(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】駆動力配分装置
(51)【国際特許分類】
F16D 25/10 20060101AFI20231017BHJP
F16H 48/19 20120101ALI20231017BHJP
【FI】
F16D25/10 C
F16H48/19
(21)【出願番号】P 2019164381
(22)【出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 則行
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101915276(CN,A)
【文献】国際公開第2011/089825(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/10
F16H 48/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上で相対回転可能に配置された第1及び第2の出力回転部材と、
前記第1及び第2の出力回転部材と同軸上で相対回転可能に配置された入力回転部材と、
前記入力回転部材と前記第1の出力回転部材との間に配置された複数のクラッチプレートからなる第1の多板クラッチと、
前記入力回転部材と前記第2の出力回転部材との間に配置された複数のクラッチプレートからなる第2の多板クラッチと、
前記第1の多板クラッチと前記第2の多板クラッチとの間に配置された受圧部材と、
前記第1の多板クラッチを前記受圧部材に向かって押圧する第1の押圧機構と、
前記第2の多板クラッチを前記受圧部材に向かって押圧する第2の押圧機構とを備え、
前記受圧部材は、前記入力回転部材に固定された環状の基部と、前記基部から径方向に突出した複数の突片とを有し、
前記複数の突片は、前記第1の押圧機構の押圧力を前記第1の多板クラッチを介して受ける第1の受圧面を有する複数の第1の突片と、前記第2の押圧機構の押圧力を前記第2の多板クラッチを介して受ける第2の受圧面を有する複数の第2の突片とを有し、
前記第1の突片は、前記第1の受圧面の裏面にあたる第1の背面の少なくとも一部が前記第2の受圧面よりも前記第1の多板クラッチ側に位置し、
前記第2の突片は、前記第2の受圧面の裏面にあたる第2の背面の少なくとも一部が前記第1の受圧面よりも前記第2の多板クラッチ側に位置して
おり、
前記第1の突片及び前記第2の突片は、径方向の少なくとも一部において前記入力回転部材の軸方向の厚さが前記基部よりも薄く、前記第1の受圧面の軸方向位置が前記基部の一方の端面の軸方向位置と同じであり、前記第2の受圧面の軸方向位置が前記基部の他方の端面の軸方向位置と同じである、
駆動力配分装置。
【請求項2】
前記複数の第1の突片と前記複数の第2の突片とが、前記基部の径方向に延びる複数のスリットによって前記基部の周方向に分割されて
おり、
前記第1の多板クラッチは、前記第1の出力回転部材と共に回転する複数の第1の出力クラッチプレートと、前記入力回転部材と共に回転する複数の第1の入力クラッチプレートとを有し、
前記第2の多板クラッチは、前記第2の出力回転部材と共に回転する複数の第2の出力クラッチプレートと、前記入力回転部材と共に回転する複数の第2の入力クラッチプレートとを有し、
前記スリットは、前記複数の第1の出力クラッチプレート及び前記複数の第2の出力クラッチプレートよりも前記入力回転部材側に至る範囲に形成されており、
前記入力回転部材は、前記複数の第1の入力クラッチプレートが係合するスプライン係合部が形成された第1の係合部材と、前記複数の第2の入力クラッチプレートが係合するスプライン係合部が形成された第2の係合部材とを有し、
前記第1の係合部材と前記第2の係合部材との間に前記受圧部材の前記基部が挟まれている、
請求項1に記載の駆動力配分装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された駆動力を第1及び第2の出力回転部材に配分して出力する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力された駆動力を第1及び第2の出力回転部材に配分して出力する駆動力配分装置が、例えば4輪駆動車における左右一対の補助駆動輪に駆動力を配分するために用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力配分装置(動力伝達装置)は、左右の後輪に駆動力を出力する左右の出力軸と、駆動力が入力される入力軸に結合されたクラッチアウターと、左右の出力軸にそれぞれ結合された左右のクラッチインナーと、クラッチアウターと左右のクラッチインナーとの間にそれぞれ配置された左右の摩擦係合部材と、左右の摩擦係合部材を軸方向に押圧する左右のクラッチピストンとを備えている。
【0004】
クラッチアウターは、左右のクラッチインナー間に複数の軸受を介して軸方向に位置決めされたボス部と、左右の摩擦係合部材を介して伝達される左右のクラッチピストンの押圧力を支持すべくボス部から二股に分岐する左右のディスク部と、左右の摩擦係合部材の外周部を案内すべく左右のディスク部から軸方向に延びる左右のドラム部とを備えている。左右のディスク部は、それぞれの内周がボス部の外周に溶接され、左右のディスク部の間には軸方向の隙間が形成されている。そして、この隙間により、左側のクラッチピストンの押圧力が右側の摩擦係合部材に伝達されること、及び右側のクラッチピストンの押圧力が左側の摩擦係合部材に伝達されることが抑制され、左右のクラッチの作動が相互に干渉することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された駆動力配分装置の構成では、左右のディスク部の間に隙間を形成するため、左右の摩擦係合部材の間隔が広くなり、装置が大型化してしまう。