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特許7367369加湿用中空糸膜およびこれを用いた加湿用中空糸膜モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】加湿用中空糸膜およびこれを用いた加湿用中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20231017BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20231017BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231017BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20231017BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20231017BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20231017BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D63/02
B01D69/12
B01D71/44
B01D71/68
H01M8/04 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019138578
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2020151699
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019049384
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田宮 竜太
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-262147(JP,A)
【文献】特開平06-165926(JP,A)
【文献】特開2009-226397(JP,A)
【文献】特開2014-124563(JP,A)
【文献】特許第4100215(JP,B2)
【文献】特開2017-115890(JP,A)
【文献】特開平6-298986(JP,A)
【文献】特開平9-156007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
H01M8/04-0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加湿用中空糸膜表面の少なくとも一部に親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が被覆されている、加湿用中空糸膜であって、
親水性ユニットがビニルピロリドンを含み、
疎水性ユニットがカルボン酸ビニルユニットを含み、該カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数が1以上4以下であり、
共重合体全体に対する親水性ユニットのモル分率が、50%以上70%以下であり、
中空糸膜がポリスルホン系ポリマーとポリビニルピロリドンを含み、かつ、
電子顕微鏡を用いて中空糸膜の長手に垂直な断面方向の膜構造を1000倍の倍率で観察した時に、フィンガーボイド構造を有する加湿用中空糸膜
【請求項2】
温度25℃、圧力50kPaの空気を乾燥状態の加湿用中空糸膜の内側から外側に向けて加えたときの空気透過速度が2.5mL/分/cm/MPa以上300mL/分/cm/MPa以下である、請求項1記載の加湿用中空糸膜。
【請求項3】
中空糸膜のポリビニルピロリドン含有率が5%以下である請求項1または2に記載の加湿用中空糸膜。
【請求項4】
中空糸膜の内径が500μm以上、1000μm以下、膜厚が60μm以上、200μm以下である請求項1~のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の加湿用中空糸膜を搭載した中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿用中空糸膜および加湿用中空糸膜モジュールに関するものである。さらに詳しくは、燃料電池システムに使用される加湿装置に好適に用いられる加湿用中空糸膜および加湿用中空糸膜モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜は、腎不全患者の血液浄化器などの医療用途や、浄水器用などの水処理用途に広く用いられている。また、ガス分離可能なサイズの孔を有しているため、種々の無機膜の中でも優れた気体分離性を示し、耐薬品性および耐熱性が求められる環境下においても使用可能である。このことから、近年では、中空糸膜を用いて燃料電池スタックの隔膜の加湿を行うための加湿用中空糸膜への用途が広がってきている。
【0003】
燃料電池スタックの隔膜の加湿を行う加湿用中空糸膜としては、例えば、特許文献1に開示されているように、ポリスルホン系樹脂および親水性ポリビニルピロリドンの水溶性有機溶媒溶液よりなる紡糸原液から作製される中空糸膜が提案されている。かかる中空糸膜は、95℃温水に280時間浸漬した後においても、伸度が大幅に低下することがなく、そのため膜強度および耐久性の点で優れている。
【0004】
ここで、燃料電池は一般的に高温条件で作動した方が発電効率はよくなる傾向であることから、例えば、110℃といった高温環境下における性能維持が求められている。したがって、燃料電池システムに組み込まれている加湿用中空糸膜にはかかる温度条件下でその性能を発現することが求められる。
【0005】
しかるに、従来から提案されてきた加湿用中空糸膜は、使用環境が高温・低湿度側にシフトするに伴い、水蒸気透過性能が低下する傾向にあった。かかる傾向は、例えば、中空糸膜の紡糸原液の一成分として用いられているポリビニルピロリドンが高温・低湿度環境下でその親水性が低下してしまうことが原因であると考えられる。したがって、高温・低湿度下での使用環境においても性能維持できるように、さらなる改良が求められている。
【0006】
特許文献2には、中空糸膜の主原料となる親水性ユニットのみからなる高分子と疎水性ユニットのみからなる高分子に、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体高分子を加えた3成分から構成される中空糸膜について記載されている。しかしながら、上記の方法は、中空糸膜の血液適合性や、中空糸膜表面に対するタンパク質や有機物の付着抑制を達成させるための手段であり、本願発明のように水蒸気透過性に着目したものではない。
【0007】
また、特許文献3には、製膜時の相分離速度を制御することで中空糸膜の断面にフィンガーボイド構造を設けることにより、水蒸気透過性を高める方法が記載されている。しかしながら、上記の方法だけでは、水蒸気透過性を高めることはできても空気遮断性を充分に制御できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4100215号公報
【文献】特許第6036882号公報
