(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 70/40 20180101AFI20231017BHJP
【FI】
G16H70/40
(21)【出願番号】P 2019116851
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 守男
【審査官】木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147276(WO,A1)
【文献】特開2017-211772(JP,A)
【文献】特開2011-159078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
文書に記述されている医薬品を特定する薬品情報、症状に関する症状情報及び様態の変化を表す変化情報を当該文書に含まれる文毎に抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により文毎に抽出された情報から前記医薬品が投与された場合の副作用の判定に利用する構造化情報を生成する生成手段と、
を有
し、
前記抽出手段は、前記文書を解析することで前記医薬品の使用の有無、前記症状の発生の有無及び前記変化の発生の有無を合わせて抽出することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記構造化情報を参照して前記医薬品が投与された場合の副作用を判定する判定手段を有することを特徴とする請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記抽出手段は、予め生成されている学習モデルを用いて
、前記医薬品が投与された場合の副作用を判定す
ることを特徴とする
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記判定手段は、文毎に副作用を判定することを特徴とする請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記判定手段は、複数の文又は文書全体から副作用を判定することを特徴とする請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記判定手段は、副作用の重篤性を判定することを特徴とする請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記判定手段は、副作用の新規性を判定することを特徴とする請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記判定手段は、医薬品と症状の事実性に基づいて副作用を判定することを特徴とする請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記判定手段による判定結果を表示するよう制御する表示制御手段を有することを特徴とする請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記表示制御手段は、各文の構造化情報に、前記判定手段により当該文から得られた副作用の判定結果を対応付けて表示するよう制御することを特徴とする請求項
9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記表示制御手段は、前記判定手段により副作用有りと判定された文について、前記薬品情報、前記症状情報、及び前記変化情報を表示するよう制御することを特徴とする請求項
9に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記表示制御手段は、前記判定手段により各文の構造化情報から得られた文書全体における副作用の判定結果を表示するよう制御することを特徴とする請求項
9に記載の情報処理装置。
【請求項13】
コンピュータを、
文書に記述されている医薬品を特定する薬品情報、症状に関する症状情報及び様態の変化を表す変化情報を当該文書に含まれる文毎に抽出する抽出手段、
前記抽出手段により文毎に抽出された情報から前記医薬品が投与された場合の副作用の判定に利用する構造化情報を生成する生成手段、
として機能させ
、
前記抽出手段は、文書を解析することで前記医薬品の使用の有無、前記症状の発生の有無及び前記変化の発生の有無を合わせて抽出するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品は、販売前に治験を行って承認を得てから診療等に使用することが可能となる。治験では、人体を利用して様々な試験を行い、医薬品の効能や安全性に関する情報を収集するが、医薬品が新薬として承認された後も継続的に副作用等に関する情報を収集し、評価している。例えば、様々な症例を持った患者や医師、薬剤師から副作用の疑いのある症状が発生した場合の事象に関する情報が届けられた場合、その情報から重篤性、医薬品と症状との因果関係等を評価し、副作用が重篤(つまり、症状が重い)なものであれば規制当局に報告するなどの安全性業務が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-203772号公報
