(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】インホイールモータ型の車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 7/00 20060101AFI20231017BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20231017BHJP
F16H 57/023 20120101ALI20231017BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20231017BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60K7/00
F16H57/04 J
F16H57/023
F04C15/00 J
F04C15/00 L
F04C15/00 K
F04C2/10 341E
F04C2/10 341H
(21)【出願番号】P 2019124350
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】翠 高宏
(72)【発明者】
【氏名】村田 康介
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159817(JP,A)
【文献】実開平04-087099(JP,U)
【文献】実開昭48-048072(JP,U)
【文献】特開2018-187252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0158381(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 7/00
F16H 57/00-57/12
F04C 2/08- 2/28、11/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールを駆動させるための駆動力を発生させる駆動ギヤを有し、前記駆動ギヤを駆動させる電気モータと、
前記駆動ギヤの駆動力が伝達されるギヤ部と、前記ギヤ部の回転中心軸線の延びる方向に直交する方向に沿って延び、オイルが吸入および吐出されるポンプ室を形成するための第1壁面とを有する従動ギヤと、
前記従動ギヤの駆動力を前記ホイールに伝達するハブと、
前記電気モータにより駆動されるオイルポンプとを備え、
前記オイルポンプは、
前記ポンプ室の前記第1壁面に対向する第2壁面を有するオイルポンプカバーと、
前記従動ギヤの前記第1壁面と前記オイルポンプカバーの前記第2壁面との間の空間に配置され、前記従動ギヤの回転に伴って一体的に回転するポンプ回転体とを含
み、
前記従動ギヤは、側面を窪ませ、前記ポンプ回転体を内部に収容する凹部を含む、インホイールモータ型の車両駆動装置。
【請求項2】
前記従動ギヤの前記ギヤ部は、前記駆動ギヤに噛み合う外歯を含み、
前記従動ギヤの前記第1壁面と前記オイルポンプカバーとの間に形成され、前記従動ギヤの外歯にオイルを導く油路をさらに備える、請求項1に記載のインホイールモータ型の車両駆動装置。
【請求項3】
前記従動ギヤの前記ギヤ部は、前記ギヤ部を貫通するように設けられ、前記油路に連通する潤滑孔をさらに含む、請求項2に記載のインホイールモータ型の車両駆動装置。
【請求項4】
前記ポンプ回転体は、
前記従動ギヤに取り付けられる第1回転体と、
前記オイルポンプカバーに対して回転可能に取り付けられ、前記第1回転体と噛み合う第2回転体とを有し、
前記オイルポンプは、前記第1回転体の回転とともに前記第2回転体が回転することにより、前記ポンプ室にオイルを吸入するとともに、前記ポンプ室からオイルを吐出するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のインホイールモータ型の車両駆動装置。
【請求項5】
前記オイルポンプカバーは、
前記ポンプ室内にオイルを導くとともに、前記ポンプ室外にオイルを導く第1ポートおよび第2ポートをさらに含み、
前記オイルポンプは、前記従動ギヤの回転方向の切り替えに伴って、前記第1ポートおよび前記第2ポートにおいてオイルの吸入およびオイルの吐出が切り替わるように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のインホイールモータ型の車両駆動装置。
【請求項6】
前記従動ギヤは、前記ホイール側の
前記側面を前記ホイール側とは逆側に窪ませ、前記ポンプ回転体を内部に収容する
前記凹部を含み、
前記ポンプ回転体は、前記駆動ギヤの駆動により前記従動ギヤと一体的に回転するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のインホイールモータ型の車両駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータ型の車両駆動装置に関し、特に、電気モータを備えるインホイールモータ型の車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気モータを備えるインホイールモータ型の車両駆動装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、モータ(電気モータ)を備えるインホイールモータ構造(インホイールモータ型の車両駆動装置)が開示されている。このインホイールモータ構造は、外輪側部材と、カウンターギヤと、オイルポンプとを備えている。外輪側部材は、カウンターギヤを介して伝達されたモータの駆動力によりホイールを回転させている。外輪側部材とカウンターギヤとは、同一回転中心軸線上に配置されている。カウンターギヤ内には、オイルポンプが内蔵されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のオイルポンプは、インナーロータと、ポンプボディと、ポンプサイドカバーとを含む。