【文献】特開2009-226397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、使用温度が高い場合においても高い水蒸気透過性を達成できる加湿用中空糸膜および、その中空糸膜モジュールを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成からなる。
1.加湿用中空糸膜表面の少なくとも一部に親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が被覆されている、加湿用中空糸膜。
2.前記疎水性ユニットは、カルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含む上記1に記載の加湿用中空糸膜。
3.前記親水性ユニットは、ビニルピロリドンユニットを含む上記1~2のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
4.温度25℃、圧力50kPaの空気を乾燥状態の加湿用中空糸膜の内側から外側に向けて加えたときの空気透過速度が2.5mL/分/cm/MPa以上300mL/分/cm/MPa以下である、上記1~3のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
5.電子顕微鏡を用いて中空糸膜の長手に垂直な断面方向の膜構造を1000倍の倍率で観察した時に、フィンガーボイド構造を有する、上記1~4のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
6.中空糸膜のポリビニルピロリドン含有率が5%以下である上記1~5のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
7.中空糸膜の内径が500μm以上、1000μm以下、膜厚が60μm以上、200μm以下である上記1~6のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
8.前記加湿用中空糸膜がポリスルホン系ポリマーからなる、上記1~7のいずれかに記載の加湿用中空糸膜。
9.上記1~8のいずれかに記載の加湿用中空糸膜を搭載した中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られる加湿用中空糸膜は、水蒸気透過性に優れた加湿用中空糸膜として有効に使用でき、かつ使用温度が高い場合、例えば110℃条件においても、加湿用中空糸膜および、その中空糸膜モジュールとしての性能低下が小さいといった優れた効果を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フィンガーボイドの縦横比の測定方法の例を示す図である。
図2】加湿用中空糸膜の壁厚中央部に空隙部分が存在する中空糸膜の断面図(拡大)である。
図3】水蒸気透過性能を測定する方法である。
図4】中空糸膜モジュールに乾燥空気を流した場合の空気透過速度(空気遮断性)を測定する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の加湿用中空糸膜は、加湿用中空糸膜表面の少なくとも一部に親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が被覆されていることを特徴とする。
【0014】
本発明において、ユニットとは、モノマーを重合して得られる(共)重合体中の繰り返し単位を指す。例えば、疎水性ユニットとは、疎水性モノマーを重合して得られる(共)重合体中の繰り返し単位を指す。また、カルボン酸ビニルユニットとは、カルボン酸ビニルモノマーを重合して得られる(共)重合体中の繰り返し単位を指す。
【0015】
本発明において、疎水性ユニットとは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)では水に難溶または不溶である繰り返し単位と定義する。ここで、水に難溶または不溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1g以下のことをいう。
【0016】
また、親水性ユニットとは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)で水に易溶である繰り返し単位と定義する。ここで、水が易溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1gを超えることをいう。
【0017】
親水性ユニットとしては、特に限定しないが、メタクリル酸、アクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、エチレングリコールなどのモノマーが与える繰り返し単位が挙げられる。これらのうち、疎水性ユニットとのバランスが取りやすいことから、ビニルピロリドンが与える繰り返し単位が好ましい。
【0018】
本発明の加湿用中空糸膜の表面に前記共重合体を導入する場合、前記共重合体を溶解した水溶液に中空糸膜を浸漬する方法、または中空糸膜を搭載した後述のモジュール内に前記共重合体を溶解した水溶液を通液させる方法が好ましい。このとき、水溶液の共重合体の濃度が小さすぎると十分な量の共重合体が表面に導入されない。よって、前記水溶液中の共重合体濃度は10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましい。ただし、水溶液の共重合体の濃度が大きすぎると、中空糸膜からの溶出物の増加が懸念されるため、前記水溶液中の共重合体濃度は100,000ppm以下が好ましく、10,000ppm以下がより好ましい。ここで、中空糸膜の表面とは、中空糸の外表面および内表面の両方を意味する。
【0019】
なお、共重合体が水に難溶または不溶である場合は、中空糸膜を溶解しない有機溶媒、または、水と相溶し、かつ中空糸膜を溶解しない有機溶媒と水との混合溶媒に共重合体を溶解させてもよい。前記有機溶媒または混合溶媒に用いうる有機溶媒の具体例として、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の加湿用中空糸膜は、膜表面に導入した共重合体が使用時に溶出するのを防ぐため、共重合体を溶解した水溶液を膜表面に接触させた後、放射線照射や熱処理を行い、共重合体を不溶化することが好ましい。前記放射線照射にはα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などを用いることができる。
【0021】
本発明の加湿用中空糸膜において、前記共重合体を膜表面に導入する場合、放射線の照射線量は15kGy以上が好ましく、25kGy以上がより好ましい。前記共重合体を安定的に膜表面に導入するには15kGy以上が効果的なためである。また、前記照射線量は100kGy以下が好ましい。照射線量が100kGyを超えると、共重合体が3次元架橋やカルボン酸ビニルユニットのエステル基部分の分解などを起こしやすくなり、水蒸気透過性と空気遮断性の両立が困難となる場合があるためである。
【0022】
本発明において、放射線を照射する際の架橋反応を抑制するため、抗酸化剤を用いてもよい。抗酸化剤とは、ほかの分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことをいう。具体的には、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。さらに放射線照射による処理を、中空糸膜をモジュールに組み込む工程の前に用いてもよいし、中空糸膜をモジュールに組み込む工程の後に用いてもよい。