【文献】特開2017-211772号公報
【文献】特開2017-199351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安全性業務の対象の業務の1つに、医学論文等の文書から情報を抽出して医薬品が使用されて出た症状が副作用に該当するかどうかを判定するスクリーニング業務がある。スクリーニング業務では、論文から副作用の判定の根拠となるような情報(つまり、記述)を抽出する。従来では、この情報を抽出する作業、すなわち副作用に関連すると考えられる記述を抽出する作業(いわゆるマーキング作業)を人手により実施している。人手により単に抽出された情報は構造化されていないため、情報の取扱いが容易ではない。人手により構造化しようとすると作業負荷がかかり、また副作用の判定の根拠となる情報の抽出漏れが発生する可能性がある。
【0005】
本発明は、文書に記述されている医薬品の副作用に関連する情報を人手で構造化する場合に比して、医薬品の副作用を効率的に判定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る情報処理装置は、文書に記述されている医薬品を特定する薬品情報、症状に関する症状情報及び様態の変化を表す変化情報を当該文書に含まれる文毎に抽出する抽出手段と、前記抽出手段により文毎に抽出された情報から前記医薬品が投与された場合の副作用の判定に利用する構造化情報を生成する生成手段と、を有し、前記抽出手段は、前記文書を解析することで前記医薬品の使用の有無、前記症状の発生の有無及び前記変化の発生の有無を合わせて抽出することを特徴とする。
【0008】
また、前記構造化情報を参照して前記医薬品が投与された場合の副作用を判定する判定手段を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記抽出手段は、予め生成されている学習モデルを用いて、前記医薬品が投与された場合の副作用を判定することを特徴とする。
【0010】
また、前記判定手段は、文毎に副作用を判定することを特徴とする。
【0011】
また、前記判定手段は、複数の文又は文書全体から副作用を判定することを特徴とする。
【0012】
また、前記判定手段は、副作用の重篤性を判定することを特徴とする。
【0013】
また、前記判定手段は、副作用の新規性を判定することを特徴とする。
【0014】
また、前記判定手段は、医薬品と症状の事実性に基づいて副作用を判定することを特徴とする。
【0015】
また、前記判定手段による判定結果を表示するよう制御する表示制御手段を有することを特徴とする。
【0016】
また、前記表示制御手段は、各文の構造化情報に、前記判定手段により当該文から得られた副作用の判定結果を対応付けて表示するよう制御することを特徴とする。
【0017】
また、前記表示制御手段は、前記判定手段により副作用有りと判定された文について、前記薬品情報、前記症状情報、及び前記変化情報を表示するよう制御することを特徴とする。
【0018】
また、前記表示制御手段は、前記判定手段により各文の構造化情報から得られた文書全体における副作用の判定結果を表示するよう制御することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、文書に記述されている医薬品を特定する薬品情報、症状に関する症状情報及び様態の変化を表す変化情報を当該文書に含まれる文毎に抽出する抽出手段、前記抽出手段により文毎に抽出された情報から前記医薬品が投与された場合の副作用の判定に利用する構造化情報を生成する生成手段、として機能させ、前記抽出手段は、文書を解析することで前記医薬品の使用の有無、前記症状の発生の有無及び前記変化の発生の有無を合わせて抽出する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、文書に記述されている医薬品の副作用に関連する情報を人手で構造化する場合に比して、医薬品の副作用を効率的に判定することができる。また、医薬品と、副作用と推測される症状及び副作用により発生した変化との関係を明確にすることができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、医薬品が投与された場合の副作用を判定することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、文書に記述されている医薬品の副作用に関連する情報を人手で構造化する場合に比して、医薬品の副作用を効率的に判定することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、各文の記述内容から副作用を判定することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、複数の文の組合せ又は文書全体から副作用を判定することができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、副作用として重篤性を判定することができる。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、副作用の新規性を判定することができる。
