(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ボンド磁石製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20231017BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20231017BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20231017BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20231017BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231017BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 180
H01F1/059 160
H01F1/08 130
B22F3/00 C
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2019128950
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-05-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 忍
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-083999(JP,A)
【文献】国際公開第2019/133708(WO,A1)
【文献】特開2007-042816(JP,A)
【文献】特開平06-349613(JP,A)
【文献】特表2021-508620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0193151(US,A1)
【文献】特表2018-515361(JP,A)
【文献】国際公開第2019/122307(WO,A1)
【文献】特開2018-139305(JP,A)
【文献】特開平02-108520(JP,A)
【文献】特開平02-108519(JP,A)
【文献】特開2019-054129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
B28B 1/00- 1/54
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00-99/00
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粉末と該磁石粉末よりも融点が低いバインダの粉末を混合した原料粉末を、基台の上の、製造しようとするボンド磁石に対応する形状の粉末供給領域に向けてノズルから吐出する原料粉末供給工程と、
前記原料粉末供給工程と同時並行で、前記粉末供給領域と同じ領域である照射領域に、前記磁石粉末を溶融させることなく前記バインダの粉末を溶融又は硬化させる温度に前記原料粉末を加熱するビームを照射するビーム照射工程と、
を有することを特徴とするボンド磁石製造方法。
【請求項2】
前記バインダの粉末の粒子が球形状であることを特徴とする請求項
1に記載のボンド磁石製造方法。
【請求項3】
前記ビーム照射工程が、前記原料粉末を、前記磁石粉末に変質が生じる温度よりも低い温度に加熱するものであることを特徴とする請求項
1又は2に記載のボンド磁石製造方法。
【請求項4】
前記ビーム照射工程において、製造しようとするボンド磁石の形状に沿って前記ビームを移動させることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載のボンド磁石製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボンド磁石の製造装置及び製造方法、並びに、該製造装置及び該製造方法により得られるボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、磁石としての特性を有する磁石材料を粉砕して粉末にした磁石粉末をバインダと混合して固めたものであって、作製時に高温(焼結磁石では1000℃前後)に加熱する必要がないこと、割れや欠けが生じ難いこと等の特長を有する。
【0003】
従来、ボンド磁石の製造方法として、圧縮成形法や射出成形法等が用いられている(例えば特許文献1参照)。圧縮成形法では磁石粉末とバインダの混合粉を金型のキャビティ内に充填したうえで圧縮しつつ加熱し、硬化させる。射出成形法では磁石粉末とバインダの混合粉を加熱してバインダを溶融させたうえで、金型のキャビティ内に射出する。多くの場合、圧縮成形法ではバインダにはフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられ、射出成形法ではナイロン等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-057017号公報