【0023】
前記疎水性ユニットは、カルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含む。前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数は、1以上7以下である。ここで、側鎖末端の炭素数とは、カルボン酸ビニルユニットの側鎖エステル結合のカルボニル炭素原子に結合した末端炭化水素基の炭素数のことを指し、例えば、炭素数1とは酢酸ビニルのことを、炭素数2とはプロパン酸ビニルのことを指す。前記末端炭化水素基は、直鎖構造のみならずイソプロピル基やターシャリーブチル基のような分岐構造や、シクロヘキシル基やフェニル基のような環状構造、さらには、窒素原子、酸素原子のようなヘテロ原子を含んでいても良い。前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数を1以上7以下、好ましくは2以上6以下、より好ましくは2以上4以下である。これにより、共重合体の加湿用中空糸膜表面への吸着性、吸着水の運動性を制御することができ、高温時における加湿用中空糸膜の水蒸気透過性と空気遮断性を両立させることが可能となる。
【0024】
前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数が多すぎると、共重合体全体の疎水性が強くなるため、水を弾きやすくなる。また、側鎖末端の炭素数が0の場合は、加湿用中空糸膜表面への導入が困難となる。前記カルボン酸ビニルユニットに用いられるカルボン酸ビニルとしてより好ましいのは、酢酸ビニル(炭素数1)、プロパン酸ビニル(炭素数2)、酪酸ビニル(炭素数3)、ペンタン酸ビニル(炭素数4)、ピバル酸ビニル(炭素数4)である。
【0025】
前記共重合体において、共重合体全体に対する親水性ユニットのモル分率は、30%以上90%以下であることが好ましく、40%以上80%以下であることがより好ましく、50%以上70%以下であることがさらに好ましい。上記上限および下限のいずれかの値を組み合わせた範囲であってもよい。前記親水性ユニットのモル分率が、小さすぎると共重合体全体の疎水性が強くなるため、加湿用中空糸膜が水を弾きやすくなる。また、大きすぎると共重合体全体の親水性が強くなり、共重合体周囲の吸着水の運動性が低くなり、高温時の水蒸気透過性を維持しにくくなる。
【0026】
前記共重合体における親水性ユニットと疎水性ユニットの配列としては、グラフト共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体などが挙げられる。前記共重合体は、例えば、アゾ系開始剤を用いたラジカル重合法に代表される連鎖重合法により合成できるが、合成法はこれだけに限られるものではない。
【0027】
本発明の加湿用中空糸膜の膜表面への共重合体の導入量は、後述のとおり、全反射赤外分光法(ATR-IR)により定量可能である。また、必要に応じて、X線電子分光法(XPS)などによっても定量可能である。ここで膜表面とは、水蒸気が接触する中空糸膜外表面のことを指す。
【0028】
本発明において、ATR-IRにより、疎水性ユニットにカルボン酸ビニルユニットを含む共重合体の表面導入量を定量する際には、膜表面の異なる3箇所において、1730cm-1付近の共重合体カルボン酸ビニルユニットのエステル基C=O由来の赤外吸収ピーク面積(AC=O)の、1580cm-1付近のポリスルホンのベンゼン環C=C由来の赤外吸収ピーク面積(AC=C)に対する比(AC=O)/(AC=C)を算出する。同一の中空糸膜における任意の3箇所で測定し、その平均値を共重合体の表面導入量とする。本発明においては、カルボン酸ビニルユニットを有さない、親水性ユニットのみからなる単独重合体を用いる場合や、そもそも中空糸膜が重合体で被覆されていない場合は、1730cm-1付近の共重合体カルボン酸ビニルユニットのエステル基C=O由来の赤外吸収ピーク面積(AC=O)が検出されない。従って、上記の測定方法により、親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が中空糸膜の表面に被覆されていないことがわかる。なお、ATR-IRでは深さ数マイクロメートルまでの表面の測定が可能である。
【0029】
本発明において、加湿用中空糸膜の水蒸気透過性と空気遮断性を両立するために、共重合体の表面導入量が0.01以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.08以上であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の加湿用中空糸膜は、前記共重合体を用いることにより、高温時の水蒸気透過性と空気遮断性を両立できる。したがって、本発明の加湿用中空糸膜を高温作動が求められる燃料電池システムに用いると、その効果を顕著に確認可能である。
【0031】
本発明の加湿用中空糸膜は、温度25℃、圧力50kPaの空気を乾燥状態の加湿用中空糸膜の内側から外側に向けて加えたときの空気透過速度が2.5mL/分/cm/MPa以上300mL/分/cm/MPa以下であることが好ましい。
【0032】
空気透過速度が2.5mL/分/cm/MPa以上であると、水蒸気回収率の温度依存性を小さくできる観点から好ましい。一方、空気透過速度が300mL/分/cm/MPa以下であると、燃料電池システムに適用する場合、始動時の供給燃料の損失による、燃料供給量の増能を抑えられる観点から好ましい。
【0033】
加湿用中空糸膜の水蒸気透過性を高められる観点から、空気透過速度が5.0mL/分/cm/MPa以上であることがさらに好ましい。一方、供給燃料の損失が小さくなることで幅広いスペックの燃料電池スタックに適用できる観点から、250mL/分/cm/MPa以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の加湿用中空糸膜は、電子顕微鏡を用いて中空糸膜の長手に垂直な断面方向の膜構造を1000倍の倍率で観察を行った時に、フィンガーボイド構造を有する。本発明において、フィンガーボイドとは、人が拇印を押した跡の様な孔のことを示し、詳しくは、上記観察を行った際に、内表面部分および外表面部分の最も大きな空隙部分の面積(中空糸膜の長手に垂直な断面写真の空隙部分最大長を直径とした時の円面積)と比べて10倍以上の面積の空隙が存在する孔のことをいう。さらに、このフィンガーボイドを持っている中空糸膜構造をフィンガーボイド構造とする。
フィンガーボイドの形状としては、例えば図1に示すように、一つのフィンガーボイドを内表面から外表面に向かって2分割した線をX軸10とし、この時のX軸の長さと、X軸に対して垂線を引いたY軸20の長さが、Y軸に対してX軸の長さが、1.1倍以上が好ましく、1.5倍以上がさらに好ましい。
【0035】
加湿用中空糸膜の横手断面の膜構造としては、内表面から外表面、もしくは外表面から内表面へと順次膜孔径が大きくなる非対称構造では、水蒸気の透過(拡散)抵抗が大きくなり、水蒸気透過性は低下する。さらに、内表面から外表面へ同じ膜孔径の対象構造(均質膜)に関しては選択透過性(空気遮断性)が低く、水蒸気透過性と空気遮断性を両立することは困難である。本発明の加湿用中空糸膜は、最内表面部分と最外表面部分はフィンガーボイド部分と比べて孔経が小さく、中央部分のフィンガーボイド構造を有することで、水蒸気透過性を向上させるものである。
