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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】自律走行体および自律走行体の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20231017BHJP
【FI】
G05D1/02 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019170311
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021047680
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】小田 和孝
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-168990(JP,A)
【文献】特開2019-109773(JP,A)
【文献】特開2016-71566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、
前記走行体に搭載されたセンサと、
前記センサの検出結果から前記走行体の進行する走行経路の方向に拡がる探索領域内に回避対象の障害物が存在するか否かを判定する障害物判定部と、
前記障害物判定部により前記探索領域内に前記障害物が存在すると判定された場合、前記障害物から、水平方向のうち進行方向に交差する方向に、前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が存在するか否かを探索する探索部と、を備える自律走行体において、
予め存在が判明している既知障害物が前記探索領域に存在するとき、前記障害物判定部が前記既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように前記探索領域を縮小して制限する領域制限部を備え、
前記障害物判定部が前記領域制限部により縮小された前記探索領域内に存在する前記障害物を未知障害物であると判定するとき、前記探索部は前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が前記領域制限部により縮小された前記探索領域に存在するか否かを探索し、
前記探索領域よりも狭い領域である変更領域が前記探索領域内に設定され、
前記変更領域は、前記変更領域で検出した未知障害物に対して、実際に回避行動を行うか否かの判定を行うための領域であり、
前記領域制限部は、
前記変更領域を前記探索領域の制限に対応して縮小して制限し、
縮小して制限された前記変更領域内に前記未知障害物が存在し、かつ、前記回避可能領域が前記探索領域内に存在しない場合、走行を停止することを特徴とする自律走行体。
【請求項2】
前記探索領域内の前記既知障害物を前記走行体の自己推定位置および予め記憶された環境地図に基づいて認識する既知障害物認識部を備えていることを特徴とする請求項1記載の自律走行体。
【請求項3】
前記探索領域内の前記既知障害物を前記センサの検出結果に基づいて認識する既知障害物認識部を備えていることを特徴とする請求項1記載の自律走行体。
【請求項4】
前記領域制限部は、前記走行経路の幅方向において前記探索領域を前記走行体から前記既知障害物の最も近い位置まで制限することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の自律走行体。
【請求項5】
走行体を走行させ、
前記走行体に搭載されたセンサの検出結果により前記走行体の進行する経路の方向に拡がる探索領域内に障害物が存在するか否かを判定し、
前記探索領域内に前記障害物が存在すると判定された場合、前記障害物から、水平方向のうち進行方向に交差する方向に、前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が存在するか否かを探索する自律走行体の制御方法において、
前記探索領域よりも狭い領域である変更領域が前記探索領域内に設定され、
前記変更領域は、前記変更領域で検出した未知障害物に対して、実際に回避行動を行うか否かの判定を行うための領域であり、
前記センサの検出結果に基づいて予め存在が判明している既知障害物が前記探索領域に存在するとき、前記既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように前記探索領域を縮小して制限し、
前記既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように縮小された前記探索領域内に存在する前記障害物が未知障害物であると判定されたとき、前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が縮小された前記探索領域に存在するか否かを探索し、