【0029】
請求項8に記載の発明によれば、医薬品と症状の使用に関する事実性に基づいて副作用の有無を判定することができる。
【0030】
請求項9に記載の発明によれば、副作用の判定結果を人に確認させることができる。
【0031】
請求項10に記載の発明によれば、各文から得られた副作用の判定結果を人に確認させることができる。
【0032】
請求項11に記載の発明によれば、副作用有りと判定された根拠を人に確認させることができる。
【0033】
請求項12に記載の発明によれば、文書全体における副作用の判定結果を人に確認させることができる。
【0034】
請求項13に記載の発明によれば、文書に記述されている医薬品の副作用に関連する情報を人手で構造化する場合に比して、医薬品の副作用を効率的に判定することができる。また、医薬品と、副作用と推測される症状及び副作用により発生した変化との関係を明確にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本実施の形態における情報処理装置を示すブロック構成図である。
【
図2】本実施の形態における副作用判定処理を示すフローチャートである。
【
図3】本実施の形態における副作用判定処理の具体的な処理の内容を示す概念図である。
【
図4】本実施の形態における構造化テーブルのデータ構成の一例を示す図である。
【
図5】本実施の形態における情報処理装置が提供するメイン画面の表示例を示す図である。
【
図6】本実施の形態におけるメイン画面から副作用抽出ボタンが選択された場合に表示される文書選択画面の表示例を示す図である。
【
図7】本実施の形態におけるメイン画面から副作用の有りボタンが選択された場合に表示される副作用サブ画面の表示の一例を示す図である。
【
図8】本実施の形態におけるメイン画面から副作用の無しボタンが選択された場合に表示される副作用サブ画面の表示の一例を示す図である。
【
図9】本実施の形態における副作用サブ画面から文献強調表示ボタンが選択された場合に表示される文献表示画面の表示の一例を示す図である。
【
図10】本実施の形態におけるメイン画面から文献情報抽出ボタンが選択された場合に表示される文書選択画面の表示例を示す図である。
【
図11】本実施の形態におけるメイン画面から文献情報表示ボタンが選択された場合に表示される文献情報表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0038】
本実施の形態における情報処理装置1は、パーソナルコンピュータ(PC)等の従前から存在する汎用的なハードウェア構成で実現できる。従って、本実施の形態における情報処理装置1は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクドライブ(HDD)等の記憶手段、ユーザインタフェース、ネットワークインタフェース等の通信手段を有している。ユーザインタフェースは、入力手段としてマウスとキーボードを、また表示手段としてディスプレイを設けて構成してもよい。あるいは、入力手段及び表示手段を兼用するタッチパネル式の液晶パネル等で構成してもよい。
【0039】
図1は、本実施の形態における情報処理装置1を示すブロック構成図である。本実施の形態における情報処理装置1は、ユーザインタフェース(UI)処理制御部11、文書情報取得部12、情報抽出部13、構造化情報生成部14、判定部15、辞書記憶部16、判定モデル記憶部17、構造化情報記憶部18及び文献情報記憶部19を有している。なお、本実施の形態の説明に用いない構成要素については、図から省略している。
【0040】
ユーザインタフェース処理制御部11は、種々の画面を表示手段に表示するよう制御する表示制御手段としての機能と、表示された画面を通じてユーザにより入力手段を用いて入力された情報を受け付ける受付手段として機能する。文書情報取得部12は、ユーザにより副作用の判定対象として指定された、安全性情報が記載されている医薬論文等の文書を内部の記憶手段(図示せず)から、あるいはネットワークを介して取得する。少なくともネットワークを介して取得した文書は、文献情報記憶部19に保存する。
【0041】
情報抽出部13は、文書情報取得部12により取得された文書から副作用に関して記述されていると考えられる記述を情報として抽出する。本実施の形態における情報抽出部13は、文書に記述されている医薬品を特定する薬品情報、症状に関する症状情報及び様態の変化を表す変化情報を当該文書に含まれる文毎に抽出する。なお、情報を抽出した時点では、その情報が副作用に関連する情報に該当するかどうかは定かでなく、判定部15による判定結果に依存する。
【0042】
