(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】タイヤ装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20231017BHJP
B60C 23/08 20060101ALI20231017BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C23/08 B
B60C11/24 Z
(21)【出願番号】P 2019161333
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一朗
(72)【発明者】
【氏名】関澤 高俊
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/142870(WO,A1)
【文献】特開2004-175276(JP,A)
【文献】特開2016-217065(JP,A)
【文献】特開2006-131136(JP,A)
【文献】特開2009-018667(JP,A)
【文献】特開2005-170222(JP,A)
【文献】特開2018-009974(JP,A)
【文献】特開2017-226322(JP,A)
【文献】特開2014-240253(JP,A)
【文献】特開2010-215195(JP,A)
【文献】特開2015-217713(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088024(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0154707(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0366618(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0067043(KR,A)
【文献】国際公開第2018/124971(WO,A1)
【文献】特開2020-134151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/24
B60C 19/00
B60C 23/06-23/08
B60W 40/00-40/068
G01B 21/00
G01M 17/007-17/02
G01N 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ(3)側に備えられるタイヤ側装置(1)と車体側に備えられた車体側システム(2)とを有し、車両の走行路面の路面状態の判別とタイヤ摩耗状態の検出を行うタイヤ装置であって、
前記タイヤ側装置は、
前記タイヤの振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(10)と、
前記タイヤの1回転中における前記検出信号から周波数帯域毎の特徴量を抽出する特徴量抽出部(11a)を有する制御部(11)と、
前記特徴量抽出部で抽出された特徴量を含む路面データを送信する第1データ通信部(12)と、を有し、
前記車体側システムは、
前記タイヤ側装置から送信された前記路面データを受信する第2データ通信部(24)と、
前記路面データ
に含まれる周波数帯域毎の前記特徴量に基づいて前記走行路面の路面状態を判別する路面判別部(25c)と、
前記路面判別部における前記路面状態の判別と同じ前記路面データを用いると共に、前記路面データに含まれる周波数帯域毎の特徴量を用いて、特定周波数帯域における前記特徴量の積分値を演算する積分演算部(25d)と、
前記特徴量の積分値から前記タイヤ摩耗状態の検出を行う摩耗判定部(25e)と、を有している、タイヤ装置。
【請求項2】
前記車体側システムは、前記タイヤ摩耗状態の検出に関わる車両情報を取得する状態取得部(26)を有し、
前記摩耗判定部は、前記特徴量の積分値と前記車両情報に基づいて、前記タイヤ摩耗状態を検出する、請求項1に記載のタイヤ装置。
【請求項3】
前記摩耗判定部は、前記車両情報として、車速情報、加減速情報、操舵情報、路面情報、天気情報および位置情報、温度情報の少なくとも1つに基づいて、前記タイヤ摩耗状態を検出する、請求項2に記載のタイヤ装置。
【請求項4】
前記車体側システムは、前記特徴量の積分値の初期値を設定する初期値設定部(25f)を有し、
前記摩耗判定部は、前記初期値からの前記積分演算部で演算される前記特徴量の積分値の相対変化に基づいて前記タイヤ摩耗状態を検出する、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のタイヤ装置。
【請求項5】
前記積分演算部は、所定周波数帯域として、1kHz以上の周波数帯域での前記特徴量の積分値を演算する、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のタイヤ装置。
【請求項6】
前記タイヤ側装置は、
前記特徴量抽出部で抽出された過去の前記特徴量を過去特徴量として保存する特徴量保存部(11b)と、
前記特徴量抽出部で前記タイヤの今回の回転時に抽出された前記特徴量を今回特徴量として、該今回特徴量と前記特徴量保存部に保存された前記過去特徴量とに基づいて、路面状態の変化の有無を判定すると共に、該路面状態の変化が有ると前記タイヤ側装置より前記今回特徴量を含む前記路面データの送信を行わせる変化判定部(11c)と、
を有している、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のタイヤ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ側装置および車体側システムを有し、路面状態判別とタイヤ摩耗状態の検出を行うことができるタイヤ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、タイヤトレッドの裏面に加速度取得部を有するタイヤ側装置を備え、加速度取得部でタイヤ振動を加速度として取得すると共に、その取得結果を車体側システムに伝えることで路面状態の推定を行うタイヤ装置が提案されている。このタイヤ装置では、加速度取得部で取得したタイヤの振動波形に基づいて路面状態に関するデータを作成し、各車輪それぞれのデータを車体側の受信機などに伝えることで、路面状態の推定を行っている。そして、タイヤ側装置の省電力を実現すべく、路面状態の変化を判定し、路面状態が変化したタイミングにタイヤ側装置から車体側システムにタイヤに加えられる振動の取得結果が伝えられるようにしている。