に添加される第1導電型の不純物濃度は、1×1017cm-3以上、2×1019cm-3以下の範囲にあることが好ましい。不純物濃度が1×1017cm-3以上であることにより、炭化珪素基板の基底面転位を十分に刃状転位に変換できる。一方、不純物濃度が2×1019cm-3以上であると、ダブルショックレー型の積層欠陥等の欠陥がn+型転位変換層11内に生じるおそれがある。
【0043】
n+型転位変換層11とドレイン電極20とは、オーミック接合していることが、電気抵抗を低減する観点から好ましい。この観点から、例えば、n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面は、アモルファスの状態にあることが好ましい。n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面において、10%以上、特に50%以上の領域がアモルファスであることが、オーミック接合を得る観点から好ましい。
【0044】
また、n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面近傍の領域では、第1導電型の不純物濃度が、1×1018cm-3以上であることが、オーミック接合を得る観点から好ましい。n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面近傍の領域は、例えば、ドレイン電極20側の界面から0.3μmまでの深さ、特に0.05μmまでの深さの範囲とすることができる。
【0045】
更に、n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面近傍の領域に金属とシリコンとのシリサイド領域を形成して、ドレイン電極20とオーミック接合するようにしてもよい。金属としては、例えば、ニッケルを用いることができる。
【0046】
また、n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面近傍の領域に、第2導電型の不純物、例えばホウ素を添加してもよい。ホウ素は、n+型転位変換層11において深いアクセプタ準位を形成して正孔をトラップするので、n+型転位変換層11における正孔密度を低減する。また、ホウ素にトラップされた正孔が熱励起された場合でも、n+型転位変換層11は第1導電型の不純物濃度が高いので、電子と再結合するため、少数キャリアである正孔の寿命を低減することができる。ここで、界面近傍の領域とは、界面から1μmの領域である。n+型転位変換層11におけるドレイン電極20側の界面近傍の領域において、例えば、ホウ素の濃度を、1×1014cm-3以上、1×1017cm-3以下の範囲にすることができる。以上が、n+型転位変換層11に関する説明である。
【0047】
炭化珪素エピタキシャル層12は、n+型転位変換層11上に配置される。炭化珪素エピタキシャル層12は、第1導電型のn型領域12aと、第1導電型のn+型領域12b
と、第2導電型の第1p+ベース領域12cと、第2導電型の第2p+ベース領域12dを有する。
【0048】
n型領域12aは、n+型転位変換層11上に配置される。n型領域12aは、n+型転位変換層11よりも低い不純物濃度で、第1導電型の極性を与える不純物、例えば窒素が炭化珪素エピタキシャル層に添加されているn型ドリフト層である。
【0049】
n型領域12aとn+型転位変換層11をあわせた厚さは、50μm以上であることが、半導体装置10の機械的強度を確保する上で好ましい。例えば、n+型転位変換層11の厚さを20μmとした場合、n型領域12aの厚さは、少なくとも30μmであることが好ましい。ここで、半導体装置10の耐電圧を3300ボルトとする観点から、n型領域12aの不純物濃度は、3×1015cm-3以下とすることが好ましい。また、n型領域12aの不純物濃度を3×1015cm-3以下として、n型領域12aの厚さを60μmとすれば、半導体装置10の耐電圧を6500ボルトまで増大することができる。n型領域12aの不純物濃度の下限値及びn型領域12aとn+型転位変換層11をあわせた厚さの上限値は、半導体装置10のオン抵抗等の電気的特性及び耐電圧の観点から適宜決定される。n型領域12aの不純物濃度の下限値は、通常、1×1013cm-3程度である。
【0050】
n型領域12aは、シリコン及び炭素を含む原料ガスであって、シリコンの原子数に対する炭素の原子数のC/Si比が1.1以上、1.5以下の範囲内にある原料ガスを用いて形成されることが好ましい。原料ガスにおけるC/Si比が1.1以上であることにより、n型の導電性を与える不純物である窒素の取り込み量を安定させることができる。また、n型領域12aの基底面転位密度は、n+型転位変換層11よりも低いことが好ましい。一方、原料ガスにおけるC/Si比が1.5以上であると、形成されるn型領域12aにC/Si比に起因する欠陥が生じるおそれがある。原料ガスにおけるC/Si比は、例えば、n型領域12aの製造時におけるシリコンを含むガスと炭素を含むガスとの流量比により決定することができる。