前記変更領域は、前記探索領域の制限に対応して縮小して制限され、
縮小して制限された前記変更領域内に前記未知障害物が存在し、かつ、前記回避可能領域が前記探索領域内に存在しない場合、前記走行体の走行を停止することを特徴とする自律走行体の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自律走行体および自律走行体の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、自律走行体が出発点と最終到達点とを結ぶ走行経路を自律走行するが、走行経路に障害物が存在すると、自律走行体は回避経路を探索する。自律走行体は、回避経路を見つけると、回避経路に沿って走行する。自律走行体は、障害物を検出するセンサと、制御装置と、を備えている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-64633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、自律走行体が障害物を検出すると回避経路を探索し、この回避経路に沿って走行する。ところで、走行経路における障害物は、壁や棚等のように予め存在が判明している既知障害物と、人や台車のように予め存在が判明できない未知障害物と、に区別できる。特許文献1に開示された自律走行体は、障害物を検出すると、既知障害物、未知障害物を区別することなく、回避経路を探索する。人や移動体のような未知障害物の場合、自律走行体は、未知障害物を回避するために回避経路を走行しても回避経路から本来の走行経路への復帰はできる。しかしながら、既知障害物が壁や棚等のように長大である場合、回避経路から本来の走行経路に復帰できなくなるという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、既知障害物を考慮して最適な回避経路を探索する自律走行体および自律走行体の制御方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、走行体と、前記走行体に搭載されたセンサと、前記センサの検出結果から前記走行体の進行する走行経路の方向に拡がる探索領域内に回避対象の障害物が存在するか否かを判定する障害物判定部と、前記障害物判定部により前記探索領域内に前記障害物が存在すると判定された場合、前記障害物から、水平方向のうち進行方向に交差する方向に、前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が存在するか否かを探索する探索部と、を備える自律走行体において、予め存在が判明している既知障害物が前記探索領域に存在するとき、前記障害物判定部が前記既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように前記探索領域を縮小して制限する領域制限部を備え、前記障害物判定部が前記領域制限部により縮小された前記探索領域内に存在する前記障害物を未知障害物であると判定するとき、前記探索部は前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が前記領域制限部により縮小された前記探索領域に存在するか否かを探索し、前記探索領域よりも狭い領域である変更領域が前記探索領域内に設定され、前記変更領域は、前記変更領域で検出した未知障害物に対して、実際に回避行動を行うか否かの判定を行うための領域であり、前記領域制限部は、前記変更領域を前記探索領域の制限に対応して縮小して制限し、縮小して制限された前記変更領域内に前記未知障害物が存在し、かつ、前記回避可能領域が前記探索領域内に存在しない場合、走行を停止することを特徴とする。
【0007】
本発明では、走行体が予め設定された走行経路を走行中に、探索領域内に既知障害物が存在するとき、障害物判定部が既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように、領域制限部は探索領域を縮小して制限する。一方、探索部は既知障害物を除く障害物に対しては回避経路を探索する。このため、既知障害物が探索領域内に存在しても、探索部は既知障害物に対する回避経路を探索することはない。その結果、走行体が既知障害物を回避することによって走行体が走行経路に復帰できなくなることはない
また、領域制限部は、探索領域を縮小して制限するとき、変更領域を探索領域の制限に対応して縮小する。このため、障害物の検出が必要な変更領域を狭くすることができ、障害物を検出するための負荷を低減することができる。