つまり、路面状態判別を行いたいと考えられる路面状態が変化したタイミングにのみデータ伝達が行われるようにすることで、通信を最小限に抑え、省電力化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、タイヤ摩耗状態についても検出したいというニーズがある。このため、タイヤ側装置で取得されるタイヤの振動波形に基づいてタイヤ摩耗状態について検出することが考えられる。しかしながら、タイヤ側装置の限られた電源やメモリの中で、路面状態判別のためのアルゴリズムとタイヤ摩耗状態の検出のためのアルゴリズムを実装するためには、振動波形のサンプリング、保存、各種演算処理を最小限に抑え、省電力、省メモリ化することが必要になる。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、路面状態判別とタイヤ摩耗状態の検出を行えるようにしつつ、より省電力、省メモリ化を実現することができるタイヤ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のタイヤ装置は、タイヤ側装置(1)では、タイヤ(3)の振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(10)と、タイヤの1回転中における検出信号から周波数帯域毎の特徴量を抽出する特徴量抽出部(11a)を有する制御部(11)と、特徴量抽出部で抽出された特徴量を含む路面データを送信する第1データ通信部(12)と、を有している。また、車体側システム(2)は、タイヤ側装置から送信された路面データを受信する第2データ通信部(24)と、路面データに含まれる周波数帯域毎の特徴量に基づいて走行路面の路面状態を判別する路面判別部(25c)と、路面判別部における路面状態の判別と同じ路面データを用いると共に、路面データに含まれる周波数帯域毎の特徴量を用いて、特定周波数帯域における特徴量の積分値を演算する積分演算部(25d)と、特徴量の積分値からタイヤ摩耗状態の検出を行う摩耗判定部(25e)と、を有している。
【0007】
このように、車両の走行路面の路面状態を判別したりタイヤ摩耗状態を検出したりしている。そして、路面状態を判別するための路面データを用い、路面データ中における特定周波数帯域の特徴量の積分値からタイヤ摩耗状態を検出している。このため、タイヤ摩耗状態の検出のためのみにデータ送信を行ったりする必要がなく、タイヤ側装置にタイヤ摩耗状態の検出のためのアルゴリズムを実装しなくても済み、サンプリング、保存、各種演算処理を最小限に抑えて省電力、省メモリ化することが可能となる。よって、路面状態判別とタイヤ摩耗状態の検出を行えるようにしつつ、より省電力、省メモリ化を実現することができるタイヤ装置にできる。
【0008】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態にかかるタイヤ装置の車両搭載状態でのブロック構成を示した図である。
【
図2】タイヤ側装置および車体側システムの詳細を示したブロック図である。
【
図3】タイヤ側装置が取り付けられたタイヤの断面模式図である。
【
図4】タイヤ回転時における加速度取得部の出力電圧波形図である。
【
図5】加速度取得部の検出信号を所定の時間幅Tの時間窓毎に区画した様子を示す図である。
【
図6】タイヤの今回の回転時の時間軸波形と1回転前のときの時間軸波形それぞれを所定の時間幅Tの時間窓で分割した各区画での行列式Xi(r)、Xi(r-1)と距離K
yzとの関係を示した図である。
【
図9】新品のタイヤと摩耗後のタイヤそれぞれについてタイヤの振動レベルの周波数特性を調べたときの結果を示す図である。
【
図10】タイヤ側装置の制御部が実行するデータ送信処理のフローチャートである。
【
図11】車体側システムの制御部が実行する路面状態判別および摩耗検出処理のフローチャートである。
【
図12】タイヤ溝深さと特徴量の積分値との関係を示した図である。
【
図13】第2実施形態のタイヤ装置に備えられるタイヤ側装置および車体側システムの詳細を示したブロック図である。
【
図14】第3実施形態のタイヤ装置に備えられるタイヤ側装置および車体側システムの詳細を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0011】
(第1実施形態)
本実施形態にかかる路面状態判別機能とタイヤ摩耗状態の検出機能を有するタイヤ装置について説明する。本実施形態にかかるタイヤ装置は、車両の各車輪に備えられるタイヤの接地面に加わる振動に基づいて走行中の路面状態を判別すると共に、路面状態に基づいて車両の危険性の報知や車両運動制御などを行う。また、タイヤ装置は、タイヤの接地面に加わる振動に基づいてタイヤ摩耗状態についても検出する。
【0012】
図1および
図2に示すようにタイヤ装置100は、車輪側に設けられたタイヤ側装置1と、車体側に備えられた各部を含む車体側システム2とを有する構成とされている。車体側システム2としては、受信機21、ブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)22、報知装置23などが備えられている。
【0013】
本実施形態のタイヤ装置100は、タイヤ側装置1よりタイヤ3が走行中の路面状態に応じたデータ(以下、路面データという)を送信すると共に、受信機21で路面データを受信して路面状態の判別を行う。また、路面データには、タイヤ摩耗状態に応じて変化する成分が含まれるため、受信機21は、路面データに基づいてタイヤ摩耗状態の検出も行う。さらに、タイヤ装置100は、受信機21での路面状態の判別結果やタイヤ摩耗状態の検出結果を報知装置23に伝え、報知装置23より路面状態の判別結果やタイヤ摩耗状態の検出結果を報知させる。これにより、例えばドライ路やウェット路もしくは凍結路であることなどの路面状態やタイヤ摩耗状態をドライバに伝えることが可能となり、滑り易い路面である場合やタイヤ摩耗が進んでいる場合にはドライバに警告することも可能となる。また、タイヤ装置100は、車両運動制御を行うブレーキECU22などに路面状態を伝えることで、危険を回避するための車両運動制御が行われるようにする。例えば、凍結時には、ドライ路の場合と比較してブレーキ操作量に対して発生させられる制動力が弱められるようにすることで、路面μが低いときに対応じた車両運動制御となるようにする。具体的には、タイヤ側装置1および受信機21は、以下のように構成されている。
【0014】
タイヤ側装置1は、
図2に示すように、加速度取得部10、制御部11およびデータ通信部12を備えた構成とされ、
図3に示されるように、タイヤ3のトレッド31の裏面側に設けられる。
【0015】