【0051】
n型領域12aを形成するのに用いる原料ガスにおけるシリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R1(C/Si比)に対する、n+型転位変換層11を形成するのに用いる原料ガスにおけるシリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R2(C/Si比)の比R2/R1は、0.46~0.99の範囲にあることが好ましい。
【0052】
n+型領域12bは、n型領域12a上に配置される。n+型領域12bは、n型領域12aよりも高い不純物濃度で、第1導電型の極性を与える不純物、例えば窒素が炭化珪素エピタキシャル層に添加されて形成される。
【0053】
第1p+ベース領域12c及び第2p+ベース領域12dは、n+型領域12b内に選択的に配置される。第1p+ベース領域12c及び第2p+ベース領域12dは、第2導電型の極性を与える不純物、例えばアルミニウムが炭化珪素エピタキシャル層に添加されて形成される。
【0054】
p型炭化珪素エピタキシャル層13は、炭化珪素エピタキシャル層12上に配置される。p型炭化珪素エピタキシャル層13は、第1p+ベース領域12c及び第2p+ベース領域12dよりも低い不純物濃度で、第2導電型の極性を与える不純物、例えばアルミニウムが炭化珪素エピタキシャル層に添加されて形成される。p型炭化珪素エピタキシャル層13とn型領域12a及びn+型領域12bは、内部PNダイオードを形成する。また、第1p+ベース領域12c及び第2p+ベース領域12dと、n型領域12a及びn+型領域12bは、内部PNダイオードを形成する。内部PNダイオードを有するMOSFETは、ユニポーラデバイスではあるが、少数キャリアが発生するようなバイポーラ動作を行う場合がある。
【0055】
p型炭化珪素エピタキシャル層13を貫通して、炭化珪素エピタキシャル層12まで達するようにトレンチ10aが配置される。トレンチ10aの内部には、ゲート絶縁膜16及びゲート電極17が配置される。ゲート絶縁膜16は、トレンチ10aの内面に沿って、トレンチ10aの底部及び側部に配置される。ゲート電極17は、ゲート絶縁膜16の内側に配置される。なお、ゲート電極17の一部は、トレンチ10aから上方に突出していてもよい。
図3に示す例では、半導体装置10は、2つのトレンチ10a(ゲート絶縁膜16及びゲート電極17)を有しているが、半導体装置10は、更に多くのトレンチを有していてもよい。
【0056】
ゲート絶縁膜16の近傍のp型炭化珪素エピタキシャル層13の部分は、チャネル領域を形成する。半導体装置10の動作時には、ソース電極19とドレイン電極20との間の電流が、チャネル領域を通過する。
【0057】
第2p+ベース領域12dは、トレンチ10aの下方に配置される。第1p+ベース領域12cは、隣接する2つのトレンチ10aの間に配置される。第1p+ベース領域12cの一部をトレンチ10a側に延出させて第2p+ベース領域12dと接続してもよい。
【0058】
ソース領域14及びコンタクト領域15は、p型炭化珪素エピタキシャル層13の上部に選択的に配置される。
【0059】
ソース領域14は、平面視で、トレンチ10aを囲むように配置される。ソース領域14は、n型領域12aよりも高い不純物濃度で、第1導電型の極性を与える不純物、例えば窒素が炭化珪素エピタキシャル層に添加されて形成される。
【0060】
コンタクト領域15は、隣接する2つのソース領域14の間に配置される。コンタクト領域15は、第1p+ベース領域12c及び第2p+ベース領域12dよりも高い不純物濃度で、第2導電型の極性を与える不純物、例えばアルミニウムが炭化珪素エピタキシャル層に添加されて形成される。
【0061】
層間絶縁膜18は、ゲート電極17を覆うようにゲート電極17上に配置される。層間絶縁膜18は、隣接する2つのゲート電極17の間にソース電極19が露出する開口部を有する。
【0062】
ソース電極19は、ソース領域14及びコンタクト領域15と電気的に接続する。ソース電極19は、層間絶縁膜18及びゲート絶縁膜16によって、ゲート電極17と電気的に絶縁される。
【0063】
n
+型転位変換層11の下面上(
図3において、n
+型転位変換層11の下側)には、ドレイン電極20が配置される。ドレイン電極20は、例えば、n
+型転位変換層11側からチタン、ニッケル及び金の各層が順番に積層されて形成される。
【0064】