特に、車両に搭載される駆動力配分装置の場合には、大型化に伴う重量の増大によって燃費性能が低下してしまう共に、大きな設置スペースが必要になって車両搭載性も低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、入力回転部材から第1の出力回転部材に駆動力を伝達する多板クラッチの押圧力と、入力回転部材から第2の出力回転部材に駆動力を伝達する多板クラッチの押圧力とが相互に干渉することを抑制しながら、装置の大型化を抑制することが可能な駆動力配分装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、同軸上で相対回転可能に配置された第1及び第2の出力回転部材と、前記第1及び第2の出力回転部材と同軸上で相対回転可能に配置された入力回転部材と、前記入力回転部材と前記第1の出力回転部材との間に配置された複数のクラッチプレートからなる第1の多板クラッチと、前記入力回転部材と前記第2の出力回転部材との間に配置された複数のクラッチプレートからなる第2の多板クラッチと、前記第1の多板クラッチと前記第2の多板クラッチとの間に配置された受圧部材と、前記第1の多板クラッチを前記受圧部材に向かって押圧する第1の押圧機構と、前記第2の多板クラッチを前記受圧部材に向かって押圧する第2の押圧機構とを備え、前記受圧部材は、前記入力回転部材に固定された環状の基部と、前記基部から径方向に突出した複数の突片とを有し、前記複数の突片は、前記第1の押圧機構の押圧力を前記第1の多板クラッチを介して受ける第1の受圧面を有する複数の第1の突片と、前記第2の押圧機構の押圧力を前記第2の多板クラッチを介して受ける第2の受圧面を有する複数の第2の突片とを有し、前記第1の突片は、前記第1の受圧面の裏面にあたる第1の背面の少なくとも一部が前記第2の受圧面よりも前記第1の多板クラッチ側に位置し、前記第2の突片は、前記第2の受圧面の裏面にあたる第2の背面の少なくとも一部が前記第1の受圧面よりも前記第2の多板クラッチ側に位置しており、前記第1の突片及び前記第2の突片は、径方向の少なくとも一部において前記入力回転部材の軸方向の厚さが前記基部よりも薄く、前記第1の受圧面の軸方向位置が前記基部の一方の端面の軸方向位置と同じであり、前記第2の受圧面の軸方向位置が前記基部の他方の端面の軸方向位置と同じである、駆動力配分装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る駆動力配分装置によれば、入力回転部材から第1の出力回転部材に駆動力を伝達する多板クラッチの押圧力と、入力回転部材から第2の出力回転部材に駆動力を伝達する多板クラッチの押圧力とが相互に干渉することを抑制しながら、装置の大型化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力配分装置が搭載された4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。
【
図4】(a)は、センタープレートにおける第1の多板クラッチ側の側面を示す斜視図である。(b)は、センタープレートにおける第2の多板クラッチ側の側面を示す斜視図である。(c)は、センタープレートを中心部側から見た状態を示す説明図である。
【
図5】(a)は、変形例に係るセンタープレートにおける第1の多板クラッチ側の側面を示す斜視図である。(b)は、変形例に係るセンタープレートにおける第2の多板クラッチ側の側面を示す斜視図である。(c)は、変形例に係るセンタープレートを中心部側から見た状態を示す説明図である。
【
図6】第2の実施の形態に係る駆動力配分装置の構成例を示す断面図である。
【
図7】(a),(b)は、第2の実施の形態に係る受圧部材の一部を示す斜視図であり、(a)は受圧部材における第1の多板クラッチ側の側面を示し、(b)は受圧部材における第2の多板クラッチ側の側面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力配分装置が搭載された4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。この4輪駆動車1は、主駆動輪である左右の前輪101,102が主駆動源としてのエンジン11の駆動力によって駆動され、補助駆動輪である左右の後輪103,104が補助駆動源としての電動モータ2を有する補助駆動装置10によって駆動される。
【0013】
エンジン11の駆動力は、トランスミッション12からディファレンシャル装置13に伝達され、ディファレンシャル装置13から左右のドライブシャフト141,142を介して左右の前輪101,102に配分される。なお、主駆動源としては、高出力型の電動モータを用いてもよく、エンジンと高出力型の電動モータとを組み合わせた所謂ハイブリッド型のものを用いてもよい。
【0014】
左右の後輪103,104には、補助駆動装置10の電動モータ2の駆動力が左右のドライブシャフト151,152を介して伝達される。補助駆動装置10は、電動モータ2と、電動モータ2の出力軸20の回転を減速する減速機構3と、減速機構3から入力された駆動力を左右のドライブシャフト151,152に配分して出力する駆動力配分装置4と、左右のドライブシャフト151,152にそれぞれ連結された第1及び第2の出力軸51,52と、これらを収容するハウジング6とを有している。ハウジング6は、車体100に固定されている。本実施の形態では、駆動力配分装置4が油圧ユニット16から供給される作動油によって動作する。油圧ユニット16及び電動モータ2は、制御装置17によって制御される。
【0015】
図2は、補助駆動装置10の構成例を示す断面図である。
図3は、
図2の一部を拡大して示す拡大図である。
図2では、図面左側が4輪駆動車1における車両左側にあたり、図面右側が4輪駆動車1における車両右側にあたる。ハウジング6は、第1乃至第5のハウジング部材61~65を有しており、これらのハウジング部材61~65が複数のボルトによって相互に固定されている。
【0016】