加速度取得部10は、タイヤ3に加わる振動を検出するための振動検出部を構成するものである。例えば、加速度取得部10は、加速度センサによって構成される。加速度取得部10が加速度センサとされる場合、加速度取得部10は、タイヤ3が回転する際にタイヤ側装置1が描く円軌道に対して接する方向、つまり
図3中の矢印Xで示すタイヤ接線方向の振動に応じた検出信号として、加速度の検出信号を出力する。より詳しくは、加速度取得部10は、矢印Xで示す二方向のうちの一方向を正、反対方向を負とする出力電圧などを検出信号として発生させる。例えば、加速度取得部10は、タイヤ3が1回転するよりも短い周期に設定される所定のサンプリング周期ごとに加速度検出を行い、それを検出信号として出力している。なお、加速度取得部10の検出信号は、出力電圧もしくは出力電流として表されるが、ここでは出力電圧として表される場合を例に挙げる。
【0016】
制御部11は、第1制御部に相当し、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って上記した処理を行う部分である。そして、制御部11は、それらの処理を行う機能部として特徴量抽出部11a、特徴量保存部11b、変化判定部11cを備えた構成とされている。
【0017】
特徴量抽出部11aは、加速度取得部10が出力する検出信号をタイヤ接線方向の振動データを表す検出信号として用いて、この検出信号を処理することで、タイヤ振動の特徴量を抽出する。本実施形態の場合、タイヤ3の加速度(以下、タイヤGという)の検出信号を信号処理することで、タイヤGの特徴量を抽出する。また、特徴量抽出部11aは、変化判定部11cを介して、抽出した特徴量を含むデータを路面データとしてデータ通信部12に伝える。なお、ここでいう特徴量の詳細については後で説明する。
【0018】
特徴量保存部11bは、タイヤ3の1回転前に特徴量抽出部11aで抽出された特徴量(以下、前回特徴量という)を保存している。タイヤ3が1回転したことについては後述する手法によって確認できることから、タイヤ3が1回転するごとに、1回転分の特徴量を保存している。なお、タイヤ3の1回転分の特徴量については、タイヤ3が1回転するごとにデータ更新するようにしても良いし、複数回転分をストックしておき、タイヤ3が1回転するごとに最も古いデータを消去するようにしても良い。ただし、タイヤ3内での制御部11の省メモリ化の観点からは、ストックするデータ量を少なくすることが好ましいため、タイヤ3が1回転するごとにデータ更新するのが好ましい。
【0019】
変化判定部11cは、路面状態の変化の有無を判定したり、路面データをデータ通信部に伝えたりする部分である。路面状態の変化の有無については、変化判定部11cは、タイヤ3の今回の回転時に特徴量抽出部11aが抽出した特徴量(以下、今回特徴量という)と、特徴量保存部11bに保存されているタイヤ3の前回特徴量とに基づいて判定している。この判定の詳細については後述する。そして、路面状態の変化が有ったと判定すると、路面データをデータ通信部12に伝える。また、路面状態の変化が無かったと判定すると、路面データをデータ通信部12に伝えないようにする。
【0020】
データ通信部12は、第1データ通信部を構成する部分であり、例えば、変化判定部11cから路面データが伝えられると、そのタイミングで今回特徴量を含む路面データの送信を行う。すなわち、路面状態の変化時にのみ路面データを送信するようになっている。
【0021】
一方、受信機21は、
図2に示すように、データ通信部24と制御部25とを有した構成とされている。
【0022】
データ通信部24は、第2データ通信部を構成する部分であり、タイヤ側装置1のデータ通信部12より送信された今回特徴量を含む路面データを受信し、制御部25に伝える役割を果たす。
【0023】
制御部25は、第2制御部に相当し、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種処理を行っている。そして、制御部25は、各種処理を行う機能部としてサポートベクタ保存部25a、類似度演算部25b、路面判別部25c、積分演算部25dおよび摩耗判定部25eを備えている。
【0024】
サポートベクタ保存部25aは、路面の種類ごとにサポートベクタを記憶して保存している。サポートベクタは、手本となる特徴量のことであり、例えばサポートベクタマシンを用いた学習によって得ている。タイヤ側装置1を備えた車両を実験的に路面の種類別に走行させ、そのときに特徴量抽出部11aで抽出した特徴量を所定のタイヤ回転数分学習し、その中から典型的な特徴量を所定数分抽出したものがサポートベクタとされる。例えば、路面の種類別に、100万回転分の特徴量を学習し、その中から100回転分の典型的な特徴量を抽出したものをサポートベクタとしている。
【0025】
類似度演算部25bは、タイヤ側装置1より送られてきた今回特徴量と、サポートベクタ保存部25aに保存された路面の種類別のサポートベクタとを比較することで、類似度を算出する。類似度は、路面の種類ごとのサポートベクタとの類似している度合いを示しており、類似度が高いほど似ていることを示している。この類似度の詳細については後述する。
【0026】
路面判別部25cは、類似度演算部25bで演算された類似度を用いて路面状態を判別する。例えば、今回特徴量を路面の種類別のサポートベクタと対比して、類似度が最も高い値となったサポートベクタの路面を現在の走行路面と判別している。
【0027】
積分演算部25dは、路面データの中から所定の周波数帯域の成分を含む特徴量の積分値を算出する。後述するように、路面データに含まれる特徴量は、加速度取得部10の検出信号を所定の時間幅Tの時間窓毎の区画に分割して、各区画で周波数解析を行うことで抽出される。このため、抽出した特徴量の中に所定の周波数帯域の成分の特徴量が含まれている。この所定の周波数帯域の成分の特徴量を抽出し、それを足し合わせることで、所定の周波数帯域の特徴量の積分値を算出することができる。
【0028】
摩耗判定部25eは、積分演算部25dで算出した特徴量の積分値に基づいて、タイヤ摩耗量を検出する。特徴量の積分値はタイヤ摩耗量に応じて変化し、タイヤ摩耗量が多くなるほど積分値が小さくなるという特性を有している。このため、特徴量の積分値に基づいて、タイヤ摩耗量を検出することができる。
【0029】
また、制御部25は、路面状態の判別やタイヤ摩耗量の検出を行うと、その路面状態やタイヤ摩耗量に関する情報を報知装置23に伝え、必要に応じて報知装置23より路面状態やタイヤ摩耗量をドライバに伝える。これにより、ドライバは路面状態に対応した運転を心掛けるようになるし、タイヤ摩耗量が多ければタイヤ交換を行うなどにより、車両の危険性を回避することが可能となる。例えば、報知装置23を通じて判別された路面状態を常に表示するようにしても良いし、判別された路面状態がウェット路や凍結路等のように運転をより慎重に行う必要があるときにのみ路面状態を表示してドライバに警告するようにしても良い。同様に、タイヤ摩耗量についても報知装置23を通じて常に表示するようにしても良いし、タイヤ摩耗量が多い場合にのみタイヤ摩耗量を表示したり、タイヤ交換を促す表示を行うようにしても良い。