半導体装置10は、ゲート電極17に対して、しきい値以上の電圧を印加することにより、ソース電極19とドレイン電極20との間のチャネル領域を導通状態にすることが可能なスイッチング素子である。導通状態においてソース電極19とドレイン電極20との間を流れる多数キャリアは電子であるので、半導体装置10は、第1導電型(n型)のMOSFETである。
【0065】
上述した本実施形態の半導体装置によれば、炭化珪素層内の基底面転位を低減できる。
【0066】
次に、上述した本実施形態の半導体装置の変型例1~変型例4を、
図4~
図7を参照しながら、以下に説明する。
【0067】
図4は、第1実施形態の半導体装置の変型例1を示す断面図である。本変型例の半導体装置10は、n
+型転位変換層11とn型領域12aとの間に、n
++型再結合促進層21が配置される。
【0068】
n+型転位変換層11は、少ないながらも基底面転位を有している場合もあるので、少数キャリアがn+型転位変換層11内の基底面転位の近傍で再結合することにより、半導体装置10内に積層欠陥が生じるおそれがある。
【0069】
n++型再結合促進層21は、ソース電極19側からドレイン電極20側へ移動する少数キャリアである正孔と再結合する欠陥準位を有しており、正孔がn+型転位変換層11へ移動することを抑制する。
【0070】
n++型再結合促進層21は、n+型転位変換層11よりも高い不純物濃度で、第1導電型の極性を与える不純物、例えば窒素が炭化珪素エピタキシャル層に添加されて形成される。
【0071】
n++型再結合促進層21の不純物濃度は、1×1017cm-3以上、2×1019cm-3以下の範囲にすることができる。
【0072】
図5は、第1実施形態の半導体装置の変型例2を示す断面図である。本変型例の半導体装置10は、トレンチ型のゲート電極を有する縦型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0073】
n+型転位変換層11は、n型領域12a側に配置される第1導電型のn+型層11aと、コレクタ電極20a側に配置される第2導電型のp型層11bを有する。
【0074】
n+型転位変換層11は、厚さ方向において、2つの極性を有する層を有している点が、上述した第1実施形態とは異なるが、原料ガスにおけるC/Si比、基底面転位密度の説明は、n+型層11a及びp型層11bのそれぞれに対しても適宜適用される。
【0075】
また、半導体装置10は、エミッタ電極19aを有する。半導体装置10の他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【0076】
図6は、第1実施形態の半導体装置の変型例3を示す断面図である。本変型例の半導体装置10は、トレンチ型のゲート電極を有する縦型のRC-IGBT(Reverse Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0077】
n+型転位変換層11におけるコレクタ電極20a側の部分には、第2導電型の複数のp型領域22が選択的に配置される。p型領域22は、n型領域12a等のn型領域と共に、エミッタ電極19aとコレクタ電極20aとの間にフリーホイールダイオードを形成する。半導体装置10の他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【0078】
図7は、第1実施形態の半導体装置の変型例4を示す断面図である。本変型例の半導体装置10は、トレンチ型のゲート電極を有する縦型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0079】
p+型転位変換層11cは、第2導電型の極性を与える不純物、例えば、アルミニウムが添加されたp型炭化珪素エピタキシャル層であり、n型領域12aとは極性が異なっている。半導体装置10の他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【0080】
次に、上述した半導体装置の第2実施形態を、
図8を参照しながら以下に説明する。他の実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、同一の構成要素には同一の符号を付してある。
【0081】
図8は、本明細書に開示する半導体装置の第2実施形態を示す断面図である。本実施形態の半導体装置30は、炭化珪素層を有する半導体装置である。具体的には、半導体装置30は、縦型のショットキー障壁型のダイオードである。
【0082】
半導体装置30は、第1導電型のn+型転位変換層31と、第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層32と、第2導電型のp型領域33と、第2導電型のp-型領域34と、第2導電型のp+型領域35と、アノード電極36と、層間絶縁膜37と、カソード電極38を備える。