【0036】
加湿用中空糸膜の横手断面のフィンガーボイド数としては、電子顕微鏡の倍率1000倍で観察し、観察視野の12000μmあたりに、3個以上あることが好ましく、さらに、5個以上がより好ましい。フィンガーボイドが3個未満の場合は、中空糸膜製膜時のフィンガーボイド構造の特徴である、水蒸気透過性の向上を期待できなくなる場合がある。また、フィンガーボイドの数が多すぎても、中空糸膜の耐圧性を低下させる可能性があるため、30個以下が好ましく、さらに、20個以下がより好ましい。
【0037】
本発明の加湿用中空糸膜は、内径が500μm以上、1000μm以下であることが好ましい。500μm未満の場合は、中空糸膜の中空部に高流量空気を流したときに、中空部の入口から出口にかけての圧力が上昇し、最悪、中空糸膜の糸切れが起こる場合がある。一方、1000μmを超える場合は、加湿用中空糸膜を搭載したモジュールにおいて、加湿用中空糸膜の外側の空気の流れが偏り、中空糸膜を有効に活用できない場合がある。また、中空糸膜が太くなりすぎると、モジュールのサイズが大型になりやすく、省スペース化には向かない。その為、内径は500μm以上、1000μm以下であることが好ましい。
【0038】
また、膜厚は60μm以上、200μm以下であることが好ましい。膜厚が60μm以下の場合は、中空糸膜の破断強力が低下し、高流量空気を与えた場合に中空糸膜の糸切れが起こる場合がある。また、膜厚が200μmを超える場合は、中空糸膜の製膜時の構造制御安定性に欠け、中空糸膜空隙部分の製膜再現性が乏しくなる場合がある。
【0039】
本発明の加湿用中空糸膜を構成する材料は特に限定されるものではないが、ポリスルホン系ポリマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。中でも、ポリスルホン系ポリマーやポリメチルメタクリレートは、中空糸膜を形成させやすく、また、前記共重合体、すなわちエステル基含有ポリマーにより加湿用中空糸膜表面に導入しやすいため好適に用いられる。
【0040】
本発明において、加湿用中空糸膜の主原料はポリスルホン系ポリマーであることがより好ましい。ここで、ポリスルホン系ポリマーとは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基を有するポリマーであり、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルエーテルスルホンなどが挙げられる。また、主原料とは、ポリスルホン系ポリマー全体に対して90重量%以上含まれる原料を表す。
【0041】
本発明における加湿用中空糸膜の主原料として、例えば、次式(1)及び/又は(2)の化学式で示されるポリスルホン系ポリマーが好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。式中のnは1以上の整数であり、好ましくは50~80である。なお、nが分布を有する場合は、その平均値をnとする。
【0042】
【化1】
【0043】
本発明の加湿用中空糸膜に用いることができるポリスルホン系ポリマーは、上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合したり、変性体であっても良い。他のモノマーと共重合している場合における他のモノマーの共重合比率は、ポリスルホン系ポリマー全体に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明の加湿用中空糸膜に用いることができるポリスルホン系ポリマーの具体例としては、ユーデルポリスルホンP-1700、P-3500(ソルベイ社製)、ウルトラソンS3010、P3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(住友化学株式会社製)、レーデルA(ソルベイ社製)、ウルトラソンE(BASF社製)等のポリスルホン系ポリマーが挙げられる。
【0045】
本発明の中空糸膜モジュールを製造する方法としては、その用途により、種々の方法があるが、大まかな工程としては、加湿用中空糸膜の製造工程と、その加湿用中空糸膜をモジュールに組み込む工程とにわけることができる。
【0046】
本発明の加湿用中空糸膜を構成する材料としてポリスルホン系ポリマーを用いる場合、親水性高分子が含まれていることが好ましい。親水性高分子としては、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等があげられ、この中でも、ガラス転移点が150℃よりも高い親水性高分子が耐熱性の優れる加湿用中空糸膜を与えることができるため用いられる。例に挙げたポリビニルピロリドンは、ポリスルホン系ポリマーとの相溶性に優れ、ガラス転移点が180℃と高いため加湿用中空糸膜用途として好ましい。
【0047】
前記親水性高分子として添加されるポリビニルピロリドンとしては、重量平均分子量が約10000(K-15相当)~1200000(K-90相当)の物が存在し、好ましくはポリスルホン系ポリマー100重量%当り10~80重量%、より好ましくは15~60重量%の割合で用いられる。ポリスルホン系ポリマーに対して10重量%よりも少ない場合は、膜表面に親水性を付与することができず、水蒸気との親和性が低くなってしまう懸念がある。80重量%を超える場合は、中空糸膜の強度が低く、製膜困難になる場合がある。 本発明の加湿用中空糸膜は、中空糸膜中のポリビニルピロリドン含有率が5%以下であることが好ましく、さらに、4%以下がより好ましい。中空糸膜中のポリビニルピロリドン含有率が5%以上である場合は、使用環境が高温または/および低湿度領域になるにつれ、ポリビニルピロリドンの親水性または膨潤性が低下するために、水蒸気透過性の性能維持が困難となる場合がある。中空糸膜中のポリビニルピロリドン含有率は後述される実施例の(4)に記載のようにして測定する。
【0048】
本発明の中空糸膜モジュールは、燃料電池システムとして好適に用いられる。燃料電池システムに用いられる中空糸膜モジュールの製造方法についての一例を示す。
【0049】
中空糸膜モジュールに内蔵される加湿用中空糸膜の製造方法としては、一方法としてつぎのような方法がある。すなわち、ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1~1:5が好ましく、5:1~1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた原液(濃度は、10~30重量%が好ましく、15~25重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として加湿の際の透過抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として加湿の際の透過抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60~90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、30~70重量%、さらには40~60重量%の水溶液が好適に用いられる。
【0050】