構造化情報生成部14は、情報抽出部13により文毎に抽出された情報、すなわち薬品情報、症状情報及び変化情報を含む構造化情報であって、当該薬品情報から特定される医薬品が投与された場合の副作用の判定に利用する構造化情報を生成して構造化情報記憶部18に登録する。判定部15は、生成された構造化情報を解析することで文書に記述されている医薬品における副作用を文書に対してだけでなく文毎に判定する。つまり、判定部15は、各文の構造化情報に含まれる薬品情報から特定される医薬品が投与された場合の副作用を文毎に判定する。そして、各文の構造化情報に対応付けして当該文に対する副作用の判定結果を構造化情報記憶部18に追加登録する。本実施の形態における判定部15は、機械学習により作成された学習モデルを利用して副作用の判定を行う。本実施の形態では、学習モデルを利用した副作用の判定を「AI(Artifical Intelligence)判定」とも称している。
【0043】
辞書記憶部16は、情報抽出部13によって使用される辞書が複数記憶されている。例えば、情報抽出部13が医薬品名を抽出する際に参照される医薬品辞書、疾患、症状、病名を抽出する際に参照される万病辞書、副作用を抽出する際に参照されるMedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)等の副作用辞書、また医療慣用表現辞書等の医療に関連する専門辞書が記憶されている。更に、辞書記憶部16には、表記の揺れを解消する際に使用される同義語辞書等が予め用意されている。ここに記載した辞書の種類は、一例であってこれに限定する必要はない。
【0044】
また、前述したように、判定モデル記憶部17には、判定部15がAI判定を行う際に使用する学習モデル(以下、「判定モデル」)が記憶され、構造化情報記憶部18には、構造化情報生成部14により生成された構造化情報が記憶される。また、文献情報記憶部19には、ユーザにより副作用の判定対象として指定された文書データ及び当該文書の文献情報が記憶される。
【0045】
情報処理装置1における各構成要素11~15は、情報処理装置1を形成するコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPUで動作するプログラムとの協調動作により実現される。また、各記憶部16~19は、情報処理装置1に搭載されたHDDにて実現される。あるいは、RAM又は外部にある記憶手段をネットワーク経由で利用してもよい。
【0046】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD-ROMやUSBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPUがプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0047】
本実施の形態においては、医薬品の副作用の判定の際に参照する文書から、副作用に関して記述されていると考えられる情報を自動的に抽出し、抽出した情報を構造化し、更に構造化した情報を解析することによって医薬品の副作用を判定することを特徴としている。医薬品の副作用の判定を行う際には、AIを利用することになるが、そのために前述した判定モデルを予め作成しておく必要がある。これは、次のようにして作成する。
【0048】
まず、医薬品の副作用について記述されていることが判明している文書と、記述されていないことが判明している文書と、を教師データとして予め用意しておく。そして、これらの教師データを入力して判定モデルを作成する。この際、教師データとなる文書には、医療に関する専門用語や表記の揺れ等が含まれて可能性があるので、辞書記憶部16に記憶されている各種辞書を参照するのが好ましい。なお、判定モデルは、予め作成しておく必要があるが、作成した後も学習を繰り返し実行して副作用の判定精度を向上させるようにするのが望ましい。
【0049】
続いて、本実施の形態における動作について説明する。本実施の形態では、文書を解析することによって医薬品の副作用を判定する。
図2は、本実施の形態における副作用判定処理を示すフローチャートであり、
図3は、本実施の形態における副作用判定処理の具体的な処理の内容を示す概念図である。これらの図を用いて、本実施の形態における副作用判定処理について説明する。
【0050】
副作用の判定対象とする文書は、副作用に関連する記述の有無に関係なく複数の文が記述されることによって作成されているものとする。ユーザインタフェース処理制御部11は、ユーザによる所定の操作によって副作用の判定対象とする文書を特定する情報、例えば文書名が指定されると、その文書名を受け付ける。なお、ユーザが文書名を指定するなどの操作を行ったり、ユーザ操作に応じて情報を表示したりするためのユーザインタフェースについては、後述する。続いて、文書情報取得部12は、指定された文書名に該当する文書を、文書名と共に指定された格納先から取得する(ステップ101)。
【0051】
続いて、情報抽出部13は、文書情報取得部12により取得された文書から当該文書に含まれている文毎に以下の処理を実行する。そのために、情報抽出部13は、処理していない一文を文書から抽出する(ステップ102)。特に、限定する必要はないが、基本的には先頭の文から順番に処理していけばよい。