【文献】特開2018-167565号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「押さえておきたい金属3Dプリンターの基礎知識~造形原理や原料からメリット・デメリットまでを簡単紹介~みんなの試作広場」, [online], 2018年, 株式会社日立ハイテクノロジーズ, [2019年5月14日検索], インターネット<URL:https://minsaku.com/category01/post40/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら圧縮成形法や射出成形法によれば、製造しようとするボンド磁石の形状に対応した形状のキャビティを有する金型を用いることにより、圧縮成形又は射出成形後に機械的な加工を行うことなく、所望の形状のボンド磁石を得ることができる。しかし、ユーザが要求するボンド磁石の形状は多様であり、それらの要求に応えるためには形状毎に金型を用意しなければならない。このため、小ロットのボンド磁石の製造は高コストであるという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、所望の形状のボンド磁石を低コストで製造することができる装置及び方法を提供することである。併せて、該装置及び該方法により得られるボンド磁石を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るボンド磁石製造装置は、
a) 基台と、
b) 磁石粉末と該磁石粉末よりも融点が低いバインダの粉末を混合した原料粉末を、前記基台の上の所定の粉末供給領域に供給する原料粉末供給部と、
c) 前記粉末供給領域のうち、製造しようとするボンド磁石の形状に対応する領域である照射領域に、前記磁石粉末を溶融させることなく前記バインダの粉末を溶融又は硬化させる温度に前記原料粉末を加熱するビームを照射するビーム照射部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るボンド磁石製造装置では、まず、原料粉末供給部により、原料粉末を基台の上の所定の粉末供給領域に供給する。次に、粉末供給領域のうち、製造しようとするボンド磁石の形状に対応する領域である照射領域に、前記原料粉末を加熱するビームを照射する。ここで照射するビームには、レーザービームや電子ビーム等を用いることができる。原料粉末を加熱する温度は、磁石粉末を溶融させない(すなわち融点未満の)温度であって、且つ、バインダが熱可塑性樹脂のように加熱によって溶融する材料から成る場合にはバインダの粉末を溶融させる(すなわち融点以上の)温度とし、バインダが熱硬化性樹脂のように加熱によって硬化する材料から成る場合にはバインダの粉末を硬化させる温度とする。バインダが加熱によって溶融する材料から成る場合にはビームの照射後に周囲に熱を奪われて融点未満に冷却されることにより、バインダが加熱によって硬化する材料から成る場合にはビームの照射により、粉末供給領域のうちの照射領域内の原料粉末が硬化し、ボンド磁石の一部が形成される。なお、照射領域に照射されるビームの径は、照射領域における最小の差し渡し寸法以下とする。
【0010】
その後、形成済みのボンド磁石の一部(形成済部分)及びその周囲のビームが照射されていない原料粉末を含む領域の上に、原料粉末供給部から原料粉末を供給する。そして、形成済部分の上側に形成すべきボンド磁石の形状に対応する領域を照射領域として、ビーム照射部からビームを照射する。このように、原料粉末供給部による原料粉末の供給とビーム照射部によるビームの照射を繰り返すことにより形成済部分を拡大してゆき、最終的に、所望の3次元形状を有するボンド磁石を製造することができる。なお、製造しようとするボンド磁石が薄い(基台上の高さが低く、ビーム照射方向の寸法が小さい)場合には、原料粉末の供給とビーム照射部によるビームの照射を1回のみ行うようにしてもよい。
【0011】
本発明に係るボンド磁石製造装置では、金型を使用しない。これにより、従来のボンド磁石製造装置においてボンド磁石の形状毎に金型を用意することにより生じていたコストが不要になるため、小ロットの場合でも低コストで所望の形状のボンド磁石を製造することができる。
【0012】
磁石粉末には、希土類元素("R"とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系磁石(特に、Rとして主にネオジム(Nd)を有するNdFeB系磁石)の粉末、サマリウム(Sm)、鉄及び窒素(N)を主な構成元素とするSmFeN系磁石の粉末、サマリウム及びコバルト(Co)を主な構成元素とするSmCo系磁石の粉末等を用いることができる。
【0013】
バインダには、例えば以下の樹脂の粉末を用いることができる。熱可塑性樹脂では、ポリエステルエラストラマー(TPC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ乳酸(PLA)、エチルセルロース(EC)ナイロン6、ナイロン12等が挙げられる。熱硬化性樹脂ではエポキシ樹脂やフェノール樹脂等が挙げられる。
【0014】
従来より、金属粉末を基台上の所定の粉末供給領域に供給したうえで、粉末供給領域のうちの照射領域にレーザービームや電子ビーム等を照射することで該照射領域内の金属粉末を溶融させ、その後冷却することにより、金属製の造形物を作製することが行われている(例えば特許文献2、非特許文献1参照)。しかし、上記したRFeB系磁石、SmFeN系磁石及びSmFeN系磁石を含むほとんどの磁石材料は、溶融すると分解してしまう。このように分解してしまうと、その後冷却しても元の磁石材料には戻らず、磁石としての所期の磁気特性を得ることができない。そこで本発明では、磁石粉末とバインダの粉末の混合粉末を原料粉末として用い、磁石粉末を溶融させることなくバインダの粉末を溶融又は硬化させる温度に原料粉末を加熱することにより、磁石粉末(磁石材料)を分解又は変性させることなくボンド磁石を作製することができる。
【0015】