【0030】
また、受信機21からブレーキECU22などの車両運動制御を実行するためのECUに対して路面状態を伝えており、伝えられた路面状態に基づいて車両運動制御が実行されるようにしている。
【0031】
なお、ブレーキECU22は、様々なブレーキ制御を行う制動制御装置を構成するものである。具体的には、ブレーキECU22は、ブレーキ液圧制御用のアクチュエータを駆動することでホイールシリンダ圧を増減して制動力を制御する。また、ブレーキECU22は、各車輪の制動力を独立して制御することもできる。このブレーキECU22により、受信機21から路面状態が伝えられると、それに基づいて車両運動制御として制動力の制御を行っている。例えば、ブレーキECU22は、伝えられた路面状態が凍結路であることを示していた場合、ドライ路面と比較して、ドライバによるブレーキ操作量に対して発生させる制動力を弱めるようにする。これにより、車輪スリップを抑制でき、車両の危険性を回避することが可能となる。
【0032】
また、報知装置23は、例えばメータ表示器などで構成され、ドライバに対して路面状態やタイヤ摩耗状態を報知する際に用いられる。報知装置23をメータ表示器で構成する場合、ドライバが車両の運転中に視認可能な場所に配置され、例えば車両におけるインストルメントパネル内に設置される。メータ表示器は、受信機21から路面状態やタイヤ摩耗状態が伝えられると、その路面状態やタイヤ摩耗状態が把握できる態様で表示を行うことで、視覚的にドライバに対して路面状態やタイヤ摩耗状態を報知することができる。
【0033】
なお、報知装置23をブザーや音声案内装置などで構成することもできる。その場合、報知装置23は、ブザー音や音声案内によって、聴覚的にドライバに対して路面状態やタイヤ摩耗状態を報知することができる。また、視覚的な報知を行う報知装置23としてメータ表示器を例に挙げたが、ヘッドアップディスプレイなどの情報表示を行う表示器によって報知装置23を構成しても良い。
【0034】
以上のようにして、本実施形態にかかるタイヤ装置100が構成されている。なお、車体側システム2を構成する各部は、例えばCAN(Controller Area Networkの略)通信などによる車内LAN(Local Area Networkの略)を通じて接続されている。このため、車内LANを通じて各部が互いに情報伝達できるようになっている。
【0035】
次に、上記した特徴量抽出部11aで抽出する特徴量や、変化判定部11cによる路面状態の変化の判定の詳細について説明する。
【0036】
まず、特徴量抽出部11aで抽出する特徴量について説明する。ここでいう特徴量とは、加速度取得部10が取得したタイヤ3に加わる振動の特徴を示す量であり、例えば特徴ベクトルとして表される。
【0037】
タイヤ回転時における加速度取得部10の検出信号の出力電圧波形は、例えば
図4に示す波形となる。この図に示されるように、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地し始めた接地開始時に、加速度取得部10の出力電圧が極大値をとる。以下、この加速度取得部10の出力電圧が極大値をとる接地開始時のピーク値を第1ピーク値という。さらに、
図4に示されるように、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地していた状態から接地しなくなる接地終了時に、加速度取得部10の出力電圧が極小値をとる。以下、この加速度取得部10の出力電圧が極小値をとる接地終了時のピーク値を第2ピーク値という。
【0038】
加速度取得部10の出力電圧が上記のようなタイミングでピーク値をとるのは、以下の理由による。すなわち、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地する際、加速度取得部10の近傍においてタイヤ3のうちそれまで略円筒面であった部分が押圧されて平面状に変形する。このときの衝撃を受けることで、加速度取得部10の出力電圧が第1ピーク値をとる。また、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地面から離れる際には、加速度取得部10の近傍においてタイヤ3は押圧が解放されて平面状から略円筒状に戻る。このタイヤ3の形状が元に戻るときの衝撃を受けることで、加速度取得部10の出力電圧が第2ピーク値をとる。このようにして、加速度取得部10の出力電圧が接地開始時と接地終了時でそれぞれ第1、第2ピーク値をとるのである。また、タイヤ3が押圧される際の衝撃の方向と、押圧から開放される際の衝撃の方向は逆方向であるため、出力電圧の符号も逆方向となる。
【0039】
ここで、タイヤトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が路面に接地した瞬間を「踏み込み領域」、路面から離れる瞬間を「蹴り出し領域」とする。「踏み込み領域」には、第1ピーク値となるタイミングが含まれ、「蹴り出し領域」には、第2ピーク値となるタイミングが含まれる。また、踏み込み領域の前を「踏み込み前領域」、踏み込み領域から蹴り出し領域までの領域、つまりタイヤトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地中の領域を「蹴り出し前領域」、蹴り出し領域後を「蹴り出し後領域」とする。このように、タイヤトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地する期間およびその前後を5つの領域に区画することができる。なお、
図4中では、検出信号のうちの「踏み込み前領域」、「踏み込み領域」、「蹴り出し前領域」、「蹴り出し領域」、「蹴り出し後領域」を順に5つの領域R1~R5として示してある。
【0040】
路面状態に応じて、区画した各領域でタイヤ3に生じる振動が変動し、加速度取得部10の検出信号が変化することから、各領域での加速度取得部10の検出信号を周波数解析することで、車両の走行路面における路面状態を検出する。例えば、圧雪路のような滑り易い路面状態では蹴り出し時の剪断力が低下するため、蹴り出し領域R4や蹴り出し後領域R5において、1kHz~4kHz帯域から選択される帯域値が小さくなる。このように、路面状態に応じて加速度取得部10の検出信号の各周波数成分が変化することから、検出信号の周波数解析に基づいて路面状態を判定することが可能になる。