電動モータ2は、第3のハウジング部材63に収容され、第3のハウジング部材63における車両左側の開口部が第1及び第2のハウジング部材61,62によって閉塞されている。第4のハウジング部材64は、減速機構3及び駆動力配分装置4を収容しており、第4のハウジング部材64の内部に第5のハウジング部材65が固定されている。第5のハウジング部材65は、後述する減速歯車32の大径歯車部321の収容空間と駆動力配分装置4の収容空間とを区画している。
【0017】
電動モータ2は、中空管状に形成された出力軸20と、出力軸20と一体に回転するロータ21と、ロータ21の外周に配置されたステータ22と、出力軸20の回転を検出する回転センサ23とを有している。ロータ21は、ロータコア211と、ロータコア211に固定された複数の永久磁石212とを有している。ステータ22は、ステータコア221と、ステータコア221に巻き回された複数相の巻線222とを有している。出力軸20の内側には、第1の出力軸51が挿通されている。
【0018】
ステータコア221は、第3のハウジング部材63に固定されている。複数相の巻線222には、制御装置17からモータ電流が供給される。回転センサ23は、出力軸20に固定されたレゾルバロータ231と、第2のハウジング部材62に固定されたレゾルバセンサ232とからなり、レゾルバセンサ232の検出信号が制御装置17に送られる。出力軸20は、第2のハウジング部材62との間に配置された軸受661、及び第3のハウジング部材63との間に配置された662によって回転可能に支持されている。
【0019】
減速機構3は、電動モータ2の出力軸20の端部に外嵌された筒状のピニオンギヤ31と、大径歯車部321及び小径歯車部322を有する減速歯車32と、小径歯車部322に噛み合うリングギヤ33とを有して構成されている。ピニオンギヤ31は、出力軸20にスプライン嵌合しており、出力軸20と一体に回転する。また、ピニオンギヤ31は、外周に形成されたギヤ部311が減速歯車32の大径歯車部321と噛み合っている。
【0020】
減速歯車32の小径歯車部322は、中空軸状に形成されており、第3のハウジング部材63との間に配置された軸受663、及び第4のハウジング部材64との間に配置された軸受664によって回転可能に支持されている。電動モータ2の駆動力は、ピニオンギヤ31及び減速歯車32を介して、リングギヤ33から駆動力配分装置4の入力回転部材40に入力される。
【0021】
駆動力配分装置4は、リングギヤ33から入力された駆動力を第1及び第2の出力軸51,52に伝達する。第1の出力軸51は、第1のハウジング部材61との間に配置された軸受665、及び第5のハウジング部材65との間に配置された軸受666によって回転可能に支持されている。第1のハウジング部材61と第1の出力軸51との間には、異物の侵入を防ぐためのシール部材671が配置されている。第2の出力軸52は、第4のハウジング部材64との間に配置された軸受667によって回転可能に支持されている。
【0022】
第4のハウジング部材64の内部には潤滑油が封入されており、ハウジング6の外部への潤滑油の漏出が第4のハウジング部材64と第2の出力軸52との間に配置されたシール部材672によって抑止されている。また、電動モータ2側への潤滑油の漏出は、第3のハウジング部材63とピニオンギヤ31との間に配置されたシール部材673によって抑止されている。この潤滑油は、駆動力配分装置4の各部の摺動を潤滑する。
【0023】
駆動力配分装置4は、同軸上で相対回転可能に配置された第1及び第2の出力回転部材41,42と、第1及び第2の出力回転部材41,42と同軸上で相対回転可能に配置された入力回転部材40と、入力回転部材40と第1の出力回転部材41との間に配置された第1の多板クラッチ43と、入力回転部材40と第2の出力回転部材42との間に配置された第2の多板クラッチと44と、第1の多板クラッチ43を押圧する第1の押圧機構45と、第2の多板クラッチ44を押圧する第2の押圧機構46と、第1の多板クラッチ43と第2の多板クラッチ44との間に配置された受圧部材としてのセンタープレート47とを備えている。第1及び第2の出力回転部材41,42は、第1及び第2の出力軸51,52の回転軸線Oに沿って軸方向に並んでいる。
【0024】
入力回転部材40は、第1の出力回転部材41の外周に配置された第1のクラッチドラム40Aと、第2の出力回転部材42の外周に配置された第2のクラッチドラム40Bとを有している。第1のクラッチドラム40A及び第2のクラッチドラム40Bは、複数のボルト400により、リングギヤ33及びセンタープレート47と共に相対回転不能に連結されている。
図2及び
図3では、このうち一本のボルト400を図示している。
【0025】
第1の出力回転部材41は、第1の出力軸51がスプライン嵌合により相対回転不能に連結された小径円筒部411と、小径円筒部411の外周に設けられた大径円筒部412と、小径円筒部411と大径円筒部412とを連結する環状の連結壁部413とを一体に有している。同様に、第2の出力回転部材42は、第2の出力軸52がスプライン嵌合により相対回転不能に連結された小径円筒部421と、小径円筒部421の外周に設けられた大径円筒部422と、小径円筒部421と大径円筒部422とを連結する環状の連結壁部423とを一体に有している。第1の出力回転部材41の連結壁部413と第2の出力回転部材42の連結壁部423との間には、スラストころ軸受481が配置されている。
【0026】
第1の多板クラッチ43は、第1のクラッチドラム40Aと第1の出力回転部材41の大径円筒部412との間に配置され、第1のクラッチドラム40Aから第1の出力回転部材41に駆動力を伝達する。第2の多板クラッチ44は、第2のクラッチドラム40Bと第2の出力回転部材42の大径円筒部422との間に配置され、第2のクラッチドラム40Bから第2の出力回転部材42に駆動力を伝達する。
【0027】