インナーロータ、ポンプボディおよびポンプサイドカバーは、カウンターギヤと同一回転中心軸線上に配置されている。ポンプボディおよびポンプサイドカバーの各々は、カウンターギヤとは別個に設けられている。ポンプボディおよびポンプサイドカバーの各々は、オイルが吸入および吐出されるポンプ室を形成するための内壁面を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のインホイールモータ構造では、オイルポンプの専用部品であるポンプボディおよびポンプサイドカバーによりポンプ室が形成されているので、カウンターギヤ内にポンプボディおよびポンプサイドカバーの両方を設ける分だけ、カウンターギヤの上記回転中心軸線の延びる方向の寸法が大きくなるという不都合がある。また、オイルポンプのポンプ室は、ポンプボディおよびポンプサイドカバーというオイルポンプの専用部品により形成されているので、オイルポンプの部品点数を減少させることが困難であるという不都合もある。これらの結果、このインホイールモータ構造では、オイルポンプの部品点数を減少させるとともに、インホイールモータ構造(インホイールモータ型の車両駆動装置)の上記回転中心軸線の延びる方向の寸法(軸方向の寸法)の増加を抑制することができないという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、オイルポンプの部品点数を減少させることができるとともに、インホイールモータ型の車両駆動装置の軸方向の寸法の増加を抑制することが可能なインホイールモータ型の車両駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるインホイールモータ型の車両駆動装置は、ホイールを駆動させるための駆動力を発生させる駆動ギヤを有し、駆動ギヤを駆動させる電気モータと、駆動ギヤの駆動力が伝達されるギヤ部と、ギヤ部の回転中心軸線の延びる方向に直交する方向に沿って延び、オイルが吸入および吐出されるポンプ室を形成するための第1壁面とを有する従動ギヤと、従動ギヤの駆動力をホイールに伝達するハブと、電気モータにより駆動されるオイルポンプとを備え、オイルポンプは、ポンプ室の第1壁面に対向する第2壁面を有するオイルポンプカバーと、従動ギヤの第1壁面とオイルポンプカバーの第2壁面との間の空間に配置され、従動ギヤの回転に伴って一体的に回転するポンプ回転体とを含み、従動ギヤは、側面を窪ませ、ポンプ回転体を内部に収容する凹部を含む。
【0009】
この発明の一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置では、上記のように、オイルが吸入および吐出されるポンプ室を形成するための第1壁面を有する従動ギヤと、電気モータにより駆動されるオイルポンプとを設ける。そして、オイルポンプに、ポンプ室の第1壁面に対向する第2壁面を有するオイルポンプカバーと、従動ギヤの第1壁面とオイルポンプカバーの第2壁面との間の空間に配置され、従動ギヤの回転に伴って一体的に回転するポンプ回転体とを設ける。これにより、従動ギヤの第1壁面を利用してオイルポンプのポンプ室を形成することができるので、オイルポンプの専用部品として第1壁面を形成するポンプボディを設ける必要がない。その結果、オイルポンプの専用部品として第1壁面を形成するポンプボディを設けない分だけ、オイルポンプの部品点数を減少させることができるとともに、インホイールモータ型の車両駆動装置の軸方向の寸法の増加を抑制することができる。また、従動ギヤおよびポンプ回転体は一体的に回転することにより、従動ギヤの回転速度とポンプ回転体の回転速度との間の相対的な回転速度差の発生を抑制することができるので、従動ギヤとポンプ回転体との微小隙間に充填されているオイルのポンプ回転体の回転に起因する変形を抑制することができる。これにより、ポンプ回転体の回転の際に上記微小隙間に充填されたオイルに生じるせん断抵抗を減少させることができる。その結果、オイルポンプを駆動させるためのトルクの増加を抑制することができるので、ポンプの駆動効率の悪化を抑制することができる。また、従動ギヤの回転に伴って一体的に回転するポンプ回転体を含むオイルポンプを用いることにより、電気モータとは別個に設けられた専用のモータにより回転するポンプ回転体を含むオイルポンプを用いる場合と異なり、専用のモータのための配線などを設ける必要がない。その結果、インホイールモータ型の車両駆動装置の大型化および複雑化を抑制することができる。
【0010】
上記一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置において、好ましくは、従動ギヤのギヤ部は、駆動ギヤに噛み合う外歯を含み、従動ギヤの第1壁面とオイルポンプカバーとの間に形成され、従動ギヤの外歯にオイルを導く油路をさらに備える。
【0011】
このように構成すれば、従動ギヤの外歯にオイルを導く専用の油路を設けることなく、従動ギヤの第1壁面とオイルポンプカバーとの間に形成される隙間としての油路を利用して、従動ギヤの外歯にオイルを供給することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、従動ギヤのギヤ部は、ギヤ部を貫通するように設けられ、油路に連通する潤滑孔をさらに含む。
【0013】
このように構成すれば、従動ギヤの外歯の歯面(表面)に直接的にオイルを供給することができるので、従動ギヤの回転をより円滑にすることができる。
【0014】
上記一の局面によるインホイールモータ型の駆動装置において、好ましくは、ポンプ回転体は、従動ギヤに取り付けられる第1回転体と、オイルポンプカバーに対して回転可能に取り付けられ、第1回転体と噛み合う第2回転体とを有し、オイルポンプは、第1回転体の回転とともに第2回転体が回転することにより、ポンプ室にオイルを吸入するとともに、ポンプ室からオイルを吐出するように構成されている。