【0041】
このため、特徴量抽出部11aは、連続した時間軸波形となっているタイヤ3の1回転分の加速度取得部10の検出信号を、
図5に示すように所定の時間幅Tの時間窓毎に複数の区画に分割し、各区画で周波数解析を行うことで特徴量を抽出している。具体的には、各区画で周波数解析を行うことで、各周波数帯域でのパワースペクトル値、つまり特定周波数帯域の振動レベルを求め、このパワースペクトル値を特徴量としている。
【0042】
なお、時間幅Tの時間窓で分割された区画の数は車速に応じて、より詳しくはタイヤ3の回転速度に応じて変動する値である。以下の説明では、タイヤ1回転分の区画数をn(ただし、nは自然数)としている。
【0043】
例えば、各区画それぞれの検出信号を複数の特定周波数帯域のフィルタ、例えば0~1kHz、1~2kHz、2~3kHz、3~4kHz、4~5kHzの5つのバンドパスフィルタに通して得られたパワースペクトル値を特徴量としている。この特徴量は、特徴ベクトルと呼ばれるもので、ある区画i(ただし、iは1≦i≦nの自然数)の特徴ベクトルXiは、各特定周波数帯域のパワースペクトル値をaikで示すと、これを要素とする行列として、次式のように表される。
【0044】
【数1】
なお、パワースペクトル値a
ikにおけるkは、特定周波数帯域の数、つまりバンドパスフィルタの数であり、上記のように0~5kHzの帯域を5つに分ける場合、k=1~5となる。そして、全区画1~nの特徴ベクトルX1~Xnを総括して示した行列式Xは、次式となる。
【0045】
【数2】
この行列式Xがタイヤ1回転分の特徴量を表した式となる。特徴量抽出部11aでは、この行列式Xで表される特徴量を加速度取得部10の検出信号を周波数解析することによって抽出している。
【0046】
続いて、変化判定部11cによる路面状態の変化の判定について説明する。この判定は、特徴量抽出部11aが抽出した今回特徴量と、特徴量保存部11bに保存された前回特徴量とを用いて類似度を算出することで行われる。
【0047】
上記したように特徴量を表す行列式Xについて、今回特徴量の行列式をX(r)、前回特徴量の行列式をX(r-1)とし、それぞれの行列式の各要素となるパワースペクトル値aikをa(r)ik,a(r-1)ikで表すとする。その場合、今回特徴量の行列式X(r)と前回特徴量の行列式X(r-1)は、それぞれ次のように表される。
【0048】
【0049】
【数4】
類似度は、2つの行列式で示される特徴量同士の似ている度合いを示しており、類似度が高いほどより似ていることを意味している。本実施形態の場合、変化判定部11cは、カーネル法を用いて類似度を求め、その類似度に基づいて路面状態の変化の判定を行う。ここでは、タイヤ3の今回の回転時の行列式X(r)と1回転前の行列式をX(r-1)の内積、換言すれば特徴空間内において所定の時間幅Tの時間窓毎で分割した区画同士の特徴ベクトルXiが示す座標間の距離を算出し、それを類似度として用いている。
【0050】
例えば、
図6に示すように、加速度取得部10の検出信号の時間軸波形について、タイヤ3の今回の回転時の時間軸波形と1回転前のときの時間軸波形それぞれを所定の時間幅Tの時間窓で各区画に分割する。図示例の場合、各時間軸波形を5つの区画に分割しているため、n=5となり、iは、1≦i≦5で表される。ここで、図中に示したように、今回の回転時の各区画の特徴ベクトルXiをXi(r)、1回転前のときの各区画の特徴ベクトルをXi(r-1)とする。その場合、各区画の特徴ベクトルXiが示す座標間の距離K
yzについては、今回の回転時の各区画の特徴ベクトルXi(r)を含む横の升と1回転前のときの各区画の特徴ベクトルXi(r-1)を含む縦の升とが交差する升のように示される。なお、距離K
yzについて、yはXi(r-1)におけるiを書き換えたものであり、zはXi(r)におけるiを書き換えたものである。また、車速については、今回の回転時と1回転前とで大きな変化はないため、基本的には各回転時の区画数は等しくなる。
【0051】
本実施形態の場合、5つの特定周波数帯域に分けて特徴ベクトルを取得している。このため、時間軸と合わせた6次元空間において各区画の特徴ベクトルXiが表されることとなり、区画同士の特徴ベクトルがXi示す座標間の距離は、6次元空間における座標間の距離となる。ただし、各区画の特徴ベクトルが示す座標間の距離については、特徴量同士が似ているほど小さく、似ていないほど大きくなることから、当該距離が小さいほど類似度が高く、距離が大きいほど類似度が低いことを示している。
【0052】
例えば、時分割によって区画1~nとされている場合、区画1同士の特徴ベクトルが示す座標間の距離Kyzについては、次式で示される。
【0053】
【数5】
このようにして、時分割による区画同士の特徴ベクトルが示す座標間の距離K
yzを全区画について求め、全区画分の距離K
yzの総和K
totalを演算し、この総和K
totalが類似度に対応する値として用いている。そして、総和K
totalを所定の閾値Thと比較し、総和K
totalが閾値Thよりも大きければ、類似度が低く、路面状態の変化が有ったと判定し、総和K
totalが閾値Thよりも小さければ、類似度が高く、路面状態の変化は無かったと判定する。
【0054】
なお、ここでは類似度に対応する値として各区画の特徴ベクトルが示す2つの座標間の距離Kyzの総和Ktotalを用いているが、類似度を示すパラメータとして他のものを用いることもできる。例えば、類似度を示すパラメータとして、総和Ktotalを区画数で割って求めた距離Kyzの平均値である平均距離Kaveを用いることができる。また、様々なカーネル関数を用いて類似度を求めることもできるし、特徴ベクトルのすべてを用いるのではなく、その中から類似度の低いパスを除いて類似度の演算を行うようにしても良い。
【0055】
次に、積分演算部25dによる積分値の算出方法や摩耗判定部25eによる摩耗判定の詳細について説明する。
【0056】
上記したように、加速度取得部10の検出信号を複数の特定周波数帯域のフィルタに通して得られたパワースペクトル値を特徴量として算出しており、数1に示される行列として表されることになる。このため、0~1kHz、1~2kHz、2~3kHz、3~4kHz、4~5kHzの5つのバンドパスフィルタを使った場合、数2に示される行列式のうちの1行目が0~1kHz帯域の特徴量を表し、順に各行が各周波数帯域の特徴量を示すことになる。また、1列目が複数の時間幅Tで分割された各区画のうちの最初の時間幅Tでの特徴量を示しており、順に各列が各時間幅Tでの特徴量を表すことになる。
【0057】