【0052】
情報抽出部13は、辞書記憶部16に登録されている各種辞書を参照しながら、抽出した文を解析することで、文に含まれている薬品名、症状及び変化に該当する語句をそれぞれ薬品情報、症状情報及び変化情報として抽出する(ステップ103)。
図3には、「医薬品a12を投与するもむくみが出現したため中止した」という文が文書から抽出され、この文から薬品名として「医薬品a12」を、症状として「むくみ」を、変化として「中止」という語句が抽出された場合の例が示されている。
【0053】
ここで、「薬品名」というのは、医薬品辞書等の辞書に登録されている医薬品の名称である。「症状」というのは、病気や疾患の状態のことをいうが、本実施の形態では、症状を狭義に捉えるのではなく、副作用辞書に登録されている病気や疾患そのものの名称(つまり、病名)等も「症状」として抽出する。「変化」というのは、人体に現れる症状の変化と考えられる語句である。基本的には、医療慣用表現辞書に登録されている語句であるが、これに限る必要はなく、過去の変化情報の抽出実績をデータベース化し、このデータベースを参照して抽出するようにしてもよい。
【0054】
薬品名、症状及び変化に該当する語句を抽出すると、続いて、情報抽出部13は、専門辞書や同義語辞書を参照して、表記揺れを吸収するよう語句を必要により変更する(ステップ104)。
図3には、「医薬品a12」を「医薬品A」と、「むくみ」を「浮腫」と、表記揺れをそれぞれ吸収する変更を行う場合の例が示されている。
【0055】
ところで、ステップ103においては、薬品名、症状及び変化に該当する語句を単に抽出するのみであって、各語句が文においてどのように使用されているのかが不明である。例えば、「医薬品a12」だけでは、その薬品が使用されたのかどうかが不明である。仮に使用されていなければ、「医薬品a12」に関する記述があったとしても副作用有りと判定することはできない。
【0056】
そこで、情報抽出部13は、処理対象の文に対して形態素解析等の自然言語処理を行い、医薬品が使用されたのかどうかを判定する。なお、使用を示す語句には、「使用」の他に「投与」、「投薬」等種々の表現があるが、医療慣用表現辞書や過去の語句の使用実績等を参照することによって使用を示す語句に該当するかどうかは判別可能である。本実施の形態では、医薬品の使用を意味する表現を「使用」と総称する。
図3に示す文では、「医薬品a12を投与するも」と医薬品の使用が認定できるため、副作用有りの可能性がある。従って、情報抽出部13は、薬品名で特定される「医薬品」と「使用」との関係性は有りと判定する。本実施の形態では、関係性有りの場合を“True”、関係性無しの場合を“False”で表すことにする。
【0057】
同様に、「浮腫」という語句だけでは、浮腫が発生したのかどうかが不明である。従って、情報抽出部13は、処理対象の文に対して形態素解析等の自然言語処理を行い、浮腫が現れたのかどうかを判定する。なお、症状が現れることは、「出現」、「発症」等種々の表現があるが、「使用」の場合と同様に医療慣用表現辞書等を参照することによって判別可能である。本実施の形態では、症状が現れることを意味する表現を「出現」と総称する。
図3に示す文では、「むくみが出現した」と浮腫の出現が認定できるため、副作用有りの可能性がある。従って、情報抽出部13は、「症状」と「出現」との関係性は有り“True”と判定する。仮に、医薬品Aを使用しないものの症状(例えば、頭痛)が出現されたのであれば、医薬品Aと症状とは関係性はない。従って、医薬品Aと副作用には関係性がないので、文から副作用無し“False”と判定される。
【0058】
同様に、「中止」という語句だけでは、中止されたのか中止されなかったのかが不明である。そこで、上記と同様に自然言語処理を行い、中止されたのかどうかを判定する。「変化」の場合、「する」の場合を“True”、「しない」の場合を“False”で表すことにすると、
図3に示す文では、「中止した」と中止の実行が認定できるため、副作用有りの可能性がある。従って、情報抽出部13は、「変化」と「する」との関係性は有り“True”と判定する。
【0059】
薬品名及び症状は、学術的な専門辞書を参照すれば、該当する語句の抽出はそれほど困難ではない。これに対し、変化を表す語句は、専門用語とは限らない。そこで、過去の文の構造解析の実績を入力とし、AIを利用して作成した辞書を辞書記憶部16に登録しておき、この辞書を利用して「変化」に該当する語句を抽出できるようにしてもよい。これにより、「変化」をより的確に抽出することが可能となる。
【0060】
以上説明したように、医薬品の副作用を判定するには、医薬品の使用の事実が重要である。また、医薬品の使用により変化が現れることが重要である。情報抽出部13は、医薬品、症状及び変化を抽出し、医薬品が使用された場合の症状や変化に関する事実関係が明確になるよう情報を抽出することになる。
【0061】