【0015】
このように構成すれば、従動ギヤの回転を利用して回転する第1回転体および第2回転体によりオイルの吸入および吐出を行うギヤポンプとしてオイルポンプを構成することができるので、第1回転体および第2回転体を回転させる駆動源を別個に設ける必要がない。その結果、インホイールモータ型の車両駆動装置の部品点数の増加および構造の複雑化を抑制することができる。
【0016】
上記一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置において、好ましくは、オイルポンプカバーは、ポンプ室内にオイルを導くとともに、ポンプ室外にオイルを導く第1ポートおよび第2ポートをさらに含み、オイルポンプは、従動ギヤの回転方向の切り替えに伴って、第1ポートおよび第2ポートにおいてオイルの吸入およびオイルの吐出が切り替わるように構成されている。
【0017】
このように構成すれば、従動ギヤの回転方向にかかわらずオイルポンプによるオイルの吸入および吐出を行うことができるので、車両の前進または後進にかかわらずインホイールモータ型の車両駆動装置の各構成部品にオイルを供給することができる。
【0018】
上記一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置において、好ましくは、従動ギヤは、ホイール側の側面をホイール側とは逆側に窪ませ、ポンプ回転体を内部に収容する凹部を含み、ポンプ回転体は、駆動ギヤの駆動により従動ギヤと一体的に回転するように構成されている。
【0019】
このように構成すれば、従動ギヤの凹部内にポンプ回転体を収容することにより、ギヤ部の回転中心軸線の延びる方向におけるオイルポンプの大型化を抑制することができるので、インホイールモータ型の車両駆動装置の軸方向の寸法の増加をより抑制することができる。
【0020】
なお、本出願では、上記一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置とは別に、以下のような他の構成も考えられる。
【0021】
(付記項1)
上記一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置において、従動ギヤとポンプ回転体とは、同一回転軸線上に配置されている。
【0022】
このように構成すれば、従動ギヤとポンプ回転体とが同一回転軸線上からずれた位置に配置される場合と比較して、ギヤ部の回転中心軸線の延びる方向に直交する方向におけるオイルポンプの大型化を抑制することができる。
【0023】
(付記項2)
上記一の局面によるインホイールモータ型の車両駆動装置において、オイルポンプは、オイルポンプおよび電気モータのいずれよりも上方に配置される上部オイルタンクと、オイルポンプおよび電気モータのいずれよりも下方に配置される下部オイルタンクとをさらに含み、オイルポンプは、下部オイルタンクから吸入したオイルを上部オイルタンクに吐出して、上部オイルタンクにオイルを貯留させるように構成されている。
【0024】
このように構成すれば、インホイールモータ型の車両駆動装置の各構成部品にオイルを直接圧送して供給する場合と異なり、オイルポンプが上部オイルタンクにオイルを圧送するだけでインホイールモータ型の車両駆動装置の各構成部品にオイルを供給することができる。その結果、オイルポンプを駆動させるためのトルクの増加をより抑制することができるので、ポンプの駆動効率の悪化をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置をホイール内に設置した状態でA1方向側から視た正面図である。
【
図2】
図1の101-101線に沿った断面図である。
【
図3】
図1の102-102線に沿った断面図である。
【
図4】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置を示した分解斜視図である。
【
図5】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のポンププレートを示した斜視図である。
【
図6】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のオイルポンプを示した分解斜視図である。
【
図7】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のオイルポンプをA2方向側から視た正面図である。
【
図8】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のオイルポンプのポンプ室のX方向に沿った断面図である。
【
図9】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のオイルポンプによるオイルの循環を示した模式図である。
【
図10】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のオイルポンプの第1吐出側チェックバルブおよび第2吐出側チェックバルブとポンププレートとを示した斜視図である。
【
図11】一実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置のオイルポンプの第1吸入側チェックバルブおよび第2吸入側チェックバルブとオイルポンプとを示したZ方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1~
図11を参照して、本実施形態によるインホイールモータ型の車両駆動装置100の構成について説明する。
【0028】
図1および
図2に示すように、インホイールモータ型の車両駆動装置100は、車両のホイールW内に配置された電気モータ3の駆動力をハブ1に伝達してホイールWを回転させることにより、車両を前進または後退させるように構成されている。つまり、インホイールモータ型の車両駆動装置100は、車両を前進または後退させる駆動源、および、駆動源の駆動力を伝達する駆動力伝達機構を含む装置である。