第1の多板クラッチ43は、入力回転部材40と共に回転する複数の第1の入力クラッチプレート431と、第1の出力回転部材41と共に回転する複数の第1の出力クラッチプレート432とを有している。第1の出力クラッチプレート432は、内径側の端部に複数の突起432aが設けられており、複数の突起432aが第1の出力回転部材41の大径円筒部412の外周面に形成されたスプライン嵌合部412aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0028】
第1のクラッチドラム40Aは、円筒状に形成された円筒部401と、円筒部401の軸方向一端部から径方向内方に延びる側壁部402とを一体に有している。円筒部401の内周面には、複数の第1の入力クラッチプレート431が軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合するスプライン係合部401aが形成されている。第1の入力クラッチプレート431の外径側の端部には、スプライン係合部401aに係合する複数の突起431aが設けられている。側壁部402は、第5のハウジング部材65との間に配置された円錐ころ軸受668により支持されている。第1のクラッチドラム40Aは、本発明の第1の係合部材の一態様である。
【0029】
同様に、第2の多板クラッチ44は、入力回転部材40と共に回転する複数の第2の入力クラッチプレート441と、第2の出力回転部材42と共に回転する複数の第2の出力クラッチプレート442とを有している。第2の出力クラッチプレート442は、内径側の端部に複数の突起442aが設けられており、複数の突起442aが第2の出力回転部材42の大径円筒部422の外周面に形成されたスプライン嵌合部422aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0030】
第2のクラッチドラム40Bは、円筒状に形成された円筒部403と、円筒部403の軸方向一端部から径方向内方に延びる側壁部404とを一体に有している。円筒部403の内周面には、複数の第2の入力クラッチプレート441が軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合するスプライン係合部403aが形成されている。第2の入力クラッチプレート441の外径側の端部には、スプライン係合部403aに係合する複数の突起441aが設けられている。側壁部404は、第4のハウジング部材64との間に配置された円錐ころ軸受669により支持されている。第2のクラッチドラム40Bは、本発明の第2の係合部材の一態様である。
【0031】
第1の押圧機構45は、油圧ユニット16から供給される油圧を受ける環状のピストン451と、ピストン451に隣り合うスラストころ軸受452と、スラストころ軸受452を介してピストン451の押圧力を受ける押圧部材453と、第1のクラッチドラム40Aの内側に配置された押圧プレート454と、リターンスプリング455とを有している。
【0032】
ピストン451は、第5のハウジング部材65に形成されたシリンダ650内に収容され、油圧ユニット16からシリンダ650に供給される作動油の圧力によって第1の多板クラッチ43側に移動する。押圧部材453は、円環状に形成された環状部453aと、環状部453aから第1の多板クラッチ43側に突出した複数の柱状の押圧突起453bとを一体に有している。複数の押圧突起453bは、第1のクラッチドラム40Aの側壁部402に形成された貫通孔402aにそれぞれ挿通されており、先端部が押圧プレート454に当接している。環状部453aは、第1のクラッチドラム40Aよりも大径であり、その外径側の端部にリターンスプリング455が当接している。リターンスプリング455は、第1のクラッチドラム40Aの外側に配置され、押圧部材453を第5のハウジング部材65側に向かって付勢している。
【0033】
同様に、第2の押圧機構46は、油圧ユニット16から供給される油圧を受ける環状のピストン461と、ピストン461に隣り合うスラストころ軸受462と、スラストころ軸受462を介してピストン461の押圧力を受ける押圧部材463と、第2のクラッチドラム40Bの内側に配置された押圧プレート464と、リターンスプリング465とを有している。
【0034】
ピストン461は、第4のハウジング部材64に形成されたシリンダ640内に収容され、油圧ユニット16からシリンダ640に供給される作動油の圧力によって第2の多板クラッチ44側に移動する。押圧部材463は、円環状に形成された環状部463aと、環状部463aから第2の多板クラッチ44側に突出した複数の柱状の押圧突起463bとを一体に有し、押圧突起463bが第2のクラッチドラム40Bの側壁部404に形成された貫通孔404aに挿通されて押圧プレート464に当接している。環状部463aの外径側の端部には、リターンスプリング465が当接しており、押圧部材463が第4のハウジング部材64側に付勢されている。
【0035】
第1の押圧機構45は、第5のハウジング部材65のシリンダ650に供給される作動油の圧力により、第1の多板クラッチ43をセンタープレート47に向かって押圧し、第1の入力クラッチプレート431と第1の出力クラッチプレート432とを摩擦接触させる。これにより、第1の押圧機構45の押圧力に応じた駆動力が、入力回転部材40から第1の出力回転部材41及び第1の出力軸51を経て左側のドライブシャフト151に伝達される。
【0036】
第2の押圧機構46は、第4のハウジング部材64のシリンダ640に供給される作動油の圧力により、第2の多板クラッチ44をセンタープレート47に向かって押圧し、第2の入力クラッチプレート441と第2の出力クラッチプレート442とを摩擦接触させる。これにより、第2の押圧機構46の押圧力に応じた駆動力が、入力回転部材40から第2の出力回転部材42及び第2の出力軸52を経て右側のドライブシャフト152に伝達される。
【0037】