したがって、同じ行の各列の特徴量を足し合せた和は、その行に対応する周波数帯域におけるタイヤ3の1回転分の特徴量の積分値に相当する値になる。積分演算部25dは、特定周波数帯域の特徴量の積分値として、特定周波数帯域と対応する行の各列の特徴量の和を算出している。ここでいう特定周波数帯域とは、特徴量にタイヤ3の摩耗状態に応じた変化が現れる高周波数帯域を意味しており、例えば1kHz以上の周波数帯域が該当する。このため、積分演算部25dは、1kHz以上の周波数帯域の特徴量の積分値を演算している。上記した周波数帯域のバンドパスフィルタを用いた場合であれば、積分演算部25dは、2行~5行目それぞれの各列の特徴量を足し合せた和の合計値を1kHz~5kHzの周波数帯域の特徴量の積分値として演算している。
【0058】
なお、ここでは1kHz以上の周波数帯域の全周波数帯域の特徴量の和の合計値を積分値としたが、少なくともその一部の特徴量の積分値であれば良い。すなわち、1kHz以上のいずれか1つの周波数帯域の特徴量の和であっても良いし、複数の周波数帯域の特徴量の和の合計値であっても良い。
【0059】
ここで、タイヤ摩耗状態に応じて特徴量に変化が生じる理由およびその変化が生じるのが高周波数帯域である理由について説明する。
【0060】
タイヤ3の踏み込み領域や蹴り出し領域での振動レベルの周波数特性は、ゴムブロックを含むタイヤ3の振動特性に基づいて決まり、ゴムブロックを含むタイヤ3の固有振動周波数において振動レベルがピークとなる。そして、その固有振動周波数よりも高周波数帯ではゴムブロックによる防振効果により、振動レベルが減衰する。このゴムブロックを含むタイヤ3の固有振動周波数については、ゴムブロックの摩耗状態に応じて変化し、ゴムブロックの摩耗が進むほど増加する。
【0061】
これについて、図面を参照して説明する。
図7は、タイヤ3の振動モデルを示している。タイヤ3のトレッド面32およびゴムブロック33のうちタイヤ側装置1に加わる振動に影響を与える部分の質量をMt、バネ定数をKt、ゴムブロック33の質量をMb、バネ定数をKb、ダンパ減衰係数をCとして記載してある。タイヤ3においては、路面からの入力振動に対してゴムブロック33が防振材となることでローパスフィルタとしての役割を果たすことになる。
【0062】
タイヤ3が新品の状態においては、タイヤトレッド31の溝が深く、ゴムブロック33の高さが高いが、タイヤ摩耗が進むと、タイヤトレッド31の溝が浅くなり、ゴムブロック33の高さが低くなる。このため、タイヤ3が新品の場合と比較して、タイヤ摩耗が進んだ場合には、ゴムブロック33の質量Mbが小さくなり、バネ定数Kbは大きくなる。そして、ゴムブロック33でのローパスフィルタとしての機能が低下し、タイヤ振動の高周波成分が大きくなる。
【0063】
ここで、一般的な振動モデルは、
図8のように表され、この振動モデルにおける固有振動周波数Fnは、次式で表される。なお、数式1中において、kは振動モデルにおける防振材のバネ定数、mは振動源の質量である。
【0064】
【数6】
なお、バネ定数kは、振動モデルを構成する振動対象、本実施形態の場合はゴムブロック33の材料で決まるヤング率に振動対象の面積を掛け算し、振動対象の厚み、換言すれば高さで割った値として定義される。
【0065】
図7に示したタイヤ3の振動モデルにおいては、質量Mtが質量Mbよりも十分に大きく、バネ定数Ktの方がバネ定数Kbよりも十分に大きくなっている。このため、実質的に質量Mtおよびバネ定数Kbのみを考慮して、
図8に示した一般的な振動モデルと見做すことができる。つまり、数式1の質量mおよびバネ定数kを、それぞれ、
図7における質量Mtおよびバネ定数Kbに置き換えることができる。そして、ゴムブロック33が摩耗して高さが低くなると、それに伴って質量Mbが小さくなり、バネ定数Kbが大きくなる。この場合、質量Mtはあまり変化せず、バネ定数Kbが大きくなったことを想定すると、数式6で示される固有振動周波数Fnが増加する。
【0066】
このように、タイヤ3の踏み込み領域や蹴り出し領域での振動レベルの周波数特性は、ゴムブロック33を含むタイヤ3の振動特性に基づいて決まり、ゴムブロック33を含むタイヤ3の固有振動周波数Fnにおいて振動レベルがピークとなる。そして、この固有振動周波数Fnは、ゴムブロック33が摩耗して高さが低くなるほど増加する。例えば
図9に示すようにタイヤ3が新品で溝深さが8mmの場合には固有振動周波数Fnが1.0kHz、タイヤ3が摩耗して溝深さが1.6mmの場合には固有振動周波数Fnが1.5kHzとなった。この固有振動周波数Fnは、タイヤ3の材質などによって異なった値になるが、タイヤ3の材質にかかわらず、タイヤ3が摩耗するほど固有振動周波数Fnが増加する。
【0067】
したがって、タイヤ3の交換目安となる溝深さを決めておき、タイヤ3の溝深さが交換目安になったときの固有振動周波数Fnを特定周波数とし、それ以上の周波数帯を特定周波数帯域として、その特定周波数帯域の特徴量の積分値を演算するようにしている。例えば、タイヤ3の交換推奨溝深さが3.0mmとされており、その深さをタイヤ3の交換目安となる溝深さとする場合には、例えば1.0kHz以上の高周波数帯域の特徴量の微分値を演算すれば良いことを確認している。
【0068】
このように、タイヤ摩耗状態に応じてタイヤ3の振動レベルの周波数特性が変わるためタイヤ摩耗状態に応じて特徴量に変化が生じる。また、タイヤ3の固有振動周波数を加味した高周波数帯域において特に特徴量の変化が現れる。したがって、積分演算部25dにて、高周波数帯域での特徴量の積分値を演算している。
【0069】
続いて、本実施形態にかかるタイヤ装置100の作動について、
図10を参照して説明する。
【0070】
各車輪のタイヤ側装置1では、制御部11にて、
図10に示すデータ送信処理を実行している。この処理は、所定の制御周期ごとに実行される。
【0071】
まず、ステップS100では、加速度取得部10の検出信号の入力処理を行う。この処理は、続くステップS110において、タイヤ3が1回転するまでの期間継続される。そして、加速度取得部10の検出信号をタイヤ1回転分入力すると、その後のステップS120に進み、入力したタイヤ1回転分の加速度取得部10の検出信号の時間軸波形の特徴量を抽出する。以上のステップS100~S120の処理は、特徴量抽出部11aによって行われる。
【0072】
なお、タイヤ3が1回転したことについては、加速度取得部10の検出信号の時間軸波形に基づいて判定している。すなわち、検出信号は
図4に示した時間軸波形を描くことから、検出信号の第1ピーク値や第2ピーク値を確認することでタイヤ3の1回転を把握することができる。
【0073】