また、探索領域内に存在する障害物を未知障害物と判定するとき、探索部は走行体を回避させることが可能な回避可能領域が存在するか否かを探索する。回避可能領域が存在するとき、走行体は回避経路を走行して未知障害物を回避することができ、回避後に走行経路に復帰することができる。回避可能領域が存在しないとき走行体は停止することができる。
【0008】
また、上記の自律走行体において、前記探索領域内の前記既知障害物を前記走行体の自己推定位置および予め記憶された環境地図に基づいて認識する既知障害物認識部を備えている構成としてもよい。
この場合、既知障害物認識部は、センサの検出結果により推定される走行体の自己推定位置および予め記憶された環境地図に基づいて探索領域の制限前に探索領域内の障害物が既知障害物であることが認識できる。
【0009】
また、上記の自律走行体において、前記探索領域内の前記既知障害物を前記センサの検出結果に基づいて認識する既知障害物認識部を備えている構成としてもよい。
この場合、センサの検出結果を予め記憶された環境地図と比較することにより探索領域の制限前に探索領域内の障害物が既知障害物であることが認識できる。
【0010】
また、上記の自律走行体において、前記領域制限部は、前記走行経路の幅方向において前記探索領域を前記走行体から前記既知障害物の最も近い位置まで制限する構成としてもよい。
この場合、領域制限部が、走行経路の幅方向において探索領域を走行体から既知障害物の最も近い位置まで制限するので、既知障害物が制限された探索領域から外れ、障害物判定部は探索領域内に回避すべき既知障害物が存在すると判定することはない。
【0013】
また、本発明は、走行体を走行させ、前記走行体に搭載されたセンサの検出結果により前記走行体の進行する経路の方向に拡がる探索領域内に障害物が存在するか否かを判定し、前記探索領域内に前記障害物が存在すると判定された場合、前記障害物から、水平方向のうち進行方向に交差する方向に、前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が存在するか否かを探索する自律走行体の制御方法において、前記探索領域よりも狭い領域である変更領域が前記探索領域内に設定され、前記変更領域は、前記変更領域で検出した未知障害物に対して、実際に回避行動を行うか否かの判定を行うための領域であり、前記センサの検出結果に基づいて予め存在が判明している既知障害物が前記探索領域に存在するとき、前記既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように前記探索領域を縮小して制限し、前記既知障害物を回避対象の障害物として認識しないように縮小された前記探索領域内に存在する前記障害物が未知障害物であると判定されたとき、前記走行体を回避させることが可能な回避可能領域が前記探索領域に存在するか否かを探索し、前記変更領域は、前記探索領域の制限に対応して縮小して制限され、縮小して制限された前記変更領域内に前記未知障害物が存在し、かつ、前記回避可能領域が前記探索領域内に存在しない場合、前記走行体の走行を停止することを特徴とする。
【0014】
本発明では、既知障害物が探索領域内に存在しても、探索部は既知障害物に対する回避経路を探索することはない。その結果、走行体が既知障害物を回避することによって走行体が走行経路に復帰できなくなることはない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、既知障害物を考慮して最適な回避経路を探索する自律走行体および自律走行体の制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る自律走行体の平面図である。
図2】本発明の実施形態に係る自律走行体のブロック構成図である。
図3】自律走行体の制御の手順を示すフロー図である。
図4】既知障害物の存在により制限された探索領域を示す平面図である。
図5】未知障害物が存在する制限された探索領域を示す平面図である。
図6】回避行動を行う走行体の動きを示す平面図である。
図7】未知障害物が存在する制限されていない探索領域を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る自律走行体について図面を参照して説明する。本実施形態は、全方向への移動を可能とする全方向移動車輪および荷台を備えた荷搬送用の自律走行体に適用した例である。
【0018】
図1に示すように、自律走行体10は、本体12および複数の車輪13を有する走行体11を備えている。本体12の上部には荷台(図示せず)が設けられている。車輪13は全方向移動車輪である。全方向移動車輪とは、車軸(図示せず)と一体回転するほか、車軸の軸線方向への移動を可能とする車輪である。本実施形態では、本体12に4つの車輪13が設けられている。走行体11は、車輪13の回転数および回転方向が制御されることにより、本体12の向きを維持した状態での全方向への移動が可能である。また、走行体11は、本体12の向きを変更しながらの移動が可能であるほか、移動しない状態での本体12の向きの変更が可能である。なお、ここでいう「全方向」とは、走行体11が走行する路面上や床面上での移動方向を示す。