【0029】
ここで、ホイールWの回転中心軸線C2の延びる方向をA方向(軸方向)とし、A方向のうちホイールW側をA1方向とし、A方向のうち車体側をA2方向とする。ホイールWの回転中心軸線C2の延びる方向に直交する方向をD方向(径方向)とする。ホイールWの回転中心軸線C2回りの方向をR方向(周方向)とする。R方向のうちの一方向をR1方向とし、R方向のうちの他方向をR2方向とする。
【0030】
また、車両の進行方向をX方向とし、X方向のうち前進方向をX1方向とし、X方向のうち後退方向をX2方向とする。車両の上下方向をZ方向とし、Z方向のうち上方向をZ1方向とし、Z方向のうち下方向をZ2方向とする。
【0031】
以下の説明においては、車両のX1方向側およびX2方向側に取り付けられる複数のホイールWのうちの1つのホイールW内のインホイールモータ型の車両駆動装置100について説明する。なお、複数のホイールWに配置されるインホイールモータ型の車両駆動装置100の構成は全て同じ構成である。
【0032】
ここで、インホイールモータ型の車両駆動装置100の少なくとも一部は、ホイールW内に収容されている。ホイールWは、A2方向側が開放された略円筒形状を有している。ホイールW内には、ナックルNおよびボールジョイントJtが配置されている。ナックルNは、ホイールWを含む車輪の支持、車両における車体の懸架および車輪を操舵するための部材である。ボールジョイントJtは、ナックルNに取り付けられ、車輪を操舵する際に回転中心の一端となる部材である。
【0033】
具体的には、インホイールモータ型の車両駆動装置100は、ハブ1と、シャフト2と、電気モータ3と、伝達機構4と、遊星歯車機構5と、収容部材6と、オイルポンプ7とを備えている。
【0034】
ハブ1は、シャフト2の駆動力をホイールWに伝達するように構成されている。ハブ1は、シャフト2と一体的に回転可能にシャフト2に固定されている。シャフト2は、遊星歯車機構5の駆動力をハブ1に伝えるように構成されている。シャフト2は、遊星歯車機構5を介して伝達される電気モータ3のトルクにより回転される。シャフト2内には、軽量穴2aが形成されている。軽量穴2a内には、遊星歯車機構5の一部が配置されている。遊星歯車機構5には、電気モータ3の駆動力が伝達機構4を介して伝達される。つまり、遊星歯車機構5は、伝達機構4を介して伝達される電気モータ3のトルクにより回転される。このように、ハブ1は、伝達機構4の後述するアイドラギヤ41の駆動力をホイールWに伝達している。
【0035】
図2および
図3に示すように、電気モータ3の回転中心軸線C1、遊星歯車機構5の回転中心軸線C2およびオイルポンプ7の回転中心軸線C3は、D方向に沿って並んで配置されている。遊星歯車機構5、オイルポンプ7および電気モータ3は、D方向の内側から外側に向かってこの順に並んでいる。ここで、電気モータ3は、X方向において遊星歯車機構5よりもX2方向側に配置されている。また、電気モータ3は、D方向において、遊星歯車機構5とは別個に配置されている。ここで、
図3は、回転中心軸線C2を基準として、101-101線に沿った断面図のうち101a部分を紙面下側に配置し、101b部分を紙面上側に配置して、回転中心軸線C2において繋げた図面である。
【0036】
電気モータ3は、車両を駆動させるための駆動力を発生させるように構成されている。具体的には、電気モータ3は、インナーロータ型のモータにより構成されている。つまり、電気モータ3は、モータシャフト31と、ステータコア32およびステータコイル33を有するステータ34およびロータ35と、ドライブギヤ36(特許請求の範囲の「駆動ギヤ」の一例)とを含んでいる。
【0037】
モータシャフト31は、A方向に沿って延びる回転中心軸線C1の回りに回転可能に構成されている。ステータ34は、回転中心軸線C1回りにモータシャフト31を回転させるように構成されている。具体的には、ステータ34は、上記ステータコア32と、上記ステータコイル33とを有している。ステータコイル33は、ステータコア32に巻き回されることにより、モータシャフト31を回転させる回転磁界を発生させるように構成されている。ドライブギヤ36は、モータシャフト31のA2方向側端部に設けられている。ドライブギヤ36は、伝達機構4の後述するアイドラギヤ41の外歯41g(
図6参照)に噛み合う外歯を有している。ドライブギヤ36の直径は、伝達機構4の後述するアイドラギヤ41の直径およびドリブンギヤ42の直径よりも小さい。
【0038】
このように、電気モータ3は、ホイールWを駆動させるための駆動力を発生させるドライブギヤ36を有し、ドライブギヤ36を駆動させている。
【0039】
(伝達機構)
伝達機構4は、電気モータ3の駆動力を遊星歯車機構5に伝達するように構成されている。具体的には、伝達機構4は、アイドラギヤ41(特許請求の範囲の「従動ギヤ」の一例)と、ドリブンギヤ42とを含んでいる。伝達機構4は、電気モータ3と遊星歯車機構5とを接続することにより、電気モータ3の駆動力を遊星歯車機構5に伝達している。
【0040】
アイドラギヤ41は、ドライブギヤ36に噛み合うとともに、ドリブンギヤ42に噛み合う外歯41gを有するギヤ部141(
図6参照)を有している。ここで、アイドラギヤ41の外歯41gには、ドライブギヤ36の駆動力が伝達されている。
【0041】
アイドラギヤ41は、回転中心軸線C3に沿って配置されたアイドラピン41aにより収容部材6に回転可能に取り付けられている。
【0042】
具体的には、アイドラギヤ41は、アイドラピン41aが挿通する挿通孔41bが形成された筒状部41cを有している。筒状部41cは、アイドラピン41aをA方向に貫通している。アイドラギヤ41は、ニードル軸受け41dを介してアイドラピン41aに回転可能に取り付けられている。アイドラギヤ41には、凹部41eが形成されている。凹部41eは、アイドラギヤ41の軽量化のために形成されている凹部である。凹部41eは、ホイールW側の側面をA2方向側に窪ませ、後述する収容部172(