本発明の加湿用中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0051】
本発明において、加湿用中空糸膜の主原料に用いられるポリスルホン系ポリマーは、総じて疎水性が強いことから、そのまま加湿用中空糸膜として用いると膜表面において水蒸気が弾かれやすくなる。そこで、本発明の中空糸膜モジュールでは、前記共重合体を膜表面に導入した加湿用中空糸膜が好適に用いられる。膜表面への共重合体の導入方法としては、共重合体を溶解した溶液を中空糸膜に接触させる方法、中空糸膜モジュールを製造した後にモジュール内の中空糸膜に接触させる方法や、中空糸膜紡糸の際に、共重合体を含んだ製膜原液を用いる。または/および共重合体を含んだ注入液を中空糸内側に接触させる方法が挙げられる。
【0052】
また、本発明の加湿用中空糸膜は、中空糸膜の内側と外側を流れる流体のうち、乾いている流体の方へ水蒸気を移動させる水蒸気透過膜でもある。すなわち、中空糸膜の外側に乾燥ガス(パージガス)を供給し、中空糸膜の内側に湿潤ガスまたは水を供給すると、中空糸膜内側の湿潤空気を除湿することも可能である。そのため、加湿・除湿いずれの用途にも好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、燃料電池分野において、中空糸膜モジュール、もしくは燃料電池システムに適用可能な加湿用中空糸膜として用いることができる。また、燃料電池用途以外にも一般的な家庭用加湿器、除湿用膜などにも用いることができる。
【実施例
【0054】
次に実施例について本発明を説明する。
【0055】
(1)中空糸膜の寸法測定
製膜した中空糸膜を抜き取り、中空糸長手方向断面をマイクロウォッチャーの200倍レンズ(KEYENCE社製、VH-Z100)で測定して中空糸膜の内径、膜厚を求めた。
【0056】
(2)中空糸膜の空隙部観察
製膜した中空糸膜1本の中空糸膜の長手に垂直な断面方向の膜構造を電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した。図2に空隙部分の写真の例を示す。この時、中空糸膜の内表面近傍と外表面近傍の空隙部分よりも中空糸膜の壁厚中央部の空隙部分が大きいかどうかや、フィンガーボイド構造の有無を確認した。
【0057】
(3)共重合体の中空糸膜表面への導入量
γ線照射後の共重合体が被覆された中空糸膜をミクロトームで半円筒状に削ぎ切りし、試料台に固定した。赤外光の当たる範囲(アパーチャ)である視野角を100μm×100μmとし、積算回数を一点につき30回として、測定を行った。1590cm-1付近のポリスルホンのベンゼン環二重結合に由来するピーク面積Ac=cと、1730cm-1付近の共重合体カルボン酸ビニルユニットのエステル結合に由来するピーク面積Ac=oとの比Ac=o/Ac=cを算出した。一つのモジュールの中空糸膜に対して、同一の中空糸膜で3カ所測定し、その平均値を共重合体の中空糸膜表面への導入量とした。平均値は、小数第3位を四捨五入して算出した。
【0058】
(4)中空糸膜のポリビニルピロリドン(PVP)含有率の測定
乾燥機で120℃5時間乾燥させた中空糸膜を5mm程度の長さに裁断した。これを秤量した後、NC分析計を用いて乾燥状態の中空糸膜基準の窒素含有率を測定した。中空糸膜を製膜する際の主原料がポリスルホンとPVPの場合は、窒素由来の物質はPVP以外に含まないため、窒素含有率(N)から、PVP含有率(X)を算出した。得られたPVP含有率(X)から、ポリスルホン基準のPVP含有率(Y)を算出した。
X:PVP含有率(%、乾燥状態の中空糸膜基準)=(N×111/14)×100
Y:PVP含有率(%、ポリスルホン基準)=[X/(100-X)]×100。
【0059】
(5)水蒸気透過速度の測定
水蒸気透過性は以下のように測定した。まず、中空糸膜モジュールを図3のように接続した。
中空糸膜モジュールを用い、中空糸膜の内側に温度60℃、圧力100kPaGの乾燥空気を、中空糸膜の外側から加湿装置で調湿された温度100℃、40%RH、圧力50kPaGの調湿空気をそれぞれ1パスのクロスフローで流して、時間当りの水蒸気透過量を測定し、単位膜面積、単位時間の水蒸気透過速度(g/分/cm)に換算した数値を算出した。その後、中空糸膜の内側に流す乾燥空気の温度を110℃に昇温した後、同様に、時間当りの水蒸気透過量を測定し、単位膜面積、単位時間の水蒸気空気速度(g/分/cm)に換算した数値を算出した。また、中空糸膜の外側に供給される調湿空気の水蒸気流量(g/分)と中空糸膜の内側から出てくる空気の水蒸気流量(g/分)の比から水蒸気回収率を算出した。
【0060】
(6)空気透過速度の測定
乾燥空気を流した場合の空気透過速度(空気遮断性)は以下のように測定した。まず、中空糸膜モジュールを図4のように接続した。中空糸膜モジュールは、50℃の乾燥機で24時間以上乾燥させたものを直ちに使用した。温度25℃、圧力50kPaの空気を膜の内側から外側に向けて印加し、空気透過量を測定し、単位膜面積、単位時間、1MPa当たりの空気透過量に換算した数値を算出した。このとき、膜の内側から外側に向けての空気透過量が多い場合には、膜外内部の圧力差が小さくなり圧力50kPa時の正確な空気透過量を測定できない可能性があるため、圧力計150で膜外部の圧力を測定し、必要に応じて補正を行った。
【0061】
(合成例1)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー19.5g、プロパン酸ビニルモノマー17.5g、重合溶媒としてt-アミルアルコール56g、重合開始剤として2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.175gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて6時間攪拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、ヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体21.0gを得た。H-NMRの結果から、ビニルピロリドンユニットのモル分率は60%であった。また、GPCの測定結果から、数平均分子量Mnが16,500であった。
【0062】
(実施例1)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)5重量部をN,N-ジメチルアセトアミド76質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド45質量%、水55質量%の溶液を芯液とした。
【0063】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0064】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の加湿用中空糸膜を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると壁厚中央部に空隙部分が確認できた。面積12000μmあたりに、9個のフィンガーボイド構造が確認できた。
【0065】
得られた乾燥状態の中空糸膜をビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標)VA64)1000ppmを溶解した水溶液に浸漬させた状態で照射線量25kGyのγ線を照射した。80℃の温水で5時間洗浄し、乾燥を行うことで中空糸膜表面に前記共重合体を被覆した加湿用中空糸膜を得た。ATR-IRの測定結果から、中空糸膜の表面の共重合体導入量(面積比)は平均0.11であることがわかった。
