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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】電気化学反応デバイス
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/073 20210101AFI20231017BHJP
   C25B 3/25 20210101ALI20231017BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20231017BHJP
   B01J 27/185 20060101ALI20231017BHJP
   B01J 27/188 20060101ALI20231017BHJP
   B01J 27/187 20060101ALI20231017BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231017BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231017BHJP
【FI】
C25B11/073
C25B3/25
B01J23/46 301M
B01J27/185 M
B01J27/188 M
B01J27/187 M
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/00 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019180302
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055150
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-064788(JP,A)
【文献】特開2015-132006(JP,A)
【文献】特開2019-197667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/04
C25B 3/25
B01J 23/46
B01J 27/185
B01J 27/188
B01J 27/187
C25B 1/04
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を酸化する酸化反応用電極と、
炭素化合物又はプロトンを還元する還元反応用電極と、
pH4以上の電解液と、を備え、
前記酸化反応用電極は、酸化触媒を有し、
前記酸化触媒は、MTiP(MはNi、Fe、Cr、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物粒子及び酸化イリジウム粒子のうちの少なくともいずれか1つと、酸化ルテニウム粒子と、を含むことを特徴とする電気化学反応デバイス。
【請求項2】
前記酸化触媒は、前記酸化ルテニウム粒子とNiTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子とを含む、前記酸化ルテニウム粒子とFeTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子とを含む、前記酸化ルテニウム粒子と前記NiTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子と前記酸化イリジウム粒子とを含む、又は前記酸化ルテニウム粒子と前記FeTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子と前記酸化イリジウム粒子とを含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学反応デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化反応用電極と還元反応用電極との間を電気的に接続し、バイアス電圧を印加することで、酸化反応用電極で水を酸化して酸素を生成し、還元反応用電極で二酸化炭素を還元してギ酸等を生成する電気化学反応デバイスが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、非特許文献1には、マンガン酸化物を酸化触媒として使用した酸化反応用電極が開示されている。
【0004】
また、非特許文献2には、酸化イリジウムを酸化触媒として使用した酸化反応用電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-125242号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Dr. Zaki N. Zahran, Dr. Eman A. Mohamed, Dr. Takehiro Ohta, Prof. Yoshinori Naruta, ”Electrocatalytic Water Oxidation by a Highly Active and Robust α-Mn2O3Thin Film Sintered on a Fluorine-Doped Tin Oxide Electrode”, ChemCatChem, Vol.8, No.3, pp.532-535, 2016
【文献】Takeo Arai et al, ”A monolithic device for CO2 photoreduction to generate liquid organic substances in a single-compartment reactor”, Energy Environ. Sci., 2-15, 8, 1998-2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1や2に記載の酸化反応用電極では、酸化触媒の触媒活性が低いため、過電圧が高くなり、良好な電極反応を行うことが困難である。すなわち、電圧を高くしないと、酸化反応用電極での電極反応が起こらず、また、電極反応が起こっても、酸化反応用電極に流れる電流が小さい。その結果、電気化学反応デバイスの消費電力が増大する場合があり、また、電極反応を効率良く行うために、触媒量を増やしたり電極面積を大きくしたりする必要があり、高コスト化やデバイスの大型化等が懸念される。
【0008】
そこで、本発明の目的は、低い電圧で酸化反応用電極での電極反応を起こし、酸化反応用電極に流れる電流を増加させることが可能な電気化学反応デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る電気化学反応デバイスは、水を酸化する酸化反応用電極と、炭素化合物又はプロトンを還元する還元反応用電極と、pH4以上の電解液と、を備え、前記酸化反応用電極は、酸化触媒を有し、前記酸化触媒は、MTiP(MはNi、Fe、Cy、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物粒子及び酸化イリジウム粒子のうちの少なくともいずれか1つと、酸化ルテニウム粒子と、を含む。
【0010】