油圧ユニット16は、シリンダ640,650にそれぞれ供給される作動油の圧力をそれぞれ独立して調節可能である。油圧ユニット16は、例えば作動油に圧力を発生させるポンプと、シリンダ640,650に供給される作動油の圧力をそれぞれ独立して調整する二つの電磁弁を有する。制御装置17は、例えば4輪駆動車1の直進時には、シリンダ650,640に同じ圧力の作動油が供給されるように油圧ユニット16を制御する。また、4輪駆動車1の旋回時には、左右の後輪103,104のうち旋回半径外側の車輪に旋回半径内側の車輪よりも大きな駆動力が配分されるように油圧ユニット16を制御する。
【0038】
図4(a)は、センタープレート47における第1の多板クラッチ43側の側面を示す斜視図である。
図4(b)は、センタープレート47における第2の多板クラッチ44側の側面を示す斜視図である。
図4(c)は、センタープレート47を中心部側(第1及び第2の出力回転部材41,42側)から見た状態を示す説明図である。
【0039】
センタープレート47は、例えばSPCC(冷間圧延鋼板)等の鋼板をプレス成型してなり、入力回転部材40に固定される環状の基部470と、基部470から径方向内側に突出した複数の第1の突片471及び複数の第2の突片472とを一体に有している。第1の突片471は、第1の押圧機構45の押圧力を第1の多板クラッチ43を介して受け、第2の突片472は、第2の押圧機構46の押圧力を第2の多板クラッチ44を介して受ける。
【0040】
本実施の形態では、センタープレート47が三つの第1の突片471と、同じく三つの第2の突片472とを有して構成され、これらの第1の突片471及び第2の突片472が基部470の周方向に沿って交互に設けられている。三つの第1の突片471及び第2の突片472は、それぞれ周方向の長さが均等であり、径方向の長さも等しい。また、三つの第1の突片471及び第2の突片472は、基部470の径方向に延びる複数のスリットとしての分割溝473により、基部470の周方向に分割されている。
【0041】
第1の突片471は、第1の押圧機構45の押圧力を第1の多板クラッチ43を介して受ける第1の受圧面471aを有し、第2の突片472は、第2の押圧機構46の押圧力を第2の多板クラッチ44を介して受ける第2の受圧面472aを有している。第1の受圧面471aは、複数の第1の入力クラッチプレート431のうち、最もセンタープレート47側に位置する第1の入力クラッチプレート431に対向する。第2の受圧面472aは、複数の第2の入力クラッチプレート441のうち、最もセンタープレート47側に位置する第2の入力クラッチプレート441に対向する。第1の受圧面471a及び第2の受圧面472aは、回転軸線Oに平行な方向に対して垂直な平坦面である。
【0042】
第1の突片471は、第1の受圧面471aの裏面にあたる第1の背面471bが第2の受圧面472aよりも第1の多板クラッチ43側に位置しており、第1の背面471bは第2の入力クラッチプレート441に接触しない。また、第2の突片472は、第2の受圧面472aの裏面にあたる第2の背面472bが第1の受圧面471aよりも第2の多板クラッチ44側に位置しており、第2の背面472bは第1の入力クラッチプレート431に接触しない。これにより、第1の押圧機構45の押圧力が第2の突片472に作用すること、及び第2の押圧機構46の押圧力が第1の突片471に作用することが抑制される。
【0043】
また、第1の突片471と第2の突片472とは、分割溝473によって分割されており、第1の突片471が第1の押圧機構45の押圧力によって第2の多板クラッチ44側に倒れ込むように僅かに弾性変形したとしても、第2の突片472が第2の多板クラッチ44側に連られて倒れ込むことが抑制され、第2の突片472が第2の押圧機構46の押圧力によって第1の多板クラッチ43側に倒れ込むように僅かに弾性変形したとしても、第1の突片471が第1の多板クラッチ34側に連られて倒れ込むことが抑制される。これにより、第1の押圧機構45の押圧力あるいは第2の押圧機構46の押圧力が大きくなった場合でも、これらの押圧力が相互に干渉することが抑制される。
【0044】
センタープレート47は、基部470が第1のクラッチドラム40Aの円筒部401と第2のクラッチドラム40Bの円筒部403との間に挟まれて入力回転部材40に固定されている。基部470には、ボルト400を挿通させる複数のボルト挿通孔470aが形成されており、ボルト400の軸力によって基部470が第1のクラッチドラム40Aと第2のクラッチドラム40Bとの間に挟持されている。
【0045】
第1の突片471及び第2の突片472は、入力回転部材40の軸方向の厚さが基部470よりも薄く、第1の受圧面471aの軸方向位置が基部470の第1のクラッチドラム40A側にあたる一方の端面470bの軸方向位置と同じであり、第2の受圧面472aの軸方向位置が基部470の第2のクラッチドラム40B側にあたる他方の端面470cの軸方向位置と同じである。換言すれば、第1の受圧面471aと基部470の一方の端面470bとが段差のない連続した一つの平面であり、第2の受圧面472aと基部470の他方の端面470cとが段差のない連続した一つの平面である。
【0046】
分割溝473は、複数の第1の出力クラッチプレート432及び複数の第2の出力クラッチプレート442よりも入力回転部材40の円筒部401,403側に至る範囲に形成されている。これにより、第1の押圧機構45の押圧力が第2の突片472にほとんど作用せず、第2の押圧機構46の押圧力が第1の突片471にほとんど作用しないようにセンタープレート47が構成されている。
【0047】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、第1の突片471の第1の背面471bが第2の受圧面472aよりも第1の多板クラッチ43側に位置し、第2の突片472の第2の背面472bが第1の受圧面471aよりも第2の多板クラッチ44側に位置しているので、第1の押圧機構45の押圧力が第1の突片471により受け止められて第2の多板クラッチ44にほとんど作用せず、第2の押圧機構46の押圧力が第2の突片472により受け止められて第1の多板クラッチ43にほとんど作用しない。これにより、左右の後輪103,104のそれぞれに配分される駆動力を高精度に制御することができる。