図6参照)を内部に収容するように構成されている。
【0043】
ドリブンギヤ42は、アイドラギヤ41の外歯41gに噛み合う外歯を有している。ドリブンギヤ42は、遊星歯車機構5に回転可能に取り付けられている。ドリブンギヤ42には、遊星歯車機構5のA2方向側の部分が圧入されるシャフト圧入孔42aが形成されている。ドリブンギヤ42は、遊星歯車機構5を介してシャフト2に駆動力を伝達している。
【0044】
ここで、ドライブギヤ36、アイドラギヤ41およびドリブンギヤ42は、回転中心軸線C2の延びる方向に直交する方向(D方向)に沿って一直線上に配置されている。
【0045】
(収容部材)
図4に示すように、収容部材6は、電気モータ3、伝達機構4、遊星歯車機構5およびオイルポンプ7を収容するように構成されている。具体的には、収容部材6は、カバー61と、第1ケース62と、第2ケース63とを有している。
【0046】
カバー61、第1ケース62および第2ケース63は、A2方向側からこの順に並んで配置されている。第1ケース62および第2ケース63により、モータ収容空間64および遊星機構収容空間65が形成されている。モータ収容空間64には、電気モータ3が収容される。遊星機構収容空間65には、遊星歯車機構5が収容される。モータ収容空間64および遊星機構収容空間65は、D方向において隣り合っている。
【0047】
カバー61および第1ケース62により、伝達機構収容空間66およびオイルポンプ収容空間67が形成されている。伝達機構収容空間66には、伝達機構4が収容される。オイルポンプ収容空間67には、オイルポンプ7が収容される。オイルポンプ収容空間67は、伝達機構収容空間66の一部である。また、カバー61には、アイドラピン41aのA2方向側の端部が挿入される凹部61a(
図3参照)が形成されている。第1ケース62には、アイドラピン41aのA1方向側の端部が挿入される凹部62aが形成されている。このように、アイドラピン41aは、カバー61および第1ケース62に回転できないように取り付けられている。アイドラピン41aは、カバー61の凹部61aおよび第1ケース62の凹部62aにより挟み込むように取り付けられている。なお、アイドラピン41aは、カバー61の凹部61aおよび第1ケース62の凹部62aの各々にニードル軸受けを介して取り付けられてもよい。ここで、アイドラギヤ41とカバー61との間には、複数(3個)のスラストワッシャ142が挟み込まれるように取り付けられている。アイドラギヤ41と第1ケース62との間には、複数(3個)のスラストワッシャ142が挟み込まれるように取り付けられている。なお、挟み込む複数のスラストワッシャ142の個数は、3個に限られず、必要な枚数のスラストワッシャを用いればよい。
【0048】
収容部材6は、下部オイルタンク68と、上部オイルタンク69とを有している。下部オイルタンク68は、オイルポンプ7により吸入されるオイルを貯留するように構成されている。下部オイルタンク68は、第2ケース63のZ2方向側に配置されている。すなわち、下部オイルタンク68は、オイルポンプ7および電気モータ3のいずれよりもZ2方向側に配置されている。上部オイルタンク69は、オイルポンプ7により吐出されたオイルを一時的に貯留するように構成されている。上部オイルタンク69は、第2ケース63のZ1方向側の凹部と第1ケース62とを合わせることにより形成されている。すなわち、上部オイルタンク69は、オイルポンプ7および電気モータ3のいずれよりもZ1方向側に配置されている。
【0049】
(オイルポンプ)
オイルポンプ7は、電気モータ3により駆動されるように構成されている。具体的には、オイルポンプ7は、ポンプハウジング71と、インナーロータ72(特許請求の範囲の「第1回転体」の一例)と、アウターロータ73(特許請求の範囲の「第2回転体」の一例)とを備えている。ここで、ポンプハウジング71、インナーロータ72およびアウターロータ73は、金属製である。
【0050】
図5および
図6に示すように、ポンプハウジング71は、インナーロータ72およびアウターロータ73を収容するように構成されている。具体的には、ポンプハウジング71は、ポンププレート171(特許請求の範囲の「オイルポンプカバー」の一例)と、収容部172とを有している。
【0051】
ポンププレート171は、薄板状に形成されている。ポンププレート171には、アイドラギヤ41を収容部材6に取り付けるためのアイドラピン41aが挿通する貫通孔271が形成されている。
【0052】
ポンププレート171には、第1ポート171aおよび第2ポート171bが形成されている。第1ポート171aおよび第2ポート171bは、共に、ポンププレート171をA方向に貫通する貫通孔である。ポンププレート171には、ポンププレート171を第1ケース62に固定する締結部材が挿入される複数(2個)の締結孔171cが形成されている。複数の締結孔171cは、ポンププレート171の対角線上に配置されている。複数の締結孔171cは、ポンププレート171をA方向に貫通している。ポンププレート171は、カバー61と第1ケース62とにより挟み込まれる複数(2個)の凸部171dを有している。複数の凸部171dの各々は、ポンププレート171からA2方向に向かって突出している。複数の凸部171dは、ポンププレート171の対角線上に配置されている。
【0053】
図6および
図7に示すように、第1ポート171aおよび第2ポート171bは、共に、ポンプハウジング71内でインナーロータ72およびアウターロータ73により形成されたポンプ室S内にオイルを導くとともに、ポンプ室S外にオイルを導くように構成されている。つまり、オイルポンプ7は、インナーロータ72の回転とともにアウターロータ73が回転することにより、ポンプ室Sにオイルを吸入するとともに、ポンプ室Sからオイルを吐出するように構成されている。