以上のようにして、情報抽出部13が情報を抽出すると、構造化情報生成部14は、抽出した情報を集約することによって構造化情報を生成し、構造化情報記憶部18に登録する(ステップ106)。構造化情報には、薬品名、症状及び変化の各関係性の有無についての情報が含まれる。関係性が“True”の場合に限らず、 “False”の場合も構造化情報は生成され、構造化情報記憶部18に登録される。
【0062】
図4は、本実施の形態における構造化情報をテーブル形式にて示したデータ構成の一例を示す図である。本実施の形態においては、
図4に例示するように構造化情報をテーブル形式にて管理し、またユーザに提示するようにしている。なお、テーブル形式にて示している構造化情報を、以降の説明では「構造化テーブル」と称することにする。
【0063】
構造化情報は、文毎に生成される。
図4には、生成対象の文に付与されている文番号及び当該文に対応付けされた構造化情報が示されている。構造化情報に含まれる薬品名は、情報抽出部13が当該文から抽出した薬品名である。情報抽出部13が当該文から抽出した症状は、疾患/症状/病名又は副作用(結果を含む)に設定され、情報抽出部13が当該文から抽出した変化は、副作用(結果を含む)又は変化に設定される。
【0064】
例えば、糖尿病は、病名に該当するが、副作用ではない。また、アレルギーは、疾患でもあるが、副作用の場合もあり得る。つまり、文脈から推定される内容によって、どの項目に該当するかが異なってくる。このため、構造化情報生成部14が生成する構造化情報は、常に正しいとは限らない。従って、構造化テーブルをユーザに修正させたり、情報項目値を追加登録させたりする機能を構造化情報生成部14に持たせるようにしてもよい。なお、構造化テーブルに含まれるAI判定の項目については、後述する。
【0065】
構造化情報が生成されると、続いて、判定部15は、文脈、特に語句(つまり、薬品名、症状及び変化)の関係性を参照し、判定モデルを使用して当該文から副作用を判定する(ステップ107)。医薬品の使用の事実と症状の出現との関係性は重要な要素であり、変化は付加的な情報という位置付けにあるかもしれない。ただ、判定部15は、変化を参照して副作用かどうかの最終的な判定を行う。例えば、変化が起きていると副作用の可能性が高い。従って、本実施の形態では、副作用に関連する特徴量として「変化」を判定モデルに入力する。
【0066】
ところで、本実施の形態において、「副作用を判定する」という表現には、医薬品の使用の有無、症状の発生の有無等の事実性に基づく副作用の有無に限らず、重篤性等の副作用のレベルも合わせて判定することが含まれている。また、
図4には含めていないが、副作用の新規性を判定するようにしてもよい。新規性というのは、医薬品の添付文書に副作用に関する記載がないことを意味する。新規性は、既知又は未知に大別できるが、このうち「既知」とはその医薬品の添付文書に記載のある副作用の場合である。一方、「未知」とは添付文書に記載のない副作用の場合である。
【0067】
図4には、副作用の有無を示す「副作用AI判定」及び副作用が重篤かどうかを示す「重篤AI判定」という2種類の判定が実施されていることがわかる。医薬品の副作用に関する判定なので、通常の場合、判定部15は、文の中に薬品名が記述されていなければ、副作用に判定対象となる医薬品が不明となることから副作用無しと判定する。文の中に薬品名の記述があれば、判定部15は、薬品名、症状及び変化、そして関係性の情報等を判定モデルに入力することによって当該医薬品の副作用をAI判定する。
【0068】
なお、関係性の有無を表す“True”又は “False”の情報は、構造化情報に含まれているが、ユーザに提示する構造化テーブルには含めていない。関係性の有無を構造化テーブルに含めて提示するようにしてもよいが、含めて表示するとテーブル全体が見にくくなるので、表示の際に省略している。但し、判定部15は、副作用を判定する際には、関係性の有無を表す情報を参照する。なお、AI判定の結果が有り“○”であれば、医薬品と症状に関係性があることは推測できる。
【0069】
判定部15は、以上のようにしてAI判定を行うと、その判定結果を、処理対象の文に対応させて情報抽出部13が生成した構造化情報に追加登録する(ステップ108)。
【0070】
以上説明した文に対する処理を、文書に含まれる全ての文に対して繰り返し実行する(ステップ109でN)。そして、文書に含まれる全ての文に対して処理を実行すると(ステップ109でY)、判定部15は、文書に対する副作用を判定する(ステップ110)。具体的には、判定部15は、文毎にした副作用AI判定の結果に副作用有りという判定が1つでもあれば、当該文書に対しては副作用有りと判定し、1つも副作用有りがなければ、副作用無しと判定する。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態では、文毎に副作用の判定を行うようにしたが、文書に対してのみ副作用の判定を行うようにしてもよい。しかし、そのように処理すると、文書に対して副作用有りとした判定結果の根拠や理由をユーザは知ることができない。そこで、本実施の形態では、文毎に副作用を判定するようにし、その副作用の判定結果と共に薬品情報、症状情報及び変化情報を表示させるようにしたので、文書に対する副作用有りとした判定結果の根拠や理由(となる文)を人に確認させることができる。このように、本実施の形態では、いわゆる「説明できるAI」を実現することが可能である。