【0083】
n+型転位変換層31は、第1導電型の極性を与える不純物、例えば、窒素がドーピングされた単結晶の炭化珪素エピタキシャル層である。n+型転位変換層31に対しては、上述した第1実施形態の転位変換層に対する説明が適宜適用される。
【0084】
炭化珪素エピタキシャル層32は、n+型炭化珪素層31上に配置される。炭化珪素エピタキシャル層32は、転位変換層31よりも低い不純物濃度で、第1導電型の極性を与える不純物、例えば窒素が炭化珪素エピタキシャル層にドーピングされているn型ドリフト層である。
【0085】
p型領域33及びp-型領域34は、炭化珪素エピタキシャル層32の上部に選択的に配置される。
【0086】
p型領域33及びp-型領域34は、平面視でリング状の形状を有する。p-型領域34は、p型領域33の外側にp型領域33と隣接して配置される。
【0087】
p型領域33は、第2導電型の極性を与える不純物、例えばアルミニウムが炭化珪素エピタキシャル層にドーピングされて形成される。
【0088】
p-型領域34は、p型領域33よりも低い不純物濃度で、第2導電型の極性を与える不純物、例えばアルミニウムが炭化珪素エピタキシャル層にドーピングされて形成される。
【0089】
p+型領域35は、p型領域33の内側にp型領域33とは離間して配置される。p+型領域35は、p型領域33よりも高い不純物濃度で、第2導電型の極性を与える不純物、例えばアルミニウムが炭化珪素エピタキシャル層にドーピングされて形成される。p+型領域35と炭化珪素エピタキシャル層32は、内部PNダイオードを形成する。内部PNダイオードを有するショットキバリアダイオードは、ユニポーラデバイスではあるが、少数キャリアが発生するようなバイポーラ動作を行う場合がある。
【0090】
アノード電極36は、p+型領域35及びp型領域33の一部を覆うように、炭化珪素エピタキシャル層32上に配置される。
【0091】
アノード電極36と炭化珪素エピタキシャル層32との接合部分には、ショットキー障壁を有する活性領域30aが形成される。
【0092】
活性領域30aには、複数のp+型領域35が所定の間隔で配置されており、JBS(Junction Barrier Schottky)構造を形成する。複数のp+型領域35とアノード電極36との間の接合は、オーミック接合でもよいし、またショットキー接合となっていてもよい。
【0093】
活性領域30aの周囲には、終端領域30bが形成される。終端領域30bには、平面視で、アノード電極36を囲むようにリング状のp-型領域34が配置される。また、活性領域30aの端部から終端領域30bまでまたがるように、p型領域33が配置される。
【0094】
p型領域33及びp-型領域34は、終端領域30bにおいて、電界を緩和させて半導体装置30の耐圧劣化を防ぐ耐圧構造を形成する。具体的には、p型領域33は、炭化珪素エピタキシャル層32とアノード電極36との接合端部に電界が集中することを回避する機能を有する。また、p-型領域34は、活性領域30aの周辺部において更に電界を分散させる機能を有する。
【0095】
層間絶縁膜37は、終端領域30bにおいて、p型領域33及びp-型領域34の上を覆うように、炭化珪素エピタキシャル層32上に配置される。
【0096】
アノード電極36は、活性領域30aにおいて露出する炭化珪素エピタキシャル層32の表面を覆い、活性領域30aの周辺部においてp型領域33と接する。アノード電極36は、活性領域30aから終端領域30bの途中まで延在しており、アノード電極36の終端領域30bの端部は、p型領域33上まで延びている。また、アノード電極36は、層間絶縁膜37を介してp型領域33を覆う。
【0097】
アノード電極36は、例えば、IVa族金属、Va族金属、VIa族金属、アルミニウム又はシリコンを用いて形成されることが好ましい。また、アノード電極36は、IVa族金属、Va族金属、VIa族金属、アルミニウム及びシリコンの中の2元素又は3元素を含む材料を用いて形成されることが好ましい。
【0098】
アノード電極36と炭化珪素エピタキシャル層32とのショットキー障壁高さは、半導体装置30が高耐圧型の半導体装置として使用する場合には、例えば1eV以上であることが好ましい。また、アノード電極36のショットキー障壁高さは、半導体装置30が電源装置として使用する場合には、例えば0.5eV以上1eV未満であることが好ましい。
【0099】