【0054】
ポンププレート171には、第1吸入側油路F1と、第1吐出側油路F2と、第2吸入側油路F3と、第2吐出側油路F4とが形成されている。第1吸入側油路F1、第1吐出側油路F2、第2吸入側油路F3および第2吐出側油路F4は、ポンププレート171のA1方向側の面をA2方向に窪ませた溝である。第1吸入側油路F1は、下部オイルタンク68から第1ポート171aにオイルを吸入するための油路である。第1吐出側油路F2は、第1ポート171aから上部オイルタンク69にオイルを吐出するための油路である。第2吸入側油路F3は、下部オイルタンク68から第2ポート171bにオイルを吸入するための油路である。第2吐出側油路F4は、第2ポート171bから上部オイルタンク69にオイルを吐出するための油路である。
【0055】
収容部172は、ポンププレート171のA2方向側の面に設けられている。収容部172は、インナーロータ72およびアウターロータ73を収容するロータ収容空間172a(特許請求の範囲の「空間」の一例)を内部に有している。ロータ収容空間172aは、ポンププレート171のA2方向側の端面からA1方向に窪む凹形状を有している。
【0056】
本実施形態のインナーロータ72は、アイドラギヤ41の回転に伴って一体的に回転するように構成されている。インナーロータ72は、アウターロータ73の回転中心軸線C4に対して偏心した回転中心軸線C3回りに回転することにより、アウターロータ73を回転させるように構成されている。このように、オイルポンプ7は、ドライブギヤ36またはドリブンギヤ42の回転を利用するのではなく、アイドラギヤ41の回転を利用してオイルの吸入および吐出を行うように構成されている。
【0057】
具体的には、インナーロータ72は、複数(13枚)の外歯72aを含んでいる。また、インナーロータ72には、回転固定孔72bが形成されている。回転固定孔72bは、インナーロータ72をA方向に貫通している。
【0058】
回転固定孔72bには、アイドラギヤ41の筒状部41cが挿入されている。アイドラギヤ41の筒状部41cとインナーロータ72の回転固定孔72bとは、二面幅受けにより係合されている。すなわち、アイドラギヤ41の筒状部41cには、D方向において対向する一対の直線状部411が設けられている。インナーロータ72の回転固定孔72bには、D方向において対向する一対の直線状部721が設けられている。これにより、アイドラギヤ41の筒状部41cの一対の直線状部411とインナーロータ72の回転固定孔72bの一対の直線状部721とを対向させることにより、アイドラギヤ41とインナーロータ72とが係合するので、アイドラギヤ41の回転に伴ってインナーロータ72が回転する。
【0059】
回転固定孔72bには、複数(2個)の油溝72cが形成されている。複数の油溝72cの各々は、D方向のうちの外側方向に窪んでいる。複数の油溝72cの各々は、A方向に沿って延びている。複数の油溝72cは、D方向において対向する位置に配置されている。
【0060】
また、アイドラギヤ41とインナーロータ72とは、同一回転中心軸線C3上に配置されている。このように、インナーロータ72は、アイドラギヤ41に別体として取り付けられている。
【0061】
アウターロータ73は、ポンププレート171に対して回転可能に取り付けられ、インナーロータ72と噛み合うように構成されている。具体的には、アウターロータ73は、インナーロータ72の複数の外歯72aに係合する複数(14枚)の内歯73aを有している。インナーロータ72の外歯72aは、アウターロータ73の内歯73aに、内側から係合するように、アウターロータ73の内側に配置されている。インナーロータ72の外歯72aの数は、アウターロータ73の内歯73aの数よりも1枚少ない。
【0062】
インナーロータ72、アウターロータ73および収容部172は、アイドラギヤ41の凹部41eに収容されている。
【0063】
インナーロータ72がR3方向またはR4方向に回転されると、アウターロータ73も回転される。回転の際、インナーロータ72とアウターロータ73との距離の小さい側では、インナーロータ72の外歯72aとアウターロータ73の内歯73aとが噛み合っている。回転の際、インナーロータ72とアウターロータ73との距離の大きい側では、外歯72aが内歯73aよりも1枚だけ少ないために、外歯72aと内歯73aとが噛み合うことなく外歯72aと内歯73aとの間に隙間(ポンプ室S)が形成されている。
【0064】
図7および
図8に示すように、ポンプ室Sは、第1壁面S1、第2壁面S2、第3壁面S3および第4壁面S4により囲まれている。
【0065】
第1壁面S1は、オイルが吸入および吐出されるポンプ室Sを形成するためにアイドラギヤ41に設けられている。第1壁面S1は、X方向に沿って延びている。第2壁面S2は、ポンプ室Sを形成するためにポンププレート171に設けられている。第2壁面S2は、A方向において、第1壁面S1に対向している。第2壁面S2は、X方向に沿って延びている。
【0066】
第3壁面S3は、ポンプ室Sを形成するためにインナーロータ72の外歯72aに設けられている。第3壁面S3は、A方向に沿って延びている。第4壁面S4は、ポンプ室Sを形成するためにアウターロータ73の内歯73aに設けられている。第4壁面S4は、X方向に沿って延びている。第4壁面S4は、A方向において、第1壁面S1に対向している。
【0067】
インナーロータ72およびアウターロータ73(これらを合わせて、特許請求の範囲の「ポンプ回転体」の一例)は、アイドラギヤ41の第1壁面S1とポンププレート171の第2壁面S2との間に配置され、アイドラギヤ41の回転に伴って一体的に回転するように構成されている。このように、オイルポンプ7は、トロコイド式のオイルポンプにより構成されている。