また、前記電気化学反応デバイスにおいて、前記酸化触媒は、前記酸化ルテニウム粒子とNiTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子とを含む、前記酸化ルテニウム粒子とFeTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子とを含む、前記酸化ルテニウム粒子と前記NiTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子と前記酸化イリジウム粒子とを含む、又は前記酸化ルテニウム粒子と前記FeTiPで表される前記チタンリン含有化合物粒子と前記酸化イリジウム粒子とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、低い電圧で酸化反応用電極での電極反応を起こし、酸化反応用電極に流れる電流を増加させることが可能な電気化学反応デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る電気化学反応デバイスの構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る酸化反応用電極の構成を示す断面模式図である。
図3】実施例1の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図4】比較例1の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図5】実施例2の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図6】実施例3の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図7】実施例4の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図8】実施例5の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図9】実施例6の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図10】実施例7の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図11】実施例8の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図12】実施例9の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図13】実施例10の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
図14】実施例11の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本実施形態に係る電気化学反応デバイスの構成を示す図である。図1に示すように、電気化学反応デバイス100は、還元反応用電極102、酸化反応用電極104、電解液106を含んで構成される。また、図1に示す電気化学反応デバイス100では、太陽電池セル108、窓材110及び枠材112を備えている。
【0015】
還元反応用電極102は、還元反応によって炭素化合物又はプロトンを還元するために利用される電極である。還元反応用電極102は、炭素化合物又はプロトンを還元することができる電極であれば、その形態は特に限定されないが、例えば、基板と、基板上に配置される導電層と、導電層上に配置される導電体層と、を有する。
【0016】
基板は、還元反応用電極102を構造的に支持する部材であり、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。基板として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta)等とすることが好適である。
【0017】
導電層は、還元反応用電極102における集電を効果的にするために設けられる。導電層は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0018】
導電体層は、還元触媒を含む導電体から構成される。導電体層は、導電体に還元触媒を担持させることで構成することができる。導電体は、例えば、カーボン材料(C)を含む材料から構成することができる。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。
【0019】
還元触媒は、還元触媒機能を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、錯体触媒とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、ルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CHCN)Cl]等とすることができる。
【0020】
導電体層は、例えば、錯体触媒をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電体の上に塗布することで作製することができる。また、導電体層は、電解重合法により作製することもできる。例えば、作用極として導電体の電極、対極にフッ素含有酸化錫(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより作製することができる。電解質の溶液には、例えば、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、例えば、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0021】
このように形成された導電体層は、基板上に配置された導電層上に担持、塗布又は貼付される。これにより、基板、基板上に配置された導電層、導電層上に配置された導電体層を含む還元反応用電極が作製される。
【0022】
酸化反応用電極104は、酸化反応によって水を酸化するために利用される電極である。図2は、本実施形態に係る酸化反応用電極の構成を示す断面模式図である。図2に示すように、酸化反応用電極104は、基板114、導電層115、酸化触媒層116を有する。なお、図1に示す電気化学反応デバイス100では、酸化反応用電極104の酸化触媒層116が、還元反応用電極102の導電体層と対向するように配置されている。酸化反応用電極104の基板114は、還元反応用電極102の基板と同じ材料でよい。
【0023】
導電層115は、酸化反応用電極104における集電を効果的にするために設けられる。導電層115は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0024】
酸化触媒層116は、酸化触媒を含んで構成される。酸化触媒は、酸化触媒機能を有する材料である。酸化触媒は、MTiP(MはNi、Fe、Cr、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物及び酸化イリジウム(IrOx)のうちの少なくともいずれか1つと、酸化ルテニウム(RuOx)とを含む。すなわち、酸化触媒は、(1)酸化ルテニウムと酸化イリジウムとを含む、(2)酸化ルテニウムとMTiP(MはNi、Fe、Cr、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物とを含む、又は(3)酸化ルテニウムとMTiP(MはNi、Fe、Cr、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物と酸化イリジウムとを含む。なお、以下では、上記(1)及び(2)を二元触媒と称し、上記(3)を三元触媒と称する。