本発明に係るボンド磁石製造装置において、前記粉末供給領域は、前記照射領域よりも広い領域としてもよいし、前記照射領域と同じ領域としてもよい。照射領域よりも粉末供給領域を広い領域とする例として、パウダーベッドフュージョン(粉末付加溶融結合法)が挙げられる。パウダーベッドフュージョンでは、原料粉末供給部は基台の上に原料粉末の層を形成し、その層の一部を照射領域として、ビーム照射部は該照射領域にビームを照射する。一方、粉末供給領域を照射領域と同じ領域とする例として、レーザーメタルデポジション(指向性エネルギー堆積法)が挙げられる。レーザーメタルデポジションでは、原料粉末供給部は、製造しようとするボンド磁石に対応する形状の粉末供給領域に向けてノズルから原料粉末を吐出する。それと同時並行で、ビーム照射部は、ノズルから粉末供給領域(=照射領域)に供給された原料粉末にビームを照射する。これにより、磁石粉末を溶融させることなくバインダの粉末を溶融又は硬化させ、該粉末供給領域にボンド磁石の材料を堆積させる。
【0016】
本発明に係るボンド磁石製造装置はさらに、前記粉末供給領域に供給された原料粉末に圧力を印加する圧力印加部を備えることができる。圧力印加部を用いてビームを照射する前に原料粉末に圧力を印加しておくことにより、原料粉末の粒子間に存在する空間を小さくし、それによって、製造されるボンド磁石の密度を高くすることができる。なお、ビーム照射後に圧力を印加するという使い方も可能である。
【0017】
原料粉末を加熱する際に、磁石粉末が溶解はしないものの、磁石粉末に含まれる元素の一部が離脱する等、磁石粉末に変質が生じることがある。この場合、得られるボンド磁石は、磁石としての磁気特性は有するものの、磁気特性を表す数値(残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積等)が低下することがある。そのため、ビーム照射部は、前記原料粉末を、前記磁石粉末に変質が生じる温度よりも低い温度に加熱するものであることが望ましい。
【0018】
本発明に係るボンド磁石製造方法は、
磁石粉末と該磁石粉末よりも融点が低いバインダの粉末を混合した原料粉末を、基台の上の所定の粉末供給領域に供給する原料粉末供給工程と、
前記粉末供給領域のうち、製造しようとするボンド磁石の形状に対応する領域である照射領域に、前記磁石粉末を溶融させることなく前記バインダの粉末を溶融又は硬化させる温度に前記原料粉末を加熱するビームを照射するビーム照射工程と
を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るボンド磁石製造方法において、原料粉末供給工程及びビーム照射工程は1回ずつのみ行ってもよいし、原料粉末供給工程及びビーム照射工程を交互に複数回行ってもよい。
【0020】
本発明に係るボンド磁石製造方法において、前記原料粉末供給工程と前記ビーム照射工程の間に、前記粉末供給領域に供給された原料粉末に圧力を印加する圧力印加工程を行ってもよい。
【0021】
本発明に係るボンド磁石製造方法において、前記原料粉末供給工程は前記基台の上に原料粉末の層を形成するものであって、前記ビーム照射工程は前記層の一部を前記照射領域として該照射領域に前記ビームを照射するものとすることができる(パウダーベッドフュージョン)。この場合において、前記原料粉末の層の厚さが前記磁石粉末の粒子の最大径以上であるとよい。これにより、原料粉末の層を作製する際に、磁石粉末の粒子が器具に引っ掛かって剥がれることを防ぐことができ、均一な層を形成することができる。
【0022】
本発明に係るボンド磁石製造方法において、前記原料粉末供給工程が、製造しようとするボンド磁石に対応する形状の前記粉末供給領域にノズルを用いて原料粉末を供給するものであって、前記ビーム照射工程が前記粉末供給領域と同じ領域である前記照射領域にビームを照射するものとすることができる(レーザーメタルデポジション)。
【0023】
本発明に係るボンド磁石製造方法において、前記バインダの粉末の粒子は球形状であることが好ましい。これにより、原料粉末供給工程において、異形状(非球形状)である磁石粉末の粒子を含有する原料粉末の流動性を改善することができる。
【0024】
本発明に係るボンド磁石製造装置において原料粉末供給部が原料粉末の層を形成する場合、及び本発明に係るボンド磁石製造方法の原料粉末供給工程において原料粉末の層を形成する場合、以下の特徴を有するボンド磁石を得ることができる。このボンド磁石は、磁石粉末の粒子間がバインダで結合されて成る層が複数積層しており、該層の各々において共通の方向に向かって該バインダの密度が増加してゆく密度分布を有し、該方向が積層方向の一方から他方に向かう方向であることを特徴とする。
【0025】
このような層が複数積層した構造は、本発明に係るボンド磁石製造方法において原料粉末供給工程及びビーム照射工程を複数繰り返し行うことにより形成される。その際、ビーム照射工程において、原料粉末の層の厚み方向に関してビームが入射する側(前記「他方」の側に対応)の方が、その反対側(前記「一方」の側に対応)よりも、到達するビームのエネルギーの減衰率が低いため、バインダの粉末が良く溶融する。その結果、溶融後に硬化したバインダの密度は、ビームが入射する側の方がその反対側よりも高くなる。そのため、得られたボンド磁石では、各層が積層方向の前記一方から前記他方に向かってバインダの密度が増加してゆくという構成を有する。これにより、このボンド磁石はバインダの密度が高い部分が機械的強度の高い壁となって縞状に存在することとなるため、全体の機械的強度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るボンド磁石製造装置及びボンド磁石製造方法によれば、金型を使用しないため、所望の形状のボンド磁石を低コストで製造することができる。また、本発明に係るボンド磁石製造装置及びボンド磁石製造方法を用いて、機械的強度が高いボンド磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るボンド磁石製造装置の第1実施形態の構成を示す概略図。