【0068】
インナーロータ72は、第1側面272と、第2側面372とを有している。第1側面272は、第1壁面S1に近接対向するA2方向側の面により構成されている。第2側面372は、第2壁面S2に近接対向するA1方向側の面により構成されている。アイドラギヤ41の回転に伴って共に回転する第1壁面S1および第1側面272の間には、第1微小隙間(図示せず)が形成されている。第2壁面S2とアイドラギヤ41の回転に伴って回転する第2側面372との間には、第2微小隙間(図示せず)が形成されている。
【0069】
アイドラギヤ41の第1壁面S1とポンププレート171との間には、アイドラギヤ41の外歯41gにオイルを導く油路F5が形成されている。油路F5は、吐出圧によりポンプ室S内のオイルを外部に導く油路である。
【0070】
オイルポンプ7は、アイドラギヤ41のギヤ部141を貫通するように設けられ、油路F5に連通する潤滑孔F6とを含む。潤滑孔F6は、油路F5よりも流路抵抗が小さくなるように形成されている。すなわち、潤滑孔F6の流路幅は、油路F5の流路幅よりも大きく形成されている。図示はしないが,潤滑孔F6は、ギヤ部141において等角度間隔(約90度)ごとに形成されている。なお、潤滑孔F6は、等角度間隔(約90度)ごとにギヤ部141に形成されていなくともよく、アイドラギヤ41の外歯41gを十分に潤滑可能な量のオイルを供給可能な数が形成されればよい。
【0071】
図7に示すように、インナーロータ72およびアウターロータ73は、ポンプ室SをR3方向またはR4方向へ回転移動させてポンプ室Sを拡大・縮小させることにより、ポンプ機能を生み出している。たとえば、ポンプ室SをR3方向へ移動させて、ポンプ室Sの容積が拡大することに伴って、第1ポート171aからオイルがポンプ室Sに流れ込む。この際、ポンプ室S内の圧力は減少する(負圧になる)。また、ポンプ室Sの容積が縮小することに伴って、ポンプ室Sからオイルが第2ポート171bに流れ出る。この際、ポンプ室S内の圧力は増大する(正圧になる)。同様に、ポンプ室SをR4方向へ移動させて、ポンプ室Sの容積が拡大することに伴って、第2ポート171bからオイルがポンプ室Sに流れ込む。また、ポンプ室Sの容積が縮小することに伴って、ポンプ室Sからオイルが第1ポート171aに流れ出る。
【0072】
図9に示すように、インホイールモータ型の車両駆動装置100では、オイルポンプ7により下部オイルタンク68から吸入されたオイルは、上部オイルタンク69に供給される。上部オイルタンク69に供給されたオイルは、遊星歯車機構5および電気モータ3に自重により供給される。遊星歯車機構5および電気モータ3に供給されたオイルは、下部オイルタンク68に自重により戻る。このように、インホイールモータ型の車両駆動装置100では、オイルポンプ7によりオイルが循環されている。
【0073】
図10および
図11に示すように、オイルポンプ7は、インナーロータ72の回転方向によって、第1ポート171aおよび第2ポート171bにおいてオイルの吸入およびオイルの吐出の機能が切り替わるように構成されている。
【0074】
具体的には、オイルポンプ7は、第1吸入側チェックバルブ74および第1吐出側チェックバルブ75と、第2吸入側チェックバルブ76および第2吐出側チェックバルブ77とを含んでいる。第1吸入側チェックバルブ74、第1吐出側チェックバルブ75、第2吸入側チェックバルブ76および第2吐出側チェックバルブ77の各々は、インナーロータ72のR3方向またはR4方向への回転に合わせて開状態と閉状態とが切り替わるように構成されている。
【0075】
図11の二点鎖線によって示すように、インナーロータ72のR3方向への回転により、第1吸入側チェックバルブ74および第2吐出側チェックバルブ77が開状態となり、第2吸入側チェックバルブ76および第1吐出側チェックバルブ75が閉状態となる。これにより、オイルポンプ7は、第1吸入側油路F1および第2吐出側油路F4を介して、下部オイルタンク68のオイルを上部オイルタンク69に供給するように構成されている。
【0076】
図示はしないが、インナーロータ72のR4方向への回転により、第2吸入側チェックバルブ76および第1吐出側チェックバルブ75が開状態となり、第1吸入側チェックバルブ74および第2吐出側チェックバルブ77が閉状態となる。これにより、オイルポンプ7は、第2吸入側油路F3および第1吐出側油路F2を介して、下部オイルタンク68のオイルを上部オイルタンク69に供給するように構成されている。
【0077】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0078】
本実施形態では、上記のように、インホイールモータ型の車両駆動装置100に、オイルが吸入および吐出されるポンプ室Sを形成するための第1壁面S1を有するアイドラギヤ41と、電気モータ3により駆動されるオイルポンプ7とを設ける。そして、オイルポンプ7に、ポンプ室Sの第1壁面S1に対向する第2壁面S2を有するポンププレート171と、アイドラギヤ41の第1壁面S1とポンププレート171の第2壁面S2との間の空間(ロータ収容空間172a)に配置され、アイドラギヤ41の回転に伴って一体的に回転するインナーロータ72およびアウターロータ73とを設ける。これにより、アイドラギヤ41の第1壁面S1を利用してオイルポンプ7のポンプ室Sを形成することができるので、オイルポンプ7の専用部品として第1壁面S1を形成するポンプボディを設ける必要がない。この結果、オイルポンプ7の専用部品として第1壁面S1を形成するポンプボディを設けない分だけ、オイルポンプ7の部品点数を減少させることができるとともに、インホイールモータ型の車両駆動装置100のA方向(軸方向)の寸法の増加を抑制することができる。