【0019】
図2に示すように、自律走行体10は、車輪13を駆動させる駆動機構14を備える。駆動機構14は、車輪13を回転させるための駆動モータ15と、駆動モータ15を駆動させるモータドライバ16と、を備えている。駆動モータ15およびモータドライバ16は、車輪13毎に設けられる。このため、駆動モータ15およびモータドライバ16の数は車輪13の数と同じである。モータドライバ16は、制御装置17からの指令に応じて駆動モータ15の回転数を制御する。制御装置17は、モータドライバ16を介して駆動モータ15の回転数を制御することで、本体12の進行方向を制御可能である。
【0020】
走行体11の本体12にはセンサ18および制御装置17が搭載されている。センサ18としては、制御装置17に障害物を検出させることが可能なものが用いられる。本実施形態のセンサ18は、レーザーレンジファインダ(LRF)である。レーザーレンジファインダは、レーザーを周辺に照射し、レーザーが当たった部分から反射された反射光を受信することで距離を測定する距離計である。本実施形態では、水平方向への照射角度を変更しながらレーザーを照射する二次元のレーザーレンジファインダが用いられている。
【0021】
レーザーが当たった部分を照射点とすると、センサ18は照射点までの距離を照射角度に対応付けて測定する。即ち、センサ18は、走行体11と照射点との距離を示す相対座標を測定できる。本実施形態において、センサ18の水平方向へのレーザーの照射可能角度は270°である。
【0022】
図1に示すように、照射可能角度の中央を基準軸Gとすると、照射可能角度は基準軸G±135度の範囲である。センサ31によって測定される相対座標は、基準軸Gの延びる方向をY軸、Y軸に直交する方向をX軸とする直交座標系の座標である。
【0023】
図2に示すように、制御装置17は、CPU20と、RAMおよびROM等からなる記憶部21と、を備えている。制御装置17は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)を備えていてもよい。制御装置17は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU、並びに、RAM及びROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆるものを含む。
【0024】
記憶部21には、走行体11を制御するための種々のプログラムが記憶されているほか、走行体11の移動を行なう移動空間に関する環境地図が記憶されている。環境地図は、走行体11が移動空間を移動しながら作成する地図である。走行体11の自己位置推定と環境地図の構築を同時に行なう技術は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と称される。
【0025】
図1に示すように、走行体11を走行させる際には、制御装置17は、走行経路Rを生成する。走行経路Rは、走行体11の出発点である現在位置から最終到達点までの経路である。なお、本体12が直進している場合、走行経路Rと基準軸Gとは同一方向を向く。図1では、走行経路Rと基準軸Gとが重なり合っている。走行経路Rの生成方法としては、走行可能経路をグリッドマップ化して経路生成を行う方法や、ポテンシャル場を用いたポテンシャル法などを用いることができる。制御装置17は、経路生成部として機能している。
【0026】
制御装置17は、走行体11から所定距離離れた走行経路R上の位置を目標点P1とし、目標点P1に向けて走行するように駆動機構14を制御する。制御装置17は、センサ18の基準軸Gが走行体11の進行方向を向くように走行体11を走行させる。制御装置17は、走行体11と障害物との接触を回避するため、走行体11の走行中において探索領域Aおよび変更領域Bを設定する。
【0027】
図1に示すように、探索領域Aは、長方形状の領域であり、X軸方向に延びる2つの長辺S1、S2と、Y軸方向に延びる2つの短辺S3、S4と、により区画される。探索領域Aは、走行体11から走行体11の進行する経路の方向に拡がる領域である。ここで、「走行体11の進行する経路の方向」とは設定された走行経路Rにおける走行体11の進行する方向を指す。
【0028】