【0025】
酸化触媒層116は、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、チタンリン含有化合物が分散したスラリーを導電層115上に塗布し、乾燥炉内において所定温度・時間保持して乾燥させることにより形成される。なお、乾燥後、超純水で洗浄することが好ましい。また、スラリーの塗布及び乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0026】
電解液106は、pH4以上の電解液であれば特に限定されないが、酸化還元反応中におけるpH変動を抑える点で、例えば、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液等が好ましい。なお、還元反応用電極102において炭素化合物を還元する場合には、電解液106中に二酸化炭素等の炭素化合物が溶解されている。図1に示す電気化学反応デバイス100では、例えば、電解液106の供給用タンクを設け、ポンプによって、タンク内の電解液106を還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間に設けられた間隙に供給する。
【0027】
図1に示す太陽電池セル108は、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間に適切なバイアス電圧を印加する装置である。図1に示すように、太陽電池セル108の正極に酸化反応用電極104を接続し、太陽電池セル108の負極に還元反応用電極102を接続することで、両電極にバイアス電圧を印加する。バイアス電圧を印加する装置は、太陽電池セル108に限定されるものではなく、例えば、化学電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源等が挙げられる。
【0028】
図1に示す窓材110は、太陽電池セル108を保護する部材である。太陽電池セル108に対しては、受光面側に窓材110を設けることが好適である。窓材110は、太陽電池セル108において発電に寄与する波長の光を透過する部材とし、例えば、ガラス、プラスチック等とすることができる。
【0029】
還元反応用電極102、酸化反応用電極104、太陽電池セル108及び窓材110は、枠材112によって構造的に支持されている。
【0030】
図1に示す電気化学反応デバイス100では、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の表面にpH4以上の電解液106を供給した状態で、太陽電池セル108により、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間にバイアス電圧を印加する。これにより、酸化反応用電極104では、電解液106中の水が酸化されて、酸素が生成され(式(1))、還元反応用電極102では、電解液106中の炭素化合物、例えばCOが還元されて、一酸化炭素やギ酸等が生成されたり(式(2)、(3))、プロトンが還元されて水素が生成されたりする(式(4))。両電極で生成された生成物は、電気化学反応デバイス100から排出され、外部の回収用タンクに回収される。
酸化反応:2HO→O+4H+4e (1)
還元反応:CO+2H+2e→CO+HO (2)
:CO+2H+2e→HCOOH (3)
:2H+2e→H (4)
【0031】
ここで、本実施形態における酸化反応用電極104では、酸化触媒として、前述した二元触媒や三元触媒が用いられている。そして、このような酸化触媒は、高い触媒活性を有するため、酸化反応の過電圧が低くなり、良好な電極反応を行うことが可能となる。すなわち、低い電圧で酸化反応用電極104での電極反応(上記(1)の反応)が起こり、また、酸化反応用電極104に流れる電流を増加させることができる。その結果、例えば、電気化学反応デバイスの消費電力の低下、触媒量や電極面積の低減に伴う、低コスト化やデバイスの小型化等を図ることができる。
【0032】
酸化触媒は、例えば、酸化反応用電極104に流れる電流を増加させることができる点で、酸化ルテニウムとNiTiPとを含む、酸化ルテニウムとFeTiPとを含む、酸化ルテニウムとNiTiPと酸化イリジウムとを含む、又は酸化ルテニウムとFeTiPと酸化イリジウムとを含むことが好ましい。
【0033】
酸化触媒が二元触媒の場合、酸化触媒中の酸化ルテニウムの含有量は、10質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、酸化触媒中の酸化イリジウム又はチタンリン含有化合物の含有量は、10質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましい。また、酸化触媒が三元触媒の場合、酸化触媒中の酸化ルテニウムの含有量は、10質量%以上90質量%以下の範囲が好ましく、酸化触媒中の酸化イリジウムの含有量は、10質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、酸化触媒中のチタンリン化合物の含有量は、10質量%以上90質量%以下の範囲が好ましい。酸化触媒中の各成分の含有量が上記範囲を満たす場合、上記範囲を満たさない場合と比較して、酸化反応用電極104に流れる電流量が増加する場合がある。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
<酸化反応用電極の作製>
1mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(KIrCl)水溶液25mlと1mMの塩化ルテニウム(RuCl)水溶液25mlとの混合溶液に、10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて、pH13に調整した溶液を得た。当該溶液を氷水で1時間冷却した後、3M硝酸(HNO)水溶液を滴下してpH1に調整し、酸化イリジウム(IrOx)/酸化ルテニウム(RuOx)のナノコロイド水溶液を得た。この溶液に1.5wt%NaOH水溶液を滴下してpH12に調整した。
【0036】
上記溶液をFTO基板上に100μl塗布し、乾燥炉内にて60℃で乾燥した。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極を得た。酸化反応用電極の大きさは、10cm×10cmである。
【0037】
<比較例1>
1mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(KIrCl)水溶液25mlと1mMの塩化ルテニウム(RuCl)水溶液25mlとの混合溶液を1mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(KIrCl)水溶液25mlに代えて、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を得たこと以外は、実施例1と同様にして、酸化反応用電極を作製した。