【
図2A】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作のうち、原料粉末供給工程の一部を示す概略図。
【
図2B】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作のうち、原料粉末供給工程の他の一部を示す概略図。
【
図2C】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作のうち、圧力印加工程を示す図。
【
図2D】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作のうち、ビーム照射工程を示す図。
【
図2E】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作のうち、2回目の原料粉末供給工程の一部を示す概略図。
【
図2F】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作のうち、2回目のビーム照射工程を示す図。
【
図2G】第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作が終了した状態を示す図。
【
図3】本発明に係るボンド磁石製造方法の一実施形態を示すフローチャート。
【
図4】本発明に係るボンド磁石製造装置の第2実施形態の構成を示す概略図。
【
図5】製造したボンド磁石の一例を上面及び側面から撮影した写真。
【
図7】本発明に係るボンド磁石においてバインダの密度分布が生じる理由を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1~
図7を用いて、本発明に係るボンド磁石製造装置、ボンド磁石製造方法及びボンド磁石の実施形態を説明する。
【0029】
(1) 第1実施形態のボンド磁石製造装置の構成
図1に、本発明に係るボンド磁石製造装置の第1実施形態の構成を示す。このボンド磁石製造装置10は、基台11と、原料粉末供給部12と、ビーム照射部13と、圧力印加部14と、余剰粉末回収部15と、制御部(図示せず)とを有する。
【0030】
基台11は、後述のように原料粉末供給部12によって供給される、ボンド磁石の原料粉末P(詳細は後述)を上面に保持する台である。基台11は基台昇降機構111により昇降する。
【0031】
原料粉末供給部12は、原料粉末貯留槽121と、貯留槽底部昇降機構122と、ローラ123とを有する。原料粉末貯留槽121は、底部1211と側壁1212から構成される原料粉末Pの貯留槽であって、底部1211のみが貯留槽底部昇降機構122により昇降する。ローラ123は、原料粉末貯留槽121の上端の高さにおいて横方向に、基台11の反対側の端から基台11側の端まで移動し、さらに、基台11の原料粉末貯留槽121の端から原料粉末貯留槽121の反対側の端まで、回転しながら移動することにより、原料粉末貯留槽121内の原料粉末Pを基台11の上面に供給するものである。
【0032】
ビーム照射部13は、レーザー光源131と、反射鏡132、スキャン機構133とを有する。反射鏡132は基台11の上側の位置である使用位置と、基台11の上側から外れた待機位置の間で移動可能であって、使用位置に配置されているときにレーザー光源131から出射されるレーザービームを反射して基台11の上面に(さらにいうと、後述のように該上面に形成される原料粉末Pに)照射する。スキャン機構133は、反射鏡132の向き(基台11の上面に対する角度)を変化させる装置であって、反射鏡132の向きを変化させることによって、基台11の上面におけるレーザービームのスポットの位置を移動させるものである。なお、反射鏡132の向きは3次元的に変化させることができ、それによって、レーザービームのスポットの位置は
図1の左右方向のみならず奥行き方向にも移動する。
【0033】
圧力印加部14は、基台11の上面に対応する形状の下面を有し、基台11の上面に供給された原料粉末Pに上側から圧力を印加する部材である。
【0034】
余剰粉末回収部15は、基台11を挟んで原料粉末貯留槽121の反対側に設けられ、ローラ123によって原料粉末貯留槽121から基台11の上面に供給される原料粉末Pのうち、基台11の上面で層を形成することなく余剰となったものを回収する槽である。
【0035】
制御部は、基台昇降機構111、貯留槽底部昇降機構122、ローラ123、レーザー光源131、スキャン機構133、及び圧力印加部14の動作を制御するものである。
【0036】
(2) 第1実施形態のボンド磁石製造装置の動作及びボンド磁石製造方法
図1~
図3を用いて、第1実施形態のボンド磁石製造装置10の動作、及びその動作により実施されるボンド磁石製造方法を説明する。
【0037】
まず、貯留槽底部昇降機構122によって原料粉末貯留槽121の底部1211を適宜の高さまで上昇させた状態で、原料粉末Pを原料粉末貯留槽121内にすりきり一杯、投入する(