また、路面状態が検出信号の時間軸波形の変化として特に現れるのが、「踏み込み領域」、「蹴り出し前領域」、「蹴り出し領域」を含めたその前後の期間である。このため、この期間中のデータが入力されていれば良く、必ずしもタイヤ1回転中における加速度取得部10の検出信号すべてのデータを入力していなくても良い。例えば、「踏み込み前領域」や「蹴り出し後領域」については、「踏み込み領域」の近傍や「蹴り出し領域」の近傍のデータがあれば良い。このため、加速度取得部10の検出信号のうちの振動レベルが閾値よりも小さくなる領域については、「踏み込み前領域」や「蹴り出し後領域」の中でも路面状態の影響を受け難い期間として、検出信号の入力を行わないようにしても良い。
【0074】
また、ステップS120で行う特徴量の抽出については、上述した通りの手法によって行っている。
【0075】
この後、ステップS130に進み、今回特徴量と前回特徴量とに基づいて、上述した手法によって類似度を求め、例えば類似度を閾値Thと比較することで、路面状態の変化が有ったか否かを判定する。この処理は、変化判定部11cによって実行されるもので、特徴量抽出部11aで抽出した今回特徴量と、後述するステップS150において特徴量保存部11bに保存された前回特徴量とに基づいて実行される。
【0076】
そして、ステップS130で肯定判定されると、ステップS140においてデータ送信を実行すべく、変化判定部11cより今回特徴量を含む路面データをデータ通信部12に伝える。これにより、データ通信部12より、今回特徴量を含む路面データが送信される。このように、路面状態の変化が有った時にのみデータ通信部12から今回特徴量を含む路面データが送信されるようにしてあり、路面状態の変化が無かったときにはデータ送信が行われないようにしている。このため、通信頻度を低下させることが可能となり、タイヤ3内の制御部11の省電力化を実現することが可能となる。
【0077】
最後に、ステップS150に進み、今回特徴量を前回特徴量として特徴量保存部11bに保存して、処理を終了する。
【0078】
一方、受信機21では、制御部25にて、
図11に示す路面状態判別および摩耗検出処理を行う。この処理は、図示しないイグニッションスイッチなどの車両の始動スイッチがオンされると、所定の制御周期ごとに実行される。
【0079】
まず、ステップS200では、データ受信処理が行われる。この処理は、データ通信部24が路面データを受信したときに、その路面データを制御部25が取り込むことによって行われる。データ通信部24がデータ受信を行っていないときには、制御部25は何も路面データを取り込むことなく本処理を終えることになる。
【0080】
この後、ステップS210に進み、データ受信が有ったか否かを判定し、受信していた場合にはステップS220に進み、受信していなければ受信するまでステップS200、S210の処理が繰り返される。
【0081】
そして、ステップS220に進み、路面状態の判別を行う。路面状態の判別については、受信した路面データに含まれる今回特徴量と、サポートベクタ保存部25aに保存された路面の種類別のサポートベクタとを比較することで、路面状態を判別する。例えば、今回特徴量と路面の種類別の全サポートベクタとの類似度を求め、最も類似度が高かったサポートベクタの路面を現在の走行路面と判別している。このときの類似度の演算については、
図10のステップS130において今回特徴量と前回特徴量との類似度の演算と同じ手法を用いれば良い。
【0082】
その後、ステップS230に進み、摩耗検出が行われる。摩耗検出については、上記したように、積分演算部25dにおいて数2で示された特定周波数帯域の特徴量の和を積分値として算出したのち、例えばその積分値を判定閾値と比較することで行われる。例えば、タイヤ3の摩耗量に相当する溝深さと積分値との関係は
図12のように表されることから、タイヤ3の交換目安となる溝深さのときの積分値を判定閾値として設定しておく。そして、積分演算部25dで演算された積分値が判定閾値と以下になったときに、タイヤ摩耗が生じていることを検出する。
【0083】
以上説明したようにして、本実施形態にかかるタイヤ装置100により、車両の走行路面の路面状態を判別したりタイヤ摩耗状態を検出したりしている。そして、路面状態を判別するための路面データを用い、路面データ中における特定周波数帯域の特徴量の和を積分値として用いてタイヤ摩耗状態を検出している。これにより、タイヤ摩耗状態の検出のためのみにデータ送信を行ったりする必要がなくなる。したがって、タイヤ側装置1にタイヤ摩耗状態の検出のためのアルゴリズムを実装しなくても済み、サンプリング、保存、各種演算処理を最小限に抑えて省電力、省メモリ化することが可能となる。よって、路面状態判別とタイヤ摩耗状態の検出を行えるようにしつつ、より省電力、省メモリ化を実現することができるタイヤ装置100にできる。
【0084】
また、路面状態の判別を行うに際し、タイヤ側装置1からの今回特徴量を含む路面データの送信が路面状態の変化タイミングのみとなるようにしている。このため、通信頻度を低下させることが可能となり、さらにタイヤ3内の制御部11の省電力化を実現することが可能となる。
【0085】
なお、タイヤ摩耗状態の検出については、高頻度に行う必要は無く、車両を走行させる際に1回、例えば起動スイッチがオンされている期間中に1回実施するだけでも構わない。このため、路面状態の判別を行うための路面データを使用してタイヤ摩耗状態を検出すれば、タイヤ摩耗状態の検出のためだけにデータ送信を行わなくても問題無い。また、上記したように、路面状態の変化時に路面データがタイヤ側装置1から車体側システム2に送られてくるため、その度にタイヤ摩耗状態の検出も行われることになるが、タイヤ摩耗状態の検出頻度については減らしても構わない。このため、例えば起動スイッチがオンされてからタイヤ摩耗状態が検出済みであった場合には、それを示すフラグをセットするようにしておき、そのフラグがセットされていれば、ステップS230の処理が実行されないようにしても良い。
【0086】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して車両状態を加味してタイヤ摩耗状態の検出が行えるようにするものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0087】
図13に示すように、本実施形態のタイヤ装置100は、車体側システム2に状態取得部26を備えており、状態取得部26で取得した車両情報が車内LANを通じて制御部25に伝えられるようにしている。そして、制御部25では、路面判別部25cが路面状態判別を行う際や摩耗判定部25eがタイヤ摩耗状態を検出する際に、車両情報が加味されるようにしている。
【0088】
ここでいう車両情報とは、タイヤ摩耗状態に関係する情報を意味している。タイヤ摩耗状態に関係する情報とは、タイヤ摩耗状態の検出に影響を及ぼす情報のことであり、車速情報、加減速情報、操舵情報、路面情報、天気情報および位置情報、温度情報などが挙げられる。