【0048】
また、第1の実施の形態によれば、例えば特許文献1に記載されたもののように左右のディスク部の間に隙間を形成する必要がないので、駆動力配分装置4の軸方向の長さを短縮することができ、装置サイズの小型化が可能となる。
【0049】
(第1の実施の形態の変形例)
次に、第1の実施の形態の変形例について、
図5を参照して説明する。本変形例は、第1の実施の形態のセンタープレート47の構成を変形したものである。
【0050】
図5(a)は、変形例に係るセンタープレート47Aにおける第1の多板クラッチ43側の側面を示す斜視図である。
図5(b)は、センタープレート47Aにおける第2の多板クラッチ44側の側面を示す斜視図である。
図5(c)は、センタープレート47Aを中心部側から見た状態を示す説明図である。
【0051】
センタープレート47Aは、第1の実施の形態に係るセンタープレート47と同様、入力回転部材40に固定される環状の基部470と、基部470から径方向に突出した複数の第1の突片471及び複数の第2の突片472とを一体に有し、第1の突片471及び第2の突片472が複数の分割溝473により基部470の周方向に分割されているが、複数の第1の突片471が基部470に対して軸方向一側(第1の多板クラッチ43側)に突出し、複数の第2の突片472が基部470に対して軸方向他側(第2の多板クラッチ44側)に突出した構成が、第1の実施の形態に係るセンタープレート47とは異なっている。
【0052】
第1の突片471及び第2の突片472の厚さは、基部470の厚さと同じである。第1の突片471は、第1の受圧面471aが基部470の一方の端面470bよりも第1のクラッチドラム40A側に位置し、第1の背面471bが基部470の他方の端面470cよりも第1のクラッチドラム40A側に位置している。第2の突片472は、第2の受圧面472aが基部470の他方の端面470cよりも第2のクラッチドラム40B側に位置し、第2の背面472bが基部470の一方の端面470bよりも第2のクラッチドラム40B側に位置している。
【0053】
センタープレート47Aは、第1の実施の形態に係るセンタープレート47と同様に、複数のボルト挿通孔470aに挿通されたボルト400の軸力によって基部470が第1のクラッチドラム40Aと第2のクラッチドラム40Bとの間に挟持される。また、分割溝473は、複数の第1の出力クラッチプレート432及び複数の第2の出力クラッチプレート442よりも外径側に至る範囲に形成されている。
【0054】
この変形例に係るセンタープレート47Aを用いた場合でも、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、第1の突片471及び第2の突片472の厚さを基部470の厚さと同じにすることができるので、センタープレート47Aの成型が容易となる。なお、第1の突片471及び第2の突片472の何れか一方のみを基部470に対して軸方向に突出させてもよい。この場合でも、第1の突片471を基部470に対して軸方向一側に突出させ、かつ第2の突片472を基部470に対して軸方向他側に突出させた場合と同様の作用及び効果が得られる。
【0055】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図6及び
図7を参照して説明する。
【0056】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る駆動力配分装置7の構成例を示す断面図である。
図6では、回転軸線Oよりも上側の部分における駆動力配分装置7の一部をその周辺部と共に図示している。
【0057】
駆動力配分装置7は、回転軸線Oを中心として同軸上で相対回転可能に配置された第1及び第2の出力回転部材71,72と、第1及び第2の出力回転部材71,72と相対回転可能に配置された入力回転部材70と、入力回転部材70と第1の出力回転部材71との間に配置された第1の多板クラッチ73と、入力回転部材70と第2の出力回転部材72との間に配置された第2の多板クラッチ74と、第1の多板クラッチ73を押圧する第1の押圧機構75と、第2の多板クラッチ74を押圧する第2の押圧機構76と、第1の多板クラッチ73と第2の多板クラッチ74との間に配置されて第1の押圧機構75の押圧力及び第2の押圧機構76の押圧力を受ける受圧部材77とを備えている。
【0058】
入力回転部材70には、例えば電動モータ等の駆動源によって回転する入力軸801の回転力が、入力連結部材802及びサイドプレート803を介して入力される。入力連結部材802は、入力軸801に溶接によって固定され、サイドプレート803は、入力連結部材802の端部に相対回転不能に係合している。入力軸801は、ハウジング91に対して玉軸受92によって回転可能に支持されている。
【0059】
入力回転部材70は、第1のクラッチハブ701及び第2のクラッチハブ702を有しており、第1のクラッチハブ701と第2のクラッチハブ702とが受圧部材77を挟んで複数のボルト700によって連結されている。第1のクラッチハブ701の外周面にはスプライン係合部701aが形成されており、第2のクラッチハブ702の外周面にはスプライン係合部702aが形成されている。サイドプレート803は、第2のクラッチハブ702のスプライン係合部702aに係合している。第1のクラッチハブ701は、本発明の第1の係合部材の一態様であり、第2のクラッチハブ702は、本発明の第2の係合部材の一態様である。
【0060】
図7(a),(b)は、受圧部材77の一部を示す斜視図であり、
図7(a)は受圧部材77における第1の多板クラッチ73側の側面を示し、
図7(b)は受圧部材77における第2の多板クラッチ74側の側面を示している。
【0061】