【0072】
なお、文の記述から医薬品に副作用有りと判定されたということは、当該文を含む文書には、副作用に関する記述があるということである。「文書に対する副作用を判定」するというのは、当該文書に副作用に関する記述があるかどうかを判定することを意味する。
【0073】
次に、本実施の形態におけるユーザインタフェースについて説明する。ここの説明で用いる
図5乃至
図11に示す画面表示例は、画面表示の一例であって、画面表示例に示されている構造化情報の情報項目値は、
図4に示す構造化テーブルに含まれている情報項目値と整合性が取れているとは限らない。
【0074】
図5は、本実施の形態における情報処理装置1が提供するメイン画面の表示例を示す図である。ユーザが文書に記載されている医薬品の副作用を判定したい場合に所定の操作を行うと、ユーザインタフェース処理制御部11は、このユーザ操作に応じて
図5に示すメイン画面をディスプレイに表示するよう制御する。メイン画面には、処理対象として指定可能な文書及び当該文書に関する情報、また、副作用判定処理が実行された文書に対してはその処理の判定結果等を表示する表示領域50が含まれている。表示領域50には、名前、登録者、登録日、更新者、更新日、副作用有無及び文献情報抽出の各項目を表示する領域が設けられている。名前の項目には、過去のユーザ操作に応じて事前に登録されている処理対象となるファイルを格納するフォルダの名称(つまり、フォルダ名)又は文書の名称(つまり、文書名)が含まれている。登録者には、当該フォルダ又は文書を登録したユーザを特定する情報(例えば、ユーザ名)が含まれる。登録日には、当該フォルダ又は文書が登録された日時を示す情報が含まれる。更新者には、登録済みのフォルダに格納されている文書を更新したユーザを特定する情報(例えば、ユーザ名)が含まれる。更新日には、当該文書が更新された日時を示す情報が含まれる。ここまでの情報は、フォルダ又は文書が名前の項目欄に登録されることによって自動的に設定され表示される。副作用有無及び文献情報抽出の各項目については、後述する。
【0075】
メイン画面には、
図5に示すように、フォルダ作成ボタン51、文献登録ボタン52、副作用抽出ボタン53及び文献情報抽出ボタン54が表示領域50の上方に表示される。以下、これらの各ボタン51~54が選択された場合の処理について説明する。
【0076】
まず、ユーザによりフォルダ作成ボタン51が選択されると、ユーザインタフェース処理制御部11は、フォルダを作成するフォルダ等の場所及びフォルダ名の入力画面をディスプレイに表示させる。ユーザがその入力画面から所定事項を入力することに応じてフォルダが作成されると、ユーザインタフェース処理制御部11は、作成されたフォルダのフォルダ名を名前の項目欄に追加表示させる。
【0077】
また、ユーザにより文献登録ボタン52が選択されると、ユーザインタフェース処理制御部11は、登録先とするフォルダ及び当該フォルダに新規登録する文書名の入力画面を表示させる。ユーザがその入力画面から所定事項を入力指定すると、ユーザインタフェース処理制御部11は、入力指定されたフォルダに、入力指定された文書を名前の項目欄に追加表示させる。なお、ユーザにフォルダ名や文書名を入力させずに既存のフォルダ及び文書をリスト表示して、ユーザに選択させるインタフェースとしてもよい。
【0078】
また、削除、コピー、移動、名前の変更の各ボタンを表示するメニュー画面(図示せず)を予め用意しておき、ユーザインタフェース処理制御部11は、名前の項目欄に表示されているフォルダ名又は文書名がユーザにより右クリックされるとメニュー画面を表示させ、そのメニュー画面上のユーザが選択したボタンに対応する処理を実施させるようにしてもよい。
【0079】
図6は、本実施の形態におけるメイン画面から副作用抽出ボタン53が選択された場合に表示される文書選択画面の表示例を示す図である。ユーザにより副作用抽出ボタン53が選択されると、ユーザインタフェース処理制御部11は、副作用がまだ判定されていない文書のみを格納するフォルダ及び文書を抽出して、文書選択画面にリスト表示する。
【0080】
ユーザは、リスト表示の中から副作用の判定対象とするフォルダ又は文書を選択する。
図6に例示するように、ユーザは、複数のフォルダ又は文書を選択することが可能である。フォルダの場合、当該フォルダに含まれている全ての文書(判定済みの文書を除く)を選択したことになる。ユーザがフォルダ又は文書を選択した後、実行ボタン60を選択することで前述した副作用判定処理が実行される。
【0081】
副作用判定処理が実行されることでAI判定の結果が得られることになるので、ユーザインタフェース処理制御部11は、その判定結果をメイン画面に表示させる。すなわち、