X軸方向に延びる2つの長辺S1、S2のうち一方の長辺S1が走行体11の所定位置P2を通過し、他方の長辺S2が走行体11よりも進行方向に位置する。探索領域AのX軸方向の寸法は、走行体11の進行する経路の方向に交差する方向に対して障害物の探索をどこまで行うかにより定められている。探索領域AのX軸方向の寸法は、走行体11が走行すると想定される場所によって異なり、部屋のレイアウトや、道路の幅等によって異なる。
【0029】
所定位置P2は、走行体11の任意の位置であり、予め定められた固定位置である。本実施形態では、本体12のY軸方向の中心であり、かつ、車体のX軸方向の中心である位置を所定位置P2としている。探索領域Aは、基準軸Gを軸として線対称となる領域である。
【0030】
本実施形態では、所定位置P2から目標点P1までのY軸方向の距離を探索領域AのY軸方向の寸法、即ち、探索領域Aの短辺S3、S4の寸法としている。探索領域AのY軸方向の寸法は、例えば、障害物の検出から障害物を回避可能な位置まで走行体11を移動させるのに要する時間等に応じて設定される。なお、障害物の回避に関して目標点P1については必ずしも長辺S2上に設ける必要はなく、走行体11の回避時の俊敏性と目標追従性を考慮して適宜位置をずらして設定させてもよい。
【0031】
探索領域A内の領域には変更領域Bが設定されている。変更領域Bは、長方形状の領域であり、X軸方向に延びる2つの長辺S5、S6と、Y軸方向に延びる2つの短辺S7、S8と、により区画される。X軸方向に延びる2つの長辺S5、S6のうち一方の長辺S6が所定位置P2を通過し、他方の長辺S5が走行体11よりも進行方向に位置する。変更領域Bは、走行体11から走行体11の進行する走行経路Rの方向に拡がる領域といえる。変更領域Bは、基準軸Gを軸として線対称となる領域である。
【0032】
変更領域Bは探索領域Aよりも狭い。なお、「狭い」とは、XY平面での変更領域Bの面積が探索領域Aよりも小さいことを意味する。変更領域BのY軸方向の寸法は、探索領域AのY軸方向の寸法より短い。変更領域BのX軸方向の寸法は、探索領域AのX軸方向の寸法より短い。
【0033】
変更領域BのY軸方向の寸法、即ち、変更領域Bの短辺S7、S8の寸法により、走行体11が回避行動を開始する際の回避開始距離が定まる。制御装置17は、走行体11と障害物とのY軸方向の離間距離が変更領域BのY軸方向の寸法未満になったことを契機として回避行動を開始する。
【0034】
変更領域BのX軸方向の寸法により、回避行動を行う際の回避距離が定まる。回避距離とは、走行体11と障害物とのX軸方向の間隔である。変更領域BのX軸方向の寸法は、走行体11のX軸方向の最長の寸法よりも長い寸法であり、走行体11のX軸方向の寸法と変更領域BのX軸方向の寸法の差分から回避距離が定まる。
【0035】
制御装置17は、走行体11と障害物とが接触しないように、走行体11と障害物との距離を所定値以上に保つ障害物回避処理を行う。以下、制御装置17が行う障害物回避処理について作用とともに説明する。障害物回避処理は、走行体11が走行している間、繰り返し行われる。
【0036】
図3図4に示すように、制御装置17は、まず、探索領域A内に既知障害物H1が存在するか否かを判定する(ステップS01を参照)。既知障害物H1とは、予め存在が判明している障害物であり、存在が予測不可能な未知の障害物と区別される障害物である。例えば、図4では、既知障害物H1が探索領域Aに存在する例を示している。既知障害物H1は、例えば、通路を形成する壁や床面に設置された棚等である。
【0037】
ステップS01において、制御装置17が探索領域A内に既知障害物H1が存在すると判定したとき、制御装置17は探索領域Aを縮小して制限する。制御装置17は、センサ18の検出結果による走行体11の自己推定位置および予め記憶された環境地図に基づいて既知障害物H1の存在を認識する。制御装置17は、走行体11の走行中にセンサ18の検出結果および環境地図から自己推定位置を得ている。図4に示すように、走行体11が走行して探索領域Aに既知障害物H1が含まれたとき、制御装置17は、得られた自己推定位置と環境地図に含まれる既知障害物H1の位置とを比較することにより既知障害物H1の存在を認識することができる。したがって、制御装置17は既知障害物認識部に相当する。
【0038】
制御装置17は、既知障害物H1を認識すると、探索領域Aに含まれる既知障害物H1に近い短辺を、既知障害物H1を含まない位置に設定することにより、探索領域Aを縮小する(ステップS02を参照)。図4に示す例では、短辺S4が既知障害物H1において走行体11と最も近い位置(X軸方向におけるX1)に設定される。具体的には、X軸方向において既知障害物H1の走行経路Rに最も近い面に沿うように、制御装置17は短辺S4の位置を変更する。このため、探索領域Aが縮小された後の探索領域Arに既知障害物H1が含まれなくなる。したがって、制御装置17は領域制限部に相当する。本実施形態では、探索領域Aの縮小による制限ともに、探索領域A内の領域である変更領域Bが縮小されて制限され、縮小された後の変更領域Brとなる。