【0066】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール1とした。
【0067】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は50mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は0.9%であり温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0068】
(実施例2)
ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を溶解した水溶液の代わりに、合成例1で合成したビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を750ppm溶解した0.5質量%エタノール水溶液を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール2を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は8mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は0.9%であり、温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0069】
(実施例3)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を溶解した0.5質量%エタノール水溶液の濃度を100ppmとした以外は、実施例1と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール3を得た。
【0070】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は101mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は0.4%であり温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0071】
(実施例4)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)5重量部をN,N-ジメチルアセトアミド76質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド50質量%、水50質量%の溶液を芯液とした。
【0072】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0073】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の加湿用中空糸膜を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると壁厚中央部に空隙部分が確認できた。面積12000μmあたりに、9個のフィンガーボイド構造が確認できた。
【0074】
得られた乾燥状態の中空糸膜をビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標)VA64)2000ppmを溶解した水溶液に浸漬させた状態で照射線量25kGyのγ線を照射した。80℃の温水で5時間洗浄し、乾燥を行うことで中空糸膜表面に前記共重合体を被覆した加湿用中空糸膜を得た。ATR-IRの測定結果から、中空糸膜の表面の共重合体導入量(面積比)は平均0.14であることがわかった。
【0075】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール4とした。
【0076】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は51mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は1.8%であり温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0077】
(実施例5)
ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を溶解した水溶液の濃度を500ppmとした以外は、実施例4と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール5を得た。
【0078】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は204mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は1.3%であり温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0079】
(実施例6)
ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標)VA64)を溶解した水溶液の代わりに、合成例1で合成したビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を1000ppm溶解した0.5質量%エタノール水溶液を用いた以外は、実施例4と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール6を得た。
【0080】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は20mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は0.9%であり、温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0081】
(実施例7)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を溶解した0.5質量%エタノール水溶液の濃度を250ppmとした以外は、実施例4と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール7を得た。
【0082】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は228mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は0.9%であり温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0083】
(実施例8)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を溶解した0.5質量%エタノール水溶液の濃度を100ppmとした以外は、実施例4と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール8を得た。