n+型転位変換層31の下には、カソード電極38が配置される。半導体装置30は、アノード電極36に正、カソード電極38に負の順方向の電圧が印加されると、電子がカソード電極38側からアノード電極36側に流れる順方向導通状態となる。逆に、半導体装置30は、アノード電極36に負、カソード電極38に正の逆方向の電圧が印加されると、逆方向阻止状態となる。順方向導通状態においてアノード電極36とカソード電極38との間を流れる多数キャリアは電子であるので、半導体装置10は、第1導電型(n型)のダイオードである。
【0100】
上述した本実施形態の半導体装置によれば、第1実施形態と同様の効果が奏される。
【0101】
次に、本明細書に開示する半導体装置の製造方法の好ましい一実施形態を、
図9~
図14を参照しながら、以下に説明する。本実施形態の半導体装置の製造方法は、上述した半導体装置の第1実施形態を製造するものである。
【0102】
まず、
図9に示すように、n
+型炭化珪素基板40が準備される。n
+型炭化珪素基板40は、第1導電型の極性を与える不純物、例えば、窒素が添加された単結晶の4H型の炭化珪素基板である。n
+型炭化珪素基板40は、第1面40a及び第2面40bを有する。n
+型炭化珪素基板40の第1面40a及び第2面40bは、(0001)面(Si面)である。なお、第1面40a及び第2面40bは、(000-1)面(C面)であってもよい。
【0103】
第1面40aは、0.05度~8度程度の範囲のオフ角を有することが、第1面40a上に(0001)面(Si面)を有するエピタキシャル層を成長させる観点から好ましい。一方、第1面40aがオフ角を有することにより、第1面40aが基底面転位を有する場合、第1面40a上に成長するエピタキシャル層にも基底面転位が伝搬するおそれがある。
【0104】
そこで、
図9に示すように、n
+型転位変換層11が、n
+型炭化珪素基板40の第1面40a上にエピタキシャル成長により形成されて、基板構造体50が得られる。n
+型転位変換層11は、例えば、CVD法を用いて形成される。n
+型転位変換層11の厚さは、例えば、0.5μm~20μmとすることができる。
【0105】
n+型転位変換層11を形成する原料ガスとして、例えば、シリコンを含むガス及び炭素を含むガスを用いることができる。シリコンを含むガスとして、例えば、シラン(SiH4)を用いることができる。炭素を含むガスとして、例えば、プロパン(C3H8)を用いることができる。また、不純物ガスとして、窒素を含むガス又はアルミニウムを含むガスを用いることができる。窒素を含むガスとして、例えば、窒素(N2)を用いることができる。アルミニウムを含むガスとして、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)を用いることができる。シリコンを含むガス及び炭素を含むガスの流量比を調整することにより、原料ガスにおけるC/Si比を、0.7以上、1.1以下、特に0.8以上、1.0以下の範囲内にすることが好ましい。また、不純物ガスの流量を調整することにより、n+型転位変換層11の不純物濃度を、1×1017cm-3以上、2×1019cm-3以下の範囲にすることが好ましい。
【0106】
ここで、n+型転位変換層11の成長の初期段階において、n+型転位変換層11の不純物濃度が1×1018cm-3以上となるように不純物ガスの流量を調整してもよい。ここで、成長の初期段階とは、1μm成長するまでの段階である。また、n+型転位変換層11の成長の初期段階において、n+型転位変換層11のホウ素の濃度が、1×1014cm-3以上、1×1017cm-3以下の範囲になるように、例えば、三フッ化ホウ素(BF3)ガスを添加してもよい。
【0107】
次に、
図10に示すように、基板構造体50のn
+型転位変換層11上に炭化珪素エピタキシャル層12が形成される。炭化珪素エピタキシャル層12は、例えば、CVD法を用いて形成される。炭化珪素エピタキシャル層12は、上述した半導体装置10の第1実施形態のn型領域12aと同じ組成となるように形成される。
【0108】
炭化珪素エピタキシャル層12を形成する原料ガスとして、例えば、シリコンを含むガス及び炭素を含むガスを用いることができる。シリコンを含むガスとして、例えば、シラン(SiH4)を用いることができる。炭素を含むガスとして、例えば、プロパン(C3H8)を用いることができる。また、不純物ガスとして、窒素を含むガス又はアルミニウムを含むガスを用いることができる。窒素を含むガスとして、例えば、窒素(N2)を用いることができる。アルミニウムを含むガスとして、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)を用いることができる。シリコンを含むガス及び炭素を含むガスの流量比を調整することにより、原料ガスにおけるC/Si比を、1.1以上、1.5以下の範囲内にすることが好ましい。また、不純物ガスの流量を調整することにより、炭化珪素エピタキシャル層12の不純物濃度を、3×1015cm-3以下の範囲にすることが好ましい。