【0039】
ステップS01において制御装置17が探索領域A内に既知障害物H1が存在しないと判定したとき、制御装置17はステップS03へ進む。つまり、制御装置17は、探索領域Aおよび変更領域Bを縮小せず制限しない。なお、制御装置17は、走行体11の走行により既知障害物H1が探索領域Arの長辺S1より後方に位置した時点で、縮小され制限された探索領域Arおよび変更領域Brの制限を解除して、制限前の探索領域Aおよび変更領域Bに戻す。制御装置17は、自己推定位置と環境地図に含まれる既知障害物H1の位置に基づいて既知障害物H1が探索領域Arの長辺S1より後方に位置したことを認識できる。
【0040】
図3に示すように、ステップS03において、制御装置17は、探索領域A(又はAr)内に未知障害物H2が存在するか否かを判定する。まず、制御装置17は、本体12の進行方向に存在する未知障害物H2を検出する。未知障害物H2の検出は、センサ18の検出結果から行われる。制御装置17は、センサ18の照射点のうちX座標とY座標が探索領域A(Ar)内に存在する場合は、その照射点を未知障害物H2と識別し、未知障害物H2が存在すると判断する。
【0041】
ステップS03において、制御装置17は、探索領域A(Ar)内に未知障害物H2が存在しない場合、処理を終了する。一方で、制御装置17は、探索領域A(Ar)内に未知障害物H2が存在する場合、ステップS04の処理を行う。制御装置17は、障害物判定部として機能している。したがって、制御装置17は、障害物判定部に相当するほか、既知障害物認識部および未知障害物判定部として機能する。
【0042】
ステップS04において、制御装置17は、探索領域A(Ar)内に回避可能領域Asが存在するか否かを判定する。まず、制御装置17は、探索領域A(Ar)内の回避可能領域Asを探索する。回避可能領域Asの探索は、例えば、図5に矢印Y1で示すように基準軸Gを中心として、探索領域Ar内を時計回りに探索した後に、矢印Y2で示すように反時計回りに探索領域Ar内を探索することで行われる。
【0043】
回避可能領域Asとは、走行体11が未知障害物H2とX軸方向に並んだときに、未知障害物H2との距離を所定値以上に保った状態で、Y軸方向に進行可能な空間を示す。即ち、未知障害物H2との距離を所定値以上に保った状態で未知障害物H2の横を通過することができる空間である。なお、所定値とは、センサ18の検出精度や、未知障害物H2が移動体である可能性を考慮した上で、未知障害物H2と走行体11との接触を抑止できるように設定されている。
【0044】
制御装置17は、探索領域A(Ar)内で、未知障害物H2からX軸方向への寸法が閾値以上の空間を回避可能領域Asと判断する。なお、閾値とは、走行体11と障害物との距離を所定値以上に保った状態で走行体11が走行可能な寸法に基づき設定されている。図5に示す例では、探索領域Ar内に1つの未知障害物H2が存在する。未知障害物H2と探索領域Arの短辺S3との間の空間は、X軸方向への寸法が閾値以上である回避可能領域Asとなる。未知障害物H2と探索領域Arの短辺S4との間の空間は閾値以下であるため回避可能領域Asではない。
【0045】
図3に示すように、制御装置17は、探索領域A(Ar)内に回避可能領域Asが存在しない場合、ステップS09の処理を行う。一方で、制御装置17は、探索領域A(Ar)内に回避可能領域Asが存在する場合、ステップS05の処理を行う。制御装置17は、未知障害物H2から、水平方向のうち進行方向(Y軸方向)に交差する方向に、走行体11を回避させることが可能な回避可能領域Asが存在するか否かを探索する探索部として機能している。
【0046】
図3図5に示すように、ステップS05において、制御装置17は、回避行動を行う場合に用いる1つの回避可能領域Asを選択する。以下、回避行動を行う場合に用いる回避可能領域Asを回避領域Atと称する。探索領域A(Ar)内に複数の回避可能領域Asが存在する場合、制御装置17は、センサ18から回避可能領域AsのX軸方向の中心までの距離を算出する。制御装置17は、センサ18から中央までの距離が最も短い回避可能領域As、即ち、走行体11から最も近い回避可能領域Asを回避領域Atとして選択する。
【0047】
一方、図5に示すように、制御装置17は、回避可能領域Asが1つの場合、この回避可能領域Asを回避領域Atとして選択する。制御装置17は、次にステップS06の処理を行う。制御装置17は、算出部として機能している。
【0048】
ステップS06において、制御装置17は、変更領域B内に障害物が存在しているか否かを判断する。制御装置17は、変更領域B内に障害物が存在している場合、ステップS07の処理を行う。