図1)。原料粉末Pは、磁石粉末とバインダの粉末を混合した粉末である。磁石粉末には、RFeB系磁石の粉末、SmFeN系磁石の粉末、SmCo系磁石の粉末等を用いる。バインダの粉末には、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の粉末や、ナイロンやポリフェニレンスルフィド(PPS)等の熱可塑性樹脂の粉末等を用いることができる。ここでPPSは、285℃という、熱可塑性樹脂のうちでは高い融点を有することから、200℃程度までの耐熱性が要求される自動車用モータに用いるボンド磁石に好適に使用することができるバインダの材料である。バインダの粉末は、粒子が球形状になるように造粒されていることが好ましい。これにより、次に述べるように原料粉末の層PLを形成する際に、原料粉末Pの必要な流動性を確保することができる。磁石粉末とバインダの粉末の混合比は、従来のボンド磁石の場合と同様でよく、例えば体積比で9:1(前者が磁石粉末、後者がバインダの粉末)~6:4とする。
【0038】
次に、以下の方法により、所定の厚さd(詳細は後述)を有する原料粉末の層PLを基台11の上面に形成する。まず、基台昇降機構111により、基台11の上面の位置が原料粉末貯留槽121の上端よりもdだけ下の位置になるように、基台11を移動させる。それと共に、貯留槽底部昇降機構122により、原料粉末貯留槽121の底部1211を上昇させる(
図2A)。ここで底部1211の位置は、原料粉末Pが原料粉末貯留槽121の側壁1212の上端からはみ出す体積が、基台11の上面の面積と前記厚さdを乗じた体積よりもやや大きくなるようにする。
【0039】
この状態で、前述のようにローラ123を移動させる(
図2B)。これにより、側壁1212の上端よりも上側の位置にはみ出していた原料粉末Pが基台11の上面に移動し、基台11の上面の全体に、厚さdを有する原料粉末の層PLが形成される。従って、本実施形態では、基台11の上面の全体が前記粉末供給領域に該当する。余った原料粉末Pは、ローラ123により、余剰粉末回収部15に投入されて回収される。ここまでの操作により、原料粉末供給工程(
図3のステップS1)が完了する。
【0040】
次に、反射鏡132が待機位置に配置されている状態において、圧力印加部14により原料粉末の層PLに圧力が印加される(
図2C、
図3のステップS2、圧力印加工程)。これにより、原料粉末の層PLにおける原料粉末Pの密度が高くなる。原料粉末の層PLに印加する圧力は適宜定めればよいが、通常は、油圧プレス機で印加するような高い圧力でなくてもよく、人の手で粉体を押し固める際に印加することができる程度の圧力でもよい。
【0041】
次に、反射鏡132を使用位置に配置したうえで、レーザー光源131からレーザービームLBを出射する。レーザービームLBは反射鏡132で反射され、基台11上面の原料粉末の層PLに照射される。そして、スキャン機構133によって反射鏡132の向きを変化させることにより、原料粉末の層PLにおけるレーザービームLBのスポットの位置を移動させる(
図2D)。この操作により、原料粉末の層PLのうち、レーザービームLBが照射された(レーザービームLBのスポットが通過した)領域である照射領域において、原料粉末P中のバインダの粉末が硬化(バインダが熱硬化性樹脂等の場合)又は溶融した後冷却されて硬化(同・熱可塑性樹脂等の場合)し、ボンド磁石の一部(形成済部分BMP)が形成される(
図3のステップS3、ビーム照射工程)。
【0042】
ここで、レーザービームLBの強度は、磁石粉末を溶融させることなくバインダの粉末を溶融又は硬化させる温度に原料粉末Pを加熱することができるよう、予備実験を行って設定しておく。この予備実験では、レーザービームLBを照射しているときの原料粉末Pの温度を直接測定する必要はない。すなわち、ある強度のレーザービームLBを照射することによりバインダの粉末が溶融又は硬化したか否かは、レーザービームLBの照射後に原料粉末Pが硬化しているか否かを目視で確認し、磁石粉末が溶融しているか否かは、得られたボンド磁石の磁気特性を測定したうえで磁石としての所期の磁気特性を有しているか否かを確認する。その結果、レーザービームLBの照射後に原料粉末Pが硬化しており、且つ、得られたボンド磁石が磁石としての所期の磁気特性を有していれば、その強度のレーザービームLBが原料粉末Pを目的の温度に加熱できる、といえる。
【0043】
ステップS3を終了した段階で、製造しようとするボンド磁石の3次元形状が未だ完成していない(ステップS4において「NO」である)場合には、ステップS1に戻り、ステップS1~S3までの操作を再び行う。具体的には、2回目以降のステップS1では、1回目のステップS1と同様に基台11及び原料粉末貯留槽121の底部1211を移動させ、それまでの工程で形成された形成済部分BMP及びレーザービームLBが照射されずに形成済部分BMPの周囲に残った原料粉末Pの上に、新たな原料粉末の層(
図2Eに符号「PL2」を付した層)を形成する。そして、原料粉末の層PL2に圧力を印加した(図示省略)うえで、該層PL2にレーザービームLBをスキャンしながら照射することにより、該層PL2にボンド磁石の一部(形成済部分BMP2)を形成する(
図2F)。ここで、原料粉末の層PL2の位置毎でレーザービームLBを照射する時間(ビームを移動させる速度)及びレーザービームLBの出力は、該層PL2における原料粉末P内のバインダの粉末を溶融又は硬化することができ、且つ、該層PL2よりも下にある原料粉末の層内の原料粉末P内のバインダの粉末は溶融又は硬化しないように予備実験で調整しておく。
【0044】
このように、ステップS1~S3までの操作を繰り返し行うことにより、ボンド磁石の3次元形状を形成してゆく。
【0045】
そして、ステップS3を終了した段階で、製造しようとするボンド磁石BMの3次元形状が完成した(