図5に例示するように、副作用有りと判定された場合には有りボタン55を、副作用無しと判定された場合には無しボタン56を、それぞれ判定対象の文書に対応付けして表示させる。なお、ハイフン57は、当該文書がまだ副作用の判定対象として選択されていないことを示している。
【0082】
ユーザは、副作用有無の項目欄を参照することによって、AI判定が実施済みであること及び判定結果を知ることができる。ここで、判定結果の詳細を知りたい場合、ユーザは、ボタン55,56を選択する。
【0083】
図7は、副作用の有りボタン55が選択された場合に表示される副作用サブ画面の表示例を示す図であり、
図8は、副作用の無しボタン56が選択された場合に表示される副作用サブ画面の表示例を示す図である。
図7に示すように、ユーザインタフェース処理制御部11は、構造化情報記憶部18から、有りボタン55に対応する文書の構造化情報の中から、副作用有りと判定された文の構造化情報のみを抽出して副作用サブ画面に表示させる。また、
図8に示すように、ユーザインタフェース処理制御部11は、構造化情報記憶部18から、無しボタン56に対応する文書の構造化情報の中から、副作用無しと判定された文の構造化情報のみを抽出して副作用サブ画面に表示させる。
【0084】
図7,8において、副作用関係には、各文の副作用AI判定が表示される。医薬品には、構造化情報に含まれている薬品名、すなわち副作用の有無の判定対象となった医薬品の薬品名が表示される。症状には、構造化情報に含まれている症状が表示される。
【0085】
なお、本実施の形態では、構造化情報の中から情報項目を抜粋して副作用サブ画面に表示させるようにしたが、抜粋する情報項目は、この例に限る必要はない。また、抜粋せずに、構造化テーブルに含まれている全項目を表示対象としてもよい。また、
図7,8のように副作用有りと副作用無しとを分けずに判定結果を表示させるようにしてもよい。
【0086】
図9は、副作用サブ画面から文献強調表示ボタン61が選択された場合に表示される文献表示画面の表示例を示す図である。ユーザにより文献強調表示ボタン61が選択されると、ユーザインタフェース処理制御部11は、処理対象の文書を文書情報取得部12に取得させる。そして、取得した文書を文献表示画面に表示させる。このとき、ユーザインタフェース処理制御部11は、文書内の該当する語句が強調表示されるよう制御する。該当する語句というのは、副作用サブ画面に表示されている医薬品及び症状に該当する語句である。もちろん、この例に限らず、例えば構造化情報に含まれている全ての語句としてもよい。また、
図9では、該当する語句を強調表示することによって文書に含まれている他の部分と判別しやすいようにした例を示しているが、表示形態を強調表示以外の方法、例えば文字色を変えるなどして、表示された文書の中から該当する語句が見つけられやすいようにしてもよい。
【0087】
図10は、本実施の形態におけるメイン画面から文献情報抽出ボタン54が選択された場合に表示される文書選択画面の表示例を示す図である。ユーザにより文献情報抽出ボタン54が選択されると、ユーザインタフェース処理制御部11は、文献情報がまだ作成されていない文書のみを格納するフォルダ及び文書を抽出して、文書選択画面にリスト表示する。なお、
図5に示すメイン画面の文献情報抽出の項目欄におけるハイフン58は、当該文書に対してまだ文献情報が作成されていないことを示している。つまり、ハイフン58に対応する文書(及び文書を含むフォルダの名称)が文書選択画面にリスト表示されることになる。
【0088】
ユーザによりフォルダ又は文書を選択された後、実行ボタン62が選択されると、文書情報取得部12は、ユーザインタフェース処理制御部11から選択された文書名(又はフォルダ名)を受け取る。そして、文書情報取得部12は、当該文書を解析することで
図11に例示する各項目に対応する情報を抽出し、文献情報として文献情報記憶部19に保存する。そして、ユーザインタフェース処理制御部11は、文書情報取得部12からの指示に応じて、メイン画面の文献情報抽出の欄の、処理対象とした文書に対応した位置に文献情報表示ボタン59を表示させる。
【0089】
ユーザは、文献情報表示ボタン59が表示されることによって、文献情報が作成されたことを知る。ここで、ユーザが文献情報表示ボタン59を選択すると、ユーザインタフェース処理制御部11は、選択された文献情報表示ボタン59に対応する文書の文献情報を、文書情報取得部12を介して取得し、文献情報表示画面に表示させる。このように、文献情報表示ボタン59が選択された場合に表示される文献情報表示画面の表示例を
図11に示す。
【0090】
本実施の形態によれば、以上のようにして副作用有りと判定された文書に関する情報を表示させることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 情報処理装置、11 ユーザインタフェース(UI)処理制御部、12 文書情報取得部、13 情報抽出部、14 構造化情報生成部、15 判定部、16 辞書記憶部、17 判定モデル記憶部、18 構造化情報記憶部、19 文献情報記憶部。