【0084】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は305mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は1.3%であった。乾燥時の空気透過速度は高く、供給燃料の損失の懸念はあるが、温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。 (実施例9)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)5重量部をN,N-ジメチルアセトアミド76質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド55質量%、水45質量%の溶液を芯液とした。
【0085】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0086】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸膜を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると壁厚中央部に空隙部分が確認できた。面積12000μmあたりに、9個のフィンガーボイド構造が確認できた。
【0087】
得られた乾燥状態の中空糸膜を合成例1で合成したビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体1500ppmを溶解した0.5質量%エタノール水溶液に浸漬させた状態で照射線量25kGyのγ線を照射した。80℃の温水で5時間洗浄し、乾燥を行うことで中空糸膜表面に前記共重合体を被覆した加湿用中空糸膜を得た。ATR-IRの測定結果から、中空糸膜の表面の共重合体導入量(面積比)は平均0.16であることがわかった。
【0088】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール9とした。
【0089】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。
乾燥時の空気透過速度は50mL/cm2/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は1.8%であり、温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0090】
(実施例10)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を溶解したエタノール水溶液の濃度を500ppmとした以外は、実施例9と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール10を得た。
【0091】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は252mL/cm2/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は1.1%であり、温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0092】
(実施例11)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N-ジメチルアセトアミド72質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド55質量%、水45質量%の溶液を芯液とした。
【0093】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0094】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸膜(加湿用中空糸膜)を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると壁厚中央部に空隙部分が確認できた。面積12000μmあたりに、7個のフィンガーボイド構造が確認できた。
【0095】
得られた乾燥状態の中空糸膜を合成例1で合成したビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)1000ppmを溶解した0.5質量%エタノール水溶液に浸漬させた状態で照射線量25kGyのγ線を照射した。80℃の温水で5時間洗浄し、乾燥を行うことで中空糸膜表面に前記共重合体を被覆した加湿用中空糸膜を得た。
【0096】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール11とした。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は10mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は1.3%であり、温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0097】
(実施例12)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を溶解した0.5質量%エタノール水溶液の濃度を500ppmとした以外は、実施例11と同様に実験を行い、中空糸膜モジュール12を得た。
【0098】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は204mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は0.8%であり温度110℃の高温条件においても水蒸気透過性に優れる中空糸膜モジュールが得られた。
【0099】
(実施例13)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)6重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K90)3重量部をN,N-ジメチルアセトアミド72質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド45質量%、水55質量%の溶液を芯液とした。
【0100】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0101】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸膜(加湿用中空糸膜)を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察するとフィンガーボイド構造は形成されていなかった。
【0102】
得られた乾燥状態の中空糸膜をビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)50ppmを溶解した0.2質量%エタノール水溶液に浸漬させた状態で照射線量25kGyでγ線照射した。80℃の温水で5時間洗浄し、乾燥を行うことで中空糸膜表面に前記共重合体を被覆した加湿用中空糸膜を得た。
【0103】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール13とした。
【0104】