【0049】
図3に示すように、ステップS07において、制御装置17は、回避領域Atに向けて移動するように走行体11を制御する。変更領域B内に未知障害物H2が存在する場合、未知障害物H2を回避するように走行体11は走行することになる。変更領域Bは、検出した未知障害物H2に対して、実際に回避行動を行うか否かの判定を行うための領域といえる。探索領域A(Ar)内に未知障害物H2が存在している場合であっても、変更領域B内に未知障害物H2が存在しない場合には回避行動は行われず、変更領域B内に未知障害物H2が存在している場合に回避行動が行われる。
【0050】
変更領域BのY軸方向の寸法、即ち、変更領域Bの短辺S7、S8の寸法により、走行体11が回避行動を開始する際の回避開始距離が定まる。制御装置17は、走行体11と未知障害物H2とのY軸方向の離間距離が変更領域BのY軸方向の寸法未満になったことを契機として回避行動を開始する。
【0051】
変更領域BのX軸方向の寸法により、回避行動を行う際の回避距離が定まる。回避距離とは、走行体11と障害物とのX軸方向の間隔である。変更領域BのX軸方向の寸法は、走行体11のX軸方向の最長の寸法よりも長い寸法であり、走行体11のX軸方向の寸法と変更領域BのX軸方向の寸法の差分から回避距離が定まる。
【0052】
図6に示すように、回避行動は、走行経路R上から回避領域Atに向けて、走行体11を走行経路Rに対して斜めに走行させることで行われる。回避行動を行うと、走行体11のX座標は、走行経路RのX座標から遠ざかっていくことになり、走行体11は走行経路Rから外れることになる。走行経路Rは、回避行動を行わない場合に走行体11が走行する経路といえる。
【0053】
図3に示すように、制御装置17は、ステップS07の処理を終えると、ステップS06の処理を行う。即ち、ステップS06にて未知障害物H2が存在していると判定されている間は、ステップS07にて回避行動が行われることになる。
【0054】
図3に示すように、ステップS06において、変更領域B内に未知障害物H2が存在していないと判定されると、制御装置17は、ステップS08の処理を行う。詳細にいえば、変更領域B内に未知障害物H2が存在している場合、ステップS06にて継続して未知障害物H2が存在していると判定され、ステップS07の回避行動が継続して行われる。回避行動を終えると、変更領域B内に未知障害物H2が存在しなくなり、ステップS08の処理が行われることになる。
【0055】
ステップS08において、制御装置17は、走行経路Rに走行体11を戻し、処理を終了する。詳細にいえば、ステップS07で回避行動が行われている場合には、制御装置17は、走行経路R上に走行体11が戻るように駆動機構14を制御する。これにより、走行体11のX座標は、走行経路RのX座標に近付いていき、走行体11は走行経路Rに戻る。また、回避行動が行われていない場合には、走行体11が走行経路R上を走行している状態を維持する。
【0056】
一方、探索領域A(Ar)内に回避可能領域Asが存在しない場合、ステップS09において、制御装置17は、変更領域B(又はBr)内に未知障害物H2が存在するか否かを判定する。制御装置17は、変更領域B(又はBr)内に未知障害物H2が存在する場合、ステップS10の処理を行う。一方で、制御装置17は、変更領域B(又はBr)内に未知障害物H2が存在しない場合、処理を終了する。制御装置17は、ステップS10において、走行体11を停止させる。即ち、制御装置17は、変更領域B内に未知障害物H2が存在し、かつ、回避可能領域Asが探索領域A(又はAr)内に存在しない場合、走行体11を停止させる。
【0057】
なお、図7は、既知障害物H1が探索領域Aに存在せず、未知障害物H2が探索領域Aに存在する場合を示す。図7では、既知障害物H1が探索領域Aに存在しないので、探索領域Aは縮小されない。制御装置17は、図3に示すステップS03以降の一連のステップを経て未知障害物H2に対する回避処理を行う。このように、本実施形態における自律走行体10および自律走行体10の制御方法は、既知障害物H1を考慮して最適な回避経路を探索する。
【0058】
本実施形態は、以下の作用効果を奏する。
(1)走行体11が予め設定された走行経路Rを走行中に、探索領域A内に既知障害物H1が存在するとき、既知障害物H1を回避対象の障害物として認識しないように、制御装置17は探索領域Aを縮小して制限する。一方、制御装置17は、制限された探索領域Arにおいて既知障害物H1を除く障害物である未知障害物H2に対しては回避経路を探索する。このため、既知障害物H1が探索領域A内に存在しても、制御装置17は既知障害物H1に対する回避経路を探索することはない。その結果、走行体11が既知障害物H1を回避することによって走行体11が走行経路Rに復帰できなくなることはない。