図2G、ステップS4において「YES」である)ときに、ボンド磁石製造装置10の一連の操作が終了する。その後、得られたボンド磁石BMを基台11の上から取り出し、レーザービームが照射されずにボンド磁石の周囲に残った原料粉末Pを余剰粉末回収部15に回収する。その際、ボンド磁石BMと基台11が融着している場合には、電動帯のこぎり等を用いて、ボンド磁石BMを基台11から切り離す。なお、レーザービームBLを照射しない原料粉末の層を基台11上に(例えば2~3層)形成し、その上にレーザービームBLを照射する対象となる原料粉末の層を積層してゆくことにより、ボンド磁石BMが基台11に融着することなく、ボンド磁石BMを容易に取り出すことができる。
【0046】
なお、
図2D~Gでは1個のボンド磁石BMを製造するように描いたが、1つの原料粉末の層PLに対して、複数個のボンド磁石BMに対応した複数個の照射領域にレーザービームを照射することにより、複数個のボンド磁石BMを同時に製造することもできる。
【0047】
前記厚さdの値を小さくすると、ボンド磁石BMの3次元形状を精密に形成することができるという利点が生じる一方、原料粉末供給工程からビーム照射工程までの操作を行う回数が増加するため製造に要する時間が長くなるという欠点が生じる。厚さdの値は、これら利点と欠点を勘案して適宜定めればよい。
【0048】
(3) 第2実施形態のボンド磁石製造装置
図4に、本発明に係るボンド磁石製造装置の第2実施形態の構成を示す。このボンド磁石製造装置20は、基台21と、原料粉末供給部22と、ビーム照射部23と、制御部(図示せず)とを有する。
【0049】
基台21は、原料粉末Pを上面に保持する台である点では第1実施形態と同様であるが、第1実施形態とは異なり、後述のように固定してもよいし移動可能としてもよい。
【0050】
原料粉末供給部22は、原料粉末貯留部221と、原料粉末送出部222と、ノズル223と、ノズル移動機構224とを有する。なお、
図4ではノズル223を拡大して示しており、図中の各部の大きさの比は実際のものとは異なる。原料粉末貯留部221は原料粉末Pを貯留するものである。原料粉末送出部222は原料粉末貯留部221に貯留された原料粉末Pを気流に乗せてノズル223に送出するものである。ノズル223は基台21の上側に配置され、ノズル移動機構224によって基台21の上面側で3次元状(上下、前後、左右)に移動する。その際、基台21は固定しておいてもよいし、ノズル223とは独立に3次元状に移動させるようにしてもよい。あるいは、ノズル223を固定した状態で基台21を3次元状に移動させるようにしてもよい。ノズル223は同軸状の2つの空間を有する二重構造になっており、原料粉末送出部222から送出された原料粉末Pが外側の空間を通過し、ノズル223の先端から基台21の上面に噴射される。
【0051】
ビーム照射部23は、レーザー光源231と、レーザー光導光路232と、レーザービーム出射部233とを有する。レーザービーム出射部233は、ノズル223における同軸状の2つの空間のうち内側の部分が該当する。レーザー光導光路232はレーザー光源231とレーザービーム出射部233を繋ぐ光ファイバーである。
【0052】
制御部は、原料粉末送出部222、ノズル移動機構224及びレーザー光源231の動作を制御する。
【0053】
第2実施形態のボンド磁石製造装置20の動作を説明する。原料粉末Pの構成は第1実施形態で用いるものと同様である。原料粉末Pは予め原料粉末貯留部221に貯留しておく。ボンド磁石製造装置20の動作を開始すると、ノズル移動機構224は、制御部の制御によって、基台21の表面のうち、製造しようとするボンド磁石の形状に対応した粉末供給領域内で、ノズル223を該表面に沿って2次元状に移動させる。それと共に、原料粉末送出部222は原料粉末Pを原料粉末貯留部221からノズル223に送出する。これにより、原料粉末Pはノズル223から基台21の上面の粉末供給領域内に散布される。さらにそれと同時に、レーザー光源231はレーザー光を出射する。レーザー光はレーザー光導光路232を通ってレーザービーム出射部233に到達する。そして、基台21の表面に散布された原料粉末Pに直ちに、レーザービーム出射部233からレーザービームが照射される。これにより、基台21の表面で原料粉末P中のバインダの粉末が硬化(バインダが熱硬化性樹脂等の場合)又は溶融した後冷却されて硬化(同・熱可塑性樹脂等の場合)する。本実施形態では、基台21の表面状の原料粉末Pが供給された位置の全てにレーザービームが照射されるため、照射領域と粉末供給領域は一致している。
【0054】
ここまでの操作によってノズル223が粉末供給領域の全体を移動すると、基台21の表面には、粉末供給領域と同じ形状を有する、ボンド磁石の一部が形成される。そして、形成済みのボンド磁石の一部の上に、さらにここまでと同様の操作を繰り返し行うことにより3次元形状を形成してゆくことにより、所定の形状のボンド磁石が製造される。
【0055】
(4) 実験結果
以下、第1実施形態のボンド磁石製造装置を用いてボンド磁石を製造し、得られたボンド磁石の磁気特性を測定した結果を説明する。
【0056】
(実験1)