【0038】
(電流量の測定)
実施例1及び比較例1の酸化反応用電極に流れる電流を、電気化学アナライザー(ALS610)を使用し、三電極方式で測定した。三電極方式では、容器内に電解液を満たして、電解液中に作用極として上記作製した酸化反応用電極、対極として白金電極、参照電極としてHg/HgSOを浸漬した。電解液は、pH6.8である、0.1モルのリン酸バッファ水溶液(KHPO+KHPO)を用いた。各電極を電気化学アナライザーに接続し、電圧を1.2Vまで掃引し、酸化反応用電極に流れる電流値を測定した。
【0039】
図3は、実施例1の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図であり、図4は、比較例1の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。縦軸の電流密度(mA/cm)は、上記測定した電流値を酸化反応用電極の面積で除した値である。
【0040】
図3に示すように、実施例1は、比較例1と比べて、低い電圧から電極反応が起こり、また同じ電圧では、多くの電流が流れた。したがって、実施例1のように、酸化イリジウムと酸化ルテニウムを含む酸化触媒を用いることで、酸化反応用電極での酸化反応を効率良く行えることが示された。
【0041】
<実施例2>
1mMの塩化ルテニウム(RuCl)水溶液25mlに、10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて、pH13に調整した溶液を得た。当該溶液を氷水で1時間冷却した後、3M硝酸(HNO)水溶液を滴下してpH1に調整し、酸化ルテニウム(RuOx)のナノコロイド水溶液を得た。この溶液に1.5wt%NaOH水溶液を滴下してpH12に調整した後、NiTP粒子(粒径150nm)を40質量部添加した。
【0042】
上記溶液をFTO基板上に100μl塗布し、乾燥炉内にて60℃で乾燥した。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極を得た。酸化反応用電極の大きさは、10cm×10cmである。
【0043】
<実施例3>
NiTP粒子をFeTiP粒子(粒径180nm)に代えたこと以外は、実施例2と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0044】
<実施例4>
NiTP粒子をCrTiP粒子(粒径170nm)に代えたこと以外は、実施例2と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0045】
<実施例5>
NiTP粒子をCoTiP粒子(粒径140nm)に代えたこと以外は、実施例2と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0046】
<実施例6>
NiTP粒子をMnTiP粒子(粒径160nm)に代えたこと以外は、実施例2と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0047】
<実施例7>
1mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(KIrCl)水溶液25mlと1mMの塩化ルテニウム(RuCl)水溶液25mlとの混合溶液に、10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて、pH13に調整した溶液を得た。当該溶液を氷水で1時間冷却した後、3M硝酸(HNO)水溶液を滴下してpH1に調整し、酸化イリジウム(IrOx)/酸化ルテニウム(RuOx)のナノコロイド水溶液を得た。この溶液に1.5wt%NaOH水溶液を滴下してpH12に調整した後、NiTP粒子(粒径150nm)を40質量部添加した。
【0048】
上記溶液をFTO基板上に100μl塗布し、乾燥炉内にて60℃で乾燥した。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極を得た。酸化反応用電極の大きさは、10cm×10cmである。
【0049】
<実施例8>
NiTP粒子をFeTiP粒子(粒径180nm)に代えたこと以外は、実施例7と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0050】
<実施例9>
NiTP粒子をCrTiP粒子(粒径170nm)に代えたこと以外は、実施例7と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0051】
<実施例10>
NiTP粒子をCoTiP粒子(粒径140nm)に代えたこと以外は、実施例7と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0052】
<実施例11>
NiTP粒子をMnTiP粒子(粒径160nm)に代えたこと以外は、実施例7と同様に酸化反応用電極を作製した。
【0053】
実施例1と同様に、実施例2~11の酸化反応用電極に流れる電流量を測定した。図5~14は、実施例2~11の酸化反応用電極の電流量測定の結果を示す図である。図5~14に示すように、実施例2~11は、比較例1と比べて、低い電圧から電極反応が起こり、また同じ電圧では、多くの電流が流れた。したがって、実施例2~11のように、MTiP(MはNi、Fe、Cr、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物と酸化ルテニウムとを含む酸化触媒、又はMTiP(MはNi、Fe、Cr、Co、Mnからなる群から選択される)で表されるチタンリン含有化合物と酸化ルテニウムと酸化イリジウムとを含む酸化触媒を用いることで、酸化反応用電極での酸化反応を効率良く行えることが示された。また、実施例1~11の中では、実施例2、3、7,8が、他の実施例と比べて、同じ電圧を印加した場合に多くの電流が流れた。
【0054】
(電解液のpHの評価)
<実施例12>
容器内に電解液を満たして、電解液中に作用極として実施例1の酸化反応用電極、対極として白金電極、参照電極としてHg/HgSOを浸漬した三電極式セルを作製した。電解液は、pH6.8である、0.1モルのリン酸バッファ水溶液(KHPO+KHPO)を用いた。各電極を電気化学アナライザーに接続し、電圧を1.3Vで3600秒通電し、電流値を測定した。
【0055】
<比較例2>
電解液として、pH2.4である、0.1モルのクエン酸リチウム緩衝液を用いたこと以外は、実施例12と同様に、電流値を測定した。
【0056】
実施例12と比較例2を比べると、比較例2の1時間後の電流値は実施例12の電流値の17%であった。比較例2では、電解液のpHが低く酸性が強いため、酸化反応用電極から酸化ルテニウムが溶出し、電流値が低くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0057】
100 電気化学反応デバイス、102 還元反応用電極、104 酸化反応用電極、106 電解液、108 太陽電池セル、110 窓材、112 枠材、114 基板、115 導電層、116 酸化触媒層。
図1
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図14