【0089】
車速情報は、車両の車速を示す情報である。車速が高いほど、加速度取得部10の検出信号が示す振動波形の振幅が大きくなる。つまり、上記した
図12に示される関係についても、タイヤ3の摩耗量が同じであっても、車速が高いと特徴量の積分値が高い値となり、車速が低いと特徴量の積分値が低い値となる。このため、車速情報に基づいて、車速が高いほど、特徴量の積分値が大きな値として算出され得ることから、車速が高いほどタイヤ摩耗状態を検出する際の判定閾値を高い値に補正したり、逆に特徴量の積分値を小さな値に補正したりすることができる。また、車速が所定速度以上であればタイヤ摩耗状態の検出を行わないようにすることもできる。
【0090】
加減速情報は、車両の加減速度を示す情報である。例えば急加速中やブレーキ中である場合には、タイヤ摩耗状態を的確に検出できない可能性がある。このため、加減速度情報に基づいて、加減速度が所定範囲内の場合にタイヤ摩耗状態を検出し、所定範囲外の場合にはタイヤ摩耗状態の検出を行わないようにすることができる。
【0091】
操舵情報は、車両における操舵輪の操舵角に関する情報である。車両が旋回中である場合には、タイヤ摩耗状態を的確に検出できない可能性がある。このため、操舵情報に基づいて、操舵角が所定範囲内の場合にタイヤ摩耗状態を検出し、所定範囲外の場合にはタイヤ摩耗状態の検出を行わないようにすることができる。
【0092】
路面情報は、車両の走行路面の状態を示す情報である。例えば、ナビゲーション装置などから得られる道路情報や位置情報から、砂利道のような凹凸路であることなどの路面状態を把握することができる。凹凸路などでは、その影響が加速度取得部10の検出信号に現れるため、タイヤ摩耗状態の検出を的確に検出できない可能性がある。このため、路面情報に基づいて、例えばアスファルト路面のような平坦路の場合にタイヤ摩耗状態を検出し、平坦路以外ではタイヤ摩耗状態の検出を行わないようにすることができる。
【0093】
天気情報は、晴天、雨天、雪などの天候を示す情報であり、位置情報と共に用いることで、車両の走行場所における天気が特定される。例えば、晴天の場合と比較して、雨天や雪のときには路面μが低くなる傾向にあり、スリップに起因する振動成分が加速度取得部10の検出信号に重畳されることがあり、タイヤ摩耗状態の検出を的確に検出できない可能性がある。このため、天気情報に基づいて、例えば晴天の場合にタイヤ摩耗状態を検出し、雨天や雪などの晴天以外の場合にはタイヤ摩耗状態の検出を行わないようにすることができる。
【0094】
温度情報は、外気温を示す情報である。外気温が想定温度範囲よりも高いもしくは低い場合にはタイヤ3のバネ定数の変動が大きくなり、タイヤ3の振動特性が変化するため、タイヤ摩耗状態の検出を的確に検出できない可能性がある。このため、温度情報に基づいて、所定の温度範囲内の場合にはタイヤ摩耗状態を検出し、その温度範囲外の場合にはタイヤ摩耗状態の検出を行わないようにすることができる。
【0095】
このように、車両情報を加味して、タイヤ摩耗状態の検出を行うことができる。これにより、より的確にタイヤ摩耗状態を検出することが可能となる。
【0096】
なお、ここでは、タイヤ摩耗状態の検出に車両情報を用いる場合について説明したが、路面状態の判別についても、車両情報を用いることができる。このように、路面状態の判別に車両情報を用いるようにすれば、より的確に路面状態を判別することが可能となる。
【0097】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対してタイヤ摩耗状態の検出の手法を変更したものであり、その他については第1、第2実施形態と同様であるため、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0098】
図14に示すように、本実施形態のタイヤ装置100では、車体側システム2における制御部25に初期値設定部25fを備えている。
【0099】
初期値設定部25fは、積分演算部25dで算出された最初の積分値を初期値、つまりタイヤ3の摩耗前の状態での積分値として記憶しておくものである。例えば、車両製造後に最初に走行を行ったタイミングで検出された最初の積分値を初期値としたり、タイヤ交換時に図示しない設定用スイッチなどが押下されたときに最初に走行を行ったタイミングで検出された最初の積分値を初期値とすることができる。摩耗判定部25eは、この初期値設定部25fで記憶された初期値と積分演算部25dで演算された特徴量の積分値との相対変化からタイヤ摩耗状態を検出する。例えば、摩耗判定部25eは、初期値に対して積分演算部25dで演算された特徴量の積分値が所定割合低下した場合にタイヤ摩耗が進んだと判定することができる。
【0100】
このように、初期値設定部25fを備えるようにしてタイヤ3の摩耗前の積分値を初期値として記憶させ、この初期値からの積分演算部25dで演算された特徴量の積分値の相対変化によってタイヤ摩耗状態の検出を行うこともできる。このようにすれば、様々な車種、タイヤ種に対応して判定閾値を設定しなくても、タイヤ摩耗状態を検出できる。
【0101】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0102】
例えば、上記各実施形態では、路面状態の変化時にのみタイヤ側装置1から車体側システム2に対して路面データが送信される例を挙げたが、更なる省電力化を図るためであり、他のタイミングで路面データが送信されるようにしても良い。例えば、タイヤ3が1回転または複数回転する毎に1回もしくは複数回、タイヤ側装置1から車体側システム2に路面データが送信されるようにしても良い。
【0103】
また、上記実施形態では、振動検出部を加速度取得部10によって構成する場合を例示したが、他の振動検出を行うことができる素子、例えば圧電素子などによって振動検出部を構成することもできる。
【0104】
また、上記実施形態では、車体側システム2に備えられる受信機21の制御部25によって今回特徴量とサポートベクタとの類似度を求め、路面状態の判別を行うようにしている。しかしながら、これも一例を示したに過ぎず、他のECU、例えばブレーキECU22の制御部によって類似度を求めたり、路面状態の判別を行うようにしても良い。
【0105】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10 加速度取得部
11 制御部
11a 特徴量抽出部
11b 特徴量保存部
11c 変化判定部
21 受信機
25 制御部
25a サポートベクタ保存部
25c 路面判別部
25c 摩耗判定部