実験1では、原料粉末Pには、磁石粉末としてSmFeN系磁石の粉末を、バインダの粉末としてPPSの粉末を、それぞれ含有するものを用いた。磁石粉末は、Sm:19.30(質量%、以下同じ)、Zr:1.65、Co:3.95、Al:0.30、N:3.29、Fe:残部の組成になるように配合した合金を単ロール急冷装置を用いて溶解し、その後溶湯をロール上に落下させて急冷し、それにより得られたリボン状フレークをピンミルで粉砕し、目開き150μmの篩で分級することにより作製した。得られた磁石粉末の粒子は扁平状であり、その粒径は中央値D50で109.5μmである。バインダの粉末の粒子は粒径50μmの球形状である。磁石粉末とバインダの粉末の混合比は、質量比で98:2(前者が磁石粉末、後者がバインダの粉末。以下同様。)~90:10、体積比で90:10~61:39である。原料粉末の層PLの厚さdは150μmとし、原料粉末供給工程及びビーム照射工程を34回繰り返すことにより、厚さ5mmのボンド磁石BMを製造した。なお、実験1では圧力印加工程は行っていない。照射領域はいずれの原料粉末の層PLにおいても面内で同一の位置にある径10mmの円形とし、それによりボンド磁石BMの3次元形状を円板状とした。レーザー光源131には炭酸ガスレーザーを用いた。このレーザー光源131は、波長10.6μm、レーザースポット径220μmのレーザービームを最大出力強度60Wで出射する能力を有するが、本実施例では出力強度を5~40Wの範囲内に絞って用いた。レーザースポットの移動速度は5m/secとした。レーザービームは、1つの原料粉末の層PLにおける照射領域に対して1~4回照射した。本実験ではバインダの材料に熱可塑性樹脂であるPPSを用いているため、原料粉末の層PLの同じ位置に複数回レーザービームを照射すると、その度にバインダの溶解及び硬化が生じる。
【0057】
磁石粉末とバインダの粉末の混合比、並びにレーザービームの出力強度及び照射回数が異なる複数の条件で、ボンド磁石BMの製造を試みた結果を表1に示す。ここで、レーザー出力による原料粉末の変質の有無を調査するために、製造した成形体の一部を削り取って粉末にし、専用容器に詰め、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)により磁気特性(残留磁束密度B
r、保磁力H
cj及び最大エネルギー積(BH)
max)を測定した。
【表1】
【0058】
いずれの場合も、円板状の形状を保ったボンド磁石が得られており、本実験におけるレーザー照射条件のうちのいずれの場合にも、バインダの粉末は溶解したうえで硬化したといえる。
図5に、得られたボンド磁石の一例を上面側及び側面側から撮影した写真を示す。
【0059】
しかし、VSMによる磁気特性の測定の結果、試料1及び2では残留磁束密度Br、保磁力Hcj及び最大エネルギー積(BH)maxのいずれもが他の試料よりも顕著に低く、磁石としての磁気特性が得られていない。これら試料1及び2では、レーザービームの出力強度が30~40Wという他の試料よりも高い値を有し、レーザービームの照射時に磁石粉末に高い熱が加わり変質したと考えられる。そのため、これら試料1及び2は比較例とした。それに対して試料3~11は、磁石としての磁気特性が得られており、実施例とした。
【0060】
実施例の中でも特に、試料5~9の磁気特性は、原料粉末P(磁石粉末とバインダの粉末の混合比が質量比で90:10)における残留磁束密度Br(8.03kG)、保磁力Hcj(9.45kOe)及び最大エネルギー積(BH)max(13.0)とほぼ同じ値が得られており、製造時に磁石粉末の変質が生じていないと考えられる。一方、試料3及び4の磁気特性は、原料粉末よりも低下しているが、試料1~6においてレーザーの出力が低下するのに伴って磁気特性が向上していることから、製造時に磁石粉末に高い熱が徐々に加わなくなり、それに伴って変質が阻止されたものと考えられる。従って、実験1で用いた装置において、この原料粉末Pからボンド磁石を作製する場合には、レーザーの強度は5~15Wとすることが望ましい。
【0061】
なお、試料6~9は、レーザービームの照射回数のみが互いに異なり、他の条件は同じとしたが、それら各試料の間では密度や磁気特性に有意な差は見られなかった。
【0062】
(実験2)
原料粉末供給工程とビーム照射工程の間に圧力印加工程を行ってボンド磁石(試料12)を製造した実験2の結果を示す。圧力印加工程は、本実験では圧力印加部14の部材を人力で原料粉末の層PLに押し当てることにより行った。試料12の実験結果を試料10と共に表2に示す。圧力印加工程を行うことを除いて、この実験における製造条件は、試料10と同じである。磁気特性は、実験2及び後述の実験3では、成形体のまま直流B-Hトレーサーにより測定した。
【表2】
【0063】
圧力印加工程を行った試料12は、圧力印加工程を行っていない試料10よりも、ボンド磁石の密度が高くなると共に、磁気特性、特に残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxが高くなった。
【0064】
(実験3)
磁石粉末として、SmFeN系磁石の粉末の代わりに、NdFeB系磁石の粉末を用いてボンド磁石(試料13)を製造した実験3を行った。NdFeB系磁石の粉末には、粒子が扁平状であって粒径が中央値D50で59.7μmであるものを用いた。磁石粉末以外の条件は試料12と同様とした(従って、圧力印加工程を行った)。試料13の実験結果を試料12と共に表3に示す。試料13では、試料12に近い密度及び磁気特性が得られた。
【表3】
【0065】
(実験4)
次に、磁石粉末の最大粒径及び原料粉末の層PLの厚さdが異なる条件で該層PLを作製したときの、該層PLの状態を目視で確認する実験を行った。この実験では、磁石粉末にはSmFeN径磁石の粉末を用い、目開きの大きさが異なる篩を使用することにより、最大粒径が異なる磁石粉末を用意した。バインダの粉末はPPSから成り粒子が球形状である粉末である。磁石粉末とバインダの粉末の混合比は90:10である。実験結果を表4に示す。
【表4】
【0066】