得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は0.0mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は3.1%であり、かつ温度110℃の高温条件において水蒸気透過性の性能低下が小さい中空糸膜モジュールであった。
【0105】
(比較例1)
共重合体を使用しないこと以外は、実施例4と同様の実験を行い、中空糸膜モジュール14を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は330mL/cm/分/MPaであった。また、水蒸気透過性の測定は、膜の空気透過速度が高く、供給空気の損失が多かったために測定しなかった。
【0106】
(比較例2)
共重合体を使用しないこと以外は、実施例9と同様の実験を行い、中空糸膜モジュール15を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は454mL/cm/分/MPaであった。また、水蒸気透過性の測定は、膜の空気透過速度が高く、供給空気の損失が多かったために測定しなかった。
【0107】
(比較例3)
共重合体を使用しないこと以外は、実施例11と同様の実験を行い、中空糸膜モジュール16を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は715mL/cm/分/MPaであった。また、水蒸気透過性の測定は、膜の空気透過速度が高く、供給空気の損失が多かったために測定しなかった。
【0108】
(比較例4)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N-ジメチルアセトアミド72質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド45質量%、水55質量%の溶液を芯液とした。
【0109】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0110】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸膜(加湿用中空糸膜)を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると壁厚中央部に空隙部分が確認できた。面積12000μmあたりに、7個のフィンガーボイド構造が確認できた。
【0111】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール17とした。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は0.0mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は5.3%であり、温度110℃の高温条件において水蒸気透過性の性能低下が確認された。
【0112】
(比較例5)
共重合体を使用しないこと以外は、実施例13と同様の実験を行い、中空糸膜モジュール18を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は0.0mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は5.7%であり、温度110℃の高温条件において水蒸気透過性の性能低下が確認された。
【0113】
(比較例6)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)15重量部をN,N-ジメチルアセトアミド66質量%、水1質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド45質量%、水55質量%の溶液を芯液とした。
【0114】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は露点30℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、80℃で100秒の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は660μm、膜厚は95μmであった。
【0115】
巻き取った中空糸膜の束を長手方向0.3m、1000本単位に小分けし、乾熱乾燥機で50℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸膜(加湿用中空糸膜)を得た。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察するとフィンガーボイド構造は形成されていなかった。
【0116】
加湿用中空糸膜の有効な内表面積(中空糸膜内表面における、次工程で添加されるポッティング剤により覆われない部分の表面積)が20cmになるように中空糸膜を内径φ5のステンレス製ケースに充填し、かつ中空糸膜の両端をポッティングによりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング剤の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、中空糸膜モジュール19とした。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は0.0mL/cm/分/MPaであった。水蒸気回収率の乾燥空気温度60℃から110℃の性能低下率は7.9%であり、温度110℃の高温条件において水蒸気透過性の性能低下が確認された。
【0117】
(比較例7)
ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ポリビニルピロリドン(BASF社製“K30”)を用いた以外は、実施例4と同様の実験を行い、中空糸膜モジュール20を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は510mL/cm/分/MPaであった。また、水蒸気透過性の測定は、膜の空気透過速度が高く、供給空気の損失が多かったために測定しなかった。
【0118】
(比較例8)
ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ポリビニルピロリドン(BASF社製“K90”)を用いた以外は、実施例4と同様の実験を行い、中空糸膜モジュール21を得た。得られた中空糸膜モジュールにおける空気透過速度、及び水蒸気透過速度を測定した。結果を表2に示す。乾燥時の空気透過速度は510mL/cm/分/MPaであった。また、水蒸気透過性の測定は、膜の空気透過速度が高く、供給空気の損失が多かったために測定しなかった。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【符号の説明】
【0121】
10 :フィンガーボイド構造のX軸
20 :フィンガーボイド構造のY軸
30 :中空糸膜断面の内表面近傍
40 :中空糸膜断面の中央部の空隙部分
50 :中空糸膜断面の外表面近傍
60 :空気流量計
70 :DRYガス入口
80 :WETガス出口
90 :中空糸膜モジュール
100 :DRYガス出口
110 :温・湿度測定箇所
120 :WETガス入口
130 :加湿装置
140 :空気流量計
150 :圧力計
160 :栓
170 :DRYガス入口
180 :中空糸膜モジュール
図1
図2
図3
図4