受圧部材77は、第1のクラッチハブ701と第2のクラッチハブ702との間に固定された環状の基部770と、基部770から径方向外方に突出した複数の第1の突片771及び複数の第2の突片772と、基部770の内径側の端部から軸方向両側に延びる円筒状の円筒部773(
図6参照)とを一体に有している。基部770には、ボルト700を挿通させる複数のボルト挿通孔770aが形成されている。
図7(a),(b)では、複数のボルト挿通孔770aが形成された部分よりも外径側にあたる受圧部材77の一部を示している。
【0062】
第1の出力回転部材71は、第1のクラッチハブ701の外周に配置された円筒部711と、円筒部711の軸方向一端部から内方に延びる環状の側壁部712とを一体に有している。円筒部711の内周面には、スプライン係合部711aが形成されている。側壁部712は、内径側の端部が第1の出力軸81に溶接によって固定されている。
【0063】
第2の出力回転部材72は、第2のクラッチハブ702の外周に配置された円筒部721と、円筒部721の軸方向一端部から内方に延びる環状の側壁部722とを一体に有している。円筒部721の内周面には、スプライン係合部721aが形成されている。側壁部722は、内径側の端部が第2の出力軸82に溶接によって固定されている。第2の出力回転部材72の円筒部721は、第1の出力回転部材71の円筒部711と入力連結部材802との間に配置されている。
【0064】
受圧部材77の円筒部773には、受圧部材77を回転可能に支持する円筒状の支持軸83が挿通されている。支持軸83には、二つの油路が形成されており、
図6では、このうち一方の油路83aを図示している。受圧部材77の円筒部773には、支持軸83の二つの油路のそれぞれに連通する第1及び第2の油孔773a,773bが径方向に貫通して形成されている。
【0065】
ハウジング91、入力軸801、第1の出力軸81、第2の出力軸82、受圧部材77の円筒部773、及び支持軸83の間には、複数のスラストころ軸受931~935、及び複数のラジアルころ軸受941~944が配置されている。
【0066】
第1の多板クラッチ73は、入力回転部材70と共に回転する複数の第1の入力クラッチプレート731と、第1の出力回転部材71と共に回転する複数の第1の出力クラッチプレート732とを有している。第1の入力クラッチプレート731は、内径側の端部に複数の突起731aが設けられており、複数の突起731aが第1のクラッチハブ701のスプライン係合部701aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。第1の出力クラッチプレート732は、外径側の端部に複数の突起732aが設けられており、複数の突起732aが第1の出力回転部材71のスプライン係合部711aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0067】
第2の多板クラッチ74は、入力回転部材70と共に回転する複数の第2の入力クラッチプレート741と、第2の出力回転部材72と共に回転する複数の第2の出力クラッチプレート742とを有している。第2の入力クラッチプレート741は、内径側の端部に複数の突起741aが設けられており、複数の突起741aが第2のクラッチハブ702のスプライン係合部702aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。第2の出力クラッチプレート742は、外径側の端部に複数の突起742aが設けられており、複数の突起742aが第2の出力回転部材72のスプライン係合部721aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0068】
第1の押圧機構75は、ピストン751と、ピストン751の押圧力を受けて第1の多板クラッチ73を受圧部材77に向かって押圧する押圧部材752と、リターンスプリング753とを有している。ピストン751は、受圧部材77の第1の油孔773aから供給される作動油の圧力によって軸方向に移動する。押圧部材752は、第1のクラッチハブ701のスプライン係合部701aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。リターンスプリング753は、受圧部材77の基部770とピストン751との間に配置されている。
【0069】
第2の押圧機構76は、ピストン761と、ピストン761の押圧力を受けて第2の多板クラッチ74を受圧部材77に向かって押圧する押圧部材762と、リターンスプリング763とを有している。ピストン761は、受圧部材77の第2の油孔773bから供給される作動油の圧力によって軸方向に移動する。押圧部材762は、第2のクラッチハブ702のスプライン係合部702aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。ピストン761は、サイドプレート803に形成された複数の貫通孔803aにそれぞれ挿通された複数の突起761aを有しており、複数の突起761aの先端部が押圧部材762に当接している。リターンスプリング763は、受圧部材77の基部770とピストン761との間に配置されている。
【0070】
第1のクラッチハブ701の内側にあたる受圧部材77の円筒部773の外周には、第1の油孔773aに連通する油圧室750を形成するための区隔壁951、及び区隔壁951の内径側の端部に当接する当接部材952が配置され、当接部材952の移動が円筒部773に嵌着された止め輪953により規制されている。また、第2のクラッチハブ702の内側にあたる受圧部材77の円筒部773の外周には、第2の油孔773bに連通する油圧室760を形成するための区隔壁954、及び区隔壁954の内径側の端部に当接する当接部材955が配置され、当接部材955の移動が円筒部773に嵌着された止め輪956により規制されている。
【0071】