また、アイドラギヤ41およびインナーロータ72およびアウターロータ73は一体的に回転することにより、アイドラギヤ41の回転速度とインナーロータ72およびアウターロータ73の回転速度との間に相対的な回転速度差の発生を抑制することができるので、アイドラギヤ41とインナーロータ72およびアウターロータ73との第1微小隙間に充填されているオイルのインナーロータ72およびアウターロータ73の回転に起因する変形を抑制することができる。これにより、インナーロータ72およびアウターロータ73の回転の際に第1微小隙間に充填されたオイルに生じるせん断抵抗を減少させることができる。この結果、オイルポンプ7を駆動させるためのトルクの増加を抑制することができるので、オイルポンプ7の駆動効率の悪化を抑制することができる。また、アイドラギヤ41の回転に伴って一体的に回転するインナーロータ72およびアウターロータ73を含むオイルポンプを用いることにより、電気モータ3とは別個に設けられた専用のモータにより回転するインナーロータ72およびアウターロータ73を含むオイルポンプ7を用いる場合と異なり、専用のモータのための配線などを設ける必要がない。この結果、インホイールモータ型の車両駆動装置100の大型化および複雑化を抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、インホイールモータ型の車両駆動装置100に、アイドラギヤ41の第1壁面S1とポンププレート171との間に形成され、アイドラギヤ41の外歯41gにオイルを導く油路F5を設ける。これにより、アイドラギヤ41の外歯41gにオイルを導く専用の油路を設けることなく、アイドラギヤ41の第1壁面S1とポンププレート171との間に形成される隙間としての油路F5を利用して、アイドラギヤ41の外歯41gにオイルを供給することができる。
【0080】
また、本実施形態では、上記のように、アイドラギヤ41の外歯41gに、アイドラギヤ41の外歯41gを貫通するように設けられ、油路F5に連通する潤滑孔F6を設ける。これにより、アイドラギヤ41の外歯41gの歯面(表面)により直接的にオイルを供給することができるので、アイドラギヤ41の回転をより円滑にすることができる。
【0081】
また、本実施形態では、上記のように、オイルポンプ7を、インナーロータ72の回転とともにアウターロータ73が回転することにより、ポンプ室Sにオイルを吸入するとともに、ポンプ室Sからオイルを吐出するように構成する。これにより、アイドラギヤ41の回転を利用して回転するインナーロータ72およびアウターロータ73によりオイルの吸入および吐出を行うギヤポンプとしてオイルポンプを構成することができるので、インナーロータ72およびアウターロータ73を回転させる駆動源を別個に設ける必要がない。この結果、インホイールモータ型の車両駆動装置100の部品点数の増加および複雑化を抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態では、上記のように、オイルポンプ7を、アイドラギヤ41の回転方向の切り替えに伴って、第1ポート171aおよび第2ポート171bにおいてオイルの吸入およびオイルの吐出が切り替わるように構成する。これにより、アイドラギヤ41の回転方向にかかわらずオイルポンプ7によるオイルの吸入および吐出を行うことができるので、車両の前進または後進にかかわらずインホイールモータ型の車両駆動装置100の各構成部品にオイルを供給することができる。
【0083】
また、本実施形態では、上記のように、アイドラギヤ41に、A2方向側に窪ませ、インナーロータ72およびアウターロータ73を内部に収容する凹部41eを設ける。インナーロータ72およびアウターロータ73を、ドライブギヤ36の駆動によりアイドラギヤ41と一体的に回転するように構成する。これにより、アイドラギヤ41の凹部41e内にインナーロータ72およびアウターロータ73を収容することにより、A方向におけるオイルポンプ7の大型化を抑制することができるので、インホイールモータ型の車両駆動装置100の軸方向の寸法の増加をより抑制することができる。
【0084】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0085】
たとえば、上記実施形態では、オイルポンプ7は、トロコイド式のオイルポンプにより構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、オイルポンプは、サイクロン式のオイルポンプおよびベーン式のオイルポンプなどにより構成されてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、アイドラギヤ41の筒状部41cとインナーロータ72の回転固定孔72bとが、二面幅受けにより係合されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、アイドラギヤの筒状部とインナーロータの固定孔とは、スプライン嵌合、キー溝による嵌合またピン留めなどにより取り付けられてもよい。
【0087】
また、本実施形態では、金属製のインナーロータ72は、金属製のアイドラギヤ41に別体として取り付けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、インナーロータとアイドラギヤとを一体的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 ハブ
3 電気モータ
7 オイルポンプ
36 ドライブギヤ(駆動ギヤ)
41 アイドラギヤ(従動ギヤ)
41g 外歯
41e 凹部
72 インナーロータ(ポンプ回転体、第1回転体)
73 アウターロータ(ポンプ回転体、第2回転体)
100 インホイールモータ型の車両駆動装置
141 ギヤ部
171 ポンププレート(オイルポンプカバー)
171a 第1ポート
171b 第2ポート
172a ロータ収容空間(空間)
C3 (ギヤ部の)回転中心軸線
F5 油路
F6 潤滑孔
S ポンプ室
S1 第1壁面
S2 第2壁面
W ホイール