【0059】
(2)既知障害物認識部としての制御装置17は、センサ18の検出結果により推定される走行体11の自己推定位置および予め記憶された環境地図に基づいて探索領域Aの制限前に探索領域A内の障害物が既知障害物H1であることが認識できる。
【0060】
(3)領域制限部としての制御装置17は、走行経路Rの幅方向において探索領域Aを走行体11から既知障害物H1の最も近い位置まで制限する。このため、既知障害物H1が制限された探索領域Arから外れ、制御装置17は探索領域Ar内に回避すべき既知障害物H1が存在すると判定することはない。
【0061】
(4)領域制限部としての制御装置17は、探索領域A内に設定され、探索領域Aよりも狭い領域である変更領域Bを探索領域Aの制限に対応して縮小して制限する。このため、未知障害物H2の検出が必要な変更領域Bを狭くすることができ、未知障害物H2を検出するための負荷を低減することができる。
【0062】
(5)障害物判定部としての制御装置17が探索領域A(又はAr)内に存在する障害物を未知障害物H2である判定するとき、探索部としての制御装置17は、走行体11を回避させることが可能な回避可能領域Asが存在するか否かを探索する。このため、回避可能領域Asが存在するとき、走行体11は回避経路を走行して未知障害物H2を回避することができ、回避後に走行経路Rに復帰することができる。回避可能領域Asが存在しないとき走行体11は停止することができる。
【0063】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0064】
○ 上記の実施形態では、既知障害物認識部は、走行体の自己推定位置および予め記憶された環境地図に基づいて探索領域の制限前に探索領域内の障害物が既知障害物であることを認識したが、この限りではない。例えば、既知障害物認識部は、センサの検出結果を予め記憶された環境地図と比較することにより探索領域の制限前に探索領域内の障害物が既知障害物であると認識してもよい。
○ 上記の実施形態では、センサは、レーザーレンジファインダ(LRF)の例を示したが、これに限定されない。センサは、走行体11と障害物との距離を示す相対座標を測定できる手段であればよく、例えば、ステレオカメラ等の手段であっても構わない。
○ 上記の実施形態では、制限された探索領域に一つの未知障害物が存在する場合について説明したが、この限りではない。制限された探索領域に複数の未知障害物が存在してもよい。例えば、制限された探索領域に第1障害物と第2障害物が存在する場合、X軸方向における回避可能領域の判定を行えばよい。複数の回避可能領域が存在するときには、いずれかの回避可能領域を選択すればよい。
○ 上記の実施形態では、図3のステップS06において、制御装置17は、変更領域B内に未知障害物H2が存在している場合、ステップS06にて継続して未知障害物H2が存在していると判定され、ステップS07の回避行動が継続して行われる例を示したが、これに限らない。例えば、ステップS06にて継続して未知障害物H2が存在していると判定された後、ステップS07の回避行動を行い、処理を終了してもよい。この場合、処理が終了した後には再びステップS01から制御が実施される。
○ 上記の実施形態では、ステップS10にて走行体11を停止する処理としたが変更してもよい。変更領域B(Br)内に障害物が存在し、かつ、回避可能領域Asが探索領域A(Ar)内に存在しない場合、制御装置17はステップS10の処理を適宜変更してもよい。例えば、走行経路Rとは別の走行経路を生成し、この走行経路に沿って走行体11を走行させてもよい。
○ 上記の実施形態では、全方向車輪を備えた走行体としたが、走行体はこれに限定されない。例えば、車輪を2つとし、2つの車輪の回転速度を異ならせることで操舵を行う二輪速度差制御により走行体の進行方向を変更してもよい。あるいは、車輪毎に個別の操舵機構を設けて、車輪毎に個別の操舵を行うことで進行方向を変更可能としてもよい。
○ 上記の実施形態では、荷台を備えた荷搬送用の自律走行体としたが、自律走行体は荷搬送用に限定されない。自律走行体は、自律的な走行が可能な走行体であればよく、例えば、自律掃除機であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 自律走行体
11 走行体
17 制御装置(障害物判定部、既知障害物判定部、領域制限部、探索部、進行方向変更部、算出部)
18 センサ
A 探索領域
Ar 探索領域(縮小制限後)
As 回避可能領域
At 回避領域
B 変更領域
Br 変更領域(縮小変更後)
H1 既知障害物
H2 未知障害物
R 走行経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7