受圧部材77には、第1の押圧機構75の押圧力を第1の多板クラッチ73を介して受ける三つの第1の突片771と、第2の押圧機構76の押圧力を第2の多板クラッチ74を介して受ける三つの第2の突片772とを有して構成されている。これらの第1の突片771及び第2の突片772は、基部770から径方向外方に突出し、基部770の周方向に沿って交互に設けられている。
【0072】
また、三つの第1の突片771及び第2の突片772は、それぞれ周方向の長さが均等であり、径方向の長さも等しい。また、三つの第1の突片471及び第2の突片472は、基部770の径方向に延びる複数のスリットとしての分割溝774により、基部770の周方向に分割されている。分割溝774は、複数の第1の出力クラッチプレート732及び複数の第2の出力クラッチプレート742よりも第1及び第2のクラッチハブ701,702側に至る範囲に形成されている。
【0073】
第1の突片771は、第1の入力クラッチプレート731のうち一つの第1の入力クラッチプレート731に対向する第1の受圧面771aと、第1の受圧面771aの裏面にあたる第1の背面771bとを有している。第2の突片772は、第2の入力クラッチプレート741のうち一つの第2の入力クラッチプレート741に対向する第2の受圧面772aと、第2の受圧面772aの裏面にあたる第2の背面772bとを有している。
【0074】
第1の突片771は、第1の背面771bが第2の受圧面772aよりも第1の多板クラッチ73側に位置しており、第1の背面771bは第2の入力クラッチプレート741に接触しない。また、第2の突片772は、第2の背面772bが第1の受圧面771aよりも第2の多板クラッチ74側に位置しており、第2の背面772bは第1の入力クラッチプレート731に接触しない。これにより、第1の押圧機構75の押圧力が第2の突片772に作用せず、第2の押圧機構76の押圧力が第2の突片772に作用しない。
【0075】
受圧部材77は、基部770が第1のクラッチハブ701と第2のクラッチハブ702との間に挟まれて入力回転部材70に固定されている。第1の受圧面771aの軸方向位置は、基部770の第1のクラッチハブ701側にあたる一方の端面770bの軸方向位置と同じであり、第2の受圧面772aの軸方向位置は、基部770の第2のクラッチハブ702側にあたる他方の端面770cの軸方向位置と同じである。
【0076】
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0077】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0078】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、センタープレート47における第1の突片471の数、ならびに第2の突片472の数がそれぞれ3である場合について説明したが、第1の突片471ならびに第2の突片472の数は4以上であってもよい。また、第1の実施の形態では、センタープレート47を複数のボルト400により入力回転部材40に固定する場合について説明したが、これに限らず、例えば溶接によってセンタープレート47を入力回転部材40に固定してもよい。また、センタープレート47を第1のクラッチドラム40A又は第2のクラッチドラム40Bと一体的に形成してもよい。
【0079】
また、上記第1の実施の形態及びその変形例ならびに第2の実施の形態では、第1の突片471の第1の背面471bの全体が第2の受圧面472aよりも第1の多板クラッチ43側に位置し、第2の突片472の第2の背面472bの全体が第1の受圧面471aよりも第2の多板クラッチ44側に位置する場合について説明したが、第1の背面471bは、第1の押圧機構45の押圧力が第2の多板クラッチ44に作用することを抑制し得る範囲で少なくとも一部が第2の受圧面472aよりも第1の多板クラッチ43側に位置していればよく、第2の背面472bは、第2の押圧機構46の押圧力が第1の多板クラッチ43に作用することを抑制し得る範囲で少なくとも一部が第1の受圧面471aよりも第2の多板クラッチ44側に位置していればよい。
【0080】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、第1の突片471及び第2の突片472の軸方向の厚さがその全体にわたって入力回転部材40の基部470の軸方向の厚さよりも薄い場合について説明したが、第1の突片471及び第2の突片472の軸方向の厚さは、押圧力の干渉を抑制し得る範囲で、径方向の少なくとも一部において基部470よりも薄ければよい。
【符号の説明】
【0081】
4…駆動力配分装置
40…入力回転部材
40A…第1のクラッチドラム(第1の係合部材)
40B…第2のクラッチドラム(第2の係合部材)
41…第1の出力回転部材
42…第2の出力回転部材
43…第1の多板クラッチ
431…第1の入力クラッチプレート
432…第1の出力クラッチプレート
44…第2の多板クラッチ
441…第2の入力クラッチプレート
442…第2の出力クラッチプレート
45…第1の押圧機構
46…第2の押圧機構
47…センタープレート(受圧部材)
470…基部
470b,470c…端面
471…第1の突片
471a…第1の受圧面
471b…第1の背面
472…第2の突片
472a…第2の受圧面
472b…第2の背面
473…分割溝
47A…センタープレート(受圧部材)
7…駆動力配分装置
70…入力回転部材
701…第1のクラッチハブ(第1の係合部材)
702…第2のクラッチハブ(第2の係合部材)
71…第1の出力回転部材
72…第2の出力回転部材
73…第1の多板クラッチ
731…第1の入力クラッチプレート
732…第1の出力クラッチプレート
74…第2の多板クラッチ
741…第2の入力クラッチプレート
742…第2の出力クラッチプレート
75…第1の押圧機構
76…第2の押圧機構
77…受圧部材
770…基部
770b,770c…端面
771…第1の突片
771a…第1の受圧面
771b…第1の背面
772…第2の突片
772a…第2の受圧面
772b…第2の背面
774…分割溝