【0109】
次に、
図11に示すように、基板構造体50の炭化珪素エピタキシャル層12内にn型領域12aと、n
+型領域12bと、第1p
+ベース領域12cと、第2p
+ベース領域12dが形成される。また、炭化珪素エピタキシャル層12上に、p型炭化珪素エピタキシャル層13と、ソース領域14と、コンタクト領域15と、ゲート絶縁膜16と、ゲート電極17と、層間絶縁膜18と、ソース電極19が形成される。
【0110】
ここで、n型領域12aは、炭化珪素エピタキシャル層12と同じ組成を有する。n型領域12aを形成するのに用いる原料ガスにおけるシリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R2(C/Si比)に対する、n+型転位変換層11を形成するのに用いる原料ガスにおけるシリコンの原子数に対する炭素の原子数の比R1(C/Si比)の比R1/R2は、0.46~0.99の範囲にあることが好ましい。
【0111】
次に、
図12に示すように、基板構造体50のn
+型炭化珪素基板40が除去されてn
+型転位変換層11が露出する。n
+型炭化珪素基板40は、例えば、基板構造体50の裏面側が、ダイヤモンドラッピング等の研削技術を用いて除去される。n
+型炭化珪素基板40が研削により除去されて露出したn
+型転位変換層11の表面は、アモルファスの状態となっている。
【0112】
また、n+型炭化珪素基板40は、途中の深さまで研削された後、残りの部分が、プラズマエッチング等のドライエッチング技術を用いて除去されてもよい。この場合、ドライエッチングの終点検出を、プラズマの発光色の変化により行ってもよい。
【0113】
次に、
図13に示すように、基板構造体50におけるn
+型転位変換層11の表面の結晶構造が損傷した領域を、化学機械研磨等の研磨技術を用いて研磨して取り除いてもよい。また、基板構造体50におけるn
+型転位変換層11の表面の結晶構造が損傷した領域を、ウエットエッチング又はドライエッチング技術を用いて取り除いてもよい。
【0114】
また、基板構造体50を加熱して、n
+型転位変換層11の表面を再配列させることにより、n
+型転位変換層11の表面の欠陥数を低減してもよい。加熱後のn
+型転位変換層11の表面には、ステップバンチングが形成されるので、表面の算術平均粗さは、例えば、10nm以上となり得る。表面の算術平均粗さの上限は、通常、100nm程度である。基板構造体50を加熱する温度として、1500℃~1800℃の範囲とすることができる。なお、
図13に示す工程は、省略してもよい。
【0115】
次に、
図14に示すように、基板構造体50のn
+型転位変換層11の露出している表面上にドレイン電極20が形成されて、半導体装置10が得られる。なお、ドレイン電極20は、アモルファスの状態を有するn
+型転位変換層11の表面上に直接形成してもよい。
【0116】
本発明では、上述した実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。また、一の実施形態が有する構成要件は、他の実施形態にも適宜適用することができる。
【0117】
例えば、上述した第1実施形態の半導体装置は、トレンチ型のゲート電極を有する縦型のMOSFETであったが、半導体装置は、プレーナ型のゲート電極を有する縦型のMOSFETであってもよい。
【0118】
また、上述した第2実施形態の半導体装置は、ショットキー障壁型のダイオードであったが、半導体装置は、PN型又はPIN型のダイオードであってもよい。
【0119】
また、上述した実施形態の半導体装置は、多数キャリアが電子であったが、多数キャリが正孔の半導体装置であってもよい。この場合、転位変換層は、p型の炭化珪素エピタキシャル層となる。
【符号の説明】
【0120】
10 半導体装置
11 n+型転位変換層(第1炭化珪素層)
11a n+型層
11b p型層
12 炭化珪素エピタキシャル層
12a n型領域(第2炭化珪素層)
12b n+型領域
12c 第1p+ベース領域
12d 第2p+ベース領域
13 p型炭化珪素エピタキシャル層(第3炭化珪素領域)
14 ソース領域
15 コンタクト領域
16 ゲート絶縁膜
17 ゲート電極
18 層間絶縁膜
19 ソース電極
19a エミッタ電極
20 ドレイン電極
20a コレクタ電極
21 n++型再結合促進層
22 p型領域
30 半導体装置
31 n+型転位変換層(第1炭化珪素層)
32 炭化珪素エピタキシャル層(第2炭化珪素層)
33 p型領域
34 p-型領域
35 p+型領域(第3炭化珪素領域)
36 アノード電極
37 層間絶縁膜
38 カソード電極
40 n+型炭化珪素基板
40a 第1面
40b 第2面
50 基板構造体