表4より、原料粉末の層PLの厚さdが篩の目開きの大きさ未満、すなわち磁石粉末の最大径よりも薄い場合には、原料粉末の層PLに線キズが見られることがわかる。線キズは、原料粉末の層PLを形成する際に、原料粉末P中のdよりも大きい磁石粉末の粒子がローラ123に引っ掛かって剥がれることにより生じると考えられる。このような線キズが原料粉末の層PLに存在すると、レーザービームLBを照射したときに欠陥(孔、ヒビ等)が生じやすく、密度が不均一になるため、ボンド磁石の機械的強度が低下する。それに対して、原料粉末の層PLの厚さdが篩の目開きの大きさ以上、すなわち磁石粉末の最大径以下である場合には、線キズが見られない良好な原料粉末の層PLを作製することができるため、ボンド磁石の機械的強度が低下することを抑えることができる。
【0067】
表4より、ボンド磁石BMを作製する際の原料粉末の層PLの1層当たりの厚さdを150μmとする場合には、磁石粉末の最大径は150μm以下、バインダ粉末の平均粒径(D50)は50μm以下とすることが望ましい。また、原料粉末の層PLの1層当たりの厚さdを100μmとする場合には、磁石粉末の最大径はdと同じ100μm以下とすることが望ましく、53μm以下とすることがより望ましい。その際、バインダ粉末の平均粒径は15μm以下とすることが望ましい。原料粉末の層PLの1層当たりの厚さdを50μmとする場合には、磁石粉末の最大径はdと同じ50μm以下とすることが望ましく、32μm以下とすることがより望ましい。その際、バインダ粉末の平均粒径は15μm以下とすることが望ましい。
【0068】
図6に、上記第1及び第2実施形態のボンド磁石製造装置及びボンド磁石製造方法により得られるボンド磁石の断面を模式的に示す。このボンド磁石30は、バインダの密度により互いに区別される複数の層31から成る。層31の各々においては、それらの積層方向に関して一方から他方に向かってバインダの密度が増加してゆく。
図6では、バインダの密度の高低を色の濃淡で模式的に示した。ここで前記一方から前記他方に向かう方向は、ボンド磁石30の作製時に層31を順に積層してゆく方向に該当する。このボンド磁石30は、各層31内でバインダの密度が高い部分311が機械的強度の高い壁となって縞状に存在するため、全体の機械的強度が高くなる。
【0069】
図7を用いて、ボンド磁石30がこのような層状構造を有する理由を説明する。上記第1及び第2実施形態のボンド磁石製造方法では上記のように、原料粉末供給工程において原料粉末の層PLを形成し、ビーム照射工程においてこの原料粉末の層PLにビーム(レーザビームLB)を照射する、という操作を繰り返すことにより、ボンド磁石30を作製する。その際、ビーム照射工程において、原料粉末の層PLの厚み方向に関してビームが入射する側(
図1、
図4、
図7の上側。前記「他方」の側。)の方が、到達するビームのエネルギーの減衰率が低いため、その反対側(それら各図の下側。前記「一方」の側。)よりもバインダ33の粉末が良く溶融する。その結果、溶融後に硬化したバインダ33は、1つの層31(原料粉末の層PLの1層分に対応)に着目すると、
図7に示すように、ビームが入射する側に近いバインダ331の方が、その反対側のバインダ332よりも密度が高くなる(なお、
図7中に符号32を付したものは磁石粉末の粒子である)。これにより、ボンド磁石30の各層31は、ビームの入射方向とは反対側の方向(前記一方から前記他方に)向かってバインダの密度が増加してゆくという構成を有することとなる。
【0070】
本発明は上記実施形態には限定されない。例えば、第1実施形態のボンド磁石製造装置10において圧力印加部14を省略し、ボンド磁石製造方法において圧力印加工程を省略してもよい。
【0071】
第1実施形態のボンド磁石製造装置10において、ローラ123の代わりに、ヘラを用いてもよい。また、ビーム照射部13には、レーザービームを原料粉末Pに照射するものの代わりに、電子ビームを原料粉末Pに照射するものを用いてもよい。電子ビームは、電子を原料粉末Pの粒子に衝突させることによって電子の運動エネルギーを熱に変換し、原料粉末Pを加熱する。電子ビームを用いる場合には、スキャン機構として、磁界によって電子の進行方向を変化させるものを用いることができる。
【0072】
製造するボンド磁石の形状は、
図2Gでは縦断面が上に凸の弧状である形状とし、
図5では円板状としたが、これらには限定されず、任意の3次元形状を形成することができる。
【0073】
第2実施形態のボンド磁石製造装置20において、レーザービーム出射部233をノズル223に設けず、ノズル223により基台21の上面に散布された原料粉末に、別途、レーザービーム出射部233からレーザービームを照射するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10、20…ボンド磁石製造装置
11、21…基台
111…基台昇降機構
12、22…原料粉末供給部
121…原料粉末貯留槽
1211…原料粉末貯留槽の底部
1212…原料粉末貯留槽の側壁
122…貯留槽底部昇降機構
123…ローラ
13、23…ビーム照射部
131、231…レーザー光源
132…反射鏡
133…スキャン機構
14…圧力印加部
15…余剰粉末回収部
221…原料粉末貯留部
222…原料粉末送出部
223…ノズル
224…ノズル移動機構
232…レーザー光導光路
233…レーザービーム出射部
30…ボンド磁石
31…ボンド磁石内の層
311…ボンド磁石の層内でバインダの密度が高い部分
32…磁石粉末の粒子
33、331、332…バインダ
BM…ボンド磁石
BMP…形成済部分
LB…レーザービーム
P…原料粉末
PL…原料粉末の層